(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176279
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】車載用アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/44 20060101AFI20221117BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20221117BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20221117BHJP
H01Q 21/29 20060101ALI20221117BHJP
H01Q 9/36 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01Q3/44
H01Q1/32 Z
H01Q1/22 B
H01Q21/29
H01Q9/36
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160046
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2019518881の分割
【原出願日】2018-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017098433
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】曽根 孝之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 聖
(72)【発明者】
【氏名】松永 和也
(57)【要約】
【課題】複数のアンテナを備えるアンテナ装置において、それらのアンテナのうちの一つを、一方向の平均利得が他方向の平均利得よりも高くなるようにする。
【解決手段】ダイポールアンテナ31を有する垂直偏波用の第1のアンテナと、面状導体素子としての容量装荷素子60及びヘリカル素子70を有する第2のアンテナと、を備え、前記第1のアンテナに前記第2のアンテナの容量装荷素子60を隣接させている。容量装荷素子60が反射器として機能することで、第1のアンテナの一方向の利得が向上する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられるアンテナベースと、
前記アンテナベース上のアンテナエレメントと、
前記アンテナベースに設けられるホルダーと、
前記ホルダーを前記車両に取り付ける取付具と、を備え、
前記アンテナエレメントは前記ホルダーに保持され、
前記取付具は、前記アンテナエレメントの動作周波数帯では前記アンテナエレメントの反射器又は導波器として機能することを特徴とする、
車載用アンテナ装置。
【請求項2】
前記取付具は前記アンテナエレメントと略平行に配置される金属体を含み、
前記金属体は、前記アンテナエレメントの動作周波数帯では前記アンテナエレメントの反射器又は導波器として機能することを特徴とする、
請求項1に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナエレメントと前記金属体との間に誘電体を備えることを特徴とする、請求項2に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナエレメントと前記取付具とが、前記アンテナエレメントの前記動作周波数帯の1波長以内の距離だけ離れていることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナエレメントは、同時給電が可能な複数のダイポールアンテナ・アレイを有するアレイアンテナ基板、同時給電が可能なモノポールアンテナ及びダイポールアンテナのアレイアンテナを有するアレイアンテナ基板、モノポールアンテナ、スリーブアンテナ、コリニアアレイアンテナのいずれかであることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナエレメントは、前記アンテナベースに対して複数の傾斜角度で前記ホルダーに保持されていることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用アンテナ装置。
【請求項7】
前記ホルダーは、前記アンテナベースに対して鉛直方向に延伸する複数の柱部と、前記複数の柱部を互いに連結する連結部とを有し、
前記アンテナエレメントは、前記連結部又は前記複数の柱部のいずれかに弾性保持されていることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設置するV2X(Vehicle to X; Vehicle to Everything)通信等(車車間通信/路車間通信等)に用いるアンテナ装置に係り、特に複数種のアンテナを有する車載用アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、V2Xのアンテナとして水平面内指向性が無指向性のモノポールアンテナ等が検討されてきた。
図28は、モノポールアンテナを円地板(直径1mの円形導体板)上に垂直に設置した場合の、周波数5887.5MHzでの垂直偏波のシミュレーションによる水平面内指向特性図である。モノポールアンテナの場合、
図28に示すように平均利得が-0.86dBiであって利得が低く、車体ルーフ等に設置した時にV2X通信に要求される仕様を満足できない場合がある。
【0003】
さらに近年では、一方向の平均利得が他方向の平均利得よりも高い車載用アンテナ装置が求められる場合がある。また、複数種類の通信を行うために、アンテナケース内に複数のアンテナが同梱されることも多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、複数のアンテナを備える場合において、それらのアンテナのうちの一つを、一方向の平均利得が他方向の平均利得よりも高く、所定方向の利得の向上を図ることが可能な車載用アンテナ装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば車載用アンテナ装置として実施することができる。この車載用アンテナ装置は、車両に取り付けられるアンテナベースと、前記アンテナベース上のアンテナエレメントと、前記アンテナベースに設けられるホルダーと、前記ホルダーを前記車両に取り付ける取付具と、を備え、前記アンテナエレメントは前記ホルダーに保持され、前記取付具は、前記アンテナエレメントの動作周波数帯では前記アンテナエレメントの反射器又は導波器として機能することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一方向の平均利得が他方向の平均利得よりも高く、所定方向の利得の向上を図ることが可能な車載用アンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るアンテナ装置1の前方に向かって左側の側面図。
【
図2】アンテナ装置1の前方に向かって右側の側面図。
【
図3】アンテナ装置1の右側後上方から見た要部斜視図。
【
図5】アンテナ装置1の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図6】アンテナ装置1の主要構成部材の配置及び寸法関係を示す側面図。
【
図7】アンテナ装置1の隣接アンテナの有無による平均利得の差の比較図。
【
図8】実施の形態2に係るアンテナ装置2の前方に向かって左側の側面図。
【
図9】アンテナ装置2の前方に向かって右側の側面図。
【
図10】アンテナ装置2の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図11】アンテナ装置2の主要構成部材の配置及び寸法関係を示す側面図。
【
図12】実施の形態3に係るアンテナ装置3の前方に向かって左側の側面図。
【
図13】アンテナ装置3の前方に向かって右側の側面図。
【
図14】アンテナ装置3の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図15】アンテナ装置3の主要構成部材の配置及び寸法関係を示す側面図。
【
図16】実施の形態4に係るアンテナ装置4の前方に向かって左側の側面図。
【
図17】アンテナ装置4の前方に向かって右側の側面図。
【
図19】アンテナ装置4の右側後上方から見た斜視図。
【
図20】アンテナ装置4の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図21】アンテナ装置4の主要構成部材の配置及び寸法関係を示す側面図。
【
図22】アンテナ装置4において容量装荷素子の前後方向の分割の有無によるパッチアンテナの周波数と軸比との関係を示す特性図。
【
図23】アンテナ装置4において容量装荷素子の前後方向の分割の有無によるパッチアンテナの仰角10°における周波数と円偏波の平均利得との関係を示す特性図。
【
図24】実施の形態5に係るアンテナ装置5の前方に向かって左側の側面図。
【
図25】アンテナ装置5の前方に向かって右側の側面図。
【
図26】アンテナ装置5の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図27】アンテナ装置5の主要構成部材の配置及び寸法関係を示す側面図。
【
図28】一般的なモノポールアンテナの水平面内の指向特性図。
【
図29】実施の形態6に係るアンテナ装置6の前方に向かって左側の側面図。
【
図30】アンテナ装置6をその左側後上方から見た斜視図。
【
図31】アンテナ装置6の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図。
【
図32】実施の形態7に係るアンテナ装置7の前方に向かって左側の側面図。
【
図33】アンテナ装置7のアンテナと金属体の距離に応じた後方利得特性図。
【
図34】(a)は実施の形態8に係るアンテナ装置8のうち前方に向かって左側の部分側面図、(b)は環状部を支持する支持部の構造を後方側からみた部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態例を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。なお、各実施の形態は、本発明の構成等を限定するものではなく、例示である。
【0010】
<実施の形態1>
図1は本発明の実施の形態1に係るアンテナ装置1の前方に向かって左側の側面図である。
図2は同じく前方に向かって右側の側面図である。
図3はアンテナ装置1の右側後上方から見た斜視図である。
図4はアンテナ装置1を上方から見た平面図である。
図1において、紙面の左方向をアンテナ装置1の前方向、右方向をアンテナ装置1の後方向、紙面の上方向をアンテナ装置1の上方向、紙面の下方向をアンテナ装置1の下方向と定義する。
【0011】
図1から
図4に示すように、実施の形態1に係るアンテナ装置1は、第1のアンテナの一例となるアレイアンテナ基板10と、第2のアンテナの一例となるAM/FM放送用アンテナ素子50とを相互に隣接(近接)するようにアンテナベース80上に備えている。アレイアンテナ基板10には、同時給電可能な二つのダイポールアンテナ・アレイ30を有する。各ダイポールアンテナ・アレイ30は、例えばV2X通信用の動作周波数帯、例えば5887.5MHzでの送信又は受信に適したサイズに設計されている。AM/FM放送用アンテナ素子50は、容量装荷素子60及びヘリカル素子70を有する。容量装荷素子60は、アンテナベース80を指向する面部とアレイアンテナ基板10を指向する縁部とを有する板状導体の一例となる素子である。ヘリカル素子70は、線状導体素子の一例となる素子であり、容量装荷素子60と協働でAM波帯(526kHz~1605kHz)及びFM波帯(76MHz~90MHz)で動作する。すなわち、これらの周波数帯の信号の受信を可能にする。
【0012】
アレイアンテナ基板10は、アンテナベース80の上方向に設けられる絶縁樹脂等の誘電体基板20を有する。誘電体基板20には、第1の面(前方に向かって右側の側面)と第2の面(前方に向かって左側の側面)とが形成され、第1の面に銅箔等の第1の導体パターン21、第2の面に銅箔等の第2の導体パターン22がそれぞれ形成されている。
第1の導体パターン21と第2の導体パターン22は、それぞれ、垂直偏波用のダイポールアンテナ・アレイ30及び伝送線路40として動作する。なお、各導体パターン21、第2の導体パターン22は、銅箔を貼り付けた基板のエッチング、基板面への導体の印刷、めっき等で形成することができる。
【0013】
各面のダイポールアンテナ・アレイ30は、それぞれ上下方向に一直線となるように配列され、同位相で給電可能な二つのダイポールアンテナ31を有する。各面における二つのダイポールアンテナ31の配列間隔は、当該ダイポールアンテナ31の動作周波数帯の約1/2波長である。第1の面のダイポールアンテナ31は、それぞれ下方端が分岐伝送線路部42と一体となった二つのエレメント31aを含んで構成される。一方、第2の面のダイポールアンテナ31は、それぞれ上方端が分岐伝送線路部42と一体となった二つのエレメント31bを含んで構成される。すなわち、第1の面のエレメント31aと第2の面のエレメント31bは、誘電体基板20上で重ならないように配置されている。
【0014】
なお、第1の面のエレメント31aのうち、上方のものは、その先端部31axがアンテナベース80と水平方向に折曲しているが、下方のエレメント31aと同等の動作特性を有するものである。先端部31axを水平方向に折曲することで、アレイアンテナ基板10の高さを低くすることができる。
また、ダイポールアンテナ・アレイ30の各エレメント31a,31b、分岐伝送線路42及び伝送線路40の接続にはスルーホールを使用しない構造となっている。
【0015】
伝送線路40は、平行2線の導体パターン、例えば平行ストリップラインである。実施の形態1では、全てのダイポールアンテナ31に共通に給電する共用伝送線路部41と、共用伝送線路部41から分岐(T分岐)して個々のダイポールアンテナ31に給電する分岐伝送線路部42と、給電部40aとで伝送線路40を構成している。
【0016】
伝送線路40は、導体パターンの幅を変えることで容易に特性インピーダンスの調整が可能であり、異なるインピーダンスを持つコンポーネント(アンテナ素子、給電側の同軸線路等)に容易に接続できる。また、伝送線路40は、伝送線路の線路長及び/又は幅を適宜変更することにより、分配器及び/又は位相器としての機能も果たす。
なお、給電部40aは、誘電体基板20の下縁部に配置される。給電部40aには、平衡線路等によって給電を行うことが可能である。
【0017】
アレイアンテナ基板10を例えば送信アンテナとして動作させる場合、給電部40aから高周波信号を供給する。この高周波信号は、共用伝送線路部41、分岐伝送線路部42を経て各面のダイポールアンテナ31に到達し、空間に放射される。アレイアンテナ基板10を受信アンテナとして動作させる場合、高周波信号は、送信時と逆の方向に伝達されることになる。
【0018】
ここで、アレイアンテナ基板10の前方に配置されるAM/FM放送用アンテナ素子50について説明する。
図3及び
図4に示すように、AM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60は、頂部60aと、頂部60aの両側の傾斜面60bとを有する。頂部60aにはヘリカル素子70の一端が導通接続される。ヘリカル素子70の他端は、AM/FM放送用アンテナ素子50の給電点、つまりAM/FM放送用受信機への電気的な接続点となる。
【0019】
アレイアンテナ基板10上のダイポールアンテナ・アレイ30と、容量装荷素子60の最後方端との間の前後方向の距離Dは、ダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の1/4波長以上、約1波長以下である。また、
図4に示すように、上方から見たときに、アレイアンテナ基板10全体が容量装荷素子60の外側に位置することが好ましい。これらの理由については、後で詳しく説明する。
【0020】
図5は、アンテナ装置1の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、アレイアンテナ基板10の前方にAM/FM放送用アンテナ素子50が隣接する場合と存在しない場合のアレイアンテナ基板10の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数は、ダイポールアンテナ・アレイ30が動作する5887.5MHzである。図中、方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置1の前半分、方位角180°~360°がアンテナ装置1の後半分となる。
なお、
図5の各指向特性は、アンテナ装置1のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0021】
図6は、アンテナ装置1の主要構成部材(アレイアンテナ基板10、ダイポールアンテナ・アレイ30、容量装荷素子60、ヘリカル素子70)の配置及び寸法関係を示す側面図である。
図6に示すように、容量装荷素子60の最後方端とアレイアンテナ基板10の後縁間の前後方向の距離(最も近い距離)は約26.5mmである。また、ダイポールアンテナ・アレイ30がアレイアンテナ基板10の後縁近傍に位置している。そのため、容量装荷素子60の最後方端とダイポールアンテナ・アレイ30との間の前後方向の距離Dは、約26.5mmとなる。これらの距離は、ダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1/2波長に相当する。
【0022】
図5によれば、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接する場合(実線)、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分の平均利得は1.7dBiである。また、後半分の平均利得は4.0dBiである。前半分より後半分の平均利得が高い。前半分と後半分の平均利得の差は2.3dBiであった。
これに対し、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合(破線)、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分の平均利得は2.4dBi、後半分の平均利得は3.7dBi、両者の差は1.3dBiであった。
このように、アンテナ装置1の場合、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合(破線)に比べて、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分と後半分の平均利得の差が大きくなった。つまり、アンテナ装置1は、アレイアンテナ基板10の水平面における平均利得が、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合に比べて高くなった。これは、容量装荷素子60がアレイアンテナ基板10の反射器として機能するためと考えられる。また、これにより、アレイアンテナ基板10の水平面における平均利得は、前半分より後半分の方がいっそう高くなる。
【0023】
図7は、アンテナ装置1の隣接アンテナの有無による平均利得の差の比較図である。すなわち、距離Dと、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分の平均利得と後半分の平均利得との差との関係を示す特性図である。
図7に示すように、距離Dが51.5mm(ダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1波長)になっても、アレイアンテナ基板10の水平面における平均利得は、AM/FM放送用アンテナ素子50が存在しない場合に比べて、前半分よりも後半分の方がより高くなっている。
このように、距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1波長以内であれば、AM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60が、ダイポールアンテナ・アレイ30を備えたアンテナアレイ基板10の反射器として機能することがわかる。
【0024】
実施の形態1によれば、下記の効果を奏することができる。
(1)アンテナアレイ基板10がダイポールアンテナ・アレイ30を備えることで、アレイでないモノポールアンテナに比べて水平面における平均利得が相対的に高くなる。また、AM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60がアンテナアレイ基板10の反射器として機能することでアレイアンテナ基板10の水平面における平均利得が前半分より後半分の方がより高くなり、指向特性を持たせることができる。
【0025】
(2)容量装荷素子60の最後方端とダイポールアンテナ・アレイ30との間の前後方向の距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1波長以内なので、アレイアンテナ基板10及びAM/FM放送用アンテナ素子50を収容するケース外形を小型化できる。
【0026】
(3)アレイアンテナ基板10は、誘電体基板20にそれぞれ導体パターンで形成されたダイポールアンテナ・アレイ30と伝送線路40とで構成されるため、同軸構造やスリーブ構造等を用いるよりも材料及び製造コストの低減が可能である。さらに、ダイポールアンテナ・アレイ30や伝送線路40にスルーホールを設けない構造であるため、一層のコスト低減が可能である。
【0027】
<実施の形態2>
図8は実施の形態2に係るアンテナ装置2の前方に向かって左側の側面図、
図9は同じく前方に向かって右側の側面図である。
図8における前後、上下方向は
図1と同じである。アンテナ装置2では、第1のアンテナとしてスリーブアンテナ90を用いた点がアンテナ装置1と異なる。スリーブアンテナ90は、同軸線路91(外側導体93を含む)の上端から中心導体92をスリーブアンテナ90の動作周波数帯(例えば共振周波数帯)の1/4波長上方に伸長させている。また、同軸線路91の外周絶縁体の外側に、外側導体93をスリーブアンテナ90の動作周波数帯の1/4波長下方に折り返している。スリーブアンテナ90以外の構成は、実施の形態1と同様である。
【0028】
図10は、アンテナ装置2の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、スリーブアンテナ90の前方にAM/FM放送用アンテナ素子50が隣接する場合と存在しない場合のスリーブアンテナ90の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数は、スリーブアンテナ90が動作する5887.5MHzである。
図10において方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置2の前半分となり、方位角180°~360°がアンテナ装置2の後半分となる。
なお、
図10の各指向特性は、アンテナ装置2のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0029】
図11は
図10の指向特性図を求めたときの、主要構成部材(スリーブアンテナ90、容量装荷素子60、ヘリカル素子70)の配置及び寸法関係を示す側面図である。
図11に示すように、容量装荷素子60の最後方端とスリーブアンテナ90の外周間の前後方向の距離は、15.0mmである。
【0030】
アンテナ装置2の場合(実線)、スリーブアンテナ90の水平面における前半分の平均利得は0.5dBi、後半分の平均利得は3.4dBiであり、両者の差は2.9dBiであった。これに対し、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合(破線)、スリーブアンテナ90の水平面における前半分の平均利得は2.6dBi、後半分の平均利得は2.6dBiであり、両者の差は無かった。
このように、アンテナ装置2は、スリーブアンテナ90の水平面における平均利得が、
図28に示すモノポールアンテナの水平面における平均利得よりも高い。そして、AM/FM放送用アンテナ素子50が存在しない場合に比べて、スリーブアンテナ90の水平面における前半分と後半分の平均利得の差が大きい。
また、スリーブアンテナ90自体がモノポールアンテナよりも高利得であり、しかも隣接する容量装荷素子60が反射器として機能するので、スリーブアンテナ90の水平面における平均利得は、前半分より後半分の方が高くなる。
【0031】
図11に示したように容量装荷素子60の最後方端とスリーブアンテナ90の外周間の前後方向の距離が15.0mmであり、スリーブアンテナ90の動作周波数帯の1/2波長よりも短い。この前後方向の距離がスリーブアンテナ90の動作周波数帯の約1波長以内であれば、容量装荷素子60がスリーブアンテナ90の反射器として機能するので、スリーブアンテナ90の水平面における平均利得は前半分よりも後半分の方がより高くなる。
【0032】
<実施の形態3>
図12は実施の形態3に係るアンテナ装置3の前方に向かって左側の側面図、
図13は同じく前方に向かって右側の側面図である。
図12における前後、上下方向は
図1と同じである。アンテナ装置3は、垂直偏波用の第1のアンテナとしてコリニアアレイアンテナ95を用いた点がアンテナ装置1,2と異なる。コリニアアレイアンテナ95は、例えば垂直に設置した動作周波数帯の1/4波長のモノポールアンテナのエレメントの上端に、位相が同相になるようにした数本の動作周波数帯の1/2波長のエレメントを直列接続したものである。
【0033】
図14はアンテナ装置3の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、コリニアアレイアンテナ95の前方にAM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60が隣接する場合と存在しない場合のコリニアアレイアンテナ95の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数は、コリニアアレイアンテナ95が動作する5887.5MHzである。
図14において方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置3の前半分となり、方位角180°~360°がアンテナ装置3の後半分となる。
なお、
図14の各指向特性は、アンテナ装置3のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0034】
図15はアンテナ装置3の主要構成部材(コリニアアレイアンテナ95、容量装荷素子60、ヘリカル素子70)の配置及び寸法関係を示す側面図である。
図15に示すように、容量装荷素子60の最後方端とコリニアアレイアンテナ95間の前後方向の距離は、15.0mmである。
【0035】
アンテナ装置3の場合(実線)、コリニアアレイアンテナ95の水平面における前半分の平均利得は1.2dBi、後半分の平均利得は2.2dBiであり、両者の差は1.0dBiであった。これに対し、容量装荷素子60が隣接しない場合(破線)、コリニアアレイアンテナ95の水平面における前半分の平均利得は2.0dBi、後半分の平均利得は2.0dBiであり、両者の差は無かった。
このように、アンテナ装置3の場合、コリニアアレイアンテナ95の水平面における平均利得が、
図28に示すモノポールアンテナの水平面における平均利得よりも高い。そして、容量装荷素子60が隣接しない場合に比べて、コリニアアレイアンテナ95の水平面における前半分と後半分の平均利得の差は大きい。
また、アンテナ装置3は、水平面における平均利得がモノポールアンテナに比べて高利得となり、容量装荷素子60が存在しない場合に比べてコリニアアレイアンテナ95の水平面における平均利得は前半分より後半分の方が高くなる。
【0036】
図15に示したように容量装荷素子60の最後方端とコリニアアレイアンテナ95の外周間の前後方向の距離が15.0mmで、コリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の1/2波長よりも短い。この前後方向の距離がコリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の約1波長以内であれば、容量装荷素子60が反射器として機能するので、コリニアアレイアンテナ95の水平面における平均利得は前半分よりも後半分の方がより高くなる。
【0037】
<実施の形態4>
図16は実施の形態4に係るアンテナ装置4の前方に向かって左側の側面図、
図17は同じく前方に向かって右側の側面図である。
図18は同じく上方から見た平面図、
図19は同じく右側後上方から見た斜視図である。
図16における前後、上下方向は
図1と同じである。アンテナ装置4は、AM/FM放送用アンテナ素子50の構成と、パッチアンテナ100を備えている点がアンテナ装置1と異なる。 アンテナ装置4のAM/FM放送用アンテナ素子50は、容量装荷素子60Aが、頂部が無く、下縁で左右方向に対向する分割体同士が接続され、かつ前後方向に分かれて配置されている。パッチアンテナ100は、容量装荷素子60Aの下方に配置されている。容量装荷素子60Aは、山形の斜面を底部で連結した形状の導体板からなる分割体61,62,63,64の隣り合うもの同士をフィルタ65で連結した構成である。フィルタ65はAM/FM放送の周波数帯では低インピーダンスで、アレイアンテナ基板10及びパッチアンテナ100のそれぞれの動作周波数帯では高インピーダンスとなる。つまり、AM/FM放送の周波数帯では、分割体61,62,63,64が相互接続されて一つの大きな導体とみなせる。パッチアンテナ100は、
図18及び
図19に示すように、上面に放射電極101を有し、上向きの指向特性を有する。
【0038】
図20はアンテナ装置4の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、アレイアンテナ基板10の前方に、分割構造の容量装荷素子60Aを有するAM/FM放送用アンテナ素子50が隣接する場合と隣接しない場合のアレイアンテナ基板10の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数は、アレイアンテナ基板10のダイポールアンテナ・アレイ30が動作する5887.5MHzである。
図20において方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置4の前半分となり、方位角180°~360°がアンテナ装置4の後半分となる。なお、
図20の各指向特性は、アンテナ装置4のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0039】
図21はアンテナ装置4の主要構成部材(アレイアンテナ基板10、容量装荷素子60A、ヘリカル素子70、パッチアンテナ100)の配置及び寸法関係を示す側面図である。
図21に示すように、容量装荷素子60Aの最後方端とアレイアンテナ基板10の後縁間の前後方向の距離は26.5mmである。また、ダイポールアンテナ・アレイ30はアレイアンテナ基板10の後縁近傍に位置していることから、容量装荷素子60Aの最後方端とダイポールアンテナ・アレイ30との間の前後方向の距離Dは約26.5mmである。これらの距離はダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1/2波長に相当する。
【0040】
図20の指向特性は、
図21に示したように容量装荷素子60Aの最後方端とダイポールアンテナ・アレイ30との間の前後方向の距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1/2波長の場合である。距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1波長以内であれば、AM/FM放送用アンテナ素子50が存在しない場合に比べて容量装荷素子60Aが反射器として機能する。そのため、アレイアンテナ基板10の水平面における平均利得は、前半分よりも後半分の方がより高くなる。
【0041】
図20によれば、アンテナ装置4の場合(実線)、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分の平均利得は1.3dBi、後半分の平均利得は3.3dBiであり、両者の差は2.0dBiであった。これに対し、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合(破線)、アレイアンテナ基板10の水平面における前半分の平均利得は2.8dBi、後半分の平均利得は3.7dBiであり、両者の差は0.9dBiであった。
このように、アンテナ装置4は、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合に比べてアレイアンテナ基板10の水平面における前半分と後半分の平均利得の差は大きくなっている。アンテナ装置4の場合は、水平面における平均利得がモノポールアンテナに比べて高利得となり、AM/FM放送用アンテナ素子50が隣接しない場合に比べて容量装荷素子60Aが反射器として働くことでアレイアンテナ基板10の水平面における平均利得は前半分より後半分の方がより高くなる。
【0042】
図22は、アンテナ装置4において容量装荷素子60Aの前後方向の分割の有無によるパッチアンテナの周波数と軸比(dB)との関係を示す特性図である。また、
図23は、アンテナ装置4において容量装荷素子の前後方向の分割の有無によるパッチアンテナの仰角10°における周波数と円偏波の平均利得との関係を示す特性図である。
図22及び
図23において、「分割無し」は、実施の形態1の容量装荷素子60に相当する。「4分割」は本実施の形態の容量装荷素子60Aに相当する。「2分割」及び「3分割」は容量装荷素子をそれぞれ前後方向に2分割及び3分割した場合に相当する。
【0043】
図22から明らかな通り、容量装荷素子の分割数を多くするほど軸比(dB)が小さくなり、パッチアンテナ100の指向特性が改善される。また、容量装荷素子60Aの各々の分割体61~64の前後方向の大きさがパッチアンテナ100の動作周波数帯の波長に比べて小さくなると(つまり分割数が多くなると)、容量装荷素子60Aの各分割体61~64によるパッチアンテナ100への悪影響(平均利得の低下等)を低減可能となる。このため、
図23に示すように、容量装荷素子を分割しない場合に比べて、低仰角(仰角10°)における平均利得が向上する。このように、容量装荷素子が前後方向に分かれて配置されていると、円偏波における軸比が低くなり、パッチアンテナ100で円偏波の送受信が良好になる。
【0044】
<実施の形態5>
図24は実施の形態5に係るアンテナ装置5の前方に向かって左側の側面図、
図25は同じく前方に向かって右側の側面図である。アンテナ装置5は、各ダイポールアンテナ31に対応させて前方に向かって右側の側面のみに導波器35を設けたアレイアンテナ基板10Aを備える点がアンテナ装置4と異なる。導波器35はダイポールアンテナ31と平行に所定距離だけ離れて誘電体基板20に設けられた導体パターンである。その他の構成は実施の形態4と同様である。
【0045】
図26はアンテナ装置5の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、アレイアンテナ基板10Aの前方に、分割構造の容量装荷素子60Aを有するAM/FM放送用アンテナ素子50が隣接する場合と存在しない場合のアレイアンテナ基板10の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数は5887.5MHzである。
図26において方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置5の前半分となり、方位角180°~360°がアンテナ装置6の後半分となる。なお、
図26の各指向特性は、アンテナ装置5のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0046】
図27はアンテナ装置5の主要構成部材(アレイアンテナ基板10A、容量装荷素子60A、ヘリカル素子70、パッチアンテナ100)の配置及び寸法関係を示す側面図である。
図27に示すように、容量装荷素子60Aの最後方端とアレイアンテナ基板10Aの後縁間の前後方向の距離は30.5mmである。しかし、ダイポールアンテナ・アレイ30のアレイアンテナ基板10A前縁からの位置関係は実施の形態4のアレイアンテナ基板10と同じなので、容量装荷素子60Aの最後方端とダイポールアンテナ・アレイ30との間の前後方向の距離Dは約26.5mmである。この距離Dはダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1/2波長に相当する。
図26の指向特性図は、距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1/2波長の場合である。距離Dがダイポールアンテナ・アレイ30の動作周波数帯の約1波長以内であれば、AM/FM放送用アンテナ素子50が存在しない場合に比べて容量装荷素子60Aが反射器として機能する。そのため、アレイアンテナ基板10Aの水平面における平均利得は、前半分よりも後半分の方がより高くなる。
【0047】
アンテナ装置5の場合、アレイアンテナ基板10Aの水平面における前方の平均利得は0.7dBi、後方の平均利得は3.9dBiであり、両者の差は3.2dBiであった。これに対して、AM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60Aが存在しない場合、アレイアンテナ基板10Aの水平面における前方の平均利得は2.3dBi、後方の平均利得は4.3dBiであり、両者の差は2.0dBiであった。
【0048】
このように、アンテナ装置5は、水平面における平均利得が
図28に示すモノポールアンテナの水平面における平均利得よりも高い。そして、容量装荷素子60Aが存在しない場合に比べて、アレイアンテナ基板10Aの水平面における前半分と後半分の平均利得の差は大きくなっている。つまり、アンテナ装置5の場合は、水平面における平均利得がモノポールアンテナに比べて高利得となり、容量装荷素子60Aが反射器として機能することでアレイアンテナ基板10Aの水平面における平均利得は前半分より後半分の方がより高くなる。さらに、アレイアンテナ基板10Aが導波器35を有しているため、後半分の平均利得は実施の形態4よりも高くなる。
【0049】
なお、
図25に示すように、アンテナ装置5ではアレイアンテナ基板10Aの前方に向かって右側の側面のみに導波器35を設けているが、アレイアンテナ基板10Aの左側の側面のみに導波器を設けてもよいし、両面に導波器を設けてもよい。いずれの場合でも、指向特性が他の実施の形態例より高まる点は共通である。
【0050】
<実施の形態6>
図29は実施の形態6に係るアンテナ装置6の前方に向かって左側の側面図、
図30は同じく左側後上方から見た斜視図である。前後、上下方向は
図1と同じである。アンテナ装置6は、第1のアンテナとしてV2X通信用のコリニアアレイアンテナ95を用い、第2のアンテナとして実施の形態4で説明した分割構造の容量装荷素子60A及びヘリカル素子70を有するAM/FM放送用アンテナ素子50を用いている。コリニアアレイアンテナ95は、容量装荷素子60Aの後方に隣接される。アンテナ装置6は、車両への取付時には、図示しない電波透過性のアンテナケースに収容される。
【0051】
容量装荷素子60Aは、断面山型に成形された樹脂製のアンテナホルダー670の天頂面に固定される。ヘリカル素子70は、アンテナホルダー670の下方のヘリカルホルダー671に支持される。アンテナホルダー670は、それぞれ左右に拡がる一対の前方脚部672,673と一対の後方脚部674,675を介してアンテナベース80にねじ止め固定される。なお、ヘリカル素子70は容量装荷素子60Aの幅方向(左右方向)のいずれかにオフセットしているが、幅方向の略中央にあってもよい。
【0052】
コリニアアレイアンテナ95は、線状又は棒状のエレメントで構成される。コリニアアレイアンテナ95は、アンテナ装置6を車体に取り付けた場合、車体が地導体板として機能し、V2X通信に適合する垂直偏波用となるように、水平面(重力の方向と直角を成す面)に対して略垂直(つまり略鉛直方向)に配置される。実施の形態6では、それぞれ断面多角形の棒状のエレメントで、第1直線部951、環状部952及び第2直線部953でコリニアアレイアンテナ95を構成した。
【0053】
第1直線部951は、アンテナベース80に対して第1の傾斜角(例えば90度)で上方に延伸する。第1直線部951の基端は給電部である。第2直線部953は、第1直線部951に対して第2の傾斜角(90度+θ)で前方に傾斜する。第2直線部953は、容量装荷素子60Aと同じ高さの部分でその先端が折曲している。折曲した部分の長さは、折曲していることでコリニアアレイアンテナ95のアンテナ性能に影響が無い長さに調整されている。つまり、第2直線部953をその先端の部分及び第1直線部951と同じ傾斜で一直線に伸ばすと、第2直線部953が全て直線状であるときと長さは同じになる。
環状部952は、第1直線部951の先端と第2直線部953の基端との間に存在する螺旋状のエレメントであり、第1直線部951と第2直線部953の位相を合致させるために存在する。
【0054】
コリニアアレイアンテナ95は、骨組み構造をした樹脂製のホルダー96に支持されている。ホルダー96は、コリニアアレイアンテナ95の誘電体として機能するものである。また、ホルダー96は、アンテナベース80に対して鉛直方向に延伸する一対の柱部961、962とこれらの柱部961、962を連結する複数の連結部963を有する。連結部963には、コリニアアレイアンテナ95の第1直線部951,環状部952及び第2直線部953を固定するための孔964が形成されている。孔964は、例えば各連結部963の一部の側面を中央部付近まで切り欠き、コリニアアレイアンテナ95を嵌め込んだ後、樹脂を充填することにより形成される。あるいは金型などにコリニアアレイアンテナ95を置いた状態で、ホルダー96を成形するようにしてもよい。
【0055】
ホルダー96の第1直線部951と容量装荷素子60Aの後方端部との距離D2は、容量装荷素子60Aがコリニアアレイアンテナ95の反射器として機能する距離(長さ)、すなわちコリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の1/4波長以上、約1波長以下である。ホルダー96のうち第1直線部951の後方の柱部962には、第1直線部951と平行に第1導体エレメント971が設けられている。また、第2直線部953の後方に第2直線部953と平行に第2導体エレメント972が設けられている。第1導体エレメント971と第2導体エレメント972は、それぞれコリニアアレイアンテナ95の導波器として動作するサイズ及び間隔で設けられている。これらの導体エレメント971,972により、コリニアアレイアンテナ95の後方の利得を高めることができる。また、第2導体エレメント972が第2直線部953と同様、水平面から上方に傾いているため、傾いている方向の利得を高めることができる。
【0056】
図31はアンテナ装置6の垂直偏波の水平面内の指向特性の比較図である。すなわち、コリニアアレイアンテナ95の前方にAM/FM放送用アンテナ素子50の容量装荷素子60Aが隣接する場合と存在しない場合のアレイアンテナ基板10の垂直偏波の水平面内の利得(dBi)が全方位にわたってどのように変化するかをシミュレーションした特性図である。実線は前者の場合、破線は後者の場合を示す。周波数はコリニアアレイアンテナ95が動作する5887.5MHzである。
図31において方位角90°が前方、方位角270°が後方である。方位角0°~180°がアンテナ装置6の前半分となり、方位角180°~360°がアンテナ装置6の後半分となる。なお、
図31の各指向特性は、アンテナ装置5のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0057】
コリニアアレイアンテナ95の前方に容量装荷素子60Aが存在しない場合、コリニアアレイアンテナ95の前半分の平均利得は2.0dBi、後半分の平均利得は2.0dBiであり、両者の差は無い。また、第1導体エレメント971及び第2導体エレメント972が存在しない場合、コリニアアレイアンテナ95の前半分の平均利得は1.2dBi、後半分の平均利得は2.2dBiであり、両者の差は1.0dBiである。そのため、
図31に破線で示すように、平均利得は、全方位にわたってほぼ一定となる。
【0058】
アンテナ装置6では、コリニアアレイアンテナ95に対して、容量装荷素子60Aが反射器として機能し、第1導体エレメント971及び第2導体エレメント972が導波器として機能する。そのため、
図31に実線で示すように、前半分(方位角0°~180°)の平均利得は0.39dBiである。後半分(方位角180°~270°)では、213°で0.39dBi、236°で5.17dBi、306°で4.97dBi、329°で0.34dBiであり、後半分の平均利得は2.17dBiであった。このように、前半分の平均利得と後半分の平均利得の差が大きくなるだけでなく、後半分の平均利得の方が高くなった。
【0059】
実施の形態6では、また、コリニアアレイアンテナ95の第2直線部953の先端部が折曲している。そのため、コリニアアレイアンテナ95の高さを低くすることができ、アンテナ装置6を低背化することができる。また、コリニアアレイアンテナ95が棒状なので、コリニアアレイアンテナ95を誘電体基板などに印刷するよりもコストを低減することができる。
【0060】
<実施の形態7>
図32は、実施の形態7に係るアンテナ装置7の前方に向かって左側の側面図である。
アンテナ装置7は、アンテナベース80に、前方から後方に、衛星放送アンテナ301、衛星測位システムアンテナ302、LTEアンテナ303、コリニアアレイアンテナ95の順に配置して構成される。アンテナ装置7は、車両への取付時には、図示しない電波透過性のアンテナケースに収容される。アンテナ装置7のうち、実施の形態1から6において説明した構成部品と同様の構成部品については、同一の符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0061】
衛星放送アンテナ301は衛星放送の受信用アンテナである。衛星測位システムアンテナ302は衛星測位システムの受信用アンテナである。LTEアンテナ303は、LTE(Long Term Evolution)のいずれかの周波数帯で動作するアンテナである。
LTEアンテナ303は、容量装荷素子60,60Aと同様、コリニアアレイアンテナ95を指向する縁部を有する板状導体を含む。板状導体の高さは容量装荷素子60,60Aとほぼ同じである。コリニアアレイアンテナ95と板状導体のうち最も近い上記縁部との距離は、コリニアアレイアンテナ95の動作周波数の約1波長である。そのため、LTEアンテナ303もまた、コリニアアレイアンテナ95の反射器として動作する。
【0062】
コリニアアレイアンテナ95は、実施の形態6において説明したものと機能的には同じであるが、環状部952の平面形状が円形である点、第1直線部951と第2直線部953とがアンテナベース80に対して鉛直線上にある(傾斜していない)点、第2直線部953の先端が前方ではなく後方に向いている点が異なる。
コリニアアレイアンテナ95は、取付具98を介してアンテナベース80にねじ止め固定された樹脂製のホルダー96Bに取り付けられる。
【0063】
ホルダー96Bは、アンテナベース80に対して鉛直方向に延伸する一対の2本の柱部961B,962Bと、これらの柱部961B,962Bを連結する複数の連結部963Bとを有する。ホルダー96Bの上端には、コリニアアレイアンテナ95(第2直線部953)の先端を固定するための突出部964Bが設けられている。突出部964Bは、例えば中空筒体の一部が開放された嵌め込み型の樹脂製フックであり、ホルダー96Bと一体に成形される。この突出部964Bにより、例えば作業者がアンテナ組み立て時の位置決めになるとともに、コリニアアレイアンテナ95が変位して設置されたり、外力などによって事後的に変形されたりすることを防止することができる。
【0064】
取付具98は、樹脂製の保護材982で覆われた金属体、例えば金属ネジ981を含む。金属ネジ981は、コリニアアレイアンテナ95の第1直線部951と平行に配置される。金属ネジ981の鉛直方向の電気長は、コリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の1/4波長よりも少しだけ長くする。一例を挙げれば、コリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の約1.1波長の電気長にする。これにより、金属ネジ981は、コリニアアレイアンテナ95の反射器として機能する。また、金属ネジ981がコリニアアンテナ95のアンテナベース80への取付手段を兼ねるので、アンテナ装置7の部品点数を減らすことができる。
【0065】
ホルダー96Bと取付具98は、誘電体の一例となる樹脂製の補強部99で補強される。補強部99の形状及びサイズは、上述したアンテナケースに収納可能な範囲で任意の長さに調整可能である。補強部99で強度が補強されているので、ホルダー96Bの形状を任意に成形することができる。例えば実施の形態6で用いたホルダー96よりも前後方向の幅を小さくすることができる。
また、ホルダー96Bの柱部961Bと、取付具98の保護材982との間の隙間が誘電体(補強部99)で埋められる。すなわち、コリニアアレイアンテナ95と取付具98の間に誘電体を備えている。ホルダー96Bと保護材982と補強部99により、誘電体によるコリニアアレイアンテナ95の波長短縮効果が生じ、コリニアアレイアンテナ95の高さを低くして、アンテナ装置7を低背化できる。さらに、コリニアアレイアンテナ95の波長短縮効果により、コリニアアレイアンテナの動作周波数帯の波長は短くなっている。例えば、5.9GHzでの1波長は、約5.2mmであるが、波長短縮効果により約14.0mm~22.0mmに短縮される。
【0066】
コリニアアレイアンテナ95(第1直線部951)と金属ネジ981との距離D3は、取付具98が、コリニアアレイアンテナ95の反射器として機能する距離である。例えば、コリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の1/4波長以上、約1波長以下である。アンテナ装置7における距離D3に応じた垂直偏波の水平方向の後方利得特性例を
図33に示す。
図33の縦軸は、周波数が5887.5MHzのときの後方利得、すなわち、コリニアアレイアンテナ95から金属ネジ981と反対側の方向(180°)の利得(dBi)である。
図33の横軸は、距離D3mmである。0mmの距離D3は、金属ネジ981がない場合を示す。なお、
図33は、アンテナ装置7のアンテナベース80の位置に、アンテナベース80の代わりに地導体(直径1mの導体板)を設けた場合の例である。
【0067】
図33を参照すると、距離D3が0mmのときの後方利得701は約4dBi、距離D3が3.5mmから5.5mmのとき(例えば動作周波数帯の約1/4波長)のときの後方利得702は約5.9dBi、距離D3が10.5mm(例えば動作周波数帯の約1/2波長)のときの後方利得703が約5.56dBiである。距離D3が動作周波数帯の約1波長以内の場合に、アンテナエレメントの180°方向の利得が向上することがわかる。
【0068】
これは、金属ネジ981が、コリニアアレイアンテナ95の反射器として機能するためであり、それ故に、コリニアアレイアンテナ95の前方に、衛星放送アンテナ301、衛星測位システムアンテナ302、LTEアンテナ303などがアンテナケースに同梱されていても、これらのアンテナとの間の干渉を抑制することができる。
【0069】
<実施の形態8>
図34(a)は実施の形態8に係るアンテナ装置8のうち前方に向かって左側の部分側面図である。アンテナ装置8は、実施の形態7に示したアンテナ装置7のうち、コリニアアレイアンテナ95を保持する部分の構成が異なる。すなわち、アンテナ装置8は、誘電体として機能する簡易な構造のホルダー96Cを有する。ホルダー96Cをアンテナベース80に取付固定するための取付具98(金属ネジ981、保護材982)及び補強部99は、実施の形態7で説明したものと同じである。
【0070】
ホルダー96Cは、1本の柱部961Cを有する。柱部961Cには、コリニアアレイアンテナ95の第1直線部951の一部を固定するための第1フック965、環状部952を支持するための支持部966及び第2直線部953の一部を固定するための第2フック967が一体に設けられている。第1フック965及び第2フック967は、柱部961Cから後方側に平行に突出し、その一部を基端とし、基端から延びる自由端(先端が開放されている端部、以下同じ)がコリニアアレイアンテナ95を保持しながら基端方向に戻るように屈曲した突出体を有する。樹脂製なので、自由端はコリニアアレイアンテナ95を弾性保持する。
【0071】
支持部966は、柱部961Cから後方に突出し、環状部952と接触する部分が略十字形の溝に切り欠かれた突出体を有する。
図34(b)は、
図34(a)において破線で示された支持部966を後方側からみた部分斜視図である。支持部966は、略十字形の溝のうち、略水平方向の溝の中央付近が最も深く、溝の端部付近が浅くなっている。この溝に環状部952の螺旋部分の一方の外径部分が収納される。略十字形の溝のうち鉛直方向の溝には、環状部952と一体の第1直線部951及び第2直線部953の一部が収納される。収納後は遊嵌状態となる。
【0072】
コリニアアレイアンテナ95は、第1直線部951と第2直線部953が第1フック965及び第2フック967で後方側から前方側から押されて弾性保持され、環状部952が支持部966に遊嵌状態で支持される。そのため、ホルダー96Cは、車両走行中に振動を受けても、その振動の影響を受けずにコリニアアレイアンテナ95を固定することができる。ホルダー96Cは、また、一つの柱部961Cでコリニアアレイアンテナ95を支持するので、実施の形態例6、7のように二つの柱部を有するホルダーよりも前後方向における長さを短くしたアンテナ装置8を実現することができる。さらに、ホルダー96Cは、補強部99によって強度が補強されているため、補強部99が無い場合よりも上側に向かうにつれて左右方向の幅を小さくしたアンテナ装置8を実現することができる。
【0073】
<変形例>
実施の形態7,8では、コリニアアレイアンテナ95の前方にLTEアンテナ303が配置される例を説明したが、LTEアンテナ303に代えて、容量装荷素子60,60Aを配置してもよい。この場合、容量装荷素子60,60Aもまた、コリニアアレイアンテナ95の反射器として機能する。あるいは、LTEアンテナ303に代えて、814~894MHz(B26帯)や1920MHz(B1帯)の携帯電話用のアンテナを配置してもよい。また、コリニアアレイアンテナ95の後方に、誘電体基板を設け、この誘電体基板に、導波器として機能する導体エレメントを形成するようにしてもよい。さらに、実施の形態2のスリーブアンテナ90においても、同様の誘電体基板を設けてもよい。
【0074】
また、実施の形態7,8において、コリニアアレイアンテナ95、ホルダー96(96B,96C)、取付具98だけでアンテナ装置を構成してもよい。
また、取付具98の位置をコリニアアレイアンテナ95の後方側に配置して、取付具98を導波器として機能させるようにしてもよい。この場合、取付具98の金属ネジ981の電気長をコリニアアレイアンテナ95の動作周波数帯の1波長よりも短くする。例えば約0.9波長の電気長にする。
また、取付具98をコリニアアレイアンテナ95の前方及び後方に設け、前方の取付具98を反射器、後方の取付具を導波器として機能させるようにしてもよい。取付具98を導波器として動作させるためには、金属ネジ981の電気長及びコリニアアレイアンテナ95との距離を第2導体エレメント972と同じにすればよい。
【0075】
なお、各実施の形態では、容量装荷素子60,60Aが切り欠きやスリットの無い板状導体素子の例を説明したが、切り欠きや、スリットのある形状あるいはミアンダ形状の導体素子であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1,2,3,4,5,6,7,8 アンテナ装置
10,10A アレイアンテナ基板
20 誘電体基板
21,22,40,41,42 導体パターン
30 ダイポールアンテナ・アレイ
31 ダイポールアンテナ
35,971,972 導波器
50 AM/FM放送用アンテナ素子
60,60A 容量装荷素子
70 ヘリカル素子
80 アンテナベース
90 スリーブアンテナ
95 コリニアアレイアンテナ
96,96A,96B,96C ホルダー
98 取付具
99 補強部
100 パッチアンテナ
101,102 平面アンテナ