(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176311
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】木質調樹脂成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/27 20060101AFI20221117BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B29C45/27
B29C45/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160644
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2021070060の分割
【原出願日】2017-12-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、環境省、セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対策の立案事業委託業務 (セルロースナノファイバー製品製造工程におけるCO2排出削減に関する技術開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 彰馬
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】七星 栄将
(72)【発明者】
【氏名】峯 英生
(57)【要約】
【課題】複数種類のペレットの混合や着色剤等の使用を一切行わず、セルロース系複合樹脂におけるセルロースを変性させることで生成される2-フルアルデヒド(フルフラール)と呼ばれる褐色化成分を生成させ、その生成量を制御することで、天然の木の経年変化および成長によって生まれる自然な変色・色むらを成形品に形成しつつ、成形品の基本的な色味をコントロールする。
【解決手段】 セルロース系繊維複合樹脂を用いた成形品である。アスペクト比が5以上のセルロース系繊維が母材となるベース樹脂に40質量%以上含まれており、ウェルドラインを有し、成形品中の任意の第一領域は、第一領域以外の第二領域よりウェルドラインに近く、第一領域のフルフラールの含有量は第二領域のフルフラールの含有量よりも多く、第一領域の色は第二領域の色よりも濃く、第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEが3以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維複合樹脂を用いた成形品であって、
アスペクト比が5以上のセルロース系繊維が母材となるベース樹脂に40質量%以上含まれており、
ウェルドラインを有し、
成形品中の任意の第一領域は、第一領域以外の第二領域よりウェルドラインに近く、
第一領域のフルフラールの含有量は第二領域のフルフラールの含有量よりも多く、
第一領域の色は第二領域の色よりも濃く、
第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEが3以上である、
ことを特徴とする成形品。
【請求項2】
第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEが6.55以上であることを特徴とする請求項1記載の成形品。
【請求項3】
複数のウェルドラインを有することを特徴とする請求項1または2記載の成形品。
【請求項4】
成形品の厚みをtとしたときに、前記成形品の表面の0.1%以上99.9%以下の範囲で、成形品の最表面から厚み方向に0.05×t以下の範囲にセルロース系繊維が拘束されていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の成形品。
【請求項5】
複数のゲートにおける各ゲートからそれぞれ射出された樹脂どうしにより形成されたウェルドラインを有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の成形品。
【請求項6】
ウェルドラインの方向は、樹脂の射出方向に沿った方向と、樹脂の射出方向と交差する方向と、複数のゲートからの樹脂の合流方向との少なくともいずれかであることを特徴とする請求項5記載の成形品。
【請求項7】
成形品を製造するに際し、
アスペクト比が5以上のセルロース系繊維が母材となるベース樹脂に40質量%以上含まれているセルロース系繊維複合樹脂を用い、
成形品にウェルドラインを形成し、
成形品中の任意の第一領域は、第一領域以外の第二領域よりウェルドラインに近い位置とし、
第一領域のフルフラールの含有量を第二領域のフルフラールの含有量よりも多くさせ、
第一領域の色を第二領域の色よりも濃くさせ、
第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEを3以上とする、
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項8】
第一領域を構成するセルロース系繊維複合樹脂を、180℃以上の温度で処理することを特徴とする請求項7記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
成形時の金型温度を20℃~100℃とすることを特徴とする請求項7または8記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
成形時の金型温度を20℃~40℃として、成形品の表面の近傍に繊維をトラップさせることを特徴とする請求項9記載の成形品の製造方法。
【請求項11】
複数のゲートから金型の成形空間に樹脂を射出させるとともに、射出された樹脂どうしを異なる方向から角度をもって合流させることを特徴とする請求項7または8記載の成形品の製造方法。
【請求項12】
金型内に射出された樹脂をヒーターにより加熱することで、成形品におけるヒーターに近い第一領域とヒーターから遠い第二領域とを形成することを特徴とする請求項7記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木質調樹脂成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木の風合いを表面に表現した木質調樹脂成形品の製造方法としては、例えば着色剤を用いて色むらや色の濃淡(マーブル調成形等)で木目を付与することで、木質感を得る方法が一般的である。
【0003】
しかしながら、上記の方法では、木目の色を表すことはできても、表面の微細な凹凸による触感、風合い、質感まで表すことは困難である。このため、プラスチック感が残ってしまうという課題がある。
【0004】
このような課題に対し、特許文献1に示される方法が開発されている。
図10は、特許文献1に記載された木質調樹脂成形品の製造方法を示す図である。
【0005】
図10において、符号40はベント式押出成形機(以下、「押出機」と略称する)であり、この押出機40は、円筒状のシリンダ41と、このシリンダ41の内部に設けられたスクリュー42と、シリンダ41の後端部に設けられたホッパ(第一のホッパ)43と、シリンダ41の中央部先端側に形成されたベント孔44と、シリンダ41の先端に設けられてペレット溶融物に所望の形状を付与するダイ45とを備えた単軸式の公知の押出機である。
【0006】
この押出機40には、ベント孔44に連通して第二のホッパ46が連結されており、この第二のホッパ46には、生地材ペレットかあるいは木質形成材ペレットの一方が供給され貯留される。また、第一のホッパ43には、生地材ペレットと木質形成材ペレットとのうち、第二のホッパ46に貯留されたペレットとは別のペレットが供給され貯留される。これら第一、第二のホッパ43、46は、それぞれ貯留されたペレットを所定量シリンダ41内のスクリュー42に向けて供給するよう構成されたもので、それぞれホッパローダ(図示略)に連結され、これによってペレットが自動供給されるものとなっている。
【0007】
スクリュー42には、ベント孔44が形成された位置と対応する位置に深溝部42aが形成されている。第二のホッパ46からのペレットは、深溝部42aにて、第一のホッパ43から投入されシリンダ41内を加熱溶融されつつスクリュー42によって運ばれたペレット溶融物中に支障なく投入され混入される。押出機40の成形温度、すなわちペレットの加熱溶融温度は、ペレットを形成する樹脂の種類によって異なる。例えば塩化ビニルを用いた場合には、180~210℃程度とされる。
【0008】
生地材ペレットと木質形成材ペレットとの混合比は、得られる成形品の色相や各ペレット中の有色顔料の比率に基づいて適宜決定される。通常は、生地材ペレット:木質形成材ペレット=90:10~99:1(質量比)とされる。これらペレットをそれぞれどちらのホッパに供給するかを決定するにあたっては、これらペレットの混合比に基づき、配合比率の高い方を第一のホッパ43に、低い方を第二のホッパ46に供給するのが好ましい。つまり第一ホッパに生地材ペレットを供給し、第二ホッパに木質形成材ペレットを供給するのが好ましい。なぜなら、配合比率の高い方を第一のホッパ43に供給して十分に溶融させるようにすれば、逆にした場合に比べ成形不良が生ずることがより防止できるからである。
【0009】
このような押出機40によって成形を行うと、第一のホッパ43から供給されたペレットは、シリンダ41内に投入されここで加熱溶融されつつスクリュー42によって前方に押し出される。また、第二のホッパ46から供給されたペレットは、ベント孔44を通ってシリンダ41内に投入され、スクリュー42の深溝部42aに供給される。すると、深溝部42a以前に比べ深溝部42aのシリンダ41内容積が大きくなることから、深溝部42aにて十分な空隙を形成するものとなり、これによって第二のホッパ46からのペレットは、第一のホッパ43からの溶融物による大きな応力を受けることなくこの空隙に供給されて、この第一のホッパ43からの溶融物中に混入される。第二のホッパ46からのペレットは、シリンダ41内にて加熱溶融されつつ、スクリュー42によって第一のホッパ43からのペレット溶融物に混合されて、この第一のホッパ43からのペレット溶融物とともに押し出される。生地材ペレットと木質形成材ペレットとは、このようにして溶融され混合されてダイ45から押し出され、所望する形状に成形された木質成形品となる。
【0010】
このような製造方法によれば、生地材ペレットと木質形成材ペレットとが溶融して成形方向に流れ、これにより、各樹脂、担持セルロース微粉粒(表面粒付きセルロース系微粉粒)、第一の有色顔料、第二の有色顔料がそれぞれ混ざり合う。しかし、ダイ45に近いベント孔44から上述の一方のペレットを供給することで、両ペレットの溶融時間に差をつけ、これによりペレット間に温度差をつけていることから、これらペレットは十分均一に混ざり合うまでには至らず、また、当然両ペレット中の第一の有色顔料と第二の有色顔料も十分均一に混ざらない。したがって、得られる成形品には、
図11に示すようにその内部および表層部にて有色顔料による着色部20、・・・が不均一に散在する。また、成形品表面では、例えば板状に成形した場合に、着色部20は、
図12に示すように筋状であるものの連続的でなく断続的に独立したものであり、またその濃淡が不均一でしかも筋の太さも不均一に形成される。
【0011】
また、特に成形品の表層部においては、木質形成材ペレット中の白色顔料粒子10を担持したセルロース系微粉粒11が着色部20の上にくると、白色顔料により着色部20の色が隠蔽される。すると、
図12に示した表面に見える着色部20(筋状の模様)の濃淡にさらに不均一さが増し、これによって着色部20はいっそう天然の木目模様に近いものとなる。また、特に白色顔料として酸化チタンを用いた場合、セルロース系微粉粒11が熱的、化学的に安定な酸化チタンを担持していることにより、セルロース系微粉粒11にアルカリ処理等の化学処理を施すことなく、成形時におけるセルロース微粉粒11の分解を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、木質感を表すために目的とする色むらや濃淡に合わせて、最低でも生地材ペレットと木質成形材ペレットとの2種類を用意する必要があり、また2種類の材料を別々に投入するため、ホッパを2つ以上使用する必要がある等の、材料的および設備的制約があり、このため製造コストが高い。また、特許文献1では、その段落0062に記載のように、セルロース微粉粒が添加された木質形成材ペレットは供給ペレットの1以上10wt%以下であり、最少でも90wt%は生地ペレット(添加剤含む)である。このため、木の風合い、つまり表面の微細凹凸や光沢や色むら等の木質感が低い。仮に、木質感を向上させるために添加しているセルロース微粉粒の割合を増加させると、セルロースの形状が微粉粒であるため、樹脂が脆化するという課題を有している。
【0014】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、複数種類のペレットの混合や着色剤等の使用を一切行わず、セルロース系複合樹脂におけるセルロースを変性させることで生成される、より詳しくは2-フルアルデヒド等の褐色化成分(以下、「フルフラール」と称する)を生成させ、その生成量を制御することで、天然の木の経年変化および成長によって生まれる自然な変色・色むらを成形品に形成しつつ、成形品の基本的な色味をコントロールすることを目的とする。さらに、金型の構造および成形時のゲート位置に関して、あえてウェルドラインが発生するよう設計し配置することで、また、セルロース系繊維複合樹脂中の繊維を成形品表面の極近傍にトラップすることで、成形品における色の濃淡を生じさせ、これによって、材料的な制約や設備的な制約がなく、しかも高強度かつ本物に近い印象の木質成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するため、本発明のセルロース系繊維複合樹脂を用いた成形品は、
アスペクト比が5以上のセルロース系繊維が母材となるベース樹脂に40質量%以上含まれており、
ウェルドラインを有し、
成形品中の任意の第一領域は、第一領域以外の第二領域よりウェルドラインに近く、
第一領域のフルフラールの含有量は第二領域のフルフラールの含有量よりも多く、
第一領域の色は第二領域の色よりも濃く、
第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEが3以上である、
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の成形品によれば、第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEが6.55以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の成形品によれば、複数のウェルドラインを有することが好ましい。
【0018】
本発明の成形品によれば、成形品の厚みをtとしたときに、前記成形品の表面の0.1%以上99.9%以下の範囲で、成形品の最表面から厚み方向に0.05×t以下の範囲にセルロース系繊維が拘束されていることが好ましい。
【0019】
本発明の成形品よれば、複数のゲートにおける各ゲートからそれぞれ射出された樹脂により形成されたウェルドラインを有することが好ましい。
【0020】
本発明の成形品によれば、ウェルドラインの方向は、樹脂の射出方向に沿った方向と、樹脂の射出方向と交差する方向と、複数のゲートからの樹脂の合流方向との少なくともいずれかであることが好ましい。
【0021】
本発明の成形品の製造方法は、
アスペクト比が5以上のセルロース系繊維が母材となるベース樹脂に40質量%以上含まれているセルロース系繊維複合樹脂を用い、
成形品にウェルドラインを形成し、
成形品中の任意の第一領域は、第一領域以外の第二領域よりウェルドラインに近い位置とし、
第一領域のフルフラールの含有量を第二領域のフルフラールの含有量よりも多くさせ、
第一領域の色を第二領域の色よりも濃くさせ、
第一領域の色と第二領域の色との色差ΔEを3以上とする、
ことを特徴とする。
【0022】
本発明の製造方法によれば、第一領域を構成するセルロース系繊維複合樹脂を、180℃以上の温度で処理することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法によれば、成形時の金型温度を20℃~100℃とすることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法によれば、成形時の金型温度を20℃~40℃として、成形品の表面の近傍に繊維をトラップさせることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法によれば、複数のゲートから金型の成形空間に樹脂を射出させるとともに、射出された樹脂どうしを異なる方向から角度をもって合流させることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法によれば、金型内に射出された樹脂をヒーターにより加熱することで、成形品におけるヒーターに近い第一領域とヒーターから遠い第二領域とを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の木質成形品によれば、木質感、色むら、木目を表すために複数種類の材料および特殊な成形機を用いる必要がなく、また、金型の構造を工夫することで木目の数や色の濃淡をコントロールすることができ、したがって従来よりも更に天然の木材に近く、しかも高強度な木質成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】本発明の実施例1の成形品の製造工程を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1の成形品の別の例を示す図である。
【
図5】
図4に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す図である。
【
図7】
図6に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す図である。
【
図9】本発明の実施例6における、ヒーターにより木目調を形成する様子およびそのための金型構造を示す図である。
【
図10】従来の木質調樹脂成形品の製造方法を示す図である。
【
図11】
図10に示される方法で製造された成形品の内部構造を示す図である。
【
図12】
図10に示される方法で製造された成形品の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明においては、繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)が5以上のセルロース系繊維が、母材となるベース樹脂に対して、40質量%以上含まれているセルロース系繊維複合樹脂を用いることが好ましい。アスペクト比が5未満の場合は、繊維形状から粉体形状に近づき、このため強度の向上効果が低く、また、表面近傍に拘束させる「繊維浮き」を生じさせる場合に木質感が損なわれるという不都合が生じやすい。セルロース系繊維の含有率が40質量%未満の場合は、せん断発熱量の低下及び褐色化成分フルフラールの成生量の低下をきたして、色の濃淡に顕著な差異を付与することが困難になるという不都合が生じやすい。
【0030】
そして本発明においては、上記のセルロース系繊維複合樹脂を用いて、セルロース系繊維が変性を開始する180℃以上になるように、意図的に、樹脂温度・金型温度・圧縮発熱・せん断発熱を制御しながら成形する。それにより、褐色化成分であるフルフラールを生成させる。ただし、セルロース系繊維の完全な炭化を防止するために、260℃以下で処理することが望ましい。そして、その際に、成形品にあえてウェルドラインが生じるように、金型の構造として、樹脂流入口であるゲートの近傍に樹脂の流動を阻害する障害物を設置したり、ゲート数を多点にしたりする。これによって木目調の仕上がりとすることができる。特に天然の木の風合いを出すために、金型温度を比較的低温(20℃~100℃)にする。特に、金型温度を40℃以下とすることで、複合樹脂中の繊維が樹脂内部に沈み込むのを阻害して、成形品表面のごく近傍に繊維をトラップさせる。こうすることによって、天然のセルロース系繊維複合樹脂を、着色剤等を使わずに、自然に変色(フルフラールの生成)したことを活用しつつ、金型構造を工夫することで、ウェルドラインによる木目(色の濃淡)および木質感(繊維トラップ)を表すものである。
【0031】
ゲートとしては、製品部外から樹脂を流入させ、成形後に製品から除去するタブゲートを、好ましく用いることができる。
【0032】
本発明において使用することができるセルロース系繊維複合樹脂としては、たとえば木材から抽出された漂白済みの針葉樹のパルプを、直径100μm程度、長さ500μm程度になるよう予備粉砕し、それによって粉末状になったパルプを、混練機で母材となるたとえばポリプロピレンと混ぜ合わせて混練することで得られる、セルロース系繊維複合樹脂を挙げることができる。
【0033】
上記の原料を用いた場合に、混練機の設定温度は、たとえば190℃とすることができる。このとき、極力パルプが変色(褐色化)しないように、低温で混練することができる。また、混練機内で生じるせん断力により繊維の解繊(繊維を解きほぐし直径が微細化すること)が生じ、混練前の粉末状パルプに比べ、混練後のセルロース系繊維複合樹脂ペレット内の繊維アスペクト比(繊維長/繊維径)を高くすることができる。このような製造方法によってペレットを得ることができるが、そのペレットは、セルロース系繊維が熱の影響で変色等を起こさないため、白色(パルプ色)のままとすることができる。上記製造方法によって製造されたセルロース系繊維複合樹脂ペレットは、射出成形前にGC/MSによって成分分析した際に、変色(褐色化)を発生させるフルフラール成分は検出されないものとすることができる。
【0034】
セルロース系繊維の種類は、特に限定されず、針葉樹、広葉樹、竹等、セルロース繊維が抽出できる素材であればよい。さらに、上記のように繊維は平均アスペクト比が5以上であることが好ましく、その条件のもとで直径がμmオーダーからnmオーダーの範囲で自由に選定できる。幅広い色味を表すために、セルロース系繊維は、漂白済みでリグニン成分が除去されたものが望ましく、紙などの原料となる漂白パルプを用いることが好ましい。
【0035】
金型構造において、成形品にウェルドラインを形成することを目的とした、樹脂の流動を阻害するための、ゲート近傍の障害物の数は、配置できる範囲で任意に設定することができる。障害物の数によってウェルドラインの数を制御することで、所望の木目の数にすることができる。またゲート近傍に障害物を配置する際に、障害物どうしのピッチ(配置間隔)に差を設けることで、せん断発熱差を生じさせ、それによって生成されるフルフラールの量を局所的に変えることができる。こうすると、木目毎の色味にも差異(濃淡)を生じさせることが可能となる。
【0036】
多点ゲートにてウェルドラインを生じさせて木目を表す場合は、各ゲートからの射出タイミングに差異を設けたり、射出速度を段付にしたりすることで、木目に揺らぎを付与することができる。
【0037】
ゲート近傍に障害物を設置する方法および多点ゲートを用いる方法のいずれの方法で木目(ウェルドライン)を表す場合においても、射出速度を加減することにより、樹脂合流界面で圧縮される空気の量および樹脂合流時のせん断発熱量を変化させることができる。その結果、高速で射出すれば木目(ウェルドライン)を濃くすることができ、また低速で射出すれば木目(ウェルドライン)を薄くすることができる。これによって、木目毎の濃淡も制御することができる。
【0038】
金型内にヒーターを設置として、成形品を局所的に加熱することで、その加熱された箇所の色目を濃くすることができ、それによって木目調に仕上げることもできる。
【0039】
本発明によれば、目標とする木質感、色むら、木目を形成するために複数種類のペレットを用意する必要がなくなり、また射出成形機にて成形する場合でも、混色成形機や二色成形機等の特殊な成形機を用いず、汎用の成形機で成形することが可能である。また、繊維状のセルロースの添加量を増加することで、比例的に成形品の引張や曲げ特性を向上させることができる。
【実施例0040】
(実施例1)
繊維のアスペクト比が5以上のセルロース系繊維が40質量%添加された複合樹脂にて検討を実施した。
【0041】
図1は、実施例1の木質成形品の形状を示す。
図2は、実施例1の木質成形品の製造工程における樹脂の流動推移を示す。
図3は、
図1に示す形状の成形品について、樹脂温度、金型温度を変えて成形したときの成形品外観を示す。
【0042】
図1(a)は実施例1の成形品100の形状を示す。
図1(b)および
図1(c)に示すように、セルロース系繊維が40質量%添加された複合樹脂は、成形機において、ランナー(図示略)を経て樹脂流入口すなわちゲート101、102の2点から射出される。成形機のシリンダ温度は、母材であるポリプロピレンを溶融し、褐色化成分であるフルフラールを生成させ、さらに、セルロース系繊維の完全な炭化を防ぐため、180℃以上260℃以下の範囲とされるのが好ましい。さらに好ましくは、200℃以上230℃以下の範囲である。実施例1では、200℃と230℃との2条件で成形した。また、金型温度は。20℃以上100℃以下の範囲で設定することが好ましく、40℃以上80℃以下の範囲がさらに好ましい。実施例1では、金型の温度は40℃と80℃とに設定した。つまり、上記シリンダ温度2種類(200℃と230℃)について、それぞれ2種類の金型温度(40℃と80℃)で成形した。すなわち、計4条件で成形した。
【0043】
図2(a)に示すように、2つのゲート101、102から射出された複合樹脂は、射出直後に、樹脂合流界面201の位置で合流する。このとき密閉された金型内に残存している空気は、射出された樹脂の影響を受け、樹脂合流界面201およびその近傍で圧縮され発熱する。また、各ゲート101、102から射出された樹脂は、合流した瞬間に互いに交じり合うことで、せん断発熱を生じる。これらの発熱により、樹脂合流界面201の近傍では、複合樹脂中のセルロース系繊維がシリンダ内で変性して生じたフルフラールよりさらにフルフラールが増加する。その結果、樹脂合流界面201およびその近傍では、それ以外の領域に比べ、複合樹脂の色が濃くなる。
【0044】
図2(b)に示すように、圧縮およびせん断発熱により、樹脂合流界面201およびその近傍において、それ以外の領域に比べより多く生成されたフルフラールは、ウェルドライン202に沿って生成される。その結果、複合樹脂は、色の濃淡が目視で認識できるレベルで木目を形成しながら流動していく。
【0045】
図2(c)に示すように、樹脂流動末端203まで樹脂が流動して充填されることで、成形品100が得られる。
図2(b)に示すように形成されたウェルドライン202は、樹脂流動末端203の位置まで樹脂が流動するにつれて徐々に長さが増加する。すると、ウェルドライン202に沿った木目も、成形品100の表面の長手方向に沿って線状に形成される。
【0046】
図3(a)~(d)において、木質成形品301~304は、それぞれ樹脂温度200℃、230℃、金型温度40℃、80℃の組合せでそれぞれ成形されたものである。
【0047】
図3(a)に示される成形品301(樹脂温度200℃、金型温度40℃にて成形)において、ウェルドライン202上に形成された木目の領域(色の濃い領域)ではない、木目以外の領域において、分光測定器による色調測定の結果、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*の値が、それぞれ、L1*=64.89、a1*=9.03、b1*=31.23、であった。一方、ウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、A*、b*の値がそれぞれ、L2*=58.62、a2*=10.49、b2*=29.88、であった。以上の結果から、上記2色間の差を表す色差ΔEは、以下の式より
【0048】
【0049】
となった。つまり、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*に差異があり、ウェルドライン202上に形成された木目の領域とそれ以外の領域での色差ΔEは6.55となった。すなわち、人間の目視で認識できる色差ΔEが3以上のため、成形品の表面に色の差、濃淡が表されたことになった。すなわち、ウェルドライン202に近い領域の色がウェルドライン202から遠い領域の色よりも濃いという結果になった。
【0050】
また、金型温度が40℃と比較的低温であるため、成形品301の表面近傍には繊維がランダムにトラップ(製品最表面から製品厚み方向に沿って厚みの5%以内に拘束)された繊維浮き305が生じており、これによって更に天然の木材のような風合いが表されていた。
【0051】
繊維浮き305は、樹脂温度や金型温度等の成形条件によって、製品最表面から製品厚み方向に沿って製品厚みの5%以内に拘束されるトラップ量をコントロールできる。詳細には、樹脂温度および金型温度を低く、また圧縮およびせん断発熱量を低くすると、製品表面全面に繊維浮き305を発生させることができる。逆に樹脂温度および金型温度を高く、また圧縮およびせん断発熱量を高くすると、繊維浮き305をほとんど発生させないようにすることができる。
【0052】
図3(b)に示される成形品302(樹脂温度200℃、金型温度80℃にて成形)においては、成形品301同様に木目とそれ以外の領域でΔEが3以上の色差が発生した。しかし、
図3(a)に示される成形品301で発生した繊維浮き305は、発生しなかった。これは、金型の温度が高いために繊維が樹脂内部に沈み込む時間が長く、このため表面硬化開始前に繊維が成形品内部に沈み込んだことが原因したものであると考えられる。
【0053】
図3(c)に示される成形品303(樹脂温度230℃、金型温度40℃にて成形)においては、
図3(a)に示される成形品301よりも全体的に成形品の色が暗く、また木目の領域とそれ以外の領域との色の濃淡もより顕著になった。成形品303のウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域ではない、それ以外の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、a*、b*の値が、それぞれ、L3*=50.1、a3*=9.73、b3*=25.93、であった。一方、ウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、a*、b*の値がそれぞれ、L4*=43.9、a4*=11.01、b4*=22.99、であった。以上の結果から、上記2色間の差を表す色差ΔEは、以下の式より
【0054】
【0055】
となった。つまり、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*に差異があり、ウェルドライン202上に形成された木目の領域とそれ以外の領域での色差ΔEは6.98となり、人間の目視で認識できる色差ΔEが3以上のため、成形品の表面に色の差、濃淡が表されたことになった。また、金型温度が比較的低温であるため、成形品301の表面近傍には繊維がランダムにトラップ(製品最表面から製品厚み方向に沿って厚みの5%以内に拘束)された繊維浮き305が生じており、これによって更に天然の木材のような風合いが表されていた。
【0056】
図3(d)に示される成形品304(樹脂温度230℃、金型温度80℃にて成形)においては、
図3(c)に示される成形品303と同様に木目の領域とそれ以外の領域とで色差が発生したが、成形品303で発生した繊維浮き305は発生しなかった。これは、金型の温度が高いために繊維が樹脂内部に沈み込む時間が長く、このため表面硬化開始前に繊維が成形品内部に沈み込んだことが原因したものであると考えられる。
【0057】
図3(a)に示される成形品301のGC/MS成分分析を行なった結果、射出成形前は未検出であったフルフラールが成形品から検出された。分析試料単位質量あたりから、バイアル瓶気相部分に発生したガス量をトルエンd8を標品として換算したところ、フルフラールの検出量は、ウェルドラインに沿った木目部で0.22[μg/g]、木目以外の領域(基準色)で0.18[μg/g]であり、色の濃淡により0.04[μg/g]の差が生じた。この結果から、樹脂の加熱溶融と圧縮およびせん断発熱とによって、変色(褐色化)成分であるフルフラールが生成されたことが確認できた。かつ、成形品全体でフルフラールの量が不均一となっていることによって、色むらや木目等の木質感および風合いを表していることがわかった。
【0058】
以上の構成によって、特許文献1に記載の技術と同等以上の天然の木質感(色むら、木目、風合い)を有する木質調成形品を、セルロース系繊維を40質量%含有した複合樹脂1種類のみを使用して成形することができた。
【0059】
成形時の樹脂温度(シリンダ温度)を昇降させることで、木目とそれ以外の領域との色味をコントロールすることができた。
【0060】
成形時の金型温度を昇降させることで、成形品の表面極近傍(成形品最表面から板厚方向に板厚の5%以内の範囲)にトラップされる繊維(繊維浮き)の量を制御することができた。詳細には、成形品の厚みをtとし、成形品の最表面から厚み方向に0.05×t以下の範囲に繊維浮きが生じる部分の表面割合(繊維浮き領域/成形品表面積)を、0.1%以上99%以下の間でコントロールすることができた。
【0061】
実施例1では、セルロース系繊維は針葉樹を使用した。これ以外にも、広葉樹、竹等の、セルロース繊維を抽出できる木材や植物であれば使用でき、その素材は特に限定されない。
【0062】
実施例1では母材にポリプロピレンを用いたが、ペレット製造段階でセルロース系繊維が炭化しない範囲で複合樹脂化できる樹脂であればよく、特に限定されない。
【0063】
製品へ直接ゲートを配置する場合に、その位置や数は、金型の構造上可能な範囲で任意に設定でき、特に制限されない。
【0064】
(実施例2)
セルロース系繊維複合樹脂におけるセルロース系繊維の濃度を変化させて、射出成形限界の調査を実施した。表1に、その射出成形限界の調査結果を示す。
【0065】
【0066】
表1において、試料1は、実施例1で検討した、母材にポリプロピレンを用いセルロース系繊維を40質量%含有する複合樹脂を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。この試料1を基準として、セルロース系繊維の濃度を5質量%間隔で増加させ、成形が可能なセルロース系繊維濃度の見極めを行なった。
【0067】
表1において、試料1~試料8および比較試料9は、セルロース系繊維40質量%から80質量%の範囲の複合樹脂(5質量%きざみ)を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。すなわち、試料1、2、3、4、5、6、7、8は、それぞれセルロース系繊維を40、45、50、55、60、65、70、75質量%含有する複合樹脂、比較試料9はセルロース系繊維を80質量%含有した複合樹脂である。表1には、これらの複合樹脂で成形されたサンプルで充填性を確認した結果を示す。
【0068】
試料1~8は成形品の形状を規定する金型への充填率が100%であり、未充填部はなかった。表1では、これを「良好」と評価した。一方、比較試料9においては、金型の末端まで樹脂が流動・充填しなかった(100%充填ではない)。表1では、これを「不良」と評価した。以上より、上述の条件下では、セルロース系繊維を75質量%含有した複合樹脂が、射出成形にて製品形状を満足する成形品が得られる成形限界であった。
【0069】
(実施例3)
図4は、本発明の実施例3の成形品の形状を示す。
図5は、
図4に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す。
【0070】
図4(a)(b)(c)において、成形品500は、タブゲート(製品部外から樹脂を流入させ、成形後に製品から除去するゲート)501に障害物502を有した形状の金型を用いて、ゲート503の1点から樹脂を射出することにより製造される。図示の例では、障害物502は、ゲート503に向いた頂点を有する三角柱状に形成されている。
【0071】
図5(a)(b)において、タブゲート501のゲート503から射出・流入された樹脂は、障害物502を境に流動方向が変化し、二手に分岐する。
【0072】
図5(c)(d)において、障害物502を境に二手に分岐した樹脂は、樹脂合流界面504にて再度合流し、ウェルドライン505を形成する。このとき、実施例1の場合と同様に、金型内部の残留空気圧縮による圧縮発熱と、樹脂合流によるせん断発熱とが生じる。この圧縮発熱とせん断発熱とによって、樹脂合流界面504の近傍に位置する複合樹脂中のセルロース系繊維は変性され、フルフラールを生成する。
【0073】
図5(e)において、ウェルドライン505に沿う形でフルフラールの生成が進み、天然の木材のような風合いを有する木目507が形成される。
【0074】
このようにすることで、成形品500において製品部外に位置するタブゲート501を介して製品部に樹脂が流入し、それによって木目や色むらを付与することができる。このため、上述の実施例1のような製品部に直接ゲートを配置する場合と比較して、ゲート直下でのヒケ等の不具合を防止することができる。
【0075】
障害物502は、樹脂の流動を阻害できればどんな形状でもよく、特に限定されない。
【0076】
(実施例4)
図6は本発明の実施例4の成形品の形状を示す。
図7は
図6に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す。
【0077】
図6(a)(b)(c)において、成形品700は、タブゲート701に障害物702~705を有した形状の金型を用いて、ゲート706の1点から樹脂を射出することより製造される。
【0078】
図7(a)(b)において、タブゲート701のゲート706から射出・流入された樹脂は、障害物702~705を境に流動方向が変化し、タブゲート701および障害物702~705にて形成される各隙間801~805に向けて分岐する。
【0079】
図7(a)~(e)に示すように、隙間801~805のサイズはそれぞれ異なっており、このため隙間801~805を通過する樹脂が受ける流動抵抗806~810には差異が生じる。
【0080】
図示の隙間802に生じる流動抵抗807と隙間803に生じる流動抵抗808とでは、サイズの小さい隙間803すなわち障害物703、704どうしの距離が短い隙間803で生じる流動抵抗808の方が大きい。このため、流動抵抗によるせん断発熱量も隙間803の方が大きくなり、隙間803を通過する樹脂の方が、変性により生じるフルフラールの量も多くなり、フルフラール生成量(褐色化量)が、隙間802を通過する樹脂に比べて大きくなる。
【0081】
図7(e)において、流動末端まで樹脂が流入・充填することにより得られる成形品700は、障害物703~705の数に応じてウェルドライン812~815が形成され、ウェルドライン812~815に沿って木目(色の濃淡)が形成されている。さらに、せん断発熱差によって、それぞれのウェルドライン812~815に沿って形成された木目は、色の濃さが異なっている。
【0082】
このようにすることで、タブゲート701に配置する障害物702~705の本数および隙間を任意に設定することで、木目の本数および各木目の濃淡もコントロールすることができる。
【0083】
(実施例5)
図8は、本発明の実施例5における、障害物タブゲートを複数付けた成形品形状を示す。
【0084】
図8(a)において、成形品901には、二つのタブゲート902、903が形成されている。これらのタブゲート902、903は、それぞれタブゲート902、903からの樹脂の流動方向がなす角度917が1度以上90度以下となるように形成されている。それぞれのタブゲート902、903には障害物907、908が配置されている。
【0085】
本構成によって、多点ゲートによる樹脂合流界面でのウェルドライン906の形成や、障害物が配置されていることによるウェルドライン904、905の形成が起こる。これによれば、木目(色の濃淡)を付与すると同時に、流動の方向が異なることによる、ウェルドライン904~906の方向転換やゆらぎを生じさせることができる。
【0086】
図8(b)において、成形品909は、流動方向のなす角度が0度(一直線上)になるように互いに形成されたタブゲート910、911を有している。それぞれのタブゲート910、911には、障害物915、916が配置されている。
【0087】
本構成によって、多点ゲート910、911からの樹脂による合流界面が形成されることで、流動方向に垂直な方向のウェルドライン914が形成される。また障害物915、916が配置されていることによりウェルドライン912、913の形成が生じ、これによって木目(色の濃淡)を付与することができる。
【0088】
このような構成によれば、任意の位置、角度から複数のゲートに分けて樹脂を射出することにより、形成される木目(色の濃淡)に、ゆらぎや、任意の位置からの方向転換を付与することができる。
【0089】
また、複数のタブゲートから同一射出速度で樹脂を流入させずに、一方を高速、他方を低速で射出することで、或いは射出速度を段階に分けて速度変化させることで、木目(色の濃淡)の方向を細かく変化させることができる。
【0090】
(実施例6)
図9は、本発明の実施例6における、ヒーターにより木目調を形成する様子およびそのための金型構造を示す図である。
【0091】
図9(a)において、キャビティ1005とコア1004とで構成される金型によって成形品1006が成形される。この金型のコア1004側には、ヒーター1001~1003が設けられている。ヒーター1001~1003は、成形品1006から任意の距離に配置されるとともに、ヒーター1001~1003同士も互いに任意の距離をおいて配置されている。
【0092】
ヒーター1001~1003から、成形品1006におけるヒーター1001~1003に最も近い部分までの距離は、2mm以上30mm以下が好ましく、さらに好ましくは5mm以上10mm以下である。本実施例6では、成形品1006の表面までの最短距離が5mmになるように、図示のとおりの3本のヒーター1001~1003を配置した。
【0093】
ヒーター1001~1003の温度は、それぞれ任意に設定できる。本実施例6では、いずれのヒーター1001~1003も230℃に設定した。そして、樹脂温度は200℃、金型温度は40℃として、成形を行った。
【0094】
図9(b)は、成形品1006とヒーター1001~1003のみを記載したものである。この
図9(b)において、上記のように230℃に加熱されたヒーター1001~1003から最も近い位置の成形品1006の表面付近では、セルロース系繊維がヒーター1001~1003の熱の影響を受けて、ヒーターの熱の影響を受けない部分に比べてフルフラール成生量が増加し、色が濃くなる。これにより、木目(色の濃淡)1007~1009が形成される。
【0095】
このような構成によれば、金型内の任意の位置にヒーターを任意の本数配置することで、木目(色の濃淡)の数を制御できる。また、ヒーターの設定温度、あるいは、成形品1006からの最短距離を変化させることで、木目の濃淡の加減をコントロールすることができる。
本発明の成形品は、射出成形と同等のサイクルで本物の木材のような質感を得ることができる。このため、長時間かけて木材の削出し加工で適用されていた商品の置換えに適用でき、しかも汎用の射出成形機で生産している製品の量産にも適用できる。