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特開2022-176365エラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176365
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】エラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/07 20060101AFI20221117BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20221117BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221117BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221117BHJP
【FI】
A61K36/07
A61K8/9728
A61Q7/00
A61Q19/08
A61P17/14
A61P17/00
A61P43/00 111
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161983
(22)【出願日】2022-10-06
(62)【分割の表示】P 2021512113の分割
【原出願日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019069631
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503360159
【氏名又は名称】マイコロジーテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】若命 浩二
(72)【発明者】
【氏名】津野 芳彰
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、エラスターゼ活性抑制効果が十分に発揮するエラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物を提供する。
【解決手段】バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制剤。
【請求項2】
粉末、顆粒、錠剤、カプセル、溶液状及びゲル状から選択される何れかの形態であることを特徴とする請求項1記載のエラスターゼ活性抑制剤。
【請求項3】
バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制外用剤。
【請求項4】
前記エラスターゼ活性抑制外用剤が、皮膚老化防止用化粧料であることを特徴とする請求項3記載のエラスターゼ活性抑制外用剤。
【請求項5】
バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制飲食用組成物。
【請求項6】
前記エラスターゼ活性抑制飲食用組成物が、皮膚老化防止用サプリメント又はドリンクであることを特徴とする請求項5記載のエラスターゼ活性抑制飲食用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来きのこ類は、独特の風味や香りを有する食材として汎用されると共に、免疫力の向上、抗菌、体調リズムの調節、老化防止等の生理機能活性化作用等を有するとして、漢方薬又はある種の疾患の民間薬としても用いられてきた。また、きのこに関する薬効成分の研究も進歩してきており、抗菌・抗ウイルス作用、強心作用、血糖降下作用、コレステロール低下作用、抗血栓作用、血圧降下作用を示す成分が見出されている。
【0003】
本出願人は、新規なきのこであるバシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011(以下、「バシディオマイセテスX」という)の抽出組成物(以下、「バシディオマイセテスX抽出組成物」という。)について、以前に出願した(特許文献1参照)。バシディオマイセテスX抽出組成物は、多量の多糖類(β-D-グルカン)が含まれており、抗酸化力が高く、OHラジカル消去活性を有しているため、老化防止等の効能が期待できるものである。また、バシディオマイセテスX抽出組成物は、免疫調整効果を有しているため、免疫賦活剤等として用いて好適なものである。また、本出願人は、バシディオマイセテスX抽出組成物を用いた、アトピー性疾患の改善・予防に対して優れた効果を有するアトピー性疾患組成物についても、以前に出願した(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、エラスチン線維は、ヒト等のほ乳類や魚類などの体内の血管・靭帯・肺・皮膚をはじめとする、ほぼ全身の臓器・組織に分布する細胞外マトリックスの結合組織の線維の一種で、伸縮可能なαへリックス構造が架橋することによって形成され、組織の柔軟性維持に重要な役割を担っていることが知られている。一方、 皮膚のしわ形成、くすみ、きめの消失、弾力性の低下といった肌の老化といわれる現象は、加齢による線維芽細胞の増殖能の低下によるエラスチン線維等の産生能の低下が一因とされているが、皮膚の紫外線への暴露、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等の外部刺激などが、エラスチン線維の分解を引き起こす結果、しわ形成、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等を原因とする肌荒れや皮膚の老化などの症状が現れるともいわれている。
【0005】
エラスチン線維が分解する一因として、エラスターゼによる分解があると考えられている。エラスターゼはセリンプロテアーゼファミリーに属する酵素であり、例えば、膵エラスターゼは、膵の病変によって血中値が高くなることから各種膵疾患のマーカーとなっており、白血球由来のエラスターゼは、肉眼で確認できない初期の微小炎症においても血中濃度が上昇することが知られている。皮膚においては、例えば紫外線Aが照射された場合に微小炎症の蓄積があることが推察され、エラスターゼ活性が増加することが確認されている。
【0006】
従って、真皮におけるエラスターゼの活性を抑制し、エラスチン線維の分解を防止することが、しわやたるみ等の肌の老化防止に有効であるとされ、例えば、スイートピー抽出物、アイスランドモスの抽出物、マンネンタケの抽出物、又はグルコサミン、グルコサミン誘導体又はそれらの塩などを有効成分とするエラスターゼ活性抑制剤が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6など参照)。
【0007】
一方、皮膚組織内のエラスターゼ活性が、毛周期と対応し、皮膚組織内エラスターゼ活性の上昇が毛包形成及びその成長に不可欠であることが報告されており(例えば、特許文献5参照)、エラスターゼ阻害剤を有効成分とする発毛抑制剤が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/097007号
【特許文献2】特開2007-109449号公報
【特許文献3】特開2006-282617号公報
【特許文献4】特開2007-302607号公報
【特許文献5】特開2005-23021号公報
【特許文献6】特開2004-83432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の種々のエラスターゼ活性抑制剤は、安全性や安定性の確認が十分でない、又はエラスターゼ活性抑制効果が十分に発揮できないものもあり、より有効なエラスターゼ活性抑制剤が要望されている。
【0010】
よって、本発明は、安全性が高く、エラスターゼ活性抑制効果が十分に発揮するエラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく誠意研究を重ねた結果、バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011が、安全性が高く経口摂取しやすい形態に加工することが可能であり、エラスターゼ活性抑制効果を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制剤にある。
【0013】
本発明の第2の態様は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、溶液状及びゲル状から選択される何れかの形態であることを特徴とする第1の態様に記載のエラスターゼ活性抑制剤にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制外用剤にある。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記エラスターゼ活性抑制外用剤が、皮膚老化防止用化粧料であることを特徴とする第3の態様に記載のエラスターゼ活性抑制外用剤にある。
【0016】
本発明の第5の態様は、前記エラスターゼ活性抑制外用剤が、育毛用外用剤であることを特徴とする第3の態様に記載のエラスターゼ活性抑制外用剤にある。
【0017】
本発明の第6の態様は、バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分とすることを特徴とするエラスターゼ活性抑制飲食用組成物にある。
【0018】
本発明の第7の態様は、前記エラスターゼ活性抑制飲食用組成物が、皮膚老化防止用サプリメント又はドリンクであることを特徴とする第6の態様に記載のエラスターゼ活性抑制飲食用組成物にある。
【0019】
本発明の第8の態様は、前記エラスターゼ活性抑制飲食用組成物が、育毛用サプリメント又はドリンクであることを特徴とする第6の態様に記載のエラスターゼ活性抑制飲食用組成物にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安全性が高く、しかも経口摂取しやすいバシディオマイセテスXを適用して、エラスターゼ活性抑制剤、エラスターゼ活性抑制外用剤、及びエラスターゼ活性抑制飲食用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1のエラスターゼ活性率の変化を示す図である。
図2】試験例2の育毛試験の対照である第1群のマウスの写真である。
図3】試験例2の育毛試験の第2群のマウスの写真である。
図4】試験例2の育毛試験の第3群のマウスの写真である。
図5】試験例2の育毛試験の第4群のマウスの写真である。
図6】試験例2の育毛試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のエラスターゼ活性抑制剤は、バシディオマイセテスX乾燥粉末又はその抽出組成物を有効成分として含有する。
【0023】
ここで、本発明でいうバシディオマイセテスは、担子菌であり、嘴状突起(クランプ)は観察されるが、担子器形成能を有しないという特性を有しており、他の担子菌と区別される。即ち、培養しても、担子器を形成せずに、菌核(菌糸塊)を形成するだけである。かかるバシディオマイセテスは、菌を自然界から探索した結果得たものであり、単離し、バシディオマイセテスXとして独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) NITE特許生物寄託センター(NITE-IPOD)に寄託した(受託番号:FERM BP-10011)。
【0024】
このバシディオマイセテスXは、分生子を形成しない、即ち、無性世代を有しないものである。例えば、ポテトグルコース寒天培地で培養すると、培養菌糸は、クランプを有し、平滑であるが、分生子を形成せず、子実体を形成しない。コロニー表面の形状色調を観察すると、コロニー内に淡桃色菌糸塊を形成しており、植菌部位から同心円状に生長したコロニー内に複数の菌糸塊を形成した場合、菌糸塊相互は菌糸束により連結される。なお、コロニーの裏面の色調は淡桃色である。また、グルコース・ドライイースト寒天培地で培養すると、培養菌糸はクランプを有し、平滑であるが、分生子を形成せず、子実体を形成しない。コロニー表面の形状色調を観察すると、コロニー内に淡桃~白色の菌糸塊を形成し、植菌部位を中心とするように厚さ5mm~6mmの菌糸塊を形成している。なお、コロニーの裏面の色調は、淡桃~白色である。
【0025】
バシディオマイセテスXの最適生育条件は、例えば、pH5.0~6.0で、温度22℃~26℃である。また、生育範囲は、例えば、pH4.0~7.5で、温度5℃~30℃である。
【0026】
また、バシディオマイセテスXは、上述した一般的な培養方法により培養でき、培養方法は特に限定されるものではない。例えば、適当な栄養源を添加して滅菌した寒天培地、おがくず培地、液体培地等に、培養済の菌株或いは種菌を無菌的に植菌し、適温条件下で培養することにより、バシディオマイセテスXの菌糸塊を得ることができる。なお、バシディオマイセテスXを培養すると、培養した環境に応じて菌糸塊を形成する。
【0027】
このようなバシディオマイセテスX菌糸塊を、必要に応じて乾燥し、この乾燥物を粉末(バシディオマイセテスX乾燥粉末)にすることにより、本発明のエラスターゼ活性抑制剤となる。或いは、前述の乾燥粉末を、顆粒、錠剤、カプセル、溶液状、ゲル状等にしてエラスターゼ活性抑制剤としてもよい。
【0028】
また、バシディオマイセテスX抽出組成物を、本発明のエラスターゼ活性抑制剤の有効成分としてもよい。バシディオマイセテスX菌糸塊からの抽出方法は特に限定されない。例えば、バシディオマイセテスX菌糸塊から細胞内容物を効率よく抽出するには、好適には、必要に応じてバシディオマイセテスX菌糸塊を凍結する等して細胞壁に損傷を与えて解凍した後、ミキサー等により破砕し、エキス(バシディオマイセテスX抽出組成物)を抽出する。
【0029】
エキスの抽出溶媒も特に限定されないが、水、低級アルコール等、更には、酸、アルカリ、その他の添加剤を添加した抽出液を用いて常温又は加熱条件下、又は加圧下にて抽出する。一般的には、熱水で煮出して抽出するか、或いは、水又はアルコールやアルカリを添加した水と破砕物を混合した状態で、例えば、100MPa~700MPa程度、好ましくは、300MPa~600MPa程度加圧して抽出するのがよい。
【0030】
ここで、抽出方法の一例を説明する。まず、凍結しているバシディオマイセテスX菌糸塊を常温解凍し、ミキサーを用いて破砕し、破砕したバシディオマイセテスX菌糸塊と抽出溶媒である水との割合を、例えば、1:5程度とし、破砕バシディオマイセテスX菌糸塊50gをガラス瓶に入れ、水250mLを加えて蓋を締め、これを鍋の底にタオルを敷いた上に水を注ぎ、破砕バシディオマイセテスX菌糸塊の入ったガラス瓶を置いて加熱・沸騰させる。沸騰してから90分間加熱を継続し、冷却後固液分離し、抽出液(バシディオマイセテスX抽出組成物)及び残渣(バシディオマイセテスX抽出残渣)を得る。抽出液のpHは例えば、6.3~6.5を示す。破砕したバシディオマイセテスX菌糸塊は、バシディオマイセテスX乾燥粉末に替えてもよく、例えば、この場合、適宜これを水溶媒中で、撹拌しながら4時間~6時間静置培養し、その後、固液分離し、抽出液及び残渣(バシディオマイセテスX抽出残渣)を得ることができる。
【0031】
このように得た抽出液を、必要に応じて濃縮し、バシディオマイセテスX抽出組成物とする。なお、エキスの濃縮方法は特に限定されないが、例えば以下のように行う。
【0032】
得られた抽出液をビーカーに移し、加熱・蒸発させて濃縮する。このとき、抽出液は淡いベージュ色から褐色を呈するようになり、盛んに発泡をはじめるようになるが、更に蒸発・濃縮を継続し、例えば、pH4.9、密度1.25g/cmのタール状となった時点で、濃縮を終了させる。この濃縮エキスは、醤油様の芳香を発する。なお、この時点における、バシディオマイセテスX菌糸塊からの濃縮エキスの収率は平均12%である。このように得た濃縮エキスは冷却するに従い、粘性が非常に高まるため、濃縮終了と同時に保存容器に移す必要がある。また、保存容器に移した濃縮エキスは、そのまま冷却後、冷凍・凍結保存とするのが好ましい。
【0033】
このバシディオマイセテスX抽出組成物を、必要に応じて乾燥し、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、溶液状、ゲル状等にしたものが、本発明のエラスターゼ活性抑制剤である。また、バシディオマイセテスX乾燥粉末を、本発明のエラスターゼ活性抑制剤としてもよい。なお、それらへのエラスターゼ活性抑制剤の含有割合は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0034】
本発明のエラスターゼ活性抑制剤は、上記の粉末、顆粒、錠剤、カプセル、溶液状、ゲル状等から選択される何れかの形態でエラスターゼ活性抑制化粧料やエラスターゼ活性抑制飲食用組成物とすることができる。そして、必要に応じてこれらに加工を加えることにより、サプリメントやドリンク(飲料)等として提供することができる。なお、エラスターゼ活性抑制外用剤やエラスターゼ活性抑制飲食用組成物中のバシディオマイセテスX乾燥粉末又はバシディオマイセテスX抽出組成物の含有割合は、必要に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0035】
本発明のエラスターゼ活性抑制剤は、後述する実施例に示すように、エラスターゼ活性を抑制することができる。このため、本発明のエラスターゼ活性抑制剤は、外用剤の形態、又は内服剤の形態とすることができる。ここで、外用剤の形態は、エラスターゼ活性抑制外用剤であり、外用医薬品や医薬部外品、又は化粧料を挙げることができ、皮膚や頭皮に適用することでエラスターゼ活性を抑制するものである。また、内服剤の形態は、エラスターゼ活性抑制飲食用組成物であり、内服用医薬品や医薬部外品、又はサプリメントやドリンク、飲食物などを挙げることができる。
【0036】
エラスターゼ活性抑制外用剤としては、代表的には、皮膚老化防止用化粧料や育毛用外用剤を挙げることができる。
【0037】
皮膚老化防止用化粧料としては、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローショ ン、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、洗顔料、パウダー等を挙げることができ、また、さらに、シャンプー、リンス、石けん、ボディーシャンプーなどのトイレタリー製品、浴用剤等であってもよい。また、育毛用外用剤としては、頭皮などの対象部位に直接適用する育毛剤である。
【0038】
このようなエラスターゼ活性抑制外用剤は、製剤化に通常用いられる各種成分、例えば化粧料成分として一般的に使用される油分、界面活性剤、精製水、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、乳化剤、乳化安定剤、色素類、香料等の他、紫外線吸収剤、美白剤、保湿剤、皮脂分泌抑制剤、柔軟剤、角質保護剤、薬効剤、酸化防止剤、溶剤等の成分を任意に組合わせて配合し、化粧品、外用医薬品、医薬部外品として製剤化することができる。
【0039】
エラスターゼ活性抑制飲食用組成物は、錠剤、粉末、カプセルなどサプリメント、又は液体、ゼリー状などの飲料、又は健康食品などを挙げることができる。
【0040】
以上説明したように、本発明のエラスターゼ活性抑制剤は、エラスターゼ活性抑制外用剤やエラスターゼ活性抑制飲食用組成物として、外用又は服用、摂取することにより、エラスターゼ活性抑制、具体的には、しわやたるみ等の皮膚老化防止、又は育毛効果のために用いることができる。このようなエラスターゼ活性抑制方法、しわやたるみ等の皮膚老化防止方法では、各エラスターゼ活性抑制剤又は組成物の摂取方法に特に制限はなく、エラスターゼ活性に由来する諸症状等に合わせて有効量を適宜決定し、外用又は内服、摂取することができる。
【0041】
本実施形態では、日常生活において手軽に摂取可能であることから、経口摂取させることが好ましい。また、摂取条件としては、例えば、バシディオマイセテスX抽出組成物を乾燥して粉末化し、好ましくは200mg~300mgの錠剤としたものを、1日1回~3回、好ましくは3回経口摂取する、又はバシディオマイセテスX抽出組成物を含有する外用剤を一日1回~2回適用する、エラスターゼ活性抑制方法、しわやたるみ等の皮膚老化防止方法、又は育毛方法が挙げられる。適用又は服用期間は特に限定されないが、長期間とすることが好ましく、例えば、8週間以上が好ましく、特に16週間以上が好ましい。
【実施例0042】
以下、本発明を、実施例及びバシディオマイセテスX乾燥粉末又はバシディオマイセテスX抽出組成物の製造例を参照しながら更に具体的に説明する。
【0043】
(製造例1)
<菌糸塊からの分離>
(1)培地の調製
下記表1に示す配合で、PSA培地及びPDA培地を調製し、試験管又は三角フラスコに分注した後、シリコセン(登録商標)(又は綿栓)を施しオートクレーブにより121℃20分高圧蒸気滅菌した。その後、試験管の場合は、滅菌後熱いうちに傾斜させてスラント(斜面)培地とし、三角フラスコの場合は、そのまま静置してプレート(平面)培地とした。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)菌糸塊からの分離
大きめのバシディオマイセテスX菌糸塊を手で割り、火炎滅菌したメスを冷却させてからバシディオマイセテスX断面より切片を切断し、火炎滅菌冷却後のピンセットで、(1)のPSA培地及びPDA培地スラントにバシディオマイセテスX切片を植菌した。なお操作は、無菌箱又はクリーンベンチ内の、無菌処理済み条件下で行った。
【0046】
(3)菌糸塊生産のためのAgar培地による培養
1cm角としたジャガイモ200gを、精製水を用いて煮沸後20分継続、冷却後、固液分離したジャガイモ浸出液、スクロース20g及びAgar1g(0.1%)に蒸留水を全量1Lとなるように加えて、Agar培地を調整した。なお、通常Agar培地は1.5g~2.0g(培地1Lに対し、15g~20g)のAgar添加するが、培養後の菌糸塊と、Agar培地の分離を容易にするため、また液体培地ではバシディオマイセテスXの切片が沈降しやすいため物理的強度を維持する目的で、0.1%添加することとした。この0.1%Agar培地を試験管に各5mL分注し、シリコセン(登録商標)を施した後オートクレーブにより121℃20分間高圧蒸気滅菌した。その後、無菌処理済みの無菌箱内において、製造例1のスラントにおいて培養中のバシディオマイセテスX菌糸塊から切片を切除し、0.1%Agar培地に無菌操作により植菌した。24℃条件下でインキュベーターにおいて培養させたところ、24時間~48時間後には発菌した。発菌後、24℃条件下で培養を継続すると、14日間でAgar培地上に菌糸が生育した。
【0047】
(製造例2)
<菌糸塊生産のためのおがくず培地による培養>
(1)種菌の培養
おがくず1L、脱脂ぬか15g、ふすま15g及びサンパール(菌糸活性剤・日本製紙製)5gに、水を加えて十分に攪拌し、培地を強く握って水がにじむ程度(湿式含水率70%程度)として、おがくず培地を調製した。この培地を三角フラスコに入れ、シリコセン(登録商標)を施した後、オートクレーブにより121℃40分高圧蒸気滅菌した。滅菌後24時間後に、製造例1のスラントにて培養中のバシディオマイセテスX菌糸を無菌箱内にて無菌操作によっておがくず培地に植菌した。なお、植菌は滅菌三角刀でスラントの一部を切除するようにし、菌糸にダメージを与えないよう行った。また、植菌の密度は、おがくず培地表面積の20%~30%とした。24℃条件下で培養したところ3日後(遅くとも5日後)に発菌し、30日後には三角フラスコおがくず培地に菌糸が充満した。
【0048】
(2)菌糸塊の発生
(1)と同様にしたおがくず培地を調製し、この培地をポリプロピレン製ビンに入れ、フタをして、オートクレーブにより121℃40分高圧蒸気滅菌した。滅菌後24時間後、無菌処理済みの無菌箱内において無菌操作により、(1)で培養した種菌をポリプロピレン製ビンのおがくず培地に植菌した。なお、植菌の密度は、おがくず培地表面積がほぼ覆われる程度とした。24℃条件下で培養したところ、48時間後に発菌し、60日後にはポリプロピレン製ビン内のおがくず培地全体に菌糸が充満した。更に40日~50日経過すると、ポリプロピレン製ビン内壁に菌糸が展開し、菌糸束を形成、更に培養を継続すると菌糸塊を形成した。
【0049】
(製造例3)
<バシディオマイセテスX乾燥粉末の製造>
菌糸の細胞壁に損傷を与え、細胞内容物が浸出することを容易にするため、製造例2で得られた生鮮バシディオマイセテスX菌糸塊を冷凍・凍結させ、凍結しているバシディオマイセテスX菌糸塊を常温解凍し、ミキサーを用いて破砕したものを乾燥して粉末に加工した(以下、「バシディオマイセテスX乾燥粉末」という)。
【0050】
(製造例4)
<バシディオマイセテスX抽出組成物乾燥粉末の製造>
製造例3で得られたバシディオマイセテスX乾燥粉末(乾燥重量4kg)を計りとり、水20Lを加えた後、適宜撹拌しながら4~6時間静置培養した。その後、吸引濾過により固形物(以下、「バシディオマイセテスX抽出残渣」という)を除き、バシディオマイセテスX抽出組成物17.6kg(固形分:8.0%)を得た。最後に-40℃で予備凍結の後、凍結乾燥に供した(以下、バシディオマイセテスX抽出組成物乾燥粉末という)。
【0051】
(製造例5)
<濃縮バシディオマイセテスX抽出組成物の煮出しによる製造>
菌糸の細胞壁に損傷を与え、細胞内容物が浸出することを容易にするため、生鮮バシディオマイセテスX菌糸塊を冷凍・凍結させ、凍結しているバシディオマイセテスX菌糸塊を常温解凍し、ミキサーを用いて破砕した。破砕バシディオマイセテスX菌糸塊50gをガラス瓶に入れ、水250mlを加えて蓋を締め、鍋の底にタオルを敷いた上に水を注ぎ、破砕菌糸塊の入ったガラス瓶を置いて加熱・沸騰させ、沸騰してから90分間加熱を継続した。冷却後固液分離し、バシディオマイセテスX抽出組成物を得た。なお、抽出液のpHは6.3~6.5であった。
【0052】
得られたバシディオマイセテスX抽出組成物をビーカーに移し、加熱・蒸発させて濃縮した。抽出組成物は淡いベージュ色から褐色を呈するようになり、盛んに発泡をはじめるようになったが、更に蒸発・濃縮を継続した。pH4.9、密度1.25g/cmのタール状となった時点で、濃縮を終了させた。この濃縮バシディオマイセテスX抽出組成物は、醤油様の芳香を発した。なお、この時点における、バシディオマイセテスX菌糸塊からの濃縮バシディオマイセテスX抽出組成物の収率は12%であった。バシディオマイセテスX抽出組成物は冷却するに従い、粘性が非常に高まるため、濃縮終了と同時に保存容器に移し、そのまま冷却後、冷凍・凍結保存した。
【0053】
(製造例6)
<バシディオマイセテスX抽出組成物の煮出しによる製造>
菌糸の細胞壁に損傷を与え、細胞内容物が浸出することを容易にするため、生鮮バシディオマイセテスX菌糸塊を冷凍・凍結させた後、凍結しているバシディオマイセテスX菌糸塊を常温解凍した。
【0054】
この解凍後のバシディオマイセテスX菌糸塊(湿重量20g)を計りとり、0.5cm角に刻んだものをビーカーに入れ、水100mlを加えてから、90℃で弱く煮沸し、溶液が最初の量の1/2になるまで煮詰めた。その後水を加えて元の容量に戻し、ガーゼでろ過して固形物を除いた。最後に-40℃で予備凍結の後、凍結乾燥に供した(以下、バシディオマイセテスX熱水抽出組成物乾燥粉末という)。後に密封、冷蔵庫に保存したものを製造例6のバシディオマイセテスX抽出組成物とした。
【0055】
(試験例1)
被験物質としての製造例6で得られたバシディオマイセテスX熱水抽出組成物乾燥粉末末を、50%のジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液によって希釈して計5濃度(0.3、0.6、1.2、2.4、4mg/mL)の被験液1-5を用時調製し、それぞれについて、N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-Nitroanilideを基質としたエラスターゼ活性に及ぼす効果を以下の通り評価した。
【0056】
1.5mLマイクロチューブに50μLの被験液1-5または対照、50μLの1.25μg/mLのエラスターゼ酵素(CAS No.39445-21-1,Sigma-Aldrich,USA)溶液、100μLのN-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-Nitroanilide(CAS No.5229914-6,Sigma-Aldrich,USA)溶液を加え、50%のDMSO水溶液を加え、被験物質の最終濃度が、75、150、300、600、1000μg/mLとなるように調製して反応液とした。対照には超純水を用いた。また、n=3とした。
【0057】
各反応液をボルテックスミキサーで30秒間振とうした後、37℃で15分間インキュベートした。ブランクはエラスターゼ酵素の代替として0.05MのTris-HCl bufferを用いた。1.5mLマイクロチューブをボルテックスミキサーで10秒間振とうし、12,000×g、室温で2分間遠心した。
【0058】
被験物質、対照のOD517から被験物質のエラスターゼ活性率およびエラスターゼ活性阻害率を次式により算出した。
活性酸素残存率(%) =(S-SB)/(C-CB)×100
活性酸素消去率(%) ={(C-CB)-(S-SB)}/(C-CB)×100
C:対照のOD517 CB:対照のブランクOD517
S:被験物質のOD517 SB:被験物質のブランクOD517
【0059】
対照のエラスターゼ活性率を100%とした被験物質のエラスターゼ活性率、エラスターゼ活性阻害率の平均および標準偏差を表2、エラスターゼ活性率を棒グラフにした図を図1に示した。統計計算により、コントロール比較して有意差のあった群にアスタリスクマーク(*)を付与した。
【0060】
【表2】
【0061】
この結果、対照と比較して、バシディオマイセテスX熱水抽出組成物乾燥粉末を適用したものは、エラスターゼ活性阻害率が有意に増加したことが確認された。
【0062】
(試験例2:育毛試験)
被験物質としての製造例6で得られたバシディオマイセテスX熱水抽出組成物乾燥粉末を、1%水溶液、3%水溶液、0.3%水溶液とし、以下の通り、育毛試験を行った。
試験は、C57/BL 7週齢 ♀のマウスを用い、背部剃毛して各7~8匹ずつ、4群用意した。
第1群はコントロールとし、第2群には、1%水溶液を毎日1回ずつ塗布し、第3群には、3%水溶液を毎日1回ずつ塗布し、第4群には、0.3%水溶液を自由摂取させた。
【0063】
12日後の写真を図2図5に示す。また、育毛の度合いを1~10の段階で数値化して集計した育毛スコアを図6に示す。
この結果、第2群~第4群は、コントロールと比較して、育毛効果が有意に発揮されたことが確認された。統計計算により、コントロール比較して有意差のあった群にアスタリスクマーク(*)を付与した。
【受託番号】
【0064】
バシディオマイセテスX(Basidiomycetes-X)FERM BP-10011
【0065】
微生物への言及
寄託機関の名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
寄託機関のあて名: 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
寄託機関に寄託した日付: 2003年2月27日
寄託機関が寄託について付した受託番号: FERM BP-10011
図1
図2
図3
図4
図5
図6