(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176402
(43)【公開日】2022-11-28
(54)【発明の名称】光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221118BHJP
C08K 5/34 20060101ALI20221118BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221118BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221118BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20221118BHJP
A01N 43/90 20060101ALN20221118BHJP
C09B 47/18 20060101ALN20221118BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/34
C09D201/00
C09D7/63
A01P3/00
A01N43/90 106
C09B47/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006249
(22)【出願日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2021065021
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】原田 信幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 清司
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB09
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
4H011DH10
4J002AA001
4J002AB011
4J002AB021
4J002AB031
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC081
4J002AC091
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4J002BC031
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4J002BC081
4J002BC091
4J002BD041
4J002BD101
4J002BD151
4J002BE021
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4J002CC181
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4J002CF211
4J002CG001
4J002CH021
4J002CH071
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4J002CK021
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4J002CN011
4J002CN031
4J002CP031
4J002EU006
4J002EU026
4J002FD186
4J002GB00
4J002GD00
4J002GK01
4J038BA051
4J038JC38
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA02
4J038PB06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】光照射による抗菌性能または抗ウイルス性能を長期にわたり発揮することのできる、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物、光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜、および該膜を含む物品を提供する。
【解決手段】特定のフタロシアニン化合物と、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体とを含む、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフタロシアニン化合物と、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体とを含む、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物。
【化1】
(式(1)中、Z
1~Z
16のうち、4~16個は、それぞれ独立して、下記式(2):
【化2】
[上記式(2)中、Xは酸素原子または硫黄原子、Rは、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、mは、0~5の整数である]で示される置換基(a)であり、
Z
1~Z
16のうち残部は
ハロゲン原子
または
下記式(3):
【化3】
[上記式(3)中、R’は、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、nは、0~4の整数であり、*は、上記式(1)で示される構造との結合部位を表す]で示される構造(ただし、式(3)で示される構造は、Z
1~Z
4、Z
5~Z
8、Z
9~Z
12、Z
13~Z
16の中で、隣接する二つの置換基である)を含み、
Mは、亜鉛またはバナジル(VO)である。)
【請求項2】
下記式(4)で表されるフタロシアニン化合物と、ポリマーとを含む光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜。
【化4】
(式(4)中、Z
1~Z
16のうち、4~16個は、それぞれ独立して、下記式(5):
【化5】
[上記式(5)中、Xは酸素原子または硫黄原子、Rは、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、mは、0~5の整数である]で示される置換基(a)であり、
Z
1~Z
16のうち残部は
ハロゲン原子
または
下記式(6):
【化6】
[上記式(6)中、R’は、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、nは、0~4の整数であり、*は、上記式(4)で示される構造との結合部位を表す]で示される構造(ただし、式(6)で示される構造は、Z
1~Z
4、Z
5~Z
8、Z
9~Z
12、Z
13~Z
16の中で、隣接する二つの置換基である)を含み、
Mは、亜鉛またはバナジル(VO)である。)
【請求項3】
請求項2に記載の膜を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物に関する。より詳しくは、微生物の光不活性化・光致死化効果等の抗菌作用または抗ウイルス作用に優れる、特定の光活性増感剤を含有する光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やウイルス等の微生物(ウイルスは、生物とは言い切れないが、生態系を構成する微小物としてウイルスも微生物とした)によって引き起こされる感染症は、今日の世界の公衆衛生にとって大きな問題である。抗生物質は感染症の死亡率を大幅に低下させ、医学の歴史の中で最も重要な発見の1つと見なされている。しかし、抗生物質の投与は抗生物質耐性菌の増加を引き起こし、新たに出現した耐性菌の増加は現在、都市だけでなく病院環境でも生命を脅かしている。耐性菌の出現と蔓延は、感染症を根絶するための実行可能な代替手段の開発を促進した。活性酸素種の1つである一重項酸素は反応性が高く、ビリオン膜、細胞膜、必須酵素、および核酸を攻撃することができ、酸化ストレスによるウイルスや細菌の不活化または致死化をもたらすことが知られている。たとえば微生物への一重項酸素の攻撃は、そのマルチターゲットプロセスによって、非標的特異性、いくつかの副作用、治療後の微生物の再成長の防止、および作用機序と生化学的標的のタイプによる耐性メカニズムの発達の欠如をもたらす。このアプローチに耐性のある変異体はこれまで検出されていない。 したがって、光活性化により一重項酸素を生成する材料の開発は、抗生物質の投与に取って代わることができる感染症予防法として有望なアプローチの一つとして期待されている。
【0003】
ウイルスや細菌等の微生物の拡散とその結果としての感染伝播は世界中で深刻な懸念であり、増加する傾向があるが、感染した患者との直接接触または汚染された物体や表面を介した間接接触を減らすことで、増加をある程度抑えることができる。可視光照射により一重項酸素を生成する光増感剤を含む布地、紙、フィルム、コーティングなどの成形体は、病院の表面から患者へ、患者から患者へ、人から人への病原体の伝播を防ぐ上で重要な役割を果たすことができる。したがって、可視光照射により一重項酸素を生成する光増感剤を含むフィルムなどの成形体は、日常生活や病院環境の屋内で自己消毒を継続できる可能性があるため、精力的に研究されてきた。
【0004】
有機光増感剤(PS)色素分子、たとえばトルイジンブルーOなどのフェノチアジン、ローズベンガルなどのハロキサンテンまたはアクリジン、ポルフィリン、およびフタロシアニンは、細菌の致死的な光増感をもたらすことが知られている。中でもローズベンガルは、最も効率的で広く使用されている一重項酸素増感剤の1つであり、ウィルソンらは25μMのトルイジンブルーとローズベンガルを含む酢酸セルロース(CA)フィルムが、実験室ベースの実験だけでなく、臨床環境でも微生物負荷が減少したと報告している(非特許文献1)。
【0005】
同様に細菌等の光線力学的光不活性化の有効な手段として、光励起により一重項酸素を生成することができる、ローズベンガルやメチレンブルー等の色素(光増感剤)をポリマーに固定化する等の試みが提案されている。特許文献1には、ポリマーに結合したフタロシアニン誘導体でコートされ自己殺菌効果を有する光活性の工業用および医療用物品が示されている。特許文献2には、一重項酸素を生成するための光増感剤が結合した酢酸セルロースが提案されている。光増感剤としてはローズベンガルや亜鉛フタロシアニン等が例示され、光増感は、光増感剤が有する酸性基と酢酸セルロースが有する水酸基との反応により形成されたエステル結合により、酢酸セルロースに結合している。非特許文献2には、カルボン酸基を有するZn(II)フタロシアニンを、ポリエチレンイミン、キトサン等のポリマーにアミド結合により結合させた複合体を合成し、微生物の光線力学的光不活化を調査し、Znフタロシアニンとポリエチレンイミンとの複合体が特定の微生物を不活性化するために有効な光増感剤であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許8741264号明細書
【特許文献2】国際公開第1990/06955号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kristppher Page et al, “Antimicrobal surfaces and their potential in reducing the role of the inanimate environment in the influence of hospital―acquired infections” J. Mater. Chem. 19(2009) 3819―3831
【非特許文献2】Estefania Baigorria et al,“Synthesis, spectroscopic properties and photodynamic activity of Zn(II) phthalocyanine-polymer conjugates as antimicrobial agents” European Polymer Journal 2020,134,109816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
理想的には、光増感剤を含むポリマー材料は、室内光によって活性化され、製造が容易で、病原体に非特異的で、拡張性があり、耐久性が必要とされる。しかし、フェノチアジン、ローズベンガル、ポルフィリンなどのこれまでに知られている光増感剤のほとんどは、照明下で光退色する可能性があり、この不十分さがこれまで知られている光活性抗菌材料の長期的な利用を制限してきた。 フタロシアニン類は光酸化に対してローズベンガル等の色素に比べ、はるかに安定している。しかしながら、ポリマーマトリックスへの親和性を大幅に改善せずに使用すると、凝集する傾向がある。 色素の凝集はそれらの光学特性に影響を及ぼし、光照射による一重項酸素の生成を大幅に低下させる。上述したように、これまで知られている光増感剤とポリマーとの組み合わせによって得られた材料は、実使用下での長期的室内灯での暴露によって、色素の退色或いはポリマーマトリックス中での凝集という問題が起こる可能性があり、実使用下での長期使用に際して懸念があった。
【0009】
よって、本発明は、光照射による抗菌性能または抗ウイルス性能を長期にわたり発揮することのできる、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、光照射による抗菌性能または抗ウイルス性能を長期にわたり発揮することのできる、光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜、および該膜を含む物品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属フタロシアニン化合物とポリマーを含む組成物について、酸素活性化能(一重項酸素の生成能)等について詳細に検討した結果、中心金属が特定の金属または金属化合物であり、フタロシアニン構造が特定の置換基を有する構造である金属フタロシアニン化合物を含む組成物は、酸素活性化能(一重項酸素の生成能)に優れるとともに、抗菌性能および/または抗ウイルス性能に優れることを見出した。上記組成物は、従来より光増感剤として知られるローズベンガル等をポリマーと組合せた場合に比べて、光照射による酸素活性化能が長期にわたって発揮されることも見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されるフタロシアニン化合物と、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体とを含む、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物である。
【0012】
【0013】
(式(1)中、Z1~Z16のうち、4~16個は、それぞれ独立して、下記式(2):
【0014】
【0015】
[上記式(2)中、Xは酸素原子または硫黄原子、Rは、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、mは、0~5の整数である]で示される置換基(a)であり、
Z1~Z16のうち残部は
ハロゲン原子
または
下記式(3):
【0016】
【0017】
[上記式(3)中、R’は、それぞれ独立して、一価の置換基を表し、nは、0~4の整数であり、*は、上記式(1)で示される構造との結合部位を表す]で示される構造(ただし、式(3)で示される構造は、Z1~Z4、Z5~Z8、Z9~Z12、Z13~Z16の中で、隣接する二つの置換基である)を含み、
Mは、亜鉛またはバナジル(VO)である。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、上述した構成により、可視光または近赤外光等の光増感による一重項酸素の生成能力およびその長期安定性に優れるため、抗菌剤および/または抗ウイルス剤として有用である。たとえば、自己抗菌表面や自己抗ウイルス表面としてのみならず、殺菌による水浄化等、光照射による抗菌作用や抗ウイルス作用が必要とされる、様々な用途で使用可能であり、膜、粒子、繊維等の種々の形態で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】スマートフォン画面に、実施例2で得られたフィルム(2)/DPBFフィルム(フィルム(11))を貼り付けた場合と、DPBFフィルム(ブランク)を貼り付けた場合の、各々の416nmにおける吸光度の変化を表す図である。
【
図2】本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の例(折り紙状に加工した膜)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0021】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、光活性抗菌・抗ウイルス剤として用いる組成物であり、特定のフタロシアニン化合物およびポリマーおよび/またはポリマー前駆体を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、光、好ましくは、波長320nm~3μmの光の存在下において、抗菌性能または抗ウイルス性能を有し、抗菌作用および抗ウイルス作用の少なくともいずれかを発揮するものである。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、その好ましい実施形態においては、波長320nm~3μmの光の存在下において、少なくとも抗ウイルス作用を発揮するものである。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、その好ましい実施形態においては、波長320nm~3μmの光の存在下において、抗菌作用および抗ウイルス作用を発揮するものである。後述する本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜等の本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における好ましい各種実施形態においても同様である。
【0023】
本明細書において「抗菌性能を有する」とは、細菌の増殖を抑制する作用(一般的にいう抗菌)、細菌を死滅させる作用(一般的にいう殺菌)、細菌を完全に死滅させる作用(一般的にいう滅菌)、細菌のうち病原性のあるものを全て殺滅・除去してしまう作用(一般的にいう消毒)および、ある物質又は限られた空間より細菌を除去する作用(一般的にいう除菌)のいずれかを有することを意味する。
【0024】
また、「抗ウイルス性能を有する」とは、ウイルスを不活化し、増殖を抑制する作用を有することを意味する。
【0025】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、細菌の増殖を抑制する作用、細菌を死滅させる作用、およびウイルスを不活化し増殖を抑制する作用からなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。後述する本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜等の本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における好ましい各種実施形態においても同様である。
【0026】
1.本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を構成するフタロシアニン化合物をフタロシアニン化合物(Pc)あるいは化合物(Pc)、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体を、ポリマー/前駆体とも称する。
【0027】
<フタロシアニン化合物(Pc)>
上述したように、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、下記式(1)で表されるフタロシアニン化合物と、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体とを含む、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物である。
すなわち、化合物(Pc)は、下記式(1)で示される。
【0028】
【0029】
ここで、式(1)中、Z1~Z16は置換基を表し、Z1~Z16のうち、4~16個は、それぞれ独立して、下記式(2):
【0030】
【0031】
で示される置換基である。以下、該置換基を単に「置換基(a)」とも称する。
また、上記式(1)において、Z1~Z16のうち、残部(置換基(a)以外の置換基)は、ハロゲン原子、または、下記式(3):
【0032】
【0033】
で示される構造(以下、単に「カテコール骨格」とも称する)を含む。
また、上記残部の置換基(置換基(a)以外の置換基)、すなわち、ハロゲン原子およびカテコール骨格を総じて「置換基(b)」とも称する。
ただし、式(3)で示される構造は、Z1~Z4、Z5~Z8、Z9~Z12、Z13~Z16の中で、隣接する二つの置換基である。
【0034】
なお、本明細書中、「隣接する二つの置換基」とは、一つのベンゼン環上において、ある置換基と、当該置換基を基準として、オルト位(2位)に存在する他の置換基と、を指す。したがって、例えば、「隣接する二つの置換基」としては、Z1とZ2、Z2とZ3、Z3とZ4等である。よって、カテコール骨格は、例えば、Z1とZ2、Z2とZ3、Z3とZ4等の置換基となり得る。カテコール骨格は、α位とβ位(たとえばZ1とZ2、Z3とZ4等)の置換基であってもよいし、β位とβ位(たとえばZ2とZ3等)の置換基であってもよい。
【0035】
上記式(1)において、置換基Z1~Z16のうち、4~16個は置換基(a)であり、かつ、残部は、置換基(b)である。ここで、Z1~Z16は、それぞれ同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0036】
化合物(Pc)が置換基(a)を有することにより、その立体障害によりフタロシアニン色素の充填構造形成が阻害されるためと考えられるが、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体への溶解性が向上する。また置換基(a)の個数により、吸収波長を長波長シフトさせることが可能であり、可視光の透過率(透明度)を制御することができる。化合物(Pc)の溶解性、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体への相溶性や可視光透過性の観点から、Z1~Z16のうち、4~14個が置換基(a)であると好ましい。より好ましくは、4~12個である。
【0037】
また化合物(Pc)における、置換基(b)の内、ハロゲン原子の数は、可視光透過性が良好である観点から、2~12個であることが好ましい。より好ましくは、4~12個である。また、耐光性に優れる観点からは、残部がカテコール骨格であることが好ましい。
化合物(Pc)において、上記置換基(a)の置換する位置、および置換基(b)の位置は、上記定義を満たす限り特に制限されない。Z1~Z16への置換基(a)および置換基(b)の導入位置や種類は、均一であっても不均一であってもよいが、置換基(a)および置換基(b)が全体に均一に導入されることが好ましい。
【0038】
Z1~Z4、Z5~Z8、Z9~Z12、およびZ13~Z16を含む各構成単位を、それぞれ、構成単位A、B、CおよびDとすると、A~Dは、それぞれ同じ置換基(a)を有していると好ましい。置換基(a)が同じ置換基を有することにより可視光透過性が向上する。
同様の理由で、A~Dにおける、各々の置換基(a)の数が同じであることもまた好ましく、各々の置換基(a)の位置が同じであることもまた好ましい。A~Dが同じ置換基(a)を有し、且つ同じ位置に、且つ同じ個数有することが特に好ましい。
【0039】
さらに、A~Dにおける、置換基の組合せが同じであることが好ましい。すなわち、A~Dにおいて、置換基(a)および置換基(b)の各々の種類が同じであることが好ましく、置換基(a)および(b)の各々の位置および位置関係が同じであることがより好ましい。
置換基(b)はハロゲン原子またはカテコール骨格であるが、A~Dにおける、ハロゲン原子またはカテコール骨格の数、位置は同じであることが好ましい。
以下、上記式(2)で示される置換基(a)、置換基(b)としての、ハロゲン原子および上記式(3)で示されるカテコール骨格、ならびに中心金属(M)について、それぞれ説明する。
【0040】
上記式(1)における置換基(a)は、上記式(2)で示される、置換または無置換のフェノキシ基である。上記式(2)中、Rは、それぞれ独立して、一価の置換基を表す。上記式(2)中、Xは酸素原子または硫黄原子である。中でも化合物(Pc)が可視光透過性に優れるものとなり易い観点から、酸素原子が好ましい。上記式(2)中のRは、一価の置換基であれば特に制限されないが、例えば、以下の置換基が挙げられる。
【0041】
上記式(2)中のRとしては、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基(-O-X1、この際、X1は、炭素原子数6~14のアリール基を表わす)、炭素原子数2~21のエステル基(-C(=O)OX2または-OC(=O)X2、この際、X2は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、炭素原子数1~20のチオアルコキシ基(-S-X4、この際、X4は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、-COO(X5O)p-X6[この際、X5は、炭素原子数1~3のアルキレン基を表わし;X6は、炭素原子数1~6のアルキル基を表わし;pは、1~5の整数である]等が挙げられる。なお、Rが同一のフェノキシ基中に複数存在する(mが2~5の整数である)場合に、Rは、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
【0042】
これらの中でも、化合物(Pc)が溶解性、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体への相溶性や可視光透過性に優れるものとなり易い観点から、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、および-COO(X5O)p-X6[この際、X5は、炭素原子数1~3のアルキレン基を表わし;X6は、炭素原子数1~6のアルキル基を表わし;pは、1~5の整数である]からなる群から選択されることが好ましい。
また、上記式(2)において、mは、0~5の整数であり、特に制限されない。より可視光透過率を向上させるという観点から、mは、1~4の整数であると好ましく、2~3の整数であるとより好ましい。
【0043】
また、当該置換基Rのベンゼン環への結合位置もまた特に制限されない。例えば、mが1である場合には、置換基は、Xに対しベンゼン環のオルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、吸収波長域、溶媒溶解性等を考慮すると、2位、4位が好ましく、2位がより好ましい。mが2である場合には、置換基は、、Xに対しベンゼン環の2,3位、2,4位、2,5位、2,6位、3,4位、3,5位のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、可視光透過率などを考慮すると、2,4位、2,5位、2,6位が好ましく、2,5位、2,6位がより好ましい。
【0044】
上記Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性を向上させるという観点から、フッ素原子または塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0045】
上記Rで表される炭素原子数1~20のアルキル基としては、特に制限はないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、2-テトラオクチル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、2-ヘキシルデシル基、n-ヘプタデシル基、1-オクチルノニル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基などの直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状のアルキル基などが挙げられる。これらのうち、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が特に好ましい。これらの置換基を有することで、最大吸収波長を長波長側にシフトでき、特定波長領域に存在しやすくなり、良好な可視光透過性と一重項酸素の発生能を発揮することができる。
【0046】
上記Rで表される炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基としては、特に制限はないが、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、フルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基などの直鎖または分岐鎖のアルキル基の一部がハロゲン化されたものが挙げられる。これらのうち、可視光透過率を向上させる観点から、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のハロゲン化アルキル基が好ましい。
【0047】
上記Rで表される炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、特に制限はないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2-ジメチル-プロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、1-イソプロピルプロポキシ基、n-オクチルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、2-ヘキシルデシルオキシ基などの直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。これらのうち、可視光透過率を向上させる観点から、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が好ましい。また、ポリエチレン等の脂肪族系の樹脂に相溶させるためには炭素原子数8~20の長鎖のアルコキシ基が好ましい。
【0048】
上記Rで表される炭素原子数6~14のアリール基としては、特に制限はないが、例えば、フェニル基、ビフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。これらのうち、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。これらの置換基を有することで、電子が非局在化することから、耐光性もまた向上する。
【0049】
上記Rで表される炭素原子数6~14のアリールオキシ基としては、特に制限はないが、例えば、式:-O-X1で表される。この際、X1は、炭素原子数6~14のアリール基を表わす。ここで、炭素原子数6~14のアリール基は、特に制限されず、上記と同様のアリール基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率を向上させる観点から、X1は、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0050】
上記Rで表される炭素原子数2~21のエステル基としては、特に制限はないが、例えば、式:-C(=O)OX2または-OC(=O)X2で表される。この際、X2は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1~20のアルキル基は、特に制限されず、上記と同様のアルキル基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、X2は、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。また、ポリエチレン等の脂肪族系の樹脂に相溶させるためには炭素原子数8~20の長鎖のアルキル基が好ましい。
【0051】
上記Rで表されるアミノ基としては、特に制限はないが、例えば、式:-N(X3)2で表される。この際、X3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~20のアルキル基を表わす。ここで、X3は、同じあっても異なるものであってもよい。また、炭素原子数1~20のアルキル基は、特に制限されず、上記と同様のアルキル基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率を向上させる観点から、X3は、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましい。
【0052】
上記Rで表される炭素原子数1~20のチオアルコキシ基としては、特に制限はないが、例えば、式:-S-X4で表される。この際、X4は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1~20のアルキル基は、特に制限されず、上記と同様のアルキル基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率を向上させる観点から、X4は、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましい。
【0053】
上記Rで表される式:-COO(X5O)p-X6の置換基としては、特に制限はない。この際、X5は、炭素原子数1~3のアルキレン基を表わす。ここで、炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基がある。これらのうち、耐久性等を考慮すると、X5は、エチレン基またはプロピレン基であることが好ましい。また、pは、オキシアルキレン基(X5O)の繰り返し単位数を表わし、1~5の整数である。耐久性等を考慮すると、pは、1~3の整数であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。さらに、X6は、炭素原子数1~6のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1~6のアルキル基としては、特に制限されず、炭素数1~6の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。
【0054】
置換基(b)は上述したように、ハロゲン原子または上記式(3)で示される構造、すなわち、カテコール骨格である。上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性を向上させるという観点から、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0055】
上記式(1)におけるカテコール骨格は、上記式(3)で示される、置換または無置換のカテコール骨格である。上記式(3)中、R’は、それぞれ独立して、一価の置換基を表す。上記式(3)中のR’は、一価の置換基であれば特に制限されないが、例えば、以下の置換基が挙げられる。
【0056】
すなわち、上記式(3)中のR’としては、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基(-O-X11、この際、X11は、炭素原子数6~14のアリール基を表わす)、炭素原子数2~21のエステル基(-C(=O)OX12または-OC(=O)X12、この際、X12は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、アミノ基(-N(X13)2、この際、X13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、炭素原子数1~20のチオアルコキシ基(-S-X14、この際、X14は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、-COO(X15O)q-X16[この際、X15は、炭素原子数1~3のアルキレン基を表わし;X16は、炭素原子数1~6のアルキル基を表わし;qは、1~5の整数である]等が挙げられる。なお、R’が同一のカテコール骨格中に複数存在する(nが2~5の整数である)場合に、R’は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
【0057】
これらのうち、可視光透過性および溶媒溶解性などを考慮すると、R’は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、および炭素原子数2~21のエステル基からなる群から選択されると好ましい。
これらの置換基のなかでも、R’として、可視光透過性および溶媒溶解性や工業原料としての入手のしやすさ等の観点から、ハロゲン原子、エステル基が好ましい。より好ましくは、メチルエステル基やエチルエステル基である。
【0058】
また、上記式(3)において、nは、0~4の整数であり、R’がカテコール骨格に導入される数は特に制限されない。より可視光透過率を向上させるという観点から、nは、0~3の整数であると好ましく、0~2の整数であるとより好ましく、0または1の整数であると特に好ましく、0であると最も好ましい。また、当該置換基R’のカテコール骨格への結合位置もまた特に制限されない。例えば、nが1である場合には、置換基は、カテコール骨格の一方の酸素原子に対し、2位または3位に配置されうる。これらのうち、特定波長域への選択的な吸収、溶媒溶解性などを考慮すると、2位が好ましい。nが2である場合には、置換基は、カテコール骨格の一方の酸素原子に対し、2,3位、2,4位、2,5位、3,4位のいずれかの位置に配置され得る。
【0059】
ここで、R’で表される各置換基(例えば、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数2~21のエステル基、アミノ基、炭素原子数1~20のチオアルコキシ基、-COO(X15O)q-X16等)の具体例は、上記(置換基(a))の項において説明したRと同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
置換基(b)は上述したように、ハロゲン原子または上記カテコール骨格であるが、置換基(b)としては、(b1):ハロゲン原子のみを含む形態、(b2):上記カテコール骨格のみを含む形態、(b3):ハロゲン原子および上記カテコール骨格を含む形態のいずれであってもよい。中でも可視透過性を重視する場合には、(b1):ハロゲン原子のみを含む形態が好ましく、耐光性を重視する場合には、b2):上記カテコール骨格のみを含む形態が好ましく、両者のバランスが求められる場合には、(b3):ハロゲン原子および上記カテコール骨格を含む形態が好ましい。
【0061】
上述したように、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物に含まれる化合物(Pc)は、置換基Z1~Z16のうち、4~16個は置換基(a)であり、その残部が置換基(b)を含むが、置換基(a)および置換基(b)以外の置換基を含むものであってもよい。置換基(a)および置換基(a)以外の置換基を「置換基(c)」とも称する。
言い換えれば、化合物(Pc)における置換基Z1~Z16のうち、4~16個は置換基(a)であり、その残部が置換基(b)のみからなっていてもよいし、置換基(b)と置換基(c)とからなっていてもよい。置換基(c)としては、特に限定されないが、たとえば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基等があげられる。
【0062】
置換基Z1~Z16のうち、置換基(a)以外の残部は、可視透過性に優れる観点からハロゲン原子であることが好ましい。また耐光性に優れる観点から、置換基(b)が、置換基Z1~Z16の個数で表して、残部の個数100個数%に対して50個数%以上であることが好ましく、より好ましくは75個数%以上であり、特に好ましくは100個数%である。すなわち、置換基(b)のみからなることが好ましい。
【0063】
上記式(1)において、Mは、亜鉛またはバナジル(VO)である。吸収スペクトル(吸収帯)をよりシャープにし、可視光透過率をさらに向上させるという観点から、中心金属Mは、亜鉛であることが好ましい。
上記化合物(Pc)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0064】
<ポリマーおよび/またはポリマー前駆体>
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物はポリマーおよび/またはポリマー前駆体を含む。上記ポリマーをポリマー(Po)、ポリマー前駆体をポリマー前駆体(Pp)とも称する。
【0065】
ポリマー(Po)は特に制限されないが、従来公知の天然樹脂および合成樹脂を用いることができる。またポリマー(Po)は、熱可塑性樹脂であってもよいし熱硬化性樹脂であってもよい。ポリマー(Po)は化合物(Pc)を分散または溶解し、且つ、化合物(Pc)を保持する担体として機能することが好ましい。
【0066】
ポリマー(Po)としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のビニル系重合体;(メタ)アクリル樹脂;ポリウレタン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ABS樹脂;AS樹脂;ポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;変性ポリフェニレンエーテル;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルファイド;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;非晶ポリアリレート;液晶ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン;ポリイミド;シリコーン樹脂;ポリアミドイミド;セルロース系ポリマー;エポキシ樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ウレタン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ジアリルフタレート樹脂;アルキド樹脂;等が挙げられる。上記ポリマー(Po)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
また上記ポリマー(Po)には、後述するモノマー(m)を重合および/または縮合して得られるポリマーも含まれ、好ましく用いることができる。
【0068】
これらの中でも、ポリマー(Po)は酸素透過性の高いポリマーが好ましい。このような観点から、例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、セルロース系ポリマー、ポリスチレン、ゴム、ポリアセチレン類、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンオキシド等が好ましい。
【0069】
上記セルロース系ポリマーとしては、セルロースおよびセルロース誘導体があげられるが、中でもセルロース誘導体が好ましく、セルロースエステル、セルロースエーテルがより好ましい。セルロースエステルの中でも酢酸セルロースが好ましい。セルロースエーテルの中でもエチルセルロース、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が好ましく、エチルセルロースがより好ましい。
【0070】
上記ポリオレフィンの中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンがより好ましく、ポリエチレンが特に好ましい。上記ゴムの中でも、ブチルゴム、ネオプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴムなどが好ましくあげられる。上記シリコーン樹脂の中でも、ポリジメチルシロキサンが好ましい。上記ポリアセチレン類の中でも、ポリ(1-トリメチルシリルー1-プロピン)が好ましい。
【0071】
上記ポリマー(Po)としては、ポリ乳酸、酢酸セルロース、エチルセルロース、ブチルゴム、ネオプレン、天然ゴム、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリ(1-トリメチルシリルー1-プロピレン)等が特に好ましい。
【0072】
上記ポリマー(Po)としては、酸素透過係数が1×10―12cc・cm/cm2・s・cmHg以上、好ましくは、1×10―11cc・cm/cm2・s・cmHg以上であるポリマーが好ましい。
【0073】
上記ポリマー(Po)の重量平均分子量は、特に制限されないが、たとえば、1000~500万の範囲であることが好ましい。より好ましくは2000以上、さらに好ましくは1万以上である。上限はより好ましくは100万以下である。上記重量平均分子量は、従来公知の測定方法により求めることができる。たとえば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー等を用いて測定された重量平均分子量を採用することができる。通常は、ポリスチレン換算の重量平均分子量あるいはPEG(ポリエチレングリコール)換算の重量平均分子量を用いる。測定するポリマーが溶解する溶媒により、適宜、標準分子量サンプルは選択することが好ましい。
【0074】
ポリマー前駆体(Pp)としては、特に限定されないが、重合反応および/または縮合反応によりポリマーを生成することができるモノマーが好ましい。上記重合反応および/または縮合反応によりポリマーを生成することができるモノマーをモノマー(m)とも称する。
【0075】
上記モノマー(m)としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマー、スチレン系モノマー等の重合性不飽和二重結合基を有するモノマー、エポキシ基やオキセタン基、エチレンスルフィド基等の開環重合性基を有するモノマーが好ましくあげられる。
【0076】
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、従来公知の単官能または多官能(メタ)アクリル系モノマーを用いることができる。上記単官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の炭素数1~18のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。上記多官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドの付加モル数が2~50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンレンオキシドの付加モル数が2~50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0077】
上記ビニル系モノマーとしては、従来公知のビニル系モノマーを用いることができる。たとえば、塩化ビニル、酢酸ビニル等があげられる。上記スチレン系モノマーとしては、従来公知のスチレン系モノマーを用いることができる。たとえば、たとえば、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等があげられる。
【0078】
上記モノマー(m)等のポリマー前駆体(Pp)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
上記ポリマー(Po)として、回収したポリマーを用いてもよい。例えば、「たばこの吸い殻(CF)」は、海岸で最もよく見られるゴミの1つである。CFは通常、毎年世界中のビーチクリーンアップキャンペーンで収集されるごみの中で最も多く、2018年には、世界中のビーチで460万本のCFが収集されている(Ocean Conservancy 2019 Report)。CFには、ヒ素(ラット中毒に使用される)、鉛(子供の脳の発達に影響を与える可能性のある毒)、ニコチン(強力な催奇形性および遺伝子毒性効果が観察されている)などの毒性物質を含む、非常に多くの種類の毒性物質が含まれている。CFは、これらの有毒物質とともに、毎年かなりの量の有害な重金属を海洋に溶解させている。1つのCFは、1000Lの水を予測された無影響濃度を超える濃度まで汚染する可能性がある。それは海岸の問題だけではなく、街角や車の窓の外に散らばっているCFは風によって運ばれ、雨水によって洗い流され、最終的には川を通って海に流れ込み、毒素はゆっくりと私たちの自然のシステムに浸出し、水生動物、さらには人間や私たちの環境に深刻な脅威をもたらす。SDGの観点から、環境に有害な廃棄物を有用な製品に変えることは非常に価値がある。現在、約80万トンの酢酸セルロース(CA)がタバコのフィルターとして使用されており、廃棄されたCFを安全に回収できれば、環境破壊を防ぎながら、同量のCAを原料として使用することが可能となる。本発明において、使用済み煙草フィルター(CF)を回収し、本発明のポリマー(Po)として使用することも検討し、結果を実施例に記載した。
【0080】
<光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の組成>
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、化合物(Pc)、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)以外にも、他の成分を含んでいてもよい。たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤があげられる。さらに後述するように溶媒成分を含んでいてもよい。
【0081】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における、化合物(Pc)、ポリマー(Po)およびポリマー前駆体(Pp)の合計含有量は特に限定されないが、光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物100質量%に対し、化合物(Pc)、ポリマー(Po)およびポリマー前駆体(Pp)の合計含有量が、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0082】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における、化合物(Pc)、ポリマー(Po)およびポリマー前駆体(Pp)の合計含有量は、上記溶媒成分以外の全質量(本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物より溶媒成分を差引いた質量)100質量%に対し、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上である。
【0083】
また、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における、化合物(Pc)の含有量は、特に制限されないが、化合物(Pc)がポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)に高分散状態で保持され易い観点から、化合物(Pc)とポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)との合計含有量100質量%に対し、化合物(Pc)の含有量が0.001~99質量%であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.03質量%以上である。また上限は、10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下であり、さらにより好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0084】
2.光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の好ましい実施形態について
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、上記構成よりなるが、種々の形態をとることができる。たとえば、組成の観点から、好ましい実施形態として、モノマー(m)組成物、ポリマー(Po)組成物、溶媒含有組成物等があげられる。
【0085】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、その形状によらず、本発明の効果を発揮することができ、使用目的に応じた形状を有することが好ましい。たとえば、特定の形状を有しない形態(たとえば常温で液状である形態)、膜、粒子、繊維等の特定の形状を有する形態があげられる。中でも膜が好ましい。
【0086】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は、たとえば、
図2に示すように、意匠性を付与するため折り紙状の形態として用いることもできる。
図2は風車を模した形態であるが、これに制限されない。
【0087】
なお、モノマー(m)組成物とは、上記化合物(Pc)と上記モノマー(m)とを含む組成物を意味する。またポリマー(Po)組成物とは、上記化合物(Pc)と上記ポリマー(Po)とを含む組成物を意味する。
また溶媒含有組成物とは、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物がさらに溶媒を含むものを意味する。
また、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物が膜の形状を有する場合、これを本発明の膜と称することもある。同様に、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物が粒子、繊維の形状を有する場合、それぞれ本発明の粒子、本発明の繊維と称することもある。
また、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において、板、フィルムなどの膜、ペレットなどの粒子、繊維等に成形したものを、特に成形体、あるいは本発明の成形体ということもある。
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における、各種の好ましい実施形態について各々説明する。
【0088】
<溶媒含有組成物>
本発明の溶媒含有組成物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン(Pc)、ポリマーおよび/またはポリマー前駆体、および溶媒を含む。
本発明の溶媒含有組成物を構成する化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明の溶媒含有組成物を構成するポリマー、ポリマー前駆体はそれぞれ、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)、ポリマー前駆体(Pp)とその好ましい態様も含め同様である。本発明の溶媒含有組成物を構成するポリマー、ポリマー前駆体をそれぞれポリマー(Po),ポリマー前駆体(Pp)とも称する。
したがって、本発明の溶媒含有組成物は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において、さらに溶媒を含むものであるということもできる。
【0089】
本発明の溶媒含有組成物を構成する溶媒は特に限定されない。たとえば、水、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤等の従来公知の有機溶剤を使用できる、中でも化合物(Pc)に対する溶解性に優れる観点から、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤がより好ましく、エーテル系溶剤がさらに好ましく、THF等の環状エーテル系溶剤がさらに好ましい。
【0090】
上記溶媒含有組成物における溶媒の含有量は、特に制限されないが、上記溶媒含有組成物100質量%に対し、1~95質量%であることが好ましく、より好ましくは10~90質量%であり、さらに好ましくは20~80質量%である。
本発明の溶媒含有組成物における、化合物(Pc)とポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)の合計含有量は、該組成物100質量%に対し、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、上限は99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
また、本発明の溶媒含有組成物における、化合物(Pc)とポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)との合計含有量100質量%に対する、化合物(Pc)の含有量は、特に制限されないが、その好ましい範囲は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における場合と同様である。
【0092】
本発明の溶媒含有組成物において、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)としては、ポリマー(Po)のみであってもよいし、ポリマー前駆体(Pp)であってもよいし、これらを併用したものであってもよいが、ポリマー(Po)を含むものであることが好ましい。
【0093】
上記ポリマー前駆体(Pp)としては、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における、モノマー(m)であることが好ましい。モノマー(m)の好ましい態様は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における場合と同様である。
【0094】
本発明の溶媒含有組成物は、上述した化合物(Pc)、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)および溶媒以外の成分を含んでいてもよい。たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤があげられる。
【0095】
本発明の溶媒含有組成物は、そのまま光活性抗菌・抗ウイルス剤として用いることもできるが、本発明の膜、粒子、繊維等を製造する原料として用いることも好ましい。
【0096】
本発明の溶媒含有組成物は、その製造方法は特に限定されず、通常は、化合物(Pc)、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)、および溶媒を混合することにより製造することができる。たとえば、ポリマー(Po)を溶媒に溶解した溶液に化合物(Pc)を混合する方法、化合物(Pc)を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液にポリマー(Po)を混合する方法により、化合物(Pc)およびポリマー(Po)が溶媒に溶解または分散した溶媒含有組成物が得られる。上記の製造方法において、混合方法は特に制限されず、従来公知の攪拌装置、分散装置等を適宜選択することができ、攪拌条件、温度条件等は適宜選択すればよい。
【0097】
<モノマー(m)組成物>
本発明のモノマー(m)組成物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物(Pc)とモノマーとを含む組成物である。
本発明のモノマー(m)組成物を構成する化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明のモノマー(m)組成物を構成するモノマーは、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるモノマー(m)とその好ましい態様も含め同様である。本発明のモノマー(m)組成物を構成するモノマーをモノマー(m)とも称する。
よって、本発明のモノマー(m)組成物は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)として上記モノマー(m)を含むものであるということもできる。
【0098】
本発明のモノマー(m)組成物における、化合物(Pc)、モノマー(m)の合計含有量は特に限定されないが、モノマー(m)組成物100質量%に対し、化合物(Pc)およびモノマー(m)の合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上である。
本発明のモノマー(m)組成物における、化合物(Pc)の含有量は、特に制限されないが、化合物(Pc)がモノマー(m)に高分散状態で保持され易い観点から、化合物(Pc)およびモノマー(m)の合計含有量100質量%に対し、化合物(Pc)の含有量が0.001~99質量%であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.03質量%以上である。また上限は、10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下であり、さらにより好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0099】
本発明のモノマー(m)組成物は、さらに重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤は光重合開始剤または熱重合開始剤を用いることができる。用いる重合開始剤は、モノマー(m)の種類等に応じて適宜選択すればよい。該重合開始剤の添加量は特に制限されず、適宜選択すればよいが、モノマー(m)組成物中のモノマー(m)に対し、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。
【0100】
本発明のモノマー(m)組成物は、さらにポリマーを含んでいてもよい。ポリマーとしては、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)と同様のものを用いることができる。
【0101】
本発明のモノマー(m)組成物において、ポリマーを含む場合、上記モノマー(m)がモノマー(m)およびポリマーに占める割合は、モノマー(m)およびポリマーの合計含有量100質量%に対し、1~100質量%である。該割合は適宜選択すればよいが、50質量%超が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%以上が特に好ましい。
【0102】
本発明のモノマー(m)組成物は、上記以外の成分を本発明のモノマー(m)組成物の作用効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。該成分としては、たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤や溶媒があげられる。
【0103】
本発明のモノマー(m)含有組成物は、そのまま光活性抗菌・抗ウイルス剤として用いることもできるが、本発明の膜、粒子、繊維等を製造する原料として用いることも好ましい。
【0104】
本発明のモノマー(m)組成物は、その製造方法は特に限定されず、化合物(Pc)、モノマー(m)、必要に応じて重合開始剤を混合することにより製造できる。上記混合は、従来公知の攪拌装置、分散装置等を用いて行うことができ、攪拌条件、温度条件等は適宜選択すればよい。
【0105】
<ポリマー(Po)組成物>
本発明のポリマー(Po)組成物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物(Pc)とポリマーとを含む組成物である。
本発明のポリマー(Po)組成物を構成する化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明のポリマー(Po)組成物を構成するポリマーとしては、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)とその好ましい態様も含め同様である。本発明のポリマー(Po)組成物を構成するポリマーをポリマー(Po)とも称する。
したがって、本発明のポリマー(Po)組成物は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において、ポリマー(Po)および/またはポリマー前駆体(Pp)として上記ポリマー(Po)を含むものということもできる。
【0106】
本発明のポリマー(Po)組成物における、化合物(Pc)およびポリマー(Po)の合計含有量は特に限定されないが、ポリマー(Po)組成物100質量%に対し、化合物(Pc)およびポリマー(Po)の合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上である。
本発明のポリマー(Po)組成物における、化合物(Pc)の含有量は、特に制限されないが、化合物(Pc)がポリマー(Po)に高分散状態で保持され易い観点から、化合物(Pc)およびポリマー(Po)の合計含有量100質量%に対し、化合物(Pc)の含有量が0.001~99質量%であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.03質量%以上である。また上限は、10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下であり、さらにより好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0107】
本発明のポリマー(Po)組成物は、さらにポリマー前駆体を含んでいてもよい。ポリマー前駆体としては、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー前駆体(Pp)と同様のものを用いることができ、中でもモノマー(m)が好ましい。
【0108】
本発明のポリマー(Po)組成物において、ポリマー前駆体を含む場合、上記ポリマー(Po)がポリマー(Po)およびポリマー前駆体に占める割合は、ポリマー(Po)およびポリマー前駆体の合計含有量100質量%に対し、1~100質量%である。該割合は適宜選択すればよいが、50質量%超が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%以上が特に好ましい。
【0109】
本発明のポリマー(Po)組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。該溶媒としては、本発明の溶媒含有組成物における溶媒と同様のものを用いることができる。本発明のポリマー(Po)組成物が溶媒を含む形態もまた本発明のポリマー(Po)組成物の好ましい一実施形態である。本発明のポリマー(Po)組成物が溶媒を含む場合、化合物(Pc)およびポリマー(Po)の合計含有量は、ポリマー(Po)組成物100質量%に対し、5~99質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0110】
本発明のポリマー(Po)組成物は、上記以外の成分を本発明のポリマー(Po)組成物の作用効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。該成分としては、たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤があげられる。
【0111】
本発明のポリマー(Po)組成物は、膜、粒子、繊維等の各種形態で光活性抗菌・抗ウイルス剤として用いることができる。本発明のポリマー(Po)組成物は、本発明の膜、粒子、繊維等を製造する原料としても好ましく用いることができる。
【0112】
本発明のポリマー(Po)組成物は、その製造方法は特に限定されず、通常は、化合物(Pc)とポリマー(Po)を混合することにより製造することができる。たとえば、化合物(Pc)をポリマー(Po)と混合し、ポリマー(Po)の融点以上の温度に加熱して溶融させ混練りすることにより、ポリマー(Po)中に化合物(Pc)が分散含有された組成物が得られる。
【0113】
ポリマー(Po)を溶媒に溶解した溶液に化合物(Pc)を混合することにより、あるいは、化合物(Pc)を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液にポリマー(Po)を混合することにより、化合物(Pc)およびポリマー(Po)が溶解または分散した組成物(溶媒含有組成物)が得られる。得られた溶媒含有組成物より、加熱等により溶媒を除去することにより、化合物(Pc)およびポリマー(Po)を含む組成物が得られる。上記溶媒含有組成物も、該組成物より溶媒を除去した組成物も、本発明のポリマー(Po)組成物である。
【0114】
本発明のポリマー(Po)組成物は、本発明のモノマー(m)組成物より製造することもできる。本発明のモノマー(m)組成物に含まれるモノマー(m)を重合反応および/または縮合反応によりポリマーを生成させたものも本発明のポリマー(Po)組成物である。
【0115】
さらに、上記のようにして得られたポリマー(Po)組成物を塗布したり、従来公知の成形方法により成形することによって、膜、粒子、繊維等の所望の形状を有するポリマー(Po)組成物を製造することができる。
【0116】
<光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜>
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜について説明する。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜を本発明の膜とも称する。本発明の膜は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物(Pc)およびポリマーを含む光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜である。
【0117】
本発明の膜を構成するフタロシアニン化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明の膜を構成するポリマーは、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)とその好ましい態様も含め同様である。本発明の膜を構成するポリマーをポリマー(Po)とも称する。
なお、上記ポリマー(Po)には、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において説明したモノマー(m)を重合および/または縮合してなるポリマーも含まれる。
したがって、本発明の膜は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の好ましい一実施形態であり、膜の形態を有することを特徴とするものであるということもできる。
【0118】
本発明の膜における、化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量は、膜の全質量100質量%に対し、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上である。
【0119】
また、本発明の膜における、化合物(Pc)の含有量は、特に制限されないが、化合物(Pc)がポリマー(Po)に高分散状態で保持され易い観点から、化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量100質量%に対し、化合物(Pc)の含有量が0.001~99質量%であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.03質量%以上である。また上限は、10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下であり、さらにより好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0120】
本発明の膜は、上記以外の成分(他の成分)を本発明の膜の作用効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。該成分としては、たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤や溶媒、上記ポリマー前駆体等があげられる。上記他の成分は、若干量であることが好ましく、その合計含有量が、本発明の膜の全質量100質量%に対し、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0121】
本発明の膜の厚みは、特に限定されず、0.1μm~10mmであることが好ましい。上記膜の厚みは、ダイアル厚さ計により測定した値を採用することが好ましい。ダイアル厚さ計を用いて、任意の位置3点以上について厚さを測定し、その平均値を膜の厚みとすることができる。ダイアル厚さ計としては、ダイアル厚さ計(ミツトヨ株式会社製、神奈川県)を用いることができる。
【0122】
本発明の膜は、それ自体独立した膜として存在する形態であってもよいし、他の材料の表面に積層された膜であってもよい。いずれの場合であっても本発明の膜に含まれる。
なお、膜が他の材料の表面に積層されてなる、膜と他の材料からなるものは、本発明の膜を含む物品に含まれる。本発明の膜を含む物品については、後述する。
【0123】
本発明の膜が、それ自体独立した膜として存在する形態である場合、たとえば、フィルム状であることが好ましい。本発明の膜がフィルムである形態もまた本発明の好ましい実施形態の一つである。なお、本発明において、フィルム(フィルム状)は、板(板状)を含む概念であるが、たとえば厚みが1mm以上のものを、板(板状)と称することもある。
【0124】
このような膜は、上記ポリマー(Po)組成物を、溶融押出成形する方法、上記溶媒含有組成物をキャスト成形する方法、上記モノマー(m)組成物を板状に注型し重合および/または縮合する方法、溶媒含有組成物をガラス板等の支持体上に塗布し、乾燥した後、得られた塗膜を剥離する方法、モノマー(m)組成物をガラス板等の支持体上に塗布し、光、電子線の照射または加熱によりモノマーの重合反応および/または縮合反応を行わせた後、得られた塗膜を剥離する方法等により製造することができる。膜の厚みを調整することにより、フィルム状あるいは板状の本発明の膜が得られる。
【0125】
本発明の膜が、それ自体独立した膜として存在する形態である場合、膜の厚みは、特に制限されず、ポリマー(Po)の種類等に応じて適宜選択すればよい。たとえば、10μm以上であることが好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは500μm以上である。上限は、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。該厚みは、上述した厚みの測定方法により得られた平均値を採用することができる。
【0126】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の一形態として、
図2に示すような折り紙状の形態を示したが、これは、本発明の膜がそれ自体独立した膜として存在する形態の一実施形態でもある。
【0127】
<光活性抗菌・抗ウイルス剤用粒子>
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用粒子について説明する。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用粒子を本発明の粒子とも称する。本発明の粒子は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物(Pc)およびポリマーを含む光活性抗菌・抗ウイルス剤用粒子である。
【0128】
本発明の粒子を構成するフタロシアニン化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明の粒子を構成するポリマーは、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)とその好ましい態様も含め同様である。本発明の粒子を構成するポリマーをポリマー(Po)とも称する。
なお、上記ポリマー(Po)には、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において説明したモノマー(m)を重合および/または縮合してなるポリマーも含まれる。
したがって、本発明の粒子は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の好ましい一実施形態であり、粒子の形態を有することを特徴とするものであるということもできる。
【0129】
本発明の粒子における、粒子の全質量に対する化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量、化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量に対する化合物(Pc)の含有量は、それぞれ、その好ましい範囲も含めて、本発明の膜における場合と同様である。
【0130】
本発明の粒子は、上記以外の成分(他の成分)を本発明の粒子の作用効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。該成分としては、たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤や溶媒、上記ポリマー前駆体等があげられる。上記他の成分は、若干量であることが好ましく、その合計含有量の好ましい範囲は、本発明の膜の場合と同様である。
【0131】
本発明の粒子の大きさは特に限定されない。本発明の粒子の平均粒径は、0.001μm~10,000μmであることが好ましい。より好ましくは0.01~1000μmである。上記平均粒径は、たとえば、電子顕微鏡観察により測定することができる。具体的には、電子顕微鏡像において、個々の粒子像より求めた面積円相当径を各々の粒子の粒径とし、個数基準の平均値を平均粒径として採用することが好ましい。電子顕微鏡としては走査型電子顕微鏡を用いることが好ましい。ただ粒径が微細で走査型電子顕微鏡では困難な場合は透過型電子顕微鏡を代用することができる。また上記平均粒径は例えば篩を用いて粒子を分級し、その分布から対数表示によって求めることもできる。通常、平均粒径は、電子顕微鏡観察により測定した値を採用することが好ましいが、その大きさにより適した測定方法を選択することもできる。たとえば平均粒径が20μm以上の場合は、篩を用いた方法により、20μm未満の場合は電子顕微鏡を用いる方法を採用することができる。
【0132】
本発明の粒子の製造方法は特に制限されない。たとえば、本発明のポリマー(Po)組成物を、ポリマー(Po)が溶融する温度に加熱して、粒子状に成形する方法により得ることができる。また、本発明の溶媒含有組成物を噴霧乾燥する方法により得ることができる。
【0133】
<光活性抗菌・抗ウイルス剤用繊維>
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用繊維について説明する。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用繊維を本発明の繊維とも称する。本発明の繊維は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物(Pc)およびポリマーを含む光活性抗菌・抗ウイルス剤用繊維である。
【0134】
本発明の繊維を構成するフタロシアニン化合物(Pc)は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物における化合物(Pc)とその好ましい態様も含め同様である。
本発明の繊維を構成するポリマーは、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物におけるポリマー(Po)とその好ましい態様も含め同様である。本発明の繊維を構成するポリマーをポリマー(Po)とも称する。
なお、上記ポリマー(Po)には、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物において説明したモノマー(m)を重合および/または縮合してなるポリマーも含まれる。
したがって、本発明の繊維は、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の好ましい一実施形態であり、繊維の形態を有することを特徴とするものであるということもできる。
【0135】
本発明の繊維における、繊維の全質量に対する化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量、化合物(Pc)とポリマー(Po)との合計含有量に対する化合物(Pc)の含有量は、それぞれ、その好ましい範囲も含めて、本発明の膜における場合と同様である。
【0136】
本発明の繊維は、上記以外の成分(他の成分)を本発明の繊維の作用効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。該成分としては、たとえば、可塑剤、光安定剤等の添加剤や溶媒、上記ポリマー前駆体等があげられる。上記他の成分は、若干量であることが好ましく、その合計含有量の好ましい範囲は、本発明の膜の場合と同様である。
【0137】
本発明の繊維の太さは特に限定されない。たとえば、本発明の繊維の平均直径は、0.01μm~100μmであることが好ましい。より好ましくは0.1~50μmの範囲である。上記平均直径は、走査型電子顕微鏡観察により測定することができる。たとえば、走査型電子顕微鏡像において、繊維の直径を、例えば20か所任意に測定し、その個数平均値を、その試料(繊維状成形体)の平均直径として採用することができる。
【0138】
本発明の繊維の製造方法は特に制限されない。たとえば、本発明のポリマー(Po)組成物を、ポリマー(Po)が溶融する温度に加熱して、繊維状に成形する方法により得ることができる。
【0139】
3.本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を含む物品
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物は独立して用いることもできるが、他の材料との積層体、他の材料との複合体等の形態で光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物としての効果を発揮することができる。このような本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を含む物品もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を含む物品を、本発明の組成物を含む物品と称する。
【0140】
本発明の組成物を含む物品においては、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物の少なくとも一部が物品の表面を構成していることが好ましい。本発明の組成物を含む物品として、好ましくは、本発明の膜を含む物品、本発明の粒子を含む物品、本発明の繊維を含む物品等があげられる。これらの物品の中でも、本発明の膜を含む物品が好ましい。
<本発明の膜を含む物品>
本発明の膜を含む物品の形態は、特に制限されないが、本発明の膜が他の材料の表面に積層された形態であることが好ましい。このような形態の物品を本発明の膜を含む積層物品とも称し、上記他の材料を被積層体とも称する。
ここで表面とは、見かけの外部表面だけを意味するものではなく、被積層体が多孔質な材料である場合は、開口した細孔の表面、いわゆる内部表面を含む。
【0141】
本発明の膜を含む物品において、膜の厚みは特に制限されず、ポリマー(Po)の種類等に応じて適宜選択すればよい。たとえば、0.01μm~5mmであることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、さらに好ましくは1μm以上であり、特に好ましくは、10μm以上である。上限は、より好ましくは2mm以下であり、さらに好ましくは1mm以下であり、特に好ましくは、200μm以下である。
該厚みは上述した厚みの測定方法により、該物品の厚みを求め、その厚みより他の材料(被積層体)の厚みを差引くことにより求めることができる。物品全体の厚みを測定することが難しい場合は、その他の従来公知の膜厚測定方法、たとえば、非接触式の膜厚測定器等により測定することができる。
【0142】
本発明の膜を含む物品において、被積層体としては、基材が好ましい実施形態としてあげられる。上記基材は、好ましくは、本発明の膜を支持する支持体として用いたり、強度的に補強する等の目的で用いられる。
【0143】
上記基材としては、その材質や形状は特に限定されない。たとえば、材質としては、樹脂等の有機物、ガラス、セラミックス、金属等があげられる。また基材の形状としては、フィルム状、板状、粒子状、繊維状等があげられる。
【0144】
フィルム状の基材としてはたとえばポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルム等の従来公知の高分子フィルムがあげられる。板状の基材としてはたとえば、アクリル樹脂板、ポリカーボネート板等の樹脂板;ガラス板;金属板等があげられる。
繊維状の基材としては、たとえば、樹脂繊維(合成繊維、天然繊維)からなる不織布、織布等があげられる。
【0145】
粒子状の基材としては、球状;鱗片状、薄板状等の板状;針状;繊維状;等の種々の有機微粒子、無機微粒子等の平均粒径が1nm~1mm程度の微粒子、ガラスビーズ等のその平均粒径が1mmを超える大きさのものがあげられる。
【0146】
上記平均粒径は、たとえば、電子顕微鏡観察により測定することができる。具体的には、電子顕微鏡像において、個々の粒子像より求めた面積円相当径を各々の粒子の粒径とし、個数基準の平均値を平均粒径として採用することが好ましい。電子顕微鏡としては走査型電子顕微鏡を用いることが好ましい。ただ粒径が微細で走査型電子顕微鏡では困難な場合は透過型電子顕微鏡を代用することができる。また上記平均粒径は例えば篩を用いて粒子を分級し、その分布から対数表示によって求めることもできる。通常、平均粒径は、電子顕微鏡観察により測定した値を採用することが好ましいが、その大きさにより適した測定方法を選択することもできる。たとえば平均粒径が20μm以上の場合は、篩を用いた方法により、20μm未満の場合は電子顕微鏡を用いる方法を採用することができる。
【0147】
上記基材はその表面が多孔質なものであってもよいし、非孔質なものであってもよい。多孔質基材の具体例としては、不織布、織布、メッシュ等があげられる。非孔質基材の具体例としては、たとえば、ポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルム等の従来公知の高分子フィルムがあげられる。
【0148】
本発明の膜を含む物品が上記基材を有するものである場合、該物品の形状は、基材の形状によって制限されるものではないが、通常、基材の形状を反映したものとなり易い。
本発明の膜を含む物品がフィルム(フィルム状の物品)である場合、基材はフィルム状であることが好ましく、本発明の膜を含む物品が板(板状の物品)である場合、基材は板状であることが好ましく、本発明の膜を含む物品が粒子(粒子状の物品)である場合、基材は粒子状であることが好ましい。
【0149】
本発明の膜を含む物品がフィルム状の基材を有する場合、本発明の膜は基材の一方の表面に積層されていてもよいし、両方の表面に積層されていてもよい。本発明の膜を含む物品が板状の基材を有する場合も同様である。
【0150】
本発明の膜を含む物品が基材を有するものである場合、その製造方法は、特に制限されない。従来公知の膜を形成する方法を用いることができる。
たとえば、基材がフィルム状、板状である場合、上記溶媒含有組成物を基材に塗布し乾燥することにより基材表面に塗膜を形成する方法、上記ポリマー(Po)組成物を基材と共に溶融押出成形する方法、上記モノマー(m)組成物を基材に塗布し、光、電子線または熱によりモノマー(m)を重合および/または縮合させることにより基材表面に重合膜および/または縮合膜を形成する方法等を好ましく用いることができる。また、本発明の膜がそれ自体独立した膜として存在するフィルム状の膜を準備し、該膜を基材表面に貼り合わせる方法も好ましい。該膜に予め粘着層または接着層を形成したものを基材表面に貼り合わせる方法もまた好ましい。
【0151】
上記塗布する方法は従来公知の塗布方法を採用できる。たとえば、インクジェットコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、リバースコート法、ブレードコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法などが挙げられる。塗布膜の厚みや、基材の種類、性状等に応じて適宜選択すればよい。
【0152】
上記基材が不織布等の多孔質材料である場合、基材がフィルム状、板状の場合と同様の方法を採用することができるが、さらに、基材を上記溶媒含有組成物に含侵した後、乾燥する方法、上記モノマー(m)組成物に含侵した後、光、電子線または熱によりモノマー(m)を重合および/または縮合させる方法等も好ましく用いることができる。
【0153】
上記基材が繊維状、粒子状である場合、基材を上記溶媒含有組成物に含侵した後、乾燥する方法、上記モノマー(m)組成物に含侵した後、光、電子線または熱によりモノマー(m)を重合および/または縮合させる方法等が好ましく用いることができる。
【0154】
本発明の膜は、人間の生活環境において、人が接触する可能性のある表面に積層されることが好ましい。よって本発明の膜を含む物品において、本発明の膜が積層される被積層体としては、人が接触する可能性のある表面を有する、各種機器、車両、建造物等の表面を構成する材料が好ましい。中でも複数の人間が触れる可能性が高い表面を有する材料がより好ましい。そのような材料としては、たとえば、iPhone(登録商標)等のスマートフォン等の携帯電話機やアイパッド(登録商標)等のタッチパネル等の表示画面、外装材;パーソナルコンピュータのキーボード、マウス等の周辺物品;住宅、病院等の建造物の壁材、床材、天井材等の建材;椅子、机、ベッド、タンス等の家具;自動車や電車などの車両の内装材および窓材;飛沫飛散防止用のパーテーション、間仕切り、フェースマスク;吊り革、エレベーターのボタン等の不特定多数の人間が触れる可能性のある接触部材;等があげられる。
【0155】
上記材料(被積層体)に本発明の膜を積層してなるものもまた、本発明の膜を含む物品に含まれる。該物品の製造方法は、特に制限されないが、たとえば、上記溶媒含有組成物を上記材料(被積層体)に塗布し乾燥することにより上記材料(被積層体)表面に塗膜を形成する方法、上記ポリマー(Po)組成物を上記材料(被積層体)と共に溶融押出成形する方法、上記モノマー(m)組成物を上記材料(被積層体)に塗布し、光、電子線または熱によりモノマー(m)を重合および/または縮合させることにより上記材料(被積層体)表面に重合膜および/または縮合膜を形成する方法等を好ましく用いることができる。また、本発明の膜がそれ自体独立した膜として存在するフィルム状の膜を準備し、該膜を上記材料(被積層体)表面に貼り合わせる方法も好ましい。該膜に予め粘着層または接着層を形成したものを上記材料(被積層体)表面に貼り合わせる方法もまた好ましい。
【0156】
本発明の膜を含む積層物品について説明したが、本発明の膜を含む物品はこれに限定されない。なお、本発明の膜を含む積層物品において説明した、本発明の膜の厚み、基材、基材以外の材料、本発明の膜の作製方法等は、本発明の膜を含む積層物品以外の物品にも適宜準用することができる。
【0157】
以上、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物、ならびに、本発明の膜などの好ましい各種実施形態、さらには、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を含む物品について説明した。これらはいずれも、上述した構成により、可視光または近赤外光等の光増感による一重項酸素の生成能力およびその長期安定性に優れるため、抗菌剤および/または抗ウイルス剤として有用であり、我々人類の社会・生活環境における種々の産業分野において、種々の形態で好適に用いることができる。
【0158】
4.評価方法
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物、その好ましい各実施形態(本発明の膜など)における一重項酸素生成能を評価する方法および抗菌性能、抗ウイルス性能を評価する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用できる。
【0159】
DPBF(ジフェニルイソベンゾフラン)は、416nm付近の光を吸収するが、一重項酸素との接触により、脱水を伴って化学変化を起こし、416nm付近の光吸収能が消失することが知られている。このような性質を利用して、例えばDPBFを溶解した溶液に、光増感剤等の物質を溶解または分散し、これに光照射し、溶液のDPBFの416nm付近の吸光度の変化の有無、変化量を測定することにより、該物質の一重項酸素の生成能を評価する方法が知られている。
【0160】
本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物においても、上記方法により、一重項酸素の生成能を評価することができる。すなわち、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物を、その形態(膜、粒子、繊維等)に応じて、DPBF含有溶液に分散または浸漬し、光照射前後の上記吸光度変化を測定する方法を採用することができる。
【0161】
しかしながら本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物が膜である場合には、より簡便で安全性に優れる観点から、DPBFを含有する樹脂フィルム(以下、DPBF含有樹脂フィルムあるいは樹脂フィルムと称する)を用いる方法が好ましい。該方法は、一重項酸素の生成を検出する簡便で効果的な方法として本発明者が見出した有用な評価方法である。
【0162】
上記のDPBF含有樹脂フィルムを用いる方法とは、DPBF含有樹脂フィルムと、本発明の膜とが積層した積層フィルムを作成し、該積層フィルムに所定時間、光を照射し、照射後に、DPBF含有樹脂フィルムを剥がして、DPBF含有樹脂フィルムの吸光度測定を行う方法である。
【0163】
上記積層フィルムの作成方法は特に限定されない。たとえば、例えば、DPBFおよび樹脂を含有する溶液を本発明の膜からなるフィルムの表面に塗布する等の方法により、本発明の膜からなるフィルムとDPBF含有樹脂フィルムを積層する方法、ダブルキャスト法により積層フィルムを作成する方法、および、本発明の膜からなるフィルムと、別途作成したDPBF含有樹脂フィルムを貼り合わせる等により積層する方法等が好ましい。
【0164】
上記のダブルキャスト法により積層フィルムを作成する方法としては、例えば、ガラス板等の支持体上に上述した方法(たとえば、化合物(Pc)、ポリマー(Po)およびこれらを溶解または分散する溶媒を含む組成物を、ガラス板等の支持体上に塗布、乾燥する方法)により本発明の膜からなるフィルムを作成した後、その表面にDPBFおよび樹脂を含有する溶液をキャスト、乾燥する方法があげられる。
【0165】
DPBF含有樹脂フィルムにおいて、用いる樹脂としては、特に限定されないが、可視光に対し透明であり、DPBFの上記光吸収帯域(416nm付近)に実質的な吸収を有しないものが好ましい。たとえば、ポリマー(Po)として例示したポリマーを好ましく用いることができる。たとえば、酢酸セルロース等のセルロース系ポリマーがあげられる。
【0166】
また、DPBF含有樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、取扱い易い観点から、1~2000μmが好ましく、より好ましくは10~50μmである。また、DPBFを含有する樹脂フィルムにおける、DPBFの含有量は、特に限定されないが、樹脂フィルム100質量%に対して、0.01~10質量%が好ましく、より好ましくは、0.05~5質量%であり、さらに好ましく0.1~1質量%である。
【0167】
上記DPBF含有樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。たとえば、DPBFを溶解した溶液と樹脂とを混合し、樹脂が分散または溶解した溶液を調製する。調製した溶液を、たとえば、ガラス板に塗布し、乾燥することにより、DPBF含有樹脂フィルムを得ることができる。また調製した溶液を、評価対象である本発明の膜からなるフィルムに塗布、乾燥する方法も採用することができる。該方法ではDPBF含有樹脂フィルムが本発明の膜からなるフィルムに積層されたフィルムを直接得ることができる。DPBFを溶解する溶媒としては、DPBFを溶解することができる溶媒であれば特に制限されないが、さらにDPBF含有樹脂フィルムに含まれる樹脂を溶解することができる溶媒が好ましく、たとえばTHFやアセトンがあげられる。
【0168】
一重項酸素の生成能を評価する方法として、上述したDPBF含有樹脂フィルムを用いる方法は、溶液を用いる評価方法に比較して、簡便であると同時に安全性にも優れるとともに、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物、特に本発明の膜に対して好ましい評価方法であるとともに、従来公知の光増感剤等の一重項酸素の生成能を有する物質を含むフィルムあるいは一重項酸素の生成能を確認したいフィルムや壁などの大きな構造物に対しても、有用な評価方法である。
【実施例0169】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0170】
<色素の合成>
[合成例1]色素Aの合成
色素Aについては、特許6251530号公報における「合成例1(フタロシアニン(1)の合成)」に記載された方法により合成した。具体的には以下のとおりである。
(1)工程1
1000mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル54g(0.27mol)、フッ化カリウム34.5g(0.59mol)、及び、アセトン126gを仕込み、更に滴下ロートに3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル127g(0.55mol)及びアセトン216gを仕込んだ。反応容器を氷冷下、攪拌しながら、滴下ロートより3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル溶液を約2時間かけて滴下した後、更に2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、中間体(1)を108.7g(収率64.8%)を得た。
【0171】
(2)工程2
200mlの四つ口フラスコに、工程1で得られた中間体(1)を20.0g(0.032mol)、ヨウ化亜鉛(II)2.57g(0.0081mol)、及び、ベンゾニトリル30.0gを仕込み、160℃で撹拌しながら24時間反応させた。反応終了後、メチルセロソルブ52.7gを反応液に加えた後、メタノールと水の混合溶液に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。得られたケーキを再度、メタノールと水の混合溶液で撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを、真空乾燥機を用いて90℃で24時間乾燥後、目的物であるフタロシアニン(1)(色素A)を17.78g(収率87.1%)得た。
合成例1で得たフタロシアニン(1)(色素A)は、下記式で示されるように、主骨格中に「*」で示す部分(合計8個)のそれぞれに、右側に示す置換基が置換した構造からなる。
【0172】
【0173】
[合成例2]色素Bの合成
色素Bについては、特許5606492号公報における「実施例3:フタロシアニン化合物(ア)フタロシアニン化合物(ア):ZnPc{(2,5-Cl2PhO)8{2,6-(CH3)2PhO}4F4の合成」に記載された方法により合成した。具体的には以下のとおりである。
【0174】
50mlの3つ口フラスコに、4,5-ビス(2,5-ジクロロフェノキシ)-3-ジメチルフェノキシ-6-フルオロフタロニトリル10g(0.017モル)とヨウ化亜鉛1.49g(0.047モル)および溶媒としてベンゾニトリル約20gを投入し、窒素気流下で攪拌しながら165°Cに昇温した。その後165°Cで約16時間反応し、ベンゾニトリルを留去しメタノール100gに投入し、1時間攪拌洗浄し、吸引ろ過した後60°Cで真空乾燥させ、フタロシアニン化合物(ア)[ZnPc{(2,5-Cl2PhO)8{2,6-(CH3)2PhO}4F4](色素B)約8.01gを得た。
【0175】
[合成例3]色素Cの合成
50ml三ツ口フラスコに3,4,5,6-テトラフルオロフルオロニトリル1.2gと4-ヒドロキシ安息香酸メチル0.91g、4-tertブチルカテコール1.0gとアセトニトリル20gを投入し溶解させる。その後5℃に維持した状態で炭酸カリウム2.74gを逐次投入し、その後25℃で30分保持した後、更に80℃に昇温し3時間反応させた。その後2-フェニルフェノール1.03gと炭酸カリウム0.91gを投入し、80℃で6時間反応させた。反応液を熱時濾過することで無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とするフタロニトリル中間体2.75g(収率75.3%)を得た。
【0176】
50ml三ツ口フラスコに上記で得られたフタロニトリル中間体2.75g、ヨウ化亜鉛0.39gとベンゾニトリル4gを投入し、190℃に昇温し約12時間反応させた。反応液を冷却後、メタノール50gに投入して晶析させた。析出物を減圧濾過し、真空乾燥後クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とするフタロシアニン化合物(色素C)1.66g(収率59.0%)を得た。フタロシアニン化合物(色素C)の代表的構造を下記式に示す。
【0177】
【0178】
<膜(フィルム状)の製造>
[実施例1]
4mgの色素Aを10mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(1)を得た。CA溶液(1)をガラス板上でキャストして、膜厚35μmのフィルム(1)を得た。
【0179】
[実施例2]
4mgの色素Aを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1.6gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(2)を得た。CA溶液(2)をガラス板上でキャストして、膜厚36μmのフィルム(2)を得た。
【0180】
[実施例3]
2mgの色素Aを20mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに2gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(3)を得た。CA溶液(3)をガラス板上でキャストして、膜厚31μmのフィルム(3)を得た。
【0181】
[実施例4]
4mgの色素Aを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1.6gのエチルセルロース(100mPa、キシダ化学)を溶解してエチルセルロース溶液(1)を得た。エチルセルロース溶液(1)をポリテトラフルオロエチレン板上でキャストして、膜厚35μmのフィルム(4)を得た。
【0182】
[実施例5]
4mgの色素Bを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1.6gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(4)を得た。CA溶液(4)をガラス板上でキャストして、膜厚34μmのフィルム(5)を得た。
【0183】
[実施例6]
4mgの色素Cを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1.6gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(5)を得た。CA溶液(5)をガラス板上でキャストして、膜厚53μmのフィルム(6)を得た。
【0184】
[実施例7]
色素Aを30gの低密度ポリエチレン(ノバテックLJ902、日本ポリエチレン株式会社製)をラボプラストミル(4C150、株式会社東洋精機製作所製)を用いて180℃で5分間溶融混練した後、溶融混練物1gを圧縮成型機(条件:温度180℃、加圧圧力30MPa、加圧時間2分)を用いて、膜厚100μmのフィルム(7)を得た。フィルム(7)はポリエチレン1gあたり0.3mgの色素Aを含有していた。
【0185】
[実施例8]
実施例2におけるフィルム(2)と同様にして得られたフィルムを、一か月間蛍光灯の下(610ルックス)で放置することにより、フィルム(8)を得た。
【0186】
[実施例9]抗菌フィルム(2)の水洗
実施例2におけるフィルム(2)と同様にして得られたフィルムを、二時間純水に浸漬、乾燥することにより、フィルム(9)を得た。
【0187】
[実施例10]
厚さ1mm、100mm×100mmの正方形のアクリル板(ポリメチルメタクリレート板)上にCA溶液(2)をキャストして厚さ1056μmのフィルムとアクリル板が一体化された透明なフィルム(10)を得た。
【0188】
[比較例1]
4mgのローズベンガルを10mlのアセトン溶液に溶解し、このものに1gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解して比較CA溶液(1)を得た。比較CA溶液(1)をガラス板上でキャストして、膜厚37μmのフィルム(c1)を得た。
【0189】
[比較例2]
比較例1におけるフィルム(c1)と同様にして得られたフィルムを、二時間純水に浸漬、乾燥することにより、フィルム(c2)を得た。
【0190】
<一重項酸素生成の評価>
(DPBF溶液の作成、DPBFフィルムの作成)
遮光下、400mg/Lの濃度でDPBF(ジフェニルイソベンゾフラン)を溶解したTHF溶液に、100g/Lの濃度となるように酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(6)を作成した。CA溶液(6)をガラス板上でキャストして、膜厚37μmのDPBFフィルム(r1)を得た。
【0191】
(評価用試料:複合フィルム試料の作成)
遮光下において、各実施例、比較例でそれぞれ得られた、フィルム(1)~(9)、(c1)、(c2)のそれぞれに、CA溶液(6)をキャストし乾燥して、フィルム(1)~(9)、フィルム(c1)、(c2)のそれぞれにDPBFの薄膜(膜厚36μm±5μm)が重ね合わされた複合フィルム(L1)~(L9)および比較複合フィルム(cL1)、(cL2)を得た。実施例10で得られたフィルム(10)に対しても、上記と同様にして、そのキャスト面にDPBFの薄膜(膜厚36μm±5μm)が重ね合わされた複合フィルム(L10)を得た。尚、全ての複合フィルムは一重項酸素測定まで遮光下に保存した。
【0192】
(評価方法および評価結果)
上記により作成した複合フィルムおよびDPBFフィルムに対し、2000ルックスの可視光(光源:)を所定時間(5分間、10分間)照射し、照射前後のフィルムのVis-UVスペクトルを比較した。照射前後のDPBFに対応する416nmの相対吸収強度をIt/I0(It :t分後の吸収強度、I0:初期吸収強度)で表し、結果を表1に示した。
【0193】
(評価結果)
ブランクのDPBFフィルムの相対吸収強度の低下に比べ、各実施例で製造した抗菌フィルムを貼り合わせた複合フィルムにおいては、大幅な相対吸収強度の低下が確認されるとともに、抗菌フィルムにおける色素濃度が高い程、相対吸収強度の低下が大きかったことから、フタロシアニン色素により一重項酸素の生成が起こっていることが確認できた。
【0194】
【0195】
<可視光非退色性の評価>
実施例1,2,5,6で製造したフィルム(1)、(2)、(5)、(6)及び比較例1で製造したフィルム(c1)を、それぞれ室内(610ルックスの可視光下)に一か月放置(フィルム(c1)のみ一週間)し、放置する前のフィルムの吸光度(初期吸光度)及び放置後のフィルムの吸光度をUV-Visスペクトル装置で測定した。吸光度は色素A、B、C、およびローズベンガルの吸収に対応する664nm、714nm、747nm、561nmの波長での吸光度を測定した。一か月後の吸光強度を初期吸光強度で除した値の%を非退色度とし、表2に示した。
【0196】
【0197】
比較例1のフィルム(c1)はわずか4日で大きく退色したのに対し、実施例で得られたフィルムはいずれも、一か月後でも殆ど退色が見られなかった。
【0198】
<耐水性の評価>
比較例1で得られたフィルム(c1)および実施例2で得られたフィルム(2)をそれぞれ40mm×20mmの大きさにカットしたものを試料とし、100mlのビーカー中の純水50mlに浸漬し攪拌を二時間行い、その後、試料(フィルム)を取り出して乾燥した後、その吸光度を測定することで、フィルムの退色度を比較した。
水に二時間、浸漬しただけでフィルム(c1)は大きく退色(元の20%まで退色)し、水溶性色素であるローズベンガルは水溶液中に溶出していた。一方、フィルム(2)は吸光度に変化が無く、耐水性にも優れることが判明した。
【0199】
また水洗後のフィルム(c1)およびフィルム(2)の一重項酸素の生成速度はそれぞれ0.004秒―1、0.0065秒―1であり、本発明の抗菌フィルム(2)の一重項酸素の生成速度が水洗前後で変わらなかったのに対し、比較抗菌フィルム(1)のそれは大幅に低下していた。なお、水洗前のフィルム(c1)およびフィルム(2)の一重項酸素の生成速度はそれぞれ0.015秒―1、0.0065秒―1であった。
【0200】
<抗ウイルス活性の評価>
抗ウイルス活性は、光触媒抗ウイルス効果の標準的な評価手順(日本工業規格、JIS R 1756:2020)に従ってプラークアッセイによって試験した。アッセイでは、バクテリオファージQβ(NBRC 20012)を含む試験溶液を使用して大腸菌(NBRC 106373)に感染させ、バクテリオファージQβ濃度をpfu/サンプルの数から決定した。
実施例2で得られたフィルム(2)は白色蛍光灯照射により4時間後の感染価(pfu/サンプル)は4.7×103であり、色素を含まないフィルム(実施例2において4mgの色素Aを加えずに作成した酢酸セルロースのみで作成したフィルム)の感染価2.7×106よりも3桁少なくなっており、抗ウイルス活性が確認された。
【0201】
[実施例11]
実施例2で得られたフィルム(2)に、DPBF溶液をキャストしたフィルム(11)をスマートフォン(iPhone(登録商標))の上に貼り、スマートフォンを10分間、20分間連続使用後のフィルムの吸光度変化率の対数を、実施例2で作成したフィルムをキャストしなかったDPBFフィルム(ブランク)と比較した。その結果を
図1に示す。
【0202】
図1に示したように、フィルム(11)はDPBFに特有のλmax=416nmの吸光度低下がブランクに比べて3倍速かったことから、実施例2で作成したフィルム(2)がキャストされたことによりスマートフォンからの可視光照射により一重項酸素が生成したと考えられる。従って、本発明の光活性抗菌・抗ウイルス剤用組成物からなるフィルム(光活性抗菌・抗ウイルス剤用膜)をスマートフォンの画面に貼り合わせることで、スマートフォンの操作性に影響することなくその表面に抗菌性または抗ウイルス性を付与できることが明らかとなった。
【0203】
[実施例12]
20mgの色素Aを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(7)を得た。厚さ1mm、50mm×50mmの正方形のアクリル板(ポリメチルメタクリレート版)上にCA溶液(7)をキャストしてフィルムとアクリル板が一体化された厚さ1020μmの透明なアクリル板(1)を得た。
【0204】
[実施例13]
4mgの色素Aを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1gの酢酸セルロース(CA:分子量5万、アセチル含量39.53重量%)を溶解してCA溶液(8)を得た。厚さ1mm、50mm×50mmの正方形のアクリル板(ポリメチルメタクリレート版)上にCA溶液(8)をキャストしてフィルムとアクリル板が一体化された厚さ1020μmの透明なアクリル板(2)を得た。
【0205】
[実施例14]
使用済み煙草フィルター(CF)を濃度0.05重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で超音波照射しながら30分間超音波洗浄した。外部の紙を除去した後、更にCFは脱イオン水中で2回30分間超音波洗浄し、CFを取り出した。続いて、CFに含まれる潜在的な有機化合物を除去するために、エタノール中で30分間2回フィルターを超音波洗浄した。洗浄したCFを50°Cで乾燥し、フィルム原料としての回収CAとした。4mgの色素Aを16mlのテトラハイドロフラン(THF)溶液に溶解し、このものに1gの回収CAを溶解してCA溶液(9)を得た。厚さ1mm、50mm×50mmの正方形のアクリル板(ポリメチルメタクリレート版)上にCA溶液(9)をキャストしてフィルムとアクリル板が一体化された厚さ1020μmの透明なアクリル板(3)を得た。
【0206】
[実施例15]
実施例12、13、14で得られた透明なアクリル板(1)、(2)、(3)夫々を5枚用い、フィルムの塗布のない厚さ1mm、50mm×50mmの正方形のアクリル板をブランクとして、ヒトコロナウィルス(OC43)への不活性化効果をJIS―R-01756およびISO―21702に基づくスクリーニング試験によって評価した。可視光照射4時間後のウイルスの不活性化効果はブランクには効果が見られなかったのに対し、アクリル板(1)、(2)は夫々90%以上、アクリル板(3)は70%以上の効果が確認された。アクリル板(1)に関しては、24時間での明所での抗ウイルス活性値VF-Lは99.94%であった。