(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176416
(43)【公開日】2022-11-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物、無機充填剤群、直流電力ケーブル、および直流電力ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20221121BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20221121BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221121BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221121BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20221121BHJP
H01B 9/00 20060101ALI20221121BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221121BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20221121BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221121BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K9/06
C08K3/22
C08K3/04
C08L23/06
H01B9/00 C
H01B13/00 541
C08L23/16
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019207918
(22)【出願日】2019-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】細水 康平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】関口 洋逸
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB121
4J002BB151
4J002BP021
4J002DA036
4J002DA037
4J002DE076
4J002DE077
4J002DE096
4J002DE097
4J002DE106
4J002DE107
4J002DE136
4J002DE137
4J002DE146
4J002DE147
4J002DJ016
4J002DJ017
4J002FB117
4J002FB146
4J002FB147
4J002FD016
4J002FD017
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】絶縁層の絶縁性を向上させる。
【解決手段】ポリオレフィンを含むベース樹脂と、アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
樹脂組成物。
【請求項2】
絶縁層を構成する
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤(A)の前記表面は、
前記アミノシリル基と、
疎水基を含む疎水性シリル基と、
を有する
請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)は、酸化マグネシウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボンブラック、および、これらのうち2種以上を混合した混合物のうち少なくともいずれかを含む
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量をNとしたときに、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有する樹脂組成物の体積抵抗率は、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(A)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高く、かつ、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(B)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高い
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレンを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、3.7×1015Ω・cm以上である
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ベース樹脂は、ポリエチレン若しくはポリプロピレンにエチレンプロピレンゴム若しくはエチレンプロピレンジエンゴムを分散あるいは共重合した熱可塑性エラストマを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、2.0×1015Ω・cm以上である
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ポリオレフィンを含むベース樹脂中に添加される無機充填剤群であって、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
無機充填剤群。
【請求項10】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える樹脂組成物により構成される
直流電力ケーブル。
【請求項11】
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程は、
アミノ基を含むアミノシランカップリング剤により前記無機充填剤(A)を表面処理する工程と、
疎水基を含む疎水性シランカップリング剤により前記無機充填剤(B)を表面処理する工程と、
を有し、
前記無機充填剤(A)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、前記アミノシランカップリング剤に由来する前記アミノ基を含むアミノシリル基を結合させ、
前記無機充填剤(B)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、前記疎水性シランカップリング剤に由来する前記疎水基を含む疎水性シリル基を結合させる
直流電力ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、無機充填剤群、直流電力ケーブル、および直流電力ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、直流送電用途において、固体絶縁直流電力ケーブル(以下、「直流電力ケーブル」と略す)が開発されている。直流電力ケーブルを課電した際には、絶縁層内に空間電荷が生成され、漏れ電流が生じる可能性がある。そこで、課電中における漏れ電流を抑制するため、絶縁層を構成する樹脂組成物に無機充填剤が添加されることがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、絶縁層の絶縁性を向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
樹脂組成物が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
ポリオレフィンを含むベース樹脂中に添加される無機充填剤群であって、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
無機充填剤群が提供される。
【0007】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える樹脂組成物により構成される
直流電力ケーブルが提供される。
【0008】
本開示の更に他の態様によれば、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程は、
アミノ基を含むアミノシランカップリング剤により前記無機充填剤(A)を表面処理する工程と、
疎水基を含む疎水性シランカップリング剤により前記無機充填剤(B)を表面処理する工程と、
を有し、
前記無機充填剤(A)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、前記アミノシランカップリング剤に由来する前記アミノ基を含むアミノシリル基を結合させ、
前記無機充填剤(B)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、前記疎水性シランカップリング剤に由来する前記疎水基を含む疎水性シリル基を結合させる
直流電力ケーブルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、絶縁層の絶縁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る直流電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【
図2】実験1-1における無機充填剤の合計の含有量に対する体積抵抗率を示す図である。
【
図3】実験1-2における無機充填剤の合計の含有量に対する体積抵抗率を示す図である。
【
図4】実験4-1における無機充填剤の合計の含有量に対する体積抵抗率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0012】
上述した直流電力ケーブルでは、絶縁層中に添加される無機充填剤は、シランカップリング剤により表面処理されることがある。これにより、ベース樹脂に対する無機充填剤の相溶性を向上させることができる。
【0013】
本発明者等は、無機充填剤の表面処理に用いられるシランカップリング剤における置換基を変化させて、絶縁層の絶縁性を評価した。その結果、絶縁層の絶縁性が、無機充填剤の表面処理に用いられるシランカップリング剤の置換基に依存することを見出した。さらに、異なるシランカップリング剤により表面処理された2種類の無機充填剤を用いることにより、絶縁層の絶縁性を向上させることができることを見出した。
【0014】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0015】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性を安定的に向上させることが可能となる。
【0017】
[2]上記[1]に記載の樹脂組成物において、
絶縁層を構成する。
この構成によれば、絶縁層を上記樹脂組成物により構成した際に、絶縁層への電荷の注入を抑制することができる。
【0018】
[3]上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物において、
前記無機充填剤(A)の前記表面は、
前記アミノシリル基と、
疎水基を含む疎水性シリル基と、
を有する。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性を顕著に向上させることができる。
【0019】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つに記載の樹脂組成物において、
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。
この構成によれば、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を0.1質量部以上とすることで、無機充填剤に対して空間電荷を充分にトラップさせることができる。一方で、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を5質量部以下とすることで、樹脂組成物による成形性を向上させつつ、絶縁層130中の無機充填剤の分散性を向上させることができる。
【0020】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つに記載の樹脂組成物において、
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)は、酸化マグネシウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボンブラック、および、これらのうち2種以上を混合した混合物のうち少なくともいずれかを含む。
この構成によれば、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)が上記材料を含むことで、絶縁層の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0021】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つに記載の樹脂組成物において、
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量をNとしたときに、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有する樹脂組成物の体積抵抗率は、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(A)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高く、かつ、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(B)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高い。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性が向上した直流電力ケーブルを得ることができる。
【0022】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つに記載の樹脂組成物において、
前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレンを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、3.7×1015Ω・cm以上である。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性が向上した直流電力ケーブルを得ることができる。
【0023】
[8]上記[1]から[6]のいずれか1つに記載の樹脂組成物において、
前記ベース樹脂は、ポリエチレン若しくはポリプロピレンにエチレンプロピレンゴム若しくはエチレンプロピレンジエンゴムを分散あるいは共重合した熱可塑性エラストマを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、2.0×1015Ω・cm以上である。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性が向上した直流電力ケーブルを得ることができる。
【0024】
[9]本開示の他の態様に係る無機充填剤群は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂中に添加される無機充填剤群であって、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性を安定的に向上させることが可能となる。
【0025】
[10]本開示の更に他の態様に係る直流電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える樹脂組成物により構成される。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性を安定的に向上させることが可能となる。
【0026】
[11]本開示の更に他の態様に係る直流電力ケーブルの製造方法は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程は、
アミノ基を含むアミノシランカップリング剤により前記無機充填剤(A)を表面処理する工程と、
疎水基を含む疎水性シランカップリング剤により前記無機充填剤(B)を表面処理する工程と、
を有し、
前記無機充填剤(A)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、前記アミノシランカップリング剤に由来する前記アミノ基を含むアミノシリル基を結合させ、
前記無機充填剤(B)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、前記疎水性シランカップリング剤に由来する前記疎水基を含む疎水性シリル基を結合させる。
この構成によれば、絶縁層の絶縁性を安定的に向上させることが可能となる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0028】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、後述する直流電力ケーブル10の絶縁層130を構成する材料であり、例えば、ベース樹脂と、無機充填剤群と、その他の添加剤と、を含んでいる。
【0029】
(ベース樹脂)
ベース樹脂(ベースポリマ)とは、樹脂組成物の主成分を構成する樹脂成分のことをいう。本実施形態のベース樹脂は、例えば、ポリオレフィンを含んでいる。ベース樹脂を構成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリエチレン若しくはポリプロピレンにエチレンプロピレンゴム(EPR)若しくはエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を分散あるいは共重合した熱可塑性エラストマ(TPO:Thermoplastic Olefinic Elastomer)などが挙げられる。なお、これらのうち2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ベース樹脂を構成するポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられる。また、これらのポリエチレンは、例えば、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。ベース樹脂としてポリエチレンを用い、後述の無機充填剤群を添加することで、柔軟であり、かつ、体積抵抗率が比較的高い絶縁層130を得ることができる。
【0031】
一方で、ベース樹脂としてTPOを用い、後述の無機充填剤群を添加することで、ベース樹脂としてポリエチレンを用い、後述の無機充填剤群を添加することで、柔軟であり、耐熱性に優れ、かつ、体積抵抗率が高い絶縁層130を得ることができる。
【0032】
(無機充填剤群)
無機充填剤群は、絶縁層130中に添加される複数種の無機粉末を含む群である。なお、「無機充填剤群」とは、複数種の無機充填剤が凝集されていることを意味するものではない。
【0033】
無機充填剤群は、例えば、導体110から絶縁層130への電荷の注入を抑制するよう作用する。これにより、絶縁層130の絶縁性を向上させることができる。
【0034】
無機充填剤群を構成する無機充填剤(後述の(A)および(B))は、例えば、酸化マグネシウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボンブラック、および、これらのうち2種以上を混合した混合物のうち少なくともいずれかを含んでいる。
【0035】
無機充填剤としての酸化マグネシウムを形成する方法としては、例えば、Mg蒸気と酸素とを接触させる気相法、または海水原料から形成する海水法が挙げられる。本実施形態での無機充填剤を形成する方法は、気相法または海水法のいずれの方法であってもよい。
【0036】
無機充填剤としての二酸化シリコンとしては、例えば、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ、爆燃法シリカのうち少なくともいずれかが挙げられる。これらのなかでも、二酸化シリコンとしてはフュームドシリカが好ましい。
【0037】
無機充填剤のうち少なくとも一部は、シランカップリング剤により表面処理されている。これにより、上述のように、ベース樹脂に対する無機充填剤の相溶性を向上させることができ、無機充填剤とベース樹脂との間の界面の密着性を向上させることができる。
【0038】
ここで、本実施形態の無機充填剤群は、例えば、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を含んでいる。無機充填剤(A)および無機充填剤(B)は、例えば、異なるシランカップリング剤により表面処理されている。無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を混合した無機充填剤群を用いることで、ベース樹脂と無機充填剤群とを容易に混合しつつ、無機充填剤群のそれぞれの分散性を向上させることができる。
【0039】
[無機充填剤(A)]
無機充填剤(A)は、例えば、アミノ基を含むアミノシランカップリング剤により表面処理されている。
【0040】
アミノシランカップリング剤は、例えば、以下の式(1)により表される。
R1
nSiX4-n ・・・(1)
(R1は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミノ基の酸中和基、4級アンモニウム塩基のうち少なくともいずれか1つを含む1価の炭化水素基を表し、Xは1価の加水分解性基を表し、nは1~3の整数を表す。なお、nが2以上の場合、複数のR1は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0041】
なお、Xとしての1価の加水分解性基としては、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基、ハロゲン基が挙げられる。
【0042】
具体的には、アミノシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ブチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N、N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N、N-ジエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N、N-ジブチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピル-N、N、N-トリ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、N-トリメトキシシリルプロピル-N、N、N-トリ-n-ブチルアンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライドなどのうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0043】
無機充填剤の表面処理工程では、シランカップリング剤の加水分解性基が加水分解し、シラノール基が生成される。シラノール基は、無機充填剤の表面にある水酸基と水素結合を形成し、さらに脱水縮合反応を生じさせる。その結果、無機充填剤の表面には、強固に共有結合した所定のシリル基が形成される。
【0044】
本実施形態では、無機充填剤(A)が上述のアミノシランカップリング剤により表面処理されることで、無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部は、例えば、アミノシランカップリング剤に由来する(アミノシランカップリング剤により誘導される)アミノ基を含むアミノシリル基を有している。言い換えれば、無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、アミノシリル基が結合している。
【0045】
本実施形態では、表面の少なくとも一部にアミノシリル基を有する無機充填剤(A)を添加することで、絶縁層130の絶縁性を向上させることができる。
【0046】
表面の少なくとも一部にアミノシリル基を有する無機充填剤(A)を添加することで、絶縁層130の絶縁性が向上するメカニズムは、詳細には明らかではないが、例えば、以下のメカニズムが考えられる。無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部がアミノシリル基を有することで、無機充填剤(A)同士が隣接した際には、無機充填剤(A)の表面におけるアミノ基同士を静電反発させることができ、樹脂組成物中の無機充填剤(A)の分散性を向上させることができる。その結果、絶縁層130の絶縁性を向上させることができると考えられる。
【0047】
アミノシランカップリング剤に由来するアミノ基を含むアミノシリル基は、例えば、以下の式(2)により表される。
【0048】
【化1】
(R
1は、上述のように、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミノ基の酸中和基、4級アンモニウム塩基のうち少なくともいずれか1つを含む1価の炭化水素基を表し、nは1~3の整数を表す。なお、nが2以上の場合、複数のR
1は、同一であっても異なっていてもよい。結合手のsおよびtは0又は1を表し、n、s及びtの合計は3である。)
【0049】
式(2)により表されるアミノシリル基において、R1を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手は、酸素原子を介して無機充填剤(A)と結合している。R1を有する結合手以外の全ての結合手が無機充填剤(A)と結合していてもよいし、R1を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手が無機充填剤(A)と結合していなくてもよい。R1を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手が無機充填剤(A)と結合していない場合には、無機充填剤(A)と結合していない結合手が、水酸基もしくは加水分解性基を有していてもよい。
【0050】
本実施形態では、アミノ基を含む炭化水素基R1の炭素数は、例えば、3以上12以下であることが好ましい。R1の炭素数を3以上とすることで、アミノシリル基を嵩高くすることができ、無機充填剤(A)の表面に立体障害を生じさせることができる。これにより、アミノ基同士の静電反発の効果を効率よく生じさせることができる。一方で、R1の炭素数が12超であると、アルキル鎖長が非常に長くなり、メチレン鎖の運動自由度が増加する。このため、立体障害の影響が過剰に生じてしまう可能性がある。その結果、アミノシランカップリング剤等による修飾量が低下する可能性がある。これに対し、R1の炭素数を12以下とすることで、アルキル鎖長が過剰に長くなることを抑制し、メチレン鎖の運動自由度の過剰な増加を抑制することができる。これにより、立体障害の過剰な影響を抑制することができる。その結果、アミノシランカップリング剤等による修飾量の低下を抑制することができる。
【0051】
[無機充填剤(B)]
無機充填剤(B)は、例えば、疎水基を有する疎水性シランカップリング剤によっても表面処理されている。ここでいう「疎水性シランカップリング剤」とは、無機充填剤に疎水性を付与するシランカップリング剤のことを意味する。
【0052】
疎水性シランカップリング剤としては、例えば、疎水基を有する、シラザン、アルコキシシランまたはハロゲン化シランのうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0053】
疎水基を有するシラザン(ジシラザン)は、例えば、以下の式(3)により表される。
R2
3Si-NH-SiR2
3 ・・・(3)
(R2は、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数2~20のアルケニル基、又はハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基のうち少なくともいずれかを表す。なお、「ハロゲンにより置換されていてもよい」とは、上記炭化水素基の水素原子の一部がハロゲンにより置換された置換基であってもよいことを意味する。また、式(3)では、R2は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、またはフェニル基であることが好ましい。複数のR2は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0054】
具体的には、疎水基を有するシラザンとしては、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザンなどのうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0055】
疎水基を有するアルコキシシランまたはハロゲン化シランは、例えば、以下の式(4)により表される。
【0056】
R2
mSiY4-m ・・・(4)
(R2は、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数2~20のアルケニル基、又はハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基のうち少なくともいずれかを表す。Yは1価の加水分解性基を表し、mは1~3の整数を表す。なお、mが2以上の場合、複数のR2は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0057】
なお、Yとしての1価の加水分解性基は、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基、またはハロゲン基である。
【0058】
具体的には、疎水基を有するアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、iso-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン(トリメトキシn-オクチルシラン)、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどのうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0059】
また、疎水基を有するハロゲン化シランとしては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0060】
なお、疎水性シランカップリング剤は、疎水基を有していれば、上述したシランカップリング剤に限定されず、上述以外のシランカップリング剤であってもよい。
【0061】
本実施形態では、無機充填剤(B)が上述の疎水性シランカップリング剤により表面処理されることで、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部は、例えば、疎水性シランカップリング剤に由来する(疎水性シランカップリング剤で誘導される)疎水基を含む疎水性シリル基を有している。言い換えれば、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、疎水性シリル基が結合している。
【0062】
本実施形態では、表面の少なくとも一部にアミノシリル基を有する無機充填剤(A)だけでなく、表面の少なくとも一部に疎水性シリル基を有する無機充填剤(B)も添加することで、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0063】
無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、絶縁層130の絶縁性が安定的に向上するメカニズムは、詳細には明らかではない。しかしながら、(i)製造時のアミノ基の水素結合に起因した凝集の抑制効果、および(ii)課電中における正電荷および負電荷の両方の捕獲効果のうち少なくともいずれかを得ることができるためと考えられる。なお、当該メカニズムについては、詳細を後述する。
【0064】
疎水性シランカップリング剤に由来する疎水基を含む疎水性シリル基は、例えば、以下の式(5)により表される。
【0065】
【化2】
(R
2は、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~12のアルコキシ基、ハロゲンにより置換されていてもよい炭素数2~12のアルケニル基、又はハロゲンにより置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基のうち少なくともいずれかを表す。mは1~3の整数を表す。なお、mが2以上の場合、複数のR
2は、同一であっても異なっていてもよい。結合手のuおよびvは0又は1を表し、m、u及びvの合計は3である。)
【0066】
なお、疎水基R2の炭素数は、例えば、上述のように12以下であることが好ましい。R2が長鎖アルキル基のように炭素数が12超であると、樹脂組成物の粘度が上昇し、流動性が低下する可能性がある。また、炭素数が12超であると、立体障害に起因して無機充填剤(B)の表面に結合する疎水性シリル基の数が減少する可能性がある。これに対し、炭素数を12以下とすることで、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制し、流動性の低下を抑制することができる。また、炭素数を12以下とすることで、立体障害に起因した無機充填剤(B)の表面に結合する疎水性シリル基の数の減少を抑制することができる。
【0067】
式(5)により表される疎水性シリル基において、R2を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手は、酸素原子を介して無機充填剤(B)と結合している。R2を有する結合手以外の全ての結合手が無機充填剤(B)と結合していてもよいし、R2を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手が無機充填剤(B)と結合していなくてもよい。R2を有する結合手以外の少なくとも1つの結合手が無機充填剤(B)と結合していない場合には、無機充填剤(B)と結合していない結合手が、水酸基もしくは加水分解性基を有していてもよい。
【0068】
無機充填剤(B)に結合する疎水性シリル基は、例えば、無機充填剤(B)の材質、ベース樹脂の種類、無機充填剤(A)のアミノシリル基の種類などに応じて、適宜選択することができる。
【0069】
例えば、疎水性シランカップリング剤としてHMDSにより表面処理した無機充填剤(B)では、1つのSiに対して3つのR2を結合させることができる。これにより、無機充填剤(B)の疎水性を向上させることができる。
【0070】
一方で、例えば、疎水性シランカップリング剤としてジクロロジメチルシランにより表面処理した無機充填剤(B)では、R2を有する結合手以外の複数の結合手を、無機充填剤(B)と結合させることができる。これにより、無機充填剤(B)に対する疎水性シリル基の結合を強固にすることができる。
【0071】
本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの体積平均粒径(MV:Mean Volume Diameter)は、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以下、好ましくは、700nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0072】
なお、ここでいう「体積平均粒径(MV)」は、粒子の粒子径をdi、粒子の体積Viとしたとき、以下の式により求められる。
MV=Σ(Vidi)/ΣVi
なお、体積平均粒径の測定には、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置が用いられる。
【0073】
無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの体積平均粒径を1μm以下とすることで、絶縁層130中の空間電荷の局所的な蓄積を抑制する効果を安定的に得ることができる。さらに、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの体積平均粒径を700nm以下、好ましくは100nm以下とすることで、絶縁層130中の空間電荷の局所的な蓄積を抑制する効果をより安定的に得ることができる。
【0074】
なお、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの体積平均粒径の下限値についても、特に限定されるものではない。ただし、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれを安定的に形成する観点では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの体積平均粒径は、例えば、1nm以上、好ましくは5nm以上である。
【0075】
また、本実施形態では、樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上5質量部以下である。無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を0.1質量部以上とすることで、無機充填剤に対して空間電荷を充分にトラップさせることができる。一方で、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を5質量部以下とすることで、樹脂組成物による成形性を向上させつつ、絶縁層130中の無機充填剤の分散性を向上させることができる。
【0076】
さらに、本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量が少なくても、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0077】
具体的には、樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、1質量部以下であることが好ましい。上述のように、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を1質量部以下としても、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0078】
無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を1質量部以下とすることで、後述の直流電力ケーブル10の製造工程を安定的に行うことができる。また、絶縁層130の機械特性を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量に対する無機充填剤(B)の含有量の比率(含有量比率B/(A+B)ともいう)は、例えば、0.1以上0.9以下である。含有量比率B/(A+B)を0.1以上とすることで、(i)製造時のアミノ基の水素結合に起因した凝集の抑制効果、および(ii)課電中における正電荷および負電荷の両方の捕獲効果のうち少なくともいずれかの効果を充分に得ることができる。一方で、含有量比率B/(A+B)を0.9以下とすることで、無機充填剤(A)のアミノ基同士の静電反発の効果を充分に得ることができる。
【0080】
(架橋剤)
本実施形態では、樹脂組成物は、絶縁層130を構成する際に架橋されていなくてもよく、架橋されていてもよい。どちらの場合であっても、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる、絶縁層130の絶縁性向上の効果を得ることができる。
【0081】
なお、樹脂組成物が架橋される場合には、樹脂組成物は、例えば、架橋剤として、有機過酸化物を含むことが好ましい。有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド、ジ(t-ブチルパーオキサイド)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、4,4-ビス[(t-ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル、1,1-ビス(1,1-ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、例えば、酸化防止剤と、滑剤と、をさらに含んでいてもよい。
【0083】
酸化防止剤としては、例えば、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ビス[2-メチル-4-{3-n-アルキル(C12あるいはC14)チオプロピオニルオキシ}-5-t-ブチルフェニル]スルフィド、および4,4′-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
滑剤は、無機充填剤の凝集を抑制するとともに、絶縁層130の押出成形時の樹脂組成物の流動性を向上させるよう作用する。本実施形態の滑剤は、公知の材料を用いることができる。
【0085】
なお、樹脂組成物は、例えば、着色剤をさらに含んでいてもよい。
【0086】
(2)直流電力ケーブル
次に、
図1を用い、本実施形態の直流電力ケーブルについて説明する。
図1は、本実施形態に係る直流電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0087】
本実施形態の直流電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁直流電力ケーブル(直流送電用ケーブル)として構成され、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0088】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0089】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0090】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物により構成されている。なお、絶縁層130は、上述のように、架橋されていなくてもよいし、本実施形態の樹脂組成物が押出成形された後に加熱されることにより架橋されていてもよい。
【0091】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0092】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0093】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0094】
(絶縁性)
以上のように構成される直流電力ケーブル10では、表面の少なくとも一部にアミノシリル基を有する無機充填剤(A)と、表面の少なくとも一部に疎水性シリル基を有する無機充填剤(B)と、が絶縁層130中に添加されていることで、例えば、以下のような絶縁性が得られる。
【0095】
本実施形態の無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量をNとしたときに、本実施形態の樹脂組成物により構成される絶縁層130の体積抵抗率は、例えば、ベース樹脂および含有量Nの無機充填剤(A)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高く、かつ、ベース樹脂および含有量Nの無機充填剤(B)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高い。
【0096】
また、本実施形態では、ベース樹脂がLDPEを含む上述の樹脂組成物により絶縁層130を構成し、0.2mmの厚さを有する絶縁層130のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した絶縁層130のシートの体積抵抗率は、例えば、3.7×1015Ω・cm以上、好ましくは5.0×1015Ω・cm以上である。
【0097】
また、本実施形態では、ベース樹脂がPP系TPOを含む上述の樹脂組成物により絶縁層130を構成し、0.2mmの厚さを有する絶縁層130のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した絶縁層130のシートの体積抵抗率は、例えば、2.0×1015Ω・cm以上、好ましくは3.7×1015Ω・cm以上である。
【0098】
なお、絶縁層130の体積抵抗率の上限値は、高ければ高いほどよいため、限定されるものではないが、各条件を最適化したことによる絶縁層130の体積抵抗率の上限値は、例えば、1×1017Ω・cm程度である。
【0099】
(機械特性)
本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量が少なくすることができる。これにより、絶縁層130の機械特性を向上させることができる。
【0100】
具体的には、本実施形態の樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量をベース樹脂100質量部に対して1質量部以下、好ましくは0.6質量部以下とすることで、樹脂組成物の破断時伸び率を例えば500%以上600%以下とすることができる。ここでいう「破断時伸び率」は、JIS C3005に準拠して測定される。なお、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量が1質量部超であると、樹脂組成物の破断時伸び率は500%未満となる。
【0101】
また、具体的には、本実施形態の樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量をベース樹脂100質量部に対して1質量部以下、好ましくは0.6質量部以下とすることで、135℃168時間老化後の絶縁層130の破断時伸び率の残率(変化率)を例えば80%以上とすることができる。ここでいう「破断時伸び率」は、上述と同様にJIS C3005に準拠して測定される。また、「絶縁層130の破断時伸び率の残率(%)」は、老化後の破断時伸び率/老化前の破断時伸び率×100で求められる。
【0102】
(具体的寸法等)
直流電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは1mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは1mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは1mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の直流電力ケーブル10に適用される直流電圧は、例えば20kV以上である。
【0103】
(3)直流電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の直流電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0104】
本実施形態の直流電力ケーブル10の製造工程は、例えば、樹脂組成物準備工程S100と、導体準備工程S200と、ケーブルコア形成工程(押出工程)S300と、遮蔽層形成工程S400と、シース形成工程S500と、を有している。
【0105】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、を有する樹脂組成物を準備する。当該樹脂組成物準備工程S100は、例えば、表面処理工程S120と、混合工程S140と、を有している。
【0106】
(S120:表面処理工程)
本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を別々に表面処理する。当該表面処理工程S120は、例えば、無機充填剤(A)表面処理工程S122と、無機充填剤(B)表面処理工程S124と、を有している。
【0107】
(S122:無機充填剤(A)表面処理工程)
無機充填剤(A)をアミノシランカップリング剤により表面処理する。これにより、無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、アミノシランカップリング剤に由来するアミノ基を含むアミノシリル基を結合させることができる。
【0108】
なお、無機充填剤(A)をアミノシランカップリング剤により表面処理する方法は、乾式法であっても、湿式法であってもよい。乾式法では、例えば、ヘンシェルミキサ等の攪拌装置内において無機充填剤(A)を攪拌しながら、攪拌装置内にシランカップリング剤を含む溶液を滴下するか、或いは、スプレーにより噴霧する。湿式法では、例えば、所定の溶媒に無機充填剤(A)を加えスラリーを形成し、スラリー内にシランカップリング剤を添加する。
【0109】
アミノシランカップリング剤により表面処理を行ったら、処理後の無機充填剤(A)を適宜乾燥させる。
【0110】
(S124:無機充填剤(B)表面処理工程)
無機充填剤(B)を疎水性シランカップリング剤により表面処理する。これにより、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、疎水性シランカップリング剤に由来する疎水基を含む疎水性シリル基を結合させることができる。
【0111】
なお、無機充填剤(B)を疎水性シランカップリング剤により表面処理する方法についても、乾式法であっても、湿式法であってもよい。
【0112】
疎水性シランカップリング剤により表面処理を行ったら、処理後の無機充填剤(B)を適宜乾燥させる。
【0113】
なお、表面処理工程S120が完了したら、所定の粉砕処理を行うことで、それぞれの無機充填剤の体積平均粒径を調整してもよい。このとき、それぞれの無機充填剤の体積平均粒径を、例えば、1μm以下、好ましくは、700nm以下、より好ましくは100nm以下とする。
【0114】
(S140:混合工程)
表面処理工程S120が完了したら、ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、その他の添加剤(酸化防止剤、滑剤等)と、をバンバリミキサやニーダなどの混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0115】
このとき、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を混合する方法としては、例えば、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を同時に混合する。なお、これらを異なるタイミングで混合してもよい。この場合、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)を混合する順番は、どちらが先でも構わない。
【0116】
(S200:導体準備工程)
上述の樹脂組成物準備工程S100を行う一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0117】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体と、導電性のカーボンブラックとが予め混合された内部半導電層用樹脂組成物を投入する。
【0118】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。
【0119】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用樹脂組成物を投入する。
【0120】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。
【0121】
なお、絶縁層130を架橋させる場合には、押出後、窒素ガスなどにより加圧された架橋管内において、赤外線ヒータによる輻射により加熱したり、高温の窒素ガスまたはシリコーン油等の熱媒体を通じて熱伝達させたりすることにより、絶縁層130を架橋させる。
【0122】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0123】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0124】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0125】
以上により、固体絶縁直流電力ケーブルとしての直流電力ケーブル10が製造される。
【0126】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0127】
(a)本実施形態では、絶縁層130は、アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、を含む樹脂組成物により構成されている。絶縁層130中に無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0128】
絶縁層130の絶縁性が安定的に向上するメカニズムは、例えば、以下の(i)および(ii)のうち少なくともいずれか、好ましくは両方によるメカニズムが考えられる。
【0129】
(i)製造時のアミノ基の水素結合に起因した凝集の抑制効果
無機充填剤(A)がアミノ基を有していることで、無機充填剤(A)の表面を正に帯電させることができる。これにより、製造時に無機充填剤(A)同士が隣接した際に、無機充填剤(A)の表面におけるアミノ基同士を静電反発させることができる。無機充填剤(A)同士が静電反発することで、樹脂組成物中の無機充填剤(A)の分散性を向上させることができる。
【0130】
しかしながら、このとき、無機充填剤(A)間において、アミノ基を介した水素結合が形成されうる。このため、無機充填剤(A)同士が凝集してしまう可能性がある。
【0131】
そこで、絶縁層130中に無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、無機充填剤(A)間において、アミノ基を介した水素結合が形成されることを抑制することができる。これにより、無機充填剤(A)のアミノ基同士の静電反発を充分に生じさせることができる。無機充填剤(A)同士を充分に静電反発させることで、樹脂組成物中で、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の分散性を向上させることができる。
【0132】
樹脂組成物中の無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の分散性を向上させることで、課電中において、絶縁層130中の空間電荷の局所的な蓄積を抑制し、漏れ電流の発生を抑制することができる。その結果、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることが可能となる。
【0133】
(ii)課電中における負電荷および正電荷の両方の捕獲効果
無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部がアミノ基を含むアミノシリル基を有することで、無機充填剤(A)の表面に正電荷を帯びさせることができる。これにより、課電中に、無機充填剤(A)とベース樹脂との界面に、負電荷を捕獲させることができる。一方で、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部が疎水基を含む疎水性シリル基を有することで、無機充填剤(B)の表面に負電荷を帯びさせることができる。これにより、課電中に、無機充填剤(B)とベース樹脂との界面に、正電荷を捕獲させることができる。
【0134】
このようにして、絶縁層130中に均一に分散した無機充填剤(A)および無機充填剤(B)に、負電荷および正電荷のそれぞれを捕獲させることができる。これにより、電気伝導に関与する負・正の両方の極性を有する電荷キャリアの移動を抑制することができる。その結果、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0135】
(b)無機充填剤(A)と無機充填剤(B)とを樹脂組成物中に添加することで、これらの無機充填剤のうちいずれか一方を単独で用いた場合の樹脂組成物の体積抵抗率よりも、本実施形態の樹脂組成物の体積抵抗率を高くすることができる。具体的には、本実施形態の無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量をNとしたときに、本実施形態の樹脂組成物により構成される絶縁層130の体積抵抗率を、ベース樹脂および含有量Nの無機充填剤(A)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高く、かつ、ベース樹脂および含有量Nの無機充填剤(B)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高くすることができる。
【0136】
(c)本実施形態では、樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を0.1質量部以上とすることで、無機充填剤に対して空間電荷を充分にトラップさせることができる。一方で、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を5質量部以下とすることで、樹脂組成物による成形性を向上させつつ、絶縁層130中の無機充填剤の分散性を向上させることができる。
【0137】
(d)本実施形態では、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することで、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量が少なくても、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0138】
具体的には、樹脂組成物中における無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を、ベース樹脂100質量部に対して、1質量部以下とすることができる。無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を1質量部以下としても、絶縁層130の絶縁性を安定的に向上させることができる。
【0139】
(e)無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を1質量部以下とすることで、直流電力ケーブル10の製造工程を安定的に行うことができる。具体的には、混合工程S140において、樹脂組成物の粘度の過剰な上昇を抑制することができる。これにより、樹脂組成物を安定的に混練することができる。また、ケーブルコア形成工程(押出工程)S300において、絶縁層130を形成する押出機Bのメッシュの目詰まりを抑制することができる。これにより、長尺な絶縁層130を安定的に押し出すことができる。
【0140】
(f)無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の合計の含有量を1質量部以下とすることで、絶縁層130の機械特性を向上させることができる。具体的には、絶縁層130の初期引張強度および長期熱老化特性を向上させることができる。
【0141】
(5)本実施形態の変形例
上述の第1実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
【0142】
(無機充填剤)
本変形例では、無機充填剤(A)は、上述のアミノシランカップリング剤だけでなく、疎水基を有する疎水性シランカップリング剤によっても表面処理されていてもよい。すなわち、無機充填剤(A)の表面は、例えば、上述のアミノシリル基と、疎水基を含む疎水性シリル基と、の両方を有していてもよい。言い換えれば、無機充填剤(A)の1つ当たりの表面のうちの一部にアミノシリル基が結合し、他部に疎水性シリル基が結合していてもよい。
【0143】
無機充填剤(A)を表面処理する疎水性シランカップリング剤としては、例えば、上述の実施形態において無機充填剤(B)を表面処理する疎水性シランカップリング剤として挙げた材料の少なくともいずれかと同様の材料を用いることができる。これにより、無機充填剤(A)の表面が有する疎水性シリル基は、例えば、上述の式(5)により表されるものとなる。
【0144】
無機充填剤(A)の表面が有する疎水性シリル基は、例えば、無機充填剤(B)の表面が有する疎水性シリル基と等しい。これにより、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれを表面処理する疎水性シランカップリング剤を同一のものとし、表面処理条件の最適化を容易に行うことができる。
【0145】
一方で、無機充填剤(A)の表面が有する疎水性シリル基は、例えば、無機充填剤(B)の表面が有する疎水性シリル基と異なっていてもよい。これにより、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれに適した疎水性シリル基を選択することができる。例えば、ジメチルシリル基やトリメチルシリル基といった立体障害の異なるシリル基を無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれに結合させることで、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)のそれぞれの表面における帯電電荷量を調整することができる。
【0146】
本変形例では、無機充填剤(A)の表面における疎水基R2の炭素数は、例えば、上述したアミノシリル基におけるアミノ基を含む炭化水素基R1の炭素数よりも小さいことが好ましい。R2の炭素数をR1の炭素数よりも小さくすることで、アミノシリル基を疎水性シリル基よりも嵩高くすることができる。これにより、アミノ基同士の静電反発の効果を効率よく生じさせることができる。具体的には、疎水基R2は、例えば、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0147】
また、本変形例では、無機充填剤(A)の表面が有する全てのシリル基に対する、アミノシリル基のモル分率(以下、「アミノシリル基モル分率」ともいう)は、例えば、2%以上90%以下、好ましくは5%以上80%以下であることが好ましい。なお、ここでいう「アミノシリル基モル分率」は、無機充填剤(A)の表面が有する全てのシリル基のモル数に対する、アミノシリル基のモル数の割合を%により表したものである。
【0148】
本変形例では、アミノシリル基モル分率を2%以上とすることで、製造上におけるアミノシリル基モル分率に所定のばらつきが生じていたとしても、絶縁層130の絶縁性向上の効果を安定的に得ることができる。さらに、アミノシリル基モル分率を5%以上とすることで、絶縁層130の絶縁性向上の効果を顕著に得ることができる。
【0149】
一方で、本変形例では、アミノシリル基モル分率を90%以下とすることで、粒子間においてアミノ基を介した水素結合が形成されることを抑制し、アミノ基同士の静電反発を充分に生じさせることができる。また、水素結合に起因して粒子界面を介して導電経路が形成されることを安定的に抑制することができる。これにより、絶縁層130の絶縁性向上の効果を充分に得ることができる。さらに、アミノシリル基モル分率を80%以下とすることで、絶縁層130の絶縁性向上の効果を顕著に得ることができる。
【0150】
上述のアミノシリル基モル分率については、例えば、以下の方法により求めることができる。
【0151】
具体的には、まず、アミノシランカップリング剤と疎水性シランカップリング剤とを所定の配合比で用いて表面処理された無機充填剤(A)を用意する。次に、反応温度850℃および還元温度600℃の条件下において熱伝導度検出器(TCD:Thermal Conductivity Detector)を用いたガスクロマトグラフィ法により無機充填剤(A)の表面を元素分析する。これにより、実際に無機充填剤(A)の表面に結合していたシリル基における、炭素に対する窒素の質量比(以下、N/C比)が求められる。
【0152】
一方で、以下の手順により、アミノシリル基モル分率に対するN/C比の検量線を求める。表面処理に使用したアミノシランカップリング剤からアミノシリル基を特定し、アミノシリル基1つ当たりの、炭素の合計原子量C1と、窒素の合計原子量N1と、を求める。また、表面処理に使用した疎水性シランカップリング剤から疎水性シリル基を特定し、疎水性シリル基1つ当たりの、炭素の合計原子量C2を求める。ここで、アミノシリル基モル分率をx(単位%)とし、N/C比をy(単位%)としたとき、N/C比yは、検量線を構成するアミノシリル基モル分率xの関数として、以下の式(6)により表される。
【0153】
y=N1x/{(C1-C2)x+100C2} ・・・(6)
(ただし、0<x≦100である。)
【0154】
なお、式(6)において、アミノシリル基が有する炭素数と、疎水性シリル基が有する炭素数とが等しく、C1=C2であるときには、N/C比yは、アミノシリル基モル分率xの一次関数となり、すなわち、検量線が直線となる。
【0155】
例えば、アミノシリル基がアミノプロピルシリル基(C1=36.03)であり、疎水性シリル基がトリメチルシリル基(C2=36.03)である場合には、検量線が直線となり、アミノシリル基モル分率x=100%のときの、N/C比yの理論値は、約38.9%となる。
【0156】
上述のように検量線を得たら、実測したN/C比yを検量線の式(6)に代入することで、実際に無機充填剤(A)の表面に結合していたシリル基におけるアミノシリル基モル分率xが求められる。
【0157】
本変形例では、上述のガスクロマトグラフィ法により無機充填剤の表面を元素分析することで求められるN/C比は、例えば、(アミノシリル基がアミノプロピルシリル基である場合に)、0.7%以上35%以下、好ましくは1.9%以上31%以下であることが好ましい。これにより、アミノシリル基モル分率を、2%以上90%以下、好ましくは5%以上80%以下とすることができる。
【0158】
(製造方法)
本変形例の無機充填剤(A)表面処理工程S122では、アミノシランカップリング剤および疎水性シランカップリング剤により無機充填剤(A)を表面処理する。
【0159】
このとき、例えば、アミノシランカップリング剤と疎水性シランカップリング剤とを用いて同時に表面処理を行ってもよく、或いは、これらを別々に用いて異なるタイミングにおいて表面処理を行ってもよい。後者の場合、アミノシランカップリング剤の表面処理と疎水性シランカップリング剤の表面処理との順番は、どちらが先でも構わない。
【0160】
このとき、上述のアミノシリル基モル分率が、例えば、2%以上90%以下、好ましくは5%以上80%以下となるように、アミノシランカップリング剤および疎水性シランカップリング剤により無機充填剤を表面処理する。具体的には、アミノシランカップリング剤が有するR1と、疎水性シランカップリング剤が有するR2と、に基づいて、アミノシリル基モル分率が上記範囲内となるように、アミノシランカップリング剤および疎水性シランカップリング剤のそれぞれの配合量を設定する。
【0161】
(効果)
無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけでなく疎水性シリル基も結合させることで、無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけが過剰に結合することを抑制することができる。これにより、無機充填剤(A)間においてアミノ基を介した水素結合が形成されることを抑制し、アミノ基同士の静電反発を充分に生じさせることができる。また、水素結合に起因して無機充填剤(A)の界面を介して導電経路が形成されることを抑制することができる。
【0162】
本変形例では、無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけでなく疎水性シリル基も結合させることによる分散性改善の効果と、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる電荷キャリア捕獲効果との、相乗的な効果を得ることができる。その結果、絶縁層130の絶縁性を顕著に向上させることができる。
【0163】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0164】
上述の実施形態では、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部が疎水性シリル基を有する場合について説明したが、無機充填剤(B)の表面は、例えば、2種類以上の疎水性シリル基を有していてもよい。これにより、疎水性シリル基の種類に応じた複数の効果を得ることができる。例えば、無機充填剤(B)の表面にトリメチルシリル基とビニルシリル基との両方を結合させることで、トリメチルシリル基による分散性改善効果と、ビニルシリル基によるベース樹脂との接着性改善の効果と、の両方を得ることができる。なお、無機充填剤(B)の表面に結合したビニルシリル基のうちのビニル基によって、架橋後に無機充填剤(B)とベース樹脂との接着性を向上させることができる。
【0165】
上述の実施形態では、無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部が疎水性シリル基を有する場合について説明したが、無機充填剤(B)として、例えば、互いに異なる疎水性シリル基を有する2種類以上の無機充填剤を添加していてもよい。これにより、疎水性シリル基の種類に応じた複数の効果を得ることができる。例えば、無機充填剤(B1)の粒径と無機充填剤(B2)の粒径とが異なる場合に、異なるアルキル鎖長を有する2つの疎水性シリル基を無機充填剤(B1)および無機充填剤(B2)のそれぞれに結合させる。これにより、無機充填剤(B1)および無機充填剤(B2)の分散性を等しくすることができる。
【0166】
上述の実施形態では、無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部がアミノシリル基を有する場合について説明したが、無機充填剤(A)の表面は、例えば、2種類以上のアミノシリル基を有していてもよい。これにより、アミノシリル基の種類に応じた複数の効果を得ることができる。例えば、無機充填剤(A)の表面に1級アミンと3級アミンとの両方を結合させることで、1級アミンによる正電荷帯電性を付与する効果と、3級アミンによる分散性改善の効果と、の両方を得ることができる。
【0167】
上述の実施形態では、無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部が疎水性シリル基を有する場合について説明したが、無機充填剤(A)として、例えば、互いに異なるアミノシリル基を有する2種類以上の無機充填剤を添加していてもよい。これにより、アミノシリル基の種類に応じた複数の効果を得ることができる。
【実施例0168】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0169】
<実験1-1、1-2>
まず、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる効果を評価するため、以下の実験1-1および1-2を行った。
【0170】
(1-1)樹脂組成物のシートサンプルの作製
以下の試料のそれぞれの材料をロール混合し、樹脂組成物を形成した。樹脂組成物を形成した後、プレス成型により120℃において10分、樹脂組成物をプレスすることで、0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを作製した。なお、実験1-1および1-2では、架橋剤を添加せず、プレス時の加熱温度を180℃未満としたため、ベース樹脂を非架橋とした。詳細条件は、以下のとおりである。
【0171】
[実験1-1]
(ベース樹脂)
低密度ポリエチレン(LDPE):住友化学製スミカセンC215
(密度d=920kg/m3、MFR=1.4g/10min) 100質量部
(無機充填剤(A):無機充填剤(a1))
粉末材料:気相法酸化マグネシウム(体積平均粒径50nm)
アミノシランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
表面処理方法:乾式法
含有量:0~0.6質量部
(無機充填剤(B):無機充填剤(b1))
シランカップリング剤が異なる点を除いて無機充填剤(a1)と同じ。
疎水性シランカップリング剤:ヘキサメチルジシラザン
含有量:0~0.6質量部
【0172】
[実験1-2]
ベース樹脂が異なる点を除いて、実験1-1と同じ。
(ベース樹脂)
PP系TPO:サーモラン5013
(密度d=880kg/m3、MFR=1g/10min) 100質量部
【0173】
(1-2)評価
上述の各試料のシートを温度90℃の大気雰囲気下で、直径65mmのガード付き平板電極を用いて、75kV/mmの直流電界を絶縁層のシートに印加することで、体積抵抗率を測定した。なお、後述の実験2~5においても、実験1-1および1-2と同様の評価を行った。
【0174】
(1-3)結果
以下の表1、表2、
図2および
図3を用い、実験1-1および1-2の各試料の評価を行った結果を説明する。
図2および
図3は、それぞれ、実験1-1および1-2における無機充填剤の合計の含有量に対する体積抵抗率を示す図である。
【0175】
【0176】
【0177】
表1および
図2に示すように、ベース樹脂をLDPEとした実験1-1では、無機充填剤の合計の含有量が増加するにつれて、体積抵抗率が単調増加していた。無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加した試料(表1中灰色部)の体積抵抗率は、無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(b1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高かった。
【0178】
実験1-1の結果によれば、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加することで、(i)製造時のアミノ基の水素結合に起因した凝集の抑制効果、および(ii)課電中における正電荷および負電荷の両方の捕獲効果のうち少なくともいずれかを得ることができた。その結果、樹脂組成物の絶縁性を安定的に向上させることができたことを確認した。
【0179】
また、表2および
図3に示すように、ベース樹脂をTPOとした実験1-2においても、無機充填剤の合計の含有量が増加するにつれて、体積抵抗率が単調増加していた。実験1-2においても、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加した試料(表2中灰色部)の体積抵抗率は、無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(b1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高かった。
【0180】
実験1-2の結果によれば、ベース樹脂をTPOなどの他のポリオレフィンとした場合であっても、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加することによる、樹脂組成物の絶縁性向上の効果を得ることができたことを確認した。
【0181】
<実験2-1、2-2>
次に、絶縁性についての無機充填剤の材料依存性を評価するため、以下の実験2-1、2-2を行った。
【0182】
(2-1)樹脂組成物のシートサンプルの作製
以下の条件で、実験2-1および2-2の試料を作製した。なお、以下に記載のない条件については、実験1-1および1-2と同様の条件とした。
【0183】
[実験2-1]
(ベース樹脂)
実験1-1と同じLDPE:100質量部
(無機充填剤(A):無機充填剤(a1))
粉末材料:
・酸化マグネシウム:気相法酸化マグネシウム(体積平均粒径50nm)
・二酸化シリコン:フュームドシリカ(体積平均粒径12nm)
・酸化亜鉛:(体積平均粒径40nm)
・酸化アルミニウム:(体積平均粒径13nm)
アミノシランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
表面処理方法:乾式法
含有量:0~0.6質量部
(無機充填剤(B):無機充填剤(b1))
シランカップリング剤が異なる点を除いて無機充填剤(a1)と同じ。
疎水性シランカップリング剤:ヘキサメチルジシラザン
含有量:0~0.6質量部
【0184】
[実験2-2]
ベース樹脂が異なる点を除いて、実験2-1と同じ。
(ベース樹脂)
PP系TPO:サーモラン5013
(密度d=880kg/m3、MFR=1g/10min) 100質量部
【0185】
(2-2)結果
以下の表3および表4を用い、実験2-1および2-2の各試料の評価を行った結果を説明する。
【0186】
【0187】
【0188】
表3に示すように、ベース樹脂をLDPEとした実験2-1では、酸化マグネシウム以外の無機粉末を使用した試料においても、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加した試料(表3中灰色部)の体積抵抗率は、無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(b1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高かった。また、無機粉末の材料を比較したときに、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方の材料を酸化マグネシウム以外とした試料のそれぞれの体積抵抗率は、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方の材料を酸化マグネシウムとした試料の体積抵抗率とほぼ同等であった。
【0189】
また、表4に示すように、ベース樹脂をTPOとした実験2-2においても、ベース樹脂をLDPEとした実験2-1と同様の結果が得られた。
【0190】
実験2-1および2-2の結果によれば、無機充填剤を酸化マグネシウム以外の無機粉末とした場合であっても、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加することによる、樹脂組成物の絶縁性向上の効果を得ることができたことを確認した。
【0191】
<実験3>
次に、ベース樹脂の架橋状態依存性を評価するため、以下の実験3を行った。
【0192】
(3-1)樹脂組成物のシートサンプルの作製
以下の条件で、実験3の試料を作製した。
【0193】
[試料3-1]
実験1-1の試料(非架橋)と同じ条件において、樹脂組成物のシートを作製した。
[試料3-2]
試料3-2は、以下の条件でベース樹脂を架橋させた点を除く他の条件を試料3-1と同等とした。
(添加剤)
架橋剤:ジクミルパーオキサイド 1.3質量部
酸化防止剤:4,4′-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)(TBMTBP) 0.22質量部
(シート作製条件)
樹脂組成物を形成した後、プレス成型により180℃において30分、樹脂組成物をプレスすることで、0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを作製した。180℃において30分加熱したことで、ベース樹脂を架橋させた。その後、架橋剤の残渣を除去するために、80℃において24時間、シートの真空乾燥を行った。
【0194】
[試料3-3、3-4]
試料3-3および3-4は、ベース樹脂をTPOとした点を除く他の条件を、それぞれ、試料3-1および3-2と同等とした。
【0195】
(3-2)結果
以下の表5を用い、実験3の各試料の評価を行った結果を説明する。
【0196】
【0197】
表5に示すように、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加した試料の架橋状態を比較したときに、ベース樹脂を架橋させた試料3-2および3-4の体積抵抗率は、それぞれ、ベース樹脂を架橋させなかった試料3-1および3-3の体積抵抗率とほぼ同等であった。
【0198】
実験3の結果によれば、ベース樹脂の架橋状態にかかわらず、無機充填剤(a1)および無機充填剤(b1)の両方を添加することによる、樹脂組成物の絶縁性向上の効果を得ることができたことを確認した。
【0199】
<実験4>
次に、絶縁性についての無機充填剤(B)を表面処理した疎水性シランカップリング剤依存性を評価するため、以下の実験4を行った。
【0200】
(4-1)樹脂組成物のシートサンプルの作製
以下の条件で、実験4-1および4-2の試料を作製した。なお、以下に記載のない条件については、実験1-1および1-2と同様の条件とした。
[実験4-1]
(ベース樹脂)
実験1-1と同じLDPE:100質量部
(無機充填剤(A):無機充填剤(a1))
粉末材料:気相法酸化マグネシウム(体積平均粒径50nm)
アミノシランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
表面処理方法:乾式法
含有量:0~0.6質量部
(無機充填剤(B):無機充填剤(b2))
シランカップリング剤が異なる点を除いて無機充填剤(a1)と同じ。
疎水性シランカップリング剤:ジクロロジメチルシラン
含有量:0~0.6質量部
【0201】
[実験4-2:試料4-1~4-11]
(ベース樹脂)
実験1-1と同じLDPE:100質量部
(無機充填剤(A):無機充填剤(a1))
粉末材料:気相法酸化マグネシウム(体積平均粒径50nm)
シランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
表面処理方法:乾式法
含有量:0~0.6質量部
(無機充填剤(B))
シランカップリング剤が異なる点を除いて無機充填剤(a1)と同じ。
疎水性シランカップリング剤:
・無機充填剤(b1):HMDS(実験1-1と同じ構成)
・無機充填剤(b3):ビニルトリメトキシシラン
・無機充填剤(b4):n-オクチルトリメトキシシラン
含有量:0.4~0.6質量部
【0202】
(4-2)評価
以下の表6、表7、
図4を用い、実験4-1および4-2の各試料の評価を行った結果を説明する。
図4は、実験4-1における無機充填剤の合計の含有量に対する体積抵抗率を示す図である。
【0203】
【0204】
【0205】
表6および
図4に示すように、実験4-1において、無機充填剤(B)としてジクロロジメチルシラン処理をした無機充填剤(b2)と、無機充填剤(a1)との両方を添加した試料(表6中灰色部)においても、無機充填剤の合計の含有量が増加するにつれて、体積抵抗率が単調増加していた。また、無機充填剤(a1)と無機充填剤(b2)との両方を添加した試料の体積抵抗率も、無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(b2)のみを等しい合計含有量で添加した試料の体積抵抗率よりも高かった。
【0206】
また、表7に示すように、実験4-2において、無機充填剤(B)として他の疎水性シランカップリング剤により表面処理をした無機充填剤(b3)および(b4)のそれぞれと、無機充填剤(a1)との両方を添加した試料4-6および4-9(表7中灰色部)の体積抵抗率も、無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料4-3の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(B)のみを等しい合計含有量で添加した試料4-8および4-11の体積抵抗率よりも高かった。
【0207】
また、無機充填剤(B)を表面処理した疎水性シランカップリング剤を比較したときに、無機充填剤(a1)と無機充填剤(b1)~(b4)のそれぞれとの両方を添加した試料(表6中灰色部の一部の試料、表7中の試料4-1、4-6および4-9)の体積抵抗率は、互いにほぼ同等であった。
【0208】
実験4-1および4-2の結果によれば、無機充填剤(B)としてHMDS以外の疎水性シランカップリング剤により表面処理をした無機充填剤を添加した場合であっても、無機充填剤(a1)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる、樹脂組成物の絶縁性向上の効果を得ることができたことを確認した。
【0209】
<実験5>
次に、無機充填剤(A)に関する変形例を評価するため、以下の実験5を行った。
【0210】
(5-1)樹脂組成物のシートサンプルの作製
以下の条件で、実験5の試料を作製した。
【0211】
[試料5-1~5-6]
(ベース樹脂)
実験1-1と同じLDPE:100質量部
(無機充填剤(A):無機充填剤(a2))
粉末材料:気相法酸化マグネシウム(体積平均粒径50nm)
以下の2種類のシランカップリング剤で表面処理を行った。
アミノシランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
疎水性シランカップリング剤:ヘキサメチルジシラザン
表面処理方法:乾式法(同時処理)
なお、アミノシリル基モル分率が12%となるように、アミノシランカップリング剤および疎水性シランカップリング剤のそれぞれの配合量を設定した。
含有量:0.2~0.6質量部
(無機充填剤(B))
シランカップリング剤が異なる点を除いて無機充填剤(a1)と同じ。
疎水性シランカップリング剤:
・無機充填剤(b1):HMDS(実験1-1と同じ構成)
・無機充填剤(b2):ジクロロジメチルシラン
・無機充填剤(b3):ビニルトリメトキシシラン
・無機充填剤(b4):n-オクチルトリメトキシシラン
含有量:0~0.4質量部
【0212】
(5-2)評価
以下の表8を用い、実験5の各試料の評価を行った結果を説明する。
【0213】
【0214】
表8の無機充填剤(a2)のみを添加した試料5-2および5-3の体積抵抗率は、それぞれ、表7の無機充填剤(a1)のみを添加した試料4-2および4-3の体積抵抗率よりも高かった。この結果によれば、無機充填剤(A)のみを添加した場合であっても、無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけでなく疎水性シリル基も結合させることで、無機充填剤(A)間においてアミノ基を介した水素結合が形成されることを抑制することができた。その結果、樹脂組成物の絶縁性を向上させることができたことを確認した。
【0215】
表8の無機充填剤(a2)と無機充填剤(b1)との両方を添加した試料5-1の体積抵抗率は、表7の無機充填剤(a1)のみを等しい合計含有量で添加した試料4-3の体積抵抗率よりも顕著に高かった。試料5-1の体積抵抗率は、表8の無機充填剤(a2)のみを等しい合計含有量で添加した試料5-3の体積抵抗率よりも高く、かつ、表7の無機充填剤(b1)のみを等しい合計含有量で添加した試料4-5の体積抵抗率よりも顕著に高かった。さらに、試料5-1の体積抵抗率は、表7の無機充填剤(a1)と無機充填剤(b1)との両方を添加した試料4-1の体積抵抗率よりも高かった。
【0216】
これらの結果によれば、アミノシリル基と疎水性シリル基とを有する無機充填剤(a2)と、無機充填剤(b1)との両方を添加することで、無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけでなく疎水性シリル基も結合させることによる分散性改善の効果と、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる電荷キャリア捕獲効果との、相乗的な効果を得ることができた。その結果、樹脂組成物の絶縁性を顕著に向上させることができたことを確認した。
【0217】
また、表8の無機充填剤(B)としてHMDS以外の疎水性シランカップリング剤により表面処理をした無機充填剤(b2)~(b4)のそれぞれと、無機充填剤(a2)との両方を添加した試料5-4~5-6の体積抵抗率も、無機充填剤(a2)のみを等しい合計含有量で添加した試料5-3の体積抵抗率よりも高く、かつ、無機充填剤(B)のみを等しい合計含有量で添加した試料(表6の(b-2)のみを0.6質量部とした試料、表7の試料4-8および4-11)の体積抵抗率よりも高かった。
【0218】
また、表8に示すように、無機充填剤(B)で用いた疎水性シランカップリング剤を比較したときに、無機充填剤(a2)と無機充填剤(b1)~(b4)のそれぞれとの両方を添加した試料5-1、5-4~5-6の体積抵抗率は、互いにほぼ同等であった。
【0219】
これらの結果によれば、無機充填剤(B)としてHMDS以外の疎水性シランカップリング剤により表面処理をした無機充填剤を添加した場合であっても、無機充填剤(A)の表面にアミノシリル基だけでなく疎水性シリル基も結合させることによる分散性改善の効果と、無機充填剤(A)および無機充填剤(B)の両方を添加することによる電荷キャリア捕獲効果との、相乗的な効果を得ることができたことを確認した。
【0220】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0221】
(付記1)
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
樹脂組成物。
【0222】
(付記2)
絶縁層を構成する
付記1に記載の樹脂組成物。
【0223】
(付記3)
前記無機充填剤(A)の前記表面は、
前記アミノシリル基と、
疎水基を含む疎水性シリル基と、
を有する
付記1又は付記2に記載の樹脂組成物。
【0224】
(付記4)
前記無機充填剤(A)の前記表面が有する前記疎水性シリル基は、前記無機充填剤(B)の前記表面が有する前記疎水性シリル基と等しい
付記3に記載の樹脂組成物。
【0225】
(付記5)
前記無機充填剤(A)の前記表面が有する前記疎水性シリル基は、前記無機充填剤(B)の前記表面が有する前記疎水性シリル基と異なる
付記3に記載の樹脂組成物。
【0226】
(付記6)
前記無機充填剤(A)の前記表面が有する全てのシリル基に対する、前記アミノシリル基のモル分率は、2%以上90%以下である
付記3から付記5のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0227】
(付記7)
反応温度850℃および還元温度600℃の条件下において熱伝導度検出器を用いたガスクロマトグラフィ法により前記無機充填剤(A)の表面を元素分析することで求められる、炭素に対する窒素の質量比は、0.7%以上35%以下である
付記3から付記5のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0228】
(付記8)
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である
付記1から付記7のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0229】
(付記9)
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下である
付記8に記載の樹脂組成物。
【0230】
(付記10)
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量に対する前記無機充填剤(B)の含有量の比率は、0.1以上0.9以下である
付記1から付記9のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0231】
(付記11)
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)は、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)は、酸化マグネシウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボンブラック、および、これらのうち2種以上を混合した混合物のうち少なくともいずれかを含む
付記1から付記10のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0232】
(付記12)
前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)の合計の含有量をNとしたときに、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有する樹脂組成物の体積抵抗率は、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(A)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高く、かつ、前記ベース樹脂および含有量Nの前記無機充填剤(B)のみを有する樹脂組成物の体積抵抗率よりも高い
付記1から付記11のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0233】
(付記13)
前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレンを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、3.7×1015Ω・cm以上である
付記1から付記12のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0234】
(付記14)
前記ベース樹脂は、ポリエチレン若しくはポリプロピレンにエチレンプロピレンゴム若しくはエチレンプロピレンジエンゴムを分散あるいは共重合した熱可塑性エラストマを含み、
前記ベース樹脂、前記無機充填剤(A)および前記無機充填剤(B)を有し0.2mmの厚さを有する樹脂組成物のシートを形成した場合に、温度90℃および直流電界75kV/mmの条件下において測定した前記樹脂組成物のシートの体積抵抗率は、2.0×1015Ω・cm以上である
付記1から付記12のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0235】
(付記15)
ポリオレフィンを含むベース樹脂中に添加される無機充填剤群であって、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える
無機充填剤群。
【0236】
(付記16)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、
アミノ基を含むアミノシリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(A)と、
疎水基を含む疎水性シリル基を表面の少なくとも一部に有する無機充填剤(B)と、
を備える樹脂組成物により構成される
直流電力ケーブル。
【0237】
(付記17)
ポリオレフィンを含むベース樹脂と、無機充填剤(A)と、無機充填剤(B)と、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程は、
アミノ基を含むアミノシランカップリング剤により前記無機充填剤(A)を表面処理する工程と、
疎水基を含む疎水性シランカップリング剤により前記無機充填剤(B)を表面処理する工程と、
を有し、
前記無機充填剤(A)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(A)の表面の少なくとも一部に、前記アミノシランカップリング剤に由来する前記アミノ基を含むアミノシリル基を結合させ、
前記無機充填剤(B)を表面処理する工程では、
前記無機充填剤(B)の表面の少なくとも一部に、前記疎水性シランカップリング剤に由来する前記疎水基を含む疎水性シリル基を結合させる
直流電力ケーブルの製造方法。