(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176457
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】シート状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20221122BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20221122BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20221122BHJP
【FI】
A23L5/00 B
A23L29/256
A23L29/20
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082903
(22)【出願日】2021-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】511274248
【氏名又は名称】橋口 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100201536
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】橋口 亮
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B035LC11
4B035LC16
4B035LE06
4B035LG20
4B035LG32
4B035LG51
4B035LG57
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP31
4B035LP41
4B035LP43
4B035LP55
4B041LD01
4B041LE03
4B041LH10
4B041LK27
4B041LK44
4B041LK50
4B041LP01
4B041LP08
4B041LP12
4B041LP16
4B041LP25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】キムチの食味が十分に利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性に優れた、シート状食品の製造方法を提供する。
【解決手段】キムチの粉砕物を得る工程、粉砕物をセルラーゼおよびペクチナーゼで処理して、酵素処理物を得る工程、酵素処理物にゲル化剤を添加し、加熱溶解して、混合原料を得る工程、混合原料を乾燥用シートに展開する工程、展開した混合原料がゲル化するまで冷却する工程、ゲル化した混合原料を乾燥する工程、および乾燥した混合原料を乾燥用シートから剥離する工程を含み、混合原料を得るまでに、100重量部(湿重量)のキムチに対して300~600重量部の水分が添加され、ゲル化剤は、キムチと水分の総量(湿重量)に対して0.45~1.1重量%となるように添加される、シート状食品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キムチの粉砕物を得る工程、
前記粉砕物をセルラーゼおよびペクチナーゼで処理して、酵素処理物を得る工程、
前記酵素処理物にゲル化剤を添加し、加熱溶解して、混合原料を得る工程、
前記混合原料を乾燥用シートに展開する工程、
前記展開された混合原料がゲル化するまで冷却する工程、
前記ゲル化された混合原料を乾燥する工程、および
前記乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程を含み、
前記混合原料を得るまでに、100重量部(湿重量)の前記キムチに対して300~600重量部の水分が添加され、前記ゲル化剤は、前記キムチと前記水分の総量(湿重量)に対して0.45~1.1重量%となるように添加される、
シート状食品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥する工程が、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水分の一部として前記キムチよりも水分率が高い野菜が添加され、前記野菜は粉砕された後にセルラーゼおよびペクチナーゼで処理されている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記野菜がハクサイまたはダイコンである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法により得られるシート状食品を用いることを特徴とする、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キムチを原材料として用いるシート状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
他の食品を巻いたり他の食品に挟んだりすることにより各種の料理に使用することができるフィルム状食品の製造方法が提案されている(特許文献1)。
特許文献1に記載の発明は、従来のフィルム状食品の風味が必ずしも良好なものとはいえなかったことに鑑みてなされたものであり、それ自体が十分に美味であるフィルム状食品を提供することを目的としてなされたものである。
特許文献1の実施例では、ニンジンの風味を有するフィルム状食品の製造方法が、以下の通りに記載されている。蒸煮したニンジンを破砕した後、酵素を添加して反応させた酵素分解物のペーストを得る。このペーストを加熱して酵素を不活性化する。次いで、このペーストに水を加えた後、プルラン、アルギン酸ソーダ、馬鈴薯澱粉及び蔗糖脂肪酸エステルを溶解し、さらに若干の調味料を添加してフィルム原液とする。このフィルム原液を温風で乾燥し、冷却・調湿した後ロール状に巻き取ることにより、フィルム状食品を製造する。
【0003】
キムチを原材料として用いたシート状食品の製造方法が提案されている(特許文献2)。
特許文献2に記載の発明は、キムチの有する栄養と食味を低下させることなく、短時間で製造することができるシート状乾燥キムチの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
特許文献2では、キムチを原材料として用いたシート状食品の製造方法が以下の通りに記載されている。白菜、大根、胡瓜、キャベツ、にんじん、ほうれん草等の主材料を塩に漬けた後、唐辛子、ニンニク、ネギ、ショウガ、塩辛等の薬味及び果物等の副材料を混ぜ合わせて、所定温度と所定期間、密封状態で漬け、発酵熟成させてキムチを製造する。次に、このキムチを粉砕し、攪拌して、主材料と副材料とを均一に分散させる。最後に、分散させた粉砕キムチを漉いてシート状に形成し、乾燥してシート状乾燥キムチにする。また、この製造方法では、粉砕したキムチにデンプン、米、納豆、もずく、昆布、山芋又はCMC等を結着材として添加した後に、それを均一に分散させることが記載されている。
【0004】
また、発酵工程を含む、野菜シートの製造方法が提案されている(特許文献3)。
特許文献3に記載の発明は、発酵野菜を原材料として機能性アミノ酸や、乳酸を産生させ、機能性食材や調味料の機能性成分を含有し、保存性にも優れた野菜シートの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
特許文献3の請求項1には、野菜シートの製造方法が以下の通りに記載されている。野菜に、唐辛子、ショウガ、ウコンから選ばれた少なくとも1種の機能性食材と調味料とを混合した副材料を混合してpH2.5~5.0に発酵させる発酵工程と、発酵後の野菜と副材料を摩砕する摩砕工程と、摩砕した野菜と副材料に結着剤を混練してペーストにするペースト工程と、このペーストを100~130℃に加熱した電熱回転型円形ドラムの表面に順次付着させながら回転させて連続的にシート状に延ばして焼成する焼成工程とからなる乳酸菌及びその産生物質を有することを特徴とする野菜シートの製造方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-167779号公報
【特許文献2】特開2003-141号公報
【特許文献3】特許第5877585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに、野菜を原材料として用いるシート状食品の製造方法が提案されてきた。また、漬物を原材料として用いるシート状食品の製造方法が提案されてきた。
【0007】
特許文献2に記載の製造方法により得られるシート状食品は、キムチを原材料として用いているため、そのキムチに含まれる栄養素を含んでいる。
しかしながら、特許文献2に記載の製造方法では、漉操作によりシート化し、乾燥前に加圧脱水するため、キムチに含まれる成分が流出してしまう問題があった。
【0008】
特許文献3に記載の製造方法により得られる野菜シートは、乳酸発酵して得られるキムチに結着剤を混錬したペーストを、電熱回転型円形ドラムの表面に順次付着させながら回転させて連続的にシート状に延ばして焼成して得られるため、キムチに含まれる成分が流出することなく含まれていると考えられる。
しかしながら、キムチにはセルロースのような不溶性の繊維質が含まれているため、特許文献3に記載のような分散性が高く、固液が分離し難いペーストにするためには、多量の結着剤を添加しなければならない。また、キムチの摩砕物を電熱回転型円形ドラムの表面に順次付着させながら回転させて連続的にシート状に延ばして焼成するためにも、多量の結着剤を添加する必要がある。よって、得られるシート状食品は、キムチ入りの小麦粉製品のようになってしまう問題があった。
【0009】
上記の通り、キムチを原材料として製造される従来のシート状食品は、発酵野菜であるキムチの食味を十分に利活用できていなかった。
キムチは、トウガラシの刺激、野菜の甘味、乳酸発酵による酸味や旨味、塩辛さが複雑に混ざり合った独特の食味を有している。よって、需要者の中には、キムチ味の調味料では物足りず、現実に発酵して得られるキムチの食味を特に好む者もいる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、現実に発酵して得られるキムチの食味が十分に利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性にも優れた、新規なシート状食品を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、キムチを原材料として用い、その食味が利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性に優れたシート状食品を製造することを目的として、鋭意検討を行った。
その結果、キムチを酵素処理し、ゲル化剤を添加した混合原料を乾燥する製造方法において、キムチに対して特定量の水分を添加し、キムチと水分の総量に対して特定の濃度となるようにゲル化剤を添加することにより、本発明の課題を解決できることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下の構成を含む。
【0011】
(構成1)
キムチの粉砕物を得る工程、上記粉砕物をセルラーゼおよびペクチナーゼで処理して、酵素処理物を得る工程、上記酵素処理物にゲル化剤を添加し、加熱溶解して、混合原料を得る工程、上記混合原料を乾燥用シートに展開する工程、上記展開された混合原料がゲル化するまで冷却する工程、上記ゲル化された混合原料を乾燥する工程、および上記乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程を含み、上記混合原料を得るまでに、100重量部(湿重量)の上記キムチに対して300~600重量部の水分が添加され、上記ゲル化剤は、上記キムチと上記水分の総量(湿重量)に対して0.45~1.1重量%となるように添加される、シート状食品の製造方法。
【0012】
(構成2)
上記乾燥する工程が、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下で行われる、構成1に記載の製造方法。
【0013】
(構成3)
上記水分の一部として上記キムチよりも水分率が高い野菜が添加され、上記野菜は粉砕された後にセルラーゼおよびペクチナーゼで処理されている、構成1または2に記載の製造方法。
【0014】
(構成4)
上記野菜がハクサイまたはダイコンである、構成3に記載の製造方法。
【0015】
(構成5)
構成1から4のいずれか1つに記載の製造方法により得られるシート状食品を用いることを特徴とする、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キムチの食味が利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性に優れた、新規なシート状食品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るシート状食品の製造工程を示す図である。
【
図2】乾燥前の混合原料が展開された状態を上から見た平面図である。
【
図3】乾燥後の混合原料が乾燥用シートから剥離される状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、例示的に説明する。当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内において、本発明を変形や改良することが可能である。また、本発明の単純な変形または変更は、いずれも本発明の範囲に属するものである。よって、以下に記載する実施形態は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0019】
以下、本発明に係るシート状食品の製造方法を説明する。
図1に示される通り、本発明のシート状食品の製造方法は、(S1)粉砕工程、(S2)酵素処理工程、(S3)加熱・混合工程、(S4)展開工程、(S5)冷却工程、(S6)乾燥工程、(S7)剥離工程を含む。
【0020】
(原材料)
本発明において、原材料として用いるキムチは、塩漬けにした野菜にトウガラシ、ニンニク、ショウガ、塩辛等を合わせて漬け込み、乳酸発酵して得られる漬物である。キムチに用いられる野菜としては、ハクサイ、ダイコン、トウガン、カブ、キュウリ、キャベツ、ニンジン、ホウレンソウなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明では、任意のキムチが用いられる。当業者に公知の方法によって得られるキムチを用いても良いし、市販のキムチを用いても良い。
現実に発酵して得られるキムチは、野菜を塩漬して製造されるため、食塩による脱水作用によって、キムチの原材料として用いた野菜よりも水分率が低い。日本食品標準成分表2015年版(七訂)によれば、ハクサイを主な原材料とするキムチの可食部100gあたりの水分量は85.8g(すなわち、水分率が85.8%)であり、食塩相当量は2.2gである。一方、生のハクサイの結球葉の可食部100gあたりの水分量は95.2gであり、食塩相当量は0gである。
なお、本発明およびその説明において、単に「キムチ」というときは、特に記載した場合を除き、現実に発酵して製造されたキムチを意味する。
【0021】
(S1)粉砕工程
粉砕工程は、キムチを粉砕して粉砕物を得る工程である。
粉砕方法としては、ブレンダー、ミキサー、ミルなどの機器を用いた湿式粉砕が挙げられる。
【0022】
本発明では、100重量部(湿重量)のキムチに対して300~600重量部、好ましくは350~600重量部、より好ましくは400~600重量部の水分を添加する。キムチに対して添加する水分として、食品の製造に用いることができる水道水、天然水等の任意の水を用いることができる。水分の添加は、後に詳述する混合原料を得るまでの任意の段階で、1回または2回以上に分けて行われ得る。例えば、キムチの粉砕時、酵素処理時、ゲル化剤の溶解時に、必要に応じて複数回に分けて任意の量の水を添加して、展開前の混合原料を得るまでに、上記の特定量の水分が添加される。
水分が300重量部より少ないと、混合原料が乾燥用シートに付着する傾向にあり、後に詳述する剥離工程の実施が困難になる。また、得られるシート状食品(最終製品)の表面に凹凸が形成される傾向にあり、外観が悪くなる。また、最終製品の表面のべたつきが大きくなる傾向にあり、取り扱い性が低下する。
一方、水分が600重量部より多いと、乾燥工程において曲がりや収縮が発生する傾向にあり、最終製品の外観が悪くなる。また、最終製品が硬く割れやすくなり、他の食品を巻くのに十分な柔軟性が得られず、取り扱い性が低下する。
なお、本発明およびその説明において、キムチについて「湿重量」というときは、任意の段階で添加される水分の重量を含まない湿重量を意味する。
【0023】
1つの実施形態において、キムチに対して添加される水分の一部として、野菜が含む水分を用いることができる。水分を添加するために用いられる野菜は、キムチの食味の利活用を妨げない範囲の量で添加され得る。
そのような野菜の水分率はキムチより高く、好ましくは水分率が90%以上、より好ましくは92%以上、さらにより好ましくは94%以上である。用いられる野菜は1種類でも良いし、2種類以上であっても良い。
好ましい実施形態において、水分を添加するために用いられる野菜は、キムチの原材料として用いられる野菜であって、水分率が高い野菜である。キムチの食味を損なうことなく、効率的に水分を添加できるためである。そのような野菜としては、例えば、水分率が約94%以上のハクサイ、ダイコン、トウガン、キュウリ、水分率が約92%以上のカブ、キャベツ、ホウレンソウ等が挙げられる。
1つの好ましい実施態様において、水分を添加するために用いられる野菜の量は、最終製品における野菜に由来する固形分量がキムチに由来する固形分量を超えない範囲に設定することができる。例えば、水分率が85%のキムチの100重量部に対して、水分率が95%のハクサイの使用量が300重量部であれば、野菜に由来する固形分量とキムチに由来する固形分量が同量となり、その範囲を満たす。また、この300重量部のハクサイを添加することは、285重量部の水分を添加することを意味する。
なお、本発明およびその説明において、単に「野菜」というときは、特に記載した場合を除き、発酵されてない野菜を意味する。
【0024】
本発明において、水分を添加するために用いられる野菜は、ブランチングした後にキムチと同様にして粉砕して用いられる。
ブランチングは、野菜に含まれる酵素を加熱により失活させる処理である。酵素を失活させることにより、時間の経過による野菜の風味や栄養成分の変化を防止することができる。また、ブランチング処理によって、酵素処理時において不要な酵素反応が進まないようにすることができる。
ブランチング方法としては、熱水処理や蒸煮処理などが挙げられる。
熱水処理としては、例えば、70~100℃、好ましくは80~100℃の熱水中で、野菜を60~240秒間、好ましくは60~180秒間処理する方法などが挙げられる。
蒸煮処理は、常圧または加圧下において、野菜を水蒸気により蒸煮することにより行われる。野菜の種類に応じて、蒸煮処理と冷却処理とを繰り返す、間歇的蒸煮処理を採用することもできる。
ブランチングされた野菜は、直ちに冷却することが好ましい。冷却方法としては、冷水への浸漬、冷蔵、冷風による冷却などが挙げられる。
【0025】
(S2)酵素処理工程
酵素処理工程は、キムチに酵素(セルラーゼおよびペクチナーゼ)を添加し、キムチに含まれるセルロースおよびペクチンを酵素反応により分解して酵素処理物を得る工程である。よって、酵素処理されたキムチには、キムチの原材料である野菜由来のセルラーゼ分解物およびペクチナーゼ分解物が含まれている。これらの分解物は糖質である。よって、酵素処理されたキムチでは、酵素処理前と比較してBrix値が1.05~1.20倍に上昇している。酵素処理して繊維質であるセルロースとペクチンを糖質に変換することにより、適度な流動性が付与され、後の展開工程において混合原料を乾燥用シートに展開しやすくなる。また、後の乾燥工程における曲がりと収縮を低減できるのと同時に、最終製品の柔軟性を向上できる。さらに、酵素処理によって、最終製品においてキムチの食味を感じやすくさせることができる。
別の実施態様において、野菜または果物に含まれるパルプ質を分解できる他の酵素が追加して添加され得る。他の酵素としては、例えば、リグニン分解酵素などが挙げられる。
なお、本発明およびその説明において、単に「酵素処理」というときは、特に記載した場合を除き、セルラーゼおよびペクチナーゼによる処理を意味する。
【0026】
添加する酵素の量は、反応温度、時間などの酵素処理条件によって適宜設定することができる。キムチの粉砕物の湿重量(任意の段階で添加される水分の重量を考慮しない)に対して、セルラーゼおよびペクチナーゼがそれぞれ0.5~4.0重量%となるように添加して、40~60℃で1.5~3時間かけて酵素処理を行うことができる。
本発明では、前述の通り、100重量部(湿重量)のキムチに対して300~600重量部の水分を添加するが、水分の添加は、本工程で行っても良い。
【0027】
水分を添加するために野菜を用いる場合は、その野菜もキムチと同様にして、粉砕した後に酵素処理を行う。その野菜の酵素処理は、キムチと別々に行われても良いし、キムチと野菜を同時に粉砕した後もしくはそれぞれの粉砕物を混合した後に、同時に酵素処理しても良い。
水分を添加するために野菜を用いる場合にも、その野菜が酵素処理されているため、最終製品の成形を阻害することがない。
【0028】
酵素処理を行った後に、加熱により酵素を失活させて酵素反応を停止する酵素失活処理を行っても良い。酵素を失活させるために行う加熱は、殺菌処理を兼ねることができる。
酵素失活処理は、例えば、90℃で10~20分間の条件で行われる。
【0029】
(S3)加熱・混合工程
加熱・混合工程は、酵素処理物にゲル化剤を添加して混合し、加熱によりゲル化剤を溶解して、混合原料を得る工程である。
本発明では、前述の通り、100重量部(湿重量)のキムチに対して300~600重量部の水分を添加するが、水分の添加は本工程で行っても良い。必要に応じて、混合原料が得られるまでに、本工程において必要量の水分が添加される。
本発明において、ゲル化剤は、キムチとこれに添加した水分の総湿重量に対して、0.45~1.1重量%となるように添加される。
ゲル化剤が0.45重量%より少ないと、ゲル化が弱く離水し、最終製品が破損しやすくなる。
一方、ゲル化剤が1.1重量%より多いと、ゲル化力の強さから乾燥時間が長くなるとともに最終製品が硬くなる傾向がある。
ゲル化剤の溶解は、撹拌しながら80~100℃まで加熱して行われる。
ゲル化剤は、食品に用いることができ、加熱溶解後の冷却によってゲル化するものであれば特に限定されない。そのようなゲル化剤としては、例えば、寒天、アガー、ジェランガム、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、コラーゲンなどが挙げられる。
ゲル化剤を添加することにより、乾燥前に混合原料全体を固めることができ、より均一な厚みの最終製品に成形することができる。また、乾燥工程における曲がりや収縮を低減できるのと同時に、最終製品の柔軟性を向上させることができる。そして、最終製品に可塑性のある柔らかい食感を付与することができる。
【0030】
(S4)展開工程
展開工程は、上記のようにして得られた混合原料を、所望の厚みと大きさに成形するための型枠を有する乾燥用シートに展開する工程である。
後の冷却工程の前に、混合原料がゲル化しない温度まで粗熱をとってから展開しても良い。例えば、ゲル化剤として寒天を用いた場合、混合原料を水浴中で撹拌して、混合原料の温度を80℃まで下げてから展開することができる。
1つの実施態様において、展開工程は
図2に示されるように、乾燥用シートが有する型枠内に混合原料を展開することにより行われる。型枠の面積に応じて、流し込む混合原料の量を決定して、最終製品の厚みを調整することができる。
好ましい実施態様において、乾燥用シートは、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂製もしくはシリコーン樹脂製、またはフッ素樹脂もしくはシリコーン樹脂でコーティングされている、折り曲げ可能なシートである。これらを用いることにより、後の剥離工程がスムーズに行われる。
分離可能な型枠が設置された乾燥用シートを用いることもできる。例えば、分離可能なシリコーン樹脂製の型枠を有するフッ素樹脂製の乾燥用シートを用いる場合、後の冷却工程において混合原料がゲル化したことを確認した後にあらかじめ型枠を外してから乾燥することにより、乾燥用シートから最終製品を容易に剥離することができる。あるいは、混合原料を乾燥させた後に、先に型枠を外しておくことにより、乾燥用シートから最終製品を容易に剥離することができる。
【0031】
(S5)冷却工程
冷却工程は、展開された混合原料を冷却してゲル化する工程である。ゲル化は、展開された混合原料の表面の光沢が消えたことを指標として目視で確認することができる。ゲル化剤が寒天である場合、混合原料の表面温度が40~50℃程度になるとゲル化を確認できる。
冷却方法としては、放冷、冷風をあてる方法などが挙げられる。本発明によって製造する食品は薄いシート状であるため、常温下での放冷によっても短時間でゲル化が確認される。
【0032】
(S6)乾燥工程
乾燥工程は、表面がゲル化した混合原料を乾燥する工程である。乾燥は、市販の乾燥機を用いて行うことができる。
好ましい実施形態において、乾燥工程は、ゲージ圧で-2kPa~-8kPaの減圧環境下、50~80℃で行われる。シート状食品の製造では、乾燥工程において均一な加熱が行われない結果、経時的に乾燥ムラが大きくなり、曲がりや収縮が発生しやすくなるが、この条件により、上記のようにして調製された混合原料をより均一に乾燥することができる。減圧乾燥は、市販の減圧乾燥機を用いて行うことができる。
例えば、100gのキムチの粉砕物に対して300gの水道水を添加した後、酵素処理を行い、3.2gの寒天を溶解して混合原料を得る。200gの混合原料を20cm四方の枠で仕切られたフッ素樹脂製の乾燥用シートに展開して、ゲージ圧で-4kPaの減圧環境下、60℃で3時間乾燥する。乾燥された混合原料を剥離することにより、ダイヤルシックネスゲージで測定した厚みが約0.30mmであり、水分率が9.0~10.5%の最終製品が得られる。
減圧乾燥機内で気流が発生するが、混合原料の表面は既にゲル化されているため、均一な厚みの最終製品に成形することができる。本発明ではこの気流が均一な乾燥に寄与していると考えられる。
好ましい実施態様において、上記のフッ素樹脂製もしくはシリコーン樹脂製の折り曲げ可能な乾燥用シートは、熱伝導性の高い金属板の上に配置される。熱伝導性の高い金属板上に配置されることにより、上下からの乾燥を均一にすることができると同時に剥離も容易になる。
別の実施態様において、フッ素樹脂もしくはシリコーン樹脂でコーティングされている折り曲げ可能な乾燥用シートには、熱伝導性の高い金属板が用いられている。熱伝導性の高い金属板上にこれらの樹脂がコーティングされていることにより、上下からの乾燥を均一にすることができると同時に剥離も容易になる。そのような乾燥用シートとしては、例えば、薄いアルミ板の表面がフッ素樹脂でコーティングされた乾燥用シートが挙げられる。
【0033】
(S7)剥離工程
剥離工程は、乾燥された混合原料を乾燥用シートから剥離する工程である。
展開工程において、分離可能なシリコーン樹脂製の型枠を有するフッ素樹脂製の乾燥用シートを用いる場合、剥離前に型枠を外しておくことにより、最終製品を乾燥用シートから容易に剥離することができる。この場合、
図3に示されるように、乾燥用シートの一端をしならせることにより乾燥された混合原料を剥離して、キムチを原材料とするシート状食品が得られる。
本発明では、前述の通り、100重量部(湿重量)のキムチに対して300~600重量部の水分を添加するが、水分が300重量部より少ないと、混合原料が乾燥用シートに付着する傾向にあり、乾燥工程において上記の好ましい実施態様を適用した場合であっても、容易に剥離できなくなる。
【0034】
上記のようにして得られる本発明の食品の水分率は、好ましくは16%以下であり、より好ましくは9.0~13.0%であり、さらにより好ましくは9.5~12.0%である。
【0035】
キムチの食味を利活用する観点において、本発明では、キムチが酵素処理されている。また、シート状に成形するために、小麦粉のような結着剤を多量に用いる必要がない。本発明の食品では、これらの条件が相俟って、キムチの食味が十分に利活用されている。
また、シートとしての外観と取り扱い性の観点において、本発明では、キムチが酵素処理されている。また、キムチの湿重量を基準として特定量の水分が添加されている。さらに、特定量のゲル化剤が添加され、混合原料の表面がゲル化した状態で乾燥されている。本発明では、これらの条件が相俟って、乾燥工程における混合原料の曲がりや収縮を抑制し、きれいな平面状の最終製品が得られる。また、この最終製品は、他の食品を巻くためのシートとしての取り扱い性に優れている。
すなわち、本発明では、原材料であるキムチに対して、酵素、特定量の水分、特定量のゲル化剤を適用することによって、キムチの食味が利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性に優れた、新規なシート状食品が得られる。
【0036】
別の実施形態において、本発明は、上記のようにして得られるシート状食品を用いることを特徴とする加工食品の製造方法に関する。本発明により得られるシート状食品は、キムチの食味が利活用されているだけでなく、外観や取り扱い性に優れている。よって、その加工食品は、本発明の食品を含んでいるため、キムチの食味が利活用されている。また、本発明により得られるシート状食品は取り扱い性に優れているため、他の加工食品の製造において容易に組み合わせて用いられる。
加工食品は、本発明により得られるシート状食品を、ライスペーパーや海苔などの既存のシート状食品と同様にして用いて、当業者に公知の方法によって製造することができる。
本発明の食品を用いて製造される加工食品としては、例えば、そのシート状食品を巻いたおにぎり、寿司、蒸し物、シート状食品で包んだサラダ、シート状食品を挟んだ調理パン、餃子、春巻き、中華の点心、パスタなどの調理品、調味料を組み合わせたふりかけ、スナック菓子などが挙げられる。
【0037】
以上の通り、本発明の製造方法により得られるシート状食品は、原材料として用いたキムチの食味が利活用されており、シートとしての外観と取り扱い性に優れている。このような特徴を有するシート状食品は、新たな市場を形成するものであり、極めて有用性が高い。
【実施例0038】
以下の通りにして、シート状食品(製造例1~4)を製造した。
(製造例1)
ハクサイを主原材料とする水分率が85%の市販のキムチ(100g)に水道水(400g)を加えて粉砕し、キムチの粉砕物を得た。キムチの粉砕物(480g)に対して、セルラーゼ(0.96g)およびペクチナーゼ(0.96g)を添加して酵素処理(40℃で2時間)を行った。酵素処理物に対して、ゲル化剤が約0.5重量%となるように寒天(2.4g)を添加し、90℃以上に加熱して寒天を溶解させた混合原料を調製した。混合原料の温度が80℃になるまで粗熱を取った後、20cm×20cmのシリコーン樹脂製の型枠を乗せたポリテトラフルオロエチレン樹脂製の乾燥用シート上に、200gの混合原料を展開した。展開した混合原料のゲル化を確認した後、型枠を外し、混合原料が展開された乾燥用シートをステンレス板に乗せて、減圧乾燥機を用いて-3kPa(ゲージ圧)の減圧環境下、混合原料を乾燥(60℃で4時間)した。乾燥した混合原料を乾燥用シートから剥離し、きれいな正方形となるように周囲をカットして、本発明のシート状食品を製造した。なお、本製造例において、乾燥後の混合原料は乾燥用シートから容易に剥離することができた。
得られた最終製品(製造例1)は、曲がりや割れがなく、目立った凹凸もなく、きれいな平面状であった。縦横に2等分にして作成した4つの領域の中心点をダイヤルシックネスゲージを用いて測定した厚みの平均値は、0.29mmであった。
製造例1では、原材料として用いたキムチの食味が十分に活かされていた。また、最終製品は、他の食品を巻くのに十分な柔軟性を有していた。
【0039】
(製造例2)
キムチに添加する水分として600gの水道水を加えたこと以外は、製造例1と同様にしてシート状食品を製造した。本製造例においても、乾燥後の混合原料は乾燥用シートから容易に剥離することができた。また、乾燥工程における収縮もなかった。
得られた最終製品(製造例2)は、曲がりや割れがなく、目立った凹凸もなく、きれいな平面状であった。製造例1と同様にして測定した厚みの平均値は、0.26mmであった。
製造例2では、原材料として用いたキムチの食味が十分に活かされていた。また、最終製品は、他の食品を巻くのに十分な柔軟性を有していた。
【0040】
(製造例3)
キムチに添加する水分として、水分率が95%のハクサイ(200g)と水道水(110g)を加えたこと以外は、製造例1と同様にしてシート状食品を製造した。本製造例においても、乾燥後の混合原料は乾燥用シートから容易に剥離することができた。
得られた最終製品(製造例3)は、曲がりや割れがなく、目立った凹凸もなく、きれいな平面状であった。製造例1と同様にして測定した厚みの平均値は、0.32mmであった。
製造例3では、製造例1および2と比べるとハクサイに由来すると考えられる甘みが感じられたが、原材料として用いたキムチの食味が十分に活かされていた。また、最終製品は、他の食品を巻くのに十分な柔軟性を有していた。
【0041】
(製造例4)
キムチに添加する水分として、水分率が95%のダイコン(200g)と水道水(110g)を加えたこと以外は、製造例1と同様にしてシート状食品を製造した。本製造例においても、乾燥後の混合原料は乾燥用シートから容易に剥離することができた。
得られた最終製品(製造例4)は、曲がりや割れがなく、目立った凹凸もなく、きれいな平面状であった。製造例1と同様にして測定した厚みの平均値は、0.32mmであった。
製造例4では、製造例1および2と比べるとダイコンに由来すると考えられる香りと甘味が感じられたが、原材料として用いたキムチの食味が十分に活かされていた。また、最終製品は、他の食品を巻くのに十分な柔軟性を有していた。
【0042】
製造例1~4の製造工程において、水分が添加されたキムチの粉砕物の酵素処理前後のBrix値と食塩濃度を測定した結果を表1に示す。
Brix値は、(株)アタゴ社製のPAL-Jを用いて測定した。また、食塩濃度は、(株)アタゴ社製のPAL-SALTを用いて測定した。
【0043】
【0044】
表1に示される通り、製造例1~4の製造工程において、酵素処理後のBrix値は、酵素処理前の1.1~1.3倍になっていた。また、水分としてハクサイまたはダイコンを使用した製造例において、Brix値の上昇が大きかった。
【0045】
製造例1~4の水分率と水分活性を測定した結果を表2に示す。
水分率は、(株)島津製作所製の赤外線水分計 MOC-120H型を用いて測定した。また、水分活性は、ノバシーナ社製のLabTouch-Awを用いて測定した。
【0046】
【0047】
表2に示される通り、製造例1~4は、水分率が15%以下であり、カビの胞子の発芽を抑制できる範囲にあった。
また、製造例1~4は、水分活性が微生物の増殖が抑制される0.5以下であり、保存性の高いシート状食品であることが分かった。これらを商品化する場合に、ガスバリアー性のある容器で、脱酸素剤を封入すれば、極めて長い期間保存することが可能であると考えられた。
【0048】
製造例1~4の物理的性状を評価した結果を表3に示す。
厚みは、(株)ミツトヨ社製のダイヤルシックネスゲージを用いて、上記のようにして測定した。また、他の項目は、(株)山電社製のクリープメーター RE2-3305S型を用いて、破断試験を行って測定した。
【0049】
【0050】
表3に示される通り、厚みにおいて、水分として水道水を添加した製造例1~2に比べて、水分として野菜を添加した製造例3と4の方が厚かった。
また、製造例1~2では、加水量が多いほど最終製品の破断荷重が低く、弾性率が高いことから、変形しにくく破断しやすいことが分かった。
水分としてハクサイを使用した製造例3は、破断荷重が高く、硬さのある製品であることが分かった。また、ダイコンを使用した場合にも、同様であった。これらのようにキムチシート(最終製品)の物理的性状は、製造例により違いはあるが、どのキムチシートとも、原材料であるキムチの食味が十分活かされ、他の食品を巻くのに十分な柔軟性を有していた。
【0051】
製造例1~4によって得られた最終製品の色差を測定した結果を表4に示す。
色差は、(株)コニカミノルタ社製の分光測色計CM-700型を用いて測定した。結果を国際照明委員会による標色系L*、a*、b*、c*によって示した。
【0052】
【0053】
表4に示される通り、100重量部のキムチに対して600重量部の水を添加して得られた製造例2が、L*、b*およびc*の値が高く、明るく鮮やかで黄色が最も強い製品であることが分かった。
水分として野菜を添加した製造例3と4では、ハクサイを添加したシートがダイコンを添加したシートよりL*、b*およびc*の値が高く、黄色が強く鮮やかな色を示した。
キムチシートの色差は、製造例により異なるが、どのキムチシートとも原材料として用いたキムチの色が反映されており、明らかにキムチを主原材料とする食品であることがわかる製品であった。
【0054】
以上の通り、本発明によれば、キムチの食味が十分に利活用された新規なシート状食品を製造することができる。