(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176479
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】膜屋根、膜屋根用パネル及び膜屋根の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04D 3/18 20060101AFI20221122BHJP
E04B 7/00 20060101ALI20221122BHJP
E04H 15/54 20060101ALI20221122BHJP
E04D 3/00 20060101ALI20221122BHJP
E04D 3/36 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
E04D3/18
E04B7/00 B
E04H15/54
E04D3/00 M
E04D3/36 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082941
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佳憲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊英
(72)【発明者】
【氏名】飯島 優子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 文音
(72)【発明者】
【氏名】正木 隆介
(72)【発明者】
【氏名】菊池 諒
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大樹
(72)【発明者】
【氏名】大林 豊昌
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 淳
(72)【発明者】
【氏名】友田 庸寿
(72)【発明者】
【氏名】岸本 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】豊田 宏
【テーマコード(参考)】
2E108
2E141
【Fターム(参考)】
2E108AA02
2E108AS02
2E108BB01
2E108BN01
2E108CC01
2E108CC18
2E108ER07
2E108FF11
2E141CC01
2E141EE03
2E141EE24
(57)【要約】
【課題】膜屋根の施工を簡便に行うことを可能にする膜屋根、膜屋根用パネル及び膜屋根の施工方法を実現する。
【解決手段】薄板材20(21,22)とパネル本体10の間に膜材30を挟み込んで、予め膜材30がパネル本体10に固設されている膜屋根用パネル100であれば、その膜屋根用パネル100を建物Tの屋根の骨組み(梁材H)に取り付けるようにすることで、膜屋根の施工を簡便に行うことができる。特に薄板材21,22同士が互いに接触しない配置に固定されているので、薄板材20(21,22)とパネル本体10とで挟んだ膜材30にシワが入り難くすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の建物における屋根の骨組みに膜屋根用パネルが取り付けられて構築された膜屋根であって、
前記膜屋根用パネルは、枠状のパネル本体と、前記パネル本体の一の面側を覆うように重ねられて固設された膜材と、を備えていることを特徴とする膜屋根。
【請求項2】
前記膜屋根用パネルは、前記既存の建物の屋根面積を複数に分割してなるサイズを有しており、その複数の膜屋根用パネルが前記屋根の骨組みに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の膜屋根。
【請求項3】
建物に膜屋根を構築するのに用いる膜屋根用パネルであって、
少なくとも2本の縦材と、前記縦材と交差する向きの少なくとも2本の横材とが枠状に組み付けられてなるパネル本体と、
前記縦材と前記横材のそれぞれに対して取り付けられ、前記パネル本体に固定される複数の薄板材と、
前記パネル本体の一の面側を覆うように重ねられ、前記パネル本体に固定された前記薄板材との間に挟まれて固設されている膜材と、
を備えたことを特徴とする膜屋根用パネル。
【請求項4】
前記薄板材同士は、互いに接触しない配置に固定されていることを特徴とする請求項3に記載の膜屋根用パネル。
【請求項5】
前記縦材と前記横材にはそれぞれ、その長手方向に沿って連続した溝部が設けられており、
前記薄板材によって前記膜材が前記溝部に押し込まれた状態で、前記薄板材と前記パネル本体とに挟まれている前記膜材が前記パネル本体に固設されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の膜屋根用パネル。
【請求項6】
前記溝部は、前記膜材とともに前記薄板材が入り込むことができるように、前記薄板材の幅と厚みに対応してその幅と深さが設計されていることを特徴とする請求項5に記載の膜屋根用パネル。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載の膜屋根用パネルを用いた膜屋根の施工方法であって、
既存の建物において屋根材を支持している屋根の骨組みに定着金具を設置する工程と、
前記骨組みに前記定着金具を設置した後、前記屋根材を撤去する工程と、
前記定着金具を介して前記骨組みに前記膜屋根用パネルを取り付ける工程と、
を有することを特徴とする膜屋根の施工方法。
【請求項8】
請求項3~6のいずれか一項に記載の膜屋根用パネルを用いた膜屋根の施工方法であって、
前記薄板材と前記パネル本体の間に前記膜材を挟み込み、予め前記パネル本体に前記膜材が固設されている前記膜屋根用パネルを建物の屋根の骨組みに取り付けて、その建物に膜屋根を構築することを特徴とする膜屋根の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜屋根、膜屋根用パネル及び膜屋根の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋根の骨組みを成す梁材の間に膜材を張設してなる膜屋根が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
膜屋根は、例えば自重が軽い、透光性に優れる、大空間を有する建築設計ができるなど多くのメリットがあり、特に、膜屋根は長いスパンを飛ばして膜張りすることなどによる自由なデザイン設計が可能なため、博覧会のパビリオン、ショッピングモール、競技場、駅舎(ホーム上家)など、近時、様々な建築物の屋根に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長いスパンを飛ばす膜張りを行って膜屋根を施工する場合に、大面積の膜材に適正なテンションをかけつつ梁材の間に張設する施工作業が大掛かりになることがある。
また、既存の建物の屋根を改修して膜屋根を施工するにあたり、その建物の使用を継続しつつ屋根を張り替える場合には、重機を投入するような大掛かりな施工を行うことができないことがある。
そこで、本発明者らが鋭意検討し、既存の建物に対する膜屋根の施工を簡便に行うことを可能にする技術を開発するに至った。
【0005】
本発明の目的は、膜屋根の施工を簡便に行うことを可能にする膜屋根、膜屋根用パネル及び膜屋根の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本出願に係る第一の発明は、
既存の建物における屋根の骨組みに膜屋根用パネルが取り付けられて構築された膜屋根であって、
前記膜屋根用パネルは、枠状のパネル本体と、前記パネル本体の一の面側を覆うように重ねられて固設された膜材と、を備えているようにした。
【0007】
枠状のパネル本体と、パネル本体の一の面側を覆うように重ねられて固設された膜材とを備えている膜屋根用パネルを、既存の建物における屋根の骨組みに取り付けるようにして、膜屋根を構築することができる。
かかる構成の膜屋根であれば、既存の建物に対する膜屋根の施工を簡便に行うことができる。
【0008】
また、望ましくは、
前記膜屋根用パネルは、前記既存の建物の屋根面積を複数に分割してなるサイズを有しており、その複数の膜屋根用パネルが前記屋根の骨組みに取り付けられているようにする。
【0009】
こうすることで、既存の建物に合わせた膜屋根を構築することができるので、様々な建物に膜屋根を施工することができる。
【0010】
また、本出願に係る第二の発明は、
建物に膜屋根を構築するのに用いる膜屋根用パネルであって、
少なくとも2本の縦材と、前記縦材と交差する向きの少なくとも2本の横材とが枠状に組み付けられてなるパネル本体と、
前記縦材と前記横材のそれぞれに対して取り付けられ、前記パネル本体に固定される複数の薄板材と、
前記パネル本体の一の面側を覆うように重ねられ、前記パネル本体に固定された前記薄板材との間に挟まれて固設されている膜材と、
を備えるようにした。
【0011】
薄板材とパネル本体の間に膜材を挟み込んで、予め膜材がパネル本体に固設されている膜屋根用パネルであれば、その膜屋根用パネルを建物の屋根の骨組みに取り付けるようにすることで、膜屋根の施工を簡便に行うことができる。
【0012】
また、望ましくは、
前記薄板材同士は、互いに接触しない配置に固定されているようにする。
【0013】
薄板材同士が互いに接触しない配置に固定されているので、薄板材とパネル本体とで挟んだ膜材にシワが入り難くすることができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記縦材と前記横材の上面となる部位にはそれぞれ、その長手方向に沿って連続した溝部が設けられており、
前記薄板材によって前記膜材が前記溝部に押し込まれた状態で、前記薄板材と前記パネル本体とに挟まれている前記膜材が前記パネル本体に固設されているようにする。
【0015】
こうすることで、膜材がパネル本体からずれ難くなっているとともに、その膜材がある程度張るようにテンションが掛けられた状態にすることができる。
【0016】
また、望ましくは、
前記溝部は、前記膜材とともに前記薄板材が入り込むことができるように、前記薄板材の幅と厚みに対応してその幅と深さが設計されて形成されているようにする。
【0017】
こうすることで、パネル本体と薄板材が略面一になるので、膜屋根用パネルの表面を比較的フラットな状態にすることができる。
【0018】
また、本出願に係る他の発明は、
上記した膜屋根用パネルを用いた膜屋根の施工方法であって、
既存の建物において屋根材を支持している屋根の骨組みに定着金具を設置する工程と、
前記骨組みに前記定着金具を設置した後、前記屋根材を撤去する工程と、
前記定着金具を介して前記骨組みに前記膜屋根用パネルを取り付ける工程と、
を有するようにした。
【0019】
既存の建物から屋根材を撤去する前に、建物の屋根の骨組み(例えば梁材)に定着金具を設置しておく施工方法によれば、屋根材を撤去した後、速やかに膜屋根用パネルを屋根の骨組みに取り付けて膜屋根を構築することができる。
このように、膜屋根用パネルを建物の屋根の骨組みに取り付けるようにすることで、膜屋根の施工を簡便に行うことができる。
【0020】
また、本出願に係る他の発明は、
上記した膜屋根用パネルを用いた膜屋根の施工方法であって、
前記薄板材と前記パネル本体の間に前記膜材を挟み込み、予め前記パネル本体に前記膜材が固設されている前記膜屋根用パネルを建物の屋根の骨組みに取り付けて、その建物に膜屋根を構築するようにした。
【0021】
薄板材とパネル本体の間に膜材を挟み込んで、予め膜材がパネル本体に固設されている膜屋根用パネルを用い、その膜屋根用パネルを建物の屋根の骨組みに取り付けるようにすることで、膜屋根の施工を簡便に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、膜屋根の施工を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態の膜屋根用パネルを示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の膜屋根用パネルの分解斜視図である。
【
図3】膜屋根用パネル(パネル本体)に用いる縦材、横材の説明図である。
【
図4】膜屋根用パネル(パネル本体)における縦材と横材の連結箇所の説明図である。
【
図5】梁材にスレートが取り付けられている既存の建物の一部を示す説明図である。
【
図6】スレートが取り付けられている梁材に定着金物を設置した状態に関する説明図である。
【
図7】定着金物を設置した梁材からスレートを撤去した状態に関する説明図である。
【
図8】定着金具を介して梁材に膜屋根用パネルを取り付けた状態に関する説明図である。
【
図9】膜屋根用パネルを駅ホームの上家に設置した態様の膜屋根の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係る膜屋根、膜屋根用パネル及び膜屋根の施工方法の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0025】
まず、本実施形態の膜屋根用パネル100について説明する。
この膜屋根用パネル100は、建物に膜屋根を構築するのに用いるパネル材であり、例えば、施工現場で組み立てた膜屋根用パネル100を、建物の屋根部分に取り付けて膜屋根として使用するものである。
なお、工場などにおいて組み立てて製造された膜屋根用パネル100を施工現場に搬入し、建物の屋根部分に取り付けるようにしてもよい。
【0026】
膜屋根用パネル100は、例えば、
図1~
図4に示すように、少なくとも2本の縦材11と、縦材11と交差する向きの少なくとも2本の横材12とが枠状に組み付けられてなるパネル本体10と、縦材11と横材12のそれぞれに対して取り付けられ、パネル本体10に固定される複数の薄板材20と、パネル本体10の一の面側を覆うように重ねられ、パネル本体10に固定された薄板材20との間に挟まれて固設されている膜材30等を備えて構成されている。
【0027】
薄板材20は、金属製の薄板を所定の長さに切断してなる部材である。
本実施形態の薄板材20は、後述する縦材11に対応する長尺な薄板材21と、後述する横材12に対応する短尺な薄板材22とで構成されている。
そして、本実施形態の膜屋根用パネル100では、2本の薄板材21と5本の薄板材22を用いている。
【0028】
膜材30は、例えば、ガラス繊維製の基布素材にフッ化ビニリデン樹脂共重合体をコーティングしてなる部材であり、耐久性や防火性に優れた膜部材である。
その膜部材を膜屋根用パネルに応じた所望のサイズに切断したものが、ここでの膜材30である。
【0029】
本実施形態のパネル本体10は、長尺な2本の縦材11と、短尺な5本の横材12が枠状に組み付けられてなる。
具体的には、縦材11と横材12は直交する向きで組み付けられており、互いに平行な2本の縦材11の間に5本の横材12が直交するように組み付けられて、枠状のパネル本体10が組み立てられている。
【0030】
このパネル本体10を構成する縦材11と横材12は、例えば
図3に示すような、金属製の棒状部材を所定の長さに切断してなる部材である。
この棒状部材からなる縦材11と横材12にはそれぞれ、その長手方向に沿って連続した溝部1が設けられている。
具体的には、縦材11と横材12の端面ではない長尺な一の面に、その長手方向に沿う溝部1が設けられており、その縦材11と横材12の端面ではない長尺な他の三面に、その長手方向に沿うボルト溝5が設けられている。
なお、溝部1は、縦材11と横材12の上面となる部位に設けられている。
【0031】
溝部1は、薄板材20の幅と厚みに対応して形成されている。
具体的には、溝部1に薄板材20を配置した場合に、溝部1内に薄板材20が納まるように、その溝部1の幅と深さが設計されて形成されている。
ボルト溝5は、ボルトBの頭部の形状に対応して形成されており、ボルト溝5に沿ってボルトBをスライド移動させて、縦材11や横材12の長手方向の任意の位置にボルトBを配置させることが可能になっている。
そして、
図2に示すように、パネル本体10の一の面側(ここでは上面側)に溝部1が設けられている面を揃えるように縦材11と横材12が組み付けられて連結されている。
具体的には、例えば
図4に示すように、縦材11のボルト溝5に配置したボルトBと、横材12のボルト溝5に配置したボルトBとを連結板50で繋ぎ、そのボルトBにナットNを締結するようにして、縦材11と横材12を連結してパネル本体10を組み立てている。
【0032】
そして、
図2や
図1に示すように、パネル本体10の一の面側(上面側)を覆うように膜材30を配した後、パネル本体10の縦材11に長尺な薄板材21を重ね、パネル本体10の横材12に短尺な薄板材22を重ねるようにして、パネル本体10と薄板材20(21,22)の間に膜材30を挟み込み、その薄板材20(21,22)をビスやボルトなどの固定部材40でパネル本体10に固定して、膜材30をパネル本体10に固設することで膜屋根用パネル100を組み立てることができる。
【0033】
この膜屋根用パネル100では、薄板材20(21,22)によって膜材30がパネル本体10(縦材11、横材12)の溝部1に押し込まれた状態で、薄板材20(21,22)とパネル本体10とに挟まれた膜材30がパネル本体10に固設されているので、膜材30がパネル本体10からずれ難くなっているとともに、その膜材30がある程度張るようにテンションが掛けられた状態にすることができる。
【0034】
また、
図4に示すように、パネル本体10(縦材11、横材12)の溝部1に薄板材20(21,22)が膜材30とともに入り込むように取り付けられていることで、パネル本体10と薄板材20(21,22)が略面一になるので、膜屋根用パネル100の表面を比較的フラットな状態にすることができる。
【0035】
特に、
図1に示すように、この膜屋根用パネル100における薄板材20(21,22)同士は、互いに接触しない配置に固定されている。
具体的には、短尺な薄板材22の端部が、長尺な薄板材21から離間した配置で固定されている。
このように、薄板材20(21,22)同士が互いに接触しない配置で固定し、薄板材20の間(短尺な薄板材22と長尺な薄板材21の間)に隙間をつくるようにすることで、薄板材20とパネル本体10とで挟んだ膜材30にシワが入り難くすることができる。
短尺な薄板材22と長尺な薄板材21の間に隙間をつくるようにしてあそびをつくることで、膜材30が伸びやすくなってシワが入り難くなる。
【0036】
また、複数の薄板材20(21,22)をパネル本体10に固定する際の取り付け順を、所定方向に沿わせた順にすることが好ましい。
例えば、本実施形態の膜屋根用パネル100の場合、膜屋根用パネル100(パネル本体10)の短尺方向に沿うような取り付け順とし、一方の長尺な薄板材21を固定した後、短尺な薄板材22の固定を行い、他方の長尺な薄板材21を固定するようにすればよい。
こうすることで、膜材30により一層シワが入らないようにすることができる。
【0037】
なお、この取り付け順とする方向は、膜屋根用パネル100を建物に設置した状態における傾斜の上から下に向かう方向であればより好ましい。こうすることによれば、膜屋根用パネル100の傾斜に沿って雨水がスムーズに流れ易くする態様で膜材30を張設することができる。
例えば、この膜屋根用パネル100を横方向に長い向きで建物に設置する場合には、上記したように、一方の長尺な薄板材21を取り付けた後に短尺な薄板材22を取り付け、最後に他方の長尺な薄板材21を取り付けるという順であればよい。
また、この膜屋根用パネル100を縦方向に長い向きで建物に設置する場合には、5本の短尺な薄板材22を傾斜の上から下に向かう順に取り付けた後、その左右に長尺な薄板材21を取り付けるようにする順であればよい。なお、パネル本体10の左右に長尺な薄板材21を取り付けた後、その長尺な薄板材21の間に5本の短尺な薄板材22を傾斜の上から下に向かう順に取り付けるようにしてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の膜屋根用パネル100を用いた膜屋根の施工方法について説明する。
ここでは、既存の建物Tに膜屋根Rを設置するのに膜屋根用パネル100を用いる施工方法について説明する。
【0039】
例えば、
図5に示すように、既存の建物Tには屋根材としてのスレートSが屋根の骨組みである梁材Hに支持されて設置されているので、このスレートSに替えて梁材Hに膜屋根用パネル100を取り付けて、既存の建物Tに膜屋根Rを設置するようにする。
【0040】
まず、
図6に示すように、既存の建物TにおいてスレートS(屋根材)を支持している梁材H(屋根の骨組み)に定着金具90を設置する。
この定着金具90は、例えば、
図6(
図7)に示すように、金具本体91と、金具本体91を梁材Hに固定するためのUボルト92を備えている。
金具本体91は、例えば、L字状の金具であり、一方の面部にUボルト用の長穴91aが2つ設けられており、他方の面部にパネル取り付け用の長穴91bが1つ設けられている。
Uボルト92は、梁材Hに対応した形状に金属棒が折曲されてなる固定具であり、その両端に雄ネジが形成されている。
【0041】
ここでは、
図6に示すように、梁材Hに横向きに取り付けたUボルト92の両端を金具本体91の長穴91aに挿通させて、そのUボルト92にナットNを螺着することで、定着金具90を梁材Hに固定している。
定着金具90は、膜屋根用パネル100を建物Tに安定した状態で取り付けるのに必要と設計された箇所に固定されており、建物Tの梁材Hには複数の定着金具90が設置されている。
なお、定着金具90における金具本体91は、その固定位置を長穴91aに沿って調整することが可能になっている。
そして、
図7に示すように、全ての定着金具90を梁材Hに設置した後、スレートSを撤去する。
【0042】
次いで、
図8に示すように、梁材Hに固定した定着金具90を介して、その梁材Hに膜屋根用パネル100を取り付ける。
ここでは、膜屋根用パネル100の横材12を、ボルトBとナットNで定着金具90に固定した部分を図示している。
例えば、膜屋根用パネル100の横材12や縦材11のボルト溝5にボルトBを通して配置しておき、膜屋根用パネル100を建物Tの梁材Hの上に仮設した後、ボルト溝5に沿って定着金具90が固定されている位置までボルトBをスライド移動させ、そのボルトBを金具本体91の長穴91bに挿通させてナットNを螺着することで、定着金具90に膜屋根用パネル100を固定することができ、定着金具90を介して膜屋根用パネル100を梁材Hに取り付けることができる。
このとき、金具本体91の長穴91bに沿って膜屋根用パネル100の配置を微調整することができる。
【0043】
なお、
図8に示すように、梁材Hに固定された状態の定着金具90における金具本体91の上端部が、膜屋根用パネル100の膜材30に届いてしまわないように、金具本体91の形状(長さ)は設計されている。
特に、その金具本体91の上端部の角は面取りされて丸みを帯びているので、強風や積雪などによって膜屋根用パネル100の膜材30が撓んだ場合に、金具本体91の上端部が膜屋根用パネル100の膜材30に接触してしまうことがあっても、膜材30が損傷し難くなっている。
また、金具本体91の上端部の角が面取りされていることで、この金具本体91の上下方向が分かり易くなっており、梁材Hに対する取り付け向きを間違わないようにすることができる。
【0044】
こうして、例えば、
図9に示すように、建物T(例えば、駅ホームの上家)の梁材Hに膜屋根用パネル100を取り付けて、その建物Tに膜屋根Rを構築することができる。
ここでは、建物Tの梁材Hに2枚の膜屋根用パネル100を取り付けて、膜屋根Rを構築した。
このように、膜屋根用パネル100を用いることで、建物Tのスレート屋根に替えて膜屋根Rを構築する施工を簡便に行うことができる。
【0045】
特に、既存の建物Tから屋根材としてのスレートSを撤去する前に、建物Tの梁材Hに定着金具90を設置しておく工法によれば、スレートSを撤去した後、速やかに膜屋根用パネル100を梁材Hに取り付けて膜屋根Rを構築することができる。
例えば、駅ホームの上家(建物T)の屋根材を張り替える工事を行う場合、終電後から始発までの間の比較的短い作業時間内にその施工を完了しなければならないので、このような作業手順を有する膜屋根の施工方法であれば、終電前に定着金具90を梁材Hに設置する作業を終えておくようにすることで、夜間の短い時間であっても、膜屋根用パネル100を梁材Hに取り付けて膜屋根Rを構築する作業を好適に行うことが可能になる。
【0046】
また、従前の膜屋根はデザイン性を重視するなどし、長いスパンを飛ばした膜張りを行うために大掛かりな施工が必要であったので、短期間の施工や低コストの施工が求められる建物に適用できないことがあったが、長いスパンを飛ばした膜張りにこだわらないようにしたことで、様々な建物に膜屋根Rを施工することが可能になった。
例えば、従前の膜屋根には、長いスパンを飛ばした膜張りを行ってこそ、という認識があったが、膜材30を複数の薄板材20(21,22)を用いた細かいピッチで止めるという新しい発想をもとに、本実施形態の膜屋根用パネル100や、その膜屋根用パネル100を用いた膜屋根の施工方法を想到したことで、様々な建物に透光性に優れた膜屋根を施工することが可能になった。
【0047】
そして、本実施形態の膜屋根Rは、枠状のパネル本体10と、パネル本体10の一の面側を覆うように重ねられて固設された膜材30とを備えている膜屋根用パネル100を、既存の建物Tにおける梁材H(屋根の骨組み)に取り付けるようにして、膜屋根Rを構築することができるので、既存の建物Tに対する膜屋根Rの施工を簡便に行うことができる。
この施工に用いる膜屋根用パネル100は、既存の建物Tの屋根面積を複数に分割してなるサイズを有しており、その複数の膜屋根用パネル100を梁材Hに取り付けるようにして、既存の建物Tに合わせた膜屋根Rを構築することができるので、様々な建物Tに応じた膜屋根Rを施工することができる。
特に、作業員が持ち運びできるサイズの膜屋根用パネル100とするように、既存の建物Tの屋根面積を複数に分割したサイズを有する膜屋根用パネル100を設計すれば、作業員による人力作業で、複数の膜屋根用パネル100を既存の建物Tの梁材Hに取り付けることが可能になる。
こうすることで、クレーンなどの大型の機器を用いずに、複数の膜屋根用パネル100を既存の建物Tの梁材Hに取り付けて、膜屋根Rを構築することができる。
具体的には、前述した駅ホームの上家(建物T)の屋根材を張り替える工事などでも、クレーンなどの大型の機器を用いずに、複数の膜屋根用パネル100を既存の建物Tの梁材Hに取り付けて、膜屋根Rを構築することが可能になる。
【0048】
以上のように、本実施形態の膜屋根用パネル100や、その膜屋根用パネル100を用いた膜屋根の施工方法であれば、建物Tに構築する膜屋根Rの施工を簡便に行うことができる。
【0049】
なお、以上の実施の形態においては、2本の縦材11と5本の横材12が枠状に組み付けられたパネル本体10に、2本の薄板材21と5本の薄板材22とで膜材30を固定してなる膜屋根用パネル100を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、パネル本体10を構成する縦材11と横材12の本数や長さや、薄板材21と薄板材22の本数や長さは任意であり、所望するサイズや形状の膜屋根用パネル100を組み立てて使用すればよい。
【0050】
また、以上の実施の形態においては、2枚の膜屋根用パネル100を建物Tの梁材Hに取り付けて膜屋根Rを構築したが、本発明はこれに限定されるものではなく、膜屋根Rを構築するために建物Tの梁材Hに取り付ける膜屋根用パネル100の数は任意であり、建物Tの屋根面積や、建物Tの梁材H(屋根の骨組み)の間隔などに応じた数の膜屋根用パネル100を建物Tに取り付けるようにすればよい。
【0051】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 溝部
5 ボルト溝
10 パネル本体
11 縦材
12 横材
20 薄板材
21 長尺な薄板材
22 短尺な薄板材
30 膜材
40 固定部材
50 連結板
90 定着金具
91 金具本体
91a 長穴
91b 長穴
92 Uボルト(固定具)
100 膜屋根用パネル
B ボルト
N ナット
H 梁材(屋根の骨組み)
S スレート(屋根材)
T 建物
R 膜屋根