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特開2022-176484対数尤度比算出回路および無線受信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176484
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】対数尤度比算出回路および無線受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/00 20060101AFI20221122BHJP
   H03M 13/19 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H04L27/00 B
H03M13/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082948
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢晃
【テーマコード(参考)】
5J065
【Fターム(参考)】
5J065AB01
5J065AC02
5J065AD07
5J065AE06
5J065AG05
(57)【要約】
【課題】対数尤度比の算出精度を向上させて低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させる。
【解決手段】送信側において直角位相振幅変調方式で変調された受信信号の電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして Z(xR,xφ) = R(xR)・φ(xφ) によって表される受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)に基づいて受信信号の各bitに対する対数尤度比を算出する(但し、xR:受信信号の電力,xφ:受信信号の位相)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側において直角位相振幅変調方式で変調された受信信号の電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして Z(xR,xφ) = R(xR)・φ(xφ) によって表される前記受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)に基づいて前記受信信号の各bitに対する対数尤度比を算出する(但し、xR:受信信号の電力,xφ:受信信号の位相)、
ことを特徴とする対数尤度比算出回路。
【請求項2】
送信側において直角位相振幅変調方式で変調された前記受信信号のNb番目のbitに対する対数尤度比LLRNbを下記の数式1に従って算出する、
【数1】
ここに、
Nb:ビット番号
LLRNb:Nb番目のbitに対する対数尤度比
n:QAM変調波のシンボル番号
An:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の同相成分
Bn:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の直交成分
Rn:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の包絡線成分(下記の数式2A)
xi:受信信号の同相成分
xq:受信信号の直交成分
xr:受信信号の包絡線成分(下記の数式2B)
σ2:熱雑音の電力(分散)
σφ2:位相雑音の分散
(An,Bn)=0:Nb番目のbitが0になるときの理想点シンボル配置
(An,Bn)=1:Nb番目のbitが1になるときの理想点シンボル配置
【数2】
ことを特徴とする請求項1に記載の対数尤度比算出回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の対数尤度比算出回路を備える、
ことを特徴とする無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対数尤度比算出回路および無線受信装置に関し、特に、低密度パリティ検査復号における誤り訂正において使用される対数尤度比を算出する回路および前記回路を含む無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低密度パリティ検査(LDPC:Low Density Parity Check の略)復号において、受信信号の熱雑音の分布に基づいて算出した対数尤度比(LLR:Log-Likelihood Ratio の略)を使用して誤り訂正を行う手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-201582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高多値の変調方式では、受信信号の位相雑音やフェージングなど熱雑音以外の影響も大きく、受信信号の熱雑音の分布のみに基づいて算出した対数尤度比を使用すると、低密度パリティ検査の誤り訂正能力が低減する、という問題がある。具体的には、従来の対数尤度比の算出方法では、受信信号の熱雑音によって理想シンボル点を中心として正規分布/ガウス分布に基づいて受信信号の振幅が変動することを前提としている。しかしながら、この方法では、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が回転した際の変動を考慮することができない。このため、特に位相雑音が存在する環境下において対数尤度比の算出精度が劣化し、延いては低密度パリティ検査の誤り訂正能力が低減してしまう。
【0005】
そこでこの発明は、対数尤度比の算出精度を向上させて低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能な、対数尤度比算出回路および前記対数尤度比算出回路を含む無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る対数尤度比算出回路は、送信側において直角位相振幅変調方式で変調された受信信号の電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして Z(xR,xφ) = R(xR)・φ(xφ) によって表される前記受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)に基づいて前記受信信号の各bitに対する対数尤度比を算出する(但し、xR:受信信号の電力,xφ:受信信号の位相)、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る対数尤度比算出回路は、送信側において直角位相振幅変調方式で変調された受信信号のNb番目のbitに対する対数尤度比LLRNbを所定の数式に従って算出する、ようにしてもよい。
【0008】
また、この発明に係る無線受信装置は、上記の対数尤度比算出回路を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る対数尤度比算出回路によれば、電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして Z(xR,xφ) = R(xR)・φ(xφ) によって表される受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)に基づいて受信信号の各bitに対する対数尤度比を算出することにより、対数尤度比の算出に熱雑音の影響に加えて位相雑音やフェージングなどによる分布変動の要素を考慮するようにしているので、位相雑音を含む外乱に対してロバストな低密度パリティ検査を実現することが可能となる。
【0010】
この発明に係る対数尤度比算出回路によれば、また、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が正規分布/ガウス分布に基づいて回転・変動した際の確率分布も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音が支配的な環境下においても対数尤度比の算出精度を向上させることが可能となり、延いては、低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0011】
この発明に係る無線受信装置によれば、対数尤度比を使用して低密度パリティ検査復号における誤り訂正を行う無線受信装置において上記の作用効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部を含む、実施の形態における無線受信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】16QAM方式の理想シンボル点の配置および各理想シンボル点に割り当てられているbit列を示す図である。
図3】対数尤度比の算出式の考え方を説明する図である。
図4】位相誤差の確率分布の変換の考え方を説明する図である。
図5】従来の対数尤度比の算出方法の問題点とこの発明に係る対数尤度比算出回路による対策とを説明する図である。
図6】この発明に係る対数尤度比算出回路の有効性の検証例で用いられた評価系の概略構成を示す機能ブロック図である。
図7】この発明に係る対数尤度比算出回路の有効性の検証例における評価結果としての符号の誤り率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。また、各図では、複素信号を構成する実部(I信号;別言すると、同相成分,I信号成分)を伝送する信号線と虚部(Q信号;別言すると、直交成分,Q信号成分)を伝送する信号線とをまとめて1本の信号線で表示している。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20を含む、実施の形態における無線受信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0015】
アンテナ10は、図示していない無線送信装置から送出された信号波を受信して、前記信号波を受信信号としてチャネルフィルタ11へと転送する。
【0016】
ここで、無線送信装置は、送信対象の無線フレームを、低密度パリティ検査符号化を施すとともに所定の多値数の直角位相振幅変調方式(例えば、16QAM方式,32QAM方式など;QAMは Quadrature Amplitude Modulation の略)で変調したうえでアンテナから送出する。これにより、無線受信装置1は、低密度パリティ検査符号化が施されて所定の多値数の直角位相振幅変調方式で変調された多値変調信号を受信する。
【0017】
チャネルフィルタ11は、受信帯域を制限するためのフィルタであり、具体的には例えばバンドパスフィルタによって構成され得る。チャネルフィルタ11は、アンテナ10から転送される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対して帯域制限処理を施して、前記受信信号から所望の周波数帯域の受信信号を抽出して出力する。
【0018】
ミキサ13は、チャネルフィルタ11から出力される受信信号の入力を受けるとともに局部発振器12から出力されるローカル信号の入力を受け、前記受信信号に前記ローカル信号を乗算して、前記受信信号の周波数を変換(具体的には、ダウンコンバート)して出力する。
【0019】
自動利得制御部14は、ミキサ13から出力される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対して前記受信信号のレベルが所定のレベルで一定になるように利得調整処理を施して、利得調整処理後(言い換えると、レベル補正後)の受信信号(尚、アナログ信号である)を出力する。
【0020】
A/D変換器15(Analog-to-Digital converter)は、自動利得制御部14から出力される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対してアナログ-デジタル変換処理を施して、アナログ信号からデジタル信号への変換を行う。すなわち、A/D変換器15は、デジタルの受信信号を出力する。
【0021】
デジタル直交検波部16は、A/D変換器15から出力されるデジタルの受信信号の入力を受け、前記受信信号を直交検波によってベースバンド信号に変換する。デジタル直交検波部16は、具体的には、数値制御発振器(図示省略)からcos波が入力されて前記受信信号の同相成分を同期検出する乗算器と、数値制御発振器からsin波が入力されて前記受信信号の直交成分を同期検出する乗算器とを備える。デジタル直交検波部16は、デジタル信号処理による多値変調の直交検波を行い、実部を構成する実数成分(I信号)と虚部を構成する虚数成分(Q信号)とのIQ直交座標で表現される複素信号(別言すると、同相成分および直交成分の検波信号)を生成して出力する。
【0022】
デジタル直交検波部16の数値制御発振器(図示省略)は、設定値に応じた周波数で発振する発振器であり、位相が90°だけ相互に異なるcos波とsin波とを発生させて2つの乗算器のそれぞれへと供給する。
【0023】
ロールオフフィルタ17は、デジタル直交検波部16から出力されるベースバンド信号(別言すると、同相成分および直交成分の検波信号)の入力を受け、前記ベースバンド信号の同相成分と直交成分とのそれぞれに対して符号間干渉を除去するための処理を施して、前記ベースバンド信号のスペクトラム波形を所望のロールオフとなるように整形して出力する。
【0024】
等化器18は、ロールオフフィルタ17から出力されるベースバンド信号の入力を受け、前記ベースバンド信号の同相成分と直交成分とのそれぞれに対して、周波数選択性フェージングによる符号間干渉を除去するための適応等化処理を施して、適応等化処理後のベースバンド信号(受信信号)を出力する。
【0025】
復号部19は、LLR算出部20から出力される対数尤度比(LLR:Log-Likelihood Ratio の略)の入力を受け、前記対数尤度比を使用して例えばsum-product復号法に従って低密度パリティ検査復号処理を行う。
【0026】
LLR算出部20は、低密度パリティ検査復号における誤り訂正において使用される対数尤度比を算出する回路であり、無線受信装置1に組み込まれる。
【0027】
実施の形態に係るLLR算出部20は、送信側において直角位相振幅変調方式で変調された受信信号の電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして Z(xR,xφ) = R(xR)・φ(xφ) によって表される受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)に基づいて受信信号の各bitに対する対数尤度比を算出する(但し、xR:受信信号の電力,xφ:受信信号の位相)、ようにしている。
【0028】
以下では、無線送信装置が、送信対象の無線フレームに対して低密度パリティ検査符号化を施すとともに多値数が16の直角位相振幅変調方式(即ち、16QAM方式)で変調したうえでアンテナから送出し、無線受信装置1が、低密度パリティ検査符号化が施されて多値数が16の直角位相振幅変調方式(16QAM方式)で変調された多値変調信号を受信する場合を例に挙げて説明する。
【0029】
16QAM方式の理想シンボル点の配置および各理想シンボル点に割り当てられているbit列(言い換えると、16QAMの信号空間ダイヤグラム)を図2に示す。なお、図2において、I軸はシンボル点配置の同相成分の軸であり、Q軸はシンボル点配置の直交成分の軸である。
【0030】
ここで、搬送波対雑音比(CNR:Carrier‐Noise Ratio の略)が高く、熱雑音に比べて位相雑音の影響が顕著に現れる環境下では特に、理想シンボル点に対する電力誤差は熱雑音の影響が大きく(別言すると、支配的であり)、理想シンボル点に対する位相誤差は位相雑音の影響が大きい(別言すると、支配的である)。また、熱雑音による信号のばらつきと位相雑音による信号の揺らぎとは、それぞれが発生する原因・要因となる事象が各々別であるので、相互に独立であり、したがって、電力誤差の確率分布と位相誤差の確率分布とは相互に独立であると考えられる(図3参照)。
【0031】
上記の考え方に基づき、電力誤差の確率分布をR(x)とするとともに位相誤差の確率分布をφ(x)とすると、これら2つの事象が相互に独立であるとき、誤差全体の確率分布Z(x)は下記の数式1のように表される。
(数1) Z(x) = R(x)・φ(x)
【0032】
熱雑音と位相誤差とはともにガウス分布に基づく(別言すると、従う)と考えられるため、電力誤差の確率分布R(xR)は下記の数式2のように表され、位相誤差の確率分布φ(xφ)は下記の数式3のように表される。
【数2】
【数3】
【0033】
上記の数式2および数式3における各記号・変数の意味は下記のとおりである。
R:受信信号の電力
R:理想シンボルの電力
σ2:熱雑音の分散
xφ:受信信号の位相
φ:理想シンボルの位相
σφ2:位相雑音の分散
【0034】
上記の数式3に関連して、理想シンボルの位相φと受信信号の位相xφとの間の差違Δφ(単位:rad)は、IQ直交座標系(複素平面)における、中心角としての差違Δφと前記差違Δφを中心角とする弧の長さとの間の関係と、前記弧の長さは2点間の直線距離で近似され得ることとにより(図4参照)、下記の数式4が導かれる。下記の数式4は、すなわち、理想シンボルの位相φと受信信号の位相xφとの間の差違Δφという角度を空間距離に変換する式である。
【数4】
【0035】
なお、図4における各記号・変数の意味は下記のとおりである。
A:理想シンボル点配置の同相成分
B:理想シンボル点配置の直交成分
R:理想シンボル点配置の包絡線成分
xi:受信信号の同相成分
xq:受信信号の直交成分
【0036】
上記の数式4を用いて、上記の数式3で表される位相誤差の確率分布φ(xφ)は下記の数式5のように表される。
【数5】
【0037】
上記の数式5における各記号・変数の意味は下記のとおりである。
xφ:受信信号の位相
σφ2:位相雑音の分散
A:理想シンボル点配置の同相成分
B:理想シンボル点配置の直交成分
xi:受信信号の同相成分
xq:受信信号の直交成分
【0038】
上記の数式1ならびに上記の数式2および数式5に基づいて、受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)≒Z(xi,xq)は下記の数式6のように表される(下記の数式6における各記号・変数の意味については上記の数式2,数式3,および数式5の説明を参照)。
【数6】
【0039】
上記の数式6の確率分布から、Nb番目(尚、b=1,2,3,・・・)のbitに対する対数尤度比LLRNbは下記の数式7のように表される。
【数7】
【0040】
上記の数式7における各記号・変数の意味は下記のとおりである。
Nb:ビット番号(ここでは、N1,N2,N3,N4)
LLRNb:Nb番目のbitに対する対数尤度比
n:QAM変調波のシンボル番号(例えば、n=0,1,2,・・・)
An:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の同相成分
Bn:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の直交成分
Rn:シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の包絡線成分
xi:受信信号の同相成分
xq:受信信号の直交成分
xr:受信信号の包絡線成分
σ2:熱雑音の電力(分散)
σφ2:位相雑音の分散
(An,Bn)=0:Nb番目のbitが0になるときの理想点シンボル配置
(An,Bn)=1:Nb番目のbitが1になるときの理想点シンボル配置
【0041】
また、上記の数式7における、シンボル番号nにおける理想シンボル点配置の包絡線成分Rnは下記の数式8Aのように表され、受信信号の包絡線成分xrは下記の数式8Bのように表される。
【数8】
【0042】
LLR算出部20は、上記の数式7および数式8に従って、Nb番目のbitに対する対数尤度比LLRNbを算出する。なお、数式7のうち、熱雑音の電力(分散)σ2は、時々刻々変化すると考えられるため、適当な時間ピッチで適宜更新されることが好ましい。また、位相雑音の分散σφ2は、時間変化が少ないと考えられるため、値は固定でよい。
【0043】
図2に示す16QAM方式の理想シンボル点の配置(具体的には、理想シンボル点配置の同相成分Aおよび直交成分Bの具体的な値を含む)ならびに各理想シンボル点に割り当てられているbit列(言い換えると、16QAMの信号空間ダイヤグラム)を例として、ビット番号Nbが1~4番目の各bitに対する対数尤度比LLRNbは、それぞれ、具体的には下記の数式9乃至数式12のように算出される。
【0044】
ビット番号NbがN1のbit(即ち、1bit目)に対する対数尤度比LLRN1は、下記の数式9のように算出される。
【数9】
【0045】
ビット番号NbがN2のbit(即ち、2bit目)に対する対数尤度比LLRN2は、下記の数式10のように算出される。
【数10】
【0046】
ビット番号NbがN3のbit(即ち、3bit目)に対する対数尤度比LLRN3は、下記の数式11のように算出される。
【数11】
【0047】
ビット番号NbがN4のbit(即ち、4bit目)に対する対数尤度比LLRN4は、下記の数式12のように算出される。
【数12】
【0048】
LLR算出部20は、等化器18から出力されるベースバンド信号(受信信号)の入力を受け、前記ベースバンド信号から受信信号の同相成分xiおよび受信信号の直交成分xqを取得し、上記の数式8Bに従って受信信号の包絡線成分xrを算出するとともに、上記の数式7および数式8Aに従ってNb番目のbitに対する対数尤度比LLRNbを算出して出力する。
【0049】
そして、復号部19が、LLR算出部20から出力される対数尤度比LLRNbの入力を受け、前記対数尤度比LLRNbを使用して例えばsum-product復号法に従って低密度パリティ検査復号処理を行う。
【0050】
実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20によれば、電力誤差の確率分布R(xR)と位相誤差の確率分布φ(xφ)とが相互に独立であるとして上記の数式6によって表される受信信号の誤差全体の確率分布Z(xR,xφ)≒Z(xi,xq)に基づいて上記の数式7によって表されるNb番目のbitに対する対数尤度比LLRNbを算出することにより、対数尤度比の算出に熱雑音の影響に加えて位相雑音やフェージングなどによる分布変動の要素を考慮するようにしているので、位相雑音を含む外乱に対してロバストな低密度パリティ検査を実現することが可能となる。
【0051】
実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20によれば、また、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が正規分布/ガウス分布に基づいて回転・変動した際の確率分布も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音が支配的な環境下においても対数尤度比の算出精度を向上させることが可能となり、延いては、低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0052】
具体的には、図5に示すように、従来の対数尤度比の算出方法では、受信信号の熱雑音によって理想シンボル点を中心として正規分布/ガウス分布に基づいて受信信号の振幅が変動することを前提としている(同図中の破線円Cf参照)。このため、受信信号の位相雑音によってシンボルの位相が回転した際の変動(同図中の円弧矢印Fp参照)があると、受信した確率が高いと判断した信号Sfが実際の送信信号Ssとは異なってしまう。これに対して、実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20では、受信信号の位相雑音による変動の分布を考慮するようにしているので、すなわち、受信信号の位相雑音によってシンボルが包絡線E上で変動する状況も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音によってシンボルの位相が回転した際の変動(同図中の円弧矢印Fp参照)があっても、受信した確率が高いと判断した信号が実際の送信信号Ssと一致して低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0053】
この発明に係る対数尤度比算出回路の有効性の検証例を下記に説明する。
【0054】
この検証例では、熱雑音と位相雑音とが存在する環境下において従来の対数尤度比の算出方法とこの発明に係る対数尤度比算出回路との対数尤度比の算出精度を比較することを目的として、図6に示す評価系が用いられた。この検証例の評価系は、所定のサンプル信号を16QAM方式で変調する(同図中の符号31)とともに位相雑音および熱雑音を付加した(符号32,33)うえで、受信信号の熱雑音の分布に基づいて対数尤度比を算出する従来手法(符号34)と、受信信号の位相雑音も考慮して対数尤度比を算出するこの発明に係る対数尤度比算出回路(符号20)とのそれぞれの対数尤度比の算出精度を比較する系として構成された。
【0055】
また、この検証例の評価条件は下記のように設定された。
変調方式:16QAM方式
搬送波対雑音比(CNR):18~25dB
位相雑音レベル:-60dBc(1kHzオフセットにおける値)
QAM方式の理想シンボル間間隔:2
【0056】
ここで、対数尤度比は、送信bitが0である確率が高いときに正の値をとり、送信bitが1である確率が高いときに負の値をとる。このことを利用し、実際の送信bitと従来手法(図6中の符号34)で算出した対数尤度比の符号とを比較して符号が誤っている回数を計数する(符号35)とともに、実際の送信bitとこの発明に係る対数尤度比算出回路(符号20)で算出した対数尤度比の符号とを比較して符号が誤っている回数を計数した(符号36)。
【0057】
図6に示す評価系による結果として、図7に示すように、搬送波対雑音比のいずれの値においても、この発明に係る対数尤度比算出回路の方が符号の誤り率が小さいことが確認された。この結果から、この発明に係る対数尤度比算出回路によれば、従来の対数尤度比の算出方法と比べて、符号の誤り率が低減することが確認された。
【0058】
さらに、この検証例では、上記評価条件のとおり、搬送波対雑音比(CNR)の変動によって熱雑音が変化する一方で、位相雑音は一定であるように設定されている。この場合、従来の対数尤度比の算出手法は、受信信号の熱雑音の分布に基づいて対数尤度比を算出するので、一定の位相雑音の影響による符号の誤りが発生しているのに対し、この発明に係る対数尤度比算出回路によれば、従来手法では排除することができない一定の位相雑音の影響が適切に排除されていることが確認される。また、搬送波対雑音比(CNR)が変動して熱雑音が変化しても、従来の対数尤度比の算出手法と比べて一定の位相雑音の影響が排除されていることから、熱雑音による信号のばらつきと位相雑音による信号の揺らぎとは相互に独立であり、したがって、電力誤差の確率分布と位相誤差の確率分布とは相互に独立であることが確認された。
【0059】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0060】
具体的には、上記の実施の形態ではこの発明に係る対数尤度比算出回路が図1に概略構成を示す無線受信装置1にLLR算出部20として組み込まれるようにしているが、この発明に係る対数尤度比算出回路が組み込まれ得る無線装置の構成は図1に概略構成を示す無線受信装置1に限定されるものではなく、この発明に係る対数尤度比算出回路が他の構成の無線装置に組み込まれるようにしてもよい。
【0061】
また、上記の実施の形態では多値数が16の直角位相振幅変調方式(即ち、16QAM方式)が用いられる場合を例に挙げて説明するようにしているが、この発明が適用され得る直角位相振幅変調方式の多値数は16に限定されるものではなく、多値数がいくつであってもこの発明は適用され得る。
【符号の説明】
【0062】
1 無線受信装置
10 アンテナ
11 チャネルフィルタ
12 局部発振器
13 ミキサ
14 自動利得制御部
15 A/D変換器
16 デジタル直交検波部
17 ロールオフフィルタ
18 等化器
19 復号部
20 LLR算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7