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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176525
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】負極活物質、負極、電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20221122BHJP
【FI】
H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083011
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 駿
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050FA19
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、これを用いた負極および電池セルを提供する。
【解決手段】負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、下記式(I);Fe1-xM1Nb11-yM229-z・・・(I)[但し、式(I)中、M1およびM2は、それぞれ独立に、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、W、SnおよびMgからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす。]で表される金属酸化物の粒子であって、金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、下記式(I);
Fe1-xM1Nb11-yM229-z・・・(I)
[但し、式(I)中、M1およびM2は、それぞれ独立に、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、W、SnおよびMgからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす。]で表される金属酸化物の粒子であって、
前記金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質であって、
前記式(I)において、0≦x≦0.5である負極活物質。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の負極活物質であって、
前記式(I)において、0≦y≦0.55である負極活物質。
【請求項4】
請求項1に記載の負極活物質であって、
前記式(I)において、0<xまたは0<yである負極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の負極活物質であって、
前記M1はTiまたはAlである負極活物質。
【請求項6】
請求項4に記載の負極活物質であって、
前記M2はTaまたはWである負極活物質。
【請求項7】
請求項1に記載の負極活物質であって、
前記粒子の平均粒子径は700nm以上1.5μm以下であることを特徴とする負極活物質。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の負極活物質を含む負極。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の負極活物質を含む電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極、電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、炭素材料が広く用いられている。一般的な負極活物質である黒鉛は、理論容量が約370mAh/gと高い。しかし、充放電サイクルを繰り返すと、容量が低下して、電池寿命が短くなるという欠点を持つ。サイクル特性を悪化させる要因としては、SEI(Solid Electrolyte Interface)の形成が知られている。
【0003】
SEIは、電解液の分解物に由来する有機被膜であり、電解液の種類にもよるが、約0.7V(vs.Li/Li)付近で負極の表面に形成される。負極活物質として黒鉛を用いた場合、充電時に負極の電位が約0.1V(vs.Li/Li)程度まで下がるため、負極の表面が厚いSEIで覆われて高抵抗化する。
【0004】
従来、SEIの形成を抑制するために、約0.7V(vs Li/Li)以上で動作する負極活物質の研究・開発が進められている。
【0005】
特許文献1には、以下の内容が開示されている。「一般式LiFe1-yM1Nb11-zM229(1)で表され、直方晶型の結晶構造を有するリチウムニオブ複合酸化物を含み、前記一般式(1)において、0≦x≦23、0≦y≦1及び0<z≦6であり、M1及びM2はそれぞれ独立して、Fe、Mg、Al、Cu、Mn、Co、Ni、Zn、Sn、Ti、Ta、V及びMoからなる群より選択される少なくとも1つを含む活物質。」(請求項1参照)
【0006】
LiαFeNb1129(α=0~23)で表される鉄ニオブ複合酸化物は、リチウムイオンの拡散移動、吸蔵および放出を可能とし、1.5V(vs Li/Li)前後の電位を示すため、SEIを形成しない負極活物質として期待されている。LiαFeNb1129の理論容量は、最大で23個のリチウムイオンが吸蔵・放出されるとして、約390mAh/gと計算されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-160729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LiαFeNb1129(α=0~23)で表される鉄ニオブ複合酸化物や、その異種元素置換体は、理論容量に対して実効容量が低い点に課題を抱えている。従来合成されている鉄ニオブ複合酸化物は、特許文献1のように、結晶構造が直方晶とされている。従来の鉄ニオブ複合酸化物は、Co、Ti、Cr等の異種元素や酸素欠陥が導入された場合であっても、最大で250mAh/g程度の放電容量しか得られていない。
【0009】
そこで、本発明は、鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、これを用いた負極および電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係る負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、下記式(I);Fe1-xM1Nb11-yM229-z・・・(I)[但し、式(I)中、M1およびM2は、それぞれ独立に、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、W、SnおよびMgからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z<29を満たす。]で表される金属酸化物の粒子であって、前記金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする。また、本発明に係る負極は、前記の負極活物質を含む。また、本発明に係る電池セルは、前記の負極活物質を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、鉄ニオブ複合酸化物で形成された高容量な負極活物質、これを用いた負極および電池セルを提供することができる。前記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電池セルに内蔵される電極体の一例を示す斜視図である。
図2】実施例1の負極活物質のX線回折スペクトルである。
図3】実施例1の負極活物質のX線回折スペクトルの一部を拡大した図である。
図4】実施例4の負極活物質のX線回折スペクトルである。
図5】実施例4の負極活物質のX線回折スペクトルの一部を拡大した図である。
図6】比較例1の負極活物質のX線回折スペクトルである。
図7】比較例1の負極活物質のX線回折スペクトルの一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る負極活物質、これを用いた負極および電池セルについて説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものである。本発明は、以下の説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。本発明には、実施形態とは異なる様々な変形例が含まれる。実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0015】
本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値とする意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値や下限値は、段階的に記載されている他の上限値や他の下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載される数値範囲の上限値や下限値は、実施例中に示されている数値に置き換えてもよい。
【0016】
本明細書では、二次電池としてリチウムイオン二次電池を例にとって、実施形態についての説明を行う。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの電極への吸蔵と電極からの放出によって電極間に電位差を生じさせ、それによる電気エネルギを貯蔵する、或いは、利用可能とする電気化学デバイスである。
【0017】
本発明の対象としては、リチウムイオン二次電池とは別の名称で呼ばれる二次電池、例えば、リチウムイオン電池、非水電解質二次電池、非水電解液二次電池等も含まれる。本発明の技術的思想は、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池、亜鉛二次電池、アルミニウムイオン二次電池等に対しても適用することができる。
【0018】
以下で例示している材料群から材料を選択して用いる場合、本明細書に開示されている内容と矛盾しない範囲で、その材料を単独で用いてもよく、複数の材料を組み合わせて用いてもよい。また、本明細書に開示されている内容と矛盾しない範囲で、以下で例示している材料群以外の材料を用いてもよい。
【0019】
<電池セル>
図1は、電池セルに内蔵される電極体の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、電極体400は、正極100と、負極200と、セパレータ300と、を備えている。正極100と負極200が、セパレータ300を挟んで積層されて、一つの電極体400が形成されている。
【0020】
電極体400は、不図示の外装体に収容される。図1において、電極体400としては、平板状の一個が示されているが、平板状の複数個を積層して用いることもできる。電極体400と、不図示の外装体と、配線部品、封止・絶縁部品、安全部品等によって、単電池としての電池セル1000が形成される。
【0021】
正極100は、正極合剤層110と、正極集電体120と、正極タブ130と、を有している。図示した正極100において、正極合剤層110は、平板状の正極集電体120の両面に形成されている。正極タブ130は、正極集電体120の端部に、平板状の突片として設けられている。
【0022】
負極200は、負極合剤層210と、負極集電体220と、負極タブ230と、を有している。図示した負極200において、負極合剤層210は、平板状の負極集電体220の両面に形成されている。負極タブ230は、負極集電体220の端部に、平板状の突片として設けられている。
【0023】
集電体120,220や、電極タブ130,230は、スポット溶接、超音波接合等の各種の方法で互いに接合することができる。電極体400同士は、電気的に並列に接続してもよいし、電極体400の一部又は全部を電気的に直列に接続してもよい。電極タブ130,230は、外部端子と電気的に接続される。
【0024】
外装体の内部には、電極間に電荷のキャリアを伝導させるための電解液が注入される。外装体に収容された電極体400は、電解液に浸漬された状態で保持される。電極体400や電解液は、外装体、ガスケット等の封止部品によって封止されて、水分、空気等との接触が阻止される。但し、電極間に固体電解質を用いる場合には、電解液を注入しなくてもよい。
【0025】
電池セルの形状は、筒形、角形、ボタン形、ラミネート形等のいずれであってもよい。図1において、電極体400は、平板状の電極が積層された積層型とされている。しかし、電極体400は、電池セルの形状等に応じて、帯状の電極が螺旋状に巻回された巻回型とされてもよい。
【0026】
外装体は、筒形電池、角形電池、ボタン形電池等の場合、金属缶として設けることができる。金属缶は、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等を用いて形成することができる。
【0027】
外装体は、ラミネート形電池の場合、袋状のラミネート容器として設けることができる。ラミネート容器は、多層フィルムをヒートシール、接着剤等で貼合して形成することができる。多層フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、アルミニウム箔等の各種のフィルムを積層して形成することができる。
【0028】
<正極>
正極100の正極合剤層110は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な正極活物質を含有する。正極合剤層110は、正極活物質を含む正極合剤を用いて形成される。正極合剤層110は、正極合剤層110の導電性を向上させるための導電剤、正極活物質や導電剤を結着させるためのバインダ等を含有してもよい。また、正極合剤層110は、固体電解質を含有してもよい。正極合剤層110にイオン伝導率が高い固体電解質を用いると、正極中におけるイオン伝導性を向上させることができる。
【0029】
正極活物質としては、LiCo系複合酸化物、LiNi系複合酸化物、LiMn系複合酸化物、LiCoNiMn系複合酸化物、LiFePO系複合酸化物、LiMnPO系複合酸化物等の適宜の活物質を用いることができる。正極活物質の具体例としては、LiCoO、Li(Co,Mn)O、Li(Ni,Mn)O、Li(Co,Ni,Mn)O、LiMn、LiFePO、LiMnPO、等が挙げられる。正極活物質としては、これらの遷移金属を異種元素で置換した酸化物や、化学量論比とは異なる酸化物を用いることもできる。異種元素としては、例えば、Co、Ni、Mn、Al、Ti等が挙げられる。
【0030】
正極合剤層110の導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、導電性高分子等を用いることができる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。カーボンナノファイバとしては、ピッチ系カーボンナノファイバ、PAN系カーボンナノファイバ等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリアセン等が挙げられる。導電剤の量は、例えば、正極合剤層110当たり、1~30質量%とすることができる。
【0031】
正極合剤層110のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等を用いることができる。バインダの量は、例えば、正極合剤層110当たり、1~20質量%とすることができる。
【0032】
正極集電体120としては、金属箔、穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等を用いることができる。正極集電体120の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等が挙げられる。正極集電体120の厚さは、機械的強度とエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは10nm~1mm、より好ましくは1~100μmとする。正極タブ130は、正極集電体120と同様の材料で形成することができる。
【0033】
<負極>
負極200の負極合剤層210は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な負極活物質を含有する。負極合剤層210は、負極活物質を含む負極合剤を用いて形成される。負極合剤層210は、負極合剤層210の導電性を向上させるための導電剤、負極活物質や導電剤を結着させるためのバインダ等を含有してもよい。また、負極合剤層210は、固体電解質を含有してもよい。負極合剤層210にイオン伝導率が高い固体電解質を用いると、負極中におけるイオン伝導性を向上させることができる。
【0034】
負極活物質としては、後記するように、式(I)で表される金属酸化物の粒子であって、結晶構造が単斜晶系である活物質が用いられる。このような負極活物質を用いると、負極200を、SEIが形成されない約0.7V(vs Li/Li)以上で動作させることができる。また、単斜晶系の結晶構造とすると、従来の直方晶系の鉄ニオブ複合酸化物と比較して、高容量が得られる。
【0035】
負極合剤層210の導電剤としては、正極合剤層110と同様の材料から選択して用いることができる。導電剤の一次粒子径は、負極活物質の粒子径以下であることが好ましい。このような導電剤を用いると、比表面積が大きくなり、負極活物質との接触性が向上するため、導電性に優れた導電ネットワークを形成できる。
【0036】
好ましい導電剤の具体例としては、カーボンブラック「Super P」(MTI社製、比表面積:62m/g)や、アセチレンブラック「HS-100」(デンカ社製、比表面積:39m/g)が挙げられる。導電剤の量は、例えば、負極合剤層210当たり、1~30質量%とすることができる。
【0037】
負極合剤層210のバインダとしては、スチレン-ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等を用いることができる。バインダとしては、カルボキシメチルセルロース等の増粘性の樹脂を併用してもよい。バインダの量は、例えば、負極合剤層210当たり、1~20質量%とすることができる。
【0038】
負極集電体220としては、金属箔、穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等を用いることができる。負極集電体220の材料としては、銅、ステンレス鋼、チタン、ニッケル等が挙げられる。負極集電体220の厚さは、機械的強度とエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは10nm~1mm、より好ましくは1~100μmとする。負極タブ230は、負極集電体220と同様の材料で形成することができる。
【0039】
<合剤層形成法>
合剤層110,210は、活物質とバインダや導電剤を溶媒中で混練して合剤を調製し、合剤を集電体に塗工し、塗工した合剤を乾燥させて形成することができる。集電体上に形成した合剤層は、活物質が所定の密度となるようにプレス成形する。合剤層は、塗工から乾燥までの工程を繰り返して、集電体上に積層することもできる。合剤層を形成した集電体は、必要に応じて、打ち抜き加工、切断加工等を施して電極とすることができる。
【0040】
合剤の混練は、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、バタフライミキサ、二軸混練機等の各種の装置で行うことができる。原料や合剤を分散させる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、水等の各種の溶媒を用いることができる。合剤を塗工する方法としては、ロールコート法、ドクターブレード法、ダイコート法、ディッピング法、スプレー法等の各種の方法を用いることができる。
【0041】
<セパレータ>
セパレータ300は、電極間の短絡を防止する一方で、電極間でイオンを伝導させる媒体として働く。セパレータ300は、微小な空孔を有する絶縁性の微多孔膜、電解液を絶縁性の粒子に担持させて得られる不揮発性電解質、および、絶縁性の固体電解質のうち、いずれか一種または複数種の組み合わせを用いて形成できる。
【0042】
微多孔膜のセパレータ300は、ポリプロピレン、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂や、ガラス繊維、有機繊維等で形成することができる。微多孔膜としては、微多孔質の膜に限定されるものではなく、多孔質シート、不織布等を用いることもできる。
【0043】
不揮発性電解質のセパレータ300は、電解質塩を溶解したイオン液体等の電解液と、その電解液を担持させる絶縁性の担持粒子とによって形成することができる。不揮発性電解質は、担持粒子を結着させるためのバインダを含有してもよい。不揮発性電解質によると、電解液を担持粒子の粒子間の細孔中に保持させてイオン伝導を媒介させることができる。電解液の揮発や流動が抑制されるため、電解液の液漏れや組成変化を起こり難くすることができる。
【0044】
担持粒子としては、絶縁性であり、電解液に不溶で電気化学的に安定である限り、各種の粒子を用いることができる。担持粒子の具体例としては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、セリア(CeO)等の無機粒子や、粒子状の固体電解質が挙げられる。
【0045】
不揮発性電解質のセパレータ300は、担持粒子をペレット状やシート状等に圧縮成形する方法や、担持粒子にバインダの粉末を混合して柔軟性の高いシート状等に成形する方法や、担持粒子とバインダとを溶媒中で混練してシート状等に成形し、乾燥させて溶媒を除去する方法等で形成できる。電解液は、担持粒子を成形した後に担持粒子の粒子間に充填してもよいし、担持粒子を成形する前に担持粒子と混合してもよい。
【0046】
不揮発性電解質のバインダとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VdF-HFP))、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアルギン酸、ポリアクリル酸等を用いることができる。
【0047】
固体電解質のセパレータ300は、Li10GePS12、LiS-P等の硫化物系固体電解質や、LiLaZr12等のガーネット型固体電解質や、La2/3-xLi3xTiO等のペロブスカイト型固体電解質や、NASICON型固体電解質等によって形成することができる。固体電解質としては、高分子ゲルによるゲル電解質を用いることもできる。固体電解質を用いると、電池セルの全固体化や、電極体400同士の直列化が可能になる。
【0048】
セパレータ300は、材料の種類に応じて、電極間に配置する方法や、電極上に塗布等で形成する方法によって、電極に対して積層することができる。セパレータ300の厚さは、絶縁性と電池セルのエネルギ密度とを両立する観点からは、好ましくは数nm~数mmとする。
【0049】
<電解液>
電解液は、リチウムイオン等の電解質と、電解質を分散・溶解させる溶媒と、を含有する。電解液は、電池セルのサイクル特性や安定性、電解液の難燃性等を向上させる目的で、各種の添加剤が添加されてもよい。但し、セパレータ300として固体電解質を用いる場合は、電解液を用いなくてもよい。
【0050】
電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)等を用いることができる。
【0051】
溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、γ-ブチロラクトン、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン等の各種の非水溶媒を用いることができる。
【0052】
<負極活物質>
負極活物質としては、下記式(I)で表される金属酸化物の粒子であって、単斜晶系の結晶構造を有する活物質が用いられる。
Fe1-xM1Nb11-yM229-z・・・(I)
[但し、式(I)中、M1およびM2は、それぞれ独立に、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ta、W、SnおよびMgからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、F、Cl、Br、NおよびSからなる群より選択される一種以上の元素、または、酸素欠陥を表し、0≦x<1、0≦y<11、0≦z≦<29を満たす。]
【0053】
式(I)で表される金属酸化物は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能であり、電子が注入されると、リチウムイオンを吸蔵し、電子が放出されると、リチウムイオンを放出する。金属酸化物中の遷移金属、酸化物イオン等の価数変化によって、リチウムイオンの可逆的な吸蔵・放出に対する電荷補償がなされる。
【0054】
このような負極活物質は、インサーション型と呼ばれている。式(I)で表される金属酸化物は、電池セルの充電時にはリチウムイオンを吸蔵し、放電時にはリチウムイオンを放出するため、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることができる。
【0055】
式(I)で表される金属酸化物は、単斜晶系であり、単位格子が、a≠b≠c、α=γ=90°、且つ、β≠90°を満たす結晶構造を有する。式(I)で表される金属酸化物は、単斜晶系の結晶構造を体積比で50%以上の主相として有する酸化物であって、FeNb1129で表される鉄ニオブ複合酸化物、ないし、その構成元素の一部が異種元素で置換された異種元素置換体、ないし、酸素の一部が欠損した酸素欠損体に相当する。結晶構造の体積比は、例えば、X線回折測定におけるスペクトルの積分比から算出できる。
【0056】
FeNb1129は、Nb1229のニオブイオンが鉄イオンで置換された構造を有している。Nb1229の結晶構造は、ReO型の単位格子が4×3で配列したブロック構造で構成されており、シア構造(shear structure)を持つ。Nb1229の結晶構造中では、金属(M)に6個の酸素(O)が配位したMOの八面体が、互いに頂点を共有し、ブロック構造間では互いに稜を共有して、平面構造を形成している。
【0057】
FeNb1129では、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う電荷補償に、Fe、Nb等が関与する。そのため、FeNb1129によると、約1.0~2.5V(vs Li/Li)において、リチウムイオンの可逆的な吸蔵・放出が可能である。また、トンネル構造を持つ結晶構造によって、リチウムイオンの高い伝導性が得られる。
【0058】
そのため、式(I)で表される金属酸化物によると、SEIの生成電位である約0.7V(vs Li/Li)以上で作動し、SEIが形成されない効率的な負極が得られる。SEIの形成による容量低下、負極の高抵抗化、サイクル特性の悪化等が起こらなくなるため、サイクル特性や電池寿命が良好な電池セルを得ることができる。
【0059】
また、FeNb1129は、結晶系が多形性を示し、直方晶系(orthorhombic)の結晶構造および単斜晶系(monoclinic)の結晶構造のいずれかをとることが知られている。直方晶と単斜晶では、ReO型の単位格子が配列したブロック構造間の結合が異なる。FeNb1129は、焼成温度が約1250℃を超える場合、直方晶系となり、焼成温度が約1250℃未満である場合、単斜晶系となる。
【0060】
従来のFeNb1129に基づく異種元素置換体や酸素欠損体は、比較的高温で焼成されているため、直方晶系の結晶構造として得られている(X. Lou et al., Electrochimica Acta 245, 2017, 482-488、X. Lou et al., ChemElectroChem 2017, 4, 3171-3180参照)。
【0061】
これに対し、本発明においては、負極活物質として、単斜晶系の結晶構造を有する式(I)で表される金属酸化物を用いるため、直方晶系の場合と比較して、電池セルを高容量化することができる。結晶構造が単斜晶系であると、結晶構造に基づいて、異なる反応速度や充放電サイクル挙動が得られる可能性がある。また、約1250℃未満の低温で焼成されるため、直方晶系の場合と比較して、結晶粒子径の粗大化を抑制できる。そのため、充放電反応の均一性や可逆性が高く、高い実効容量を示す負極活物質が得られる。
【0062】
なお、式(I)には、全てのリチウムイオンが脱離した完全放電状態の金属酸化物が示されている。しかし、式(I)で表される金属酸化物は、任意の個数のリチウムイオンが吸蔵された充電状態であってもよい。式(I)で表される金属酸化物は、充電状態では、LiαFe1-xM1Nb11-yM229-zで表される。例えば、0<α≦23を満たす。
【0063】
式(I)のM1は、主として鉄(Fe)に置換させるための元素を表す。M1で表される元素としては、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、錫(Sn)が挙げられる。M1で表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0064】
M1で表される元素は、Feとイオン半径が近いため、異種元素置換で導入すると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、価数変化を生じる金属元素を導入すると、電荷補償性や電子伝導性を向上させることができる。
【0065】
M1で表される元素としては、Ti、Al、Cr、Co、Ni、Cuが好ましく、Feによる電子状態の調整に有効な点や、作動電位内で酸化還元反応し易い点等から、Ti、Alが特に好ましい。なお、M1で表される元素は、主として八面体MOの金属サイトに置換されるため、結晶構造上は、Nbに置換されてもよい。
【0066】
M1の係数xは、1未満であり、安定な結晶構造を保つ観点等からは、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。また、M1の係数xは、0以上であり、M1で表される元素を積極的に添加する場合、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上、0.12以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を向上させることができる。
【0067】
式(I)のM2は、主としてニオブ(Nb)に置換させるための元素を表す。M2で表される元素としては、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、マグネシウム(Mg)、錫(Sn)が挙げられる。M2で表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0068】
M2で表される元素は、Nbとイオン半径が近いため、異種元素置換で導入すると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、作動電位内で価数変化を生じる金属元素を導入すると、電荷補償性や電子伝導性を向上させることができる場合がある。
【0069】
M2で表される元素としては、Ti、V、Ta、W、Mo、Snが好ましく、イオン半径等の点で、TaまたはWが特に好ましい。なお、M2で表される元素は、主として八面体MOの金属サイトに置換されるため、結晶構造上は、Feに置換されてもよい。
【0070】
M2の係数yは、11未満であり、安定な結晶構造を保つ観点等からは、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは1以下、更に好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.2以下である。また、M2の係数xは、0以上であり、M2で表される元素を積極的に添加する場合、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上、0.12以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を向上させることができる。
【0071】
M1で表される元素およびM2で表される元素は、少なくとも一方が異種元素置換で導入されることが好ましい。すなわち、係数xおよび係数yは、少なくとも一方が0を超える数であり、0<xまたは0<yを満たすことが好ましい。異種元素置換の効果の観点からは、少なくともM2で表される元素が導入され、0<yを満たすことがより好ましい。
【0072】
式(I)のAは、酸素(O)に置換させるための元素、または、結晶構造中に導入される酸素欠陥を表す。Aで表される元素としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、窒素(N)、硫黄(S)が挙げられる。Aで表される元素としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。また、Aで表される元素と酸素欠陥の両方が導入されてもよい。
【0073】
Aで表される元素は、Oとイオン半径が近いため、異種元素置換で導入すると、結晶構造の安定性を確保しつつ、容量、サイクル特性等の性能を改変することができる。また、酸素欠陥は、ReO型の単位格子中に、空乏なサイトを形成するため、リチウムイオンの拡散速度や、周囲の電子伝導性を向上させることができる場合がある。
【0074】
Aの係数zは、29未満であり、好ましくは1.5以下である。また、Aの係数zは、0以上であり、Aで表される元素や酸素欠陥を積極的に導入する場合、0を超える数や、0を超える数や、0.01以上、0.05以上、0.1以上等とすることができる。このような範囲であると、安定な結晶構造を保ちつつ、容量、サイクル特性等の性能を向上させることができる。
【0075】
式(I)で表される金属酸化物は、負極合剤層中や金属酸化物の粒子中で、均一な化学組成を有していてもよいし、不均一な化学組成を有していてもよい。例えば、M1、M2、Aで表される異種元素や、酸素欠陥は、負極合剤層や金属酸化物の粒子の表面から深さ方向に向けて、連続的に分布が変わる濃度勾配を形成してもよいし、表面側に局所的に分布するが内部側には分布しない層構造を形成してもよい。
【0076】
式(I)で表される金属酸化物は、適宜の粒子形態とすることができる。式(I)で表される金属酸化物の粒子形態は、通常、略球状とされるが、不定形状や、粒子同士が凝集した形態とされてもよい。
【0077】
式(I)で表される金属酸化物の粒子径は、好ましくは700nm以上である。また、好ましくは12μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは4μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。粒子径が700nm以上であると、粒子径や化学組成の均一性が高く、優れた結晶性を有する粒子集合を比較的容易に調製することができる。また、粒子径が小さいほど、負極中の充填率や電解液等との接触面積が大きくなり、高容量が得られる。粒子径が1.5μm以下であると、高容量がより安定的に得られる。
【0078】
負極活物質等の粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、画像上の粒子の円相当径として求めることができる。例えば、約3~10視野以上のSEM画像を撮像し、数十~数百個以上の粒子の円相当径を計測し、その平均値を粒子集合の粒子径とすることができる。粒子径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定してもよい。
【0079】
負極活物質の結晶構造は、X線回折(X‐ray diffraction:XRD)測定によって確認することができる。CuKα線で粉末X線回折測定を行い、スペクトルをリートベルト法で解析して、格子定数、原子座標、サイト占有率等を求めて結晶構造を同定する。また、負極活物質の化学組成は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma optical emission spectrometry:ICP)、蛍光X線分析(X-ray fluorescence analysis:XRF)等によって確認することができる。
【0080】
式(I)で表される金属酸化物を用いた負極活物質の比容量(放電容量)は、初期放電時において、好ましくは250mAh/g以上、より好ましくは270mAh/g以上、更に好ましくは290mAh/g以上である。このような比容量であると、従来の直方晶系の結晶構造を有する鉄ニオブ複合酸化物と比較して、高容量な電池セルが得られる。
【0081】
式(I)で表される金属酸化物を用いた負極活物質のクーロン効率は、初期充放電時において、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは91%以上、更に好ましくは92%以上、更に好ましくは93%以上である。このようなクーロン効率であると、負極活物質の利用効率が高く、充放電サイクルに対して実効容量が大きい電池セルが得られる。
【0082】
初期放電時の比容量や、初期充放電時のクーロン効率は、式(I)で表される金属酸化物を作用極、金属リチウムを対極とした単極セルにおいて、初回等の充放電時に測定できる。完全放電後に、理論容量に対して低レートで、充電開始電圧を0.8V、充電終止電圧を3.0Vとして充電を行い、十分な緩和の後、放電終止電圧を0.8Vとして放電を行い、放電された電気量を求める。クーロン効率は、放電容量Wcと充電容量Wdとの比(Wc/Wd)として求める。
【0083】
<負極活物質の製造方法>
式(I)で表される金属酸化物は、固相法、液相法等の適宜の合成法で製造することができる。以下、固相法で合成する場合を例にとり、負極活物質の製造方法について説明する。負極活物質は、混合工程と、熱処理工程と、を経て製造される。
【0084】
混合工程では、式(I)で表される金属酸化物の原料を混合して混合粉末を得る。例えば、式(I)で表される金属酸化物の化学組成に応じて、Feを含む化合物、Nbを含む化合物、M1を含む化合物、M2を含む化合物およびAを含む化合物を、各元素が所定のモル比となるように秤量し、化合物同士を粉砕・混合する。
【0085】
Feを含む化合物としては、α-Fe、γ-Fe等を用いることができる。Nbを含む化合物としては、T-Nb、M-Nb、H-Nb等を用いることができる。M1やM2を含む化合物としては、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、窒化物、硫化物、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等を用いることができる。Aを含む化合物としては、ハロゲン化物、窒化物、硫化物等を用いることができる。
【0086】
式(I)で表される金属酸化物の原料としては、Fe、Nb、M1、M2およびAのうちの二種以上を含む化合物や、Liを含む化合物を用いることもできる。
【0087】
原料の粉砕・混合は、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の各種の混合装置を用いて行うことができる。原料の粉砕・混合は、乾式粉砕法および湿式粉砕法のいずれで行ってもよいが、粒度が均一で粒子径が小さい混合粉末を得る観点からは、湿式粉砕法で行うことが好ましい。湿式粉砕に用いる分散媒としては、水、アルコール等が挙げられる。
【0088】
熱処理工程では、混合工程で得られた混合粉末を熱処理して、単斜晶系の結晶構造を有する式(I)で表される金属酸化物を焼成する。熱処理工程では、温度を実質的に変更しない一段階の熱処理を行ってもよいし、温度を変えて複数段階の熱処理を行ってもよい。本焼成の前には、仮焼を行ってもよい。また、本焼成の後には、酸素欠陥等の格子欠陥を除去するためのポストアニールを行ってもよい。仮焼処理やアニール処理は、300~700℃等で行うことができる。
【0089】
熱処理の温度は、好ましくは900℃以上である。また、熱処理の温度は、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1150℃以下、更に好ましくは1100℃以下、更に好ましくは1050℃以下である。温度が約1250℃を超えると、直方晶系の結晶構造が形成され易くなる。一方、温度が約1250℃以下であると、単斜晶系の結晶構造を形成できる。温度が900℃以上で低いほど、結晶粒子の粗大化を避けつつ、焼成反応を進行させることができる。
【0090】
熱処理の時間は、好ましくは2~24時間、より好ましくは2~12時間である。式(I)で表される金属酸化物の結晶系は、熱処理の時間に依存しない。しかし、熱処理の時間が長いほど、均一性が高い金属酸化物を焼成することができる。また、熱処理の時間が短いほど、結晶粒子が粗大化し難く、熱処理のコストも削減される。
【0091】
熱処理の雰囲気は、酸化性雰囲気および非酸化性雰囲気のいずれとしてもよい。酸化性雰囲気としては、酸素雰囲気、大気雰囲気等が挙げられる。非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、一酸化炭素雰囲気、希ガス雰囲気等が挙げられる。非酸化性雰囲気であると、酸素欠損型の結晶構造が得られ易くなる。Aで表される元素を導入する場合は、雰囲気ガスに、塩素ガス、臭素ガス等のハロゲンガス、アンモニア、一酸化窒素等を混合することができる。
【0092】
熱処理は、適宜の熱処理装置によって行うことができる。熱処理装置としては、バッチ式焼成炉および連続式焼成炉のうち、いずれを用いてもよい。焼成炉の具体例としては、マッフル炉等の雰囲気炉、大気炉等や、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン、プッシャーキルン、ベルトキルン等が挙げられる。
【0093】
式(I)で表される金属酸化物は、焼成後に、必要に応じて分級することができる。分級は、乾式重力分離、乾式遠心分離等の乾式分級や、湿式重力沈降分離、湿式遠心分離等の湿式分級や、篩分級のいずれで行うこともできる。また、分級した粉末同士を、互いに異なる粒度群同士で混合してもよい。
【0094】
以上の製造方法によると、熱処理の温度に基づいて、単斜晶系の結晶構造を有する式(I)で表される金属酸化物が得られる。Fe、Nb等の作用によって、SEIが形成されない約0.7V(vs Li/Li)以上で動作し、且つ、結晶構造や低温焼成によって、充放電反応の均一性や可逆性が高く、高い実効容量を示す高容量な負極活物質を得ることができる。異種元素置換や酸素欠陥を導入すると、更なる高容量化、充放電の可逆性の向上、サイクル特性の向上等を図ることができる。
【0095】
また、単斜晶系の結晶構造を有する式(I)で表される金属酸化物によると、高い実効容量を示す高容量な負極や、このような負極を備えた電池セルを得ることができる。SEIが形成されない約0.7V(vs Li/Li)以上で動作するため、負極の高抵抗化、サイクル特性の悪化等が起こり難くなり、サイクル特性や電池寿命が良好になる。
【0096】
電池セルは、例えば、携帯電話、携帯用パソコン等の移動体用電源や、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、船舶等の電源や、電力貯蔵用の定置電源等の各種の用途に用いることができる。電池セルは、複数のセルを互いに電気的に接続することにより、組電池として用いることもできる。
【実施例0097】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0098】
<実施例1~6>
<負極活物質の合成>
式(I)で表される金属酸化物の負極活物質を、次の手順で作製した。FeとNbのモル比が1:11となるように、α-FeとNbを秤量し、これらの原料粉末の総重量を2gに調節した。原料粉末2gと、エタノール6gと、直径1mmのジルコニア製のボール20mgをボールミルポットに封入し、800rpmで1時間の湿式混合を行った。混合後に遠心分離を行って沈殿物を回収し、60℃で10時間以上にわたって真空乾燥させた。乾燥後の前駆体粉末をアルミナボートに乗せて電気炉に投入し、大気雰囲気下で焼成して実施例1~6の負極活物質を得た。焼成の温度および時間は、表1に示す条件とした。
【0099】
<結晶構造の同定>
合成した負極活物質の結晶構造を、X線回折(XRD)測定によって同定した。XRD測定には、粉末X線回折装置「RINT-2000」(リガク社製)を用いた。XRD測定は、次の条件で行った。X線管球:Cu、管電圧:48kV、管電流:28mA、ステップ幅:0.02度、計数時間:1.0sec。
【0100】
<負極の作製>
合成した負極活物質を用いた負極を、次の手順で作製した。負極活物質と、バインダのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤のアセチレンブラック「HS-100」(デンカ社製)を、質量比が65:10:25となるように秤量して混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混練して、負極合剤のスラリを調製した。負極合剤を銅箔上に塗工し、80℃で乾燥させてNMPを留去した後に、真空雰囲気下、120℃で10時間にわたって焼結させて負極を得た。
【0101】
<単極セルの作製>
作製した負極を用いた単極セルを、次の手順で作製した。負極を直径15mmの円形となるように切り出し、負極合剤層の密度が1.5~1.7g/cm、且つ、負極合剤層の厚さが25μmとなるようにプレスした。負極を作用極、リチウム金属箔を対極としてセパレータを挟んで積層し、電解液を含浸させて外装体に収容して単極セルを得た。セパレータとしては、厚さ30μmのポリオレフィン系積層セパレータ(宇部興産社製)を用いた。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPFを1Mとなるように溶解させた溶液を用いた。
【0102】
<負極性能の評価>
作製した単極セルを用いて、室温の初回充放電における充電容量、放電容量、クーロン効率を評価した。負極活物質の容量を390mAh/gと仮定して、負極活物質の電気量を1時間で放電する電流を1CAと定義した。単極セルを0.1CAの定電流で終止電圧0.8Vまで放電した後、0.1CAの定電流で終止電圧3.0Vまで充電した。この充電過程および放電過程の電気量(Ah)を負極活物質の量(mg)で除算して充電容量と放電容量を求めた。また、放電容量を充電容量で除算して初回充放電時のクーロン効率(%)を求めた。
【0103】
<実施例7>
FeとAlとNbのモル比が0.5:0.5:11となるように、α-FeとAlとNbを秤量し、表1に示す条件とした以外は、実施例1~6と同様にして、実施例7の負極活物質を合成し、単極セルを作製して、初回充放電時の充電容量、放電容量およびクーロン効率を評価した。
【0104】
<実施例8>
FeとTiとNbのモル比が0.5:0.5:11となるように、α-FeとTiOとNbを秤量し、表1に示す条件とした以外は、実施例1~6と同様にして、実施例8の負極活物質を合成し、単極セルを作製して、初回充放電時の充電容量、放電容量およびクーロン効率を評価した。
【0105】
<実施例9>
FeとNbとTaのモル比が1:10.45:0.55となるように、α-FeとNbとTaを秤量し、表1に示す条件とした以外は、実施例1~6と同様にして、実施例9の負極活物質を合成し、単極セルを作製して、初回充放電時の充電容量、放電容量およびクーロン効率を評価した。
【0106】
<実施例10>
FeとNbとWのモル比が1:10.45:0.55となるように、α-FeとNbとWOを秤量し、表1に示す条件とした以外は、実施例1~6と同様にして、実施例10の負極活物質を合成し、単極セルを作製して、初回充放電時の充電容量、放電容量およびクーロン効率を評価した。
【0107】
<比較例1~3>
<負極活物質の合成>
表1に示す条件とした以外は、実施例1~6と同様にして、比較例1~3の負極活物質を合成し、単極セルを作製して、初回充放電時の充電容量、放電容量およびクーロン効率を評価した。
【0108】
表1に、負極活物質の化学式、焼成の温度、焼成の時間を示す。表2に、負極活物質の結晶構造、充電容量、放電容量、クーロン効率の結果を示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
図2~7は、負極活物質のX線回折スペクトルである。図2は、実施例1のX線回折スペクトル、図3は、図2の一部を拡大した図である。図4は、実施例4のX線回折スペクトル、図5は、図4の一部を拡大した図である。図6は、比較例1のX線回折スペクトル、図7は、図6の一部を拡大した図である。
【0112】
図2~5に示すように、実施例1、4では、24°付近と26°付近に各1本のピークが現れ、単斜晶系の結晶構造であることが確認された。実施例1~10では、いずれも、図2~5と同様の結晶系に帰属されるスペクトルが得られた。実施例1の平均粒子径は、約700nmであった。実施例4の平均粒子径は、約1.5μmであった。
【0113】
一方、図6~7に示すように、比較例1では、24°付近と26°付近に各2本のピークが現れ、直方晶系の結晶構造であることが確認された。比較例1~3では、いずれも、図6~7と同様の結晶系に帰属されるスペクトルが得られた。比較例1の平均粒子径は、約12μmであった。
【0114】
従来、FeNb1129は、950℃で単斜晶を形成し、1250℃で直方晶に変態することが報告されている(PIOTR TABERO, Ceramics, 49, (2), 126-131, (2005)参照)。FeNb1129の結晶構造は、焼成時の温度で熱力学的に定まり、単斜晶を得るためには900~1250℃、直方晶を得るためには1250℃以上の熱処理が必要といえる。
【0115】
表2に示すように、実施例1~10は、単斜晶系の結晶構造であり、比較例1~3は、直方晶系の結晶構造である。単斜晶系の結晶構造は、直方晶系の結晶構造と比較して、充電容量や放電容量が高容量化することが確認された。FeNb1129の充電過程は、結晶構造中に吸蔵されたリチウムイオンと電子との反応や、Fe、Nb等の遷移金属と電子との反応によって進行し、放電過程は、これらの逆反応によって進行する。実施例1~10では、リチウムイオンの吸蔵が進行し易くなったため、充電容量が大きくなり、放電容量も大きくなったと考えられる。
【0116】
実施例1~6に示されるように、熱処理の時間が4時間程度あれば、十分な焼成が可能であるといえる。また、実施例7~10に示されるように、異種元素置換されていると、容量の向上は限定的であるものの、クーロン効率が向上した。異種元素置換すると、結晶構造に歪みが導入された場合、リチウムイオンの拡散移動が妨げられ、容量が向上し難くなるが、電子状態が適切に改変された場合、インサーション反応の反応効率が向上し、充放電の可逆性が改善されると考えられる。
【符号の説明】
【0117】
100 正極
110 正極合剤層
120 正極集電体
130 正極タブ
200 負極
210 負極合剤層
220 負極集電体
230 負極タブ
250 負極端子
300 セパレータ
400 電極体
1000 電池セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7