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特開2022-176536マスク用フィルタ及び当該マスク用フィルタを備えるマスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176536
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】マスク用フィルタ及び当該マスク用フィルタを備えるマスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20221122BHJP
   A62B 18/08 20060101ALI20221122BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/08 Z
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083022
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】516067601
【氏名又は名称】エム・テックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 魏
(72)【発明者】
【氏名】竹ノ下 友基
(72)【発明者】
【氏名】曽田 浩義
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA16
2E185CB11
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ息苦しさを軽減することが可能なマスクを提供する。
【解決手段】本発明に係るマスク用フィルタは高分子材料である第1材料からなる繊維である第1繊維の集積体である繊維集積体を含んでなるマスク用フィルタである。第1繊維は300nm以上であり且つ5000nm未満である繊維径を有し、繊維集積体において第1繊維同士が不規則に絡み合っている。第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値である中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下であ、変動係数が0.50以上であり且つ0.65以下である。また、繊維集積体の嵩密度は0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である。本発明に係るマスクは上述した本発明に係るマスク用フィルタと本発明フィルタよりも低い圧力損失を有し且つ本発明フィルタと積層されて本発明フィルタを支持するシート状の部材である支持部材とを備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料である第1材料からなる繊維である第1繊維の集積体である繊維集積体を含んでなるマスク用フィルタであって、
前記第1繊維は300nm以上であり且つ5000nm未満である繊維径を有し、
前記繊維集積体において前記第1繊維同士が不規則に絡み合っており、
前記第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値である中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下であり、
前記第1繊維の繊維径の数量分布における変動係数が0.50以上であり且つ0.65以下であり、
前記繊維集積体の嵩密度が0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である、
ことを特徴とする、マスク用フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載されたマスク用フィルタであって、
前記繊維集積体における前記第1繊維の間の距離の平均値である平均繊維間距離が0.1μm以上であり且つ10μm以下である、
ことを特徴とする、マスク用フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたマスク用フィルタであって、
前記繊維集積体の厚み方向に平行な断面において前記第1繊維の前記厚み方向に配向している部分が占める面積の当該断面の面積に対する比である厚み配向比が0.18以上であり且つ0.35以下である、
ことを特徴とする、マスク用フィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載されたマスク用フィルタであって、
前記第1材料はポリオレフィンである、
ことを特徴とする、マスク用フィルタ。
【請求項5】
請求項4に記載されたマスク用フィルタであって、
前記第1材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子材料である、
ことを特徴とする、マスク用フィルタ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載されたマスク用フィルタと、
前記マスク用フィルタよりも低い圧力損失を有し且つ前記マスク用フィルタと積層されて前記マスク用フィルタを支持するシート状の部材である支持部材と、
を備えることを特徴とする、マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用フィルタ及び当該マスク用フィルタを備えるマスクに関する。より具体的には、本発明は、安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ息苦しさを軽減することができるマスク用フィルタ及び当該マスク用フィルタを備えるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
所謂「PM2.5」等の微小粒子状物質を始めとする大気汚染、杉及び檜等の花粉によって引き起こされる花粉症、並びに各種ウイルス等の病原体によって引き起こされる感染症等の予防及び/又は感染拡大防止等を目的として、口及び鼻を覆うマスクの需要が高まっている。このようなマスクは、「家庭用マスク」として従前より使用されてきたガーゼタイプと、「医療用マスク」として一般的に使用されてきた不織布タイプとに大別され、近年では家庭用マスクにおいても不織布タイプが主流となっている。
【0003】
不織布タイプのマスクは、一般的には、外側の外側不織布、顔に触れる側の内側不織布、及び外側不織布と内側不織布との間に挟まれたフィルタ機能を有するフィルタ不織布によって構成されている(例えば、特許文献1を参照)。本発明者の知見によれば、一般的に流通している市販の家庭用マスクを構成するフィルタ不織布は、概ね20μm乃至30μmの平均繊維径及び概ね20μm乃至80μmの平均繊維間距離を有し、必ずしも十分な捕集機能及び遮断機能を達成することはできていない。
【0004】
一方、例えば防塵用マスク又は医療用マスク等、高い捕集機能及び遮断機能が要求される用途において使用される高性能マスクを構成するフィルタ不織布は、数μmの平均繊維径及び概ね5μm乃至10μmの平均繊維間距離を有し、家庭用マスクに比べて高い捕集機能及び遮断機能を達成している。しかしながら、このような高い捕集機能及び遮断機能を達成し得るフィルタ不織布は非常に高価であり、高性能マスクの価格は家庭用マスクの数倍にも及んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3224548号公報公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、当該技術分野においては、安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ息苦しさを軽減することが可能なマスクが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、所定の繊維径分布を有する微細な繊維同士が不規則に絡み合った集積体をマスク用フィルタとすることにより、安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ息苦しさを軽減することが可能なマスクを提供することができることを見出した。
【0008】
具体的には、本発明に係るマスク用フィルタ(以降、「本発明フィルタ」と称呼される場合がある。)は、高分子材料である第1材料からなる繊維である第1繊維の集積体である繊維集積体を含んでなるマスク用フィルタである。また、本発明フィルタは以下に列挙する技術的特徴(1)乃至(5)を有する。
(1)第1繊維は300nm以上であり且つ5000nm未満である繊維径を有する。
(2)繊維集積体において第1繊維同士が不規則に絡み合っている。
(3)第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値である中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下である。
(4)第1繊維の繊維径の数量分布における変動係数が0.50以上であり且つ0.65以下である。
(5)繊維集積体の嵩密度が0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である。
【0009】
一方、本発明に係るマスク(以降、「本発明マスク」と称呼される場合がある。)は、上述した本発明フィルタと、本発明フィルタよりも高い通気性(低い圧力損失)を有し且つ本発明フィルタと積層されて本発明フィルタを支持するシート状の部材である支持部材と、を備えることを特徴とする、マスクである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明フィルタは、上述した所定の繊維径分布を有する微細な繊維である第1繊維同士が不規則に絡み合った集積体である繊維集積体を含んでなる。また、本発明マスクは、上述した本発明フィルタと支持部材とを備えるマスクである。これにより、安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ圧力損失を低減することが可能なマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係るマスク用フィルタ(第1フィルタ)を構成する繊維集積体の外観の一例を示す写真である。
図2】第1フィルタの構造の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】第1フィルタの繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径の数量分布の2つの例を示す模式的なグラフである。
図4】本発明に該当しないマスク用フィルタの繊維集積体を構成する繊維の繊維径の数量分布の2つの例を示す模式的なグラフである。
図5】第1フィルタ及び従来吸着材に含まれる繊維集積体を構成する繊維の繊維径のバラツキを示す模式的なグラフである。
図6】本発明の第2実施形態に係るマスク用フィルタ(第2フィルタ)の構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】本発明に該当しない市販のマスクを構成するフィルタ不織布の構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】本発明に該当しない市販のマスクを構成するフィルタ不織布の構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9】本発明に該当しない市販のマスクを構成するフィルタ不織布の構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図10】本発明の第4実施形態に係るマスク(第1マスク)の構成の一例を示す模式図である。
図11】第1マスクの構成のもう1つの例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係るマスク用フィルタ油吸着材(以降、「第1フィルタ」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0013】
〈構成〉
第1フィルタは、高分子材料である第1材料からなる繊維である第1繊維の集積体である繊維集積体を含んでなるマスク用フィルタである。更に、第1繊維は300nm以上であり且つ5000nm未満である繊維径を有する。第1材料は、高分子材料であり且つマスク用フィルタとしての使用環境及び使用条件に耐えることが可能である限り特に限定されない。第1材料の具体例としては、例えばポリオレフィン等を挙げることができる。典型的には、第1材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子材料である。また、第1材料は、異なる複数種の高分子材料の組み合わせであってもよい。換言すれば、第1繊維は、異なる複数種の高分子材料からなる繊維の組み合わせであってもよい。
【0014】
尚、繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された繊維集積体の画像解析等によって測定することができる。例えば、複数の撮影箇所の各々において測定された繊維径の平均値に対する撮影箇所の数の分布を繊維径の数量分布とみなしてもよい。上述したように、第1繊維の繊維径は300nm以上であり且つ5000nm未満である。この範囲内にある繊維径を有する第1繊維は、安定的な生産が可能であり且つマスク用フィルタとして高い捕集機能及び/又は遮断機能(飛沫等の飛散防止機能)を達成することができる。
【0015】
加えて、繊維集積体においては、第1繊維同士が不規則に絡み合っている。本明細書において、「第1繊維同士が不規則に絡み合っている」状態とは、第1繊維同士の絡み合いが例えば特定の方向への捩れ等による単純な絡み合いではなく、第1繊維同士が三次元的且つ複雑に絡み合っている状態を意味する。これにより、低い圧力損失と高い捕集機能及び/又は遮断機能(飛沫等の飛散防止機能)とを両立させることができる。また、詳しくは後述するように、高い伸縮性を有する支持部材との組み合わせによって構成された本発明マスクを口元に密着させる場合において第1フィルタが支持部材と共に伸長しても、フィルタとしての目が粗くならず(第1繊維の間の隙間が広がらず)、マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能を維持することができる。
【0016】
図1は第1フィルタを構成する繊維集積体の外観の一例を示す写真であり、図2は第1フィルタを構成する繊維集積体の構造の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図1及び図2においては、第1フィルタ101を構成する繊維集積体の一例として、300nm乃至5000nmの繊維径を有するポリプロピレン繊維からなる繊維集積体の外観写真及びSEM写真がそれぞれ例示されている。即ち、この例においては、第1材料はポリプロピレンであり、第1繊維は上記繊維径を有するポリプロピレン繊維である。図2から判るように、第1フィルタ101を構成する繊維集積体においては、第1繊維同士が不規則に絡み合っている。
【0017】
尚、第1フィルタを構成する繊維集積体は、例えば所謂「メルトブロー法」及び「乾式紡糸法」等、当該技術分野において広く採用されている微細な繊維の製造方法を応用することによって製造することができる。「メルトブロー法」及び「乾式紡糸法」の詳細については当業者に周知であるので、ここでの説明は省略する。これらの製造方法において、第1材料からなる微細な繊維である第1繊維が生成される過程において、第1繊維同士を不規則に絡み合わせることにより、上述したような繊維集積体を得ることができる。
【0018】
また、第1フィルタにおいては、繊維集積体を構成する第1繊維の中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下である。ここで、「中心繊維径」は、繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値である。換言すれば、「中心繊維径」は、第1繊維の繊維径の数量分布において出現頻度が最も高い繊維径を意味する。
【0019】
図3は、第1フィルタの繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径の数量分布の2つの例を示す模式的なグラフである。このようなグラフは、繊維集積体の複数の箇所において走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、個々の箇所について画像解析によって測定された繊維径の平均値を個々の箇所における繊維径として算出し、算出された繊維径と出現頻度(撮影箇所の数)との関係をグラフ化することによって得ることができる。即ち、図3に例示するグラフの横軸及び縦軸はそれぞれ出現頻度(撮影箇所の数)及び繊維径を表し、当該グラフは第1繊維の繊維径の数量分布を示す。図3の(a)は、出現頻度(撮影箇所の数)が最も多い繊維径(即ち、第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値)である中心繊維径が800nmである第1繊維によって構成される繊維集積体における繊維径の数量分布を示す。図3の(b)は、中心繊維径が1500nmである第1繊維によって構成される繊維集積体における繊維径の数量分布を示す。第1フィルタを構成する繊維集積体においては、上記のようにして特定することができる中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下である範囲に入っている。これにより、高い捕集機能及び遮断機能を達成することができる。
【0020】
一方、図4は、本発明に該当しないマスク用フィルタの繊維集積体を構成する繊維の繊維径の数量分布の2つの例を示す模式的なグラフである。図4の(a)は、中心繊維径が4500nmである第1繊維によって構成される繊維集積体における繊維径の数量分布を示す。図4の(b)は、20μmの中心繊維径を有する繊維によって構成される市販の家庭用マスクを構成するフィルタ不織布の繊維集積体における繊維径の数量分布を示す。このように中心繊維径が上述した800nm以上であり且つ2500nm以下である範囲に入っていない繊維集積体においては、第1フィルタのように高い捕集機能及び遮断機能を達成することができない。
【0021】
尚、第1繊維の「中心繊維径」は、例えば、上述した「メルトブロー法」による繊維集積体の製造過程において、例えば第1材料を含む液体である第1液の温度及び吐出量並びに吐出された第1液に含まれる第1材料を糸状に延伸しながら下流側へと搬送するガスの温度及び流速等の製造条件を調整することによって変化させることができる。
【0022】
更に、第1フィルタにおいては、繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径の数量分布における変動係数が0.50以上であり且つ0.65以下である。ここで言う「変動係数」は、第1繊維の繊維径の数量分布におけるバラツキの大きさを示す指標であり、当業者に周知であるように、第1繊維の繊維径の数量分布の標準偏差を第1繊維の繊維径の平均値によって除算することによって得ることができる。
【0023】
図5は、第1フィルタ及び従来技術に係るマスク用フィルタ(従来フィルタ)に含まれる繊維集積体を構成する繊維の繊維径の分布を示す模式的なグラフである。図5の(a)は、図3の(b)に例示した1500nmの中心繊維径を有する第1繊維の繊維径の分布を示し、変動係数は0.59である。一方、図5の(b)は図4の(b)に例示した市販の家庭用マスクを構成するフィルタ不織布の繊維集積体を構成する20μmの中心繊維径を有する繊維の繊維径の分布を示し、変動係数は0.18である。図5の(a)と(b)との比較からも明らかであるように、第1フィルタの繊維集積体における繊維径分布の変動係数は市販の家庭用マスクを構成するフィルタ不織布(従来フィルタ)の繊維集積体における繊維径分布の変動係数に比べて大幅に大きい。その結果、第1フィルタによれば、従来フィルタに比べて、高い捕集機能及び遮断機能を達成することができる。
【0024】
尚、上記「変動係数」もまた、上述した第1繊維の「中心繊維径」と同様に、例えば、上述した「メルトブロー法」による繊維集積体の製造過程において、例えば第1材料を含む液体である第1液の温度及び吐出量並びに吐出された第1液に含まれる第1材料を糸状に延伸しながら下流側へと搬送するガスの温度及び流速等の製造条件を調整することによって変化させることができる。
【0025】
尚、高い捕集機能及び遮断機能を達成しつつマスクの着用者の息苦しさの過剰な増大を抑制する観点からは、フィルタ不織布の圧力損失の過剰な増大を抑制することが望ましく、このためには繊維集積体の嵩密度を所定の範囲に維持することが重要である。そこで、第1フィルタにおいては、繊維集積体の嵩密度が0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である。
【0026】
当業者に周知であるように、「嵩密度」とは、物体の質量を見掛けの体積によって除算することによって得られる値である。第1フィルタの捕集機能及び遮断機能(ろ過率)並びに圧力損失との強い相関を有する空隙率は、例えば繊維集積体を構成する第1繊維の繊維径の数量分布及び第1繊維同士の絡み合いの程度等の影響を受け、上記「嵩密度」に概ね反比例する。即ち、嵩密度が低いことは空隙率が高いことを示し、嵩密度が高いことは空隙率が低いことを示す。
【0027】
当業者に周知であるように、繊維集積体の嵩密度が大きいほど(即ち、空隙率が小さいほど)各ろ過率が大きくなる(即ち、捕集機能及び遮断機能が高まる)。また、当業者に周知であるように、繊維集積体の嵩密度が増大するほど圧力損失が増大する(即ち、着用時における息苦しさが増す)。本発明者は、繊維集積体の嵩密度が0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である場合に圧力損失の過剰な増大を抑制しつつ高い捕集機能及び遮断機能を維持することができることを見出した。より好ましくは、繊維集積体の嵩密度は0.01g/cm以上であり且つ0.03g/cm以下である。
【0028】
尚、第1フィルタの「嵩密度」もまた、例えば、上述した「メルトブロー法」による繊維集積体の製造過程において、第1材料を含む液体である第1液の温度及び吐出量並びに吐出された第1液に含まれる第1材料を糸状に延伸しながら下流側へと搬送するガスの温度及び流速等の製造条件を調整することによって変化させることができる。更に、上記のようにして製造された繊維集積体をシート状のフィルタとして成形する過程における繊維集積体の圧縮率によっても第1フィルタの「嵩密度」は変化する。
【0029】
〈効果〉
以上のように、第1フィルタは、以下に列挙する技術的特徴(1)乃至(5)を有する。
(1)第1繊維は300nm以上であり且つ5000nm未満である繊維径を有する。
(2)繊維集積体において第1繊維同士が不規則に絡み合っている。
(3)第1繊維の繊維径の数量分布における最頻値である中心繊維径が800nm以上であり且つ2500nm以下である。
(4)第1繊維の繊維径の数量分布における変動係数が0.50以上であり且つ0.65以下である。
(5)繊維集積体の嵩密度が0.01g/cm以上であり且つ0.05g/cm以下である。
これにより、第1フィルタによれば、安価に大量生産が可能であり且つ圧力損失の過剰な増大を抑制しつつ高い捕集機能及び遮断機能を維持することが可能なマスクを提供することができる。
【0030】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係るマスク用フィルタ(以降、「第2フィルタ」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0031】
本明細書の冒頭において述べたように、本発明者の知見によれば、一般的に流通している市販の家庭用マスクを構成するフィルタ不織布は、概ね20μm乃至30μmの平均繊維径及び概ね20μm乃至80μmの平均繊維間距離を有し、必ずしも十分な捕集機能及び遮断機能を達成することはできていない。一方、例えば防塵用マスク又は医療用マスク等、高い捕集機能及び遮断機能が要求される用途において使用される高性能マスクを構成するフィルタ不織布は、数μmの平均繊維径及び概ね5μm乃至10μmの平均繊維間距離を有し、家庭用マスクに比べて高い捕集機能及び遮断機能を達成している。しかしながら、このような高い捕集機能及び遮断機能を達成し得るフィルタ不織布は非常に高価であり、高性能マスクの価格は家庭用マスクの数倍にも及んでいる。
【0032】
ところが、前述したように、第1フィルタを構成する繊維集積体は、例えば所謂「メルトブロー法」及び「乾式紡糸法」等、当該技術分野において広く採用されている微細な繊維の製造方法を応用することによって製造することができる。即ち、第1フィルタを構成する繊維集積体は、これらの製造方法によって安定的に大量生産することが可能であるので、第1フィルタを備えるマスクを安価に提供することができる。しかも、これらの製造方法によれば、上述した高性能マスクを構成するフィルタ不織布に匹敵する平均繊維間距離を容易に達成することができる。
【0033】
〈構成〉
即ち、第2フィルタは、上述した第1フィルタであって、繊維集積体における第1繊維の間の距離の平均値である平均繊維間距離が0.1μm以上であり且つ10μm以下であることを特徴とするマスク用フィルタである。
【0034】
図6は、第2フィルタの構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。一方、図7乃至図9は、市販のマスクを構成するフィルタ不織布の構造を例示する走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図7に例示するマスクA乃至マスクC、図8に例示するマスクD乃至マスクF及び図9に例示するマスクGは、一般的な家庭用マスクを構成するフィルタ不織布のSEM写真であり、図9に例示するマスクH及びマスクIは、防塵用マスクを構成するフィルタ不織布のSEM写真である。
【0035】
それぞれのフィルタ不織布の各々につき複数の箇所のSEM写真を撮影し、それぞれのSEM写真について100箇所における繊維の間の距離を測定し、これらの測定値の平均値(平均繊維間距離)を求めた結果を以下の表1に列挙する。
【0036】
【表1】
【0037】
〈効果〉
以上のように、第2フィルタにおいては、繊維集積体における第1繊維の間の距離の平均値である平均繊維間距離が0.1μm以上であり且つ10μm以下である。即ち、第2フィルタは、上述した高性能マスクを構成するフィルタ不織布に匹敵する平均繊維間距離を有する。その結果、第2フィルタによれば、上述した高性能マスクを構成するフィルタ不織布に匹敵する優れた捕集機能及び遮断機能を達成することができる。
【0038】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係るマスク用フィルタ(以降、「第3フィルタ」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0039】
前述したように、本発明フィルタは、所定の繊維径分布を有し且つ互いに不規則に絡み合った第1繊維によって構成される繊維集積体を含んでなるマスク用フィルタである。これにより、高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ、息苦しさを軽減することができる。ところで、マスクを着用には、マスクの両端に設けられた耳紐を左右に引き伸ばして耳に掛けてマスクを所定の位置に固定する。この際、耳紐のみならずマスク本体もまた伸長するので、結果としてフィルタもまた伸長する。
【0040】
従来技術に係るマスク用フィルタ(従来フィルタ)を構成する繊維集積体においては、殆どの繊維が面内方向に(二次元的に)配向している。従って、上記のようにマスクの伸長に伴ってフィルタが伸長すると、フィルタを構成する繊維同士の間隔が広がり(フィルタとしての目が粗くなり)マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能が低下してしまう。一方、本発明フィルタを構成する繊維集積体においては、上述したように、第1繊維同士が不規則(三次元的)に絡み合っている。従って、本発明フィルタにおいては、マスクの伸長に伴って伸長する際に、厚み方向に配向していた第1繊維の少なくとも一部が面内方向へと配向する。その結果、本発明フィルタは、マスクの伸長に伴って伸長しても、従来フィルタに比べて、繊維の目が粗くならず(繊維の間の隙間が広がらず)マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能を維持することができる。
【0041】
本発明者は、更なる研究の結果、本発明フィルタを構成する繊維集積体において厚み方向(即ち、面内方向に直交する方向)に配向している第1繊維の存在比率が所定の範囲にある場合に、本発明フィルタによって達成される上記効果が顕著に達成されることを見出した。
【0042】
〈構成〉
第3フィルタは、上述した第1フィルタ又は第2フィルタであって、厚み配向比が0.18以上であり且つ0.35以下であることを特徴とするマスク用フィルタである。厚み配向比とは、繊維集積体の厚み方向に平行な断面において第1繊維の厚み方向に配向している部分が占める面積の当該断面の面積に対する比である。
【0043】
繊維集積体における厚み配向比は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された繊維集積体の画像解析等によって測定することができる。この厚み配向比は、繊維集積体において厚み方向に配向している繊維の割合を正確に表す指標ではないが、繊維集積体において厚み方向に配向している繊維の割合に対して相関を有する値であり、簡易な測定方法によって求めることができる。メルトブロー法によって製造された第3フィルタ、乾式紡糸法によって製造された第3フィルタ及び上述した表1に記載された市販の防塵マスクであるマスクHを構成するフィルタ不織布のそれぞれにつき、複数の上記断面のSEM写真を撮影し、それぞれのSEM写真について上記「厚み配向比」を求めた結果を以下の表2に列挙する。
【0044】
【表2】
【0045】
上記のように、市販の防塵マスクであるマスクHを構成するフィルタ不織布においては厚み配向比が0.09であるのに比べて、第3フィルタにおいては厚み配向比が0.18乃至0.35と非常に大きい。第3フィルタにおいては、厚み配向比が0.18以上であることにより、マスクの伸長に伴って第3フィルタが伸長しても、厚み方向に配向していた第1繊維の配向方向が面内方向へと変化する。その結果、第1繊維からなる繊維集積体のフィルタとしての目が粗くならず(第1繊維同士の間の隙間が広がらず)、マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能を良好に維持することができる。一方、厚み配向比が0.35以下であることにより、面内方向成分の占める割合が十分に確保される。その結果、伸長していない第3フィルタにおいても面内方向に配向してフィルタとしての機能を発揮するために必要な量の第1繊維が確保され、マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能が達成される。
【0046】
一方、著しく小さい厚み配向比を有する市販の防塵マスクであるマスクHを構成するフィルタ不織布においては、第3フィルタに比べて、面内方向に配向している繊維の割合が高く、厚み方向に配向している繊維の割合が低い。従って、当該マスクが伸長していない状態においては十分な捕集機能及び遮断機能を達成することができるものの、上述したようにある程度伸長した状態においてはフィルタを構成する繊維同士の間隔が広がり(フィルタとしての目が粗くなり)マスクとしての捕集機能及び/又は遮断機能が低下してしまう。これは、マスクの伸長に伴って面内方向に配向していた第1繊維の間隔が広がる一方で、繊維集積体において厚み方向に配向している繊維の割合(厚み配向比に対応)が低いために新たに面内方向に配向することができる繊維が少ないために、十分な捕集機能及び/又は遮断機能を達成するために必要な量の繊維を面内方向に配向させることが困難であるためと考えられる。
【0047】
尚、第3フィルタを構成する繊維集積体における第1繊維の配向分布において当該マスク用フィルタの厚み方向成分の占める割合(厚み配向比に対応)は、例えば、上述した「メルトブロー法」による繊維集積体の製造過程において、第1材料を含む液体である第1液に含まれる第1材料を糸状に延伸しながら下流側へと搬送するガスに対して異なる向きに流れるガスを吹き込む等して乱流を生じさせること等によって変化させることができる。
〈効果〉
以上のように、第3フィルタにおいては、繊維集積体における第1繊維の配向分布において当該マスク用フィルタの厚み方向成分の占める割合に対して相関を有する指標である厚み配向比が上述した所定の範囲にある。これにより、マスクの伸長の有無に拘わらず、十分な捕集機能及び/又は遮断機能を達成することができる。
【0048】
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係るマスク(以降、「第1マスク」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0049】
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、マスク用フィルタのみならず、当該マスク用フィルタを備えるマスクにも関する。より具体的には、本発明は、マスクが口元に密着している状態においても高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ息苦しさを軽減することができるマスク用フィルタのみならず、当該マスク用フィルタを備えるマスクにも関する。
【0050】
〈構成〉
即ち、第1マスクは、上述した第1フィルタ乃至第3フィルタの何れかに該当するマスク用フィルタである本発明フィルタと、本発明フィルタよりも高い通気性(低い圧力損失)を有し且つ本発明フィルタと積層されて本発明フィルタを支持するシート状の部材である支持部材と、を備えることを特徴とする、マスクである。
【0051】
支持部材が本発明フィルタよりも低い通気性(高い圧力損失)を有する場合、着用時における息苦しさが増し、着用者が不快感を覚える問題に繋がる虞がある。第1マスクにおいては、上記のように、支持部材が本発明フィルタよりも高い通気性(低い圧力損失)を有する。これにより、着用時における息苦しさを低減して、着用者が不快感を覚える問題を低減することができる。
【0052】
図10は、第1マスクの構成の一例を示す模式図である。図10に例示する第1マスク201は、上述した本発明の第1実施形態に係るマスク用フィルタ(第1フィルタ)101と支持部材210とを備えるマスクである。第1マスク201を構成する支持部材210は、内側(着用時における顔側)及び外側(着用時における顔とは反対側)においてそれぞれ露出する一対の第1シート211と一対の第1シート211の間に挟持されている第2シート212とによって構成されている。また、第1フィルタ101は、内側の第1シート211と第2シート212との間に挟持されている。但し、第2シート212は必須の構成要素ではなく、また第1フィルタ101は必ずしも一対の第1シート211の間に挟持されていなくてもよい。例えば、1枚の第1シートの内側に第1フィルタ101が積層されて固定されていてもよい。
【0053】
支持部材210(即ち、一対の第1シート211及び第2シート212)は、前述した不織布タイプのマスクにおいて広く使用されている不織布であり、着用時に着用者の口元を覆うことが可能な位置に第1マスク201を固定することを目的として、外側の第1シート211に耳紐221が設けられている。また、着用時に着用者の鼻の周囲に隙間が生ずることを防止することを目的として、外側の第1シート211にノーズフィット231が設けられている。
【0054】
但し、支持部材は、伸縮性を有する布地によって構成されていてもよい。この場合、上記のように耳紐を設けるのではなく、例えば図11に例示する第1マスク201’のように、支持部材210に形成された穴222に耳を挿通することによってマスクを固定してもよく、穴222に代えてスリットを設けてもよい。また、上記のようにノーズフィットを設けるのではなく、支持部材210の伸縮によって鼻の周囲に隙間が生ずることを防止してもよい。尚、図11における斜線部は、第1フィルタ101が設けられている部分を表す。
【0055】
上記のような伸縮率を有する支持部材は、様々なシート状の部材によって構成することができる。このようなシート状の部材の具体例としては、例えば、発泡ポリウレタン及び発泡ポリエステル等の発泡樹脂シート、並びにナイロン、ポリエステル、ポリウレタン及びポリプロピレン等の樹脂繊維によって構成される織物若しくは編み物等を挙げることができる。また、上述した伸縮率が達成される限りにおいて、不織布によって支持部材が構成されていてもよい。
【0056】
〈効果〉
以上のように、第1マスクは、捕集機能及び遮断機能を達成するためのフィルタとして本発明フィルタを備える。従って、第1マスクによれば、安価に大量生産が可能であり且つ高い捕集機能及び遮断機能を維持しつつ圧力損失を低減することが可能なマスクを提供することができる。
【0057】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0058】
101…マスク用フィルタ(第1フィルタ)、201及び204…マスク、210…支持部材、211…第1シート、212…第2シート、221…耳紐、222…穴、231…ノーズフィット。
図1
図2
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図4
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図8
図9
図10
図11