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特開2022-176547粘土鉱物懸濁水の噴霧による植物感染症対策方法及びその方法に用いる噴霧器
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  • 特開-粘土鉱物懸濁水の噴霧による植物感染症対策方法及びその方法に用いる噴霧器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176547
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】粘土鉱物懸濁水の噴霧による植物感染症対策方法及びその方法に用いる噴霧器
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
A01M7/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083035
(22)【出願日】2021-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】599067178
【氏名又は名称】株式会社 土佐農機
(74)【代理人】
【識別番号】100181571
【弁理士】
【氏名又は名称】栗本 博樹
(72)【発明者】
【氏名】井澤 治
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA20
2B121CB06
2B121CB47
2B121CB61
2B121CC40
2B121EA12
2B121FA15
2B121FA16
(57)【要約】
【課題】栽培室の園芸農作物に関して、栽培室への必要な換気に伴って外部から侵入し、葉面に付着する病害菌や栽培棟内に浮遊する病害菌によって引き起こす感染症に対応するものである。
【解決手段】栽培室内での噴霧方法であって、珪酸塩粘土鉱石を粉体状にし、該粉体状にした粘土鉱石を水に混合、撹拌した懸濁水若しくはその上澄み水を作成し、所定の運動量を有する空気流を発生し得る噴霧器によって微粒化して栽培室内に噴射する方法を提案するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培室内での噴霧方法であって、
粘土鉱石を粉体状にするステップと、
該粉体状にした粘土鉱石を水と混合、撹拌し、懸濁させた懸濁水を作成するステップと、
該懸濁水を空気流によって微粒化して噴霧するステップと、
を備える噴霧方法。
【請求項2】
栽培室内での噴霧方法であって、
粘土鉱石を粉体状にするステップと、
該粉体状にした粘土鉱石を水と混合、撹拌し、懸濁させた懸濁水を作成するステップと、
該懸濁させた懸濁水の上澄み水を採取するステップと、
該上澄み水を空気流によって微粒化し噴霧するステップと、
を備える噴霧方法。
【請求項3】
前記懸濁水若しくは前記上澄み水を50μm以下の直径の液滴にして噴霧する請求項1若しくは請求項2の方法。
【請求項4】
前記懸濁水若しくは前記上澄み水を、空気との質量比である液相質量/気相質量が10%以上20%以下で、噴霧する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載した方法。
【請求項5】
栽培室内で使用する噴霧器であって、
請求項1の懸濁水若しくは請求項2の上澄み水を収容する加圧液体タンクと、
ケーシングと、
ケーシングの一端側に設けられる送風機と、
前記ケーシングの内径より小径であり、前記ケーシングの他端側に噴霧方向に向けて設けられる貫通孔と、
該貫通孔内において前記送風機からの気流に対して吐出方向が所定角度を有するよう配置される吐出孔と、
該吐出孔と前記加圧液体タンクとを連通する液送管と、
前記貫通孔と連通する噴射孔と、
を備える噴霧器。
【請求項6】
前記吐出孔の先端面である吐出孔先端面が前記送風機からの気流に対して臨む傾斜平面を有する請求項5の噴霧器。
【請求項7】
噴射孔における噴射方向が上方に向いている請求項5若しくは請求項6に記載された噴霧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培室における農業用植物の感染症対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の病原菌等による感染症対策として、種々の化学合成農薬が利用されている。しかしながら、近年は化学合成農薬の副作用や健康被害の観点から、生物農薬などの化学農薬を使用しない栽培法への注目は高い。粘土鉱物については、土壌の構成物質のうち一定割合で含まれる粘土成分として重要な要素であるが、そのこと以外に、本来層状珪酸塩鉱物が有するイオン交換性、吸着性から土壌中のアンモニウムイオン固定や静菌、除菌作用の利用も提案されている。
粘土鉱物を利用したものには、土壌改良、作物の活性剤、鮮度保持、環境浄化剤等があり、また農薬キャリヤーとしてのベントナイトは、広く活用されている。
【0003】
農業用植物の感染症対策に関しては、水耕栽培における培養液中に沸石や珪酸白土の塊状体を添加する有害細菌の繁殖抑制の提案(特開昭49-069433号)がある。同じく沸石若しくは珪酸白土の粉末の水溶液に種子や種芋を浸漬処理することによる病害菌による発病抑制の提案がある(特開昭62-061904号)。生鮮野菜、果実の付着菌類の除去に粘土鉱物等を添加した水による処理(特開2008-79579)や穀類又は豆類の鮮度保持、除菌に粘土鉱物を添加した水による処理(特開2009-00007)が提案されている。
【0004】
その他、農業分野で粘土鉱物粒子の有する吸着性やイオン交換性を利用した連作障害対策の発明(特開2001-95382)がある。また、植物の果実を加害する病害虫を防除するため、果実表面に層状珪酸塩鉱物に水を含む溶媒を加えて塗布する方法が提案されている(特開2020-176059)。本発明にかかる噴霧器に関して、出願人は、効率的に液滴を微粒化でき、所定の運動量の空気噴流を噴射できる噴霧器を提案している(特許5517139号、特許6457720号)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49-069433号公報
【特許文献2】特開昭62-061904号公報
【特許文献3】特開2008-79579号公報
【特許文献4】特開2009-00007号公報
【特許文献5】特開2001-95382号公報
【特許文献6】特開2020-176059号公報
【特許文献7】特許5517139号公報
【特許文献8】特許6457720号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本粘土学会編 「粘土ハンドブック(第三版)」技法堂出版 2009年
【非特許文献2】社河内敏彦著 「噴流工学-基礎と応用-」森北出版 2013年
【非特許文献3】空気調和・衛生工学会大会 近畿支部発表論文集「空気中に噴霧された水粒子の挙動解析に関する基礎的研究」及び「同名(その2)」山中俊夫、相良和信他3名 平成22年及び平成23年
【0007】
従来から植物の感染症対策や腐敗防止として、根や果実そのものに粘土鉱物粒子を利用する提案は少なくないが、農業用の栽培室において不可欠な換気の際に室内に侵入した病害菌が葉面上に付着し、表皮細胞や細胞壁を破って或いは表皮細胞の傷口や気孔から侵入し細胞核を破って、感染症を引き起こすことへの対策として、粘土鉱物を利用する例は少ない。一方で農業用の噴霧器を薬剤の散布や潅水に利用している例は多いが、ミストの葉面への付着は濡れの発生やカビの発生などの原因にもなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、栽培室の園芸農作物に関して、栽培室への必要な換気に伴って外部から侵入し、葉面に付着する病害菌や栽培棟内に浮遊する病害菌によって引き起こす感染症に対応するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、栽培室内において、水と混合させた粘土鉱物懸濁水を空気流によって微粒化して噴霧する方法を提案するものである。
【0010】
粘土鉱物を含む鉱石は、粉体状にして水に混合し懸濁させて用いる。粉体が充分な粒度に達しない場合においても、水による分級を利用し、所定の濃度で、一定時間以上放置した状態の上澄み水を使用できる。主として、質量割合で液相/気相を20%以下で、液相の平均体積粒径50μm以下の液滴を噴霧する方法を提案する。
【発明の効果】
【0011】
粘土鉱石を粉体にして、水に混合、撹拌すると電荷を有する粘土粒子に分離され、粘土鉱物懸濁水となる。粘土鉱石を十分に微粒化できない場合でも、粘土鉱石を砕き、水に混入させ撹拌した状態の懸濁液は、懸濁直後は多くが粘土鉱石の状態で水中に懸濁しているが、一定時間放置していると鉱石状態から分離し、粘土粒子状態となる。このような懸濁水の上澄みには、沈降の極めて遅い微粒の粘土鉱石と分子状態の粘土鉱物とが混在する。この懸濁水では、粘土鉱物分子の結晶構造や化学組成に由来する特異な性質を発現する。分子はコロイド状態となり、分散・凝集する。粘土粒子の層構造は帯電し、イオン交換性を有している。このイオン交換性や層構造による層間の水分子に関連して、水を含めて種々のものを吸着することが知られている(趣旨は非特許文献1p4~p6による)。
植物の感染症を引き起こす微生物である病原の多くは、表面を帯電しており、粘土鉱物上澄み液中では、そのイオン交換によってあるいは粘土粒子が有する吸着性によって、本来の病原の活動が制限されるものと考えられる。しかしながら、通常の水への粘土鉱石の浸漬のみでは、作り出すことのできる粘土粒子の濃度は低く、大きな効果が期待できない。一方、空気噴流中の水は噴流の運動エネルギーによって液滴に細・微粒化し、飽和水蒸気圧に満たない雰囲気で水を噴霧すると、液滴表面から空中へ水成分を急速に蒸発させる。
【0012】
これらのことを利用すると、粘土鉱物の懸濁水若しくはその上澄み水を噴霧すると水分の蒸発によって急速に粘土鉱物の濃度上昇が生じる。特に、2流体噴射弁を用いた大きな初速を有する気液混相流では、その現象は著しく、極めて短時間で大きな濃度上昇を生じる。この微細な液滴は、空中を浮遊する感染症病原そのものや病原を保有する水滴を混合し、粘土鉱物粒子を高い濃度を有する懸濁液の液滴の中で病原は、その活動を制約されることものと考えられる。しかしながら、粘土粒子と感染病菌等の関係については、未だ充分に解明されているとは言えず、粘土粒子が前記特性によって植物の成長を刺激するため、感染症への抵抗力が増進するとの説も存在する。何れの場合においても本発明はその効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、水中に懸濁した粘土粒子の重量を示したグラフである。
図2図2は、粘土鉱石粉体(平均6.98μm)の粒度分布図である。
図3図3は、粘土鉱石粉体(平均2.87μm)の粒度分布図である。
図4図4は、各種の2流体噴射弁の説明図である。
図5図5は、噴霧器の全体構成示す説明図である(実施例1)。
図6図6は、噴霧器の2流体噴射弁の構造詳細図である(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、鉱物とは、地殻中に存在する一定の化学式で表すことのできる無機物をいい、鉱石とは、前記鉱物を含む岩石のことをいい、粘土鉱石とは、粘土を多く含む鉱石をいうものとする。また、粘土とは、一般に土を構成する一定の粒径より小さな土粒子を指すが、本発明においては、層状構造の珪酸塩鉱物からなる鉱物若しくは鉱物粒子をいう。この層状構造の基本構造は、Si4+を4つのO2-が囲んだ4面体構造の頂点を除く3つ点のO2-を隣接する4面体で共有する4面体シートとAl3+等を中心とし6つのO2-又は(OH)が囲む8面体の2つ頂点を除く4つの点のイオンを共有する8面体シートからなる。これらの4面体シートと8面体シートの組合せによって種々の粘土鉱物が形成される。本明細書の実施例で用いる粘土鉱石は、スメクタイト系の粘土鉱物を多く含むものとされており、表1の成分構成である。スメクタイト系の粘土鉱物は、上記の4面体シートが8面体シートを挟んで組み合う層構造であり、2:1層と呼ばれる。そして層間には水分子を有し、金属陽イオンが存在し層表面のマイナス電荷とバランスしているとされている(表1に関連すること以外の趣旨は、非特許文献1p21~p27による)。
【0015】
【表1】
【0016】
鉱石として産出される状態では、粘土鉱物以外鉱物(以下、本明細書においては不純物ともいう。)を含むと同時に、上記粘土鉱物は複雑で密な状態で折り重なっていて粘土の特性は表れない。粘土として上述の独特な性質は、水と混合若しくは水に懸濁することによって現れるものである。先の「0003」~「0004」に記載した従来発明もそのような粘土鉱物の特性を利用したものである。極めて微細なナノレベルの粘土粒子は水中においてはコロイド状態で存在するが、重力の影響、ブラウン運動などの他、先述の電気的性格や分子間引力によって、分散・凝集を繰り返し得る。静水中においても、粘土粒子コロイドは、極めて沈降しにくく、浮遊しているが、粘土粒子の量が増加するに従い凝集してフロックを形成し沈降するものもあると考えられる。
【0017】
本発明において、粘土粒子が有する先述の特性を利用するため、層状珪酸塩鉱物を多く含む鉱石を用いて、鉱石の状態から目的とする粘土鉱物の純度を高くし、且つ鉱石から分離したコロイド状態の粘土粒子をできる限り多く含む懸濁水を活用するための方法として、以下の手順を踏む。
第1段階として、鉱石をクラッシャーによって粉体状にし、微小な粒度の粉体を作成する。本実施例においては、平均約7μmの粉体を水で分級したものについて詳細を説明する。なお、本明細書において、分級とは、鉱石が水中での沈降速度の差によって、ふるい分けることをいう。
第2段階として、前記粉体を水と混合、撹拌し、懸濁水を作成する。分級の必要がある場合は、懸濁後、静水状態にし、粒径の大きな粘土鉱石や不純物を沈降・分級し、その上澄み水を採取する。本発明における上澄み水とは、粘土粒子の懸濁水であり、不純物及び粘土粒子に分離していない粘土鉱石を前記懸濁水から除いたものをいう。従って、不純物が少ない粘土鉱石を水中で粘土粒子に分離しやすい程度に微細の粉体にした場合、水に混合・撹拌することによって、そのままの状態で次の第3段階の懸濁水として利用することができる。
第3段階として、第2段階で得られた懸濁水を空気噴流によって液滴化し、更に栽培室内で水分を蒸発させ細粒化・微粒化し、濃度を高める。
【0018】
第1段階において、上記成分の鉱石を平均約7μmにした粉体の粒度分布を図2に示す。棒グラフが確率分布であり、丸表示の折れ線が累積分布である。これは、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定機によるものである。なお、本明細書において、粉体及び細粒若しくは微粒とは、概ね直径100μm以下の固体若しくは液体をいう。
【0019】
第2段階において、この粘土鉱石の粉体を水に撹拌し、懸濁させ、数時間を経た上澄み液の状態について説明する。一般に粒子の粒径を測定する沈降法の基本的な考え方として、水中における個々の検体を球体と仮定した場合の沈降速度を求める下記のストークスの式がある。検体と水の密度差によって沈下する速度から求めるものである。水による分級の基本式である。
【0020】
【数1】
【0021】
本式によると鉱石の密度を2.65g/cm、水の密度を1.0g/cmとし、水の温度を20℃の粘性係数1.004×10-3Pa・秒とすると、8時間後に表層から10cmの上澄みでは、鉱石の粒径を2μm以上の鉱石が除去される。図2によると2μm以下の粒径の検体は全体の約8%となっている。粒径の計測推定方法が異なるので定量的な評価には課題は残るが、上記ストークスの法則によると、懸濁水の上澄み水の中における懸濁物質は図2の累積分布の一定の粒径以下のものが、一定の割合で残ることになる。
【0022】
本実施例において対象とする上記の粘土鉱石の粉体を1/500~1/20000の重量割合で水に懸濁させた後、2日経過後の懸濁の上澄み水について、該上澄み水中に含まれる珪素量の分析結果が表2の通りである。各濃度の懸濁水から表の下方に示す手法による不溶性珪素量と溶液中珪素量からなる全珪素量を測定している。なお、本項若しくは関連する項における溶性若しくは不溶性に関しては、表の下方に記載する方法によって検出されたものを指し、実体上のイオン状態で珪素が水中に溶け出した量を意味するものではない。溶媒中の珪素に関しては、実験にビーカーを使用したため珪素を検出したものと思われる。表2に示される測定された珪素から溶媒中の珪素を減じた量について、表1を用いて粘土成分に推定換算したのが次の表3である。実施例で用いた鉱石に関して、不純物がない粘土粒子の集合体と仮定して、表3の下方に示す粘土換算方法により算出したものである。
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
表3の換算した粘土成分量を対数グラフで表示したのが図1である。左縦方向に示すものが懸濁粘土重量であり、丸表示が全粘土重量換算値で、四角表示が溶液中珪素による粘土粒子重量換算値(以下表3に係る数値に関して、「換算値」の表現は省略する。)である。一方、右縦方向に表示するのが懸濁時の粘土重量に対する上澄み懸濁水中の粘土粒子重量割合を示すもので、黒丸表示している。測定値からの推定される粘土重量に関しては、「0020」に示すストークスの法則による想定とは異なる結果を示している。前記のストークスの式は、鉱石状態での水との密度差による沈降現象を表すものであり、表3の計算結果は、2日間の静水状態によって、粘土鉱石から粘土粒子に分離された状態を示すからである。粉体の粒度を小さくすることによって、水への懸濁による粘土粒子への分離時間を減ずることはできると推定する。本実施例においては、1/500~1/20000の懸濁上澄み水での粘土重量は、懸濁時の全量に対する比率で、約5%~93%であり、懸濁濃度の減少に従って、粘土重量比率が大きく上昇している(黒丸と破線でしめす曲線)。懸濁時濃度の高い1/500の懸濁水の上澄み水では、上澄み水に残留している粘土成分は、約5%である。懸濁時濃度の低い1/20000の懸濁水では、約93%が懸濁水中に残り、約7%が沈降して上澄み液に残らない状態を示している。このことは、本実施例の粘土鉱石は不純物が少ないことを示している。1/500~1/20000の懸濁水について、懸濁・撹拌した後静水で放置した状態で粘土鉱石から分離した粘土粒子の割合に大きな違いがないとすると、静水状態で放置している間に、コロイド状態の粘土粒子は、コロイド間距離の短い状態(濃度が高い)では凝集し、比較的大きなフロックを形成し沈殿したものと推定される。
【0026】
重量比で1/500~1/20000の懸濁水中の粘土粒子について、表3に示す溶液中のものと不溶性のものの測定重量について、溶液中のものに大きな差はないが、不溶性のものには大きな差(図1の□表示分と丸表示との差分)が生じている。溶液中のものと不溶性のものが1/500ではほぼ同量となっている一方で、1/20000の場合は、86%は溶液中のものである。表2に示す測定方法によると、不溶性とは5Aのろ紙に残る粘土粒子成分(5Aのろ紙の保留粒子径は7μmであり、2日間静水の上澄み水には、ろ紙に残る鉱石や不純物は極めて少ないものと考える。)であり、この上澄み水のろ紙残留成分は、比較的規模の小さな粘土粒子フロックであり。沈殿することなく浮遊しているものであると考えられる。この結果によると、測定濃度1/20000以下の濃度の懸濁上澄み水は、粘土粒子単独に近い状態の噴霧液を効率的に得ることができるが、濃度が低い。一方で1/500以上の濃度の懸濁水では、上澄み水として利用できる粘土鉱物量の効率は極めて低いものと考えられる。
【0027】
水中若しくは空中に浮遊する粘土粒子群が感染症対策として最も効果的に機能するのは、粘土粒子が単体として浮遊するような粘土鉱物の表面積が大きい粒子状態や比較的小規模な粘土粒子フロックや分散しやすい粘土粒子フロックが高い濃度で存在し懸濁している上澄み水を噴霧対象とする場合であると推定する。
図3のグラフは、表1成分の粘土鉱石を図2に示す粉体より更に微小な粉体とするクラッシャーで平均2.87μmにしたものである。本粉体の懸濁水においても懸濁水中において沈降物は視認され、粘土粒子への未分離成分が認められる。懸濁水の上澄み時間を短くし、更に懸濁水をそのまま利用することを可能とするための粘土粒子の効率的な分離には、更に粘土鉱石の微粒化若しくは水への撹拌・混合に工夫が必要である。
【0028】
第3段階としては、第2段階で得られた懸濁水若しくはその上澄み水を空気噴流によって液滴化し、更に液滴の中に含まれる溶媒に当たる水を水蒸気として空中に蒸発させ、極めて粘土粒子濃度の高い液滴とすることを目的とする。更に完全に蒸発した場合には、粘土粒子は、表面を覆う水から分離し、空中を浮遊する状態を創出することができる。
【0029】
本発明における噴霧器の使用主たる目的は、栽培室内に置ける潅水ではない。粘土鉱物懸濁水若しくはその上澄みを液滴化し、更に微粒化するとともに、出来るだけ栽培室全体に粘土粒子成分が行き渡るようにするためのもので、基本的には液相(水)/気相(空気)の質量比(以下噴流質量比ともいう。)を最大0.2としている。但し、実施例(下記の「0042」)で示すように、栽培室内湿度が低い場合などは潅水目的を兼ねた施業も行い得るものとしている。本発明の噴霧器において、液体を含む空気噴流を噴射する部分を2流体噴射弁と呼ぶ。栽培室においては、該2流体噴射弁からの液滴を含む噴流の空気と噴流周辺の栽培室内の空気との2種の気体が存在する。簡便のため、それらについて噴流本体、周辺空気と呼ぶ。
【0030】
噴霧器の噴霧特性は、噴霧液滴の粒子径、噴霧到達距離、噴霧角度、噴霧パターンとされる。上述の本発明における噴霧器の使用目的から、噴霧粒子径は、出来るだけ小さいことが望ましく、噴霧到達距離は、栽培室全体に及ぶ程度が必要で、噴霧角度は、葉の裏面に気孔が多いことを勘案すると上方に向かうのが望ましく、栽培室内環境特に湿度環境を勘案する噴霧パターンを考慮する必要がある。噴霧粒子径は、噴霧器の2流体噴射弁の噴射孔及び吐出孔形状、噴霧圧力、噴流質量比に関わる。本明細書において、噴霧液滴の粒子径は、レーザ光線を照射した測定法を用い、平均噴霧粒径は、ザウター平均粒径を用いる。
【0031】
2流体噴射弁から噴出する空気噴流は、噴射孔の直近を除いて、周辺空気を巻き込み、液滴と混合しながら流動する。水中の粘土粒子コロイドの濃度上昇や空中浮遊等勘案すると、この噴流は、吐出液体を液滴化し、更に細微粒化するのに必要な運動エネルギーを有すると共に、所定の噴霧距離をうるための運動量を有する必要がある。そのため、この噴流は、レイノルズ数が高く、いわゆる乱流噴流である。乱流の軸対象円形噴流に関しては、以下の流動特性が理論値として提案されていて実験値との検証もされている(非特許文献2p30~p34)。
【0032】
【数2】
【0033】
液体が気体の運動エネルギーを効率的に受ける2流体噴射弁としては、液体吐出孔を取り囲むように気体噴射孔が配された構造が適しており、その構造に関しては、図4に示すような外部混合型、内部混合型若しくはその中間型の2流体噴出弁がある。本実施例では、図4(3)に示す中間型を採用している。また、液滴の半径と液滴の粘土粒子濃度を支配する蒸発量に関しては以下のことがいえる。
【0034】
【数3】
【0035】
噴霧器による懸濁液の液滴化及び粒径の細粒化には、2流体噴射弁の形状、空気流の流速、噴射孔の大きさによるが、液滴化後の微粒化には、周辺空気の湿度、温度や周辺空気との相対速度等に関連した液滴表面からの水分の蒸発による。この水分の蒸発によって、液滴内の粘土粒子成分の濃度が高まる。半径の小なる液滴を送出することは、噴霧器の2流体噴射弁による空気噴流の運動エネルギーを懸濁液への伝達することに支配されるが、その後の液滴の運動による周辺空気との関連による蒸発には、初期の液滴の半径が大きく関連する。数3によって、同一条件下で液滴半径に反比例して液滴の蒸発量は増大することが理解できる。更に具体的な液滴の蒸発量について、周辺空気との熱収支式、質量保存式、運動方程式を用いた解析として非特許文献3が挙げられる。本文献による解析結果として、「Figure7 Behabior of Droplet from Numerical Analysis (a)Radius of Droplet」は、温度20℃、初期水平速度10m/s、相対湿度50%で、10μm~100μmの5種類の半径の液滴での解析結果である。半径25μm以下では数秒で急速に液滴は消滅し、更に10μmでは1秒程度である状況が理解できる。
【実施例0036】
本例の噴霧器1を図5(1)に側方からの断面による内部構造示す。該噴霧器は、加圧液体タンク2とケーシング3とケーシング内の一端に設けられる送風機31とを備え、ケーシングの他端に固定されたケーシングの内径より小径の貫通孔32が噴霧方向に形成され、更に他端の先端には噴頭部33を設け、噴頭部の下流端は噴射孔4となっている。前記加圧液体タンクには、表2の成分の粘土鉱石を図2に示す平均約7μmにした粉体状の粘土鉱石を粘土鉱石(粉体)/水の重量比1/500~1/20000の何れかの重量比で懸濁させ、2日間静置した上澄み水を収容している。該加圧液体タンク内上部の空気部26と気流が流れるケーシング内若しくは貫通孔とを連結し、液体タンク内上部に空気を送る気送管35が設けられ、液体タンクを加圧する役割を有している。ケーシング他端側には、噴頭部が設けられ、前記貫通孔は更に小径の3箇所の噴頭部貫通孔34に分かれ、噴射孔4へと連通している。噴射孔の構造については、図5(2)に正面図を示す。図6(1)に噴霧器の2流体噴射弁11の拡大詳細図を示すが、加圧液体タンクに連通する液送管21は、液送分岐部23を通じて前記の小径の3箇所の噴頭部貫通孔に設けられた3箇所の吐出孔24に分岐している。該吐出孔は、前記噴頭部貫通孔内における前記送風機からの気流に対して吐出方向が所定の角度(本例では90度)を有するように配置される。噴頭部貫通孔の上流方向から見た拡大図は図6(2)に示す。貫通孔内の気流に対して臨む吐出孔先端面25を形成している。図6(3-1)及び(3-2)は、前記先端面が2つの面から形成されている例を示している。このような吐出孔先端面は、貫通孔内の気流に対して吐出液(懸濁水)を薄く引き伸ばす効果を有しており、吐出液の液滴の細・微粒化に影響を及ぼし、特に気流に対して30度から45度の傾斜角度が望ましい(参照文献 特許文献7及び特許文献8、但し、噴霧器を構成する要素の名称に変更箇所はある。)。
【0037】
本例の噴霧器1において、前記噴頭部貫通孔34とは、送風機31からの気流の貫通部である貫通孔32を噴頭部33によって、同一条件の3箇所の貫通部に分流したものであり、貫通孔の一部に設けられた名称である。図5(2)に示す3箇所の噴射孔4の直径を8.5mmとし、所定の送風機及び電源によって、20g/秒の空気流の噴射が可能であり、流速では約100m/秒になる。本例では、3箇所の噴射孔は、40mmの外接円41内に配置され、相互に干渉若しくは関連し、噴射孔近傍で一体化し、その後は一つの噴流として挙動するものと解し得る。そこで、下記数4の検討により、軸対象円形噴流として解析する。この仮想の軸対象円形噴流に対して、数2の噴流特性を用いて、噴射孔から下流の位置の流動状況を表4に示す。
【0038】
【数4】
【0039】
【表4】
【0040】
表4は、数4の検討より、直径8.5mmである噴射孔3箇所に対して、14.72mmの噴射孔1箇所からの乱流の軸対象円形噴流として、流動状況を算出したものである。初速100m/秒に対して、1m下流では、噴流の中心流速である最大流速は、8.82m/秒と急速に低下するが、噴流体積流量は、21.8倍となっており、周辺空気を巻き込んでいる様子がうかがえる。このような状態では、乱流噴流中の液滴は、周辺空気と噴流本体間の大小様々な渦中にあるとともに、平均的にも相対速度を有して、周辺空気と接していると解される。10m下流においては、最大流速は、0.882m/秒となっている。噴射孔から10m間の液滴の流下時間を各点の最大流速で算出すると6秒以下であり、仮に最大流速で浮遊したとしても6秒程度で10mに達する。「0035」の検討を勘案すると、噴射孔付近における液滴の平均粒径(直径)50μmとし、望ましくは30μm以下となる。
【0041】
実施例1における液滴の吐出例として、空気密度を1.205kg/mとし、最大質量比20%で、吐出する液体を約4g/秒と設定する。周辺空気の湿度80%で、液滴の粒子径は、噴射孔付近でザウター平均粒径30μmを計測している。また、目視による噴霧距離は、20mであった。噴霧距離、20mは通常の栽培室には、必要な距離であると解される。また、目視による噴霧距離に関しては、その距離において、蒸発されずに液滴が残存していることを意味するが、質量比を最大としており、相対湿度が高い状態だからである。この場合の数4におけるレイノルズ数Reは、動粘性係数1.512×10-5/秒とした場合、約97000である。
【0042】
粘土鉱石/水の重量比1/500と1/20000の懸濁上澄み水では、表3に示す通り、全懸濁粘土粒子重量(表記は全量粘土粒子)は約2:1であるが、栽培室内の湿度環境に応じて、空気/液体の質量比を調整した噴霧によって、栽培室内への放出粘土粒子重量を一定にすることができる。例えば、湿度の高い状態では、1/500の上澄み水を噴流質量比10%以下での噴霧を実施し、湿度の低い状態では、1/20000の上澄み水を質量比20%以上で噴霧することができる。一方、前記の上澄み水の重量比が同じものを用いて、噴霧回数の調整により、栽培室内への放出粘土粒子重量を一定にすることができる。このように、噴霧懸濁上澄み水の濃度(重量比)、噴霧回数及び噴霧時間によって、湿度環境や感染症にかかる栽培室内環境に応じて調整した噴霧を行うことが可能である。
【実施例0043】
噴霧対象の栽培室 切りバラの通年出荷のための3棟で4000m
栽培方法 土耕栽培
噴霧液 表1の粘土鉱石を図2の粒度分布にした粉体を用い、重量比で1/500の前記粉体を水道水と混合・撹拌し懸濁水を作成し、12時間放置後に採取した上澄み水
条件1
栽培室 基本密閉(換気のため少なくとも1回/1日の開放時間帯あり)
噴霧期間 11月~4月
噴霧量 実施例1の噴霧器による3~4L/1000m
噴霧方法 夕刻1回/3日~4日の噴霧 (夜間密閉)
条件2
栽培室 側面開放
噴霧期間 5月~10月
噴霧量 実施例1の噴霧器による3~4L/1000m
噴霧方法 1回~数回/1日の噴霧 (全日開放)
効果 従来、黒点病、枝枯れ病、うどんこ病、立ち枯れ病等の感染症対策として薬剤散布を行っていたが、薬剤を使用することなく1年間の施業で薬剤散布と同様な効果があった。立ち枯れ病に関しては、土壌由来の感染症であるが、葉面、茎以外からの感染症に対しても効果がある可能性を有している。
【実施例0044】
噴霧対象の栽培室 イチゴ栽培3棟で3000m
栽培方法 土耕栽培
噴霧液 表1の粘土鉱石を図2の粒度分布にした粉体を用い、重量比で1/500の前記粉体を水道水と混合・撹拌し懸濁水を作成し、12時間放置後に採取した上澄み水
条件1
栽培室 基本密閉(換気のため少なくとも1回/1日の開放時間帯あり)
噴霧期間 11月~4月
噴霧量 実施例1の噴霧器による3~4L/1000m
噴霧方法 夕刻1回/3日~4日の噴霧 (夜間密閉)
条件2
栽培室 側面開放
噴霧期間 5月、6月、10月
噴霧量 実施例1の噴霧器による3~4L/1000m
噴霧方法 1回~数回/1日の噴霧 (全日開放)
効果 条件1におけるうどんこ病、条件1及び条件2における灰色カビ対策として、効果があった。
【符号の説明】
【0045】
1 噴霧器、11 2流体噴射弁、12 粘土鉱物懸濁水若しくはその上澄み水
2 加圧液体タンク、21 液送管、22 液送バルブ、23 液送分岐部、24 吐出孔、25 吐出孔先端面、26 液体タンク空気部
3 ケーシング、31 送風機、32 貫通孔、33 噴頭部、34 噴頭部貫通孔、35 気送管
4 噴射孔、41 噴射孔外接円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培室内での植物の感染症対策としての空中への噴霧方法であって、
スメクタイト系粘土鉱石を球形換算で2μm未満の粉体状にするステップと、
該粉体状にした粘土鉱石を水と混合、撹拌し、懸濁水を作成するステップと、
該懸濁水を空気流によって平均50μm以下の直径の液滴にして噴霧するステップと、
を備える噴霧方法。
【請求項2】
栽培室内での植物の感染症対策としての空中への噴霧方法であって、
スメクタイト系粘土鉱石を平均7μm以下の粉体状にするステップと、
該粉体状にした粘土鉱石を水と混合、撹拌し、懸濁水を作成するステップと、
該懸濁水から、水との重量割合で1/10000から1/21500の粘土鉱物粒子を含む上澄み水を採取するステップと、
該上澄み水を空気流によって平均50μm以下の直径の液滴にして噴霧するステップと、
を備える噴霧方法。
【請求項3】
請求項1の懸濁水を平均30μm以下の直径の液滴にして噴霧する請求項1の方法。
【請求項4】
前記上澄み水を平均30μm以下の直径の液滴にして噴霧する請求項2の方法。
【請求項5】
請求項1の懸濁水を、空気との質量比である液相質量/気相質量が10%以上20%以下で、噴霧する請求項1若しくは請求項3の方法。
【請求項6】
前記上澄み水を、空気との質量比である液相質量/気相質量が10%以上20%以下で、噴霧する請求項2若しくは請求項4の方法。
【請求項7】
栽培室内で使用する噴霧器であって、
請求項1の懸濁水若しくは請求項2の上澄み水を収容する加圧液体タンクと、
ケーシングと、
ケーシングの一端側に設けられる送風機と、
前記ケーシングの内径より小径であり、前記ケーシングの他端側に噴霧方向に向けて設けられる貫通孔と、
該貫通孔内において前記送風機からの気流に対して吐出方向が所定角度を有するよう配置される吐出孔と、
該吐出孔と前記加圧液体タンクとを連通する液送管と、
前記貫通孔と連通する噴射孔と、
を備える噴霧器。
【請求項8】
前記吐出孔の先端面である吐出孔先端面が前記送風機からの気流に対して臨む傾斜平面を有する請求項7の噴霧器。
【請求項9】
前記噴射孔における噴射方向が上方に向いている請求項7若しくは請求項8に記載された噴霧器。