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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176554
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20221122BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B32B27/18 J
H05K9/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083046
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠山 秀旦
(72)【発明者】
【氏名】松居 久登
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AA21A
4F100AA33A
4F100AA37A
4F100AD11A
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK54A
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA08
4F100DE02A
4F100DE03A
4F100GB07
4F100GB41
4F100GB81
4F100JA04
4F100JA07
4F100JA11
4F100JA20A
4F100JD08
4F100JG01A
4F100JK08
4F100JL01
4F100JN06
4F100YY00A
4F100YY00B
5E321AA23
5E321AA44
5E321AA46
5E321BB25
5E321BB32
5E321BB33
5E321BB34
5E321BB35
5E321BB53
5E321BB60
5E321CC16
5E321GG05
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】 本発明は、薄膜でありながら電磁波シールド性が高く成形性にも優れた積層シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 互いに異なるA層とB層を交互に5層以上積層した交互積層ユニットを含む積層シートであって、A層またはB層の少なくとも片方がアスペクト比10~10000の導電性粒子を含有することを特徴とする積層シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なるA層とB層を交互に5層以上積層した交互積層ユニットを含む積層シートであって、アスペクト比が5以上10000以下の導電性粒子を導電性粒子Xとしたときに、前記A層と前記B層の少なくとも一方が、前記導電性粒子Xを含有することを特徴とする、積層シート。
【請求項2】
周波数ごとに反射減衰量を測定したときに、反射減衰量が最も大きいピークのピークトップにおける電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値が5dB/mm以上である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
アスペクト比が1以上5未満である導電性粒子を導電性粒子Yとしたときに、前記A層と前記B層のうち少なくとも一方が、前記導電性粒子Xを1vol%以上90vol%以下含有し、かつ前記導電性粒子Yを1vol%以上90vol%以下含有する、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
電気力顕微鏡(EFM)測定によって得られた長手方向断面と幅方向断面における粒子の電気的配向度がいずれも1000以上100000以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
長手方向断面と幅方向断面における粒子の配向度がいずれも10以上10000以下である、請求項1~4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
長手方向断面における粒子の配向度と幅方向断面における粒子の配向度の比が0.50以上2.00以下である、請求項1~5のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
長手方向断面における粒子の配向度と幅方向断面における粒子の配向度の比が0.1以下または10以上である、請求項1~5のいずれかに記載の積層シート。
【請求項8】
長手方向断面と幅方向断面それぞれにおいて、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの平均値が0°以上30°以下である、請求項1~7のいずれかに記載の積層シート。
【請求項9】
長手方向断面と幅方向断面それぞれにおいて、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの標準偏差が0°以上30°以下である、請求項1から8のいずれかに記載の積層シート。
【請求項10】
降温結晶化温度のうち最も低い値が70度以上200度以下、または降温結晶化温度が観測されないことを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の積層シート。
【請求項11】
シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位の少なくとも一つの単位を、樹脂成分中に1mol%以上99mol%以下含む、請求項1~10のいずれかに記載の積層シート。
【請求項12】
粒子全体の炭化水素の重量分率が85%以上100%以下である、請求項1~11のいずれかに記載の積層シート。
【請求項13】
前記導電性粒子Xと前記導電性粒子Yの少なくとも一方の平均粒径が5nm以上1000nm以下である、請求項1~12のいずれかに記載の積層シート。
【請求項14】
前記導電性粒子Xがカーボンナノチューブまたは炭素繊維であることを特徴とする、請求項1~13のいずれかに記載の積層シート。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の積層シートを用いた電子機器。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の積層シートを用いた家具。
【請求項17】
請求項1~14のいずれかに記載の積層シートを用いた建築材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性に優れる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の進歩に伴い、携帯電話や無線通信などで主に使用される数百MHz~数GHz帯域のメートル波、4G・5Gなどのモバイル通信、無線LAN(Wi-fi)通信などで主に使用される数GHz~数十GHz帯域のセンチ波、自動車衝突防止レーダーなどで主に使用される数十GHz~数百GHz帯域のミリ波に代表される、種々の周波数帯域の電磁波が使用され、大気中を飛び交っている。
【0003】
情報の容量や伝達する距離・用途に合わせて適した周波数帯域の電磁波が選択されるが、類似する周波数帯域の電磁波が様々な装置・用途で使用されるため、装置誤作動や通信障害、情報漏洩、また、電磁波に敏感な人体への影響を防ぐ目的で、電磁波を遮蔽する電磁波シールド材料のニーズが高まっている。特に、近年では、高速・大容量通信を実現するために、GHz周波数帯域の電磁波を利用する通信技術開発が加速しており、当該周波数帯域の電磁波を遮蔽できる電磁波シールド材料が求められている。
【0004】
電磁波とは、電界と磁界の2成分から構成される波であり、互いに振動しながら空間を伝播する。電磁波を遮蔽する電磁波シールド材料は、材料表面/内部で電磁波を反射、あるいは、材料内部で電磁波を吸収することで電磁波エネルギーを損失・減衰する材料を指し、反射と吸収を組合せることでより効果を高めることができる。
【0005】
例えば、電磁波の表面反射は、空気界面と電磁波シールド材料界面の電気抵抗値(インピーダンス)が異なることで効果を高めることができ、一般的に金属(銅)など非常に抵抗値が低い材料を基材表面に塗布、積層することで広範囲の周波数帯域にわたり電磁波シールド性が得られる(特許文献1)。一方、吸収による電磁波シールドは、基材内に導電性粒子および/または磁性粒子を含有させ、内部に進入した電磁波を誘導電流として吸収することで電磁波エネルギーを損失させるものであり、カーボン粒子やフェライト等の金属粒子をゴムなどの誘電体ポリマーに含有させることで吸収性能を発現している(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011-502285号公報
【特許文献2】特開2003-158395号公報
【特許文献3】特開2017-118073号公報
【特許文献4】特開2019-057730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているような反射を利用した電磁波シールド材料においては、金属スパッタリングや真空蒸着、最表層へ導電性および/または磁性粒子を含有するペースト材料をコーティングする技術が用いられるが、コーティング材料の剥落に伴う電磁波シールド性の低下によって電子機器・通信機器の短絡が生じることや、耐久性が低下することが課題となる。
【0008】
また、特許文献2~4に記載されているような吸収を利用した電磁波シールド材料においては、広い周波数帯域にわたり満遍なく電磁波をシールドする材料が多く、電磁波減衰量の絶対値を高める(電磁波シールド性を高める)ためには、基材を厚くすることや、導電性粒子の含有量を高めることが必要となる。しかしながら、基材の厚みを厚くする場合、電磁波シールド材のコシが強くなるため、ケーブルや複雑な凹凸形状を有する筐体のラッピングのような成形性が求められる用途への適用は困難となる。また、電磁波シールド材の成形性や生産効率を考慮すると、熱可塑性樹脂を用いたプレス加工品よりも熱可塑性樹脂を用いた溶融押出による連続シート化が好ましいが、導電性粒子を高濃度添含有して単膜シートを成形する場合、押出時の樹脂の溶融粘度変化(チキソトロピー性)が強くなる。そのため、シート状に押出成形する際に吐出むらが起こり均一な厚みのシート化が困難となることや、得られたシートが脆くなり割れやすくなること等が問題となる。
【0009】
本発明は上記課題を解消し、薄膜でありながら、電磁波シールド性と成形性を兼ね備えた積層シートを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成からなる。すなわち、互いに異なるA層とB層を交互に5層以上積層した交互積層ユニットを含む積層シートであって、アスペクト比が5以上10000以下の導電性粒子を導電性粒子Xとしたときに、前記A層と前記B層の少なくとも一方が、前記導電性粒子Xを含有することを特徴とする、積層シート、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、薄膜でありながら、電磁波シールド性と成形性を兼ね備えた積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときの、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップの一例を表す図である。
図2】縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときの、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップの一例を表す図である。
図3】導電性粒子Xを含んだ層の模式図である。
図4】導電性粒子X、導電性粒子Yを含んだ層の模式図である。
図5】縦軸を度数、横軸をアスペクト比の対数としてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の積層シートについて詳細に説明する。本発明の積層シートは、互いに異なるA層とB層を交互に5層以上積層した交互積層ユニットを含む積層シートであって、アスペクト比が5以上10000以下の導電性粒子を導電性粒子Xとしたときに、前記A層と前記B層の少なくとも一方が、前記導電性粒子Xを含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の積層シートは、互いに異なるA層とB層を交互に合計5層以上積層した交互積層ユニットを含むことを特徴とする。ここでいう「互いに異なる」とは、各層を構成する樹脂と粒子の少なくとも一方の組成が異なることを指しており、各層の組成を特定することが困難な場合は、以下の方法で確認することができる。
【0015】
具体的には、以下の(1)~(5)のいずれかの場合に、各層の組成が異なるとみなすことができる。(1):フィルム断面の弾性率を原子間力顕微鏡による動的粘弾性測定(AFM-DMA)にて評価し、2つの層の平均弾性率の比が1.1以上である場合。(2):電気力顕微鏡(EFM)を用いて表面電位を評価し、2つの層の平均表面電位の比が1.1以上である場合。(3):エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)を用いて原子ごとの濃度を評価し、各原子について2つの層のモル分率(または重量分率)の比が1.1以上である場合。(4)2つの層を剥離でき、2つの層の間で、密度、ガラス転移温度、融点、分解温度、分解後の灰分量を評価し、少なくともいずれか一つの値が3℃以上または10%以上異なる場合。(5)透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)にて所望の倍率(500~2万倍)で断面を観察し界面が確認できる場合。ここでいう界面が確認できるとは隣接する層間の明度が異なることを意味する。具体的には、まず明度を各層ごとに1000点測定する。続いて、層ごとの明度の平均値と、層ごとの明度の標準偏差を算出する。そして、隣接する2層の明度の平均値の差が、2層それぞれの明度の標準偏差のいずれよりも大きい場合、明度が異なるとする。なお、2種類の層のうちどちらをA層、B層とするかについては、EFMにて表面電位が高い方をB層とすることにより決定することができる。またB層に導電性粒子Xを添加している場合は、製膜性や導電性粒子の脱落防止の観点からA層を最外層とすることが好ましい。
【0016】
本発明の積層シートは、互いに異なる層を5層以上交互積層することにより、成形性に優れた層が支持層として働くことで破断点伸度が向上し、成形時に破れや穴などの欠点を抑制することができる。また熱結晶化したフィルムは脆くなるが、本発明では各層が薄くなることで熱結晶化が抑制されるため、成形時の割れなどの欠点を抑えることもできる。さらに成形時には樹脂に大きな変形が加わる一方で成形後の衝撃や傷(小変形)には強いことが望ましい。本発明の積層シートであれば、各層間の界面層は小さな変形に対しては形を保つが大きな変形に対しては界面の微小な破壊や滑りが引き起こされるため、多層化により良好な成形性が得られ成形が比較的困難な凹部分にも十分に追従することができる。上記観点から、交互積層ユニットにおける層数は11層以上であることが好ましく、51層以上であることがさらに好ましく、201層以上であることが特に好ましい。なお、交互ユニットにおける積層数の上限に特に制限はないが、製膜安定性の観点から最大でも2000層程度となる。
【0017】
本発明の積層シートは、アスペクト比が5以上10000以下の導電性粒子を導電性粒子Xとしたときに、A層とB層の少なくとも一方が、前記導電性粒子Xを含有する。ここでいう「含有する」とは後述する粒子の体積濃度の測定において0.1vol%以上含有していることを指す。導電性粒子Xは、1種類のみを用いても複数種を併用してもよい。後者の場合における導電性粒子Xの含有量は、全ての成分を合わせて算出するものとする。導電性粒子Xとしては、例えば、有機カーボン系粒子、無機系粒子、金属系粒子を単独で又は組み合わせて用いることができるが、1次粒子のサイズが小さく溶融押出にも好適であることから、有機カーボン系粒子から適宜選択することが好ましい。なお、金属系粒子のみを用いて押出機を利用した積層シート製膜を行うと、装置と導電性粒子Xの金属同士の摩擦などにより材料の粉砕、装置の欠損などの問題が生じる場合がある。そのため、導電性粒子Xのうち少なくとも1種は炭素を主成分とする有機カーボン系粒子または無機系粒子を含むことが好ましい。
【0018】
導電性粒子Xとして好適に用いることができる無機系粒子または金属系粒子としては、例えば、二酸化チタンや低次酸化チタンなどの酸化チタン類、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムなどのペロブスカイト型酸化物、酸化アンチモンドープスズ被覆マイカ、ニッケル被覆マイカ粒子、銅被覆マイカなどの金属被覆無機粒子、カルボニル鉄、カルボニルニッケルなどの一酸化炭素錯体等が挙げられる。なお、これらの粒子は、針状、円盤状、紡錘状、繊維状、数珠状などアスペクト比の高い構造を持つことが必要になる。このような構造を有することで、積層したときに導電性粒子Xが面方向により強く配列する。その結果、相互に接触した粒子の繋がりが面方向へ広がることになり、面方向への導電性パスをより強く形成し電磁波吸収性が高くなる。また、積層シート表面から見たときに粒子が存在する部分の面積が大きくなるため、粒子間の隙間からの電磁波の漏れも軽減することができる。
【0019】
導電性粒子Xとして好適に用いることができる有機カーボン系粒子としては、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック,ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック(球状カーボン)、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、カップ積み上げ型ナノチューブなどの円筒状カーボンであるカーボンナノチューブ、黒鉛,グラファイト,グラフェンなどの扁平状カーボン、その他、円筒状グラファイト、カーボンマイクロコイル、炭素繊維(長繊維、短繊維)などが挙げられる。
【0020】
中でも、積層構造による面方向への導電性粒子配列の効果により、導電性粒子Xを含有した層の導電性を向上し、また、面方向への導電性パスをより強く形成するために、構造が均一でアスペクト比の高いカーボンナノチューブ、扁平状カーボン、炭素繊維などを使用することが好ましく、導電性粒子Xがカーボンナノチューブまたは炭素繊維であることがより好ましい。一方でアスペクト比が高すぎると樹脂と導電性粒子の相互作用が強くなりすぎて、成形性が悪化する場合がある。上記観点から、導電性粒子Xのアスペクト比は20以上5000以下が好ましく、30以上3000以下がさらに好ましい。
【0021】
積層シートに用いている導電性粒子の成分を評価する方法としては、例えば、各層の樹脂を任意の溶媒に溶解して粒子を濾別し、得られた粒子を燃焼させた際の二酸化炭素、水、窒素酸化物、灰分の量を測定する方法が挙げられる。有機カーボン系粒子を用いることで炭化水素の重量分率は向上するが、有機系カーボン同士が接続して導電パスが形成される観点から、本発明の積層シートにおいては、粒子全体の炭化水素の重量分率が85%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下がさらに好ましい。なお、粒子全体の炭化水素の重量分率は、サンプルを90℃のトリエチレングリコール中で溶解し、金属フィルターにて粒子を濾別して有機微量元素分析装置により分析することで測定することができる(装置や条件は後述)。
【0022】
また、一定方向に導電性粒子を配列させて横並びに重ね合わさる態様をとることで導電パスの形成を促し、積層シートの電磁波シールド性能を高めることができる。そのためには、導電性粒子と樹脂が接している面積の合計が広い方が好ましいため、導電性粒子は細かい方が好ましい。一方で導電性粒子が細かすぎると導電性粒子の凝集による反射減衰量のムラや成形性の低下が問題となる場合や、樹脂が増粘することで積層が困難になる場合がある。上記観点から、具体的には、導電性粒子Xと導電性粒子Y(後述)の少なくとも一方の平均粒径が5nm以上1000nm以下であることが好ましく、5nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。なお、各粒子の平均粒径は、積層シートの長手方向断面と幅方向断面の観察画像より、実施例に示す方法で測定することができる。
【0023】
一般に、積層シートの電磁波吸収性を高めるには導電性粒子Xの含有量を多くする必要があるが、導電性粒子Xが過剰になると高い導電性と引き換えに、製膜性や加工性が損なわれる場合がある。反対に、導電性粒子Xが不足すると電磁波吸収の効果が十分に得られないことがある。上記観点から、A層とB層の少なくとも一方が、1vol%以上90vol%以下の導電性粒子Xを含むことが好ましく、より好ましくは5vol%以上65vol%以下、さらに好ましくは10vol%以上50vol%以下である。
【0024】
積層シートの各層の導電性粒子Xの含有量を測定する方法としては、ミクロトームまたはイオンミリングによって断面切削を行った後、走査型電子顕微鏡での画像観察により導電性粒子X部分を抽出し、層中に占める導電性粒子X部分の面積比を計測する方法が挙げられる。積層シートに異方性がある可能性がある場合には、長手方向と幅方向のそれぞれの断面で同様の測定を行い、得られた値の平均値を用いる。なお、画像観察により導電性粒子Xを特定する方法も含め、詳細な測定手順は実施例に示す。
【0025】
また、長手方向や幅方向が不明な場合は、サンプルの任意の方向から30°毎に破断点伸度を測定し、最も破断点伸度が小さい方向を長手方向とする(以下、測定にあたり長手方向や幅方向を特定する必要のある各パラメータにおいても同様とする。)。破断点伸度の測定方法は後述する。
【0026】
また、導電性粒子のアスペクト比は、各導電性粒子を楕円形近似し、長径の長さを短径の長さで割った値を算出することにより求めることができる。積層シート内の導電性粒子のアスペクト比を測定する方法としては、まずイオンミリングまたはミクロトームによって断面切削を行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察により画像を取得し、画像解析ソフトにて導電性粒子部分を抽出して楕円形近似し、長径と短径を測定して両者の比を求める方法が挙げられる。断面切削時には凍結処理や樹脂埋包処理など粒子へのダメージを抑えた方法を必要に応じて用いてもよい。また観察時には適宜チャージアップを抑えるための白金等の金属スパッタ処理を行ってもよい。画像解析ソフトとしてはImageJやMac-Viewなどが上げられ、適宜2値化や明度調整を行ってもよい。なお、シート内に異方性がある可能性がある場合には、長手方向と幅方向のそれぞれの断面で同様の測定を行い得られた値のうちアスペクト比の大きい値を用いる。このアスペクト比が5以上10000以下である導電性粒子が導電性粒子Xに相当する。
【0027】
上記のようなアスペクト比が高い導電性粒子(導電性粒子X)を用いることにより、導電性粒子X同士の接続が起こりやすく、電磁波吸収性能が向上する。特に導電性粒子Xを多く含有する層を薄くすることで、導電性粒子Xが面方向に配列して導電性粒子同士の接続が強化されるとともに、導電性粒子が隙間なく並ぶこととなる。そのため、積層シートとしたときの電磁波の漏れが抑制されて、電磁波吸収性の向上につながる。一方で、導電性粒子Xを多く含有する層を薄くするために積層シート全体を薄くすると、積層シートの電磁波吸収性の低下につながるが、上述した積層構造とすることにより積層シート全体の厚みを維持しつつ導電性粒子Xを多く含む各層をより薄くすることが可能になる。
【0028】
本発明の積層シートは、高い周波数の電磁波への適用と電磁波吸収性能を両立する観点から、周波数ごとに反射減衰量を測定したときに、反射減衰量が最も大きいピークのピークトップにおける電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値が5dB/mm以上であることが好ましい。上記観点から、当該ピークトップにおける電磁波減衰量は、10dB/mm以上であることが好ましく、より好ましくは20dB/mm以上、さらに好ましく、25dB/mm以上であることが特に好ましく、29dB/mm以上であることが最も好ましい。当該ピークトップにおける電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値の上限に特に制限はないが、性能の安定性、実現性の観点から最大でも1000dB/mm程度となる。
【0029】
通常、積層シートが薄い設計であるほど高い周波数の電磁波を吸収することができる一方で、小さい厚み変化で反射減衰量が変動するという欠点を持ちやすくなる。一方で積層シートが厚いと反射減衰量は安定するものの、高い周波数の電磁波の吸収に劣る。安定してセンチ~ミリ波帯域の電磁波を吸収できる積層シートとして鋭意検討を行った結果、電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値が上記範囲内であれば良好な反射減衰量が安定して得られることを見出した。
【0030】
積層シートの厚みは、公知のダイヤルゲージで測定することができる。反射減衰量は、積層シートに入射した特定の周波数の電磁波に対し、積層シートにより反射され戻ってきた電磁波の強度を測定した際の、積層シート内を往復する際に電磁波が損失した量を表した値であり、単位デシベル(dB)として表現される。具体的には、同軸導波管法や自由空間法を利用し、背面にアルミニウムなどで作製された金属反射板を組み合わせた積層シートに対して電磁波を照射し、金属板を反射して積層シート内を往復した電磁波の強度を計測して算出する。周波数を掃引して反射減衰を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットした反射減衰スペクトルにおいて、複数のピークが得られることがあるが、その中でも最もピーク強度(減衰量)が大きい反射減衰ピークの減衰量に着目する。ここでいうところのピークトップとは、反射減衰スペクトルの接線の傾きを考えた際に、正から負、あるいは、負から正に符号(傾き)が反転する位置を指す。反射減衰ピークの減衰量は、図1、2に示すように単一ピークトップを有する場合は、当該ピークのベースラインを基準とし、ピークトップに位置する周波数に対して、ピークトップとベースラインとの減衰量の差で表すこととする。なお、図1、2における例は単一のピークトップを有するものであるため、図中の符号1が最も反射減衰量が大きいピーク、符号2が最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量を示す。
【0031】
本発明の積層シートの反射減衰ピークのうち最も反射減衰量が大きい反射減衰ピークは、1~100GHzの周波数帯域に存在することが好ましい。本発明の積層シートを電磁波シールド用途に用いる場合は、通常、GHz周波数帯域をシールドすることが必要となるため、当該領域に最も反射減衰量が大きいピークを有することが好ましい。
【0032】
反射減衰量が最も大きいピークのピークトップにおける電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値を上記範囲内にする方法としては、例えば、シート内の導電性粒子の種類や濃度を調整してシートの誘電率を適正な範囲とする方法や製造時の厚みを調整する方法があげられる。より具体的には、アスペクト比の高い導電性粒子と低い導電性粒子(導電性粒子Xと後述する導電性粒子Y)を導電性粒子Xの体積濃度を1としたときに導電性粒子Yの体積濃度が0.1以上10未満になるように併用すること、導電性粒子Xの体積濃度を大きくすること、多層化して各層を適正な厚みとし、導電性粒子Xの配列を促すことにより、反射減衰量が最も大きいピークのピークトップにおける電磁波減衰量を積層シートの厚みで割った値を大きくすることができる。
【0033】
本発明の積層シートは、アスペクト比が1以上5未満である導電性粒子を導電性粒子Yとしたときに、A層とB層のうち少なくとも一方が、導電性粒子Xを1vol%以上90vol%以下含有し、かつ導電性粒子Yを1vol%以上90vol%以下含有することが好ましい。以下、このような態様とすることの利点について、図面を用いて説明する。図3は導電性粒子Xを含んだ層の模式図であり、図4は導電性粒子X及び導電性粒子Yを含んだ層の模式図である。なお、図3,4において符号3~5は順に樹脂、導電性粒子X、導電性粒子Yを示す。
【0034】
図3に示すように、層中にアスペクト比の高い導電性粒子(導電性粒子X)を含むと、アスペクト比の低い導電性粒子のみを用いたときに比べて導電性粒子間の距離が近い部分が生まれやすく導電パスの形成に寄与する。また、隙間が少なくなることから電磁波の漏れによる減衰量の低下も抑制できる。しかしながら、面方向と長軸が平行になるように導電性粒子Xが配列することで厚み方向への導電パス形成に改善の余地がある。そこで図4に示すように、アスペクト比が低い導電性粒子(導電性粒子Y)を併用することで厚み方向にも導電パスが広がり、より高い電磁波吸収性を実現できるようになる。上記観点から、導電性粒子Xを1vol%以上90vol%以下含有する層における導電性粒子Yの含有量は、好ましくは10vol%以上75vol%以下であり、さらに好ましくは20vol%以上60vol%以下である。
【0035】
導電性粒子Yとしては、導電性粒子Xと同様の材質の材料を用いることができる。導電性粒子同士の接続の観点から類似の材料を用いることが好ましい。具体的には、導電性粒子Xとしてカーボンナノチューブや炭素繊維のような有機カーボン系材料を用いた場合は導電性のカーボンブラックまたは黒鉛を使用することが好ましい。
【0036】
本発明の積層シートにおいては、導電性粒子X及び導電性粒子Yは、いずれもA層、B層のどちらか1層のみに含有してもよく、A層とB層の両方に含有しても良い。また、A層とB層の両方に含有する場合、それぞれの層で異なる導電性粒子を含有してもよく、同じ導電性粒子を含み、含有量が異なっていてもよい。但し、A層もしくはB層のうち、双方ともに導電性が高い層となる場合、積層シート全体として単膜の電磁波シールド材料と類似の効果を示すこととなり、所望の急峻な電磁波吸収性を得ることができない場合がある。また、表層に位置する層の導電性・誘電率が上がるため電磁波の表面反射が発生し、導電性粒子による電磁波吸収の効果が低減する場合がある。
【0037】
そのため、例えばA(BA)nの繰り返しユニットを有する積層シート、言い換えるとA層とB層が交互に積層されておりA層が両側の最表層である積層シートとした場合、表層の導電性粒子の含有量は、表層ではない層の導電性粒子の含有量よりも少ない含有量であることが好ましい。すなわち、A層が表層にあり、B層が表層ではない層である場合、A層に含有する導電性粒子の量は、B層に含有する導電性粒子の量よりも少ないことが好ましい。より具体的には、A層に含有される導電性粒子の総含有量がA層全体に対して10vol%未満であり、B層に含まれる導電性粒子の総含有量がB層全体に対して10vol%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の積層シートは、高い電磁波吸収性を実現し、電磁波吸収性のムラを軽減する観点から、長手方向断面と幅方向断面における粒子の配向度がいずれも10以上10000以下であることが好ましく、100以上5000以下がより好ましく、300以上2000以下がさらに好ましい。ここで長手方向断面とは、長手方向と厚み方向に平行な面で積層シートを切断したときの断面をいい、幅方向断面とは、幅方向と厚み方向に平行な面で積層シートを切断したときの断面をいう。また、粒子とは積層シートに含まれる導電性粒子全体をいい、積層シートが導電性粒子Xのみを含む場合は導電性粒子Xを、積層シートが導電性粒子X,Yをともに含む場合は両者を指す。各配向度を上記範囲とすることにより、導電性粒子同士を効果的に接続し高い電磁波吸収性を得ることが可能になる。各配向度を該範囲にする方法としては、アスペクト比の高い導電性粒子を使用することや積層構造とすることで各層厚みを薄くする方法、押出時のせん断力で導電性粒子を配列させる方法、延伸により導電性粒子の配向を揃える方法などが挙げられる。
【0039】
本発明の積層シートは、長手方向と幅方向で粒子の配向度の偏りをなくすことで電磁波の入射方向による電磁波吸収量のムラをなくすことや、逆に粒子の配向度に大きな差をつけることで選択的な電磁波吸収を行うことも可能である。具体的には、長手方向断面における粒子の配向度と幅方向断面における粒子の配向度の比が0.50以上2.00以下である場合は、入射方向による電磁波吸収量のムラが小さい電磁波シールド材料として好適に用いることができる。当該用途に用いる場合、この比は0.80以上1.25以下であることがさらに好ましい。一方で、長手方向断面における粒子の配向度と幅方向断面における粒子の配向度の比が0.1以下または10以上である場合には、偏光した電磁波のみを選択的に吸収することが可能になる。このような電磁波のみを吸収する用途としては、例えばETC周りの電磁波吸収用途などがあげられる。長手方向断面における粒子の配向度と幅方向断面における粒子の配向度の比は、長手方向断面における粒子の配向度を幅方向断面における粒子の配向度を除した値とする。なお、粒子の配向度は、長手方向断面と幅方向断面の画像を画像解析ソフトで解析することにより求めることができ、画像解析ソフトや解析手法の詳細は実施例に示す。
【0040】
粒子の配向度を長手方向と幅方向で独立に制御する方法としてはロールまたはテンター内でのクリップによる延伸が挙げられる。このとき、延伸倍率を大きくするほど各方向の配向度を高めることができる。他には、粒子の濃度を下げて各粒子が受ける押出時の剪断力を大きくすることで長手方向の配向度を高くする方法もある。また、キャスティングドラム等の冷却体上に押出して成形している場合は、冷却体の速度を上げることでキャスト時に長手方向に微延伸して長手方向の配向度を高くする方法も用いることができる。
【0041】
本発明の積層シートでは、EFM(Electric Force Microscope)測定によって得られた漏洩電場解析により長手方向断面と幅方向断面における粒子の電気的配向度がいずれも100以上100000以下であることが好ましい。より好ましくは1000以上100000以下である。電気的配向度が100以上であることにより、導電パスが十分に形成され、高い電磁波吸収性が実現できる。一方で電気的配向度が100000以下であることにより、導電パスの過形成が抑制され、電磁波が吸収されずに反射されることによる電磁波吸収性の低下が軽減される。
【0042】
電気的配向度を高めるためには導電性の高い粒子を使用する方法や導電性粒子の添加量を上げる方法、積層構造とすることで各層厚みを薄くする方法、押出時のせん断力で導電性粒子を配列させる方法、延伸により導電性粒子の配向を揃える方法などが挙げられる。電気的配向度はEFMにて測定した画像を画像解析ソフトで解析することにより求めることができ、画像解析ソフトや解析手法の詳細は実施例に示す。
【0043】
本発明の積層シートでは、電磁波を効率的に吸収する観点から、長手方向断面と幅方向断面それぞれにおいて、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの平均値が0°以上30°以下であることが好ましく、0°以上10°以下がより好ましく、0°以上5°以下がさらに好ましい。特にアスペクト比の高い導電性粒子が面方向若しくは面方向との角度が小さい方向を向くことで、積層シート表面から観察したときの粒子の面積が大きくなり、電磁波をより効率的に吸収することが可能になる。
【0044】
粒子の長軸と面方向の成す角の大きさは、長手方向断面と幅方向断面の画像を画像解析ソフトで解析することにより求めることができ、画像解析ソフトや解析手法の詳細は実施例に示す。
【0045】
粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの平均値を該範囲内にする方法としては、多層積層構造としたり積層シート全体の厚みを薄くしたりすることで、導電性粒子の長軸に対して各層の厚みを小さくする方法や、延伸により導電性粒子を延伸方向に向ける方法、粒子濃度を高くして導電性粒子同士の相互作用を強める方法などがあげられる。
【0046】
本発明の積層シートでは、長手方向断面と幅方向断面それぞれにおいて、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの標準偏差が0°以上30°以下であることが好ましい。各導電性粒子の長軸と面方向の成す角の大きさのばらつきを抑えることで、積層シート全体で安定した電磁波吸収性を発現することができる。上記観点から当該標準偏差は0°以上20°以下がより好ましく、0°以上10°以下がさらに好ましい。
【0047】
粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの標準偏差は、長手方向断面と幅方向断面の画像を画像解析ソフトで解析することにより求めることができ、画像解析ソフトや解析手法の詳細は実施例に示す。
【0048】
粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの標準偏差を該範囲とする方法としては、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの平均値を好ましい範囲とする方法と同様の手法を用いることができるが、粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの平均値よりも各層厚みの影響を強く受けるため、多層積層構造としていても各層の厚みが小さくない場合は粒子の長軸と面方向の成す角の大きさの標準偏差が小さくならない場合がある。
【0049】
本発明の積層シートでは、降温結晶化温度のうち最も低い値が70度以上200度以下、または降温結晶化温度が観測されないことが好ましい。降温結晶化温度が200度以下であることにより、積層シートの結晶性が抑えられ、成形などの後加工の際における割れや、追従性の悪化を軽減することができる。また降温結晶化温度が70度以上であることにより、高温での使用時における耐久性の低下や、変形を軽減することができる。上記観点から、降温結晶化温度が観測される場合、降温結晶化温度のうち最も低い値は好ましくは90度以上190度以下、更に好ましくは110度以上180度以下であり、特に好ましくは110度以上165度以下である。降温結晶化温度は、示差走査熱量測定装置を用いて、JIS K-7121(1987)およびJIS K-7122(1987)に準じて評価することができ、詳細は実施例に示す。
【0050】
降温結晶化温度のうち最も低い値を上記範囲内とする方法、降温結晶化温度が観測されないようにする方法としては、例えば、結晶性の低い樹脂を用いる方法が挙げられる。また、積層シートを多層積層構造とすることで各層の厚みを小さくし、一定の大きさ以上への結晶成長を阻害することによっても降温結晶化温度を下げることができる。さらに、粒子量を増やすと粒子表面の秩序構造に起因して結晶化が進行し、降温結晶化温度が上昇する場合があることから、本発明の積層シートでは、高アスペクト比の導電性粒子(導電性粒子X)を用いて粒子全体の添加量を抑えることによっても、降温結晶化温度を下げることができる。
【0051】
本発明の積層シートにおいては、各層を構成する樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリイソブチレン,ポリイソプレン、ポリブタジエン,ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテンなどに代表されるポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などに代表されるポリアミド系樹脂、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アクリルメタクリレートコポリマー、エチレン/ノルボルネンコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマーなどに代表されるビニルモノマーのコポリマー系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド,ポリアクリロニトリルなどに代表されるアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどに代表されるポリエステル系樹脂、ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシド、ポリアクリレングリコールに代表されるポリエーテル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロースに代表されるセルロースエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどに代表される生分解性ポリマー、その他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリシロキサン、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを単独でまたは組み合わせて用いることができる。また、少なくとも1つの層に2種類以上の樹脂を混合したコンパウンドを用いることも、成形性向上の観点から好ましい。
【0052】
本発明の積層シートは、シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位の少なくとも一つの単位を、積層シートを構成する全樹脂成分中に1mol%以上99mol%以下含むことが、成形性向上の観点から好ましい。鎖状の構造を持つ分子鎖を添加することで、加熱成形時に鎖状の構造を起点として分子鎖の運動が促され成形性を向上させることができる。上記観点から、シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位のうちから少なくとも2つの単位を、樹脂成分中にそれぞれ1mol%以上40mol%以下含むことがさらに好ましい。鎖状アルカン単位の炭素数は7以上がさらに好ましく、9以上が特に好ましい。なお、鎖状アルカン単位の炭素数の上限は特に制限されないが、実現可能性の観点から100000程度となる。
【0053】
本発明の積層シートの好ましい使用態様として、本発明の積層シートと反射板を有する電磁波シールド体とする態様を挙げることができる。反射板は、積層シートの電磁波入射面と反対面に組み合わせることで、電磁波を積層シート内に往復させる形となるため、電磁波吸収効率を高めることができる。一方で、反射板を前面に配置する場合、ある程度の電磁波を反射板表面で反射させ、透過した一部の電磁波を積層シート内で急峻にシールドする態様も可能である。本発明の積層シートの電磁波吸収特性を十分生かすためには、前者の構成であることがより好ましい。
【0054】
反射板は、電磁波を反射することができるものであれば、構成材料は特に限定されない。構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、金などの金属、ステンレスなどの合金、カーボン膜などが挙げられる。また、当該反射板は、形状や厚みも限定されない。形状は、適用する材料に合わせるべきであるが、例えば平面、曲面、半球などの板状とすることができる。
【0055】
反射板の例としては、金属,合金,カーボンを含むプレート反射板、高分子フィルム,シート,板などの表面に金属,合金,カーボンからなる膜が形成された積層タイプの反射板、高分子フィルム,シート,板などの内部に金属,合金,カーボンを分散させた複合型の反射板、高分子フィルム,シート,板などの内部に金属,合金からなる網状体を含む複合型反射板などが挙げられる。また、本発明の積層シートとの組み合わせにおいては、各用途における支持体、筐体などが金属,合金,カーボンなどを含んでいる場合、そのまま反射板として利用することもできる。
【0056】
本発明の電子機器は、本発明の積層シートを備える。4G/5G通信、無線LAN、衝突防止(ITS)レーダー、などで利用される電磁波による虚像防止、コンピュータ、携帯電話、無線機、医療機器、車両バンパーなどの筐体の内部に備わる電子機器からの不要な電磁波の輻射低減、隣接する機器からの輻射による装置誤作動の防止などの目的で、本発明の積層シート、または、これを備える電磁波シールド体を有する電子機器(通信機器を含む。)とすることが好ましい。その他、GHz帯域の周波数を利用する電子機器であれば、上記に限らず本発明の積層シートを搭載して好適に使用することができる。
【0057】
本発明の積層シートは、車両や航空機、船舶などの交通機関、ビル、トンネルやガードレール、高速道路、橋梁、鉄塔などの構造物の壁面、電信、電話などの通信施設、ドローンや無人車両などの運搬手段等にも好適に用いることができる。
【0058】
本発明の建築材料は、本発明の積層シートを備える。積層シートを適用する方法としては、接着剤などを介して直接、もしくは他のシート、遮蔽板、パネルなどを介して、床、天井、壁、窓、柱などの構造物に貼り付けるなどの方法を用いることができる。ローカル5G用の建築材料などに支持材とともに一括成形する方法も好ましく用いることができる。その他、外部からの電磁波ジャミング・ノイズによる影響を防ぐためのシールドルームの壁材や窓材として本発明の積層シートを用いることもできる。
【0059】
以下、本発明の積層シートの製造方法について、具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0060】
先ず、ゴムや熱可塑性エラストマーなどを基材のベースポリマーとして利用する場合の積層シートを例に挙げて説明する。最初に、ベースポリマーに所望の導電性粒子を所定量配合し、ニーダーやバンバリーミキサー、ミルミキサー、ロールミル、ジェットミル、ボールミルなどの公知の装置で混錬し含有させることで、導電性粒子含有ベースポリマー混合物を得る。ベースポリマー単体、もしくは、作製した導電性粒子含有ベースポリマーを、それぞれバッチプレスによる圧延や溶融押出により、所望の厚みのシートへ成形する。その後、作製したA層に当たるシート、B層に当たるシートを、交互に合計5層以上重ね合わせ、プレスまたはラミネートすることにより積層シートを得る。このときの融着温度は、使用するポリマーの種類にもよるが、150℃~400℃が好ましく、250℃~380℃がより好ましい。
【0061】
次に、本発明において好ましい樹脂である可撓性を示す熱可塑性樹脂を使用する場合の積層シートであって、B層のみが導電性粒子を含み、A層が導電性粒子を含まないものの製造方法を例に挙げて説明する。最初に、ペレットの状態で準備された熱可塑性樹脂並びに所定量の導電性粒子を二軸押出機で混錬してガット状に押出し、これを水槽内で冷却してチップカッターでカットすることで導電性粒子含有のマスターペレットを形成する。このとき、導電性粒子は熱可塑性樹脂と共にドライブレンドした上でホッパーより計量フィードしてもよく、押出機の任意の位置からサイドフィーダを用いて溶融した熱可塑性樹脂中にサイドフィードしてもよい。フィード方法については、前記に限られるものではなく、使用する導電性粒子の比重や形状に併せて適宜選択することができる。
【0062】
その後、A層及びB層を構成する熱可塑性樹脂組成物を熱風中あるいは真空下で乾燥した後に別々の押出機に供給し、押出機において熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱溶融する。その後、ギヤポンプなどで押出量を均一化して熱可塑性樹脂組成物を吐出し、フィルターなどで異物や変性した熱可塑性樹脂などを除去する。
【0063】
続いて、これらの熱可塑性樹脂組成物を所望の積層数の積層が可能な多層積層装置で積層させ、ダイにて目的の形状に成形し、シート状に吐出させる。ダイから吐出されたシート状物は、キャスティングドラム等の冷却体上に押出され、冷却固化されることでキャストシートとなる。この際、キャストシート自体が導電性を示すことから、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出しキャスティングドラムなどの冷却体に密着させ急冷固化させる方法、もしくは、ニップロールにて冷却体に密着させて急冷固化させる方法を用いることが好ましい。
【0064】
多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロック、スタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の多層積層体を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため樹脂等の熱劣化による異物発生量が少なく、積層数が極端に多い場合でも高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。さらにこの装置には、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため任意の層厚みを達成することが容易となることや、積層工程中に樹脂流の効果で導電性粒子を積層シート面方向に配向させることが容易となること等の利点もある。
【0065】
スリットタイプのフィードブロックを用いて積層シートを作製する場合、各層の厚みおよびその分布は、スリットの長さや幅を変化させて圧力バランスを整えることで調整可能となる。スリットの長さとは、スリット板内でA層とB層を交互に流すための流路を形成する櫛歯部の長さのことである。また、フィードブロックで積層体を形成した後、スタティックミキサーを介して積層数が倍増するように重ね合わせて積層数を増やす方法も好適に利用できる。
【0066】
得られたキャストシートは、必要に応じて長手方向および幅方向に二軸延伸することができる。二軸延伸を行う場合は、逐次に二軸延伸しても、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに必要に応じて長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0067】
先ず、先に長手方向に延伸して幅方向に延伸する逐次二軸延伸について説明する。ここで、長手方向への延伸とは、シートに長手方向の分子配向を与えるための一軸延伸を指し、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は、1段階で行ってもよく、複数のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、1.1~7.0倍が好ましく、1.5~4.0倍が特に好ましい。また、延伸温度としてはシートを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃となる範囲内かつ融点以下に設定することが好ましい。このようにして得られた一軸延伸積層シートは、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、上部に積層する膜との密着性を向上するためのプライマー層を形成することもできる。インラインコーティングの工程において、プライマー層は片面に塗布してもよく、両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0068】
幅方向の延伸とは、シートに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常はテンターを用いて、シートの両端をクリップで把持しながら搬送して行う。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、1.1~7.0倍が好ましく、1.5~5.0倍が特に好ましい。延伸処理により反射減衰量のばらつきを抑え、成形後の電磁波減衰量の低下を抑えることができる。また、延伸温度としてはシートを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃となる範囲内が好ましい。こうして二軸延伸された積層シートは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、低配向角およびシートの熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷する際に、長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用してもよい。
【0069】
続いて、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストシートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。インラインコーティングの工程において、コート層はシートの片面に塗布してもよく、両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0070】
次に、キャストシートを同時二軸テンターへ導き、シートの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機(テンター)としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式のもの等があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式のものが好ましい。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として2.0~50倍が好ましく、特に4.0~20倍がより好ましい。延伸速度は同じ速度でもよく、異なる速度で長手方向と幅方向に延伸してもよい。また、延伸温度としては交互積層ユニットを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃となる範囲内が好ましい。
【0071】
こうして同時二軸延伸されたシートは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上、シートを構成する全ての樹脂に対して融点以下となる範囲内の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。積層シートはこのように熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷する際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行ってもよい。熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することもできる。
【0072】
さらに本発明の積層シートは、広い周波数帯域を遮蔽できる電磁波反射層を組み合わせて、一部の特定の周波数のみをより強く遮蔽するような積層シートとすることもできる。一方で、積層シート最表面に、表面での電磁波の反射をより低くするための低い誘電率を示す新たな層を設け、電磁波吸収の効果をより高めた積層シートとすることもできる。また、後者に加え、積層シートの高い複素誘電率を示す層が、表面からシート内部につれて、層厚みが連続的に減少していく層厚み分布を示すことも好ましい。高い誘電率を示す層に添加する電磁波抑制材料の濃度が一定となる積層シートであるため、高い誘電率を示す層の厚みを表層から内層につれて連続的に薄くすることで、内層ほど導電性粒子が密に連結する状態となり、誘電率が漸増する態様をとる。これにより、電磁波を不用意に反射することなく、積層シート内部に取り込むことができるため、電磁波吸収の効果を高めることが可能となる。
【実施例0073】
以下、実施例に沿って本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、各項目の評価は下記の方法により行った。
【0074】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
(1)導電性粒子の平均粒径、体積濃度、アスペクト比
積層シートの長手方向断面と幅方向断面のそれぞれについて、エポキシ樹脂に埋め込み研磨した後に、イオンミリング(日本電子社製IB-19520CCP)で表面研磨した。このとき、加速電圧は4kV、加工温度は-120℃とした。その後、更にスパッタ装置(Eiko Engineering社製 IB-3)にてPt-Pdを2mAで3.75分蒸着した。こうして各サンプル厚み方向-幅方向の断面と、厚み方向-長手方向の断面の加工サンプルを得た。次に走査電子顕微鏡(日本電子社製JSM-6700F)で観察を行った。観察時の光は加工サンプルの厚み方向と平行な方向に照射し、以下の観察条件で断面画像を得た。
<観察条件>
加速電圧:3kV
対物絞り:4
二次電子検出:ON
モード:LEI
エミッション:10μA
倍率:10000倍
傾斜:無し
その後、ImageJ(NIH製 1.52e)のAnalizeParticles(粒子解析)機能により各断面画像から個々の粒子のなす領域を抽出し、そこから各領域の面積をFit Ellipseにて楕円形近似したときのMean(平均径)、Major(長径)、Minor(短径)を算出した。さらに、各粒子のMajorをMinorで割った値を各粒子のアスペクト比として有効数字3桁で求め、アスペクト比5以上10000以下の粒子のMeanの平均値を導電性粒子Xの平均粒径、アスペクト比1以上5未満の粒子のMeanの平均値を導電性粒子Yの平均粒径とした。平均粒径の測定は、一つのサンプルに対して長手方向、幅方向それぞれn=7で行い、それぞれの最大値と最小値を除いた10回分の平均粒径の平均値を導電性粒子X、Yの平均粒径とした。なお、このときMinorが0を示す粒子は異常値として解析対象から除外した。
【0075】
また、観察画像全体においてアスペクト比5以上10000以下の粒子が占める面積の比率を当該観察画像における導電性粒子Xの体積濃度、同様にして求めたアスペクト比1以上5未満の粒子の面積比率を当該観察画像における導電性粒子Yの体積濃度とした。一つのサンプルに対して長手方向、幅方向それぞれn=7で測定を行い、それぞれの最大値と最小値を除いた10回分の面積比率の平均値をそれぞれ導電性粒子X、Yの体積濃度とした。
【0076】
さらに、観察画像中の粒子のアスペクト比を図5に示すように縦軸を度数、横軸をアスペクト比の対数としてプロットし、極大値のうちアスペクト比5以上10000以下の範囲にあるもの、及びアスペクト比1以上5未満の範囲にあるものをそれぞれ当該観察領域における導電性粒子Xのアスペクト比、導電性粒子Yのアスペクト比とした。解析は長手方向、幅方向それぞれ層内部の1.5μm×12μmの長方形に対してn=7で行い、それぞれの最大値と最小値を除いた5点ずつの平均値を算出した。得られた長手方向、幅方向の平均値のうち大きい方の値を導電性粒子Xのアスペクト比、導電性粒子Yのアスペクト比として採用した。なお、図5の符号6はアスペクト比の対数グラフである。
【0077】
(3)厚み
ダイヤルゲージ(ミツトヨ製2019S-10)とダイヤルゲージスタンド(ミツトヨ製7002-10)を用いて測定した。測定はn=5で行い平均値を積層シートの厚みとした。
【0078】
(4)反射減衰量
測定周波数帯域に併せて、下記のとおり測定ユニットを変更して測定を実施した。
【0079】
(4-1)1GHz~40GHz周波数帯域
アジレント・テクノロジー(株)製のベクトルネットワークアナライザ(E8361A)を用い、サンプルの減衰量を計測した。0.5GHz~18GHzの周波数帯域は外径φ7mm、内径φ3.04mmのドーナツ状である同軸導波管を、18~26.5GHzの周波数帯域は4.32mm×10.67mmの長方形である矩形導波管を、26.5~40GHzの周波数帯域は内部形状が3.56mm×7.11mmの長方形である矩形導波管を、それぞれ用いて測定した。導波管内の電界方向とサンプルの長手方向を平行に設置した場合を長手方向の減衰量、幅方向を平行に設置した場合を幅方向の減衰量とした。測定間隔は、各周波数帯域に対して200点測定できるように設定し測定した。サンプルの背面に、3mmのアルミニウム金属板を設置し、サンプルによる電磁波吸収がない状態では入射した電磁波が全反射する状態とした。入射した電磁波に対して反射した電磁波の強度比を表すS11の、サンプルがある場合とない場合の差を減衰量として、長手方向の減衰量と幅方向の減衰量の平均値の絶対値を反射減衰量とした。また、長手方向および幅方向で最大の反射減衰量を示した周波数の平均値を吸収周波数とした
(4-2)40~110GHz周波数帯域
150mm角のサンプルに対し、背面にアルミニウム金属板を貼り合せ、測定サンプルを作成した。キーコム社製のレンズアンテナ方式斜入射タイプの電磁波吸収体(電磁波吸収材料)・反射減衰量測定装置LAF-26.5Bを用いて、JIS R 1679(2007年)に準拠し、斜入射15°で電磁波を照射し、33~50GHz(WR-22)、50~75GHz(WR-15)、75~110GHz(WR-10)の各周波数帯域に対して反射減衰量を測定した。電界方向とサンプルの長手方向を平行に設置した場合を長手方向の減衰量、幅方向を平行に設置した場合を幅方向の減衰量とした。なお、当該測定方法では33~40GHzの値も測定されるが、33GHz以上40GHz未満の周波数帯域における反射減衰量は、(4-1)における測定データを用いた。次いで(4-1)と同様に反射減衰量、吸収周波数を求めた。
【0080】
(5)配向度
導電性粒子の体積濃度測定時と同様に断面画像を得た。解析はImageJ(NIH製 1.52e)およびOrientationJ(Daniel Sage製 2.0.5)を用いて行った。断面画像から厚み方向に1.5μm、面方向に12μmで切り出し、100×400pixelの画像とした。該画像をOrientationJ Distributionで画像ベクトル解析し、0°(面方向)の度数を求めた。解析条件は以下の通り。
Local Window: σ2Pixel
Gradient:Cubic Spline
一つのサンプルに対して長手方向、幅方向それぞれn=7で測定を行い、それぞれの最大値と最小値を除いた5点の度数の平均値を、長手方向、幅方向の配向度とした。
【0081】
(6)電気的配向度
積層シートの長手方向断面と幅方向断面のそれぞれについて、エポキシ樹脂に埋め込み研磨した後に、イオンミリング(日本電子社製IB-19520CCP)で表面研磨した。このとき、加速電圧は4kV、加工温度は-120℃とした。その後、室温、高純度アルゴンガス雰囲気中(HO=0.1ppm、O=0.1ppm)で電気力顕微鏡(Bruker社製NanoScopeV Dimension Icon Glovebox)にて下記測定条件で測定を行った。
<測定条件>
EFM走査:タッピングAFMモード
EFM探針:PtIrコートシリコンカンチレバー
測定範囲:10×10μm
周波数範囲:±3Hz
続いてImageJ(NIH製 1.52e)にて全体の明度を255段階に分け、そのうち明度が0以上125以下の部分を抽出して2値化した。続いてOrientationJ(Daniel Sage製 2.0.5)のOrientationJ Distributionで画像ベクトル解析し、0°(面方向)の度数を求めた。解析条件は以下の通り。
<解析条件>
Local Window: σ2Pixel
Gradient:Cubic Spline
一つのサンプルに対して長手方向、幅方向それぞれn=3で測定を行いそれぞれの平均値を長手方向、幅方向の配向度とした。なお、測定は長手方向、幅方向それぞれn=3で行い、平均値を採用した。
【0082】
(7)粒子角度、標準偏差
導電性粒子の体積濃度測定時と同様に断面画像を得た。画像解析ソフトImageJ(NIH製 1.52e)を用いて2値化を行った後、2値化した断面画像の視野の中央から近い順に粒子を200点選んで当該画像解析ソフトにより各粒子の長軸と面方向の成す角を測定し、得られた値の平均値を粒子角度とした。また、得られた値から標準偏差も算出した。ただし、粒子が重なっている場合は最前面にある粒子のみを解析対象とした。
【0083】
(8)降温結晶化温度
示差走査熱量測定装置(セイコーインスツル社製DSC6220)を用いて、JIS K-7121(1987)およびJIS K-7122(1987)に準じて評価を行った。サンプルパンにサンプルを5mgずつ秤量し、25℃から290℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した後に、その状態で5分間保持した。次いで290℃から20℃/分の降温速度で25℃まで降温を行って測定を行った。降温時に得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化ピークのピークトップの温度でもって降温結晶化温度とした。結晶化ピークが複数ある場合は、温度が低い方を降温結晶化温度とした。
【0084】
(9)破断点伸度
サンプルの長手方向または幅方向に沿って1cm×20cmの大きさに切り出し、フィルム強伸度自動測定装置(オリエンテック社製“テンシロン”(登録商標)AMF/RTA-100)を用いて、90℃、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断点伸度を測定した。JIS K-7161(2014)およびJIS K-7127(1999)に記載の方法で測定した。なお、測定は各サンプルの長手方向および幅方向について各5回ずつ行い、それらの平均値でもって、破断点伸度とした。
【0085】
(10)炭化水素の重量分率
サンプルを90℃のトリエチレングリコール中で溶解し、金属フィルターにて粒子を濾別した。得られた粒子をエタノールで洗浄し、150℃で90分乾燥したのち、有機微量元素分析装置(PerkinElmer社製 2400II)で下記条件にて分析した。燃焼残渣は有機物に無関係の無機・金属物として、得られたC,H原子の量を全体重量で除した値を炭化水素の重量分率とした。
サンプル量:10mg
試料分解炉:950℃
還元炉:500℃
ヘリウム流量:200ml/min。
【0086】
(11)電磁波吸収性能
反射減衰量が30dB以上の場合をA、25dB以上30dB未満の場合をB、20dB以上25dB未満の場合をC、20dBより未満の場合をDとした。C以上であれば電磁波吸収体として用いることができる。
【0087】
(12)吸収性能ムラ・偏波選択性
吸収性能ムラに関しては、長手方向と幅方向の反射減衰量の差が5dB以下の場合を吸収性能ムラなし(A)、5dBより大きい場合を吸収性能ムラあり(B)と評価した。吸収性能ムラがAの場合は電磁波の偏波に依らず電磁波を吸収することが可能である。また、偏波選択性に関しては、長手方向と幅方向の反射減衰量の差が10dBより大きい場合を偏波選択性あり(A)、10dB以下の場合を偏波選択性なし(B)と評価した。偏波選択性がAの場合は特定の偏波を選択的に吸収することが可能である。
【0088】
(13)成形追従性
真空成形機(成光産業株式会社製300X)にて、下記条件で成形を行った。加熱は赤外線ヒーターにて行い、温度はサンプルにヒートラベル(ミクロン社製 6R-99)を貼り付けて判断した。それぞれのサンプルについて3回成形テストを行った。
<成形条件>
加熱時間:30秒
加熱温度:110℃
真空ポンプ圧力:0.17MPa
成形の形状:幅5cm、長さ7.5cm、深さ2cmの箱型。
その後、成形後の外観を目視で確認することにより以下の評価を行った。
<評価基準>
A:いずれのサンプルも辺と頂点に密着しており、しわがない。
B:1つまたは2つのサンプルで辺の部分に空間が残っている、または頂点付近に空気が残りしわになっている。
C:3つのサンプルとも辺の部分に空間が残っている、または頂点付近に空気が残りしわになっている。
【0089】
(積層シートの製造に使用した粒子や樹脂)
積層シートの製造に使用した粒子や樹脂は表1、2に示す通りである。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
(実施例1~8、13~22、比較例1、2)
先ず、表3~5に記載の組成となるように、二軸押出機での混錬によりB層用の樹脂組成物を導電性マスターペレットとした。次いでA層に用いる樹脂とB層に用いる導電性マスターペレットをそれぞれ別々の二軸押出機へ投入し、両者とも270℃で溶融させて混練した。混錬条件は、吐出量に対するスクリュー回転数が0.7となるように設定した。次いで、表3~5に記載の層数のマルチマニフォールドタイプのフィードブロックにて両者を合流させて、積層比1.0で交互に積層した。その後、得られた溶融交互積層体をシート状にダイから表面温度25℃のキャスティングドラム上に吐出し、これを冷却固化して未延伸の積層シートを得た。評価結果を表3~5に示す。なお、厚みの調整は各押出機の吐出量とキャスティングドラムの回転数を調整することで行った。
【0093】
(実施例9~12)
実施例1~8、13~22、比較例1、2の項に記載の方法で未延伸の積層シートを得た後、長手方向に95℃にて表4に示す倍率で延伸し、実施例12については更に幅方向に105℃にて表4に示す倍率で延伸することで一軸または二軸延伸された積層シートを得た。評価結果を表4に示す。なお、実施例9~12について表4に記載されている厚みは延伸後の値である。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表4における「第二樹脂」の含有量(wt%)は、B層中の樹脂全体を100wt%として算出した値である。また、100-第二樹脂の含有量(wt%)が表4に示す「樹脂」の含有量である。以上、表5においても同じ。
【0097】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、薄膜ながら電磁波吸収性能が高く成形性の優れた積層シートを提供することができる。本発明の積層シートは上記特性に優れるため、電子機器、交通機関、建築材料、家具等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
1:最も反射減衰量が大きいピーク
2:最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量
3:樹脂
4:導電性粒子X
5:導電性粒子Y
6:アスペクト比の対数グラフ
図1
図2
図3
図4
図5