(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176580
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】音場制御装置及び音場制御方法
(51)【国際特許分類】
H04R 1/34 20060101AFI20221122BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H04R1/34 310
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083086
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】谷川 将規
【テーマコード(参考)】
5D018
5D220
【Fターム(参考)】
5D018AF14
5D220AA44
(57)【要約】
【課題】室内で簡単に設置可能であって、所望の音環境を生成し、室内の使用用途や使用方法の自由度を高める音場制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る音場制御装置は、移動部材21、22と、膜部材30と、調節部40と、超音波スピーカー100と、を備える。移動部材21は室内の側壁面11上で移動可能であり、移動部材22は室内の天井面12上で移動可能である。移動部材21、22は、互いに近接離間自在に配置されている。膜部材30は、移動部材21、22同士の間に張られ、音波101を反射可能である。調節部40は、移動部材21、22の各々の位置を変えることによって音波101の入射方向D11に対する膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を調節する。超音波スピーカー100は、膜部材30に向けて音波101を放出可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の設置面上で移動可能且つ互いに近接離間自在に配置された複数の移動部材と、
前記複数の移動部材同士の間に張られ、音波を反射可能な膜部材と、
前記複数の移動部材の各々の位置を変えることによって前記音波の入射方向に対する前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方を調節する調節部と、
前記膜部材に向けて音波を放出可能な超音波スピーカーと、
を備える、音場制御装置。
【請求項2】
前記調節部は、前記複数の移動部材の各々の位置を変え、前記膜部材の張力を制御することによって前記膜部材の形状を調節する、
請求項1に記載の音場制御装置。
【請求項3】
前記室内で前記膜部材から離れた位置に設けられ、前記膜部材によって反射された前記音波を受音する受音器を備え、
前記受音器によって受音された前記音波に関する情報が前記調節部にフィードバックされる、
請求項1又は2に記載の音場制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の音場制御装置を用いて室内の音環境を制御する音場制御方法であって、
前記膜部材に入射する音波の入射方向及び強度に関する情報に応じて、前記膜部材によって反射される音波の反射方向及び強度に関する情報をふまえて前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方を求める算出工程と、
前記算出工程で求められた前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方に合わせて前記調節部で前記複数の移動部材の各々の位置を変える調節工程と、
を備える、音場制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場制御装置及び音場制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンサートホールや展示会場等の室内音場の制御は、直接音制御と間接音制御の大きく2つに分けられる。直接音制御では、スピーカー等の音源からの音の出力や方向が調整される。一方、間接音制御では、室内の内壁面や反射体・吸音体による音の反射方向や散乱方向が調整される。室内音場の制御では、波源として指向性の高い超音波スピーカー等の指向性スピーカーを用いることによって、音波の放射エリアを絞ることができるため、例えば音を届ける対象の受聴者をターゲットとして効率良く音を放射可能である。
【0003】
例えば、特許文献1には、放音部と、反射音部と、指向性制御用受音手段と、反射方向制御用受音手段と、指向性制御手段と、反射方向制御手段と、を備える局所再生システムが開示されている。指向性制御用受音手段は、指向性スピーカーに対して放射音の進路の前側に固定され、放音部における指向性スピーカーから放射された放射音を受音すると共に反射音部からの反射音の放射受音信号を受信する。反射方向制御用受音手段は、指向性スピーカーから離れて配置された反射板に対して反射音の進路の前側に固定され、音部における指向性スピーカーから放射された放射音を受音すると共に反射音部からの反射音の反射受音信号を受信する。指向性制御手段は、放射受音信号が最大になるように指向性スピーカーの指向性を制御する。反射方向制御手段は、反射受音信号が最大になるように、反射板の形状及び反射面の方向の少なくとも何れかを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の局所再生システムをはじめとする従来の室内音場の制御技術において、反射板や反射装置の反射面によって音が想定外の方向に放射され、室内の側壁や天井からの反射音が意図しない場所に到来し、設定とは異なる音環境が生じるという問題があった。設定通りの音環境を作るために、室内における受聴者の位置を予め固定する、或いは室内で人や装置類の通行を禁ずる等の制約を課すことも考えられるが、その場合には室内の使用用途や使用方法が著しく制限されるという別の問題があった。
【0006】
本発明は、室内で簡単に設置可能であって、所望の音環境を生成し、室内の使用用途や使用方法の自由度を高める音場制御装置及び当該音場制御装置を用いた音場制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る音場制御装置は、室内の設置面上で移動可能且つ互いに近接離間自在に配置された複数の移動部材と、前記複数の移動部材同士の間に張られ、音波を反射可能な膜部材と、前記複数の移動部材の各々の位置を変えることによって前記音波の入射方向に対する前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方を調節する調節部と、前記膜部材に向けて音波を放出可能な超音波スピーカーと、を備える。
【0008】
上述の音場制御装置は、少なくとも複数の移動部材、膜部材及び調節部からなる簡易且つ軽量性に優れた構成を備え、室内のあらゆる設置面に容易に設置可能である。上述の音場制御装置によれば、調節部によって音波の入射方向に対する膜部材の角度及び形状の少なくとも一方が調節されるため、膜部材で受けた音波の性状を膜部材の角度や形状で所望の性状に整えて反射させ、受聴者に届けることができる。複数の移動部材の位置を調節すれば、膜部材の角度や形状をあらゆるパターンで調節可能であり、室内の活動を制限することもない。したがって、上述の音場制御装置によれば、所望の音環境を生成し、室内の使用用途や使用方法の自由度を高めることができる。
【0009】
上述の音場制御装置では、前記調節部は、前記複数の移動部材の各々の位置を変え、前記膜部材の張力を制御することによって前記膜部材の形状を調節してもよい。
【0010】
上述の音場制御装置によれば、膜部材の張力を制御することによって膜部材の形状が調節され、膜部材に入射する音波が鏡面反射或いは拡散されるため、膜部材からの反射音の強弱を制御することができる。
【0011】
上述の音場制御装置は、前記膜部材から離れた位置に設けられ、前記膜部材によって反射された前記音波を受音する受音器を備え、前記受音器によって受音された前記音波に関する情報が前記調節部にフィードバックされてもよい。
【0012】
上述の音場制御装置によれば、受音器で受音された音波に関する情報に応じて調節部が作動し、膜部材で受けた音波の性状を膜部材の角度や形状で所望の性状に整えるため、所望の音環境を円滑に作り出すことができる。
【0013】
本発明に係る音場制御方法は、上述の音場制御装置を用いて室内の音環境を制御する音場制御方法であって、前記膜部材に入射する音波の入射方向及び強度に関する情報に応じて、前記膜部材によって反射される音波の反射方向及び強度に関する情報をふまえて前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方を求める算出工程と、前記算出工程で求められた前記膜部材の角度及び形状の少なくとも一方に合わせて前記調節部で前記複数の移動部材の各々の位置を変える調節工程と、を備える。
【0014】
上述の音場制御方法によれば、算出工程では、膜部材に入射する音波に関する情報と膜部材から反射させる音波に関する情報から逆算して、膜部材の角度及び形状の少なくとも一方が求められる。調節工程では、算出工程で求められた膜部材の角度及び形状の少なくとも一方の情報に基づいて複数の移動部材の位置が調節され、膜部材から所望の性状の音波が反射される。即ち、上述の音場制御方法によれば、膜部材に入射する音波に関する情報に応じて、膜部材から反射される音波の性状を制御し、室内に所望の音環境を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、室内で簡単に設置可能であって、所望の音環境を生成し、室内の使用用途や使用方法の自由度を高める音場制御装置及び当該音場制御装置を用いた音場制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した一実施形態の音場制御装置が設置された室内の模式図である。
【
図3】
図1に示す音場制御装置の側面図であって、音波が鏡面反射される場合について説明するための図である。
【
図4】
図1に示す音場制御装置の側面図であって、音波が鏡面反射によって拡がる場合について説明するための図である。
【
図5】
図1に示す音場制御装置と組み合わせて用いられる超音波スピーカーの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した一実施形態の音場制御装置及び音場制御方法について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の音場制御装置20は、例えば演奏会や発表会が行われるホール10の側壁面(設置面)11と天井面(設置面)12との角部に設置され、ホール10内の音場を制御する。
図2に示すように、音場制御装置20は、移動部材(複数の移動部材)21、22と、膜部材30と、調節部40と、超音波スピーカー100と、受音器120と、を備える。移動部材21は、鉛直方向に平行な垂直方向D1に平行な側壁面11に沿って昇降可能(移動可能)に設置されている。移動部材21は、例えば対向する側壁面11に鉛直方向D1に沿って形成されたレール27上(設置面上)をスライド移動する。移動部材22は、水平方向D2に平行な天井面12に沿って移動可能に設置されている。移動部材22は、例えば対向する天井面12に水平方向D2に沿って形成されたレール28上(設置面上)をスライド移動する。
【0019】
膜部材30は、移動部材21、22同士の間に張られている。つまり、移動部材21、22は、膜部材30の支持部材である。ホール10の室内側、即ち客席側から見ると、膜部材30は、側壁面11と天井面12との角部を覆うように配置されている。膜部材30は、伸縮性を有し、弾性変形可能である。膜部材30の材質は、例えば合成ゴム板、アクリル等からなる樹脂基材、アルミニウム(Al)等からなる金属薄板、麻(繊維)等からなる幕布等であるが、移動部材21、22の各々の移動によって音波101の入射方向D11に対する角度α及び形状の少なくとも一方が変化し、入射する音波101を反射可能なものであれば特に限定されない。
【0020】
調節部40は、移動部材21、22に物理的又は電気的に接続され、移動部材21、22の各々の位置を変えることによって音波101の入射方向D1に対する膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を調節可能に構成されている。調節部40は、膜部材30によって反射される音波102の性状をどのように制御するかということをふまえ、膜部材30の角度αのみを調節してもよく、膜部材30の形状のみを調節してもよく、膜部材30の角度α及び形状の双方を調節してもよい。
【0021】
具体的には、調節部40は、膜部材30の所望の角度及び形状に合わせて移動部材21、22の各々の位置を変更するために、移動部材21、22をレール27、28上でスライド移動させる。膜部材30が音波101の入射方向D1に対してなす所望の角度(膜部材の角度)α及び膜部材30の形状は、膜部材30によって反射され、且つ室内に作られる想定の音環境に応じて求められる音波102の出射方向D2及び強度の設定値等に合わせて適宜決められる。調節部40は、例えばマイクロコンピュータ等の演算装置やプロセッサであるが、前述のように移動部材21、22のスライド移動を実行可能な機構を備えるものであれば特に限定されない。
【0022】
図3に示すように、超音波スピーカー100は、
図1に示す天井面12から垂下して設けられた架台110に装着され、ホール10内(室内)上部に配置されている。超音波スピーカー100は、1つ以上の放射部104を備える。放射部104は、音波101として、放射方向D10(即ち、膜部材30への音波101の入射方向D11)に沿って高い指向性を有する超音波(音波)を放出する。架台110は、ホール10内の音場制御装置20の設置位置及び方角に応じて放射方向D10を任意の方向に向けられるように駆動可能に構成されている。
【0023】
受音器120は、膜部材30から離れた位置、且つ少なくとも音波102を受音可能な位置に設けられ、例えば
図1に示すようにホール10内の客席エリアに配置されている。受音器120は、膜部材30によって反射された音波102を受音する。受音器120によって受音した音波102に関する情報は、調節部40にフィードバックされる。受音器120は、調節部40に物理的又は電気的に接続され、調節部40とデータ通信可能である。音波102に関する情報としては、例えば方位角毎及び仰角毎の音波102の強度を表すデータテーブル等が含まれる。調節部40は、受音器120によって取得された音波102に関する測定値と音波102に関する所望の設定値との差分に応じて移動部材21、22の少なくとも一方を移動させ、膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を調整する。このように調節部40が作動すると、膜部材30によって反射される音波102の性状は所望のように制御される。
【0024】
例えば、
図2及び
図4に示すように、超音波スピーカー100から放射された音波101は、膜部材30に入射して当たると、反射され、音波102として入射方向D11とは異なる反射方向D12に出射される。膜部材30が平坦面を形成するように移動部材21、22が配置されていれば、音波101は鏡面反射され、音波102として膜部材30から反射される。音波101が鏡面反射される場合、
図3に示すように、膜部材30によって反射される音波102の反射方向D12が膜部材30の反射面31に対してなす角度θ´は、音波101の入射方向D11に対して膜部材30の反射面31がなす角度θと同等である。言い換えると、音波101の入射方向D11及び音波102の反射方向D12が決まれば、音波101の入射方向D11に対する膜部材30の角度αが決まる。
【0025】
図2に示すように、移動部材21、22が相対位置P1、P2に配置され、膜部材30が平坦面を形成している状態では、音波101は入射方向D11に対して角度α1をなす膜部材30の反射面31に入射し、膜部材30によって反射された音波102-1は対象エリアA1及び対象エリアA1内にいる受聴者(図示略)に到来する。音波101の入射方向D11が固定されている場合、移動部材21、22が相対位置P3、P4に移動し、膜部材30が平坦面を形成している状態では、角度α1から角度α2に減少し、膜部材30によって反射された音波102-2は対象エリアA2及び対象エリアA2内にいる受聴者に到来する。移動部材21、22が相対位置P5、P6へさらに移動し、膜部材30が平坦面を形成している状態では、角度α2から角度α3に減少し、膜部材30によって反射された音波102-3は対象エリアA3及び対象エリアA3内にいる受聴者に到来する。角度α1、α2、α3の順に小さくなるに従って、対象エリアA1、A2、A3がこの順に、移動部材21が配置されている側壁面11に近づく。別の言い方をすると、音波101の入射方向D11及び音波102を到来させる対象エリアの位置が決まれば、膜部材30の角度αが決まる。
【0026】
膜部材30が平坦面を形成する形態とは別の一形態として、
図5に示すように、膜部材30が平坦面を形成している状態よりも弱い張力で支持され、室内中心に向かって凸となるように湾曲面を形成する形態が挙げられる。膜部材30が前述の湾曲面を形成するように移動部材21、22が配置されていれば、音波101は鏡面反射され、音波102として膜部材30から反射される。このとき、音波101は、膜部材30に当たった位置Xを通る反射面31の接線33を基準として前述の角度θ、θ´の関係が成り立つ。即ち、膜部材30によって反射される音波102の反射方向D12が膜部材30の反射面31の接線33に対してなす角度θ1´、θ2´は、音波101の入射方向D11に対して接線33がなす角度θ1、θ2と同等である。音波101の入射方向D11が固定されている場合、角度θ2は角度θ1よりも小さいため、角度θ2´は角度θ1´よりも小さくなる。このことから、入射方向D1に対して一定の幅を有する音波101が湾曲面を形成する膜部材30に入射した場合、音波102は膜部材30から離れる程、大きな幅を有し、拡がる。
【0027】
次に、本実施形態の音場制御方法について説明する。本実施形態の音場制御方法は、上述の音場制御装置20を用いてホール10内の音環境を制御する音場制御方法であって、算出工程と、調節工程と、を備える。
【0028】
算出工程では、音波101の入射方向D11及び強度に関する情報に応じて、音波102の反射方向D12及び強度に関する情報をふまえ、膜部材30について設定すべき角度α及び形状の少なくとも一方を求める。具体的には、調節部40には、予め音波101の入射方向D11及び強度に関する情報、及び音波101に関する前述の情報が入力されている。調節部40は、受音器120から受音器120が設置された位置で受音された音環境に関する情報、即ち音波102に関する情報を受信する。調節部40は、取得した全ての情報に基づいて、設定すべき膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を求める。膜部材30の形状の選択肢には、上述で例示した平坦面、湾曲面の他にも移動部材21、22の相対位置と膜部材30の弾性変形を含む変形特性とによって実現可能な形状が全て含まれる。
【0029】
調節工程では、算出工程で求められた膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方に合わせ、調節部40によって移動部材21、22の各々の位置を変える。即ち、調節部40は、算出工程で求めた膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方の情報をふまえ、移動部材21、22を移動させる。調節工程によって、膜部材30の角度α及び形状が調整され、音波102の性状が所望のように制御される。ホール10内には、所望の性状に制御された音波102によって想定通りの音環境が作られる。
【0030】
以上説明した本実施形態の音場制御装置20は、移動部材21、22と、膜部材30と、調節部40と、超音波スピーカー100と、を備える。移動部材21は、ホール10内の側壁面11上で移動可能である。移動部材22は、ホール10内の天井面12上で移動可能である。移動部材21、22は、互いに近接離間自在に配置されている。膜部材30は、移動部材21、22同士の間に張られ、音波101を反射可能である。調節部40は、移動部材21、22の各々の位置を変えることによって音波101の入射方向D11に対する膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を調節する。超音波スピーカー100は、膜部材30に向けて音波101を放出可能である。
【0031】
本実施形態の音場制御装置20は、移動部材21、22、膜部材30及び調節部40からなる簡易且つ軽量性に優れた構成を備え、ホール10内のあらゆる設置面に容易に設置可能である。そのため、本実施形態の音場制御装置20を仮設の音場制御装置或いは一定期間のみ設置する音場制御装置として用いることができる。また、本実施形態の音場制御装置20によれば、調節部40によって移動部材21、22を側壁面11上及び天井面12上の各々で所望の位置に移動させ、変形可能な膜部材30の張力を調整することができるため、音波101の入射方向D11に対する膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を調節することができる。このことによって、膜部材30に入射する音波101の性状を膜部材30の角度αや形状によって所望の性状に整えて反射させ、受聴者に届けることができる。本実施形態の音場制御装置20によれば、移動部材21、22の位置を調節すれば、膜部材30の角度αや形状をあらゆるパターンで自由に調節可能であり、室内の活動を制限することもない。つまり、ホール10の使用目的やユーザーの要望に応じて柔軟な局所的音場制御が可能である。したがって、ホール10内に所望の音環境を生成し、ホール10内の使用用途や使用方法の自由度を高めることができる。
【0032】
本実施形態の音場制御装置20では、調節部40は、移動部材21、22の各々の位置を変え、膜部材30の張力を制御することによって膜部材30の形状を調節可能である。
【0033】
本実施形態の音場制御装置20によれば、調節部40を用いて膜部材30の張力を制御することによって膜部材30の形状を容易に調節することができる。このことによって、膜部材30に入射する音波101が鏡面反射或いは拡散されるため、膜部材30からの反射音の強弱を容易に制御することができる。
【0034】
本実施形態の音場制御装置20は、膜部材30から離れた位置に設けられ、膜部材30によって反射された音波102を受音する受音器120を備える。本実施形態の音場制御装置20では、受音器120によって受音された音波102に関する情報が調節部40にフィードバックされる。
【0035】
本実施形態の音場制御装置20によれば、音波102に関する情報に応じて調節部40が作動し、膜部材30で受けた音波101の性状を膜部材30の角度αや形状で所望の性状に整えるため、ホール10内で所望の音環境を円滑に作り出すことができる。
【0036】
本実施形態の音場制御方法は、上述の音場制御装置20を用いてホール10内の音環境を制御する音場制御方法であり、算出工程と、調節工程と、を備える。算出工程では、膜部材30に入射する音波101の入射方向D11及び強度に関する情報に応じて、膜部材30によって反射される音波102の反射方向D12及び強度に関する情報をふまえて膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方を求める。調節工程では、算出工程で求められた膜部材30の角度α及び形状の少なくとも一方に合わせて調節部40で移動部材21、22の各々の位置を変える。
【0037】
本実施形態の音場制御方法の算出工程では、音波101、102に関する情報に基づいて、ホール10内に所望の音環境を作り出すための膜部材の角度α及び形状の少なくとも一方を求める。調節工程では、算出工程で求められた膜部材の角度α及び形状の少なくとも一方の情報に基づいて移動部材21、22の位置を調節し、膜部材30から所望の性状の音波102を反射させる。したがって、本実施形態の音場制御方法によれば、音波101に関する情報に応じて、音波102の性状を制御し、ホール10内に所望の音環境を形成することができる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0039】
例えば、上述の実施形態では、複数の移動部材として2つの移動部材21、22が用いられているが、移動部材の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。また、膜部材30と複数の移動部材との接続箇所は、音場制御装置の形状や設置面への装着形態に応じて適宜変更される。
【0040】
上述の実施形態では、音波101の放出源として指向性の高い超音波スピーカー100を用いているが、超音波スピーカー100は、ホール10内の音環境を作るための音波101の放出源として常時使用されてもよく、音場制御装置20の施工時や初期設定時、或いはメンテナンス時、点検時に一時的に用いられてもよい。
【0041】
上述の実施形態では、膜部材30は音波101を鏡面反射する。本発明を適用した音場制御装置では、例えば膜部材30の反射面31の少なくとも一部に、音波101をあらゆる方向に散乱させる散乱面、或いは音波101の波長よりも短い単位長さの微細構造が形成されていてもよい。このような散乱面や微細構造によって、音波101は膜部材30によって湾曲面によって鏡面反射される場合に比べて多方向に拡散される。
【0042】
上述の実施形態では、音場制御装置20が例えば演奏会や発表会が行われるホール10の側壁面11と天井面12との角部に設置されている。しかしながら、ホール10は音場制御装置20の設置環境の一例であって、本発明を適用した音場制御装置は、室内のあらゆる設置面に設置可能であり、例えば一般のオフィスやエントランス空間に設置されてもよい。また、本発明を適用した音場制御装置は、側壁面と天井面との角部に設置される場合に限定されず、側壁面のみ、或いは天井面のみ、側壁面や天井面以外の任意の設置面、さらには任意の設置面同士の接続部等を跨ぐように設置されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
20…音場制御装置
21、22…移動部材(複数の移動部材)
30…膜部材
40…調節部
50…受音器
100…超音波スピーカー