(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176617
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】セプタム電磁石、加速器および粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
H05H 7/10 20060101AFI20221122BHJP
H05H 7/04 20060101ALI20221122BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20221122BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H05H7/10
H05H7/04
G21K5/04 A
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083135
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 文章
(72)【発明者】
【氏名】羽江 隆光
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085BA13
2G085BA14
2G085BC04
2G085EA07
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、セプタム電磁石を小型化することである。
【解決手段】セプタム電磁石30は、ビーム取り出し軌道に沿って延びるセプタムコイル32と、セプタムコイル32に並設され、ビーム取り出し軌道に沿って延びる追加セプタムコイル36とを備えている。追加セプタムコイル36は、ビーム取り出し軌道に沿って延びる複数の追加セプタム導体38を備えている。複数の追加セプタム導体38は、周回軌道側に膨らむ弧を描くように配列されている。複数の追加セプタム導体38のうち、周回軌道寄りの追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に、イオンビームの軌道面48を避けて配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム取り出し軌道に沿って延びるセプタムコイルと、
前記セプタムコイルに並設され、前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる追加セプタムコイルと、を備え、
前記追加セプタムコイルは、
前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる複数の追加セプタム導体であって、周回軌道側に膨らむ弧を描くように配列された複数の追加セプタム導体を備えることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項2】
請求項1に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体のうち、前記周回軌道寄りの前記追加セプタム導体が、前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側に配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体は、
前記周回軌道側が密になるように配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体は、
前記周回軌道側が密になるように配置されている第1導体群と、
前記周回軌道側斜め上および前記周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている第2導体群と、を形成し、
前記第1導体群および前記第2導体群が、前記ビーム取り出し軌道に沿って並設されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項5】
請求項2に記載のセプタム電磁石において、
前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側に配置されている前記追加セプタム導体は、イオンビームの軌道面を避けて配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項6】
請求項5に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体は、
前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側に配置されている前記追加セプタム導体を除いて見た場合に、前記周回軌道側が密になるように配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体は、
前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側に配置されている前記追加セプタム導体を除いて見た場合に、前記周回軌道側が密になるように配置されている第1導体群と、
前記周回軌道側斜め上および前記周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている第2導体群と、を形成し、
前記第1導体群および前記第2導体群が、前記ビーム取り出し軌道に沿って並設されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項8】
請求項1、請求項2および請求項5のいずれか1項に記載のセプタム電磁石において、
複数の前記追加セプタム導体は、
前記周回軌道側斜め上および前記周回軌道側斜め下が疎になるように配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石において、
前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側に配置され、前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる補正コイルを備え、
前記補正コイルは、前記セプタムコイルよりも前記周回軌道側で前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる一対または複数対の補正コイル導体を備えることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石において、
前記ビーム取り出し軌道に沿って延びるリターンコイルと、
前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる追加リターンコイルと、を備え、
前記リターンコイルは、
前記セプタムコイルとの間に前記ビーム取り出し軌道を挟む位置に配置され、
前記追加リターンコイルは、
前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる複数の追加リターン導体であって、前記周回軌道側とは反対側に膨らむ弧を描くように配置された複数の追加リターン導体を備えることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石において、
前記セプタムコイルよりもビーム取り出し側にあるセプタム磁場領域における磁場分布の理想分布に対するずれが1%未満となるように、複数の前記追加セプタム導体が配置されていることを特徴とするセプタム電磁石。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載のセプタム電磁石を備え、
加速されたイオンビームが前記ビーム取り出し軌道から取り出されることを特徴とする加速器。
【請求項13】
請求項12に記載の加速器において、
前記セプタムコイルおよび前記追加セプタムコイルに電流を流す電源を備え、
前記電源は、
前記イオンビームが取り出されるタイミングに応じて、前記セプタムコイルおよび前記追加セプタムコイルに電流を流すことを特徴とする加速器。
【請求項14】
請求項12に記載の加速器と、
前記加速器から取り出された前記イオンビームを輸送するビーム輸送装置と、
前記ビーム輸送装置によって輸送された前記イオンビームを患者に照射する照射装置と、
を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セプタム電磁石、加速器および粒子線治療システムに関し、特に、加速器からイオンビームを取り出すための電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線を患部に照射する粒子線治療が広く行われている。一般に、粒子線治療では加速器を備える粒子線治療システムが用いられる。加速器には、炭素イオンやヘリウムイオン、陽子等のイオンが注入され、治療に必要なエネルギーを有するようになるまでイオンが加速される。加速器によって加速されたイオンによるビーム(イオンビーム)は、患部に向けて照射される。粒子線治療システムでは、患部の位置や形状に合わせてイオンビームのエネルギーや空間的な広がりが調整される。
【0003】
加速器には、イオンビームを取り出すためのセプタム電磁石が用いられている。セプタム電磁石は、セプタムコイルおよびリターンコイルを備えている。セプタムコイルおよびリターンコイルは、加速器内から加速器外へとイオンビームが取り出されるビーム取り出し軌道に沿って延び、ビーム取り出し軌道を挟んでいる。
【0004】
加速器内を周回するイオンビームは、ビーム取り出しの段階でビーム取り出し軌道に導かれる。セプタムコイルおよびリターンコイルは、周回磁場とは逆方向の磁場であるセプタム磁場を発生する。イオンビームは、セプタム磁場によって加速器外側へと偏向され加速器から取り出される。取り出されたイオンビームは、所定の位置まで輸送され、実験、RI製造(Radio Isotope)、粒子線治療等に用いられる。
【0005】
以下の特許文献1および非特許文献1にはセプタム電磁石が記載されている。また、特許文献2および3には、本願発明に関連する技術として、イオンビームを偏向させるコイルが記載されている。特許文献4には、本願発明に関連する技術として、加速器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/121503号
【特許文献2】国際公開第2015/045017号
【特許文献3】特開2013-206635号公報
【特許文献4】特開2020-202015号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】杉田圭、エクバート・フィッシャー、「コサインシータ型セプタム電磁石とその超電導応用について」、Proceedings of the 13th Annual Meeting of Particle Accelerator Sciety of Japan August 8-10,2016,Chiba,Japan.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では、比較的小さい建造物内に粒子線治療システムを設置する必要性が高まっており、粒子線治療システムに用いられる装置を単純化および小型化することが望まれている。
【0009】
セプタム電磁石を小型化する設計として、セプタムコイルに流れる電流を大きくして、セプタム電磁石を短くすることが考えられる。しかし、セプタムコイルに流れる電流を大きくするには発熱等を抑制するため、セプタムコイルを構成する導線の断面を広くする必要が生じることがある。一方で、セプタムコイルを構成する導線の断面が広くなると、セプタムコイルがイオンビームの進行を妨げてしまうことがある。
【0010】
本発明の目的は、セプタム電磁石を小型化することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ビーム取り出し軌道に沿って延びるセプタムコイルと、前記セプタムコイルに並設され、前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる追加セプタムコイルと、を備え、前記追加セプタムコイルは、前記ビーム取り出し軌道に沿って延びる複数の追加セプタム導体であって、周回軌道側に膨らむ弧を描くように配列された複数の追加セプタム導体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セプタム電磁石が小型化される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第1実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図3】追加セプタムコイルおよび追加リターンコイルを示す図である。
【
図5】第2実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図6】追加セプタムコイルおよび追加リターンコイルを示す図である。
【
図7】第1実施形態に係るセプタム電磁石と、第2実施形態に係るセプタム電磁石とを縦続配置したセプタム電磁石を示す図である。
【
図8】第3実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図9】第4実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図10】第5実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図11】セプタム電磁石の内部の磁場分布の計算結果を示す図である。
【
図12】第6実施形態に係るセプタム電磁石を示す図である。
【
図13】第7実施形態に係る加速器を示す図である。
【
図14】第8実施形態に係る粒子線治療システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
各図を参照して本発明の各実施形態が説明される。複数の図面に示された同一の構成要素については同一の符号を付してその説明が簡略化されている。本明細書における「上」、「下」、「左」、「右」等の用語は図面における方向を示す。これらの方向を示す用語は説明の便宜上のものであり、各構成要素を配置する際の姿勢を限定するものではない。
【0015】
図1には、本発明の第1実施形態に係る加速器100の構成が模式的に示されている。加速器100はシンクロトロンと称されるものである。加速器100は、イオン源10、入射装置12、偏向電磁石14-1~14-4、真空ダクト16-1~16-4、加速空洞18、四極電磁石20およびセプタム電磁石30を備えている。
【0016】
真空ダクト16-1、偏向電磁石14-1、真空ダクト16-2、偏向電磁石14-2、真空ダクト16-3、偏向電磁石14-3、加速空洞18、真空ダクト16-4および偏向電磁石14-4は、この順序で環状に配置されイオンビームの周回経路が形成されている。イオン源10は、イオンを入射装置12に供給し、入射装置12はイオンを真空ダクト16-1に入射する。各偏向電磁石14-1~14-4はイオンビームを左方向に90°偏向させ、イオンビームは各真空ダクト16-1~16-4内を直進する。
【0017】
イオンは、加速空洞18で高周波電場によって加速されながら周回経路を周回する。加速空洞18では、イオンが周回する周期に合わせて高周波電場の周波数が制御されている。各真空ダクト16-1~16-4に設けられた四極電磁石20は、イオンビームの空間的な広がりを調整する。
【0018】
イオンビームが加速され、イオンビームのエネルギーが所定のエネルギーに達したときに、イオンビームはセプタム電磁石30によってビーム取り出し軌道に沿って外側に偏向され、加速器100から取り出される。
【0019】
図2には、セプタム電磁石30をAA線で切断した場合に現れる断面が示されている。
図2では、周回軌道から離れる方向を正方向としてx軸が定義されている。x軸はビーム取り出し軌道に対して垂直である。以下の説明では、セプタム電磁石30の内部から見てx軸負方向側は周回軌道側と称され、x軸正方向側(周回軌道側とは反対側)はビーム取り出し側と称される。セプタム電磁石30は、セプタムコイル32、リターンコイル40、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44を備えている。
【0020】
セプタムコイル32は、上下方向に配列された複数のセプタム導体34を備えている。各セプタム導体34は、
図2の描画面に向かう方向に進むに従ってビーム取り出し側に反れるビーム取り出し軌道に沿って延びている。リターンコイル40は、セプタムコイル32との間にビーム取り出し軌道を挟む位置に配置されている。リターンコイル40は、上下方向に配列された複数のリターン導体42を備えている。各リターン導体42はビーム取り出し軌道に沿って延びている。
【0021】
以下に示される例では、セプタムコイル32およびリターンコイル40は、それぞれ、N本のセプタム導体34およびN本のリターン導体42によって構成されている。また、各セプタム導体34および各リターン導体42の手前側の一端は入射側端と称され、奥側の一端は出射側端と称される。N本のセプタム導体34およびN本のリターン導体42は、例えば、次のような構造を有してよい。
【0022】
最も下側のセプタム導体34の出射側端は電流が流入する一端となる。最も下側のセプタム導体34の入射側端は、最も下側のリターン導体42の入射側端に接続されている。最も下側のリターン導体42の出射側端は、下から2番目のセプタム導体34の出射側端に接続されている。下から2番目のセプタム導体34の入射側端は、下から2番目のリターン導体42の入射側端に接続されている。・・・・・・下からN-1番目のリターン導体42の出射側端は、下からN番目(最も上側)のセプタム導体34の出射側端に接続されている。最も上側のセプタム導体34の入射側端は、最も上側のリターン導体42の入射側端に接続されている。最も上側のリターン導体42の出射側端は、電流が流出する一端となる。
【0023】
このように、下からi番目のセプタム導体34の入射側端は下からi番目のリターン導体42の入射側端に接続され、下からi番目のリターン導体42の出射側端は、下からi+1番目のセプタム導体34の出射側端に接続されている。ただし、iは1~N-1のうちのいずれかの整数である。
【0024】
このような構成によれば、最も下側のセプタム導体34の出射側端に流入した電流は、最も下側のセプタム導体34、最も下側のリターン導体42、下から2番目のセプタム導体34、下から2番目のリターン導体42、下から3番目のセプタム導体34・・・・・・の順に各導体を流れ、最も上側のリターン導体42の出射側端から流出する。各セプタム導体34には出射側端から入射側端に向かう電流が流れ、各リターン導体42には入射側端から出射側端に向かう電流が流れる。
【0025】
なお、複数のセプタム導体34と、複数のリターン導体42とが接続される構造は、上記の構造に限られない。複数のセプタム導体34と複数のリターン導体42は、各セプタム導体34に出射側端から入射側端に向かう電流が流れ、各リターン導体42に入射側端から出射側端に向かう電流が流れるように接続される。例えば、上からi番目のセプタム導体34の入射側端が上からi番目のリターン導体42の入射側端に接続され、上からi番目のリターン導体42の出射側端が上からi+1番目のセプタム導体34に出射側端に接続されてもよい。
【0026】
追加セプタムコイル36は、セプタムコイル32よりもビーム取り出し側に配置され、複数の追加セプタム導体38を備えている。複数の追加セプタム導体38は、周回軌道側に膨らむ弧を描くように、上下方向に配列されている。
【0027】
追加リターンコイル44は、リターンコイル40よりも周回軌道側に配置され、複数の追加リターン導体46を備えている。複数の追加リターン導体46は、ビーム取り出し側に膨らむ弧を描くように、上下方向に配列されている。すなわち、複数の追加セプタム導体38および複数の追加リターン導体46は、取り出しビーム軌道を筒状に囲んでいる。複数の追加セプタム導体38と、複数の追加リターン導体46のそれぞれは、ビーム取り出し軌道に垂直な断面で円弧状に配置されてよい。
【0028】
以下に示される例では、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44は、それぞれ、M本の追加セプタム導体38およびM本の追加リターン導体46によって構成されている。M本の追加セプタム導体38およびM本の追加リターン導体46は、例えば、次のような構造を有してよい。
【0029】
最も下側の追加セプタム導体38の出射側端は電流が流入する一端となる。セプタムコイル32と同様、下からj番目の追加セプタム導体38の入射側端は下からj番目の追加リターン導体46の入射側端に接続され、下からj番目の追加リターン導体46の出射側端は下からj+1番目の追加セプタム導体38の出射側端に接続される。最も上側の追加リターン導体46の出射側端は電流が流出する一端となる。ただし、jは1~M-1のうちのいずれかの整数である。
【0030】
このような構成によれば、最も下側の追加セプタム導体38の出射側端に流入した電流は、最も下側の追加セプタム導体38、最も下側の追加リターン導体46、下から2番目の追加セプタム導体38、下から2番目の追加リターン導体46、下から3番目の追加セプタム導体38・・・・・・の順に各導体を流れ、最も上側の追加リターン導体46の出射側端から流出する。各追加セプタム導体38には出射側端から入射側端に向かう電流が流れ、各追加リターン導体46には入射側端から出射側端に向かう電流が流れる。
【0031】
なお、複数の追加セプタム導体38と、複数の追加リターン導体46とが接続される構造は、上記の構造に限られない。複数の追加セプタム導体38と複数の追加リターン導体46は、各追加セプタム導体38に出射側端から入射側端に向かう電流が流れ、各追加リターン導体46に入射側端から出射側端に向かう電流が流れるように接続される。例えば、上からj番目の追加セプタム導体38の入射側端は上からj番目の追加リターン導体46の入射側端に接続され、上からj番目の追加リターン導体46の出射側端は上からj+1番目の追加セプタム導体38の出射側端に接続されてもよい。
【0032】
複数の追加セプタム導体38および複数の追加リターン導体46に囲まれるセプタム磁場領域6には、イオンビームをビーム取り出し側へ偏向させるためのセプタム磁場が生じる。
【0033】
図3には、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44がセプタム電磁石30から抜き出して描かれている。
図3では、セプタム磁場領域6内に定められた基準点Oから見た仰俯角θおよびφが定義されている。基準点Oはセプタム磁場領域6の重心であってよい。仰俯角θはx軸正方向に対して反時計回りを正とした仰俯角であり、仰俯角φはx軸負方向に対して時計回りを正とした仰俯角である。
【0034】
複数の追加リターン導体46は、Qを定数として、電流の空間分布がQ・cosθに一致または近似するように配置されている。すなわち、複数の追加リターン導体46はコサイン巻のコイルを形成する。複数の追加リターン導体46は、ビーム取り出し側が密になり、上側および下側が疎になるように配置されている。
【0035】
複数の追加セプタム導体38は、電流の空間分布がQ・cosφに一致または近似するように配置されている。すなわち、複数の追加セプタム導体38はコサイン巻のコイルを形成する。ただし、本実施形態では、複数の追加セプタム導体38のうち、周回軌道寄りの追加セプタム導体38が、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている。
図3には、周回軌道寄りの追加セプタム導体38が、仮に、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されない場合のこれらの導体が二点鎖線によって示されている。
【0036】
図3に示されている例では、2つの追加セプタム導体38が、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている。さらに、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された2本の追加セプタム導体38は軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられている。ここで、軌道面48は、イオンビームが周回軌道を描く仮想上の平面である。
【0037】
このように、複数の追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されているものを除いて見た場合に、周回軌道側が密になり、上側および下側が疎になるように配置されている。複数の追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されているものを併せて見た場合にも、周回軌道側が密になり、上側および下側が疎になるように配置されてもよい。
【0038】
図4には、セプタム導体34、追加セプタム導体38、リターン導体42および追加リターン導体46の断面構造の例が示されている。これらのコイル導体は、冷媒配管26、導体22および絶縁体24を備えている。冷媒配管26は筒状に形成されている。導体22は筒状に形成されており冷媒配管26の周囲を覆っている。導体22の周囲は絶縁体24によって被覆されている。冷媒配管26には水等の冷媒28が流通し、冷媒28が導体22から熱を奪う。これによって導体22が冷却される。
【0039】
図2に戻ってセプタム電磁石30の動作が説明される。
図2には、周回軌道上のイオンビーム1と、ビーム取り出し軌道上のイオンビーム2が示されている。セプタムコイル32、追加セプタムコイル36、リターンコイル40および追加リターンコイル44に電流が流れることで、セプタム磁場領域6には上方向のセプタム磁場が発生する。周回軌道を周回し所定のエネルギーを有するに至ったイオンは、イオンビーム取り出し用の電磁石(図示せず)が発生する磁場に従ってベータトロン振動し、セプタム電磁石30に入射する。セプタム電磁石30に入射したイオンは、セプタム磁場によって周回軌道の外側に偏向し、イオン取り出し軌道に沿って進行してセプタム電磁石30から外側に取り出される。
【0040】
本実施形態に係るセプタム電磁石30では、セプタムコイル32およびリターンコイル40に加えて、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44が設けられている。追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44は、セプタムコイル32およびリターンコイル40に比べて、x軸方向分布がより一様な磁場を発生する。すなわち、x軸方向に沿って見たときに、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44が発生する磁場は、セプタムコイル32およびリターンコイル40が発生する磁場に比べて実効的な磁束密度が大きい。これによって、セプタムコイル32およびリターンコイル40のみが用いられる場合に比べて、一定距離当たりのイオンビームの偏向角が大きくなり、セプタム電磁石30が短くなる。
【0041】
また、本実施形態に係るセプタム電磁石30では、セプタムコイル32およびリターンコイル40と、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44とが併用されている。セプタムコイル32およびリターンコイル40は、コサイン巻の追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44に比べて構造が簡単である。したがって、本実施形態に係るセプタム電磁石30によれば、総てのコイルをコサイン巻のコイルとした場合に比べて構造が単純化される。すなわち、構造が過度に複雑になることを回避しつつ、一定距離当たりのイオンビームの偏向角が大きくなる。
【0042】
さらに、本実施形態に係るセプタム電磁石30では、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された2本の追加セプタム導体38は軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。これによって、追加セプタムコイル36に流れる電流の分布が理想的な分布に一致または近似した状態で、周回軌道の径方向への追加セプタムコイル36の厚みが薄くなり得る。したがって、周回軌道を外れてセプタム電磁石30に入射する前のイオンが、追加セプタムコイル36に衝突する可能性が低くなる。また、軌道面48上に追加セプタム導体38が設けられた場合に比べて、一定時間当たりに加速器100から取り出せるイオンビームの数が増加する。
【0043】
ここでは、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された追加セプタム導体38が、軌道面48を避けて配置される実施形態が示された。周回軌道上のイオンビーム1と、取り出し軌道上のイオンビーム2との間の距離が大きい場合には、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された追加セプタム導体38は、軌道面48を避けずに配置されてもよい。
【0044】
図5には、本発明の第2実施形態に係るセプタム電磁石60の断面が示されている。セプタム電磁石60は、セプタムコイル32、リターンコイル40、追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54を備えている。
【0045】
追加セプタムコイル50は、複数の追加セプタム導体52を備えている。複数の追加セプタム導体52のうち周回軌道寄りの一部は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている。追加セプタム導体52は、周回軌道側に膨らむ弧を描くように、上下方向に配列されている。追加リターンコイル54は、複数の追加リターン導体56を備えている。複数の追加リターン導体56は、リターンコイル40よりも周回軌道側に配置されている。追加リターン導体56は、ビーム取り出し側に膨らむ弧を描くように、上下方向に配列されている。複数の追加セプタム導体52および複数の追加リターン導体56は、取り出しビーム軌道を筒状に囲んでいる。複数の追加セプタム導体52と、複数の追加リターン導体56のそれぞれは、ビーム取り出し軌道に垂直な断面で円弧状に配置されてよい。
【0046】
複数の追加セプタム導体52および複数の追加リターン導体56は、次の4つの導体グループに分けられる。第1の導体グループは、仰俯角φが-45°以上45°未満である追加セプタム導体52による左側導体グループである。第2の導体グループは、仰俯角φが45°以上90°未満である追加セプタム導体52と、仰俯角θが45°以上90°未満である追加リターン導体56による上側導体グループである。第3の導体グループは、仰俯角θが-45°以上45°未満である追加リターン導体56による右側導体グループである。第4の導体グループは、仰俯角φが-90°以上-45°未満である追加セプタム導体52と、仰俯角θが-90°以上-45°未満である追加リターン導体56による下側導体グループである。
【0047】
左側導体グループに流れる電流の方向と、右側導体グループに流れる電流の方向は同一方向である。また、上側導体グループに流れる電流の方向と、下側導体グループに流れる電流の方向は同一方向である。そして、左側導体グループおよび右側導体グループに流れる電流の方向と、上側導体グループおよび下側導体グループに流れる電流の方向は逆方向である。
【0048】
複数の追加セプタム導体52のそれぞれと、複数の追加リターン導体56のそれぞれは、各導体に流れる電流の方向につき上記の関係が得られるように接続されている。また、複数の追加セプタム導体52のそれぞれの入射側端および出射側端のうちいずれかが、電流が流入または流出する一端であってよい。そして、複数の追加リターン導体56のそれぞれの入射側端および出射側端のうちいずれかが、電流が流出または流入する一端であってよい。
【0049】
図6には、追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54がセプタム電磁石60から抜き出して描かれている。複数の追加リターン導体56は、電流の空間分布がP・cos2θに一致または近似するように配置されている。ここでPは定数であってもよいし、時間に関する変数であってもよい。すなわち、複数の追加リターン導体56は2倍角コサイン巻のコイルを形成する。複数の追加リターン導体56は、ビーム取り出し側が密になり、ビーム取り出し側斜め上およびビーム取り出し側斜め下が疎になるように配置されている。
【0050】
複数の追加セプタム導体52は、電流の空間分布がP・cos2φに一致または近似するように配置されている。すなわち、複数の追加セプタム導体52は2倍角コサイン巻のコイルを形成する。ただし、本実施形態では、複数の追加セプタム導体52のうち、周回軌道寄りの追加セプタム導体52が、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている。
図6に示されている例では、2つの追加セプタム導体52が、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている。さらに、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された2本の追加セプタム導体52は軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。
【0051】
このように、複数の追加セプタム導体52は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されているものを除いて見た場合に、周回軌道側が密になり、周回軌道側斜め上および周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている。複数の追加セプタム導体52は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されているものを併せて見た場合にも、周回軌道側が密になり、周回軌道側斜め上および周回軌道側斜め下が疎になるように配置されてもよい。
【0052】
図5に戻ってセプタム電磁石60の動作が説明される。セプタムコイル32およびリターンコイル40に電流が流れることで、セプタム磁場領域6には上方向のセプタム磁場が発生する。周回軌道を周回し所定のエネルギーを有するに至ったイオンは、イオンビーム取り出し用の電磁石が発生する磁場に従ってベータトロン振動し、セプタム電磁石60に入射する。セプタム電磁石60に入射したイオンは、セプタム磁場によって周回軌道の外側に偏向し、イオン取り出し軌道に沿って進行してセプタム電磁石60から外側に取り出される。
【0053】
本実施形態に係るセプタム電磁石60では、セプタムコイル32およびリターンコイル40に加えて、追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54が設けられている。追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54は、四極電磁石と同様、イオンビームの広がりを調整する磁場を発生する。本実施形態では、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54が設けられているため、加速器から取り出されたイオンビームに対して用いられる四極電磁石の数が削減され得る。
【0054】
また、本実施形態に係るセプタム電磁石60では、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された2本の追加セプタム導体52は軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。これによって、追加セプタムコイル50に流れる電流の分布が理想的な分布に一致または近似した状態で、周回軌道の径方向への追加セプタムコイル50の厚みが薄くなり得る。したがって、周回軌道を外れてセプタム電磁石60に入射する前のイオンが、追加セプタムコイル50に衝突する可能性が低くなる。また、軌道面48上に追加セプタム導体52が設けられた場合に比べて、一定時間当たりに加速器から取り出せるイオンビームの数が増加する。
【0055】
ここでは、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された追加セプタム導体52が、軌道面48を避けて配置された実施形態が示された。周回軌道上のイオンビーム1と、取り出し軌道上のイオンビーム2との間の距離が大きい場合には、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置された追加セプタム導体52は、軌道面48を避けずに配置されてもよい。
【0056】
図7に示されているように、第1実施形態に係るセプタム電磁石30と、第2実施形態に係るセプタム電磁石60とが縦続配置されたセプタム電磁石200が構成されてもよい。すなわち、セプタム電磁石30から出射するイオンビームがセプタム電磁石60に入射するように、セプタム電磁石30および60が配置されてよい。
【0057】
この場合、セプタムコイル32およびリターンコイル40は、セプタム電磁石30およびセプタム電磁石60に対して共通に設けられてもよい。すなわち、セプタムコイル32およびリターンコイル40は、セプタム電磁石30からセプタム電磁石60にまで及ぶように配置されてもよい。また、セプタム電磁石30およびセプタム電磁石60のそれぞれに対して個別に、セプタムコイル32およびリターンコイル40が設けられてもよい。
【0058】
図7に示されているセプタム電磁石30における複数の追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている追加セプタム導体38を除いて見た場合に、周回軌道側が密になるように配置されている第1導体群を形成する。また、セプタム電磁石60における複数の追加セプタム導体52は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている追加セプタム導体52を除いて見た場合に、周回軌道側が密になるように配置され、かつ、周回軌道側斜め上および周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている第2導体群を形成する。これら第1導体群および第2導体群は、ビーム取り出し軌道に沿って縦続配置されている。
【0059】
図8には、本発明の第3実施形態に係るセプタム電磁石62が示されている。セプタム電磁石62は、セプタムコイル32およびリターンコイル40に、コサイン巻の追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44と、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54を並設したものである。
【0060】
セプタムコイル32よりもビーム取り出し側には、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50が隣接して配置されている。ただし、追加セプタムコイル50を構成する追加セプタム導体52のうち、周回軌道寄りの一部は、セプタムコイル32の周回軌道側の配置されている。2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50よりもビーム取り出し側には、コサイン巻の追加セプタムコイル36が隣接して配置されている。
図8では、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50が、セプタムコイル32を描く実線よりも太い実線で描かれている。また、コサイン巻の追加セプタムコイル36が破線で描かれている。
【0061】
コサイン巻の追加セプタムコイル36を構成する複数の追加セプタム導体38のうち、周回軌道側の2つの追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側において軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。さらに、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50を構成する複数の追加セプタム導体52のうち、周回軌道側の2つの追加セプタム導体52は、セプタムコイル32よりも周回軌道側において軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。セプタムコイル32よりも周回軌道側では、追加セプタムコイル50に属する2本の追加セプタム導体52は、追加セプタムコイル36に属する2本の追加セプタム導体38の上下に位置している。
【0062】
リターンコイル40よりも周回軌道側には、2倍角コサイン巻の追加リターンコイル54が隣接して配置され、2倍角コサイン巻の追加リターンコイル54よりも周回軌道側には、コサイン巻の追加リターンコイル44が隣接して配置されている。
図6では、2倍角コサイン巻の追加リターンコイル54が、リターンコイル40を描く実線よりも太い実線で描かれている。また、コサイン巻の追加リターンコイル44が破線で描かれている。
【0063】
このように、本実施形態における複数の追加セプタム導体38は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている追加セプタム導体38を除いて見た場合に、周回軌道側が密になるように配置されている第1導体群を形成する。また、複数の追加セプタム導体52は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に配置されている追加セプタム導体52を除いて見た場合に、周回軌道側が密になるように配置され、かつ、周回軌道側斜め上および周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている第2導体群を形成する。これら第1導体群および第2導体群は、ビーム取り出し軌道に沿って並設されている。
【0064】
このような構成によれば、セプタムコイル32およびリターンコイル40のみが用いられる場合に比べて、一定距離当たりのイオンビームの偏向角が大きくなり、セプタム電磁石62が短くなる。また、総てのコイルをコサイン巻とした場合に比べて構造が単純化される。すなわち、構造が過度に複雑になることを回避しつつ、イオンビームを偏向する効果が高められる。さらに、周回軌道を外れてセプタム電磁石62に入射する前のイオンが、コサイン巻の追加セプタムコイル36および2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50に衝突する可能性が低くなる。これによって、軌道面48上に各追加セプタム導体が設けられた場合に比べて、一定時間当たりに加速器から取り出せるイオンビームの数が増加する。
【0065】
ここでは、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54の内側に、コサイン巻の追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44が設けられた実施形態が示された。このような構成の他、2倍角コサイン巻の追加セプタムコイル50および追加リターンコイル54の外側に、コサイン巻の追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44が設けられてもよい。
【0066】
図9には、本発明の第4実施形態に係るセプタム電磁石64が示されている。セプタム電磁石64は、
図2に示された第1実施形態に係るセプタム電磁石30に、補正コイル72が追加されたものである。補正コイル72は、ビーム取り出し軌道に沿って延びる一対または複数対の補正コイル導体74によって構成されている。対をなす2本の補正コイル導体74は、セプタムコイル32よりも周回軌道側に軌道面48を挟んで上下に配置されている。
図9には、2対の補正コイル導体74が配置された例が示されている。右側の一対の補正コイル導体74は、左側の一対の補正コイル導体74に比べて、上下の配置間隔が広い。
【0067】
対をなす2本の補正コイル導体74には、互いに逆方向の電流が流される。これによって、x軸正方向またはx軸負方向の補正磁場が生じる。セプタムコイル32、リターンコイル40、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44は、セプタム磁場を発生すると共に、周回軌道側に漏れるx軸方向の磁場を発生する。この漏れ磁場によって、加速中のイオンビームの軌道が所望の軌道からずれてしまうことがある。本実施形態によれば、補正コイル72から発せられる補正磁場によって漏れ磁場が抑制され、加速中のイオンビームの軌道が、理想的な軌道に近付けられ、または一致させられる。
【0068】
補正コイル72は、第2実施形態に係るセプタム電磁石60および第3実施形態に係るセプタム電磁石62に追加されてもよい。
【0069】
図10には、第5実施形態に係るセプタム電磁石66が示されている。このセプタム電磁石66は、セプタムコイル32の周回軌道側に、追加セプタムコイル51を構成する複数の追加セプタム導体52を配置し、リターンコイル40のビーム取り出し側に、追加リターンコイル55を構成する複数の追加リターン導体56を配置したものである。セプタムコイル32のビーム取り出し側およびリターンコイル40の周回軌道側は、セプタム磁場領域6に面している。
【0070】
さらに、x軸の上側の追加セプタム導体52およびx軸の下側の追加セプタム導体52は、軌道面48で接触してよい。同様に、x軸の上側の追加リターン導体56およびx軸の下側の追加リターン導体56は、軌道面48で接触してよい。
【0071】
複数の追加セプタム導体52および複数の追加リターン導体56は、次の4つの導体グループに分けられる。第1の導体グループは、仰俯角φが-45°以上45°未満である追加セプタム導体52による左側導体グループである。第2の導体グループは、仰俯角φが45°以上90°未満である追加セプタム導体52と、仰俯角θが45°以上90°未満である追加リターン導体56による上側導体グループである。第3の導体グループは、仰俯角θが-45°以上45°未満である追加リターン導体56による右側導体グループである。第4の導体グループは、仰俯角φが-90°以上-45°未満である追加セプタム導体52と、仰俯角θが-90°以上-45°未満である追加リターン導体56による下側導体グループである。
【0072】
左側導体グループに流れる電流の方向と、右側導体グループに流れる電流の方向は同一方向である。また、上側導体グループに流れる電流の方向と、下側導体グループに流れる電流の方向は同一方向である。そして、左側導体グループおよび右側導体グループに流れる電流の方向と、上側導体グループおよび下側導体グループに流れる電流の方向は逆方向である。
【0073】
複数の追加セプタム導体52のそれぞれと、複数の追加リターン導体56のそれぞれは、各導体に流れる電流の方向につき上記の関係が得られるように接続されている。また、複数の追加セプタム導体52のそれぞれの入射側端および出射側端のうちいずれかが、電流が流入または流出する一端であってよい。そして、複数の追加リターン導体56のそれぞれの入射側端および出射側端のうちいずれかが、電流が流出または流入する一端であってよい。
【0074】
複数の追加リターン導体56は、ビーム取り出し側が密になり、ビーム取り出し側斜め上およびビーム取り出し側斜め下が疎になるように配置されている。複数の追加リターン導体56は、電流の空間分布がP・cos2θに一致または近似するように配置されてもよい。すなわち、複数の追加リターン導体56は2倍角コサイン巻のコイルを形成してもよい。
【0075】
複数の追加セプタム導体52は、周回軌道側が密になり、周回軌道側斜め上および周回軌道側斜め下が疎になるように配置されている。複数の追加セプタム導体52は、電流の空間分布がP・cos2φに一致または近似するように配置されてもよい。すなわち、複数の追加セプタム導体52は2倍角コサイン巻のコイルを形成してもよい。
【0076】
本実施形態に係るセプタム電磁石66は、上記の各実施形態に係るセプタム電磁石30、60、62および64に比べて、周回軌道上のイオンビーム1と、取り出し軌道上のイオンビーム2との間の距離が大きい場合に用いられてよい。本実施形態に係るセプタム電磁石66における複数の追加リターン導体56の配置、複数の追加セプタム導体52の配置、および各導体に流れる電流の方向によれば、追加セプタムコイル51および追加リターンコイル55は四極電磁石として作用する。そのため、加速器から取り出されたイオンビームに対して用いられる四極電磁石の数が削減され得る。
【0077】
図11には、セプタム電磁石66の内部における磁場分布の計算結果が示されている。横軸はx軸上の位置を示し、縦軸は磁場強度を示す。理想分布400は理想的な磁場分布であり、計算分布402は、シミュレーションで得られた磁場分布である。
図11に示されている例では、理想分布に対する磁場分布のずれは4%である。理想分布に対する磁場分布のずれは1%未満であることが好ましい。すなわち、理想分布に対する磁場分布のずれを1%未満とすることで、イオンビームを収束させる十分な性能が得られる。
【0078】
上記の第1~第4実施形態についても、理想分布に対する磁場分布のずれが1%未満となるように、セプタムコイル、リターンコイル、追加セプタムコイルおよび追加リターンコイルを構成する各導体を配置することで、同様の効果が得られる。
【0079】
ここでは、第5実施形態として、セプタムコイル32の周回軌道側に左側導体グループ(追加セプタム導体52)が設けられ、リターンコイル40のビーム取り出し側に右側導体グループ(追加リターン導体56)が設けられたセプタム電磁石66が示された。このような構成に代えて、左側導体グループがセプタムコイル32のビーム取り出し側に設けられ、右側導体グループがリターンコイル40の周回軌道側に設けられた構成が採用されてもよい。
【0080】
図12には、第6実施形態に係るセプタム電磁石70が示されている。このセプタム電磁石70は、第5実施形態に係るセプタム電磁石66における追加セプタムコイル51の構造を変形したものである。すなわち、セプタム電磁石70では、セプタムコイル32よりも周回軌道側にある追加セプタム導体52が、軌道面48の上下に配置され、軌道面48が避けられた位置に配置されている。
【0081】
このような構成によれば、追加セプタムコイル51に流れる電流の分布が理想的な分布に一致または近似した状態で、周回軌道の径方向への追加セプタムコイル51の厚みが薄くなり得る。したがって、周回軌道を外れてセプタム電磁石70に入射する前のイオンが、追加セプタムコイル51に衝突する可能性が低くなる。
【0082】
なお、
図8に示されたセプタム電磁石62と同様、セプタムコイル32およびリターンコイル40に、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44と、第5実施形態における追加セプタムコイル51および追加リターンコイル55とが並設されてもよい。同様に、セプタムコイル32およびリターンコイル40に、追加セプタムコイル36および追加リターンコイル44と、第6実施形態における追加セプタムコイル51および追加リターンコイル55とが並設されてもよい。
【0083】
図13には、本発明の第7実施形態に係る加速器102が模式的に示されている。加速器102はサイクロトロンと称される。
図10には、水平面で切断された加速器102の断面が示されている。加速器102は、電磁石筐体80、加速電極対90およびセプタム電磁石30を備えている。
【0084】
電磁石筐体80は、円柱状のビーム偏向磁場領域82を内部に形成する。電磁石筐体80は、描画面に向かうz軸正方向の磁場をビーム偏向磁場領域82に発生する。加速電極対90は、中空の円板状の空洞を切断して得られる2つのD電極90Aおよび90Bから構成されている。D電極90AとD電極90Bとの間には高周波電場が発生する。
【0085】
D電極90AとD電極90Bとの間におけるイオン注入点84にはイオンが注入される。イオンはD電極90AとD電極90Bとの間の高周波電場によって加速し、エネルギーが増加すると共に軌道半径が増加する周回軌道86を加速電極対90内に描く。周回軌道86を周回し所定のエネルギーを有するに至ったイオンは、キッカ(図示せず)が発生する電場に従ってベータトロン振動し、セプタム電磁石30に入射する。セプタム電磁石30に入射したイオンは、セプタム磁場によって周回軌道86の外側に偏向し、イオン取り出し軌道に沿って進行してセプタム電磁石30から外側に取り出される。
【0086】
上記の各実施形態に係るセプタム電磁石は、その他の方式の加速器に用いられてもよい。例えば、特許文献4に示されているように、ビーム偏向磁場領域の中心から変位した位置にイオンが注入される偏心型の加速器に、上記の各実施形態に係るセプタム電磁石が用いられてもよい。
【0087】
図14には、本発明の第8実施形態に係る粒子線治療システム104が示されている。粒子線治療システム104は、加速器102、回転ガントリ301、照射装置302、治療台303、治療制御装置304および加速器制御装置305を備えている。加速器102は、
図10に示された構成要素に加えて、電源としてセプタム電源・ローカル制御装置306および主電源・ローカル制御装置307を備えている。
【0088】
加速器102から取り出されたイオンビームは回転ガントリ301に入射する。回転ガントリ301は、イオンビームを輸送すると共にイオンビームの進行方向を変化させるビーム輸送装置として動作する。イオンビームは、回転ガントリ301を通過して照射装置302まで輸送される。照射装置302は、治療台303に横たわる患者308の患部標的にイオンビームを照射する。
【0089】
治療制御装置304は、加速器制御装置305にイオンビームの出射または出射停止を指令するオン/オフ信号を送信する。加速器制御装置305は、オン/オフ信号に従ってセプタム電源・ローカル制御装置306および主電源・ローカル制御装置307を制御する。セプタム電源・ローカル制御装置306は、加速器制御装置305の制御に従って、セプタム電磁石30に電流を流し、またはセプタム電磁石30に流れる電流を遮断する。主電源・ローカル制御装置307は、加速器制御装置305の制御に従って、加速器102の主要部に電流を流し、または主要部に流れる電流を遮断する。なお、加速器102の主要部は、セプタム電磁石30を含まない加速器102のその他の構成要素である。
【0090】
治療制御装置304は、照射装置302が患者308に照射したイオンビームの線量を計測すると共に、イオンビームに対して要求されるエネルギー、イオンビームに対して要求される線量等を示す制御情報を計測結果に応じて加速器制御装置305に出力する。また、治療制御装置304は、照射方向を指示する制御情報を回転ガントリ301に出力し、照射領域を指示する制御情報を照射装置302に出力する。
【0091】
加速器制御装置305は、治療制御装置304から出力された制御情報に従ってセプタム電源・ローカル制御装置306および主電源・ローカル制御装置307に必要な情報を送信する。セプタム電源・ローカル制御装置306および主電源・ローカル制御装置307は、加速器制御装置305から送信された情報に応じて、セプタム電磁石30および加速器102の主要部をそれぞれ個別に制御する。
【0092】
例えば、加速器制御装置305およびセプタム電源・ローカル制御装置306は、治療制御装置304の指示に従う大きさの電流を、治療制御装置304の指示に従うタイミングで、セプタム電磁石30が備える各コイルに電流を流す制御を実行する。治療制御装置304の指示に従うタイミングには、例えば、患者308にイオンビームを照射するタイミングや、加速器102からイオンビームが取り出されるタイミングがある。このように、セプタム電磁石30の各コイルに流れる電流を、治療制御装置304の指示に従ってオン/オフするパルス運転を行うことでセプタム電磁石30の発熱量が抑制される。したがって、連続的に電流を流す場合に比べて各コイルに実効値の大きい電流を流すことで、一定距離当たりのイオンビームの偏向角をより大きくし、セプタム電磁石30を短くした設計が可能となる。
【0093】
ここでは、セプタム電磁石30が用いられた粒子線治療システム104が示された。粒子線治療システムには、
図5、
図7、
図8、
図9、
図10および
図12にそれぞれ示されたセプタム電磁石60,200,62、64、66および70が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 周回軌道上のイオンビーム、2 取り出し軌道上のイオンビーム、6 セプタム磁場領域、10 イオン源、12 入射装置、14-1~14-4 偏向電磁石、16-1~16-4 真空ダクト、18 加速空洞、20 四極電磁石、22 導体、24 絶縁体、26 冷媒配管、28 冷媒、30,60,62,64,66,70,200 セプタム電磁石、32 セプタムコイル、34 セプタム導体、36,50,51 追加セプタムコイル、38,52 追加セプタム導体、40 リターンコイル、42 リターン導体、44,54,55 追加リターンコイル、46,56 追加リターン導体、48 軌道面、72 補正コイル、74 補正コイル導体、80 電磁石筐体、82 ビーム偏向磁場領域、84 イオン注入点、86 周回軌道、90 加速電極対、90A,90B D電極、100,102 加速器、104 粒子線治療システム、301 回転ガントリ、302照射装置、303 治療台、304 治療制御装置、305 加速器制御装置、306 セプタム電源・ローカル制御装置、307 主電源・ローカル制御装置、400 理想分布、402 計算分布。