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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176640
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
H01L21/304 651G
H01L21/304 642A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083171
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】真柄 啓二
【テーマコード(参考)】
5F157
【Fターム(参考)】
5F157AA09
5F157AA69
5F157AA93
5F157AB03
5F157AB13
5F157AB34
5F157AC04
5F157AC42
5F157CB13
5F157DA21
5F157DB36
(57)【要約】
【課題】3次元構造の倒壊を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】基板処理方法はリン酸処理工程S13と粗リンス処理工程S15と枚葉乾燥処理工程S23とを含む。リン酸処理工程S13において、処理槽内のリン酸に複数の基板を浸漬させる。粗リンス処理工程S15において、リン酸処理工程S13の後に、複数の基板のパターン内にリン酸が残る程度に、複数の基板に付着したリン酸の一部を第1リンス液に置換する。枚葉乾燥処理工程S23において、粗リンス処理工程S15の後に、複数の基板を1枚ずつ乾燥させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内のリン酸に複数の基板を浸漬させるリン酸処理工程と、
前記リン酸処理工程の後に、前記複数の基板のパターン内に前記リン酸が残る程度に、前記複数の基板に付着した前記リン酸の一部を第1リンス液に置換する粗リンス処理工程と、
前記粗リンス処理工程の後に、前記複数の基板を1枚ずつ乾燥させる枚葉乾燥処理工程と
を備える、基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記粗リンス処理工程は、前記パターン内における前記リン酸の濃度が50%以上となる状態で終了する、基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記粗リンス処理工程は、前記第1リンス液の温度を低下させる温度低下工程を含む、基板処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の基板処理方法であって、
前記粗リンス処理工程と前記枚葉乾燥処理工程との間において、前記複数の基板のうち前記パターンが形成されていないパターン外領域に付着した液体の少なくとも一部を除去する粗乾燥処理工程をさらに備える、基板処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の基板処理方法であって、
前記粗乾燥処理工程において、前記複数の基板を、前記第1リンス液よりも蒸発潜熱の小さい第2リンス液の蒸気の雰囲気に曝す、基板処理方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の基板処理方法であって、
前記リン酸処理工程は、
前記複数の基板を下降させて前記処理槽内の前記リン酸に浸漬させる工程と、
第1上昇速度で前記複数の基板を上昇させて前記処理槽から前記複数の基板を引き上げる工程と
を含み、
前記粗リンス処理工程は、
前記複数の基板を下降させて前記第1リンス液に浸漬させる工程と、
前記第1上昇速度以下の第2上昇速度で前記複数の基板を上昇させて前記複数の基板を前記第1リンス液から引き上げる工程と
を含む、基板処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の基板処理方法であって、
前記粗リンス処理工程の後に、前記複数の基板を第1キャリアに搬送する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1キャリアを枚葉式の処理装置のロードポートに搬送する第2工程と、
前記第2工程と前記枚葉乾燥処理工程との間で、前記ロードポートの前記第1キャリアから前記複数の基板を1枚ずつ枚葉処理部に搬送する第3工程と、
前記枚葉乾燥処理工程の後に、前記枚葉処理部から前記ロードポートの第2キャリアに基板を搬送する第4工程と
を備える、基板処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の基板処理方法であって、
前記第1キャリアは、前記複数の基板の各々のうち前記パターンが形成されていないパターン外領域の一部に接触する吸水部材を含む、基板処理方法。
【請求項9】
処理槽を有し、複数の基板を前記処理槽内のリン酸に浸漬させるリン酸処理部と、
前記複数の基板のパターンの内部に前記リン酸が残る程度に、前記複数の基板に付着した前記リン酸の一部をリンス液に置換する粗リンス処理部と、
前記複数の基板を1枚ずつ乾燥する枚葉処理部と
を備える、基板処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の基板処理装置であって、
前記複数の基板の姿勢を水平姿勢と起立姿勢との間で変換する姿勢変換部を備え、
前記リン酸処理部は、起立姿勢の前記複数の基板を前記処理槽内の前記リン酸に浸漬させ、
前記枚葉処理部は、水平姿勢の基板を乾燥処理する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リン酸を用いて窒化シリコン膜をエッチング除去するバッチ式の処理装置が提案されている。バッチ式の処理装置は複数の基板を一括して処理するので、高いスループットで基板を処理できる。処理装置は、複数の基板に付着したリン酸をリンス液に置換するリンス処理を行う。そして、処理装置は、リンス処理後の複数の基板を一括して乾燥させる乾燥処理を行う。
【0003】
なお、本願に関連する技術として特許文献1,2を掲示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-502275号公報
【特許文献2】特開2020-141063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、基板に形成される3次元構造(例えばパターン)が精細となり、複数の基板に対して一括して乾燥処理を行うと、3次元構造の倒壊を招き得る。
【0006】
そこで、本開示は、3次元構造の倒壊を抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
基板処理方法の第1の態様は、処理槽内のリン酸に複数の基板を浸漬させるリン酸処理工程と、前記リン酸処理工程の後に、前記複数の基板のパターン内に前記リン酸が残る程度に、前記複数の基板に付着した前記リン酸の一部を第1リンス液に置換する粗リンス処理工程と、前記粗リンス処理工程の後に、前記複数の基板を1枚ずつ乾燥させる枚葉乾燥処理工程とを備える。
【0008】
基板処理方法の第2の態様は、第1の態様にかかる基板処理方法であって、前記粗リンス処理工程は、前記パターン内における前記リン酸の濃度が50%以上となる状態で終了する。
【0009】
基板処理方法の第3の態様は、第1または第2の態様にかかる基板処理方法であって、前記粗リンス処理工程は、前記第1リンス液の温度を低下させる温度低下工程を含む。
【0010】
基板処理方法の第4の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかる基板処理方法であって、前記粗リンス処理工程と前記枚葉乾燥処理工程との間において、前記複数の基板のうち前記パターンが形成されていないパターン外領域に付着した液体の少なくとも一部を除去する粗乾燥処理工程をさらに備える。
【0011】
基板処理方法の第5の態様は、第4の態様にかかる基板処理方法であって、前記粗乾燥処理工程において、前記複数の基板を、前記第1リンス液よりも蒸発潜熱の小さい第2リンス液の蒸気の雰囲気に曝す。
【0012】
基板処理方法の第6の態様は、第1から第5のいずれか一つの態様にかかる基板処理方法であって、前記リン酸処理工程は、前記複数の基板を下降させて前記処理槽内の前記リン酸に浸漬させる工程と、第1上昇速度で前記複数の基板を上昇させて前記処理槽から前記複数の基板を引き上げる工程とを含み、前記粗リンス処理工程は、前記複数の基板を下降させて前記第1リンス液に浸漬させる工程と、前記第1上昇速度以下の第2上昇速度で前記複数の基板を上昇させて前記複数の基板を前記第1リンス液から引き上げる工程とを含む。
【0013】
基板処理方法の第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様にかかる基板処理方法であって、前記粗リンス処理工程の後に、前記複数の基板を第1キャリアに搬送する第1工程と、前記第1工程の後に、前記第1キャリアを枚葉式の処理装置のロードポートに搬送する第2工程と、前記第2工程と前記枚葉乾燥処理工程との間で、前記ロードポートの前記第1キャリアから前記複数の基板を1枚ずつ枚葉処理部に搬送する第3工程と、前記枚葉乾燥処理工程の後に、前記枚葉処理部から前記ロードポートの第2キャリアに基板を搬送する第4工程とを備える。
【0014】
基板処理方法の第8の態様は、第7の態様にかかる基板処理方法であって、前記第1キャリアは、前記複数の基板の各々のうち前記パターンが形成されていないパターン外領域の一部に接触する吸水部材を含む。
【0015】
基板処理装置の第1の態様は、処理槽を有し、複数の基板を前記処理槽内のリン酸に浸漬させるリン酸処理部と、前記複数の基板のパターンの内部に前記リン酸が残る程度に、前記複数の基板に付着した前記リン酸の一部をリンス液に置換する粗リンス処理部と、前記複数の基板を1枚ずつ乾燥する枚葉処理部とを備える。
【0016】
基板処理装置の第2の態様は、第1の態様にかかる基板処理装置であって、前記複数の基板の姿勢を水平姿勢と起立姿勢との間で変換する姿勢変換部を備え、前記リン酸処理部は、起立姿勢の前記複数の基板を前記処理槽内の前記リン酸に浸漬させ、前記枚葉処理部は、水平姿勢の基板を乾燥処理する。
【発明の効果】
【0017】
基板処理方法の第1の態様および基板処理装置の第1ならびに第2の態様によれば、リン酸は蒸発しにくいので、粗リンス処理工程と枚葉乾燥処理工程との間で、基板の乾燥を抑制することができる。よって、乾燥に起因したパターンの倒壊を抑制することができる。
【0018】
基板処理方法の第2の態様によれば、効果的に基板の乾燥を抑制することができる。
【0019】
基板処理方法の第3の態様によれば、初期的には、第1リンス液の温度は高いので、基板の急冷を抑制でき、急冷に起因した基板のダメージを抑制できる。また、第1リンス液の温度を低下させることにより、パターン内のリン酸が第1リンス液に置換されにくくなる。よって、パターン内にリン酸を残留させやすい。
【0020】
基板処理方法の第4の態様によれば、基板のパターン外の領域に付着した液体を低減させることができる。よって、基板の搬送装置への液体の付着を抑制できる。
【0021】
基板処理方法の第5の態様によれば、第2リンス液の蒸気がパターン外領域に作用することにより、パターン外領域に付着した液体を第2リンス液に置換できる。第2リンス液は蒸発しやすいので、パターン外領域の液体を効果的に除去することができる。また、蒸気による作用では、パターンの内部のリン酸を第2リンス液には置換しにくいので、パターンの内部のリン酸を残留させることができる。よって、パターンの倒壊を適切に抑制できる。
【0022】
基板処理方法の第6の態様によれば、低い第2上昇速度で複数の基板を上昇させるので、粗リンス処理後の各基板のパターン外領域に付着する第1リンス液の量を低減させることができる。よって、基板の搬送装置への液体の付着を抑制できる。
【0023】
基板処理方法の第7の態様によれば、第1キャリアは粗リンス処理工程の後の基板を収納するので、第1キャリアは濡れる可能性があるものの、枚葉乾燥処理工程後の基板は第1キャリアとは別の第2キャリアに収納される。よって、枚葉乾燥処理工程後の基板に対する液体の付着を回避できる。
【0024】
基板処理方法の第8の態様によれば、パターン外領域に付着した液体を吸収するので、基板を搬送する搬送装置に液体が付着することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施の形態にかかる基板処理装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
図2】基板の3次元構造の一例を部分的かつ概略的に示す断面図である。
図3】粗リンス処理部の構成の一例を概略的に示す図である。
図4】枚葉処理部の構成の一例を概略的に示す図である。
図5】第1の実施の形態にかかる基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】蒸気圧曲線を示すグラフである。
図7】粗リンス処理の具体的な一例を示すフローチャートである。
図8】第2の実施の形態にかかる粗リンス処理部の構成の一例を概略的に示す図である。
図9】第2の実施の形態にかかる粗リンス処理部の構成の一例を概略的に示す図である。
図10】第3の実施の形態にかかる基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図11】キャリアの構成の一例を概略的に示す正面図である。
図12】キャリアの構成の一部の一例を概略的に示す拡大図である。
図13】キャリアの他の構成の一部の一例を概略的に示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、実施の形態について説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法または数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0027】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「一方向に」「一方向に沿って」「平行」「直交」「中心」「同心」「同軸」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば、「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸または面取りなどを有する形状も表すものとする。一の構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「A,BおよびCの少なくともいずれか一つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A,BおよびCのうち任意の2つ、ならびに、A,BおよびCの全てを含む。
【0028】
<第1の実施の形態>
<基板処理装置の全体構成>
図1は、基板処理装置10の構成の一例を概略的に示す平面図である。この基板処理装置10は、基板Wに対してウェット処理を行う装置である。
【0029】
基板Wは例えば半導体基板であり、その主面には3次元構造(以下、パターンと呼ぶ)が形成される。より具体的な一例として、基板Wの主面には3次元NAND(Not-AND)フラッシュメモリの製造途中の3次元構造が形成される。図2は、基板Wの3次元構造の一例を部分的かつ概略的に示す断面図である。図2の例では、基板Wは支持層93を含んでいる。支持層93は例えばシリコン層である。支持層93の上には積層構造90が形成されている。積層構造90は複数の絶縁膜91および複数の犠牲膜92を含む。絶縁膜91および犠牲膜92はZ軸方向において交互に積層されている。絶縁膜91は例えば二酸化シリコン膜であり、犠牲膜92は例えば窒化シリコン膜である。絶縁膜91および犠牲膜92の厚みは例えば1nm以上かつ50nm以下である。また、積層構造90には、トレンチ94が形成されている。トレンチ94は基板Wの厚み方向に沿って積層構造90を貫通する。また、積層構造90には、不図示のピラーが設けられる。ピラーは犠牲膜92が除去された場合に、絶縁膜91を支持する。ピラーの幅(基板Wの主面に平行な幅)は例えば1nm以上かつ50nm以下である。
【0030】
本実施の形態では具体的な一例として、基板処理装置10が犠牲膜92をエッチングする場合について述べるものの、基板処理装置10は他の処理を基板Wに対して行ってもよい。
【0031】
図1に示されるように、基板処理装置10はバッチ式の第1処理装置20と枚葉式の第2処理装置50と装置間搬送部70とを含んでいる。
【0032】
第1処理装置20はロードポート21と搬送部22とリン酸処理部30と粗リンス処理部40とを含んでいる。ロードポート21は、外部と複数の基板Wの受け渡しを行うための搬出入ポートである。複数の基板Wは可搬型の収容器(以下、キャリアと呼ぶ)C1に収納された状態で、ロードポート21に搬入される。キャリアC1内において、複数の基板Wは、例えば、水平姿勢かつ鉛直方向に並んだ状態で収納される。ここでいう水平姿勢とは、基板Wの厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢である。ここでは、基板Wは、その表面が鉛直上方を向く姿勢でキャリアC1内に収納される。キャリアC1内に収納される基板Wの枚数は特に制限されないものの、例えば25枚である。
【0033】
キャリアC1としては、基板Wを密閉空間に収納するFOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Inter Face)ポッド、または、基板Wを外気にさらすOC(Open Cassette)が採用されてもよい。
【0034】
図1の例では、ロードポート21にはキャリアC2(第1キャリアに相当)も搬入されている。ロードポート21において、キャリアC1およびキャリアC2は水平な第1配列方向において並んで配列される。キャリアC2は、キャリアC1と同様の構成を有する。ただし、後述のように、キャリアC2は、第1処理装置20と第2処理装置50との間の複数の基板Wの搬送に用いられる。
【0035】
図1の例では、第1処理装置20は筐体29を含んでおり、筐体29の内部には、少なくとも、搬送部22およびリン酸処理部30および粗リンス処理部40が設けられる。
【0036】
搬送部22はロードポート21とリン酸処理部30と粗リンス処理部40との間で複数の基板Wを搬送する。図1の例では、搬送部22は搬送ロボット23と姿勢変換部24と搬送ロボット25とを含む。
【0037】
搬送ロボット23は移動機構232によって、キャリアC1およびキャリアC2の第1配列方向に沿って移動可能に設けられている。搬送ロボット23はキャリアC1およびキャリアC2の各々と向かい合う位置で停止可能である。移動機構232は例えばモータを含むボールねじ機構等の機構を含む。
【0038】
搬送ロボット23はロードポート21のキャリアC1から未処理の複数の基板Wを取り出し、該複数の基板Wを姿勢変換部24に渡す。例えば、搬送ロボット23は複数のハンド231とハンド移動機構(不図示)とを含む。ハンド移動機構は例えばモータを含むアーム機構、昇降機構および旋回機構を有しており、ハンド231を水平方向および鉛直方向に移動させる。搬送ロボット23は、キャリアC1と向かい合う位置において、複数のハンド231を移動させることにより、キャリアC1から複数の基板Wを取り出す。これにより、各ハンド231には1枚の基板Wが載置される。そして、搬送ロボット23は、基板Wを保持したハンド231を移動させることにより、姿勢変換部24に複数の基板Wを渡す。
【0039】
姿勢変換部24は複数の基板Wの姿勢を水平姿勢から起立姿勢に変換する。ここでいう起立姿勢とは、基板Wの厚み方向が水平方向に沿う姿勢である。姿勢変換部24は保持部材241と回転部材242と回転機構(不図示)とを含む。回転部材242は所定の回転軸線Q2のまわりで回転可能に設けられている。回転軸線Q2は水平方向に沿って延在する軸である。保持部材241は回転部材242に取り付けられており、複数の基板Wを保持する。回転機構はモータを含み、回転部材242を回転軸線Q2のまわりで起立回転位置と水平回転位置との間で90度回転させる。これにより、保持部材241によって保持された複数の基板Wの姿勢が、水平姿勢と起立姿勢との間で変換される。
【0040】
保持部材241は所定の長手方向に長い長尺状の形状を有しており、回転部材242が水平回転位置に位置する状態では、保持部材241の長手方向は鉛直方向に沿う。図1の例では、4つの保持部材241が設けられている。保持部材241には複数の溝(不図示)が長手方向において並んで形成される。当該溝のピッチは複数の基板Wのピッチと等しい。各保持部材241の各溝に基板Wの端部が挿入されることで、保持部材241が各基板Wを4点で支持する。図1の例では、水平姿勢で複数の基板Wを保持する姿勢変換部24が実線で示されている。
【0041】
回転部材242が水平回転位置から起立回転位置に回転すると、保持部材241の長手方向は水平方向に沿い、基板Wの姿勢が水平姿勢から起立姿勢に変換される。図1の例では、起立姿勢で複数の基板Wを保持する姿勢変換部24を二点鎖線で示している。
【0042】
搬送ロボット25は姿勢変換部24から複数の基板Wを受け取り、該複数の基板Wをリン酸処理部30に搬送する。図1の例では、搬送ロボット25は一対の保持部材251とベース252と開閉機構253とを含む。保持部材251はベース252に対して変位可能に取り付けられている。開閉機構253は保持部材251を開位置と閉位置との間で移動させる。閉位置は、2つの保持部材251の間隔が狭い位置であり、保持部材251が複数の基板Wを挟持する位置である。開位置は、2つの保持部材251の間隔が広い位置であり、保持部材251が複数の基板Wの保持を解除する位置である。開閉機構253は例えばモータを含む。搬送ロボット25は移動機構254によって水平な搬送方向に沿って移動可能に設けられる。具体的には、移動機構254はベース252を搬送方向に沿って移動させる。これにより、保持部材251、ベース252、開閉機構253が一体に搬送方向に沿って移動する。移動機構254は例えばモータを含むボールねじ機構等の機構を含む。
【0043】
リン酸処理部30は、複数の基板Wに対して一括してリン酸処理を行うバッチ式の処理装置である。図1の例では、リン酸処理部30は処理槽31とリフタ32とを含む。処理槽31はリン酸を貯留する。リフタ32は複数の基板Wを受渡位置と処理位置との間で昇降させる。受渡位置は、処理槽31の上端よりも鉛直上方の位置であって、リフタ32と搬送ロボット25との間で複数の基板Wの受け渡しを行う位置である。処理位置は、複数の基板Wが処理槽31内のリン酸に浸漬する位置である。
【0044】
リフタ32が複数の基板Wを処理位置に下降させることにより、複数の基板Wが処理槽31内のリン酸に浸漬する。これにより、リン酸が各基板Wのトレンチ94を通じて犠牲膜92に作用し、犠牲膜92をエッチング除去する。犠牲膜92が除去されると、絶縁膜91は犠牲膜92によって支持されなくなるので、倒壊しやすくなる。
【0045】
搬送ロボット25は、リン酸処理後の複数の基板Wをリン酸処理部30から受け取り、該複数の基板Wを粗リンス処理部40に搬送する。図1の例では、粗リンス処理部40は搬送ロボット25の搬送方向においてリン酸処理部30と隣接する位置に設けられている。
【0046】
粗リンス処理部40は、リン酸処理部30によってリン酸処理された複数の基板Wに対して粗リンス処理を行う。粗リンス処理とは、複数の基板Wのパターン内(例えばトレンチ94内および絶縁膜91の相互間)にリン酸が残る程度に、複数の基板Wに付着したリン酸の一部を第1リンス液に置換する処理である。第1リンス液は例えば純水である。
【0047】
図3は、粗リンス処理部40の構成の一例を概略的に示す図である。図3の例では、粗リンス処理部40は処理槽41とリフタ42とリンス液供給部43と排出部44とチャンバ49とを含む。
【0048】
処理槽41は、鉛直上方に開口する箱形状を有しており、リンス液を貯留する。処理槽41はチャンバ49内に設けられる。チャンバ49の上部は開閉可能な蓋(シャッタとも呼ばれ得る)が設けられる。チャンバ49の蓋が開いた状態で、複数の基板Wがチャンバ49の上部開口を通じて内部に搬入され、あるいは、チャンバ49の内部から上部開口を通じて搬出される。
【0049】
リフタ42は複数の基板Wを昇降させる。図3の例では、リフタ42は、複数の基板Wを起立姿勢で保持する複数(図では3つ)の保持部材421と、保持部材421を支持するベース422と、ベース422を昇降させる昇降機構423とを含む。各保持部材421は、基板Wの厚み方向(図3でいう紙面垂直な方向)に沿って延在する長尺状の形状を有し、その基端部がベース422に取り付けられている。各保持部材421には複数の溝(不図示)がその長手方向において並んで形成されている。該溝のピッチは複数の基板Wのピッチと等しい。保持部材421の各溝に基板Wの端部が挿入されることで、複数の保持部材421が複数の基板Wを起立姿勢で保持する。ベース422は板状の形状を有しており、その厚み方向が保持部材421の長手方向に沿う姿勢で設けられる。昇降機構423はベース422を昇降させることにより、保持部材421によって保持された複数の基板Wを昇降させる。昇降機構423は例えばモータを含むボールねじ機構またはカム機構あるいはエアシリンダ等の機構を含む。以下では、昇降機構423による昇降の主体をリフタ42として説明することがある。
【0050】
リフタ42は複数の基板Wを、処理槽41よりも鉛直上方の受渡位置と、処理槽41内の処理位置との間で昇降させる。図3の例では、受渡位置は、チャンバ49よりも鉛直上方の位置であり、リフタ42と搬送部22との間で複数の基板の受け渡しを行う位置である。図3の例では、受渡位置に位置するリフタ42が二点鎖線で示されている。処理位置は、複数の基板Wが処理液に浸漬する位置である。
【0051】
リンス液供給部43は処理槽41に第1リンス液を供給する。図3の例では、リンス液供給部43はノズル431と給液管432とバルブ433とを含む。図3の例では、ノズル431は処理槽41内の下部に設けられている。給液管432の下流端はノズル431に接続され、給液管432の上流端はリンス液供給源に接続される。リンス液供給源は第1リンス液を貯留するタンク(不図示)を有する。
【0052】
バルブ433は給液管432に介装される。バルブ433が開くことにより、リンス液供給源から給液管432を通じてノズル431に第1リンス液が供給され、ノズル431の吐出口から処理槽41内に第1リンス液が吐出される。バルブ433が閉じることにより、処理槽41への第1リンス液の供給が終了する。
【0053】
図3の例では、給液管432にはヒータ434が設けられている。ヒータ434は第1リンス液を加熱する。これにより、加熱後の第1リンス液が処理槽41に供給される。
【0054】
図3の例では、粗リンス処理部40には、アップフロー槽411が設けられている。アップフロー槽411は、処理槽41の上端から溢れた第1リンス液を受け止める外槽である。
【0055】
排出部44は処理槽41およびアップフロー槽411から第1リンス液を排出する。排出部44は排液管441と排液管442とバルブ443とバルブ444とを含む。排液管441の上流端は処理槽41の例えば底部に接続され、排液管442の上流端はアップフロー槽411の例えば底部に接続される。
【0056】
バルブ443およびバルブ444はそれぞれ排液管441および排液管442に介装される。バルブ443が開くことにより、処理槽41内の第1リンス液は排液管441を通じて外部に排出され、バルブ443が閉じることにより、処理槽41内の第1リンス液の排出が終了する。バルブ444が開くことにより、アップフロー槽411内の第1リンス液は排液管442を通じて外部に排出され、バルブ444が閉じることにより、アップフロー槽411内の第1リンス液の排出が終了する。
【0057】
粗リンス処理部40のリフタ42は、リン酸処理後の複数の基板Wを短時間だけ処理槽41内の第1リンス液に浸漬させることにより、粗リンス処理を行うことができる。
【0058】
また、粗リンス処理中において、バルブ433およびバルブ444が開いてもよい。これによれば、リンス液供給部43によって処理槽41内に供給された第1リンス液は処理槽41内を鉛直上方に向かって流れる。そして、第1リンス液は処理槽41の上部から溢れ、アップフロー槽411および排液管441を通じて外部に排出される。このように、処理槽41内には、鉛直上方に向かう液流(いわゆるアップフロー)が形成される。したがって、基板Wへの不純物の付着を抑制することができる。
【0059】
搬送ロボット25は粗リンス処理部40から粗リンス処理後の複数の基板Wを受け取り、該複数の基板Wを姿勢変換部24に搬送する。姿勢変換部24は基板Wの姿勢を起立姿勢から水平姿勢に変換する。搬送ロボット23は水平姿勢の複数の基板Wを姿勢変換部24から受け取り、該複数の基板Wをロードポート21のキャリアC2に搬送する。
【0060】
装置間搬送部70は第1処理装置20のロードポート21から粗リンス処理後のキャリアC2を取り出し、該キャリアC2を第2処理装置50に搬送する。装置間搬送部70はいずれも不図示のキャリア保持部および移動機構を含む。キャリア保持部は、キャリアC2を保持する部材である。キャリアC2の例えば上部には、キャリア保持部によって保持される被保持部材が設けられており、キャリア保持部が該非保持部材を把持する。移動機構は例えばモータを含み、キャリア保持部を第1処理装置20と第2処理装置50との間で移動させる。
【0061】
第2処理装置50はロードポート51とインデクサロボット52と搬送ロボット53と枚葉処理部60とを含んでいる。ロードポート51は、外部と複数の基板Wの受け渡しを行う搬出入ポートである。複数の基板WはキャリアC2に収納された状態で、装置間搬送部70によってロードポート51に搬入される。また、図1の例では、ロードポート51には、キャリアC3(第2キャリアに相当)も搬入されている。ロードポート51内において、キャリアC2およびキャリアC3は水平な第2配列方向において配列される。キャリアC3は、キャリアC1およびキャリアC2と同様の構成を有している。ただし、キャリアC3は第2処理装置50から下流側装置(不図示)への複数の基板Wの搬送に用いられる。
【0062】
図1の例では、第2処理装置50は筐体59を含む。筐体59の内部には、少なくとも、インデクサロボット52、搬送ロボット53および枚葉処理部60が設けられる。
【0063】
インデクサロボット52は、移動機構522によって第2配列方向に沿って移動可能に設けられており、キャリアC2およびキャリアC3の各々と向かい合う位置で停止可能である。インデクサロボット52はハンド521とハンド移動機構(不図示)とを含む。インデクサロボット52はハンド521を移動させることにより、ロードポート51と搬送ロボット53との間で基板Wを搬送する。
【0064】
搬送ロボット53はインデクサロボット52と枚葉処理部60との間で該基板Wを搬送する。図1の例では、複数の枚葉処理部60が搬送ロボット53の周囲に設けられる。具体的には、4つの枚葉処理部60が搬送ロボット53を囲むように設けられている。搬送ロボット53はハンド531とハンド移動機構532とを含む。搬送ロボット53はハンド531を移動させることにより、インデクサロボット52と枚葉処理部60との間で該基板Wを搬送する。
【0065】
各枚葉処理部60は、少なくとも、基板Wを1枚ずつ乾燥処理する。乾燥処理は特に制限されないものの、例えばスピンドライであってもよい。図4は、枚葉処理部60の構成の一例を概略的に示す図である。枚葉処理部60は基板保持部61を含んでいる。基板保持部61は、基板Wを水平姿勢で保持する。図4の例では、基板保持部61はステージ611と複数のチャックピン612とを含んでいる。ステージ611は円板形状を有し、基板Wよりも鉛直下方に設けられる。ステージ611は、その厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢で設けられる。
【0066】
複数のチャックピン612はステージ611の上面に立設されている。複数のチャックピン612の各々は、基板Wの周縁に接触するチャック位置と、基板Wの周縁から離れた解除位置との間で変位可能に設けられる。複数のチャックピン612がそれぞれのチャック位置に移動すると、複数のチャックピン612が基板Wを保持する。複数のチャックピン612がそれぞれの解除位置に移動すると、基板Wの保持が解除される。
【0067】
図4の例では、基板保持部61は回転機構613をさらに含んでおり、回転軸線Q1のまわりで基板Wを回転させる。回転軸線Q1は基板Wの中心部を通り、かつ、Z軸方向に沿う軸である。例えば回転機構613はシャフト614およびモータ616を含む。シャフト614の上端はステージ611の下面に連結され、ステージ611の下面から回転軸線Q1に沿って延在する。モータ616はシャフト614を回転軸線Q1のまわりで回転させて、ステージ611および複数のチャックピン612を一体に回転させる。これにより、複数のチャックピン612によって保持された基板Wが回転軸線Q1のまわりで回転する。このような基板保持部61はスピンチャックとも呼ばれ得る。
【0068】
基板保持部61が基板Wを回転軸線Q1のまわりで高速回転させることにより、基板Wに付着した液体を基板Wの周縁から飛散させて、基板Wを乾燥させることができる(いわゆるスピンドライ)。
【0069】
図4の例では、枚葉処理部60はガード62も含んでいる。ガード62は筒状の形状を有しており、基板保持部61によって保持された基板Wを囲む。ガード62は基板Wの周縁から飛散した液体を受け止める。
【0070】
図4の例では、枚葉処理部60はノズル63も含んでいる。ノズル63は、乾燥処理の前の事前処理として、基板Wへの洗浄液およびリンス液の供給に用いられる。洗浄液は例えばSC-1(アンモニア過酸化水素水混合液)を含む。リンス液は例えば純水およびイソプロピルアルコールの少なくともいずれか一方を含む。ノズル63は移動機構64によってノズル処理位置とノズル待機位置との間で移動可能に設けられている。ノズル処理位置は例えば基板Wの表面の中央部とZ軸方向において対向する位置であり、ノズル待機位置は例えば基板Wよりも径方向外側の位置である。移動機構64は例えばボールねじ機構などの機構もしくはアーム旋回機構を有する。ノズル63がノズル処理位置に位置する状態で、回転中の基板Wにリンス液を吐出する。これにより、基板Wの表面に着液した洗浄液もしくはリンス液は遠心力を受けて基板Wの表面の全面に広がり、基板Wの周縁から外側に飛散する。これにより、基板Wに対する洗浄処理およびリンス処理を行うことができる。
【0071】
<基板処理装置の動作の一例>
図5は、基板Wに対する処理工程の一例を概略的に示すフローチャートである。まず、未処理の複数の基板Wを収納したキャリアC1が不図示の搬送装置によって第1処理装置20のロードポート21に搬入される(ステップS11:ウエハ投入工程)。
【0072】
次に、搬送部22がキャリアC1から複数の基板Wを取り出し、基板Wの姿勢を水平姿勢から起立姿勢に変換し、起立姿勢の複数の基板Wをリン酸処理部30に搬送する(ステップS12:第1バッチ搬送工程)。これにより、リン酸処理部30のリフタ32に複数の基板Wが渡される。
【0073】
次に、リン酸処理部30が複数の基板Wに対して一括してリン酸処理を行う(ステップS13:リン酸処理工程)。具体的には、リフタ32が複数の基板Wを処理位置に下降させる。これにより、複数の基板Wが処理槽31内のリン酸に浸漬する。リン酸の濃度は例えば80%以上であり、より具体的な一例として86%程度である。ここで、リン酸の温度は例えば160度程度に維持される。例えば、処理槽31に循環配管を設け、当該循環配管にヒータを設けてもよい。当該ヒータが循環配管を流れるリン酸を加熱することにより、処理槽31内のリン酸の温度を調整することができる。
【0074】
複数の基板Wが処理槽31内のリン酸に浸漬することにより、リン酸はトレンチ94を通じて犠牲膜92に作用し、犠牲膜92をエッチング除去する。
【0075】
犠牲膜92が十分に除去されると、リフタ32が複数の基板Wを受渡位置に上昇させて、複数の基板Wを処理槽31から引き上げる。
【0076】
次に、搬送部22がリン酸処理部30のリフタ32からリン酸処理後の複数の基板Wを受け取り、該複数の基板Wを粗リンス処理部40に搬送する(ステップS14:第2バッチ搬送工程)。これにより、粗リンス処理部40のリフタ42に複数の基板Wが渡される。
【0077】
次に、粗リンス処理部40が複数の基板Wに対して一括して粗リンス処理を行う(ステップS15:粗リンス処理工程)。具体的には、まず、リフタ42が起立姿勢の複数の基板Wを処理位置に下降させる。これによって、複数の基板Wが処理槽41内の第1リンス液に浸漬する。
【0078】
これにより、複数の基板Wに付着したリン酸が時間の経過とともに徐々に第1リンス液に置換される。より具体的には、基板Wのパターンの内部(ここでは、トレンチ94内および絶縁膜91の相互間)のリン酸は徐々にその開口941から外側に流れ、その代わりに、第1リンス液がパターンの内部に進入する。よって、パターンの内部のリン酸は比較的ゆっくりと第1リンス液に置換される。
【0079】
一方、各基板Wのうちパターンが形成されていないパターン外領域においては、比較的速やかにリン酸が第1リンス液に置換される。なぜなら、パターン外領域は平坦だからである。ここでいうパターン外領域は、基板Wの表面のうちパターンが形成されていない周縁領域、および、基板Wの裏面を含む。
【0080】
この粗リンス処理は、パターンの内部にリン酸が残留する程度で終了する。例えば、リフタ32は、パターンの内部にリン酸が残留した状態で、複数の基板Wを受渡位置に上昇させて、複数の基板Wを第1リンス液から引き上げる。これにより、粗リンス処理が実質的に終了する。より具体的には、リフタ32は、複数の基板Wが第1リンス液に浸漬してから規定の処理時間が経過したときに、複数の基板Wを第1リンス液から引き上げる。処理時間の経過は例えばタイマ回路(不図示)によって測定される。処理時間は、基板Wのパターンの内部にリン酸が十分に残る程度の時間に予め設定される。リン酸がパターンの内部に十分に残る程度とは、例えば、パターンの内部におけるリン酸の濃度(例えば質量濃度が50%以上である状態をいう。つまり、パターン内のリン酸の濃度)が50%を下回らないように、処理時間が予め設定される。この処理時間は、例えば、シミュレーションまたは実験により設定され、具体的な例として、2分から5分程度に設定される。
【0081】
以上のように、粗リンス処理によって、基板Wのパターンの内部には低濃度のリン酸が残留する。
【0082】
ところで、リン酸処理部30は既述のように、複数の基板Wを高温のリン酸に浸漬させるので、リン酸処理後の基板Wは高温となる。高温の基板Wが低温の第1リンス液に浸漬すると、急冷に起因して基板Wにダメージが生じる恐れがある。
【0083】
そこで、粗リンス処理部40は処理槽41内の第1リンス液の温度を常温よりも高く、かつ、リン酸処理におけるリン酸の温度よりも低い温度、例えば60℃程度に調整してもよい。例えば、ヒータ434が給液管432を流れる第1リンス液を加熱し、加熱後の第1リンス液を処理槽41内に供給するとよい。このヒータ424の加熱制御により、処理槽41内の第1リンス液の温度を調整することができる。
【0084】
これによれば、第1リンス液の温度は常温(例えば25℃)よりも高いので、基板Wの急冷を抑制することができ、基板Wのダメージを緩和することができる。
【0085】
また、この粗リンス処理において、バルブ433およびバルブ444が開いてもよい。これによれば、ノズル431から処理槽41内に供給された第1リンス液が処理槽41内を鉛直上方に流れ、処理槽41の上部から溢れてアップフロー槽411に受け止められ、排液管442を通じて外部に排出される。これによれば、処理槽41内において鉛直下方から鉛直上方に向かう液流(いわゆるアップフロー)が形成される。よって、第1リンス液中の不純物が基板Wに付着することを抑制できる。
【0086】
次に、搬送部22は粗リンス処理部40のリフタ42から複数の基板Wを受け取り、基板Wの姿勢を起立姿勢から水平姿勢に変換し、水平姿勢の複数の基板Wをロードポート21のキャリアC2に搬送する(ステップS16:第3バッチ搬送工程:第1工程に相当)。ここでは、基板Wは、その表面が鉛直上方を向く姿勢でキャリアC2内に収納される。
【0087】
次に、装置間搬送部70が第1処理装置20のロードポート21からキャリアC2を取り出し、該キャリアC2を第2処理装置50のロードポート51に搬送する(ステップS20:装置間搬送工程:第2工程に相当)。
【0088】
次に、インデクサロボット52および搬送ロボット53がロードポート51のキャリアC2から各枚葉処理部60に基板Wを順次に搬送する(ステップS21:第1枚葉搬送工程:第3工程に相当)。これにより、各枚葉処理部60の基板保持部61が基板Wを水平姿勢で保持する。
【0089】
次に、枚葉処理部60は基板Wに対して洗浄・リンス処理を行う(ステップS22:洗浄・リンス処理工程)。具体的には、基板保持部61が基板Wを回転軸線Q1のまわりで回転させ、移動機構64がノズル63をノズル処理位置に移動させる。そして、ノズル63が回転中の基板Wの上面に第1リンス液(例えば純水)を吐出する。基板Wの上面に着液した第1リンス液は基板Wの回転に伴う遠心力を受けて、基板Wの上面を広がって、基板Wの周縁から外側に飛散する。これにより、基板Wに残留したリン酸を第1リンス液に置換することができる。次に、枚葉処理部60は、必要に応じて、ノズル63から洗浄液および第1リンス液をこの順で基板Wに向けて吐出してもよい。あるいはさらに、ノズル63は第1リンス液よりも蒸発潜熱の小さい第2リンス液(例えばイソプロピルアルコール)を基板Wに向けて吐出してもよい。
【0090】
次に、枚葉処理部60は基板Wに対して乾燥処理を行う(ステップS23:枚葉乾燥処理工程)。具体的には、基板保持部61が基板Wの回転速度を増加させる(いわゆるスピンドライ)。これにより、基板Wに対する乾燥処理が行われる。基板Wが十分に乾燥すると、基板保持部61が基板Wの回転を終了する。
【0091】
次に、搬送ロボット53およびインデクサロボット52が枚葉処理部60からロードポート51のキャリアC3に基板Wを搬送する(ステップS24:第2枚葉搬送工程:第4工程に相当)。
【0092】
キャリアC3内の基板Wの枚数が所定枚数(ここでは25枚)になると、不図示の搬送装置がロードポート51からキャリアC3を取り出して、該キャリアC3をより下流側の処理装置に搬送する。
【0093】
以上のように、基板処理装置10によれば、バッチ式のリン酸処理部30が複数の基板Wを一括してリン酸処理することができる(ステップS13)。これにより、高いスループットで複数の基板Wの犠牲膜92をエッチング除去することができる。特に、リン酸による犠牲膜92の除去は時間がかかるので、複数の基板Wを一括して処理するバッチ式の処理は有益である。
【0094】
しかも、リン酸処理の後には粗リンス処理が行われる(ステップS15)。よって、粗リンス処理後の基板Wのパターンの内部には、低濃度のリン酸が含まれる。このリン酸は蒸発しにくいので、粗リンス処理(ステップS15)と枚葉式の処理(ステップS22)との間の期間において、各基板Wの乾燥を抑制することができる。したがって、乾燥に起因した基板Wのパターンの倒壊(例えば絶縁膜91の倒壊)を抑制または回避することができる。
【0095】
図6は、リン酸の蒸気圧曲線を示すグラフである。図6は、蒸気圧曲線を温度別のグラフG1からグラフG5で示している。グラフG1からグラフG5は、それぞれ、温度が25℃、40℃、60℃、80℃および100℃における蒸気圧を示している。図6から理解できるように、リン酸の蒸気圧は純水(つまり、濃度0%のリン酸)よりも低い。特に、リン酸の濃度が50%以上である場合には、蒸気圧は濃度の増加に応じてより急激に低下する。つまり、リン酸の濃度が50%以上である場合には、リン酸の濃度が50%未満である場合に比べて、リン酸は顕著に蒸発しにくい。よって、粗リンス処理の処理時間を、粗リンス処理後のパターン内のリン酸の濃度が50%以上となる程度に設定することにより、粗リンス処理後の基板Wの乾燥をより適切に抑制することができる。
【0096】
なお、粗リンス処理(ステップS15)は、パターン内のリン酸の濃度が例えば60%以上となる状態で終了してもよく、あるいは、70%以上となる状態で終了してもよい。
【0097】
また、粗リンス処理後の基板Wは枚葉処理部60によって1枚ずつ乾燥処理される(ステップS23)。枚葉式の乾燥処理では1枚ずつ基板Wを乾燥させるので、高い乾燥性能で基板Wを乾燥させることができる。よって、乾燥処理に起因した基板Wのパターンの倒壊を抑制または回避することができる。
【0098】
また、粗リンス処理により、基板Wのパターン外領域に付着したリン酸の大部分あるいは全てを第1リンス液に置換することができる。なぜなら、このパターン外領域は、パターンが設けられる領域に比べて平坦であるので、パターン外領域のリン酸は粗リンス処理であっても、第1リンス液に置換されやすい。よって、粗リンス処理において、パターン外領域におけるリン酸の大部分を第1リンス液に置換できる。
【0099】
ところで、粗リンス処理後の基板Wは、既述のように、搬送部22、キャリアC2、インデクサロボット52および搬送ロボット53によって順次に保持される。これらは、パターン外領域(例えば基板Wの裏面)に接触して複数の基板Wを保持する。粗リンス処理によってパターン外領域のリン酸の大部分または全部を第1リンス液に置換できるので、これらにリン酸が付着することを抑制または回避することができる。
【0100】
また、上述の例では、第2処理装置50にはキャリアC2が搬入される。つまり、粗リンス処理後の濡れた基板WがキャリアC2によって搬送される。よって、キャリアC2にも液体が付着し得る。そして、枚葉処理部60によって乾燥処理が行われた基板Wは、搬送ロボット53およびインデクサロボット52によって、キャリアC2とは異なるキャリアC3に搬送される。これによれば、乾燥処理済みの基板WがキャリアC2に収納されることによる、基板Wに対する液体の再付着を回避することができる。
【0101】
<キャリアC2の搬送>
装置間搬送部70は、インデクサロボット52がキャリアC2から全ての基板Wを取り出したときに、空のキャリアC2をロードポート51から取り出し、該キャリアC2を第1処理装置20のロードポート21に搬送してもよい。これにより、キャリアC2を、再び第1処理装置20から第2処理装置50への複数の基板Wの搬送に利用することができる。このキャリアC2の内部は前回の基板Wの搬送によって濡れ得るものの、第1処理装置20によって処理された複数の基板Wは濡れているので、キャリアC2の内部が濡れていても、問題は生じない。
【0102】
<ハンド>
インデクサロボット52は複数のハンド521を含んでいてもよい。この場合、インデクサロボット52は往路用のハンド521と復路用のハンド521とを含んでもよい。すなわち、インデクサロボット52は往路用のハンド521でキャリアC2から搬送ロボット53に基板Wを搬送し、復路用のハンド521で搬送ロボット53からキャリアC3に基板Wを搬送してもよい。これによれば、往路用のハンド521に基板Wの液体が付着しても、該ハンド521を介して乾燥処理済みの基板Wに液体が付着することを抑制または回避できる。搬送ロボット53も同様に往路用のハンド531と復路用のハンド531とを含んでもよい。
【0103】
<粗リンス処理(第1リンス液の温度低下)>
次に、粗リンス処理における温度制御の例について説明する。上述の例では、粗リンス処理において、第1リンス液の温度を常温よりも高く、かつ、リン酸処理におけるリン酸の温度よりも低い値(例えば60℃程度)とした。これにより、リン酸処理後の高温の基板Wに対する急冷を抑制し、基板Wに対するダメージを抑制した。しかしながら、第1リンス液の温度が高いほど、リン酸から第1リンス液の置換がより速やかに進んでしまう。そして、パターンの内部のリン酸の濃度が低下し過ぎることは、粗リンス処理後の基板Wの乾燥抑制という点では望ましくない。
【0104】
そこで、基板処理装置10は以下に説明するように、粗リンス処理において、第1リンス液の温度を低下させてもよい。
【0105】
図7は、粗リンス処理工程の具体的な一例を示すフローチャートである。初期的には、処理槽41には、第1温度(例えば60℃)のリンス液が貯留されている。そして、リフタ42は複数の基板Wを処理位置に下降させ、複数の基板Wを処理槽41に浸漬させる(ステップS151:浸漬工程)。これにより、粗リンス処理が実質的に開始する。初期的には、第1リンス液の温度は比較的に高いので、基板Wに対する急冷を抑制でき、基板Wのダメージを抑制できる。
【0106】
例えば、ステップS151から所定時間が経過したときに、粗リンス処理部40は第1リンス液の温度を第2温度(例えば25℃)に低下させる(ステップS152:温度低下工程)。具体的には、ヒータ434が動作を停止した状態でバルブ433が開く。これにより、より低温の第1リンス液がノズル431から処理槽41に供給され、処理槽41の上部から溢れた第1リンス液がアップフロー槽411および排液管442を通じて外部から排出される。これにより、処理槽41内の第1リンス液の温度が低下する。
【0107】
そして、ステップS151から規定の処理時間が経過すると、リフタ42が複数の基板Wを処理位置から受渡位置に上昇させる(ステップS153:引き上げ工程)。
【0108】
以上のように、上述の例では、粗リンス処理の途中において、第1リンス液の温度が低下する。よって、急冷に起因した基板Wへのダメージを抑制しつつも、リン酸から第1リンス液への置換速度を低下させることができる。したがって、パターン内のリン酸の濃度が必要以上に低下することを抑制できる。
【0109】
<上昇速度>
次に、リン酸処理部30のリフタ32が処理槽31から複数の基板Wを引き上げる際の第1上昇速度と、粗リンス処理部40のリフタ42が処理槽41から複数の基板Wを引き上げる際の第2上昇速度について述べる。なお、ここでいう第1上昇速度とは、例えば、リフタ32による基板Wの上昇速度の最大値(あるいは定常値または目標値)であり、第2上昇速度は、例えば、リフタ42による複数の基板Wの上昇速度の最大値(あるいは定常値または目標値)である。この第2上昇速度は第1上昇速度以下であるとよい。例えば第1上昇速度は25mm/秒以上に設定され、第2上昇速度は25mm/秒以下に設定される。
【0110】
この場合、複数の基板Wが低い上昇速度で処理槽41内の第1リンス液から引き上げられる。これによれば、特に各基板Wのパターン外領域に付着する液体(主として第1リンス液)の量を低減させることができる。
【0111】
これによれば、粗リンス処理後の基板Wを保持することによる、搬送部22、キャリアC2、インデクサロボット52および搬送ロボット53への液体の付着を抑制することができる。
【0112】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態にかかる基板処理装置10は、粗リンス処理部40の構成の一例を除いて、第1の実施の形態にかかる基板処理装置10と同様である。第2の実施の形態にかかる粗リンス処理部40を、以下では粗リンス処理部40Aとも呼ぶ。
【0113】
図8は、粗リンス処理部40Aの構成の一例を概略的に示す図である。粗リンス処理部40Aはバット41Aとリフタ42Aとリンス液供給部43Aと排出部44Aとを含んでいる。
【0114】
バット41Aは箱形状を有しており、その内部空間が、複数の基板Wを処理する処理空間に相当する。バット41Bは、処理空間を形成する処理空間形成部材(あるいはチャンバ)であるとも言える。
【0115】
リフタ42Aはリフタ42と同様の構造を有しており、複数の基板Wを受渡位置と処理位置との間で昇降させる。受渡位置は、バット41Aよりも鉛直上方の位置であり、搬送部22と複数の基板Wの受け渡しを行う位置である。処理位置は、複数の基板Wが処理空間内に収納される位置である。
【0116】
リンス液供給部43Aは、処理空間内に位置する複数の基板Wに対して第1リンス液を供給する。リンス液供給部43Aはノズル431Aと給液管432Aとバルブ433Aとを含む。ノズル431Aはバット41A内に設けられており、処理空間内に位置する複数の基板Wに対して第1リンス液を吐出する。ノズル431Aは、液柱状の第1リンス液を複数の基板Wに対して吐出するノズルであってもよく、シャワー状の第1リンス液を複数の基板Wに吐出するシャワーノズルであってもよく、ミスト状の第1リンス液を複数の基板Wに吐出するミストノズルであってもよい。
【0117】
図8の例では、ノズル431Aは、処理位置に位置する複数の基板Wよりも鉛直上方に設けられている。また、図8の例では、一対のノズル431Aが設けられている。各ノズル431Aは、基板Wの主面に平行な水平方向(図8の左右方向)において、基板Wに対して互いに反対側に設けられている。つまり、一方のノズル431Aは基板Wに対して一方側に設けられ、他方のノズル431Aは基板Wに対して他方側に設けられている。また、基板Wに対して両側の各々において、複数のノズル431Aが基板Wの厚み方向(図8の紙面垂直な方向)において並んで配列されてもよい。
【0118】
ノズル431Aは給液管432Aを通じてリンス液供給源に接続されている。給液管432Aにはバルブ433Aが介装される。バルブ433Aが開くことにより、リンス液供給源から第1リンス液が給液管432Aを通じてノズル431Aに供給され、ノズル431Aの吐出口から複数の基板Wに向けて吐出される。これにより、複数の基板Wに第1リンス液が供給される。
【0119】
第1リンス液は各基板Wの両主面(つまり、表面および裏面)に沿って流下する。各基板Wから流下した液体はバット41Aの底部に接続された排出部44Aを通じて外部に排出される。排出部44Aは不図示の排出管とバルブとを含む。
【0120】
図8の例では、給液管432Aにはヒータ434Aが設けられている。ヒータ434Aは第1リンス液を加熱する。これにより、加熱後の第1リンス液がノズル431Aから吐出される。ヒータ434Aは、ノズル431Aから吐出された第1リンス液の温度が、常温よりも高く、かつ、リン酸処理におけるリン酸の温度よりも低い温度、例えば60℃と程度なるように、第1リンス液を加熱する。これによれば、第1リンス液による基板Wの急冷を抑制することができ、基板Wのダメージを緩和することができる。
【0121】
ノズル431Aが第1リンス液を複数の基板Wに供給すると、第1リンス液が各基板Wの両主面に沿って流下するので、供給開始からの時間の経過とともに、基板Wの両主面に付着したリン酸は徐々に第1リンス液に置換される。つまり、粗リンス処理が行われる。
【0122】
第2の実施の形態においても、基板Wのパターンの内部にリン酸が十分に残る程度で粗リンス処理が終了する。具体的には、リンス液供給部43Aは、ノズル431Aが第1リンス液の吐出を開始した時点から、規定の処理時間が経過したときに、ノズル431Aからの第1リンス液の吐出を終了する。この処理時間は、パターンの内部にリン酸が十分に残る程度の時間であり、例えば、1分から2分程度に設定される。
【0123】
以上のように、第2の実施の形態では、複数の基板Wに向けて第1リンス液が吐出されることで、粗リンス処理が行われる。
【0124】
なお、第1の実施の形態と同様に、粗リンス処理部40Aは粗リンス処理中において第1リンス液の温度を低下させてもよい。例えば、ヒータ434Aは粗リンス処理の途中において、発熱量を低下させてもよく、あるいは、動作を終了してもよい。
【0125】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態にかかる基板処理装置10は、粗リンス処理部40の構成の一例を除いて、第1の実施の形態にかかる基板処理装置10と同様である。以下では、第3の実施の形態にかかる粗リンス処理部40を粗リンス処理部40Bとも呼ぶ。
【0126】
図9は、粗リンス処理部40Bの構成の一例を示している。第1の実施の形態にかかる粗リンス処理部40と比較して、粗リンス処理部40Bは蒸気供給部46をさらに備えている。蒸気供給部46はチャンバ49内に第2リンス液の蒸気を供給する。第2リンス液は、第1リンス液の蒸発潜熱よりも小さい蒸発潜熱を有する液体であり、例えば、有機溶剤、より具体的には、イソプロピルアルコールである。
【0127】
蒸気供給部46はノズル461と給気管462とバルブ463とを含む。ノズル461はチャンバ49内において、処理槽41の上端よりも鉛直上方に設けられている。図9の例では、一対のノズル461が設けられている。2つのノズル461は、基板Wの主面に平行な水平方向において、互いに間隔を空けて設けられている。
【0128】
給気管462はノズル461と蒸気供給源を接続する。バルブ463は給気管462に介装されている。バルブ463が開くことにより、蒸気供給源から給気管462を通じてノズル461に第2リンス液の蒸気が供給され、ノズル461の吐出口から、チャンバ49の上部空間(つまり、処理槽41よりも鉛直上方の空間)に吐出される。
【0129】
図9の例では、チャンバ49には排気部47が設けられている。排気部37はチャンバ49内のガスを排気する。図9の例では、排気部47は排気管471と吸引機構472とを含む。排気管471の上流端はチャンバ49の例えば底部に接続される。吸引機構472は排気管471に設けられており、排気管471を通じてチャンバ49内のガスを吸引する。吸引機構472は例えばポンプである。
【0130】
図10は、第3の実施の形態にかかる基板処理装置10の動作の一例を示すフローチャートである。第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と比較して、粗リンス処理(ステップS15)の後に粗乾燥処理(ステップS17:粗乾燥処理工程)がさらに実行される。
【0131】
粗乾燥処理とは、各基板Wのパターン外領域に付着した液体の少なくとも一部を除去する処理である。つまり、この粗乾燥処理では、基板Wのパターン内のリン酸を除去しようとしているのではなく、主として、パターン外領域に付着した液体を低減させる。
【0132】
具体的な一例として、粗リンス処理部40Bは粗リンス処理後の複数の基板Wを第2リンス液の蒸気の雰囲気に曝す。まず、蒸気供給部46はチャンバ49内の上部空間に第2リンス液の蒸気を供給する。これにより、上部空間を第2リンス液の蒸気の雰囲気とすることができる。なお、蒸気供給部46は粗乾燥処理の開始前から第2リンス液の蒸気の供給を開始してもよい。より具体的には、蒸気供給部46は粗リンス処理(ステップS15)の開始前または途中から第2リンス液の蒸気の供給を開始してもよい。これによれば、粗リンス処理中において、処理槽41よりも上部空間に第2リンス液の蒸気雰囲気を形成することができる。
【0133】
そして、リフタ42が複数の基板Wを上部空間内に上昇させると、複数の基板Wを第2リンス液の蒸気の雰囲気に曝すことができる。これにより、粗乾燥処理が実質的に開始する。
【0134】
第2リンス液の蒸気は基板Wのパターン外領域に作用することで、パターン外領域に付着した液体(主として第1リンス液)が第2リンス液に置換され、当該液体が基板Wから流下して、基板Wから除去される。また、第2リンス液は蒸発しやすいので、パターン外領域をより効果的に乾燥させることができる。その一方で、第2リンス液の蒸気による作用では、パターンの内部のリン酸は第2リンス液に置換されにくいので、第2パターン内のリン酸を残留させることができる。よって、粗乾燥処理後の基板Wのパターンの倒壊を抑制または回避することができる。
【0135】
そして、例えば、ステップS17の開始から予め設定された時間が経過すると、蒸気供給部46が第2リンス液の蒸気の供給を終了する。そして、チャンバ49の蓋が開き、リフタ42が複数の基板Wを受渡位置に上昇させる。
【0136】
なお、チャンバ49の蓋が開く前に、チャンバ49内の第2リンス液の蒸気を排気部47によって排気してもよい。粗リンス処理部40Bが、チャンバ49内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部を含む場合には、チャンバ49内に窒素ガスを供給してもよい。これにより、効果的に第2リンス液の蒸気をチャンバ49から排出することができる。
【0137】
次に、第1の実施の形態と同様に、第3バッチ搬送工程(ステップS16)以後の工程が実行される。
【0138】
以上のように、第3の実施の形態では、粗乾燥処理が行われる。この粗乾燥処理においては、パターン内のリン酸を残留させつつも、基板Wのパターン外領域に付着した液体の少なくとも一部を除去する。したがって、搬送部22、キャリアC2、インデクサロボット52および搬送ロボット53の各々が基板Wを保持しても、キャリアC2および搬送装置に液体が付着することを抑制できる。よって、液体によるキャリアC2および搬送装置の汚染を抑制できる。
【0139】
<第4の実施の形態>
第4の実施の形態では、キャリアC2について説明する。図11および図12は、第4の実施の形態にかかるキャリアC2の構成の一例を概略的に示す図である。図11は、キャリアC2の正面図を示しており、図12は、図11の領域R1の拡大図を示している。
【0140】
キャリアC2は上部材81と下部材82と側壁83とを含む。上部材81および下部材82は例えば板状の形状を有し、その厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢で設けられる。上部材81および下部材82は鉛直方向において対向して設けられている。側壁83は、上部材81および下部材82の周縁どうしを連結する部材である。キャリアC2の一方面(紙面手前側)には側壁83が設けられておらず開口している。キャリアC2の当該開口を通じて、キャリアC2に基板Wが出し入れされる。
【0141】
図11に示すように、側壁83の内壁面には、複数の突起831が鉛直方向において間隔を空けて並んで設けられている。各突起831は側壁83から内方に突出する。よって、側壁83の内壁面には、複数の溝832が形成される。各溝832は、隣り合う2つの突起831の間の空間に相当する。各溝832には基板Wの端部が挿入され、突起831によって支持される。図12では、基板WがキャリアC2に収納された領域R1が示されている。
【0142】
図12の例では、溝832の下面(つまり、突起831の上面)および側面には、吸水部材833が設けられている。吸水部材833は吸水性を有する部材であり、例えば、不織布もしくは珪藻土等の吸水性素材によって構成される。
【0143】
吸水部材833のうち溝832の下面に設けられる部分の一部は、基板Wの下面に接触して基板Wを支持する。つまり、吸水部材833は各基板Wのパターン外領域の一部に接触する。よって、基板Wの下面に付着した液体が吸水部材833に吸収される。また、吸水部材833のうち溝832の側面に設けられる部分の一部は基板Wの側面に接触し得る。この場合、基板Wの側面に付着した液体も吸水部材833によって吸収される。
【0144】
比較のために、吸水部材833が設けられていない構造について考察する。この場合、基板Wの下面に付着した液体は突起831に伝わり、突起831の上面および内周端を伝って、その一つ下の基板Wに落下し得る。これにより、一つ下の基板Wが汚染され得る。
【0145】
これに対して、第4の実施の形態では、吸水部材833が設けられているので、突起831を経由した液体の移動を抑制または回避することができる。よって、基板Wの汚染を抑制または回避することができる。
【0146】
さて、図12に示すように、吸水部材833が溝832の側面にも設けられている場合、基板Wの側面に付着した液体が吸水部材833に吸収されるに際して、基板Wの表面の周縁部の液体も表面張力によって吸水部材833側に移動し、吸水部材833に吸収され得る。よって、基板Wの表面の周縁部の液体も低減させることができる。
【0147】
その一方で、この吸水部材833により、基板Wの表面のパターン内のリン酸が毛細管現象によって、基板Wの周縁側に移動して吸水部材833に吸水されることもあり得る。これは、パターンの倒壊を招くので望ましくない。
【0148】
図13は、キャリアC2の他の構成の一例を概略的に示す図であり、図11の領域R1の拡大図を示している。図13の例では、吸水部材833は溝832の側面を避けて設けられている。つまり、溝832の側面の全面には、吸水部材833が設けられず、溝832の下面のみに吸水部材833が設けられる。これによれば、基板Wのパターン内のリン酸が吸水部材833に吸水されることをより確実に抑制できる。ひいては、パターンの倒壊をより確実に抑制することができる。
【0149】
以上のように、基板処理装置10および基板処理方法は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この基板処理装置10および基板処理方法がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【0150】
例えば、上述の例では、基板処理装置10は、バッチ式のリン酸処理部30および粗リンス処理部40が筐体29内に設けられ、枚葉式の枚葉処理部60が筐体29とは異なる筐体59内に設けられている。そして、筐体29と筐体59との間で、装置間搬送部70がキャリアC2を搬送している。しかしながら、必ずしもこれに限らない。バッチ式のリン酸処理部30および粗リンス処理部40と枚葉式の枚葉処理部60が共通の筐体内に設けられてもよい。この筐体内には、粗リンス処理部40と枚葉処理部60との間で基板Wを搬送する搬送部が設けられ、当該搬送部には姿勢変換部(例えば姿勢変換部24)が設けられる。このような単一の筐体内に、バッチ式のリン酸処理部30、粗リンス処理部40および枚葉式の枚葉処理部60が設けられた基板処理装置10は、ハイブリッド式の処理装置とも呼ばれ得る。
【0151】
また、上述の例では、基板Wには3次元構造(パターン)として積層構造90が設けられているものの、必ずしもこれに限らない。3次元構造は、配線パターン、絶縁膜パターンおよび半導体パターンの少なくともいずれか一つを含む。例えば、パターンのアスペクト比が10以上かつパターン幅が50nm以下であるときに、パターンの倒壊が生じやすい。よってこの場合、基板処理装置10は特に有効である。
【符号の説明】
【0152】
10 基板処理装置
24 姿勢変換部
30 リン酸処理部
31 処理槽
40 粗リンス処理部
50 枚葉式の処理装置(第2処理装置)
51 ロードポート
60 枚葉処理部
833 吸水部材
S13 リン酸処理工程(ステップ)
S15 粗リンス処理工程(ステップ)
S152 温度低下工程(ステップ)
S16 第1工程(ステップ)
S17 粗乾燥処理工程(ステップ)
S20 第2工程(ステップ)
S21 第3工程(ステップ)
S23 枚葉乾燥処理工程(ステップ)
S24 第4工程(ステップ)
C2 第1キャリア(キャリア)
C3 第2キャリア(キャリア)
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13