(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017667
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物、およびポリエステル樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20220119BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220119BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20220119BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L33/06
C08L51/06
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120349
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板東 孝信
(72)【発明者】
【氏名】巻口 琢郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG042
4J002BN124
4J002BP013
4J002BP023
4J002CF041
4J002CF071
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】静音化特性とウェルド強度に優れるポリエステル樹脂組成物、およびその成形体を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリエステル樹脂(X)と、樹脂組成物(Y)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、前記樹脂組成物(Y)は、特定量の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有し、前記グラフト共重合体(M)は、特定量の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)、および芳香族ビニル単量体(b-2)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)を反応して得られるグラフト共重合体であるポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル樹脂(X)と、樹脂組成物(Y)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物(Y)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有し、
前記樹脂組成物(Y)中、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の割合が25~60重量%であり、前記グラフト共重合体(M)の割合が0.5~30重量%であり、前記スチレン系エラストマー(N)の割合が35~70重量%であり、
前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)、および芳香族ビニル単量体(b-2)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)を反応して得られるグラフト共重合体であり、
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が50/50~98/2であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記モノマー成分(B)が、さらに、(メタ)アクリロニトリル単量体(b-3)、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体(b-4)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むことを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、前記樹脂組成物(Y)が1~15重量部であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンを有する重合体ブロックと共役ジエン化合物を有する重合体ブロックを含むブロック共重合体であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物から得られることを特徴とするポリエステル樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物、およびポリエステル樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂は、機械特性、耐熱性、耐薬品性などの特長を生かして、自動車部品、電気・電子部品用の材料として使用されている。例えば、自動車部品のコネクタ用材料として使用される場合、自動車の走行時の振動により、嵌合部で軋み音(擦れ音)が発生するため、高い静音化特性が求められている。また、自動車の軽量化に伴い、コネクタ等の薄肉化が進んでおり、ウェルド強度(コネクタ等の成形時に、金型内で溶融樹脂の流れが合流して融着した部分の機械的強度)が求められている。
【0003】
ポリエステル樹脂の静音化特性を改善する方法として、例えば、特許文献1では、芳香族ポリエステル樹脂と、主鎖がエチレン-酢酸ビニル共重合体、側鎖がスチレン単量体等の単量体由来の構成単位を含む共重合体である、グラフト共重合体を含むポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、ポリエステル樹脂のウェルド強度を改善する方法として、例えば、特許文献2では、芳香族ポリエステル樹脂と、エポキシ化ジエン系ブロック共重合体と、エチレンプロピレン共重合体を含むポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-38881号公報
【特許文献2】特開2000-154309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2で開示されたポリエステル樹脂組成物では、静音化特性とウェルド強度を両立することができておらず、当該性能に改善の余地があった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明は、静音化特性とウェルド強度に優れるポリエステル樹脂組成物、およびその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、芳香族ポリエステル樹脂(X)と、樹脂組成物(Y)を含有するポリエステル樹脂組成物であって、前記樹脂組成物(Y)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有し、前記樹脂組成物(Y)中、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の割合が25~60重量%であり、前記グラフト共重合体(M)の割合が0.5~30重量%であり、前記スチレン系エラストマー(N)の割合が35~70重量%であり、前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)、および芳香族ビニル単量体(b-2)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)を反応して得られるグラフト共重合体であり、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が50/50~98/2であるポリエステル樹脂組成物に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記ポリエステル樹脂組成物から得られることを特徴とするポリエステル樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されない。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、芳香族ポリエステル樹脂(X)と樹脂組成物(Y)とを含有し、前記樹脂組成物(Y)は、特定量の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、特定のグラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有する。グラフト共重合体(M)が、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)とスチレン系エラストマー(N)と芳香族ポリエステル樹脂(X)との相容性を向上させることにより、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)とスチレン系エラストマー(N)が、芳香族ポリエステル樹脂(X)全体に良好に分散することによって、本発明のポリエステル樹脂組成物は、静音化特性とウェルド強度が両立した性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ポリエステル樹脂組成物>
本発明のポリエステル樹脂組成物は、芳香族ポリエステル樹脂(X)と、樹脂組成物(Y)を含有する。
【0013】
<芳香族ポリエステル樹脂(X)>
前記芳香族ポリエステル樹脂(X)は、通常、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレートからなる群より選ばれる1つ以上の樹脂である。芳香族ポリエステル樹脂(X)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0014】
前記ポリアルキレンテレフタレートは、少なくとも、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物など)を含むジカルボン酸成分と、アルキレングリコールおよび/またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)を含むジオール成分とを重縮合して得られる、アルキレンテレフタレート単位を含む樹脂である。
【0015】
また、前記ポリアルキレンナフタレートは、少なくとも、2,6-ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物など)を含むジカルボン酸成分と、アルキレングリコールおよび/またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)を含むジオール成分とを重縮合して得られるアルキレンナフタレート単位を含む樹脂である。
【0016】
前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの炭素数2~12のアルキレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、炭素数2~6のアルキレングリコールが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。アルキレングリコールは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記ポリアルキレンテレフタレートとしては、例えば、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられるが、樹脂成形体が静音化特性において高い特性を有する観点から、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、前記ポリアルキレンテレフタレートは、ホモポリアルキレンテレフタレート(ホモポリマー)、あるいはコポリアルキレンテレフタレート(コポリマー)であってもよく、コポリアルキレンテレフタレートの場合、前記ポリアルキレンテレフタレート中、前記アルキレンテレフタレート単位の割合は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、そして、95モル%以下であることが好ましい。
【0018】
前記ポリアルキレンナフタレートとしては、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、樹脂成形体が高い静音化特性を有する観点から、ポリブチレンナフタレートが好ましい。また、前記ポリアルキレンナフタレートは、ホモポリアルキレンナフタレート(ホモポリマー)、あるいはコポリアルキレンナフタレート(コポリマー)であってもよく、コポリアルキレンナフタレートの場合、前記ポリアルキレンナフタレート中、前記アルキレンナフタレート単位の割合は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、そして、95モル%以下であることが好ましい。
【0019】
前記ポリアルキレンテレフタレート、あるいは前記ポリアルキレンナフタレートがコポリマーの場合、前記ジカルボン酸成分には、他のジカルボン酸が使用される。他のジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルなどの炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数4~16の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの炭素数5~10の脂環式ジカルボン酸;これらのエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物など)が挙げられる。これらの中でも、炭素数8~12の芳香族ジカルボン酸、炭素数6~12の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。他のジカルボン酸は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸などを併用してもよい。
【0020】
また、前記ポリアルキレンテレフタレート、あるいは前記ポリアルキレンナフタレートがコポリマーの場合、前記ジオール成分には、前記アルキレングリコール以外の、他のジオール成分が使用される。他のジオール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体などのビスフェノールAの炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加体;これらのエステル形成性誘導体(アセチル化物など)が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレングリコール、脂環式ジオールが好ましい。他のジオールは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールなどを併用してもよい。
【0021】
また、前記ジカルボン酸成分および前記ジオール成分以外の、コモノマー成分として、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニルなどの芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトンなど)などの炭素数3~12のラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物など)が使用できる。
【0022】
前記ポリエステル樹脂において、市販品としては、例えば、ポリプラスチックス(株)製の「ジュラネックス2002」(標準グレード)などが挙げられる。
【0023】
<樹脂組成物(Y)>
本発明の樹脂組成物(Y)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有する。
【0024】
<エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)>
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、エチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体から合成される共重合体である。前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0025】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)において、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、分子末端にアルキル基を有する(メタ)アクリレートであれば、その種類に制限はなく使用できる。
【0026】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0027】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、必要に応じ、その他の単量体を用いることができる。前記その他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。前記その他の単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0028】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)中、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合(含有率)は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、そして、ウェルド強度を向上させる観点から、40重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましい。なお、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の含有率は、例えば、赤外線吸収スペクトルによる1039cm-1の吸光度から、予め核磁気共鳴スペクトルによって(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の濃度が決められた標準試料を用い、上記吸光度を測定した検量線より求められる。
【0029】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、メルトマスフローレート(以下、MFRとも称す)が、ポリエステル樹脂組成物の製造プロセスにおける作業性を高める観点から、0.2~40(g/10min)であることが好ましく、0.4~30(g/10min)であることがより好ましい。なお、前記MFRは、JIS K6924-1(1997年版)に準拠して測定できる。
【0030】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)において、市販品としては、例えば、日本ポリエチレン(株)製の「レクスパールA6200」、「レクスパールA4250」、「レクスパールA3100」などが挙げられる。
【0031】
<グラフト共重合体(M)>
前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)、および芳香族ビニル単量体(b-2)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)を反応して得られるグラフト共重合体である。
【0032】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)は、エチレンと(メタ)アルキルエステル単量体から合成される共重合体である。前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)としては、上記のエチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)を用いることができる。前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0033】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)としては、例えば、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1~18のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。前記炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどが挙げられる。これらの中でも、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(b-1)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0034】
前記芳香族ビニル単量体(b-2)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、о-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。前記芳香族ビニル単量体(b-2)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記モノマー成分(B)は、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の分散性を向上させる観点から、さらに、(メタ)アクリロニトリル単量体(b-3)、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体(b-4)からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含んでいてもよい。
【0036】
前記(メタ)アクリロニトリル単量体(b-3)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、アクリロニトリルが好ましい。前記(メタ)アクリロニトリル単量体(b-3)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0037】
前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体(b-4)としては、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシベンジルなどが挙げられる。これらの中でも、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが好ましい。前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体(b-4)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0038】
前記モノマー成分(B)は、上記の単量体以外のその他の単量体を使用することができる。前記その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのグリコール系単量体などが挙げられる。前記その他の単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0039】
前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および前記芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の割合は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。
【0040】
また、前記モノマー成分(B)として、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を使用する場合、前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の割合は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0041】
前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および前記芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体と、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の合計の割合は、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0042】
前記モノマー成分(B)としては、前記単量体の組み合わせが、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル、スチレンと(メタ)アクリロニトリル、またはアクリル酸ブチルとスチレンとメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルであることがより好ましい。この場合、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとの重量比(アクリル酸ブチル/メタクリル酸メチル)、またはスチレンと(メタ)アクリロニトリルとの重量比(スチレン/(メタ)アクリロニトリル)は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、50/50~90/10であることが好ましく、60/40~80/20であることがより好ましい。また、上記のアクリル酸ブチルとスチレンとメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの組み合わせにおいては、アクリル酸ブチルとスチレンとメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの合計中、アクリル酸ブチルが10~40重量%であることが好ましく、スチレンが10~40重量%であることが好ましく、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが10~40重量%であることが好ましい。
【0043】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))は、50/50~98/2である。前記重量比((A)/(B))は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、60/40~95/5であることが好ましく、70/30~90/10であることがより好ましい。
【0044】
<グラフト共重合体(M)の製造方法>
前記グラフト共重合体(M)の製造方法は、特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法などの公知の重合法を使用することができる。これらの中でも、懸濁重合法が好ましい。また、グラフト化する方法としては、特に制限はなく、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法などの公知のグラフト化方法を採用することができる。これらの中でも、ラジカル重合法が好ましく、とくに、グラフト共重合体を工業的に大量かつ効率的に製造できる観点から、過酸化結合を有するビニル単量体(ラジカル重合性有機過酸化物)を用いたラジカル重合法がより好ましい。
【0045】
前記過酸化結合を有するビニル単量体は、(ラジカル重合性有機過酸化物)は、分子内にペルオキシ基およびエチレン性不飽和基を有する単量体であれば、その種類に特に制限はなく使用でき、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。前記過酸化結合を有するビニル系単量体としては、例えば、t-ブチルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエチルカーボネート、t-アミルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエチルカーボネート、t-ヘキシルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエチルカーボネート、t-ブチルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルカーボネート、t-ヘキシルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルカーボネート、t-ブチルペルオキシ(メタ)アリルカーボネート、t-アミルペルオキシ(メタ)アリルカーボネート、t-ヘキシルペルオキシ(メタ)アリルカーボネートなどが挙げられ、これらの中でも、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネートが好ましい。
【0046】
前記過酸化結合を有するビニル単量体を用いた重合法は、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)を、水を主成分とする媒体に懸濁した溶液(エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)濃度:10~30重量部)に、前記モノマー成分(B)と、前記過酸化結合を有するビニル単量体と、重合開始剤を加え、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)(エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)の粒子)中に、前記モノマー成分(B)と前記過酸化結合を有するビニル単量体と前記重合開始剤を含浸重合して前駆体を得る工程と、前記前駆体を溶融混練して、グラフト共重合体(M)を製造する工程を含む方法である。なお、前記前駆体を得る工程で、必要に応じ懸濁剤(例えば、ポリビニルアルコール)を前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)100重量部に対して、0.1~1重量部程度使用してもよい。また、上記の含浸の際、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)中に前記モノマー成分(B)、前記過酸化結合を有するビニル単量体、前記重合開始剤などを十分に含浸させるため、加温(例えば、60~80℃程度)しながら、攪拌してもよい。
【0047】
前記重合開始剤は、熱によりラジカルを発生するものであれば、特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0048】
前記重合開始剤は、重合開始剤の急激な分解を抑制し、重合開始剤や前記単量体の残存を抑制する観点から、10時間半減期温度(以下、T10とも称す)が、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、そして、130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。なお、前記10時間半減期温度(T10)は、前記重合開始剤を、例えば、0.05から0.1モル/リットルになるようにベンゼンに溶解させた溶液を熱分解させた際に、当該重合開始剤が10時間で半減期を迎える温度のことを意味する。
【0049】
前記重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=51℃)、t-ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)、t-ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10=59℃)、ジラウロイルパーオキサイド(T10=62℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(T10=65℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(T10=66℃)、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキシルヘキサノエート(T10=70℃)、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド(T10=71℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(T10=72℃)、ベンゾイルパーオキサイド(T10=74℃)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=95℃)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(T10=97℃)、t-ブチルパーオキシラウレート(T10=98℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=99℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(T10=99℃)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(T10=99℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(T10=100℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(T10=102℃)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(T10=103℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(T10=104℃)、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(T10=105℃)、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(T10=119℃)、ジクミルパーオキサイド(T10=116℃)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(T10=116℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(T10=118℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(T10=120℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(T10=124℃)などの有機過酸化物;2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(T10=65℃)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(T10=67℃)などのアゾ系重合開始剤などが挙げられる。
【0050】
前記前駆体を製造する工程において、重合温度は、原料(特に、前記重合開始剤の10時間半減期温度)などによって異なるので一概には決定できないが、通常、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、そして、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。また、重合時間は、原料や反応温度などによって異なるので一概には決定できないが、収率を高める観点から、1.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、そして、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。
【0051】
前記前駆体を製造する工程において、前記過酸化結合を有するビニル単量体は、前記モノマー成分(B)100重量部に対し、0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上であることがさらに好ましく、そして、10重量部以下であることが好ましく、8重量部以下であることがより好ましく、6重量部以下であることがさらに好ましい。
【0052】
前記前駆体を製造する工程において、前記重合開始剤は、前記モノマー成分(B)100重量部に対し、0.3重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、そして、3重量部以下であることが好ましく、2重量部以下であることがより好ましい。
【0053】
前記溶融混練としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、前記前駆体を溶融して混練する方法が挙げられる。混練する回数は、1回または複数回であってもよい。混練する時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、130~350℃とすることが好ましく、150~250℃とすることがより好ましい。
【0054】
<スチレン系エラストマー(N)>
前記スチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンを主体とする重合体ブロックDと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックEを含むブロック共重合体である。前記スチレン系エラストマー(N)は、例えば、D-E、D-E-D、E-D-E-D、およびD-E-D-E-Dなどの構造を有するブロック共重合体が挙げられる。前記スチレン系エラストマー(N)は、成形加工性の観点から、分子中の重合体ブロックDが2個以上であることが好ましい。また、前記重合体ブロックEにおいて、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物との結合様式は、特に制限されず、任意である。分子中に、重合体ブロックEが2個以上ある場合、これらは同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。前記スチレン系エラストマー(N)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0055】
前記スチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンに由来する構造単位の割合が、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、5~65重量%であることが好ましく、10~60重量%であることがより好ましい。
【0056】
前記スチレン系エラストマー(N)は、水素添加率(ポリスチレンと水素添加前共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の炭素と炭素の二重結合の数に対する、水素添加により炭素と炭素の単結合となった結合の数の割合)が、特に制限されないが、通常、50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが好ましい。
【0057】
前記スチレン系エラストマー(N)としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブテンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体ブロック(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ビニル(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体(V-SEPS)などが挙げられる。これらの中でも、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)が好ましい。
【0058】
前記樹脂組成物(Y)中、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の含有割合は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、25~60重量%であり、30重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることよりが好ましく、そして、55重量%以下であることが好ましい。
【0059】
前記樹脂組成物(Y)中、前記グラフト共重合体(M)の含有割合は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、0.5~30重量%であり、1重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、そして、20重量%以下であることが好ましい。
【0060】
前記樹脂組成物(Y)中、前記スチレン系エラストマー(N)の含有割合は、静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、35~70重量%であり、40重量%以上であることが好ましく、そして、65重量%以下であることが好ましい。
【0061】
前記樹脂組成物(Y)は、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、1~15重量部であることが好ましい。前記樹脂組成物(Y)は、樹脂成形体の静音化特性、ウェルド強度を向上させる観点から、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)100重量部に対して、2重量部以上であることがより好ましく、5重量部以上であることがさらに好ましく、そして、12重量部以下であることがより好ましい。
【0062】
なお、本発明のポリエステル樹脂組成物は、各種配合剤を用いることができる。配合剤としては、例えば、セラミックファイバー(CF)、ガラス繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、鉱物破砕繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、石コウ繊維、水酸化マグネシウム繊維、炭化ケイ素繊維、ジルコニア繊維などの繊維強化材;球状シリカ、マイカ、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、ベントナイト、セリサイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、硅酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、グラファイト、カーボンブラック、二硫化モリブデン、超高密度ポリエチレンなどの各形状の有機または無機の充填剤;鉱油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、アルコール、金属石けん、天然ワックス、シリコーンなどの滑剤;PTFE系、アクリル系などの加工助剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機の難燃剤;ハロゲン系、リン系などの有機の難燃剤;酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、着色剤、帯電防止剤、架橋剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、着色剤などが挙げられる。
【0063】
本発明の樹脂組成物(Y)は、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)、前記エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)とを、溶融混練することによって得ることができる。前記溶融混練としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、前記前駆体を溶融して混練する方法が挙げられる。混練する回数は、1回または複数回であってもよい。混練する時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、130~350℃とすることが好ましく、150~250℃とすることがより好ましい。
【0064】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記芳香族ポリエステル樹脂(X)、前記樹脂組成物(Y)、任意の前記各種配合剤を混合することによって得られる。混合の方法は、とくに制限はなく、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、溶融して混練する方法などが挙げられる。また、上記の各成分を、任意の順序で添加し混練してもよく、同時に添加して混練してもよい。混練する回数は、1回または複数回であってもよい。混練する時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出(押出)温度は、150~350℃とすることが好ましく、180~250℃とすることがより好ましい。
【0065】
本発明のポリエステル樹脂成形体は、前記ポリエステル樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、何ら限定されるものではないが、例えば、射出成形、押出成形などが挙げられ、成形の加熱温度、圧力、時間などは適宜設定できる。当該ポリエステル樹脂成形体は、静音化特性、ウェルド強度に優れるため、電気部品、電子部品、機械部品、精密機器部品、自動車部品などのコネクタ用材料として利用することができる。
【実施例0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
<グラフト共重合体(M1)の製造>
内容積5Lのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、更に懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中に、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(A1)(商品名「レクスパールA3100」、日本ポリエチレン(株)製)800gを入れ、攪拌して分散させた。
【0068】
さらに、重合開始剤として、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油(株)製、商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃)5.1gと、過酸化結合を有するビニル単量体として、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(以下、MECとも称す)17.2gを、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(b-1)として、アクリル酸ブチル(以下、BAとも称す)240gとメタクリル酸メチル(以下、MMAとも称す)103gからなるモノマー成分(B)に溶解させた溶液を調製し、この溶液を上記のオートクレーブ中に投入し攪拌した。
【0069】
次いで、上記のオートクレーブを60~65℃に昇温し、3時間攪拌することによって、ラジカル重合開始剤、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート、およびモノマー成分(B)をエチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)中に含浸させた。続いて、上記のオートクレーブを80~85℃に昇温し、当該温度で7時間保持して重合させ、前駆体として共重合体(ポリ(BA/MMA/MEC)が含浸したエチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体組成物)を得た。得られた前駆体を、ラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)を用いて、230℃にて溶融混練し、グラフト化反応させた。次いで、ストランド状の樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状にすることでグラフト共重合体(M1)を製造した。
【0070】
<グラフト共重合体(M2~M4、M´1~M´3)の製造>
各原料の種類とその配合量(重量%)を表1に示すように変えたこと以外は、グラフト共重合体(M1)と同様の方法により、グラフト共重合体(M2~M4、M´1~M´3)を製造した。
【0071】
【0072】
表1中、
A1は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA3100」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が10重量%、MFRが3(g/10min));
A2は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
PEは、低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製、商品名「スミカセンG401」、MFRが4(g/10min));
BAは、アクリル酸ブチル;
MMAは、メタクリル酸メチル;
Stは、スチレン;
ANは、アクリロニトリル;
HPMAは、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル;を示す。
【0073】
<樹脂組成物(Y1)の製造>
エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(L1)(商品名「レクスパールA3100」、日本ポリエチレン(株)製)45gと、前記グラフト共重合体(M1)を10gと、スチレン系エラストマー(N)として、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体(商品名「Kraton G1652」、クレイトンポリマー(株)製)45gをドライブレンドした。その後、二軸押出機(PCM-30:池貝製)を用いて、溶融混練(押出温度:140~160℃)した。次いで、ストランド状の樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状にすることで樹脂組成物(Y1)を得た。
【0074】
<樹脂組成物(Y2~Y6,Y´1~Y´6)の製造>
各原料の種類とその配合量(重量部)を表2に示すように変えたこと以外は、樹脂組成物(Y1)と同様の方法により製造した。
【0075】
【0076】
表2中、
L1は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA3100」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が10重量%、MFRが3(g/10min));
L2は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
N1は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体(クレイトンポリマー(株)製、商品名「Kraton G1651」);
N2は、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 2006」);
N3は、);スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 4045」);
N4は、スチレン-エチレン-プロピレン(SEP)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 1001」);を示す。
【0077】
<実施例1>
<ポリエステル樹脂組成物の製造>
芳香族ポリエステル樹脂(X)として、ポリブチレンテレフタレート(X1)(商品名「ジュラネックス2002」、ポリプラスチックス株式会社製)100gと、上記の樹脂組成物(Y1)を10g、二軸押出機(PCM-30:池貝製)を用いて、溶融混練(押出温度:180~200℃)した。次いで、ストランド状のポリエステル樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。
【0078】
<静音化特性の評価>
上記で得られたペレットを射出成形(バレル温度:245℃、金型温度:80℃)し、評価用試験片(長さ:60mm×幅:100mm×厚み:2mm)を作製した。次いで、当該試験片(評価材)を、静音化特性の試験用のプレート(55mm×80mm×2mm)に切り出してバリ取りを行った後、温度25℃、湿度50%RHで12時間放置した。また、相手材用のプレート(50mm×25mm×2mm)として、(1)評価材と同材のプレートと、(2)ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラネックス2002」:ブランク材)のプレートを準備した。次いで、上記の静音化特性の試験用のプレートと、相手材用の同材プレートをZiegler社のスティックスリップ測定装置SSP-04に固定し、荷重=40N、速度=1mm/sの条件でそれぞれ擦り合わせた時の軋み音リスク値を測定し、以下の判断基準で評価した。
軋み音リスク値1~3:軋み音発生のリスクが低い。
軋み音リスク値4~5:軋み音発生のリスクがやや高い。
軋み音リスク値6~10:軋み音発生のリスクが高い。
【0079】
本発明のポリエステル樹脂成形体は、上記の静音化特性の評価において、軋み音リスク値が3以下を良好とした。
【0080】
<非ウェルド強度の評価>
JIS K 7113に準拠し、試験速度50mm/minとして非ウェルド強度(MPa)を測定した。60MPa以上を合格値とした。なお、ポリエステル樹脂組成物の射出成形の条件は、バレル温度245℃とし、金型温度を80℃とした。
【0081】
<ウェルド強度の評価>
JIS K 7139に準拠した多目的試験片タイプA1の中央にウェルドラインが出る金型を用いて成形した後、JIS K 7113に準拠し、試験速度50mm/minとしてウェルド強度(MPa)を測定した。50MPa以上を合格値とした。なお、ポリエステル樹脂組成物の射出成形の条件は、バレル温度245℃とし、金型温度を80℃とした。
【0082】
<実施例2~7、比較例1~7>
<ポリエステル樹脂組成物の製造>
各原料の種類とその配合量(重量部)を表3、表4に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法によりポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0083】
上記で得られた各実施例および比較例のポリエステル樹脂組成物を用い、上記の評価方法により評価した結果を表3および4に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表3および4中、
X1は、ポリエステル樹脂であるポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジェラネックス2002」)を示す。
【0087】
実施例1~7のポリエステル樹脂組成物では、静音化特性、ウェルド強度について目標値を満たす評価結果が得られた。
【0088】
比較例1は、グラフト共重合体(M)の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と共重合体(B)の重量比((A)/(B))が、40/60であるため、静音化特性、ウェルド強度が劣っていた。
【0089】
比較例2は、グラフト共重合体(M)の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と共重合体(B)の重量比((A)/(B))が、100/0であるため、静音化特性、ウェルド強度が劣っていた。
【0090】
比較例3は、グラフト共重合体(M)の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)の代わりに、低密度ポリエチレンを使用したため、静音化特性、ウェルド強度が劣っていた。
【0091】
比較例4は、樹脂組成物(Y)中の、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の含有量が10重量%であるため、ウェルド強度が劣っていた。
【0092】
比較例5は、樹脂組成物(Y)中の、グラフト共重合体(M)の含有量が40重量%であるため、ウェルド強度が劣っていた。
【0093】
比較例6は、樹脂組成物(Y)中の、スチレン系エラストマー(N)の含有量が80重量%であるため、ウェルド強度が劣っていた。
【0094】
比較例7は、樹脂組成物(Y)を含まないため、静音化特性、ウェルド強度が劣っていた。