(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176698
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】警告装置および移動体用シート
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20221122BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20221122BHJP
A61M 21/00 20060101ALI20221122BHJP
G01D 7/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G08G1/16 F
A61B5/18
A61M21/00 B
G01D7/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083250
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝部 健一
(72)【発明者】
【氏名】古閑 智貴
(72)【発明者】
【氏名】松澤 剛
【テーマコード(参考)】
2F041
4C038
5H181
【Fターム(参考)】
2F041EA07
4C038PP05
4C038PQ04
4C038PR04
4C038PS00
4C038VA15
4C038VB01
4C038VC01
4C038VC05
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB13
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】振動および音声を用いて警告を発する場合に警告効果を長続きさせる。
【解決手段】眠気判定警告ECUは警告信号出力部として機能し、警告信号出力部は、振動発生部52によって振動を発生させるための振動信号部と、音声発生部54によって音声を発生させるための音声信号部と、を含み、振動信号部と音声信号部との間に無信号部が設けられた警告信号を出力する。これにより、警告信号のうちの無信号部によって、警告信号による刺激に慣れてしまうことが抑制される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部によって振動を発生させるための振動信号部と、音声発生部によって音声を発生させるための音声信号部と、を含み、前記振動信号部と前記音声信号部との間に無信号部が設けられた警告信号を出力する警告信号出力部を含む警告装置。
【請求項2】
前記警告信号は、前記音声信号部の振幅が前記振動信号部の振幅よりも小さい請求項1記載の警告装置。
【請求項3】
前記警告信号出力部は、前記振動信号部、前記無信号部としてのサイクル内無信号部、前記音声信号部がこの順に設けられた警告信号の1サイクルを、当該1サイクル毎に、前記無信号部としてのサイクル間無信号部を設けて所定回繰り返す警告信号を出力する請求項1または請求項2記載の警告装置。
【請求項4】
前記振動信号部は、振動信号区間と無信号区間とが交互に設けられ、前記振動信号区間の出現周期が4~6Hzのうちの何れかとなるように、前記振動信号区間および前記無信号区間の長さが定められている請求項1~請求項3の何れか1項記載の警告装置。
【請求項5】
前記振動信号部を前、前記音声信号部を後とする、前記無信号部としての第1の無信号部の長さが、500~1250m秒のうちの何れか、好ましくは500~1000m秒のうちの何れかである請求項1~請求項4の何れか1項記載の警告装置。
【請求項6】
前記音声信号部を前、前記振動信号部を後とする、前記無信号部としての第2の無信号部の長さが、500~1000m秒のうちの何れかである請求項1~請求項5の何れか1項記載の警告装置。
【請求項7】
被験者に眠気があるか否かを判定する眠気判定部をさらに含み、
前記警告信号出力部は、前記眠気判定部によって前記被験者に眠気ありと判定された場合に前記警告信号を出力する請求項1~請求項5の何れか1項記載の警告装置。
【請求項8】
前記眠気判定部は、眠気があると判定した前記被験者について眠気レベルを判定し、
前記警告信号出力部は、前記眠気判定部によって判定された前記被験者の眠気レベルが高くなるに従って、前記警告信号のうち少なくとも前記振動信号部の振幅を大きくする請求項7記載の警告装置。
【請求項9】
移動体の運転者が着座するシート本体と、
請求項1~請求項8の何れか1項記載の警告装置と、
を含む移動体用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は警告装置および移動体用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、移動体の運転者の眠気レベルを検出し、運転者の覚醒支援が必要か否かを判定し、覚醒支援が必要と判定した場合に、運転者が着座する座席に設けられた振動付与部を振動させることで運転者に振動刺激を付与する技術が記載されている。この技術では、振動付与部を振動させる場合に、少なくとも一部の時間帯は、筋緊張を促進する第1の周波数による振動波形と、筋緊張を抑制する第2の周波数による振動波形と、を重畳した形の振動波形に基づいて振動付与部を振動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、第1の周波数による振動波形と、第2の周波数による振動波形と、を重畳した振動波形を用いることで、順応(慣れ)により覚醒支援の効果が減弱することを回避しようとしている。しかし、特許文献1に記載の技術は、振動のみによって覚醒を支援する技術であり、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることについては記載されていない。運転者に振動のみ付与した場合、当該振動による警告の意図を運転者が直ちに理解することは困難である。これに対し、振動に加えて音声も併用して警告を発するようにすれば、警告の意図を音声により運転者へ通知することが可能となるので望ましい。
【0005】
本開示は上記事実を考慮して成されたもので、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることができる警告装置および移動体用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る警告装置は、振動発生部によって振動を発生させるための振動信号部と、音声発生部によって音声を発生させるための音声信号部と、を含み、前記振動信号部と前記音声信号部との間に無信号部が設けられた警告信号を出力する警告信号出力部を含んでいる。
【0007】
第1の態様では、警告信号の振動信号部と音声信号部との間に無信号部が設けられており、この無信号部により、警告信号による刺激に慣れてしまうことが抑制される。従って、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることができる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記警告信号は、前記音声信号部の振幅が前記振動信号部の振幅よりも小さい。
【0009】
第2の態様によれば、振動および音声を用いて警告を発する場合に、音声を適切な音量にすることができる。
【0010】
第3の態様は、第1の態様又は第2の態様において、前記警告信号出力部は、前記振動信号部、前記無信号部としてのサイクル内無信号部、前記音声信号部がこの順に設けられた警告信号の1サイクルを、当該1サイクル毎に、前記無信号部としてのサイクル間無信号部を設けて所定回繰り返す警告信号を出力する。
【0011】
第3の態様によれば、警告効果を長続きさせることができる警告信号を、簡易な信号パターンにより実現することができる。
【0012】
第4の態様は、第1の態様~第3の態様の何れかにおいて、前記振動信号部は、振動信号区間と無信号区間とが交互に設けられ、前記振動信号区間の出現周期が4~6Hzのうちの何れかとなるように、前記振動信号区間および前記無信号区間の長さが定められている。
【0013】
脳波のθ波帯である4~6Hzの周期振動によるシナプスの間隙の伝達速度向上が、交感神経の活性化につながり、覚醒効果(警告効果)を生むことが知られている。第4の態様では、振動信号部のうち振動信号区間の出現周期を4~6Hzのうちの何れかとしているので、警告信号による警告効果を増大させることができる。
【0014】
第5の態様は、第1の態様~第4の態様の何れかにおいて、前記振動信号部を前、前記音声信号部を後とする、前記無信号部としての第1の無信号部の長さが、500~1250m秒のうちの何れか、好ましくは500~1000m秒のうちの何れかである。
【0015】
第5の態様によれば、本願発明者等が実施した実験の結果(後述)からも明らかなように、第1の無信号部を設けることで生じる、警告効果を長続きさせる効果を増大させることができる。
【0016】
第6の態様は、第1の態様~第5の態様の何れかにおいて、前記音声信号部を前、前記振動信号部を後とする、前記無信号部としての第2の無信号部の長さが、500~1000m秒のうちの何れかである。
【0017】
第6の態様によれば、本願発明者等が実施した実験の結果(後述)からも明らかなように、第2の無信号部を設けることで生じる、警告効果を長続きさせる効果を増大させることができる。
【0018】
第7の態様は、第1の態様~第6の態様の何れかにおいて、被験者に眠気があるか否かを判定する眠気判定部をさらに含み、前記警告信号出力部は、前記眠気判定部によって前記被験者に眠気ありと判定された場合に前記警告信号を出力する。
【0019】
第7の態様によれば、眠気ありと判定された被験者を、警告信号によって覚醒させることができる。
【0020】
第8の態様は、第7の態様において、前記眠気判定部は、眠気があると判定した前記被験者について眠気レベルを判定し、前記警告信号出力部は、前記眠気判定部によって判定された前記被験者の眠気レベルが高くなるに従って、前記警告信号のうち少なくとも前記振動信号部の振幅を大きくする。
【0021】
第8の態様では、眠気レベルに応じて少なくとも振動信号部の振幅を変化させるので、眠気レベルが比較的低い被験者に対しては、警告信号の出力が不快感を与えることを抑制することができ、眠気レベルが比較的高い被験者に対しては、警告信号によって短時間で覚醒させることができる。
【0022】
第9の態様に係る移動体用シートは、移動体の運転者が着座するシート本体と、第1の態様~第8の態様の何れかに記載の警告装置と、を含んでいる。
【0023】
第9の態様は、本開示に係る警告装置を含んでいるので、第1の態様と同様に、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示は、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る車両用シートの側面図である。
【
図2】実施形態に係る眠気判定警告ECUおよびその周辺の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】眠気判定警告ECUの機能ブロック図である。
【
図4】平均心拍数及び標準偏差の算出の仕方について説明するための説明図である。
【
図5】眠気判定部による眠気判定処理を示すフローチャートである。
【
図6】警告信号出力部による警告信号出力処理を示すフローチャートである。
【
図9】警告信号のうちの振動信号部を拡大して示す線図である。
【
図10】本願発明者等が実施した実験に用いたドライビングシミュレータの概略構成図である。
【
図11】サイクル内無信号部の長さと官能評価のスコアとの関係を示す線図である。
【
図12】サイクル間無信号部の長さと覚醒率との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本開示の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1に示す車両用シート10はシート本体12を含んでいる。シート本体12は車両の運転席に設けられており、車両の運転者20によって着座される。シート本体12に着座した運転者20は、車両の走行時に、ステアリングホイール22やペダル(図示省略)を操作して車両を運転する。
【0027】
シート本体12はシートクッション部14、シートバック部16およびヘッドレスト部18を含んでいる。ヘッドレスト部18は、シートバック部16の車両上下方向上端部に、シートバック部16の長さ方向に沿ってスライド移動可能に取り付けられている。シートバック部16は、車両上下方向下端部が、シートクッション部14の車両前後方向後端部に、図示しない回動機構を介して取り付けられており、シートクッション部14に対し、車両幅方向に沿った軸回りに回動可能とされている。
【0028】
また、車両用シート10は心拍計測装置24および眠気判定警告ECU(Electronic Control Unit)26を含んでいる。心拍計測装置24は、例えば電波式又は光学式の心拍計であり、シート本体12に着座した車両の運転者20の胸部に装着される。心拍計測装置24は、運転者20の胸部に装着された状態で運転者20の瞬時心拍数を計測し、計測した瞬時心拍数を眠気判定警告ECU26へ出力する。なお、瞬時心拍数は最小の時間単位で測定される心拍数である。また、心拍計測装置24は、R波とR波の間隔(所謂RRI)を計測する心拍間隔センサであってもよい。その場合の心拍数情報は、心拍数(bpm)=60/RRIとして心拍間隔から取得する。
【0029】
眠気判定警告ECU26はシートクッション部14内に収納されている。眠気判定警告ECU26は、車両の運転者20の眠気度合いを判定し、必要に応じて運転者20に対する警告信号を出力する装置である。
図2に示すように、眠気判定警告ECU26は、CPU(Central Processing Unit)28と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ30と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部32と、を含んでいる。また眠気判定警告ECU26は、通信I/F(InterFace)34および入出力I/F36を含んでいる。CPU28、メモリ30、記憶部32、通信I/F34および入出力I/F36は内部バス38を介して相互に通信可能に接続されている。
【0030】
通信I/F34は、図示しないネットワークに接続するためのインタフェースを含む。このネットワークは、一例としてインターネットなどの公衆回線を用いた有線および無線の通信網である。上記のインタフェースとしては、例えば、LTE、Wi-Fi(登録商標)などの通信規格が用いられる。眠気判定警告ECU26は、上記のネットワークを介して基底心拍数取得装置46および生体データ集積装置48と相互に通信可能に接続されている。また、基底心拍数取得装置46と生体データ集積装置48とは、上記のネットワークを介して相互に通信可能に接続される。
【0031】
基底心拍数取得装置46は、例えばウェアラブル端末などに搭載される心拍数センサなどであり、例えば運転者20(被験者)が車両に乗車する直前の睡眠時に、被験者の基底心拍数を測定する。基底心拍数は、睡眠時の心拍数の分布(すなわちヒストグラム)の1パーセンタイルに相当する心拍数である。基底心拍数取得装置46によって測定された基底心拍数のデータは、ネットワークを介して眠気判定警告ECU26に直接、または生体データ集積装置48を経由して間接的に送信される。生体データ集積装置48は、例えばスマートフォンやデータサーバなどである。この生体データ集積装置48には、被験者毎の基底心拍数のデータが集積される。
【0032】
入出力I/F36には、心拍計測装置24、警告デバイス50および他装置56が接続されている。警告デバイス50は、振動発生部52および音声発生部54を含んでいる。本実施形態では、詳細は後述するが、運転者20が眠気ありと判定された場合に、振動発生部52によって振動を発生させるための振動信号部と、音声発生部54によって音声を発生させるための音声信号部と、無信号部と、を含む警告信号が眠気判定警告ECU26から出力される。そして、警告信号の振動信号部は振動発生部52に入力され、警告信号の音声信号部は音声発生部54に入力される。
【0033】
振動発生部52は、車両用シート10のシートクッション部14およびシートバック部16に内蔵された圧電素子を含み、警告信号の振動信号部に応じた、警告のための振動を運転者20に加える。音声発生部54は、車両の車室内に設けられたスピーカを含み、警告信号の音声信号部に応じた、警告のための音声を発生させる。なお、音声信号部は、例えば「眠気を検知しました」などのメッセージを読み上げる音声であり、記憶部32に音声データ42(後述)として記憶されている。他装置56は、例えば車両の自動運転などを制御する車両制御装置や、車両に搭載された表示装置を制御する表示制御装置などである。
【0034】
また、眠気判定警告ECU26の記憶部32は、眠気判定警告プログラム40および前述の音声データ42を記憶している。眠気判定警告ECU26は、眠気判定警告プログラム40が記憶部32から読み出されてメモリ30に展開され、メモリ30に展開された眠気判定警告プログラム40がCPU28によって実行されることで、
図3に示す各機能部として各々機能する。すなわち、眠気判定警告ECU26は、基底心拍数取得部60、心拍数指標算出部62、眠気判定部64および警告信号出力部66として各々機能する。なお、眠気判定警告ECU26は本開示に係る警告装置の一例であり、警告信号出力部66は本開示における警告信号出力部の一例であり、基底心拍数取得部60、心拍数指標算出部62および眠気判定部64は本開示における眠気判定部の一例である。
【0035】
基底心拍数取得部60は、基底心拍数取得装置46によって測定された基底心拍数のデータを取得し、取得した基底心拍数のデータを記憶部32などに記憶させる。この場合、基底心拍数取得部60は、複数の被験者毎に基底心拍数のデータを記憶部32などに記憶させてもよい。なお、本実施形態では、運転者20、すなわち被験者の基底心拍数を取得するために、被験者の睡眠中の心拍数を基底心拍数取得装置46によって測定しているが、これに限るものではない。睡眠中以外に基底心拍数を測定可能な方法が存在すれば、その方法を採用してもよい。
【0036】
心拍数指標算出部62は、心拍計測装置24によって測定された瞬時心拍数のデータを取得する。さらに、心拍数指標算出部62は、瞬時心拍数の平均値である平均心拍数を算出すると共に、当該平均心拍数の単位時間当たりの変化量を基底心拍数で除して得られる補正変化量と、平均心拍数の標準偏差と、を算出する。
【0037】
具体的には、心拍数指標算出部62は、
図4に示されるように、取得済みの複数の瞬時心拍数のデータHR1、HR2、HR3、・・・HRnを平均することで、平均心拍数HRanを算出する。また、心拍数指標算出部62は、算出済みの複数の平均心拍数のデータHRan、HRan+1を用いた以下の(1)式により、平均心拍数の単位時間当たりの変化量の補正変化量Xnを算出する。以下の(1)式において、HR0は基底心拍数であり、tnは時間である。
【0038】
【0039】
さらに、心拍数指標算出部62は、算出済みの複数の平均心拍数のデータHRan、HRan+1を用いた以下の(2)式により、平均心拍数の標準偏差SDを算出する。なお、以下の(2)式において、xはHRan~HRamのデータの数である。
【0040】
【0041】
眠気判定部64は、基底心拍数HR0と瞬時心拍数HRnおよび平均心拍数HRanとを用いて運転者20の眠気度合いを判定する。眠気判定部64は、補正変化量Xn、基底心拍数HR0と瞬時心拍数HRnとの比較、および、標準偏差SDという3つの指標により運転者20の眠気度合いを判定する。
【0042】
すなわち、補正変化量Xnによる判定では、眠気判定部64は、負の値である第1基準値Xcよりも補正変化量Xnが小さい状態(すなわちXn<Xc)が一定時間(例えば10~60秒)継続するか否かに基づいて、運転者20の眠気度合いを判定する。上記の第1基準値Xcは、例えば、-0.0005~-0.005の範囲内に設定される。Xn<Xcが満たされる状態は、平均心拍数の減少傾向が強い状態である。
【0043】
基底心拍数HR0と瞬時心拍数HRnとの比較による判定では、眠気判定部64は、瞬時心拍数HRnが基底心拍数HR0の第1係数Yc倍より小さいか否かに基づいて運転者20の眠気度合いを判定する。この場合、眠気判定部64は、以下の(3)式が満たされるか否かを判定する。以下の(3)式において第1係数Ycは、例えば1.2~1.7の範囲内に設定される。
【0044】
【0045】
標準偏差SDによる判定では、眠気判定部64は、標準偏差SDが基底心拍数HR0の第2係数SDc倍より小さいか否かに基づいて運転者20の眠気度合いを判定する。この場合、眠気判定部64は、以下の(4)式が満たされるか否かを判定する。以下の(4)式において第2係数SDcは、0.003~0.03の範囲内に設定される。
【0046】
【0047】
以下、
図5を参照し、眠気判定部64で実行される眠気判定処理の一例を説明する。この眠気判定処理において、眠気判定部64は、運転者20の眠気度合い(眠気レベル)をレベル0(覚醒)~レベル3(深い眠気)の4段階に分別する。まず
図5のステップ70において、眠気判定部64は、補正変化量Xnが第1基準値Xcより小さい状態、すなわち平均心拍数の減少傾向が強い状態が一定時間継続するか否かを判定する。ステップ70の判定が肯定された場合はステップ72に移行し、ステップ70の判定が否定された場合はステップ78に移行する。
【0048】
ステップ72において、眠気判定部64は、瞬時心拍数HRnが基底心拍数HR0の第1係数Yc倍より小さいか否かを判定する。ステップ72の判定が肯定された場合は、ステップ74において、眠気判定部64は、運転者20の眠気レベルは、深い眠気のレベルであるレベル3と判定する。一方、ステップ72の判定が否定された場合には、ステップ76において、眠気判定部64は、運転者20の眠気レベルは、レベル3よりも一段階浅い眠気レベルであるレベル2と判定する。
【0049】
また、ステップ78に移行した場合、眠気判定部64は、平均心拍数の標準偏差SDが基底心拍数HR0の第2係数SDc倍より小さいか否かを判定する。ステップ78の判定が肯定された場合には、ステップ80において、眠気判定部64は、運転者20の眠気レベルは、レベル2よりも一段階浅い眠気のレベルであるレベル1と判定する。一方、ステップ78の判定が否定された場合には、ステップ82において、眠気判定部64は、運転者20の眠気レベルは、覚醒レベルであるレベル0と判定する。
【0050】
本実施形態では、眠気判定部64は、車両のイグニッションスイッチがオンの間、上述した眠気判定処理を繰り返し実行する。これにより、車両のイグニッションスイッチがオンの間、運転者20の現在の眠気レベルがレベル0~レベル3の何れに該当するかが常に判別される。なお、眠気判定部64による眠気レベルの判定結果は、入出力I/F36を介して他装置56にも出力され、他装置56での制御にも利用される。
【0051】
次に
図6を参照し、車両のイグニッションスイッチがオンの間、警告信号出力部66によって実行される警告信号出力処理について説明する。ステップ100において、警告信号出力部66は、運転者20の現在の眠気度合い(眠気レベル)を眠気判定部64から取得する。ステップ102において、警告信号出力部66は、ステップ100で取得した運転者20の現在の眠気レベルがレベル1以上か否かを判定する。
【0052】
運転者20の現在の眠気レベルがレベル0(覚醒)の場合には、ステップ120の判定が否定されてステップ100に戻り、ステップ120の判定が否定されている間は、ステップ100、102を繰り返す。これにより、運転者20の眠気レベルがレベル0に維持されている間は警告信号の出力は行われない。
【0053】
また、ステップ100で取得した運転者20の現在の眠気レベルがレベル1以上になると、ステップ102の判定が肯定されてステップ104へ移行する。ステップ104において、警告信号出力部66は、警告信号の1パターン内における警告信号の1サイクルの繰り返し回数を表す変数jに1を設定する。またステップ106において、警告信号出力部66は、警告信号の振動信号部内における振動信号の出力回数を表す変数iに1を設定する。
【0054】
ステップ108において、警告信号出力部66は、ステップ100で取得した運転者20の現在の眠気レベルに応じた振幅V1の振動信号を警告デバイス50の振動発生部52へt1秒間出力する。なお、振動信号の振幅V1は、眠気レベルが高くなるに従って振幅V1が大きくなるように決定される。また、t1秒(振動信号区間の長さ)の一例は100m秒であるが、これに限定されるものではない。ステップ108における振動信号の出力により、
図9に「振動」と表記して示すように、振動発生部52において振動信号の振幅V1に応じた振幅の振動がt1秒間発生される。このt1秒間の振動の発生は、本開示における振動信号区間の一例である。
【0055】
次のステップ110において、警告信号出力部66は、振動発生部52への振動信号の出力をt2秒停止させる。なお、t2秒(無信号区間の長さ)の一例は100m秒であるが、これに限定されるものではない。ステップ110における振動信号の出力停止により、
図9に「無信号」と表記して示すように、振動発生部52における振動の発生(および音声発生部54における音声の発生)がt2秒間停止される。このt2秒間の無信号区間は、本開示における無信号区間の一例である。
【0056】
ステップ112において、警告信号出力部66は、変数iが所定値mに達したか否か判定する。なお、所定値mの一例は「5」であるが、これに限定されるものではない。ステップ112の判定が否定された場合はステップ114へ移行し、変数iを1だけインクリメントしてステップ108へ戻る。
【0057】
これにより、ステップ112の判定が肯定される迄、ステップ108~ステップ114が繰り返され、t1秒の振動信号区間とt2秒の無信号区間のセットがm回繰り返された、警告信号の振動信号部(
図9参照)が出力される。なお、一例として、振動信号区間の長さt1秒が100m秒で、無信号区間の長さt2秒が100m秒である場合、振動信号部における振動信号区間の出現周期は5Hzとなる。また、振動信号部における振動信号区間の出現周期は5Hzに限られるものではなく、4~6Hzの何れかであれば好ましい。
【0058】
また、変数iが所定値mに達すると、ステップ112の判定が肯定され、ステップ116へ移行する。ステップ116において、警告信号出力部66は、警告デバイス50への警告信号の出力をt3秒停止させる。ステップ116における警告信号の出力停止により、
図7に「サイクル内無信号部」と表記して示すように、振動発生部52における振動の発生および音声発生部54における音声の発生がt3秒間停止される。なお、t3秒(1サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さ)としては、500~1250m秒の何れかの長さとすることができ、好ましくは500~1000m秒の何れかの長さとすることができる。
【0059】
また、次のステップ118において、警告信号出力部66は、記憶部32に記憶されている音声データ42を、ステップ100で取得した眠気レベルに応じた振幅V2(但し、振幅V2<振幅V1)の音声信号へ変換し、警告デバイス50の音声発生部54へ出力する。ステップ118における警告信号の出力により、
図7に「音声信号部」と表記して示すように、音声発生部54により、例えば「眠気を検知しました」などのメッセージを読み上げる音声が発生される。音声信号部の長さはメッセージの長さによって変化するが、例えば1500~2000m秒である。上述したステップ106~ステップ118により、
図7に示す1サイクル分の警告信号の出力が完了する。
【0060】
ステップ120において、警告信号出力部66は、警告デバイス50への警告信号の出力をt4秒停止させる。ステップ120における警告信号の出力停止により、
図8に「サイクル間無信号部」と表記して示すように、振動発生部52における振動の発生および音声発生部54における音声の発生がt4秒間停止される。なお、t4秒(サイクル間無信号部(第2の無信号部)の長さ)としては、500~1000m秒の何れかの長さとすることができる。
【0061】
ステップ122において、警告信号出力部66は、変数jが所定値nに達したか否か判定する。なお、所定値nの一例は「3」であるが、これに限定されるものではない。ステップ122の判定が否定された場合はステップ124へ移行し、変数jを1だけインクリメントしてステップ106へ戻る。
【0062】
これにより、ステップ122の判定が肯定される迄、ステップ106~ステップ124が繰り返される。従って、警告信号として、振動信号部、サイクル内無信号部(第1の無信号部)および音声信号部から成る警告信号の1サイクルと、t4秒のサイクル間無信号部(第2の無信号部)のセットがn回繰り返される。ステップ122の判定が肯定されるとステップ100に戻り、運転者20の現在の眠気レベルを再度取得し、取得した運転者20の現在の眠気レベルに応じた処理を行う。
【0063】
以上説明したように、本実施形態において、警告信号出力部66は、振動発生部52によって振動を発生させるための振動信号部と、音声発生部54によって音声を発生させるための音声信号部と、を含み、振動信号部と音声信号部との間に無信号部が設けられた警告信号を出力する。これにより、警告信号のうち振動信号部と音声信号部との間に設けられた無信号部によって、警告信号による刺激に慣れてしまうことが抑制される。従って、振動および音声を用いて警告を発する場合に、警告効果を長続きさせることができる。
【0064】
また、本実施形態において、警告信号出力部66が出力する警告信号は、音声信号部の振幅V2を振動信号部の振幅V1よりも小さくしている。これにより、振動および音声を用いて警告を発する場合に、過入力による音声発生部54のスピーカの破損などを招くことなく、音声を適切な音量にすることができる。
【0065】
また、本実施形態において、警告信号出力部66は、振動信号部、サイクル内無信号部(第1の無信号部)、音声信号部がこの順に設けられた警告信号の1サイクルを、当該1サイクル毎にサイクル間無信号部(第2の無信号部)を設けて所定回繰り返す警告信号を出力する。これにより、警告効果を長続きさせることができる警告信号を、簡易な信号パターンにより実現することができる。
【0066】
さらに、本実施形態において、振動信号部は、振動信号区間と無信号区間とが交互に設けられており、振動信号区間の出現周期が4~6Hzのうちの何れかとなるように、振動信号区間および無信号区間の長さが定められている。脳波のθ波帯である4~6Hzの周期振動によるシナプスの間隙の伝達速度向上が、交感神経の活性化につながり、覚醒効果(警告効果)を生むことが知られている。このため、振動信号区間の出現周期を4~6Hzのうちの何れかとすることで、警告信号による警告効果を増大させることができる。
【0067】
また、本実施形態において、無信号部の長さを、500~1250m秒のうちの何れか、好ましくは500~1000m秒のうちの何れかとしている。これにより、無信号部を設けることで生じる、警告効果を長続きさせる効果を増大させることができる。
【0068】
また、本実施形態において、被験者に眠気があるか否かを判定する眠気判定部64をさらに含み、警告信号出力部は、眠気判定部64によって被験者に眠気ありと判定された場合に警告信号を出力する。これにより、眠気ありと判定された被験者を、警告信号によって覚醒させることができる。
【0069】
また、本実施形態において、眠気判定部64は、眠気があると判定した被験者について眠気レベルを判定し、警告信号出力部66は、眠気判定部64によって判定された被験者の眠気レベルが高くなるに従って、警告信号のうち振動信号部および音声信号部の振幅を大きくする。これにより、眠気レベルが比較的低い被験者に対しては、警告信号の出力が不快感を与えることを抑制することができ、眠気レベルが比較的高い被験者に対しては、警告信号によって短時間で覚醒させることができる。
【0070】
なお、上記の実施形態では被験者の心拍から眠気を判定する態様を説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、例えば被験者の脳波、或いは被験者を撮影した画像から眠気を判定するようにしてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態では音声信号部の振幅V2を眠気レベルに応じて変化させる態様を説明したが、これに限定されるものではない。振動信号部の振幅V1のみ眠気レベルに応じて変化させ、音声信号部の振幅V2は一定としてもよい。また、上記の実施形態では振動信号部の振幅V1を眠気レベルに応じて変化させる態様を説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、振動信号部の振幅V1を一定としてもよい。また、振動信号部の振幅V1を一定とする場合、音声信号部の振幅V2は、眠気レベルに応じて変化させてもよいし、一定としてもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では警告信号の1サイクルを、振動信号部、サイクル内無信号部、音声信号部の順としていたが、これに限定されるものではない。例えば、警告信号の1サイクルを、音声信号部、サイクル内無信号部、振動信号部の順としてもよい。
【0073】
さらに、上記の実施形態では眠気判定部64が眠気ありと判定した場合に警告信号出力部66から警告信号を出力する態様を説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、自車両が車線を逸脱した、または逸脱しそうな状況であることが他装置56から通知された場合、或いは、自車両が他車両、歩行者、自転車などの物標と衝突しそうな状況であることが他装置56から通知された場合に、本開示に係る警告信号を出力するようにしてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では本開示を車両に適用した態様を説明したが、これに限定されるものではなく、鉄道車両、船舶、飛行機などの移動体に適用してもよい。
【実施例0075】
次に、本開示に係る警告信号における無信号部(サイクル内無信号部(第1の無信号部)およびサイクル間無信号部(第2の無信号部))の適切な長さを導出するために、本願発明者等が実施した実験について説明する。
【0076】
この実験では、
図10に示すように、実施形態で説明した車両用シートと、当該車両用シートの前方側に配置され、ステアリングユニット、フットペダルユニット、ディスプレイを備えたドライビングシミュレータを用いた。なお、ディスプレイを載置したテーブル上には、被験者の運転状態を撮影するためのカメラを設置した。
【0077】
実験の手順は以下の通りである。すなわち、実験を受ける被験者は、まず、心拍計、脳波計、ウェアラブルデバイスを装着し、所定の問診票に回答を記入する。次に、被験者が車両用シートに着座した状態で部屋を暗転させ、車両用シートに着座したままで被験者は5分間安静にする。次に、心拍データ、脳波データの取得を開始すると共に、カメラによる動画像の撮影を開始する。そして、ドライビングシミュレータを介して被検者による運転操作を開始させる。運転操作は最大で20分間である。
【0078】
20分間の運転操作の間に、ECUで被検者の眠気を検知した場合は、本開示に係る警告信号を出力する。そして、動画像の撮影を終了すると共に、被検者による運転操作を終了させ、被検者にアンケートを記入してもらう。このように、被検者の眠気を検知して警告信号を出力した場合のデータは、評価対象として用いる。一方、20分間の運転操作の間にECUで被検者の眠気を検知しなかった場合は、手動により強制的に警告信号を出力し、動画像の撮影を終了した後に被検者にアンケートを記入してもらうものの、データは評価対象としては用いず、参考データ扱いとする。
【0079】
第1の実験では、本開示に係る警告信号のうちサイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さt3を0秒~2000m秒の範囲で250m秒刻みに変化させ、サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さt3が互いに異なる9種類の警告信号を、官能評価により評価した。官能評価における評価項目は以下の通りであり、1~5の5段階評価で「1=悪い」~「5=良い」として評価した。
・不快感
・異物感
・警告信号の気づきやすさ
・運転に対する注意力が散漫になるか
・運転に対して悪い影響を与えないか(びっくりしてパニックになるなど)
・アラートとして役に立っているか
・尻下がくすぐったくないか
・眠気は解消されそうか
【0080】
第1の実験の結果を
図11に示す。
図11より明らかなように、サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さが500~1250m秒の範囲内であれば4以上の評価値が得られており、第1の実験により、サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さt3は500~1250m秒の範囲内が好ましいことが明らかになった。また、サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さt3が500~1250m秒の範囲内のうち、特に500~1000m秒の範囲内ではより高い評価値が得られており、サイクル内無信号部の長さt3は500~1000m秒の範囲内がより好ましいことが明らかになった。
【0081】
第2の実験では、第1の実験の結果に基づき、本開示に係る警告信号のうちサイクル間無信号部(第2の無信号部)の長さt4を1000m秒、500m秒、750m秒、1250m秒に切り替え、以下で説明するパラメータを算出した。なお、第2の実験において、サイクル内無信号部(第1の無信号部)の長さt3=1000m秒とした。
【0082】
第2の実験で算出したパラメータは、本開示に係る警告信号を出力する前後の被検者の状態から覚醒の有無を割合で算出した覚醒率である。覚醒率は、心拍、脳波、被検者の運転状態を撮影した動画像を生体情報として取得、分析することで算出できる。覚醒率の算出結果を
図12に示す。覚醒率の結果から、サイクル間無信号部(第2の無信号部)の長さt4が500~1000m秒の範囲内であれば覚醒支援効果が得られることが明らかになった。