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▶ 株式会社木村食品の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176757
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】もち様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20221122BHJP
【FI】
A23L7/10 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083341
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】595123564
【氏名又は名称】株式会社木村食品
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 智城
(72)【発明者】
【氏名】河野 博繁
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE23
4B023LG04
4B023LK05
4B023LK07
4B023LK08
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】調整後から時間が経過しても、老化を抑制でき、柔らかいつきたての食感を有し、かつ、良好な伸展性と良好な口溶けを保持することのできるもち様食品を提供する。
【解決手段】もち米粉20重量%以上かつ30重量%以下、グルコマンナン粉0.2重量%以上かつ1.0重量%以下、糖類2重量%以上かつ7重量%以下及び液状油2重量%以上かつ7重量%以下を含む原料を混合し、これに残部の水を混合した後、蒸練する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
もち米粉20重量%以上かつ30重量%以下、グルコマンナン粉0.2重量%以上かつ1.0重量%以下、糖類2重量%以上かつ7重量%以下及び液状油2重量%以上かつ7重量%以下を含む原料を混合し、これに残部の水を混合した後、蒸練することを特徴とする、もち様食品の製造方法。
【請求項2】
前記もち米粉が23重量%以上かつ27重量%以下、前記グルコマンナン粉が0.3重量%以上かつ0.7重量%以下、前記糖類が4重量%以上かつ6重量%以下及び前記液状油が2重量%以上かつ5重量%以下である、請求項1に記載のもち様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整後時間が経過しても老化を抑制でき、柔らかいつきたての触感と食感を保持するもち様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餅は調整後時間が経過すると老化して、そのままでは食べることが困難となる。この老化は、冷蔵保存した場合にはより起こりやすくなる。このような餅類の老化防止のため、アミラーゼやトレハロースのような糖類や、老化防止剤としてグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤が添加されることがある。しかしこのような添加物によって著しく食感が害され、餅本来の味からはほど遠いものとなっていた。
【0003】
一方、室温保存又はチルド状態保存でも餅の柔らかさを保持するため、砂糖などの糖類を多く添加する方法もあるが、餅の甘みが強くなるとともに、餅特有の親展性が失われ、餅らしさが損なわれるという難点があった。
【0004】
なお、パン生地に、もち米粉を成分として含有するもち様の食品を添加して焼成したパンを製造することについては、下記特許文献1及び特許文献2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-123392号公報
【特許文献2】特開2019-4722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の実施態様は、調整後から時間が経過しても、老化を抑制でき、柔らかいつきたての食感を有し、かつ、良好な伸展性と良好な口溶けを保持することのできるもち様食品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題に鑑み、本願の実施態様のもち様食品の製造方法は、もち米粉20~30重量%、グルコマンナン粉0.2~1.0重量%、糖類2~7重量%及び液状油2~7重量%を含む原料を混合し、これに残部の水を混合した後、蒸練することを特徴とする。
【0008】
なお、前記もち米粉が23重量%以上かつ27重量%以下、前記グルコマンナン粉が0.3重量%以上かつ0.7重量%以下、前記糖類が4重量%以上かつ6重量%以下及び前記液状油が2重量%以上かつ5重量%以下であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のように構成されているので、調整後から時間が経過しても、老化を抑制でき、柔らかいつきたての食感を有し、かつ、良好な伸展性と良好な口溶けを保持することのできるもち様食品の提供が可能となる
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のもち様食品の製造方法では、もち米粉20~30重量%、グルコマンナン粉0.2~1.0重量%、糖類2~7重量%及び液状油2~7重量%を含む原料を混合し、これに残部の水を混合した後、蒸練する。
【0011】
もち米粉は、もち様食品を添加して焼成したパンにおけるもちもち感を発揮させるための主要成分である。ここで、もち米粉の配合量が20重量%未満の場合、添加した食品に十分なもちもち感が発揮されない。一方、30重量%を上回ると、他の成分を加えての混練が困難である。よって、もち米粉の含有量は、上述の通り20重量%以上、かつ、30重量%以下が望ましく、さらには23重量%以上、かつ、27重量%以下がより望ましい。
【0012】
グルコマンナン粉は、その保水力によって、もち米粉によるもちもち感が損なわれることを防止する目的で添加される。グルコマンナンとは、コンニャクイモに含まれる水溶性中性で、六炭糖のグルコースとマンノースがおよそ2:3割合でβ―1,4グリコシド結合した直鎖状の分子構造を有する。グルコマンナンはこんにゃくの主成分であるため、コンニャクマンナンとも称される。ここで、グルコマンナン粉の配合量が0.2重量%未満の場合、この目的が十分に発揮されない。一方、1.0重量%を上回ると、グルコマンナン粉の均質化が困難となる。よって、グルコマンナン粉の配合量は、0.2重量%以上、かつ、1.0重量%以下が望ましく、さらには0.3重量%以上、かつ、0.7重量%以下がより望ましい。
【0013】
糖類は、もち米粉によるもちもち感と、グルコマンナン粉の保水力を補助する目的とともに、もち様食品の柔軟性を保持させる目的で添加される。糖類の例としては、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、麦芽糖、転化糖、トレハロース、各種の糖アルコール、コーンシロップ、水あめ及びデキストリンが挙げられる。このうち、餅としての風味及び柔らかさを維持する観点からは、ショ糖及び果糖が望ましい。ここで、糖類の配合量が2重量%未満の場合、この目的が十分に発揮されない。一方、7重量%を上回ると、最終的に製造されるパンに不必要な甘みが加わりやすくなる。よって、糖類の配合量は、2重量%以上、かつ、7重量%以下が望ましく、さらには4重量%以上、かつ、6重量%以下がより望ましい。
【0014】
液体油は、常温で液体性状を有する油脂をいい、もち様食品の柔軟性を保持させる目的で添加される。液体油の例としては、大豆油、綿実油、トウモロコシ油、菜種油及び米ぬか油、並びにこれらのサラダ油が挙げられる。ここで、液体油の配合量が2重量%未満の場合、この目的が十分に発揮されない。一方、7重量%を上回ると、もち様食品が柔らかくなりすぎて最終的に焼成されるパンのもちもち感が損なわれる。よって、液体油の配合量は、2重量%以上、かつ、7重量%以下が望ましく、さらには2重量%以上、かつ、5重量%以下がより望ましい。
【0015】
水の含有量は原則として上記各成分の残部である。しかし、本発明は、製品の目的によって上記各成分以外の付加的な成分(たとえば、澱粉、調味料、香料、保存料、色素等)の添加を排除するものではない。たとえば、この付加的な成分として、リン酸架橋澱粉を用いてもよい。リン酸架橋澱粉とは、小麦粉やコーンスターチなどの澱粉の老化や離水を防止する目的で使用される加工澱粉であり、たとえば、タピオカ澱粉や餅米澱粉などがリン酸架橋されたものである。リン酸架橋澱粉は、たとえば、アセチル化リン酸架橋澱粉又はヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉の品名で市販されている。したがって、そのような付加的な成分が添加される場合、水の含有量は上記各成分及び付加的な成分の残部となる。本件発明に係る成分(水を含む)の重量%の合計が100に満たない場合、その残部はそのような付加的成分が占めるものである。
【0016】
また、本実施形態における「蒸練」とは、上記を直接内容部に吹き込みながら対流伝熱を行いつつ、内容物を混練させながら内容物の澱粉質をアルファ化させる工程である。換言すると、蒸練とは、一般に煮る又は茹でるといった、容器の外側から加熱しながら内容物に対流伝熱する、いわば間接的な加熱方式と違い、直接蒸気を内容物に吹き込みながら対流伝熱を行うものである。したがって、蒸気の凝固熱放出をもって短時間に効果的に加熱する、いわば直接的な加熱方式である。ここで、もち米はアミロペクチンのみで構成されており、うるち米に比べても吸水しやすいという特徴がある。また、グルコマンナン粉は吸水性及び膨潤性が際立って遅いことを特徴としている。これら相反する特徴の原材料を短時間に効率よく加熱してアルファ化するにはこの蒸練工程を採用することが最適である。
【0017】
本実施形態の製造方法で製造されたもち様食品は、調整後から時間が経過しても、老化を抑制でき、柔らかいつきたての食感を有し、かつ、良好な伸展性と良好な口溶けを有する。また、本実施形態の製造方法で製造されたもち様食品は、チルド温度帯や冷蔵温度帯にあっても、柔らかい状態を保つ。さらに、冷凍しても、解凍後には室温で冷凍前の柔らかさに戻る。しかも、この柔らかさが、常温で3か月以上保持可能である。
【0018】
餅は、伝統的に単独または、表面にきなこやゴマ、砂糖醤油といった調味料を塗布する、あるいは海苔で巻くなどの方法で食されていた。しかし、本実施形態の製造方法で製造されたもち様食品は、つきたての柔らかい状態を製造後長期間保つことができるため、餅としての用途範囲を著しく拡大することができる。たとえば、製菓及び製パンの分野においては、パンや菓子の上に乗せるトッピングとして、また、パンや菓子の間に挟むサンド材として、さらに、パンや菓子で包み込むフィリング材として使用することが可能である。
【0019】
また、このもち様食品は、室温、冷蔵温度帯及びチルド温度帯のいずれでも製造後長期間柔らかい状態を保つため、あらゆる食材と容易に、混合することができる。たとえば、粉末のコーヒー、ココア、オレンジジュースなどの粉末果汁、バターやチョコレートも、あるいは黒蜜なども湯煎して簡単に混合することができる。こうした、バラエティー化したもち様食品は、パンや菓子のトッピング、サンド、フィリングに使用することができる。さらに、このもち様食品は、解凍後のチルド温度帯で、冷凍前の元の柔らかさに戻るので、製菓製パン以外の、冷凍食品としての使用も可能である。
【実施例0020】
実施例及び各比較例に係るもち様食品の原材料は、下記表1に示すとおりに配合した。なお、グルコマンナン粉としてはレオレックス(清水化学)を使用した。また、糖類としては砂糖を、液体油としては菜種のサラダ油を、それぞれ使用した。なお、加工澱粉としてはリン酸架橋澱粉を用いた。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例のもち様食品では、上記成分のうち、まず、レオレックスと砂糖とを粉体のまま混合し、約10℃の冷水(24.5重量%分)に撹拌しながらダマにならないように投入分散させ、そのまま10~30分静置し、レオレックス濃度2重量%のペーストを作成した。次いで、このペーストに残りの水(25.0重量%分)及びその他の成分を混合し、約90℃にて蒸練し、10~20分間その状態を保持させて、全体をアルファ化させた。次に、耐熱フィルム容器にこれをホット充填し、さらにこの状態で90~95℃で40分間ボイル殺菌した。その後冷却したものをもち様食品とした。なお、比較例1では上記の製造工程から砂糖の添加のみが除外された。また、比較例2では上記の製造工程から液体油の添加のみが除外された。さらに、比較例3では上記の製造工程からグルコマンナン粉の添加のみが除外された。
【0023】
実施例のもち様食品は、製造後常温で3箇月間保持した後でも、つきたての餅の柔らかさを保っていたが、各比較例のもち様食品では、老化して硬い状態となった。また、実施例及び各比較例のもち様食品をそれぞれ一旦冷凍してから解凍すると、実施例ではつきたてと同様の柔らかさが保持されていたが、各比較例では老化して硬い状態となった。
【0024】
次に、このもち様食品を添加した食パンの製造例を以下に掲げる。まず、実施例として、下記表2に示す配合の食パン生地を調製した。なお、以下の各表に示す数値は、使用する小麦粉(強力粉)の重量を100%としたときに、他の材料の重量がこの小麦粉(強力粉)の重量に対して何パーセントになるかで表した、いわゆるベーカーズパーセント(以下、「BP」と略す。)で示している。
【0025】
【表2】
【0026】
上記材料を定法に従い混合して捏ねて得られた生地に、前記もち様食品21.6BPを加えて、均一になじませるように捏ねてから丸くまとめ、35℃で50~60分一次発酵させた。そして、生地をガス抜きしてから丸めてさらに10分程度休ませた後、内面に油を塗った食パン型に入れ、35℃で45~55分二次発酵させ、生地を十分膨らませた。その後、180℃に予熱したオーブンで15分焼成した後、温度を210℃に挙げて焼き上げて実施例の食パンを得た。この実施例の食パンでは、焼成前の生地におけるもち様食品の配合量は10.0%(=21.6/(21.6+194.7))であった。
【0027】
一方、比較例として、下記表3及び表4に示す配合の食パン生地を調製した。
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
まず、表3に示す強力粉に熱湯を加えて練り合わせ、小麦粉をアルファー化させたものを冷蔵庫で十分冷却した後、室温に戻し湯種とした。一方、上記表4に示す材料を定法に従い混合して捏ねて得られた生地に、この湯種を練り合わせ、実施例と同様に一次発酵及び二次発酵を経てから同様に焼成して比較例の食パンを得た。この比較例の食パンでは、焼成前の生地における湯種の配合量は30.8%(=60/(60+134.7))であった。
【0031】
こうして得られた実施例の食パンは、比較例の食パンに比してもちもちした食感が遙かに優れていた。このように、本実施形態のもち様食品は、湯種製法での食パン生地への湯種の添加量よりも少ない添加量で、湯種製法の食パンよりも優れたもちもち感の食パンを製造することができた。なお、湯種を製造する際には上記したように熱湯を準備する必要があり、これを強力粉に加える際に火傷等の危険が伴うものである。一方、本実施形態のもち様食品を湯種の代わりに用いることで、このような危険を伴わずに、湯種よりも優れた食感の食パンを製造することが可能となることが分かった。
【0032】
以上のとおり、このもち様食品を湯種製法の湯種の代わりに用いることで、湯種を使用したのと同等以上に、パンにもちもち感を付与することができた。さらには、パンの製造のみならず、たとえば、餃子、春巻き、シュウマイ、ワンタン、中華饅頭等の皮に練り込んでも、もちもちした食感を付与することができた。
【0033】
次に、このもち様食品をベーグルの焼成に応用した例を以下に掲げる。ベーグルは焼成前の生地を茹でることでもちもち感を引き出すパンとして知られている。ベーグルの生地は下記表5に示す配合とした。
【0034】
【表5】
【0035】
まず、比較例として、上記表中に示す温湯に他の材料を加えて、混練して得られた生地をリング状に成形し、蜂蜜を数重量%加えた熱湯でこの成形した生地を片面1分ずつボイルした後、200℃のオーブンで12~15分焼成した。
【0036】
一方、実施例として、上記表中に示す重量部の温湯に他の材料及び前記もち様食品10BPを加えて、混練して得られた生地をリング状に成形し、熱湯でのボイルは行わずに200℃のオーブンで12~15分焼成した。
【0037】
上記の結果、ボイル工程を省略した実施例のベーグルは、比較例のベーグルよりももちもち感が遙かに優れていた。このベーグルの例によっても、本願のもち様食品の、パン類のもちもち感の醸成に優れた効果があることが示された。