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特開2022-176788TDC装置、測距装置および補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176788
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】TDC装置、測距装置および補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20221122BHJP
   G01S 7/4865 20200101ALI20221122BHJP
   H03K 5/14 20140101ALI20221122BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S7/4865
H03K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083390
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000242600
【氏名又は名称】北陽電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】安田 国弘
(72)【発明者】
【氏名】上谷 敏寛
【テーマコード(参考)】
5J001
5J084
【Fターム(参考)】
5J001AA11
5J001BB05
5J001CC03
5J084AA05
5J084AD01
5J084CA32
5J084CA64
5J084DA08
5J084EA11
(57)【要約】
【課題】対象物までの距離測定動作時における測定精度を向上させる。
【解決手段】TDC装置101は、計測信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を含む遅延回路と、複数段の遅延素子に対応して設けられ、入力される計測クロックに応答して複数段の遅延素子の出力を保持する複数の記憶素子と、を有するTDC回路1と、複数の記憶素子の出力の切り替わりに基づいて、計測信号の少なくとも立ち上がりエッジを検出した遅延素子の検出段を検出するエッジ検出部2と、遅延素子の検出段と、複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルにおける検出段に対応する遅延量に補正遅延量を加減算することで、遅延量を補正した計測信号の遅延時間を出力する遅延量補正部4と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を含む遅延回路と、前記複数段の遅延素子に対応して設けられ、入力される計測クロックに応答して前記複数段の遅延素子の出力を保持する複数の記憶素子と、を有するTDC回路と、
前記複数の記憶素子の出力の切り替わりに基づいて、前記計測信号の少なくとも立ち上がりエッジを検出した前記遅延素子の検出段を検出するエッジ検出部と、
前記遅延素子の検出段と、前記複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルにおける前記検出段に対応する前記遅延量に補正遅延量を加減算することで、前記遅延量を補正した前記計測信号の遅延時間を出力する遅延量補正部と、
を備える、TDC装置。
【請求項2】
前記TDC回路の前記遅延回路に前記計測クロックとは周期が異なるキャリブレーション信号を入力して、前記キャリブレーション信号の立ち上がりエッジを検出した前記遅延素子の各検出段と、前記複数の遅延素子の遅延量に関する前記遅延変換テーブルを生成する遅延変換テーブル生成部を、更に備える、
請求項1に記載のTDC装置。
【請求項3】
前記遅延変換テーブル生成部の前記遅延量が、前記複数段の遅延素子の初段から前記各検出段までの前記遅延素子の累積の遅延量である、
請求項2に記載のTDC装置。
【請求項4】
前記遅延量補正部は、
i段目の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出された検出数をh、前記遅延変換テーブルにおける前記遅延素子の最大段数をXmax、予め決められた補正段数をX、各段の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出される検出総数をNで表す場合において、以下の式
【数1】
で、算出される補正遅延量tciをi段の遅延素子に対応する累積遅延量tに加算することで、前記遅延量を補正する、
請求項3に記載のTDC装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のTDC装置と、
前記計測クロックと同期して測定光を照射する投光部と、
物体で反射された前記測定光の反射光を受光し、前記反射光に係る計測信号を前記TDC装置へ出力する受光部と、
前記TDC装置において遅延量を補正した後の測定光と反射光との時間差から、物体までの距離を演算する、距離演算部と、
を備える、測距装置。
【請求項6】
前記投光部から照射された測定光を所定方向に偏向させる光偏向部、および、前記測定光を所定の方向に走査させる光走査部、の少なくとも一方を備える、
請求項5に記載の測距装置。
【請求項7】
計測信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を含む遅延回路と、前記複数段の遅延素子に対応して設けられ、入力される計測クロックに応答して前記複数段の遅延素子の出力を保持する複数の記憶素子と、を有するTDC回路、を備えたTDC装置での補正方法であって、
前記複数の記憶素子の出力の切り替わりに基づいて、前記計測信号の少なくとも立ち上がりエッジを検出した前記遅延素子の検出段を検出し、
前記遅延素子の検出段と、前記複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルにおける前記検出段に対応する前記遅延量に補正遅延量を加減算することで、前記遅延量を補正した前記計測信号の遅延時間を出力する、
補正方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TDC装置、測距装置および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物までの距離を測定する測距装置では、光を照射した時刻から反射光を受信した時刻までの光の飛行時間を検出するために、TDC(time to digital converter)回路が用いられる。TDC回路は、時間情報をデジタル化する回路である。このTDC回路には、遅延素子と、フリップフロップとを使う方式が多用されている。このTDC回路において、遅延素子の遅延量は、半導体装置の製造条件、または、動作中の温度変化(いわゆる、PVT(Process Voltage Temperature)変動)などによって、変動する。遅延素子の遅延量が変動すると、TDC回路における測定精度に影響が及ぶ。そこで、測距装置において、距離測定動作を行わないタイミングで、TDC回路にキャリブレーション信号を入力して、TDC回路の各遅延素子が持つ遅延量を推定する、キャリブレーション動作が行われる。
【0003】
特許文献1には、PVT変動に対して正常に動作するように、遅延素子の遅延時間のバラツキを校正する手法が開示されている。特許文献1に記載の手法は、遅延素子に係るバイアスの電流量を調整しながら、目標とする遅延時間になるようにする手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-114716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、測距装置においてキャリブレーション動作を行う場合、距離測定動作が行えないために、キャリブレーション動作は極力短時間で完了することが望まれる。このため、キャリブレーション動作では、測定動作時よりも非常に多いパルス(キャリブレーション信号)を短時間にTDC回路に入力する必要がある。短時間にパルスを連続でTDC回路に入力すると、回路の電源電圧値が所定電圧値よりも低くなる電圧降下が測定動作時よりも大きくなる。つまり、キャリブレーション動作時と、測定動作時とで、回路の電圧降下が異なる。この電圧降下の違いが、キャリブレーション動作時と、測定動作時とにおける、遅延素子の遅延量を異ならせる原因となる。この結果、キャリブレーション動作で遅延素子の遅延量を推定したとしても、適正な測定距離ができないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一例は、キャリブレーション動作時のTDC回路の電源電圧の電圧降下量の変動による影響を軽減しつつ、対象物までの距離測定動作時における測定精度を向上させることができる、TDC装置、測距装置および、補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するため、本発明の一側面におけるTDC装置は、計測信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を含む遅延回路と、複数段の遅延素子に対応して設けられ、入力される計測クロックに応答して複数段の遅延素子の出力を保持する複数の記憶素子と、を有するTDC回路と、複数の記憶素子の出力の切り替わりに基づいて、計測信号の少なくとも立ち上がりエッジを検出した遅延素子の検出段を検出するエッジ検出部と、遅延素子の検出段と、複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルにおける検出段に対応する遅延量に補正遅延量を加減算することで、遅延量を補正した計測信号の遅延時間を出力する遅延量補正部と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
このTDC装置は、キャリブレーション動作時のTDC回路の電源電圧の電圧降下量の変動による影響を軽減しつつ対象物までの距離測定動作時における測定精度を向上させることができる。
【0009】
(2)上記(1)のTDC装置は、TDC回路の遅延回路に計測クロックとは周期が異なるキャリブレーション信号を入力して、キャリブレーション信号の立ち上がりエッジを検出した遅延素子の各検出段と、複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルを生成する遅延変換テーブル生成部を、更に備えてもよい。
【0010】
この場合、キャリブレーション時に遅延変換テーブルを生成することができる。
【0011】
(3)上記(2)のTDC装置は、遅延変換テーブル生成部の遅延量が、複数段の遅延素子の初段から各検出段までの遅延素子の累積の遅延量であってもよい。
【0012】
この場合、複数段の遅延素子の初段から各検出段までの遅延素子の累積の遅延量を遅延変換テーブルから取得できる。
【0013】
(4)上記(3)のTDC装置の遅延量補正部は、
i段目の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出された検出数をh、最大段数をXmax、予め決められた補正段数をX、各段の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出される検出総数をNで表す場合において、以下の式
【数1】
で、算出される補正遅延量tciをi段の遅延素子に対応する累積遅延量tに加算することで、遅延量を補正してもよい。
【0014】
この場合、補正遅延量を算出できる。
【0015】
(5)また、本発明の一側面における測距装置は、上記(1)から上記(4)のいずれか一つのTDC装置と、計測クロックと同期して測定光を照射する投光部と、物体で反射された測定光の反射光を受光し、反射光に係る計測信号をTDC装置へ出力する受光部と、TDC装置において遅延量を補正した後の測定光と反射光との時間差から、物体までの距離を演算する、距離演算部と、を備える、ことを特徴とする。
【0016】
測距装置は、距離測定動作時における測定精度を向上させることができる。
【0017】
(6)上記(5)に記載の測距装置は、投光部から照射された測定光を所定方向に偏向させる光偏向部、および、測定光を所定の方向に走査させる光走査部、の少なくとも一方を備えてもよい。
【0018】
この場合、測定光を所定方向に偏向させたり、測定光を所定の方向へ走査させたりできる。
【0019】
(7)また、本発明の一側面における補正方法は、計測信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を含む遅延回路と、複数段の遅延素子に対応して設けられ、入力される計測クロックに応答して複数段の遅延素子の出力を保持する複数の記憶素子と、を有するTDC回路、を備えたTDC装置での補正方法であって、複数の記憶素子の出力が切り替わりに基づいて、計測信号の少なくとも立ち上がりエッジを検出した遅延素子の検出段を検出し、遅延素子の検出段と、複数の遅延素子の遅延量に関する遅延変換テーブルにおける検出段に対応する遅延量に補正遅延量を加減算することで、遅延量を補正した計測信号の遅延時間を出力する、ことを特徴とする。
【0020】
これによると、キャリブレーション動作時の電圧降下量の変動による影響を軽減しつつ対象物までの距離測定動作時における測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えばキャリブレーション動作時の電圧降下量の変動による影響を軽減しつつ対象物までの距離測定動作時における測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る測距装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、TDC回路を示す図である。
図3図3は、図2のTDC回路の動作波形を示す図である。
図4図4は、TDC回路に入力される計測信号および計測クロックの波形を示す図である。
図5図5は、キャリブレーション信号と、計測クロックとの波形を示す図である。
図6図6は、キャリブレーション信号の立ち上がりを検出した結果を示すヒストグラムである。
図7図7は、累積ヒストグラムを示す図である。
図8図8は、遅延変換テーブルを示す図である。
図9図9は、補正前後の遅延量を示す図である。
図10図10は、TDC装置の動作の効果を示す特性図である。
図11図11は、TDC装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本実施形態に係る測距装置の構成を示すブロック図である。
【0024】
本実施形態に係る測距装置100は、測定光を照射し、その測定光が物体によって反射された反射光を受光し、反射光を受光したタイミングに基づいて物体までの距離を算出する装置である。測距装置100は、TDC装置101と、距離演算部102と、投光部103と、受光部104と、光偏向部105と、光走査部106と、電源部107とを備えている。
【0025】
投光部103は、例えば、不図示の光源と光源駆動部とを備える。光源は、例えば半導体レーザまたはLEDなどである。光源駆動部は、光源の発光を駆動する回路である。投光部103は、後述の光偏向部105の反射部に向けて測定光を照射する。測定光は、例えば数ナノ秒~数十ナノ秒などのパルス幅を有するパルス光である。
【0026】
光偏向部105は、ミラー等の反射部を配置し、反射部に入射する投光部103からの測定光を所定の方向へ偏向させる。光走査部106は、光偏向部105が偏向させた測定光を例えば、水平方向または垂直方向の所定の方向に走査する。なお、測距装置100は、光偏向部105または光走査部106のいずれか一方のみを備えるように構成されていてもよい。
【0027】
受光部104は、例えば、アバランシェフォトダイオード等の受光素子を備え、物体で反射された測定光の反射光を受光し、受光した反射光の光強度を電気信号に変換する。受光部104は反射光を受光すると、反射光に係る電気信号(以下、計測信号と言う)を、TDC装置101へ出力する。
【0028】
TDC装置101は、投光部103が測定光を照射した時刻から、受光部104が反射光を受光した時刻までの、測定光と反射光との時間差を計測する装置である。TDC装置101については、後に詳述する。
【0029】
距離演算部102は、TDC装置101によって計測された、測定光と反射光との時間差から、物体までの距離を演算する。距離演算部102は、例えば、CPUがプログラムを実行することによって実現される。測定光と反射光との時間差に基づき距離を算出する方式をTOF(Time Of Flight)方式といい、以下の数式により、物体までの距離dが算出される。ここで、Cは光速、ΔTは測定光と反射光との時間差である。
d=(1/2)×C×ΔT
【0030】
電源部107は、測距装置100が備えるTDC装置101、距離演算部102、投光部103、受光部104、光偏向部105、および、光走査部106が動作する電力を供給するのに、それぞれに所定の電源電圧を出力する。なお、電源部107は、測距装置100の外部から電力が供給される入力端子を備えていてもよい。
【0031】
TDC装置101は、測定光と反射光との時間差を、測定光に対応する計測開始信号が入力された時刻から、反射光に対応する計測信号が検出されるまでの時刻までの遅延時間として計測する。以下に、TDC装置101について説明する。
【0032】
本実施形態のTDC装置101は、TDC回路1と、エッジ検出部2と、遅延変換テーブル生成部3と、遅延量補正部4とを備えている。これらは、専用のハードウェアにより構成されてもよいし、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、CPUがプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0033】
図2は、TDC回路1を示す図である。図2に示すTDC1は、所謂バーニア型TDC回路である。TDC回路1は、第1の遅延回路11と、第2の遅延回路12と、フリップフロップ列13と、同期化回路14と、からなる。なお、TDC回路1は、第2の遅延回路12を備えない、フラッシュ型TDC回路であってもよい。フリップフロップ列13は、高速に動作可能な記憶素子の一例である。
【0034】
第1の遅延回路11において、計測信号が入力端子Vrefに入力される。計測信号は、投光部103から照射された光が物体によって反射されて、受光部104が受光した反射光の信号である。第1の遅延回路11は、n段(nは1以上の整数)の遅延素子11、からなる。各遅延素子11が持つ遅延量(遅延時間とも言う)はτに設定されている。各遅延素子11の出力ノードは、S1、S2、S3・・Snで表す。
【0035】
第2の遅延回路12において、計測クロックが入力端子Vckに入力される。計測クロックは、測定光と反射光との時間差を検出するためのクロックである。前記の投光部103は、計測クロックの立ち上がりのタイミングで、測定光を照射する。第2の遅延回路12は、第1の遅延回路11と同様、n段の遅延素子12からなる。各遅延素子12の遅延量はτ(<τ)に設定されている。各遅延素子12の出力ノードは、C1、C2、C3・・Cnで表す。
【0036】
遅延素子11と遅延素子12との組、遅延素子11と遅延素子12との組というように、遅延素子11と遅延素子12との組ごとに、各組の出力端子は後述のフリップフロップに接続されている。以下では、遅延素子11と遅延素子12とは1段目の遅延素子、遅延素子11と遅延素子12とは2段目の遅延素子というように、遅延素子11と遅延素子12とはn段目の遅延素子と言う。
【0037】
フリップフロップ列13は、n個のD-フリップフロップ(以下、D-FFと言う)13(nは1以上の整数)を備えている。本実施形態では、D-FF13は、1段目の遅延素子に対応し、D-FF13は、n段目の遅延素子に対応するものとする。詳しくは、D-FF13のD端子は、遅延素子11の出力ノードSnが接続され、CK端子は遅延素子12の出力ノードCnが接続されている。また、D-FF13のQ端子は同期化回路14に接続されている。各D-FF13の出力ノードは、D1、D2、D3・・Dnで表す。
【0038】
同期化回路14は、D-FF13~13の出力値を計測クロックに同期させて出力する回路である。
【0039】
図3は、図2のTDC回路1の動作波形を示す図である。この例では、入力端子Vrefからの計測信号が、Lレベル(以下、Lと言う)からHレベル(以下、Hと言う)へ変化する立ち上がりに対して、入力端子Vckからの計測クロックが時間差Δtだけ遅れてLからHに立ち上がっている場合の例である。この図3に示す例では、D-FF13~13の出力ノードD1~D4におけるデータとして、「H、H、L、L」が得られる。
【0040】
エッジ検出部2は、TDC回路1に計測信号および計測クロックが入力されたときに、同期化回路14からの出力値に基づいて、計測信号の立ち上がり、または、立ち下がりを検出する。ここで、本実施形態において、図2のTDC回路1は、12段の遅延素子(つまりn=12)と12段のD-FF13~1312とで構成されているものとする。この場合において、図3で説明したように、D-FF13~1312の出力ノードD1~D12におけるデータとして、「H、H、H、H、H、H、H、H、H、H、L、L」が得られるように、図4のような計測信号および計測クロックが入力されるものとする。
【0041】
図4は、TDC回路1に入力される計測信号および計測クロックの波形を示す図である。エッジ検出部2は、信号のHと、Lとの変化により、計測信号の立ち上がりを検出する。エッジ検出部2がこの立ち上がりを検出することで、TDC装置101では、計測信号が立ち上がってから計測クロックAが立ち上がるまでに、Hを検出した遅延素子の段数が分かる。つまり、計測信号が立ち上がってから、計測クロックAが立ち上がるまでの時間間隔が分かる。時間間隔は、各遅延素子の遅延量(τ-τ)(時間分解能ともいう)と、遅延素子の段数との積で求められる。これにより、TDC装置101では、計測クロックAより一つ前の計測クロックBの立ち上がり(または立ち下がり)から、計測信号の立ち上がり(または立ち下がり)までの時間間隔が分かる。
【0042】
遅延変換テーブル生成部3は、遅延変換テーブルを生成する。各遅延素子が持つ遅延量(τ-τ)は、製造工程のバラつきの影響を受けて変動する。遅延変換テーブルは、変動する(τ-τ)に基づく遅延量をキャリブレーションするためのテーブルである。より詳しくは、遅延変換テーブルは、後述するキャリブレーション信号をTDC回路1へ入力した際、そのキャリブレーション信号の立ち上がり(または立ち下がり)エッジを検出した遅延素子の各検出段と、その検出段までの遅延素子の累積遅延量との関係を示すテーブルである。以下では、遅延変換テーブルを生成する動作を、キャリブレーション動作と言う。遅延変換テーブル生成部3は、測距装置100が距離測定動作を行っていないタイミング、つまり、計測信号がTDC回路1に入力されないタイミングで、キャリブレーション動作を行う。
【0043】
図5は、キャリブレーション信号と、計測クロックとの波形を示す図である。キャリブレーション動作では、遅延変換テーブル生成部3は、不図示のクロック発生回路からキャリブレーション信号を入力端子Vref(図2参照)に入力する。入力端子Vckには計測クロックが入力される。キャリブレーション信号は、その周期が、計測クロックの周期と僅差であって、計測クロックとは同期しない信号である。そして、キャリブレーション信号の周期は可変となっていて、キャリブレーション信号の周期と計測クロックの周期との差は、TDC回路1の時間分解能である(τ-τ)とずれが生じることが好ましい。例えば、TDC回路1の時間分解能が10[ps]である場合において、計測クロックの周期を4[ns]としたときのキャリブレーション信号の周期は、4より大きく4.016[ns]より小さい範囲で設定することが好ましい。
【0044】
遅延変換テーブル生成部3は、キャリブレーション信号を入力すると、図5で示すように、TDC回路1における遅延素子の段数(図5では12段)毎に、検出されたキャリブレーション信号の立ち上がり数、および、立ち下がり数を測定する。
【0045】
図6は、キャリブレーション信号の立ち上がりを検出した結果を示すヒストグラムである。遅延変換テーブル生成部3は、キャリブレーション信号の立ち上がりを検出した結果を示すヒストグラムを生成する。図6では、各段の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出される総数(以下、検出総数と言う)が「36」となるように、キャリブレーション信号を入力した結果を示す図である。この図では、1段目の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がりが検出された数(以下、検出数と言う)は「7」である。8段目の検出数は「0」である。これは、各段の遅延素子が持つ遅延量を表している。例えば計測クロックの周期を4[ns]とすると、検出総数「36」が、その計測クロックの周期4[ns]に相当する。このため、1段目の遅延素子が持つ遅延量は、7/36×4[ns]となる。
【0046】
次に、遅延変換テーブル生成部3は、各段までの遅延素子の累積遅延量を推定するために、図6に示すヒストグラムから累積ヒストグラムを生成する。図7は、累積ヒストグラムを示す図である。この図7の累積ヒストグラムは、図6のヒストグラムにおいて、最後段の8段目の検出数を7段目の検出数に加算し、加算された7段目の検出数を6段目の検出数に加算し、という演算を、最後段の遅延素子から順に1段目の遅延素子まで行うことで、生成される。なお、前記演算により得られる結果を累積検出数(図7の縦軸)と言う。
【0047】
最後段の遅延素子から順に1段目の遅延素子まで累積処理を行う理由としては、以下の通りである。図6で表される1段目の遅延素子が持つ遅延量、7/36×4[ns]は、図4において、1段目の遅延素子で計測信号が立ち上がってから、計測クロックAが立ち上がるまでの遅延量である。距離測定演算において必要となるのは、図4における計測クロックAの一つ前の計測クロックBから1段目の遅延素子で計測信号が立ち上がるまでの遅延量である。計測クロックBからの遅延量は、計測信号の立ち上がりを検出した遅延素子から最後段までの遅延素子の累積遅延量である。
【0048】
そこで、最後段の遅延素子から順に1段目の遅延素子まで、遅延量を累積する累積処理を行う。これにより、計測クロックBから、計測信号の立ち上がりまでの時間間隔を算出できる。この時間間隔は、計測信号の立ち上がりを検出した遅延素子の段までの累積遅延量で算出でき、(累積検出数)/(検出総数)×(計測クロックの周期)で算出できる。例えば計測クロックの周期を4[ns]とし、1段目の遅延素子で計測信号の立ち上がりを検出した場合、図4における計測クロックAの一つ前の計測クロックBから1段目までの遅延素子の累積遅延量は、36/36×4[ns]=4[ns]となる。
【0049】
図8は、遅延変換テーブルを示す図である。遅延変換テーブル生成部3は、図7に示す累積ヒストグラムの縦軸の累積検出数を、遅延量に変換したテーブルを生成する。このテーブルを、遅延変換テーブルという。図8では、計測クロックの周期を4[ns]とした場合の遅延変換テーブルを示す。測距装置100が距離測定動作を行う際、この遅延変換テーブルから得られる遅延素子の段に対応する遅延量を、遅延量(τ-τ)×検出段数に代えて用いることで、図4で説明した、計測信号と、計測クロックBとの時間間隔を求めることができる。
【0050】
遅延変換テーブル生成部3は、図8に示す遅延変換テーブルを、キャリブレーション信号の立ち上がり、および、立ち下がりそれぞれについて生成する。
【0051】
遅延量補正部4は、遅延変換テーブル生成部3が生成した遅延変換テーブルを補正する。上記した通り、キャリブレーション動作時におけるTDC回路1の電源電圧の電圧降下は、測定動作時のときよりも大きい。電圧降下が大きいと、各段の遅延素子が持つ遅延量は所定の電源電圧時よりも大きくなり、計測クロックの周期長に相当する段数位置、すなわち、遅延変換テーブルが持つ最大段数は小さくなる。最大段数とは、キャリブレーション信号を検出することができた遅延素子の最後段の段数である。そこで、遅延量補正部4は、遅延変換テーブルが持つ最大段数を大きくする補正を行う。
【0052】
図9は、補正前後の遅延量を示す図である。具体的には、遅延量補正部4は、図9に示すように、キャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルにおける最大段数Xmaxに、予め決められた補正段数Xを加算して、補正する遅延量を決定する。Xは、例えば、予め実際に計測動作を実施し、物体の反射光からエッジが検出された最大段数から決定する。この場合の計測動作では、検出段数が順々に変化するように、測定光を反射させる物体の位置を操作する。遅延量補正部4は、最大段数Xmaxに補正段数Xを加算した遅延量を生成するために、i段の遅延素子に対応する累積遅延量tに、補正遅延量tciを加算する。補正遅延量tciは以下の式で導出される。
【0053】
【数1】
【0054】
ここで、hは、i段目の遅延素子でキャリブレーション信号の立ち上がり(または立ち下がり)が検出された検出数(図6のヒストグラム値)、Xmaxは、補正前の遅延変換テーブルにおける最大段数、Xは、予め決められた補正段数である。また、Nは、キャリブレーション信号の検出総数であり、TDC回路1に入力するキャリブレーション信号に応じて適宜変更される。
【0055】
遅延量補正部4は、遅延変換テーブルの遅延量の補正を、遅延変換テーブルを生成する都度行ってもよいし、所定の条件下で行ってもよい。例えば、遅延量補正部4は、最初のキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルにおける最大段数を保持する。遅延量補正部4は、2回目に行ったキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルにおける最大段数と、保持した最大段数とを比較する。比較した2つの最大段数の差が所定値を超えている場合、遅延量補正部4は、2回目に行ったキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルを補正する。遅延量補正部4は、補正後の遅延変換テーブルにおける最大段数を保持し、次に行うキャリブレーション動作で生成する遅延変換テーブルにおける最大段数と比較する。比較した2つの最大段数の差が所定値を超えている場合、遅延量補正部4は、3回目に行ったキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルを補正する。一方、2回目に行ったキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルを補正しない場合は、遅延量補正部4は、最初に行ったキャリブレーションで生成した遅延変換テーブルにおける最大段数と、3回目に行ったキャリブレーション動作で生成した遅延変換テーブルにおける最大段数と比較する。以下、この動作を繰り返す。
【0056】
TDC装置101は、いわば補正後の遅延変換テーブルを用いて、測定光と反射光との時間差を測定する。例えば、計測信号の立ち上がりを検出した段数が、「4」である場合には、図8のテーブルから、TDC装置101は、段数「4」に対応する累積遅延量を取得し、計測クロックB(図4参照)からの時間間隔を取得する。そして、TDC装置101は、測定光を照射してから、計測クロックBまでの計測クロックのクロック数と、取得した時間間隔とから、測定光と反射光との時間差を算出する。そして、距離演算部102は、TDC装置101が測定した時間差と、光速とに基づいて、物体までの距離を求める演算を行う。
【0057】
このように、キャリブレーション動作時の電源電圧の電圧降下が原因で、最大段数が小さくなった遅延変換テーブルが生成された場合であっても、その遅延変換テーブルにおける最大段数を補正することで、電圧降下による影響を回避することができる。そして、補正後の遅延変換テーブルを用いることで、距離測定動作時における測定精度を向上させることができる。
【0058】
図10は、TDC装置101の動作の効果を示す特性図である。横軸に受光信号遅延時間をとり、受光信号を5psecずつ遅らせた場合の測定距離の誤差を図示したものである。破線が補正前の場合であり、遅延素子の検出段が大きくなる2000psecの前後に距離誤差が大きく変動していることがわかる。一方で、本実施形態の補正が在る場合には実線となり、距離誤差の変動が軽減されたことがわかる。
【0059】
なお、遅延量補正部4は、遅延素子の検出段に対応する遅延量の補正を、検出段までの遅延素子の累積遅延量ではなく、それぞれの検出段で特定される遅延量の誤差に基づいて補正するようにしてもよい。また、検出段に対応する遅延量に補正遅延量を加算する場合だけでなく、補正遅延量を減算することで遅延量の補正をしてもよい。条件によっては、測定動作時におけるTDC回路1の電源電圧の電圧降下が、キャリブレーション動作時のときよりも大きい場合があり得るからである。
【0060】
なお、TDC装置101と、距離演算部102との間に、検出エコー管理部が設けられてもよい。検出される計測信号(エコー)の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとは、エコーの幅(パルス長)により異なるタイミングで検出される。次の処理を円滑に行うために、検出エコー管理部で両エッジのタイミングを調整し、揃って距離演算部102に渡す。また、必ずエッジは立ち上がり・立ち下がりの順になる。このため、この検出エコー管理部では立ち下がりエッジが検出されるまで、立ち上がりエッジのカウントを保持し、両エッジが揃ったタイミングでそれぞれのカウントを後段の距離演算部102に渡す。エッジの順が逆転している場合は、検出エラーとして、エコーを除去する。
【0061】
次に、TDC装置101の動作について説明する。図11は、TDC装置101の動作を示すフロー図である。なお、本実施形態では、TDC装置101を動作させることによって、補正方法が実施される。よって、本実施形態における補正方法の説明は、以下のTDC装置101の動作説明に代える。
【0062】
TDC装置101は、測距装置100が距離測定動作を行っていないタイミングで、キャリブレーション動作を行う。まず、TDC装置101は、キャリブレーション信号をTDC回路1の入力端子Vrefに入力する(S1)。次に、遅延変換テーブル生成部3は、図6のヒストグラムを生成し(S2)、そのヒストグラムから、図7に示す累積ヒストグラムを生成する(S3)。その後、遅延変換テーブル生成部3は、図8に示す遅延変換テーブルを生成する(S4)。
【0063】
そして、遅延量補正部4は、遅延変換テーブルにおける遅延素子の最大段数に予め決められた段数を加算することで、遅延量を補正する(S5)。具体的な補正方法は、図9で説明した通りである。
【符号の説明】
【0064】
1 TDC回路
2 エッジ検出部
3 遅延変換テーブル生成部
4 遅延量補正部
11 第1の遅延回路
12 第2の遅延回路
13 フリップフロップ列
14 同期化回路
36 検出総数
100 測距装置
101 TDC装置
102 距離演算部
103 投光部
104 受光部
105 光偏向部
106 光走査部
107 電源部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11