(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176790
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20221122BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H03H9/25 D
H03H9/25 C
H03H9/145 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083393
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中里 寿春
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA14
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD09
5J097EE05
5J097EE08
5J097FF05
5J097GG03
5J097GG04
5J097JJ09
5J097KK09
5J097KK10
(57)【要約】
【課題】スプリアスを抑制する弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、支持基板10と、支持基板10上に設けられる圧電層14と、圧電層14上に設けられ、複数の電極指18を備える少なくとも一対の櫛型電極20と、支持基板10と圧電層14との間に設けられ、圧電層14より厚い絶縁層15と、支持基板10と絶縁層15との間に設けられ、複数の電極指18の配列方向からみて一対の櫛型電極20の一方の電極指18と一対の櫛型電極20の他方の電極指18とが重なる交差領域25と平面視において70%以上重なる空隙層30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い絶縁層と、
前記支持基板と前記絶縁層との間に設けられ、前記複数の電極指の配列方向からみて前記一対の櫛型電極の一方の電極指と前記一対の櫛型電極の他方の電極指とが重なる交差領域と平面視において70%以上重なる空隙層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転Yカットニオブ酸リチウム基板である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記空隙層上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とし、伝搬するバルク波の音速が前記第1絶縁層を伝搬するバルク波の音速より遅い第2絶縁層と、を備える請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1絶縁層の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記交差領域において、前記空隙層の前記複数の電極指の配列方向における幅は前記複数の電極指の平均ピッチの10倍以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記空隙層は平面視において前記交差領域と90%以上重なる請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
平面視において、前記空隙層に囲まれ前記交差領域に重なり、前記支持基板と前記絶縁層とを接続する支持層を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記絶縁層内に設けられ、平面視において前記交差領域に70%以上重なる別の空隙層を備える請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い絶縁層と、
前記支持基板と前記絶縁層との間に設けられ、前記支持基板の平面形状に相似であり前記支持基板の平面形状の中心と中心が一致し前記支持基板の平面面積の64%を有する領域と平面視において70%以上重なる空隙層と、
を備えるウエハ。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば一対の櫛型電極を有する弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている。圧電層の厚さを弾性表面波の波長以下とすることが知られている。圧電層と支持基板との間に圧電層より音速の遅い低音速膜を設け、低音速膜と支持基板との間に圧電層より音速の速い高音速膜を設けることが知られている(例えば特許文献1)。高音速層と支持基板との間に第2の低音速層を設けることが知られている(例えば特許文献2)。圧電層と支持基板との間に多孔質層または空洞を有する減衰層を設けることが知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-115870号公報
【特許文献2】国際公開第2013/066554号
【特許文献3】特表2020-510354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電層と支持基板との間に高音速膜および低音速膜を設けることにより、スプリアスを抑制できる。また、圧電層と支持基板との間に減衰層を設けることでスプリアスを抑制することができる。しかしながら、よりスプリアスを抑制することが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い絶縁層と、前記支持基板と前記絶縁層との間に設けられ、前記複数の電極指の配列方向からみて前記一対の櫛型電極の一方の電極指と前記一対の櫛型電極の他方の電極指とが重なる交差領域と平面視において70%以上重なる空隙層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転Yカットニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記絶縁層は、前記空隙層上に設けられた第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とし、伝搬するバルク波の音速が前記第1絶縁層を伝搬するバルク波の音速より遅い第2絶縁層と、を備える構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1絶縁層の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記交差領域において、前記空隙層の前記複数の電極指の配列方向における幅は前記複数の電極指の平均ピッチの10倍以上である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記空隙層は平面視において前記交差領域と90%以上重なる構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、平面視において、前記空隙層に囲まれ前記交差領域に重なり、前記支持基板と前記絶縁層とを接続する支持層を備える構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記絶縁層内に設けられ、平面視において前記交差領域に70%以上重なる別の空隙層を備える構成とすることができる。
【0014】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い絶縁層と、前記支持基板と前記絶縁層との間に設けられ、前記支持基板の平面形状に相似であり前記支持基板の平面形状の中心と中心が一致し前記支持基板の平面面積の64%を有する領域と平面視において70%以上重なる空隙層と、を備えるウエハである。
【0015】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(e)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、シミュレーションにおける共振器A~Cの断面図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(d)は、シミュレーションにおける共振器A~Cの周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
【
図6】
図6(a)は比較例1の弾性波共振器の断面図、
図6(b)は、支持基板と境界層の拡大図である。
【
図7】
図7(a)は実施例1の弾性波共振器の断面図、
図7(b)は、支持基板と境界層の拡大図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施例1の変形例4に係る弾性波共振器の平面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1の変形例4に係る弾性波共振器の断面図、
図10(b)および
図10(c)は、実施例1の変形例5に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図15】
図15は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0021】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に絶縁層15が設けられている。絶縁層15は、支持基板10と圧電層14の間に設けられた温度補償膜13と、温度補償膜13と支持基板10との間に設けられた境界層12と、を備える。絶縁層15と支持基板10との間に空隙層30が設けられている。空隙層30は空気等の気体からなる層であり、支持基板10の上面に設けられた窪み31により形成される。
【0022】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0023】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。X方向からみて一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0024】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。
【0025】
支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、シリコン基板、スピネル基板、水晶基板、石英基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、アルミナ基板は多結晶または非晶質Al2O3基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピルネ基板は多結晶または非晶質MgAl2O4基板であり、水晶基板は単結晶SiO2基板であり、石英基板は多結晶または非晶質SiO2基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速より速い。なお、支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速より遅くてもよい。
【0026】
温度補償膜13は、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、温度補償膜13の弾性定数の温度係数は正である。温度補償膜13は、酸化シリコン(SiO2)を主成分とする絶縁膜であり、例えば無添加または弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO2)膜であり、例えば多結晶または非晶質である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。温度補償膜13が酸化シリコン膜の場合、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルクの音速より遅くなる。
【0027】
温度補償膜13が温度補償の機能を有するためにはメイン応答の弾性波のエネルギーが温度補償膜13内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが集中する範囲は弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には弾性表面波のエネルギーは圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)の範囲に集中し、特に圧電層14の上面からλの範囲に集中する。そこで、温度補償膜1の下面から圧電層14の上面までの距離は、好ましくは2λ以下であり、より好ましくは1λ以下であり、さらに好ましくは0.6λ以下である。
【0028】
境界層12を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および温度補償膜13内にメイン応答の弾性波のエネルギーが閉じ込められる。さらに、境界層12を伝搬するバルク波の音速は、支持基板10を伝搬するバルク波の音速より遅い。境界層12は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜またシリコン膜である。境界層12は異なる材料からなる複数の層が積層されていてもよい。
【0029】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0030】
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、支持基板10の上面に窪み31を形成する。窪み31の形成は、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。
図2(b)に示すように、支持基板10上に窪み31内に埋め込まれるように犠牲層38を形成する。犠牲層38は支持基板10および境界層12とエッチングの選択性のある材料が好ましく、例えば酸化マグネシウムである。
【0031】
図2(c)に示すように、犠牲層38の上面を研磨する。犠牲層38の研磨には例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いる。これにより、窪み31以外の領域における支持基板10上の犠牲層38が除去され、窪み31内に犠牲層38が充填される。犠牲層38の上面と窪み31以外の領域における支持基板10の上面とは略平坦となる。
図2(d)に示すように、支持基板10および犠牲層38上に絶縁層12aを形成する。絶縁層12aの形成には、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い絶縁層12aに貫通孔32を形成する。
図2(e)に示すように、貫通孔32からエッチング液を導入することで、窪み31内の犠牲層38を除去する。これにより、窪み31内に空隙層30が形成される。
【0032】
図3(a)に示すように、絶縁層12a上に絶縁層12bを形成する。絶縁層12b上に温度補償膜13を形成する。絶縁層12bおよび温度補償膜13の形成には、例えばCVD法、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いる。絶縁層12aおよび12bにより境界層12が形成され、境界層12と温度補償膜13により絶縁層15が形成される。絶縁層12aと12bとは同じ材料を主成分とする絶縁層でもよいし、主成分が異なる絶縁層でもよい。
図3(b)に示すように、温度補償膜13上に圧電層14を接合する。圧電層14の接合には例えば表面活性化法を用いる。
図3(c)に示すように、圧電層14の上面を研磨し、圧電層14を薄膜化する。圧電層14の研磨には例えばCMP法を用いる。これにより、ウエハ48が完成する。その後、圧電層14上に弾性波共振器26を形成する。これにより、弾性波デバイスが製造される。
【0033】
[シミュレーション]
共振器A~Cについて、アドミッタンス特性を2次元シミュレーションした。
図4(a)から
図4(c)は、シミュレーションにおける共振器A~Cの断面図である。
図4(a)から
図4(c)では、1λ分を図示している。
図4(a)に示すように、共振器Aでは、支持基板10と境界層12との間に中間層11が設けられている。中間層11、境界層12、温度補償膜13および圧電層14の厚さはそれぞれT1、T2、T3およびT4である。その他の構成は
図1(b)の層構成と同じである。
【0034】
図4(b)に示すように、共振器Bでは、中間層11内に空洞33が設けられている。空洞33は円形であり電極指18のX方向の中心を通りZ方向に延伸する直線の中心線33aに2つの空洞33の中心が位置する。中間層11の上面と上側の空洞33の中心との距離をD1、空洞33の中心間の距離をD2、中間層11の下面と下側の空洞33の中心との距離をD3とする。その他の構成は共振器Aと同じである。
【0035】
図4(c)に示すように、共振器Cでは、中間層11と支持基板10との間に空隙層30が設けられている。空隙層30の厚さはT30である。その他の構成は共振器Cと同じである。
【0036】
シミュレーション条件は以下である。
弾性波の波長λ:2μm
圧電層14:厚さT4が0.6μm(0.3λ)の42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板
温度補償膜13:厚さT3が0.4μm(0.2λ)の酸化シリコン(SiO2)膜
境界層12:厚さT2が5μm(2.5λ)の酸化アルミニウム(Al2O3)膜
中間層11:厚さT1が2μm(1λ)の酸化シリコン膜
空隙層30:厚さT30が0.25μm(0.125λ)の空気層
空洞33:半径D4が0.25μm(0.125λ)の空気層
空洞の位置:D1=D3=0.5μm、D2=1.0μm
支持基板10:サファイア基板
シミュレーションは100対の共振器について行った。
シミュレーションに用いる各材料のバルク波の音速を以下とした。
支持基板10 :7068.2m/s
中間層11 :3683.5m/s
境界層12 :4581.8m/s
温度補償膜13:3683.5m/s
圧電層14 :3750.8m/s
【0037】
共振器Aは、境界層12と支持基板10との間に境界層12よりバルク波の音速が遅い中間層11を設けることに対応する。共振器Bは中間層として多孔質層を設けることに対応する。共振器Cは空隙層30を有する実施例に対応する。
【0038】
図5(a)から
図5(d)は、シミュレーションにおける共振器A~Cの周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図5(a)から
図5(c)は、それぞれ共振器A~Cのアドミッタンスであり、
図5(d)は、
図5(a)~
図5(c)のスプリアス応答付近の拡大図である。
【0039】
図5(a)から
図5(c)に示すように、1900MHz付近にメイン応答58が観察される。メイン応答58の高周波側の2300MHz~3300MHzにスプリアス応答59が観察される。共振器A~Cにおけるメイン応答58における共振周波数における|Y|と反共振周波数における|Y|の差はメイン応答の大きさメインΔYである。共振器A~CのメインΔYはいずれも88.18dBであり差がない。2300MHz~3300MHzのうち2700MHz~2900MHzにおけるスプリアス応答59が大きい。
【0040】
図5(d)に示すように、スプリアス応答59のうち最も大きいスプリアス応答の大きさがスプリアスΔYである。共振器A~CのスプリアスΔYは以下である。
共振器A:23.76dB
共振器B:23.33dB
共振器C:19.51dB
以上のシミュレーションのように、空隙層30を設けてもメインΔYはほとんど変わらない。中間層11を多孔質層とする共振器Bは共振器AよりスプリアスΔYが小さくなる。空隙層30を設けた共振器Cは共振器BよりさらにスプリアスΔYが小さくなる。このように、空隙層30を設けるとスプリアスを抑制できる。
【0041】
空隙層30を設けることでスプリアスを抑制できる理由を説明する。
図6(a)は比較例1の弾性波共振器の断面図、
図6(b)は、支持基板10と境界層12の拡大図である。
図6(a)に示すように、比較例1では、空隙層30が設けられていない。その他の構成は実施例1の
図1(b)と同じである。境界層12のバルク波の音速は温度補償膜13および圧電層14のバルク波の音速より速い。このため、主モードである弾性波を含む遅い弾性波50は温度補償膜13と境界層12との界面35において反射する。これにより、メインΔYを大きくできる。
【0042】
弾性波50より速いバルク波を含む弾性波52は、界面35を通過する。支持基板10のバルク波の音速は境界層12のバルク波の音速より速い。このため、弾性波50より速いバルク波を含む弾性波52は、境界層12と支持基板10との界面36において反射し、IDT22に戻る。これにより、高周波のスプリアスΔYが大きくなる。境界層12を厚くすることで、境界層12を通過することで弾性波52は減衰する。しかし、弾性波52の減衰は十分ではない。
【0043】
図6(b)では、弾性波52の変位を模式的に示している。中間層11が変位したとき、中間層11の下に硬い(すなわちバルク波の音速が速い)支持基板10が設けられていると、変位が強く反射する。これにより、界面36における弾性波52の反射が大きくなる。よって、スプリアスが大きくなる。
【0044】
図7(a)は実施例1の弾性波共振器の断面図、
図7(b)は、支持基板10と境界層12の拡大図である。
図7(a)に示すように、実施例1では、弾性波52は境界層12と空隙層30との界面37において反射する。このとき、界面37における弾性波52の反射は
図6(a)の比較例1より小さい。
【0045】
図7(b)に示すように、実施例1では、弾性波52により中間層11が変位したとき、中間層11の下が空隙層30のため、変位の反射は小さい。これにより、界面36における弾性波52の反射が小さくなる。よって、弾性波52に起因するスプリアスを小さくできる。
【0046】
実施例1、2およびその変形例によれば、支持基板10と圧電層14との間に絶縁層15が設けられている。支持基板10と絶縁層15との間に空隙層30が設けられている。これにより、スプリアスが抑制できる。
【0047】
空隙層30が特許文献3における減衰層と異なる点について説明する。特許文献3では減衰層として多孔質を用いている。これは、共振器Bに対応する。しかし、共振器Bではスプリアスの抑制は不十分である。
【0048】
一方、実施例1では、IDT22内の交差領域25の全てが空隙層30と重なる。これにより、空隙層30と境界層12との界面37における弾性波52の反射を抑制できる。よって、スプリアスを抑制できる。空隙層30は交差領域25と平面視において100%重ならなくてもよい。空隙層30は交差領域25と平面視において70%以上重なることが好ましく、80%以上重なることがより好ましく、90%以上重なることがさらに好ましい。また、交差領域25において、空隙層30のX方向における幅は複数の電極指の平均ピッチDの10倍(5λ)以上が好ましく、20倍(10λ)以上がより好ましい。空隙層30が厚いと製造工数が増加する。この観点から空隙層30の厚さT30は10λ以下が好ましく、2λ以下がより好ましく、1λ以下がさらに好ましい。空隙層30が薄いと支持基板10と絶縁層15が接触する可能性がある。この観点から空隙層30の厚さT30は0.01λ以上が好ましく、0.1λ以上がより好ましい。
【0049】
圧電層14と支持基板10との間に空隙層を設ける弾性波デバイスとLamb波と異なる点を説明する。Lamb波デバイスでは圧電層14の下面において反射する弾性波が主モードである。このため、圧電層14の下面には絶縁層を設けない。絶縁層を設けるとしても圧電層14より薄い。また、圧電層14の厚さは0.1λ~0.2λである。さらに、Lamb波では回転Zカットニオブ酸リチウム基板を用いる。タンタル酸リチウム基板ではLamb波以外の弾性波(例えばSH(Shear Horizontal)波)が優勢なため、タンタル酸リチウム基板はLamb波デバイスに用いられない。
【0050】
一方、実施例1では、絶縁層15は圧電層14より厚い。これは、絶縁層に温度補償膜の機能および/または弾性波を減衰させる機能等を有するためである。絶縁層15の厚さT2+T3は圧電層14の厚さT4の1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。圧電層14は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転Yカットニオブ酸リチウム基板である。これにより、IDT22は主に弾性表面波を励振する。一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波がSH波であるとき、不要波としてバルク波が励振しやすい。圧電層14が36°以上かつ48°以下回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。
【0051】
なお、絶縁層15として温度補償膜13および境界層12の2層の例を説明したが、絶縁層15は、例えば酸化シリコン層、酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層などの均一な材料の1層の絶縁層でもよい。実施例1では、境界層12(第1絶縁層)が空隙層30上に設けられ、温度補償膜13(第2絶縁層)が境界層12上に設けられている。温度補償膜13は酸化シリコンを主成分とする。これにより、温度補償膜13の弾性定数の温度係数の符号は圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対となり、周波数温度係数を小さくできる。温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速を、境界層12を伝搬するバルク波の音速より遅くする。これにより、圧電層14と温度補償膜13に弾性表面波が閉じ込められ、損失が抑制される。また、境界層12は不要なバルク波との弾性波を減衰させる。境界層12は例えば酸化アルミニウムを主成分とする。
【0052】
ここで、ある層がある成分を主成分とする、ある層はある成分以外に意図的または意図せず添加された不純物を含むことを許容し、ある層におけるある成分の原子濃度は例えば50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上である。例えば、温度補償膜13が酸化シリコンを主成分とするとは、温度補償膜13がフッ素等の不純物を含むことを許容し、温度補償膜13内の酸素濃度とシリコン濃度との合計は50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上であり、酸素濃度およびシリコン濃度は各々10原子%以上または20原子%以上である。また、境界層12が酸化アルミニウムを主成分とするとは、境界層12が不純物を含むことを許容し、境界層13内の酸素濃度とアルミニウム濃度との合計は50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上であり、酸素濃度およびアルミニウム濃度は各々10原子%以上または20原子%以上である。
【0053】
図6(a)および
図7(a)において、境界層12が薄くなると弾性波50が圧電層14および温度補償膜13に閉じ込められにくくなり、メイン応答が劣化する。この観点から、境界層12の厚さT2は電極指18の平均ピッチDの2.2倍(1.1λ)以上が好ましく、3.0倍(1.5λ)以上がより好ましい。境界層12を厚くすると、製造工程が増大および製造プロセスの難易度が上昇する。この観点から、境界層12の厚さT2は電極指18の平均ピッチDの10倍(5λ)以下が好ましく、8倍(4λ)以下がより好ましい。
【0054】
バルク波を含む弾性波52を境界層12に通過させる観点から、温度補償膜13の厚さT3は、電極指18の平均ピッチDの1.5倍(0.75λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。温度補償膜13の温度補償機能を発揮させる観点から、厚さT3は、電極指18の平均ピッチDの0.05倍(0.1λ)以上が好ましく、0.1倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0055】
メイン応答の弾性波のエネルギーを温度補償膜13内に存在させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの2倍(1λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。圧電層14を機能させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの0.05倍(0.1λ)以上が好ましく、0.1倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0056】
弾性表面波のエネルギーが圧電層14の表面から2λまでの範囲にほとんど存在する場合には、メイン応答の弾性波のエネルギーを圧電層14および温度補償膜13内に閉じ込め、かつスプリアス応答を抑制する観点から、温度補償膜13の支持基板10側の面と圧電層14の櫛型電極20側の面との距離(T3+T4)は複数の電極指18の平均ピッチDの4倍(2λ)以下が好ましく、3倍(1.5λ)以下がより好ましく、2倍(1λ)以下がより好ましい。
【0057】
温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速くてもよいが、弾性波が温度補償膜13内に存在しやすくなるため、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅いことが好ましい。これにより、温度補償膜13としてより機能することができる。温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.99倍以下が好ましい。温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速が遅すぎると、圧電層14内に弾性波が存在しにくくなる。よって、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.9倍以上が好ましい。
【0058】
境界層12を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。また、境界層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より大きいことが好ましい。境界層12を伝搬するバルク波の音速が速すぎると、バルク波を含む弾性波52が境界層12と温度補償膜13との界面35で反射されてしまう。この観点から境界層12を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。
【0059】
[実施例1の変形例1]
図8(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図8(a)に示すように、支持基板10の上面は粗面または凹凸面でもよい。弾性波は空隙層30をほとんど伝搬しないため、支持基板10の材料および支持基板10の上面の状態はあまりスプリアスに影響しない。しかし、IDT22に重なる領域に空隙層30が形成されない支持基板10の部分10aが設けられている場合、部分10aと境界層12との界面36が粗面または凹凸面となっていることが好ましい。これにより、界面36において弾性波が散乱されるため、スプリアスを抑制できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0060】
[実施例1の変形例2]
図8(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波共振器の断面図である。
図8(b)に示すように、温度補償膜13と境界層12との界面35は粗面または凹凸面でもよい。弾性波は界面35において散乱されるため、スプリアスを抑制できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0061】
[実施例1の変形例3]
図8(c)は、実施例1の変形例3に係る弾性波共振器の断面図である。
図8(c)に示すように、圧電層14と温度補償膜13との間の接合層21が設けられている。接合層21は、圧電層14と温度補償膜13とを接合する。圧電層14と温度補償膜13とを直接接合させることが難しい場合、接合層21を設けてもよい。接合層21は、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である。接合層21の厚さは、圧電層14および温度補償膜13の機能を損なわない観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。接合層21としての機能を損なわない観点から、接合層15の厚さは、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。メイン応答の弾性波を圧電層14に閉じ込める観点から、接合層21を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速いことが好ましい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0062】
[実施例1の変形例4]
図9(a)および
図9(b)は、実施例1の変形例4に係る弾性波共振器の平面図である。
図10(a)は、実施例1の変形例4に係る弾性波共振器の断面図であり、
図9(a)および
図9(b)のA-A断面図である。
図9(a)から
図10(a)に示すように、交差領域25に重なる領域に空隙層30に重ならない支持層34が設けられていてもよい。
図9(a)のように、支持層34は平面視において空隙層30に囲まれるように島状に設けられていてもよい。
図9(b)に示すように、支持層34は、平面方向に配列された複数の空隙層30の間に設けられていてもよい。支持層34は、支持基板10の一部でもよいし、支持基板10とは異なる材料から形成されていてもよい。
【0063】
空隙層30の平面面積が大きいと、空隙層30上の積層膜の撓みまたは破損が生じる可能性がある。支持層34が境界層12と支持基板10を接続し、境界層12を支持基板10に支持することで、空隙層30上の積層膜の撓みまたは破損を抑制することができる。支持層34の平面面積が大きすぎると、弾性波が支持層34と境界層12との界面で反射する。このため、IDT22における交差領域25の平面面積において平面視においてIDT22における交差領域25に重なる空隙層30の面積は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。シミュレーションにおける共振器CのスプリアスΔYは共振器AおよびBのスプリアスΔYより4dB小さい。IDT22における交差領域25に空隙層30が重なる割合が91.6%のとき、スプリアスΔYnの改善は3.5dBとなり、十分許容できる。
【0064】
[実施例1の変形例5]
図10(b)および
図10(c)は、実施例1の変形例5に係る弾性波共振器の断面図である。
図10(b)および
図10(c)に示すように、絶縁層12a上に絶縁層12cが設けられ、絶縁層12aと12bとの間に空隙層30aが設けられていてもよい。絶縁層12aと12bとは、同じ材料を主成分としてもよいし、異なる材料を主成分としてもよい。空隙層30aには支持層34aが設けられていてもよい。支持層34aは、絶縁層12aの一部でもよいし、絶縁層12aとは異なる材料から形成されていてもよい。
図10(b)のように、支持層34と支持層34aとは平面視において重なっていてもよい。
図10(c)のように、支持層34と34aは平面視において重なっていなくてもよい。
【0065】
実施例1の変形例4では、弾性波が支持層34と境界層12との界面で反射するため実施例1よりスプリアスが大きくなる。実施例1の変形例5によれば、空隙層30a(別の空隙層)は、絶縁層15内に設けられ、平面視において交差領域25に70%以上重なる。空隙層30aを設けることで、弾性波は空隙層30および30aのいずれかにおいて減衰する。このため支持層34を設けてもスプリアスを抑制できる。交差領域25に70%以上重なる空隙層はZ方向に3層以上設けられていてもよい。
図10(b)のように、平面視において支持層34と34aが重なっている場合、支持層34aを通過した弾性波が絶縁層12aと支持層34との界面で反射し、支持層34aを通過してIDT22に至る可能性がある。
図10(c)では、平面視において支持層34と34aが重なっていないため、支持層34aを通過した弾性波が絶縁層12aと支持層34との界面で反射することを抑制し、スプリアスをより抑制できる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。