(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176799
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】弾性ローラ
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221122BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20221122BHJP
G03G 15/16 20060101ALI20221122BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 551
G03G15/16 103
F16C13/00 B
F16C13/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083417
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大庭 康嘉
(72)【発明者】
【氏名】白尾 俊二
(72)【発明者】
【氏名】赤根 政義
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽子
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
2H200
3J103
【Fターム(参考)】
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
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2H171FA24
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3J103HA37
3J103HA43
3J103HA47
3J103HA53
3J103HA54
(57)【要約】
【課題】画像形成装置の構成に依存せず、ローラ自体にカール抑制機能を有する弾性ローラを提供する。
【解決手段】弾性ローラを構成する基材としてその外周面に凹部を有したものを使用し、凹部に弾性層を構成する材料が充填することで、肉厚部と薄肉部とを有する弾性層を形成する。凹部は管状基材の周方向に沿って形成し、凹部が存在する領域の裏側に相当する管状基材の内周面に、凸部を形成しても良い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状基材と、該管状基材の外周面を被覆する弾性層とを有する弾性ローラであって、該管状基材は外周面に凹部を有するとともに、該弾性層は肉厚部と薄肉部とを有し、該肉厚部は該凹部に該弾性層を構成する材料が充填されることで形成されていることを特徴とする弾性ローラ。
【請求項2】
該凹部は、該管状基材の周方向に沿って形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の弾性ローラ。
【請求項3】
該凹部は、該管状基材に複数形成されているとともに、通紙領域の軸方向中央部における単位長さ当たりの凹部の数は、通紙領域の軸方向中央部以外の領域における単位長さ当たりの凹部の数より少ないことを特徴とする、請求項2に記載の弾性ローラ。
【請求項4】
通紙領域の軸方向中央に第1凹部が形成され、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に、該第1凹部と隣り合う第2凹部が形成され、該第1凹部と隣り合う第2凹部との間の距離は、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に形成された凹部間の距離の2倍以上であることを特徴とする、請求項3に記載の弾性ローラ。
【請求項5】
該肉厚部における、弾性層の厚さ方向における熱流束は、該薄肉部における、弾性層の厚さ方向における熱流束の30~70%の範囲にあることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項6】
該肉厚部における該弾性層の厚さは、該薄肉部における該弾性層の厚さの1.05倍以上~1.3倍の範囲にあることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項7】
該凹部が存在する領域の裏側に相当する該管状基材の内周面に、凸部が形成されていることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の弾性ローラ。
【請求項8】
該凸部は、該弾性ローラの軸方向断面において、該管状基材の内周面から略凹状の曲線を描いて立ち上がる立ち上がり部と、略凸状の曲線を描く先端部とを有することを特徴とする、請求項7に記載の弾性ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、ファクシミリ、あるいはプリンタ等の画像形成装置において、トナー像を定着させる定着装置に使用される弾性ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用紙等の記録媒体上にトナー像を定着する定着装置として、ヒータを内蔵した定着ローラ(加熱ローラ)と、定着ローラに圧接される加圧ローラとを備えたものが使用されている。
【0003】
定着動作の際、印刷用紙に加熱、加圧を行うことで、印刷用紙にカールが発生する現象が知られている。
【0004】
カールが発生する原因の1つとして、印刷用紙を加熱する際に印刷用紙に吸湿されていた水分が蒸発し、水分の蒸発に伴って印刷用紙を構成する繊維質が収縮する現象が挙げられる。
【0005】
印刷用紙のカールは画像形成装置における紙詰まり等の原因になるため、種々の対策が提案されている。
【0006】
特許文献1では、用紙のカール方向を検知し、カール方向と逆方向にカール補正を行う画像形成装置が開示されている。特許文献2ではカール方向と逆方向に変形するよう加熱、加圧を行うことで、カールを矯正する画像形成装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に開示された画像形成装置は、発生したカールを補正することを意図したものであり、カールの発生自体を抑制するものではない。
【0008】
カールの発生自体を抑制することを意図した画像形成装置としては特許文献3に開示されたものが挙げられる。特許文献3に開示された画像形成装置は、定着ローラと加圧ローラの回転速度を制御することで、カールの発生を予防している。
【0009】
しかしながら、特許文献3に開示された画像形成装置は、画像形成装置の制御によってカールを抑制するものであるため、画像形成装置の全体的な構成に依存するする部分が多く、画像形成装置を構成する定着ローラ、加圧ローラ自体にカールを抑制する機能はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010―1099号公報
【特許文献2】特開2005-250275号公報
【特許文献3】特開2003―316199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、画像形成装置の構成に依存せず、ローラ自体にカール抑制機能を有する弾性ローラを提供することにある。
【0012】
本発明者らは、弾性ローラの構造を鋭意検討した結果、弾性ローラを構成する基材としてその外周面に凹部を有したものを使用し、肉厚部と薄肉部を有する弾性層を形成することで、上記の問題を解決するに至った。
【0013】
本発明は管状基材と、管状基材の外周面を被覆する弾性層とを有する弾性ローラであって、管状基材は外周面に凹部を有するとともに、弾性層は肉厚部と薄肉部とを有し、肉厚部は凹部に弾性層を構成する材料が充填されることで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成を採る本発明によれば、以下のような作用・効果が奏される。
(a)弾性層の肉厚部において、印刷用紙に加えられる熱量が相対的に小さくなる。
(b)弾性層の肉厚部において、印刷用紙に加えられる圧力が相対的に大きくなる。
(c)上記の結果、印刷用紙に加えられる熱量、圧力に局所的な差が発生し、印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の弾性ローラを用いてニップを形成した際の模式図である。
【
図3】
図2に示したニップに印刷用紙を通紙した際に発生する変形の模式図である。
【
図5】管状基材の内周面に凸部を設けた本発明の弾性ローラである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の弾性ローラ1の一例を示し、弾性ローラ1は管状基材10、管状基材10の外周面に被覆された弾性層20で構成される。
【0017】
本発明の弾性ローラ1は画像形成装置内の定着装置における加圧ローラ、もしくは定着ローラ部材として使用されるローラを想定したものであるが、定着ローラとして使用した際に好ましい特徴を有するものである。以下の説明では弾性ローラ1を定着ローラとして使用することを想定して記載する。
【0018】
本発明で特徴的なことは、管状基材10の外周面に凹部11が存在し、凹部11に弾性層20を構成する材料が充填されることで、弾性層20に肉厚部21と薄肉部22が形成されていることである。すなわち、凹部11が存在する部分に設けられた弾性層20が肉厚部21、凹部11が存在しない部分に設けられた弾性層20が薄肉部22となる。
【0019】
また、本発明の弾性ローラ1における弾性層20の外周面は一定の外径、もしくは後述するクラウン形状、逆クラウン形状のように外径が連続的に変化するように形成される。
【0020】
弾性ローラ1を定着ローラとして使用する場合、弾性ローラ1の内部にハロゲンランプヒータなどの熱源を設けて弾性ローラ1を加熱するが、この際に弾性ローラ1の径方向(管状基材10の内周面から弾性層20の外周面に向かう方向)に熱伝導が発生する。
【0021】
この時、肉厚部21が存在する領域と薄肉部22が存在する領域との間で径方向の熱伝導に差が発生する。
【0022】
通常、画像形成装置に使用される弾性ローラ1の管状基材10は熱伝導性に優れた金属材料、弾性層20は金属材料と比較して相対的に熱伝導性が小さいシリコーンゴムなどの弾性材料で形成される。
【0023】
弾性層20の径方向の寸法が大きくなる肉厚部21は、薄肉部22と比較して伝熱距離が長く、弾性層20は相対的に熱伝導性が小さい材料で形成されていることも相まって、薄肉部22と比較して熱源からの熱がその表面まで相対的に伝わりにくい状態となっている。
【0024】
このため、弾性層20の表面において、肉厚部21と薄肉部22の分布に起因した熱量の供給状態の差が発生し、肉厚部21の表面への熱量の供給は、薄肉部22と比較して相対的に少ない状況となる。
【0025】
このような状況にある弾性ローラ1を使用して印刷用紙に定着を行う際、印刷用紙のうち、肉厚部21に接触する領域に加えられる熱量は、薄肉部22に加えられる熱量に対して相対的に小さくなる。
【0026】
これにより、肉厚部21に接触した印刷用紙の領域は、薄肉部22に接触した印刷用紙の領域と比較して、印刷用紙を構成する繊維質の収縮が抑制され、印刷用紙全体で見た場合にも繊維質の収縮が抑制された状態となり、結果として印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【0027】
以上の通り、弾性層20に肉厚部21と薄肉部22が存在することで、弾性層20の表面に対する熱量の供給状態に変化が生まれ、この変化が印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【0028】
また、弾性層20に肉厚部21と薄肉部22が存在する本発明の弾性ローラ1は、熱量供給以外の観点においても、印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【0029】
弾性ローラ1を画像形成装置で使用する際は
図2に示したように、別のローラ100を所定の圧力で当接させ、ニップNを形成した状態で使用される。
【0030】
弾性層20の表面を所定の圧力で押圧した際、圧力によって弾性層20が収縮変形するが、肉厚部21における収縮量(変形量)は、薄肉部22と比較して大きくなる。
【0031】
このため、本発明の弾性ローラ1を使用してニップNを形成した際、
図2に示したように肉厚部21が存在する領域においてニップNが波打った状態に形成される。
【0032】
このようなニップNに印刷用紙を通紙した際、
図3に示したように、肉厚部21に当接する印刷用紙Pの領域P1は、薄肉部22に当接する領域P2と比較して大きく変形することになる。
【0033】
肉厚部21に当接することによって発生する印刷用紙の変形が、カールによる印刷用紙の変形を相殺することで、印刷用紙全体としては変形が抑制され、印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【0034】
以上述べた肉厚部21と薄肉部22の収縮量の差によるカール抑制効果は、弾性ローラ1が加熱される、定着ローラとして使用される場面はもちろんのこと、加圧ローラ、搬送ローラなど、弾性ローラ1が加熱されずに使用される場面においても得ることができる。
【0035】
凹部11の設け方は特に限定されず、管状基材10の表面に規則的に設ける、ランダムに設ける、全体的に設ける、部分的に設けるなど、任意の設け方を選択できるが、弾性ローラ1が画像形成装置に使用されることを考慮すると、凹部11は管状基材10の周方向に沿って形成するのが好ましい。
【0036】
凹部11を管状基材10の周方向に沿って形成する場合は、その長さを4分の1周分、半周分、1周分などから選択できるが、特に好ましい長さは1周分である。
【0037】
凹部11が管状基材10の周方向に沿って形成されることで、肉厚部21も弾性層20の周方向に形成され、肉厚部21への当接によって印刷用紙が変形する方向が、印刷用紙の通紙方向に対して略直交することになる。
【0038】
通常、カールが発生する方向は印刷用紙の通紙方向に沿うが、印刷用紙の通紙方向に略直交する方向への変形を促すことで、印刷用紙の変形を促す力の方向性の偏りが緩和され、印刷用紙全体として特定方向への変形が抑制された状態となる。この結果、印刷用紙のカール抑制に寄与する。
【0039】
また、凹部11が管状基材10の周方向に沿って1周分形成されている場合は、肉厚部21が常に印刷用紙に当接することになるため、肉厚部21による熱量の供給制御効果、変形効果が常に印刷用紙に対して作用するため、カール抑制効果が向上する。
【0040】
凹部11を管状基材10の周方向に沿って形成する場合、凹部11の数、位置は特に限定されず、
図1に示した状態の他、管状基材10の軸方向の中心部に1本のみ、端部に1本のみ、両端に各1本、中心部と両端部の計3本など、所望するカール抑制効果や弾性ローラ1が使用される画像形成装置の仕様などに応じて適宜選択することができる。
【0041】
カール抑制効果を考慮した場合、
図4に示すように、凹部11は管状基材10に複数形成し、管状基材10の通紙領域の軸方向中央部における単位長さ当たりの凹部11の数は、通紙領域の軸方向中央部以外の領域における単位長さ当たりの凹部11の数より少なくするのが好ましい。
【0042】
言い換えると、管状基材10の軸方向の中央付近よりも、端部の方に相対的に多く凹部11を形成するのが好ましい。
【0043】
凹部11を管状基材10の端部に相対的に多く形成することで、肉厚部21の当接による印刷用紙の変形が印刷用紙の端部に集中し、印刷用紙全体としては特定方向への変形が抑制された状態になり、カール抑制に寄与する。
【0044】
より具体的には、通紙領域の軸方向中央に第1凹部111を形成し、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に、第1凹部111と隣り合う第2凹部112を形成し、第1凹部111と隣り合う第2凹部112との間の距離は、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に形成された凹部間の距離の2倍以上とする。
図4において、第2凹部112、第3凹部113、第4凹部114が、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に形成された凹部にあたる。
【0045】
軸方向中央に形成された第1凹部111と、第1凹部111と隣り合う第2凹部112との間の距離が、他の領域に形成された凹部間の距離も十分に長いことで、肉厚部21の当接による印刷用紙の変形を印刷用紙の端部により集中させることができ、カール抑制に寄与する。
【0046】
また、印刷用紙に対する熱量の供給状態の制御によってカールを抑制する観点では、肉厚部21における弾性層20の厚さ方向における単位面積あたりの熱流束を、薄肉部22における弾性層20の厚さ方向における単位面積あたりの熱流束の30%以上~70%以下の範囲に設定するのが好ましい。
【0047】
肉厚部21における熱流束を薄肉部22の70%以下とすることで、肉厚部21と薄肉部22における弾性層20の表面に対する熱量の供給状態に明確な差が生じ、カール抑制に寄与する。
【0048】
肉厚部21における熱流束を薄肉部22の30%以上とすることで、肉厚部21において一定レベルの熱量供給が維持され、印刷品質の維持に寄与する。
【0049】
また、肉厚部21における弾性層20の厚さは、薄肉部22における弾性層20の厚さの1.05倍以上~1.3倍以下とするのが好ましい。
【0050】
弾性ローラ1を定着装置に使用する際、定着動作時に弾性ローラ1は定着温度(150~200℃程度)に加熱されるが、その際、加熱膨張によって弾性層20の厚さが増加する。
【0051】
この時、肉厚部21の厚さが薄肉部22の1.05倍以上あれば、弾性層20の材料や定着温度によって値は前後するが、肉厚部21の加熱膨張量は薄肉部22の加熱膨張量に対して5~10%程度高い値を示す。
【0052】
定着温度における肉厚部21と薄肉部22の加熱膨張量に一定以上の差が出るように厚さの差を設けることで、定着温度において弾性ローラ1にニップNを形成した際の肉厚部21と薄肉部22の収縮量の差を大きくすることができ、肉厚部21と薄肉部22の収縮量の差によるカール抑制効果の向上に寄与する。
【0053】
また、肉厚部21の厚さが薄肉部22の1.3倍以下とすることで、肉厚部21と薄肉部22が示す挙動の差が一定の範囲に留まり、印刷品質の維持に寄与する。
【0054】
さらに、管状基材10において、凹部11が存在する領域の裏側に相当する内周面には、
図5に示したように凸部12が形成されていることが好ましい。凹部11の裏側に凸部12が存在することで、凹部11を設けても管状基材10の肉厚が維持されるため、管状基材10の機械的強度の維持に寄与し、弾性ローラ1の機械的強度の維持に繋がる。
【0055】
凸部12の形状は
図6に示した(A)半円状、(B)矩形状、(C)三角形状、(D)三角形の頂点にRを設けたものなどを適宜選択できる。
【0056】
管状基材10の機械的強度を維持する観点では、凸部12は
図7に示すように、弾性ローラ1の軸方向断面において、管状基材10の内周面から略凹状の曲線を描いて立ち上がる立ち上がり部と、略凸状の曲線を描く先端部とを有するものが好ましく利用できる。
【0057】
図7に示した凸部12は、凸部12における管状基材10の断面積の変化が緩やかであるため、立ち上がり部分に応力の集中が発生しにくく、局所的な変形やクラックの抑制に寄与する形状である。
【0058】
凸部12を形成する際は、
図8に示すように、管状基材10となる素管10’をNC旋盤(図示せず)に固定し、素管10’を回転させながらその外周面に絞り工具Tを押接し、素管10’の外周面に凹部11を形成するのと同時に、素管10’の内周面に凸部12を形成する。
【0059】
本発明に使用する管状基材10の材料としては、アルミニウム、鉄など、本発明のような弾性ローラ1に広く使用されている金属材料を選択して使用すれば良く、必要に応じて内周面に熱伝導性を向上させるためのコーティングを施しても良い。
【0060】
本発明に使用する弾性層20の材料としては、本発明のような弾性ローラ1に広く使用されているシリコーンゴムを適宜選択して使用することができる。弾性層20に使用されるシリコーンゴムは固形状、液状ゴムのいずれでも良く、管状基材10への被覆方法も押出成型法、注型法など、各種の被覆方法が使用できるが、凹部11に弾性層20となる材料を充填させる観点から、液状ゴムを注型する方法が最も好ましく利用できる。
【0061】
また、本発明では弾性層20の硬度調整等を目的として、弾性層20を多孔質構造としても良い。弾性層20を多孔質構造とする場合は、ミラブル型シリコーンゴムに加熱発泡剤を混合し、ゴムを架橋させる段階で発泡剤を分解ガス化させ、気泡を発生させて多孔質化する方法、中空フィラーを使用する方法、水を含有する吸水性ポリマーを液状シリコーンゴムに混合し、水を蒸発させて空洞を形成する方法など、従来知られている多孔質化方法を適宜選択して使用すれば良い。
【0062】
本発明では必要に応じ、弾性層20の外周に離型層を設けても良い。離型層の材料としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂など、離型層の材料として知られているものを適宜選択して使用すれば良い。離型層の形成方法も、チューブ状に成形したものを弾性層20上に被覆する、あるいは液状にしたものを弾性層20上にコーティングするなど、離型層の形成方法として知られているものを適宜選択して使用すれば良い。
【0063】
本発明においては、管状基材10を含めた各層間の固定強度を上げるために、プライマー、RTVゴム接着剤等を適宜併用しても良い。
【0064】
本発明は、弾性層を有する各種の弾性ローラに適用できるものであり、ローラの軸方向中心部の外径を太くしたクラウン形状のローラや、逆に軸方向中心部の外径を細くした逆クラウン形状のローラなどにも好適に利用できる。
【実施例0065】
以下に、本発明を利用した弾性ローラ1の実施例について述べる。
【0066】
[実施例1]
長さ270mm、外径φ24mm、肉厚1.5mmのアルミニウム製パイプを準備し、外周面の所定の位置に凹部11を形成して管状基材10を得る。
【0067】
凹部11は、管状基材10の軸方向中央に第1凹部111を形成するとともに、軸方向中央に対して左右対称に複数の凹部を形成する。第1凹部111を起点として管状基材10の軸方向両端部に向かって順次形成される凹部11を第2凹部112、第3凹部113、第4凹部114、第5凹部115とする。
【0068】
第1凹部111と第2凹部112との間の距離は40mm、第2凹部112と第3凹部113との間の距離は20mmとし、以降、軸方向端部側における凹部11間の距離は20mmとした。
【0069】
すなわち、第1凹部111と隣り合う第2凹部112との間の距離は、通紙領域の軸方向中央部以外の領域に形成された凹部間の距離の2倍となっている。
【0070】
凹部11は、
図8に示すように、アルミニウム製の素管10’をNC旋盤(図示せず)に固定し、素管10’を回転させながらその外周面に絞り工具Tを押接することで形成した。この時、凹部11を形成するのと同時に、素管10’の内周面に凸部12も形成し、管状基材10を得た。
【0071】
各凹部11は幅4.5mm、最大深さ0.5mmの略半楕円状に形成した。
【0072】
管状基材10を金型に挿入し、金型を直立させた状態で弾性層20となる液状シリコーンゴムの注入を行った後、所定の条件にて加熱・加硫を行い、弾性層20を形成する。弾性層20は外径φ31mm、肉厚部21の肉厚は5mm、薄肉部22の肉厚は4.5mmの、充実構造の弾性層とした。
【0073】
薄肉部22の熱流束は7.2kW/m2となるよう設定し、肉厚部21の熱流束はその50%である3.6kW/m2となるよう設定した。なお、この熱流束は管状基材10の内周面の温度が常温(20℃)、弾性層20の表面温度が定着温度(200℃)の場合における計算値である。
【0074】
さらに、弾性層20上にRTVゴム接着剤を塗布し、離型層として肉厚50μmの熱収縮性PFAチューブを被覆し、所定の条件にて加熱・収縮を行って離型層を固定し、本発明の弾性ローラ1を得た。
【0075】
[比較例]
比較例の弾性ローラ1’として、管状基材10に凹部11、凸部12を設けず、弾性層20の肉厚を均一な4.5mmとした以外は、実施例1と同様に形成したものを作成した。
【0076】
[カール状態確認試験]
以上に述べた実施例、各比較例の弾性ローラに対し、カール状態確認試験を行う。
【0077】
試験用の印刷用紙として、A4サイズの60g/m2用紙を27℃、湿度80%の高温高湿環境下で24時間以上保管し、十分に吸湿させたものを準備した。
【0078】
以上の試験用印刷用紙を試験用定着装置に通紙し、加熱・加圧を行って印刷用紙にカールを発生させた。
【0079】
試験用定着装置は、定着ローラとして使用される実施例もしくは比較例の弾性ローラと、弾性ローラと対になる加圧ローラを有し、所定の温度、圧力、速度で印刷用紙に加熱・加圧を行えるものである。
【0080】
カール状態確認試験は、加圧ローラと評価対象の弾性ローラを荷重15kgで圧接してニップを形成し、弾性ローラ表面温度を200℃、弾性ローラの回転速度を周速120mm/秒に設定した状態でニップに試験用印刷用紙を縦方向に通紙して行った。
【0081】
試験用定着装置を通紙させた試験用印刷用紙の片端を平板上に固定し、カールによって他端が平板から浮いた量の大小で、カール抑制効果を評価した。実施例、比較例とも試験用印刷用紙を5枚通紙させて評価した。
【0082】
比較例の弾性ローラ1’を通紙させた試験用印刷用紙が浮いた量は全て25mm以上で、明らかなカールが発生していることが確認された。
【0083】
一方、本発明の弾性ローラ1を通紙させた試験用印刷用紙が浮いた量は全て10mm以下で、本発明の弾性ローラ1によって印刷用紙のカール抑制効果が得られることが確認できた。
【0084】
以上の実施例は管状基材10の外周にソリッド状の弾性層20を設けた態様について説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、所望する定着装置用部材の特性によって、スポンジ状弾性層を設けた態様や、ソリッド状の弾性層とスポンジ状の弾性層を組み合わせた態様も利用できる。