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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176800
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】射出成形機の逆流防止装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/52 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
B29C45/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083418
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一朗
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一郎
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AR14
4F206JA07
4F206JD01
4F206JL02
4F206JM04
4F206JM05
4F206JQ27
(57)【要約】
【課題】小型でシンプルな構造で確実に漏出を防止できる、射出シリンダ内のスクリュの先端に配置され、溶融樹脂が通過する流路の開閉を行う射出成形機の逆流防止装置を提供すること。
【解決手段】逆流防止装置20は、スクリュヘッド25と、リアシート21と、スクリュヘッド25とリアシート21の間で移動自在なチェックリング23と、を備え、チェックリング23の外周面に、射出シリンダ11と隙間を設けた環状の凸部231他と環状の凹部232他とが並列に複数配置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出シリンダ内のスクリュの先端に配置され、溶融樹脂が通過する流路の開閉を行う射出成形機の逆流防止装置において、
前記逆流防止装置は、スクリュヘッドと、リアシートと、前記スクリュヘッドと前記リアシートの間で移動自在なチェックリングと、を備え、
前記チェックリングの外周面に、前記射出シリンダと隙間を設けた環状の凸部と環状の凹部とが並列に複数配置する、ことを特徴とする射出成形機の逆流防止装置。
【請求項2】
前記環状の凸部と前記射出シリンダとの隙間の凸容積と、前記環状の凹部と前記射出シリンダとの隙間の凹容積との容積比が、前記スクリュヘッドから前記リアシートに向けて段階的に拡大する、請求項1記載の射出成形機の逆流防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出シリンダ内のスクリュの先端に配置され、溶融樹脂が通過する流路の開閉を行う射出成形機の逆流防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料を用いた射出成形機による射出成形は、以下の手順で行われる。先ず、材料供給装置を用いて射出シリンダ内に樹脂材料を供給する。この樹脂材料は、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂等の熱可塑性樹脂を用いる。また、可塑剤や難燃剤あるいは強化剤等の各種の添加剤が必要に応じて樹脂材料に添加される。以下、添加される添加剤と合わせて樹脂材料という。
【0003】
供給された樹脂材料は、螺旋状のフライトを設けたスクリュの回転運動によるせん断発熱と、射出シリンダに設けたヒータ等の熱量によって、可塑化され溶融樹脂となってスクリュ先端の射出シリンダ内に貯蔵される(計量工程)。次いで、スクリュを前進動作させて、射出シリンダ内に貯蔵される溶融樹脂を金型キャビティ内へ射出充填する(射出工程)。溶融樹脂の冷却固化に伴う固化収縮を補う保圧充填(保圧工程)と、金型キャビティ内で冷却保持(冷却工程)を経て、型開して金型キャビティから成形品を取り出す。この一連の成形動作を必要な成形品の個数を得るまで繰り返す。
【0004】
ここで、スクリュの先端部には、溶融樹脂が通過する流路を開閉する逆流防止装置が設けられている。この逆流防止装置は、計量工程において流路が開放され、スクリュで可塑化された溶融樹脂をスクリュ前方へ輸送され溶融樹脂が貯蔵される。また、射出工程において流路が閉鎖され、貯蔵された溶融樹脂を適量に射出充填することができる。この逆流防止装置の流路の開閉の応答性が良くないと、以下の問題が生じることがある。例えば、計量工程においては、溶融樹脂の前方輸送が阻害され、計量時間が長くなることによる生産性の低下となる。また、スクリュ内で溶融樹脂が滞留し、溶融樹脂の熱劣化による樹脂焼け不良や、樹脂材料から添加剤の再分離や凝集による樹脂不良等の成形不良となる。また、例えば、射出工程においては、スクリュ後方への溶融樹脂の漏出が生じ、射出充填する溶融樹脂の変動による様々な成形不良(製品重量の変動、製品寸法の変動、製品変形、面ハリ不良、転写不良等)が発生する。溶融樹脂の漏出がさらに大きくなると、製品の品質許容範囲からの乖離や製品ショート等の重大な成形不良となる。
【0005】
そのため、応答性の高い逆流防止装置が望まれる。一般的に、リング状の逆流防止リング(チェックリング)を備え、逆流防止リングの前後進動作により溶融樹脂の流路の開閉を行う逆流防止装置が広く作用されていることから、この逆流防止リングの前後進動作の応答性を高める手段として、多くの提案がなされている。例えば、逆流防止リングの素材に比重の軽い金属材料を用いる。または、逆流防止リングに邪魔板を設ける。これにより、計量工程の溶融樹脂の流れと射出工程時の溶融樹脂の圧力を受けて、逆流防止リングの開閉動作の応答性を高めるとする。あるいは、スクリュの回転と連動する爪部を逆流防止リングに設け、スクリュの回転方向を変えることにより逆流防止リングの開閉動作を強制的に行うとする。これらの提案により、応答性の高い逆流防止装置を得ることができる。
【0006】
しかしながら、近年の樹脂製品の軽量化ニーズにより、樹脂製品の薄肉化が進み、これに伴い高流動タイプの樹脂材料が広く使われるようになってきた。この樹脂製品の薄肉化により、射出充填時の溶融樹脂の圧力(射出圧力という)は、より高くなってきている。さらに、高流動タイプの樹脂材料の溶融粘度は非常に小さい。これらの相乗効果により、射出工程において、逆流防止装置の僅かな隙間から溶融樹脂が漏出する問題が、顕在化してきた。この僅かな隙間とは、逆流防止リングの外周面と射出シリンダの内周面との隙間を示す。スクリュ回転動作とスクリュ前進動作において、逆流防止リングと射出シリンダの強接触によりカジリ損傷を防止するために、公差程度の僅かな隙間を設ける必要がある。この僅かな隙間から溶融樹脂が漏出することを確実に防止する手段が提案されている。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1に示すような、逆流防止リングの外周面に複数条の溝を設けることが提案されている。これにより、溝内を流動する際に乱流が起きて流動抵抗が大きくなることで、漏出量が低減できるとされている。
また、特許文献2に示すような、射出シリンダと当接する可撓性を有する舌片を複数設けることが提案されている。これにより、射出時の樹脂圧により舌片が変形して、射出シリンダとの隙間を完全になくすことで、漏出を完全に止めることができるとされている。仮に漏出したとしても、複数の舌片を通過する際の減圧により、漏出を完全に止めることができるとされている。
さらに、特許文献3に示すような、物理発泡成形において、逆流防止リングの外側面に複数の溝(ラビリンス構造)を設けることが提案されている。これにより、漏出した溶融樹脂を溝内にトラップすることで、シール性を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-31772号公報
【特許文献2】特開平7-9516号公報
【特許文献3】特開2019-181788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献1に示す手段は、Mg合金等を用いた金属射出成形を想定したものであって、樹脂材料を用いる射出成形とは異なる。つまり、粘度の低い金属溶湯は容易に乱流が発生するが、金属溶湯よりも数百倍も粘度の高い溶融樹脂では、強い粘性流動となり乱流が生じることは極めて少ない。仮に、隙間を勢いよく溶融樹脂が漏出した場合、ジェッティングと呼ばれる糸状の噴出流となって、複数の溝を飛び越えて、逆流防止リングから溶融樹脂は漏出することが考えられ、射出成形への適用は困難と考えるのが正しい。
【0010】
また、特許文献2に示す手段は、長時間の成形運転で舌片は磨耗し、射出シリンダとの隙間が広がってしまうことは明白である。舌片の耐摩耗性を高めると、逆に射出シリンダ側が摩耗損傷する。舌片が摩耗すると、減圧の効果も徐々に低下し、最終的に逆流防止装置からの漏出の防止効果が低下するという、装置の寿命の問題が残っている。
さらに、特許文献3に示す手段は、計量完了から射出開始までの発泡剤を含む溶融樹脂の漏出を防止するものであり、その時の溶融樹脂の圧力は、0.5~10MPa程度と低い。これに対して、射出時の樹脂圧は、100~200MPaと数百倍も高く、この高圧状態でも溶融樹脂の漏出を防止できるかは考慮されていない。
【0011】
なお、特許文献1から特許文献3は、広義の意味では複数の溝が並んだラビリンス構造であり、応力緩和効果を利用して隙間からの溶融樹脂の漏出を防止する、という目的は共通の認識である。ただし、射出時の樹脂圧は極めて高く、溝を単純に複数配置しただけでは、効率の良い溶融樹脂の漏出の防止効果は期待できない。そのために、例えば、溝の配列数を増やすことで漏出の防止効果を高めるとすれば、逆流防止装置は大型化してしまう。また、例えば、溝を深くして漏出の防止効果を高めるとすれば、逆流防止装置の強度低下を招き、結果的には装置の大型化になってしまう。
【0012】
そこで本発明は、小型でシンプルな構造で確実に漏出を防止できる、射出成形機の逆流防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の射出成形機の逆流防止装置は、射出シリンダ内のスクリュの先端に配置され、溶融樹脂が通過する流路の開閉を行う射出成形機の逆流防止装置において、逆流防止装置は、スクリュヘッドと、リアシートと、スクリュヘッドとリアシートの間で移動自在なチェックリングと、を備え、チェックリングの外周面に、射出シリンダと隙間を設けた環状の凸部と環状の凹部とが並列に複数配置する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の射出成形機の逆流防止装置において、環状の凸部と射出シリンダとの隙間の凸容積と、環状の凹部と射出シリンダとの隙間の凹容積との容積比が、スクリュヘッドからリアシートに向けて段階的に拡大する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型でシンプルな構造で確実に漏出を防止できる、射出成形機の逆流防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る射出成形機の概念図である。
図2】第1実施形態に係る逆流防止装置の詳細図である。
図3図2の領域23Aの拡大図である。
図4】第2実施形態に係る逆流防止装置の詳細図である。
図5図4の領域27Aの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0018】
[射出成形機]
先ず、本実施形態に係る射出成形機について、図1を用いて説明する。図1は射出成形機の概念図を示す。なお、以下の説明では、本実施形態に係る射出成形機として、横型のインライン式射出成形機をベースとしたが、これに限定されるものではない。
【0019】
図1に示す射出成形機100は、図示しない固定盤に支持された固定金型1と、図示しない可動盤に支持され固定盤に対して進退可能な可動金型3と、樹脂材料を可塑化し溶融樹脂の貯蔵と射出充填を行う射出装置10と、射出装置10の動作を行う射出駆動部30と、射出駆動部30を制御する射出制御部40と、を備えている。溶融樹脂を射出装置10により、固定金型1及び可動金型3で形成された金型キャビティ5に向けて射出充填することで樹脂成形品が射出成形される。
【0020】
射出装置10は、円筒状の射出シリンダ11と、射出シリンダ11内に配置されるスクリュ13、スクリュ13の先端部に配置する逆流防止装置20、とを備える。
射出シリンダ11は、外周面に複数のヒータ16が所定の間隔で配置され、図示しない温度調節装置によりヒータ16を温度制御して、射出シリンダ11を所定の温度に温度管理する。このヒータ16による温度管理は、後述する計量工程において、供給された樹脂材料の予熱と、可塑化時の樹脂材料への熱量付与と、可塑化された溶融樹脂の温度管理に利用される。射出シリンダ11と金型キャビティ5は、シリンダヘッド18とノズル19と、図示しないランナ回路を介して接続される。また、射出シリンダ11には、金型キャビティ5と反対の位置に材料ホッパ17を備え、図示しない材料供給装置等により樹脂材料を材料ホッパ17から射出シリンダ11内に供給する。
【0021】
ここで、樹脂材料は、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド(PA)樹脂やポリカーボネイト(PC)樹脂等のエンジニアリング樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の超エンジニアリング樹脂等の熱可塑性樹脂が、製品の用途に応じて使い分けられる。また、製品の色調を調整する着色剤、樹脂材料に柔軟性を与える可塑剤、結晶性樹脂に対して結晶化度を制御する核剤や透明化剤、燃焼を抑制する難燃剤、静電気の帯電を抑制する帯電防止剤、樹脂材料の流動性や離型性を改善する滑剤、紫外線による劣化を抑制する対候剤や紫外線劣化防止剤、ガラス繊維や炭素繊維等の強化剤等の各種の添加剤が、必要に応じて樹脂材料に添加される。樹脂材料と添加剤が別々に射出シリンダ11内に供給されても良く、樹脂材料と添加剤が予め混錬されペレット状に加工された状態で供給しても良い。また、液晶シリコン樹脂や液晶ゴム樹脂等の射出成形できる熱硬化性樹脂を樹脂材料としても良い。以下、樹脂材料と添加剤を合わせて樹脂材料という。
【0022】
スクリュ13は、射出シリンダ11内に配置され、射出駆動部30と連結し、射出駆動部30により回転動作と前後進動作を射出シリンダ11内で行う。ここで、スクリュ13の動作に関して、金型キャビティ5に近い方向を前方F、前方Fへの動作を前進動作、金型キャビティ5から離れる方向を後方B、後方Bの動作を後退動作と定義する。スクリュ13には、後方Bから前方Fに向かって螺旋状のフライト15を備えている。射出駆動部30によるスクリュ13の回転動作の回転方向に対して、材料ホッパ17から供給した樹脂材料を前方Fへ回転輸送できるように、フライト15を設定する。なお、図1に示すように、フライト15は一定の間隔で一定の角度で1条の配置としたが、これに限定されることなく、例えば、間隔や角度を可変してもよく、複数条の配列としても良い。あるいは、スクリュ13の一部の範囲のみフライト15を複数条の配列としても良い。
【0023】
また、スクリュ13は、円柱形状であるが、後方Bから前方Fに向かって円柱の直径が段階的に大きくなるように設定されている。つまり、スクリュ13と射出シリンダ11との隙間の容積が、後方Bから前方Fに向かって段階的に小さくなるように設定する。これにより、材料ホッパ17から供給された樹脂材料は、スクリュ13とフライト15の回転動作により前方輸送され、容積の縮小により圧縮作用とせん断作用によるせん断発熱が樹脂材料に作用し、ヒータ16からの熱量付与と相乗効果により、樹脂材料は段階的に溶融化し、スクリュ13の前方Fに向かって溶融樹脂が生成される。なお、段階的な容積の減少は、後方Bから順に、輸送ゾーン、圧縮ゾーン、溶融ゾーン、と呼ばれる。また、樹脂材料の溶融化を可塑化という。
【0024】
[第1実施形態]
次に、第1実施形態に係る射出成形機の逆流防止装置について、図2図3を用いて説明する。図2は逆流防止装置の詳細図、図3図2の領域23Aの拡大図である。
図2に示す逆流防止装置20は、スクリュ13の先端に配置され、前方Fに向かって順に、リアシート21と、チェックリング23と、スクリュヘッド25を備える。スクリュヘッド25は、図示しないネジ部によりスクリュ13に結合される。リアシート21は、スクリュヘッド25とスクリュ13に挟まれるように、スクリュ13の先端にスクリュヘッド25と一体に固定される。チェックリング23は、リアシート21とスクリュヘッド25の間の軸部251の範囲を、前方Fと後方Bに移動自在に配置される。
なお、図2に示すチェックリング23は、スクリュ13の回転と連動して回転しない非回転式チェックリングとしたが、これに限定されることなく、例えば、スクリュヘッド25とチェックリング23を連結する爪構造等によってスクリュ13の回転と連動して回転する回転式チェックリングとしても良い。
【0025】
チェックリング23は、その内周面とスクリュヘッド25の軸部251の外周面との間に溶融樹脂の流路23Rが形成されている。チェックリング23とリアシート21が離れている状態において、スクリュ13の回転動作により回転輸送されてきた溶融樹脂は、リアシート21とチェックリング23との隙間からチェックリング23内の流路23Rに流入し、流路23R内を前方F側に流動して、流路出口244から溶融樹脂が流出し、スクリュヘッド25の前方F側の射出シリンダ11内に溶融樹脂が貯蔵される。この状態をチェックリング23の流路開放という。スクリュ13の回転動作の継続により、溶融樹脂の回転輸送も継続され、溶融樹脂の貯蔵量も増加していく。溶融樹脂の貯蔵量の増加に伴い、スクリュ13は回転運動しながら後退動作する。このスクリュ13の後退動作時の抵抗力の制御を背圧制御という。溶融樹脂の貯蔵量が所定量に到達後は、スクリュ13の回転動作を停止させる。この一連の動作を計量動作という。なお、図2において、流路23Rは流路面積が一様な平滑面の形状としたが、これに限定されることなく、例えば、流路面積を可変させても良く、凹凸の形状を設けても良い。
【0026】
計量動作の後は、スクリュ13を前進動作させて、溶融樹脂を金型キャビティ5内に射出充填する。このスクリュ13の前進動作において、停止しているチェックリング23に向かってスクリュ13が前進し、リアシート21とチェックリング23とが当接することで、チェックリング23内の流路23Rが閉鎖される。さらにスクリュ13は前進動作し、スクリュヘッド25の前方F側の射出シリンダ11内の溶融樹脂の圧力は大きく上昇する。この溶融樹脂の圧力上昇によって、リアシート21とチェックリング23は強固に押し圧され、チェックリング23の流路閉鎖も強固となる。
【0027】
ここで、チェックリング23は、射出シリンダ11内で前後進動作するために(回転式チェックリングの場合は回転動作も加わる)、射出シリンダ11の内周面11Uとチェックリング23の外周面とは、カジリ損傷しない程度の適度な隙間を設けている。射出充填時の射出シリンダ11内の溶融樹脂の圧力は大きく上昇することから、この適度な隙間に溶融樹脂が流入し、隙間から逆流防止装置20の後方B側に溶融樹脂が漏出する不具合が発生することがある。溶融樹脂の圧力が高いほど、樹脂材料の溶融粘度が低いほど、漏出の不具合が発生する確率が高くなる。
【0028】
そこで、第1実施形態においては、チェックリング23の外周面に、環状の凸部(231、233、235、237、239、241)と、環状の凹部(232、234、236、238、240)を並列に複数配置させることを特徴とする。また、それぞれの環状の凹部の深さを均一とし、前方Fから後方Bに向かって、環状の凸部の配置の間隔を段階的に大きくすることを特徴とする。さらに、環状の凸部と射出シリンダ11の内周面11Uとは、カジリ損傷が生じない程度の適度な隙間を設けることを特徴とする。なお、図2は環状の凸部の配列数を6列としたが、これに限定されることなく、例えば、配列数は2つ以上が好ましく、逆流防止装置20の寸法的な制約の範囲内で最大数の配列数とすることがより好ましい。
【0029】
環状の凸部と環状の凹部を並列に複数配置し、さらに環状の凸部の配列の間隔を段階的に大きくすることによる効果について、図3を用いて詳細に説明する。図3図2に示す領域23Aの拡大図である。
【0030】
図3において、溶融樹脂は、チェックリング23の外周面と射出シリンダ11の内周面11Uとの隙間を、前方Fから後方Bに向かって流動し漏出する。その際に、環状の凸部の外周面と射出シリンダ11の内周面11Uとの狭い隙間(凸隙間という)と、環状の凹部の底面と内周面11Uとの広い隙間(凹隙間という)を交互に溶融樹脂は流動する。ここで、例えば、それぞれの凸隙間の容積(凸容積)を同量に設定する(Q1=Q3=Q5=Q7=Q9=Q11)。また、前方Fから後方Bに向かって、環状の凸部の配置の間隔を段階的に大きくしているので、それぞれの凹隙間の容積(凹容積)は、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大される(Q2<Q4<Q6<Q8<Q10)。また、それぞれの凸隙間の容積(凸容積)に対して、それぞれの凹隙間の容積(凹容積)の方がいずれも大きいことは図3より明白である。つまり、凸容積と凹容積との容積比が、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大することを特徴とする。
【0031】
ここで、逆流防止装置20より前方F側の射出シリンダ11内の溶融樹脂の圧力をP0とすると、最初の凸隙間Q1に流入する溶融樹脂の圧力P1=P0である。射出シリンダ11はヒータ16によって一定温度に温度管理されているので、最初の凹隙間Q2に流入した溶融樹脂の圧力P2は、以下の式(1)で特定できる。つまり、凸隙間Q1の凸容積と凹隙間Q2の凹容積との容積比に応じて、凹隙間Q2に流入した溶融樹脂の圧力P2は低下し(圧力緩和効果という)、容積比が大きいほど大きな圧力緩和効果を得るとなる。
P2=(Q1/Q2)×P1 ・・・式(1)。
【0032】
次いで、凹隙間Q2内の溶融樹脂の圧力P2と、後方B側に隣接する凸隙間Q3に流入する溶融樹脂の圧力P3は同じであるので(P2=P3)、さらに後方B側に隣接する凹隙間Q4に流入した溶融樹脂の圧力P4は、以下の式(2)で特定できる。ここでも凸容積と凹容積との容積比に応じた圧力緩和効果を得ることができる。また、圧力P3は、既に圧力緩和効果を受けて大きく低下した圧力状態であるので、圧力P4はさらに小さくなる。
P4=(Q3/Q4)×P3 ・・・式(2)。
【0033】
この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。その結果、逆流防止装置20と射出シリンダ11の隙間を流動する溶融樹脂の圧力は、前方Fから後方Bに向かって段階的に低下される。最終的には、チェックリング23の範囲内で、隙間を流動する溶融樹脂の圧力はゼロに近い状態となり、溶融樹脂の隙間への流動が阻止され、逆流防止装置20と射出シリンダ11の隙間からの溶融樹脂の漏出を防止することができる。
【0034】
さらに、凹隙間の容積(凹容積)は、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大しているので、凸隙間の凸容積と凹隙間の凹容積との容積比も段階的に拡大する。その結果、圧力緩和効果も前方Fから後方Bに向かって段階的に大きくなり、隙間を流動する溶融樹脂の圧力を確実に低下させ、極めてゼロに近い状態として、溶融樹脂の隙間への流入を完全に阻止することができる。また、複数の環状の凸部と凹部は、チェックリング27の補強リブ的な効果を発揮し、チェックリング27の半径方向の厚みを薄くすることができ、逆流防止装置の小型化を実現する。さらに、チェックリング27の薄肉化による軽量化を実現し、チェックリング27の前後動作の応答性が高くなり、溶融樹脂の流路の開閉の応答性を高める効果も同時に得る。
【0035】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る射出成形機の逆流防止装置について、図4図5を用いて説明する。図4は逆流防止装置の詳細図、図5図4の領域27Aの拡大図である。なお、リアシート21とスクリュヘッド25は、第1実施形態と同じものが利用できるので説明は割愛し、第1実施形態と構成の異なるチェックリング27について説明する。また、図4に示すチェックリング27は、スクリュ13の回転と連動して回転しない非回転式チェックリングとしたが、これに限定されることなく、例えば、スクリュヘッド25とチェックリング27を連結する爪構造等によってスクリュ13の回転と連動して回転する回転式チェックリングとしても良い。
【0036】
チェックリング27は、その内周面とスクリュヘッド25の軸部291の外周面との間に、第1実施形態と同様な溶融樹脂の流路が形成されている。計量動作中は、チェックリング27とリアシート21が離れている状態で、チェックリング27は流路開放となる。スクリュ13の前進動作により、チェックリング27とリアシート21は当接し、チェックリング27は流路閉鎖となり、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填が行われる。射出充填中は、射出シリンダ11内の溶融樹脂の圧力上昇により、チェックリング27とリアシート21は強固に押し圧され、チェックリング27の流路閉鎖は強固となる。ここで、チェックリング27の外周面と射出シリンダ11の内周面11Uとは、第1実施形態と同様に適度な隙間を設けており、射出充填中はこの隙間から溶融樹脂が漏出することも第1実施形態と同じと考える。
【0037】
そこで、第2実施形態においては、チェックリング27の外周面には、環状の凸部(271、273、275、277、279、281)と、環状の凹溝(272、274、276、278、280)を並列に複数配置させることを特徴とする。また、それぞれの環状の凸部と環状の凹部は等間隔に配置し、前方Fから後方Bに向かって、環状の凹部の深さを段階的に大きくすることを特徴とする。さらに、環状の凸部と射出シリンダ11の内周面11Uとは、カジリ損傷が生じない程度の適度な隙間を設けることを特徴とする。なお、図4は環状の凹部の配列数を5列としたが、これに限定されることなく、例えば、配列数は2つ以上が好ましく、逆流防止装置20の寸法的な制約の範囲内で最大数の配列数とすることがより好ましい。
【0038】
環状の凸部と環状の凹部を並列に複数配置し、さらに環状の凹部の深さを段階的に大きくすることによる効果について、図5を用いて詳細に説明する。図5図4に示す領域27Aの拡大図である。
【0039】
図5において、溶融樹脂は、環状の凸部の外周面と射出シリンダ11の内周面11Uとの狭い隙間(凸隙間という)と、環状の凹部と内周面11Uとの広い隙間(凹隙間という)を交互に前方Fから後方Bに向かって流動する。ここで、例えば、それぞれの凸隙間の容積(凸容積)を同量に設定する(Q71=Q73=Q75=Q77=Q79=Q711)。また、前方Fから後方Bに向かって、環状凹部の深さを段階的に大きくしているので、それぞれ環状凹部の容積(凹容積)は、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大される(Q72<Q74<Q76<Q78<Q710)。また、それぞれの凸隙間の容積(凸容積)に対して、それぞれの凹隙間の容積(凹容積)の方がいずれも大きいことは図5より明白である。つまり、凸容積と凹容積との容積比が、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大することを特徴とする。
【0040】
ここで、逆流防止装置20より前方F側の射出シリンダ11内の溶融樹脂の圧力をP0とすると、最初の凸隙間Q71に流入する溶融樹脂の圧力P71=P0である。射出シリンダ11はヒータ16によって一定温度に温度管理されているので、最初の凹隙間Q72に流入した溶融樹脂の圧力P72は、以下の式(3)で特定できる。つまり、凸隙間Q71の凸容積と凹隙間Q72の凹容積との容積比に応じて、凹隙間Q72に流入した溶融樹脂の圧力P72は低下し(圧力緩和効果という)、容積比が大きいほど大きな圧力緩和効果を得るとなる。
P72=(Q71/Q72)×P71 ・・・式(3)。
【0041】
次いで、凹隙間Q72内の溶融樹脂の圧力P72と、後方B側に隣接する凸隙間Q73に流入する溶融樹脂の圧力P73は同じであるので(P72=P73)、さらに後方B側に隣接する凹隙間Q74に流入した溶融樹脂の圧力P74は、以下の式(4)で特定できる。ここでも、凸容積と凹容積との容積比に応じた圧力緩和効果を得ることができる。また、圧力P73は、既に圧力緩和効果を受けて大きく低下した圧力状態であるので、圧力P74はさらに小さくなる。
P74=(Q73/Q74)×P72 ・・・式(4)。
【0042】
この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。その結果、逆流防止装置20と射出シリンダ11の隙間を流動する溶融樹脂の圧力は、前方Fから後方Bに向かって段階的に低下される。最終的には、チェックリング23の範囲内で、隙間を流動する溶融樹脂の圧力はゼロに近い状態となり、溶融樹脂の隙間への流動が阻止され、逆流防止装置20と射出シリンダ11の隙間からの溶融樹脂の漏出を防止することができる。
【0043】
さらに、凹隙間の容積(凹容積)は、前方Fから後方Bに向かって段階的に拡大しているので、凸隙間の凸容積と凹隙間の凹容積との容積比も段階的に拡大する。その結果、圧力緩和効果も前方Fから後方Bに向かって段階的に大きくなり、隙間を流動する溶融樹脂の圧力を確実に低下させ、極めてゼロに近い状態として、溶融樹脂の隙間への流入を完全に阻止することができる。また、それぞれの環状の凸部と環状の凹部は等間隔に配置し、前方Fから後方Bに向かって、環状の凹部の深さを段階的に大きくすることで、凸隙間と凹隙間の容積比を段階的に拡大させる構成により、チェックリング27の前後方向への長さを短くすることができ、逆流防止装置の小型化を実現する。さらに、複数の環状の凸部と凹部による補強リブ的な効果による薄肉化を実現する。このチェックリング27の小型化薄肉化による軽量化は、チェックリング27の前後動作の応答性を高め、溶融樹脂の流路の開閉の応答性を高める効果も同時に得る。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0045】
例えば、第一実施形態で説明した、前方Fから後方Bに向かって、チェックリングの環状の凸部の配置の間隔を段階的に大きくする構成と、第二実施形態で説明した、前方Fから後方Bに向かって、チェックリングの環状の凹部の深さを段階的に大きくする構成とを適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 固定金型
3 可動金型
5 金型キャビティ
10 射出装置
11 射出シリンダ
13 スクリュ
15 フライト
16 ヒータ
17 材料ホッパ
18 シリンダヘッド
19 ノズル
20 逆流防止装置
21 リアシート
23、27 チェックリング
25 スクリュヘッド
30 射出駆動部
40 射出制御部
100 射出成形機
231、233、235、237、239、241 環状の凸部
232、234、236、238、240 環状の凹部
図1
図2
図3
図4
図5