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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176828
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221122BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083470
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 寛
(72)【発明者】
【氏名】大原 春樹
(72)【発明者】
【氏名】澤畠 達大
(72)【発明者】
【氏名】野田 和志
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA23
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA33
5H770GA01
5H770QA01
5H770QA08
5H770QA27
(57)【要約】
【課題】電力変換主回路の構造を同一としながら、実装するパワー半導体素子を、同一寸法で所望の定格仕様のパワー半導体素子に換装するだけで、様々な出力電圧、電流特性を実現することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】複数の電力変換装置によって構築される電力変換装置群の各電力変換装置として用いられる電力変換装置200であって、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nおよび当該パワー半導体素子に電気的に繋がる配線構造を有する電力変換主回路100を備える。電力変換主回路100の配線構造は、電力変換装置群の出力電圧、出力電流の最大値に基づいて決定される。また、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nとして、同一寸法ながら定格仕様が多種類存在するパワー半導体素子が適用される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力変換装置によって構築される電力変換装置群の各電力変換装置として用いられる電力変換装置であって、
パワー半導体素子および前記パワー半導体素子に電気的に繋がる配線構造を有する電力変換主回路を備え、
前記電力変換主回路の配線構造は、前記電力変換装置群の出力電圧、出力電流の最大値に基づいて決定され、
前記パワー半導体素子として、同一寸法ながら定格仕様が多種類存在するパワー半導体素子が適用される、
電力変換装置。
【請求項2】
前記パワー半導体素子として、同一寸法ながら異なる定格仕様のモジュール型のパワー半導体素子を適用して、様々な出力電圧、出力電流の特性を実現する複数の電力変換装置群を構築するとき、
前記複数の電力変換装置群は、各々の出力電圧と出力電流との掛け算値である皮相電力が同じである、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記配線構造は、前記パワー半導体素子に電気的に繋がる導体を含み、
前記導体の寸法は、前記複数の電力変換装置群における出力電流の最大値を許容する寸法である、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記配線構造は、前記導体の絶縁距離を含み、
前記導体の絶縁距離は、前記複数の電力変換装置群における出力電圧の最大値を許容する距離である、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力変換主回路は、前記パワー半導体素子を冷却する冷却器を有し、
前記冷却器の寸法は、前記パワー半導体素子の支配的な発生損失となるスイッチング損失に基づいて決定される、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記冷却器の寸法は、前記複数の電力変換装置群において同一寸法である、
請求項5に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用周波数の交流電圧を直流電圧に順方向変換し、可変電圧・可変周波数の交流電圧に逆変換することが可能な、即ち、交流-直流-交流変換が可能な電力変換装置がある。この種の電力変換装置は、受電する交流電源の電圧および変換後の直流、交流の電圧に対応した電力変換主回路を用いることによって構成される。電力変換装置に用いられる電力変換主回路としては、当該電力変換主回路に接続される負荷の定格電圧および定格電流に適合する電圧および電流を出力できる構成のものが最適である。
【0003】
従来は、接続される負荷の特性毎に個別に設計された電力変換主回路を構築していた。具体的には、電力変換装置に必要とされる出力電圧および出力電流を処理できるパワー半導体素子を選定し、それに必要とされる絶縁耐力および電流容量から周辺回路の絶縁距離および導体寸法を決定していた。その上で、さらに、パワー半導体素子の発生損失に合わせた冷却器を決定し、それらから構成される電力変換主回路を収納する電力変換装置の全体寸法を決定していた(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05-104247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように、接続される負荷の特性毎に個別に設計し、電力変換主回路を構築すると、電力変換主回路の出力電圧、出力電流の特性毎にその配線構造や冷却器構造が異なることになるため、装置寸法が異なる多種多様な電力変換装置が存在することになる。その結果、個々の電力変換装置毎に設計仕様、組立手順、構成部品の寸法が異なることになるため、それらに対応できる技術者、作業者、製造場所を設定せねばならず、結果として、生産コストを増加させる要因になっていた。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、電力変換主回路の構造を同一としながら、実装するパワー半導体素子を、同一寸法で所望の定格仕様のパワー半導体素子に換装するだけで、様々な出力電圧、電流特性を実現することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、
複数の電力変換装置によって構築される電力変換装置群の各電力変換装置として用いられる電力変換装置であって、パワー半導体素子および当該パワー半導体素子に電気的に繋がる配線構造を有する電力変換主回路を備える。
そして、電力変換主回路の配線構造は、電力変換装置群の出力電圧、出力電流の最大値に基づいて決定される。また、パワー半導体素子として、同一寸法ながら定格仕様が多種類存在するパワー半導体素子が適用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パワー半導体素子を換装するだけで、電力変換主回路の構造を同一としながら、様々な出力電圧、出力電流の特性を実現する電力変換装置群を構築することができる。その結果、個々の電力変換装置毎の仕様に応じた技術者、作業者、製造場所の設定が不要となるため、生産コストの低減を図ることができる。
【0009】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置が適用される電力変換システムの構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路の構成例を示す回路図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路におけるパワー半導体素子のスイッチング動作について説明する波形図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路におけるパワー半導体素子のスイッチング理想波形について説明する波形図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路におけるクランプダイオードのスイッチング理想波形について説明する波形図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置が適用される電力変換システムの構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路の構成例を示す回路図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路におけるパワー半導体素子の駆動信号について説明する波形図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置を構築する電力変換主回路におけるパワー半導体素子のスイッチング理想波形について説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0012】
《本発明の電力変換装置》
本発明の電力変換装置は、パワー半導体素子および当該パワー半導体素子に電気的に繋がる配線構造を有する電力変換主回路を備え、複数の電力変換装置によって構築される電力変換装置群の各電力変換装置として用いられる。電力変換装置において、電力変換主回路の配線構造は、電力変換装置群の出力電圧、出力電流の最大値に基づいて決定される。また、実装するパワー半導体素子として、同一寸法ながら定格仕様が多種類存在するパワー半導体素子が適用される。
【0013】
電力変換主回路の配線構造について、電力変換装置群の出力電圧、出力電流の最大値に基づいて決定することで、その最大値の範囲内の出力電圧、出力電流の特性の電力変換装置群を構築する際には、パワー半導体素子を換装するだけで、電力変換主回路の構造を同一としながら、様々な出力電圧、出力電流の特性を実現する電力変換装置群を構築することができる。ここで、「構造を同一」とは、厳密に構造が同一である場合の他、実質的に構造が同一である場合も含む意味であり、設計上あるいは製造上生ずる種々のばらつきの存在は許容される。
【0014】
上記のように、複数の電力変換装置によって構築される電力変換装置群において、実装するパワー半導体素子の定格仕様を変更し、パワー半導体素子を換装するだけで、電力変換主回路の構造を同一としながら、様々な出力電圧、出力電流の特性を実現できる。これにより、本発明の電力変換装置によって構築される電力変換装置群について、定格仕様以外は同一仕様、同一構造かつ同一寸法となることから、個々の電力変換装置毎の仕様に応じた技術者、作業者、製造場所の設定が不要となるため、効率良く生産することができ、生産コストの低減を図ることができる。
【0015】
ここで、「電力変換装置群」とは、電力変換主回路の構造を同一としながら出力電圧、出力電流の特性が異なる複数の電力変換装置の集合である。一例として、出力電圧αの電力変換装置A、出力電圧2×αの電力変換装置B、出力電圧3×αの電力変換装置Cという3種類の電力変換装置を有する電力変換装置群を構築する場合、電力変換装置Aは出力電流β、電力変換装置Bは出力電流1/2×β、電力変換装置Cは出力電流1/3×βとして、出力電圧と出力電流の掛け算値となる皮相電力がα×βの一定値になる電力変換装置群が構築されることになる。
【0016】
また、電力変換主回路の構造は、パワー半導体素子の寸法、それらを結線する導体の寸法と電気的な絶縁距離、および、パワー半導体素子を冷却可能な能力をもつ冷却器の寸法で決定される。そこで、本発明の電力変換装置によって構築される電力変換装置群には、同一寸法ながら定格電圧、定格電流の定格仕様が多種類存在するモジュール型のパワー半導体素子を適用することが好ましい。パワー半導体素子としては、たとえば、電圧駆動型のパワー半導体素子を用いることができる。また、電圧駆動型のパワー半導体素子としては、IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)やパワーMOSFET等を例示することができる。
【0017】
電力変換主回路の配線構造を構成する導体の寸法は、本発明の電力変換装置によって構築される電力変換装置群の出力電流の最大値に基づいて決定される。導体の電気的な絶縁距離は、電力変換装置群の出力電圧の最大値に基づいて決定される。前述の3種類の電力変換装置の例では、電力変換装置群の出力電圧の最大値は3×α、出力電流の最大値はαとなる。
【0018】
パワー半導体素子を冷却する冷却器の寸法は、パワー半導体素子の支配的な発生損失となるスイッチング損失に基づいて決定される。ここで、スイッチング損失は、パワー半導体素子に印加される電圧と電流の掛け算値に比例する。パワー半導体素子に印加される電圧と電流は、電力変換装置の出力電圧と出力電流に比例する。したがって、本発明の電力変換装置によって構築される電力変換装置群は、その出力電圧と出力電流の掛け算値となる皮相電力が一定であるため、定格仕様が異なるパワー半導体素子を適用しても、スイッチング損失はほぼ同じになる。
【0019】
定格仕様が異なるパワー半導体素子には特性差が存在し、これがスイッチング損失の差を生じさせる。スイッチング損失については、たとえば、IGBTのような電圧駆動型のパワー半導体素子の場合、そのゲート入力に印加する正、負の矩形電圧(ゲート電圧)の立ち上がりおよび立ち下がりの急峻さでスイッチング1回当りのスイッチング損失を調節することができる。具体的には、パワー半導体素子とその駆動回路とを接続する回路の抵抗値を変更することで、パワー半導体素子のゲート電圧の立ち上がりおよび立ち下がりの急峻さを調節することができる。これでもスイッチング損失の差を調整できない場合は、スイッチング周波数の変更による単位時間当たりのスイッチング損失発生回数を調節するようにすればよい。これにより、適用されるパワー半導体素子の定格仕様に関係なくスイッチング損失は一定となるため、電力変換装置群の各電力変換装置冷却器の寸法が1種類になる。
【0020】
上述したように、本発明の電力変換装置によれば、同一寸法ながら定格仕様が多種類存在するパワー半導体素子の中から、所望の定格仕様のパワー半導体素子を選択し、パワー半導体素子を換装するだけで、電力変換主回路の構造を同一としながら、様々な出力電圧、出力電流の特性を実現する電力変換装置群を構築することができる。その結果、電力変換装置群を構築する電力変換装置の個々の仕様に応じた技術者、作業者、製造場所の設定が不要となるため、効率良く生産することができる。
【0021】
以下に、上記の作用、効果を奏する本発明の電力変換装置の具体的な実施形態について説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置が適用される電力変換システムの構成例を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、本電力変換システムは、たとえば2つの電力変換装置200,200によって構築された電力変換装置群を有し、商用電源500の交流電圧を直流電圧に順方向変換し、可変電圧・可変周波数の交流電圧に逆変換することが可能な(即ち、交流-直流-交流変換が可能な)構成となっている。ここで、商用電源500側の電力変換装置200は、商用周波数の交流電圧を直流電圧に順方向変換するコンバータであり、交流電動機400側の電力変換装置200は、可変電圧・可変周波数の交流電圧に逆変換するインバータである。
【0024】
図1において、2つの電力変換装置200,200は、正極母線P、負極母線N、および、中間電位母線COMのそれぞれを、それぞれが内蔵する後述するパワー半導体素子(図2参照)を介して出力点ACに電気的に接続する構成を備えている。中間電位母線COMの電位は、正極母線Pの電位と負極母線Nの電位との中間電位である。
【0025】
2つの電力変換装置200,200は、それぞれが内蔵するパワー半導体素子をスイッチング動作させることで、実質的に交流電圧を作り出す。図1の例では、商用電源500から変圧器300を介して与えられる交流電圧を、商用電源500側の電力変換装置200(即ち、コンバータ)で直流電圧Ep,Enに変換する。さらに、商用電源500側の電力変換装置200で得られた直流電圧Ep,Enを、交流電動機400側の電力変換装置200(即ち、インバータ)で任意の周波数および振幅の交流電圧に変換して交流電動機400に供給する。この交流-直流-交流変換によって3相の交流電動機400を可変速制御することができる。
【0026】
また、2つの電力変換装置200,200が内蔵するパワー半導体素子のスイッチング動作により、交流電動機400からの交流電圧を、交流電動機400側の電力変換装置200で直流電圧Ep,Enに変換し、さらに、変換して得られた直流電圧Ep,Enを、商用電源500側の電力変換装置200で商用周波数の交流電圧へ変換することにより、変圧器300を介して商用電源500に電力を回生することができる。これにより、3相の交流電動機400の速度を減速制御することができる。
【0027】
(第1実施形態に係る電力変換装置を構成する電力変換主回路)
図2は、第1実施形態に係る電力変換装置を構成する電力変換主回路の構成例を示す回路図である。ここでは、3相の交流電動機400に対応して電力変換主回路100が3相分設けられ、直流電圧が3レベル(正極母線P、負極母線N、および、中間電位母線COMの各電圧)の電力変換装置の場合を例示している。
【0028】
図2において、第1実施形態に係る電力変換装置200を構成する電力変換主回路100は、正極母線Pと負極母線Nとの間に、直列に接続された4つのパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nを有している。ここでは、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nとして、IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)を用いる場合を例示している。
【0029】
4つのパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nには、フリーホイールダイオード102p,102pc,102nc,102nが逆方向並列接続されている。パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nの各ゲートは、抵抗素子103p,103pc,103nc,103nを経由して駆動回路104p,104pc,104nc,104nに電気的に接続されている。そして、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nは、駆動回路104p,104pc,104nc,104nから各ゲートに与えられる駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnに応答してスイッチング動作を繰り返す。
【0030】
駆動回路104p,104pc,104nc,104nには、制御回路105からスイッチング指令信号が与えられる。制御回路105は、たとえばPWM変調によって生成したスイッチング指令信号を駆動回路104p,104pc,104nc,104nのそれぞれに与える。なお、制御回路105は、3相回路の1相毎に1回路が構成される場合もあれば、3相回路毎に1回路が構成される場合もある。ここでは、1相毎に1回路が構成される場合を例示している。
【0031】
中間電位母線COMと、パワー半導体素子101p,101pcの共通接続ノードNpとの間には、クランプダイオード106pが接続されている。また、中間電位母線COMと、パワー半導体素子101nc,101nの共通接続ノードNnとの間には、クランプダイオード106nが接続されている。クランプダイオード106p,106nは、中間電位母線COMの電圧をクランプするダイオードである。
【0032】
電力変換主回路100には、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nを冷却する冷却器107(107-1,107-2)が設けられている。冷却器107は、1つのパワー半導体素子毎に1つ設けられる場合もあれば、複数のパワー半導体素子毎に1つ設けられる場合もある。ここでは、パワー半導体素子101p,101pc、フリーホイールダイオード102p,102pc、および、クランプダイオード106pの回路単位毎に、ならびに、パワー半導体素子101n,101nc、フリーホイールダイオード102n,102nc、および、クランプダイオード106nの回路単位毎に、冷却器107が1つずつ設けられる構成の場合を例示している。
【0033】
図2に示す第1実施形態に係る電力変換装置200において、直流電圧Ep,Enは、直流母線、即ち、正極母線P、負極母線N、および、中間電位母線COMを介して電力変換主回路100に印加される。ここで、直流電圧Ep,Enは、通常の回路動作中においてはEp=Enとなっている。
【0034】
電力変換主回路100において、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nは、制御回路105による制御の下に、任意の時間幅および周期でスイッチング動作を行う。このとき、制御回路105は、複数のパワー半導体素子が同時にオンしないように、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nのスイッチング制御を行う。
【0035】
また、クランプダイオード106p,106nは、パワー半導体素子101p,101nのスイッチング動作に連動して動作する。具体的には、パワー半導体素子101pがオフ状態からオン状態に移行するとき、その移行速度に合わせてクランプダイオード106pは導通状態で逆バイアスが印加され、パワー半導体素子101pがオン状態からオフ状態に移行するとき、その移行速度に合わせてクランプダイオード106pは逆バイアスが印加されて導通となる。同様に、パワー半導体素子101nがオフ状態からオン状態に移行するとき、その移行速度に合わせてクランプダイオード106nは導通状態で逆バイアスが印加され、パワー半導体素子101nがオン状態からオフ状態に移行するとき、その移行速度に合わせてクランプダイオード106nは逆バイアスが印加されて導通となる。
【0036】
(パワー半導体素子のスイッチング動作について)
図3は、第1実施形態に係る電力変換装置200を構成する電力変換主回路100におけるパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nのスイッチング動作について説明する波形図である。図3には、出力点ACに対する交流電圧指令信号V*、出力点ACの実際の出力電圧(インバータ出力電圧)VAC、および、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nの駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnの各波形の一例を図示している。
【0037】
制御回路105において、任意周波数および振幅の交流電圧指令信号V*は、周波数fcの搬送波Cr31,Cr32とその振幅が比較される。制御回路105は、その振幅の大小関係に基づいて、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nの駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnを生成する。そして、制御回路105は、生成した駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnに基づいて、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nをスイッチング駆動する。これにより、出力点ACには、交流電圧指令信号V*と等価な出力電圧VACが出力される。
【0038】
ここで、PWM変調の変調率をKとすると、出力点ACの出力電圧VACの実効値は、K×Ep/√2(または、K×En/√2)となり、電力変換主回路100の直流電圧に比例する電圧となる。
【0039】
また、交流電圧指令信号V*は、電力変換主回路100に出力させたい出力電流IACに応じて波高値が決定され、搬送波Cr31または搬送波Cr32と交流電圧指令信号V*の最大波高値の比が、PWM変調の変調率Kとなる。
【0040】
パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nがIGBTのような電圧駆動型のパワー半導体素子の場合、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nの駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnは電圧信号となる。
【0041】
図1に示すように、2つの電力変換装置200,200の出力点ACには、負荷回路(具体的には、交流電動機400あるいは変圧器300)が接続されている。そして、当該負荷回路に対して、直流電圧と任意周波数および振幅の交流電圧との間を順または逆変換することで、電力の供給および回収をすることができる。
【0042】
(電力変換主回路の構造について)
ここで、図2を用いて、電力変換主回路100の構造について説明する。
【0043】
本実施形態に係る電力変換装置200によって構築される電力変換装置群は、共通構造の3つの電力変換主回路100に対して様々な出力仕様を付与でき、それらが適用される負荷仕様に応じて出力電圧VACおよび出力電流IACの各々の最大値を設定する。そして、出力電圧VACおよび出力電流IACの各々の最大値に基づいて、電力変換主回路100の各導体CDP,CDP1,CDAC,CDCOM,CDN1,CDNと大地GNDとの間、および、異電位の導体間の絶縁距離IDP,IDP1,IDAC,IDCOM,IDN1,IDN、ならびに、各導体CDP,CDP1,CDAC,CDCOM,CDN1,CDNの寸法(サイズ)を決定する。
【0044】
ここで、導体CDPは、正極母線Pを含む導体であり、導体CDNは、負極母線Nを含む導体であり、導体CDCOMは、中間電位母線COMを含む導体である。また、導体CDP1は、クランプダイオード106pとパワー半導体素子101p,101pcとを電気的に接続する配線P1を含む導体であり、導体CDN1は、クランプダイオード106nとパワー半導体素子101nc,101nとを電気的に接続する配線N1を含む導体であり、導体CDACは、出力点ACにつながる配線AC1を含む導体である。すなわち、導体CDP,CDP1,CDAC,CDCOM,CDN1,CDNは、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nに電気的に繋がる導体であり、電力変換主回路100の配線構造を構成している。
【0045】
本実施形態に係る電力変換装置200によって構築される電力変換装置群には、個々の電力変換装置200の定格出力時の出力電圧VACと出力電流IACとの掛け算値である皮相電力が同じという制約が設けられる。この制約により、出力電圧VACおよび出力電流IACは、その積(掛け算値)が一定値かつその大小関係が相反する関係になる。
【0046】
一方、電力変換主回路100に適用されるパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101n、および、クランプダイオード106p,106nには、電力変換主回路100の動作において、各々に印加される直流電圧Epまたは直流電圧Enに比例する必要電圧Vrと、電力変換主回路100の出力電流IACに比例する必要電流Irの各々を許容する定格仕様のものが適用される。
【0047】
前述のとおり、出力電圧VACは、直流電圧Epまたは直流電圧Enと比例関係にあるため、直流電圧Epまたは直流電圧Enと比例関係にある必要電圧Vrも出力電圧VACと比例関係にある。
【0048】
以上より、必要電圧Vrおよび必要電流Irは、それらと比例関係にある出力電圧VACおよび出力電流IACと同様に、その積(掛け算値)が一定値かつその大小関係が相反する関係になる。
【0049】
図4に、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nのスイッチング理想波形を示す。パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nのスイッチング波形は、電力変換主回路100の回路動作上、パワー半導体素子101p,101nとパワー半導体素子101pc,101ncとが同じとなるため、図4には2組の波形が図示されている。
【0050】
ここで、必要電圧Vr、必要電流Irのパワー半導体素子101p,101nのオン時の印加電圧の時間傾斜をdvon、同時期の通流電流の時間傾斜をdion、必要電圧Vr、必要電流Irのパワー半導体素子101p,101nのオフ時の印加電圧の時間傾斜をdvoff、同時期の通流電流の時間傾斜をdioffとする。また、必要電圧Vr、必要電流Irのパワー半導体素子101pc,101ncのオン時の印加電圧の時間傾斜をdvcon、同時期の通流電流の時間傾斜をdicon、必要電圧Vr、必要電流Irのパワー半導体素子101pc,101ncのオフ時の印加電圧の時間傾斜をdvcoff、同時期の通流電流の時間傾斜をdicoffとする。このとき、時刻tのスイッチング損失は次式で表される。
【0051】
●パワー半導体素子101p,101nのオン時
fc×∫{[Vr×(1-dvon×t)]×[Ir×dion×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dion×t-dvon×dion×t2)dt …(1)
●パワー半導体素子101p,101nのオフ時
fc×∫{[Ir×(1-dioff×t)]×[Vr×dvoff×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dvoff×t-dioff×dvoff×t2)dt …(2)
●パワー半導体素子101pc,101ncのオン時
fc×∫{[Vr×(1-dvcon×t)]×[Ir×dicon×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dicon×t-dvcon×dicon×t2)dt …(3)
●パワー半導体素子101pc,101ncのオフ時
fc×∫{[Ir×(1-dicoff×t)]×[Vr×dvcoff×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dvcoff×t-dicoff×dvcoff×t2)dt …(4)
【0052】
図5に、クランプダイオード106p,106nのスイッチング理想波形を示す。クランプダイオード106p,106nのスイッチング波形は、回路動作上同じとなるため、図5には1つの波形が記載されている。
【0053】
クランプダイオード106p,106nは、前述したように、パワー半導体素子101p,101nと連動して動作する。その関係性より、クランプダイオード106p,106nのオン時の印加電圧の時間傾斜はdvoffとなり、同時期の通流電流の時間傾斜はdioffとなる。同様に、クランプダイオード106p,106nのオフ時の印加電圧の時間傾斜はdvonとなり、同時期の通流電流の時間傾斜はdionとなる。必要電圧をVr、必要電流をIrとすると、時刻tのクランプダイオード106p,106nのスイッチング損失は次式で表される。
【0054】
●クランプダイオード106p,106nのオン時
fc×∫{[Vr×(1-dvoff×t)]×[Ir×dioff×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dioff×t-dvoff×dioff×t2)dt …(5)
●クランプダイオード106p,106nのオフ時
fc×∫{[Ir×(1-dion×t)]×[Vr×dvon×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dvon×t-dion×dvon×t2)dt …(6)
【0055】
上記の式(1)~(6)より、各損失式は、必要電圧Vrと必要電流Irとの積を括り出せる。前述した通り、必要電圧Vrと必要電流Irとの積は一定値となるため、この部分は、電力変換装置200を構築する際に選定するパワー半導体素子の定格仕様の種類によらず一定値となる。
【0056】
一方、式(1)~(6)の時間積分の部分は、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nのスイッチング動作時の各種時間傾斜が係数となっている。電力変換装置200を構築する際に選定するパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nは、その定格仕様により各種時間傾斜が異なる。よって、図4図5に示す理想波形で想定する時間傾斜と、選定したパワー半導体素子のスイッチング動作時の時間傾斜との間に差があると、スイッチング損失は式(1)~(6)と異なる値となる。
【0057】
そこで、パワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nを駆動する駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnによって時間傾斜を調整する。具体的には、選定されたパワー半導体素子の印加電圧の時間傾斜が理想波形の時間傾斜と同じになるように、駆動回路104p,104pc,104nc,104nに対して直列に接続された抵抗素子103p,103pc,103nc,103nの各抵抗値を調整して、駆動信号Gp,Gpc,Gnc,Gnの波形形状を調節する。
【0058】
以上により、選定されたパワー半導体素子101p,101pc,101nc,101nおよびクランプダイオード106p,106nのスイッチング損失について、式(1)~(6)と同じにすることができる。そして、式(1)~(6)の損失値に基づき冷却器107-1,107-2(図2参照)の構造を決定することで、実現する個々の電力変換装置200における冷却器107-1,107-2のサイズを同一することができる。
【0059】
選定するパワー半導体素子によっては、駆動回路104p,104pc,104nc,104nに対して直列に接続された抵抗素子103p,103pc,103nc,103nの抵抗値の調整で理想波形の時間傾斜と等価にできない場合もある。この場合は、式(1)~(6)において括り出せる搬送波の周波数fcを調整し、スイッチング損失を同じにすればよい。
【0060】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態に係る電力変換装置が適用される電力変換システムの構成例を示すブロック図である。
【0061】
図6に示すように、本電力変換システムは、たとえば2つの電力変換装置2000,2000によって電力変換装置群を構築し、商用電源500の交流電源を直流に順方向変換し、可変電圧・可変周波数の交流に逆変換することが可能な構成となっている。すなわち、本電力変換システムにおいて、商用電源500側の電力変換装置2000は、商用周波数の交流電圧を直流に順方向変換するコンバータであり、交流電動機400側の電力変換装置2000は、可変電圧・可変周波数の交流に逆変換するインバータである。
【0062】
図6において、2つの電力変換装置2000,2000は、正極母線Pおよび負極母線Nのそれぞれを、それぞれが内蔵する後述するパワー半導体素子(図7参照)を介して出力点ACに接続する構成を備えている。
【0063】
2つの電力変換装置2000,2000は、それぞれが内蔵するパワー半導体素子をスイッチング動作させることで、実質的に交流電圧を作り出す。図6の例では、商用電源500から変圧器300を介して与えられる交流電圧を、商用電源500側の電力変換装置2000(即ち、コンバータ)で直流電圧Eに変換する。さらに、商用電源500側の電力変換装置2000で得られた直流電圧Eを、交流電動機400側の電力変換装置2000(即ち、インバータ)で任意の周波数および振幅の交流電圧に変換して交流電動機400に供給する。この交流-直流-交流変換によって3相の交流電動機400を可変速制御することができる。
【0064】
また、2つの電力変換装置2000,2000が内蔵するパワー半導体素子のスイッチング動作により、交流電動機400からの交流電圧を、交流電動機400側の電力変換装置2000で直流電圧Eに変換し、さらに、変換して得られた直流電圧Eを、商用電源500側の電力変換装置2000で商用周波数の交流電圧へ変換することにより、変圧器300を介して商用電源500に電力を回生することができる。これにより、交流電動機400の速度を減速制御することができる。
【0065】
(第2実施形態に係る電力変換装置を構成する電力変換主回路)
図7は、第2実施形態に係る電力変換装置を構成する電力変換主回路の構成例を示す回路図である。ここでは、直流電圧が2レベル(正極母線Pおよび負極母線Nの各電圧)の電力変換装置の場合を例示している。
【0066】
図7において、第2実施形態に係る電力変換装置2000を構成する電力変換主回路1000は、正極母線Pと負極母線Nとの間に、直列に接続された2つのパワー半導体素子101p,101nを有している。ここでは、パワー半導体素子101p,101nとして、IGBTを用いる場合を例示している。
【0067】
2つのパワー半導体素子101p,101nには、フリーホイールダイオード102p,102nが逆方向並列接続されている。パワー半導体素子101p,101nの各ゲートは、抵抗素子103p,103nを経由して駆動回路104p,104nに電気的に接続されている。そして、パワー半導体素子101p,101nは、駆動回路104p,104nから各ゲートに与えられる駆動信号Gp,Gnに応答してスイッチング動作を繰り返す。
【0068】
駆動回路104p,104nには、制御回路105からスイッチング指令信号が与えられる。制御回路105は、たとえばPWM変調によって生成したスイッチング指令信号を駆動回路104p,104nのそれぞれに与える。なお、制御回路105は、3相回路の1相毎に1回路が構成される場合もあれば、3相回路毎に1回路が構成される場合もある。ここでは、1相毎に1回路が構成される場合を例示している。
【0069】
電力変換主回路100には、パワー半導体素子101p,101nを冷却する冷却器107(107-1,107-2)が設けられている。冷却器107は、1つのパワー半導体素子毎に1つ設けられる場合もあれば、複数のパワー半導体素子毎に1つ設けられる場合もある。ここでは、パワー半導体素子101pおよびフリーホイールダイオード102pの回路単位毎に、ならびに、パワー半導体素子101nおよびフリーホイールダイオード102nの回路単位毎に、冷却器107が1つずつ設けられる構成の場合を例示している。
【0070】
図7に示す第2実施形態に係る電力変換装置2000において、直流電圧Eは、直流母線、即ち、正極母線Pおよび負極母線Nを介して電力変換主回路1000に印加される。電力変換主回路1000において、パワー半導体素子101p,101nは、制御回路105による制御の下に、任意の時間幅と周期でスイッチング動作を行い、複数のパワー半導体素子が同時にオンしないように制御される。
【0071】
(パワー半導体素子のスイッチング動作について)
図8は、第2実施形態に係る電力変換装置2000を構築する電力変換主回路1000におけるパワー半導体素子101p,101nの駆動信号Gp,Gnについて説明する波形図である。図8には、出力点ACに対する交流電圧指令信号V*、出力点ACの実際の出力電圧(インバータ出力電圧)VAC、および、パワー半導体素子101p,101nの駆動信号Gp,Gnの各波形の一例を図示している。
【0072】
制御回路105において、任意周波数および振幅の交流電圧指令信号V*は、周波数fcの搬送波Cr31,Cr32とその振幅が比較される。制御回路105は、その振幅の大小関係に基づいて、パワー半導体素子101p,101nの駆動信号Gp,Gnを生成する。そして、制御回路105は、生成した駆動信号Gp,Gnに基づいて、パワー半導体素子101p,101nをスイッチング駆動する。これにより、出力点ACには、交流電圧指令信号V*と等価な出力電圧VACが出力される。
【0073】
ここで、PWM変調の変調率をKとすると、出力点ACの出力電圧VACの実効値は、K×E/√2となり、電力変換主回路1000の直流電圧に比例する電圧となる。
【0074】
また、交流電圧指令信号V*は、電力変換主回路1000に出力させたい出力電流IACに応じて波高値が決定され、搬送波Crと交流電圧指令信号V*の波高値の比が、PWM変調の変調率Kとなる。
【0075】
パワー半導体素子101p,101nがIGBTのような電圧駆動型のパワー半導体素子の場合、パワー半導体素子101p,101nの駆動信号Gp,Gnは電圧信号となる。
【0076】
図6に示すように、2つの電力変換装置2000,2000の出力点ACには、負荷回路(具体的には、交流電動機400あるいは変圧器300)が接続されている。そして、当該負荷回路に対して、直流電圧と任意周波数および振幅の交流電圧との間を順または逆変換することで、電力の供給および回収をすることができる。
【0077】
(電力変換主回路の構造について)
ここで、図7を用いて、電力変換主回路1000の構造について説明する。
【0078】
本実施形態に係る電力変換装置2000によって構築される電力変換装置群は、共通構造の3つの電力変換主回路1000に対して様々な出力仕様を付与でき、それらが適用される負荷仕様に応じて出力電圧VACおよび出力電流IACの各々の最大値を設定する。そして、出力電圧VACおよび出力電流IACの各々の最大値に基づいて、電力変換主回路100の各導体CDP,CDAC,CDNと大地GNDとの間、および、異電位の導体間の絶縁距離IDP,IDAC,IDN、ならびに、各導体CDP,CDAC,CDNの寸法を決定する。
【0079】
ここで、導体CDPは、正極母線Pを含む導体であり、導体CDNは、負極母線Nを含む導体であり、導体CDACは、出力点ACにつながる配線AC1を含む導体である。すなわち、導体CDP,CDAC,CDNは、パワー半導体素子101p,101nに電気的に繋がる導体であり、電力変換主回路1000の配線構造を構成している。
【0080】
本実施形態に係る電力変換装置2000によって構築される電力変換装置群には、個々の電力変換装置2000の定格出力時の出力電圧VACと出力電流IACとの掛け算値である皮相電力が同じという制約が設けられる。この制約により、出力電圧VACおよび出力電流IACは、その積(掛け算値)が一定値かつその大小関係が相反する関係になる。
【0081】
一方、電力変換主回路1000に適用されるパワー半導体素子101p,101nは、電力変換主回路1000の動作において、各々に印加される直流電圧Eに比例する必要電圧Vrと、電力変換主回路1000の出力電流IACに比例する必要電流Irの各々を許容する定格仕様のものを適用する。
【0082】
前述のとおり、出力電圧VACは、直流電圧Eと比例関係にあるため、直流電圧Eと比例関係にある必要電圧Vrも出力電圧VACと比例関係にある。
【0083】
以上より、必要電圧Vrおよび必要電流Irは、それらと比例関係にある出力電圧VACおよび出力電流IACと同様に、その積(掛け算値)が一定値かつその大小関係が相反する関係になる。
【0084】
図9に、パワー半導体素子101p,101nのスイッチング理想波形を示す。パワー半導体素子101p,101nのスイッチング波形は、電力変換主回路1000の回路動作上同じとなるため、図9には1つの波形が記載されている。
【0085】
ここで、必要電圧Vr、必要電流Irのパワー半導体素子101p,101nのオン時の印加電圧の時間傾斜をdvon、同時期の通流電流の時間傾斜をdion、パワー半導体素子101p,101nのオフ時の印加電圧の時間傾斜をdvoff、同時期の通流電流の時間傾斜をdioffとする。このとき、時刻tのスイッチング損失は次式で表される。
【0086】
●パワー半導体素子101p,101nのオン時
fc×∫{[Vr×(1-dvon×t)]×[Ir×dion×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dion×t-dvon×dion×t2)dt …(11)
●パワー半導体素子101p,101nのオフ時
fc×∫{[Ir×(1-dioff×t)]×[Vr×dvoff×t]}dt
=fc×Vr×Ir×∫(dvoff×t-dioff×dvoff×t2)dt …(12)
【0087】
上記の式(11),(12)より、各損失式は、必要電圧Vrと必要電流Irとの積を括り出せる。前述した通り、必要電圧Vrと必要電流Irとの積は一定値となるため、この部分は、電力変換装置2000を構築する際に選定するパワー半導体素子の定格仕様の種類によらず一定値となる。
【0088】
一方、式(11),(12)の時間積分の部分は、パワー半導体素子101p,101nのスイッチング時の各種時間傾斜が係数となっている。電力変換装置2000を構築する際に選定するパワー半導体素子101p,101nは、その定格仕様により各種時間傾斜が異なる。よって、図9に示す理想波形で想定する時間傾斜と、選定したパワー半導体素子のスイッチング動作時の時間傾斜との間に差があると、スイッチング損失は式(11),(12)と異なる値となる。
【0089】
そこで、パワー半導体素子101p,101nを駆動する駆動信号Gp,Gnによって時間傾斜を調整する。具体的には、選定されたパワー半導体素子の時間傾斜が理想波形の時間傾斜と同じになるように、駆動回路104p,104nにして直列に接続された抵抗素子103p,103nの各抵抗値を調整して、駆動信号Gp,Gnの波形形状を調節する。
【0090】
以上より、選定されたパワー半導体素子101p,101nのスイッチング損失について、式(11),(12)と同じにすることができる。そして、式(11),(12)の損失値に基づき冷却器107-1,107-2(図7参照)の構造を決定することで、実現する個々の電力変換装置2000における冷却器107-1,107-2を同一にすることができる。
【0091】
選定するパワー半導体素子によっては、駆動回路104p,104nに対して直列に接続された抵抗素子103p,103nの抵抗値の調整で理想波形の時間傾斜と等価にできない場合もある。この場合は、式(11),(12)において括り出せる搬送波の周波数fcを調整し、スイッチング損失を同じにすればよい。
【0092】
[変形例]
なお、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限り、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために装置およびシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
100,1000…電力変換主回路、101p,101pc,101nc,101n…パワー半導体素子、102p,102pc,102nc,102n…フリーホイールダイオード、103p,103pc,103nc,103n…抵抗素子、104p,104pc,104nc,104n…駆動回路、105…制御回路、200,2000…電力変換装置、300…変圧器、400…交流電動機、500…商用電源、CDP,CDP1,CDAC,CDCOM,CDN1,CDN…導体、IDP,IDP1,IDAC,IDCOM,IDN1,IDN…絶縁距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9