(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176844
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20221122BHJP
【FI】
H02J50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083509
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000116079
【氏名又は名称】ローレルバンクマシン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500267170
【氏名又は名称】ローレル機械株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500265501
【氏名又は名称】ローレル精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀行
(72)【発明者】
【氏名】大堀 隼輝
(72)【発明者】
【氏名】土方 亘
(72)【発明者】
【氏名】李 想
(72)【発明者】
【氏名】小澤 茂樹
(57)【要約】
【課題】負荷側回路のインピーダンスが変動しても、送電効率の低下を軽減するワイヤレス給電システムを提供する。
【解決手段】ワイヤレス給電システム1は、送電コイル32を含む送電側共振回路36を備えている送電装置3と、受電コイル41を含む受電側共振回路43を備え、受電コイル41を介して受電した電力を負荷8に供給する受電装置4と、送電装置3の入力端IEから負荷8側の回路のインピーダンスである負荷側インピーダンスと送電装置3の入力端から交流電源5側の回路のインピーダンスである入力側インピーダンスとの差分を緩和するインピーダンスマッチング処理を行うコイル移動機構9と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界共鳴方式により電力を送電するワイヤレス給電システムであって、
送電コイルを含む送電側共振回路を備えている送電装置と、
受電コイルを含む受電側共振回路を備え、前記受電コイルを介して受電した電力を負荷に供給する受電装置と、
前記送電装置の入力端から負荷側の回路のインピーダンスである負荷側インピーダンスと前記送電装置の入力端から電源装置側の回路のインピーダンスである入力側インピーダンスとの差分を緩和するインピーダンスマッチング処理を行うインピーダンスマッチング機構と、
を備えていることを特徴とするワイヤレス給電システム。
【請求項2】
前記送電装置は、前記送電コイルと磁界結合可能に設けられて前記送電コイルに電力を送電する給電コイルをさらに備え、
前記インピーダンスマッチング機構は、前記給電コイル及び送電コイルの相対位置を変更するコイル移動機構であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項3】
前記受電装置の出力電圧を所定の電圧に変換する電圧変換回路をさらに備え、
前記コイル移動機構は、前記電圧変換回路の作動状態に応じて、前記給電コイルを前記送電コイルに対して相対移動させることを特徴とする請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項4】
前記インピーダンスマッチング機構は、前記送電コイル及び受電コイルの相対位置を変更可能なコイル移動機構であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項5】
前記コイル移動機構は、前記送電コイル及び受電コイルの位置関係に応じて、前記送電側共振回路のインピーダンスが前記受電側共振回路のインピーダンスにマッチングするように、前記送電コイル及び受電コイルの相対位置を変更させることを特徴とする請求項4に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項6】
前記送電装置は、前記送電コイルに起電力を生じさせるための給電コイルをさらに備え、
前記コイル移動機構は、前記給電コイルの位置を移動させることを特徴とする請求項2から請求項5の何れか1項に記載のワイヤレス給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレス給電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁界共振結合(磁界共鳴)を利用したワイヤレス給電システムの研究開発が進められている。磁界共振結合とは、送電装置の共振回路に交流電流が流れることにより発生した磁場の振動が、受電装置の共振回路に伝わって共振することで、各共振回路のコイルで生成された磁界が強固に結合した状態をいう。磁界共振結合を利用したワイヤレス給電は、従来の電磁誘導(磁界結合)を利用したワイヤレス給電と比較して、給電可能距離が長くなるという利点がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなワイヤレス給電システムでは、効率良く送電を行うために、送電装置から視て受電装置及び負荷等を含む負荷側回路のインピーダンスと、送電装置から視て電源側のインピーダンスとが等価に設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した負荷側回路には、例えば、バッテリやモータなどの駆動部材が接続され、このバッテリやモータが負荷となる。そのため、バッテリやモータなどの駆動状態によって、負荷側回路に流れる電流に変動が生じることがある。ワイヤレス給電システムでは、負荷側回路に流れる電流の変動に応じて負荷側回路のインピーダンスが変動するため、送電装置から視て負荷側回路のインピーダンスと送電装置から視て電源側のインピーダンスとがマッチングしなくなり、送電効率が著しく低下して送電電力が低下し、その結果、システム障害を招く虞があるという問題があった。
【0006】
そこで、負荷側回路のインピーダンスが変動しても、送電効率の低下を軽減するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るワイヤレス給電システムは、磁界共鳴方式により電力を送電するワイヤレス給電システムであって、送電コイルを含む送電側共振回路を備えている送電装置と、受電コイルを含む受電側共振回路を備え、前記受電コイルを介して受電した電力を負荷に供給する受電装置と、前記送電装置の入力端から負荷側の回路のインピーダンスである負荷側インピーダンスと前記送電装置の入力端から電源装置側の回路のインピーダンスである入力側インピーダンスとの差分を緩和するインピーダンスマッチング処理を行うインピーダンスマッチング機構と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、インピーダンスマッチング処理により入力端における入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和されるため、入力端における反射波の発生が抑制され、送電効率の低下や、それに伴うシステム障害の虞を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤレス給電システムの構成を示す模式図である。
【
図2】コイル移動機構が、給電コイルをコイル軸に対して垂直方向に移動させる様子を示す模式図である。
【
図3】コイル移動機構が、給電コイルを揺動させる様子を示す模式図である。
【
図4】負荷電圧と負荷電流との関係を示すグラフである。
【
図5】負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るワイヤレス給電システム1について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0011】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0012】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0013】
<ワイヤレス給電システムの構成>
図1は、ワイヤレス給電システム1の構成を示す模式図である。ワイヤレス給電システム1は、磁界共振結合(磁界共鳴)を利用して非接触で給電対象物2に電力を給電する。給電対象物2は、例えば、車両、ロボット飛翔体、水中ロボット、カプセル内視鏡、心臓ペースメーカー等である。ワイヤレス給電システム1は、送電装置3と、受電装置4と、を備えている。
【0014】
<送電装置の構成>
送電装置3は、給電コイル31と、送電コイル32と、コンデンサ33、34と、を備えている。
【0015】
給電コイル31及び送電コイル32は、電気伝導率の高い銅線等を円形に巻回して形成されている。なお、銅線内を流れる電流は、内部抵抗の影響によって銅線の中心部よりも表面付近を多く流れる。したがって、給電コイル31及び送電コイル32の線材に複数の銅線を撚り合わせたリッツ線を用いた場合には、同一径の1本の銅線と比べて、リッツ線の表面積が大きくなり、より多くの電流を流すことができ、電流損失を抑制できる。
【0016】
給電コイル31には、交流電源5から交流電力が供給される。交流電力は、例えば、周波数150kHz、電圧10Vに設定されるが、交流電源5の周波数及び電圧は任意に変更可能である。以下、給電コイル31の交流電源5側の接点を「入力端IE」という。なお、本実施形態では、給電コイル31と交流電源5とは、入力端IEを介して直接的に接続されている場合を例に説明するが、給電コイル31と交流電源5とは、入力端IEを介して直接的に接続されても、交流電源5と入力端IEとの間に設けられた同軸ケーブル等を介して間接的に接続されても構わない。この場合、もし電源のインピーダンスが同軸ケーブル等のインピーダンスと整合している場合は、同軸ケーブル等の電源側端は電力の反射等が生じないため問題にはならず、入力端IEは同軸ケーブル等の負荷側端を意味する。
【0017】
給電コイル31及びコンデンサ33は、直列に接続されて給電側共振回路35を構成している。給電コイル31のインダクタンス及びコンデンサ33のキャパシタンスによって設定される共振周波数に応じた周波数の交流電圧が給電コイル31に流れると、給電コイル31を貫くように振動磁場が生じる。
【0018】
送電コイル32のコイル軸32aは、通常状態において、給電コイル31のコイル軸31aと略平行に配置されている。給電コイル31と送電コイル32とは磁界結合しており、給電コイル31に交流電流が流れると、給電コイル31をコイル軸方向に貫くように生じる磁束を媒介にして、送電コイル32にも起電力が生まれる。
【0019】
送電コイル32及びコンデンサ34は、直列に接続されて送電側共振回路36を構成している。送電コイル32のインダクタンス及びコンデンサ33のキャパシタンスによって設定される共振周波数に応じた周波数の交流電圧が送電コイル32に流れると、送電コイル32をコイル軸方向に貫くように振動磁場が生じる。この送電コイル32で生じた振動磁場が受電装置4の少なくとも一部まで到達する。
【0020】
<受電装置の構成>
受電装置4は、給電対象物2内に設けられている。受電装置4は、受電コイル41と、コンデンサ42と、備えている。
【0021】
受電コイル41は、送電コイル32とコイル軸方向に間隔を空けて設けられている。受電コイル41は、電気伝導率の高い銅線等を円形に巻回して形成されている。なお、受電コイル41も給電コイル31及び送電コイル32と同様に、線材にリッツ線を用いるのが好ましい。
【0022】
受電コイル41とコンデンサ42とは、直列に接続されて受電側共振回路43を構成している。受電コイル41のインダクタンス及びコンデンサ42のキャパシタンスによって設定される共振周波数は、送電コイル32及びコンデンサ33の共振周波数と一致するように設定されている。これにより、送電コイル32をコイル軸方向に貫くように生じた磁場の振動によって、受電コイル41に誘導電流が流れ、受電コイル41をコイル軸方向に貫くように振動磁場が生じる。このとき、送電コイル32及び受電コイル41の磁場が共鳴して強固に結合する。
【0023】
受電コイル41が共振受電した交流電力は、整流回路6及びDC-DCコンバータ7を介して負荷8に供給される。負荷8は、給電対象物2を構成するモータやバッテリ等である。
【0024】
整流回路6は、4つのダイオード61がブリッジ上に配置され、受電コイル41が受電した交流電力に対して全波整流を行い、直流電圧を出力する。なお、符号62は、整流回路6が出力した直流電圧を平滑化させるコンデンサである。
【0025】
DC-DCコンバータ7は、整流された直流電圧を予め設定された定電圧(例えば、12V)に変換する。DC-DCコンバータ7から出力された電圧は、負荷8に印加される。
【0026】
<インピーダンスマッチング機構の構成>
次に、入力端IEから受電装置4側、即ち送電装置3、受電装置4、整流回路6、DC-DCコンバータ7及び負荷8を含む回路(負荷側回路)のインピーダンス(以下、「負荷側インピーダンス」という。)と入力端IEから交流電源5側の回路のインピーダンス(以下、「入力側インピーダンス」という。)との差分を緩和させるインピーダンスマッチング処理を行うインピーダンスマッチング機構について、図面に基づいて説明する。
【0027】
図1に示すように、インピーダンスマッチング機構は、給電コイル31を送電コイル32に対して相対的に移動させるコイル移動機構9である。コイル移動機構9は、直動機構91と、揺動機構92と、を備えている。
【0028】
直動機構91は、プランジャー91aと、ケース91bと、を備えているソレノイドである。プランジャー91aの先端には、給電コイル31が接続されている。プランジャー91aが、給電コイル31のコイル軸31aに対して垂直方向に進退出することにより、給電コイル31のコイル軸31aと送電コイル32のコイル軸32aとが略平行状態を維持したまま、各コイル軸31a、32aが離間又は近接(一致)するように移動する。
【0029】
具体的には、
図2(a)に示すように、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aと同軸上に位置するときの給電コイル31の位置を原位置とすると、
図2(b)に示すように、プランジャー91aが進出して、給電コイル31が原位置からコイル軸31aに直交する方向に離れるように移動したり、
図2(c)に示すように、プランジャー91aが退出して、給電コイル31が原位置からコイル軸31aに直交する方向に離れるように移動する。このようにして、直動機構91は、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aに対して平行移動するように、給電コイル31をスライドさせる。
【0030】
プランジャー91aのストローク範囲(片側)は、例えば、給電コイル31の半径以下に設定されている。これにより、給電コイル31がコイル軸31aに直交する何れかの方向に最大限移動した場合であっても、給電コイル31のコイル軸31aから視て、給電コイル31の少なくとも一部が送電コイル32の少なくとも一部と重なる状態を保つことができる。
【0031】
図3に示すように、揺動機構92は、ケース91bを支持するとともにケース91bを回転軸92a回りに揺動させる。
【0032】
図3(a)に示すように、給電コイル31のコイル軸31aと直交するときのプランジャー91aの位置を原位置とすると、
図3(b)に示すように、揺動機構92が原位置に位置する給電コイル31を傾けながら送電コイル32から離したり、
図3(c)に示すように、揺動機構92が原位置に位置する給電コイル31を傾けながら送電コイル32に接近させる。このようにして、揺動機構92は、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aに対して傾けつつ、給電コイル31を送電コイル32に対して遠近移動する。なお、このとき、給電コイル31をその中心点を中心に傾ける機構にすれば、給電コイル31の送電コイル32に対する遠近移動は発生せずに、給電コイル31の傾斜のみでの制御も可能である。
【0033】
ここで、ワイヤレス給電システム1では、給電コイル31のコイル軸31aと送電コイル32のコイル軸32aとが同軸上に位置する場合には、磁気誘導結合が密になるため、給電コイル31に流れる電流により送電コイル32に発生する起電力は大きくなる。つまり、給電コイル31と送電コイル32でのインピーダンスが小さくなり、入力端IEから視たインピーダンスは、受電コイル41よりも下流側(負荷8側)のインピーダンスが直接影響を及ぶことになる。
【0034】
一方、給電コイル31のコイル軸31aが、送電コイル32のコイル軸32aに対してコイル軸31aに直行する方向にオフセットしている場合には、磁気誘導結合が疎となるため、給電コイル31に流れる電流により送電コイル32に発生する起電力は小さくなる。つまり、給電コイル31と送電コイル32でのインピーダンスが大きくなり、入力端IEから視たインピーダンスは、受電コイル41よりも下流側(負荷8側)のインピーダンスの影響を受けにくくなる。
【0035】
このようにして、ワイヤレス給電システム1では、インピーダンスマッチング機構により、給電コイル31と送電コイル32でのインピーダンスを制御することで、受電コイル41よりも下流側(負荷8側)のインピーダンスの影響を制御することができ、入力端IEから視たインピーダンスが、負荷8の動作状況によるインピーダンス変化を受けにくいシステムを実現することができる。
【0036】
具体的には、ワイヤレス給電システム1では、負荷8の電力が大きく負荷8のインピーダンスが小さい場合は、給電コイル31の入力端IEから見た負荷側インピーダンスも小さくなる一方で、入力側インピーダンスは変動しない。したがって、負荷側インピーダンスを、入力側インピーダンスと一致又は近づけるためには負荷側インピーダンスを大きくする必要がある。この場合、インピーダンスマッチング機構のコイル移動機構9により、給電コイル31のコイル軸31aと送電コイル32のコイル軸32aとを略平行状態を保ちながら、コイル軸31aと直行する方向に給電コイル31を移動させる。これにより、給電コイル31と送電コイル32でのインピーダンスが大きくなり、負荷側インピーダンスを大きくすることができる。このとき、負荷側インピーダンスを入力側インピーダンスと略等しいインピーダンスに制御することにより、電力反射が抑制され、効率的なシステム駆動状況を実現することができる。
【0037】
一方、ワイヤレス給電システム1では、負荷8の電力が小さく負荷8のインピーダンスが大きい場合は、給電コイル31の入力端IEから見た負荷側インピーダンスも大きくなる一方で、入力側インピーダンスは変動しない。したがって、負荷側インピーダンスを、入力側インピーダンスと一致又は近づけるためには負荷側インピーダンスを小さくする必要がある。この場合、インピーダンスマッチング機構のコイル移動機構9により、給電コイル31のコイル軸31aと送電コイル32のコイル軸32aとが同軸上に位置するように、給電コイル31を移動させる。これにより、給電コイル31と送電コイル32でのインピーダンスが小さくなり、負荷側インピーダンスを小さくすることができる。このとき、負荷側インピーダンスを入力側インピーダンスと略等しいインピーダンスに制御することにより、電力反射が抑制され、効率的なシステム駆動状況を実現することができる。
【0038】
なお、
図3(b)に示すように、給電コイル31が送電コイル32から離れるように揺動する場合のプランジャー91aの回転角度を負(-)、
図3(c)に示すように、給電コイル31が送電コイル32に接近するように揺動する場合のプランジャー91aの回転角度を正(+)とすると、揺動機構92の回転範囲は、例えば、プランジャー91aの原位置を中心に±30度に設定されるのが好ましい。
【0039】
図1に戻って、コイル移動機構9の動作は、コントローラ93によって制御される。コントローラ93は、例えば、CPU、メモリ等により構成される。なお、コントローラ93の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作することにより実現されても良い。コントローラ93は、記憶部94と、制御部95と、に機能分割される。
【0040】
記憶部94には、DC-DCコンバータ7から出力されて負荷8に供給される負荷電圧と負荷電流との関係を示す関数、及び負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示す関数がそれぞれ記憶されている。負荷8に供給される負荷電圧及び負荷電流は、DC-DCコンバータ7と負荷8との間に設けられた測定部96により、リアルタイム且つ連続的に測定される。なお、測定部96は、負荷電圧を測定するものに限定されず、負荷電流を測定するもの等、もしくはその両方であっても構わない。
【0041】
具体的には、
図4に示すように、負荷電圧と負荷電流との関係を示す関数は、DC-DCコンバータ7への入力電圧(例えば15V)がDC-DCコンバータ7の作動電力(例えば12V)以下であって、DC-DCコンバータ7が作動していないアイドリング状態(コンバータOFF)における負荷電圧と負荷電流との関係を示す関数と、DC-DCコンバータ7への入力電圧がDC-DCコンバータ7の作動電力を超えてDC-DCコンバータ7が作動している状態(コンバータON)における負荷電圧と負荷電流との関係を示す関数とを含む。
【0042】
また、
図5に示すように、負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示す関数は、DC-DCコンバータ7がアイドリングしている状態(コンバータOFF)における負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示す関数と、DC-DCコンバータ7が作動していない状態(コンバータON)における負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示す関数とを含む。
【0043】
なお、負荷電圧と負荷電流との関係を示す関数及び負荷電流と負荷側インピーダンスとの関係を示す関数は、予め実験等により算出されるものであっても構わないし、
図4、5で例示した一次関数のグラフに限定されるものではない。
【0044】
制御部95は、測定部96の測定値及び記憶部94に記憶された各種関数に基づいて、コイル移動機構9の動作を制御する。制御部95による動作制御の詳細は後述する。
【0045】
このようにして、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、測定部96で測定した負荷側インピーダンスの変動に応じて、インピーダンスマッチング機構により給電コイル31と送電コイル32との位置関係を即座に変えることができ、入力端IEにおける入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分をリアルタイムに緩和することができる。
【0046】
<インピーダンスマッチング処理>
次に、コイル移動機構9が実行するインピーダンスマッチング処理について、図面に基づいて説明する。
【0047】
まず、負荷側インピーダンスが、DC-DCコンバータ7のオンオフに応じて変動する理由について説明する。なお、本実施形態では、負荷側インピーダンスが、DC-DCコンバータ7のオンオフに応じて変動する場合を例示して説明するが、負荷側インピーダンスの変動は、DC-DCコンバータ7のオンオフだけではなく、例えば、送電コイル32と受電コイル41との相対位置の変化、負荷8の駆動状況(出力)の変化等によっても生じ得るものであり、これら様々な要因による負荷インピーダンスの変動の抑制に利用できることは言うまでもない。
【0048】
図4に示すように、DC-DCコンバータ7がアイドリングしている状態(コンバータOFF)では、DC-DCコンバータ7の出力電圧はほぼゼロであり、負荷電流も非常に小さくなる。そして、
図5から、負荷電流が小さいときには、負荷側インピーダンスは、極めて大きいことが分かる。
【0049】
一方、
図4に示すように、DC-DCコンバータ7が作動している状態(コンバータON)場合には、DC-DCコンバータ7への入力電圧に応じた負荷電圧が出力され、負荷電圧に比例して負荷電流が急増する。そして、
図5から、負荷電流が大きいときには、負荷側インピーダンスが極めて小さいことが分かる。
【0050】
このようして、負荷側インピーダンスが、DC-DCコンバータ7の作動状態に応じて変動する一方で、入力側インピーダンスは、所定値(例えば50Ω)で固定されているため、入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとがマッチングせず、入力端IEにおいて反射波が発生して送電効率が低下したり、送電電力が足りずにシステム障害を招く虞がある。
【0051】
そこで、コントローラ93は、負荷側インピーダンスの変動に応じて、送電装置3内の回路のインピーダンスを増減させる。
【0052】
具体的には、まず、制御部95は、測定部96が測定した負荷電圧及び
図4に示す関数に基づいて負荷電流を算出する。また、制御部95は、算出した負荷電流及び
図5に示す関数に基づいて、負荷側インピーダンスを算出する。
【0053】
次に、負荷側インピーダンスが入力側インピーダンスにマッチングするように、制御部95は、コイル移動機構9を制御し、送電装置3内の回路のインピーダンスを調整する。
【0054】
例えば、DC-DCコンバータ7がアイドリングしており、負荷側インピーダンスが入力側インピーダンスに対して大きい状態では、
図2(b)、(c)に示すようにプランジャー91aが給電コイル31を変位させ、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aに一致する又は接近することにより、給電コイル31と送電コイル32との磁気誘導結合が密になり、送電装置3内の回路のインピーダンスが減少する。その結果、入力端IEにおける負荷側インピーダンスが小さくなり、入力側インピーダンスとの差分が緩和される。
【0055】
一方、DC-DCコンバータ7が作動しており、負荷側インピーダンスが入力側インピーダンスに対して小さい状態では、プランジャー91aが給電コイル31を変位させ、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aから離れることにより、給電コイル31と送電コイル32との磁気誘導結合が疎になり、送電装置3内の回路のインピーダンスが増大する。その結果、入力端IEにおける負荷側インピーダンスが大きくなり、入力側インピーダンスとの差分が緩和される。
【0056】
なお、給電コイル31のコイル軸31a及び送電コイル32のコイル軸32aのオフセット量(プランジャー91aのストローク量)と送電装置3内の回路のインピーダンスの変化量との関数は、予め実験等により得たものを用いる。
【0057】
また、コイル移動機構9は、給電コイル31をコイル軸方向に対して垂直方向に変位させる代わりに、予め実験等により得られた、給電コイル31のコイル軸31a及び送電コイル32のコイル軸32aの傾き及び給電コイル31及び送電コイル32の距離と送電装置3内の回路のインピーダンスの変化量との関数に基づいて、揺動機構92が、給電コイル31を揺動させても構わない。
【0058】
具体的には、DC-DCコンバータ7がアイドリングしている状態では、
図3(b)、(c)に示すように揺動機構92が給電コイル31を揺動して、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aに対して並行に近くなるとともに給電コイル31が送電コイル32に対して接近することにより、給電コイル31と送電コイル32との磁気誘導結合が密になり、送電装置3内の回路のインピーダンスが減少して、入力端IEにおける入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和される。
【0059】
一方、DC-DCコンバータ7が作動している状態では、揺動機構92が給電コイル31を揺動して、給電コイル31のコイル軸31aが送電コイル32のコイル軸32aに対して傾くとともに給電コイル31が送電コイル32に対して離れることにより、給電コイル31と送電コイル32との磁気誘導結合が疎になり、送電装置3内の回路のインピーダンスが増大して、入力端IEにおける入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和される。
【0060】
このようにして、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、磁界共鳴方式により電力を送電するワイヤレス給電システム1であって、送電コイル32を含む送電側共振回路36を備えている送電装置3と、受電コイル41を含む受電側共振回路43を備え、受電コイル41を介して受電した電力を負荷8に供給する受電装置4と、送電装置3の入力端IEから負荷8側の回路のインピーダンスである負荷側インピーダンスと送電装置3の入力端IEから交流電源5側の回路のインピーダンスである入力側インピーダンスとの差分を緩和するインピーダンスマッチング処理を行うインピーダンスマッチング機構と、を備えている構成した。
【0061】
この構成により、負荷側インピーダンスと入力側インピーダンスとが一致しない場合に、インピーダンスマッチング処理により入力端IEから視た入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和されるため、入力端IEにおける反射波の発生が抑制され、送電効率の低下や、送電電力の減少に起因するシステム障害を回避することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、送電装置3が、送電コイル32と磁気的結合可能に設けられて送電コイル32に電力を送電する給電コイル31をさらに備え、インピーダンスマッチング機構は、給電コイル31及び送電コイル32の相対位置を変更するコイル移動機構9である構成とした。
【0063】
この構成により、給電コイル31及び送電コイル32の相対位置関係に応じて、給電コイル31及び送電コイル32の磁気的結合が粗又は密になることにより、送電装置3内の回路のインピーダンスが増減して、入力端IEから視た入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和されるため、入力端IEにおける反射波の発生が抑制され、送電効率の低下や、送電電力の減少に起因するシステム障害を回避することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、受電装置4の出力電圧を所定の電圧に変換するDC-DCコンバータ7をさらに備え、コイル移動機構9は、DC-DCコンバータ7の作動状態に応じて、給電コイル31を送電コイル32に対して相対移動させる構成とした。
【0065】
この構成により、DC-DCコンバータ7のオンオフに伴って負荷側インピーダンスが急増又は急減する場合であっても、給電コイル31及び送電コイル32の相対位置関係に応じて、給電コイル31及び送電コイル32の磁気的結合が粗又は密になることにより、送電装置3内の回路のインピーダンスが増減して、入力端IEにおける入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和されるため、入力端IEにおける反射波の発生が抑制され、送電効率の低下や、送電電力の減少に起因するシステム障害を回避することができる。
【0066】
また、送電装置3は、送電コイル32に起電力を生じさせるための給電コイル31をさらに備え、コイル移動機構9は、給電コイル31の位置を移動させる構成とした。
【0067】
この構成により、例えば、ワイヤレス給電システム1を送電コイル32と受電コイル41のみを有する2コイルシステムで構成した場合、負荷側インピーダンスを変動させるために、送電コイル32の位置を移動させると、送電コイル32のコイル軸32aと受電コイル41のコイル軸とが同軸に位置せずに送電効率が低下する虞があるところ、給電コイル31を介して送電コイル32に送電することにより、送電コイル32と受電コイル41との位置関係を変えることなく、給電コイル31と送電コイル32との位置関係を変えることで、負荷側インピーダンスを制御することができ、良好な送電効率を維持することができるという効果も得られる。
【0068】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【0069】
また、上述した実施形態では、負荷側インピーダンスが変動する要因として、DC-DCコンバータ7のオンオフに伴う負荷電流の変動を例に説明したが、負荷側インピーダンスが変動する要因はこれに限定されるものではない。
【0070】
例えば、給電対象物2の移動に伴って負荷側インピーダンスが変動することも考えられる。その場合には、送電側共振回路36のインピーダンスと受電側共振回路43のインピーダンスとがマッチングするように、コイル移動機構9が給電コイル31と送電コイル32との相対位置を移動させても構わない。
【0071】
また、上述した実施形態では、インピーダンスマッチング機構として、送電コイル32に対して給電コイル31を相対的に移動させるコイル移動機構9を例に説明したが、給電コイル31と送電コイル32との位置関係を変えることができる機構であれば、コイル移動機構9の構成は、これに限定されるものではない。
【0072】
例えば、コイル移動機構9は、直動機構91の進退動作又は揺動機構92の揺動動作の何れか一方のみであって構わないし、直動機構91の進退動作及び揺動機構92の揺動動作を組み合わせて給電コイル31を移動させても構わないし、又は直動機構91及び揺動機構92に代えて、送電コイル32に対して給電コイル31が遠近移動するように、給電コイル31をコイル軸方向に沿ってスライドさせても構わない。
【0073】
また、受電コイル41が所定位置に固定されている場合には、コイル移動機構9は、送電コイル32及び受電コイル41の相対位置を変更するように構成されても構わない。これにより、給電コイル31と送電コイル32との磁気誘導結合が疎又は密になり、送電装置3内の回路のインピーダンスが増減するため、入力端IEにおける入力側インピーダンスと負荷側インピーダンスとの差分が緩和される。
【0074】
また、コイル移動機構9は、送電コイル32及び受電コイル41の位置関係に応じて、送電側共振回路36のインピーダンスが受電側共振回路43のインピーダンスにマッチングするように、送電コイル32及び受電コイル41の相対位置を変更させるように構成されても構わない。
また、上述した実施形態では、インピーダンスの虚部をゼロにして無効電力の発生を抑制するために、給電コイル31、送電コイル32及び受電コイル41を全て共振状態とした場合を例に説明した。しかしながら、例えば、給電コイル31にコンデンサ33を接続させない場合であっても、入力インピーダンスに無効電力が生じるものの、送電自体は可能であるから、送電コイル32及び受電コイル41のみを共振状態としても構わない。
【0075】
また、上述した実施形態では、ワイヤレス給電システム1を、給電コイル31、送電コイル32及び受電コイル41を備えている3コイルシステムの構成を例に説明したが、給電コイル31を設けず、送電コイル32及び受電コイル41のみを有する2コイルシステムのワイヤレス給電システムとしてもよい。この場合には、コイル移動機構9は、送電コイル32と受電コイル41との相対位置を変える構成とすることで、負荷側インピーダンスを制御することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 :ワイヤレス給電システム
2 :給電対象物
3 :送電装置
31 :給電コイル
31a:(給電コイルの)コイル軸
32 :送電コイル
32a:(送電コイルの)コイル軸
33、34:コンデンサ
35 :給電側共振回路
36 :送電側共振回路
4 :受電装置
41 :受電コイル
42 :コンデンサ
43 :受電側共振回路
5 :交流電源
6 :整流回路
61 :ダイオード
62 :コンデンサ
7 :DC-DCコンバータ(電圧変換回路)
8 :負荷
9 :コイル移動機構
91 :直動機構
91a:プランジャー
91b:ケース
92 :揺動機構
93 :コントローラ
94 :記憶部
95 :制御部
96 :測定部
IE :入力端