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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176895
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】高発熱量燃料ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 3/00 20060101AFI20221122BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20221122BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20221122BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20221122BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221122BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20221122BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20221122BHJP
   C07C 1/20 20060101ALI20221122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C10L3/00 K
C01B3/38
B01J23/46 301M
B01J23/755 M
B01J23/42 M
B01J23/44 M
B01J23/42 Z
B01J23/44 Z
C07C9/04
C07C1/20
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070798
(22)【出願日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2021083192
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】則岡 慎平
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G140EA02
4G140EA06
4G140EB16
4G140EB35
4G140EC02
4G140EC03
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01B
4G169BB02B
4G169BC16B
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC72
4G169BC75
4G169BD02B
4G169CB62
4G169CC17
4G169CC22
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169FA01
4G169FA08
4G169FB13
4G169FC01
4H006AA02
4H006AB84
4H006BA21
4H006BA23
4H006BC31
4H006BE20
4H006BE60
4H039CA19
4H039CK10
(57)【要約】
【課題】エタノールのメタン化反応により都市ガスとして利用しうる高発熱量のメタン主成分ガスを得るに際して、費用のかさむ二酸化炭素分離設備を用いることなく、そのまま都市ガス原料として利用できるメタン濃度の高い高発熱量燃料ガスが得られる、経済的に有利な高発熱量燃料ガスの製造方法を提供する。
【解決手段】高発熱量燃料ガスの製造方法は、エタノールに、水素/エタノールのモル比が2.0以上2.5以下、水蒸気/エタノールのモル比が1.2以上4以下となるように水素及び水蒸気を添加して原料ガスを調整する工程と、原料ガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に300℃以上700℃以下で接触させる水蒸気改質工程と、水蒸気改質工程で得られたガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に触媒出口温度が230℃以上330℃以下となる条件で接触させるメタン化工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールに、水素/エタノールのモル比が2.0以上2.5以下、水蒸気/エタノールのモル比が1.2以上4以下となるように水素及び水蒸気を添加して原料ガスを調整する工程と、
前記原料ガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に300℃以上700℃以下で接触させる水蒸気改質工程と、
前記水蒸気改質工程で得られたガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に触媒出口温度が230℃以上330℃以下となる条件で接触させるメタン化工程と、を含む高発熱量燃料ガスの製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気改質工程が、触媒入口温度300℃以上の実質的に断熱条件で実施され、前記水蒸気改質工程で得られたガスが230℃以上330℃以下に冷却されたのちに、熱交換型反応器に供給されてメタン化工程が実施される請求項1に記載の高発熱量燃料ガスの製造方法。
【請求項3】
メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.24以上0.45以下となる量の酸素を添加したのちに、当該酸素と、前記燃料ガス中の水素とを、水素を選択的に酸化できる選択酸化触媒の存在下で反応させる選択酸化工程と、をさらに有する請求項1又は2に記載の高発熱量燃料ガスの製造方法。
【請求項4】
メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.45以上0.9以下となる量のエタノールを添加したのちに、当該エタノールと、前記燃料ガス中の水素とを、脱水水素化触媒の存在下で反応させて、エタンを得る脱水水素化工程と、をさらに有する請求項1又は2に記載の高発熱量燃料ガスの製造方法。
【請求項5】
前記高発熱量燃料ガスは、メタン或いはメタン及びエタンを含み、メタン或いはメタン及びエタンの占める割合が脱水後の体積基準で93%以上である請求項1又は2に記載の高発熱量燃料ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを水素の共存下にメタン化して、メタンを主成分とする高発熱量燃料ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスを主成分とする都市ガスは、石油など他の化石燃料と比較して燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、環境負荷の小さいエネルギーであるが、地球温暖化等の環境問題が深刻化しつつある近年においては、さらなる二酸化炭素排出量の削減が望まれている。
【0003】
近年、新たなエネルギー資源の一つとして、バイオエタノールなどのバイオマス燃料が注目されている。バイオエタノールは、サトウキビの搾汁やトウモロコシ等の穀物に含まれるデンプンの糖化により得られる糖をアルコール発酵して得られる。バイオエタノールを燃焼させても二酸化炭素は発生するが、原料の植物が生育する過程でこれに対応する量の二酸化炭素を空気中から取り込んでいるため、植物の生育過程から通算すると大気中の二酸化炭素濃度を増加させるものではないと考えることができ、このために、バイオエタノールはカーボンニュートラルな燃料とされている。
【0004】
エタノールからメタンを主成分とする燃料ガスを効率的に製造する方法を確立することができれば、例えば、都市ガス原料としてバイオエタノールを使用することにより、二酸化炭素の排出量削減が可能となる。
【0005】
特許文献1には、炭素数2~5の脂肪族アルコール類又は該アルコール類と水との混合物をルテニウム系触媒の存在下に接触分解させる燃料ガスの製造法が開示されている。この文献によれば、接触分解反応は通常400℃~700℃、2~10kg/cm(絶対圧)の条件で行われるとされており、エタノールを水蒸気の存在下で接触分解させて、体積基準で水素32%~44%、メタン29%~40%、二酸化炭素16%~23%を含み、4200~5050kcal/mの燃料ガスが得られたことが示されている。
【0006】
特許文献2には、エタノールを所定の混合比で水と混合し、300℃~600℃で、ニッケルを主体とする触媒に通じるエタノールのガス化方法が開示されている。生成したガス状混合物を250℃~350℃まで冷却したのち接触メタン化工程に導入することにより、二酸化炭素除去後合成天然ガスとして使用できるメタン濃度の高い燃料ガスが得られるとの記載もあるが、接触メタン化工程に関する具体的な記載はなく、接触メタン化工程後の燃料ガス組成に関する具体的な記載もない。
【0007】
特許文献3には、エタノールと水蒸気とを含むエタノール含有原料からメタン含有ガスを製造するメタン含有ガス製造方法であって、担体である無機酸化物の表面にロジウム又はルテニウムを担持した触媒に、前記エタノール含有原料を反応温度400℃以上で一回通過させる反応工程を包含するメタン含有ガスの製造方法が開示されている。
この文献の方法でも、得られたメタン含有ガス中のメタン濃度は55%程度に過ぎず、そのままでは都市ガス原料として使用することができない。
【0008】
都市ガス原料として一般に利用されているのは天然ガスであり、メタンを主成分とし、少量のエタン、プロパン、及びブタンを含有する。天然ガスには、水素及び一酸化炭素は通常含まれず、二酸化炭素は天然ガスの精製過程で除去される。特に、液化天然ガスを原料として製造される都市ガスの場合には、水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素は液化精製の過程でほぼ完全に除去されるので、実質的にほとんど含まれない。
【0009】
水素、一酸化炭素及び二酸化炭素が都市ガスに含まれると以下のような問題を引き起こす可能性がある。
【0010】
まず、一酸化炭素は、毒性が高いため、ガスが漏洩した場合に中毒事故の恐れを生じる。その許容濃度は200ppmとされており、安全上の観点から、燃料ガス中の濃度はこれ以下とするのが望ましく、空気による希釈を考慮しても、1000ppm以下とする必要がある。
【0011】
次に、二酸化炭素は、不燃性であるだけでなく、燃焼を抑える働きがある。従って、燃料ガスに高濃度で混入した場合、燃料ガスの発熱量の低下に伴う導管でのガス輸送の効率を低下させるだけでなく、燃焼機器の効率の低下を引き起こす恐れもある。
【0012】
最後に、水素は、燃料ガスではあるものの、都市ガスの主成分であるメタンと比較すると単位体積当たりの発熱量が約3分の1しかない。従って、メタン主成分の燃料ガスに水素が混入すると、単位体積当たりの発熱量が低下する。さらに水素は、燃焼速度が速いことから、燃焼機器への影響が大きいことも知られている。
【0013】
以上のように、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素は、都市ガスに混入した場合、ガスの供給及び消費の各段階で種々の影響を及ぼすことから、都市ガス導管網に受け入れるガスの品質基準で、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度に制約が設けられるのが一般的である。
【0014】
天然ガス自動車向けの燃料充填所が存在する導管網にあっては、水素濃度の上限を体積基準で2%としている例が知られている(非特許文献1)。また、水素濃度を体積基準で4%以下、二酸化炭素濃度を体積基準で0.5%以下、一酸化炭素濃度を体積基準で0.05%以下と規定している例(非特許文献2)、ならびに、メタン及びエタンの合計濃度を体積基準で93%以上、かつ炭化水素以外の成分の合計濃度を体積基準で4%以下と規定した例(非特許文献3)も知られている。
【0015】
エタノールの水蒸気改質によるメタン主成分ガスの生成は以下の反応で進行すると考えられる。即ち、エタノールの水蒸気改質反応(式1)により水素及び一酸化炭素が生成する。一酸化炭素の一部はCOシフト反応(式2)により水素と二酸化炭素に転換され、残りは水素との反応によりメタンを生成する(式3)。
OH+HO → 2CO+4H (式1)
0.5CO+0.5HO → 0.5CO+0.5H (式2)
1.5CO+4.5H → 1.5CH+1.5HO (式3)
総括反応式は、式4に示す通りで、エタノール1モルから、メタン1.5モルと二酸化炭素0.5モルが生成する。
OH → 1.5CH+0.5CO (式4)
【0016】
すなわち、単純にエタノールを水蒸気の共存下にメタン化反応を行った場合、理想的に反応が進行した場合でも、生成ガスはメタン75%と二酸化炭素25%の混合ガスとなり、何らかの方法で二酸化炭素を除去しない限り都市ガス原料として利用することはできない。
【0017】
二酸化炭素の除去方法として、熱炭酸カリウム吸収法や、アミン吸収法などの方法が知られており、ナフサ等を原料とする代替天然ガス製造設備プラントでも、これらの二酸化炭素除去設備が採用された例があるが、いずれの二酸化炭素除去方法も設備費用及び運転費用が高いため、燃料ガス製造の経済性が大きく低下する課題がある。
【0018】
特許文献4には、エタノールからの水素の製造方法であって、0.1~1.0のH/エタノールモル比、1.0~10.0の水蒸気/エタノールモル比で、300℃~600℃でニッケルを基材とする触媒に通じて、メタン、CO、CO及びHを含有する流れに変換する工程を含む方法が開示されている。
【0019】
この文献には、水蒸気/エタノールモル比2.8、水素/エタノールモル比250、400℃で、市販メタン化触媒上でのエタノールの変換を実施し、変換率90.1%、メタン選択率98.8%であったこと、水蒸気/炭素モル比3、400℃での市販メタン化触媒上でのエタノール変換において、水素を添加しない場合、短時間で炭素析出による触媒層での圧力損失の上昇が生じたのに対し、水素/エタノールモル比が0.6では圧力損失の上昇が見られなかったことが示されている。しかし、いずれの場合も、得られるガスは水素を主成分とし、メタンを含むガスであるため、都市ガス原料として利用することはできない。
【0020】
特許文献5には、触媒の存在下にエタノールを選択的に改質して水素富化生成物を製造する方法であって、水素に対するエタノールのモル比が0.2~1で脱水/水素化反応器に通じて、エタノールを脱水/水素化してエタンを生成し、生成したエタンを断熱的に改質してメタンを含む流れを生成し、生成したメタンを含む流れを水蒸気改質して、水素及び一酸化炭素を含む混合物を生成し、さらに水性ガスシフト反応を行って水素富化生成物を得る方法が記載されている。
【0021】
しかし、この文献は、エタノールのエタンへの転換の結果を示すのみで、メタンを含む流れにおけるメタン濃度についての具体的な記載は見られない。
【0022】
エタノールの水蒸気改質により、メタン主成分ガスを得るに際しての別の問題として、特許文献3及び4に記載される炭素析出の問題がある。特許文献3には、水/エタノール=0.78(重量比)における水蒸気改質でニッケル触媒を用いた場合、顕著な炭素析出が起こったことが示されている。特許文献4では、水蒸気/炭素モル比3、400℃における市販メタン化触媒上でのエタノール変換において、水素を添加しない場合、短時間で炭素析出が起こったことが示されている。水/エタノールのモル比は、特許文献3では2、特許文献4では6となる。エタノールの水蒸気改質で、炭素析出を回避するには、多量の水蒸気を添加する必要がある。エタノール1モルから、メタン1.5モルと二酸化炭素0.5モルを生成する反応(式4)は発熱反応であるが、その発熱は74kJ(25℃)に過ぎず、これを水の気化熱として用いても、およそ1.7モルの水蒸気しか生成できない。従って、エタノールの水蒸気改質により、メタン主成分ガスを安定して得るには、外部からの水蒸気の供給が必要になり、この点でも経済的に不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開昭52-52902号公報
【特許文献2】特開昭55-144093号公報
【特許文献3】特開2009-227588号公報
【特許文献4】特開2013-540674号公報
【特許文献5】特開2006-82996号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】E.I.Koytsoumpa及びS.Karellas、Renewable and Sustainable Energy Reviews、94巻、2018年、p.536
【非特許文献2】バイオガス購入要領、大阪瓦斯株式会社、2008年
【非特許文献3】バイオガス購入要領、東京瓦斯株式会社、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、エタノールのメタン化反応により都市ガスとして利用しうる高発熱量のメタン主成分ガスを得るに際して、費用のかさむ二酸化炭素分離設備を用いることなく、そのまま都市ガス原料として利用できるメタン濃度の高い高発熱量燃料ガスが得られ、炭素析出も起き難い経済的に有利な高発熱量燃料ガスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の特徴構成は、エタノールに、水素/エタノールのモル比が2.0以上2.5以下、水蒸気/エタノールのモル比が1.2以上4以下となるように水素及び水蒸気を添加して原料ガスを調整する工程と、前記原料ガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に300℃以上700℃以下で接触させる水蒸気改質工程と、前記水蒸気改質工程で得られたガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に触媒出口温度が230℃以上330℃以下となる条件で接触させるメタン化工程と、を含む点にある。
【0027】
本特徴構成によれば、エタノールの水蒸気改質とメタン化反応を組み合わせた従来の燃料ガスの製造方法では多量に副生する二酸化炭素が、水素との反応によりメタンに変換されるため、得られた燃料ガス中に二酸化炭素が多量に残存することが回避でき、高価な二酸化炭素除去設備を用いることなく、都市ガス原料として使用可能な高発熱量の燃料ガスが得られ、炭素析出も起き難い。
【0028】
本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の更なる特徴構成は、水蒸気改質工程が、触媒入口温度300℃以上の実質的に断熱条件で実施され、前記水蒸気改質工程で得られたガスが230℃以上300℃以下に冷却されたのちに、熱交換型反応器に供給されてメタン化工程が実施される点にある。
【0029】
本特徴構成によれば、水蒸気改質工程が、触媒入口温度300℃以上の実質的に断熱条件で実施されるため、水蒸気改質工程における発熱により、水蒸気改質触媒層の温度が上昇して、水蒸気改質反応の進行に好適な温度に保たれることから、エタノールの改質を十分に進行させることができる。
【0030】
本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の更なる特徴構成は、メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.24以上0.45以下となる量の酸素を添加したのちに、当該酸素と、前記燃料ガス中の水素とを、水素を選択的に酸化できる選択酸化触媒の存在下で反応させる選択酸化工程をさらに有する点にある。
【0031】
エタノールの水蒸気改質とメタン化反応を組み合わせた従来の燃料ガスの製造方法では、得られた燃料ガス中に高濃度の二酸化炭素が残存するため、高価な二酸化炭素分離設備が必要になる問題があるものの、高濃度の二酸化炭素が残存することから、メタン化反応の化学平衡の観点で、残存する水素濃度は低くなりやすい。これと比較すると、本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法では、残存する水素濃度は高くなる場合がある。本特徴構成を採用することにより、本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法のメタン化工程で得られた燃料ガスに残存する水素の濃度を効果的に低減して、メタン濃度の高い燃料ガスを得ることができる。
【0032】
本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の更なる特徴構成は、メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.45以上0.9以下となる量のエタノールを添加したのちに、当該エタノールと、前記燃料ガス中の水素とを、脱水水素化触媒の存在下で反応させて、エタンを得る脱水水素化工程をさらに有する点にある。
【0033】
本特徴構成を採用することにより、本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法のメタン化工程で得られた燃料ガスに残存する水素の濃度を効果的に低減するとともに、メタンに加えてエタンも含んで、一般的な都市ガスの発熱量に近い高発熱量の燃料ガスを得ることができる。
【0034】
本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の更なる特徴構成は、前記高発熱量燃料ガスは、メタン或いはメタン及びエタンを含み、メタン或いはメタン及びエタンの占める割合が脱水後の体積基準で93%以上である点にある。
【0035】
本特徴構成によれば、脱水後の体積基準で93%以上のメタンを含む高発熱量燃料ガスや、脱水後の体積基準でメタン及びエタンの総量が93%以上である高発熱量燃料ガスを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の高発熱量燃料ガス製造方法を示すブロックフロー図である。
図2】本発明の高発熱量燃料ガス製造方法の別の態様を示すブロックフロー図である。
図3】本発明の高発熱量燃料ガス製造方法の別の態様を示すブロックフロー図である。
図4】実施例1~4及び比較例1の水蒸気/エタノール比(HO/EtOH)における温度と炭素活量の関係を示す図である。
図5】比較例2~4の水蒸気/エタノール比(HO/EtOH)における温度と炭素活量の関係を示す図である。
図6】本発明の高発熱量燃料ガス製造方法の別の態様を示すプロセスフロー図である。
図7】本発明の高発熱量燃料ガス製造方法の別の態様を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔実施形態〕
以下、本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法の実施形態について説明する。図1は、本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法を示すブロックフロー図である。本実施形態に係る高発熱量燃料ガスの製造方法は、エタノールに、水素/エタノールのモル比が2.0以上2.5以下、水蒸気/エタノールのモル比が1.2以上4以下となるように水素及び水蒸気を添加して原料ガスを調整する工程(原料ガス調整部1)、ルテニウム又はニッケルを含有する触媒に前記原料ガスを300℃以上700℃以下で接触させる水蒸気改質工程(水蒸気改質反応部2)、前記水蒸気改質工程で得られたガスをルテニウム又はニッケルを含有する触媒に触媒出口温度が230℃以上330℃以下となる条件で接触させるメタン化工程(メタン化反応部3)を含む。このような構成を備えた高発熱量燃料ガスの製造方法によれば、メタンの占める割合が脱水後の体積基準で93%以上である高発熱量燃料ガスを得られる。
【0038】
原料ガスを調整する工程で用いるエタノールは、必ずしも発酵法で製造されたものである必要はないが、カーボンニュートラルと見なしうる燃料ガスを製造するという観点では、サトウキビやトウモロコシなどを原料として製造されたバイオエタノールであることが好ましい。
【0039】
エタノールは、通常少量の水を含むほか、微量の有機酸やアルデヒド、チオールなどの硫黄化合物を含むことがある。このうち、水は質量基準でエタノールに対して20%~50%程度含まれていても差し支えない。原料とするエタノールに水が含まれている場合は、その量に応じて、添加する水蒸気の量を調整して、原料ガス調整工程に送入される水蒸気/エタノールのモル比が1.2以上4以下となるようにする。
【0040】
微量の有機酸やアルデヒドは、あまりに多量に含まれる場合、後段の水蒸気改質工程において、炭素析出などを引き起こす恐れがあるが、通常は問題とならない。
【0041】
チオールなどの硫黄化合物は、後段の水蒸気改質工程の硫黄被毒を引き起こし、活性低下の原因となるため、硫黄化合物が多量に含まれる場合は、事前に脱硫処理を行うことが望ましい。
【0042】
原料ガスを調整する工程で用いる水素は、どのような製造法で製造されたものでも問題ないが、アルカリ水電解装置、固体高分子形水電解装置、固体酸化物形水電解装置などの水電解装置を用いて製造された水素は、水蒸気改質工程の障害となる不純物が通常含まれないことから好ましい。
【0043】
エタノールに対する水素と水蒸気の混合方法、混合順序には特に制約はない。
【0044】
水素/エタノールのモル比は、2.0以上2.5以下とする。水素/エタノールのモル比を2.05以上とすると燃料ガス中の二酸化炭素濃度を低減しやすく、2.10以下とすると燃料ガス中の水素濃度を低減しやすいことから、水素/エタノールのモル比は、2.05以上2.10以下とするのが好ましい。ただし、エタノールの脱水水素化反応を用いる脱水水素化工程を設ける場合は、水素/エタノールのモル比を2.2以上2.5以下としてもよく、この場合には燃料ガス中の二酸化炭素濃度を低減しやすい。
【0045】
水蒸気/エタノールのモル比は、1.2以上4以下とする。
【0046】
エタノール1モルと水素2モルから、メタン2モルと水1モルを生成する反応の発熱は156kJ(25℃)なので、これをすべて水の気化熱として用いると、およそ3.5モルの水蒸気が生成できる。
【0047】
水蒸気/エタノールのモル比を1.5以上とすると炭素析出を回避しやすく、3以下とすると必要な水蒸気量が抑制されることから、経済的に有利となりやすい。従って、水蒸気/エタノールのモル比は、1.5以上3以下程度とするのが好ましい。なお、水蒸気改質触媒の出口温度を抑制するため、メタン/エタノールのモル比で0.5~1.5程度となる量のメタンを添加してもよい。この場合には、炭素析出を回避するため、水蒸気/エタノールのモル比を上記より高くすることが好ましく、2.5以上4以下程度とするのが好ましい。
【0048】
後述するように水蒸気改質工程は発熱反応であり、水蒸気改質触媒が高温にさらされることにより、その耐久性が問題となる場合がある。そのような場合には、水蒸気改質工程の出口ガスの一部を原料ガスに混合し、原料ガスを希釈することで、水蒸気改質工程における温度上昇を緩和することができる。原料ガス調整部1には、水蒸気改質反応部2の出口ガスの一部をリサイクルするためのリサイクルコンプレッサーと、リサイクル量を調整するための流量調整手段を設けてもよい。
【0049】
原料ガスは、後段の水蒸気改質工程の実施に適切な範囲に温度を調整されたのち、水蒸気改質工程に送入される。
【0050】
水蒸気改質工程で用いる触媒は、ルテニウム又はニッケルをアルミナなどの無機酸化物担体に担持した触媒である。水蒸気改質工程は、断熱型の反応器で実施してもよく、熱交換型反応器を用いて、ほぼ一定の触媒層温度を保って実施してもよい。
【0051】
なお、触媒層の一部が300℃未満となることは差し支えない。従って、触媒層入口温度を300℃未満、例えば250℃程度として原料ガスを送入し、反応を開始させてもよいが、エタノールの水蒸気改質反応を十分な速度で進行させるには、触媒層の少なくとも一部は300℃以上となっている必要がある。また、少ない触媒量でエタノールを完全に転化させるには、触媒層の少なくとも一部が400℃以上となっていることが好ましい。触媒層入口温度があまりに低いと、反応の進行が著しく遅くなり、必要となる触媒量が極端に大きくなって、経済性が悪化する恐れがある。
【0052】
水蒸気改質工程では、吸熱反応であるエタノールの水蒸気改質反応と、発熱反応であるメタン化反応が併発して、全体として発熱反応となる。特段の除熱機構を持たない反応器(断熱型反応器)を用い、触媒層入口温度300℃程度で原料ガスを送入して、実質的に断熱条件で反応を実施した場合、触媒層出口温度は通常500℃~700℃程度となる。
エタノールの水蒸気改質反応は、300℃程度で開始し、400℃以上では速やかに進行するため、断熱型反応器で実施した場合、エタノールの改質反応が完全に進行しやすい。
【0053】
反応器に熱交換機能を付加した熱交換型反応器を用いると、反応による発熱を除去しながら反応を進行させることができるので、触媒層温度の上昇を抑えながら水蒸気改質反応を進行させることができ、触媒の耐久性の観点で有利である。適切に反応器を設計し、運転した場合、反応による発熱を除去して、触媒層入口温度と触媒層出口温度をほぼ一致させ、等温的に反応を行うことができる。ただし、熱交換型反応器であっても、触媒層温度には分布があり、発熱反応が進行している箇所では、断熱型反応の出口温度に近い温度まで温度上昇する場合があることには留意する必要がある。
【0054】
メタン化工程で用いる触媒は、ルテニウム又はニッケルをアルミナなどの無機酸化物担体に担持した触媒である。メタン化工程は、断熱型の反応器で実施してもよく、熱交換型反応器を用いて、ほぼ一定の触媒層温度を保って実施してもよい。
【0055】
メタン化工程では、発熱反応であるメタン化反応が進行するため、断熱型の反応器を用いて反応を行うと、触媒入口温度よりも高い温度で反応ガスは流出することになる。メタン化反応は、平衡的に低温ほどメタン生成側に進行するため、メタン純度の高い燃料ガスを得る観点では、触媒出口温度を低くすることが有利であり、触媒出口温度が330℃以下となる条件で実施する。一方で、低温では、メタン化触媒の活性が低下し、230℃未満では反応が進行させることが困難になる。従って、触媒出口温度は230℃以上330℃以下、より好ましくは230℃以上280℃以下とする。
【0056】
メタン化反応器を断熱型反応器で構成する場合には、複数の反応器を設けるとともに、反応器の間に冷却器を設けて、各反応段の入口温度を230℃以上330℃以下、より好ましくは230℃以上280℃以下として、最終段の反応器における触媒出口温度が230℃以上330℃以下となるようにする。
【0057】
本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法は、メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.24以上0.45以下となる量の酸素を添加したのちに、当該酸素と、前記燃料ガス中の水素とを、水素を選択的に酸化できる選択酸化触媒の存在下で反応させる選択酸化工程(選択酸化反応部4a)をさらに有する、図2に示される構成としてもよい。このような構成でも、メタンの占める割合が脱水後の体積基準で93%以上である高発熱量燃料ガスを得られる。
【0058】
選択酸化反応工程において用いる酸素は、選択酸化反応に支障ない純度及び性状のものである限り、どのような方法で製造されたものであっても差支えない。例えば、水素を水の電気分解によって得る場合、水素に対するモル比(酸素/水素)が0.5となる量の酸素が必然的に発生するので、その一部を用いることができる。水の電気分解によって得られる酸素は通常高純度であるため、この方法が経済的に有利である。
【0059】
選択酸化反応部4aにおける反応は、以下のように進行する。
+ 0.5O → HO (式5)
【0060】
酸素の添加量が少ない場合、燃料ガス中の水素濃度の低減が不十分となる。一方、酸素の添加量が多い場合、燃料ガス中に酸素が残存することがあるほか、選択酸化触媒上で急激な酸化反応が進行して、触媒の劣化が問題になる場合がある。従って、酸素の添加量は、メタン化反応工程で得られた燃料ガスに含まれる水素に対する酸素のモル比(酸素/水素)を、0.24以上0.45以下とするのが好ましい。
【0061】
選択酸化触媒は、酸素-水素反応(式5)に活性を有するとともに、メタンの酸素による酸化やメタンの水蒸気改質反応などのメタンを消費する反応に対しては、実質的に活性を示さないことが好ましい。メタンの酸化にも高い活性を示す触媒であると、水素濃度を効果的に低減できないばかりでなく、燃料ガスとして得られるメタンの量が減少するため、燃料ガス製造の効率が低下する場合がある。メタンの水蒸気改質反応に対して活性を示す触媒を用いると、酸素との反応で水素が減少しても、メタンの水蒸気改質反応によって新たに水素が生成されるため、燃料ガス中の水素濃度を低減することができない場合がある。このような反応選択性を示す触媒として、無機酸化物担体にパラジウム又は白金の少なくとも一方が担持された触媒が例示される。
【0062】
選択酸化触媒で、メタン主成分ガス中の水素を選択的に酸化する際の反応温度は、100℃以上400℃以下とすることが好ましい。選択酸化触媒は一般的に100℃以上の条件で良好な活性を示すので、反応温度を100℃以上とすると、酸素と水素との反応が進行しやすい。また、反応温度を400℃以下とすると、メタンの水蒸気改質反応を抑制しやすい。反応温度は、150℃以上300℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
選択酸化工程に用いる反応器の形式は特に限定されず、例えば、固定床断熱反応器、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器、熱交換型反応器、などでありうる。
【0064】
本発明の高発熱量燃料ガスの製造方法は、メタン化工程で得られた、メタンを主成分とし水素を含有する燃料ガスに、前記燃料ガス中の水素に対するモル比が0.45以上0.9以下となる量のエタノールを添加したのちに、当該エタノールと、前記燃料ガス中の水素とを、脱水水素化触媒の存在下で反応させて、エタンを得る脱水水素化工程(脱水水素化反応部4b)をさらに有する、図3に示される構成としてもよい。このような構成とした場合、メタン及びエタンの占める割合が脱水後の体積基準で93%以上である高発熱量燃料ガスを得られる。
【0065】
脱水水素化反応工程において用いるエタノールは、原料ガスを調整する工程で用いるものと同一でよい。
【0066】
脱水水素化反応部4bにおける反応は、以下のように進行する。すなわち、脱水水素化反応部4bにおいて、エタノールの脱水反応(式6)及びエチレンの水素化反応(式7)が進行する。
OH → C+HO (式6)
+ H → C (式7)
【0067】
エタノールの添加量が少ない場合、燃料ガス中の水素濃度の低減が不十分となる。
一方、エタノールの添加量が多い場合、水素濃度が極端に少なくなることにより、エチレンの水素化反応(式7)が十分に進行せず、燃料ガス中にエチレンが残存することがあるほか、反応中のエチレン濃度が高いことから、触媒上でエチレンが重合して、炭素析出による触媒の劣化が問題になる場合がある。従って、エタノールの添加量は、メタン化工程で得られた燃料ガスに含まれる水素に対するエタノールのモル比(エタノール)/(水素)を、0.45以上0.90以下とする。
【0068】
脱水水素化反応工程で用いる脱水水素化触媒は、エタノールの脱水反応(式6)及びオレフィンの水素化反応(式7)に活性を有するとともに、メタン及びエタンの水蒸気改質反応に対しては、実質的に活性を示さないことが好ましい。メタン及びエタンの水蒸気改質反応に対して活性を示す触媒を用いると、エチレンの水素化反応で水素が減少しても、メタン及びエタンの水蒸気改質反応によって新たに水素が生成されるため、燃料ガス中の水素濃度を低減することができない場合がある。このような反応選択性を示す触媒として、固体酸触媒にパラジウム又は白金の少なくとも一方が担持された触媒が例示される。
【0069】
脱水水素化触媒でエタノールを水素との反応によりエタンに変換する際の反応温度は、200℃以上400℃以下とすることが好ましい。脱水水素化触媒は一般的に200℃以上の条件で良好な活性を示すので、反応温度を200℃以上とすると、エタノールと水素との反応(式6及び式7)が進行しやすい。また、反応温度を400℃以下とすると、メタン及びエタンの水蒸気改質反応を抑制しやすい。反応温度は、250℃以上350℃以下とすることがより好ましい。
【0070】
脱水水素化反応工程に用いる反応器の形式は特に限定されず、例えば、固定床断熱反応器、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器、熱交換型反応器、などでありうる。
【0071】
水蒸気改質工程の圧力は、0.5MPa(絶対圧、以下同様)以上であると、十分な反応速度が得られやすく、5MPa以下であると設備コストが抑制できて経済的に有利であることから、0.5MPa以上5MPa以下とするのがよく、0.5MPa以上3MPa以下とするのがより好ましい。
【0072】
メタン化工程の圧力は、0.5MPa以上であると、十分な反応速度が得られやすく、平衡的にもメタン化が進行しやすいこと、5MPa以下であると設備コストが抑制できて経済的に有利であることから、0.5MPa以上5MPa以下とするのがよく、0.5MPa以上3MPa以下とするのがより好ましい。
【0073】
選択酸化工程及び脱水水素化工程の圧力も、0.5MPa以上であると、十分な反応速度が得られやすく、5MPa以下であると設備コストが抑制できて経済的に有利であることから、0.5MPa以上5MPa以下とするのがよく、0.5MPa以上3MPa以下とするのがより好ましい。
【0074】
水蒸気改質工程、メタン化工程、選択酸化工程及び脱水水素化工程共に、0.5MPa以上5MPa以下とするのがよく、0.5MPa以上3MPa以下とするのがより好ましいことから、各工程の間で圧力を変化させることは通常必要ないが、必要に応じて加圧や減圧の工程を付加しても差支えはない。通常は、各工程における圧力損失に応じて、反応圧力がわずかに低下していくが、特段の問題はない。
【0075】
〔実施例及び比較例〕
以下に、プロセス計算に基づく試算例を示す。各機器及び配管における圧力損失及び放熱損失は考慮していない。
【0076】
〔実施例1〕
原料ガス調整部1には、エタノール、水素及び水が1:2:1.2のモル比、圧力0.7MPa(絶対圧)で供給される。原料ガス調整部1では、これらが混合され、300℃まで加熱されて、原料ガスが調整され、水蒸気改質反応部2に送入される。
【0077】
水蒸気改質反応部2では、前記原料ガスが、断熱条件の下で水蒸気改質触媒に接触して、エタノールの水蒸気改質反応、COシフト反応及びメタン化反応が進行して、化学平衡状態に達し、生成したガスは250℃に冷却されてメタン化反応部3に送入される。
【0078】
メタン化反応部3では、250℃の等温条件の下でCOシフト反応及びメタン化反応が進行して、化学平衡状態に達し、メタンと水蒸気を主成分とする燃料ガスが得られる。この燃料ガスを冷却し、水を凝縮分離すると、メタンを主成分とし、少量の水素と二酸化炭素を含む燃料ガスが得られる。
【0079】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表1に示す。ここで、炭素活量は、出口ガスの一酸化炭素及び二酸化炭素の分圧(PCO、PCO2)と、熱力学的に計算される一酸化炭素の不均化反応(式8)の平衡定数(K)を用いて、K/(PCO2/PCO )として計算され、この値が1より大きいとき、化学平衡的には炭素析出反応が進行する。
2CO → C(固体)+CO (式8)
【0080】
【表1】
【0081】
水蒸気改質反応部2の出口温度は619℃となる。水蒸気改質反応部2における出口のガス組成は、メタン39.44%、水素47.48%となり、メタン濃度は40%に満たず、高濃度の水素を含むガスとなる。
【0082】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン96.20%、水素3.04%、二酸化炭素0.76%で、都市ガス原料として使用できる程度のメタン純度の高い燃料ガス(高発熱量燃料ガス)となる。
【0083】
水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量は1を下回っており、化学平衡的には炭素析出が回避される。
【0084】
なお、上記では、水蒸気改質反応は断熱条件で、メタン化反応は等温条件で反応するものとしたが、断熱型反応器における反応においても、反応器表面からの放熱が一定程度生じるほか、熱交換型反応器においても局所的には温度上昇が生じることがある。その観点では、エタノール、水素及び水が1:2:1.2のモル比、圧力0.7MPaにおいて、250℃以上で断熱反応における出口温度619℃以下の全温度領域において、エタノールの水蒸気改質反応、COシフト反応及びメタン化反応が平衡に達した条件で炭素活量が1を下回ることが望ましい。
【0085】
図4(水蒸気/エタノール=1.2)には、各温度において、化学平衡状態に達した状態での炭素活量を示している。250℃~619℃の全温度範囲において、炭素活量が1を下回っていることから、断熱条件、等温条件及びそれらの中間的な条件のいずれの場合であっても、化学平衡的には炭素析出が回避される。
【0086】
〔実施例2〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール、水素及び水のモル比を、エタノール:水素:水=1:2:1.5とするほかは、実施例1と同様として試算した。
【0087】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
水蒸気改質反応部2の出口温度は608℃となる。水蒸気改質反応部2における出口のガス組成は、メタン39.14%、水素47.86%となる。添加される水蒸気が増加したことにより、水を生成物とするメタン化反応が平衡的に進行し難くなり、実施例1と比較するとメタンの濃度はわずかに低下する。
【0090】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン95.90%、水素3.28%、二酸化炭素0.82%となって、メタンの濃度はわずかに低下するが、都市ガス原料として使用できる程度のメタン純度の高い燃料ガス(高発熱量燃料ガス)となる。
【0091】
水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量は1を下回り、実施例1と比較しても低くなる。水蒸気の添加量が増加することで、炭素析出が起こりにくくなるためと考えられる。図4(水蒸気/エタノール=1.5)に示すように、250℃~608℃の全温度範囲において、炭素活量が1を下回り、水蒸気改質及びメタン化反応で想定される全温度領域において、平衡的には炭素析出が生じない。
【0092】
〔実施例3〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール、水素及び水のモル比を、エタノール:水素:水=1:2:2とするほかは、実施例1と同様として試算した。
【0093】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン95.42%、水素3.66%、二酸化炭素0.92%となって、メタンの濃度は実施例2よりもわずかに低下するが、都市ガス原料として使用できる程度のメタン純度の高い燃料ガス(高発熱量燃料ガス)となっている。
【0096】
水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量は1を十分下回る。図4(水蒸気/エタノール=2)に示すように、250℃~591℃の全温度範囲において、炭素活量が1を下回り、水蒸気改質及びメタン化反応で想定される全温度領域において、平衡的には炭素析出が生じない。
【0097】
〔実施例4〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール、水素及び水のモル比を、エタノール:水素:水=1:2:3とするほかは、実施例1と同様として試算した。
【0098】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
水蒸気改質反応部2の出口温度は562℃となる。実施例1と比較すると50℃以上低下しているが、これは水蒸気の添加量が増加したことで、温度上昇が緩和されるためであり、水蒸気改質触媒の耐久性の観点では有利となる。
【0101】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン94.51%、水素4.39%、二酸化炭素1.10%となって、メタンの濃度は実施例3よりもわずかに低下するが、都市ガス原料として使用できる程度のメタン純度の高い燃料ガス(高発熱量燃料ガス)となっている。
【0102】
水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量は1を十分下回った。また、図4(水蒸気/エタノール=3)に示すように、250℃~562℃の全温度範囲において、炭素活量が1を下回り、水蒸気改質及びメタン化反応で想定される全温度領域において、平衡的には炭素析出は生じない。
【0103】
〔比較例1〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール、水素及び水のモル比を、エタノール:水素:水=1:2:1とするほかは、実施例1と同様として試算した。
【0104】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
水蒸気改質反応部2の出口温度は628℃となる。また、水蒸気改質反応部2の出口の炭素活量は1を超えた。実施例と比較すると、水蒸気の添加量が少ないことにより、水蒸気改質反応部2の出口温度が高くなり、炭素活量も1を超えることから、熱劣化や炭素析出による水蒸気改質触媒の劣化が懸念される。
【0107】
図4(水蒸気/エタノール=1)に示すように、580℃以下では、平衡的には炭素析出は生じないことから、除熱しながら反応を進めることで、炭素析出を回避できる可能性があるが、局所的には断熱反応の出口温度に近い温度に達する可能性があり、その制御は一定の困難を伴う。
【0108】
〔比較例2〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール及び水のモル比を、エタノール:水=1:2として、水素の添加を行わないほかは、実施例1と同様として試算した。
【0109】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表6に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
水蒸気改質反応部2の出口温度は518℃となる。水蒸気改質反応部2における出口のガス組成は、メタン49.36%、水素25.09%となる。実施例1と比較するとメタン濃度は高いが、これは出口温度が実施例1と比較して低いため、メタン化反応が平衡的に進みやすくなるためと考えられる。
【0112】
一方で、メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン73.87%、水素1.13%、二酸化炭素25.00%となって、二酸化炭素の除去を行わない限り、都市ガス原料として使用できない。
【0113】
更なる問題として、水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量が1を超えており、炭素析出による水蒸気改質触媒及びメタン化触媒の劣化が懸念される。図5(水蒸気/エタノール=2.0)には、各温度において、化学平衡状態に達した状態での炭素活量を示している。700℃以下の全温度範囲において、炭素活量が1を超えていることから、断熱条件、等温条件及びそれらの中間的な条件のいずれの場合であっても、化学平衡的には炭素析出が進行する。
【0114】
〔比較例3〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール及び水のモル比を、エタノール:水=1:2.5としたほかは、比較例2と同様として試算した。
【0115】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表7に示す。
【0116】
【表7】
【0117】
水蒸気改質反応部2の出口の温度は502℃となり、炭素活量は1を下回った。
【0118】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン73.66%、水素1.33%、二酸化炭素25.00%となって、二酸化炭素の除去を行わない限り、都市ガス原料として使用できない。またメタン化反応部3における出口の炭素活量は1を超えており、炭素析出によるメタン化触媒の劣化が懸念される。図5(水蒸気/エタノール=2.5)には、各温度において、化学平衡状態に達した状態での炭素活量を示している。340℃以下では、炭素活量が1を超えていることから、メタン化を進行させるために低温でメタン化反応を行うと、化学平衡的には炭素析出が進行する。
【0119】
〔比較例4〕
原料ガス調整部1に供給されるエタノール及び水のモル比を、エタノール:水=1:3としたほかは、比較例2と同様として試算した。
【0120】
それぞれの反応部における入口及び出口温度、並びに出口ガスの組成(脱水後の体積基準)及び炭素活量を表8に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
水蒸気改質反応部2の出口の温度は488℃となった。
【0123】
メタン化反応部3における出口のガス組成は、メタン73.46%、水素1.54%、二酸化炭素25.00%となって、二酸化炭素の除去を行わない限り、都市ガス原料として使用できない。水蒸気改質反応部2の出口及びメタン化反応部3の出口共に、炭素活量は1を下回っており、化学平衡的には炭素析出が回避される。比較例2~4の結果は、水素を共存させない単純なエタノールの水蒸気改質では、平衡的に炭素析出を回避するには、エタノールに対する水蒸気のモル比が3以上(生成するメタンに対するモル比では2以上)となるように水蒸気を添加する必要があることを示している。なお、図5(水蒸気/エタノール=3.0)に示す通り、245℃以下では、炭素活量が1を超えるので、メタン化を進行させるために245℃以下でメタン化反応を行うと、化学平衡的には炭素析出が進行する可能性がある。
【0124】
〔実施例5〕
選択酸化工程を有する燃料ガス製造プロセスの試算例を示す。プロセスフローを図6に示す。
【0125】
原料ガス調整工程が行われる原料ガス調整部1には、温度25℃、圧力0.8MPaで、エタノール、水素及び水がそれぞれ1mol/s、2.08mol/s、2.5mol/sの流量で供給される。原料ガス調整部1は、熱交換器11~14とリサイクルコンプレッサー15を備えている。
【0126】
エタノール、水素及び水は、加熱、混合され、さらに水蒸気改質反応器21の出口からのリサイクルガスと混合され、300℃まで加熱されて、原料ガスとなり、水蒸気改質反応部2に送入される。
【0127】
水蒸気改質工程が行われる水蒸気改質反応部2は、水蒸気改質反応器21と熱交換器22を備える。原料ガスは水蒸気改質反応器21に送入され、断熱的にエタノールの水蒸気改質反応、COシフト反応及びメタン化反応が進行する。水蒸気改質反応器21の出口ガスは、熱交換器22において240℃まで冷却されたのち、その1/3が、原料ガス調整工程に返送され、リサイクルコンプレッサー15を通じて原料ガスに混合される。残りはメタン化反応部3に送入される。
【0128】
メタン化工程が行われるメタン化反応部3は、第1メタン化反応器31、熱交換器32、第2メタン化反応器33、熱交換器34、第3メタン化反応器35及び熱交換器36を備える。
【0129】
第1、第2及び第3メタン化反応器31,33,35はいずれも断熱型の反応器であり、第1及び第2メタン化反応器31,33の出口ガスは、それぞれ熱交換器32及び34で240℃まで冷却されたのち、順次次段の反応器に送入される。第3メタン化反応器35の出口ガスは熱交換器36で200℃まで冷却されて、選択酸化工程に送入される。
【0130】
選択酸化工程が行われる選択酸化反応部4aは、選択酸化反応器41aと熱交換器42aを備える。選択酸化反応部4aでは、第3メタン化反応器35の出口ガスに、温度200℃の酸素0.02mol/sが添加されて、選択酸化反応器41aに充填された選択酸化触媒上で第3メタン化反応器35の出口ガスに含まれる水素が酸素と反応して水蒸気となり、水素濃度が低減された燃料ガスが得られる。この燃料ガスを熱交換器42aで冷却して、水を分離して脱水すると、メタンを主成分とする燃料ガスが得られる。
【0131】
プロセスの主要な箇所における、温度及び流量を表9に示す。
【0132】
得られる燃料ガスの組成(脱水後の体積基準)は、メタン95.83%、水素3.72%、二酸化炭素0.45%、一酸化炭素2ppmとなる。本発明の方法により、プロパン等で熱量調整を行うだけで都市ガスとして利用できる、メタン純度の高い燃料ガス(高発熱量燃料ガス)が得られることがわかる。
【0133】
また、各反応器の出口において、炭素活量は1を下回っており、化学平衡的には炭素析出が回避される。
【0134】
【表9】
【0135】
〔実施例6〕
脱水水素化工程を有する燃料ガス製造プロセスの試算例を示す。プロセスフローを図7に示す。
【0136】
原料ガス調整工程には、温度25℃、圧力0.8MPaで、エタノール、水素及び水がそれぞれ1mol/s、2.25mol/s、2.5mol/sの流量で供給される。原料ガス調整工程では、これらが220℃まで加熱、混合されるとともに、水蒸気改質反応器21の出口からのリサイクルガスと混合され、300℃まで加熱されて、原料ガスとなり、水蒸気改質工程に送入される。
【0137】
水蒸気改質工程では、原料ガスが水蒸気改質反応器21に送入され、断熱的に反応が進行する。水蒸気改質反応器21の出口ガスは240℃まで冷却されたのち、その1/3が、リサイクルコンプレッサー15を通じて原料ガス調整工程に返送され、残りは第1メタン化反応器31に送入される。第1、第2メタン化反応器31,33はいずれも断熱型の反応器であり、第1メタン化反応器31の出口ガスは240℃まで冷却されたのち、第2メタン化反応器33に送入される。第2メタン化反応器33の出口ガスは250℃まで冷却されて、脱水水素化反応工程に送入される。
【0138】
脱水水素化反応工程では、第2メタン化反応器33の出口ガスに、温度250℃のエタノール0.25mol/sが添加されて、脱水水素化触媒が充填された脱水水素化反応器41bに送入される。脱水水素化触媒上で第2メタン化反応器33の出口ガスに含まれる水素がエタノールと反応してエタンとなり、水素濃度が低減され、エタンを含む燃料ガスが得られる。この燃料ガスを冷却すると、メタンを主成分し、エタンを含む燃料ガスが得られる。
【0139】
プロセスの主要な箇所における、温度及び流量を表10に示す。
【0140】
得られる燃料ガスの組成(脱水後の体積基準)は、メタン86.82%、エタン10.91%、水素1.82%、二酸化炭素0.45%、エチレン161ppm、一酸化炭素12ppmとなる。本発明の方法により、わずかな熱量調整を行うだけで都市ガスとして利用できる、メタン及びエタンを含む高発熱量の燃料ガス(高発熱量燃料ガス)が得られることがわかる。
【0141】
また、各反応器の出口において、炭素活量は1を下回っており、化学平衡的には炭素析出が回避される。
【0142】
【表10】
【0143】
以下に示す試験例は、本発明の高発熱量燃料ガス製造方法のうち、水蒸気改質工程に関する試験例である。
【0144】
〔試験例1〕
ステンレス製反応管(内径20mm)の中心部に温度計測用のさや管(外径6mm)を通し、反応管とさや管の間に、活性アルミナ担体(2~4mmの球状)に2質量%のルテニウムを担持した触媒12mL(約9g)を充填し、触媒層を形成した。触媒層の上下いずれにも、アルミナボールを30mmの高さに充填した。この反応管を電気炉内に装填して、触媒層上のアルミナボール層の中心部の温度が250℃となるよう加熱しながら、窒素ガスに2%の水素ガス(体積基準)を混合した還元ガスを流通し、1時間還元処理を行った。
【0145】
上記還元処理後、反応管内の圧力を0.7MPa(絶対圧)に保って、触媒層上のアルミナボール層の中心部、すなわち触媒層上端より15mm上の温度が250℃となるよう加熱しながら、エタノール200mL/分(0℃、1気圧の標準状態における体積、以下同様)、水素400mL/分、水蒸気400mL/分を混合したガスを触媒層に、上から下に向けて流通した。触媒層出口ガスは、氷冷トラップで凝縮成分(水、エタノール)を分離したのち、ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び窒素を、ガスクロマトグラフ(アジレント製Micro-GC、TCD検出器付き)で、炭化水素(メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、ブタン)及びエタノールをガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-2014、FID検出器付き)で分析した。また、氷冷トラップで凝縮した凝縮水中のエタノールは、ガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-2014、FID検出器付き)で分析した。
【0146】
なお、温度制御点を触媒層内部ではなく、触媒層上端より上のアルミナボール層の部分としたのは、触媒層内部では反応に伴う発熱により正確に温度を計測することが難しいためである。アルミナボール層内では、反応は進行しないため、触媒層入口のガス温度はアルミナボール層の中心部とほぼ一致する。以下では、触媒入口温度と記載した場合、触媒層上のアルミナボール層の中心部の温度を指すものとする。なお、触媒層内部(上部、中部、下部の3点)の温度もさや管内に挿入した熱電対を用いて計測した。
【0147】
250℃での測定が終わった後、試験ガスを流通したまま、触媒入口温度を300℃、350℃、400℃に順次変更し、同様に触媒層出口ガスをガスクロマトグラフで分析した。
【0148】
反応におけるエタノール転化率を次の式により計算した。触媒層出口ガスに含まれるエタノールには、氷冷トラップを通過したガスに加えて、氷冷トラップで凝縮した水に溶解しているエタノールも含んでいる。
エタノール転化率[%]=100×{1-(触媒層出口ガスに含まれるエタノールの単位時間当たりの物質量)/(触媒層に供給したエタノールの単位時間当たりの物質量)}
【0149】
触媒入口温度ごとの、触媒層上部、中部及び下部温度、並びに凝縮水分離後のガス組成の分析結果、エタノール転化率を表11に示す。
【0150】
触媒入口温度250℃のとき、生成したガスは、メタン88.7%、水素9.3%と二酸化炭素2.0%を含むメタン主成分のガスとなった。エタノール転化率は98.0%であり、凝縮水中に若干のエタノールが残存していた。触媒層内の最高温度は339℃(上部)で、触媒層出口では284℃であった。メタンの生成に伴う発熱で、触媒層内の温度は触媒入口温度より高くなるものの、触媒層が十分に断熱されていないため、触媒層内で放熱により温度が低下することがわかる。
【0151】
触媒入口温度300℃のとき、生成したガスは、メタン87.6%を含むメタン主成分のガスとなった。エタノール転化率は100%であり、ガス中にも凝縮水中にもエタノールは検出されなかった。触媒層内の最高温度は371℃であった。触媒層入口温度250℃のときに比べて、触媒層内の最高温度が高くなったため、エタノールの完全転化が達成されたと考えられる。なお、表3に示した断熱での水蒸気改質のプロセス計算の結果では、触媒層出口温度は591℃であったが、本試験例の条件では、放熱が大きいため、触媒層内の最高温度は371℃にとどまったと考えられる。一方、触媒層下部温度が319℃と低くなったため、メタン化反応が平衡的に進行しやすくなり、生成ガスのメタン濃度は、表3(38.83%)と比べて大幅に高くなった。
【0152】
触媒入口温度を、350℃、400℃とすると、触媒出口温度が高くなることにより、生成ガスのメタン濃度は、触媒入口温度300℃のときと比較して、やや低くなった。
【0153】
【表11】
【0154】
〔試験例2〕
触媒層に供給するガスのうち水素の半量を窒素に置き換えて、エタノール200mL/分、水素200mL/分、窒素200mL/分、水蒸気400mL/分としたほかは、試験例1と同様に試験した。窒素は、単位時間当たりに触媒に供給するガスの合計流量を試験例1と同じとするため添加したものである。
【0155】
触媒入口温度ごとの、触媒層上部、中部及び下部温度、並びに凝縮水分離後のガス組成の分析結果、エタノール転化率を表12に示す。
【0156】
触媒入口温度250℃のとき、生成したガスは、メタン51.6%、水素5.9%、二酸化炭素8.7%と、微量(0.02%以下)のエタン及びプロパンを含むメタン主成分のガスとなった。窒素を除いても、生成ガス中には二酸化炭素が多量に残存したが、これは量論的に、エタノールに含まれるすべての炭素をメタン化するには水素が不足するためである。エタノール転化率は97.8%であり、凝縮水に加えて、ガスにも若干のエタノールが残存していた。触媒層内の最高温度は363℃(上部)で、触媒層下部では336℃であった。触媒入口温度300℃以上では、エタノール転化率は100%となり、生成ガス中の炭化水素はメタンのみとなった。
【0157】
【表12】
【0158】
〔試験例3〕
触媒層に供給するガスの水素の全量を窒素に置き換えて、エタノール200mL/分、窒素400mL/分、水蒸気400mL/分としたほかは、試験例1と同様に試験した。
【0159】
触媒入口温度ごとの、触媒層上部、中部及び下部温度、並びに凝縮水分離後のガス組成の分析結果、エタノール転化率を表13に示す。
【0160】
触媒入口温度250℃のとき、エタノール転化率は11.5%にとどまった。触媒入口温度の上昇とともに、エタノール転化率は上昇したが、触媒入口温度400℃でもエタノール転化率は64.6%にとどまった。また、いずれの温度でも生成ガス(窒素を控除した後)は水素が主成分で、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンと、少量(0.02%~4.0%)のC2~C4炭化水素(エチレン、エタン、プロピレン、プロパン及びブタン)を含んでいた。
【0161】
【表13】
【0162】
〔試験例1~3の評価〕
本発明に従い、エタノールに、水素/エタノールのモル比2.0、水蒸気/エタノールのモル比2.0となるように水素及び水蒸気を添加して、ルテニウムを含有する触媒に接触させた試験例1では、触媒入口温度250℃以上であれば、エタノールはほぼ転化し、メタンを主成分とするガスが得られる。また、触媒入口温度300℃以上、触媒層内の最高温度が370℃以上となる条件で接触させると、エタノールは完全にメタン主成分ガスに転化することができる。
【0163】
一方、水素/エタノールのモル比を1.0にした試験例2では、エタノールの転化率は水素/エタノールのモル比2.0の場合と同程度であるものの、生成したガス中に多量の二酸化炭素が残存する。
【0164】
また、水素を添加しない試験例3では、エタノールは触媒入口温度400℃(触媒層内部温度392℃~398℃)でも完全転化しない。特許文献3に開示されているように、水素を添加しない単なるエタノールの水蒸気改質反応で、十分なエタノール転化率を得るには、400℃またはそれより高い温度が必要となる。
【0165】
実施例7及び比較例5は、長尺の反応管の入口側と出口側に触媒を2段に充填し、エタノール、水素及び水蒸気を含むガスを異なる温度で触媒に接触させて、入口側で水蒸気改質反応を、出口側でメタン化反応を行い、高発熱量燃料ガスの製造を試みた例である。
【0166】
〔実施例7〕
ステンレス製反応管(内径20mm)の中心部に温度計測用のさや管(外径6mm)を通し、反応管とさや管の間に、活性アルミナ担体(2~4mmの球状)に2質量%のルテニウムを担持した触媒12mL(約9g)を充填し、水蒸気改質触媒層を形成した。水蒸気改質触媒層の上には、アルミナボールを30mmの高さに充填した。水蒸気改質触媒層の下には、アルミナボールを145mmの高さに充填し、水蒸気改質触媒を出たガスを冷却するための冷却ゾーンとし、そのさらに下に活性アルミナ担体(2~4mmの球状)に2質量%のルテニウムを担持した触媒43mL(約33g)を充填し、メタン化触媒層を形成した。さや管内の、水蒸気改質触媒層の上のアルミナボール層の中心部に当たる位置と、水蒸気改質触媒層の上部、中部及び下部にあたる位置、並びにメタン化触媒層の上部、中部及び下部にあたる位置に温度計測用の熱電対を設けた。
【0167】
この反応管を電気炉に装填した。電気炉は、上段、中段、下段の3ゾーンからなっており、それぞれの加熱出力を個別に制御可能となっている。水蒸気改質触媒層の下端が、電気炉の上段ヒーターの下端と同じ高さに位置し、下段ヒーターの上下端がメタン化触媒層の上下端と同じ高さに位置するように、反応管を電気炉に装填した。
【0168】
上段ヒーターは、水蒸気改質触媒層の上のアルミナボール層の中心部の温度が約250℃となるよう制御し、下段ヒーターは、メタン化触媒層出口部の温度が250℃となるよう制御し、窒素ガスに2%の水素ガス(体積基準)を混合した還元ガスを流通して、1時間還元処理を行った。
【0169】
上記還元処理後、反応管内の圧力を0.7MPa(絶対圧)に保って、上段ヒーターは、水蒸気改質触媒層の上のアルミナボール層の中心部の温度(水蒸気改質触媒入口温度)が300℃となるよう制御し、下段ヒーターは、メタン化触媒層出口部(下部)の温度が270℃となるよう制御しながら、エタノール200mL/分、水素400mL/分、水蒸気400mL/分を混合したガスを上から下に向けて触媒層に流通した。触媒層出口ガスは、試験例1と同様にして分析した。
【0170】
反応開始から1,2,3,4時間経過時点での、水蒸気改質触媒入口温度、水蒸気改質触媒層上部、中部及び下部温度、メタン化触媒層上部、中部及び下部温度、並びに凝縮水分離後のガス組成の分析結果、エタノール転化率を表14に示す。
【0171】
反応開始から1時間後には、水蒸気改質触媒入口温度は295℃で、水蒸気改質触媒上部温度は392℃、メタン化触媒出口温度(下部)は269℃であった。凝縮水分離後のガスは、メタン94.2%、水素5.3%、二酸化炭素0.5%となり、メタンを主成分とし、少量の水素と二酸化炭素を含むメタン主成分ガスとなっていた。エタノール転化率は100%であった。
【0172】
反応開始から2時間以降は、水蒸気改質触媒入口温度は299~300℃で安定に制御され、水蒸気改質触媒層上部温度は397~401℃、メタン化触媒出口温度(下部)は270~271℃で、反応は安定して継続した。凝縮水分離後のガスは、メタン95%、水素4%、二酸化炭素1%で安定して推移し、都市ガス原料として利用しやすい、メタン純度の高いガスが得られた。エタノール転化率は100%で推移した。
【0173】
【表14】
【0174】
〔比較例5〕
触媒層に供給するガスを、エタノール200mL/分、水素200mL/分、水蒸気400mL/分を混合したガスとしたほかは、実施例7と同様に試験した。
【0175】
反応開始から1,2,3,4時間経過時点での、水蒸気改質触媒入口温度、水蒸気改質触媒層上部、中部及び下部温度、メタン化触媒層上部、中部及び下部温度、並びに凝縮水分離後のガス組成の分析結果、エタノール転化率を表15に示す。
【0176】
エタノール転化率は100%で安定に推移した。凝縮水分離後のガスの組成は、メタン85.5%、水素1.9%、二酸化炭素12.6%で安定して推移した。得られたガスは、メタンが主成分であるが、二酸化炭素濃度が高いことから、何らかの二酸化炭素除去工程を経なければ、都市ガス原料として利用することは難しい。
【0177】
【表15】
【0178】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る高発熱量燃料ガスの製造方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0179】
実施例1~6の実施形態では、水蒸気改質工程に用いる水蒸気改質反応器を断熱型の反応器で構成した例について特に説明した。しかし、本発明に係る水蒸気改質工程において用いる反応器は、特に限定されず、熱交換型反応器で構成してもよい。
【0180】
実施例1~6の実施形態では、水蒸気改質反応器とメタン化工程に用いるメタン化反応器とが別個の反応器に収容され、さらに熱交換器を備えて、水蒸気改質反応器を出たガスが熱交換器に通じて冷却されたのち、メタン化反応器に挿入されるよう構成した例について、特に説明した。しかし、本発明に係る水蒸気改質反応器とメタン化反応器とは、一体で構成されていてもよく、例えば、単一の反応器に、同一又は異なる触媒を充填して、入口付近には熱交換器を設けないか、あるいは出口付近に対して、入口付近の熱交換能力を小さく設計することにより、反応器の前半部では断熱あるいはそれに近い条件で反応を進行させ、後半部では等温あるいはそれに近い条件で反応を進行させてもよい。この場合、原料ガスが300℃で水蒸気改質反応器に導入され、前半部では断熱的に反応が進行して、触媒層温度のピークが例えば400℃程度となるようにし、後半部では水蒸気改質反応で生成したガスが徐々に冷却されて、メタン化反応が進行し、230℃以上330℃以下となって反応器を出るように設計してもよい。この場合、反応器の前半部で、水蒸気改質工程が行われ、反応器の後半部でメタン化反応工程が実施されることになる。
【0181】
また、本発明は、従来公知のメタン転化率の向上手段の併用を排除するものではなく、例えば、多段型反応の途中段で、反応ガスを冷却して水蒸気の一部を凝縮、分離する構成としてもよい。この場合でも、本発明の方法を用いると、水蒸気を極端に除去することなく、燃料ガス中の水素及び二酸化炭素濃度を低下させることができる。
【0182】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、たとえば、都市ガスとして供給するための燃料ガスを製造する方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0184】
1 :原料ガス調整部
2 :水蒸気改質反応部
3 :メタン化反応部
4a :選択酸化反応部
4b :脱水水素化反応部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7