(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176907
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法、装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20221122BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01N33/53 L
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077884
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021083368
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 健
(72)【発明者】
【氏名】全 完
(72)【発明者】
【氏名】堀内 久徳
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、内視鏡検査を行わずに、消化管に生じる血管異形成の発生レベルを測定することを課題とする。
【解決手段】被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含み、前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含み、
前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、
被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法。
【請求項2】
前記被検者のvWF高分子多量体インデックスが、被検者の測定データと、所定の基準値を、加算、減算、乗算、又は除算することによって算出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所定の基準値が、健常人の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の測定データに基づいて決定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、取得した被検者のvWF高分子多量体インデックスを、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルが異なる対照者から採取した少なくとも2つの血液試料から取得されたvWF高分子多量体インデックスに基づいて作成した検量線にあてはめ、検量線から求められる被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを提示することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記発生レベルが、半定量的に提示される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記発生レベルが、定量的に提示される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
被検者が、後天性フォンウィルブランド症候群を疑う患者である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含み、
前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、
前記装置。
【請求項9】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得するステップを実行させることを含み、
前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、
被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
フォンウィルブランド因子(vWF)を検出するための抗体を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するための検査試薬。
【請求項11】
請求項10に記載の検査試薬を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するための検査キット。
【請求項12】
緩衝液、キレート剤、及び界面活性剤を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するためのサンプルバッファー試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法、装置、及びコンピュータプログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化に伴い大動脈弁狭窄症を発症する患者が増加している。重症大動脈弁狭窄症には、消化管出血が合併することが知られており、このような病態は、ハイド症候群と呼ばれている。ハイド症候群は、大動脈弁が狭くなり、その狭くなった部分を血液が通過することで、止血作用に必須である血液中のフォンウィルブランド因子(vWF)高分子多量体が機械的に破壊されることによって出血しやすくなる病態であることが報告された(非特許文献1)。また、
【0003】
循環血液に高剪断力が負荷された場合、vWF高分子多量体に物理的な負荷がかかり、一時的に分子構造に緩みが生じ、その際にa specific zinc-containing metalloproteaseであるADAMTS13によって切断されることが知られている。このため、いったんは、高分子多量体化したvWFの分子サイズが減少することが知られている(非特許文献2)。特許文献1及び非特許文献2では、vWF高分子多量体の量を表す指標として、被検者の血液試料におけるvWF高分子多量体の存在比を用いている。vWFの高分子マルチマーの存在比を、被検者の血液試料におけるvWFの高分子マルチマーの存在比を健常人の血液試料におけるvWFの高分子マルチマーの存在比で除したvWF高分子マルチマーインデックスとして数値化することにより、vWF高分子マルチマーの保持率を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Joseph Loscalzo, N ENGL J MED 367;20 nejm.org november 15, 2012
【非特許文献2】Hisanori Horiuchi et al., J Atheroscler Thromb, 2019; 26: 303-314. http://doi.org/10.5551/jat.RV17031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
消化管における血管異形成による消化管出血は、内視鏡検査でなければ見つからないため、患者が消化管出血を起こしていても、原因不明の貧血として扱われることが多い。また、出血の原因となる血管異形成がどの程度発生しているかについても、内視鏡検査でなければ見つけることはできない。しかし、内視鏡検査は患者に大きな負担をかける、認知症の患者には施行できない等の課題がある。
さらに、非特許文献2には、血管異形成の発生とvWF高分子マルチマーの因果関係は不明であるとされている。
本発明は、内視鏡検査を行わずに、消化管に生じる血管異形成の発生レベルを測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、消化管粘膜に生じている血管異形成の発生レベルと、前記血管異形成が生じている患者から採取した血液試料中のvWF高分子多量体の存在量が相関することを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含み、前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法。
項2.前記被検者のvWF高分子多量体インデックスが、被検者の測定データと、所定の基準値を、加算、減算、乗算、又は除算することによって算出される、項1に記載の方法。項3.所定の基準値が、健常人の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の測定データに基づいて決定される、項1又は2に記載の方法。
項4.さらに、取得した被検者のvWF高分子多量体インデックスを、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルが異なる対照者から採取した少なくとも2つの血液試料から取得されたvWF高分子多量体インデックスに基づいて作成した検量線にあてはめ、検量線から求められる被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを提示することを含む、項1から3のいずれか一項に記載の方法。
項5.前記発生レベルが、半定量的に提示される、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
項6.前記発生レベルが、定量的に提示される、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
項7.被検者が、後天性フォンウィルブランド症候群を疑う患者である、項1から6のいずれか一項に記載の方法。
項8.被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための装置であって、前記装置は、処理部を備え、前記処理部は、被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含み、前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、前記装置。
項9.コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比、又は存在量である被検者の測定データと前記測定データに対応する所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得するステップを実行させることを含み、前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するためのコンピュータプログラム。
項10.フォンウィルブランド因子(vWF)を検出するための抗体を含む、項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するための検査試薬。
項11.項10に記載の検査試薬を含む、項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するための検査キット。
項12.緩衝液、キレート剤、及び界面活性剤を含む、項1から7のいずれか一項に記載の方法に使用するためのサンプルバッファー試薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内視鏡検査を行わなくても、患者の消化管粘膜に発生している血管異形成の発生レベルを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】決定補助プログラム1042の処理の流れを示す。
【
図3】全消化管内視鏡精査における消化管血管性病変が検出されたn数及び割合を示す。
【
図4A】各患者のウエスタンブロッティングの結果と、定量結果(Small Multimer、Medium Multimer、Large Multimer)と、式5により求めた数値(Large Multimer Ratio)と、それに100を乗じて得たvWF高分子多量体インデックス(Large Multimer Index (%))と、各患者の消化管出血病変数を示す。各レーンについてControlは陰性対照を示し、数字は各患者の識別番号を示す。
【
図4B】各患者のウエスタンブロッティングの結果と、定量結果(Small Multimer、Medium Multimer、Large Multimer)と、式5により求めた数値(Large Multimer Ratio)と、それに100を乗じて得たvWF高分子多量体インデックス(Large Multimer Index (%))と、各患者の消化管出血病変数を示す。各レーンについてControlは陰性対照を示し、数字は各患者の識別番号を示す。
【
図4C】小腸消化管粘膜血管異形成病変数(個)とvWF高分子多量体インデックスとの相関を示す
【
図5】大動脈弁置換術前後の小腸の内視鏡画像を示す。(A)は手術前の画像であり、(B)は手術後の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法
本発明は、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法に関する。前記方法は、被検者の血液試料におけるフォンウィルブランド因子(vWF)の高分子多量体の存在比である被検者の測定データと所定の基準値に基づいて決定された被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することを含む。前記被検者のvWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する。
【0011】
vWFは、モノマーが2050アミノ酸残基からなる凝固因子の一種である。vWFは、血中において、2merから80 mer程度の多量体を形成しており、出血が起こった際に、出血部位に血小板を凝集させる機能を有する。その機能は、vWFの多量体が高分子になるほど強いとされている。したがって、単にvWF が血中に基準範囲内の濃度で存在しているだけでなく、vWFの高分子多量体(以下、「vWF高分子多量体」ということもある)の存在比率が、出血部位への血小板凝集を含む正常な一次止血反応に重要である。vWFは2 mer から10 merまでが低分子多量体とされ、12 mer から20 merまでが中分子多量体とされ、vWFは22 mer以上が高分子多量体とされている。vWFは二量体が基本ユニットとなるため、vWF同士が結合する場合、2merずつ結合する。
【0012】
本明細書において、消化管には、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸)、及び食道を含み得る。消化管として、好ましくは、小腸、胃、及び大腸であり、より好ましくは小腸である。小腸では、幽門部より下部から小腸を上部小腸、中部小腸、及び下部小腸に三等分した場合、上部小腸、中部小腸、下部小腸の順に血管異形成の発生頻度は低くなる。また、大腸では盲腸からS状結腸までを右側結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)と、左側結腸(下行結腸、S状結腸)に分けた場合、右側結腸は、左側結腸及び直腸よりも血管異形成の頻度が高い。
【0013】
本明細書において、血管異形成には、下記3つの病変の少なくとも1つを含み得る。 i.静脈の特徴を持つ病変:薄い血管壁からなる内弾性板を持たない、静脈の特徴を持った異常血管が拡張・蛇行した病変である。
ii.動脈の特徴を持つ病変:粘膜下層に通常は存在しない異常に太い動脈が、粘膜に近接して蛇行している病変である。
iii.動脈と静脈の特徴を持つ病変:比較的大型の動脈と静脈の間に吻合又は移行部を有する病変である。
【0014】
被検者は、特に制限されない。好ましくは、例えば体内の血液循環器系の一部において循環血液に高ずり応力が負荷されていることを疑う者である。高ずり応力が負荷される可能性がある疾患として、心臓弁狭窄症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症等)、心臓弁閉鎖不全症(大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症等)、心臓弁膜症(細菌性心内膜炎、ウイルス性心内膜炎等)、左室肥大等を挙げることができる。また、人工心臓(植え込み型補助人工心臓、体外設置型人工心臓等)や人工心臓血管を装着した者においても、循環血液に高ずり応力が負荷される可能性があるため、被検者となり得る。さらに、循環血液に高ずり応力が負荷されていることが疑われていない者を被検者としてもよい。
【0015】
循環血液に高ずり応力が負荷されていることを疑う者とは、言い換えれば後天性フォンウィルブランド症候群を疑う患者である。フォンウィルブランド症候群には、1型、2型、及び3型が存在する。後天性フォンウィルブランド症候群は2型に分類される。
【0016】
血液試料は、被検者から採取された血液、又は採取した血液を処理して得られる試料である。血液試料として、例えば、全血や血漿を例示することができる。血液は、採血時にヘパリン製剤以外の抗凝固剤を使用して採取することが好ましい。抗凝固剤としてクエン酸塩、例えばクエン酸ナトリウム溶液を用いることができる。血液試料として、例えば、抗凝固剤として3.1%から3.3%(重量/容量)のクエン酸三ナトリウム溶液を用い、この抗凝固剤と採取した血液が容量比で約1:8.5から1:9.5となるように混合した血液検体から分離した血漿を用いることができる。
【0017】
測定データは、血液試料におけるvWFの高分子多量体の存在量、又は存在比を示す。vWFの多量体の分子サイズを測定する方法は、特許文献1及び非特許文献2において既に公開されている。簡単に説明すると、例えば、1%アガロースゲルに血液試料をアプライし、3mAにて10時間-12時間もしくは2mA、20時間程度電気泳動を行う。
【0018】
アガロースゲルの調製用バッファーは、例えば500ml中に、Tris 3.0g、Glycine 15.0g、SDS 0.5g、Glycerol 150mlを含み得る。また、電気泳動用バッファーは、1000 ml中にTris 6.0g、Glycine 30.0g、SDS 1.0gを含み得る。血液試料は、サンプルバッファーで25倍程度に希釈することが好ましい。50 ml中に、3M Tris(pH6.8) 174μl、0.5M EDTA 208 μl、20%SDS 5ml、1%BPB 1ml、50% Glycerol 43.6mlを含み得る。血液試料は、サンプルバッファーと混合した後に、56℃程度で、20分程度加温し、直ちに3分程度氷冷する。解析まで時間がある場合には、氷冷後に血液試料とサンプルバッファーの混合液を-80℃程度で凍結保存する。
【0019】
電気泳動後のアガロースゲルから、タンパク質を通常のウエスタンブロッティングの手技にしたがって、PVDF膜に転写し、抗ヒトvWF抗体(例えば、polyclonal rabbit anti-human vWF antibody;DAKO)を使用して、PVDF膜上のvWFをシグナルとして検出する。
【0020】
一次抗体に抗ヒトvWF抗体を使用する場合、一次抗体に対応する二次抗体に標識物質を標識し、標識物質からシグナルを取得することで、vWFを可視化する。標識物質は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素、及び金属ナノ粒子等が挙げられる。酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。金属ナノ粒子としては、金ナノ粒子、銀ナノ粒子を挙げることができる。これらの中でも、標識物質として、ペルオキシダーゼが好ましい。標識抗体は、市販品を購入してもよい。また、一次抗体に直接標識物質を標識してもよい。標識は、市販のラベリングキットなどを用いて標識行うことができる。
【0021】
シグナルを検出する方法は、公知の方法を使用することができる。本方法では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択することができる。例えば、標識物質が酵素である場合、前記酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、イメージアナライザー(例えば、LAS4000(GE Healthcare)等で可視化することができる。酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質が挙げられる。標識物質がペルオキシダーゼである場合には、イムノスター(商標)シリーズ(富士フイルム和光純薬株式会社)、Pierce ECL(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、Pierce ECL Plus(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、West Dura(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)等が挙げられる。
【0022】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、オートラジオグラフィー、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、イメージアナライザー等の公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。標識物質が、金属ナノ粒子である場合には、金属ナノ粒子の凝集による発色をイメージアナライザー等の公知の装置を用いて測定できる。
【0023】
ウエスタンブロッティングにより、vWFは分子サイズに応じてラダー状に配列する。最も分子サイズが小さいバンドは、二量体であり、高分子側に向かって2分子ずつ1つのバンドとしてラダー状に配列する。vWFの低分子多量体は低分子側から数えて1番目から5番目のラダーに相当する。vWFの中分子多量体は低分子側から数えて6番目から10番目のラダーに相当する。vWFの高分子多量体は低分子側から数えて11番目以上のラダーが相当する。したがって、これらのラダーのシグナル強度をイメージアナライザー等で定量化することにより、血液試料中のvWFの高分子多量体の存在量、又は存在比を取得することができる。
【0024】
さらに、被検者の血液試料から取得された測定データと、その測定データに対応する所定の基準値とに基づいて、被検者のvWF高分子多量体インデックスを取得することができる。
【0025】
所定の基準値は、例えば循環血液に高ずり応力が負荷されておらず、血液凝固機能を含むその他の臨床検査データに異常のない者(以下、便宜上「健常者」と呼ぶ)から採取された血液試料から取得した測定データに基づいて、決定することができる。好ましくは、基準値を決定するために使用される血液試料は、異なる複数名の健常者から採取される。基準値は、健常者の測定データそのもの、複数名の健常者から取得した測定データの平均値、平均値に標準偏差(又は標準偏差の2倍の値)を加算した値、平均値に標準偏差(又は標準偏差の2倍の値)を減算した値、中央値、第一四分位数、第三四分位数等を使用してもよい。
【0026】
被検者の測定データに対応するとは、被検者の測定データが存在量である時には、基準値も存在量であり、被検者の測定データが存在比である時には、基準値も存在比であることを示す。
【0027】
被検者のvWF高分子多量体インデックスは、被検者の測定データと所定の基準値を加算、減算、乗算、又は除算することによって算出することができる。より具体的には、下式のいずれかにより算出することができる。
vWF高分子多量体インデックス=(被検者の測定データ)+(基準値) (式1)
vWF高分子多量体インデックス=(被検者の測定データ)-(基準値) (式2)
vWF高分子多量体インデックス=(基準値)-(被検者の測定データ) (式3)
vWF高分子多量体インデックス=(被検者の測定データ)×(基準値) (式4)
vWF高分子多量体インデックス=(被検者の測定データ)÷(基準値) (式5)
vWF高分子多量体インデックス=(基準値)÷(被検者の測定データ) (式6)
上記式中「+」は加算を意図し、上記式中「-」は減算を意図し、上記式中「×」は乗算を意図し、上記式中「÷」は加算を意図する。
【0028】
被検者のvWF高分子多量体インデックスは、被検者における消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを反映する。血管異形成の発生レベルとは、例えば、消化管粘膜の所定範囲あたりに発生している血管異形成の数、又は消化管粘膜の所定範囲あたりにおける血管異形成を発生している面積の広さを意図する。面積には、一カ所の面積の他、複数個所の面積の合計を含み得る。すなわち、式1、式2、式4、及び式5においては、vWF高分子多量体インデックスが小さくなるほど、消化管粘膜に発生している血管異形成の数が多いか、血管異形成を発生している面積が広いことを示す。また、式1、式2、式4、及び式5においては、vWF高分子多量体インデックスが大きくなるほど、消化管粘膜に発生している血管異形成の数が少ないか、血管異形成を発生している面積が狭いことを示す。一方、式3、及び式6においては、vWF高分子多量体インデックスが小さくなるほど、消化管粘膜に発生している血管異形成の数が少ないか、血管異形成を発生している面積が狭いことを示す。式3、及び式6においては、vWF高分子多量体インデックスが大きくなるほど、消化管粘膜に発生している血管異形成の数が多いか、血管異形成を発生している面積が広いことを示す。
【0029】
被検者のvWF高分子多量体インデックスは、式5又は式6にしたがって算出することが好ましく、特に式5にしたがって算出することがより好ましい。また、式5又は式6でもとめた値に100を乗じ百分率(%)によりvWF高分子多量体インデックスを表してもよい。
【0030】
vWF高分子多量体インデックスの取得には、上記式にしたがって算出すること、又は、算出したvWF高分子多量体インデックスを他のコンピュータ、他施設、他機関等から取得することを含み得る。
【0031】
さらに、取得した被検者のvWF高分子多量体インデックスから、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルを提示することができる。この場合、vWF高分子多量体インデックスを血管異形成の発生レベルに変換するための検量線を作成する。検量線は、消化管粘膜における血管異形成の発生レベルが異なる対照者から採取した少なくとも2つの血液試料から取得されたvWF高分子多量体インデックスに基づいて作成する。
【0032】
対照者は、ゴールデンスタンダートと呼ばれる者であり、内視鏡検査等の実際の画像診断により消化管粘膜に血管異形成が認められると判定された者である。対照者から採取した血液試料から取得したvWF高分子多量体インデックスは、実際に生じている消化管粘膜の血管異形成の発生レベルと紐づけることができる。したがって、検量線は、対照者の血液試料と、血液試料を採取した時の消化管粘膜の血管異形成の発生レベルに基づいて作成される。この時、対照者は同一の者であっても、異なる者であってもよい。また、これらが混合していてもよい。対照者が同一の者である場合、例えば未治療の消化管粘膜の血管異形成に対して、治療を行い未治療の消化管粘膜の血管異形成が改善される過程で、血液試料の採取と消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの情報の取得を複数の時点で行う。血液試料の採取と消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの情報の取得は必ずしも同日でなくてもよいが、3日以内、好ましくは2日以内、1日以内の時間差で行うことが好ましい。
【0033】
検量線を生成するために必要な、vWF高分子多量体インデックスと消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの情報の組み合わせは、少なくとも2つである限り制限されない。例えば、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。vWF高分子多量体インデックスと消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの情報の組み合わせの数が多いほど、検量線の制度が向上する。検量線は直線であっても曲線であってもよい。検量線は回帰式であるため、被検者のvWF高分子多量体インデックスを検量線に当てはめることにより、被検者の消化管粘膜の血管異形成の発生レベルを定量的に求めることができる。
消化管粘膜の血管異形成の発生レベルを示す結果は、回帰式により算出された数値そのもので定量的に表わされてもよい。
【0034】
また、消化管粘膜の血管異形成の発生レベルを示す結果は、発生レベルが「高い」、「中等度」、「低い」等の半定量的に表されてもよい。この場合、例えば、あらかじめvWF高分子多量体インデックスを一定の数値範囲で消化管粘膜の血管異形成の発生レベルに応じて分位(例えば「高い」、「中等度」、「低い」の3分位)しておく。被検者について回帰式から出力された数値が該当した分位を消化管粘膜の血管異形成の発生レベルを示す結果として提示する。
「提示」には、ディスプレイ等の画面に表示すること、検査結果を示す紙媒体等に表示することを含み得る。
【0035】
2.血管異形成の発生レベルの決定を補助するための装置
(1)ハードウエア構成
本発明のある実施形態は、被検者の消化管粘膜における血管異形成の発生レベルの決定を補助するための装置10(以下、単位「装置10」とも呼ぶ)。
【0036】
図1を用いて、装置10のハードウエア構成を説明する。装置10は、汎用コンピュータであり得る。装置10は、入力デバイス111と、出力デバイス112と、メディアドライブ113と通信可能に接続されている。装置10は、CPU101と、メモリ102と、ROM(read only memory)103と、記憶デバイス104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108とを備える。装置10内の各構成はバス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0037】
記憶デバイス104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。記憶デバイス104には、オペレーティングシステム(OS)1041と、後述する決定補助プログラム1042と、基準値データベース(DB)DB1と、検量線データベース(DB)DB3と、が格納されている。決定補助プログラム1042は、オペレーティングシステム1041と協働して、コンピュータを装置10として機能させる。基準値データベースDB1は、所定の基準値を格納している。検量線データベースDB3は、対照者のvWF高分子多量体インデックスと消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの情報と、これらに基づいて算出された回帰式を記録している。さらに検量線データベースDB3は、分位されたvWF高分子多量体インデックスの数値範囲を、各数値範囲に対応する消化管粘膜の血管異形成の発生レベルの半定量結果を示すラベルと共に格納していてもよい。
CPU101は、本実施形態において処理部101とも呼ばれる。
基準範囲データベースDB1は、上記1-1.で述べた基準範囲を格納している。
【0038】
入力デバイス111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス111は、処理部101の外部から接続されても、装置10と一体となっていてもよい。
【0039】
出力デバイス112は、例えばディスプレイ等の表示デバイス、プリンタ等で構成され、各種操作ウインドウ、消化管粘膜の血管異形成の発生レベルを示す結果等を出力する。 メディアドライブ113は、USBドライブ、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等であり得る。 通信I/F105は、測定装置50から生データの群の受信を行う。出力I/F107は、出力デバイス112への結果の送信を行う。
(2)決定補助プログラムの処理の流れ
図2に決定補助プログラム1042の処理の流れを示す。
【0040】
装置10の処理部101は、ステップS1において、オペレータが入力デバイス111から入力した被検者の測定データの入力を受け付ける。また、オペレータが入力デバイス111から入力する基準値取得要求を受け付け、基準値データベースDB1から被検者の測定データに対応する所定の基準値を取得する。
【0041】
処理部101は、ステップS2において、オペレータが入力デバイス111から入力するインデックス算出要求を受け付け、上記1.で述べた式にしたがって、vWF高分子多量体インデックスを取得する。
【0042】
処理部101は、ステップS3において、オペレータが入力デバイス111から入力する血管異形成の発生レベル提示要求を受け付ける。受け付けた提示要求が、血管異形成の発生レベルを定量的に提示するものである場合(「YES」の場合)、処理部101は、ステップS4に進み、検量線データベースDB3から検量線を取得し、ステップS2において取得した被検者のvWF高分子多量体インデックスを検量線にあてはめ、血管異形成の発生レベルを示す結果を生成する。処理部101は、ステップS5に進み、ステップS4において生成した結果を出力する。
【0043】
処理部101は、ステップS3において、受け付けた提示要求が、血管異形成の発生レベルを定量的に提示するものでない場合(「NO」の場合)、処理部101は、ステップS6に進み、血管異形成の発生レベルを半定量的に提示するものであるか判断する。血管異形成の発生レベル提示要求が、血管異形成の発生レベルを半定量的に提示するものである場合(「YES」の場合)、処理部101は、ステップS7に進む。処理部101は、ステップS7において、検量線データベースDB3からステップS2において取得した被検者のvWF高分子多量体インデックスに対応する分位のラベルを取得する。処理部101は、ステップS5に進み、ステップS7において取得した結果を出力する。
【0044】
ステップS6において、血管異形成の発生レベル提示要求が、血管異形成の発生レベルを半定量的に提示するものでない場合(「NO」の場合)、処理部101は、ステップS8に進み、被検者のvWF高分子多量体インデックスを出力する。
【0045】
(3)決定補助プログラムを記録した記録媒体
ステップS1からステップS8の処理を備える決定補助プログラム1042は記録媒体に記録されていてもよい。
【0046】
すなわち、決定補助プログラム1042は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記録媒体に記憶される。また前記コンピュータプログラムは、クラウドサーバ等のネットワークで接続可能な記録媒体に記憶されていてもよい。コンピュータプログラムは、ダウンロード形式の、又は記録媒体に記録されたプログラム製品として提供されてもよい。
【0047】
前記記録媒体へのプログラムの記憶形式は、装置10が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記録媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0048】
3.検査試薬及び検査キット
本発明のある実施形態は、上記1.で述べた血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法を実行するための検査試薬、及び検査キットに関する。
【0049】
検査試薬は、少なくともvWFの一部に結合可能な一種又は複数の抗vWF抗体(例えば、一次抗体)を含む。「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。抗体の免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。また、抗vWF抗体として、上記1.において述べた市販の抗体を使用してもよい。
【0050】
また、抗体は必ずしも精製されている必要はなく、抗体を含む抗血清、腹水、これらから画分された免疫グロブリン画分等であってもよい。
【0051】
検査試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検査試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
vWFと結合する抗体は、標識物質で標識されていてもよい。標識物質として、好ましくは酵素であり、より好ましくはペルオキシダーゼである。
【0052】
vWF検出用検査試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した、又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、vWFと結合する抗体が未標識の一次抗体である場合には、検査キットに、標識物質(好ましくは酵素であり、より好ましくはペルオキシダーゼである)により標識された二次抗体が含まれていてもよい。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。また、血液試料と混合するサンプルバッファーがキットに同包されていてもよい。
【0053】
4.血液試料と混合するサンプルバッファー試薬
本発明のある実施形態は、血液試料と混合するサンプルバッファー試薬に関する。サンプルバッファー試薬は、上記1.で述べた血管異形成の発生レベルの決定を補助するための方法を実行するために使用される。サンプルバッファー試薬には、上記1.で述べたように、Tris等をベースとする緩衝液、EDTA等のキレート剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤等を含み得る。さらに、サンプルバッファー試薬は、ブロモフェノールブルー(BPB)等の電気泳動マーカー色素、及びグリセロール等の比重増加剤等を含んでいてもよい。サンプルバッファー試薬は、一回分が1つの容器に分包されていてもよいが、複数回分が1つの容器に格納されていてもよい。
【実施例0054】
以下に実施例を示して本願発明についてより詳細に説明する。しかし、本願発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0055】
京都府立医科大学を受診した重症大動脈弁狭窄症の患者38名にインフォームドコンセントを行った上で、全消化管内視鏡精査(食道から大腸)とvWF高分子多量体定量値測定を行った。
vWF高分子多量体の定量は、ウエスタンブロッティングにて行った。電気泳動ゲルには1%のアガロースゲルゲルを使用し、メンブレンはPVDFメンブレンを使用した。vWFを検出するための抗体としてPolyclonal rabbit anti-human vWF antibody/HRP(Dako)を使用した。検出には、イムノスターゼータ (富士フィルム和光純薬株式会社)を使用し、バンドの定量にはImage Jシステムを使用した。
【0056】
対象となった患者は全てヘモグロビン濃度が11g/dlよりも低かった。
図3に全症例の消化管粘膜血管性病変の数と割合(%)を示す。全症例において、胃、小腸、及び大腸の少なくとも消化管粘膜の血管性病変(血管異形成)が認められた。中でも、小腸では90%の症例で血管性病変が認められた。
【0057】
図4(A)及び(B)に各患者のウエスタンブロッティングの結果と、定量結果(Small Multimer、Medium Multimer、Large Multimer)と、式5により求めた数値(Large Multimer Ratio)と、それに100を乗じて得たvWF高分子多量体インデックス(Large Multimer Index (%))と、各患者の消化管出血病変数を示す。各レーンについてControlは陰性対照を示し、数字は各患者の識別番号を示す。病変数は、全小腸(上部小腸、中部小腸、下部小腸)の範囲において血管異形成病変が認められた箇所数をカウントした。
図4(C)に、vWF高分子多量体インデックスと消化管粘膜血管異形成病変数(個)との相関を示す。病変数が多いほど、vWF高分子多量体インデックスが低い傾向が示された。このことから、vWF高分子多量体インデックスは、消化管粘膜の血管異形成の発生レベルと相関することが示された。
【0058】
図5は、大動脈弁置換術前後の小腸の内視鏡画像を示す。(A)は手術前の画像であり、(B)は手術後の画像である。手術前は、循環血液に高ずり応力が負荷されていたため、小腸内の血管性病変の範囲が広かったが、大動脈弁置換術後には高ずり応力が負荷されなくなったため、血管性病変は改善されていた。