(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176979
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの結晶形態
(51)【国際特許分類】
C07H 19/048 20060101AFI20221122BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20221122BHJP
A61P 3/06 20060101ALN20221122BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20221122BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20221122BHJP
A61P 9/00 20060101ALN20221122BHJP
A61P 3/04 20060101ALN20221122BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20221122BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C07H19/048 CSP
A61K31/706
A61P3/06
A61P9/10
A61P3/10
A61P9/00
A61P3/04
A61P25/28
A61P27/02
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022131443
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2020205773の分割
【原出願日】2016-09-30
(31)【優先権主張番号】62/236,657
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.PLURONIC
3.CREMOPHOR
(71)【出願人】
【識別番号】518033082
【氏名又は名称】メトロ インターナショナル バイオテック,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カール,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】リビングストン,デーヴィッド,ジェイ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを製造及び製剤化する改善された方法を提供する。
【解決手段】β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの結晶形態、その製造の方法、及びそれらの関連医薬調製物を提供する。また、栄養補助食品、獣医学及び農業に関連性のある使用に好適な調製物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【請求項2】
無水である、請求項1に記載の結晶性化合物。
【請求項3】
20.03、20.14、21.83、及び25.73の2θ値を有する、請求項2に記載の結晶性化合物。
【請求項4】
20.03、20.14、21.03、21.83、23.08、23.39、25.73、及び26.59の2θ値を有する、請求項3に記載の結晶性化合物。
【請求項5】
7.70、11.54、12.64、16.03、18.99、20.03、20.14、20.83、21.03、21.83、23.08、23.39、25.48、25.73、26.59、及び29.78の2θ値を有する、請求項4に記載の結晶性化合物。
【請求項6】
7.70、9.95、11.54、12.64、16.03、18.18、18.99、19.16、19.44、20.03、20.14、20.83、21.03、21.83、22.44、23.08、23.39、23.89、24.08、24.53、24.68、25.05、25.48、25.73、26.08、26.59、27.33、27.67、29.78、及び29.92の2θ値を有する、請求項5に記載の結晶性化合物。
【請求項7】
形態1とラベルを付けた、
図1に実質的に示されているXRDパターンを有する、請求項6に記載の結晶性化合物。
【請求項8】
ジメチルスルホキシド溶媒和物である、請求項1に記載の結晶性化合物。
【請求項9】
8.29、17.39、19.54、22.78、及び22.98の2θ値を有する、請求項8に記載の結晶性化合物。
【請求項10】
8.29、17.39、19.54、19.74、20.98、21.58、22.03、22.78、22.98、及び25.53の2θ値を有する、請求項9に記載の結晶性化合物。
【請求項11】
8.29、16.10、17.39、19.24、19.54、19.74、20.33、20.78、20.98、21.18、21.58、22.03、22.78、22.98、25.53、28.48、及び29.48の2θ値を有する、請求項10に記載の結晶性化合物。
【請求項12】
8.29、13.12、15.79、16.10、16.69、17.39、19.03、19.24、19.54、19.74、20.33、20.78、20.98、21.18、21.58、22.03、22.78、22.98、23.95、24.14、24.48、24.64、25.14、25.53、25.87、26.89、27.18、27.67、28.02、28.13、28.48、28.98、29.34、29.48、及び29.92の2θ値を有する、請求項11に記載の結晶性化合物。
【請求項13】
形態2とラベルを付けた、
図1に実質的に示されているXRDパターンを有する、請求項12に記載の結晶塩。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の塩及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
式(I):
【化2】
の構造を有する結晶性化合物を製造する方法であって、
a)溶媒中の式(I)の化合物の混合物を提供するステップ、及び
b)式(I)の化合物を含む混合物から式(I)の化合物を結晶化するステップ
を含む方法。
【請求項16】
結晶性化合物が無水である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結晶性化合物が溶媒和物である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
溶媒和物がジメチルスルホキシド溶媒和物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
溶媒がメタノール又は水である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
溶媒がジメチルスルホキシドである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
式(I)の化合物を含む混合物が溶液であり、混合物から式(I)の化合物を結晶化するステップが、溶液を過飽和として、式(I)の化合物を溶液から沈殿させるステップを含む、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
溶液を過飽和とするステップが、逆溶媒を穏やかに添加するステップ、溶液を冷却するステップ、溶液の体積を低減するステップ、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
溶液を過飽和とするステップが、溶液を周囲温度以下に冷却するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
式(I)の化合物を含む混合物がスラリーである、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
結晶性化合物を単離するステップをさらに含む、請求項15から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
結晶性化合物を単離するステップが、結晶性化合物を混合物からろ過するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
減圧下で結晶性化合物を乾燥するステップをさらに含む、請求項25又は請求項26に記載の方法。
【請求項28】
結晶性化合物が請求項1から13のいずれか一項に記載の結晶性化合物である、請求項15から27のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2015年10月2日出願の、米国仮特許出願第62/236,657号への優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、近年、加齢性の退行性変化(加齢性の肥満、血中脂質レベルの加齢性の増加、インスリン感受性の加齢性の低下、記憶機能の加齢性の低下、及び黄斑変性などの眼機能の加齢性変化など)の処置、改善、緩和、遅延、停止、予防及び/又は反転において、その使用で注目を集めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本化合物に関連する治療的利益を考えると、NMNの改善された組成物が必要である。さらに、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを製造及び製剤化する改善された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、式(I)
【化1】
の構造を有する結晶性化合物に関する。
【0005】
本発明の別の態様は、式(I)の結晶性化合物を製造する方法に関する。
【0006】
ある種の実施形態では、本発明は、ヒト患者への使用に好適な医薬調製物であって、式(I)の結晶性化合物、及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬調製物を提供する。ある種の実施形態では、医薬調製物は、本明細書に記載されている状態又は疾患を処置又は防止するのに使用してもよい。ある種の実施形態では、医薬調製物は、ヒト患者の静脈への使用に好適であるほどに、十分に低いパイロジェン活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の形態1及び形態2のXRPDパターンを示す図である。
【
図2】形態1の示差走査熱量測定サーモグラムを示す図である。
【
図3】形態2の示差走査熱量測定サーモグラムを示す図である。
【
図4】真空下での乾燥後の、アモルファス性NMN、NMN形態1、NMN形態2の
1H NMRスペクトルを示す図である。スペクトルで示されるように、形態1は実質的に無水であり、形態2は1個の分子NMN毎に、約1.1~1.2のDMSO分子を有する。
【
図5】アモルファス性NMN、貯蔵後アモルファス性NMN、及びNMN形態1のXRPDパターンの比較を示す図である。
【
図6】アモルファス性NMNの動的水蒸気収着等温線を示す図である。
【
図7】アモルファス性NMNの質量プロットにおける動的水蒸気収着変化を示す図である。アモルファス性NMNの試料が大気湿度に曝露された場合、試料は相の中を移動する。
図7は、経時的な質量変化を示す。アモルファス性の試料は、溶解し結晶化を開始するまで、吸湿性である。1000分未満での重量減少は、結晶化現象を示す。一旦、結晶化すると、物質は結晶のままであり、2倍の周期の後は同じXRPDパターンを保持するが、可逆的に質量を回復する能力(最大9%w/wの変化)を依然として示す。
【
図8】偏光顕微鏡下で観察された、NMN形態1の単結晶を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ある種の実施形態では、本発明は、式(I)
【化2】
の構造を有する結晶性化合物を提供する。
【0009】
ある種の実施形態では、式(I)の結晶性化合物は溶媒和しない(例えば、結晶格子が溶媒の分子を含まない)。ある種の実施形態では、式(I)の結晶性化合物は無水、又は実質的に無水である。ある種の代替的実施形態では、式(I)の結晶性化合物は溶媒和する。ある種のこのような実施形態では、式(I)の結晶性化合物はジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒和物である。
【0010】
本明細書に記載されている任意の結晶性化合物は、本明細書で開示された任意の疾患又は状態の処置のための医薬の製造に使用してもよい。
【0011】
ある種の実施形態では、本発明の化合物は、1つ以上の結晶を形成することができる。例示的実施形態では、式(I)の構造を有する結晶性化合物は、以下に詳細が記載されている、「形態1」及び「形態2」として存在する。これらの異なる形態は、本明細書では「多形」として理解される。
【0012】
ある種の実施形態では、結晶性化合物の多形は、粉末X線回折(XRD)で特徴付けられている。θは、度で測定された回折角を表す。ある種の実施形態では、XRDを使用した回折計で、回折角θの2倍として回折角を測定する。したがって、ある種の実施形態では、本明細書に記載されている回折パターンは、角2θに対して測定されたX線強度を指す。
【0013】
ある種の実施形態では、式(I)の無水結晶性化合物は、20.03、20.14、21.83、及び25.73の2θ値を有する。さらなる実施形態では、無水結晶性化合物は、20.03、20.14、21.03、21.83、23.08、23.39、25.73、及び26.59の2θ値を有する。またさらなる実施形態では、無水結晶性化合物は、7.70、11.54、12.64、16.03、18.99、20.03、20.14、20.83、21.03、21.83、23.08、23.39、25.48、25.73、26.59、及び29.78の2θ値を有する。さらにまたさらなる実施形態では、無水結晶性化合物は、7.70、9.95、11.54、12.64、16.03、18.18、18.99、19.16、19.44、20.03、20.14、20.83、21.03、21.83、22.44、23.08、23.39、23.89、24.08、24.53、24.68、25.05、25.48、25.73、26.08、26.59、27.33、27.67、29.78、及び29.92の2θ値を有する。
【0014】
ある種の実施形態では、式(I)の無水結晶性化合物は、形態1とラベルを付けた、
図1に実質的に示されているXRDパターンを有する。
【0015】
ある種の実施形態では、式(I)の結晶性化合物は溶媒和しない(例えば、結晶格子が溶媒の分子を含まない)。ある種の代替的実施形態では、式(I)の結晶性化合物は溶媒和する。
【0016】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物の結晶化DMSO溶媒和物は、8.29、17.39、19.54、22.78、及び22.98の2θ値を有する。さらなる実施形態では、結晶化DMSO溶媒和物は、8.29、17.39、19.54、19.74、20.98、21.58、22.03、22.78、22.98、及び25.53の2θ値を有する。またさらなる実施形態では、結晶化DMSO溶媒和物は8.29、16.10、17.39、19.24、19.54、19.74、20.33、20.78、20.98、21.18、21.58、22.03、22.78、22.98、25.53、28.48、及び29.48の2θ値を有する。さらなる実施形態では、結晶化DMSO溶媒和物は、8.29、13.12、15.79、16.10、16.69、17.39、19.03、19.24、19.54、19.74、20.33、20.78、20.98、21.18、21.58、22.03、22.78、22.98、23.95、24.14、24.48、24.64、25.14、25.53、25.87、26.89、27.18、27.67、28.02、28.13、28.48、28.98、29.34、29.48、及び29.92の2θ値を有する。
【0017】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物の結晶化DMSO溶媒和物は、形態2とラベルを付けた、
図1に実質的に示されているXRDパターンを有する。
【0018】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物の結晶化DMSO溶媒和物は、1個のNMNの分子に対して、約1.0、約1.1、又は約1.2のDMSOの分子を含有する。
【0019】
ある種の実施形態では、本発明は、式(I)の結晶性化合物及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。ある種の実施形態では、医薬組成物は、錠剤、カプセル剤及び懸濁剤から選択される。
【0020】
本明細書で使用する用語「実質的に純粋な」は、90%超の純度である、結晶多形を指し、対応するアモルファス性化合物、又は結晶塩の代替的な多形を含む、任意の他の化合物を10%未満で含有することを意味する。好ましくは、結晶多形は、95%超の純度、又はさらには98%超の純度である。
【0021】
NMNの結晶形態の作製方法
ある種の実施形態では、本発明は、a)溶媒中の式(I)の化合物の混合物を提供するステップ、及びb)式(I)の化合物を含む混合物から式(I)の化合物を結晶化するステップを含む、式(I)の構造を有する結晶性化合物の製造の方法に関する。
【0022】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物を含む混合物は、溶液である。ある種の実施形態では、混合物は、スラリー又は懸濁液である。
【0023】
ある種の実施形態では、本発明の方法により作製された結晶性化合物は、無水である。
【0024】
ある種の実施形態では、本発明の方法により作製された結晶性化合物は、溶媒和物、例えばDMSO溶媒和物である。
【0025】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物を含む混合物は溶液であり、混合物から化合物を結晶化するステップは、溶液を過飽和として、式(I)の化合物を溶液から沈殿させるステップを含む。
【0026】
ある種の実施形態では、式(I)の化合物を含む混合物を過飽和とするステップは、ヘプタン、ヘキサン、エタノール、若しくは有機溶媒混和性の別の極性若しくは非極性の液体などの逆溶媒を穏やかに添加するステップ、(溶液を播種する又は播種せずに)溶液を冷却するステップ、溶液の体積を低減するステップ、又はこれらの任意の組合せを含む。ある種の実施形態では、式(I)の化合物を含む混合物を過飽和とするステップは、逆溶媒を添加するステップ、溶液を周囲温度以下に冷却するステップ、及び例えば、溶液から溶媒を蒸発することによって、溶液の体積を低減するステップを含む。ある種の実施形態では、溶液を冷却するステップは、受動的(例えば、溶液を周囲温度で静置する)、又は能動的(例えば、溶液を氷浴又は冷凍室で冷却する)であってもよい。
【0027】
ある種の実施形態では、製造方法は、さらに、例えば、結晶をろ過することによって、結晶から液体をデカンテーションすることによって、又は任意の他の好適な分離技術によって、結晶を単離するステップを含む。さらなる実施形態において、製造方法は、さらに、結晶を洗浄するステップを含む。
【0028】
ある種の実施形態において、製造方法は、さらに、結晶化を誘発するステップを含む。本方法はまた、例えば減圧下で、結晶を乾燥するステップを含むことができる。ある種の実施形態では、沈殿又は結晶化を誘発するステップは、二次核形成を含み、核形成は、種結晶の存在下で、又は環境(晶析装置の壁、撹拌インペラ、超音波など)との相互作用で起こる。
【0029】
ある種の実施形態では、溶媒は、アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソプロピル、メタノール、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、トルエン、2-プロパノール、1-ブタノール、水、又はそれらの任意の組合せを含む。ある種の好ましい実施形態では、例えば、形態1を達成するため、溶媒はメタノール又は水である。他の好ましい実施形態では、例えば、形態2を達成するため、溶媒はジメチルスルホキシドである。
【0030】
ある種の実施形態では、結晶を洗浄するステップは、逆溶媒、アセトニトリル、エタノール、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、水、又はそれらの組合せから選択される液体で洗浄するステップを含む。本明細書で使用する「逆溶媒」は、塩の結晶が溶解できない、最低限だけ溶解できる、又は部分的に溶解できる溶媒を意味する。実際には、塩の結晶が溶解した溶液に逆溶媒を添加することで、溶液中の塩の結晶の溶解度を低減させ、これにより、塩の沈殿を刺激する。ある種の実施形態では、結晶は、逆溶媒及び有機溶媒の組合せで洗浄する。ある種の実施形態では、逆溶媒は水であるが、他の実施形態では、逆溶媒は、ヘキサン又はペンタンなどのアルカン溶媒、又はベンゼン、トルエン、又はキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒である。ある種の実施形態では、逆溶媒はメタノールである。
【0031】
ある種の実施形態では、結晶を洗浄するステップは、式(I)の結晶性化合物を、上記の溶媒又は1種以上の溶媒の混合物で洗浄するステップを含む。ある種の実施形態では、溶媒又は溶媒の混合物は、洗浄する前に冷却する。
【0032】
ある種の実施形態では、NMNの結晶形態の作製方法は、NMNから1つ以上の不純物を取り除くために使用される。ある種の実施形態では、本明細書に記載されている結晶化法は、例えば、化合物の製造において最終的な精製ステップとして、NMNを精製するために使用される。
【0033】
NMNの結晶形態の使用
NMNは、Namptによって触媒される反応である、NAD生合成経路においてニコチンアミドから産生される。NMNは、NAD生合成経路において、NADにさらに変換され、この反応はNmnatによって触媒される。以下の構造に相当する「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」(NAD)
【化3】
は、ニコチンアミドのNMNへの変換から産生し、この変換は、Namptによって触媒され、その後にNMNからNADに変換され、これはNmnatによって触媒される。哺乳動物において、酵母PNC1の機能的同族体はNAMPTであり、これはまた、NADサルベージの第一のステップに触媒作用を起こす。NAMPTは、NAMからニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の形成に触媒作用を起こし、次に、NMNAT1、NMNAT2及びNMNAT3によって、NADに変換させる。NADの前駆体であるニコチンアミドリボシドは、ニコチンアミドリボシドキナーゼ(NRK)酵素によって、NMNに変換させた後、サルベージ経路に入る。
【0034】
したがって、NADレベルの増加によって影響を受けた疾患、障害及び状態は、同様に、NAD生合成が可能なNMN前駆体の量によって影響を受け、したがって、本明細書で開示されているNMN化合物及び組成物を投与することによって処置することができる。
【0035】
ある種の実施形態では、NMNは、血漿脂質プロファイルの改善、脳卒中の予防、及び/又は寿命及び福祉の延長において、ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ(Nmnat1)経路、又は栄養及び/若しくは治療上の価値を有するNAD+生合成の他の経路を介して働く。他の実施形態は、NMNを含む組成物を投与することによる、ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ(Nmnat1)経路若しくはNAD+生合成の他の経路に関連する疾患又は状態を予防するあるいは処置する方法に関する。NMN及び/又はNAD+とともに、食事若しくは治療的処置レジメンを補給することによって予防又は処置され得る、通常、NAD+又はその前駆体のレベルを改変する疾患又は状態は、以下に限定されないが、脂質障害(例えば、脂質代謝異常、高コレステロール血症又は高脂血症)、脳卒中、I型及びII型糖尿病、心血管疾患及び肥満に関連する他の身体的問題を含む。
【0036】
神経変性疾患
軸索変性は、神経変性疾患及び末梢性ニューロパシーにおいて頻繁に起こる。切断軸索の変性は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)合成酵素、ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ(Nmnat1)を含む融合タンパク質の過剰発現を有するウォラー変性遅延(Wlds)マウスでは遅延する。WldとNmnat1のどちらも、それ自体、ニューロンの培養物中の軸索変性を防止する機能がある。
【0037】
NAD+レベルは、傷害を受けた神経細胞、疾患のある神経細胞又は変性神経細胞で低下し、このNAD+の低下の防止により、神経細胞は細胞死から効率的に保護される。それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている、Araki & Milbrandt、「Increased nuclear NAD+ biosynthesis and SIRT1 activation prevent axonal degeneration」、Science. 2004年8月13日;305巻(5686号):1010~3頁、及びWangら、「A local mechanism mediates NAD-dependent protection of axon degeneration」、J Cell Biol. 170巻(3号):349~55頁(2005年)を参照されたい。NMNは、NAD+の細胞内レベルを上昇させることができるので、NMNは、以下に限定されないが、神経細胞への外傷若しくは傷害、神経細胞を損なう疾患若しくは状態、及び神経変性疾患若しくは症候群を含む、中枢神経系及び末梢神経系に影響を及ぼす、傷害、疾患及び障害の管理において、治療剤又は栄養補給剤として有用である。NAD+合成の上昇と、神経損傷及び疾患又は状態における有益な転帰との相関は、例えば、Steinら、「Expression of Nampt in Hippocampal and Cortical Excitatory Neurons Is Critical for Cognitive Function」、The Journal of Neuroscience 2014年、34巻(17号):5800~5815頁、及びSteinら、「Specific ablation of Nampt in adult neural stem cells recapitulates their functional defects during aging」、EMBO J. 2014年、33巻:1321~1340頁において考察されている。
【0038】
一部の神経変性疾患、神経変性症候群、神経細胞を損なうか、あるいは神経細胞を傷つける原因となる、疾患及び状態は、以下に記載されている。
【0039】
本態性振戦(ET)は、最も一般的な運動障害である。本態性振戦は、通常、両方の上肢に影響を及ぼす、進行がゆっくりとした、姿勢性振戦及び/又は運動性振戦を特徴とする症候群である。
【0040】
パーキンソン病(PD)は、ドーパミン作動性の黒質線条体ニューロンの喪失に伴う進行性神経変性障害である。
【0041】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な形態である。アルツハイマー病は、年齢の進行に強く関連している、脳の進行性変性疾患である。この疾患を有するヒトは、経時的に、思考する及び明確に論理的に考える、状況を判断する、問題を解決する、集中する、有用な情報を記憶する、自分自身の身の回りのことをする、及び話をする能力さえも失う。アルツハイマー病などのいくつかの神経変性疾患は、脳において、それらの生物学的影響を及ぼす。ニコチンアミドモノヌクレオチドをベースとする本明細書に開示されている化合物は、血液脳関門(BBB)を通過することができることが好ましい。
【0042】
ハンチントン病(HD)は、大脳基底核及び皮質中におけるニューロンの特定の部分範囲内の細胞喪失に関連する、成人が発症する不治の常染色体優性遺伝障害である。
【0043】
運動失調症は、運動の正常な姿勢及び滑らかさを維持することができないものと定義される。発作及び運動障害(例えば、ジストニア、舞踏病)などの神経学的症状及び兆候は、運動失調症を伴うことがある。
【0044】
緊張病は、外見では覚醒しているヒトにおいて、外部刺激に明らかに反応していない状態である。
【0045】
てんかんは、自発的な、再現性発作を特徴とする慢性状態として定義される。発作は、一過性の過同期性ニューロンの放電に関連する臨床事象として定義される。
【0046】
神経遮断薬悪性症候群(NMS)は、抗精神病薬の使用の深刻な合併症として発生する恐れがある、異常高熱、固縮及び自律神経失調症の組合せを指す。
【0047】
舞踏病は、非パターン性の顔のゆがみを伴うことの多い、任意の四肢の突然の、短時間のリズムのない非反復運動を特徴とする、異常不随意運動である。妊娠舞踏病(CG)は、妊娠中に起こる舞踏病に与えられる用語である。
【0048】
大脳皮質基底核変性症(CBGD)の臨床的特徴は、進行性認知症、パーキンソン症候群及び四肢の失行を含む。中枢神経系又は末梢神経系の経路の機能不全は、自律神経機能不全を引き起こすことがある。
【0049】
ジストニアは、持続的な筋収縮の症候群であり、通常、ねじれ及び繰り返し運動、又は異常な姿勢を生じるものである。書痙は、動作特異的局所性ジストニアの形態である。
【0050】
精神遅滞(MR)は、知的能力が著しく限定されている状態である。発達障害は、ある種の社会環境において、期待通りの活動及び役割を果たす個体の能力が限定されている状態を言う。多くの場合、MR及び発達障害は、脳損傷の結果として、同時に存在する。
【0051】
神経有棘赤血球症は、運動障害、人格変化、認識力低下、軸索性ニューロパシー及び発作を特徴とする、進行性の神経学的疾患である。ほとんどの患者は、疾患の過程のある時点において、末梢血塗抹に有棘赤血球増加を有する。
【0052】
ペリツェウス-メルツバッハー病(PMD)及び2型X連鎖痙性対麻痺(SPG2)は、同一遺伝子であるプロテオリピッドタンパク質1(PLP1)遺伝子の変異によって引き起こされるX連鎖疾患の臨床スペクトルの反対側にあるものであり、中枢神経系(CNS)のミエリン形成の欠陥をもたらす。臨床的兆候は、通常、眼振、吸気性喘鳴、痙性四肢麻痺、低血圧、認知障害、運動失調症、振戦、及びMRIスキャン上でのびまん性白質脳症からなるある組合せを含む。
【0053】
スティール-リチャードソン-オルスゼフスキー症候群としても知られている進行性核上麻痺(PSP)は、認識、眼球連動及び姿勢に影響を及ぼす神経変性疾患である。
【0054】
線条体黒質変性症(SND)は、多系統萎縮症(MSA)の兆候を呈する神経変性疾患である。他の兆候は、シャイ-ドレーガー症候群(例えば、自律神経障害が主なものとなる)及び散発性オリーブ橋小脳変性(sOPCA、小脳が主なもの)である。
【0055】
虚血性脳卒中は、脳の部分への血液供給の喪失により発生し、虚血性カスケードを開始する。脳組織は、60~90秒を超えて酸素が奪われると、機能を停止し、数時間後には、非可逆性の傷害を受けて、組織の死亡、すなわち梗塞に至る可能性がある。アテローム性動脈硬化は、血管内腔が狭小化して血流の低下をもたらすことにより、血管内に血栓の形成が引き起こされることにより、又はアテローム斑の破壊により小塞栓のシャワーを放出することにより、血液供給を中断させることがある。塞栓性梗塞は、循環系において、通常、心房細動の結果として心臓において、又は頸動脈において、どこかに塞栓が形成されると起こる。これらは、開裂し、脳循環に入り、次に、脳血管に留まって塞ぐ。
【0056】
虚血によって影響を受けた脳組織の領域内の側副循環により、重症度に範囲がある。したがって、組織の部分は、直ちに死亡する恐れがある一方、他の部分は、単に損傷を受けるだけのことがあり、回復が可能である。組織が回復する虚血領域は、虚血性ペナンプラと呼ばれる。
【0057】
酸素又はグルコースは、虚血性脳組織中で消耗されるようになるので、アデニン三リン酸(ATP)などの高いエネルギーリン酸化合物の産生は起こらず、組織細胞生存に必要なエネルギー依存過程の不全をもたらす。これにより、細胞の傷害及び死亡をもたらす、一連の相互関係イベントが開始される。これらには、ミトコンドリアの不全が含まれ、これは、さらにエネルギー枯渇をもたらす恐れがあり、アポトーシスにより細胞死を引き起こす引き金となり得る。他の過程は、脳細胞における電解質平衡異常をもたらす、膜イオンポンプ機能の喪失を含む。刺激性神経伝達物質の放出も存在し、これは、過剰濃度では毒性作用を有する。
【0058】
脊髄損傷又は脊髄症は、感覚及び可動性が喪失する、脊髄の障害である。2つの一般的なタイプの脊髄損傷がある:外傷:自動車事故、落下、銃弾を受ける、ダイビングでの事故など、及び疾患:ポリオ、二分脊椎、腫瘍、フリードライヒの運動失調症など。脊髄は、完全に断裂されなくても、機能を喪失することに留意することが重要である。実際、脊髄は、脊髄損傷のほとんどの場合、無傷のままである。
【0059】
頭蓋内損傷又は単に頭部傷害とも呼ばれる、外傷性脳損傷(TBI)は、突発的な外傷が脳損傷を引き起こした場合に起こる。TBIは、閉鎖頭部外傷又は穿通性頭部外傷に起因し得、後天性脳傷害(ABI)の2つの小分類の1つである。他小分類は、非外傷性脳損傷(例えば、脳卒中、髄膜炎、無酸素症)である。損傷を受け得る脳の部分は、大脳半球、小脳及び脳茎を含む。TBIの症状は、脳への損傷範囲に応じて、穏やか、中程度又は重症となり得る。帰結は、完全回復から恒久的な障害又は死亡までのいずれかとすることができる。昏睡はまた、子供の脳に影響を及ぼし得る。TBIに起因する損傷は、脳の1つ超の領域を含む、局限性の脳の一領域に集中し得るか、又は分散し得る。脳へのびまん性外傷は、脳震とう(頭部の突然の運動に応答する脳の震とう)、びまん性軸索傷害又は昏睡に関連することが多い。局所的な損傷は、神経行動学的症状、片側不全麻痺又は他の焦点性神経欠陥を伴うことがある。
【0060】
傷害を引き起こす恐れがある脳に対する別の損傷は、無酸素症である。無酸素症は、組織への適切な血流がある場合でさえも、器官組織への酸素提供の欠如がある状態である。低酸素症は、酸素が完全に存在しないというよりはむしろ、酸素供給の低下を指し、虚血は、脳が腫れる場合に見られるように、不適切な血液供給である。これらの場合のいずれかにおいて、適切な酸素がない場合、虚血性カスケードと呼ばれる生化学的カスケードは拘束が解かれ、脳の細胞は、数分以内に死亡する恐れがある。このタイプの傷害は、溺水犠牲者、心臓発作患者(特に、心停止を受けた患者)、又は他の損傷に起因してかなりの血液喪失を受け、次に、循環性(血液量減少性)ショックによる脳への血流の低下を引き起こしたヒトに見られることが多い。
【0061】
血中グルコース濃度の調節
哺乳動物において、血中グルコースの濃度を調節する方法が、本明細書において提供される。本明細書において利用される通り、血中グルコースの濃度の調節とは、既に決定されているレベルに比べた、血中グルコースの濃度の上昇、低下及び/又は維持のいずれかを指す。
【0062】
NMNは、そのような処置を必要とする哺乳動物に投与され得る。例えば、哺乳動物は、血中グルコース濃度の上昇を必要とすることがある。あるいは、哺乳動物は、血中グルコース濃度の低下を必要とすることがある。又は、哺乳動物は、特定のレベル超、そのレベル若しくはそのレベル未満に、又は特定の範囲内(例えば、一連の上昇及び/若しくは低下により、又は上昇若しくは低下なしに)に、血中グルコース濃度を維持することが必要となることがある。血中グルコース濃度を調節するNMNはまた、予防的手段として哺乳動物に投与されてもよい。すなわち、哺乳動物は、例えば、1型又は2型糖尿病などの医療的状態の発生若しくは発症を予防する、又は遅延させる処置を必要としている。
【0063】
哺乳動物において、本明細書に記載されている方法(例えば、本発明の化合物の、血中グルコース濃度を調節する量を哺乳動物に投与することにより)により血中グルコースの濃度を調節することができることは、様々な合併症、疾患及び/若しくは疾病の処置並びに/又は予防に有利となり得る。代謝性疾患及び状態に対するNAD+のレベルを上昇させる役割は、例えば、Yoshinoら、「Nicotinamide mononucleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes」、Cell Metab. 2011年、14巻:528~536頁及びGartenら、「Nampt: Linking NAD biology, metabolism, and cancer」、Trends Endocrinol Metab. 2009年、20巻(3号):130~138頁において記載されている。一般に、本発明は、全身性NAD生合成によって影響を受け得る、様々な急性段階、中間段階、及び慢性状態を、直接又は間接的のどちらかで処置するために利用することができる。
【0064】
例えば、血中グルコース濃度の調節は、脳虚血誘発性低血糖、例えば、子供における先天性高インスリン症により引き起こされる低血糖性脳傷害、及び/又は血中グルコースレベルを深刻に低下させる他の状態などの、このような医療的状態の処置及び/又は予防に有効となり得る。あるいは、血中グルコース濃度の調節は、過剰量のインスリンの注射の作用を打ち消すのに有効となり得るか、又は不十分な栄養又はビタミンの摂取(例えば、ビタミンB3(ニコチン酸及びニコチンアミドから誘導されるナイアシン)の欠乏)は、両側性皮膚炎(bilateral dermatitis)、下痢及び認知症を特徴とする、古典的ナイアシン欠乏症であるペラグラをもたらし得る。
【0065】
さらに、血中グルコース濃度の調節は、低血糖、高血糖、耐糖能異常、空腹時血糖異常、並びに1型及び2型糖尿病の処置並びに/又は予防に有効となり得る。
【0066】
本明細書に記載されている方法による血中グルコース濃度の調節は、アセトアミノフェン、アルコール、アナボリックステロイド、クロフィブレート、ジソピラミド、ゲムフィブロジル、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)、ペンタミジン又はスルホニルウレア薬(グリピジド、グリブリド及びグリメピリドなど)などの血中グルコース濃度低下薬の作用を打ち消すのにやはり有利となり得る。
【0067】
認知症などの、NAD生合成に妥当性のある関係性を有する他の状態はまた、有益なことに、血中グルコースの調節によって処置及び/又は予防され得る。例えば、Guestら、「Changes in Oxidative Damage、Inflammation and [NAD(H)] with Age in Cerebrospinal Fluid」、PLOS 1. 2014年1月、9巻(1号):e85335頁を参照されたい。
【0068】
血中グルコース濃度の上昇、低下及び/又は維持は、例えば、1つ以上の既に決定されているレベル超、未満又はその間の割合によって定量することができ、又は特定の血中グルコース濃度又はその範囲によって定量することができる。
【0069】
例えば、血中グルコース濃度は、既に決定されているレベルより少なくとも約5%超まで、既に決定されているレベルより少なくとも約10%超まで、既に決定されているレベルより少なくとも約25%超まで;既に決定されているレベルより少なくとも約50%超まで、既に決定されているレベルより少なくとも約75%超まで、既に決定されているレベルより少なくとも約100%超まで、既に決定されているレベルより少なくとも約150%超まで、又は既に決定されているレベルより少なくとも約200%超まで上昇させることができる。別の例として、血中グルコース濃度は、既に決定されているレベルより少なくとも約5%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約10%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約25%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約50%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約75%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約100%低く、既に決定されているレベルより少なくとも約150%低く、又は既に決定されているレベルより少なくとも約200%低くすることができる。さらに別の例として、血中グルコース濃度は、既に決定されているレベルの約50%以下又は約50%未満、例えば、約40%以下又は約40%未満、約30%以下又は約30%未満、約20%以下又は約20%未満、約10%以下又は約10%未満、約5%以下又は約5%未満となる濃度で、維持する(例えば、一連の上昇及び/若しくは低下により、又は低下及び/若しくは低下なしに)ことができる。
【0070】
あるいは、血中グルコース濃度は、特定の血中グルコース濃度に、それ超若しくはそれ未満に、又は血中グルコース濃度の所望の範囲内に維持する(例えば、一連の上昇及び/若しくは低下により、又は低下及び/若しくは低下なしに)ことができる。例えば、血中グルコース濃度は、約60mg/dL超、約70mg/dL超、約100mg/dL超、約110mg/dL超又は約125mg/dL超の濃度に維持することができる。あるいは、血中グルコース濃度は、約200mg/dL未満、約175mg/dL未満、約150mg/dL未満、約125mg/dL未満、約110mg/dL未満、又は約100mg/dL未満の濃度に維持することができる。別の例として、血中グルコース濃度は、約60mg/dL~約140mg/dL、約90mg/dL~約130mg/dL、約100mg/dL~約125mg/dL、又は約110mg/dL~約125mg/dLの濃度に維持することができる。
【0071】
薬物毒性
一部の実施形態では、本発明は、副作用を予防する及び毒性から細胞を保護するための、NMNの使用に関する。毒性は、照射、又は身体の細胞に及ぼす外因性化学品の副作用とすることができる。毒素の例は、医薬品、薬物乱用、UV又はX線光などの照射である。放射毒性と化学毒性の両方が、DNAなどの生物分子を損傷する可能性を有する。この損傷は、通常、外因性薬剤の化学反応若しくは生物分子によるその代謝産物によって、又は反応性酸素種(例えば、スーパーオキシド、過酸化物、ヒドロキシルラジカル)の刺激生成により間接的に起こる。細胞における修復システムが、毒素によって引き起こされた損傷を排除して修復する。
【0072】
NAD+を使用する酵素は、DNA修復工程においてある役割を果たす。例えば、DNA修復症候群は、以下に限定されないが、コケイン症候群を含む。具体的には、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)、特に、PARP-1は、DNA鎖の切断によって活性化され、DNA修復に影響を及ぼす。PARPは、アデノシン二リン酸リボース(ADPR)供与体としてNAD+を消費し、ヒストン及びPARPそれ自体などの核内タンパク質上でポリ(ADP-リボース)を合成する。PARP活性は、DNA修復を促進するが、PARPの過剰活性化は、細胞のNAD+の深刻な枯渇を引き起こし、細胞の壊死に至らしめる恐れがある。NAD+代謝の遺伝毒性への明白な感受性は、細胞生存を改善する手段として、PARPの阻害に薬理学的洞察をもたらした。多数の報告により、PARP阻害は、遺伝毒性を受けている細胞中のNAD+濃度を高め、細胞の壊死の低下をもたらすことが示されている。例えば、Fangら、Defective Mitophagy in XPA via PARP-1 Hyperactivation and NAD+/SIRT1 Reduction. Cell 2014年、157巻:882~896頁を参照されたい。それにもかかわらず、細胞は、恐らくは、遺伝毒性によって活性化されるアポトーシス経路を完了することができるので、毒性に起因する細胞死が依然として起こる。したがって、PARPを阻害しても、依然として相当な数の細胞死がDNA/マクロ分子の損傷の結果起きる。この結果は、遺伝毒性におけるNAD+代謝の改善が、細胞生存の改善に一部有効となり得るが、サーチュインなどのアポトーシス感度をモジュレートする別のタンパク質も、遺伝毒性への細胞応答において重要な役割を果たし得ることを示唆している。
【0073】
組織中の化学毒性及び放射毒性の影響を決定する生理学的及び生化学的機構は複雑であり、証拠は、NAD+代謝が、細胞ストレス応答経路の重要な状況であることを示している。例えば、ニコチンアミド/ニコチン酸モノヌクレオチド(NMNAT)過剰発現によるNAD+代謝の上方調節は、ニューロンの軸索変性を保護することを示し、薬理学的に使用されるニコチンアミドは、最近、胎児性アルコール症候群及び胎児虚血のモデルにおいて、ニューロン保護をもたらすことが示された。このような保護効果は、上方調節されたNAD+生合成に起因する可能性があり、これは遺伝毒性ストレス中に、枯渇を受けた利用可能なNAD+のプールを増大させる。NAD+のこの枯渇は、PARP酵素によって媒介され、これは、DNA損傷によって活性化され、細胞のNAD+を枯渇させて、壊死に至らしめる恐れがある。上方調節されたNAD+生合成と協調して作用することができる細胞保護の増強の別の機構は、サーチュイン酵素によって調節される細胞保護転写プログラムの活性化である。
【0074】
加齢/ストレス
ある種の実施形態では、本発明は、細胞をNMN及び/又はNAD+に接触させることによる、細胞寿命の延長、細胞の増殖能力の延長、細胞の加齢の減速、細胞の生存の促進、細胞における細胞老化の遅延、カロリー制限効果の模倣、細胞のストレスへの耐性の上昇、又は細胞のアポトーシスの防止の方法を提供する。最近の検討により、加齢過程、並びに加齢に関連する疾患及び状態において、NAD+が役割を果たすことが実証されている。例えば、Imaiら、「NAD+ and sirtuins in aging and disease」、Trends in Cell Biol. 2014年、24巻(8号):464~471頁;及びGomesら、「Declining NAD+ Induces a Pseudohypoxic State Disrupting Nuclear-Mitochondrial Communication during Aging」、Cell 2013年、155巻:1624~1638頁を参照されたい。
【0075】
本明細書に記載されている方法は、細胞、特に、一次細胞(例えば、生物、例えばヒトから得られる細胞)が、エクスビボでの細胞培養物において生存し続けることができる時間量を増加するために使用することができる。胚性幹(ES)細胞及び多能性細胞、並びにそれらから分化した細胞も、ニコチンアミドモノヌクレオチドをベースとする化合物又は誘導体化合物により処置して、より長い期間、培養物中で、細胞又はその子孫を維持することができる。このような細胞はまた、例えば、エクスビボでの修飾後に、対象に移植するために使用することができる。
【0076】
ある種の実施形態では、長期間、保存することが意図されている細胞は、NMN及び/又はNAD+によって処置することができる。細胞は、懸濁液中(例えば、血液細胞、血清、生物学的成長培地など)、又は対象における組織若しくは器官中とすることができる。例えば、輸液目的のために個体から採集した血液を、NMN及び/又はNAD+により処置して、より長期間、血液細胞を保存することができる。さらに、法医学的目的のために使用されることになる血液もNMN及び/又はNAD+を使用して保存することができる。それらの寿命を延長するため、又はアポトーシスから保護するために処置され得る他の細胞には、消費用細胞、例えば、非ヒト哺乳動物(肉など)又は植物細胞(野菜など)に由来する細胞が含まれる。
【0077】
NMN及び/又はNAD+はまた、例えば、発達過程及び/又は成長過程を改変する、抑制する又は加速するために、哺乳動物、植物、昆虫又は微生物中の発達期及び成長期の間に適用することもできる。
【0078】
ある種の実施形態では、NMN及び/又はNAD+は、例えば、固体組織移植片、臓器移植、細胞懸濁液、幹細胞、骨髄細胞などを含む、移植又は細胞療法に有用な細胞を処置するために使用することができる。細胞又は組織は、自家移植片、同種移植片、同系移植片又は異種移植片とすることができる。細胞又は組織は、対象への投与/埋め込み前に、投与/埋め込みと同時に、及び/又は投与/埋め込み後に、NMN及び/又はNAD+により処置することができる。細胞又は組織は、ドナー個体から細胞を除去する前、エクスビボでドナー個体から細胞又は組織を除去した後、又はレシピエントへの埋め込み後に処置することができる。例えば、ドナー又はレシピエント個体は、NMN及び/又はNAD+により全身処置されてもよく、又は細胞/組織の一部がNMN及び/又はNAD+により局所的に処置されてもよい。ある種の実施形態では、細胞又は組織(又はドナー/レシピエント個体)はさらに、例えば、免疫抑制剤、サイトカイン、血管新生因子などの移植片の生存を延長するのに有用な別の治療剤により処置されてもよい。
【0079】
ある種の実施形態では、細胞は、例えば、その寿命を増加するため、又はアポトーシスを防止するため、インビボでのNAD+のレベルを高める量のNMNにより処置することができる。例えば、皮膚は、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNにより、皮膚又は上皮細胞を処置することによって、加齢(しわの発生、弾力の喪失など)から保護することができる。例示的な実施形態では、皮膚は、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNを含む医薬組成物又は化粧用組成物と接触させる。本明細書に記載されている方法により処置され得る、例示的な皮膚障害又は皮膚状態は、炎症、日焼けによる損傷若しくは自然の加齢に関連する、又はこれらによって引き起こされる障害あるいは疾患を含む。例えば、本組成物は、接触性皮膚炎(刺激性接触性皮膚炎及びアレルギー性接触性皮膚炎を含む)、アトピー性皮膚炎(アレルギー性湿疹としても知られている)、光線性角化症、角化障害(湿疹を含む)、表皮水疱症(天疱瘡を含む)、剥脱性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、紅斑(多形紅斑及び結節性紅斑を含む)、太陽又は他の光源により引き起こされる損傷、円板状エリテマトーデス、皮膚筋炎、乾癬、皮膚がん及び自然の加齢の影響の予防又は処置に利用される。他の実施形態では、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNは、例えば、1度、2度又は3度の火傷及び/又は熱性、化学性若しくは電気性火傷を含む、創傷及び/又は火傷の処置に使用され、治癒を促進ことができる。製剤は、所望の結果をもたらすのに有効な投与レジメンの文脈内で、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、マイクロエマルション剤、ゲル剤、溶液などとして、さらに本明細書に記載されているように、皮膚又は粘膜組織に局所的に投与することができる。
【0080】
細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNを含む局所製剤も、予防的組成物、例えば化学予防組成物として使用することができる。化学予防的方法において使用する場合、敏感な皮膚は、特定の個体において、いかなる目視可能な状態となる前に処置される。
【0081】
ある種の実施形態では、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNは、対象において、細胞老化によって誘発される若しくは悪化する疾患又は状態を処置あるいは予防するために使用することができ、例えば、老化の発生後、対象の老化速度を低下させるための方法、対象の寿命を延長する方法、寿命に関連する疾患若しくは状態を処置又は予防する方法、細胞の増殖能力に関連する疾患若しくは状態を処置又は予防する方法、及び細胞損傷若しくは死亡に起因する疾患又は状態を処置あるいは予防する方法である。ある種の実施形態では、本方法は、対象の寿命を短縮する疾患の発生率を減少させることにより作用しない。ある種の実施形態では、方法は、がんなどの疾患によって引き起こされる致死率の低下により作用しない。
【0082】
ある種の実施形態では、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNは、一般に、対象の細胞の寿命を増加するため、並びにストレス及び/又はアポトーシスからその細胞を保護するため、対象に投与することができる。NMNにより対象を処置することは、ホルミシス、すなわち生物にとって有益となる温和なストレスを対象に受けさせることに類似するものとなり得、それらの寿命を延ばすことがある。
【0083】
細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNはまた、細胞死から細胞を保護するため、疾患、例えば、細胞死に関連する慢性疾患を処置するため、対象に投与することができる。例示的な疾患には、神経細胞死、ニューロンの機能不全、又は筋細胞死若しくは機能不全、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症及び筋ジストロフィー;AIDS;劇症肝炎;脳の変性にリンクしている疾患、例えば、クロイツフェルト-ヤコブ病、網膜色素変性及び小脳変性;再生不良性貧血などの骨髄異形症;心筋梗塞及び脳卒中などの虚血性疾患;アルコール性肝炎、B型肝炎及びC型肝炎などの肝疾患;骨関節炎などの関節疾患;アテローム性動脈硬化;脱毛;UV光による皮膚への損傷;扁平苔癬;皮膚の萎縮;白内障;及び移植片拒絶が含まれる。細胞死はまた、手術、薬物治療、化学曝露又は放射線曝露によって引き起こされ得る。
【0084】
細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNはまた、急性疾患、例えば器官又は組織への損傷に罹患している対象、例えば、脳卒中又は心筋梗塞に罹患している対象、又は脊髄損傷に罹患している対象に投与することもできる。細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNはまた、アルコール性肝臓を修復するために使用することもできる。
【0085】
心血管疾患
ある種の実施形態では、本発明は、細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNをそれを必要とする対象に投与することによる、心血管疾患を処置及び/又は予防する方法を提供する。心血管疾患を処置する際のNAD+の有益性は、Borradaileら、「NAD+, Sirtuins, and Cardiovascular Disease」、Current Pharmaceutical Design 2016年、15巻(1号):110~117頁などのいくつかの研究に記載されている。
【0086】
細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNによって処置又は予防され得る心血管疾患には、特発性心筋症、代謝性心筋症、アルコール性心筋症、薬物誘発性心筋症、虚血性心筋症及び高血圧性心疾患などの心筋症又は心筋炎が含まれる。同様に、本明細書に記載されている化合物及び方法を使用して、大動脈、冠動脈、頸動脈、脳血管動脈、腎臓動脈、回腸動脈、大腿部動脈及び膝窩動脈などの主要血管のアテローム障害(大血管疾患)が処置可能又は予防可能である。処置することができる、又は予防することができる他の血管疾患は、血小板凝集、網膜の細動脈、糸球体細動脈、神経の脈管、心細動脈、眼の関連性毛細血管床、腎臓、心臓、並びに中枢神経系及び末梢神経系に関連するものが含まれる。
【0087】
細胞内NAD+のレベルを増加させる量のNMNにより処置することができるさらに別の障害は、再狭窄、例えば冠動脈介入後の再狭窄、並びに高密度及び低密度コレステロールの異常レベルに関連する障害を含む。NAD+処置から利益をもたらし得る別の疾患は、脂肪肝疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。
【0088】
概日リズム
概日時計は、行動及び代謝を明-暗周期と同期する、転写翻訳フィードバックループによってコードされる。哺乳動物のNAD+生合成における律速酵素であるニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)とNAD+のレベルの両方が、マウスにおけるコアクロック機構(core clock machinery)によって調節される、概日振動を示すことが予期せず発見された。NAMPTを阻害すると、SIRT1による抑制からCLOCK:BMAL1を放出することにより、時計遺伝子Per2の振動が促進される。ひいては、概日転写因子CLOCKは、Namptに結合して上方調節し、こうして、NAMPT/NAD+及びSIRT1/CLOCK:BMAL1を含むフィードバックループを完了する。例えば、Ramseyら、「Circadian clock feedback cycle through NAMPT-mediated NAD+ biosynthesis」、Science 2009年、324巻:651~654頁を参照されたい。
【0089】
したがって、NAMPT媒介性NAD+生合成における周期変動は、それが、生理学的周期、及び恐らくは、睡眠-覚醒、及び空腹-摂食周期に影響を及ぼすことを示唆している。単一原理に拘泥するものではないが、NAD+は、SIRT1活性の制御によって、環境合図への応答の周期的な調節のための重要な「代謝性オシレータ」として作用していると考えられる。本明細書に開示されている化合物は、哺乳動物において、NAMPT媒介性NAD+生合成による概日フィードバックループ、及び/又は代謝周期、生理学的周期及び概日周期の一時的な結びつきの基礎になる経路に影響を及ぼすために使用することができる。
【0090】
NAMPT/NAD+-SIRT1/CLOCK:BMAL1を含む調節経路の認識は、生理学的周期及び行動周期が、環境の明-暗周期とどのように協調するかを理解するための幅広い意味合いを有する。例えば、動物は、睡眠中、通常、活動せず絶食している時は、NAMPTのレベルは安定して上昇し、覚醒期間の初めにピークに到達し、摂食と同時に起こる。NAMPTの増加の結果として、NAD+が上昇してSIRT1を刺激し、これにより、異化経路から同化経路への切り替えを含む、肝臓における適切な代謝応答を調整する。
【0091】
ある種の実施形態では、本発明は、哺乳動物のコアクロック機構(時として、概日時計とも称される)を調節する方法であって、これにより、日内周期又は概日周期において起こる、又はこれらによって影響を受ける、及び概日時計によって少なくとも一部調節される、行動、活動及び/又は生物的機能に影響を及ぼす方法を提供する。一般に、本方法は、概日時計の調節を必要とする患者又は哺乳動物に、治療量又は予防量の概日時計調節性化合物を投与するステップを含む。
【0092】
本明細書において開示されている処置の方法は、一般に、概日時計を調節する方法であって、それによって、概日時計の活性によって調節される(時として、概日時計の活性によって影響を受ける、これと連携する、又はこれにより媒介されるとも言われる)生物的機能を調節又はこれに影響を及ぼす方法を対象とする。通常、これらの生物的機能は、一般に、約24時間毎に、繰り返される活動と非活動パターン、すなわち、24時間の期間の間の「活動」状態と「非活動」状態との間での振れを示す。
【0093】
したがって、本発明は、それを必要とする哺乳動物に、概日時計調節性化合物を投与することによる、概日時計の活性を調節する方法を提供する。一般に、概日時計の活性の調整は、CLOCK:BMAL1の調整の結果であり、これらは、SIRT1の活性を調整することにより、本方法によって実現される。SIRT1の活性は、一般に、概日時計調節性化合物の投与によって、及びある種の実施形態では、NAD+経路に影響を及ぼす量のNMNの投与によって、本発明により調節される。概日時計の調節は、これにより、概日時計によって媒介される活性の調節を可能にする。
【0094】
本発明によれば、概日時計の活性は、概日時計調節性化合物の投与によって、上昇、低下又は維持され得る。したがって、概日時計の活性によって調節される生物的機能(時として、生物活性とも称される)もまた、上昇、低下又は維持され得る。さらに、これらの生物的機能は、時間シフトし得る。すなわち、例えば、日中若しくは昼間(時として、明周期とも呼ばれる)、又は夜間若しくは夜の時間(時として、暗周期とも呼ばれる)などの特定の期間に通常、起こる活性は、この活性が、それぞれ、代わりに暗周期又は明周期の間に起こるようシフトし得る。
【0095】
概日時計の活性によって影響を通常、受けるいくつかの生物機能のいずれも、本発明の方法によって調節することができる。したがって、本方法は、例えば、概日時計の不規則な、不適切な又は病理学的な機能の結果である障害又は疾患状態を処置するために使用することができる。同様に、本方法は、概日時計の適切な機能若しくは活性に影響を及ぼす、又は時計の「再設定」を必要とする、外的要因によって引き起こされる障害又は症状を処置するために使用することができる。例えば、患者の血清NMN又はNADレベルが上昇している場合だけではなく、体重減少又は体重増加のような代謝障害を伴う他の障害に関して、患者に改善が観察される場合も、代謝障害を経験している患者への概日時計調節性化合物の投与により、治療的利益がもたらされる。一部の処置レジメンでは、代謝障害の診断がなされていないことがある場合でさえも、本発明の概日時計調節性化合物は、本明細書に記載されている障害を発症するリスクにある患者に、又はこのような障害の生理学的症状の1つ以上を報告している患者に投与することができる。
【0096】
本発明の方法により処置され得る、障害、疾患状態又は症状の例には、以下に限定されないが、1つ以上のタイムゾーンへの旅行又はその通過、仕事シフトの変更、夜間の仕事シフト、又は例えば、妊娠、若しくは任意の種類の薬品の投与によって引き起こされる哺乳動物の身体的状態の変化が含まれる。したがって、本発明の方法は、外的要因により引き起こされる障害、障害の症状、又は症状を処置又は予防するために使用することができる。このような障害及び症状は、例えば、摂食周期と絶食周期の不適切な周期形成又はタイミング、高血糖、低血糖又は糖尿病などの代謝性障害;不眠症、睡眠相前進症候群、睡眠相後退症候群、睡眠/覚醒周期の不一致、又はナルコレプシー、又は過剰眠気に罹患している個体における覚醒状態の改善などの、睡眠障害;及び1つ以上のタイムゾーンへの旅行又は通過(時差ぼけ)、夏時間に入るシフト又はそれから出るシフト、仕事シフト又は夜間の仕事シフトの変化、妊娠、又は無関係の疾患又は障害のために服用される医薬品などの外的要因により引き起こされる症状を含むことができる。
【0097】
したがって、ある種の実施形態では、本発明は、哺乳動物における生物的機能を調節する方法であって、この機能が、概日時計によって影響を受ける、方法を対象としている。本方法は、治療量又は予防量の(時として、概日時計調節量とも称される)概日時計調節性化合物を哺乳動物に投与するステップを含む。生物的機能は、例えば、本明細書に記載されている生物的機能の任意の1つとすることができる。ある種の実施形態では、本発明は、哺乳動物における代謝障害を処置する方法を含み、治療量又は予防量の概日時計調節性化合物を哺乳動物に投与するステップを含む。他の実施形態では、本発明は、概日時計の機能によって媒介される、哺乳動物における障害を処置する方法を含み、治療量又は予防量の概日時計調節性化合物を哺乳動物に投与するステップを含む。これらの実施形態の任意の1つによれば、概日時計調節性化合物は、例えば、以下に一層詳細に記載されている、ニコチンアミド、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、それらの塩及びプロドラッグ、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)及びそれらの組合せとすることができる。他の実施形態では、概日時計調節性化合物は、上で列挙されている化合物の任意の1つのアンタゴニストとすることができ、これにより、ニコチンアミド、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、それらの塩及びプロドラッグ、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)、及びそれらの組合せの反対の作用を求めることができる。
【0098】
ある種の実施形態では、本発明は、治療量の概日時計調節性化合物を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物の代謝活性を調節する方法を対象としている。ある種の実施形態では、哺乳動物の代謝活性が上昇する。他の実施形態では、代謝活性は低下する。さらに他の実施形態では、哺乳動物の代謝活性は、所望のレベルに維持され、これにより、活性/不活性の変動を防止する。さらに他の実施形態では、代謝活性は、明周期に起こるよう引き起こされる(通常は暗周期で発生するのとは対照的に)。他の実施形態では、代謝活性は、暗周期に起こるよう引き起こされる(通常は明周期で発生するのとは対照的に)。ある種の実施形態では、概日時計調節性化合物は、肝臓の同化活性を上昇させるために、哺乳動物に投与される(例えば、肝臓の代謝経路の活性を上昇させる、又は異化作用から同化作用へと肝臓の活性をシフトさせる若しくは切り替える)。他の実施形態では、概日時計調節性化合物は、肝臓の異化作用を上昇させるために、哺乳動物に投与される(例えば、代謝過程の活性を低下させる)。
【0099】
ミトコンドリア疾患及び代謝作用
概日リズムの調節、及び細胞死からの神経細胞の保護に加えて、SIRT3、SIRT4及びSIRT5などのサーチュインが、ミトコンドリア中で見いだされる。SIRT3は、代謝活性組織中に高いレベルで発現する。SIRT3のモジュレートは、カロリー制限又は運動の模倣、ミトコンドリア生合成又は代謝の上昇、細胞のグルコース取り込みへの感作、脂肪酸酸化の上昇、及び反応性酸素種の減少を含む、筋細胞のための様々な生理学的用途を有する。さらに、SIRT3は、遺伝毒性ストレス中の、細胞生存の促進に関与していることが本明細書において実証されている。したがって、SIRT3レベルのモジュレートはまた、細胞生存の媒介に適用される。
【0100】
筋細胞中のSIRT3のタンパク質又は活性レベルの上昇は、カロリー制限又は運動の有益性を模倣することができる。一部の実施形態では、本発明は、ミトコンドリア生合成若しくは代謝を高める方法、又は細胞中のSIRT3のタンパク質若しくは活性レベルを上昇させるIS剤を筋細胞に接触させることによる、筋細胞中のミトコンドリア活性/耐久性を亢進する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、細胞中のSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる薬剤を筋細胞に接触させることにより、筋細胞のグルコース取り込みを感作する方法に関する。本発明のさらなる実施形態では、細胞中のSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる薬剤を筋細胞に接触させることによる、筋細胞における脂肪酸酸化を増加させる方法に関する。本発明の一部の実施形態は、細胞中のSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる薬剤を筋細胞に接触させることによる、筋細胞中の反応性酸素種(ROS)を低下させる方法に関する。
【0101】
SIRT3のレベルを上昇させると、ミトコンドリア内の代謝によって影響を受ける多くの疾患及び障害に利益をもたらす。SIRT3を上昇させることは、その筋肉、例えば、平滑筋又は心筋又はそれらの筋細胞のうちの1つ以上の代謝活性化を必要とするいかなる対象においても有用となり得る。対象は、悪液質又は筋消耗を有する対象とすることができる。
【0102】
SIRT3の上昇はまた、例えば、低体温対象において、体温を上昇又は維持するために使用することもできる。あるいは、SIRT3の阻害は、例えば、発熱又は異常高熱を有する対象において、体温を低下させるために使用することができる。
【0103】
一般に、SIRT3の活性化は、いかなるタイプの筋肉、例えば、腸又は消化系の筋肉、又は尿路の代謝を刺激するために使用することができ、これにより、腸の運動性、例えば、便秘及び失禁を制御するために使用することができる。
【0104】
SIRT3の上昇が有用になると思われる他の実施形態は、手術又は事故後などの筋肉の修復、筋肉量の増加、及び運動能力の上昇を含む。
【0105】
したがって、本発明は、有益な作用が、細胞におけるSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる量のNMNを1つ以上の筋細胞に接触させることにより生じる方法を提供する。これらの方法は、以下:筋細胞におけるカロリー制限又は運動の有益性の模倣、ミトコンドリア生合成又は代謝の上昇、筋細胞におけるミトコンドリア活性及び/又は耐性の上昇、筋細胞のグルコース取り込みの感作、筋細胞における脂肪酸酸化の上昇、筋細胞における反応性酸素種(ROS)の低下、筋細胞におけるPGC-la及び/又はucp3及び/又はGLUT4の発現の上昇、並びに筋細胞におけるAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)の活性化のうちの1つ以上を効果的に促進する、上昇させる又は刺激する。
【0106】
筋細胞の様々なタイプのものが、本発明により接触され得る。一部の実施形態では、筋細胞は骨格筋細胞である。ある種の実施形態では、筋細胞は、ひらめ筋細胞などの遅筋の細胞である。本発明の方法は、一部の実施形態では、このような処置を必要とする対象に、対象の細胞におけるSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる量のNMNを投与するステップを含む。
【0107】
接触される細胞又は上述の方法で処置される対象は、好ましくは、タンパク質又は活性レベルにおけるSIRT3の増加を必要とする細胞である。ある種の実施形態では、細胞は、対象の疾患を有する細胞である。
【0108】
同様に、対象における、骨格筋代謝又は骨格筋エネルギーホメオスタシスを調節する方法も提供される。そのような方法では、対象におけるSIRT3のタンパク質又は活性レベルをモジュレートする薬剤、すなわち、本明細書に記載されているSIRT3モジュレーターが、それを必要とする対象に投与される。
【0109】
同様に、対象の筋細胞又は筋肉における、SIRT3のタンパク質レベルを上昇させるための方法も提供される。そのような方法は、細胞若しくは対象にカロリー制限又は絶食を施すステップ、あるいはそれを必要とする対象に、筋細胞におけるSIRT3のタンパク質又は活性レベルを上昇させる量のNMNを投与するステップを含む。そのような方法が有用となる疾患、障害及び状態は、ミトコンドリア疾患、代謝性障害、神経学的障害、筋障害、心血管疾患及び過体重又は肥満を含む。特定の代謝性障害、疾患又は条件は、インスリン抵抗性、糖尿病、糖尿病関連状態又は障害、又はメタボリックシンドロームを含む。他の代謝性障害は、当業者に公知であろう。
【0110】
処置することができるミトコンドリア疾患は、細胞におけるミトコンドリアの機能不全によって引き起こされる様々な症状を示す疾患を含む。ミトコンドリア疾患は、生化学的異常、臨床的症状又はDNA異常のタイプによる様々な方法で分類され得る。KSS(慢性進行性外眼筋麻痺)、MERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん、フクハラ症候群)、MELAS、レーバー病、Leigh脳症及びピアソン病として命名されているタイプのものが幅広く知られている。それらのなかで、MELASは、脳卒中様エピソードを主に示すタイプのものであり、全体の30%以上を占める、ミトコンドリア疾患における最も頻度の高いタイプのものと考えられる。
【0111】
ある種の実施形態では、NMNは、DNA修復障害、又は(例えば、ミトコンドリアホメオスタシスの脱調節に起因する)ミトコンドリア機能不全に関連する疾患又は障害を治療するのに有用となる。一部の実施形態では、「ミトコンドリア機能不全」又は「ミトコンドリアホメオスタシスの脱調節」は、1つ以上のミトコンドリア成分(例えば、ETC成分)が、例えば、ミトコンドリア遺伝子発現又はミトコンドリアDNA含有量の低下によって枯渇され、損なわれているミトコンドリア機能(例えば、酸化的リン酸化(OXPHOS)能の喪失又は低下)となることを意味する。DNA修復疾患の例は、コケイン症候群及びTTDを含む。
【0112】
網膜疾患及び障害
光受容体のニューロン細胞死及び視力は、NMN投与によってレスキューされ得る。ある種の実施形態では、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)媒介性NAD生合成は、桿体及び/又は錐体PRニューロン生存においてある役割を果たすことができる。ある種の実施形態では、NADレベルの低下は、PRニューロンにおけるミトコンドリア機能の障害、TCAサイクル代謝産物の変質を引き起こす恐れがあり、細胞死及び失明に至る恐れがある。
【0113】
NAMPTが欠失すると、光受容体の死滅、正常な網膜構造及び機能の喪失及び視力喪失に至る恐れがある。一部の場合、光受容体のニューロン及びその機能への損傷は、NAMPT酵素反応生成物であるNMNの補給により元に戻すことができる。網膜において、NMNを投与して、NADレベルを回復させる方法が、本明細書において開示されている。一部の実施形態では、NMNの補給は、多くの網膜変性疾患に対する有効な治療的介入となり得る。
【0114】
対象へのNMNの投与によって、非限定的であるが、加齢黄斑変性(AMD)、遺伝性及び後天性網膜疾患、例えば非限定的であるが、網膜色素変性(RP)、桿体及び錘体ジストロフィズム(dystrophism)及びレーバー先天性黒内障(LCA)を含む光受容体機能不全に関連する疾患のリスクを処置する、予防する及び低減する方法が、本明細書において提供される。ある種の実施形態では、NMN投与は、以下に限定されないが、桿体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、網膜色素変性、他の遺伝性網膜変性、レーバー先天性黒内障(LCA)及び後天性網膜変性、例えば以下に限定されないが、加齢黄斑変性、網膜剥離後の光受容体の変性を含む、オーファン網膜変性疾患の予防及び/又は処置のための有効な介入となり得る。
【0115】
一部の実施形態では、これらの方法は、薬学的に有効な量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を対象に投与するステップを含むことができる。一部の実施形態では、薬学的に有効な量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、網膜のNADレベルを上昇させるのに有効な量となり得る。
【0116】
対象における、黄斑変性を処置する方法が、本明細書において開示されている。一部の実施形態では、本方法は、対象において、異常なほどに低い網膜のNADレベルを含む、網膜のNADレベルの異常を処置するステップを含む。これらの方法は、対象にNMNを投与するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜変性を処置するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、光受容体の損傷を処置するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、光受容体の変性を処置するステップを含む。
【0117】
一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜変性に関連する視力喪失を処置するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜構造の異常を処置するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜のNADレベルを上昇させるステップを含む。
【0118】
一部の実施形態では、本方法は、対象における黄斑変性を発症するリスクを低減するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜のNADレベルの異常を発症するリスクを低減するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における網膜変性を発症するリスクを低減するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における光受容体の損傷/変性を発症するリスクを低減するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における網膜変性に関連する視力喪失を発症するリスクを低減するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、対象における網膜構造の異常を発症するリスクを低減するステップを含む。
【0119】
一部の実施形態では、本方法は、対象における、網膜疾患を処置するステップを含む。一部の実施形態では、NMNの投与によって処置され得る網膜疾患は、網膜色素変性(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、桿体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、桿体-錐体ジストロフィー、錐体-桿体ジストロフィー、加齢黄斑変性、網膜剥離後の光受容体の変性又はそれらの組合せとすることができる。
【0120】
ある種の実施形態では、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)結晶形態(及び、このような結晶形態を使用して製造される製剤)は、対象における加齢性の肥満を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転するために使用されてもよい。一部の実施形態では、本発明は、対象における血中脂質レベルの加齢性の増加を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、対象におけるインスリン感受性の加齢性の低下を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、対象における記憶機能の加齢性の障害を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、対象における眼機能の加齢性の低下を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、対象における加齢性の網膜変性を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、ドライアイを処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、加齢性のドライアイを処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。一部の実施形態では、本発明は、対象における不妊症を処置、改善、緩和、遅延、停止、予防、又は反転する方法に関する。
【0121】
一部の実施形態では、本発明は、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を介して、対象における神経幹/前駆細胞(NSPC)機能性での加齢性の障害を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を介して、対象におけるNSPC集団での加齢性の低下を低減する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を介して、対象における少なくとも1つのNSPCを保持する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を介して、対象におけるNAD生合成を増強する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、対象におけるNSPC増殖を促進する方法であって、対象に対して、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を含む方法を提供する。これらの実施形態のそれぞれの方法は、治療有効量のNMNの結晶形態若しくはこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を含む、この投与から本質的になる、又はこの投与からなり得る。
【0122】
一部の実施形態では、本発明は、対象における骨密度レベルを増加する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、対象における異常なほどに低い骨密度レベルを処置する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、対象における加齢性の骨密度の低下を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、対象における骨粗鬆症を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、対象における加齢性の骨密度の低下を予防する方法を提供する。これらの実施形態のそれぞれの方法は、治療有効量のNMNの結晶形態若しくはこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与を含む、この投与から本質的になる、又はこの投与からなることができる。
【0123】
ある種の実施形態では、本発明は、NMNの投与によって、非限定的であるが、加齢黄斑変性(AMD)、遺伝性及び後天性網膜疾患、例えば非限定的であるが、網膜色素変性(RP)、桿体及び錘体ジストロフィズム及びレーバー先天性黒内障(LCA)を含む、光受容体機能不全に関連する様々な疾患を予防する方法、そのリスクを低減する方法、及びそれらを処置する方法に関する。様々な実施形態では、NMN結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤の投与は、以下に限定されないが、桿体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、網膜色素変性、他の遺伝性網膜変性、レーバー先天性黒内障(LCA)及び後天性網膜変性、例えば以下に限定されないが、加齢黄斑変性(dengeration)、網膜剥離後の光受容体の変性を含む、オーファン網膜変性疾患の予防及び/又は処置のための有効な介入となり得る。様々な実施形態では、NMNの結晶形態又はこのような結晶形態を使用して製造される製剤は、当業者に公知の任意の投与経路、例えば非限定的であるが、経口、非経口、眼内、腹腔内、静脈内又は筋肉内の経路によって投与することができる。様々な実施形態では、NMNは、賦形剤を含む又は含まないで投与することができる。
【0124】
一部の実施形態では、NMNは、加齢性の疾患を処置する。ある種の実施形態では、加齢性の疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(amniotropic lateral sclerosis)、関節炎、アテローム性動脈硬化、悪液質、がん、心肥大、心不全、心肥大、心血管疾患、白内障、大腸炎、慢性閉塞性肺疾患、認知症、糖尿病、虚弱、心疾患、脂肪肝炎、高血中コレステロール、高血圧(high blood pressure)、ハンチントン病、高血糖、高血圧症(hypertension)、不妊症、炎症性腸疾患、インスリン抵抗性障害、無気力、メタボリックシンドローム、筋ジストロフィー症、多発性硬化症、ニューロパシー、腎障害、肥満、骨粗鬆症、パーキンソン病、乾癬、筋肉減少症、睡眠障害、敗血症及び/又は脳卒中である。一部の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリア筋症、糖尿病・難聴(diabetes mellitus and deafness)(DAD)、レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)、リー症候群、神経障害、運動失調、網膜色素変性及び下垂(neuropathy, ataxia, retinitis pigmentosa and petosis)(NARP)、赤色ぼろ線維を伴うミクローヌスてんかん(MERRF)、筋神経胃腸管性脳症(myoneurogenic gastrointestinal encephalopathy)(MNGIE)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様症候群(mitochondrial myopathy, encephalomyopathy, lactic acidosis, stroke-like symptom)(MELAS)、キアーンズ-サイヤー症候群(KSS)、慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)、並びに/又はmtDNA枯渇である。
【0125】
ミトコンドリア機能不全に関連する疾患、障害又は状態の例は、以下に限定されないが、老化、加齢性疾患、ミトコンドリア疾患(例えば、アルパース病、バース症候群、β酸化の欠陥、カルニチンアシルカルニチン欠乏症、カルニチン欠乏症、クレアチン欠乏症候群、補酵素Q10欠乏症、複合体I欠乏症、複合体II欠乏症、複合体III欠乏症、複合体IV欠乏/COX欠乏症、複合体V欠乏症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群、CPT I欠乏症、CPT II欠乏症、キアーンズ-サイヤー症候群、乳酸アシドーシス、長鎖アシルCoA脱水素酵素(dehydrongenase)欠乏症、リー症候群、ルフト病、グルタル酸尿症II型、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリアDNA枯渇、ミトコンドリア脳症、ミトコンドリア筋症及びパーキンソン症候群)、代謝性疾患並びに障害(例えば、アミノ酸欠乏症)、ミトコンドリア並びにエネルギー欠乏症による疾患、無気力、心疾患、心血管疾患、脳卒中、梗塞、肺高血圧症、虚血、悪液質、筋肉減少症、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病)、認知症、リポジストロフィー、脂肪肝、肝炎、肝硬変、腎不全、子癇前症、男性不妊症、肥満、糖尿病(例えば、I型糖尿病)、筋障害、並びに筋消耗を含む。
【0126】
一部の実施形態では、NMNは、(様々な種における)細胞生存の促進、血管再構築、創傷治癒及び一般的な治癒(例えば、切傷、擦傷、手術、身体的損傷、外傷、熱傷、擦過傷、日焼けなどによる傷の処置)のために有用である。一部の実施形態では、本方法又は組成物は、鉄ホメオスタシス及び/又は赤血球生成を促進するために有用である。一部の実施形態では、本方法又は組成物は、本明細書において、成功した臓器及び組織の移植を促進、又は臓器及び組織の移植からの回復を促進するために有効である。一部の実施形態では、提供された方法及び組成物は、細胞及び臓器を維持するために有用である。一部の実施形態では、本明細書で提供された方法及び組成物は、例えば、皮膚老化(例えば、ボリューム及び弾力の低下、変色、肝斑(老年性黒子(senislis)))、しわ、脱毛症、並びに毛色素形成の低下などの、皮膚又は頭皮/髪に関するミトコンドリア機能不全に関連する状態を処置するための化粧学的適用を有する。一部の実施形態では、本明細書に記載されている薬剤又は組成物は、化粧品、エナジードリンク、並びに/又は動物及び植物の産業(例えば、家畜、ペット及び農業生産物)に関する製品又は方法に有用である。
【0127】
本明細書に記載されている通り、処置され得る対象は、哺乳動物、例えば、ヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、非人類霊長類、マウス及びラットなどの真核生物を含む。処置され得る細胞は、例えば、上記の対象からの真核細胞又は植物細胞、酵母細胞、及び、例えば、細菌細胞などの原核細胞を含む。例えば、NMNを家畜に投与して、牧畜条件に耐える能力をより長く改善し得る。
【0128】
本化合物はまた、植物における、寿命、ストレス耐性、及びアポトーシスへの耐性を高めるために使用され得る。ある種の実施形態では、NMNは、例えば定期的に植物に、又は真菌類に適用される。他の実施形態では、植物は、遺伝的に改変されて、NMNを産生する。他の実施形態では、植物及び果実は、収穫及び出荷される前にNMNで処置し、出荷時の損傷に対する耐性を高める。植物種子はまた、NMNに接触させて、例えばそれらを保持してもよい。
【0129】
NMNはまた、昆虫における、寿命、ストレス耐性、及びアポトーシスへの耐性を高めるために使用され得る。ある種の実施形態では、NMNは、有用な昆虫、例えば、植物の受粉に関与するハチや他の昆虫に適用される。好ましい実施形態では、NMNは、蜂蜜の生成に関与するハチに適用される。一般に、本明細書に記載されている方法は、任意の生物、例えば、商業上重要であり得る真核生物に適用され得る。例えば、魚(水産養殖)、エビ、ブタ、及びトリ(例えば、ニワトリ及び家禽)に適用することができる。
【0130】
NMNの他の使用は、マイクロバイオームを有利にモジュレートするステップ、又はビタミンB3の形態として役立つステップを含む。NADの前駆体として、NMNはまた、基準としての使用などの、NAD生合成によって影響を受けた疾患及び状態に対するアッセイに役立つ。
【0131】
本明細書で使用する、障害又は状態を「予防する」治療は、統計的試料において、未処置対照試料と比べて、処置試料における障害若しくは状態の発生若しくは頻度を低減する、又は、未処置対照試料と比べて、障害若しくは状態の1つ以上の症状の発症を遅延させる、若しくはそれらの重症度を軽減する化合物を指す。したがって、がんの予防は、例えば、未処置対照試料と比べて、予防的処置を受けている患者の集団において、検出できるがん性増殖の数を低減するステップ、並びに/又は、例えば、統計的及び/若しくは臨床的に有意な量によって、処理された集団対未処置対照の集団において、検出できるがん性増殖の発症を遅延させるステップを含む。感染の予防は、例えば、処理された集団対未処置対照の集団において、感染の診断の数を低減するステップ、及び/又は、処理された集団対未処置対照の集団において、感染の症状の発症を遅延させるステップを含む。疼痛の予防は、例えば、処理された集団対未処置対照の集団において、対象が経験した痛覚の大きさを軽減するステップ、あるいはそれらを遅延させるステップを含む。
【0132】
用語「処置する」は、予防的及び/又は治療的処置を含む。用語「予防的又は治療的」処置は、当分野において認識されており、1つ以上の本組成物の宿主への投与を含む。望まない条件(例えば、宿主動物の疾患又は他の望まない状態)の臨床兆候の前に投与される場合、処置は予防的である(すなわち、望まない条件を発症することに対して宿主を保護する)が、望まない条件の兆候の後に投与される場合、処置は治療的である(すなわち、存在する望まない条件又はその副作用を軽減する、改善する又は安定させることを意図する)。
【0133】
医薬組成物
ある種の実施形態では、本発明は、式(I)の結晶性化合物及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤、並びに、このような結晶性化合物を使用して製造される製剤及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。ある種の実施形態では、医薬調製物は、本明細書に記載されている状態又は疾患を処置又は防止するのに使用してもよい。ある種の実施形態では、医薬調製物は、ヒト患者の静脈への使用に好適であるほどに、十分に低いパイロジェン活性を有する。ある種の実施形態では、本発明はまた、栄養補助食品、獣医学及び農業に関連性のある使用に好適な調製物に関する。
【0134】
例示的な薬学的に許容される賦形剤は、本明細書に提示されており、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、可溶化剤、懸濁助剤、乳化剤、コーティング剤、シクロデキストリン及び/又は緩衝剤を含む。投与量は、患者の症状、年齢及び体重、処置又は予防される障害の性質及び重症度、投与経路並びに薬物の形態に応じて変動するが、一般に、化合物の1日投与量は0.01~3000mgが成人のヒトの患者に対して奨励され、これは単回用量又は多回用量で投与され得る。担体物質と一緒にして単一剤形を生成することができる活性成分の量は、一般に、治療的効果を生じる化合物の量である。
【0135】
所与の患者における処置の効能の点から最も有効な結果を得られる、投与の正確な時間及び/又は組成物の量は、特定の化合物の活性、薬物動態及びバイオアベイラビリティ、患者の生理的状態(年齢、性別、疾患の種類及び病期、全身的身体状態、所与の投与量に対する応答性、並びに医薬の種類)、投与経路などに依存する。しかし、上記のガイドラインは、処置を微調整する、例えば、投与の最適な時間及び/又は量を決定する基礎として使用することができ、これは対象をモニタリングするステップ、並びに投与量及び/又はタイミングを調節するステップからなるルーチンの実験だけを必要とする。
【0136】
ある種の実施形態では、組成物を投与される個体は、ヒト又は非ヒト哺乳動物などの哺乳動物である。ヒトなどの動物に投与される場合、組成物又は化合物は、好ましくは、例えば本発明の化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物として投与される。薬学的に許容される担体は、当分野において周知であり、例えば、水若しくは生理学的緩衝生理食塩水などの水溶液若しくはグリコール、グリセロールなどの他の溶媒若しくはビヒクル、オリーブ油などの油、又は注射用の有機エステルを含む。好ましい実施形態では、このような医薬組成物がヒト投与、特に投与の侵襲的経路(すなわち、上皮性関門を通して輸送又は拡散を回避する、注射又は埋め込みなどの経路)のためである場合、水溶液はパイロジェンを含まない、又は実質的にパイロジェンを含まない。賦形剤は、例えば、薬剤の遅延放出をもたらす、又は選択的に1つ以上の細胞、組織若しくは臓器を標的にするために選択することができる。医薬組成物は、単位剤形(錠剤、カプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、顆粒剤、再構成のための凍結乾燥物(lyophile)、散剤、溶液、シロップ剤、座剤、注射剤など)であり得る。組成物はまた、経皮的送達システム、例えば皮膚貼付剤で存在することができる。組成物はまた、眼粘膜の投与を通して、点眼剤などの局所投与に好適な溶液中に存在することができる。
【0137】
薬学的に許容される担体は、例えば、本発明の化合物などの化合物を安定させる、その溶解度を増す、又はその吸収度を増すように作用する、生理学的に許容される薬剤を含有することができる。このような生理学的に許容される薬剤は、例えば、炭水化物(グルコース、スクロース若しくはデキストランなど)、抗酸化剤(アスコルビン酸若しくはグルタチオンなど)、キレート剤、低分子量タンパク質又は他の安定化剤若しくは賦形剤を含む。生理学的に許容される薬剤を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば、組成物の投与経路に依存する。調製物又は医薬組成物は、自己乳化薬物送達システム又は自己マイクロ乳化薬物送達システムであり得る。医薬組成物(調製物)はまた、リポソーム又は他のポリマーマトリックスであり得、これは、例えば、本発明の化合物に組み込まれていることができる。リポソームは、例えば、リン脂質又は他の脂質を含むが、比較的簡単に作製及び投与できる、非毒性で、生理学的に許容され、代謝可能な担体である。
【0138】
語句「薬学的に許容される」は、正しい医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスクの比に吊りあう、過度の毒性、刺激、アレルギー性応答若しくは他の問題又は合併症を含まずに、ヒト及び動物の組織と接触する使用に好適な、これらの化合物、物質、組成物、及び/又は、剤形を指すために、本明細書において使用される。
【0139】
本明細書で使用する、語句「薬学的に許容される担体」は、液体若しくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又はカプセル化材料などの、薬学的に許容される物質、組成物又はビヒクルを意味する。各担体は、製剤の他の成分と共存可能である、及び患者に無毒であるという意味において、「許容」されなければならない。薬学的に許容される担体として役に立てる物質の一部の例には、以下を含む:(1)糖(ラクトース、グルコース及びスクロースなど)、(2)デンプン(トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなど)、(3)セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びセルロースアセテートなど)、(4)トラガント粉末、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤(カカオ脂及び座剤ワックスなど)、(9)油(ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及びダイズ油など)、(10)グリコール(プロピレングリコールなど)、(11)ポリオール(グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなど)、(12)エステル(オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなど)、(13)寒天、(14)緩衝化剤(水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなど)、(15)アルギン酸、(16)パイロジェンを含まない水、(17)等張性生理食塩水、(18)リンゲル溶液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、並びに(21)医薬製剤において使用される他の非毒性の共存可能な物質。ある種の実施形態では、本発明の医薬組成物は、非発熱性である、すなわち、患者に投与した場合、著しい体温の上昇を誘発しない。
【0140】
用語「薬学的に許容される塩」は、化合物の比較的非毒性の無機及び有機酸付加塩を指す。これらの塩は、化合物の最終的に単離及び精製する間にインサイチュで、又は、精製された化合物を、その遊離塩基の形で、好適な有機又は無機酸と別々に反応させること、及びこうして形成した塩を単離することによって調製することができる。代表的な塩は、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩(naphthylate)、メシル酸塩、ヘプトグルコン酸塩(glucoheptonate)、ラクトビオン酸塩(lactobionate)、ラウリルスルホン酸塩、アミノ酸塩などを含む。結晶塩の調製は、以下、実施例に詳述されている(例えば、Bergeら、(1977年)「Pharmaceutical Salts」、J. Pharm. Sci.、66巻、1~19頁を参照されたい)。
【0141】
他の場合、本発明の方法に有用な化合物は、1つ以上の酸性官能基を含有し、したがって、薬学的に許容される塩基で薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの例における用語「薬学的に許容される塩」は、化合物の比較的非毒性の無機及び有機塩基付加塩を指す。これらの塩は、同様に、化合物の最終的に単離及び精製する間にインサイチュで、又は、精製された化合物を、その遊離酸の形で、薬学的に許容される金属カチオンの好適な塩基(水酸化物、カルボネート若しくはビカルボネート)と、アンモニアと、又は薬学的に許容される有機第一、第二、若しくは第三アミンと、別々に反応させることによって調製することができる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムの塩などを含む。塩基付加塩の生成に有用な代表的な有機アミンは、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどを含む(例えば、上記のBergeらを参照されたい)。
【0142】
医薬組成物(調製物)は、例えば、経口(例えば、水性若しくは非水性の溶液若しくは懸濁液である飲薬、錠剤、カプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌に塗布するためのペースト剤)、口腔粘膜を通した吸収(例えば、舌下で)、肛門、直腸又は膣(例えば、ペッサリー剤、クリーム剤若しくは泡状物剤として)、非経口(筋肉内、静脈内、皮下若しくは鞘内に、例えば、滅菌溶液若しくは懸濁液として)、経鼻、腹腔内、皮下、経皮(例えば、皮膚に塗布される貼付剤として)、並びに局所(例えば、皮膚に塗布されるクリーム剤、軟膏剤若しくはスプレー剤として、若しくは点眼剤として)などを含む、いくつかの投与経路のいずれかによって対象に投与することができる。化合物はまた、吸入剤用に製剤化される。ある種の実施形態では、化合物は、単に滅菌水に溶解又は懸濁し得る。適切な投与経路及びそれに好適な組成物の詳細は、例えば、米国特許第6,110,973号、米国特許第5,763,493号、米国特許第5,731,000号、米国特許第5,541,231号、米国特許第5,427,798号、米国特許第5,358,970号、及び米国特許第4,172,896号、並びにこれらに引用された特許において見いだすことができる。
【0143】
本製剤は、単位剤形で供給することが好都合となり得、調剤分野において周知のいかなる方法によっても製造することができる。担体物質と一緒にして単一剤形を生成することができる活性成分の量は、処置される宿主、特定の投与形式に応じて変動する。担体物質と一緒にして単一剤形を生成することができる活性成分の量は、一般に、治療的効果を生じる化合物の量である。一般に、100%のうち、この量は、約1%~約99%、好ましくは、約5%~約70%、最も好ましくは、約10%~約30%の活性成分の範囲とする。
【0144】
これらの製剤又は組成物を製造する方法は、本発明の化合物などの活性化合物を、担体、及び、場合により1つ以上の付属成分と混合するステップを含む。一般に、本製剤は、本発明の化合物と、液体担体若しくは微粉砕した固体担体とを、又はそれらの両方とを均一かつ緊密に混合し、次に、必要な場合、製品に成形することにより製造される。
【0145】
経口投与に有用な本発明の製剤は、カプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(風味が付与されている基剤、通常、スクロース及びアカシア若しくはトラガントを使用する)、凍結乾燥物、散剤、顆粒剤の形態で、又は、水性若しくは非水性液体中の溶液又は懸濁液として、若しくは水中油型若しくは油中水型の液体エマルション剤として、若しくはエリキシル剤若しくはシロップ剤として、若しくはパステル剤(ゼラチン及びグリセリン、若しくはスクロース及びアカシアなどの不活性基剤を使用する)として、並びに/若しくは洗口剤などとしてあり得、それぞれは、活性成分として、所定量の本発明の化合物を含有する。組成物又は化合物はまた、ボーラス剤、舐剤又はペースト剤として投与されてもよい。
【0146】
経口投与のカプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、錠剤、丸剤、糖剤、散剤、顆粒剤など)のための固体の剤形を製造するために、活性成分は、クエン酸ナトリウム若しくはリン酸二カルシウム、及び/又は以下のいずれかの、1種以上の薬学的に許容される担体と混合させる:(1)充填剤又は増量剤(デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及び/若しくはケイ酸など)、(2)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルジネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/若しくはアカシアなど)、(3)保水剤(グリセロールなど)、(4)崩壊剤(寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のシリケート、及び炭酸ナトリウムなど)、(5)溶液遅延剤(パラフィンなど)、(6)吸収促進剤(第四級アンモニウム化合物など)、(7)湿潤剤(例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなど)、(8)吸収剤(カオリン及びベントナイト粘土など)、(9)滑沢剤(タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体のポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物など)、(10)錯化剤(変性及び非変性シクロデキストリンなど)、並びに、(11)着色剤。カプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、錠剤及び丸剤の場合、医薬組成物はまた、緩衝化剤を含む。類型の固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖などの賦形剤、並びに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用する軟及び硬充填ゼラチンカプセルにおける充填剤として使用し得る。
【0147】
錠剤は、場合により1種以上の付属成分と一緒に、圧縮又は成形により作製される。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤又は分散化剤を使用して製造することができる。成形済み錠剤は、好適な機械で、不活発な液体希釈剤により湿らせた粉末状化合物の混合物を成形することにより作製することができる。
【0148】
錠剤、並びに、糖剤、カプセル剤(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、丸剤並びに顆粒剤などの、医薬組成物の他の固体の剤形は、場合により、刻み目が入れられてもよく、又は、腸溶コーティング剤、及び医薬製剤分野において周知の他のコーティング剤などの、コーティング剤及び殻材で製造されてもよい。これらはまた、例えば、割合を変動させながらヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用して、そこに活性成分がゆっくりと又は制御されて放出するように製剤化させて、所望の放出プロファイル、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアをもたらす。これらは、例えば、細菌保持フィルタを通したろ過によって、又は、使用直前に、滅菌水、若しくは一部の他の滅菌注射用媒体中に溶解され得る滅菌固体組成物の形態で、滅菌剤を組み込むことによって、滅菌され得る。これらの組成物はまた、場合により、不透明剤を含有し得、これらは、活性成分のみを、又は優先的には、胃腸管のある種の部分において、場合により、遅延した様式で放出する組成物であり得る。使用され得る埋め込まれる組成物の例は、ポリマー物質及びワックスを含む。活性成分はまた、適切な場合、1種以上の上記の賦形剤で、マイクロカプセル化された形態であり得る。
【0149】
経口投与に好適な液体剤形は、薬学的に許容されるエマルション剤、再構成のための凍結乾燥物、マイクロエマルション剤、溶液、懸濁液、シロップ剤及びエリキシル剤を含む。活性成分に加えて、液体剤形は、当該分野で一般に使用される不活性希釈剤(例えば、水又は他の溶媒など)、シクロデキストリン並びにその誘導体、可溶化剤並びに乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール)、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール並びにソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物を含有し得る。
【0150】
不活性希釈剤の他に、本発明の組成物はまた、補助剤(湿潤剤、滑沢剤、乳化剤及び懸濁化剤(ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなど)、若しくは甘味剤、着香剤、着色剤、芳香剤、保存剤又は抗酸化剤)を含むことができる。
【0151】
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁化剤を、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天及びトラガント、並びにこれらの混合物として、含有し得る。
【0152】
直腸、膣又は尿道投与向け医薬組成物の製剤は、座剤として供給されてもよく、これは、1つ以上の活性化合物を、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、座剤ワックス又はサリチレートを含む、1種以上の好適な非刺激性の賦形剤又は担体と混合することで製造されてもよく、これは、室温では固体であるが、体温では液体であり、したがって、直腸又は膣腔内で溶解し、活性化合物を放出する。
【0153】
口腔投与向け医薬組成物の製剤は、洗口剤、又は口腔スプレー剤若しくは口腔軟膏剤として供給されてもよい。
【0154】
あるいは又はさらに、組成物は、カテーテル、ステント、ワイヤ、又は他の管腔内装置を介する送達向けに製剤化することができる。このような装置を介する送達は、とりわけ膀胱、尿道、尿管、直腸又は腸への送達に有用であり得る。
【0155】
膣投与に好適な製剤はまた、当分野において公知のような担体を含有する、ペッサリー剤、タンポン剤、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、泡状物剤又はスプレー製剤を含む。
【0156】
局所又は経皮投与向け剤形は、散剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液、貼付剤及び吸入剤を含む。活性化合物は、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体、及び必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤又は噴射剤と混合され得る。
【0157】
軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、及びゲル剤は、活性化合物に加えて、動物性及び植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク並びに酸化亜鉛、並びにこれらの混合物などの賦形剤を含有してもよい。
【0158】
散剤及びスプレー剤は、活性化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミド粉末、又はこれら物質の混合物などの賦形剤を含有してもよい。さらに、スプレー剤は、クロロフルオロハイドロカーボンなどの通常の噴射剤、及びブタン及びプロパンなどの揮発性非置換性炭化水素を含有することができる。
【0159】
あるいは、本明細書に記載されている化合物は、エアゾールによって投与することができる。これは、水性エアゾール、リポソーム調製物、又は組成物を含有する固体粒子を調製することにより実施する。非水性懸濁液(例えば、フルオロカーボン噴射剤)は、使用され得る。音波ネブライザーは、せん断する薬剤への曝露を最小限にするため好ましく、これは化合物の分解をもたらすことができる。
【0160】
通常、水性エアゾールは、薬剤の水性の溶液又は濁液を、従来の薬学的に許容される担体及び安定化剤と一緒に製剤化することにより作製される。担体及び安定化剤は、特定の組成物の必要性とともに変動するが、通常、非イオン性界面活性剤(Tween、Pluronic、ソルビタンエステル、レシチン、Cremophor)、ポリエチレングリコールなどの薬学的に許容される共溶媒、血清アルブミンのような無害のタンパク質、オレイン酸、グリシンなどのアミノ酸、緩衝剤、塩、糖又は糖アルコールを含む。エアゾールは、一般に、等張性溶液から調製される。
【0161】
経皮貼付剤は、本発明の化合物の、身体への制御された送達をもたらすことの追加の利点を有する。このような剤形は、適切な媒体に活性化合物を溶解又は分散することにより作製することができる。吸収促進剤はまた、皮膚を通しての化合物の流入を増加するために使用することができる。このような流入の速度は、速度制御膜を設ける、又はポリマーマトリックス若しくはゲル中に化合物を分散することのいずれかにより制御することができる。
【0162】
眼科製剤、眼軟膏剤、散剤、溶液などはまた、本発明の範囲内であるとして考えられている。例示的な眼科製剤は、米国特許公開2005/0080056号、米国特許公開2005/0059744号、米国特許公開2005/0031697号及び米国特許公開2005/004074、並びに米国特許第6,583,124号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。所望の場合、液体の眼科製剤は、涙液、房水若しくは硝子体液と類似した特性を有し、又はこのような流体と共存可能である。好ましい投与経路は、局所性投与(例えば、点眼剤などの局所投与、又はインプラントを介した投与)である。
【0163】
本明細書で使用する、語句「非経口投与」及び「非経口的に投与された」は、経腸及び局所投与を除いた、通常、注射による投与形式を意味し、非限定的であるが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、髄腔内及び胸骨下の注射及び注入を含む。非経口投与に好適な医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される無菌等張性の水性若しくは非水性の溶液、分散液、懸濁液若しくはエマルション剤、又は、使用直前に、滅菌注射用の溶液若しくは分散液に再構築され得る滅菌散剤と組み合わせて1つ以上の活性化合物を含み、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤と所期のレシピエントの血液とを等張性にする溶質、又は懸濁化剤若しくは増粘剤を含有し得る。
【0164】
本明細書で使用する、語句「全身投与」「全身投与された」「末梢性投与」及び「末梢投与された」は、患者の全身系に入り、それにより代謝及び他の類似の過程、例えば皮下投与を受けるように、全身のリガンド、薬物、又は、中枢神経系に直接的なもの以外の他の物質の投与を意味する。
【0165】
本発明の医薬組成物で使用され得る好適な水性又は非水性の担体の例は、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)及びこれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物性油、並びにオレイン酸エチルなどの注射用の有機エステルを含む。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用、分散の場合に必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用により維持することができる。
【0166】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散化剤などの、補助剤を含有し得る。微生物の活動の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの包含により確実になる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を、組成物に含むのがまた望ましい。加えて、注射用の医薬形態の吸収を延長することは、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延する薬剤の包含によりもたらし得る。
【0167】
一部の場合、薬剤の効果を延長するために、皮下注射又は筋肉内注射からの薬剤の吸収を遅延するのが望ましい。これは、水に難溶性の結晶性又はアモルファス性の物質の液体懸濁液の使用により実施する。したがって、薬物の吸収の速度は、その溶解速度に依存し、同様に結晶サイズ及び結晶形態に依存し得る。あるいは、非経口で投与された剤形の遅延させた吸収は、油ビヒクル内の薬物を溶解又は縣濁化することにより実施する。
【0168】
注射用のデポー剤の形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に、本化合物のマイクロカプセル化されたマトリックスを形成することにより作製される。薬物対ポリマーの比、及び使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度は制御することができる。他の生分解性ポリマーの例は、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)を含む。注射用のデポー製剤はまた、身体の組織と共存可能であるリポソーム又はマイクロエマルション中に、薬物を取り込むことで調製される。
【0169】
薬剤の調製物は、経口、非経口、局所又は直腸で投与され得る。これらはもちろん、各投与経路に好適な形態で投与される。例えば、これらは、錠剤又はカプセル剤の形態で、注射、吸入、点眼剤、軟膏剤、座剤、注入により、ローション剤又は軟膏剤により局所的に、及び座剤により直腸に投与される。経口投与が望ましい。
【0170】
本発明の方法の使用において、活性化合物は、それ自体で投与される、又は、例えば、0.1~99.5%(より好ましくは、0.5~90%)の活性成分を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含有している医薬組成物として投与することができる。
【0171】
導入の方法はまた、再充填式又は生分解性の装置であり得る。様々な徐放性ポリマー装置は、タンパク質性生物学的製剤を含む薬物の制御された送達のために、近年、開発され、インビボで試験されている。様々な生物的適合性ポリマー(ヒドロゲルを含む)は、生分解性及び非分解性の両方のポリマーを含むが、特定の標的部位において、化合物の徐放性用のインプラントを形成するために使用することができる。
【0172】
これらの化合物は、例えば、経口、例えばスプレー剤による経鼻、直腸、膣内、非経口、槽内、及び、散剤、軟膏剤又は点滴剤による局所(バッカル及び舌下を含む)を含む、任意の好適な投与経路により、治療用にヒト及び他の動物に投与され得る。
【0173】
選択された投与経路にかかわらず、化合物は、好適な水和物の形態、及び/又は本発明の医薬組成物で使用され得るが、当業者に公知の従来の方法により薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0174】
医薬組成物の活性成分の実際の投与レベルは、患者に有毒でない、特定の患者、組成物及び投与形式に対する、所望の治療的応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るように変動させることができる。
【0175】
選択された投与レベルは、特定の化合物若しくは使用する化合物の組合せ又はそれらのエステル、塩若しくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、処置の期間、使用される特定の化合物と一緒に使用される他の薬物、化合物及び/若しくは物質、年齢、性別、体重、状態、健康全般、並びに処置される患者の病歴などの医学分野で周知の因子を含む、様々な因子に依存する。一般に、本発明の組成物は、非経口投与用に、他の物質内で、本明細書で開示されている化合物を約0.1~30%w/v含有する水溶液中に提供され得る。典型的な用量の範囲は、1日あたり約0.01~約50mg/kg体重であり、1回量又は2~4分割量で投与される。各分割量は、同じ又は異なる本発明の化合物を含有し得る。
【0176】
当分野において通常の知識を有する医師又は獣医は、必要とされる治療有効量の医薬組成物を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師又は獣医は、所望の治療的効果を達成するために、必要とされる量より少ないレベルから、医薬組成物又は化合物の用量を開始し、所望の効果を達成するまで投与量を徐々に増す。処置の本方法に関する「治療有効量の」化合物は、所望の投与レジメンの一部として(哺乳動物に、好ましくはヒトに)投与される場合、処置される障害若しくは状態に対する臨床的に許容される基準又は化粧目的により、例えば任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスクの比で、症状を緩和し、状態を改善し、又は疾患状態の発症を遅延する調製物中の化合物の量を指す。一般に、有効量の化合物は、対象の体重、性別、年齢及び病歴により変動することは理解される。有効量に影響する他の因子は、以下に限定されないが、患者の状態の重症度、処置される障害、化合物の安定性、及び、所望の場合、本発明の化合物と投与される別のタイプの治療剤を含む。より大きな総用量は、薬剤の多回投与により送達することができる。効能及び投与量を決定する方法は、当業者に公知である(参照により本明細書に組み込まれている、Isselbacherら、(1996年)、Harrison’s Principles of Internal Medicine、第13編、1814~1882頁)。
【0177】
一般に、本発明の組成物及び方法で使用される活性化合物の好適な1日分の用量は、治療効果を発揮するのに有効な最低の用量である化合物の量である。このような有効用量は、一般に、上記の因子に依存する。
【0178】
所望の場合、活性化合物の有効な1日分の用量は、場合により、単位剤形で、1日を通して適切な間隔で、別々に投与される、1回、2回、3回、4回、5回、6回以上の部分用量として投与され得る。本発明のある種の実施形態では、活性化合物は、1日に2回又は3回、投与することができる。好ましい実施形態では、活性化合物は、1日に1回、投与することができる。
【0179】
本処理を受ける患者は、必要とされる任意の動物であり、霊長類、特にヒト、並びに、ウマ、ウシ、ブタ及びヒツジなどの他の哺乳動物、並びに一般に家禽類及びペットを含む。
【0180】
ある種の実施形態では、本発明の化合物は、単独で使用、又は別のタイプの治療剤と共同で投与され得る。本明細書で使用する、語句「共同投与」は、先に投与された治療化合物が身体中で依然として有効である間、第二の化合物が投与されるように、2つ以上の異なる治療化合物の投与の任意の形態を指す(例えば、2つの化合物が患者に同時に有効であり、これが2つの化合物の相乗効果を含み得る)。例えば、異なる治療化合物は、同じ製剤、又は別々の製剤のいずれかで、付随して又は順次にのいずれかで、投与することができる。ある種の実施形態では、異なる治療化合物は、互いに、1時間、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、又は1週間以内に投与することができる。したがって、このような処置を受ける個体は、異なる治療化合物の組み合わされた効果から利益を得ることができる。
【0181】
本発明は、本発明の組成物及び方法において、本発明の化合物の薬学的に許容される塩の使用を含む。ある種の実施形態では、本発明の考えられる塩は、以下に限定されないが、アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、又はテトラアルキルアンモニウム塩を含む。ある種の実施形態では、本発明の考えられる塩は、以下に限定されないが、L-アルギニン、ベネンタミン、ベンザチン、ベタイン、水酸化カルシウム、コリン、デアノール、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、2-(ジエチルアミノ)エタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、ヒドラバミン、1H-イミダゾール、リチウム、L-リシン、マグネシウム、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、ピペラジン、カリウム、1-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン、ナトリウム、トリエタノールアミン、トロメタミン、及び亜鉛の塩を含む。ある種の実施形態では、本発明の考えられる塩は、以下に限定されないが、Na、Ca、K、Mg、Zn又は他の金属の塩を含む。
【0182】
薬学的に許容される酸付加塩はまた、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどと、様々な溶媒和物として存在することができる。このような溶媒和物の混合物も調製することができる。このような溶媒和物の原料は、結晶化の溶媒からであり、調製若しくは結晶化の溶媒に固有であり、又はこのような溶媒に偶発的であり得る。一部の実施形態では、開示された化合物の溶媒和物は、ジメチルスルホキシド溶媒和物であり得る。
【0183】
湿潤剤、乳化剤及び滑沢剤(ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム)、並びに着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤並びに芳香剤、保存剤並びに抗酸化剤はまた、組成物中に存在することができる。
【0184】
薬学的に許容される抗酸化剤の例は、以下を含む:(1)水溶性抗酸化剤(アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど)、(2)油溶性抗酸化剤(パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなど)、及び(3)金属キレート剤(クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など)。
【0185】
本発明をこれまで一般的に記載してきたが、本発明は、本発明のある種の態様及び実施形態の例証のみを目的として含まれ、本発明を限定することを意図するものではない以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるであろう。
【実施例0186】
実施例1~5のための分析方法
X線粉末回折
X線粉末回折パターンは、Cu Kα線(40kV、40mA)、θ-2θ角度計、並びにV4及び受光スリットの発散を使用するBruker D8回折計、Geモノクロメータ、並びにLynxeye検出器で採集した。機器の性能は、認定コランダム標準(NIST 1976)を使用して確認を行った。データ採集のために使用されたソフトウェアは、Diffrac Plus XRD Commander v2.6.1であり、データは、Diffrac Plus EVA v15.0.0.0を使用して分析し、提示した。
【0187】
試料は、周囲条件下で、与えられた粉末を使用する平板試験片として準備した。試料は、研磨されたゼロ-バックグラウンド(510)シリコンウェーハに切り込まれたキャビティの中にやさしく充填した。試料は、分析中、それ自体の面において回転させた。データ採集の詳細は以下の通りであった。
- 角度範囲:2~42°2θ
- ステップサイズ:0.05°2θ
- 採集時間:0.5秒/ステップ
【0188】
HPLC
純度分析は、ダイオードアレイ検出器を備え、ChemStationソフトウェアvB.04.03を使用するAgilent HP1100シリーズのシステムにおいて、表1で以下に詳述する方法を使用して実行した。
【0189】
【0190】
偏光顕微鏡(PLM)
試料は、画像取込のためにデジタルビデオカメラを備えたLeica LM/DM偏光顕微鏡によって調べた。少量の各試料を、スライドガラスの上に置き、浸漬油で固定し、ガラススリップで覆い、個別の粒子を可能な限り分離させた。試料は、適切な拡大率及び部分偏光で、γ偽色フィルタを接続させて観察した。
【0191】
[実施例1]
メタノールからの結晶化による形態1の合成
アモルファス性のニコチンアミドモノヌクレオチド(565mg)は、ガラスバイアルで計量し、メタノール(10.0mL)を添加した。得られるスラリーは、室温で4時間、撹拌し、次に、さらに一部のMeOH(10.0mL)を添加した。存在する白色固体は、ろ過により単離され、次に、真空下、室温でおよそ16時間、乾燥させると、XRPD分析によって示されたように、結晶化β-ニコチンアミドモノヌクレオチド形態1が得られた。(459mg、81%回収)。
【0192】
[実施例2]
水からの結晶化による形態1の合成
アモルファス性のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド(605mg)は、ガラスバイアルで計量し、脱イオン水(600μL)を添加した。短時間のボルテックスの後、透明の溶液が形成された。一部のこの溶液(およそ200μL)を別々のバイアルに分配し、5℃でおよそ16時間、冷却した。発生した白色固体は、ろ過により単離され、XRPD分析によって示されると、結晶化β-ニコチンアミドモノヌクレオチド形態1であった(収率は決定せず)。
【0193】
[実施例3]
SCXRDのための蒸気拡散による形態1の合成
アモルファス性のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド(605mg)は、ガラスバイアルで計量し、脱イオン水(600μL)を添加した。短時間のボルテックスの後、透明の溶液が形成された。一部のこの溶液(100μL)を別々のバイアルに分配し、これ自体は、蒸気が両バイアルの間を自由に拡散できるような、メタノール(500μL)を含有するより大きなバイアルに入れた。より大きなバイアルは、密封し、白色固体が発生した時間からおよそ16時間、室温で保管した。この固体をサンプリングし、SCXRDによって示されると、結晶化β-ニコチンアミドモノヌクレオチド形態1であった。
【0194】
[実施例4]
形態2の合成
アモルファス性のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド(568mg)は、ガラスバイアルで計量し、DMSO(10.0mL)を添加した。得られるスラリーは、室温でおよそ20時間、撹拌した。次に、存在する白色固体は、ろ過により単離され、アセトン(3×1mL)で洗浄され、真空下、室温でおよそ16時間、乾燥させると、結晶化β-ニコチンアミドモノヌクレオチド形態2が得られた(501mg、72%回収*)。
* 物質がDMSOモノ溶媒和物であるという仮説に基づく
【0195】
[実施例5]
アモルファス性及び結晶性NMNに対する、3か月の安定性試験及び強制分解研究
アモルファス性NMN及びNMN結晶形態1の試料は、3か月間、25℃/0%相対湿度(RH)で、及び40℃/75%RHで、固体として保存した。試料は、2週間のオフセットにより2重で調製した。各複製は、異なる容器で保管した。
【0196】
複製1は、関連性のある無機塩の飽和溶液を含有する密封シンチレーションバイアルに入れた、オープンHPLCバイアルに投入した(表2)。これらの試料は、第4週、第8週、及び第12週の時間点で、HPLC、1H NMR、XRPD及び偏光顕微鏡(PLM)によって分析した。
【0197】
複製2は、密封ボックスに、関連性のある無機塩の飽和溶液を含有するレシピエントと一緒に保管した(表2)。これらの試料は、第2週、第6週、第10週、及び第12週の時間点で、HPLCによって分析した。25℃/0%RHでの試料は、乾燥剤(P2O5)を含有する密封ボックスに保管した。
【0198】
【0199】
アモルファス性の物質は、25℃、0%RHで12週間の保管後、固体形態及び粒子形態の点から変化せずに残存した。純度の低下は、98.2%(時間0)から95.5%(時間第12週)まで、観察された。HPLCによって観察された増大する主な不純物は、RRT1.73で溶出し、ニコチンアミドに相当した(第12週の時間点で、2.8%)。(表3及び表4を参照されたい。)
【0200】
【0201】
アモルファス性の物質は、25%以上の相対湿度下で保管した場合、結晶化し、針状形態の形態1を得られた。化学的純度は、すべての試験条件、とりわけ40℃/75%RHでの保管により低下することが示された。観察された増大する主な不純物はまた、ニコチンアミドであった(RRT=1.73)。40℃/75%RHで12週間後の物質の純度は、67.5%(複製2)として決定され、ニコチンアミド存在率は20.6%であった。
【0202】
結晶形態1は、すべての試験条件で、固体形態及び粒子形態の点から変化せずに残存した。物質は、すべての試験条件で、4週間の保管後、化学的に純粋(約99.3%)で残存した。純度のわずかな低下は、4週間後を超えて観察された。25℃/0%RHでの保管が、試料の純度98.9%、ニコチンアミド0.38%を示した12週間後の分析として、試料の安定性に対しての最も有利な条件であることを証明した。純度の最大の変化は、高温(40℃)又は高湿度(75%RH、97%RH)で保管された試料において観察された。純度は、99.5%から、25℃/97%RHで12週間後に95.8%、40℃/75%RHで12週間後に90.7%に低下した。すべての条件で最も多い不純物は、ニコチンアミド(RRT=1.73分)であった。この不純物は、0.12%(時間0)から、40℃/75%RH及び25℃/97%RHの両方で、12週間後に3.46%に増加した。
【0203】
HPLCの結果は、複製内で一致したが、より急速な分解が複製1で観察された。潜在的な影響を及ぼすものとして、対応する保管条件への平衡に要する時間がより短くなるより小さいサイズの容器があり得る。表4~7は複製1及び複製2から得られた結果を提供する。
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
参照による組み込み
本明細書に記載された刊行物及び特許はすべて、個別の刊行物又は特許のそれぞれが、具体的かつ個々に、参照により組み込まれるよう示されているかのごとく、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。抵触の場合、本明細書における定義を含めて、本明細書が支配する。
【0209】
均等物
本発明の具体的な実施形態が考察されている一方で、上記の明細書は、例証であり、限定的ではない。本発明の多くの変形例は、本明細書及び下記の特許請求の範囲により、当業者には明らかになるだろう。本発明の全範囲は、均等物の全範囲に沿って特許請求の範囲及びこのような変形例に沿って明細書を参照することによって決定されるべきである。