(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176995
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ゲムフィブロジルによる遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症の対象の自発運動の改善および寿命の増加
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20221122BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221122BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20221122BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221122BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221122BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221122BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20221122BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/00
A61P21/00
A61K31/194
A61K31/216
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133026
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2019535366の分割
【原出願日】2017-12-28
(31)【優先権主張番号】62/440,305
(32)【優先日】2016-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】302057661
【氏名又は名称】ラッシュ・ユニバーシティ・メディカル・センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ペイハン,カリパダ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症などの神経変性疾患の治療のための方法を提供する。
【解決手段】対象に、治療有効量の、神経細胞アポトーシス細胞死を減少させる薬剤であって、フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与することを含む、神経変性疾患を有する対象における神経細胞アポトーシス細胞死を減少させる方法を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に、治療有効量の、神経細胞アポトーシス細胞死を減少させる薬剤であって、フィ
ブラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与することを含む、神経変性疾患を有する対象
における神経細胞アポトーシス細胞死を減少させる方法。
【請求項2】
フィブラートが、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフ
ィブラート、シプロフィブラート及びクリノフィブラートから成る群より選択される、請
求項1記載の方法。
【請求項3】
フィブラートがゲムフィブロジルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
神経変性疾患が、神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、ハンチントン
病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)などのパーキンソン・プラス疾患(Par
kinson's plus disease)を含むパーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底
核変性症(CBD)及びレビー小体型認知症(DLB)から成る群より選択される、請求項1~3の
いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
神経変性疾患が遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症である、請求項1~4の
いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤が対象における細胞死のホスホBCL2関連アゴニスト(P-BAD)のレベルを増加さ
せる、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
P-BADのレベルが、対象の運動皮質又は線条体において増加する、請求項6記載の方法
。
【請求項8】
治療有効量の、神経変性疾患を有する対象の寿命を、薬剤を受けていない対照と比較し
て延長させる薬剤であって、フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を対象に投与する
ことを含む、神経変性疾患を有する対象の寿命を延長させる方法。
【請求項9】
フィブラートが、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフ
ィブラート、シプロフィブラート及びクリノフィブラートから成る群より選択される、請
求項8記載の方法。
【請求項10】
フィブラートがゲムフィブロジルである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
神経変性疾患が、神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、ハンチントン
病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)などのパーキンソン・プラス疾患を含
むパーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)及びレビー小体
型認知症(DLB)から成る群より選択される、請求項8~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
神経変性疾患が遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症である、請求項8~11
のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
治療有効量の、神経変性疾患を有する対象の運動行動を、薬剤を受けていない対照と比
較して改善する薬剤であって、フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を対象に投与す
ることを含む、神経変性疾患を有する対象の運動行動を改善する方法。
【請求項14】
フィブラートが、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフ
ィブラート、シプロフィブラート及びクリノフィブラートから成る群より選択される、請
求項13記載の方法。
【請求項15】
フィブラートがゲムフィブロジルである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
神経変性疾患が、神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、ハンチントン
病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)などのパーキンソン・プラス疾患を含
むパーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)及びレビー小体
型認知症(DLB)から成る群より選択される、請求項13~15のいずれか1項記載の方法
。
【請求項17】
神経変性疾患が遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症である、請求項13~1
6のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
治療有効量の、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症を有する対象の脳におけ
る抗炎症因子のレベルを、薬剤を受けていない対照と比較して増加させる薬剤であって、
フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を対象に投与することを含む、遅発型小児性神
経セロイドリポフスチン沈着症を有する対象の脳における抗炎症因子のレベルを増加させ
る方法。
【請求項19】
フィブラートが、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフ
ィブラート、シプロフィブラート及びクリノフィブラートから成る群より選択される、請
求項18記載の方法。
【請求項20】
フィブラートがゲムフィブロジルである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
抗炎症因子のレベルの増加が、サイトカインシグナル伝達の抑制因子3(SOCS3)及びイン
ターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)のレベルの増加を含む、請求項18~20
のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記薬剤が経口又は非経口投与のためのものである、請求項1、8、13及び18のい
ずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2016年12月29日に出願された
米国特許仮出願第62/440,305号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症などの神経変性疾患を治療す
るための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リソソームは、脂質、タンパク質、炭水化物、および核酸の分解を担ういくつかの酸ヒ
ドロラーゼを含有する膜結合型オルガネラである(De Duve & Wattiaux 1966)。それらの
ほとんど全てにおける欠陥/欠損は、リソソームにおける未消化の/部分消化された物質の
蓄積をもたらし、いくつかのリソソーム蓄積障害(LSD)の基礎を形成する(De Duve & Watt
iaux 1966, Perez-Salaら、2009)。遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症(Jansk
y-Bielschowsky病、LINCL、2型)は、Cln2遺伝子における多すぎる突然変異によって引き
起こされるNCLの一形態である。これらの突然変異は、トリペプチジルトリペプチダーゼI
(TPP-I、46kDaペプスタチン非感受性リソソームプロテアーゼ)の欠損および/または機能
喪失をもたらし、脳における自己蛍光物質の蓄積をもたらす(Sleatら、1997、Laneら、19
96)。LINCLは、典型的には、2~4歳の年齢時に症状を引き起こし、急速に進行し、ニュー
ロンおよび他の細胞の数の劇的な減少の結果として、8~10歳の間に死に至る(Laneら、19
96、Sleatら、1997)。したがって、LINCLまたは他のNCLを有する患者における寿命の増加
および/または生活の質の改善は、重要な研究分野である。しかしながら、長年の調査に
も拘わらず、この疾患、特に、LINCLのために利用可能な治療はたったの1つしかない;全
ての手法は、単に支援的または症候的なものであり、新規治療手法の緊急の必要性を示し
ている(Changら、2008)。
【0004】
いくつかの研究は、神経炎症およびアポトーシス経路の誘導が、LINCLを含む多くの形
態のNCLにおける神経損傷に起因し得ると結論付けている(Geraetsら、2016、Dharら、200
2、Puranamら、1997、Kohanら、2011)。炎症は、LINCLにおける開始因子ではないが、グ
リア媒介性持続的炎症応答は、疾患進行に寄与すると考えられる(Cooperら、2015、Macau
leyら、2014)。FDAに認可された脂質低下薬であるゲムフィブロジル(gem)は、血液循環中
のトリグリセリドレベルを低下させ、高脂血症のリスクを減少させることが知られている
(Robinsら、2001、Rubins & Robins 1992、Rubinsら、1999)。しかしながら、本発明者ら
およびその他に由来するいくつかの最近の研究により、その脂質低下効果とは別に、gem
は炎症、ヘルパーT細胞のスイッチング、細胞間接触、遊走、酸化的ストレス、およびリ
ソソーム生合成を担う多くの他のシグナル伝達経路を調節することもできることが示され
ている(Ghosh & Pahan 2012a、Corbettら、2012、Ghoshら、2012、Janaら、2007、Jana &
Pahan 2012、Dasguptaら、2007、Pahanら、2002、Roy & Pahan 2009、Ghoshら、2015)。
【0005】
ここで、本発明者らは、LINCLのマウスモデルにおいてgemの治療効能を調査した。Cln2
(-/-)マウスに関する行動分析および生存研究により、ビヒクル(0.1%メチルセルロース)
処置対照と比較して、gem処置動物における寿命の増加および運動行動の改善が示された
。貯蔵物質の負荷および神経細胞アポトーシスもまた、抗アポトーシス分子である、細胞
死のホスホ-BCL2関連アゴニスト(phospho-BCL2 Associated Agonist Of Cell Death;P-B
AD)のレベルの増加と共に、gem処置動物において部分的に低下することがわかった。さら
に、サイトカインシグナル伝達抑制因子3(suppressor of cytokine signaling 3;SOCS3)
およびインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(Interleukin-1 receptor antagonist;
IL-1Ra)のような抗炎症因子のレベルが、gem処置動物において上昇することがわかった。
まとめると、本研究は、Cln2(-/-)動物におけるgemの神経保護的役割を示す。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、神経変性疾患の治療のための方法が提供される。神経変性疾患は、神経
セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症
(ALS)、多系統萎縮症(MSA)などのパーキンソン・プラス疾患(Parkinson's plus disease)
を含むパーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)またはレビ
ー小体型認知症(DLB)であってよい。バッテン病は、神経セロイドリポフスチン沈着症(NC
L)と呼ばれる障害群の最も一般的な形態である。NCLは、小児性NCL(INCL、Santavuori-Ha
ltia病)、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症(LINCL)、若年性NCL(JNCL)、ま
たは成人性NCL(ANCL)であってよい。神経変性疾患は、リソソーム蓄積障害によって引き
起こされ得る。リソソーム蓄積障害は、例えば、テイサックス病、ファブリ病、ナイマン
・ピック病、ゴーシェ病、ハンター症候群、アルファ-マンノシドーシス、アスパルチル
グルコサミン尿症、コレステリルエステル蓄積症、慢性ヘキソサミニダーゼA欠損症、シ
スチン蓄積症、ダノン病、ファーバー病、フコシドーシス、またはガラクトシアリドーシ
スであってよい。
【0007】
前記方法は、そのような治療を必要とする対象に、治療有効量のフィブラートを含む薬
剤を含む組成物を投与することを含んでもよい。フィブラートは、ゲムフィブロジル、フ
ェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラートまたはク
リノフィブラートであってもよい。
【0008】
また、本明細書では、神経変性疾患を有する対象における神経細胞アポトーシス細胞死
を減少させる方法も提供される。この方法は、対象に、治療有効量の、神経細胞アポトー
シス細胞死を減少させる薬剤であって、フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与
することを含む。
【0009】
さらに、本明細書では、神経変性疾患を有する対象の寿命を延長する方法が提供される
。この方法は、対象に、治療有効量の、神経変性疾患を有する対象の寿命を延長する薬剤
であって、フィブラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与することを含む。
【0010】
また、本明細書では、神経変性疾患を有する対象における運動行動を改善する方法も提
供される。この方法は、対象に、治療有効量の、運動行動を改善する薬剤であって、フィ
ブラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与することを含む。
【0011】
また、本明細書では、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症を有する対象の脳
における抗炎症因子のレベルを増加させる方法が提供される。この方法は、対象に、治療
有効量の、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症を有する対象の脳における抗炎
症因子のレベルを、薬剤を受けていない対象と比較して増加させる薬剤であって、フィブ
ラートを含む前記薬剤を含む組成物を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】ゲムフィブロジル(gem)がCln2
(-/-)マウスの寿命を延長することを示す図である。Cln2
(-/-)動物を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。全ての群について、処置を4週齢から開始した。1群の動物は、ビヒクルとしてMeCのみを受けた。
図1A)生存率を、Kaplan-Meierプロットによって示す。
図1B)平均生存日数を、3つ全ての群について示す。20匹のオスおよび20匹のメスを含有する40匹のマウス(n=40)を、各群において用いた。
【
図2】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスにおける運動活性の喪失を遅延させることを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、マウスを、水平活動(2A)、移動時間(2B)、移動回数(2C)、総移動距離(2D)、常同行動計数(2E)、および休止時間(2F)についてモニタリングした。ビヒクルのみを受けるCln2
(-/-)マウスおよびバックグラウンドを一致させた野生型(WT)マウスも、比較のために行った。結果を、1群あたり12匹のマウス(n=12)の平均±SEMで表す。オスおよびメスのマウスを各群において等しい比で保持した。
【
図3】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質においてin vivoで貯蔵物質を減少させることを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、貯蔵色素を、サブユニットCの免疫蛍光分析によって皮質切片において観察した(3A)。DAPIを用いて、核を可視化した。(3B)サブユニットC陽性免疫蛍光を、方法のセクションに記載されるNIH Image Jソフトウェアを用いて、1群あたり6匹の異なるマウス(n=6)のそれぞれの2つの異なる切片(切片あたり2つの画像)において定量した。
ap<0.001対WT-対照;
bp<0.05対Cln2
(-/-)。
【
図4】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質においてin vivoでアポトーシスを減弱させることを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、皮質切片(CA1海馬領域のすぐ背面)を、NeuNおよびTUNELについて二重標識した(4A)。NeuN
+TUNEL
+細胞を、1群あたり6匹の異なるマウス(n=6)のそれぞれの2つの異なる皮質切片において計数した(4B)。(4C)皮質ホモジェネートを、ホスホ-BADについてイムノブロットした。アクチンをローディング対照として用いた。(4D)バンドをスキャンし、値(P-BAD/アクチン)を、WT対照と比較して提示する。結果は、1群あたり4匹のマウスの平均±SEMである。
【
図5】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの線条体においてin vivoでアポトーシスを阻害することを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、線条体切片を、NeuNおよびTUNELについて二重標識した(5A)。NeuN
+TUNEL
+細胞を、MicroSuite画像化ソフトウェアを用いるOlympus IX81蛍光顕微鏡において、1群あたり6匹の異なるマウス(n=6)のそれぞれの2つの異なる切片において計数した(5B)。(5C)線条体ホモジェネートを、ホスホ-BADについてイムノブロットした。アクチンをローディング対照として用いた。(5D)バンドをスキャンし、値(P-BAD/アクチン)を、WT対照と比較して提示する。結果は、1群あたり4匹のマウスの平均±SEMである。
【
図6】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスのCNSにおいてin vivoで抗炎症分子の発現を上方調節することを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、SOCS3およびIL-1Raの発現を、ウェスタンブロットによって運動皮質(6A~6C)および線条体(6D~6F)抽出物中でモニタリングした。アクチンをローディング対照として用いた。バンドをスキャンし、値(SOCS3/アクチン、6Bおよび6E;IL-1Ra/アクチン、6Cおよび6F)を、皮質(6Bおよび6C)および線条体(6Eおよび6F)についてWT対照と比較して提示する。結果は、1群あたり4匹のマウスの平均±SEMである。
【
図7】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの線条体においてin vivoでSOCS3を上方調節することを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、線条体切片を、GFAP & SOCS3 (7A)およびIba1 & SOCS3 (7B)について二重標識した。総SOCS3
+(7C)、GFAP
+SOCS3
+(7D)およびIba1
+SOCS3
+(7E)細胞を、MicroSuite画像化ソフトウェアを用いるOlympus IX81蛍光顕微鏡において、1群あたり6匹の異なるマウス(n=6)の2つの異なる切片において計数した。結果は、1群あたり6匹のマウスの平均±SEMである。
【
図8】gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの線条体においてin vivoでIL-1Raを上方調節することを示す図である:Cln2
(-/-)動物(4週齢)を、7.5mg/kg体重/日の用量で経口的にgem(0.1%MeC中に溶解)で処置した。処置の8週後、線条体切片を、GFAP & IL-1Ra(8A)およびIba1 & IL-1Ra(8B)について二重標識した。総IL-1Ra
+(8C)、GFAP
+IL-1Ra
+(8D)およびIba1
+IL-1Ra
+(8E)細胞を、MicroSuite画像化ソフトウェアを用いるOlympus IX81蛍光顕微鏡において、1群あたり6匹の異なるマウスの2つの異なる切片において計数した。結果は、1群あたり6匹のマウスの平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に開示される実施形態は、包括的であることを意図するものでも、開示の範囲を、
以下の説明における正確な形態に限定することを意図するものでもない。むしろ、実施形
態は、他の当業者がその教示を用いることができるような例として選択および記載される
。
【0014】
本開示は、神経セロイドリポフスチン沈着症(NCL)、特に、遅発型小児性神経セロイド
リポフスチン沈着症(LINCL)を含む、神経変性障害の治療のための方法に関する。
【0015】
薬剤は、フィブラートなどの脂質低下薬であってもよい。フィブラートの非限定例とし
ては、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフィブラート、
シプロフィブラートおよびクリノフィブラートが挙げられる。
【0016】
定義
別途定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、当業者
によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含む本明細
書が制御するものとする。好ましい方法および材料を以下に記載するが、本明細書に記載
のものと類似するか、または等価な方法および材料を、本発明の実施または試験において
用いることができる。本明細書に記載の全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文
献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書に開示される材料、方法、および実
施例は、例示に過ぎず、限定を意図するものではない。
【0017】
本明細書で用いられる用語「含む(comprise(s))」、「含む(include(s)」、「有する(h
aving)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contain(s))」およびその変
形は、追加の動作または構造の可能性を除外しない、制約のない暫定的な語句、用語、ま
たは単語であることが意図される。単数形の「a」、「および(and)」および「the」は、
本文が別途明確に記述しない限り、複数の指示対象を含む。本開示はまた、明示的に記載
されるかどうかに関係なく、本明細書に提示される実施形態または要素「を含む(compris
ing)」、「からなる(consisting of)」および「本質的にからなる(consisting essential
ly of)」他の実施形態も企図する。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「治療すること」、「治療する」または「治療」は、障害
もしくは疾患と関連する症状の軽減、またはこれらの症状のさらなる進行もしくは悪化の
停止、または疾患もしくは障害の防止もしくは予防を意味する。例えば、本開示の文脈の
中で、治療の成功は、神経変性疾患の防止、神経変性疾患と関連する症状の軽減または神
経変性疾患などの疾患の進行の停止を含んでもよい。本明細書で用いられる場合、それと
比較した治療を測定するための対照は、治療剤を受けていない対象である。
【0019】
本明細書における数値範囲の記載について、同じ正確度でその間にあるそれぞれの介在
する数字が明示的に企図される。例えば、6~9の範囲については、6および9に加えて、数
字の7および8が企図され、6.0~7.0の範囲については、数字の6.0、6.1、6.2、6.3、6.4
、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0が明示的に企図される。
【0020】
神経変性疾患を治療する方法
本明細書では、神経変性疾患を治療する方法が提供される。神経変性疾患は、神経セロ
イドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS
)、多系統萎縮症(MSA)などのパーキンソン・プラス疾患を含むパーキンソン病、進行性核
上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)またはレビー小体型認知症(DLB)であってよ
い。バッテン病は、神経セロイドリポフスチン沈着症(NCL)と呼ばれる障害群の最も一般
的な形態である。神経セロイドリポフスチン沈着症(NCL)は、小児性NCL(INCL)、遅発型小
児性神経セロイドリポフスチン沈着症(LINCL)、若年性NCL(JNCL)、または成人性NCL(ANCL
)であってよい。神経変性疾患は、リソソーム蓄積障害によって引き起こされ得る。リソ
ソーム蓄積障害は、例えば、テイサックス病、ファブリ病、ナイマン・ピック病、ゴーシ
ェ病、ハンター症候群、アルファ-マンノシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、
コレステリルエステル蓄積症、慢性ヘキソサミニダーゼA欠損症、シスチン蓄積症、ダノ
ン病、ファーバー病、フコシドーシス、またはガラクトシアリドーシスであってよい。
【0021】
NCLは、典型的な常染色体劣性リソソーム蓄積障害を含む神経変性疾患群である。NCLは
、進行性知能低下、認知機能障害、視覚異常、発作、および運動機能低下などの臨床症状
を含んでもよい。NCLは、神経細胞および/または他の型の細胞における自己蛍光貯蔵物質
の蓄積と関連し得る。NCLを、1型~10型を含むいくつかの型に分けることができ、その型
は、開始年齢、蓄積した貯蔵物質の超微細構造変化、および遺伝子変化に基づくものであ
り得る。現在、NCL、特に、LINCLの治療のために利用可能な治療は1つしかない。それど
ころか、現在の治療は、疾患症状を単に支援するものに過ぎない。
【0022】
多くの型のNCLは、Cln遺伝子中の突然変異と関連し得る。例えば、遅発型小児性神経セ
ロイドリポフスチン沈着症(LINCL)は、Cln2遺伝子中の突然変異と関連し得るが、小児性N
CL(INCL)および若年性(JNCL)は、それぞれ、Cln1およびCln3遺伝子中の突然変異と関連し
得る。
【0023】
薬剤
薬剤は、フィブラートなどの脂質低下薬であってもよい。フィブラートの非限定例とし
ては、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフィブラート、
シプロフィブラートおよびクリノフィブラートが挙げられる。ゲムフィブロジル(5-(2,5-
ジメチルフェノキシ)-2,2-ジメチルペンタン酸)は、Pfizerによる商標Lopid(登録商標)の
下で商業的に入手可能である。フェノフィブラート(2-(4-(4-クロロベンゾイル)フェノキ
シ)-2-メチル-プロパン酸1-メチルエチルエステル)は、AbbvieによるTricor(登録商標)と
して商業的に入手可能である。さらなるフィブラートとしては、クロフィブラート(2-(4-
クロロフェノキシ)-2-メチル-プロパン酸エチルエステル)、ベザフィブラート(2-(4-(2-
クロロ-ベンゾイルアミノ)-エチル)フェノキシ)-2-メチル-プロパン酸)、シプロフィブラ
ート(2-(4-(2,2-ジクロロシクロプロピル)フェノキシ)-2-メチルプロパン酸)およびクリ
ノフィブラート(2-[4-[1-[4-(2-カルボキシブタン-2-イルオキシ)フェニル]シクロヘキシ
ル]フェノキシ]-2-メチルブタン酸)が挙げられる。
【0024】
医薬組成物
薬剤を、対象(ヒトまたは非ヒトであってもよい、患者など)への投与にとって好適な医
薬組成物中に組み込むことができる。
【0025】
医薬組成物は、「治療有効量」または「予防有効量」の薬剤を含んでもよい。「治療有
効量」とは、所望の治療結果を達成するのに必要な用量および期間で有効な量を指す。当
業者であれば、組成物の治療有効量を決定することができ、それは疾患状態、個体の年齢
、性別、および体重、ならびに個体における所望の応答を惹起する組成物の能力などの因
子に応じて変化してもよい。治療有効量はまた、治療的に有益な効果が薬剤の任意の毒性
または有害効果を上回るものである。「予防有効量」とは、所望の予防結果を達成するの
に必要な用量および期間で有効な量を指す。典型的には、予防用量は疾患の前に、または
疾患の初期段階で使用されるため、予防有効量は、治療有効量よりも低いであろう。
【0026】
例えば、ゲムフィブロジルの治療有効量は、約5 mg~約2000 mg、約10 mg~約1900 mg
、約15 mg~約1800 mg、約20 mg~約1700 mg、約25 mg~約1600 mg、約30 mg~約1500 mg
、約35 mg~約1400mg、約40 mg~約1300 mg、約45 mg~約1200 mg、約50 mg~約1100 mg
、約55 mg~約1000 mg、約60 mg~約900 mg、約65 mg~約800 mg、約70 mg~約700 mg、
約75 mg~約600 mg、約80 mg~約500 mg、約85 mg~約400 mg、約90 mg~約300 mg、約95
mg~約200 mg、または約100 mg~約175 mgであってもよい。別の例においては、ゲムフ
ィブロジルの治療有効量は、約600 mgまたは約1200 mgであってもよい。
【0027】
例えば、フェノフィブラートの治療有効量は、約5 mg~約2000 mg、約10 mg~約1900 m
g、約15 mg~約1800 mg、約20 mg~約1700 mg、約25 mg~約1600 mg、約30 mg~約1500 m
g、約35 mg~約1400mg、約40 mg~約1300 mg、約45 mg~約1200 mg、約50 mg~約1100 mg
、約55 mg~約1000 mg、約60 mg~約900 mg、約65 mg~約800 mg、約70 mg~約700 mg、
約75 mg~約600 mg、約80 mg~約500 mg、約85 mg~約400 mg、約90 mg~約300 mg、約95
mg~約200 mg、または約100 mg~約175 mgであってもよい。別の例においては、フェノ
フィブラートの治療有効量は、約40 mg、約48 mg、約54 mg、約67 mg、約100mg、約120 m
g、約134 mg、約145 mg、約160 mg、または約200 mgであってもよい。
【0028】
例えば、クロフィブラートの治療有効量は、約5 mg~約2000 mg、約10 mg~約1900 mg
、約15 mg~約1800 mg、約20 mg~約1700 mg、約25 mg~約1600 mg、約30 mg~約1500 mg
、約35 mg~約1400mg、約40 mg~約1300 mg、約45 mg~約1200 mg、約50 mg~約1100 mg
、約55 mg~約1000 mg、約60 mg~約900 mg、約65 mg~約800 mg、約70 mg~約700 mg、
約75 mg~約600 mg、約80 mg~約500 mg、約85 mg~約400 mg、約90 mg~約300 mg、約95
mg~約200 mg、または約100 mg~約175 mgであってもよい。別の例においては、クロフ
ィブラートの治療有効量は、約500 mgであってもよい。
【0029】
医薬組成物は、製薬上許容し得る担体を含んでもよい。本明細書で用いられる用語「製
薬上許容し得る担体」とは、非毒性の、不活性な固体、半固体または液体充填剤、希釈剤
、封入材料または任意の型の製剤化補助剤を意味する。製薬上許容し得る担体として働く
ことができる材料のいくつかの例は、限定されるものではないが、ラクトース、グルコー
スおよびスクロースなどの糖;限定されるものではないが、コーンスターチおよびジャガ
イモスターチなどのスターチ;セルロースおよび限定されるものではないが、カルボキシ
メチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのその誘導体
;粉末化トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;限定されるものではないが、ココア
バターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤;限定されるものではないが、ピーナッツ油、綿
実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油などの油;プロピレン
グリコールなどのグリコール;限定されるものではないが、オレイン酸エチルおよびラウ
リン酸エチルなどのエステル;限定されるものではないが、水酸化マグネシウムおよび水
酸化アルミニウムなどの緩衝剤;発熱原を含まない水;等張性食塩水;リンゲル液;エチ
ルアルコール、およびリン酸緩衝溶液、ならびに限定されるものではないが、ラウリル硫
酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性の適合性潤滑剤であり、
ならびに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香味剤および香料、保存剤および酸
化防止剤も、処方者の判断によって、組成物中に存在してもよい。
【0030】
投与方法
遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症などの神経疾患を治療する方法は、薬剤
または薬剤の医薬組成物を投与する任意数の様式を含んでもよい。投与様式は、錠剤、ピ
ル、糖衣錠、硬質および軟質ゲルカプセル、顆粒、ペレット、水性、液体、油性または他
の溶液、水中油エマルジョンなどのエマルジョン、リポソーム、水性または油性懸濁液、
シロップ、エリキシル剤、固体エマルジョン、固体分散剤または分散性粉末を含んでもよ
い。経口投与のための医薬組成物の調製のために、薬剤を、例えば、アラビアゴム、タル
カム、スターチ、糖(例えば、マンニトース、メチルセルロース、ラクトースなど)、ゼラ
チン、界面活性剤、ステアリン酸マグネシウム、水性もしくは非水性溶媒、パラフィン誘
導体、架橋剤、分散剤、乳化剤、潤滑剤、保存剤、香料(例えば、エーテル油)、溶解促進
剤(例えば、安息香酸ベンジルもしくはベンジルアルコール)または生体利用率増強剤(例
えば、Gelucire.TM.)などの一般に公知であり、使用されるアジュバントおよび賦形剤と
混合することができる。医薬組成物中では、薬剤を、微粒子、例えば、ナノ粒子状組成物
中に分散させることもできる。
【0031】
非経口投与のために、薬剤または薬剤の医薬組成物を、例えば、水、バッファー、可溶
化剤を含む、もしくは含まない油、界面活性剤、分散剤または乳化剤などの生理的に許容
される希釈剤中に溶解または懸濁することができる。油として、例えば、限定されるもの
ではないが、オリーブ油、ピーナッツ油、綿実油、大豆油、ヒマシ油およびゴマ油を用い
ることができる。より一般的に言えば、経口投与のために、薬剤または薬剤の医薬組成物
は、水性、液体、油性もしくは他の種類の溶液もしくは懸濁液の形態にあってもよく、ま
たはさらには、リポソームもしくはナノ懸濁液の形態で投与することができる。
【0032】
本明細書で用いられる用語「経口」とは、経口、経腸、経頬、唇下、舌下の胃および直
腸投与を含む投与様式を指す。
【0033】
本明細書で用いられる用語「非経口的」とは、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下
および関節内注入および輸注を含む投与様式を指す。
【0034】
本開示は、以下の非限定的な実施例によって例示される、複数の態様を有する。
【実施例0035】
〔実施例1〕
材料および方法:
試薬および抗体:凍結脳切片上でのTUNELアッセイのための試薬を、EMD Millipore (Bi
llerica、MA)から購入し、製造業者のプロトコールに従って実験を行った。免疫ブロット
(IB)のためのブロッキングバッファーおよび二次抗体(IRDye 700またはIRDye 800標識)を
、Licor (Lincoln、NE)から購入した。免疫組織化学(IHC)のための二次抗体(FITCまたは
Cy5標識)を、Jackson ImmunoResearch (West Grove、PA)から購入した。本研究において
用いた一次抗体の供給源をその適用および希釈率と共に表1に列挙する。
【0036】
動物:動物の維持および実験は、National Institute of Healthの指針に従い、Rush U
niversity of Medical Center、Chicago、ILのInstitutional Animal Care and Use委員
会(IACUC)によって認可された。軽度の発作および震えを示す動物に、動物給餌針を介し
て給餌および給水した。しかしながら、マウスが瀕死状態になった場合、ケタミン/キシ
ラジン注射を用いる麻酔後に、頭部を切断した。瀕死の状態は以下の通りであった:中枢
神経系の撹乱(頭部傾斜、発作、震え、回転行動、痙性、および麻痺);直立状態を維持で
きないこと;筋萎縮の証拠;慢性の下痢または便秘;粗毛および腹部の膨張;疾患により
引き起こされた脱毛領域の拡大;咳、水泡音、喘鳴および鼻汁;明確な横断および/また
は蒼白(貧血);顕著に変色した尿、多尿または無尿;任意の開口部からの明らかな出血;
持続的な自己誘導性外傷。Cln2(+/-)動物は、Dr. Peter Lobel (Center for Advanced Bi
otechnology and Medicine, Robert Wood Johnson Medical School, Piscataway, New Je
rsey, USA)によって親切に提供された。これらの動物は近交系であり、その後の世代をRT
PCRによってスクリーニングして、Cln2(+/+)、Cln2(+/-)およびCln2(-/-)株をさらに得た
。これらのCln2(-/-)動物は、検出不可能なTPP1活性を有し、運動行動の低下、寿命の減
少、CNSにおける神経病理の増加、およびグリア活性化の促進などのヒト疾患の類似の特
徴を模倣する(Sleatら、2004)。
【0037】
ゲムフィブロジル(gem)を用いたCln2(-/-)マウスの処置:同じバックグラウンドに由来
する年齢および性別を一致させたCln2(+/+)マウスを野生型(WT)対照として使用し、Cln2(
-/-)動物を異なる処置群において使用した。gem(7.5 mg/kg体重/日)を、DMSOに溶解した
後、0.1%メチルセルロース(MeC)中に希釈した。生化学試験のために、Cln2(-/-)マウスを
、8週間、給餌しなかった(未処置群)、0.1%MeCを強制給餌した(ビヒクル処置群)、または
gem(gem処置群)を強制給餌した。生存試験のために、動物が上記のような瀕死であると考
えられない限り、同様の処置レジメンを行った。ここで、1群あたり40匹のマウス(20匹の
オスおよび20匹のメス)を使用し、動物(4週齢)を任意の群について無作為に選択した。
【0038】
自発運動:自発運動を、本発明者らによって記載されたDigiscan Monitor (Omnitech E
lectronics, Inc., Columbus, OH)を用いて、gem処置の8週後に、Cln2(-/-)マウスにおい
て測定した(Khasnavis & Pahan 2014, Ghosh et al. 2007, Ghosh et al. 2009)。このDi
giscan Monitorは、水平活動、総移動距離、移動時間、休止時間などの基本的な運動パラ
メータ、ならびに線条体によって直接制御される常同行動を記録する。簡単に述べると、
マウスをそのケージから直接的に取り出し、オープンフィールド装置の特定の角に鼻を最
初に優しく置き、放した後、5分間隔でデータ獲得を開始した。DIGISCANソフトウェアを
用いて、赤外線ビームにより自動的にモニタリングした、水平および垂直活動データを分
析および保存した。ここで、1群あたり12匹の動物を用いた。オープンフィールド試験の
後、これらのマウスのうちの6匹(n=6)を、免疫組織化学分析のためにかん流し、4匹のマ
ウス(n=4)をウェスタンブロット分析のために用いた。
【0039】
免疫組織化学および細胞計数:処置の8週間後、マウスを犠牲にし、その脳を固定、包
埋し、プロセッシングした。Leica Cryostatを用いて異なる脳領域(運動皮質および線条
体)から切片(30μm)を作製し、新鮮な凍結切片上での免疫蛍光染色を、記載のように実施
した(Corbettら、2015、Royら、2015、Royら、2016)。簡単に述べると、ブロッキングバ
ッファー(PBS中の2%BSA)を添加する前に、自己蛍光を減少させるために100mMグリシン中
で20分間、切片をインキュベートした。抗体濃度に関する詳細については、表1を参照さ
れたい。試料をマウントし、Olympus IX41蛍光顕微鏡下で観察した。タッチカウンティン
グモジュールを援用した画像化アプリケーションのためにOlympus Microsuite Vソフトウ
ェアを用いて、計数分析を実施した(Corbettら、2015、Royら、2015)。20倍の対物レンズ
下で画像を獲得した後、画像を以下のようにさらに分析した。細胞を計数する前に、画像
面積全体を、タッチカウンティングパネルで利用可能な長方形のボックスを援用して較正
した。一度、画像の面積を測定したら、タッチカウンティングプログラムを適用して、シ
ンプルマウスクリック法を用いて蛍光シグナルの数を計測した。次に、所与の面積中のシ
グナルの総数を、画像の総面積で除算し、平方ミリメートル単位あたりの細胞数として提
示した。
【0040】
貯蔵物質の検出:免疫蛍光によりミトコンドリアATPシンターゼ(SCMAS)のサブユニット
cをモニタリングすることによって、それを実施した。抗体希釈率に関する詳細について
は、表1を参照されたい。DAPIを用いて、核をモニタリングした。SCMAS関連蛍光強度を、
Olympus Microsuite Vソフトウェアを用いることによって定量した。簡単に述べると、捕
捉された画像を、無限画像ビューワー中で開き、顆粒の周囲で輪郭を描き、蛍光強度を取
得した。
【0041】
イムノブロット分析:処置の8週間後、マウスを犠牲にし、皮質および線条体領域を単
離し、RIPAバッファー(150 mM塩化ナトリウム、1.0%NP-40またはTriton X-100、0.5%デオ
キシコール酸ナトリウム、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、50 mM Tris、pH8.0)中で
ホモジェネートし、上清を取得し、タンパク質をBioRadタンパク質アッセイによって見積
もった。組織抽出物に由来する等量のタンパク質を、12%または15%Bis-Trisゲル中で分離
し、タンパク質を、Thermo-Pierce Fast Semi-Dry Blotter (Corbettら、2015、Royら、2
015、Royら、2016)を用いてニトロセルロース膜(Bio-Rad)上に転移させた。次いで、TBS
+ Tween 20 (TBST)中で15分間、膜を洗浄し、BSAを含有するTBST中で1時間、ブロックし
た。次に、膜を、以下のタンパク質:β-アクチン、IL-1Ra、ホスホ-Bad、およびSOCS3の
ための抗体を用いる振とう条件下、4℃で一晩インキュベートした。抗体希釈率に関する
詳細については表1を参照されたい。次の日、膜をTBST中で1時間洗浄し、一次抗体宿主に
対する二次抗体(全て1:10,000; Jackson ImmunoResearch)中で1時間インキュベートし、
さらに1時間洗浄し、Odyssey(登録商標)Infrared Imaging System (Li-COR, Lincoln, NE
)の下で可視化した。
【0042】
統計分析:全ての値を、平均±SEMとして表す。一元配置分散分析、次いで、Tukeyまた
はScheffeのポストホック検定、Studentのt検定およびKaplan-Meier生存推定(χ2)を、SP
SS19を用いて、データ分析のために用いた。
【0043】
〔実施例2〕
gem処置はCln2
(-/-)マウスにおける寿命を延長させる
Cln2
(-/-)マウスは、LINCLに対する新しい治療手法を試験するための重要な動物モデル
として役立つ(Cabrera-Salazarら、2007、Sleatら、2008、Changら、2008、Sleatら、200
4)。通常、LINCLは急速に進行し、8~10歳の間に死に至る(Soharら、1999、Sleatら、199
7)。同様に、Cln2
(-/-)マウスもまた、140日以内に死亡する(Sleatら、2004)。したがっ
て、第1に、本発明者らは、経口gem処置がCln2
(-/-)マウスの寿命を増加させることがで
きるかどうかを検査した。以前に、本発明者らは、経口投与後、gemがCNSに進入すること
を証明した(Dasguptaら、2007)。マウスを、4週齢から強制摂取によりgem(7.5 mg/kg体重
/日)で毎日処置した。gemを0.1%メチルセルロース中に溶解したため、1群のCln2
(-/-)マ
ウスにも、ビヒクルとして0.1%のメチルセルロースを投与した。未処置のCln2
(-/-)オス
およびメスマウスは、95日目から死に始め、137日以内に、全てのCln2
(-/-)マウスが死亡
した(
図1A)。生存に関しては、本発明者らは、オスとメスのCln2
(-/-)マウスの間でいか
なる差異も見出さなかった。しかしながら、gem処置したCln2
(-/-)マウスは、204日目ま
で生存し、これは、gemが2ヶ月を超えてCln2
(-/-)マウスの寿命を増加させることができ
ることを示唆している(
図1A)。他方、全てのビヒクル処置マウスが、150日以内に死亡し
た(
図1A)が、これは、ビヒクルのみによる非常に軽度の保護を示唆している。これらの結
果はまた、各マウス群の平均生存日数によっても支持される(
図1B)。
【0044】
〔実施例3〕
gem処置はCln2
(-/-)マウスにおける運動行動を改善する
寿命の増加と共に、LINCL患者のための神経保護の別の治療目標は、機能障害を減少さ
せることである。したがって、gemがCln2
(-/-)マウスにおける寿命を増加させるだけでな
く、運動行動も改善するかどうかを検査するために、本発明者らは、自発運動をモニタリ
ングした。自発運動を、gem処置後8週間モニタリングした。Cln2
(-/-)マウスは、WTマウ
スと比較して水平活動(
図2A)、移動時間(
図2B)、移動回数(
図2C)、総移動距離(
図2D)、お
よび常同行動数(
図2E)の顕著な減少を示した。他方、休止時間は、WTマウスよりもCln2
(-
/-)マウスにおいてより多かった(
図2F)。しかしながら、gemの経口投与は、Cln2
(-/-)マ
ウスにおける自発運動を有意に改善した(
図2A~F)。
【0045】
〔実施例4〕
gem処置はCln2
(-/-)マウスの脳における貯蔵物質量を低下させる
LINCLを含むリソソーム蓄積障害の一般的な特徴の1つは、脳を含む全ての組織における
自己蛍光封入体の蓄積である(Boustany 2013、Hachiyaら、2006)。最近、本発明者らは、
ゲムフィブロジルがTFEBのPPARα媒介性転写上方調節を介してリソソーム生合成を刺激す
ることができることを詳述した(Ghoshら、2015)。gem処置はCln2
(-/-)マウスの寿命を延
長し、運動行動を改善するため、本発明者らは、gem処置が運動皮質中、in vivoで貯蔵物
質量を減少させることができるかどうかを検査した。予想通り、本発明者らは、WTマウス
と比較して、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質においてミトコンドリアATPシンターゼ(SCMAS)
蓄積のサブユニットcの顕著な増加を観察した(
図3A~B)。しかしながら、Cln2
(-/-)マウ
スのgem処置は、SCMASの有意な減少をもたらした(
図3A~B)。ビヒクル処置は貯蔵物質の
そのような減少をもたらさなかったため、これらの結果は特異的であった(
図3A~B)。
【0046】
〔実施例5〕
gem処置はCln2
(-/-)マウスの脳における神経細胞アポトーシスを防止する
他の神経変性障害において見られるように(Cotman & Anderson 1995、Saha & Pahan 20
06)、アポトーシスはまた、LINCLにおける神経変性も担っている(Dharら、2002、Puranam
ら、1997、Laneら、1996)。したがって、本発明者らは、gem処置がCln2
(-/-)マウスのCNS
において神経細胞アポトーシスを抑制することができるかどうかを検査した。NeuN陽性ニ
ューロンがCln2
(-/-)マウスの運動皮質においてアポトーシスを受けたことが
図4A~Bから
明らかである。
【0047】
しかしながら、gemの経口処置は、運動皮質においてin vivoで神経細胞アポトーシスを
強く阻害した(
図4A~B)。ビヒクル(0.1%メチルセルロース)処置は神経細胞アポトーシス
を抑制しなかったため、これらの結果は特異的である(
図4A~B)。BADはアポトーシス分子
であるが、BADのリン酸化は、細胞生存を支援することが公知である(Dattaら、1999、Dat
taら、2002)。したがって、本発明者らは、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質におけるホスホ-B
AD(P-BAD)のレベルを検査した。アポトーシスの増加と一致して、P-BADのレベルは、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質において減少した(
図4C~D)。しかしながら、ビヒクルではなく、
gemによるCln2
(-/-)マウスの処置は、P-BADの上方調節をもたらした(
図4C~D)。gemの効
果が運動皮質に限られるのか、または脳の他の部分もgem処置によって利益を受けるのか
を理解するために、本発明者らは、線条体におけるアポトーシスをモニタリングした。運
動皮質と同様、本発明者らはまた、Cln2
(-/-)マウスの線条体においてアポトーシスの増
加(
図5A~B)およびP-BADの減少(
図5C~D)を観察した。しかしながら、gem処置は、線条体
においてin vivoで神経細胞アポトーシスを減少させ(
図5A~B)、P-BADのレベルを増加さ
せた(
図5C~D)が、これは、経口gem処置がCln2
(-/-)マウスの脳の異なる部分においてア
ポトーシスを抑制することができることを示唆している。
【0048】
〔実施例6〕
gemはCln2
(-/-)マウスの脳における抗炎症因子のレベルを増加させる
本発明者らは、gemが抗炎症性であり(Jana & Pahan 2012、Janaら、2007、Pahanら、20
02)、gemが様々な脳細胞において、抗炎症因子であるSOCS3およびIL-1Raのレベルを増加
させる(Corbettら、2012、Ghosh & Pahan 2012b)ことを証明した。したがって、ここで、
本発明者らは、gem処置が、Cln2
(-/-)マウスの脳においてin vivoでこれらの抗炎症分子
を上方調節することができるかどうかを精査した。12週齢で、本発明者らは、週齢を一致
させたWTマウスと比較して、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質(
図6A~C)および線条体(
図6D~F
)においてSOCS3およびIL-1Raの減少を観察した。しかしながら、ビヒクルではなく、gem
による経口処置の8週後に、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質と線条体との両方において、SOCS
3(
図6A、B、DおよびE)およびIL-1Ra(
図6A、D、CおよびF)の増加が見られた。これらの知
見をさらに確認するために、次に、本発明者らは、線条体切片において二重標識免疫蛍光
を実施した。本発明者らは、WTマウスと比較してCln2
(-/-)マウスの線条体切片において
より多くのアストログリア(
図7A)およびミクログリア(
図7B)を観察したが、後者と比較
して前者において、SOCS3の喪失があった(
図7A~C)。しかしながら、ウェスタンブロット
の結果と同様、gem処置の後にCln2
(-/-)マウスの線条体においてSOCS3の顕著な増加が見
られた(
図7A~C)。SOCS3のこの増加は、アストロサイト(
図7AおよびD)、ミクログリア(図
7BおよびE)ならびに他の脳細胞(
図7)において可視的であった。SOCS3と同様、本発明者ら
は、WTマウスと比較してCln2
(-/-)マウスの線条体におけるIL-1Raの喪失にも気付いた(図
8A~E)。しかしながら、ビヒクルではなく、gemによるCln2
(-/-)マウスの処置は、線条体
におけるIL-1Raの回復および/または上方調節をもたらした(
図8A~E)。また、Cln2
(-/-)
マウスの線条体におけるin vivoでのIL-1Raのgemにより誘導される増加は、アストロサイ
ト(
図8AおよびD)とミクログリア(
図8BおよびE)との両方において見られた。興味深いこと
に、Cln2
(-/-)マウスの運動皮質と線条体との両方において、本発明者らは、gem処置後に
アストログリアまたはミクログリアのいかなる減少も観察しなかった(
図7および8)が、こ
れは、一度、アストログリア生成またはミクログリア生成がCln2
(-/-)マウスにおいて見
られたような慢性神経変性状態の脳においてin vivoで生じたら、ゲムフィブロジル処置
は、その数を減少させることなく、抗炎症モードに向かってその機能をモジュレートし得
るに過ぎないことを示唆している。
【0049】
実施例2~6の考察
Cln2の突然変異は、TPP1酵素の機能の欠損および/または喪失をもたらし、最終的には
、LINCLを引き起こす(Bellettato & Scarpa 2010、Walusら、2010、Soharら、1999)。酵
素補充療法および遺伝子療法の臨床試験が進行中であるが、確立された薬物媒介療法は、
LINCLについては現在のところ利用可能ではない。したがって、LINCL患者の疾患進行を遅
延させる、運動機能を改善する、およびその生存を増加させるための神経保護的治療手法
の開発は、最重要である。Cln2(-/-)マウスは、LINCLのための新しい治療戦略の決定およ
び新規薬物の効能の試験において有用である。ここで、本発明者らは、ヒトにおける高脂
血症のためのFDAに認可された薬物であるゲムフィブロジル(gem)が、Cln2(-/-)マウスの
運動機能を改善し、その寿命を延長することを初めて証明する。最近、本発明者らは、ゲ
ムフィブロジルが、培養されたマウスおよびヒトの脳細胞ならびにマウスの脳においてin
vivoで、PPARα/RXRα経路を介して、TPP1を上方調節することができることを詳述した(
Ghoshら、2012)。しかしながら、Cln2(-/-)マウスにはTPP1は存在しない。したがって、
この場合、gemは、Cln2(-/-)マウスにおいて疾患進行を遅延させるために、TPP1に依存し
ない機構を用いている。
【0050】
LINCLを含むLSDの発症機序における自己蛍光貯蔵物質の重要性は公知ではないが、これ
らの封入体は、LSDの特質の1つである(Boustany 2013)。最近、本発明者らは、gemがTFEB
のPPARα媒介性転写活性化を介してリソソーム生合成を刺激することができることも証明
した(Ghoshら、2015)が、これは、gem処置による貯蔵物質の減少の可能性を示唆している
。したがって、gemは、Cln2(-/-)マウスの運動皮質に由来する貯蔵物質を減少させること
ができた。したがって、TPP1(分解経路における必須酵素)が存在しない場合であっても、
gemは、他のリソソーム酵素のTFEB媒介性活性化を介して自食クリアランスを刺激するこ
とができる。以前に、本発明者らは、LINCLを有する患者の皮膚線維芽細胞において、ゲ
ムフィブロジルとレチノイン酸との組合せが、疾患状態とは無関係にリソソーム生合成を
増加させることを証明した(Ghoshら、2015)。
【0051】
神経細胞アポトーシスは、リソソーム蓄積障害などの公知の神経変性疾患の多くの特質
である(Dharら、2002、Puranamら、1997、Laneら、1996)。gemによるCln2(-/-)マウスのC
NSの様々な部分における神経細胞アポトーシスの強力な阻害は、gemのこの抗アポトーシ
ス特性がこれらのマウスにおけるその寿命延長効能に寄与し得ることを示唆する。BCL-2
ファミリーのメンバーであるBADは、アポトーシスの重要な調節因子である(Dattaら、199
9、Dattaら、2002)。非リン酸化型BADは、生存タンパク質Bcl-xおよびBcl-2とヘテロ二量
体を形成することによって、他の2つのアポトーシス促進タンパク質であるBAKおよびBAX
が凝集し、シトクロムcの放出を誘導することができるようにすることによって、アポト
ーシスを誘導することが知られている(Dattaら、1999、Dattaら、2002)。他方、リン酸化
型BADは、14-3-3に結合することによって細胞質中に隔離され、それによって、細胞生存
を可能にする。ここで、本発明者らは、gem処置は、Cln2(-/-)マウスの運動皮質および線
条体におけるP-BADのレベルを回復する/上方調節することを証明した。BADのリン酸化を
もたらすシグナル伝達機構は、明らかになってきている。ホスファチジルイノシトール-3
キナーゼ(PI3K)は、細胞生存を含む幅広い生物学的応答の調節に関与する重要なシグナル
伝達分子である(Koyasu 2003)。いくつかの研究が、PI3Kの活性化がAktを介してBADのリ
ン酸化をもたらすことを示した(Ellert-Miklaszewskaら、2005、Liら、2001)。興味深い
ことに、gemは、脳細胞においてp85α関連IA型PI3Kの活性化を誘導する(Janaら、2007)。
したがって、gemは、PI3K-(P)BAD経路を介してCln2(-/-)マウスのCNSにおけるアポトーシ
スを抑制することができる。
【0052】
CNSにおけるアポトーシスには多くの原因があるが、神経炎症は重要なものである。し
たがって、活性化されたグリア細胞により媒介される慢性炎症は、LINCLを含むいくつか
の神経変性障害の特質になっている(Shyng & Sands 2014、Cooperら、2015、Macauleyら
、2014)。炎症性サイトカインであるIL-1βは、神経変性疾患の発症に関与している。IL-
1βはその高親和性受容体であるIL-1Rに結合し、炎症性シグナル伝達経路を上方調節する
が、IL-1Rアンタゴニスト(IL-1Ra)は同じ受容体に付着し、炎症性細胞シグナル伝達を阻
害する(Basuら、2004)。同様に、サイトカインシグナル伝達の抑制因子(SOCS)タンパク質
もまた、グリア細胞を含む様々な細胞型におけるサイトカインシグナル伝達および炎症遺
伝子発現の阻害において重要な役割を果たしている(Bakerら、2009、Chenら、2000)。し
たがって、IL-1RaおよびSOCSの上方調節は、炎症を減弱させるのに重要であると考えられ
る。最近、本発明者らは、gemがKLF4のPI3K媒介性活性化を介してグリア細胞中のSOCS3を
上方調節すること (Ghosh & Pahan 2012b)およびgemがCREBのPI3K媒介性活性化を介してI
L-1Raを増加させること(Corbettら、2012)を見出した。gem処置が、Cln2(-/-)マウスの線
条体および皮質におけるSOCS3とIL-1Raの両方のレベルを増加させたことを見るのは重要
である。したがって、これらの重要な抗炎症分子を上方調節することによって、gemはCln
2(-/-)マウスにおいて保護を示し、疾患開始を遅延させることができる。
【0053】
gemは、他の有望な神経保護剤を超えるいくつかの利点を有する。例えば、gemは、経口
薬であり、かなり非毒性的である(Backesら、2007、Roy & Pahan 2009、Pahan 2006)。そ
れは、ヒトおよび動物試験において良好に許容された。薬学においては「ロピッド」とし
て知られ、1981年のFDA認可以来、それはヒトにおいて一般的に用いられる脂質低下薬で
ある。Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Intervention Trial (VA-HIT)は、
優勢な脂質異常が低いHDL-Cである場合、患者においてgemにより冠動脈心疾患イベントが
有意に減少すると報告した(Robinsら、2001)。二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験に
おいて、この薬物は、パターンAと比較して低密度リポタンパク質パターンBと分類される
正脂血性対象において低分子低密度リポタンパク質をより多く減少させることが示された
(Superkoら、2005)。別の最近の試験は、低密度リポタンパク質およびHDL粒子サブクラス
が、gem療法により好ましく変化することを示した(Otvosら、2006)。gemはまた、代謝症
候群を有する小児集団において合理的な安全性で、トリグリセリドを低下させ、HDLを上
昇させる(Smalley & Goldberg 2008)。
【0054】
まとめると、本発明者らは、ヒトにおけるFDAに認可された脂質低下薬であるゲムフィ
ブロジルが、Cln2(-/-)マウスの貯蔵物質を減少させ、抗炎症分子を上方調節し、神経細
胞アポトーシスを抑制し、寿命を増加させることを証明した。Cln2(-/-)マウスの脳のin
vivoでの状況およびgemによるその処置は、LINCLを有する患者におけるin vivoでの神経
変性状況と本当に類似しているわけではないが、本発明者らの結果は、LINCL患者におけ
る寿命を延長させる可能性のある治療剤としてgemを同定する。
【0055】
上記の図面および開示は、例示的なものであり、包括的なものではないことが意図され
る。本明細書は、当業者に対して多くの変更および代替物を示唆する。全てのそのような
変更および代替物は、添付の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。当業者で
あれば、等価物もまた添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図される本明細
書に記載の特定の実施形態に対する他の等価物を認識することができる。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症を有する対象の脳における抗炎症因子のレベルを、薬剤を受けていない対照と比較して増加させるための薬剤であって、ゲムフィブロジルを含む、薬剤。
抗炎症因子が、サイトカインシグナル伝達の抑制因子3(SOCS3)及びインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)を含む、請求項9に記載の薬剤。