(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177001
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】微生物バイオマスのための改善された従属栄養生産方法およびバイオ製品
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20221122BHJP
C12P 23/00 20060101ALI20221122BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20221122BHJP
A23L 5/44 20160101ALI20221122BHJP
A23L 5/46 20160101ALI20221122BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221122BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221122BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20221122BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20221122BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221122BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20221122BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20221122BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20221122BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221122BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20221122BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20221122BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20221122BHJP
A23K 20/179 20160101ALI20221122BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20221122BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20221122BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 C
C12P23/00
A23L33/105
A23L5/44
A23L5/46
A61P3/02
A61K45/00
A61K8/97
A61P39/06
A61P29/00
A61P17/16
A61P19/02
A61P17/18
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K8/67
A61K31/122
A23K20/179
A23K50/80
A23K10/30
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133647
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2018569171の分割
【原出願日】2017-06-30
(31)【優先権主張番号】62/356,896
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519000537
【氏名又は名称】クーンル アグロシステムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 真美
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【弁理士】
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】シュール,ロバート,ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】クーンル,アデルハイト,アール.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】培養培地中で目的の生成物を生成する微細藻類細胞を培養することにより、目的の生成物を合成するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、暗条件で、固定炭素源としての有機酸を含む培養培地中で、目的の生成物を生成する通性従属栄養生物である微細藻類細胞を培養することにより、目的の生成物を合成するための方法である。目的の生成物は、微細藻類バイオマス、色素、テルペン、組換え分子、バイオガス、またはその前駆体でありうる。ある実施形態では、培養培地は、窒素の主要供給源として尿素を含む。一実施形態では、微細藻類細胞は、クラミドモナス目に属する。目的の生成物の合成に好適である好ましい特徴を有する微細藻類細胞を同定し、単離する方法であって、蛍光活性化細胞分取技術および/または走光性反応を使用して、微細藻類培養物から非突然変異誘発または組換え微細藻類細胞を同定し、単離することを含む、方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の生成物を合成するための方法であって、
固定炭素源としての有機酸を含む培養培地を提供するステップと;
前記目的の生成物を生成する微細藻類細胞を提供するステップであって、前記微細藻類
細胞が通性従属栄養生物である、ステップと;
前記微細藻類細胞を前記培養培地中、暗条件で培養して、前記微細藻類細胞から微細藻
類培養物を生成するステップと;
前記微細藻類培養物中の前記微細藻類細胞が細胞分化を受ける前に、前記微細藻類培養
物から前記細胞を単離するステップと;
前記微細藻類細胞から前記目的の生成物を精製するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記微細藻類細胞が、偏性従属栄養生物にされた通性従属栄養生物である、請求項1に
記載の方法。
【請求項3】
前記目的の生成物が、前記微細藻類細胞を含む微細藻類バイオマスである、請求項1に
記載の方法。
【請求項4】
前記目的の生成物が、色素、テルペン、組換え分子、バイオガス、またはその前駆体で
ある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記色素が、カロテノイド、イソプレノイド、またはその前駆体である、請求項4に記
載の方法。
【請求項6】
前記色素またはその前駆体が、アスタキサンチン、ルテイン、リコペン、ゼアキサンチ
ン、カンタキサンチン、カロテン、フィトフルエン、フィトエン、またはその任意の組合
せである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記テルペンまたはその前駆体が、ピネン、リモネン、またはゲラニルゲラニルピロリ
ン酸またはその任意の組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記組換え分子が、dsRNAまたは異種タンパク質である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記微細藻類培養物が、少なくとも時間あたり0.063mg/Lの比生産性率、qp
で前記色素を生成する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記培養のステップが、1週間未満の間、行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記目的の生成物の従属栄養成長および合成が、前記培養のステップの間に起こり、前
記培養のステップが、フェドバッチ発酵下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記目的の生成物の合成が、栄養豊富または枯渇条件下で起こる、請求項1に記載の方
法。
【請求項13】
前記有機酸が、酢酸、クエン酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、プロピオ
ン酸、ピルビン酸、コハク酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、ウロン酸、クロロゲン酸
、またはリグノセルロース酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記培養培地が、窒素の主要供給源として尿素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記微細藻類細胞の乾燥、粉砕、溶解、または抽出のうちの1つまたは複数のステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記微細藻類細胞が、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)に属する、請求項1に
記載の方法。
【請求項17】
前記微細藻類細胞が、ヘマトコッカス属の種(Haematococcus spp.)、クラミドモナス
属の種(Chlamydomonas spp.)、クロロモナス属の種(Chloromonas spp.)、ドナリエラ
属の種(Dunaliella spp.)、または、クラミドカプサ属の種(Chlamydocapsa spp.)で
ある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記微細藻類細胞が、優先的に有機酸および尿素を代謝する微細藻類細胞型で置き換え
られる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記微細藻類細胞が、第2の細胞と共培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の細胞が、その成長を支援するために、前記微細藻類細胞の成長を支援する有
機酸と比べて異なる固定炭素源を使用する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の細胞が、窒素源としてアンモニウムを消費する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の細胞型が、セネデスムス属の種(Scenedesmus spp.)、クロレラ属の種(Ch
lorella spp.)、モノラフィディウム属の種(Monoraphidium spp.)、ロドトルラ属の種
(Rhodotorula spp.)、珪藻植物、スラウストキトリッド(thraustochytrid)またはス
ラウストキトリッド(thraustochytrid)様微生物である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記微細藻類細胞が、ヘマトコッカス種の属(Haematococcus spp.)に属し、前記第2
の細胞がクラミドモナス種の属(Chlamydomonas spp.)に属する、請求項19に記載の方
法。
【請求項24】
クラミドモナス目(Chlamydomonadales)由来の通性従属栄養微細藻類細胞であって、
前記細胞が、炭素の主要供給源として有機酸のみを含有する培地中、暗条件で成長し、細
胞分化が起こる前に、生成物を生成し;前記細胞が、ピネン、リモネン、アスタキサンチ
ン、フィトエン、リコペン、ゲラニルゲラニルピロリン酸、バイオ水素、またはタウマチ
ンを生成するための1つまたは複数のRNAまたはタンパク質に関する核酸を発現する組
換え細胞であるか;または前記細胞が、dsRNA分子を発現する組換え細胞である、通
性従属栄養微細藻類細胞。
【請求項25】
クラミドモナス目(Chlamydomonadales)由来の通性従属栄養微細藻類細胞であって、
前記細胞が、炭素の主要供給源として有機酸のみを含有する培地中、暗条件で成長し、細
胞分化が起こる前に、生成物を生成し;前記細胞が、イソプレノイドの改変された産生を
伴う突然変異体細胞であるか、または鞭毛性突然変異体である、通性従属栄養微細藻類細
胞。
【請求項26】
前記細胞が、もとの菌株に対して改変されたイソプレノイドまたは葉緑素生成を有する
、請求項24または25に記載の通性従属栄養微細藻類細胞。
【請求項27】
前記細胞が、蛍光活性化細胞分取を使用して、カロテノイドの改変された生成を直接的
に選択する、請求項24または25に記載の通性従属栄養微細藻類細胞。
【請求項28】
前記細胞が、蛍光活性化細胞分取を使用する、カロテノイドでないテルペンの改変され
た生成を間接的に選択する、請求項24または25に記載の通性従属栄養微細藻類細胞。
【請求項29】
目的の生成物の合成に好適な微細藻類細胞を同定し、単離する方法であって:
a.少なくとも部分的な従属栄養条件下で微細藻類菌株を培養して、微細藻類細胞を生
成するステップと;
b.従属栄養条件下で成長させた場合、そこから前記微細藻類細胞が生成される前記微
細藻類菌株に比べて好ましい特徴を有する非突然変異誘発微細藻類細胞を同定するステッ
プであって、前記同定するステップが、蛍光活性化細胞分取技術および/または走光性反
応を使用して実行される、ステップと;
c.前記好ましい特徴を有する前記非突然変異誘発微細藻類細胞を単離するステップと
を含む、方法。
【請求項30】
前記培養のステップが、少なくとも前記培養ステップの一部については、混合栄養条件
下で実行される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記好ましい特徴が、目的の生成物の前記微細藻類細胞による合成の増加である、請求
項29に記載の方法。
【請求項32】
前記好ましい特徴が、前記微細藻類細胞における鞭毛の欠如である、請求項29に記載
の方法。
【請求項33】
前記非突然変異微細藻類細胞が、蛍光活性化細胞分取を使用して、カロテノイドでない
テルペンの改変された生成を間接的に選択するか、またはカロテンの改変された生成を直
接的に選択する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
乾燥重量0.7%超のカロテノイド、乾燥重量40%超のタンパク質、乾燥重量10%
未満の灰分、および2種以上のカロテノイドの混合物を含む組成を有する、クラミドモナ
ス目(Chlamydomonadales)の従属栄養微細藻類バイオマスから得られた、着色剤、飼料
添加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化粧品成分。
【請求項35】
カロテノイド含有ライセートまたは抽出物である、請求項34に記載の着色剤、飼料添
加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化粧品成分。
【請求項36】
微細藻類脂肪酸をさらに含有する、請求項34に記載の着色剤、飼料添加物、ヒトの栄
養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化粧品成分。
【請求項37】
前記栄養豊富または枯渇条件が、硫酸塩、リン酸塩または尿素枯渇、または2.5mM
を超えるアンモニウム蓄積のうちの1つまたは複数を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項38】
前記栄養豊富または枯渇条件が、2.6g/Lを超える浸透圧調節物質、45mMのN
aCl、3g/Lを超える乳酸、成長温度をセ氏2度超える温度増加、またはその任意の
組合せから選択される1つまたは複数の外因性因子と組み合わされる、請求項12に記載
の方法。
【請求項39】
前記微細藻類培養物が、100rpm以上の混合下で成長する、請求項1に記載の方法
。
【請求項40】
サケ科魚類飼料中で使用される、請求項3および34に記載の微細藻類バイオマス。
【請求項41】
幼虫駆除剤として使用される、請求項3に記載の微細藻類バイオマス。
【請求項42】
香味料または香りの改変剤として使用される、請求項3に記載の微細藻類バイオマス。
【請求項43】
そのプロフィールが、微細藻類培養条件により変化する、請求項34に記載の着色剤、
飼料添加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化粧品成分。
【請求項44】
その中で1種のカロテノイドが総カロテノイドの50%超を構成する、請求項34に記
載の着色剤、飼料添加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化
粧品成分。
【請求項45】
その中で1種のカロテノイドが総カロテノイドの85%超を構成する、請求項34に記
載の着色剤、飼料添加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化
粧品成分。
【請求項46】
1種のカロテノイドが、総カロテノイドの98%超を構成する、請求項34に記載の着
色剤、飼料添加物、ヒトの栄養素サプリメント、またはパーソナルケアもしくは化粧品成
分。
【請求項47】
前記カロテノイドがアスタキサンチンである、請求項44、45および46に記載の1
種のカロテノイド。
【請求項48】
前記dsRNAが、少なくとも時間あたり0.04mg/Lの比生産性率、qpで生成
される、請求項8に記載の方法。
【請求項49】
前記異種タンパク質が、少なくとも時間あたり0.08mg/Lの比生産性率、qpで
生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項50】
シードトレインにおいて使用される、請求項3に記載の微細藻類バイオマス。
【請求項51】
前記微細藻類培養物が、少なくとも0.24/日の比成長速度を有する、請求項1に記
載の方法。
【請求項52】
前記微細藻類培養物が、少なくとも0.77/日の比成長速度を有する、請求項51に
記載の方法。
【請求項53】
前記微細藻類培養物が、少なくとも1.0/日の比成長速度を有する、請求項51に記
載の方法。
【請求項54】
前記比成長速度が、96時間以上の期間にわたる、請求項51、52および53に記載
の方法。
【請求項55】
前記qpが、少なくとも時間あたり1mg/Lである、請求項9に記載の方法。
【請求項56】
前記qpが、少なくとも時間あたり3.75mg/Lである、請求項9に記載の方法。
【請求項57】
前記培養のステップが、約4日~約1週間の間、行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項58】
前記比成長速度を有する微細藻類培養が、光の非存在下での細胞分化により、96時間
以上の期間にわたって進行する、請求項1および54に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物からバイオマスおよびバイオ製品を生成するための改善された発酵方
法に関する。一実施形態では、本発明は、光誘導および細胞分化を必要とせずに、例えば
、より高い細胞密度まで延長された加速成長、および有用な化合物の生成のために、通性
従属栄養微生物を従属栄養的に培養することを採用する発酵方法に関する。本発明の微生
物は、本明細書に記載の本発明の方法または他の態様における使用のために選択され、突
然変異させられ、または遺伝子操作されうる。
【背景技術】
【0002】
環境を保護する一方、その長期の健康に影響を及ぼす手ごろな価格の天然で安全かつ有
効な製品に対する世界的な消費者の要求が増している。微生物中で発現された組換え分子
は、市場で現在使用されている持続不可能なまたは問題のある製品または成分の代用にな
りうる。イソプレノイド類は、そのような製品中の成分を含む化合物の別の大きなクラス
を構成する。組換え技術およびイソプレノイド経路は、非限定的な例を挙げると、色素、
テルペン、ゴム、ビタミン、芳香剤、香味料、溶媒、ステロイド/ステロール、ホルモン
/成長調節因子、飼料添加物、栄養化合物、滑沢剤添加物およびさらに殺虫剤のような多
数の商業的に有用な標的化合物を生み出す。次にこれらは、食品および飲料、香水、飼料
、化粧品、ならびに化学薬品、栄養補給食品(neutraceuticals)、医薬品および他の工
業応用のための製品において使用される。
【0003】
そのようなイソプレノイドの1つは、抗酸化剤、抗炎症剤および着色剤として使用され
るカロテノイド類と呼ばれる天然の色素性化合物のクラスである。ヒトは、その抗酸化剤
の主要供給源としてカロテノイド類に依存している。橙赤色の色素であるアスタキサンチ
ン(3,3’-ジヒドロキシ-b,b’-カロテン-4,4’-ジオン)は、多数の治療
適用のある最も効能のある既存のカロテノイドであると考えられる。アスタキサンチンの
適用に関する世界市場は、2014年における280メートルトンから2020年までに
670メートルトンを超える。自然のアスタキサンチンの不十分な入手可能性と高価格は
、市販のアスタキサンチンの約97%が合成である(E161Jと称される)という結果
をもたらす。化学合成されたアスタキサンチンは、エステル化されておらず、よって酸化
に対して極めて感受性であるが、自然に微細藻類中に見出されるそのエステル化形態は、
安定であってより高いバイオアベイラビリティと効能を示す。合成アスタキサンチンは、
魚類および動物の飼料に広く使用されており、ヒトの栄養サプリメント、医療適用、化粧
品およびスキンケアにある程度使用されている。これは、ピンク色の肉を発色させたり、
養殖されたサケ科魚類(サケおよびマス)、マダイに加えて他の動物の成長を促進したり
するために、飼料添加物として使用されている。これは、自然の藻類アスタキサンチンの
約3分の1から6分の1の値段である。しかしながら、食品を着色するために石油由来の
合成化学薬品を使用する慣行に異議が唱えられている。この理由により、米国食品医薬品
局は、小売業者に養殖サケおよびマスに「色付けされている」と標識することを要求して
いる。
【0004】
合成色素使用の代用として、よりいっそう低価格の天然の同等物が必要とされる。赤色
酵母(キサントフィロマイセス・デンドロラウス(Xanthophyllomyces
dendrorhous))は、真核微生物様の微細藻類であるが、その好気性発酵に
より、微細藻類や野生のサケで見出される優勢で好ましい形態とは同一でなくそれらより
劣る化学的形態の3R、3’R異性体として、エステル化されていない遊離のアスタキサ
ンチンがもたらされる。後者に関しては、通常総アスタキサンチンの95%超が、3S、
3’S異性体としてのモノエステルおよびジエステルの形態である。赤色酵母アスタキサ
ンチンの販売価格は、微細藻類アスタキサンチンのそれよりもずっと低いが、化学合成さ
れたものよりもなお高い。不利なことに、赤色酵母は速い成長速度を有する一方、比較的
低い色素含有量を有することから、低収率にもかかわらず持続不可能な高い生産コストを
もたらす。
【0005】
近年、赤色酵母由来のアスタキサンチンについての発酵生産目標は、すべてが120時
間のサイクル時間内にある、以下のようなある特定の基準:時間あたり2mg/Lのカロ
テノイド類の生産性;60g/Lの収穫密度;および4mg/g(0.4%)乾燥重量の
アスタキサンチン収率を満たす場合に、合成アスタキサンチンとコスト競争力があるよう
にモデル化された。このフレームワークを1つの例として使用して、微細藻類のような他
の微生物由来のアスタキサンチンのファーメンターベースの従属栄養生産のための競合的
基準を設定するために、生産性基準が相対的に調整される場合もあり、さらに、価値の異
なるカロテノイド前駆体および関連するイソプレノイド分子の生産のためにさらに調整さ
れる場合もある。経済および持続可能性の計算も、赤色酵母のために使用されるグルコー
スよりもむしろ有機酸の使用における要素として考慮に入れる場合もある。
【0006】
これまで微細藻類由来のアスタキサンチンのすべての工業生産が、レースウェイ型培養
槽/池および光バイオリアクター中での液内培養において、クラミドモナス目(Chlamydo
monadales)のヘマトコッカス(Haematococcus)由来の唯一の種類の微細藻類を培養する
方法により、屋外または屋内で、太陽光の下または人工照明の下のいずれかで実行される
光合成を採用することが問題である。最も一般的な工業用の種は、ヘマトコッカス・プル
ビアリス(Haematococcus pluvialis)である。この藻類は、カロテノイド類の最も豊富
な供給源であり、通常、アスタキサンチンをその乾燥重量の3%まで、または5%までも
シストとして産生する(LorenzおよびCysewski、2000年;米国特許第6022701号)
。アセチルCoAに起源を有し、イソペンテニルピロリン酸(IPP)およびフィトエン
を介して色素性前駆体および最終的にアスタキサンチンとなる、ベータカロテン、カンタ
キサンチンおよびルテインのような他のカロテノイド類も存在する。これらは一緒になっ
て、合成アスタキサンチン中には提供されない有用で健康に良い分子カクテルを提供する
。
【0007】
別の問題は、ヘマトコッカス(Haematococcus)由来のアスタキサンチンの現在の生成
が、供給を制限する難題をはらんでいることである。天然の色素の不足は、価格上昇を推
し進める。結果として、合成アスタキサンチンは、高容量の水産養殖および動物飼料セク
ターにおける着色剤としての使用に追いやられ、一方で微細藻類アスタキサンチンが、食
物サプリメントおよび化粧品のようなヒトへの適用のための主要供給源になる。不利なこ
とに、天然の藻類アスタキサンチンが合成品と価格で対抗したとしても、約300トンの
色素に合う飼料体積は、今日光合成により生産されるものの10倍を超える10,000
トンの藻類バイオマス(3%の色素含有量と推定して)が抽出のために生産されることを
必要とする。
【0008】
アスタキサンチン生成の難題のうちの1つは、緑色栄養マクロ独立細胞(green
vegetative macrozooids)から赤色不動胞子(ヘマトシスト(h
aematocysts))への細胞分化を必要とする、ヘマトコッカス(Haematococcu
s)の複雑な生活環に関係する。約10pg/細胞の栄養段階における基礎的アスタキサ
ンチン含有量は、シスト形成プロセスの間、約30pg/細胞を有する茶色から赤色の無
鞭毛性で非運動性の未成熟シスト、次いで約613pg/細胞を有する成熟シストの形成
とともに増加する。このプロセスは、シスト形成の誘導およびアスタキサンチンの蓄積に
長期間を必要とし、これだけで、赤色酵母酵母のためのものを含む液内培養のバッチおよ
びフェドバッチ工業発酵に使用される合計サイクル時間、典型的に7~10日間(168
~240時間)を超える。
【0009】
国際公開第2003027267号パンフレットは、2つの段階:段階1、その間に、
細胞が光合成独立栄養成長をすることができる緑色運動性二鞭毛性段階;および段階2、
その間に、好ましくない条件下でこれらの細胞がその運動性を喪失することにより、大量
のアスタキサンチンおよび他のカロテノイド類の合成を伴ってシストを形成するシスト形
成段階、を介して、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)を培養
することにより、アスタキサンチン富化バイオマスを生産するための光依存性プロセスを
教示している。好ましくない条件は、強烈な光、栄養素の枯渇、または温度、pHもしく
は塩分濃度の変化うちの1つまたは複数であり、これらは、生物に防御反応としてシスト
を形成させる。国際公開第2003027267号パンフレットに記載のプロセスは開放
の池の系を使用し、米国特許第6,022,701号および同第5,882,849号は
、多様な構成の光バイオリアクターおよび光バイオリアクターと池の組合せの使用によっ
て可能になる類似した光依存性の2段階プロセスを教示している。米国特許第6,022
,701号は、光の下での栄養成長のための栄養豊富な培地の使用、そして、その後に続
く無機炭素(二酸化炭素)の存在下、光の下でのアスタキサンチンの蓄積を誘導するため
の栄養枯渇培地の使用をさらに教示している。
【0010】
そのようなプロセスは、バイオマスを成長させるために光合成のための光に依存するこ
とにより、およびそこからアスタキサンチンに富むバイオマスを収穫する前に緑色運動性
細胞を赤色のシストに変換するために、2段階プロセスの培養に依存することにより、不
利となる。一般に光は太陽光により供給され、よって天気、季節性または成長度合いが荒
れ模様の日々、光を減少させる公害、および地理的位置は、変りやすい生産性および減少
した生産性も助長する。原生動物による捕食によるバイオマスの崩壊または喪失もさらに
減少した生産性をもたらす。屋内のレースウェイ型培養槽または光バイオリアクターの場
合、太陽光は人工照明に置換されうるが、光への曝露のための十分な表面積および適切な
培養ハンドリングをなお必要とし、アスタキサンチン生成のための緑色および赤色相をな
お必要とする。2段階培養法は、複雑な培養操作を含み、シスト形成段階だけでも収穫ま
で多くの日数、通常7~10日間を必要とし、よって、完全な生産および収穫周期の完了
のために、バイオマス成長相を超えてかなりの時間が加わる。これらのシストは、厚く固
い細胞壁のために消化不可能であり、抽出、生成物調合またはバイオアベイラビリティの
ための色素にアクセスするためにはこじ開けるかまたは細かく砕かなければならない。
【0011】
2段階生産方法の例は、ヘマトコッカス(Haematococcus)に独特のものではない。例
えば、米国特許第8,206,721号に記載の関連する分類群、クラミドモナス(Chla
mydomonas)、クロロモナス(Chloromonas)、およびクラミドカプサ(Chlamydocapsa)
からのもののような多様な種類の藻類の培養は、第1に光の下でバイオマスを生み出し、
続いてシストまたは胞子に分化した細胞の第2のまたは赤色段階において行われる収穫の
ために、2段階の培養プロセスを進める。
【0012】
有利なことに、数種の微細藻類が、光合成の間に炭素成長源として使用される二酸化炭
素がそれによって栄養培地に溶解した他の何らかの炭素源に置き換えられる、暗条件での
培養のための通性従属栄養生物であることが示されている。従属栄養藻類の好気性発酵は
、一般に工業発酵施設における他の微生物について見られる類似した発酵タンクおよび操
作を使用して実施される。一般に、発酵プロセスの使用は、はるかに高い生産性、他の土
地使用と競合しないように低減された土地占有面積、混入物の管理、組換え生物の抑制の
管理、大量生産をかなえるためのより少ない水使用、および任意の気候における通年生産
により、光合成(光栄養)生産よりも顕著に有利であることができる。実際に、発酵は、
藻類生産の最も経済的かつスケーラブルな方法と考えられる。
【0013】
それにもかかわらず、数種の微細藻類は小さな実験室規模では従属栄養性を示しうるが
、大多数が経済的製造に移行するためには開発を必要とするように、従属栄養的に藻類を
生産する方法は日常的なものではない。緑色藻類の間では、クロレラ属(Chlorellales)
のいくつかの種が暗条件での発酵を採用する工業規模の製造にうまく移行している。これ
らは、暗条件での従属栄養培養においてヘキソースおよびペントースをその固定炭素源と
して使用して培養される。一例は、クロレラである。ある時点で主要固定炭素源を提供す
る培地中の糖に加えて供給される場合、有機酸は、色素の形成を誘導するために役立つで
あろう。例えば、クロレラ・ゾフィンギエンシス(Chlorella zofingi
ensis)においては、10mMを超える濃度のピルビン酸、クエン酸およびリンゴ酸
のグルコースベースの培養培地への添加は、アスタキサンチンおよび他の二次カロテノイ
ド類の生合成を刺激した。対照的に、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)のメンバ
ーは、一般に、その主要固定炭素源としてヘキソースおよびペントースを利用できず、発
酵単独による工業規模の製造はいまだ達成されていない。
【0014】
上記クロレラとは異なり、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)は、栄養成長相を
速やかに短縮することができ、シスト形成が後から起こって工業製造を妨害するような、
環境および物理的条件に対して感受性である。この群の微細藻類の従属栄養培養に対する
多くのさらなる障害がある。
【0015】
米国特許出願公開第20080038774号は、ヘマトコッカス・プルビアリス(Ha
ematococcus pluvialis)のための暗条件での従属栄養条件下の2段階培養を教示する。
栄養成長は、酢酸ナトリウムおよび大豆粉末またはペプトンを補充した培地中、100m
L培養のフラスコ中の静置(撹拌なし)培養において、5または6日間、16または20
℃の培養温度で成長させ、そして、80pg/細胞に到達するまで、さらに8日間、高い
塩分濃度および30℃の高い培養温度で導入された高い酢酸ナトリウムを用いて誘導され
たアスタキサンチン生成を伴うシスト形成期間が続く。不利なことに、アスタキサンチン
生成のためのプロセスは、光栄養池または光バイオリアクターに類似して、アスタキサン
チン蓄積相が非常に長く、光誘導されたシストに通常見られるアスタキサンチン含有量の
ごくわずかな一部を達成したのみであった、2つの形態学的段階を含む細胞分化を必要と
する。不利なことに、このプロセスは、ファーメンターに合わせて調整されない撹拌なし
プロセスである。
【0016】
米国特許出願公開第20150252391号は、ヘマトコッカス・プルビアリス(Ha
ematococcus pluvialis)のための2段階培養であって、酢酸ナトリウムおよび硝酸ナト
リウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、および任意選択による植物成長調節因子を補充
した培地における暗条件での従属栄養条件を使用し、最初の128または168時間まで
も(5~7日間)の間の無視できるバイオマス成長を伴う、栄養細胞成長である第1の段
階;それに続く、5~7日間のシスト形成期間中の栄養枯渇を伴う、希釈した培養の照明
による光誘導を使用する、シストの誘発およびアスタキサンチン蓄積を教示している。不
利なことに、アスタキサンチン生成のためのこのプロセスは、2つの形態学的段階のため
に細胞分化を必要とし;相の組合せは非常に長く、2.25%のアスタキサンチン含有量
を有するバイオマスを生産するために400時間(16.7日間)プラス少なくとも72
時間(3日間)を必要とする。不利なことに、このプロセスは、培養が成長容器から微細
藻類細胞の光誘導のための光誘導デバイスへ移されなければならないような、光を必要と
するものである。さらに不利なことに、長いサイクル時間は、5~7日間の遅滞期を含む
。
【0017】
同様に、光と暗条件段階の数種の組合せが、米国特許出願公開第2015023280
2号に、暗条件における場合に色素蓄積のためにシスト形成をもたらす窒素制限または栄
養枯渇条件とともに教示されている。不利なことに、このプロセスは、その相のうちの1
つにおける光合成または光の使用に依存する、2つの栄養相(明および暗)の使用;シス
ト形成への依存;酢酸ナトリウムにおける持続的成長の阻害;栄養相のためならびに栄養
成長相とシスト形成相の分離のための、別個の物理的装置または施設の使用ならびにシス
ト形成のためのN制限の使用によるさらなる成長の制限を必要とする。
【0018】
ヘマトコッカス(Haematococcus)の従属栄養培養に対する他の障害は、非常に長い遅
滞期を有する0.21/日~0.24/日の低い比成長速度である。さらに、従属栄養性
バイオマスの赤色化は、暗条件での細胞成長、そしてそれに続く暗条件での高い塩ストレ
スによるシスト形成およびカロテン生成;または1.85%のアスタキサンチン含有量を
産生する、22~25℃から28~30℃まで上昇した温度における8日間の光誘導後の
シスト形成およびカロテン生成からなる2段階プロセスにおける細胞分化を必要とする。
さらなる障害は、従属栄養発酵においてより密度の高い培養を支援するために当分野で公
知であるような高い混合速度および酸素負荷速度に対する必要性である。クラミドモナス
目(Chlamydomonadales)のメンバーにとって、鞭毛喪失および細胞破壊をもたらす流体
せん断に対する高い感受性は、非フラスコバイオリアクター、すなわち、ファーメンター
を使用して、高い細胞濃度を達成するには問題がある。欧州特許第2878676号(米
国特許出願公開第20150252391号)に記載のとおり、バイオマス蓄積のための
従属栄養条件における非常に低い撹拌速度は、40rpmと報告され、従属栄養段階が終
わり、光誘導が起こり、細胞がよりこわれにくいシストに分化した後でのみ100rpm
または200rpm未満に到達した。不利なことに、低いバイオマス成長は、これを工業
応用には実現困難なものとする。
【0019】
酢酸ナトリウムにおける持続的成長の阻害は、固定炭素としての酢酸ナトリウムにより
従属栄養的に培養された場合、様々なクラミドモナス目(Chlamydomonadales)、コナミ
ドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)にとっても問題であった。1.7/日の適度に
高い比成長速度が観察されたにもかかわらず、希釈培養および40時間後の完全に近い成
長阻害は、1週間の商業的発酵サイクルかつ望ましく、より高い培養密度で大量のバイオ
マスおよびバイオ製品を蓄積することへの大きな障害である。この作業は、低い開始およ
び最終密度(それぞれ、0.05g/Lおよび1g/L)で行われ、希釈液としての新た
な培地の培養への添加を必要とした。より高い商業的に妥当な細胞密度においては、当分
野で公知のとおり、阻害性の塩分濃度レベルおよびより早い栄養成長の停止さえももたら
す、大量生成を支援するために十分な炭素を供給するための培養液量あたりの酢酸ナトリ
ウムに対する要求は劇的に増加する。
【0020】
これらの先の事例において、従属栄養性ヘマトコッカス(Haematococcus)またはクラ
ミドモナス(Chlamydomonas)により代謝される炭素源は、より一般的な従属栄養性微細
藻類の固定炭素源のグルコースよりも酢酸ナトリウムである。これは、硝酸塩、一般的に
は、尿素を含む最近試験された多くの窒素源の中でも、光合成性ヘマトコッカス・プルビ
アリス(Haematococcus pluvialis)の最良の成長を提供した、硝酸ナトリウムと組み合
わせて供給される。一部の淡水種が培養ブロス中に蓄積された高いナトリウムおよび他の
塩レベルにおいて増殖できないことは、実際の大量培養に必要な十分なバイオマス生産を
妨害し、ヘマトコッカス(Haematococcus)および他のクラミドモナス目(Chlamydomonad
ales)の場合には、上記したように細胞増殖の停止によりシスト形成を誘発し、結果とし
て生じるバイオマスを低下させるであろう。不利なことに、塩を低減させるための硝酸ナ
トリウムの適切なレベルの中断は、栄養が枯渇したブロスによる胞子形成を誘発するであ
ろう。
【0021】
栄養制限、特に窒素枯渇は、緑藻植物の緑色栄養成長細胞中に存在するベースラインを
超えて色素蓄積を誘導するための一般的かつ有効な手段である。米国特許出願公開第20
120264195号は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)のための窒素枯渇の
使用に対する1つの大きな障害は、栄養成長が停止し、過酷な環境条件からそれを保護す
るためのその固い外壁を有する不動胞子および接合胞子のような胞子およびシストが形成
するであろうということを教示している。不利なことに、窒素枯渇を介した成長の未熟な
停止は、ある特定の望ましい最小生産サイクル時間を有する培養系の生産性を制限する。
【0022】
まとめると、長い遅滞期、遅い成長速度、栄養成長を防ぎ、未熟なシスト形成を誘発す
る因子に対する感受性、アスタキサンチン蓄積のための長いシスト形成期間、およびシス
トの形成自体という障害が、栄養従属性を使用する典型的な工業生産サイクルにおける用
途のための赤色酵母(Phaffia)に比べて高いアスタキサンチン含有量を有するヘマトコ
ッカス(Haematococcus)細胞のいかなる利益も効果的に無効にする。これらの障害を悪
化させることは、従属栄養生産方法が、光の非存在下で光栄養生産または光誘導により可
能なものに比べて従属栄養性バイオマスにおけるアスタキサンチンの低い収率をもたらす
ということである。さらに、これらの問題を悪化させることは、当分野で公知のように、
シストは、運動性のままである非剛体細胞に比べて抽出または食餌の一部として消化する
ことがより困難になるということである。
【0023】
理論的には、商業的な立場からは、従属栄養大量培養において使用される微生物の細胞
型は、最適化条件下での単位時間および培養液量あたりの最大の比成長速度および最高の
または好ましい組成含量を有するはずである。ヘマトコッカス(Haematococcus)および
クラミドモナス(Chlamydomonas)を含むクラミドモナス目(Chlamydomonadales)微細藻
類のいずれの細胞または細胞株の改善も十分なバイオマスおよび120時間以内の生産サ
イクルのようなコンパクトな発酵サイクルに適した最短時間にわたる従属栄養生産のため
になる標的化合物の蓄積のために行われていない。従属栄養生産のために選択された細胞
株は、経済的に生産性を増加させ、コストを低下させるための利点を有するであろう。特
に、改変されたレベルの標的化合物による細胞株の改善は、天気、気候、季節および地理
に依存しない効率的な工業的従属栄養発酵を最適化するために望ましい。価値のある標的
化合物は、テルペン、カロテノイドおよびそのイソプレノイド前駆体ならびに前駆体の誘
導体を含むが、これらに限定されない。
【0024】
突然変異誘発および寒天プレート上の個々のコロニーの選択を含む、細胞株の改善のた
めの伝統的方法は、当分野で周知である。欧州特許第1995325号は、カロテノイド
生合成阻害剤、ノルフルラゾン、ジフェニルアミンおよびニコチン、またはその混合物と
突然変異誘発された緑藻綱の光独立栄養性藻類の使用を記載している。米国特許第8,4
04,468号は、ノルフルラゾンおよびヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcu
s pluvialis)の使用を記載し、米国特許第8,911,966号は、H.プルビアリス
とニコチン選択の使用を記載している。突然変異誘発された個体群を使用することは不利
であり、なぜなら、突然変異誘発は無作為であり、他の意図されないまたは有害な結果を
、色素蓄積以外の側面において生物に有しうるからである。そのような他の側面は、成長
速度、無性生殖、および温度感受性を含むが、これらに限定されない。
【0025】
互換的に使用される別の方法、フローサイトメトリー(FCM)または蛍光活性化細胞
分取(FACS)は、カロテン生成酵母、赤色酵母(Phaffia)、葉緑素を有さない生物
とともにアスタキサンチン過剰産生突然変異体の細胞株選択に有用であることが示された
が、葉緑素からの妨害自己蛍光によりヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pl
uvialis)への適用はうまくいかなかった。
【0026】
なお他の細胞株改善方法は、遺伝子工学を採用する。これは、組換えクラミドモナス(
Chlamydomonas)、ヘマトコッカス(Haematococcus)およびドナリエラ(Dunaliella)を
含む多くの例により、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)に関する方法に適してい
る。
【0027】
これは、例えば、炭素トランスポーターの導入により形質転換された組換え細胞の培養
を含みうる。ヘキソースHUP1トランスポーターのコナミドリムシ(Chlamydomonas re
inhardtii)菌株Stm6Glc4への挿入は、外因性グルコース供給を促進されたバイ
オ水素生産プロセスに効果的につなげた。この菌株はなお、暗条件で制限された従属栄養
細胞成長を示し、グルコースがコナミドリムシ(C. reinhardtii)において炭素源として
酢酸塩の代わりに用いることができないことを示している。
【0028】
この表現型と本発明により提供される有機酸における従属栄養成長のための改善された
方法との組合せは、改善された比生産性のために強力でありうる。
【発明の概要】
【0029】
目的の生成物を合成するための方法が提供される。この方法は:
固定炭素源としての有機酸を含む培養培地を提供するステップと;
目的の生成物を生成する微細藻類細胞を提供するステップであって、微細藻類細胞が通
性従属栄養生物である、ステップと;
微細藻類細胞を培養培地中、暗条件で培養して、微細藻類細胞から微細藻類培養物を生
成するステップと;
微細藻類培養物中の微細藻類細胞が細胞分化を受ける前に、微細藻類培養物から細胞を
単離するステップと;
微細藻類培養物から目的の生成物を精製するステップと
を含む。
【0030】
目的の生成物は、微細藻類バイオマス、色素、テルペン、組換え分子、バイオガス、ま
たはその前駆体であることができるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書に記載の従属栄養条件において通性従属栄養生物を培養する方法は、バイオマ
スの活発な成長およびより高い速度での目的の生成物の合成の両方を提供する。一実施形
態では、微細藻類バイオマスは、細胞分裂により0.24/日超の比成長速度で蓄積し、
培養の最初の96時間以上にわたって持続される。一実施形態では、目的の生成物は色素
であり、時間あたり0.063mg/L超の比生産性率で生成されうる。
【0032】
培養のステップは、1週間未満の間、細胞分化を受けている微細藻類細胞を含まずに行
われることができる。ある特定の実施形態では、微細藻類細胞は、クラミドモナス目(Ch
lamydomonadales)に属し、例えば、微細藻類細胞は、ヘマトコッカス属の種(Haematoco
ccus spp.)、クラミドモナス属の種(Chlamydomonas spp.)、クロロモナス属の種(Chl
oromonas spp.)、ドナリエラ属の種(Dunaliella spp.)、または、クラミドカプサ属の
種(Chlamydocapsa spp.)であることができるが、これらに限定されない。
【0033】
一実施形態では、微細藻類細胞は、その成長を支援するために、微細藻類細胞の成長を
支援する有機酸と比べて異なる固定炭素源を使用する第2の細胞と共培養される。
【0034】
別の実施形態では、微細藻類細胞は、その成長を支援するために、同じ有機酸固定炭素
源を使用する第2の細胞と共培養される。
【0035】
さらなる実施形態では、微細藻類細胞は、葉緑素を欠くか、非光合成的であるか、また
は無鞭毛性である。
【0036】
さらなる実施形態は、目的の生成物の合成に好適な微細藻類細胞を同定し、単離する方
法を提供する。この方法は:
少なくとも部分的な従属栄養条件下で微細藻類菌株を培養して、微細藻類細胞を生成す
るステップと;
従属栄養条件下で成長させた場合、そこから微細藻類細胞が生成される微細藻類菌株に
比べて好ましい特徴を有する非突然変異誘発微細藻類細胞を同定するステップであって、
同定するステップが、蛍光活性化細胞分取技術および/または走光性反応を使用して実行
される、ステップと;
好ましい特徴を有する非突然変異誘発微細藻類細胞を単離するステップと
を含む。
【0037】
一実施形態では、培養のステップは、少なくとも培養ステップの一部については、混合
栄養条件下で実行される。好ましい特徴は、目的の生成物の微細藻類細胞による合成の増
加または微細藻類細胞における鞭毛の欠如を含むが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】微生物による生成物についての改善された従属栄養生産のための方法全体を概説するフローダイアグラム。プロセス中の主要構成要素は、強調されている。固定炭素源(20)としての有機酸とともに微細藻類細胞(10)が、暗条件での従属栄養成長のためのファーメンター(30)中の培養培地に提供され、生成物形成は、光への曝露または第2の容器への移動に依存せずにファーメンター(30)中で得られ、細胞分化に依存せず、藻類生成物(40)のアウトプットをもたらす。アウトプットは、所望によりさらに処理されうる。
【
図2】左図:選択された微細藻類単離菌のイソプレノイド蓄積曲線。栄養マクロ独立(運動性、二鞭毛性)細胞は、高レベルの色素性イソプレノイド、アスタキサンチンをわずか2、3日で蓄積することができる。ヘマトシストに分化することが可能であれば、これらはより大量の生成物を蓄積しうる。右上図:赤色運動性鞭毛性マクロ独立細胞および従属栄養培養中の蓄積した色素を含む個体群。右下図:光栄養培養中の典型的な赤色不動無鞭毛性ヘマトシスト。細胞分裂の停止による細胞量の増加を説明する、拡大した細胞サイズ。商業的生産者は、シストを得るためには、少なくとも7~10日間を超える明条件でのストレスを採用しなければならない。
【
図3】総カロテノイド類のうちの各カロテノイドの相対量を示す、カロテン生成誘発3日後の変化する色素プロフィールの例。A:SO
4枯渇。B:尿素枯渇;カロテノイドプロフィールは、過剰のアンモニウム蓄積とも類似する。C:45mM NaClを添加。
【
図4】本発明の方法による、多様な比成長速度について0.2g/Lの初期バイオマスを用いた有機酸における栄養成長中の従属栄養性バイオマスの経時的蓄積。A:0.24/日(菱形線、報告された先行技術の最高値)に比べた、本発明の方法による0.77/日(四角線、実施例5に記載のステップから)および1.0/日(三角線、実施例6に記載のステップから)の比成長速度。B:先行技術の成長速度に比べた、本発明の方法を使用する栄養成長による経時的なバイオマス蓄積の倍率の差。比成長速度における小さな変化は、細胞密度に莫大な効果を有する。0.24/日~0.77/日の比成長速度値は、比成長速度の3.2倍の増加を表し;96時間で、収率は、8.1倍高い細胞密度である。0.24/日~1.0/日の比成長速度値は、比成長速度における4.2倍の増加を表し;96時間で、収率は、20.75倍高い細胞密度である。
【
図5】高速従属栄養成長に適したコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)KAS1402における二本鎖RNA発現のために本発明において使用されるプラスミドベクター、K588の例。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書中で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「そ
の(the)」は、文脈が明らかに別の意味を有すると示さない限り、複数形も含むことが
意図される。さらに、用語「含むこと(including)」、「含む(includes)」、「有す
ること(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」、またはその変化形は、
詳細な説明および/または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される範囲において、
用語「含むこと(comprising)」と同様に包括的であることが意図される。移行用語/移
行句(およびその任意の文法的変化形)「含むこと(comprising)」、「含む(comprise
s)」、「含む(comprise)」、「から本質的になる」、「から本質的になる」、「から
なること」および「からなる」は、互換的に使用可能である。
【0040】
用語「約」または「およそ」は、当業者により決定される具体値についての許容可能な
誤差範囲内であることを意味し、これは、その値がどのようにして測定または決定される
か、すなわち、測定系の限界に一部依存する。具体値が出願および特許請求の範囲に記載
される場合、別段の記載のない限り、その具体値についての許容可能な誤差範囲内を意味
する用語「約」が推定されるべきである。用語「約」または「およそ」が使用される、成
分量を含有する組成物の文脈において、これらの組成物は、その値の周囲の0~10%の
変動(誤差範囲)(X±10%)を有する、記載された量の成分を含有する。
【0041】
本開示において、範囲は、冗長に範囲内の個々の値を記載しなければならないことを回
避するために、簡略表記法で述べられる。範囲内の任意の適切な値が、適宜、範囲の上限
値、下限値、または末端として選択されうる。例えば、0.1~1.0の範囲は、0.1
および1.0の末端値だけでなく、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、
0.8、0.9の中間値、および0.2~0.5、0.2~0.8、0.7~1.0など
のような0.1~1.0内に包含されるすべての中間範囲を表す。本明細書中で範囲が使
用される場合、範囲の組合せおよび部分的組合せ(例えば、開示された範囲内の部分範囲
)、その中の特定の実施形態は、明示的に含まれることが意図される。
【0042】
用語「光独立栄養生物」は、光をエネルギー源として使用して、自身の食料を無機物質
から合成できる生物を指す。光独立栄養生物の例としては、緑色植物および光合成細菌が
挙げられる。
【0043】
用語「通性」は、特定の生活様式の状態であることが可能であるが、その様式に限定さ
れない生物を指す。例えば、通性嫌気性生物は、酸素が存在する場合、好気呼吸によりA
TPを合成することができるが、酸素が存在しなければ、発酵または嫌気呼吸が可能であ
る。
【0044】
用語「通性従属栄養生物」は、光エネルギーが不十分であるかまたは欠如している場合
に、成長および/または維持および/または生存のために有機化合物を利用することもで
きる光独立栄養生物を指す。この用語は、通性従属栄養生物および光合成を行う能力を喪
失するか、または光栄養生物として成長することを不可能とする欠陥を得るか、または栄
養転換のためもしくは好ましい炭素原料の利用のためを含めた遺伝子操作により暗条件に
おいて成長することができるその子孫も包含する。
【0045】
炭素源としての酢酸塩の存在下で暗条件において成長することのできる一部の代表的な
通性従属栄養生物は、コナミドリムシ(C. reinhardtii)およびC.ディソスモス(C. d
ysosmos)である。クラミドモナス(Chlamydomonas)としては、これらに限定されないが
、Chlamydomonas Resource Center(http://www.chalamy
collection.org/を参照されたい)の種および菌株ならびにAlgaebaseに列挙さ
れたものが挙げられる。
【0046】
クラミドモナス・ニヴァーリス(Chlamydomonas nivalis)は、赤色/オレンジ色素性
クラミドモナス(Chlamydomonas)およびクロロモナス(Chloromonas)の総称である。用
語「クロロモナス(Chloromonas)」は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)および
クラミドモナス科(Chlamydomonadaceae family)においても関連した分類群を指す。菌
株保存機関において利用可能な多様な種は、クロロモナス・ロザエ(Chloromonas rosae
)UTEX SNO4、クロロモナス・ブレビスピナ(Chloromonas brevispina)UTE
X B SNO103、およびクロロモナス・ツギレンシス(Chloromonas tughillensis
)UTEX SNO92である。
【0047】
用語「クラミドカプサ(Chlamydocapsa)」は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales
)およびパルメロプシス(Palmellopsidaceae)科においても関連した分類群を指す。菌
株保存機関において利用可能な多様な種は、クラミドカプサ種(Chlamydocapsa sp.)C
CCryo 101-99、IBMT菌株保存機関;C.アンプラ(C. ampla)(グロエ
オシスチス・ギガス(Gloeocystis gigas)として、UTEX 291);C.マキシマ
(C. maxima)(UTEX 166);およびC.ロバータ(C. lobata)(CCAP9/
1)である。
【0048】
用語「ドナリエラ(Dunaliella)」は、認められた多くの保存機関において利用可能な
クラミドモナス目(Chlamydomonadales)における、ドナリエラ(Dunaliellaceae)科に
おけるなお別の関連した分類群(Tranら、2013年)を指す。
【0049】
用語「純粋培養の」は、生物の単一の種、変種、または菌株のみが存在し、培養がすべ
ての他の生物を含まない培養の状態を指す。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、用語「バイオマス」は、生きているまたは生きていない
生物学的材料およびその派生物の集団を指し、天然のおよび加工されたもの、ならびによ
り広く天然の有機材料を含む集団を含む。よって、「微細藻類バイオマス」および「藻類
バイオマス」は、微細藻類細胞の成長および/または繁殖により生成される材料を指す。
【0051】
「バイオマス生産」または「バイオマス蓄積」は、培養中に存在する生物の細胞の総数
または重量の経時的な増加を意味する。バイオマスは、典型的に細胞;細胞内内容物なら
びに細胞により分泌されまたは放出されうるような細胞外材料からなり;バイオマスの一
部が除去されて残留バイオマスを残すように処理されることもできる。
【0052】
シストへの細胞分化の前の栄養細胞段階におけるバイオマス蓄積は、シストへの細胞分
化後のバイオマス蓄積とは異なる。後者では、細胞個体群の一部またはすべてが分裂を停
止し、細胞サイズが増加している。
【0053】
用語「比成長速度」は、単位時間あたりの集団増加の量的尺度を指す。微細藻類種をま
たぐおよび研究をまたぐ比較を容易化するために、その尺度がどの成長相を包含するかが
限定されなければならない。
【0054】
「対数」期または「対数成長」期または「活性成長」とも呼ばれる、細胞分化の前に起
こる活性な細胞分裂の間に測定される比成長速度は、「静止」、個々の細胞は分裂を停止
するが、集団が拡大し増加することができる「非栄養成長」シスト形成期の間に測定され
ものとは異なる。
【0055】
「フェドバッチ発酵」は、1種または複数の栄養素が培養中にバイオリアクターに供給
され、生成物が発酵ランの最後までバイオリアクター中に留まる発酵を指す。一部の場合
では、揮発性または気体の生成物が一部、フェドバッチ発酵ランの間に除去されうる。
【0056】
「目的の生成物」は、細胞により合成された物質である。目的の生成物の例としては、
これらに限定されないが、タンパク質、脂質、炭化水素、バイオガス、揮発性材料、糖、
アミノ酸、イソプレノイド類、テルペン類、またはその前駆体が挙げられる。そのような
物質は、生物によってその成長を通じて構成的に合成することができ、培養中の物質の量
は、生物の数の増加により単純に増加しうる。或いは、そのような物質の合成は、培養条
件または他の環境因子、例えば、窒素飢餓もしくは上昇したアンモニウムレベルに応じて
誘導されうる。
【0057】
培養液量に対するおよびそのもとの量に対する、経時的に蓄積した目的の生成物の量は
、比生産性により測定されうる「生成物蓄積」と考えられる。
【0058】
用語「クラミドモナス目(Chlamydomonadales)」は、以前は団藻類およびドナリエラ
目(Dunaliellales)に入れられていた分類群を含み、クラミドモナス(Chlamydomonas)
に代表される緑藻類の目を指す(LewisおよびMcCourt、2004年)。クラミドモナス目(Ch
lamydomonadales)のメンバーは、栄養生殖、静止期および有性生殖について異なる細胞
型を有する生活環を有する。
【0059】
用語「ヘマトコッカス(Haematococcus)」は、一般に淡水に生息するか、またはより
最近には、過酷な塩水環境から単離され(Chekanovら、2014年)、H.プルビアリス(H.
pluvialis)およびH.ラクストリス(H.lacustris)ならびに公的および私的な菌株保
存機関におけるものを含む、algaebase(ワールドワイドウェブサイト:algaeb
ase.org/を参照されたい)に列挙されたものにより代表される、一群の単細胞微細藻類を
指す。ヘマトコッカス(Haematococcus)は、真核生物ドメイン、緑色植物界、緑藻植物
門(phylum)または門(division)、緑藻綱、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)
、およびヘマトコッカス科(Haematococcaceae family)に分類される微細藻類の属であ
る。
【0060】
用語「クラミドモナス(Chlamydomonas)」は、真核生物ドメイン、緑色植物界、緑藻
植物門、または門、緑藻綱、およびクラミドモナス科(Chlamydomonadaceae family)に
分類される微細藻類の属を指す。
【0061】
用語「細胞分裂に好都合な条件」または「栄養成長に好都合な条件」は、工業生産ラン
が、約24時間未満の遅滞時間を含んで約60~168時間、好ましくは144、120
または96時間未満で完了するようなペースで細胞が分裂する条件を意味する。
【0062】
用語「細胞分化」または「細胞の分化」は、無性生殖における様々な形態変化、すなわ
ち、栄養細胞からシスト細胞への転換を指す。遊走子またはマクロ独立細胞とも呼ばれる
「栄養」細胞は、二鞭毛性で運動性であり、卵形の、楕円体の、楕円体~桿体の、または
球形に近い壁に包まれた細胞である。(ヘマトコッカス(Haematococcus)では「ヘマト
シスト」とも呼ばれる)「シスト」細胞は、球形で不動性であって、鞭毛を欠き、球形で
不動性であって、鞭毛を欠き、重い抵抗性のある細胞壁を有する静止細胞である「成熟シ
スト」または「不動胞子」となる、「未成熟なシスト」でありうる。これらは、細胞内娘
細胞またはミクロ独立細胞の放出により、栄養細胞に成長することができる。
【0063】
用語「共培養」および「共培養する」のようなその変化形は、同じファーメンターまた
はバイオリアクター中に2種以上の細胞が存在することを指す。2種以上の細胞は、両方
とも微細藻類のような微生物であってもよく、または異なる細胞型とともに培養される微
細藻類細胞であってもよい。培養条件は、2種以上の細胞型の成長および/または増殖を
促進するもの、あるいは残りものの細胞成長を維持する一方、2種以上の細胞型のうちの
1種またはサブセットの成長および/または繁殖を促進するものであってもよい。
【0064】
用語「培養された」または「培養」または「培養している」は、意図される培養条件の
使用により、1種または複数の微生物または微細藻類の成長(細胞サイズ、細胞内容物、
および/または細胞活性の増加)および/または繁殖(有糸分裂による細胞数の増加)の
意図した育成を指す。
【0065】
成長と繁殖の両方の組合せは、増殖と呼ばれる場合がある。意図される条件の例として
は、これらに限定されないが、定義された培地(pH、イオン強度、および炭素源のよう
な公知の特徴を有する)、ファーメンターまたはバイオリアクター中の特定の温度、酸素
圧および成長が挙げられる。この用語は、自然におけるまたは生物の自然の成長のような
、その他の意図した導入もしくはヒトの介入のない微生物の成長を意味しない。
【0066】
用語「ファーメンター」または「バイオリアクター」または「発酵容器」または「発酵
タンク」は、その中で、任意選択により液体懸濁液中で、細胞が培養され(cultivated)
または培養される(cultured)、密閉容器または部分的に密閉された容器を意味する。本
開示のファーメンターまたはバイオリアクターとしては、培養される細胞が光に曝露され
ることを許容するかまたは細胞が光に曝露されずに培養されることを可能とする密閉容器
または部分的に密閉された容器のような非限定的な実施形態が挙げられる。ファーメンタ
ーまたはバイオリアクターである容器の文脈における用語「ポート」は、気体、液体およ
び細胞のような材料の流入または流出を可能とする、容器の開口部を指す。ポートは、通
常、ファーメンターまたはバイオリアクターからつながる配管に接続されている。
【0067】
用語「ファーメンター」は、発酵を引き起こす生物を指す。
【0068】
用語「固定炭素源」は、生物による炭素および/またはエネルギーの供給源として使用
されうる、炭素を含有する化合物を意味する。典型的に、固定炭素源は、周囲温度および
圧力において固体または液体形態で存在する。
【0069】
用語「有機酸」は、酸性の性質を有する有機化合物である1種または複数の分子を指す
。最も一般的な有機酸は、カルボン酸である。「カルボン酸」は、藻類の発酵に一般的に
使用されるグルコースのような糖炭化水素とは異なるカルボキシル基を含有する。酢酸は
、一般に化学的製造に使用される二炭素カルボン酸、CH3COOHである。対照的に、
有機塩、酢酸ナトリウム、CH3COONaは、酢酸の三水和ナトリウム塩である。プロ
ピオン酸(プロパン酸)は、化学式CH3CH2COOHを有するカルボン酸である。ア
ニオンCH3CH2COO-ならびにプロピオン酸の塩およびエステルは、プロピオン酸
エステル(またはプロパン酸エステル)として公知である。他のそのような酸としては、
これらに限定されないが、クエン酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、ピルビ
ン酸およびコハク酸が挙げられる。
【0070】
「糖酸」および「クロロゲン酸」も有機酸であり、これらに限定されないが、グルクロ
ン酸、ガラクツロン酸および他のウロン酸、ならびにリグノセルロース誘導体において得
られるようなカルボン酸官能基を有するフェルラ酸が挙げられる。有機酸は、単独でまた
は自然にリグノセルロース誘導体において起こりうる組合せのような組合せで使用されう
る。
【0071】
用語「従属栄養条件」および「従属栄養発酵」および「暗条件での従属栄養培養(cult
ivation)」または「暗条件での従属栄養培養(culture)」は、少なくとも1つの固定炭
素源の存在および発酵の間の光の非存在を指す。
【0072】
用語「イソプレノイド」または「テルペノイド」または「テルペン」または「イソプレ
ノイドの誘導体」は、任意の数の5-炭素イソプレン単位を有する、イソプレノイド経路
に由来する任意の分子であって、これらに限定されないが、モノテルペノイドならびにカ
ロテノイド類およびキサントフィルのようなその誘導体である化合物が挙げられる。イソ
プレノイド経路は、色素、テルペン、ビタミン、芳香剤、香味料、溶媒、ステロイドおよ
びホルモン、滑沢剤、添加剤および殺虫剤が挙げられるが、これらに限定されない、多数
の商業的に有用な標的化合物を生み出す。これらの化合物は、食品および飲料のための製
品、香料、飼料、化粧品、ならびに化学薬品、健康補助食品、および医薬のための原材料
において使用される。
【0073】
用語「カロテノイド」は、五炭素イソプレン単位から縮合されたポリエン骨格からなる
化合物を指し、「カロテノイド」は、非環式、または一(単環式)もしくは二環式である
ことができ、その数の環状末端基(二環式)で終端されうる。用語「カロテノイド」は、
カロテンおよびキサントフィルの両方を含みうる。
【0074】
「カロテン」は、炭化水素カロテノイドを指す。「キサントフィル類」は、酸素化カロ
テノイド類である。イソプレン誘導体のピロリン酸およびリン酸基の修飾としては、モノ
テルペン、ジテルペン、トリテルペン、またはセスキテルペンが挙げられるが、これらに
限定されない非環式、単環式および二環式テルペンをもたらすための酸化または環化が挙
げられる。
【0075】
用語「カロテン生成に好都合な条件」または「カロテン生成トリガー」は、細胞がカロ
テノイド類を蓄積する条件を意味する。これらの条件は、単独でまたは条件の組合せとし
て発生することができ、互いに置換されることもできる。条件は、培養プロセス中に内因
的に発生するものでもよく、または外因的に発生し、培養に供されるかまたは供給されて
もよく、またはその組合せであってもよい。条件は、実際的には、化学的、生物学的、お
よび物理学的であることができる。
【0076】
用語「微生物」は、顕微鏡的な単細胞生物を指し、例えば、これに限定されないが、微
細藻類が挙げられる。本発明による発酵に使用可能な微生物としては、これらに限定され
ないが、特定の特徴について選択された突然変異体、自然起源の菌株、または自然起源の
菌株の遺伝子操作された変異体が挙げられる。
【0077】
用語「微細藻類」は、葉緑体を含有する真核微生物であり、任意選択により光合成的で
あるか、または光合成的でありうる原核微生物を指す。微細藻類としては、これらに限定
されないが、エネルギーとして固定炭素源を代謝することができない、絶対光独立栄養生
物、および固定炭素源を代謝することができる絶対もしくは通性従属栄養生物が挙げられ
るが。絶対従属栄養微生物としての微細藻類としては、光合成的である能力を喪失してお
り、葉緑体または葉緑体レムナントを持つかまたは持たないものが挙げられる。微細藻類
は、分裂して細胞個体群を生成することができ、スケールアップするかまたは最大の生産
性が達成されるまで無期限に持続しうるプロセスであるバイオマスを生産するための生産
期に入ることができる。
【0078】
用語「組換え」は、細胞、核酸、タンパク質またはベクターに関して使用される場合、
その細胞、核酸、タンパク質またはベクターがその天然の状態から改変されていることを
示す。例えば、組換え細胞は、外因性の核酸もしくはタンパク質または天然の核酸もしく
はタンパク質の変更を含むか、あるいはそのようにして改変された細胞または生物または
微生物に由来する。
【0079】
種の選択された菌株または系統という文脈において、用語「ロバスト」または「ロバス
ト培養」は、所望の表現型および特に従属栄養下でもとの菌株に比べて等しいまたはより
大きな成長特徴を含有する藻類個体群を指す。ロバストな成長特徴を維持することは、増
加した色素含有量を有する突然変異体を得るために突然変異誘発および化学選択を使用す
る場合に、非常に問題になる。
【0080】
本発明の一部の実施形態では、増加した色素含有量または他の生成物の収率とともにロ
バストな成長特徴を従属栄養下で保持するために、突然変異体を生み出すための突然変異
誘発に依存しない方法に起因する新規選択および選択された亜集団が使用される。
【0081】
これまで、典型的な商業的発酵サイクルに適した短い時間枠における持続的で迅速な従
属栄養細胞成長の提供は、その固定炭素の単独の供給源として有機酸を使用する通性従属
栄養微生物のための極めて重要な因子として認識されてきた。
【0082】
本発明の好ましい実施形態は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)の細胞からバ
イオマスを製造することを可能とする方法またはクラミドモナス目(Chlamydomonadales
)の細胞により生成された目的の生成物を提供する。
【0083】
ある特定の実施形態では、本発明は、胞子形成性クラミドモナス目(Chlamydomonadale
s)あるいは栄養成長の停止をもたらし、それにより生成物形成を制限する、暗条件での
発酵培養の間の栄養枯渇に対する同様の形態学的もしくは生理学的反応または上昇した塩
濃度に対する感受性を有する他の微生物とともに使用される方法を提供する。
【0084】
有利なことに、本発明の方法は、従属栄養性のために有機酸を必要としないが、優先的
に使用することができ、よって、迅速な栄養成長のために、高レベルのアンモニウムまた
は他の代謝物の蓄積を軽減することができる、異なる微細藻類種を含みうる様々な細胞型
との共培養をさらに可能とする。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明は、費用効果のある暗条件での改善された従属栄養発酵
方法に関する。ある特定の実施形態では、本発明は、クラミドモナス目(Chlamydomonada
les)に属する細胞および他の有機酸要求性微生物細胞の使用を提供する。
【0086】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、従属栄養細胞が、工業製造に適した期間にわ
たってある比成長速度を達成することを可能とすることを対象とする。有利なことに、本
発明の方法は商業的に入手可能な装置を使用して実施することができる。
【0087】
ある特定の実施形態では、本発明は、イソプレノイドまたはイソプレノイドの誘導体お
よびバイオ水素の工業生産のための従属栄養発酵を提供する、クラミドモナス目(Chlamy
domonadales)に属する細胞を提供する。本発明の方法により生成されるイソプレノイド
としては、これらに限定されないが、色素性イソプレノイド、無色のフィトエン、または
炭素フラックスの中断もしくは再指示により生成可能なイソプレノイド誘導体が挙げられ
る。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明の細胞は、より速いバイオマス、色素またはイソプレノ
イド生成のようなより速い生成を提供する。別の実施形態では、本発明は、商業的規模の
バイオガス生成および組換え分子生成を示す細胞であって、発酵条件下で効果的かつ経済
的に機能する細胞を提供する。
【0089】
ある特定の実施形態では、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)の従属栄養細胞が
提供され、この細胞は、本明細書に開示された方法に従って培養された場合、細胞分化せ
ずに栄養相において色素を蓄積し、活性な天然の非メバロン酸MEP経路を示す。例えば
、非制限的な有機酸とともに供給された場合、本発明により提供される細胞は、光合成に
よる妨害がないという利益を受け、添加された吸収源(sink)への経路を通じた炭素フラ
ックスが起こる寸前である。ある特定の実施形態では、本発明により提供される細胞は、
クラミドモナス目(Chlamydomonadales)に属し、葉緑素を欠く非光合成的従属栄養細胞
である。
【0090】
一部の実施形態では、本発明は、改変されたイソプレノイドプロフィールを有する通性
従属栄養性クラミドモナス目(Chlamydomonadales)細胞からの従属栄養性バイオマスの
作成を可能とする方法を提供する。ある特定の実施形態では、本発明の方法を使用して、
高い成長速度においてファーメンター中で工業応用に有意義な比較的短期間にわたってバ
イオマスが生み出されうる。
【0091】
改変されたイソプレノイド生成のための従属栄養細胞を操作するために、イソプレノイ
ド合成のための組換え細胞を生成するために利用可能な多様な戦略が採用されうる。
【0092】
本明細書に記載された本発明の細胞および方法は、
1)生成期間の間、高い比成長速度を提供し;
2)塩毒性を管理するために有機酸を使用して、栄養成長に好都合な条件の延長を可能
とし;
3)塩毒性をさらに管理するために尿素を使用し;
4)細胞分化の要求を排除して、生成物の蓄積をもたらし;
5)光の非存在下で高い生成物収率を蓄積し;
6)栄養枯渇の非存在下で高い生成物収率を蓄積し;
7)この方法は、高収率、高品質および確実な発酵のための改善された菌株および細胞
株を採用する。
【0093】
抽出されたまたはバイオマスである従属栄養微細藻類は、動物飼料、ヒトの栄養および
栄養サプリメント、パーソナルケア、着色剤、香味料もしくは芳香剤、バイオエネルギー
、作物保護のため、または生成物形成の前もしくは後の化学修飾のために使用されうる。
【0094】
本発明の方法を使用すれば、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)を介したイソプ
レノイド類、カロテノイド類、バイオガスおよび他の生成物の生成について、大規模発酵
での藻類培養によって獲得される数え切れないほどの重要な利益が実現される可能性があ
る。
【0095】
本明細書に記載の本発明の改善された方法は、阻害されない成長を、48、72、96
、120時間またはそれを超えるようなより長い期間、かつ高い細胞密度で可能とする。
【0096】
本発明の方法は、培養の希釈への要求および炭素を供給するための酢酸ナトリウムへの
要求を回避する。これらの「要求」は両方とも塩の蓄積および成長の阻害を引き起こし、
本発明の方法において回避される。したがって、ある特定の実施形態では、本発明は、発
酵の間を通じて炭素の主要供給源として有機酸を利用する。窒素源として硝酸塩を使用す
ることを回避するため、および塩の添加を最小限にするために、一部の実施形態では、尿
素が挙げられるが、これに限定されない有機窒素が使用される。ある特定の実施形態では
、培養培地は、窒素源としての硝酸塩を欠いており、尿素を含む。
【0097】
一部の実施形態では、培養pHの増大が、余分の塩を培養培地へ導入せずに炭素源とし
ての有機酸のフェドバッチ様式の添加により相殺される。したがって、好ましい実施形態
では、培地は、固定炭素源として培地中で使用される有機酸の塩を欠いている。
【0098】
有利なことに、本発明の方法は、現在使用されている方法により培養された培養に比べ
た場合、約110%~約150%、または最大約250%またはそれを超える色素または
前駆体含有量の収率を提供する。
【0099】
一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の従属栄養のための屋内発酵容器の使
用であって、屋内発酵が、光栄養的におよび屋外で大容量で培養される菌株のための生物
安全性の新しい解決法を提案する、使用が提供される。発酵タンク、特に屋内に位置する
タンクの使用は、組換え生成物の工業規模の製造の規制上の承認を単純化することができ
る。
【0100】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される方法は、これらに限定されないが、ヘ
マトコッカス属の種(Haematococcus spp.)、例えば、H.プルビアリス(H. pluvialis
);クラミドモナス属の種(Chlamydomonas spp.)、例えば、コナミドリムシ(Chlamydo
monas reinhardtii);またはドナリエラ属の種(Dunaliella spp.)などの微細藻類細胞
を培養することによる、組換えタンパク質の発現のために使用されうる。
【0101】
工業応用における単一培養の使用は、特に発酵については標準的である。対照的に、自
然においては群衆生態学が見出され、レースウェイポンド型培養槽における光合成的藻類
生成の利益になる。従属栄養発酵の条件は、より速く成長する細菌の導入を強力に妨げう
るが、不可能とはせず、それらの望ましくない優占を防止する一方、標的微細藻類により
類似した細胞分裂頻度を有する真核生物の導入が有益でありうる。
【0102】
本発明の一部の実施形態では、共培養における個体群動態を改変する必要があるときに
、保留または供給可能な代わりの炭素または窒素源を必要とする真核生物が提供される。
したがって、本発明の一実施形態は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)に属する
細胞を第2の微生物と共培養する方法を提供する。
【0103】
したがって、本発明の特定の実施形態は、クラミドモナス目(Chlamydomonadales)に
属する細胞を培養して、十分なバイオマスおよび標的化合物を最短期間にわたって従属栄
養的に蓄積することを提供する。
【0104】
好ましい実施形態では、遅滞期が効果的に最小化または排除される。本発明のある特定
の実施形態では、比成長速度は、0.6/日以上であり、1.1/日以上まで増加し、成
長をもたらすのに十分な時間、約24時間超、約48時間超、または約72時間以上持続
される。
【0105】
特別な実施形態では、色素についての比生産性(qp)は、時間あたり約1.4mg/
Lであり、時間あたり約5.5mg/L以上まで増加される。別の実施形態では、総発酵
サイクル時間は、約72時間、約96時間、もしくは約120時間、もしくは144時間
であるか、または24時間~144時間の範囲内に収まる任意の持続時間により、または
経済的に正当化された持続時間である。
【0106】
別の実施形態では、本発明は、酢酸ナトリウムのような有機塩の代わりに有機酸の使用
を可能とし、よって、有機酸をその固定炭素源として必要とする微生物の従属栄養発酵の
間に見られる塩毒性を回避する。一部の実施形態では、酢酸ナトリウムの使用は、微生物
による代謝および成長のための代わりの固定炭素源による置換により最小化または排除さ
れる。したがって、本発明の方法において使用される固定炭素源としては、これらに限定
されないが、カルボン酸、糖酸、またはクロロゲン酸が挙げられる。固定炭素源の非限定
例としては、酢酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、グリコール酸、リンゴ酸、ピルビン
酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、またはプロピオン酸が挙げられる。ある特定の実施
形態では、固定炭素源として使用される有機酸は、リグノセルロース性バイオマスに由来
しうる。固定炭素源の追加の例は、当業者に公知であり、そのような実施形態は、本発明
の範囲内にある。
【0107】
固定炭素源は、単独でまたは組合せで使用されうる。協調的に、特別な実施形態では、
培養培地中の硝酸ナトリウムは、培養の前またはその間に複合窒素源と交換される。本発
明において有用と考えられる代表的な複合窒素源としては、これらに限定されないが、尿
素および加水分解されたカゼインが挙げられる。
【0108】
ある特定の実施形態では、硝酸塩が、より耐塩性である菌株における窒素源として、ま
たはある量で複合窒素源、または硝酸塩および複合窒素源の組合せとともに使用されうる
。
【0109】
一部の実施形態では、培養培地は、酢酸ナトリウムを含有する。酢酸ナトリウムは、単
独でまたは少なくとも1種の他の固定炭素源とともに使用されうる。好ましい実施形態で
は、少なくとも1種の他の炭素源は酢酸である。
【0110】
一部の実施形態では、酢酸ナトリウムのすべておよび少なくとも1種の他の固定炭素源
のすべてが、発酵の開始時に微生物に提供される。
【0111】
他の実施形態では、酢酸ナトリウムが発酵プロセスの開始時に提供され、少なくとも1
種の他の固定炭素源が所定の速度で発酵の経過にわたり、もしくはpH設定ポイントによ
り誘発された速度で提供される。例えば、一実施形態では、少なくとも1種の他の固定炭
素源は、発酵培地のpHが約7.5または約8.5に達したときに提供される。
【0112】
一部の実施形態では、酢酸ナトリウムは、第1の期間の間、少なくとも1種の他の固定
炭素源の非存在下で提供され、少なくとも1種の他の固定炭素源は、第1の期間の最後に
提供され、微生物は、第2の期間の間、少なくとも1種の他の固定炭素源の存在下で培養
される。
【0113】
ある特定の実施形態では、本発明は、従属栄養発酵の間に目的の生成物の蓄積のために
細胞分化を必要としない方法を提供する。例えば、ある特定の実施形態では、マクロ独立
細胞が、シスト形成が起こることなく、運動性で二鞭毛性のままである一方、カロテノイ
ド類、イソプレノイド、またはテルペノイドを蓄積する。
【0114】
さらなる実施形態では、本発明の方法は、光の非存在下で高い生成物収量の蓄積を可能
とする。ある特定の実施形態では、ファーメンター内の条件は、微生物が一般に培養中に
光合成せず、光への意図したもしくは適切な曝露により光誘導が可能とされる、いかなる
運転段階もないようなものである。
【0115】
ある特定の実施形態では、本発明は、栄養枯渇の非存在下における高い生成物収量の蓄
積も可能とする。例えば、ある特定の実施形態では、マクロ独立細胞が、栄養枯渇の非存
在下でカロテノイド類を蓄積し、運動性および二鞭毛性のままであり、シスト形成が起こ
らない。
【0116】
なおさらなる実施形態では、本発明は、少なくとも1種の他の微生物との従属栄養共培
養を提供する。好ましい実施形態では、2種の微細藻類菌株の間の相利共生は、高レベル
のアンモニウム(NH4
+、NH3)の蓄積またはそうでなければ、一方の菌株の細胞分
裂を阻害しうる他の代謝物が、他方の菌株により軽減される、と説明される。
【0117】
ある特定の実施形態では、共培養(co-culture)または共培養(co-cultivation)が、
標的種の増殖を促進するための戦略として使用される。特別な実施形態では、共培養は、
従属栄養性のためのその固定炭素源としての有機酸を必要とする菌株と従属栄養性のため
に有機酸を必要とせず、アンモニウムまたは低酸素下で蓄積しうるエタノール、乳酸塩、
もしくはギ酸塩が挙げられるが、これらに限定されない他の代謝物を優先的に利用しうる
別の菌株との間ものである。
【0118】
本発明は、バイオマスのために高収率のカロテノイド類およびイソプレノイド前駆体も
しくは誘導体を従属栄養的に生成するのに適した微生物を生み出し、培養すること、なら
びに上記微生物または上記カロテノイド類およびイソプレノイド前駆体もしくはその誘導
体を含有する生成物にさらに関する。
【0119】
本発明の微生物は、本明細書に記載の方法における使用のために選択または遺伝子操作
されうる。一部の実施形態では、以前には光独立栄養的にのみ培養されたクラミドモナス
目(Chlamydomonadales)のメンバーの従属栄養発酵が提供される。
【0120】
さらなる実施形態では、本発明は、暗条件での従属栄養発酵下で高生産性を提供する、
改善された菌株を提供する。
【0121】
一部の実施形態では、本発明は、遺伝子操作された生物の従属栄養培養を提供する。
【0122】
ある特定の実施形態では、本発明は、選択された自然発生的変異体の従属栄養発酵を提
供する。本発明の方法によれば、高生産性を有する自然発生的変異体の選択は、レーザー
フローサイトメトリー(FCM;蛍光活性化細胞分取、FACSと互換的に使用される)
により実行されうる。本発明の方法を使用して、もとの個体群に比べてより高い色素含有
量を有する藻類の亜集団が、標的色素をもとの個体群に比べてより迅速に蓄積するその能
力に基づき、FCMを使用して選択され、単離されうる。繰り返し選択が、改善された経
時的パフォーマンスを有する菌株を選択するために使用されうる。
【0123】
さらなる実施形態では、本発明は、生合成経路をさらに下った天然の最終化合物のレベ
ルの低減を伴う、前駆体化合物を蓄積する藻類の、単離され、選択された亜集団を提供す
る。好ましい実施形態では、蓄積する化合物は、フィトエンおよびフィトフルエンが挙げ
られるが、これらに限定されない無色の抗酸化化合物である。一部の実施形態では、これ
らの亜集団は、フローサイトメトリーを使用して蛍光差異に基づいて選択される。色素生
合成の化学的に誘導された封鎖を有する細胞において見られるように、そのような亜集団
は、これらの無色の高価値生成物をその種が自然に蓄積する色素のレベルと同様のレベル
で蓄積する。本発明の方法は、優れた工業パフォーマンスを有する改善された細胞株の回
収効率を増加させるために、各種にとっての正しい段階で実行される直接選択を提供する
。さらなる実施形態では、ナイルレッド、または脂質染色を使用する間接的な相関的選択
(correlative selection)も提供される。
【0124】
一部の実施形態では、葉緑素を失い、色素を蓄積する変異体が、急速に蓄積し高度に蓄
積する色素について選択される。他の実施形態では、細胞または個体群が利用され、この
細胞および個体群は、走光性反応を欠いて、もはや鞭毛を有さないことにより同定され、
よって非運動性であるが、なお栄養性である。そのような細胞は発酵システムにおいて有
益であり、それは、その鞭毛を有する対応物のようにインペラーによる損傷の影響を受け
やすくないからである。
【0125】
本発明のイソプレノイドとしては、これらに限定されないが、アスタキサンチンのよう
なカロテノイド/キサントフィル、または無色のフィトエンおよびフィトフルエンが挙げ
られる。
【0126】
一部の実施形態では、本発明の方法は、改変された生合成により特定の標的を蓄積する
、高生産性の遺伝子改変された細胞を効率的に培養する。好ましい実施形態では、これら
の標的としては、これらに限定されないが、リコペンまたはゼアキサンチンなどの二次代
謝産物である。さらなる好ましい実施形態では、これらは、付加されたシンターゼ遺伝子
/酵素の発現により得られたイソプレノイドである。
【0127】
本明細書に提供される方法は、容易に管理でき、より迅速な作物サイクル時間、一年中
のあらゆる地形における生産により容易に培養でき、それから所望の生成物が経済的に高
収率で得られうる細胞の使用を可能とする。
【0128】
収穫およびさらに目的の生成物を単離するためにバイオマスを処理することにおいて使
用される方法は、当分野で周知である。例えば、一部の収穫の方法としては、これらに限
定されないが、水切りのための遠心分離、凝集およびろ過、ならびに揮発性化合物および
バイオガスのための上部空間の捕捉およびスパージングまたは除去が挙げられる。
【0129】
本発明において有用な一部の抽出方法としては、これらに限定されないが、有機溶媒中
、食用油中および加圧流体および気体による抽出が挙げられる。
【0130】
ある特定の実施形態では、従属栄養的に生成されたバイオマスは、直接的にまたは動物
および魚類飼料中の混合物として使用される。例えば、アスタキサンチン含有バイオマス
は、魚類飼料のために使用され、組換えクラミドモナス(Chlamydomonas)バイオマスは
、家禽飼料中で使用される。
【0131】
他の実施形態では、イソプレノイドが抽出される。一部の実施形態では、米国特許第6
,022,701号に記載のとおりにアスタキサンチンが抽出される。アスタキサンチン
に関する数え切れないほどの出願としては、当分野で記載されたもの、例えば、Ambatiら
、2014年、表4および5が挙げられる。
【0132】
本発明のさらなる実施形態では、混合栄養条件下での改善された細胞培養が提供される
。一部の実施形態では、従属栄養条件のそれを超えて細胞の成長速度を増加させるために
、光が供給されることが望ましい。例えば、H.プルビアリス(H. pluvialis)において
は、混合栄養条件下での比成長速度は、従属栄養条件下での比成長速度よりも2.5倍高
い。コナミドリムシ(C. reinhardtii)においては、混合栄養条件下での比成長速度は、
従属栄養条件下での比成長速度よりも1.8倍高い。
【0133】
有利なことに、例えば、低減された塩の蓄積を介する本発明は、混合栄養系において延
長された対数期成長を提供する。これは、従属栄養条件下で見られたすでに高いレベルを
超えて細胞分化なしに色素蓄積を増加させるために、特に有利でありうる。混合栄養成長
のさらなる利益は、細胞が光を用いてCO2を固定するときに酸素を生成するため、培養
培地中の溶解した酸素レベルを維持するのがより容易であるということである。
【0134】
ある特定の実施形態では、本発明は、目的の生成物の大量蓄積のために培養細胞の分化
を必要としない発酵方法を提供する。
【0135】
他の実施形態では、本発明は、測定可能な高い比成長速度および生産性率のための暗条
件での顕著なバイオマス、カロテノイドおよびバイオガスの蓄積も可能として、短いサイ
クル時間を可能とする。さらなる実施形態では、本発明は、さらにより生産性の高い従属
栄養生物を作り出すために選択された新しい菌株を提供して、最低の運転コストのための
生成物レベルを最大化する。よって、細胞分化を必要としない暗条件での単純なプロセス
によってより高い収率を提供する発酵方法および細胞が記載される。
【0136】
本発明の方法は、微細藻類細胞、例えば、遺伝子改変された藻類細胞を、顕著な経済拡
大のために藻類の製造を一変させる確実な従属栄養プラットフォームにおいて培養するこ
とを提供する。
【0137】
本発明の方法は:
1)より迅速な製造サイクルと;
2)バイオマスまたは目的の生成物のためのより単純な生成ロジスティクスと;
3)化学合成と競合するために低減された運転コストと;
4)微生物発酵のための装置およびインフラ構造を使用する、より迅速な工業的規模拡
張と;
5)地理的位置に関係ない屋内の、屋外または開放的運転に関連した問題のない、一年
中の生産と;
6)顕著に増加した在庫およびもっと大きな市場へのアクセスと;
7)組換え分子の宿主として使用されるものを含む、複数の種のGMPおよび規制によ
る制限の下での大規模な経済的生産と
を提供する。
【0138】
純粋培養を確立すること、最終種菌の添加の前に複数の継代によるシードトレインを使
用すること、微細藻類の照明を防止するファーメンターの設計、および収穫または部分的
な収穫までの培養のような従属栄養藻類の培養のための一般原理および方法の例は、当分
野で、例えば、その全体が参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許第8,
278,090号に記載されている。
【0139】
特別な実施形態では、ファーメンターに添加される種菌は、ファーメンターへのその添
加の前の少なくとも1継代の間の暗条件でのクラミドモナス目(Chlamydomonadales)の
培養により、または複数の継代、例えば、2継代、3継代、4継代、または5継代の間の
暗条件での先の培養により生成されうる。
【0140】
ある特定の実施形態では、暗条件で一時期、ファーメンター中での微細藻類の培養後、
微細藻類のすべてまたは一部がさらなる発酵容器に移されることができ、ここで、微細藻
類はさらに一時期、培養されることができ、さらなる容器は、光への微細藻類の曝露を防
止する。実際面で、先に暗条件での発酵で成長しないが、混合栄養的性質を有すると報告
されたクラミドモナス目(Chlamydomonadales)のメンバー、例えば、多様な紅雪藻は、
本発明を実践するための候補である。
【0141】
収穫または分離、バイオマス処理、生成物としての未処理バイオマスの取り扱い、細胞
溶解、生成物抽出、超臨界流体処理、または生成物の他の単離および精製は、当業者に公
知の任意の方法論を使用して行われうる。そのような技術の非限定例は、例えば、その両
方が参照することにより組み込まれる、米国特許第8,278,090号および同第7,
329,789号に記載されている。
【0142】
生成物回収の非限定例としては、分別蒸留カラムの使用により異なる標的化合物を分離
することが挙げられる。抽出のための準備における濃縮、乾燥、粉末化、粉砕、または動
物および魚類飼料のためのバイオマスとしての使用のためのさらなる非限定例は、例えば
、その両方が参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許第6,022,70
1号および欧州特許出願公開第1501937号に記載されている。米国特許出願公開第
20120171733号は、参照することにより本明細書に組み込まれる、細胞溶解の
ための多様な手段を記載している。
【0143】
参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第200902144
75号は、天然のアスタキサンチンの抽出性およびバイオアベイラビリティを改善するた
めのヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)の柔らかい細胞壁を有
する変異体(soft wall mutant)菌株、ならびに動物飼料、ヒトの食物サプリメント、医
薬品、および食品におけるその使用を記載している。
【0144】
本発明の方法は、ファーメンターを使用した典型的な微生物成長曲線または成長サイク
ルを提供する。例えば、本発明の方法を使用して、細胞の種菌は、培地に導入された場合
に細胞成長または分裂が開始する前に遅滞期が続く。遅滞期に続いて、成長速度が着実に
増加して、ログフェーズまたは対数期に入る。μ=ln/(X/Xi)/t、式中、Xは
最終乾燥細胞濃度であり、Xiは初期細胞乾燥濃度であり、tは培養時間である、と定義
される比成長速度が、この期間中に測定される。栄養枯渇および/または阻害性物質の増
加により、成長の緩慢化(細胞分裂)が対数期に続く。成長が停止すると、細胞は静止期
または定常状態に入る。本発明の方法によれば、比生産性(qp)は、遅滞、対数および
静止期の全時間経過にわたり、収穫まで測定される;qp=(X)*(P)/t、式中、
Xは収穫物乾燥重量であり、Pは乾燥重量に基づく生成物のパーセントであり、tは培養
時間である。
【0145】
本発明の方法は、個々の細胞中の相対色素含有量のFCMによる測定を提供する。本発
明によれば、FCMは、もとの個体群に比べて平均を超える色素含有量を有する細胞を単
離するためにも使用されて、新たに作り出された亜集団中に増加した色素含有量を含む細
胞の個体群を生成することができる。さらに本発明の方法によれば、栄養細胞、未成熟シ
ストおよび成熟シストを鑑別するためにフルオレセイン二酢酸(FDA)染色を使用して
、FCMは、色素を蓄積し、運動性のままである細胞を識別し、単離して、もとの個体群
よりも速く色素を蓄積する新しい細胞亜集団を生み出すためにも使用されうる。これらの
方法は、非限定的であり、従属栄養下での最終的な成長のための多様な色素特徴、例えば
、高いアスタキサンチン、リコペン、フィトエンを有する任意の細胞型(運動性またはシ
スト)を選択するためにわずかに改変して応用されうる。
【0146】
本発明のある特定の実施形態では、遺伝子操作された微生物が、バイオ水素、イソプレ
ノイド、または組換え分子の生成のような特性を強化して、微生物により生成される成分
の性質もしくは割合を改変し、またはde novo成長特徴を改善もしくは提供するた
めに、従属栄養的に培養される。
【0147】
ヘマトコッカス属の種(Haematococcus spp.)(Sharon-Gojmanら、2015年)、ドナリ
エラ属の種(Dunaliella spp.)(Fengら、2014年)およびクラミドモナス属の種(Chlam
ydomonas spp.)(Lauersenら、2013年;Scaifeら、2015年;Scrantonら、2015年)の遺
伝子操作は、よく記述されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。プロモ
ーター、cDNAおよび3’UTRもベクターの他のエレメントも天然源から単離された
フラグメントを使用するクローニング技術により生み出されうる(例えば、Sambrookら、
2001年;および米国特許第4,683,202号を参照されたい)。代わりに、エレメン
トは、公知の方法を使用して合成により生み出されうる(例えば、Stemmerら、(1995年
)を参照されたい。)。選択マーカーおよびレポーターまたは導入遺伝子の挿入に際して
回復された突然変異体も、当分野で周知である。藻類培養条件において有用なある特定の
プロモーターは、アンモニウムまたは二酸化炭素のような刺激に対する反応のような誘導
発現のための使用を含む、例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許
出願公開第20090317878号に記載されている。
【0148】
組換え核酸分子またはポリヌクレオチドは、当分野で公知の任意の方法を使用して、植
物葉緑体または核に導入されうる。ポリヌクレオチドは、当分野で周知の様々な方法によ
り細胞に導入され、一部、特別な宿主細胞に基づいて決定される。参照することにより本
明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20090317878号は、核酸導入遺伝子
発現のための微細藻類中の遺伝子間のIGS配列の使用を記載している。さらに、遺伝子
操作された微細藻類のような微生物は、1つ、2つまたはそれを超える外因性遺伝子、特
にそれがトランスジェニックプラスチドであるとき、を含みうる。参照することにより本
明細書に組み込まれる米国特許第7,135,620号および米国特許第7,618,8
19号は、葉緑体発現ベクターおよび関連する方法を記載している。
【0149】
そのようなものとして、目的の生成物を合成するための方法が本明細書に記載されてい
る。その方法は:
固定炭素源としての有機酸を含む培養培地を提供するステップと;
目的の生成物を生成する微細藻類細胞を提供するステップであって、微細藻類細胞が通
性従属栄養生物である、ステップと;
微細藻類細胞を培養培地中、暗条件で培養して、微細藻類細胞から微細藻類培養物を生
成するステップと;
微細藻類培養物中の細胞が細胞分化を受ける前に、微細藻類培養から微細藻類細胞を単
離するステップと;
微細藻類培養物から目的の生成物を精製するステップと
を含む。
【0150】
目的の生成物としては、微細藻類細胞、色素、テルペン、組換え分子、バイオガス、ま
たはその前駆体を含む、微細藻類バイオマスが挙げられうるが、これらに限定されない。
色素としては、カロテノイド、イソプレノイド、またはその前駆体、例えば、アスタキサ
ンチン、ルテイン、リコペン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、ベータカロテン、フ
ィトフルエン、またはフィトエンが挙げられうるが、これらに限定されない。
【0151】
テルペンまたはその前駆体としては、ピネン、リモネン、またはゲラニルゲラニルピロ
リン酸が挙げられうるが、これらに限定されない。
【0152】
目的の組換え分子は、異種タンパク質、またはdsRNAが挙げられうるが、またはd
sRNAでありうる。
【0153】
好ましい実施形態では、本明細書に記載の方法は、通性従属栄養藻類細胞において色素
を合成するために使用される場合、少なくとも時間あたり0.063mg/Lの比生産性
率で色素を生成する。
【0154】
また、本明細書に記載の方法は、微細藻類細胞におけるより長期の栄養成長、例えば、
4日から1週間までの間、特に、48、72、96、120または144時間の栄養成長
を提供する。本発明の方法は、培養のステップを通じて、例えば、48、72、96、1
20または144時間にわたり、従属栄養成長および目的の生成物の合成を提供し、培養
のステップはフェドバッチ発酵下で実行される。
【0155】
上記のとおり、栄養枯渇条件下で、細胞分化期の間に目的の生成物が合成される、従来
方法とは異なり、本発明の方法は、栄養豊富な条件下で培養の栄養成長を通じて、目的の
生成物の合成を提供する。
【0156】
また、栄養枯渇および地上型灯器の条件下で、細胞分化期の間に目的の生成物が合成さ
れる、従来方法とは異なり、本発明の方法は、栄養枯渇条件下で培養の栄養成長を通じて
、光を必要とせずに目的の生成物の合成を提供する。
【0157】
本発明の方法は、混入物を排除するために閉鎖型培養システムにおいて生成され、した
がって様々な動物およびヒトの新規使用に適した高品質を有する藻類を提供する。本発明
の閉鎖型発酵システムはまた、より高密度、かつより速い成長速度でわずか数日の短いサ
イクル時間で大量のものをより低コストで提供する。本発明の好ましい実施形態では、藻
類はシスト形成の前に収穫され、暗条件、かつ栄養豊富な条件下で生成される。したがっ
て、その典型的な組成分析は、シスト形成し分化した細胞または色素形成のために光によ
りストレスを与えられた細胞とは実質的に異なる。
【0158】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、動物およびヒトのための使用に栄養上また
は着色上の利益を与える生成物のための、高タンパク質かつ低灰分組成(バイオマス中の
ビタミンおよびミネラルとともに)を有する色素性バイオマスの実質的に新しいプロフィ
ールを提供する。飼料着色剤または色素補助剤として働く一方、これらの栄養上の利益は
、送達される魚類由来の成分により提供されるものに匹敵する。この組成のおかげで、本
発明の方法を使用して生成される組成物も、食物の代用となる飲料またはカロテノイド添
加剤として送達される栄養素サプリメントにおいても魅力的である。
【0159】
一部の実施形態では、これらの藻類が、混入物を排除するためかつ短期間で高密度を達
成するために閉鎖型培養システムにおいて生成されるが、栄養状態では、本発明の藻類培
養は、種子の光バイオリアクターまたはレースウェイ型培養槽に播種するために働きうる
ため、シードトレインまたは生産サイクルの一部として、太陽放射または人工照明により
照らされる。
【0160】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、その組成のおかげで色素性バイオマスの実
質的に新しいプロフィールを提供し、このバイオマスは、例えば、カロテノイド含有ライ
セートまたは抽出物として送達されるパーソナルケアおよび化粧品成分として魅力的であ
る。
【0161】
本発明のある特定の実施形態では、培養培地は、窒素の主要供給源として尿素を含む。
【0162】
目的の生成物を単離し、精製するステップは、微細藻類細胞の乾燥、粉砕、溶解または
抽出のうちの1つまたは複数のステップを含みうる。
【0163】
本明細書にまた提供されるのは、目的の生成物の合成に好適な微細藻類細胞を同定し、
単離する方法である。この方法は:
a.少なくとも部分的な従属栄養条件下で微細藻類菌株を培養して、微細藻類細胞を生
成するステップと;
b.従属栄養条件下で成長させた場合、そこから微細藻類細胞が生成される微細藻類菌
株に比べて好ましい特徴を有する非突然変異誘発微細藻類細胞を同定するステップであっ
て、同定するステップが、蛍光活性化細胞分取技術および/または走光性反応を使用して
実行される、ステップと;
c.好ましい特徴を有する非突然変異誘発微細藻類細胞を単離するステップと
を含む。
【0164】
培養のステップは、少なくとも培養ステップの一部については、混合栄養条件下で実行
されうる。
【0165】
本発明の多くの実施形態では、細胞を同定するために、目的の生成物の微細藻類細胞に
よる合成の増加または微細藻類細胞における鞭毛の欠如、葉緑素を欠くまたは非光合成変
異体を含むが、これらに限定されない、多様な特徴が追求されうる。
【0166】
したがって、本発明は、親微細藻類培養物に比べて望ましい特徴を有する細胞を提供す
る。
【実施例0167】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に記載するために提供される。これらの実施例は
、例示としての役割を果たすものであり、本発明の限定は意図していない。
【0168】
[実施例1]
従属栄養菌株および培養の樹立
この実施例は、栄養成長に好ましい条件により培養される新規従属栄養細胞型および本
発明の方法を使用して生成物を作製することを目的とする。ヘマトコッカス(Haematococ
cus)の細胞は、環境試料として単離するかまたはテキサス大学(Austin, Tex., USA)の
Culture Collection of Algaeから入手したUTEX250
5のような菌株保存機関から得る。細胞は、光合成ヘマトコッカス・プルビアリス(Haem
atococcus pluvialis)菌株BMIのようなより高い塩耐性を有する単離物を含みうる(C
hekanovら、2014年)。細胞は、商業規模の光合成生産培養からも得られうる。存在する
場合には、シストまたは胞子の発芽は、分画され、細分化されて、緑色運動性細胞を含有
する培養を生成する運動性細胞を生成するのに好ましい条件下で起こる。倒立顕微鏡の使
用は、生活環ステージを同定するために有効である(栄養性、未成熟シスト、シスト)。
初期の混入物負荷を低減させるために、培養を200gで1分間遠心分離して、藻類およ
び混入物を含む重い細胞を選択的にペレット化する。遠心分離直後に、培地を除去し、滅
菌培地で交換し、1000gで1分間遠心分離し、運動性細胞を遠心管上部の光源にむか
って泳動させる。運動性細胞を収集し、新しい管に移し、上清に含まれる標的生物以外の
生物がわずかになるまで遠心分離を反復する。次いで、この混入物が低減された培養を、
さらに細菌量を低減させるために抗生物質(アンピシリン50mg/Lおよびセフォタキ
サミン250mg/L)で24~48時間処理し、次いで、希釈し、FCMを使用して標
的単一細胞を、200μLの当分野で公知の基本成長培地、例えば、同じ抗生物質を含む
ギリアードF/2培地(尿素で置換した硝酸塩でも改変した新鮮な水を)を含有する96
ウェルプレートにソーティングする。
【0169】
次に、菌株選択のための方法を実行する。光栄養条件、25℃において20μEの光の
下で96ウェルプレートを1週間インキュベートし;10μLの培養を、20mM酢酸ナ
トリウムおよび0.16g/L酵母抽出物を補充した200μLの上記F/2基本培地(
抗生物質を含まない)に移した。酢酸塩を含有するこの培養を、再度20μEの光の下(
混合栄養的)で1週間インキュベートして、倒立顕微鏡を使用して純粋培養を同定する。
純粋培養(10μL)を、暗条件で20mM酢酸ナトリウムおよび0.16g/L酵母抽
出物を補充した200μLの上記F/2基本培地(抗生物質を含まない)に移して、他の
生物のないことを確認し、従属栄養条件への適合を開始する。培養を純粋培養とした後、
数週間、毎週の選択を50mLのフラスコ中5mLの容量で実行して、非常に低い栄養条
件における従属栄養性運動性細胞型の新規表現型を特異的に選択する。光源を容器の上に
置いたときに走光性である能力に基づいて、運動性の細胞型をシストから単離する。この
細胞型は、ロバストな成長とともに従属栄養条件下で多数の世代にわたってその変異体表
現型を維持し、新しい菌株番号を割り当てられる。その後生み出される個体群は、ストレ
ス下でシスト形成に強硬に抵抗する成長の急速な運動性細胞を特徴とする、改善された菌
株である。他のクラミドモナス目(Chlamydomonadales)については、クラミドモナス(C
hlamydomonas)およびクロロモナス(Chloromonas)の細胞は、当分野で公知のように、
環境試料として単離するかあるいはChlamydomonas Resource C
enter CC-125もしくは137c、またはUTEX SNO4のような菌株保
存機関から得る。これらは、もとの細胞型として使用可能であるかまたは従属栄養条件に
おける好ましいパフォーマンスに好適な非突然変異誘発変異体の発生において(例えば、
実施例13を参照されたい);またはドナリエラ(Dunaliella)に関するような栄養転換
に関する組換え細胞型として(Chenら、2009年)使用可能である。同様に、先に光独立栄
養的にのみ培養されてきたクラミドカプサ(Chlamydocapsa)の細胞(米国特許出願公開
第20100316720号)は、CCCryo101-99、IBMT菌株保存機関な
どから得て、純粋培養とし、5.5のPH、14℃から15℃までで対応する培養培地(
3N-BBM)を使用して、上記従属栄養条件に適合させる
【0170】
[実施例2]
従属栄養成長のための培地組成および温度
成長の最大の増加をもたらす培地構成要素は、多様な種について同定されている。これ
は、最初は、開始基本培地を用いてフラスコレベルで実行し、固定炭素源として酢酸塩を
使用し、それは、頻繁な(時間ごと)手動の酢酸添加が過度に労働集約的であり、24時
間ひっきりなしのケアを必要とすると予想されるからである。H.プルビアリス(H. plu
vialis)KAS1601を一例として使用して、窒素源としての尿素の使用は、KNO3
に対して40%の成長増加をもたらし、28℃の温度は、25℃に対して57%の増加を
もたらし、静止期が開始する前の同じ時点の後に、全体として2.2倍のOD750の増
加をもたらした。特に、好ましい窒素源を、25℃の酢酸ナトリウム1.6g/L、酵母
抽出物0.16g/L、窒素1.76mM(尿素0.88mMまたはKNO31.76m
M)、硫酸マグネシウム七水和物0.05g/L、塩化カルシウム二水和物0.05g/
L、リン酸カリウム0.02g/L、鉄-EDTA0.01g/L、塩化鉄六水和物0.
0063g/L、四ナトリウムEDTA22mg/L、硫酸コバルト0.3mg/L、硫
酸マンガン6mg/L、硫酸亜鉛0.8mg/L、硫酸銅0.2mg/L、モリブデン酸
アンモニウム0.7mg/L、ホウ酸0.4mg/L、塩酸チアミン0.4mg/L、ビ
オチン2μg/L、およびビタミンB12、2μg/Lのベースライン培地からなる従属
栄養フラスコ成長培地を使用して決定する。分光光度計を使用してOD750測定値をと
る。2日目には、尿素とKNO3成長培地のOD750に差はないが、4日目までに尿素
を使用する培養はKNO3培養に比べて40%高いOD750を有する。好ましい温度は
、25℃、28℃および31℃で好ましい窒素源(尿素)を使用して決定する。25℃か
ら直接的にすすめ、適合を含まないこれらの条件下では、運動性細胞は、31℃で増殖し
ない。成長をモニターするために、分光光度計を使用してOD750測定値をとる。3日
目には、25℃と28℃の成長した培養に差はないが、5日目までに、28℃の培養は2
5℃の培養に比べて57%高いOD750を有する。他の菌株の従属栄養成長に適した培
地組成の決定のための同様の方法を、当分野で公知のとおりに行う。クラミドモナス(Ch
lamydomonas)について、同じ温度を、酢酸ナトリウム1.6g/Lを酢酸ナトリウム0
.4g/Lおよび上記のとおりに決定した好ましい窒素源(尿素)に交換してフラスコ中
で試験する。他の培地構成要素が、当分野で公知のとおりに標準的な多変量成長研究を使
用して、修飾されまたは除外されまたは添加されうる。これは、炭素源としての多様な有
機酸の使用を含み、有機酸は、1つのタイプまたはリグノセルロース誘導体において起こ
りうるように組み合わされた1つ超のタイプでありうる。
【0171】
[実施例3]
従属栄養培地組成およびマクロ独立細胞による色素生成
この実施例は、従属栄養条件下での好ましい成長のために選択した菌株を採用する。シ
ードトレインを記載するための例としてヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus
pluvialis)KAS1601を使用して、9個の500mLのH.プルビアリス(H. pluv
ialis)の栄養従属栄養培養を、25℃で1Lフラスコのバッチ培養中、早期成長期に0
.15のOD750を有し、後期成長期には約0.6のOD750まで増加する細胞密度
により測定して、うまく成長期に入ってから静止期に入る前までの十分な時間、100r
pmで振とうした。フラスコ成長培地は、酵母抽出物0.16g/L、尿素0.11g/
L、硫酸マグネシウム七水和物0.05g/L、塩化カルシウム二水和物0.05g/L
、リン酸カリウム0.02g/L、鉄-EDTA0.01g/L、塩化鉄六水和物0.0
063g/L、四ナトリウムEDTA22mg/L、硫酸コバルト0.3mg/L、硫酸
マンガン6mg/L、硫酸亜鉛0.8mg/L、硫酸銅0.2mg/L、モリブデン酸ア
ンモニウム0.7mg/L、ホウ酸0.4mg/L、塩酸チアミン0.4mg/L、ビオ
チン2μg/L、およびビタミンB12、2μg/Lからなる。加えて、フラスコ培地は
、酢酸1.15mL/Lを含むTris塩基2.78g/Lを含有するかまたは低密度の
フラスコ培養の手間のかからない成長を可能とするために、最初に酢酸ナトリウム1.6
g/Lを含有してもよい。培養は、3000gで5分間の遠心分離により濃縮されるかま
たはそのまま使用される。微細藻類細胞(
図1~10)を、0.2g/Lの最初のバイオ
マス密度で、14Lの発酵容器(New Brunswick BioFlo3000;
図1~30)中の3Lのファーメンター従属栄養成長培地(Tris塩基0.7g/Lお
よび最初の酢酸0.29mL/Lまたは任意選択により1回の酢酸ナトリウム0.4g/
Lとともに供給したフラスコ従属栄養培地と同じ)に移す。3L発酵培養を、3L/分の
注入空気および100~150rpmの傾斜ブレードインペラーによりpH7.8でもた
らされるガス交換とともに28℃でインキュベートする。BioCommand Sof
tware、ペリスタポンプおよびヘッドプレートポートを使用して、5%のポンプスピ
ードで供給する10%酢酸(
図1、実施形態20)のpHトリガー添加を含むフェドバッ
チ発酵の持続時間の間中、pHをH7.8~7.3に維持し、窒素およびリン(mMベー
スで9:1の割合)を発酵の間中、10%のポンプスピードで頻繁に(4~2時間ごと)
供給して、ファーメンター従属栄養成長培地の開始濃度の近くに窒素およびリンのレベル
を保つ。(酵母抽出物を除く)培地からの残りの栄養素を、10%スピードのペリスタポ
ンプを使用して発酵の24時間ごとに1回、供給する。容器への注入空気の量を4L/分
最大、撹拌を300rpmまで増加させることによって、溶解酸素を30%超に維持する
。10L体積の非トリガー細胞からの細胞を、90L体積(Eppendorf Bio
Flo 610ファーメンター中の培養10L+ファーメンター従属栄養培地80L)に
直接播種するために使用可能である。90Lの培養に、注入空気を50~100LPMお
よび350rpmまでの傾斜ブレードによる撹拌で上記のように供給する。この方法によ
り、結果として生じるバイオマス(最初の0.2g/Lから6g/L)を、遅滞時間を含
まず、0.7/日の高い比成長の96時間の延長された対数期を含む、120時間にわた
って生産する。これらの構成要素の使用は、急速に成長する細胞の生理学により現行の実
践よりも有利であり、窒素代謝からの培養pHシフトは有機酸の添加、炭素源としての倍
加、により対処して、余分の塩を培地に添加することなく培養pHの釣り合いをとる。乾
燥重量分析のために24時間ごとに試料(10mL)を収集して、比成長速度および藻類
生成物の色素含有量を決定する(
図1、実施形態40)。10mLの試料を直ちに300
0gで5分間、遠心分離し、上清を除去し、細胞ペレットを-80℃で凍結し凍結乾燥し
て、乾燥重量を決定する。バイオマス1mgあたり50μLのアセトンを用いて粉砕した
凍結乾燥バイオマスから、室温で5分間、色素を抽出する。分光光度計を使用して(Bi
oRad Smart Spec)、清澄化した抽出物の吸収を476nmで読み取る。
以下の式[A
476/217]×[抽出体積(mL)]×[希釈因子]を使用して総色素
(mg)を計算し、式中、217は、アセトン中のアスタキサンチンの吸光計数である。
色素パーセントを、抽出中の1mgのバイオマス当量あたりの色素のmgから計算する。
96時間で、バイオマスは赤色マクロ独立細胞中1.5%の色素含有量を有する2.1g
/Lに達し(
図2-右上);体積ベースで、これは31.5mg/Lに等しい。これは、
Hataら(2001年)における、時間あたり0.063mg/Lに比べて顕著に高い速度であ
る時間あたり0.33mg/Lの生成物形成(qp)に相当する。これは、Hataら(2001
年)における、0.21/日(0.009/時間)に比べて、24時間において検出可能
な遅滞期を含まない72時間にわたり、0.68/日(0.028/時間)の比成長速度
に相当する。特に、細胞拡大よりも細胞分裂による、延長された持続時間にわたる高い比
成長速度の従属栄養生産システムに関する顕著な改善を
図4に示す。同様の比成長速度お
よびより高い内在性色素含有量を有する細胞株は、2.3%の色素含有量が、時間あたり
0.5mg/Lの速度をもたらすように、本発明の方法によりより高いqp値をもたらす
。生産性は、細胞型選択または適合、共培養、ファーメンター播種および操作、ならびに
例示されたような他の手段により、さらに増加可能である。
【0172】
アンモニウム濃度が増加すると(2.5mM以上)、尿素およびリン酸塩が過剰であり
固定炭素源が制限されない場合でさえ、細胞は赤色化する。このプロセスは、生成サイク
ルが数日間持続するため(例えば、アスタキサンチン生成物形成データについては、
図2
-左図を参照されたい)、生成物形成を達成しつつ生成サイクルの好ましい持続時間を選
択するために、各細胞型について最適化可能であると理解される。この方法は、H.プル
ビアリス(H. pluvialis)菌株BMI(Chekanovら、2014年)の細胞のようないくらかよ
り高い塩耐性を有しうる細胞型にもあてはまり、暗条件で細胞分化せずに、光合成および
アスタキサンチン形成の下で報告された0.095/日を十分に超える成長を達成する。
そのような細胞型については、尿素および硝酸塩が両方とも使用可能である。赤色化のた
めの他の方法としては、ファーメンタープログラミングによる昇温が挙げられるが、これ
に限定されず、当分野で公知である。これは最終的に、一部の適用には望ましい可能性が
ある細胞分化を引き起こすと予想される。例えば、栄養細胞に比べてシストは容易にペレ
ット化し、水切りのために好ましい可能性がある。本明細書には、延長した期間にわたり
シスト形成をもたらし、ある特定の生産スケジュールには許容可能な他の条件が含まれる
。本発明の方法により従属栄養的に生成された色素の工業応用に許容可能な所望の品質は
、HPLCにより光合成により生成された生成物に化学的に等価であると証明される。
【0173】
微細藻類培養物が混入物を除外するためおよび栄養状態にある間に短期間で高い密度を
達成するために閉鎖型培養システムにおいて生成されているので、これらの藻類培養は、
シードトレインまたは生産サイクルの一部として太陽放射または人工照明により照らされ
た、光バイオリアクターまたはレースウェイ型培養槽に効率的に播種するために働くこと
ができる。本発明の方法により成長させた、10g/Lの細胞密度の200Lのファーメ
ンターは、0.2g/Lの細胞を10,000のレースウェイ型培養槽に供給することが
できる。本発明の方法に従って、多くの変更が可能である。よって、本発明の方法により
生成された生成物は、次いで従来の微細藻類生産システムにおいて使用される、高密度の
バイオマスである。本発明の方法は、土地占有面積を低減させ、従来の生産において経験
した一般的な混入物および捕食者を排除することもできる。
【0174】
[実施例4]
改善された従属栄養培地組成およびクラミドモナス(Chlamydomonas)細胞によるバイオ
マス生産
2Lフラスコ中の1Lの培養物6個を、フラスコ従属栄養培地中で実施例3に記載のと
おりに成長させた。実施例3のとおりに培養を濃縮し、14L発酵容器(Eppendo
rf-New Brunswick BioFlo 3000)中の(フラスコ従属栄養
培地と同じであるが、最初に0.25g/Lだけ酢酸ナトリウムを供給する)3Lのファ
ーメンター従属栄養成長培地中に0.05g/Lの最初のバイオマス密度で合わせた。3
Lの発酵培養を、5L/分の注入空気および100~250rpmの傾斜ブレードインペ
ラーによりpH7.8でもたらされるガス交換とともに28℃でインキュベートする。発
酵培養を維持し、実施例3のとおりに栄養素および固定炭素源としての有機酸をフェドバ
ッチ様式で供給する。当分野で周知の方法を使用して、成長曲線を作成し、栄養培地中の
尿素、リン酸塩およびアンモニウムのレベルを測定するために、試料(10mL)を24
時間ごとに収集する。コナミドリムシ(C. reinhardtii)KAS1001を使用して、8
.25g/Lのバイオマスに到達する、72時間にわたる1.7/日(0.07/時間)
の比成長速度を達成し;これは、成長停止の前にわずか約1.4g/Lに到達するバイオ
マス収率を伴う40時間のみの持続時間についての先の最高速度1.7/日(0.07/
時間)(Zhangら、1999年)に比べて、ほとんど2倍の発酵持続時間を伴う顕著に高い収
率および延長した加速成長である。この約1.4g/Lのバイオマスは、塩毒性による成
長阻害、よって比成長速度における短い持続時間と低い細胞密度のみをもたらす、少なく
とも2.8g/Lまたは34mMの酢酸ナトリウムを必要とする。実施例3に記載のとお
りに100Lのバイオリアクターに移したクラミドモナス(Chlamydomonas)培養は、4
日間にわたって少なくとも1.0/日の比成長速度を維持する(生産サイクル:120時
間)。0.2g/Lの最初の細胞密度は、溶解酸素を必要に応じて増加させるために加え
た5psiの容器圧力とともに実施例3においてH.プルビアリス(H. pluvialis)につ
いて記載した条件下で成長させた場合、20~30g/Lを超える最終細胞密度を生み出
し、成長が阻害されない、高い速度の活性な細胞分裂の延長された期間を実証している。
当分野で公知のとおりの温度および培地構成要素の調整とともに、同様のプロセスをクラ
ミドカプサ(Chlamydocapsa)およびクロロモナス(Chloromonas)に適用する。
【0175】
[実施例5]
セネデスムス・オブリカス(Scenedesmus obliquus)を使用する、H.プルビアリス(H.
pluvialis)の共培養におけるアンモニウム制御
2.5L体積のH.プルビアリス(H. pluvialis)KAS1601を実施例3のとおり
に従属栄養フラスコ培地中で成長させた。1リッターのS.オブリカス(S. obliquus)
KAS1003を非有機酸炭素源(グルコース3.6g/L)および代替窒素源(塩化ア
ンモニウム0.09g/L)とともに、実施例3に記載のとおりに従属栄養フラスコ培地
中で成長させた。実施例3に記載のとおりに培養を遠心分離し、3.6g/Lのグルコー
スを補充した実施例3に記載の従属栄養発酵培地中、3L体積のH.プルビアリス(H. p
luvialis)とS.オブリカス(S. obliquus)の共培養に濃縮した。或いは、S.オブリ
カス(S. obliquus)を、当分野で公知のとおりにアルギン酸または多孔質ビーズ中に包
埋し、ろ過、磁力または他の手段を使用するエンドポイント除去を可能とした。この3L
の発酵培養を実施例3に記載のとおりに維持した。試料を24時間間隔で採取して、バイ
オマス乾燥重量を得て、アンモニウム濃度を測定した。96時間で、アンモニウム濃度は
、わずか1.4mMアンモニウムに到達したにもかかわらず、実施例3からのH.プルビ
アリス(H. pluvialis)の3L発酵培養中では45mMのアンモニウムを観察した。この
3L発酵は、0.77/日(0.032/時間)の比成長速度をもたらす。最終バイオマ
スは、混合微生物を含む開放の池で自然に発生しうるものと同等かまたは優れる、約99
%以上のH.プルビアリス(H. pluvialis)バイオマスからなる。細胞型または固定炭素
源としてのグルコースの投与のような共培養パラメータの調整は、約2.5mMアンモニ
ウムのカロテン生成トリガーに対して異なる標的成長速度および生産性に到達することを
可能とする。適切なアンモニウム制御を伴う0.2g/LのH.プルビアリス(H. pluvi
alis)バイオマスで開始する発酵培養は、120時間で0.77/日の比成長速度および
4.3g/Lのバイオマス収率を伴う少なくとも96時間の延長された対数期を経験する
。適切なアンモニウム制御を伴う1g/LのH.プルビアリス(H. pluvialis)バイオマ
スで開始する発酵培養は、120時間で0.77/日の比成長速度および22g/Lのバ
イオマス収率を伴う96時間の延長された対数期を有する。最後の48時間は、アンモニ
ウムストレスを伴い、その最初の24時間(72~96時間)は、対数期としてバイオマ
スが同じ比成長速度でなお蓄積し、その2番目の24時間(96~120時間)は、アス
タキサンチンが運動性細胞の乾燥重量の1.5%まで蓄積した。この120時間の発酵ラ
ンは、時間あたり0.063mg/Lの顕著に低い収率を示したHataら、(2001年)に比
べて、時間あたり5.5mg/Lのかなり優れた色素のqpをもたらした。バイオマスが
蓄積し、色素生成中に細胞分裂が停止するために高い成長速度が短時間しか持続しない先
行技術とは異なり、本発明の方法は、必要に応じて7日超を含む、何日にもわたり延長さ
れた高い比成長速度を可能とする。この実施例では、S.オブリカス(S. obliquus)が
、多くのそのような細胞型について当分野で公知のとおり、それがなお有機酸でない固定
炭素源を好み、窒素源として優先的にアンモニウムを消費する限り、従属栄養成長に適し
た異なる微生物細胞型で交換可能であると理解される。アスタキサンチンまたは他の色素
生成細胞型または油生成細胞型の中の選択肢は、当分野で公知のとおり、セネデスムス(
Scenedesmus)、クロレラ(Chlorella)、モノラフィディウム(Monoraphidium)、ロド
トルラ(Rhodotorula)(赤色酵母)の他の種ならびにフェオダクチラム(Phaeodactylum
)およびシクロテラ(Cyclotella)のような多くの様々な珪藻植物、ならびにスラウスト
キトリッド(thraustochytrids)およびスラウストキトリッド(thraustochytrid)様の
細胞型である。共培養からのバイオマスは、特に、細胞の割合が好都合に操作される場合
、1つの生物由来の価値ある生成物が第2の生物のそれを補完することに寄与できる。例
えば、珪藻植物は、フコキサンチンを含有し、セネデスムス・オブリカス(Scenedesmus
obliquus)は水溶性のカロテノタンパク質を含有し、スラウストキトリッド(thraustoch
ytrids)は、DHA脂肪酸を含有する。
【0176】
[実施例6]
コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)を使用するH.プルビアリス(H. pluvia
lis)の共培養におけるアンモニウム制御:およびカロテン生成に好都合な条件
3LのH.プルビアリス(H. pluvialis)KAS1601を実施例3のとおりに従属栄
養フラスコ培地中で成長させた。1リッターのコナミドリムシ(C. reinhardtii)KAS
1001を実施例3に記載のとおりに従属栄養フラスコ培地中で成長させた。培養を、5
mMから20mMまでの間の酢酸ナトリウムとともに実施例3に記載の従属栄養フラスコ
培地中のH.プルビアリス(H.pluvialis)とコナミドリムシ(C. reinhardtii)の共培
養に混合した。3Lの発酵培養を実施例3に記載のとおりに維持した。試料を24時間間
隔で採取して、バイオマス乾燥重量を得て、アンモニウム濃度を測定した。120時間の
発酵の間、アンモニウム濃度は効果的に1mM未満に維持したが、実施例1におけるH.
プルビアリス(H. pluvialis)の単独培養は、45mMアンモニウムに到達する。この3
L発酵は、96時間にわたって0.90/日(0.038/時間)の比成長速度をもたら
した。最終バイオマスは、混合微生物を含む開放の池で自然に発生しうるものと同様の約
99%のH.プルビアリス(H. pluvialis)バイオマスからなるものであった。発酵シス
テムに典型的な細胞型の投与のような共培養パラメータまたはrpmおよび酸素負荷のよ
うな操作パラメータの調整は、H.プルビアリス(H. pluvialis)のための約2.5mM
アンモニウムのカロテン生成トリガーに対して異なる標的成長速度および生産性に到達す
ることを可能とする。発明者らは、微細藻類培養物が時間あたり0.063mg/Lの先
に報告された値をはるかに超える比生産性率でアスタキサンチンを生成することを観察し
、すなわち、発明者らは、1.5%のアスタキサンチンにおける15g/Lのバイオマス
により、時間あたり1.0mg/L、好ましくはより高い時間あたり1.875mg/L
を、3%のアスタキサンチンにおける15g/Lのバイオマスにより、さらにより高い時
間あたり3.75mg/Lを5日間で得ており;とりわけ、これは従属栄養成長における
時間あたり0.063mg/L(Hata、2001年より)よりも30~60倍高い。
【0177】
追加の内在性または外因性トリガーは、培養の栄養成長を通じ、完全な暗条件で生成物
形成において有効である。イソプレノイド生成のために、これらは「カロテン生成に好都
合な条件」と呼ばれることができ、例えば、
図3および実施例9に記載されている。例が
好都合な条件としてアンモニウム蓄積を提供するが、アンモニウムが参照されるいかなる
ところでもカロテン生成に好都合な他の条件が置き換え可能であると理解される。これら
のカロテン生成に好都合な条件としては、過剰のアンモニウム(>2.5mM)、リン酸
塩枯渇、硫酸塩枯渇、尿素枯渇、2.6g/Lよりも高いNaClまたは浸透圧寄与体に
貢献する他のもの、3g/Lを超える乳酸、成長温度をセ氏2度超える温度増加、または
その任意の組合せもしくは置き換えが挙げられる。条件は、特にイソプレノイド経路にお
いて炭素フラックスに影響を与える前駆体化合物の追加の供給が挙げられうる。例示され
たが、実施例5および6に限定されない請求項1の方法を使用して、これらの好都合な条
件下で細胞分裂は停止せず、細胞は、長さが(鞭毛を除いて)10~12ミクロンの緑色
マクロ独立細胞と同じサイズまたはさらにわずかに小さいままであり、運動性であり、そ
の鞭毛を維持し、有機酸の供給は無制限である。
【0178】
[実施例7]
突然変異体または遺伝子操作された生物における改変されたイソプレノイド生成を有する
従属栄養細胞
この実施例は、フィトエン、ゲラニルゲラニルピロリン酸、フィトフルエンおよび他の
上流の蓄積性色素または色素前駆体ならびにテルペンのような他の吸収源(sink)の改変
された発現を有する従属栄養細胞に関する。そのような従属栄養的に成長した細胞は、本
発明の方法において使用されうる。例えば、フィトエン(無色)およびフィトフルエン(
色素性)は、化粧品におけるUV吸収において並外れた価値を有する。高い色素蓄積を含
む従属栄養細胞は、もとのエンドポイント色素へのフラックスを停止または遅延させるこ
とにより、フィトエン(または他の化合物)の高い細胞および細胞株を作り出すための突
然変異誘発または遺伝子操作による処理のための理想的な出発材料を作製する。実施例3
におけるような従属栄養フラスコ培地中の5mLのH.プルビアリス(H. pluvialis)の
従属栄養性の栄養培養を、それが0.15のOD750に達したときにCL-1000U
V Crosslinker(254nmのUV-C光)を1分間、50%の細胞死が起
こるように光源から13cmにおいて使用して、突然変異誘発した。振とうしない暗条件
で室温における120時間の回収後、カロテン生成が開始するような十分のアンモニアが
培地中に蓄積した。5mLの細胞を遠心分離し、4mLの培地を除去した。流動選別の前
に50μmのメンブレンを通して細胞をろ過する直前に、DAPI(4’,6-ジアミジ
ノ-2-フェニルインドール)を添加した(1μg/mL)。フローサイトメトリーを使
用して、アスタキサンチンまたは他の有色色素を生成しない細胞を単離した。488nm
の光源を使用した場合に、自己蛍光が530nmでは高く、695nmにおいて低い、微
分蛍光分析に基づいて単離および選択を実行した。フィトエン含有量の定量化のために、
単離物を実施例3のフラスコ従属栄養培地中、5mL体積まで120時間、成長させた。
1mLのアセトンをバイオマス1mgあたりで使用して、凍結乾燥し、粉砕したバイオマ
スからフィトエンを抽出した。同じ突然変異体単離物からのフィトエン含有量分析を、異
なる栄養成長物(vegetative grow out)およびカロテン生成シスト形成サイクルについ
て実行して、再現性を確実にした。フィトエン蓄積性突然変異体を単離するプロセスにお
いて、(正常な野生型におけるような)アスタキサンチン以外の化合物を差次的に蓄積す
る細胞は、ルテイン、リコペン、ベータカロテン、カンタンキサンチン、またはフィトフ
ルエンまたはさらに新しく異なる自己蛍光特性に基づいて同定可能であるような関連する
ゲラニルゲラニルピロリン酸を蓄積した。外因性の有機酸を供給される一方、暗条件で培
養されるおかげで、この従属栄養細胞は、有害な成長効果のない別の表現型を発現する。
これは、フィトエン突然変異体にとって特に有益である。この実施例は、ルテイン特性の
変化を含む、葉緑素を欠く表現型の使用にもあてはまる。当分野で公知のとおり、色素を
HPLCにより確認した。この従属栄養細胞由来のバイオマスは、ホスファターゼのよう
な外因性酵素の導入のための、または化学修飾における使用のための蓄積された前駆体の
単離のための標的となりうる。この細胞は、フィトエンデサチュラーゼノックアウトもし
くはノックダウン、またはリコペンシクラーゼおよび下流のノックアウトもしくはノック
ダウンのような生合成経路中の酵素に影響を与える突然変異誘発されたまたは遺伝子操作
された材料に起源を有しうる。
【0179】
同様に、ピネンおよびリモネンなどのための添加されたイソプレノイドまたはテルペン
シンターゼを含む従属栄養組換え細胞は、多数あり当分野で周知であって最適化されうる
イソプレノイドシンターゼ、または修飾されたゲラニルゲラニルピロリン酸もしくは当分
野で公知の他の前駆体とともに、最初に上記FCMベースのステップを使用して間接的に
選択されることができ、それは、これらの分子への切り替えがもとの吸収源であるカロテ
ノイド類に検出可能な減少をもたらし(Wangら、2015年)、野生型またはもとの未処理対
照に比べて530nmにおける自己蛍光をより低下させうるからである。多くのテルペン
が消費財において機能を果たすが、燃料添加物としてのリモネンにおけるようなバイオエ
ネルギーのためにも機能を果たす。リモネンシンターゼ発現に関する核性従属栄養クラミ
ドモナス(Chlamydomonas)細胞組換え体を、米国特許出願公開第2009031787
8号に従ってrDNA IGSへの挿入のためにまたはリモネンシンターゼ、プラスチド
ターゲティングおよび発現エレメントを含むGeneArt(登録商標)Chlamyd
omonas Engineering Kit(Thermo Fisher Sci
entific)との使用のために、当業者に理解される方法を使用して改変したベクタ
ーを使用して作成した(SyrenneおよびYuan、2014年)。特に、リモネンは、その後の分
離のために微細藻類から液体培養の上部空間に揮発する。或いは、リモネン発現に関する
プラスチドの従属栄養クラミドモナス(Chlamydomonas)細胞組換え体を、当分野で公知
の方法または組換えクラミドモナス(Chlamydomonas)葉緑体について実施例12に記載
したものを使用する、スペアミント(Mentha spicta)由来のリモネンシンターゼの相同
組換えを介する挿入により作成した。同様に、リモネン発現に関する核性またはプラスチ
ド性従属栄養ヘマトコッカス(Haematococcus)細胞組換え体を、Alonso-Gutierrezら、2
013年(プラスチドに関して)、またはSharon-Gojman、2015年(核およびプラスチドに関
して)の方法を使用して作成し、上記例に記載のFCM選択を使用して選択した。次いで
、これらを発酵培養に供して、上記例に従って72時間の間、1日あたり0.7超の比成
長速度を達成した。
【0180】
[実施例8]
速い色素蓄積を伴う、アンモニウム耐性またはカロテン生成誘発された従属栄養細胞を単
離すること
任意のカロテン生成トリガーまたはトリガーの組合せが、流動選別のための細胞を作成
するために使用されうる。過剰のアンモニウムを使用する例として、実施例3におけると
おりの従属栄養フラスコ培地中のH.プルビアリス(H. pluvialis)の栄養培養5mLを
、成長培地中のアンモニウムを例えば2.5mM以上まで蓄積させることにより、カロテ
ノイド類を形成するように誘導した。アンモニウムストレスの8~48時間後に、カロテ
ノイド含有量が上昇した(低減された葉緑素)運動性細胞を、FACS Ariaフロー
ソーターを使用するフローサイトメトリーにより単離する。運動性性細胞の単離を確実に
するために、DAPIを分別培地に添加して、運動性細胞(DAPI陽性)およびシスト
(DAPI陰性)を識別し;695nmからの低い自己蛍光を有するDAPI陽性細胞は
低レベルの葉緑素を有し、530nmからの高い自己蛍光を有するDAPI陽性細胞は、
ベータカロテンが上昇した(最終的なアスタキサンチン蓄積の代理)。実施例1に記載の
方法を使用して、96ウェルプレートからの単一細胞単離物を実施例3のとおりに5mL
体積まで成長させ、アスタキサンチン含有量定量化のためにカロテン生成形成条件に移し
た。1mgのバイオマスあたり1mLのアセトンを使用して、凍結乾燥し粉砕したバイオ
マスからアスタキサンチンを抽出した。同じ単離物からのアスタキサンチン含有量分析を
、異なる栄養性成長物およびカロテン生成サイクルについても実行して、再現性を確実に
した。アンモニウムストレスの期間を48時間を越えて延長することは、特に、ストレス
状態が延長された後であっても、すぐに分化およびシスト形成せずに、カロテノイド類を
蓄積してマクロ独立細胞のように運動性のままでいる亜集団を生成する1種または複数の
細胞を選択する。この方法によって選択された細胞は、無色であること、またはアスタキ
サンチンに限らず前駆体または他のイソプレノイドの蓄積を示すことなどの様々な色素の
特性を有する可能性がある。
【0181】
カロテン生成のための特定の条件下で選択した細胞についての第1の色素蓄積表現型は
、遺伝性が高いかまたはこれらの特定の条件に特有であるように見える。言い換えれば、
遺伝子型xの環境応答は、もとの個体群より10%増加したアスタキサンチン含有量を有
する硫酸塩枯渇応答性細胞が、カロテン生成誘発についての異なる条件としての尿素枯渇
下で同じ応答を示さないような、強力なものに見える。例として、カロテン生成に好都合
な条件としての硫酸塩枯渇後に、色素蓄積の速いカロテノイド類に富む従属栄養細胞をど
のように単離するかは、実施例3におけるとおりの従属栄養フラスコ培地中のH.プルビ
アリス(H. pluvialis)の栄養培養5mLを、硫酸塩を欠く成長培地に細胞を移すことに
よってカロテノイド類を形成するように誘導した。カロテン生成トリガーの8~48時間
後に、カロテノイド含有量が上昇した運動性細胞(低減された葉緑素)を、選別し、フロ
ーサイトメトリーにより単離する。HPLCによりカロテノイドプロフィールを分析して
、存在する色素の割合(
図3)を決定し、各トリガーおよびトリガーの組合せが異なるカ
ロテノイドプロフィールをもたらしうる。
【0182】
[実施例9]
藻類生成物の使用
多くの飼料、食品、栄養補給食品、医薬品、化粧品および作物保護への適用、ならびに
多くの他の適用において、無処置のバイオマスまたは抽出した構成要素を利用するための
多くの異なる方法がある。望ましい構成要素としてカロテノイド類を使用する、一部の非
限定例を本明細書に提供する。例えば、本発明の方法により得られたアスタキサンチン含
有生成物は、抽出されまたはバイオマス全体中に保持されるか、あるいは動物飼料、ヒト
の栄養および栄養サプリメント、パーソナルケアおよび化粧品、ならびに着色剤のために
使用される、脱脂した食物のような処理されたバイオマス中の残留物である。ヘマトコッ
カス(Haematococcus)藻類バイオマスまたは食物の一般的組成は、一般的なカロテノイ
ド類、脂肪酸、タンパク質、炭化水素、およびミネラルからなる。ヘマトコッカス(Haem
atococcus)中のアスタキサンチンは、およそ70%の(16:0、18:1および18
:2の脂肪酸に連結された)モノエステル、25%のジエステルおよび5%の遊離色素で
ある。このエステル化された組成は、サケ科の魚類の天然の食餌供給源である甲殻類のそ
れに類似しており、容易に代謝される。1.5%のアスタキサンチン含有量において、約
5.33kgのヘマトコッカス(Haematococcus)藻類バイオマスまたは食物が、この着
色剤が飼料用に承認された典型である80ppmのアスタキサンチン濃度を達成するため
に、飼料1トンあたりに添加される。無処置のバイオマスのタンパク質および他の分画は
、特に(化学合成され、持続可能でない)人工アスタキサンチンによってはもたらされな
い追加の飼料価値を提供する。本発明の方法により生成された壁の薄い藻類全体の相対的
なもろさは、魚類の幼魚の健康および成長に影響を与えるための、消化性および栄養素利
用可能性に関連する、当分野で公知の資格を与えられうる利益とともに、細胞破壊の容易
さに関して、代わりの壁の厚い不動胞子よりも有益である。
【0183】
本発明の方法由来の色素抽出物は、産業において実践されるように光栄養的に生成され
た材料からの色素抽出物と同様に取り扱い、加工し、使用される。例えば、エタノール性
抽出、超臨界流体抽出、および加圧液体抽出は、パーソナルケアおよび化粧品成分産業に
おいて許容可能な実践である。光合成的に成長し、明条件でカロテノイド類を蓄積するよ
うに誘導されたヘマトコッカス(Haematococcus)バイオマスからの抽出物は、圧倒的に
アスタキサンチンのみからなる(総カロテノイド類の約85%から99%まで)ことが周
知であり、本発明の方法を使用して従属栄養的に成長したヘマトコッカス(Haematococcu
s)からの色素性バイオマスの抽出物は、圧倒的なアスタキサンチンプロフィールをもた
らすだけでなく、パーソナルケア特性を有する多様な自然でかつ有用な色素の独特の混合
物ももたらすことができる。そのような数種の新規混合物は
図3に示され、非限定的であ
る。生産ランの経過中の細胞成長および栄養素消費による計算された枯渇キネティクスに
より内在的に起こりうる、従属栄養的硫酸塩枯渇(
図3A)は、例えば、独特のルテイン
豊富でアスタキサンチン豊富なカロテノイド組成物をもたらし、ここで、ルテインはアス
タキサンチンの量の半分を構成することができ;カロテンとルテインは総カロテノイド類
の3分の1超(37%)を構成し;アスタキサンチンは半分超(57%)を構成する。こ
れは、ルテインによる(太陽放射または電子デバイスのスクリーンからの人工光からの高
エネルギーの可視ブルーライトを含む)ブルーライトのフィルトレーション、UV損傷、
酸化的ストレスおよびアスタキサンチンによる炎症からのさらなる保護に有用である。こ
の新規抽出物は、眼の網膜の健康、さらに皮膚の着色に利益をもたらすために現在個別に
消費または適用されている化合物を併せて送達する役割を果たす。生物活性化合物のこの
天然の融合は、第2の細胞型、例えば、いくらか異なる波長(ルテインについては約42
0~520nm、フコキサンチンについては380~480nm)における追加のブルー
ライト保護のためのフコキサンチンおよびジアジノキサンチンを自然に含有する珪藻植物
、をさらに含みうる。スキンケアならびに飼料適用において価値のあることが認められて
いるカロテノイドである、カンタキサンチン(5%まで)も色素混合物を構成することが
できる(
図3)。
【0184】
不動胞子シストに分化しない従属栄養細胞の順応的な色素プロフィールは、尿素枯渇(
図3B)または色素プロフィールが類似したアンモニウム蓄積、リン酸塩枯渇、もしくは
外因的に与えられた浸透圧ストレス(
図3C)について計算されたキネティクスを採用す
ることにより、藻類生成物の他の用途のために改変し、または個別化することができる。
通常、抽出された樹脂は、尿素ストレスによるなど顕著に油性であるか、または硫酸塩ス
トレスによるなど比較的油性でなくてもよく、フィトステロールを含む。例として、微細
藻類バイオマスの抽出により生成されたオレオ樹脂は、C16:0(29%)、C18:
1ω9(20%)、C18:1ω7(3.5%;皮膚の健康をサポートすると言われてい
るオメガ7脂肪酸を含む)、C18:2ω6(21%;有益な皮膚細胞オートファジーを
誘導することが報告されているリノレン酸を含む)、C18:3ω3(7%)およびC2
0:4ω6+C20:5ω3(1.5%)からなる脂肪酸を含有する。
【0185】
本発明の方法により生成された化粧品原料の一例は、Haematococcus P
luvialis ExtactというINCI名称を有するAstaFusion(C
AS登録番号1174756-78-5)である。抽出された樹脂は、アスタキサンチン
とカロテン、ルテイン/ゼアキサンチン、およびカンタキサンチンと天然の琥珀中の微量
カロテノイド類を結合して、市場における現行の藻類アスタキサンチン原材料中には見出
されないオレンジ色のブレンドとする。
【0186】
色素の融合物は、数多くのより広いパーソナルケアの健康効果に相乗的に働きうる。例
えば、局所的スキンケア製品におけるブルーライトフィルターとして、エタノールにより
バイオマスから抽出したAstaFusion樹脂は、主成分ルテイン+カロテン(また
はルテインのみ)が、ブチレングリコール、スクアランまたはオイル中に最終的な内包率
0.005~0.05%で分散されている。樹脂は容易に溶解して、例えば、1%のアル
ファトコフェロールにより保存された体積で40%のスクアラン中、50~60%の藻類
オレオ樹脂、または70%の植物油中30%の藻類オレオ樹脂を生成する。パフォーマン
スデータのために、光防護活性値は、当分野で公知のとおり、Minolta Chro
ma Meterにより皮膚表面の赤みを測定することにより決定可能である。広く作用
するスキンセラム、クリームおよびオイルにおいて、遺伝的、生化学的および生理学的、
ならびにインビボの効果を達成するために、内包率は、アスタキサンチンをベースとして
、最小で約1.5~3μg/mlのアスタキサンチン(5~10μM)から、より好まし
くは6μg/ml、さらにより好ましくは約30μg/ml(約50μM)に及ぶと計算
されうる。例えば、AstaFusionは、1.0mLの反応あたり4.8μgのアス
タキサンチンを含有するヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)K
AS1601からの乾燥エタノール抽出物由来の約35%のコラゲナーゼ阻害についての
能力を示した。
【0187】
別の例として、当分野で公知のとおり、正常なヒト線維芽細胞株中で差次的に発現され
た遺伝子を同定するためのIllumina HT-12遺伝子チップを使用する予備的
なトランスクリプトーム-ワイドマイクロアレイ研究に基づいて、AstaFusion
による処置後のさらなる研究の標的は、皮膚マトリックス分解性ゼラチナーゼ(MMP-
2およびMMP-9)の発現を、TFP12遺伝子の活性により低減させること;E2F
7およびIRF1の高発現を介して主要な制御ポイント転写因子p53/TP53を活性
化すること;および減少したTXNIPの遺伝子発現による酸化的ストレスからの細胞の
改善された保護のための能力を含みうる。
【0188】
皮膚の弾力性、皮膚の水和、皮膚表面の脂質レベル、皮膚脂質の過酸化、しわの出現が
挙げられるが、これらに限定されない他の効果も、当分野で公知であるとおりに測定可能
であり、フリーラジカルクエンチング、抗酸化剤の能力、オートファジー、DNA保護、
テロメアサポート、および抗炎症効果ならびにNO、TNF-αおよびPGE2、COX
2などの生成が挙げられるが、これらに限定されないサイトカイン調節測定因子が挙げら
れるが、これらに限定されない実験室試験において測定可能である。
【0189】
経口摂取される栄養素サプリメントとして、アスタキサンチンおよび他の抗酸化剤およ
び抗炎症性色素が、皮膚のサポート、ならびに関節の健康、UV保護、スポーツパフォー
マンスの回復、ロバストな免疫機能、アンチエイジング、エネルギー増加、認知的健康、
ならびに向知性および心血管サポートについて公知である。粉砕されたバイオマスからの
超臨界流体により抽出されたAstaFusion樹脂は、サフラワーの食用油中に分散
されたアスタキサンチンを主成分として調製される。或いは、当分野で公知であるとおり
、原料がビーズレットおよび粉末に製剤化される。これらは、マーガリン、食用油および
スナック、飲料、スープ、ソースおよびドレッシング、シリアル、および菓子のような形
態にあることのできる食品およびサプリメントの栄養価を高め、着色するために使用され
;80μM以下の経口用量が顔のしわに対して有益な効果を有することが公知である。実
証されたヒトの栄養素サプリメントは、ペットフードに含めることまたはペットのおやつ
への入り口としての役割を果たしうる。化粧品原料としての使用のための別の例として、
クラミドカプサ(Clamydocapsa)の従属栄養成長した色素性バイオマス全体が、リポソー
ムまたはリン脂質キャリアの存在下で溶解され、またはマルトデキストロースで処理され
て、スキンケア製剤のための生物活性材料を生成した。
【0190】
[実施例10]
クラミドモナス(Chlamydomonas)、クラミドカプサ(Clamydocapsa)およびクロロモナ
ス(Chloromonas)由来のトランスジェニック従属栄養色素性細胞
この実施例は、細胞分裂せずに所望の成長速度において色素を生成する、クラミドモナ
ス(Chlamydomonas)、クラミドカプサ(Clamydocapsa)およびクロロモナス(Chloromon
as)を対象とする。コナミドリムシ(C. reinhardtii)を使用する1つの明示において、
H.プルビアリス(H. pluvialis)由来のベータカロテンケトラーゼおよびカロテノイド
ヒドロキシラーゼを、米国特許出願公開第20090317878号に記載のようにCO
2誘導性発現のためのプロモーターおよび当分野で公知のとおりH.プルビアリス(H. p
luvialis)またはコナミドリムシ(C. reinhardtii)由来の任意選択の内因性制御エレメ
ントを含有するプラスミドにクローニングした。さらに、例えば、米国特許第7,129
,392号に記載のとおり、IPPイソメラーゼおよびメバロン酸経路の使用は、イソプ
レノイド生成を高める。プラスミドをコナミドリムシ(C. reinhardtii)の核に形質転換
し、遺伝子導入系を当分野で公知のとおりに選択した。遺伝子導入系を色素含有量、実施
例8および実施例4に記載の従属栄養成長についてそれぞれスクリーニングした。バイオ
水素の副産物が、実施例11に記載の方法を使用する発酵の最後の数時間の間に生み出さ
れる。別の明示においては、通常は栄養枯渇およびハイライト(クラミドモナス目(Chla
mydomonadales)の2段階プロセス)に曝露された後、細胞分裂を受けることによって、
色素の蓄積が高まる、クラミドモナス(Chlamydomonas)、クラミドカプサ(Chlamydocap
sa)またはクロロモナス(Chloromonas)の細胞を、実施例3に記載のとおりに培養して
、光、栄養枯渇および細胞分裂の非存在下で色素性栄養細胞を得た。
【0191】
[実施例11]
バイオ水素生成物を生成するように改変されたH.プルビアリス(H. pluvialis)のトラ
ンスジェニック従属栄養細胞
この実施例は、独立型の生成物としてのまたは色素もしくは他の蓄積する化合物の副産
物としてのバイオガスを記載する。コナミドリムシ(C. reinhardtii)由来のヒドロゲナ
ーゼA1およびA2(HYDA1およびHYDA2)を(HYDEFとしてコナミドリム
シ(C. reinhardtii)中で融合された)補助タンパク質HYDE、HYDFおよびHYD
Gとともにプラスミドにそれぞれの内因性制御エレメント(または任意選択のアンモニウ
ム誘導性プロモーター)とともに当分野で公知のとおりにクローニングした。当分野で公
知のとおり、プラスミドをH.プルビアリス(H. pluvialis)の核に形質転換した(Shar
on-Gojmanら、2015年)。実施例8に記載のような好ましい菌株を選択するために、遺伝
子導入系を色素含有量、従属栄養成長についてスクリーニングした。好気性条件下で高レ
ベルの内部デンプンを含む十分な色素性バイオマスが生成した後に、副産物(バイオ水素
)および導入遺伝子のmRNAレベルを、無酸素条件(嫌気性発酵)下でスクリーニング
した。H2発生の持続時間は、デンプン異化が暗条件での発酵条件下でヒドロゲナーゼに
電子を供与するときに細胞内に貯蔵された炭化水素の量に比例する。色素またはアスタキ
サンチンが、(形成したエタノール、乳酸塩、またはギ酸塩によるストレスとともに)溶
解酸素が非常に低度である発酵によりストレス負荷された細胞中に蓄積するため、これは
特に有利なプロセスである。こうして、発酵の最後の数時間は、必要に応じて、2つの生
成物(1つは高価値および1つは低価値)を生成するために使用されうる。有利なことに
、抽出により、このバイオマスは、内部貯蔵されたデンプン(重量)が細胞外生成物に転
換されたため、より高い色素含有量を有するように見える。野生型または遺伝子改変され
たクラミドモナス(Chlamydomonas)種も、当分野で公知のとおり、バイオガスのために
使用されうる。本発明の方法は、体積基準でのより高いバイオマス収穫量、より高いバイ
オガス生産性とともに、以前にはこれらのクラミドモナス目(Chlamydomonadales)につ
いての塩阻害により可能でなかった短期間でのより高いバイオマス密度を可能とする。4
.3g/Lのバイオマス培養からの嫌気性条件下で時間あたり約0.96mmolH2/
g乾燥重量の生産性率は、例えば、YuおよびTakahashi、2007年により示されたコナミド
リムシ(C. reinhardtii)における時間あたり0.13mmolH2/Lからは著しい改
善である、体積基準で時間あたり4.13mmolH2/Lまでの水素を0.135g/
Lの計算された低い細胞密度で発生させる。
【0192】
[実施例12]
目的の組換え生成物を生成するために改変された従属栄養細胞
この実施例は、好ましい成長速度および比生産性により培養されて、本発明の方法を使
用するフェドバッチ発酵を使用して組換え生成物を生成する、従属栄養細胞を対象とする
。(色素、テルペン、バイオ水素のような)すでに例示した分子に加えて、本発明に有用
な組換え細胞は、目的の(dsRNAを含む)異種RNAまたは異種タンパク質を生成す
る。そのような組換え細胞は、当分野で公知のとおりに遺伝子操作され、水産養殖および
畜産における経口療法、作物保護、病害防除および健康増進、香味料および芳香剤が挙げ
られるが、これらに限定されない多くの分野における適用を有する(Somchaiら、2016年
;Ceruttiら、2011年;Machadoら、2014年;Kumarら、2013年;Gimpelら、2015年)。本
明細書では明示は、コナミドリムシ(C. reinhardtii)におけるプラスチドのタウマチン
遺伝子発現について(タウマチンは、香味付けおよび香味マスキングのために使用される
タンパク質である)、およびdsRNA発現について与えられる。プラスチド発現は、複
雑なタンパク質を発現することが周知であり、プラスチドとしてのdsRNAはDICE
R/RISC複合体のRNAiプロセシングを欠く。コナミドリムシ(C. reinhardtii)
KAS1402のatpB欠損突然変異体を、rps14プロモーターにより制御された
葉緑体コドンが最適化されたタウマチンとともにatpBおよび制御エレメントを含有す
るベクターK497でコーティングした0.6ミクロンの金微粒子を用いる微粒子銃(1
100psi、標的距離6cm)により、形質転換した。固定炭素源を欠く培地において
、光合成的に遺伝子導入系を選択した。3回の単一コロニー選択および酢酸を欠く培地に
おける単離(光合成的)の後、遺伝子導入系を実施例3におけるとおりの従属栄養成長条
件に移動した。発現解析を、製造者の指示に従ってプライマー585:CTGCTATT
TCGACGACAGTGおよび586:ACGAGAACTCCGCTAAAGTGを
使用して、qRT-PCRにより進める(iScript(商標)One-Step R
T-PCR Kit With SYBR(登録商標) Green 170-8892
)。遺伝子導入系におけるタウマチンmRNAレベルは、葉緑体ハウスキーピング遺伝子
、Rpl14レベルと同様であったが、野生型において発現は見られなかった。120時
間、10g/Lの細胞密度において0.1%で収穫した組換えタンパク質は、時間あたり
0.08mg/Lのqpをもたらし、より高い収穫密度では、これは時間あたり0.08
mg/Lを超えるであろう。コナミドリムシ(C. reinhardtii)KAS1402における
dsRNA発現については、タウマチンを発現ベクター中で、GenScriptにより
合成され、ベクターK588(
図5)中に示される(Kumarら、2013年から改作した)3
-HKT遺伝子断片のための789bp配列の逆方向反復コンストラクトで置換する。当
分野で公知のとおり、対抗プロモーターを使用することにより、代わりのベクター構成が
転写後に生成されるdsRNAについて可能である。選択されたコロニーを、実施例3お
よび4に従って従属栄養的に成長させる。1日あたり0.7を超える72時間の最初の比
成長速度の証明は、工業製造への規模拡張のための適合性を示している。実施例3および
4に従って、4日間にわたる持続的な1.0/日の比成長速度のために、フェドバッチ発
酵を使用して、100Lリアクター(Eppendorf BioFlo610)中で培
養を50Lに規模拡張する。分析目的のためおよびキネティクスを確立するために、連続
的遠心分離(WVO Designs Power Beast 3500rpm遠心分
離機)を使用してバイオマスを水切りし、凍結乾燥した(12L Console 23
0-60 FreeZone LabConco凍結乾燥機アセンブリ)。
【0193】
より小さな規模では、dsRNA発現および蓄積を、RNAasA処理した総RNAの
標準物質に対するゲル電気泳動により試験する。密度測定は、Quantity One
(登録商標)ソフトウェア(Bio-Rad)による。最初のdsRNA値は、これらが
、120時間以上で、細菌において報告されたもの、すなわち、108細胞個あたり40
0ng(Kimら、2015年);または葉緑体を形質転換した植物(transplastomic plant)
について報告された総細胞RNAの0.05%~0.4%(Zhangら、2015年)を超えた
場合にうまくいったと考えられる。120時間における10g/Lの細胞集団からの0.
05%の組換えRNAは、時間あたり0.04mg/Lのqpをもたらす。qpは、例え
ば、0.2g/Lよりも多いより大量の種菌によるより高い開始細胞密度、1.7/日以
上のようなより高い比成長速度、および120時間を超えて延長するより長いサイクル時
間を含む、培養条件の改善によりベースラインを少なくとも15%超えて増加すると予想
される。
【0194】
核遺伝子組換えおよび誘導性プロモーターを使用して遺伝子改変された細胞も、本発明
の方法により従属栄養的に培養されるのに適している。例えば、rRNA遺伝子座の遺伝
子間配列IGSスペーサー領域プラスプロモーターおよび隣接配列を含む核ベクターの使
用は、挿入配列の発現を可能とする。核誘導性プロモーターAMT1;2 5’UTR(
米国特許第9,487,790号)は、培養培地中の低硝酸塩(<0.1mM)、高アン
モニウム(7.5mM)に反応性である藻類において導入遺伝子発現システムを提供する
。本発明の方法を使用して、初期バイオマス蓄積のために最初に実施例3におけるとおり
に維持された尿素を含み硝酸塩を欠く培地中で従属栄養的に成長したクラミドモナス(Ch
lamydomonas)細胞および細胞培養は、最後の36時間の培養に高められたアンモニウム
(7.5mMに維持される)が提供された場合、誘導された遺伝子発現を経験する。これ
は、誘導性Dicer抑制を使用して加えられた核発現によりdsRNAのレベルを増加
するための戦略にとって、または核発現に適した他の配列にとって有用である。AMT1
;2アンモニウムトランスポーター遺伝子プロモーターを使用する導入遺伝子転写は、ア
ンモニウムまたは硝酸塩の存在下で強く抑制され、その非存在下で急速に誘導される。初
期dsRNA値は、当分野において公知であるとおりに測定された108細胞個あたり4
0ngの核トランスジェニック藻類において報告されたものを超える(Somchaiら、2016
年)。
【0195】
スケールアップ目的のために、任意の数の手段による-内部ペイロードのバイオアベイ
ラビリティを促進するための-バイオマス微粉砕が、当フィールドでの適用の前の下流の
プロセシングの一部として使用されることができ;微細藻類のビーズ粉砕またはドライピ
ン粉砕が細胞をクラッキングすることにおいて有効である。UV曝露された藻類内部のd
sRNAの半減期は、アガロースゲル電気泳動およびゲル分析ソフトウェアによる染色さ
れたバンドの定量化により経時的にdsRNAの完全性についてモニターしたとおり、粉
砕により影響されない。しかしながら、細胞破壊は、水塊中または植物部位上の摂食中の
幼生への藻類の被包性dsRNAの曝露には必要でなく、湿ったバイオマスも利用可能で
ある。葉上での幼生への給餌は体重増加または50%の水制御における7日後の死亡率を
示し;幼虫の重量、齢期および死亡率(不動性)は、当分野で公知のとおり、葉片および
全植物を使用して分析される(例えば、Zhangら、2015年)。無処置のおよび粉砕された
細胞について、幼生の健康に対する濃度-応答が(葉または水体積あたりのμg等量のd
sRNAとして測定した)藻類用量について見られる。
【0196】
一般に安全であると考えられているため、動物飼料における嗜好性を促進するために適
切なレベルのタウマチンを送達するため、あるいは家禽飼料において乳タンパク質を使用
する抗生物質補充などのために同じ方法で生成されうる他の組換え分子、または蚊もしく
は他の昆虫および線形動物を防除するためのdsRNAベースの微細藻類性幼虫駆除剤も
送達するためにクラミドモナス(Clamydomonas)バイオマスが用量設定されうる。
【0197】
[実施例13]
多様な表現型の従属栄養培養
この実施例は、栄養成長に好都合な条件により培養される新規従属栄養細胞型および本
発明の方法を使用して生成物を作製することを対象とする。コナミドリムシ(C. reinhar
dtii)を例として用いて、菌株KAS1602(CC-125または137cに由来する
変異体)を実施例3におけるとおりに従属栄養フラスコ培地中で成長させた。この細胞型
は、無鞭毛性で葉緑素を欠き、栄養細胞としての緑色の概観よりも(一部、ルテイン/ゼ
アキサンチンに由来する)黄色であると特徴付けられる。これは、30μEの光とともに
振とうフラスコ中で1週間、細胞を成長させ、次いで、(暗条件での静止フラスコとして
)実施例3のフラスコ培地における従属栄養成長に資する条件で2週間、継代培養し、光
源を容器上部に提供したときに走光性である能力のないことに基づいて鞭毛性細胞から単
離するために、混合栄養条件下で蘇生された、先に凍結保存された細胞の個体群に由来し
た。これは、従属栄養下でロバストな成長により多くの世代の間、その表現型を保持した
。この実施例は、例えば、Chlamydomonas Resource Cente
rから得た突然変異体菌株lts1-30mt-(CC-2359)または当分野で記載
された(例えば、色素突然変異体に関するMcCarthyら、2004年および鞭毛突然変異体に関
するMcVittie、1972年)とおりに生み出されたようなフィトエンシンターゼ遺伝子の突然
変異によってカロテノイド類を欠くかまたは無鞭毛であるか、あるいは光合成または鞭毛
突然変異体としての他の欠損を有する、UV光誘導性および化学的に誘導されたクラミド
モナス(Chlamydomonas)突然変異体にも関する。さらに、この実施例は、暗条件での成
長を可能とするための遺伝子操作を受ける藻類にもあてはまる。これは、制限なく、栄養
転換のためまたは当分野で公知の好ましい炭素原料の利用のためのものを含む通性従属栄
養生物に遺伝子操作された偏性光栄養生物を含みうる。これは、変異体、突然変異体およ
び遺伝子工学を通じて達成されたような、偏性従属栄養生物にされたまたは光合成能力が
弱められた通性従属栄養生物も制限なく含む。発酵においては、無鞭毛性細胞型は、それ
がインペラー(傾斜ブレードまたはRushtonインペラー)からの機械的損傷を受け
にくく、改善されたガス交換および栄養素の混合のための350rpmよりも高いrpm
でのファーメンター運転を可能とすることにおいて有利である。加えて、これは、暗条件
において不必要な葉緑素を生成しないことにより低減された代謝負担からの利益を得る。
結果として生じる、緑色または他の色素を欠くKAS1602および突然変異体菌株lt
s1-30mt-(CC-2359)のバイオマスは、化粧品、飼料などにおける使用に
望ましい。
【0198】
[実施例14]
混合栄養培地組成およびマクロ独立細胞H.プルビアリス(H. pluvialis)による色素生
成
この実施例は、従属栄養成長が30μEの光の下での混合栄養成長により置換されたよ
うな、有機酸および尿素を含む栄養培地を含む実施例3の変更である。H.プルビアリス
(H. pluvialis)KAS1601の比成長速度は、0.05g/Lで開始した培養のバイ
オマスが96時間で9.0g/Lに達するような、1.5/日に達した。バイオマスの色
素含有量は、2.2mg/L/時間のqpに相当する2.3%に達する。任意選択により
、本発明の方法は、(話の中で議論されるような)当分野で公知のとおり、追加の仕上げ
ステップにより藻類生成物を得るために実践されうる。例えば、加えられたストレスまた
は光または誘導物質は、生成物収率を高めるためまたは高められた生成物含有量を有する
シストを形成するために供給されうる(例えば、アスタキサンチン豊富なシストについて
は
図2右下を参照されたい)。
【0199】
[実施例15]
非シスト形成微細藻類由来の着色補助剤および栄養素サプリメント
新しいプロセスは、ビタミンおよびミネラルとともに高タンパク質、低灰分を含み、栄
養的、健康または着色の利益を付与する新しい生成物組成をもたらす、クラミドモナス目
(Chlamydomonadales)からの色素性バイオマスの実質的に新しいプロフィールを提供す
る。家禽および魚類などのための飼料添加物のために、これらの利益は、魚類由来の成分
により提供されるものに匹敵するが、着色のための色素沈着を提供する目的に役立つ。食
物の代用となる飲料または栄養サプリメントのために、組成物は、栄養素添加の目的に役
立つ。供給源である微細藻類次第で、食品としての組成物は、付随すると考えられる着色
剤の任意の性質を有する、食事中のカロテノイド源であることができ、またはベータカロ
テンの場合のように、この材料は栄養素サプリメントおよび色添加物の両方として使用さ
れうる。上記のように成長したバイオマスは、ファーメンターから収穫され、凍結乾燥さ
れ、次いで、New Jersey Feed Lab(Trenton NJ)などに
より実行されるAssociation of Official Analytica
l Cheminsts(AOAC)の方法に従って、その主要構成要素について分析さ
れる。シスト形成していないバイオマスは次いで、当分野で公知のとおり、飼料配合物お
よび着色または食品添加に適した形態に加工される。色素性の栄養細胞のタンパク質含有
量は、本質的にシスト形成細胞または光誘導性細胞のそれの2倍であり、ヘマトコッカス
属の種(Haematococcus spp.)またはドナリエラ属の種(Dunaliella spp.)のような飼
料または食材において使用される商業的な色素性バイオマス全体における0.19~0.
24g/g DWタンパク質に比べて0.4~0.5g/g DWタンパク質からなる(
Lorenz、1999年;GRAS Notice grn000356;GRAS Notice grn000276;MuhaeminおよびKasw
adji、2010年)。灰分は、0.16~0.18g/g DW灰分から約0.03~0.0
9g/g DW灰分まで約50~80%低減される。よって、低灰分含有量とともに高タ
ンパク質を含む新しい組成物は、重量ベースでより高い総合的な栄養価値を有し;魚類タ
ンパク質は現在、価格が1500ドル/トンを超え、よって、一方で着色添加物(すなわ
ち、着色剤)を送達する藻類タンパク質に置き換えられることが好ましい可能性のある飼
料への実質的な投入原価を表す。これはまた、(アスタキサンチン抽出後に残るような)
シスト形成バイオマス由来の脱脂ヘマトコッカス(Haematococcus)食物と比べて、かな
り低量の繊維を有することにより異なることが好都合である:シスト形成バイオマス由来
の脱脂された食物は、0.4g/g DWタンパク質により、タンパク質含有量はほぼ同
様に等しいが、望ましくなく高い量の0.4g/g DW繊維も有する。アスタキサンチ
ンは、サケ飼料1kgあたり80mgまでを構成する(WrolstadおよびCulver、2012年)
が、タンパク質豊富なフィッシュミールは飼料1kgあたり200gを構成しうる(Hatl
enら、2013年)。飼料1kgあたり80mgのアスタキサンチンでは、0.7%の色素含
有量を有する11.4g藻類/kg飼料が必要であり;これは、収益化されうるタンパク
質としての藻類バイオマスの50%を含み、3%のフィッシュミール置換率を提供する。
【0200】
すべての図面および表を含む、本明細書において参照され、または引用されるすべての
特許、特許出願、仮出願および公開は、本明細書の明示的教示と矛盾しない範囲まで、参
照することによりその全体が組み込まれる。
【0201】
本明細書に記載の例および実施形態は、例示目的のみのためであり、それに照らした多
様な改変または変更が当業者に示唆され、本願および添付された特許請求の範囲の精神お
よび範囲内に含まれることは理解されなければならない。加えて、本明細書に開示される
任意の発明またはその実施形態の任意の要素または限界は、(個別にまたは任意の組合せ
で)すべての他の要素または限界あるいは本明細書に開示された任意の他の発明またはそ
の実施形態と併合されることができ、そのようなすべての組合せは、それに対する制限な
く、本発明の範囲から想定される。
【0202】
【0203】
特許および特許出願公開
1.米国特許第6022701号
2.米国特許第5882849号
3.米国特許第8206721号
4.欧州特許第1724357号(米国特許出願公開第20080038774号)
5.欧州特許第2878676号(米国特許出願公開第20150252391号)
6.米国特許出願公開第20120264195号
7.欧州特許第1995325号
8.米国特許第8404468号
9.米国特許第8911966号
10.米国特許第8278090号
11.米国特許第7329789号
12.欧州特許出願第20030721175号
13.米国特許出願第20090214475号
14.米国特許出願公開第20090317878号
15.米国特許出願公開第20120171733号
16.米国特許第4683202号
17.米国特許出願公開第20090317878号
18.米国特許第7135620号
19.米国特許第7618819号
20.米国特許第7129392号
21.国際公開第2003027267号パンフレット
22.米国特許第9487790号