(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177008
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】起動及び運転が自動化された音響トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20221122BHJP
H04R 1/44 20060101ALI20221122BHJP
H04R 3/04 20060101ALI20221122BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H04R3/00 330
H04R1/44 330Z
H04R3/04
H04R17/00 330Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134114
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2020527853の分割
【原出願日】2018-07-26
(31)【優先権主張番号】62/537,438
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519144901
【氏名又は名称】フロデザイン ソニックス, インク.
【氏名又は名称原語表記】FLODESIGN SONICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】ミュージアック, ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】アーティス, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】リプケンス, バルト
(57)【要約】 (修正有)
【課題】負荷の有無にかかわらず、負荷が非常に反応する可能性のある音響トランスデューサとキャビティとの組み合わせに対する動作ポイントの位置を特定する音響システムを制御する方法及びコントローラを提供する。
【解決手段】音響分離システムを制御する方法は、流体混合物で音響チャンバを満たすステップと、追跡するリアクタンス極小点を特定するステップと、追跡のためのプロファイルを設定するステップと、リアクタンス極小点を追跡するステップと、を含む。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響システムを制御する方法であって、
一連の周波数で前記音響システムの音響トランスデューサに駆動信号を印加することと、
各周波数で前記音響トランスデューサからフィードバック信号を受信することと、
前記フィードバック信号からリアクタンスの極小点を特定することと、
連続動作のためのリアクタンスの極小点を選択することと、
前記リアクタンスの極小点で追跡する周波数で前記音響トランスデューサに前記駆動信号を印加することと、を含む方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
前記音響システムの音響チャンバを、物質を含む流体混合物で満たすことと、
前記流体混合物が流れていない状態で全域にわたる周波数スキャンを実行することと、を更に含む方法。
【請求項3】
請求項1の方法において、
前記リアクタンスの極小点で追跡する周波数で前記駆動信号を前記音響トランスデューサに印加しながら、電力供給を周期的に繰り返すこと、を更に含む方法。
【請求項4】
請求項3の方法において、
各電力供給の周期は、電力の立ち上がり区間と持続区間と電力立ち下がり区間とを含む方法。
【請求項5】
請求項3の方法において、
電力供給を周期的に繰り返した後、前記流体混合物を前記音響チャンバに流すこと、を更に含む方法。
【請求項6】
請求項1の方法において、
前記リアクタンスの極小点を決定する際に使用されるパラメータを実装するための追跡プロファイルを選択すること、を更に含む方法。
【請求項7】
音響トランスデューサのコントローラであって、
一連の複数の周波数で駆動信号を前記音響トランスデューサに印加して、前記音響トランスデューサからフィードバック信号を生成するように構成された周波数スキャナと、
前記音響トランスデューサの動作に関連するフィードバック信号を生成するように構成された、前記トランスデューサに接続されたフィードバック信号センサと、
前記フィードバック信号に関連して前記音響トランスデューサを動作させるための動作ポイントを決定するための追跡エンジンと、を備えるコントローラ。
【請求項8】
請求項7のコントローラにおいて、
各周波数に関連付けられた補正値を提供するように構成された補正モデルを、更に備え、
前記補正値は前記フィードバック信号の補正に使用される、コントローラ。
【請求項9】
請求項8のコントローラにおいて、
前記周波数スキャナは、前記音響トランスデューサの連続動作の前に前記補正値を取得するように構成されている、コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する声明(該当なし)
【0002】
圧電素子を備えた音響トランスデューサは、音響波の生成に使用することができる。ホスト流体に含まれる粒子又は二次流体液滴(ここでは両者合わせて粒子という。)と前記ホスト流体との間に、音響コントラスト因子としても知られている密度及び/又は圧縮性に差がある場合、音響波は、ホスト流体内を伝播するとき、粒子に力を及ぼすことができる。音響波の圧力プロファイルは、正弦波の節(nodes)で圧力振幅が極小になっている領域と、正弦波の腹(anti-nodes)で圧力振幅が極大になっている領域とを含む。粒子は、その密度と圧縮率とに応じて音響波の節又は腹に捕捉される。
【0003】
音響波を生成できる圧電素子は電気的に励振することができる。このような電気的な励振は、圧電素子を駆動する電気的な駆動装置に対する複素負荷を意味する。
【発明の概要】
【0004】
音響トランスデューサは、音響波の伝播方向を横切る方向に少なくともゼロでない音響的な力を有する隣接流体内に進行波又は定在波になり得る音響波を生成するように駆動することができる。前記流体は音響共鳴チャンバに収容することができ、音響トランスデューサと音響共鳴チャンバとの組み合わせは、本書において音響システムという。複数次元で前記流体内に音響力を生成する音響波は、本書において複数次元の音響波という。複数次元の音響波の生成プロセスでは、例えばプレートの形で実装され得る緩く懸架された圧電材料の高次振動モードが利用される。
【0005】
音響トランスデューサの制御は、セットポイントに基づいて実行することができる。例えば、ユーザは、トランスデューサに供給される電力として所望の電力レベルを設定することができる。音響トランスデューサを使用した音響チャンバ内での音響泳動の性能は、音響トランスデューサへの変調入力電力に基づいて変化させることができる。いくつかの例において、周波数、位相、電圧、電流などの他のパラメータが変更される間における動作には電力セットポイントが望ましい。電力セットポイントは、RF電源又は電力増幅器の電力出力を決定する。電力制御は、音響泳動装置の動作に関連する他のパラメータが変更される間において電力セットポイントを維持するために提供される。電力制御は、音響トランスデューサに供給される信号の例えば電圧や電流などを検知する。これらのフィードバック信号は、トランスデューサに供給される電力の周波数及び位相角を決定するために使用される。いくつかの例では、降圧コンバータが電源として使用される。降圧コンバータは応答帯域幅を有し、この応答帯域幅が電力制御の応答性に影響する場合がある。例えば、降圧コンバータの帯域幅が比較的狭い場合、電力制御のためのシステム応答は、音響泳動装置の所望の動作パフォーマンス環境のためのシステム応答よりも遅くなる可能性がある。
【0006】
前記音響システムは、連続的な動作の準備をするために初期化してもよい。初期化のプロセスは、音響システムへ導入される物質及び/又は音響システムで処理される物質を識別すること、音響システムの動作の構成を選択すること、音響システムの特性を入力すること、音響システムの校正を行うこと、音響システムを初期化すること、及び/又は、音響システムを連続モードで動作させること、を含んでもよい。
【0007】
多数の異なる物質を音響泳動装置に通して処理してもよく、その多数の物質はそれぞれ、音響トランスデューサ及びチャンバで異なる負荷特性を提供するものであってもよい。このように電源は広範囲の負荷にさらされる可能性があり、達成困難な電力供給が要求される場合がある。例えば、処理中の特定の種類の物質で発生する音響トランスデューサ及び/又は音響チャンバに対する重い負荷により、電源コンポーネントが過負荷になったり及び/又は過熱したりすることがあり、又は、トリップポイントの閾値に達したり又は当該閾値を超過したりすることがある。重い負荷になったり又はトリップポイントの閾値を超えたりすると、電源制御で特定される障害が生じたり、電源がシャットダウンしたりする場合がある。更に、温度、周波数又はリアクタンスを含む負荷特性などの他の動作パラメータの変化によって、電源の電力需要が大幅に変化する場合がある。所望の電力レベルに基づく電力制御は、このような様々な負荷を処理する電源及び音響泳動装置の動作を管理するための周波数等の他の動作セットポイントを意味する場合もある前記ポイントに維持する。
【0008】
音響トランスデューサの圧電材料への入力の特性は、圧電材料のさまざまな振動モードを許容するように変更してもよい。例えば、純粋な正弦波は圧電材料の非常に簡易な振動を励振することができ、高調波成分を含む信号は圧電材料の寄生振動を引き起こす可能性がある。圧電材料への入力は、音響波が形成される流体に発生又は入力される熱に影響を与える可能性がある。前記入力は、圧電材料と結合した流体内により複雑な動きを生成してもよい。
【0009】
圧電材料は、その材料に加えられる電圧若しくは電流の信号などの電気信号に基づいて、又は、その材料内を通る対応電界に基づいて、形状が変化する。外部電荷からの電界は、前記材料内の結合電荷の電界に影響し、それにより前記材料の形状に影響する。前記電気信号は電圧源からのものであってもよい。この場合、前記材料の変形量は印加される電圧に関連する。例えば、前記変形は電圧でクランプされてもよいし、又は、電圧で制振されてもよい。誘導される電荷の量は、印加電圧と前記材料の特性とに関連している。この関係は、Q=C×Vとして数学的に表すことができる。ここで、Qは電荷、Cは材料の静電容量、Vは印加信号の電圧である。前記印加信号のための導管を設けるように、電極を圧電材料に取り付けてもよい。この場合、電圧及びその電圧に対応する電界は、外部から印加された電荷の関数である。上記式を使用して、電圧はV=Q/Cとして表すことができる。結果として生じる電圧は、圧電デバイスの動作に関して制約されないようにしてもよい。圧電デバイスのCは、その物理的形状と材料特性とによるものである。前記材料は、その中を通る電界の関数として形状が変化するため、圧電デバイスのCは、その圧電デバイス内を通る電界の関数である。与えられたQに対して、時間変化する電荷源である電流源で前記材料を駆動すると、Cは電界の関数として変化し、その変化したCに対応するようにデバイス全体の電圧が変化する。電圧駆動システムでは、電界が電荷量を決定でき、これにより変形の程度とそれに対応するCの変化量を決定できる。圧電材料のマルチモード動作を促進するために、圧電材料は自由フローティングの状態になるように構成してもよく、いくつかの例では、圧電材料は機械的及び電気的な意味で可能な限り自由フローティングの状態になるように作製される。
【0010】
複数次元の音響波と音響共振器又はトランスデューサの制御は、音響泳動プロセスの重要な部分である。例えば、バイオリアクタープロセスから生物学的細胞及び細胞片を捕捉するために複数次元の音響波が利用される場合、前記共振器のリアクタンスが変化する。複数次元の音響波を生成する圧電素子へのRF伝送線の電圧及び電流を検出することにより、音響泳動プロセスを最適化するために前記共振器を適切にチューニングすることができる。リアクタンス及び電力は、圧電素子への電圧信号及び電流信号から取り出すことができる。例えば、電圧信号及び電流信号をデジタルシグナルプロセッサ(DSP)に供給し、RFリアクタンス及び電力の計算に使用できる。圧電素子の動作について測定されて計算されたパラメータは、チューニングプロセスのためのフィードバックの供給に用いることができる。このチューニングプロセスは、例として、圧電素子に供給される所望の電力を達成するために増幅器のゲインを調整すること、及び/又は、前記共振器の所望のリアクタンスを達成するために駆動信号の周波数を調整すること、によって構成してもよい。
【0011】
複数次元の音響波は、ファンクション・ジェネレータ又はオシレータによって生成され増幅器によって修正された電子的信号による圧電材料のマルチモード摂動を介して生成される。複数次元の音響波の生成及び圧電材料のマルチモード摂動は、参照により本書に組み込まれる米国特許第9,228,183号に記載されている。
【0012】
RF電力ドライバは、音響トランスデューサを駆動するために設けられる。いくつかの実装例では、前記電力ドライバは、DC-ACインバータに接続されたDC-DCコンバータで構成され、このDC-DCコンバータは、降圧コンバータ、昇圧コンバータ又は昇圧・降圧コンバータであってもよい。コンバータとインバータとの間にフィルタを備える。インバータの出力は、そのインバータが使用できるDC信号を生成するためにLCLマッチングフィルタに供給される。このような実装例では、前記フィルタは、システム応答時間に制約を課すか、又は、システム応答時間を制御する。
【0013】
音響トランスデューサ又は他のシステムコンポーネントからフィードバックされた入力を受信し、RF電力ドライバのさまざまなコンポーネントに制御信号を供給する制御を提供してもよく、その制御はデジタル制御又はアナログ制御であってもよい。この制御は、コンバータのDC出力を変化させるための制御信号、及び/又は、音響トランスデューサの駆動信号の周波数、位相、電力の振幅、電圧及び/又は電流を修正して制御するための制御信号を供給することができる。前記制御によって供給される制御信号は、インバータの動作を変化させて駆動信号の周波数を変更及び制御できる。前記制御を行うRFパワードライバは、トランスデューサ及び音響チャンバの所望の性能を維持しながら、非常に反応性の高い負荷としての音響トランスデューサの制御及び調整を可能にする。
【0014】
制御技術は、負荷の有無にかかわらず、負荷が非常に反応する可能性のある音響トランスデューサとキャビティとの組み合わせに対する動作ポイントの位置を特定するシステム及び方法を提供する。音響トランスデューサからのフィードバックは、トランスデューサ動作の共振周波数及び反共振周波数の特定に用いることができる。
【0015】
いくつかの実装例によれば、動作ポイントとしての極小リアクタンスの位置を特定するために、トランスデューサの反共振よりも低い動作周波数が検査される。いくつかの実装では、反共振周波数よりも高い周波数に設定され、この周波数は、動作ポイントとしての極大リアクタンスのために検査される。駆動信号の周波数は、反共振周波数よりも低い極小リアクタンスのポイントに設定されるように制御及び/又は変更することができる。反共振よりも低い周波数範囲には多くの極小点が存在し、その極小点のいずれもが周波数の動作セットポイントに使用することができる。これらの実装例によれば、音響トランスデューサが結合される音響チャンバ又は空洞の内部の流体を介して音響波を生成する音響トランスデューサを使用する音響泳動について所望レベルの効率を得ることができる。本書で説明する制御技術に従って決定される動作ポイントは、動的に維持できる周波数のセットポイントであってもよい。例えば、所望の動作ポイントは、流体に入れ込む物質の量、物質の分離の程度、温度、トランスデューサに供給される電力、及び、所望の動作ポイントに影響する又は所望の動作ポイントを修正する可能性のある他の現象などの音響チャンバの動作特性によって変化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付の図面を参照して、本開示を以下でより詳細に説明する。
【0017】
【
図1】
図1は、音響チャンバ及びその音響チャンバへの接続を示す図である。
【
図2】
図2は、音響トランスデューサ及びリフレクタを用いた音響泳動を図示する図である。
【
図3】
図3は、自由振動型の圧電素子を備えた音響トランスデューサの側面断面図である。
【
図4】
図4は、制振型の圧電素子を備えた音響トランスデューサの側面断面図である。
【
図5】
図5は、流体中の粒子に加えられる力を図示するグラフである。
【
図6】
図6は、圧電素子のインピーダンスを図示するグラフである。
【
図7A】
図7Aは、音響トランスデューサのさまざまな振動モードを図示する図である。
【
図8】
図8は、トランスデューサの周波数応答及び主要モードの周波数を図示するグラフである。
【
図9】
図9は、音響トランスデューサの周波数応答を図示するグラフである。
【
図10】
図10は、音響トランスデューサの周波数応答を図示するグラフである。
【
図11】
図11は、音響トランスデューサの制御技術を図示するブロック図である。
【
図12】
図12は、音響トランスデューサの電力、リアクタンス、抵抗及びピーク性能を図示するグラフである。
【
図13】
図13は、補正モデルパラメータを決定するプロセスを図示するフローチャートである。
【
図14】
図14は、極小リアクタンスの位置を特定するプロセスを図示するフローチャートである。
【
図15】
図15は、動作パラメータの組み合わせの変化を追跡するプロセスを図示するフローチャートである。
【
図16】
図16は、音響分離システムの自動起動及び実行の制御プロセスを図示するフローチャートである。
【
図17】
図17は、音響分離システムの自動起動及び実行の制御プロセスを図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、音響波分離システムの概観図である。ホスト流体と二次相(例えば、粒子、細胞又は第2の異なる流体)との混合物10は、ポンプ11を介して音響チャンバ12に送られる。ここでは、前記混合物は細胞と流体との混合物である。音響チャンバにおいて、二次相はホスト流体から濃縮される。濃縮細胞16は別のポンプ13により送られて集められる。濃縮細胞の除去によってより浄化されたホスト液は分離されて集められる(参照番号14で示される)。一般的に言えば、音響チャンバは少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を有する。
【0019】
音響チャンバは、
図2に示すように動作する。超音波トランスデューサ17とリフレクタ18との間に1次元又は複数次元の音響波が生成される。音響波が極小点で始まり極小点で終わるように図示されているが、他の実装も可能である。例えば、音響波の極小点又は極大点がトランスデューサ又はリフレクタから離れるように、音響波はトランスデューサ又はリフレクタの位置でオフセットしてもよい。反射波(又は、対向するトランスデューサによって生成された波)は、トランスデューサによって生成された波と同位相又は異位相であってもよい。音響波の特性は、駆動信号の電力、電圧、電流、位相、振幅又は周波数を変更したり及び/又は制御したりするなど、トランスデューサに印加される駆動信号によって変更及び/又は制御してもよい。音響的に透明又は応答性を有する材料をトランスデューサ又はリフレクタとともに使用して、音響波を修正及び/又は制御してもよい。
【0020】
前記流体の混合物が、超音波トランスデューサ17がアクティブな状態で音響チャンバ12を通って流れると、粒子21は、ホスト流体に対する粒子又は二次流体の音響コントラスト因子に応じて、複数次元の音響波の節(nodes)又は腹(anti-nodes)でクラスタ化(cluster)、集合化(collect)、弱凝集(agglomerate)、強凝集(aggregate)、塊化(clump)又は合体(coalese)する。粒子はクラスタを形成し、そのクラスタが複数次元の音響波の保持力に打ち勝つのに十分な大きさに成長すると、最終的に複数次元の音響波の節(nodes)又は腹(anti-nodes)から出る(例えば、合体(coalescence)又は弱凝集(agglomeration)は、クラスタに対する重力又は浮力を、流体抗力及び/又は音響力を克服するポイントまで増加させる)。ホスト流体よりも密度の高い(
図1の細胞などの)流体/粒子の場合、クラスタは底に沈み、浄化されたホスト流体とは別に集めることができる。ホスト流体よりも密度が低い流体/粒子の場合、浮力のあるクラスタは上方に浮かび上がり、集めることができる。
【0021】
複数次元の音響波は音響放射力を生成し、これが3次元的な捕捉場(trapping fields)として機能する。粒子が波長に対して小さい場合、音響放射力は粒子の体積(例えば、半径の3乗)に比例する。前記力は、周波数及び音響コントラスト因子に比例する。前記力は音響エネルギー(例えば、音響圧力振幅の2乗)に比例する。粒子に加えられる音響放射力が、流体抗力と浮力及び/又は重力との組み合わせ効果よりも強い場合、粒子は音響波内に捕捉される。複数次元の音響波における粒子の捕捉は、その捕捉された粒子のクラスタ化、濃縮、凝集、及び/又は、合体をもたらす。従って、ある物質の比較的大きな固体又は流体は、増強された重力/浮力による分離で、異なる物質、同じ物質、及び/又は、ホスト流体のより小さな粒子から、分離することができる。
【0022】
複数次元の音響波は、軸方向(例えば、トランスデューサとリフレクタとの間の音響波の伝播方向であり、その方向は、流れの方向に交差する角度の方向でもよいし、一部の例では流れの方向に垂直でもよい。)及び横方向(例えば、流れ方向、又は、トランスデューサとリフレクタとの間の方向を横断する方向)の両方で音響放射力を生成する。ホスト流体と粒子との混合物が音響チャンバを通って流れると、懸濁液中の粒子は強い音響力を受け、より低い音響圧力の音圧の場所に追いられ、その結果として、クラスタ化、凝集又は塊化が生じる。軸方向及び横方向の音響放射力は互いに組み合わさって又は個別に寄与することにより、粒子の塊等に対する流体抵抗に打ち勝って重力又は浮力により混合物から出ることができるクラスタを継続的に成長させる。粒子クラスタのサイズが大きくなると、1粒子あたりの抵抗力が小さくなる。更に、粒子クラスタのサイズが大きくなると、1粒子あたりの音響放射力が小さくなり、音響波からクラスタがより急速に脱落する可能性がある。複数次元の音響波の横方向の力成分及び軸方向の力成分は、互いに同じ又は異なる桁の大きさ内に収まるように、音響トランスデューサに供給される駆動信号によって制御される。本書で説明するように音響トランスデューサによって生成される複数次元の音響波の横方向の力は、平面波の横方向の力よりもはるかに大きく、通常は2桁以上大きい。
【0023】
粒子の抵抗力及び音響放射力の効果は、本開示のシステム及び方法の最適な動作に影響を及ぼし得る。10未満の低いレイノルズ数では、層流が支配的であり、粘性力は慣性力よりもはるかに強力である。
【0024】
粒子が複数次元の超音波の音響波によって捕捉されると、その粒子は凝集して粒子の塊を形成し始める。この粒子の塊に対する抵抗は、塊の形状の関数であり、塊を構成する個々の粒子の抵抗の合計ではない。
【0025】
層流の場合、ナビエ・ストークス方程式は次のように表される。
【数1】
ここで、
【数2】
は非定常運動を表し、
【数3】
は慣性運動を表し、
【数4】
は圧力の動きを表し、
【数5】
は粘性運動を表す。
【0026】
レイノルズ数が低い場合、非定常運動及び慣性運動の項は無視でき(つまり、ゼロに設定)、前記方程式は次のように簡略化できる。
【数6】
【0027】
直径aの粒子の場合は、次の方程式が成り立つ。
【数7】
ここで、
【数8】
は圧力、
【数9】
は動粘度、
【数10】
は粒子径、
【数11】
は流速、
【数12】
はストークスの抵抗力を表す。
【0028】
圧電材料で構成される超音波トランスデューサを、音響波を生成してトランスデューサの基本的な3次元振動モードを励振する周波数で駆動することにより、粒子の収集に使用される複数次元の音響波を得ることができる。これらの振動モードは、ベッセル関数として説明できる。トランスデューサは、超音波を生成するために摂動され得る様々な材料で構成されてもよい。例えば、トランスデューサは、圧電結晶若しくは多結晶又はセラミック結晶などの圧電材料で構成されてもよい。トランスデューサ内の圧電材料は、本書ではPZTと呼ばれることがあり、これはチタン酸ジルコン酸鉛で作られた圧電材料であるPZT-8の業界用語に由来する。本書では、超音波トランスデューサ内の圧電材料片を結晶と呼ぶ場合がある。超音波トランスデューサの圧電材料は、マルチモード応答を実現するように電気的に励振又は摂動させて、複数次元の音響波を生成することができる。圧電材料は、設計された周波数でのマルチモード応答で変形するように特別に設計でき、設計された特性を持つ複数次元の音響波を生成することができる。複数次元の音響波は、複数次元の音響波を生成する3×3モードなどの圧電材料の互いに異なるモードで生成されてもよい。圧電材料を多くの異なるモード形状で振動させることにより、多数の複数次元の音響波を生成してもよい。このように前記材料は0×0モード(つまり、ピストンモード)、1×1、2×2、1×3、3×1、3×3、及び、その他の高次モードなどの複数のモードで動作するように選択的に励振してもよい。前記材料は、さまざまなモードを順番に又は1つ以上のモードをスキップさせて前記さまざまなモードを周期的に繰り返すように動作させてもよく、その繰り返し周期それぞれでのモードの順序は必ずしも同じである必要もない。この材料のモード間の切り替え又はディザリングにより、指定された時間にわたって単一のピストンモード形状を生成できるとともに、さまざまな複数次元の波形を形成することが可能になる。
【0029】
前記結晶は1インチ以上の桁の主要寸法を有する。結晶の共振周波数は公称で約2MHzであってもよく、1つの周波数又は複数の周波数で動作してもよい。各超音波トランスデューサモジュールは、個別の超音波トランスデューサとして機能する1つ又は複数の結晶で実装してもよい。各結晶は、1つ又は複数のドライバ又はコントローラによって励振又は駆動(制御)してもよく、ドライバ又はコントローラは信号増幅器を備えていてもよい。結晶は、正方形、長方形、不規則な多角形、又は、一般的に任意の形状であってもよい。トランスデューサは、音響波の伝播方向(軸方向)及び横方向又は軸方向を横切る方向(横方向)に同じ桁の大きさの力を生成する圧力場を形成するために使用される。
【0030】
バッキング層は、制振を追加して広い周波数範囲にわたって均一な変位を持つ広帯域トランスデューサを作成するために結晶に追加され、特定の振動固有モードでの励振を抑制するように設計される。摩耗防止板(wear plate)は通常、トランスデューサが音響波を放射する媒体の特性インピーダンスによりよく一致させるためのインピーダンス変成器として設計される。
【0031】
図3は、本開示の一例に係る超音波トランスデューサ81の断面図である。トランスデューサ81は、ディスク又はプレートとして形成られ、アルミニウムのハウジング82を有する。圧電結晶は、その大部分がペロブスカイト型セラミック結晶であり、各結晶は、通常はチタン又はジルコニウムである小さな四価金属イオンが、通常は鉛又はバリウムであるより大きな二価金属イオンとO2-イオンとの格子の中にある構成を有する。一例として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)結晶86は、トランスデューサの下端を画定し、ハウジングの外装から露出している。結晶は、内面と外面とを有する。結晶は、その周囲が、結晶とハウジングとの間にあるシリコン又は類似の材料等の小さな弾性層98によって支持されている。別の言い方をすれば、摩耗層は存在しない。特定の実施形態では、結晶は不規則な多面体(polygon)であり、更に他の実施形態では、非対称の不規則な多面体(polygon)である。
【0032】
ねじ88は、ねじ山を介して、ハウジングのアルミニウム製の天板82aをハウジングの本体82bに取り付ける。天板は、トランスデューサに電力を供給するためのコネクタ84を含む。PZT結晶86の上面は、絶縁材料94によって分離された正電極90及び負電極92に接続されている。電極は、銀やニッケルなどの任意の導電性材料から作製できる。電力は、結晶上の電極を介してPZT結晶86に供給される。結晶86は、バッキング層又はエポキシ層を有さないことに留意されたい。別の言い方をすれば、トランスデューサ内のアルミニウム上部プレート82aと結晶86との間には空隙87がある(すなわち、ハウジングは空である)。
図4に見られるように、いくつかの実施形態では、(前記内面上の)最小限のバッキング58、及び/又は、(前記外面上の)摩耗防止板(wear plate)50を備えてもよい。
【0033】
トランスデューサの設計は、システムの性能に影響を与える可能性がある。典型的なトランスデューサは、セラミック結晶がバッキング層及び摩耗防止板に接合された層状構造である。トランスデューサには音響波によってもたらされる高い機械的インピーダンスの負荷がかかるため、例えば音響波アプリケーションの場合は半波長の厚さや放射アプリケーションの場合は1/4波長の厚さといった摩耗防止板の従来の設計ガイドライン及び製造方法は適切ではない場合がある。むしろ、本開示の一実施形態のトランスデューサでは、摩耗防止板又はバッキングがなく、結晶の固有モードの1つの(すなわち、固有周波数に近い)振動が高いQ値で可能になる。振動するセラミック結晶/ディスクは、音響チャンバを流れる流体に直接さらされる。
【0034】
前記バッキングを除去する(例えば、結晶を空気で裏打ちする)ことにより、セラミック結晶はほとんど制振せずに高次の振動モードで振動(例えば、高次のモードの変位)することも可能になる。バッキング付きの結晶を備えたトランスデューサでは、結晶はピストンのようにより均一な変位で振動する。バッキングを除去すると、結晶は不均一な変位モードで振動できる。結晶のモード形状が高次になるほど、結晶の節線(nodal line)が多くなる。捕捉線と節との相関は必ずしも1対1であるとは限らず、結晶をより高い周波数で駆動すると必ずしもより多くの捕捉線が生成されるとは限らないが、結晶の高次モードの変位はより多くの捕捉線(trapping line)を形成する。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記結晶は、その結晶のQ値への影響が最小限(例えば、5%未満)のバッキングを有してもよい。バッキングは、バルサ材、発泡体、コルクなどの実質的に音響的に透明な物質で作製され、結晶をある程度機械的に支持しながら、結晶をより高次のモード形状で振動させ、高いQ値を維持することができるようになる。バッキング層は、固体であってもよく、又は、当該層を貫通する孔を有する格子であってもよい。格子は、特定の高次振動モードで振動する結晶の節に追従し、その節の位置で支持し、結晶の残りの部分を自由に振動させる。格子構造又は音響的に透明な物質は、結晶のQ値を低下させたり、特定のモード形状の励振を妨げたりすることなく、結晶を支持するために設けられる。
【0036】
結晶を流体に直接接触させることも、エポキシ層と摩耗防止板との制振効果とエネルギー吸収効果とを回避することによりQ値の向上に寄与する。他の実施形態では、鉛を含むPZTがホスト流体と接触することを防ぐために、摩耗防止板又は摩耗防止面を有してもよい。これは、例えば、血液の分離などの生物学的用途で望ましい場合がある。このような用途では、クロム、電解ニッケル、無電解ニッケルなどの摩耗防止層を使用してもよい。ポリ(P-キシリレン)(例えばパリレン)又は他のポリマー又はポリマーフィルムの層を塗布するために化学蒸着を使用することもできる。シリコンやポリウレタンなどの有機及び生体適合性コーティングも摩耗防止面として使用できる。
【0037】
図5は、粒子半径とともに音響放射力、流体抗力及び浮力のスケーリングを図示する対数グラフ(対数y軸、対数x軸)であり、音響放射力を使用した粒子の分離について説明している。
図5は、浮力との関係を図示しているが、図示されている関係は、粒子に対する重力の場合とほぼ同じである。従って、本書では、浮力及び重力を適用可能として説明する。
【0038】
浮力は、粒子体積に依存する力であるため、ミクロンの桁の粒子サイズでは無視できるが、成長した数百ミクロンの桁の粒子サイズでは大きくなる。流体抗力(ストークス抵抗力)は、流体速度に比例してスケーリングするため、通常、ミクロンサイズの粒子の浮力を超えるが、数百ミクロン程度の大きなサイズの粒子では無視できる。音響放射力のスケーリング及び特性は、流体抗力とは異なる。粒子サイズが小さい場合、ゴルコフの方程式は正確であり、音響捕捉力は粒子の体積に比例する。最終的に、粒子サイズが大きくなると、音響放射力は粒子半径の3乗で増加しなくなり、特定の臨界的な粒子サイズで急速に消滅する。粒子サイズをさらに大きくすると、前記放射力の大きさは再び増加するが、逆位相になる(グラフには示されていない)。このパターンは、粒子サイズを大きくするために繰り返される。
【0039】
最初に、懸濁液が主に小さなミクロンサイズの粒子とともにシステムを流れると、音響放射力は流体抗力及び浮力の複合効果とバランスし、粒子を音響波に閉じ込めることができる。
図5では、この捕捉はR
c1というラベルの付いた粒子サイズで発生する。このグラフは、粒子サイズが大きくなると、大きい粒子ほど大きな音響力が発生し、R
c1より大きい粒子も捕捉されることを示している。より小さな粒子が音響波に閉じ込められると、粒子のクラスタ化/合体/塊化/強凝集/弱凝集が起こり、有効な粒子サイズが連続的に成長する。粒子がクラスタ化されると、クラスタに対する総合的な流体抗力は、個々の粒子に対する流体抗力の合計と比較して減小する。本質的に、粒子がクラスタ化すると、粒子は互いに流体の流れから保護され、クラスタの全体的な流体抗力を減小させる。粒子クラスタのサイズが大きくなると、音響放射力がクラスタで反射し、単位体積あたりの正味の音響放射力が減小する。粒子に対する音響の横方向の力は、クラスタが静止したままでサイズが大きくなるために流体抗力よりも大きくてもよい。
【0040】
粒子サイズの成長は、浮力が支配的になるまで続く。これは、2番目の臨界的な粒子サイズR
c2で示される。クラスタの単位体積あたりの浮力は、粒子密度、クラスタ濃度及び重力定数の関数であるため、クラスタサイズに対して一定のままである。従って、クラスタのサイズが大きくなると、クラスタの浮力は音響放射力よりも速く増加する。サイズR
c2では、前記ホスト流体に対する相対密度に応じて、前記粒子が上昇又は沈降する。このサイズでは、音響力は二次的であり、重力/浮力が支配的になり、前記粒子は自然に前記音響波から脱落又は上昇して抜ける。一部の粒子は、他の粒子のクラスタが脱落するときに音響波に残る場合があり、流体混合物の流れで音響チャンバに入る残りの粒子と新しい粒子は、3次元の節の位置に移動し続け、成長と脱落のプロセスを繰り返す。
図5のグラフでは、粒子クラスタサイズがR
c2を超えて増加し続けると、音響放射力の非周期的な急激な減小が観察される。この急激な減小は、クラスタのサイズが半値-波長区間に相当するサイズに達することを表しており、クラスタは音響波の節又は腹とオーバーラップし始める。この現象は、サイズR
c2を超える音響放射力の急激な低下及び上昇を説明している。このように、
図5は、小さな粒子がどのように音響波に継続的に閉じ込められ、大きな粒子又は塊に成長し、流体抗力/音響力を克服する浮力/重力のために上昇又は沈降できるかを説明している。
【0041】
いくつかの例では、トランスデューサのサイズ、形状及び厚さにより、さまざまな励振周波数でのトランスデューサの変位を決定することができる。異なる周波数のトランスデューサの変位は、粒子分離効率に影響する場合がある。より高次のモードの変位になるほど、その変位は、すべての方向の音場に強い勾配を持つ複数次元の音響波を生成することができるようになり、それにより、すべての方向に強い音響放射力を生成する。その力は、例えば、大きさが等しく、複数の捕捉線につながる場合があり、捕捉線の数はトランスデューサの特定のモード形状と相関する。
【0042】
図6は、2.2MHzのトランスデューサの共振付近の周波数の関数として、トランスデューサの測定された電気的なインピーダンスの振幅を図示している。トランスデューサの電気的なインピーダンスの極小点は、水柱の音響的な共振に対応し、動作に使用可能な周波数を表している。数値的なモデリングにより、これらの音響共振周波数でトランスデューサの変位プロファイルが大きく変化することが示されており、それによって音響波と結果として生じる捕捉力とに直接影響する。トランスデューサはその厚さ方向の共振付近で動作するため、電極の表面の変位は本質的に位相がずれている。トランスデューサの電極の典型的な変位は均一ではなく、励振の周波数によって異なる場合がある。より高次のトランスデューサの変位パターンになるほど、捕捉力がより強くなり、捕捉された粒子に対して複数の安定した捕捉線が得られる。
【0043】
音響捕捉力及び粒子分離効率に対するトランスデューサの変位プロファイルの影響を調べるために、励振周波数を除くすべての条件を同一にして、実験を10回繰り返した。
図6の丸数字1-9及び文字Aで示される10個の連続した音響共振周波数を励振周波数として使用した。条件は、30分の実験期間、約5ミクロンのSAE-30油滴の1000ppm油濃度の油/水エマルジョン、500ml/分の流量、及び、20Wの印加電力であった。
【0044】
前記エマルジョンがトランスデューサを通過すると、油滴の捕捉線が観察され、特性評価された。特性評価は、
図7Aに示すように、
図6で特定された10個の共振周波数のうち7個に対する流体チャネルを横切る捕捉線の数の観察及びパターン化を伴う。
【0045】
図7Bは、捕捉線の位置が測定されたシステムの等角図を示している。
図7Cは、矢印114に沿って入口を見下ろしたときに現れるシステムの図である。
図7Dは、矢印116に沿ってトランスデューサの表面を直接見たときに現れるシステムの図である。
【0046】
励振周波数の影響により、音響共振5及び9の励振周波数における単一の捕捉線から音響共振周波数4に対する9本の捕捉線まで変化する捕捉線の数が明確に決まる。他の励振周波数では、4本又は5本の捕捉線が観察される。トランスデューサの変位プロファイルが異なると、音響波で異なる(より多くの)捕捉線が作成され、変位プロファイルの勾配が大きくなると、通常、より高い捕捉力とより多くの捕捉線が作成される。なお、
図6に示す周波数では、
図7Aに示すように異なる捕捉線のプロファイルが得られたが、これらの捕捉線のプロファイルは異なる周波数でも取得できるものである。
【0047】
図7Aは、互いに異なる基本振動数で結晶を振動させることで可能な互いに異なる結晶振動モードを図示している。結晶の3次元振動モードは、チャンバ内の流体を横切ってリフレクタとの間で行き来する音響波によって行われる。その結果として生じる複数次元の音響波は2つの成分を含むと考えることができる。第1番目の成分は、音響波を生成する結晶の面外への平面的な運動成分(結晶表面全体の均一な変位)であり、第2番目の成分は、結晶表面全体における横方向にピークと谷が生じる変位振幅の変動である。この音響波によって3次元の力勾配が生成される。これらの3次元の力勾配によって粘性的な流体抗力に打ち勝つことにより、前記流れについて粒子を停止及び捕捉する横方向の放射力が生じる。更に、前記横方向の放射力は、粒子の密集したクラスタを作成する役割を果たす。従って、粒子の分離と重力-駆動による収集は、混合物が音響波を流れる際の粒子の流体抗力に打ち勝つことができる複数次元の音響波の生成に依存する。
図7Aに模式的に示すように、音響波の軸方向の捕捉線に沿って複数の粒子クラスタが形成される。
【0048】
本書に記載のトランスデューサの圧電結晶は、その結晶を励振するための周波数を含む駆動パラメータを変更することにより、さまざまな応答モードで動作させることができる。各動作ポイントには、1つ以上のモードが支配的な理論的に無限の数の振動モードが重畳されている。実際には、トランスデューサの任意の動作ポイントに複数の振動モードが存在し、特定の動作ポイントで支配的なモードもある。
図8は、典型的な粒子サイズでの結晶振動及び横方向の放射力についてのCOMSOLの結果を示している。軸方向放射力に対する横方向放射力の比が動作周波数に対してプロットされている。特定の振動モードが支配的な曲線上の点にラベルが付けられている。モードIは、混合物内で2MHzの音響波を生成するように設計された結晶の平面振動モードを表している。モードIIIは、1×1結晶の3×3モードの動作を表している。これらの分析結果は、3×3モードが横方向の放射力のレベルが異なると支配的であることを示している。より具体的には、前記例示のシステムを2.283MHzの周波数で動作させると、3×3モードで約1.11の最小の横方向の力の比が生じる。この動作点は、前記例示のシステムに対して最大のクラスタサイズと最適な収集動作とを生じる。最も効率的な分離を達成するために、好ましくは、最小の横方向の力の比で所望の3次元モードを生成する所与の構成に対する周波数で、本書で説明した前記デバイス及びシステムを動作させてもよい。
【0049】
図9は、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞を含む流体が流れる音響キャビティに結合されたわずかに制振した1×3の圧電トランスデューサの周波数スキャンを図示している。図示されているように、反共振のピークがあり、その反共振から離れた二つ目の極小リアクタンスが周波数セットポイントに選択される。図では、反共振は約2.278MHzであり、選択された周波数セットポイントは約2.251MHzである。
【0050】
図10は、CHOを含む音響チャンバに結合された高制振の2MHzの1×3のトランスデューサの周波数スキャンを図示している。反共振のピークが特定され、反共振の周波数から離れた二つ目の極小リアクタンスが動作セットポイントに選択される。反共振の周波数から離れた二つ目の極小リアクタンスが動作セットポイントとして選択されるが、反共振から離れたいずれかのリアクタンス極小点又は指標(index)を動作セットポイントとして選択してもよい。
【0051】
図11を参照すると、音響チャンバ114に結合された音響トランスデューサ112を制御するための制御構成の図が示されている。音響トランスデューサ112は、DC電源110、DC-DCコンバータ116及びRF DC-ACインバータ118で構成されるRF電力ドライバによって駆動される。インバータ118によって提供される出力駆動信号は、電圧検知122及び電流検知124を取得するために検査又は検知され、これらはコントローラ120にフィードバックされる。コントローラ120は、音響トランスデューサ112に提供される駆動信号を変調するために、コンバータ116及びインバータ118に制御信号を提供する。
【0052】
コントローラ120によってコンバータ116に提供される信号は、コンバータ116におけるスイッチング信号のデューティサイクルを決定するパルス幅の基準(measure)である。デューティサイクルは、コンバータ116の出力を決定し、それは、インバータ118に印加されるDC信号を生成するためにフィルタ(図示せず)に印加される。例えば、デューティサイクルが大きいほど、コンバータ116によって生成される出力が高くなり、フィルタによって生成される後続のDC信号はコンバータ116の出力と結合する。また、コントローラ120は、インバータ118の動作周波数を決定するインバータ118に制御信号を提供する。インバータ118に提供される制御信号は、インバータ118のスイッチを切り替えるための切り替え信号であってもよい。代替的又は追加的に、コントローラ120は、所望のスイッチング周波数を示すために使用されるインバータ118に制御信号を提供することができ、インバータ118の内部の回路は制御信号を判断し、判断された制御信号に従って内部スイッチを切り替える。
【0053】
電圧検知122及び電流検知124は、音響トランスデューサ112に提供される駆動信号を制御するフィードバック信号としてコントローラ120に提供される信号を生成する。コントローラ120は、例えば、電力の測定値(measure)であるP=V×Iを取得するため、又は位相角θ=arctan(X/R)を取得するために、電圧検知122及び電流検知124によって提供される信号に対して操作及び計算を実行する。
【0054】
コントローラ120には、電力出力、周波数動作範囲、又は、他のユーザが選択可能なパラメータなどのプロセス設定を受け入れ、プロセス設定及びフィードバック値に基づいてコンバータ116及びインバータ118に制御信号を提供する制御方式が提供される。例えば、前述のように、コントローラ120は、周波数範囲を走査するためにインバータ118に提供される周波数範囲内の多数の周波数を順序付けることができ、トランスデューサ112又は負荷がかかっている可能性のある音響チャンバ114と組み合わせたトランスデューサ112の特性を決定できる。電圧検知122及び検知124それぞれから得られた電圧及び電流に関する周波数スキャンの結果は、
図9及び10に図示すように、コンポーネント又はシステムのインピーダンス曲線の特性を特定するために使用される。周波数スキャンは、図示されたシステムのセットアップ時に及び/又は動作中の期間に行われるように実装できる。定常状態の動作中に、周波数のスキャンを実行して、ユーザ設定とフィードバック値とに基づいて、電力や周波数などの動作に必要なセットポイントを特定できる。従って、コントローラ120によって実施される制御方式は、動的であり、周波数ドリフト、温度変化、負荷変化、その他のシステムパラメータの変化に遭遇する可能性があるなどの、システム内の変化する条件に応答する。制御方式の動的な性質により、コントローラは、コンポーネントの経年劣化や許容誤差の損失などの非線形性に対応したり、非線形性を補正したりすることができる。従って、前記制御方式は適応性があり、システムの変更に対応できる。
【0055】
システム動作のいくつかの例は、音響トランスデューサ112を駆動して、音響チャンバ114内に複数次元の音響波を生成することを含む。3次元音響波は、その反共振周波数付近で、本書ではPZTと呼ばれることもある圧電結晶として実装されてもよい音響トランスデューサ112を駆動することにより強められる。キャビティ共鳴は、PZTのインピーダンスプロファイルを変調し、その共鳴モードに影響を与える。3次元音響場の影響下で、音響キャビティ114内の液体媒体中の懸濁粒子は、凝集シートに押し込まれ、次いで凝集物質の「ビーズ」のストリングに押し込まれる。粒子の濃度が臨界的なサイズに達すると、重力が引き継がれ、凝集した物質が音響場からチャンバの底に落下する。凝集した物質の濃度の変化とその物質の脱落は、キャビティの共鳴に影響を与え、PZTの音響負荷とそれに対応する電気的インピーダンスを変化させる。前記収集された物質の動態(dynamics)の変化により、キャビティとPZTとが離調(detune)し、媒質を浄化する際の3次元波の効果が低減する。さらに、媒体及びキャビティの温度の変化も浄化が低下するようにキャビティを離調させる。キャビティ内で発生する共鳴の変化を追跡するために、制御技術を使用してPZTの電気特性の変化を追跡する。
【0056】
入力インピーダンスが複素数(実数及び虚数)である周波数でPZTを駆動することにより、強力な3次元音響場を生成できる。但し、キャビティの動態により、そのインピーダンス値が不規則に大きく変化する可能性がある。インピーダンスの変化は、少なくとも部分的には、音響トランスデューサ112及び/又は音響チャンバ114に加えられる負荷の変化によるものである。粒子又は二次的な流体が一次的な流体又はホスト流体から分離されると、音響トランスデューサ112及び/又は音響チャンバ114の負荷が変化し、それが音響トランスデューサ112及び/又は音響チャンバ114のインピーダンスに影響を与える可能性がある。
【0057】
前記離調(detuning)を修正するために、コントローラ120は、電圧検知122及び電流検知124を使用してPZTで検知された電圧及び電流からPZTのインピーダンスを計算し、前記離調を補正するために動作周波数を変更する方法を決定する。周波数の変化はチャンバに供給される電力に影響するため、コントローラは、(動的な)降圧コンバータ116の出力電圧を調整して、RF DC-ACインバータ118から前記音響トランスデューサ112及び/又は音響チャンバ114への所望の量の電力出力を維持する方法も決定する。
【0058】
降圧コンバータ116は、電子的に調整可能なDC-DC電源であり、インバータ118の電源である。RF DC-ACインバータ118は、コンバータ116からのDC電圧を変換して、PZTを駆動するための高周波のAC信号に戻す。チャンバ内の動態は、低オーディオ帯域の周波数に対応するレートで発生する。その結果、コンバータ116、コントローラ120及びDC-ACインバータ118は、低オーディオ帯域よりも速い速度で動作して、コントローラ120がチャンバの動態を追跡し、システムをチューニングできる。
【0059】
コントローラ120は、DC-ACインバータ118の周波数と降圧コンバータ116から出力されるDC電圧とを同時に変更して、リアルタイムでキャビティの動態を追跡することができる。システムの制御帯域幅は、インバータ118のRF帯域幅、降圧コンバータ116のフィルタリングシステムのカットオフ周波数、及び、音響トランスデューサ112のRF帯域幅の関数である。
【0060】
コントローラ120は、一例として、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)制御として、又は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)制御として実装してもよい。コントローラ120は、2つのチャンネルを実装して、並列処理を可能にし、例えば、実インピーダンス及び/又は無効インピーダンス、電圧、電流並びに電力を分析してもよい。
【0061】
キャビティの音響的な動態は、PZTの電気特性に影響を与え、PZTから取り出された電圧及び電流に影響する。前記検知されたPZTの電圧及び電流はコントローラによって処理され、(音響的な動態の影響を受ける)PZTが消費するリアルタイムの電力とその瞬間インピーダンスとを計算する。ユーザのセットポイントに基づいて、コントローラは、リアルタイムで、インバータ118に供給されるDC電力と、キャビティの動態を追跡してユーザのセットポイントを維持するためにインバータ118が動作する周波数とを調整する。LCLネットワークは、電力伝達効率を高めるためにインバータt118の出力インピーダンスを整合させるために使用される。
【0062】
コントローラ120は、(PZTインピーダンスの変化を介して)キャビティ性能の変化をリアルタイムで検出するのに十分な速さでセンサ信号をサンプリングする。例えば、コントローラ120は、電圧検知122及び電流検知124からのフィードバック値を毎秒1億のサンプルでサンプリングしてもよい。信号処理技術を実装して、システムの動作に広いダイナミックレンジを実現し、キャビティの動態と用途の幅広いバリエーションに対応する。コンバータ116は、コントローラ120から来る信号コマンドに追従するための速い応答時間を有するように構成することができる。インバータ118は、時間とともに変化する有効電力及び無効電力の変化量を要求する広範囲の負荷を駆動することができる。
図11に図示するシステムの実装に使用される電子パッケージは、電磁干渉(EMI)に関するUL及びCEの要件を満たし又は超えるように構成できる。
【0063】
コントローラ120は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)内の実際のデジタル電子回路で実現されるRTL(レジスタ転送レベル)を使用する非常に高速な並列デジタル信号処理ループを実装してもよい。2つの高速デジタル比例積分(PI)ループは、コントローラ120によって生成される周波数及び振幅の制御信号を調整して、電力及びリアクタンスを追跡する。電圧と電流の検知は、トランスデューサの電圧及び電流を検知するために使用される。FPGAは、100MHzのクロック信号で動作できる。クロック速度は、PZTの状態をリアルタイムで監視及び調整するのに十分な高速サンプリングを取得するのに役立つ。更に、FPGAの構造により、各ゲートコンポーネントは、クロック速度に応じた伝搬遅延を実現できる。各ゲートコンポーネントの伝搬遅延は、1サイクル未満、又は100MHzのクロック速度で10ns未満である。
【0064】
制御信号を計算するための並列及び順次の動作は、次のパラメータを計算するためにコントローラ120によって実装できる。
VRMS=sqrt(V12+V22+・・・+Vn2)
IRMS=sqrt(I12+I22+・・・+In2)
有効電力(P=V-Inst.×Nサイクルにわたって積分されたI-Inst)
皮相電力(S=VRMS×IRMS)
【0065】
コントローラ120は、検知された電圧及び電流を同位相及び直交位相の成分に分解することにより無効電力及び2極位相角を計算するように構成されてもよい。電圧及び電流の同位相及び直交位相の復調を実装して、4象限位相、無効電力及びリアクタンスを取得できる。無効電力と位相角の計算は、同位相及び直交位相の成分を使用して簡素化できる。
V位相角=Arctan(QV/IV)
I位相角=Arctan(QI/II)
位相角=V位相-I位相
無効電力=(Q=皮相電力×Sine(位相角)
【0066】
上記の計算と結果を使用して、音響チャンバ内の負荷を含む音響システムの状態を判断できる。例えば、音響チャンバ内の物質の量が平均より多い場合、又は、音響波がより多くの物質を保持している場合、システムの負荷が大きくなり、システムのリアクタンスの極小点は、それに応じて周波数がシフトすることができる。音響チャンバ内の物質が少ない場合、又は、音響波が保持する物質が少ない場合、システムの負荷が少なくなり、リアクタンスの極小点は、それに応じて周波数がシフトする。連続動作の場合、負荷の変化に対応又は補正する定常状態動作が望ましい。本書で説明する極小リアクタンスの追跡により、連続動作で高性能を達成できる。但し、音響システムの初期条件は、定常状態の制御に対応するのが難しい場合がある。
【0067】
実装の一例によれば、コントローラ120は、音響システムを初期化して動作の準備をするための起動手順を実施してもよい。この手順は、コンポーネント及び条件が望ましい動作範囲内にあるかどうかを判断するために、障害検出クエリ及び/又はリセットで開始してもよい。障害検出には、開回路、短絡、過熱、過剰な電力及び音響システムの動作に望ましくない、又は、危険若しくは問題を引き起こす可能性のある、その他の状態の検出を含むことができる。
【0068】
前記プロセスは、R/X追跡を可能にする適切な情報を持つZsys(f)のデータセットを取得するために、システムが通常の動作用に構成されていることを前提としている。このようなデータセットは、周波数範囲内の多数の離散周波数をスキャンし、各離散周波数で電圧や電流などのシステムパラメータを測定することで実現できる。PZTの周波数特性はPZT負荷の関数として変化するため、情報の精度を向上させるために、通常の動作条件下で周波数スキャンが実装される。PZTの反共振周波数f2で動作しないことにより、より優れたシステムパフォーマンスが得られる。そのため、前記起動手順は、f1の代わりにf2に相対的なプロセスを実装して、f2に最も近いXminを特定して回避する。例えば、f2は、前記起動手順の計算の開始点として使用される。前記起動手順は、初期周波数掃引条件に対して校正されたPZTモデルを使用して、現在のシステム条件を追跡する。前記モデルは、通常のシステム動作中に維持されて再校正されなくてもよく、又は、特定の期間で再校正されてもよく、その特定の期間は定期的、ランダム、又は、システムの動作ステータス若しくはパラメータに関連するものであってもよい。前記モデルは、特定のイベントの発生時に再調整されてもよい。例えば、システムが許容可能な性能の範囲外にドリフトしすぎたとき、前記モデルが再調整されてもよい。許容可能な性能の範囲は、多数のパラメータ又はパラメータの組み合わせから決定できる。
【0069】
別の実施例によれば、起動手順は、音響システムを動作するために初期化して準備する。この手順により、連続動作前の初期状態で音響チャンバが安定する。この手順は、コントローラ120を使用して、周波数掃引で始まる制御方式を実施し、周波数掃引範囲内の離散周波数でシステム性能パラメータを決定する。前記制御方式は、周波数掃引範囲を定義する開始周波数、周波数ステップサイズ及びステップ数の入力を受け入れてもよい。コントローラ120は、音響トランスデューサ112に印加される周波数を変調するための制御信号を提供し、結晶の電圧及び電流は、電圧検知122及び電流検知124を使用して測定される。コントローラ120の制御方式は、周波数掃引を複数回繰り返して、比較的高いレベルの保証でシステム特性、例えばリアクタンスを決定してもよい。
【0070】
大規模な音響濾過システムの実験的なテストによれば、1MHz及び2MHzの1×3トランスデューサは、
図12に示すように、トランスデューサの反共振より低い周波数のリアクタンス極小点で動作する場合、及び、トランスデューサの反共振より高いリアクタンス極大点で動作する場合に、最適な効率を持つ可能性があると判断された。本書に記載の技術は、動作のために共鳴チャンバを準備し、RF駆動の周波数をトランスデューサに設定する自動起動方法を提供し、反共振より低いリアクタンス極小点又は反共振より高いリアクタンス極大点で動作する。一特徴によれば、この技術は、リアクタンス極小点が位置する周波数を断続的又は連続的に決定し、音響トランスデューサ112の駆動周波数をその周波数に設定する。この技術を使用して、インバータ118の周波数を設定及び調整して、RF駆動を動作させることができる。
【0071】
【0072】
本方法は、周波数の掃引を実行し、各周波数ステップに対する抵抗及びリアクタンスのデータを収集することから始まる。抵抗及びリアクタンスのデータは、RF駆動の電圧及び電流の測定値から推定される。掃引範囲はユーザが指定するが、トランスデューサの反共振の50kHzだけ高い周波数まで及び50kHzだけ低い周波数までの範囲を目標としている。ステップサイズ及びステップ間隔も変更可能な変数である。掃引が完了すると、各ステップで周波数、抵抗及びリアクタンスが出力される。
【0073】
次に、前記掃引からのデータは、ゼロ位相・低域通過のバターワースフィルタを使用してフィルタ処理される。リアクタンスは、フィルタ処理されたデータのピークの数が推定ピーク数と等しくなるまで、フィルタの低域カットオフ周波数が絶えず増加するループに入る。この推定ピーク数はユーザによって入力される。抵抗のデータはゼロ位相・低域通過のバターワースフィルタを使用してフィルタ処理されるが、ピークが1つになるまで低域カットオフ周波数が増加する。フィルタ処理された抵抗のデータのピーク値は、トランスデューサの反共振として解釈される。
【0074】
フィルタ処理されたリアクタンスのデータの微分係数が計算され、リアクタンス曲線のすべての極大点又は極小点を見つけるために使用される。反共振データ入力から計算される前記リアクタンスの極小点/極大点での微分係数の値が負の場合、本方法は、反共振よりも周波数が低い極小リアクタンスのポイントを探す。本方法は、負から正へのゼロ交差、つまり、フィルタ処理されたリアクタンス曲線の微分係数の上り勾配のゼロ交差を特定することにより、極小リアクタンスのポイントを探す。この値が正の場合、本方法は、リアクタンス曲線の極大点である、反共振よりも周波数が高い正から負のゼロ交差を探す。反共振データの入力から計算されるリアクタンスの極小/極大の数の絶対値は、反共振からの極小又は極大のポイントの数である。このポイントの指標(index)は、RF駆動を設定する周波数を決定するために使用される。
【0075】
前記RF駆動が設定され、本方法はユーザが設定した指定時間待機する。この時間が経過すると、本方法はスキャンして前記シーケンスを最初からやり直す。わずかに制振されたデータと大きく制振されたデータの両方のサンプルデータを、
図9及び
図10に図示する。どちらの例でも、反共振よりも周波数が低い2つ目のリアクタンス極小点を選択する方法が選択されている。前記設定周波数は、
図9及び10の赤い線で示されている。この線は、フィルタ処理されたリアクタンスデータ曲線の微分係数の負から正のゼロ交差上にあり、フィルタ処理されたリアクタンスデータ曲線の極小点にあることがわかる。
【0076】
前記周波数掃引で得られたデータの分析結果として、いくつかのリアクタンスの極小点を特定することができる。本制御手法は、所望の極小リアクタンスに対応する抵抗の追跡に基づいて、所望の動作ポイントを追跡するために使用できる抵抗の勾配(+/-)を提供できるだけでなく、所望のリアクタンスの極小点が位置する特定の周波数範囲を指定する入力を提供できる。抵抗の勾配は極小リアクタンス付近で一定になる場合があり、これはトラッキング技術で使用するための有用なパラメータを提供する場合がある。所望の周波数で抵抗を追跡することにより、リアクタンス極小点で動作させるためのロバスト制御を実現できる。
【0077】
本制御手法は、抵抗/リアクタンスの値の微分係数を使用して、極大点と極小点を示す勾配がゼロの微分係数を特定することができる。比例-積分-微分(PID)コントローラのループを使用して抵抗を追跡し、所望の極小リアクタンスが発生する周波数のセットポイントを取得できる。いくつかの実装では、本制御は比例積分(PI)ループであってもよい。FPGAを100MHzで動作させると、10nsごとに調整又は周波数補正を行って、追跡された抵抗の変化を補正できる。このタイプの制御は非常に正確であり、例えば、リアクタンス、負荷、温度など、多くの変化する変数の存在下でPZTの制御をリアルタイムに管理するために実装できる。本制御技術は、制御装置がインバータ118の出力を調整して周波数を誤差限界内に維持できるようにするために、リアクタンスの極小点の周波数又は周波数セットポイントに対する誤差限界を設けることができる。
【0078】
流体と微粒子の混合物などの流体混合物は、音響チャンバを通って流れて分離されてもよい。流体混合物の流れは、PZT及びチャンバだけでなく流体にも摂動を加えることができる流体ポンプを介して提供されてもよい。摂動は、検知された電圧及び電流の振幅に大きな変動を引き起こす可能性があり、これは、チャンバの実効的なインピーダンスがポンプの摂動によって変動することを示している。しかしながら但し、本制御技術の速度により、前記変動は前記制御方法によってほぼ完全に消去することができる。例えば、前記摂動は、PZTからのフィードバックデータで特定でき、コントローラからの制御出力で補正することができる。フィードバックデータ、例えば、検知された電圧及び電流は、全体的な音響キャビティの圧力を追跡するために使用されてもよい。トランスデューサ及び/又は音響チャンバの特性は、時間とともに、圧力や温度などのさまざまな環境パラメータによって変化するため、前記変動を検知することができ、本制御技術は前記変化を補正して、所望のセットポイントでトランスデューサ及び音響チャンバを作動させ続けることができる。このように動作の目標セットポイントを非常に高い精度及び精密さで維持できるため、本システムの動作の効率を最適化できる。
【0079】
FPGAはスタンドアロンモジュールとして実装してもよく、クラスDドライバと組み合わせてもよい。各モジュールには、システムに接続されたときに特定できるように、ハードコーディングされたアドレスが提供されてもよい。前記モジュールはホットスワップ可能に構成できるため、本システムの連続動作が可能である。前記モジュールは、特定のシステムとトランスデューサに合わせて校正してもよく、初期化時など特定のポイントで校正を実行するように構成してもよい。前記モジュールには、動作時間、正常性、エラーログ及びモジュールの動作に関連するその他の情報を保存できるように、EEPROMなどの長期持続メモリが含まれてもよい。前記モジュールは更新を受け入れるように構成されているため、たとえば、同じ機器で新しい制御技術を実装できる。
【0080】
コントローラ120は、音響トランスデューサを制御する方法を実装することができる。本方法では、ある範囲の周波数にわたって音響トランスデューサを駆動する周波数掃引中に低電圧出力を使用する。音響トランスデューサからのフィードバックは、前記低電圧出力における周波数範囲でのトランスデューサの抵抗及びリアクタンスの応答を決定するために使用される。トランスデューサの応答のデータが収集されると、反共振よりも低い極小リアクタンスが発生する周波数が特定される。極小リアクタンスでの抵抗が特定され、この抵抗での動作を確立するために周波数セットポイントが設定される。周波数セットポイントに対する有効電力のセットポイントが設定されるが、この設定はユーザ入力に基づいて行ってもよい。本方法における動作のセットポイントの設定により、リニアアンプ又はコンバータ-インバータ電源用の電力制御信号が出力される。
【0081】
本方法は、電圧及び電流が音響トランスデューサで測定されるループを実行し、有効電力及び抵抗が計算されて比例積分(PI)コントローラに提供される。PIコントローラの出力は、トランスデューサに供給される信号の振幅及び周波数を調整するために使用される。前記ループが繰り返され、その結果、トランスデューサに供給される電力の振幅が制御及び追跡され、トランスデューサに供給される電力の周波数が制御及び追跡される。前記ループにより、コントローラは、例えば、トランスデューサ及び/又はトランスデューサ/音響キャビティの組み合わせの負荷に関連する変化、又は、温度に関連する変化を含むシステムの変化に対する動的な調整を行うことができるようになる。
【0082】
コントローラ120は、トランスデューサの制御を実行するために情報を処理する方法を実装することができる。本方法は、有効電力及び極小リアクタンスに対する所望の動作ポイントを使用し、この動作ポイントはユーザ入力から取得してもよい。駆動電圧及び駆動電流などのデータはトランスデューサから受信される。トランスデューサから受信したデータは、そのデータから導き出される情報及び計算の品質を改善するように調整される。例えば、駆動電圧及び駆動電流を表すデータは、デスキュー(deskew)され、オフセットを備え、以降の計算で使用するためにスケーリングされる。前記調整(condition)のデータは、トランスデューサの有効電力、抵抗及びリアクタンスを計算するために使用される。これらのパラメータは、本方法で受信した動作ポイントと比較され、PIコントローラを使用して、トランスデューサに提供される駆動信号の有効電力及び周波数を調整できる信号を生成する。なお、前記調整されたフィードバックパラメータを使用して、所望の動作ポイントの情報とともに、リニアアンプ又はコンバータ-インバータの組み合わせに関係なく、電源に供給される信号を調整するアンプに供給されるエラー信号を生成できる。
【0083】
図12のグラフは、音響システムの動作ポイントに使用できるリアクタンスの極小点及び極大点を示している。有効電力は比較的一定である。この例では、入力有効電力と音響有効電力とはかなり一致しており、電力の効率的な伝達を示している。実際には、音響チャンバで非常に効率的な分離を得るようにトランスデューサを動作させることと、極小リアクタンスの極小点を意味することと、チャンバ内への効率的な電力伝達を得ることとは、互いに選択の入れ替えが可能である。分離される所与の物質及び所与のトランスデューサに対して、共振周波数でフィルタのコンポーネントを選択して、音響キャビティへの効率的な電力伝達を実現し、システム全体の効率を向上させることができる。
【0084】
混濁度の性能は、音響システムの分離効率を測定するために使用される。音響トランスデューサは、リアクタンス極小点で、音響波が通過する流体中の粒子に軸方向及び横方向の力を発生させることができるマルチモード動作を表すポイントで動作する。従って、リアクタンス極小点で音響トランスデューサを動作させるための制御技術を提供することにより、所望の性能を達成することができる。ゼロ位相の平面波の動作とは異なり、マルチモードで動作している場合、ゼロ位相でも所望の性能を達成できる。この結果は、極小リアクタンスでのマルチモード動作の性能の点で重要な利点を示している。これらの性能上の利点は、トランスデューサの動作の波なしモード又は平面波のモードでは得られない。
【0085】
PZTキャビティシステムの入力インピーダンスの無効成分が極小になる周波数で動作させることにより、3次元フィールド(複数次元)音響波システムの性能を向上させることができる。
図12は、2MHzのシステムでこれらの条件が存在する場所を図示している。
図12は、PZTキャビティシステムの動作周波数帯域に複数の共鳴があり、応答特性が準周期的な性質を持っていることを図示している。共鳴キャビティの周期的な性質は、PZTの非周期的な特性の影響を受ける。PZTによりキャビティの動作に歪みが生じ、PZTキャビティシステムの自動制御プロセスを確立することが難しくなる。
【0086】
キャビティ抵抗Rc(有用な働きをする音響成分)は基本的に周期的である。その極大点は、最大の変換効率と一致する。これらの極大点は、PZTの入力インピーダンスのリアクタンスの極小点とも一致する(反共振から遠ざかるほど大きくなる)。但し、特定のリアクタンスの極小点の値は、他のリアクタンスの極小点の値とは異なる。キャビティの影響による抵抗曲線及び反応曲線は、PZTのRpzt曲線及びXpzt曲線に「乗って」いる。これらの曲線は、動的条件下で変化する。キャビティ内の温度変化により、共振曲線は周波数が横方向にシフトする。このようなシフトは、Xpzt曲線に沿って「スライド」するため、特定の極小リアクタンスXminの値を変更する。Xpztのレベルに対する相対的なXmin値は、ほとんど又はまったく変化しない(2次PZT効果による)。温度変化はないが、キャビティ内の制振に変化(エネルギー吸収の増加又は減少)がある場合、特定のXminの値に再び変化がある。この変化は、Xpztに対してXのピーク・ツー・ピーク値が増加又は減小する形を取る。制振の変化による値の変化は、温度の変化と混同されやすい。従って、特定のXmin値を自動的に追跡する制御スキームの改良では、Xminを動かさない制振変化とXminを動かす熱ドリフト変化とを区別するように設計する必要がある。以下は、動的な条件下で特定のXminを見つけて追跡するための手順と関連するアルゴリズムとを示している。
【0087】
R及びXにおけるRpzt及びXpztの影響を最小化するために使用される本方法では、対象の周波数帯域にわたってRpzt及びXpztを厳密に表す数学モデルを使用する。そのモデルの応答の形状は、システムの応答の形状から差し引かれ、キャビティの動態に対するPZTの歪みの影響を最小限に抑える。前記モデルのインピーダンス関数は次のように与えられる。
【数13】
ここで、
f=評価周波数(Hz)
C
0=前記PZT構造の固有キャパシタンス
f
1=前記PZTの共振周波数
f
2=前記PZTの反共振周波数
Q=構造とその接続負荷によって吸収されるエネルギーに関連するPZT品質係数
j=虚数演算子(複素数表記)
R
0(f)=Z
0(f)の抵抗又は実部
【数14】
X
0(f)=Z
0(f)の無効部分又は虚数部分
【数15】
【0088】
本システムの応答から差し引かれた前記モデルの応答は、PZTによって生じた歪みを補正する。Q(モデルの周波数応答の形状を制御するパラメータ)を適切に選択すると、PZTによって生じた応答歪みを根本的にキャンセルすることができる。PZT歪みをキャンセルする効果により、ゼロ点に関してより対称的なリアクタンス応答が生成される。このような対称性により、制振の変化と比較してドリフトの変化を検出しやすくなる。ドリフト変化は、PZTのリアクタンス曲線を追跡しなくなったため、特定のXminの周波数をほとんど又は全く変更せずに移動する。制振の変化は特定のXminの振幅値を変化させるが、周波数方向には変化がない。従って、前記モデルの補正を使用してXminを追跡するには、熱ドリフトを追跡する必要がある。キャビティ効果を歪ませるPZTの周波数成分がまだある。キャビティの動態に応答するPZTの能力は、PZTの反共振周波数から遠ざかるにつれて低下する。R又はXの極値は、周波数帯域全体で同じ値にはならないが、ベル型の曲線の形で先細りになる。この歪みは、制振とドリフトとの間のクロスカップリングを提供するが、補正されていない応答が使用される場合と同じ程度ではない。前記クロスカップリングの影響を軽減する方法については、この本書の後半で説明する。
【0089】
Qの適切な値は、
図13のフローチャート300に図示されている反復プロセスを用いることにより決定される。PZTの共振周波数f1及び反共振周波数f2の値、デバイスの固有静電容量C
0、並びに、f1及びf2を含む周波数範囲でのPZT-キャビティの入力インピーダンスのデータセットZsysの値は、ブロック304に示すように、本プロセスに入力される。ブロック304及び306は、実際のシステムで遭遇する可能性のあるものよりもはるかに大きいQ及びRMSエラーの値で初期化されるプロセスを示している。本プロセスの繰り返しそれぞれについて、ブロック308及び310に示すように、RMSエラーが計算され、その以前の値と比較される。新しい誤差が古い誤差よりも小さい場合(「Yes」分岐)、ブロック312で新しい誤差で古い誤差が置き換えられ、ブロック314でQの古い値が一定量減小され、その新しい値で置き換えられる。ブロック310で決定されるように、Qの減小が誤差の増加を引き起こすまで、本プロセスは繰り返される。その時点で(「No」分岐)、本プロセスは停止し、ブロック316に示すようにQの最終値が保存され、音響キャビティの動的変化を追跡するための後続の信号処理で使用される。RMSエラーの計算は次のように与えられる。
【数16】
ここで、
N
s=システムの周波数スキャンの実行時に取得されたサンプルの数
f
n=周波数スキャンで使用される離散周波数値
X
sys(f
n)=周波数f
nで見つかったシステムのリアクタンスのサンプル値
X
0(f
n)=f
nで計算されたモデルのリアクタンスのサンプル値
【0090】
誤差計算は、2つの関数が互いにどの程度異なるかをポイントごとに測定する。本例では、システム関数にはキャビティ効果によるインピーダンスの周期的な変化が含まれるのに対し、PZTモデルにはこれらのキャビティ効果が含まれないため、誤差がゼロにならない場合がある。本プロセスの目的は、PZT効果を除去し、キャビティ効果を維持することである。
【0091】
対象の周波数帯域(例えば、f1からf2まで)に対応するリアクタンスの極小点を持つ複数のキャビティ共鳴があるため、自動的な極小位置検出の実装を可能にする方法を実装できる。可能な方法の一例を次に説明する。PZT-キャビティ・システムの周波数掃引で検出される、観測された周期的なキャビティ共鳴は、キャビティの音響経路の長さに関連している。経路の長さが長いほど、所定の掃引区間でより多くの共鳴が観察される。所定の周波数掃引に含まれる共鳴の数を知ることで、掃引帯域をセグメントに分割し、分析して各セグメントの極小リアクタンスとその周波数位置とを見つけることができる。所定の音響キャビティの共鳴周波数fcは、次のように与えられる。
【数17】
ここで、
f
c=共鳴周波数(Hz)
V
c=キャビティ媒体内の音速(メートル/秒)
L
c=キャビティの長さ(メートル)
【0092】
f1からf2までのPZT周波数帯域内の共鳴の数Nrは、次のように与えられる。
【数18】
ここで、小数端数の共振は現実的ではないため、N
rは最も近い整数に丸められる。
【0093】
システムの周波数掃引を行うのに必要なデータサンプルの数Nsがわかれば、共振の区間ごとのデータサンプル数Ns/rを決定することができ、そのデータサンプル数は次のようになるはずである。
【数19】
ここで、小数端数のサンプルは現実的ではないため、Ns/rも最も近い整数に丸められる。
【0094】
各共振区間でのXminの位置及び値の決定は、
図14のフローチャート400に図示すように、繰り返し実行される。本プロセスは、システムの周波数掃引が行われ、データがPZT補正プロセスによってフィルタ処理されていることを前提としている。例えば、上述のように、ブロック402に示すように、PZTモデルのQ調整済みインピーダンスがシステムのインピーダンスデータから差し引かれて、補正されたインピーダンスZcのデータセットが生成される。ブロック404に示すように、リラクタンス極小の周波数の範囲及び関連する値が特定される。Xminの値はブロック406で初期化され、Xcを比較するためのアキュムレータはブロック408で初期化される。ブロック410に示すように、新しいXminが見つかったかどうかを判断するために、サンプル値が繰り返し確認される。Xminは、Xcの現在の値を、以前の4つの値と現在のXcの平均値と比較することで検出される。ブロック412、414、416、418、420及び422に示されるように、現在値が平均値よりも小さい場合、現在値は最新のXminになる。更新されたXminの値が減小し続ける限り、ブロック424、426及び428に示すように、Xminの新しい値が保存され続ける。Xminの値が以前の値から増加する場合、Xminの保存値は更新されず、最新の極小値が保存又は維持される。Xcデータセットには複数の極小値を含めることができる。従って、現在のXminは、ブロック424、426及び428で過去の又は「グローバル」Xminと比較される。現在の値が直近最後の値よりも小さい場合、現在のXminで前記グローバルXminが置き換えられ、前記関連する周波数及びRcの値が将来の使用のために保存される。ブロック412、414及び416でXc値の移動平均を使用する理由は、データ内のノイズの影響を低減するためである。ノイズが多い条件の場合、平均化プロセスで使用されるXc値の数を増やして補正できる。任意の共振区間でXminを見つけるには、Zc(f)データセットへの指標(index)ポインタを0とNrとの間におけるNs/rの任意の倍数に調整する。
【0095】
前記決定されたXminの値、それが位置する周波数、及び、それと同じ周波数における関連のRcは、自動追跡モードに使用できる。Xminの値をそれ自体で追跡することは、複雑で困難な場合がある。キャビティ共鳴が変化する場合、Xminは「値の谷」に位置し、周波数方向のドリフトのどちらの方向からも同じ値の変化を示す可能性があるため、ドリフト方向の検出は困難な場合がある。キャビティの制振が変化すると、Xminの大きさが変化し、ドリフトの変化と区別するのが困難になる場合がある。Xminと同じ周波数にあるRcの値を追跡する場合、Rcには前記Xminの位置を囲む周波数範囲内で負の勾配があるため、追跡条件が少し改善される。キャビティが周波数でドリフトが減小する場合、Rcの値は減小し、周波数でドリフトが増大する場合は逆になる。ドリフト及びドリフトの方向はすぐに識別できる。但し、制振の変化によりRcも変化するため、制振とドリフトとの間には依然としてカップリングが存在する。このカップリングの影響は、Rc/Xcの比率を追跡することにより減小する。比率法では、Rc及びXcが制振の変化に合わせてスケーリングする傾向があるため、Rcの変化からドリフト検出を可能にし、制振の変化の影響を低減することができる。目標値を追跡する方法はいくつかあり、
図15に、このような方法の1つを図示する。
【0096】
図15のフローチャート500に図示される動作の原理は、単純なバン・バン・コントローラ(例えば、基本的なサーモスタットの動作の仕組み)である。本プロセスへの入力はブロック502に示されている。システムのインピーダンスはブロック506に示されているように決定される。PZTキャビティシステムの駆動に使用される周波数fxは、ブロック510、512及び514に示すように、ブロック508で計算された現在のIRc/Xclサンプル値が基準値を上回るか下回るかに基づいて、固定量dfを増加又は減小させる。この形式の制御では、現在のサンプル値と基準値との差がどれだけ小さくても大きくても周波数の変化は常に同じであるため、駆動周波数に微小振動(jitter)が発生する。より滑らかな制御では、現在のサンプル値と目標基準値との差に比例して変化をもたらす比例コントローラを実装してもよい。前記差が小さくなると、周波数の変化は小さくなり、その逆も同様である。これにより、微小振動が減小する。
【0097】
前述のプロセスは、3次元音響波システムの自動起動及び運転の手順を提供する制御アルゴリズムに統合できる。このアルゴリズムのフロー
図600を
図16に示す。ブロック602に示すように、広域の周波数にわたる周波数スキャン、又は、全域にわたる(global)周波数スキャンが開始される。ブロック604及び606に示すように、極小及び極大のインピーダンス絶対値並びに関連する周波数が決定される。ブロック608に示すように、周波数増分、キャビティ共鳴の数、及び、共鳴ごとのサンプルの数を含む、起動手順のパラメータが決定される。サンプルの周波数範囲及び数は、ブロック610に示すように設定される。ブロック612に示すように、RMSエラーを低減する補正モデルが見つかる。ブロック614に示すように、現在のインピーダンスが計算される。ブロック616に示すように、Xminは以前に計算された前記現在のインピーダンスセグメントにある。ブロック618に示すように、目標動作ポイントが計算される。ブロック620に示すようにシステムインピーダンスが決定され、ブロック622に示すように現在の抵抗及びリアクタンス並びにそれらの比が計算される。ブロック624及び628に示すように、前記比が目標よりも大きい場合、周波数が増加する。前記比が目標より大きくない場合、ブロック624及び626に示すように周波数が減小する。ブロック630に示すように、周波数範囲のチェックが実行され、本プロセスは繰り返し続けられる。
【0098】
音響システムの起動手順の別の例を、
図17のフローチャート700に図示する。フローチャート700に図示されるプロセスは、連続動作に備えて初期化中に音響システムを補正しようとするものである。連続動作で使用するために、動作周波数又は周波数範囲を決定する必要がある。但し、音響システムが最初に連続モードですぐに動作する場合、かなりの量の物質が音響波によって捕捉されない可能性があり、重大な影響を与える可能性がある初期性能の低下につながる。起動手順は、他の方法で捕捉される可能性のある物質を大幅に損失することなく、連続動作の動作パラメータを取得するように設計される。特定の状況では、物質のコストが高い場合や、物質が重要なリソースを使用する処理の結果である場合があり、起動中の物質の著しい損失は非常に望ましくない。
【0099】
フローチャート700に図示する起動手順は、ブロック702に示すように、流体混合物を音響チャンバに流してチャンバを満たすことから始まり、その時点で流体の流れが止められる。チャンバが流体混合物で満たされた状態で、ブロック704に示すように、リアクタンスの極小点を特定するために全域にわたる(global)周波数掃引が行われる。ブロック704にも示されるように、周波数掃引における所定のリアクタンスの極小点は、追跡のために特定されてもよい。リアクタンスの極小点は、音響システムの反共振よりも低い周波数である。リアクタンスの極小点の選択は、物質の種類、音響システムのパラメータ、及び、性能に影響を与える可能性のある他の要因など、いくつかの要因に依存する場合がある。リアクタンスの極小点は、特定のシステム設定で最高の性能が得られるように選択されてもよい。
【0100】
ブロック706は、選択されたリアクタンスの極小点を追跡するためのプロファイルの設定を示している。プロファイルは、周波数ステップサイズ、ステップ数、周波数半径、ヘルツ単位のステップ範囲、掃引半径、及び/又は、ステップ間の時間的区間を含む、追跡アルゴリズムのいくつかのパラメータを含んでもよい。これらのパラメータ及びその他のパラメータは、特定のシステム設定のプロファイル又はレシピで使用されてもよい。例えば、所定の音響特性を有する特定の物質を処理するために、特定の周波数範囲で動作する音響トランスデューサを使用して、特定の長さの音響チャンバに対して特定のプロファイルが選択されてもよい。プロファイルには、処理時間が長くなる可能性がある、より狭いサンプル粒度で処理される幅広い周波数範囲のアルゴリズムパラメータが含まれてもよい。アルゴリズムパラメータは、最終的に処理時間を短縮できる可能性がある、より小さな周波数範囲でサンプルの粒度を上げるように設定してもよい。
【0101】
追跡のためのリアクタンスの極小点が特定され、追跡プロファイルが設定されると、ブロック708に示すように、音響トランスデューサに印加される電力供給が特定のパターンで周期的に繰り返される。印加される電力に使用されるパターンは、一定の割合で一定のレベルまで電力を立ち上げる(ramping up)ことと、一定のレベルで一定期間持続(dwelling)することと、一定の割合で低電力レベルまで立ち下げる(ramping down)ことと、を含んでもよい。このパターンは、リアクタンスの極小周波数が監視され、音響トランスデューサの動作の動作ポイントとして使用されている間、連続して何度も繰り返すことができる。ブロック710に示すように、周波数動作セットポイントは、印加された電力が特定のパターンで周期的に繰り返して供給される間、リアクタンスの極小点を追跡する。電力供給を周期的に繰り返しながらリアクタンスの極小点を追跡する目的は、物質を音響チャンバ内の音響波から沈殿させたり上昇させたりすることである。音響波から離れる物質は、動作周波数がリアクタンスの極小点を追跡しながら、電力供給が周期的に繰り返されるにつれて徐々に変化する。この手法を使用すると、音響波の負荷が減小し、リアクタンスの極小点を含む連続動作の動作パラメータが決定される。音響波を離れる物質は失われず、クラスタ化された状態で音響チャンバ内に残る。この起動フェーズ中の電力の繰り返し供給により、連続的なフルパワーの印加から観察される可能性のある温度の潜在的な上昇が減小する。
【0102】
ブロック712に示すように、電力の周期的な繰り返し供給により音響チャンバの物質が明らかになると、音響システムは連続動作の準備が整う。ブロック714に示すように、音響チャンバへの流体の流れは、音響トランスデューサに印加される電力と同様に、連続動作範囲まで増加する。ブロック716に示すように、リアクタンスの極小点は、音響システムが連続動作するときに周波数動作のセットポイントとして使用するために継続的に追跡される。
【0103】
本書で説明した起動手順の実装に従って、任意のタイプのリアクタンスの極小追跡技術が用いられてもよい。例えば、全域にわたる(global)周波数スキャンでは、多くのリアクタンスの極小点を特定でき、そのうちの1つを動作ポイントとして選択できる。追跡アルゴリズムは、抵抗、リアクタンス、又は、その両方の測定に基づくことができる。追跡アルゴリズムは、周波数範囲のウィンドウ内に所望のリアクタンスの極小点を位置させることができ、このウィンドウは、リアクタンスの極小点の移動に合わせて調整できるため、リアクタンスの極小点の周波数は、前記ウィンドウ内に配置されて迅速に検出できる。負荷が急激に変化したときに、リアクタンスの極小点の周波数が急速に変化し、追跡スキャン間の周波数範囲のウィンドウの外側にある場合、リセット処理を実行して、リアクタンスの極小点を再度特定し、リアクタンスの極小点が存在する狭い周波数範囲を取得して、リアクタンスの極小点の周波数を迅速に決定できる。
【0104】
本開示の
図1に図示されるものを含む音響泳動装置は、フィルタ「トレイン」で使用できる。このフィルタ「トレイン」では、複数の異なる濾過ステップを使用して初期流体/粒子混合物を浄化又は精製し、所望の製品を取得し、各濾過ステップで異なる物質を管理する。各濾過ステップを最適化して特定の物質を除去し、浄化プロセスの全体的な効率を向上させることができる。個々の音響泳動装置は、1つ又は複数の濾過ステップとして動作できる。例えば、特定の音響泳動装置内の個々の超音波トランスデューサを操作して、特定の粒子範囲内の物質を捕捉することができる。特に、音響泳動装置を使用して大量の物質を除去し、後続の下流の濾過ステップ/ステージの負担を軽減できる。音響泳動装置の上流又は下流に追加の濾過ステップ/ステージを配置できる。複数の音響泳動装置も使用することができる。所望の生体分子又は細胞は、そのような濾過/精製後に回収/分離することができる。
【0105】
図1に図示されるものを含む、本開示の音響泳動装置の出口(例えば、浄化された流体及び濃縮細胞)は、任意の他の濾過ステップ又は濾過ステージに流体接続することができる。このような濾過ステップには、深層濾過、滅菌濾過、サイズ排除濾過、又は、接線方向の濾過などのさまざまな方法が含まれる。深層濾過は、フィルタの深さ全体を通して物質を保持できる物理的な多孔質濾過媒体を使用する。滅菌濾過では、一般に熱や照射、化学物質への暴露なしに、非常に小さな孔径のメンブレンフィルタを使用して微生物やウイルスを除去する。サイズ排除濾過は、特定のサイズの細孔を持つ物理フィルタを使用して、サイズ及び/又は分子量で物質を分離する。接線方向の濾過では、流体の流れの大部分は、フィルタに流入するのではなく、フィルタの表面を通過する。
【0106】
陽イオンクロマトグラフィーカラム、陰イオンクロマトグラフィーカラム、アフィニティークロマトグラフィーカラム、混床クロマトグラフィーカラムなどのクロマトグラフィーも使用できる。他の親水性/疎水性プロセスも濾過目的に使用できる。
【0107】
望ましくは、本開示のデバイスを通る流量は、音響チャンバの断面積1cm2あたり最低4.65ml/分である。さらにより望ましくは、前記流量は、最大25ml/分/cm2、最大40ml/分/cm2から270ml/分/cm2までの範囲、又は、それ以上である。これは、バッチリアクタ、流加バイオリアクタ及び灌流バイオリアクタに対しても当てはまり、本書で説明した音響泳動装置及びトランスデューサを使用することができる。例えば、音響泳動装置は、上述したようなバイオリアクタと下流の濾過装置との間に挿入してもよい。音響泳動装置は、バイオリアクタに連結された濾過装置の下流にあるように構成されてもよく、他の濾過装置の上流にあってもよい。また、音響泳動装置及び/又は他の濾過装置は、バイオリアクタへのフィードバックを有するように構成することができる。
【0108】
上述の方法、システム及び装置は例である。様々な構成は、必要に応じて様々な手順又は構成要素を省略、置換又は追加してもよい。例えば、代替構成においては、前記方法は説明されたものとは異なる順序で実行されてもよく、様々なステップが追加、省略又は組み合わされてもよい。また、特定の構成に関して説明された特徴は、他の様々な構成において組み合わされてもよい。構成の異なる態様及び要素は同様の方法で組み合わされてもよい。また、技術は進化しており、従って、前記要素の多くは例であり、本開示又は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0109】
例示的な構成(実施形態を含む)の完全な理解を提供するために、本書の説明において具体的な詳細が与えられる。しかしながら、構成はこれらの具体的な詳細なしで実施されてもよい。例えば、前記構成を不明瞭にすることを避けるために、不必要な詳細なしに、周知のプロセス、構造及び技術が示されている。この説明は例示的な構成のみを提供するものであり、特許請求の範囲、適用性又は構成を限定するものではない。むしろ、前述の構成の説明は、説明された技術を実施するための説明を提供する。本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、要素の機能及び配置に様々な変更を加えてもよい。
【0110】
また、構成は、フロー図又はブロック図として示されるプロセスとして説明されてもよい。それぞれが動作を逐次プロセスとして説明することがあるが、動作の多くは並行して又は同時に実行することができる。さらに、動作の順序は並べ替えられてもよい。プロセスは、図に含まれていない追加のステージ又は機能を有してもよい。
【0111】
いくつかの構成例を説明してきたが、本開示の趣旨から逸脱することなく、様々な修正形態、代替構成及び等価物を使用してもよい。例えば、上述の要素は、より大きなシステムの構成要素としてもよく、その場合、他の構造又はプロセスが、本発明の適用より優先されるか、又は、そうでなければ本発明の適用を修正してもよい。また、上述の要素が考慮される前、その間、又はその後に、多くの動作を行ってもよい。従って、上述の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0112】
値が第1の閾値以上(又は、超える)という記述は、当該値が前記第1の閾値よりわずかに大きい第2の閾値に一致する又は第2の閾値よりも大きいという記述と同等である。例えば、前記第2の閾値は、前記関連するシステムの分解能において前記第1の閾値よりも1つ大きい値である。値が第1の閾値より小さい(又は、その範囲内にある)という記述は、当該値が前記第1の閾値よりわずかに小さい第2の閾値以下であるという記述と同等である。例えば、前記第2の閾値は、前記関連するシステムの分解能において前記第1の閾値よりも1つ小さい値である。