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特開2022-177015耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ
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  • 特開-耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ 図1
  • 特開-耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ 図2a
  • 特開-耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ 図2b
  • 特開-耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177015
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20221122BHJP
   A61M 60/135 20210101ALI20221122BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20221122BHJP
   A61M 60/411 20210101ALI20221122BHJP
   A61M 60/806 20210101ALI20221122BHJP
   A61M 60/829 20210101ALI20221122BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221122BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01F1/057 170
A61M60/135 ZNM
A61M60/237
A61M60/411
A61M60/806
A61M60/829
H01F41/02 G
H01F7/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135033
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2019523602の分割
【原出願日】2017-10-25
(31)【優先権主張番号】16196804.5
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】モウラン クラウディア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐腐食性の永久磁石、耐腐食性の永久磁石を製造する方法、及びその磁石を備える血管内血液ポンプを提供する。
【解決手段】本開示の磁石は、磁石本体と、前記磁石本体の表面上に設けられてカバーする複合コーティングと、を備えて、前記複合コーティングが、(a)前記磁石本体上の金属層と、(b)オプションとして、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面上の金属酸化物層と、(c)前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層と、(d)前記リンカー層の上のポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層と、を備え、前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石であり、前記金属層の金属が、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにそれらの合金から選択され、前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石本体と、
前記磁石本体の表面上に設けられてカバーする複合コーティングと、
を備えて、前記複合コーティングが、
(a)前記磁石本体上の金属層と、
(b)オプションとして、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面上の金属酸化物層と、
(c)前記金属層又は前記金属酸化物層の上のリンカー層と、
(d)前記リンカー層の上のポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層と、
を備え、
前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石であり、
前記金属層の金属が、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され、
前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択される、耐腐食性永久磁石。
【請求項2】
前記磁石本体が焼結された磁石本体である、請求項1に記載の磁石。
【請求項3】
前記希土類金属がネオジムである、請求項1又は2に記載の磁石。
【請求項4】
前記磁石本体が、NdFe14B結晶と前記NdFe14B結晶を取り囲むネオジム鉄ホウ素材料とを有する焼結磁石本体であり、前記ネオジム鉄ホウ素材料が、前記NdFe14B結晶よりもネオジムリッチである、請求項3に記載の磁石。
【請求項5】
前記磁石本体がロッド形状であって、全てのエッジが丸められている、請求項1~4のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項6】
前記シランが、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ官能基を有するトリメトキシシラン及びトリエトキシシラン、あるいはビス-トリメトキシシリル官能基を有するリンカーから選択される、請求項1~5のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項7】
前記金属層の金属が、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、及びアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され、前記金属層の前記磁石本体とは反対側の表面が、前記金属又は金属合金の酸化によって形成された酸化物層によってカバーされている、請求項1~6のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項8】
前記複合コーティングの全ての層が、前記磁石本体の全ての表面に渡って完全に延在している、請求項1~7のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項9】
前記金属層の厚さ又は前記金属層と前記金属酸化物層との合計の厚さが5μm~20μmの範囲である、請求項1~8のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項10】
前記金属層は酸化物層によってカバーされ、前記酸化物層は2nm~5nmの範囲の厚みを有する、請求項1~8のいずれか1つに記載の磁石。
【請求項11】
前記リンカー層の厚さが20nm~150nmの範囲である、請求項1~10のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項12】
ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成された前記層の厚さが5μm~20μmの範囲である、請求項1~11のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項13】
前記複合コーティングの厚さが50μm未満である、請求項1~12のいずれか一つに記載の磁石。
【請求項14】
非磁化の磁石本体を準備するステップと、
前記磁石本体の表面に金属層を形成するステップと、
前記金属層又は前記金属層上に形成された金属酸化物層の上にリンカー層を形成するステップと、
前記リンカー層の上にポリ(2-クロロ-p-キシリレン)の層を形成するステップと、
前記磁石本体を磁化するステップと、
を包含し、
前記磁石本体が希土類金属・鉄・ホウ素永久磁石であり、
前記金属層の金属が、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ならびにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、及びジルコニウムのうちの2つ以上の合金から選択され、
前記リンカー層を形成するリンカーが、アルコキシシランから選択される、耐腐食性永久磁石を製造する方法。
【請求項15】
前記磁石本体が、請求項1~5のいずれか一つに規定されたような磁石本体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記金属層が、イオン蒸着又はプラズマ堆積又は原子層堆積によって金属を付与することによって形成される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記金属層が、イオン性液体からガルバニック堆積によって金属を付与することによって形成される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
金属酸化物層は、前記金属又は合金を酸化することによって前記金属層上に形成される、請求項14~17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
前記リンカー層が、プラズマを使用する物理蒸着によって、又はプラズマを使用しない物理蒸着によって、又は湿式プロセスによって、又はそれらの組み合わせによって、リンカーを付与することにより形成される、請求項14~18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
前記リンカーが請求項6に規定されたようなリンカーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)の層が、ジクロロ[2.2]パラシクロファンのプラズマ堆積によって形成される、請求項14~20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
前記層が請求項9~13のいずれか一つに規定されたような厚さを有する、請求項14~21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
電気モータを備える血管内血液ポンプであって、前記電気モータが請求項1~13のいずれか一つに規定されたような磁石を備えている、血管内血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石の腐食保護に関する。特に本発明は、耐腐食性を磁石に与える保護コーティングを有する永久磁石、及び耐腐食性永久磁石を製造する方法に関する。本発明はまた、本発明の耐腐食性永久磁石を備えた血管内血液ポンプに関する。本発明が全ての種類の永久磁石に適用可能である一方で、希土類永久磁石が好適であり、ネオジム鉄ホウ素(NdFeB)永久磁石が特に好適である。
【背景技術】
【0002】
血管内血液ポンプは、患者の血管内の血液の流れをサポートする。それらは、例えば経皮的に大腿動脈に挿入されて、人体の血管系を通ってその目的位置、例えば心臓の心室まで導かれる。
【0003】
血液ポンプは典型的に、血液流入口及び血液流出口を有するポンプケースを備える。血液流入口から血液流出口まで血液を流れさせるために、ポンプケース内部にて回転軸の周囲にインペラ又はロータが回転可能に支持されて、そのインペラには、血液を運ぶために一つ又はそれ以上のブレードが設けられている。
【0004】
例示的な血液ポンプが図1に描かれている。図1は、例示的な血管内血液ポンプ10の模式的な長手方向の断面図である。血液ポンプはモータ部11及びポンプ部12を有しており、これらは一方の後ろに他方が同軸に配置されていて、結果としてロッド形状の構造形態となっている。ポンプ部はフレキシブルな吸引ホース(図示せず)によって延在されており、このホースは、その端及び/又は側壁に、ポンプへの血液の流入のための開口を有している。吸引ホースとは反対側の血液ポンプ10の端はカテーテル14に接続されていて、オプションとしては血液ポンプの目的位置への操舵のためのガイドワイヤと組み合わされる。
【0005】
図1に示された例示的な血管内血液ポンプは、お互いに堅固に接続されたモータ部11及びポンプ部12を有する。モータ部11は細長いハウジング20を有しており、そこに電気モータ21が収容されている。電気モータはロータ及びステータを有する。ステータはモータの電磁気回路の静止部分であり、ロータは運動する部分である。ロータ又はステータのいずれかが電気的に導電性の巻線を備えており、他方は永久磁石を備えている。その巻線に流れる電流が永久磁石の磁場と相互作用する電磁場を生成し、ロータを回転させる力を生成する。図1の例示的な血液ポンプ10では、電気モータ21のステータ24が、通常の方法で、数多くの周方向に分布された巻線、ならびに長手方向の磁気戻り経路28を有する。それは、モータハウジングに堅固に接続されている。ステータ24は、モータシャフト25に接続されてアクティブな方向に磁化された永久磁石からなるロータ1を囲んでいる。モータシャフト25は、モータハウジング20の全長に渡って延在しており、そこから遠方に突出している。そこにはインペラ34があり、このインペラは、そこから突き出しているブレード32又はポンプブレードを有していて、これは管状のポンプハウジング32の内部で回転する。ポンプハウジング32は、モータハウジング20に堅固に接続されている。
【0006】
モータハウジング20の近端は、そこに密封されて取り付けられているフレキシブルなカテーテル14を有する。本開示においては、「近」及び「遠」は、血管内血液ポンプを挿入する医師に関する位置を示す。すなわち遠端はインペラ側である。カテーテル14を通して、電気モータ21への電源供給及びその制御のための電気ケーブル23が延在している。カテーテル14を通して付加的にパージ流体ライン29が延在しており、これはモータハウジング20の近端壁22を貫通している。パージ流体(太い矢印で模式的に描かれている)は、パージ流体ライン29を通してモータハウジング20の内部に供給され、ロータ1とステータ24との間の隙間26を流れて、モータハウジングの遠端の端面30から外に出る。パージ圧力は、それによって血液がモータハウジング内に入り込むことを防ぐために、血圧よりも高くなるように選ばれる。アプリケーションの場合に応じて、パージ流体の圧力は、圧力が生じるモータにて300~1400mmHgの間である。
【0007】
パージ流体として良く適しているのは、水の粘性度(37℃でη=0.75mPa・s)よりも高い粘性度を有する流体であり、特に、37℃で1.2 mPa・sよりも高い粘性度を有するパージ流体である。例えば、水の中に5%~40%のグルコースを有する溶液が注入用に使われることができるが、生理食塩水もまた適している。
【0008】
インペラ34が回転すると、血液(模式的に白地の矢印で描かれている)がポンプハウジング32の端面吸引開口37から吸い込まれて、ポンプハウジング32の内部を軸方向に後方に運ばれる。ポンプハウジング32の流出開口38を通って、血液はポンプ部12から流れ出て、さらにモータハウジング20に沿って流れる。ポンプ部を逆向きの運搬方向に動かすことも可能であり、その場合には血液はモータハウジング20に沿って吸い込まれて、開口37から外に出る。
【0009】
モータシャフト25は、一方ではモータハウジングの近端において、及び他方ではモータハウジングの遠端において、半径方向ベアリング27及び31に搭載されている。さらに、モータシャフト25はまた、軸方向ベアリング40にも軸方向に搭載されている。血液ポンプが、逆方向にもまた、あるいは逆方向のみに、血液を運ぶために使用されるならば、対応する軸方向ベアリング40はモータハウジング20の近端にも/近端のみに、対応する方法で設けられる。
【0010】
上述された血液ポンプが単なる例であって、本発明が、電気モータを備える、すなわち永久磁石を必要とする異なった血液ポンプにもまた適用可能であることが強調される。
【0011】
血管内血液ポンプは数多くの要件を満たさなければならない。それらは生体内に配置されるため、できるだけ小さくあるべきである。現時点で使用されている最小のポンプは、外径が約4mmである。それにもかかわらず、ポンプは人間の血液循環にて高い流量を運ばなければならない。それゆえ、微小なポンプは高性能のエンジンでなければならない。
【0012】
さらに、埋め込み可能な血液ポンプは、ポンピング対象の血液及び周囲の組織のような生物学的な環境に有害な影響を与えてはならない。それゆえに、ポンプは、広い意味で生体適合的であるべきである。すなわち、それらは、人体又はその成分にダメージを与え得るような任意の潜在的に有害な物質あるいは顕著な熱を含む又は作り出すべきではない。
【0013】
加えて、ポンプの交換は患者にとって負担である。彼を考慮すると、及びもちろん経済的な考慮から、血管内血液ポンプは長い耐用期間、望ましくは180日又はより長期の耐用期間を有するべきである。
【0014】
血管内血液ポンプの材料及び設計は適切に選択され、且つ特にこれらの様々な要件を満たすように適合されなければならない。
【0015】
重要なことには、電気モータのための適切な永久磁石が選択されなければならない。ポンプの効率及び長寿命に対する観点では、磁石は、強磁場、すなわち高い残留磁場、消磁への高い耐性、すなわち高い保磁力、及び高い飽和磁化を有するべきである。これに関して、希土類永久磁石、特に希土類金属としてネオジムを有するもの、及び特にネオジム鉄ホウ素(NdFeB)永久磁石が、選択対象の磁石である。他の希土類鉄ホウ素永久磁石もまた使用され得る。
【0016】
磁石が強力であるほど、磁石は十分な回転力を作り出しながらより小型になることができる。これより、磁石が強力であるほど、電気モータは小型になることができる。NdFeB永久磁石は、現時点で入手可能な最も強力な永久磁石である。それらは、血管内血液ポンプにおける使用のためには理想的であるように見える。
【0017】
希土類金属ベースの磁石、例えばNdFeB磁石の磁性特性が特定の合金組成、微構造、及び使用される製造技法に依存することは、良く知られている。NdFeB磁石は、ポリマ結合された磁石として及び焼結磁石として、入手可能である。焼結磁石が、磁性特性において優れている。それらは、原材料を混ぜて合金にして、粉末に粉砕(グラインド)し、プレスして焼結することによって準備される。準備の間または後に、材料を磁化するために外部磁界が印加される。良く研究された磁石は、NdFe14B結晶が特にネオジムがリッチな薄層によって囲まれている微結晶焼結材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/041920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ネオジム鉄ホウ素磁石は、それらを血管内血液ポンプの電気モータでの使用に特に適したものにする磁性特性を有しているが、深刻な短所もまた有している。すなわち、主にネオジム、鉄、及びホウ素からなっている商業的に入手可能なNdFeB磁石、及び特に結晶粒界に非常の活性なネオジムリッチ相を有する焼結されたネオジム鉄ホウ素磁石は、非常に腐食しやすい。磁石は例えば、特にその結晶粒界において(そこだけではない)、空気中の酸素及び湿気によって腐食し得る。腐食は磁性特性の甚大な減少をもたらし、もし磁石が使用されている間に腐食が進行すると、その磁石を使用している血液ポンプの性能が劣化する。この現象は、ネオジム鉄ホウ素磁石が腐食生成物に対してスポンジとして作用する傾向によって激化されて、構造が破壊されて磁石の表面から細かい破片が脱落することにつながり、最終的には磁石がぼろぼろに砕けることになる。
【0020】
残念なことに、腐食傾向は全ての希土類金属に共通の特性である。それゆえに、全ての希土類金属ベースの永久磁石は、NdFeB磁石に関して上述されたように、腐食しやすいという好ましくない傾向を有する。現時点で入手可能な磁石に対しては、経験則として、磁石が強力であるほど、その腐食傾向がより大きいと言うことができる。
【0021】
血管内血液ポンプでは、磁石は腐食性の環境内で、すなわちロータとステータとの間を流れるパージ液体の中で、動作しなければならない(図1を参照)。上述した様に、パージ流体は典型的には水成流体であり、塩化物を含む流体である可能性がある。塩化物は、希土類金属ベースの磁石に対して非常に腐食的であるが、水ならびに水に溶解した酸素もまた、僅か数時間という非常に短い時間期間の間に深刻な腐食を生じさせる。
【0022】
明らかに、血管内血液ポンプのためのネオジム鉄ホウ素磁石のような希土類金属ベースの永久磁石は、腐食に対して保護される必要がある。
【0023】
ネオジム鉄ホウ素磁石及びその他の希土類金属ベースの磁石を腐食から保護する様々な手段が知られている。例えば、耐腐食性は、保護コーティングで磁石をコーティングすることによって改善され得る。
【0024】
通常のコーティングは、ニッケルコーティング、及びエポキシ樹脂ベースのコーティングであり、特に血液ポンプについては、チタンコーティング及びパリレン(Parylene)コーティングが知られている。しかし、これらのコーティングもまた短所を有している。チタン及びパリレンのような生体適合性の金属及び有機樹脂がそれぞれ選択されても、金属コーティングは、十分な保護を提供するためには比較的厚くなければならないという問題が存在する。結果として、血液ポンプの電気モータにおける磁石と巻線との間のギャップが、比較的大きくなければならない。大きなギャップは、電気モータの性能に対して強力な負の効果を有する。大きなギャップはより大きなモータ電流を要求し、大きなモータ電流は、血液及び組織にダメージをもたらし得る望まれない熱を作り出す。
【0025】
さらに、パリレンのような有機材料は、磁石の熱膨張係数から顕著に異なる熱膨張係数を有する。それゆえに、磁石の使用中の温度変動がしばしば、コーティングのクラック及び/又は剥離をもたらす。
【0026】
現時点では、永久磁石、例えばネオジム鉄ホウ素磁石に対する生体適合性コーティングで、血管内血液ポンプにおける使用に対する全ての要件を満たすものは知られていない。そのようなコーティングは、それ自身の耐腐食性が優れていなければならず、薄いが密でなければならず、使用中にクラック又はその他の欠陥を成長させてはならず、磁石に対して信頼性良く且つ密に付着しなければならない。もちろん、コーティングは生体適合的でなければならず、磁石全体を、又は少なくとも磁石の使用中に腐食性環境に曝される磁石の一部を、一様な厚さでコーティングしなければならない。多くの磁石が多孔性表面及びエッジを含む形状を有しているので、これは特に高い要求である。それゆえに、血管内血液ポンプにおける使用のための希土類金属ベースの磁石のような永久磁石、例えばネオジム鉄ホウ素磁石は、一様な厚さで容易にコーティングされることができないアイテムとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上述された問題に対する解決策を提供する。
【0028】
本発明は、拡張された時間期間に渡って血管内血液ポンプにて使用されている間に、磁石を腐食から信頼性良く保護する永久磁石のためのコーティングを提供する。
【0029】
本発明の主題は、独立請求項1に規定された特徴を有する耐腐食性永久磁石、独立請求項21に規定された特徴を有する耐腐食性永久磁石の製造方法、及び独立請求項30に規定された特徴を有する血管内血液ポンプに関する。本発明の実施形態は、それぞれの従属請求項に開示されている。
【0030】
磁石は、実験部分で記述されるテストをパスしたら、本発明の意味においては耐腐食性である。
【0031】
本発明によれば、強力な永久磁石が、磁石本体を完全に取り囲んでいるか、又は磁石が血管内血液ポンプで動作しているときに流体に曝される磁石本体の表面を少なくともカバーするコーティングを備えている。コーティングは、血管内血液ポンプでの使用の間に、磁石に耐腐食性を与える。好適な磁石本体は、主にネオジム、鉄、及びホウ素からなる焼結磁石であり、前述のように、微細な正方晶系の磁性NdFe14B結晶と、その結晶を取り囲むネオジムリッチな非磁性相とを有している。典型的には、主相を形成するNdFe14B結晶は、1~80μmの範囲内の平均結晶径を有している。非磁性のネオジムリッチ相は、体積で磁石本体の1%~50%を構成している。これらの磁石は、商業的に容易に入手可能である。それらは、高い磁気特性を有しているから、ならびに特に強力であることから、すなわち高い磁束密度を有していることから、好適である。上記に示された理由により、血管内血液ポンプにおける用途は、特に強力な磁石を必要とする。しかし、原理的には、本発明の耐腐食性コーティングは、腐食に対する保護を必要とする任意の材料、例えば、異なる希土類鉄ホウ素磁性材料又は任意の他の磁性材料に適用されることができる。
【0032】
本発明のコーティングは、磁石本体、すなわち実際の磁性材料の表面上に設けられた複合コーティングである。複合コーティングは、磁石本体の表面上の金属層、オプションとしてその露出された表面における金属層上の金属酸化物層、ポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される層、及び金属層又は金属酸化物層とポリ(2-クロロ-p-キシリレン)層との間のリンカー層を備える。
【0033】
サプライヤから購入された希土類金属ベースの磁石は、典型的にはリン酸塩コーティングによって保護されている。このリン酸塩コーティングは、金属層の付与に先立って、例えば酸による洗浄によって除去され得る。しかし、リン酸塩コーティングは本発明によるコーティング又はコーティングプロセスに有害な干渉をせず、それゆえに磁石本体の上に残存し得る。好ましくは、リン酸塩コーティングは除去されない。リン酸塩コーティングを除去しないことは一つのプロセスステップを省略し、そのようなプロセスステップの間に不純物が導入されることを避ける。しかし、金属層の付与に先立って磁石をクリーニングすることが好ましい。クリーニングは、好ましくは磁石を有機溶媒、例えばアルコールで洗浄することによって実行される。特に好適なクリーニング剤は、イソプロパノール、及びイソプロパノールとエタノールとの混合物である。有機溶媒での洗浄後に、磁石は、例えば真空中で又は空気流内で乾燥される。
【0034】
クリーニング及び乾燥の後に、金属層が磁石本体の表面に付与される。金属層を形成するための金属は、特に制限されない。ここで使用される「金属」という語は、金属合金を含むものとして理解されなければならない。金属層を形成するために適しているのは、密な層を形成することができて且つ生体適合性のある任意の金属(金属合金)である。同様に、金属層を付与する方法は特に限定されない。例示的なアプリケーションの方法は、物理蒸着、特にイオン蒸着、プラズマコーティング、及び原子層堆積のような乾式の方法、ならびにガルバニック堆積(イオンプレーティング)のような湿式の方法を含む。プラズマ堆積及びイオン蒸着は非常に速く且つコスト効果的な方法であるが、湿式堆積が、より良い質を有する金属層、すなわち強化された密度を有する金属層をもたらすことが知られている。しかし、イオン蒸着又はその他の乾式の方法によって堆積された層は、優れた長期間の安定性を有する。
【0035】
金属層を形成するための好適な金属はアルミニウムである。アルミニウムのガルバニック堆積は当該分野において通常の方法で、例えば塩化アルミニウムと1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドとの混合物を使用することにより、イオン性液体無しに実行される。アルミニウムは好ましくは純粋なものであり、例えば少なくとも99%の純度を有し、かつ特に好ましくは少なくとも99.9%の純度を有する。
【0036】
アルミニウムは空気に曝されると保護性の酸化物層を形成する。この自然に形成された(天然の;native)酸化物層はわずか数ナノメートルの薄さであり、下地の金属に良好に付着する。天然の酸化物層を形成する他の金属もまた適切である。例示的な金属は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、及びこれらの金属のうちの2つ又はそれ以上の合金、例えばアルミニウム合金及びニオブ・チタン合金を含む。本発明では、酸化物層は、磁石本体の上にコーティングされた金属の酸化によって、空気への露出時に自然に、又は人為的に、例えば陽極酸化によって、形成される。何れの場合においても、酸化物層はわずか数ナノメートルの厚さ、例えば2~5ナノメートルである。しかし、本発明はまた、酸化物層無しでも良好に機能し、酸化物層無しの生体適合性金属が有効に使用され得る。そのような金属及び金属合金は、例えば貴金属、例えば白金及び金である。
【0037】
金属層、及び組み合わされた金属/金属酸化物層の厚さは好適には小さく、すなわち約20μm又はそれ以下である。10μm又はそれ以下の厚さが特に好適である。
【0038】
金属層又は金属/金属酸化物層によって提供される腐食保護を強化するために、金属層又は金属/金属酸化物層はポリ(p-キシリレン)ポリマ層と組み合わされる。ポリ(p-キシリレン)ポリマ層は商品名パリレンで知られる。パリレンは水酸基を含む表面と反応し得て、少ない層厚でピンホールフリーのコーティングを形成することが知られている。加えて、それらは誘電率が低く(約3)、これは埋め込み可能な血液ポンプにおいて有益である。金属層又は金属/金属酸化物層とパリレン層とを備える複合コーティングは生体適合性があり、腐食保護も提供する。しかし、金属層又は金属/金属酸化物層へのパリレン層の付着は、血管内血液ポンプの動作環境では十分に強くない。パリレン層は、許容可能ではないほど短期間で剥離し始め、これにより金属層又は金属酸化物層を露出する。金属層又は金属/金属酸化物層は磁石本体を十分に保護することができず、このために磁石本体の腐食が始まる。
【0039】
本発明によれば、このシナリオは、2つの手段の組み合わせによって防がれる。すなわち、金属層又は金属酸化物層とパリレン層とをリンクする界面層の付与、ならびに特定のパリレン化合物の使用である。
【0040】
界面層を形成する化合物、すなわちリンカー化合物は、双官能性でなければならない。双官能性とは、リンカー化合物が2つの種類の官能基、又は異なる官能性(反応性)の分子部位を有することを意味し、一つの官能基又は分子部位は、例えば金属層又は金属酸化物層の表面水酸基と反応することによって金属層又は金属酸化物層に結合し、他方の官能基又は分子部位はパリレンに結合し、これにより、金属層又は金属酸化物層と有機パリレン層とを強固にリンクする。リンクは、共有結合又はその他の結合、例えばファン・デル・ワールス力によって提供され得る。
【0041】
金属又は金属酸化物と結合する官能基又は分子部位とパリレン層と結合する官能基又は分子部位とを有するリンカーは、知られている。例示的なリンカーとしては、シラン化合物、メルカプタン、ホスフィン(水酸化リン)、ジスルフィド(二硫化物)、及びチオール、ホスフィン、又はジスルフィド基を有するシランが言及され得る。金属に応じて、異なるリンカー化合物が好まれる。
【0042】
アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、及びこれらの金属の酸化物の場合は、金属層及び金属酸化物層に対するリンカーは、好ましくはメトキシシラン及びエトキシシランのようなアルコキシシラン、例えば化合式(HCO)Si-Rを有するシラン(Rは例えばメタクリレート、アルキルアミン、フェニルアミン、又はエポキシアルキル)である。パリレンとの結合のためには、リンカーは好ましくは、アクリロイルオキシ又はメタクリロイルオキシ官能基を有する。リンカーのシリル部と(メタ)アクリロイルオキシ部との間の炭素鎖の長さは、典型的には炭素原子1~16個分である(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、・・・)。炭化水素鎖は典型的には飽和しているが、1つ又はそれ以上の不飽和結合も含み得る。特に好適なリンカーは、シルクエスト社からの3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(A-174)であるが、シルクエスト社からのG-170(ビニル官能性シランカップリング剤)のような他のシラン化合物もまた適している。加えて、ビス-トリメトキシシリル又はビス-トリエトキシシリルを有するリンカー、例えばビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼンが使用され得る。
【0043】
特にチタン、ジルコニウム、及び白金に対しては、トリハイドロシランのようなハイブリッド官能基を有するリンカーが良好に機能する。10-アンデセニルシラン及びn-オクタデシルシランが、特に言及され得る。シランは好ましくは、気相から又は非プロトン性溶液から、室温で付与される。加えて、上述の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン、及びビス-トリメトキシシリル又はビス-トリエトキシシリル官能基を有する化合物もまた適切である。
【0044】
パリレン層を金層にリンクするために適したリンカーは、典型的にはメルカプタン、ホスフィン、又はジスルフィドであって、好ましくは、10~16個の炭素原子を有するアルキル基を有するアルキル-又はジアルキル-ジスルフィドのような、より長い炭化水素鎖を有する。
【0045】
そのようなアルキル基は、金属又は金属酸化物の表面上に、密で且つ良く整った層を形成する。しかし、炭素原子1~9個しか持たないアルキル基もまた、使用され得る。
【0046】
金層に対して等しく適しているのはチオール、ホスフィン、又はジスルフィド基を有するシランリンカーである。特に好適な例は、3-(2-ピリジルエチル)チオプロピルトリメトキシシラン、3-(4-ピリジルエチル)チオプロピルトリメトキシシラン、2-(ジフェニルホスフィノ)エチルトリエトキシシラン、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド、及びジヘキサデシルジスルフィドである。
【0047】
双官能性リンカーは好ましくは、プラズマコーティングプロセスによって、あるいはプラズマ無しの物理蒸着によって、あるいは双官能性リンカー化合物の非プロトン性又はアルコール性又は水溶性の溶液を金属表面又は金属酸化物表面に付与することによって、金属又は金属酸化物表面に付与される。プラズマチャンバ内でのシラン化合物の乾式コーティングは、金属酸化物表面に実質的に平行に配向されて酸素原子を介して表面に結合したSi-O-Si-O鎖を備えるガラス状の層をもたらす。有機性残存物が表面とは反対を向いていて、パリレンとの結合のために利用可能である。物理蒸着及び湿式付与は、同様の構造を有するがガラス状の見た目は有さないインターフェース層を形成する。
【0048】
プラズマ堆積は、パリレンへ許容可能に付着した密な層をもたらす。プラズマ無しの物理蒸着は、プラズマ堆積された層よりもパリレンに良好に付着して、より密ではない層をもたらす。湿式付与は、不規則なネットワークと高い度合いのクロスリンクと高いパーセンテージのシリコン結合酸素とを有する密な単層をもたらす。これらの層もまた、パリレン層に非常に良好に付着する。それゆえ、湿式付与が特に好ましい。
【0049】
あるいは、プラズマ付与及び(プラズマ無しの)物理蒸着又は湿式付与プロセスは組み合わされることができる。すなわち、ガラス状の界面層が最初にプラズマ堆積によって形成され、続いて第2のリンカー層の物理蒸着又は湿式付与が行われ、これによって複合リンカー層を形成する。そのような複合リンカー層では、ガラス状の層のシリコン原子が第2の層の酸素原子に共有結合的にリンクされ、第2の層の(メタクリレート、アルキルアミン、又はエポキシアクリルのような)有機性残存物が、共有結合的に又は例えばファン・デル・ワールス力によってのような異なる方法で、パリレンとの結合のために利用可能である。
【0050】
界面層は、典型的には20~150nm、好ましくは50~100nmの範囲の厚さを有する。
【0051】
最後に、パリレン層、すなわちポリ(p-キシリレン)ポリマ層が界面層の上に形成される。ポリ(p-キシリレン)ポリマ層は以下の構造式を有する。
【化1】
ここで、nは重合度である。
【0052】
ポリ(p-キシリレン)化合物の前駆体は、以下の構造を有する[2.2]パラシクロファンである。
【化2】
【0053】
ダイマー化合物、例えばパリレンN、パリレンC、パリレンD、及びパリレンFの前駆体は、マーケットにて入手可能である。パリレンNでは、X及びR1~R4の全てが水素であり、パリレンCでは、R1~R4の1つが塩素である一方で他の残留物R及びXが水素であり、パリレンDでは、残留物R1~R4の2つが塩素である一方で全ての他の残留物Rが水素であり、パリレンFでは、残留物Xがフッ素である一方で残留物R1~R4が水素である。パリレン層は典型的には湿気へのバリア及び誘電性バリアとして使用される。
【0054】
真空下の高温(特定のパリレンに依存して約500℃より上)においては、ダイマーは割れて、対応するp-キシリレンラジカルを形成する。モノマが重合されてポリ(p-キシリレン)ポリマを形成する一方で、他方では、その官能基、例えばメタクリレート基を介して界面層に結合する。あるいは、それらは界面層の疎水性部位に単純に付着し得る。
【0055】
本発明によれば、R1~R4の一つが塩素であるパリレンCが、上述された複合層のカバー層として付与されると、血管内血液ポンプにて遭遇する環境下で磁性材料を耐腐食性にすることが見出された。パリレンC層は好ましくはプラズマ堆積によって付与され、層の厚さは、好ましくは5~20μm、より好ましくは10~16μmの範囲である。
【0056】
パリレンCが磁性材料の表面上に直接的に付与されると、保護性パリレンC層のクラック形成及び剥離ならびに磁性材料の腐食が、数日以内に観察される。同様に、パリレンCが金属層又は金属/金属酸化物層の上に付与されると、血管内血液ポンプでの環境下で許容できないほどの短期間内に、剥離のために磁性材料の腐食が観察される。加えて、パリレンCとは異なるパリレン化合物は、たとえ付着促進剤が使われても、すなわちシランベースの界面層の上に付与されても、十分な腐食への保護を提供しない。
【0057】
本発明の複合コーティングは磁石本体に良好に付着し、且つ無機構成物及び有機構成物の両方から形成された構造を有するために無機物及び有機物の両方に対して効果的なバリアを提供する。加えて、ガラス状の界面層もバリア特性を有する。
【0058】
本発明の特に好適な実施形態では、磁性材料の腐食保護が、磁石本体を一様な厚さでカバーするコーティングの形成を許容するように磁石本体の形状を特に適合させることによって、さらに向上される。この目的のために、磁石本体はシャープなエッジを有さず、ソフトなエッジのような丸められた形状を有する。好ましくは、磁石本体はロッド状の形状を有し、血管内血液ポンプのモータシャフトを受けとめるように長手方向に内部に延在しているチャネルを有し、磁石本体の両側の前面はチャネルに向かって面取りされている。チャネルは、複合コーティングでコーティングされる必要はない。なぜなら、血管内血液ポンプでは、チャネルはモータシャフトを受けとめて、そこに固定されるからである。もちろん、安全策として、チャネルは何らかの方法でコーティングされ得る。
【0059】
磁石本体は単一部材であっても、いくつかのセグメントからできていてもよい。後者の場合には、各セグメントには本発明のコーティングが付与されて、それを完全に取り囲むか、又は少なくともその露出された表面を取り囲む。好ましくは、各セグメントはソフトなエッジを有する。
【0060】
本発明は、添付の図面を参照して、さらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】血管内血液ポンプの例示的な実施形態の模式的な長手方向断面図である。
図2a】本発明に従った例示的な単一部材の磁石の模式図である。
図2b図2aに描かれた磁石の詳細を示す部分的断面図である。
図3】本発明に従った例示的なセグメント化された磁石の模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図面は、同じスケールにはなっていない。それらは、何らかの方法で本発明を限定するものみなされるべきではない。
【0063】
図1に描かれている血管内血液ポンプ10は上述された。このポンプは、構成面では従来のものであるが、本発明に従った耐腐食性の永久磁石1を備えている。図1のポンプにおいて、磁石はロッド形状であって、両側の前面は平坦で且つお互いに平行である。本発明に従った複合コーティングは、拡張された時間期間に渡って腐食に対して、図1に描かれるようなシャープなエッジを有する磁石本体を効果的に保護し得るが、本発明においては、図2及び図3に描かれるような形状を有する磁石本体を使用することが望ましい。複合コーティングの個別の層は、各々の以前に付与された複合コーティング層の上に完全に延在している。
【0064】
図2aは、ロッド形状を有し且つ長手方向に貫通して延在している孔又はチャネルを有する単一部品の磁石1を示す。図1に描かれたような血管内血液ポンプ10における磁石の使用の間に、チャネルはモータシャフト25を受け止める。磁石の両側の前面4は、チャネルに向かってテーパがつけられている。磁石1には、ギャップ26を流れる流体に露出される外側表面2及びテーパがつけられた前面4において、本発明に従った複合コーティングが設けられる。モータシャフト25に隣接した内側表面3は、コーティングされても又はされなくてもよい。外側表面2と前面4との間の移行部におけるエッジ5、ならびに前面4と内側表面3との間の移行部におけるエッジ6は、コーティングされる。エッジはソフトであり、これより良好に付着した一様なコーティングの形成を促進する。「N」及び「S」は、磁石のN極及びS極を示す。
【0065】
図2bは、図2aの一点鎖線に沿った部分断面図である。図2bは、図2aにおけるループ内の磁石の領域を示す。図2bは、ソフトなエッジ5、6を明瞭に示している。
【0066】
図3は、セグメント化された磁石7を示す。図3に描かれた磁石は、4つのセグメント8、8´を有する。セグメント8はお互いに向き合っており、図3の上面図に「N」と示されているように、同じ磁気極性を有する。セグメント8´もまたお互いに向き合っており、図3の上面図に「S」と示されているように、同じ磁気極性を有する。結果として、隣接するセグメント8、8´は逆の磁気極性を有する。
【0067】
セグメント8、8´は、図2に示された単一部品の磁石との相似として、内側表面、外側表面、両側の前面、外側表面と前面との間の移行部におけるエッジ、ならびに前面と内側表面との間の移行部におけるエッジを有する。図2における番号付けと対応して、前面は4´とされ、エッジはそれぞれ5´及び6´とされる。加えてセグメント8、8´は、図面ではギャップによって分けられた側面9、9´を有する。もちろん、磁石が使用されているときは、側面9、9´はお互いに接触する。磁石の各セグメントの全ての表面が、本発明の複合コーティングによって完全にカバーされ得るが、お互いに接触しているために露出されない側面9、9´、ならびにモータシャフトに接触しているために露出されない内側表面は、コーティングされる必要はない。好ましくは、全てのセグメントの全てのエッジが、ソフトなエッジである。
【0068】
表1は、異なるコーティングを有するニオブ鉄ホウ素磁石の腐食試験の結果を示す。長さ12mm及び直径2.8mmの同一の円筒状非磁化NdFe14B焼結磁石12個が、以下に示すようにコーティングされ、60℃で0.9重量%の塩化ナトリウムを含む水溶液での腐食試験の対象とされた。試験試料は、60日目までは毎日点検され、その後は週に1回ずつ点検された。磁性材料の腐食は、コーティングの浮き又は変形をもたらす。これより、試験試料の表面におけるコーティングの浮き又はバルジの形成は、磁性材料の腐食を示す。高さ0.1mmのバルジの形成、ならびにコーティングの浮きは、磁石の欠陥を示すと規定された。
【0069】
試験試料は以下の方法で準備された:
全試料:非磁化ネオジム鉄ホウ素磁石本体(購入されたままのリン酸塩パッシベーション有り)がイソプロパノールで洗浄され、それから空気流内で乾燥された。それからコーティングが付与され、コーティング付与後に、コーティングされた磁石は磁界内での磁化の対象となった。本発明の複合コーティングを付与する前に磁石本体を磁化することは、適当ではない。コーティング厚さは、アルミニウム層に対しては約7μm、シラン層に対しては約100nm、及びパリレン層に対しては、適用可能の場合には約10μmであった。
【0070】
試料1及び2:乾燥した磁石本体がイオン蒸着によってアルミニウムでコーティングされた。空気への露出により、酸化アルミニウム層(天然の酸化アルミニウム層)が形成された。それから、パリレンCがその上に付与された。
【0071】
試料3及び4:乾燥した磁石本体がイオン蒸着によってアルミニウムでコーティングされた。空気への露出により、天然の酸化アルミニウム層が、アルミニウム層の露出された表面に形成された。さらなるコーティングは付与されなかった。
【0072】
試料5:乾燥した磁石本体がイオン蒸着によってアルミニウムでコーティングされた。空気への露出により、天然の酸化アルミニウム層が形成された。それから、3-(トリメトキシリル)プロピルメタクリレート(シランA-174)がプラズマコーティングによって付与され、その後にパリレンFがプラズマコーティングによって付与された。
【0073】
試料6及び7:乾燥した磁石本体がイオン蒸着によってアルミニウムでコーティングされた。空気への露出により、天然の酸化アルミニウム層が形成された。それから、シランA-174を含むアルコール溶液(水/エタノール;約5~6のpHを得るための酢酸;約1%のシラン濃度;約5分間の反応時間)が付与され、アルコールは揮発した。最後に、パリレンCがプラズマコーティングによって付与された。
【0074】
試料8:乾燥した磁石本体がイオン蒸着によってアルミニウムでコーティングされた。空気への露出により、天然の酸化アルミニウム層が形成された。それから、シランA-174がプラズマコーティングによって付与され、その後にパリレンCがプラズマコーティングによって付与された。
【0075】
試料1~8に対するイオン蒸着は、約10-3mbarのアルゴンガス中で、約1000ボルトの電圧及びDC1500アンペアの電流で実行された。一般的に、約400~1000ボルト及び約500~1500DCアンペアが適している。
【0076】
試料9及び10:乾燥した磁石本体が、スプレーコーティングによって、エチレン及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマでコーティングされた。コーティングされた磁石はベーキングの対象とされ、それから冷却された。
【0077】
試料11及び12:乾燥した磁石本体がポリフェニレンスルフィド樹脂でスプレーコーティングされ、135℃で30分間ベークされた。
【0078】
【表1】
コーティングされたNdFe14B磁石の60℃における0.9%NaCl溶液内での試験結果
コーティングの浮き又は座屈が0.1mmに達すると、磁石は不合格となる
不合格までの時間が少なくとも6か月(1か月=30日)であると磁石は試験をパスする
磁石が試験にパスすると、すなわち不合格までの時間が少なくとも180日であると、磁石は、本発明の観点では耐腐食性である
【0079】
試料サンプル9、10、11、及び12は、ネオジム鉄ホウ素磁石本体に直接的に付与された当該技術レベルに従った樹脂コーティングを各々が有しているが、60℃の塩化ナトリウム溶液内では3日間未満で不合格となった。保護的なアルミニウム/酸化アルミニウム層を備える試料サンプル1~5は、より長い時間に渡って生き残った。任意の付加的な保護層無しでアルミニウム/酸化アルミニウム層によって腐食保護された試料サンプル3及び4は、1か月未満で不合格となった。パリレンCからなるコーティングが酸化アルミニウム層の上に直接に付与されたとき、すなわちシランベースの界面層が無いと(試料サンプル1及び2)、同じ結果が得られた。加えて、酸化アルミニウム層とパリレン層との間にシランベースの界面層があるが、パリレン層がパリレンCからなっていないと(試料サンプル5)、同じ結果が得られた。
【0080】
試料サンプル8は、本質的に試料サンプル5と同じコーティング組成を有し、複合コーティングの個別の層は同じ方法で付与された。しかし、試料サンプル8では、試料サンプル5のパリレンFではなく、パリレンCが使用された。驚くべきことに、このわずかな改変が、試料サンプル5は1か月未満で既に不合格となった一方で、試料サンプル8は6か月後でも不合格にならなかったという結果をもたらした。
【0081】
試料サンプル6及び7のコーティング組成は、試料サンプル8のコーティング組成と同一である。しかし、試料サンプル6及び7では、界面層を付与するために湿式プロセスが使用された一方で、試料サンプル8では、界面層はプラズマコーティングによって付与された。結果として、試料サンプル6及び7は、試験が1年後にストップされたときに、依然として腐食の兆候がなかったのに対して、試料サンプル8は、腐食性環境内で12か月を生き残らなかった。
【0082】
上記の試験結果は、金属層、リンカー層、及びポリ(2-クロロ-p-キシリレン)から形成される外側層を備える複合コーティングを有するネオジム鉄ホウ素永久磁石が、過激な条件下であっても優れた耐腐食性を有して、血管内血液ポンプで有益に使用され得るという明確な結果を与える。
【0083】
試験結果はまた、リンカー層の付与方法が耐腐食性に影響を与えることも示している。特に優れた耐腐食性は、リンカー層が湿式プロセスにより付与されたときに達成された。
【0084】
最適な耐腐食性を達成するためには、本発明の複合コーティングを非磁化の磁石本体に付与し、磁石をコーティングが付与された後にのみ磁化することが望ましい。
【0085】
試料サンプル6、7、及び8は、上記の条件を両方とも満たした。非磁化の磁石本体は本発明の複合コーティングでコーティングされ、完全な複合コーティングの付与後に磁化された。結果として、試料サンプル6、7、及び8は、0.9重量%のNaCl溶液内で60℃にて少なくとも180日たっても、コーティングの浮きを全く示さず、座屈は0.1mm未満であった。それゆえに、試料サンプル6、7、及び8は、耐腐食性磁石である。
図1
図2a
図2b
図3