(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177039
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】結晶膜、半導体装置および結晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20221122BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20221122BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20221122BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/18
H01L21/365
H01L21/368 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137373
(22)【出願日】2022-08-30
(62)【分割の表示】P 2018154236の分割
【原出願日】2018-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017158306
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018050516
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018120457
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム α型酸化ガリウム高品質自立基板の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】嘉数 誠
(72)【発明者】
【氏名】河原 克明
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 時宜
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
(57)【要約】
【課題】高品質な結晶膜が工業的有利に得られる結晶膜の製造方法を提供する。
【解決手段】金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給して成膜する結晶膜の製造方法であって、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことにより、高品質な結晶膜を成膜し、得られた結晶膜を、半導体装置等に用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、転位密度が5×106cm-2よりも低く、表面積が9μm2以上であることを特徴とする結晶膜。
【請求項2】
結晶性金属酸化物が少なくともガリウムを含む、請求項1に記載の結晶膜。
【請求項3】
結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、横方向結晶成長層を含む表面積が9μm2以上の結晶膜であることを特徴とする結晶膜。
【請求項4】
前記表面積が1mm2以上の結晶膜である請求項3記載の結晶膜。
【請求項5】
結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、(10-14)面に垂直な方向に結晶成長している横方向結晶成長層を含むことを特徴とする結晶膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の結晶膜を含む半導体装置。
【請求項7】
前記結晶膜は半導体膜であって、
さらに、前記半導体膜と電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを有する、請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、かつコランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板上に、第1の結晶膜を成膜する工程、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成する工程、および該凹凸部が形成されている第1の結晶膜表面上に、第1の結晶膜と同一または異なる主成分を含む第2の結晶膜を成膜する工程を少なくとも含むことを特徴とする結晶膜の製造方法。
【請求項9】
前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成する請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行う請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第1の結晶膜上に、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第2の結晶膜を成膜することを特徴とする結晶膜の製造方法。
【請求項12】
前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成する請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行う請求項11または12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶膜、半導体装置および半導体装置の製造等に有用な結晶膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga2O3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。また、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての幅広い応用も期待されている。特に、酸化ガリウムの中でもコランダム構造を有するα―Ga2O3等は、非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInXAlYGaZO3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し(特許文献9等)、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
しかしながら、酸化ガリウムは、最安定相がβガリア構造であるので、特殊な成膜法を用いなければ、準安定相であるコランダム構造の結晶膜を成膜することが困難である。また、コランダム構造を有するα―Ga2O3は準安定相であり、融液成長によるバルク基板が利用できない。そのため、現状はα―Ga2O3と同じ結晶構造を有するサファイアを基板として用いている。しかし、α―Ga2O3とサファイアとは格子不整合度が大きいため、サファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長されるα―Ga2O3の結晶膜は、転位密度が高くなる傾向がある。また、コランダム構造の結晶膜に限らず、成膜レートや結晶品質の向上、クラックや異常成長の抑制、ツイン抑制、反りによる基板の割れ等においてもまだまだ課題が数多く存在している。このような状況下、現在、コランダム構造を有する結晶性半導体の成膜について、いくつか検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ガリウム又はインジウムの臭化物又はヨウ化物を用いて、ミストCVD法により、酸化物結晶薄膜を製造する方法が記載されている。特許文献2~4には、コランダム型結晶構造を有する下地基板上に、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とが積層された多層構造体が記載されている。また、特許文献5~7のように、ELO基板やボイド形成を用いて、ミストCVDによる成膜も検討されている。しかしながら、いずれの方法も成膜レートにおいてまだまだ満足のいくものではなく、成膜レートに優れた成膜方法が待ち望まれていた。
特許文献8には、少なくとも、ガリウム原料と酸素原料とを用いて、ハライド気相成長法(HVPE法)により、コランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。しかしながら、α―Ga2O3は準安定相であるので、β―Ga2O3のように成膜することが困難であり、工業的にはまだまだ多くの課題があった。
なお、特許文献1~8はいずれも本出願人らによる特許または特許出願に関する公報であり、現在も検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5397794号
【特許文献2】特許第5343224号
【特許文献3】特許第5397795号
【特許文献4】特開2014-72533号公報
【特許文献5】特開2016-100592号公報
【特許文献6】特開2016-98166号公報
【特許文献7】特開2016-100593号公報
【特許文献8】特開2016-155714号公報
【特許文献9】国際公開第2014/050793号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高品質な結晶膜を工業的有利に得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の加熱された基板上に供給して成膜する結晶膜の製造方法において、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うと、驚くべきことに、準安定相の結晶膜であっても、高い成膜レートを維持しつつ、クラック等が生じることなく、高品質な結晶性金属酸化膜を結晶成長することができることを知見し、このような方法によれば、上記した従来の問題を一挙に解決できることを見出した。
また、本発明者らは、実施形態の一つとして、結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、今まで単にELO結晶成長だけでは作製困難であった表面積9μm2以上の高範囲にわたり転位密度が5×106cm-2よりも低い結晶膜を得ることができることを見出した。さらに、結晶膜の製造方法の実施形態の一つとして、HVPEによる成膜方法を提案する。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給することにより金属酸化物の結晶膜を成膜する結晶膜の製造方法であって、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことを特徴とする結晶膜の製造方法。
[2] 前記反応性ガスがエッチングガスである前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記反応性ガスがハロゲン化水素、ハロゲンおよび水素からなる群から選ばれる1種または2種以上を含む前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記反応性ガスがハロゲン化水素を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記基板がPSS基板である前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記基板が加熱されている前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 成膜温度が400℃~700℃である前記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記金属源がガリウム源であり、前記金属含有原料ガスが、ガリウム含有原料ガスである前記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記のガス化を、金属源をハロゲン化することにより行う前記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスを含む前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 前記基板がコランダム構造を含み、前記結晶膜がコランダム構造を有する結晶成長膜である前記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 前記基板が、表面にバッファ層を有しており、前記バッファ層がミストCVD法により形成されている前記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 結晶膜の成膜を、HVPE法で行う前記[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 結晶膜の成膜を、5μm/h以上の成長速度で結晶成長させることにより行う前記[1]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15] 前記凹凸部が、前記基板上に直接または他の層を介してマスクを規則的に配列してなる開口部と、該マスクとから形成されている前記[1]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16] 前記マスクの開口同士の間隔が3μm以上100μm以下の範囲内である前記[15]記載の製造方法。
[17] 表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、かつコランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板上に、該基板とは異なる主成分の第1の結晶膜を成膜する工程、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成する工程、および該凹凸部が形成されている第1の結晶膜表面上に、第1の結晶膜と同一または異なる主成分を含む第2の結晶膜を成膜する工程を含むことを特徴とする結晶膜の製造方法。
[18] 前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成する前記[17]記載の製造方法。
[19] 前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行う前記[17]または[18]に記載の製造方法。
[20] 表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第1の結晶膜上に、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第2の結晶膜を成膜することを特徴とする製造方法。
[21] 前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成する前記[20]記載の製造方法。
[22] 前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行う前記[20]または[21]に記載の製造方法。
[23] 基板上に結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む剥離犠牲層を形成し、ついで、該剥離犠牲層上に、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む結晶膜を成膜することを特徴とする結晶膜の製造方法。
[24] 前記の剥離犠牲層の形成を、基板上に結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第1の結晶膜を成膜し、ついで、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成して行う前記[23]記載の製造方法。
[25] 前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行う前記[24]記載の製造方法。
[26] 結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、転位密度が5×106cm-2よりも低く、表面積が9μm2以上であることを特徴とする結晶膜。
[27] 結晶性金属酸化物が少なくともガリウムを含む、前記[26]に記載の結晶膜。
[28] 結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、横方向結晶成長層を含む表面積が9μm2以上の結晶膜であることを特徴とする結晶膜。
[29] 前記表面積が1mm2以上の結晶膜である前記[28]記載の結晶膜。
[30] 結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、(10-14)面に垂直な方向に結晶成長している横方向結晶成長を含むことを特徴とする結晶膜。
[31] 前記[26]~[30]のいずれかに記載の結晶膜を含む半導体装置。
[32] 前記結晶膜は半導体膜であって、
さらに、前記半導体膜と電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを有する、前記[31]記載の半導体装置。
[33] 前記[31]または[32]に記載の結晶膜を含む半導体装置。
[34] 結晶膜は半導体膜であって、
さらに、半導体膜と電気的に接続される第1の電極と第2の電極とを有する、前記[33]に記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高品質な結晶膜を工業的有利に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明において好適に用いられるハライド気相成長(HVPE)装置を説明する図である。
【
図2】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図3】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の表面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図5】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の表面を模式的に示す図である。
【
図6】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。(a)は凹凸部の模式的斜視図であり、(b)は凹凸部の模式的表面図である。
【
図7】本発明において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。(a)は凹凸部の模式的斜視図であり、(b)は凹凸部の模式的表面図である。
【
図8】実施例で用いたミストCVD装置を説明する図である。
【
図9】実施例におけるφスキャンXRD測定結果を示す図である。
【
図10】実施例における、基板上に形成された結晶膜の表面SEM像を示す図である。
【
図11】本発明の好適な結晶膜を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の好適な膜を半導体層として用いた半導体装置を実施形態として模式的に示す図であり、(a)は模式的上面図であり、(b)は、模式的側面図である。
【
図13】本発明で好適に用いられるマスク付き基板を模式的に示す図である。
【
図14】
図13に示されるマスク付き基板上にα-Ga
2O
3膜を結晶成長させた顕微鏡写真である。
【
図15】参考例において、ドット状の開口を有するシート状のマスク付き基板上にα-Ga
2O
3膜を結晶成長させたときの顕微鏡写真を示す。(a)は上面からの写真であり、(b)は斜め上方からの写真である。
【
図16】参考例において、ドット状の開口を有するシート状のマスク付き基板上のα-Ga
2O
3膜の結晶成長を進めたときの顕微鏡写真を示す図である。
【
図17】参考例において、複数の開口を有するシート状のSiO
2マスク付きの基板を用いて結晶成長させた場合の態様と、複数の細長い形状のTiO
2マスクを基板上に配置して、その上に結晶成長させた場合の態様とを示す顕微鏡写真である。
【
図18】参考例において、成長レートが、それぞれ12μm/h、7μm/hおよび5μm/hである場合の結晶成長の態様を示す顕微鏡写真である。
【
図19】参考例において、成長温度が、それぞれ540℃、500℃および460℃である場合の結晶成長の態様を示す顕微鏡写真である。
【
図20】参考例において、ドット状の開口を有するシート状のマスク付き基板上のα-Ga
2O
3膜の結晶成長の進行を説明する図である。
【
図21】参考例において、転位密度が5×10
6cm
-2以下である領域の形成について説明する図である。
【
図22】膜の成長量とX線ロッキングカーブ法による半値全幅(XRC-FWHM)との関係を示す。
【
図23】参考例で用いたHVPE装置の模式図を示す。
【
図24】実施例で得られた第2の結晶膜を含む積層体の模式的断面図を示し、さらに、実施例で得られた第2の結晶膜の会合界面を観察した結果(顕微鏡写真)を示す図である。
【
図25】実施例で得られた第2の結晶膜の
図24中に示される任意の箇所(A)~(C)における断面TEM像を示す図である。
【
図26】参考例におけるELO成長した平坦なα-Ga
2O
3膜のSEM写真(鳥瞰図)を示す。
【
図27】実施例および比較例におけるノマルスキー顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図28】実施例におけるSEM観察結果(鳥瞰図と断面図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法の実施形態の一つとして、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給して成膜する際に、前記基板として、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている基板を用いて、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことを特長とする。
【0014】
(金属源)
前記金属源は、金属を含んでおり、ガス化が可能なものであれば、特に限定されず、金属単体であってもよいし、金属化合物であってもよい。前記金属としては、例えば、ガリウム、アルミニウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記金属が、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる1種または2種以上の金属であるのが好ましく、ガリウムであるのがより好ましく、前記金属源が、ガリウム単体であるのが最も好ましい。また、前記金属源は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、固体であってもよいが、本発明においては、例えば、前記金属としてガリウムを用いる場合には、前記金属源が液体であるのが好ましい。
【0015】
前記ガス化の手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の手段であってよい。本発明においては、前記ガス化の手段が、前記金属源をハロゲン化することにより行われるのが好ましい。前記ハロゲン化に用いるハロゲン化剤は、前記金属源をハロゲン化できさえすれば、特に限定されず、公知のハロゲン化剤であってよい。前記ハロゲン化剤としては、例えば、ハロゲンまたはハロゲン化水素等が挙げられる。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素等が挙げられる。また、前記ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。本発明においては、前記ハロゲン化に、ハロゲン化水素を用いるのが好ましく、塩化水素を用いるのがより好ましい。本発明においては、前記ガス化を、前記金属源に、ハロゲン化剤として、ハロゲンまたはハロゲン化水素を供給して、前記金属源とハロゲンまたはハロゲン化水素とをハロゲン化金属の気化温度以上で反応させてハロゲン化金属とすることにより行うのが好ましい。前記ハロゲン化反応温度は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、前記金属源がガリウムであり、前記ハロゲン化剤が、HClである場合には、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。前記金属含有原料ガスは、前記金属源の金属を含むガスであれば、特に限定されない。前記金属含有原料ガスとしては、例えば、前記金属のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物など)等が挙げられる。
【0016】
本発明の実施形態においては、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとした後、前記金属含有原料ガスと、前記酸素含有原料ガスとを、前記反応室内の基板上に供給する。また、本発明においては、反応性ガスを前記基板上に供給する。前記酸素含有原料ガスとしては、例えば、O2ガス、CO2ガス、NOガス、NO2ガス、N2Oガス、H2OガスまたはO3ガスから選ばれる1種または2種以上のガスである。本発明においては、前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスであるのが好ましく、O2を含むのがより好ましい。前記反応性ガスは、通常、金属含有原料ガスおよび酸素含有原料ガスとは異なる反応性のガスであり、不活性ガスは含まれない。前記反応性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、エッチングガス等が挙げられる。前記エッチングガスは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のエッチングガスであってよい。本発明においては、前記反応性ガスが、ハロゲンガス(例えば、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガスまたはヨウ素ガス等)、ハロゲン化水素ガス(例えば、フッ酸ガス、塩酸ガス、臭化水素ガス、ヨウ化水素ガス等)、水素ガスまたはこれら2種以上の混合ガス等であるのが好ましく、ハロゲン化水素ガスを含むのが好ましく、塩化水素を含むのが最も好ましい。なお、前記金属含有原料ガス、前記酸素含有原料ガス、前記反応性ガスは、キャリアガスを含んでいてもよい。前記キャリアガスとしては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス等が挙げられる。また、前記金属含有原料ガスの分圧は特に限定されないが、本発明においては、0.5Pa~1kPaであるのが好ましく、5Pa~0.5kPaであるのがより好ましい。前記酸素含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.5倍~100倍であるのが好ましく、1倍~20倍であるのがより好ましい。前記反応性ガスの分圧も、特に限定されないが、本発明の実施形態においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.1倍~5倍であるのが好ましく、0.2倍~3倍であるのがより好ましい。
【0017】
本発明の実施形態においては、さらに、ドーパント含有原料ガスを前記基板に供給するのも好ましい。前記ドーパント含有原料ガスは、ドーパントを含んでいれば、特に限定されない。前記ドーパントも、特に限定されないが、本発明においては、前記ドーパントが、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブおよびスズから選ばれる1種または2種以上の元素を含むのが好ましく、ゲルマニウム、ケイ素、またはスズを含むのがより好ましく、ゲルマニウムを含むのが最も好ましい。このようにドーパント含有原料ガスを用いることにより、得られる膜の導電率を容易に制御することができる。前記ドーパント含有原料ガスは、前記ドーパントを化合物(例えば、ハロゲン化物、酸化物等)の形態で有するのが好ましく、ハロゲン化物の形態で有するのがより好ましい。前記ドーパント含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明においては、前記金属含有原料ガスの分圧の1×10-7倍~0.1倍であるのが好ましく、2.5×10-6倍~7.5×10-2倍であるのがより好ましい。なお、本発明においては、前記ドーパント含有原料ガスを、前記反応性ガスとともに前記基板上に供給するのが好ましい。
【0018】
(基板)
前記基板は、板状であって、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、前記結晶膜を支持することができるものであれば、特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。本発明の実施形態においては、前記基板が、結晶基板であるのが好ましい。
【0019】
(結晶基板)
前記結晶基板は、結晶物を主成分として含む基板であれば特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。前記結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板、六方晶構造を有する基板などが挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。
【0020】
前記コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。前記β-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、β-Ga2O3基板、またはβ-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板などが挙げられる。なお、β-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板としては、例えば、Al2O3が原子比で0%より多くかつ60%以下含まれる混晶体基板などが好適な例として挙げられる。また、前記六方晶構造を有する基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。その他の結晶基板の例示としては、例えば、Si基板などが挙げられる。
【0021】
本発明の実施形態においては、前記結晶基板が、サファイア基板であるのが好ましい。前記サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板などが挙げられる。また、前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0022】
また、本発明の実施形態の一つにおいては、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されているので、より効率的に、より高品質な前記結晶膜を得ることができる。前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。
【0023】
前記凸部の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カーボン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性酸化物半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0024】
前記凸部の形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状またはドット状であるのが好ましく、ドット状であるのがより好ましい。また、本発明においては、前記結晶基板が、PSS(Patterned Sapphire Substrate)基板であるのも好ましい。前記PSS基板のパターン形状は、特に限定されず、公知のパターン形状であってよい。前記パターン形状としては、例えば、円錐形、釣鐘形、ドーム形、半球形、正方形または三角形のピラミッド形等が挙げられるが、本発明においては、前記パターン形状が、円錐形であるのが好ましい。また、前記パターン形状のピッチ間隔も、特に限定されないが、本発明においては、5μm以下であるのが好ましく、1μm~3μmであるのがより好ましい。
【0025】
前記凹部は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、基板であってもよい。本発明においては、前記凹部が基板の表面上に設けられた空隙層であるのが好ましい。前記凹部の形成手段としては、前記の凸部の形成手段と同様の手段を用いることができる。前記空隙層は、公知の溝加工手段により、基板に溝を設けることで、前記基板の表面上に形成することができる。空隙層の溝幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。また、空隙層には、空気が含まれていてもよいし、不活性ガス等が含まれていてもよい。
【0026】
以下、本発明の実施形態の一つにおける基板の好ましい態様を、図面を用いて説明する。
図2は、本発明の実施形態における基板の表面上に設けられたドット状の凹凸部の一態様を示す。
図2の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1aに設けられた複数の凸部2aとから形成されている。
図3は、天頂方向から見た
図2に示す凹凸部の表面を示している。
図2および
図3からわかるように、前記凹凸部は、基板の表面1aの三角格子上に、円錐状の凸部2aが形成された構成となっている。前記凸部2aは、フォトリソグラフィー等の公知の加工手段により形成することができる。なお、前記三角格子の格子点は、それぞれ一定の周期aの間隔ごとに設けられている。周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましく、1μm~3μmであるのが最も好ましい。ここで、周期aは、隣接する凸部2aにおける高さのピーク位置(すなわち格子点)間の距離をいう。
【0027】
図4は、本発明の実施形態における基板の表面上に設けられたドット状の凹凸部の一態様を示し、
図2とは別の態様を示している。
図4の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1a上に設けられた凸部2aとから形成されている。
図5は、天頂方向から見た
図4に示す凹凸部の表面を示している。
図4および
図5からわかるように、前記凹凸部は、基板の表面1aの三角格子上に、三角錐状の凸部2aが形成された構成となっている。前記凸部2aは、フォトリソグラフィー等の公知の加工手段により形成することができる。なお、前記三角格子の格子点は、それぞれ一定の周期aの間隔ごとに設けられている。周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましく、1μm~3μmであるのが最も好ましい。
【0028】
図6(a)は、本発明の実施形態における基板の表面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、
図6(b)は、
図6(a)に示す凹凸部の表面を模式的に示している。
図6の凹凸部は、基板本体1と、基板の表面1a上に設けられた三角形のパターン形状を有する凸部2aとから形成されている。なお、凸部2aは、前記基板の材料またはSiO
2等のシリコン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて形成することができる。なお、前記三角形のパターン形状の交点間の周期aは、特に限定されないが、本発明の実施形態においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましい。
【0029】
図7(a)は、
図6(a)と同様、本発明の実施形態における基板の表面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、
図7(b)は、
図7(a)に示す凹凸部の表面を模式的に示している。
図7(a)の凹凸部は、基板本体1と三角形のパターン形状を有する空隙層とから形成されている。なお、凹部2bは、例えばレーザーダイシング等の公知の溝加工手段により形成することができる。なお、前記三角形のパターン形状の交点間の周期aは、特に限定されないが、本発明においては、0.5μm~10μmであるのが好ましく、1μm~5μmであるのがより好ましい。
【0030】
凹凸部の凸部の幅および高さ、凹部の幅および深さ、間隔などが特に限定されないが、本発明の実施形態においては、それぞれが例えば約10nm~約1mmの範囲内であり、好ましくは約10nm~約300μmであり、より好ましくは約10nm~約1μmであり、最も好ましくは約100nm~約1μmである。なお、前記凹凸部は、前記基板上に直接形成されていてもよいし、他の層を介して設けられていてもよい。
【0031】
本発明の実施形態においては、前記基板上に応力緩和層等を含むバッファ層を設けてもよく、バッファ層を設ける場合には、バッファ層上でも前記凹凸部を形成してもよい。また、本発明の実施形態においては、前記基板が、表面の一部または全部に、バッファ層を有しているのが好ましい。前記バッファ層の形成手段は、特に限定されず、公知の手段であってよい。前記形成手段としては、例えば、スプレー法、ミストCVD法、HVPE法、MBE法、MOCVD法、スパッタリング法等が挙げられる。本発明においては、前記バッファ層が、ミストCVD法により形成されているのが、前記バッファ層上に形成される前記結晶膜の膜質をより優れたものとでき、特に、チルト等の結晶欠陥を抑制できるため、好ましい。以下、前記バッファ層をミストCVD法により形成する好適な態様を、より詳細に説明する。
【0032】
前記バッファ層は、好適には、例えば、原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガスを用いて前記基板まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記基板の表面の一部または全部で、前記ミストまたは前記液滴を熱反応させる(バッファ層形成工程)ことにより形成することができる。
【0033】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、前記原料溶液を霧化または液滴化する。前記原料溶液の霧化手段または液滴化手段は、前記原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明の前記実施形態においては、超音波を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0034】
(原料溶液)
前記原料溶液は、ミストCVDにより、前記バッファ層が得られる溶液であれば特に限定されない。前記原料溶液としては、例えば、霧化用金属の有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)の水溶液などが挙げられる。前記霧化用金属は、特に限定されず、このような霧化用金属としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記霧化用金属が、ガリウム、インジウムまたはアルミニウムを少なくとも含むのが好ましく、ガリウムを少なくとも含むのがより好ましい。原料溶液中の霧化用金属の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%~50モル%であり、より好ましくは0.01モル%~50モル%である。
【0035】
また、原料溶液には、ドーパントが含まれているのも好ましい。原料溶液にドーパントを含ませることにより、イオン注入等を行わずに、結晶構造を壊すことなく、バッファ層の導電性を容易に制御することができる。本発明においては、前記ドーパントがスズ、ゲルマニウム、またはケイ素であるのが好ましく、スズ、またはゲルマニウムであるのがより好ましく、スズであるのが最も好ましい。前記ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよいし、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。本発明においては、ドーパントの濃度が1×1020/cm3以下であるのが好ましく、5×1019/cm3以下であるのがより好ましい。
【0036】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0037】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0038】
(バッファ層形成工程)
バッファ層形成工程では、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、基板上に、前記バッファ層を形成する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、400℃~650℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、バッファ層の厚みは、形成時間を調整することにより、設定することができる。
【0039】
上記のようにして、前記基板上の表面の一部または全部に、バッファ層を形成した後、該バッファ層上に、上記した本発明の成膜方法により、前記結晶膜を成膜することにより、前記結晶膜におけるチルト等の欠陥をより低減することができ、膜質をより優れたものとすることができる。
【0040】
また、前記バッファ層は、特に限定されないが、本発明においては、金属酸化物を主成分として含んでいるのが好ましい。前記金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。発明においては、前記金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、少なくともガリウムを含んでいるのが最も好ましい。本発明の成膜方法の実施形態の一つとして、バッファ層が金属酸化物を主成分として含み、バッファ層が含む金属酸化物がガリウムと、ガリウムよりも少ない量のアルミニウムを含んでいてもよい。ガリウムよりも少ない量のアルミニウムを含むバッファ層を用いることで、結晶成長を良好なものにするだけでなく、さらに、良好な高温成長も実現することができる。また、本発明の成膜方法の実施形態の一つとして、バッファ層が超格子構造を含んでいてもよい。超格子構造を含むバッファ層を用いることで、良好な結晶成長を実現するだけでなく、結晶成長時の反り等を抑制することもより容易になる。なお、本発明において、「主成分」とは、前記金属酸化物が、原子比で、前記バッファ層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性酸化物半導体の結晶構造は、特に限定されないが、本発明においては、コランダム構造またはβガリア構造であるのが好ましく、コランダム構造であるのがより好ましい。また、前記結晶膜と前記バッファ層とは、本発明の目的を阻害しない限り、それぞれ互いに主成分が同一であってもよいし、異なっていてもよいが、本発明においては、同一であるのが好ましい。
【0041】
本発明の前記実施形態においては、前記バッファ層が設けられていてもよい前記基板上に金属含有原料ガス、酸素含有原料ガス、反応性ガスおよび所望によりドーパント含有原料ガスを供給し、反応性ガスの流通下で成膜する。本発明においては、前記成膜が、加熱されている基板上で行われるのが好ましい。前記成膜温度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。また、前記成膜は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非真空下、還元ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下および酸化ガス雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、常圧下、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明の前記実施形態においては、常圧下または大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0042】
前記結晶膜は、通常、結晶性金属酸化物を主成分として含む。前記結晶性金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。本発明においては、前記結晶性金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶であるのが最も好ましい。なお、本発明の実施形態において、「主成分」とは、前記結晶性金属酸化物が、原子比で、前記結晶膜の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性金属酸化物の結晶構造は、特に限定されないが、本発明においては、コランダム構造またはβガリア構造であるのが好ましく、コランダム構造であるのがより好ましく、前記結晶膜が、コランダム構造を有する結晶成長膜であるのが最も好ましい。本発明の実施形態においては、前記基板として、コランダム構造を含む基板を用いて、前記成膜を行うことにより、コランダム構造を有する結晶成長膜を得ることができる。前記結晶性金属酸化物は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよいが、本発明の実施形態においては、単結晶であるのが好ましい。また、前記結晶膜の膜厚は、特に限定されないが、3μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましく、20μm以上であるのが最も好ましい。
【0043】
また、本発明においては、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、かつコランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板上に、第1の結晶膜を成膜する工程、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成する工程、および該凹凸部が形成されている第1の結晶膜表面上に、第2の結晶膜を成膜する工程を少なくとも含む結晶膜の製造方法が好ましく、このような好ましい製造方法も本発明に含まれる。
【0044】
前記基板における「表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部」は、前記した凹凸部と同様であってよく、かかる形成手段も、パターン化されたマスクまたは溝などを設ける公知の手段であってよく、前記した凸部の形成手段または凹部の形成手段と同様であってよい。また、前記基板における「コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板」についても、前記したコランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板と同様であってよい。また、「第1の結晶膜」は、特に限定されないが、コランダム構造を有するのが好ましく、また、基板とは異なる主成分であるのが好ましい。第1の結晶膜の成膜手段は、特に限定されず、公知の手段であってよく、前記した成膜手段やバッファ層の形成手段と同様の手段であってよい。また、第1の結晶膜表面に形成される凹凸部は前記した凹凸部と同様であってよく、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成する手段も、前記した凸部の形成手段または凹部の形成手段と同様であってよい。第2の結晶膜は、第1の結晶膜と同じ主成分であってもよいし、異なる主成分であってもよい。同じ成分であってもよい。本発明においては、第2の結晶膜が、コランダム構造を有するのが好ましく、また、前記基板と異なる主成分であるのが好ましい。第2の結晶膜の成膜手段は、特に限定されず、公知の手段であってよく、前記した成膜手段やバッファ層の形成手段と同様の手段であってよい。
【0045】
本発明においては、前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成するのが好ましい。前記剥離犠牲層の形成手段としては、第1の結晶膜の形成後、第1の結晶膜表面の一部または全部に、パターン化されたマスクまたは溝などを設ける手段などが挙げられ、マスクまたは溝などの形成手段は、公知の手段であってよい。本発明においては、前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物、非金属、非金属化合物、またはこれらの混合物を配列することにより行うのが好ましく、金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行うのがより好ましい。前記金属は、特に限定されず、上記にて例示した金属と同様であってよいが、本発明においては、貴金属であるのが好ましい。前記金属化合物としては、特に限定されず、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物などが挙げられる。本発明においては、前記金属化合物が例えば酸化チタン等の金属酸化物であるのが好ましい。前記非金属化合物としては、特に限定されず、例えば非金属酸化物、非金属窒化物、非金属硫化物などが挙げられる。本発明においては、前記非金属化合物が、例えば二酸化ケイ素等の非金属酸化物であるのが好ましい。ここで、「任意の形状」とは、第2の結晶膜が横方向成長可能なあらゆる形状をいうが、本発明においては、パターン化された形状であるのが好ましく、ストライプ状またはドット状であるのがより好ましい。このような好ましい本発明の態様によれば、更により高品質なELO結晶膜を得ることができる。
【0046】
また、本発明においては、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第1の結晶膜上に、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第2の結晶膜を成膜する結晶膜の製造方法が好ましく、このような製造方法も本発明に含まれる。なお、第1の結晶膜、第2の結晶膜および成膜手段については、前記と同様であってよい。また、本発明においては、前記の第1の結晶膜表面の凹凸部を、第1の結晶膜を剥離犠牲層として、第1の結晶膜と第2の結晶膜とが剥離可能となるように形成するのが好ましく、前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行うのも好ましい。なお、各構成および各手段については、前記と同様であってよい。
【0047】
また、本発明においては、第2の結晶膜の成膜後、さらに、第3の結晶膜、第4の結晶膜等のさらなる結晶膜を成膜してもよく、さらなる結晶膜を成膜する場合には、第2の結晶膜等の表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成するのが好ましい。このようにすることにより、基板との剥離をより良好なものとするのみならず、さらにより良質なELO成長膜を得ることができる。
【0048】
また、さらに、本発明においては、基板上に結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む剥離犠牲層を形成し、ついで、該剥離犠牲層上に、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む結晶膜を成膜する結晶膜の製造方法が好ましく、このような製造方法も本発明に含まれる。なお、第1の結晶膜、第2の結晶膜および成膜手段については、前記と同様であってよい。また、本発明においては、前記の剥離犠牲層の形成を、基板上に結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む第1の結晶膜を成膜し、ついで、第1の結晶膜表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部を形成して行うのが好ましく、前記の第1の結晶膜表面の凹凸部の形成を、第1の結晶膜表面に任意の形状を有する複数の金属、金属化合物または非金属化合物を配列することにより行うのも好ましい。なお、各構成および各手段については、前記と同様であってよい。
【0049】
また、本発明においては、剥離犠牲層が、2層以上の多層であってよく、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶を主成分として含む層の他に、例えば、金属層、金属化合物層、非金属層、非金属化合物層等の他の層を含んでいてもよい。
【0050】
また、上記の好ましい製造方法を用いて、さらに所望により、バッファ層等を形成していくなどすることにより、結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する結晶膜であって、転位密度が5×106cm-2よりも低く、表面積が9μm2以上である結晶膜を得ることができる。ここで、「転位密度」とは、平面または断面TEM像より観察される単位面積あたりの転位の数から求められる転位密度をいう。
【0051】
本発明の前記製造方法の実施形態によって得られた結晶膜は、特に、半導体装置に好適に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。前記結晶膜を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明においては、前記結晶膜をそのまま半導体装置等に用いてもよいし、前記基板等から剥離する等の公知の手段を用いた後に、半導体装置等に適用してもよい。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
1.バッファ層の形成
1-1.ミストCVD装置
図8を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と、キャリアガスを供給するキャリアガス源22aと、キャリアガス源22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給源22bと、キャリアガス源(希釈)22bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる成膜室27と、成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0054】
1-2.原料溶液の作製
臭化ガリウムと臭化スズとを超純水に混合し、ガリウムに対するスズの原子比が1:0.08およびガリウム0.1mol/Lとなるように水溶液を調整し、この際、さらに臭化水素酸を体積比で20%となるように含有させ、これを原料溶液とした。
【0055】
1-3.成膜準備
上記1-2.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、被成膜試料20として、基板表面の三角格子状に三角錐状の凸部が周期1μmでパターン形成されたPSS(Patterned Sapphire Substrate)基板(c面、オフ角0.2°)を試料台21上に設置させ、ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を460℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23aおよび23bを開いてキャリアガス源22aおよびキャリアガス(希釈)源22bからキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を2.0L/min、キャリアガス(希釈)の流量を0.1L/minにそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0056】
1-4.成膜
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。この原料微粒子が、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、460℃にて、成膜室27内で反応して、被成膜試料20上にバッファ層を形成した。なお、成膜時間は5分であった。
【0057】
2.結晶膜の形成
2-1.HVPE装置
図1を用いて、本実施例で用いたハライド気相成長(HVPE)装置50を説明する。HVPE装置50は、反応室51と、金属源57を加熱するヒータ52aおよび基板ホルダ56に固定されている基板を加熱するヒータ52bとを備え、さらに、反応室51内に、酸素含有原料ガス供給管55bと、反応性ガス供給管54bと、基板を設置する基板ホルダ56とを備えている。そして、反応性ガス供給管54b内には、金属含有原料ガス供給管53bが備えられており、二重管構造を形成している。なお、酸素含有原料ガス供給管55bは、酸素含有原料ガス供給源55aと接続されており、酸素含有原料ガス供給源55aから酸素含有原料ガス供給管55bを介して、酸素含有原料ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、酸素含有原料ガスの流路を構成している。また、反応性ガス供給管54bは、反応性ガス供給源54aと接続されており、反応性ガス供給源54aから反応性ガス供給管54bを介して、反応性ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、反応性ガスの流路を構成している。金属含有原料ガス供給管53bは、ハロゲン含有原料ガス供給源53aと接続されており、ハロゲン含有原料ガスが金属源に供給されて金属含有原料ガスとなり金属含有原料ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給される。反応室51には、使用済みのガスを排気するガス排出部59が設けられており、さらに、反応室51の内壁には、反応物が析出するのを防ぐ保護シート58が備え付けられている。
【0058】
2-2.成膜準備
金属含有原料ガス供給管53b内部にガリウム(Ga)金属源57(純度99.99999%以上)を配置し、反応室51内の基板ホルダ56上に、基板として、上記1で得られたバッファ層付きのPSS基板を設置した。その後、ヒータ52aおよび52bを作動させて反応室51内の温度を510℃にまで昇温させた。
【0059】
3.成膜
金属含有原料ガス供給管53b内部に配置したガリウム(Ga)金属57に、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから、塩化水素(HCl)ガス(純度99.999%以上)を供給した。Ga金属と塩化水素(HCl)ガスとの化学反応によって、塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)を生成した。得られた塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)と、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO2ガス(純度99.99995%以上)とを、それぞれ金属含有原料供給管53bおよび酸素含有原料ガス供給管55bを通して前記基板上まで供給した。その際、反応性ガス供給源54aから、塩化水素(HCl)ガス(純度99.999%以上)を、反応性ガス供給管54bを通して、前記基板上に供給した。そして、HClガスの流通下で、塩化ガリウム(GaCl/GaCl3)およびO2ガスを基板上で大気圧下、510℃にて反応させて、基板上に成膜した。なお、成膜時間は25分であった。ここで、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから供給されるHClガスの流量を10sccm、反応性ガス供給源54aから供給されるHClガスの流量を5.0sccm、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO2ガスの流量を20sccmに、それぞれ維持した。
【0060】
4.評価
上記3.にて得られた膜は、クラックや異常成長もなく、きれいな膜であった。得られた膜につき、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって、膜の同定を行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、α―Ga
2O
3であった。また、得られた膜につき、φスキャンXRD測定を行った結果を、
図9に示す。
図9から明らかなように、得られた膜は、ツインフリーの良質な結晶膜であった。なお、得られた結晶膜の膜厚は、10μmであった。上記3.にて得られた結晶膜は、転位密度が5×10
6cm
-2よりも低く、表面積が9μm
2以上であった。
【0061】
(実施例2)
基板として、バッファ層付きのPSS基板(周期1μm)に代えて、PSS基板(周期3μm)を用いたことおよび成膜時間を75分としたこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜を得た。得られた結晶膜につき、実施例1と同様にして、膜の同定を行ったところ、得られた膜は、実施例1と同様、良質なα―Ga
2O
3であった。得られた膜につき、SEMを用いて表面を観察した。SEM像を
図10に示す。
図10から明らかなように、平坦な膜が形成されていることがわかる。なお、得られた結晶膜の膜厚は、30μmであった。
【0062】
(比較例1)
反応性ガス(HClガス)を基板に供給しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜を成膜した。その結果、実施例1および2と比較して成膜レートが1/10以下に低下し、また得られた膜は、表面平坦性等の膜質が悪化し、鏡面ではなくなった。
【0063】
(比較例2)
反応性ガス(HClガス)を基板に供給しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、結晶膜を成膜した。その結果、実施例1および2と比較して成膜レートが1/10以下に低下し、また得られた膜は、表面平坦性等の膜質が悪化し、鏡面ではなくなった。
【0064】
(第1実施形態)
図11は、本発明の好適な結晶膜を第1実施形態として示す模式図である。本実施形態にかかる結晶膜60は、結晶性金属酸化物を主成分として含み、コランダム構造を有する。本実施形態において、結晶膜60の結晶性金属酸化物が少なくともガリウムを含む。また、結晶膜60の転位密度が5×10
6cm
-2よりも低い。また、結晶膜60の表面積は9μm
2以上である。別の実施形態として、結晶膜の結晶性金属酸化物がインジウムを含んでいてもよい。本発明の実施形態にかかる結晶膜をバッファ層として、その上にさらに結晶膜を形成してもよい。また、本発明の実施形態にかかる結晶膜を半導体層として用いることもできる。
【0065】
図12(a)は、本発明の好適な結晶膜60を半導体層として用いた半導体装置1000を示す模式図である。
図12(b)は、
図12(a)で示す半導体装置1000の側面を模式的に示す。本実施形態にかかる結晶膜は、コランダム構造を有する結晶を含み、少なくともガリウムを含んでいる。結晶膜60は、不純物がドーピングされており、導電性を有する導電膜であってよく、また、半導体膜であるのが好ましい。半導体装置1000は、さらに、結晶膜60に電気的に接続される第1の電極61aと、結晶膜60に電気的に接続される第2の電極61bとを有している。本実施形態において、第1の電極61aは結晶膜60の第1面60a側に配置され、第2の電極61bは結晶膜60の第2面60b側に配置されている。例えば、半導体装置1000がショットキーダイオードである場合には、第1の電極61aがオーミック電極で、第2の電極61bがショットキー電極であってもよい。
図12(a)と
図12(b)で示される半導体装置の構造は、一例である。本発明の実施形態にかかる結晶膜は、パワー半導体装置を含めて様々な電源やシステムに利用することができる。
【0066】
(参考例)
以下、本発明の結晶膜の結晶成長の好適な実施形態について説明する。
図13は、本発明において用いられる好適な基板を示す。
図13の基板560は、サファイア基板であり、基板上にマスク550が設けられている。サファイア基板560の表面は、マスクが設けられており、マスク部分70と、基板部分71とで、ライン・アンド・スペースの形状(凹凸部)を形成している。
図14は、基板上にマスクを配置して、マスク付き基板上に上にα-Ga
2O
3膜を結晶成長させた顕微鏡写真を参考までに示す。また、マスクの模様は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、シート状のマスクにドット状の開口を設けてもよい。ドット状の開口を有するシート状のマスク付き基板を用いて結晶成長させた場合の結晶成長過程が分かる顕微鏡写真を
図15~16に示す。なお、マスク材料は、特に限定されず、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiO
2)、窒化チタン(TiN)などが挙げられるが、本発明では、酸化ケイ素や酸化チタンなどの酸化物であるのが好ましい。なお、SiO
2マスク付きの基板を用いて結晶成長させた場合の態様を示す顕微鏡写真と、複数の開口を有するシート状のSiO
2マスク付きの基板を用いて結晶成長させた場合の態様と、複数の細長い形状のTiO
2マスク付きマスクを基板上に配置して、その上に結晶成長させた場合の態様を示す顕微鏡写真とを
図17に示す。本発明では、マスクが規則的に配列してなる開口部と、該マスクとから凹凸部が形成されているのが好ましく、形成されているマスクの開口同士の間隔は、特に限定されないが、3μm以上100μm以下の範囲内であるのが好ましい。また、本発明によれば、結晶成長の成長レートに優れており、
図18に示すように、5μm/h以上の成長レートでも良好な結晶成長を実現することができる。また、本発明においては、成長レートを5μm/h以下とすれば横方向成長部分の余分なグレインの形成を抑制することができ、具体的には例えば、原料ガスの供給量を1×10
-1kP以下、好ましくは3.8×10
-2kP以下とすることにより横方向成長部分の余分なグレインの形成を抑制することができる。結晶成長の成長温度も特に限定されないが、
図19に示すように、460℃~540℃が好ましい。
図19から明らかなように、成膜温度が540℃である場合には、(0001)面が発達し、成膜温度が500℃である場合には、(10-11)面が発達し、成膜温度が460℃である場合には、(10-14)面が発達するので、本発明方法によれば、成膜温度で高品質エピを形成する手段であるファセットを容易に制御することができる。傾斜ファセット面が結晶のアイランド形状を支配しており、傾斜ファセット面は(10-1n)および/もしくは(11-2m)で示され、nおよびmは自然数である。なお、(10-14)面に垂直な方向に結晶成長している横方向結晶成長を含むα-Ga
2O
3またはその混晶の結晶膜は、新規且つ有用であり、このような結晶膜も本発明に含まれる。(10-14)面に垂直な方向に結晶成長している横方向結晶成長を含むα-Ga
2O
3またはその混晶の結晶膜は、上記の通り、成膜温度を460℃以下とすることで得ることができる。なお、参考までに、結晶成長が進む過程を
図20により説明する。このように結晶成長を進めることで、
図21に示すように転位密度の低い領域を形成することができ、さらに、転位密度の低い領域を拡大することで、結晶膜の転位密度が5×10
6cm
-2よりも低く、結晶性の高いコランダム構造を有する結晶膜をより広い面積で得ることができる。また、
図21に示す結晶成長をさらに進めると
図26に示すように平坦な結晶膜を得ることができる。なお、
図26に示す結晶膜は、良好な横方向結晶成長層を有しており、表面積が1mm
2以上の良質な結晶膜であった。
【0067】
また、本実験における膜の成長量とX線ロッキングカーブ法による半値全幅(XRC-FWHM)との関係を
図22に示す。
図22から明らかなように、結晶成長が進むにつれ、結晶性が良くなっていくことがわかる。
【0068】
(実施例3)
3-1.第1の結晶膜の成膜
O2ガスの流量を100sccm、成膜温度を540℃、成膜時間を15分間としたこと以外は、実施例2と同様にして、PSS基板(周期1μm)上に第1の結晶膜(膜厚3μm)を成膜した。得られた第1の結晶膜上に、SiO2マスク(窓部形状:円形、φ5μm、窓部配列:三角格子状、任意の窓部の縁とその隣の窓部の縁との距離:5μm)を形成した。なお、窓部はマスクの開口部を意味する。
【0069】
3-2.第2の結晶膜の成膜
成膜温度を520℃、成膜時間を2時間としたこと以外、3-1.の第1の結晶膜の成膜と同様にして、第2の結晶膜(膜厚:24μm)を成膜した。
第2の結晶膜の成膜後、顕微鏡を用いて第2の結晶膜の会合界面を観察した。結果(顕微鏡写真)を
図24に示す。また、
図24に、基板104、第1の結晶膜103、マスク102および第2の結晶膜101の模式的断面図もあわせて示す。
図24の顕微鏡写真からわかるとおり、
図24の模式的断面図で示したように、窓部上では凸状となり、会合界面上では凹状となっている。また、
図24の模式的断面図で示される任意の箇所(A)~(C)について、TEM観察を行った。結果を
図25に示す。
図25から明らかなように、マスク102上の第2の結晶膜101の会合部の結晶は良好な結晶品質を有しており、さらに、結晶成長が進むにつれ、優れた結晶品質となることがわかる。
【0070】
(実施例4)
レーザーを用いて上下左右1.5mm間隔で格子状の溝が設けられたm面サファイア基板を用いたこと、成膜温度を520℃、成膜時間は15分、反応性ガス供給源54aから供給されるHClガスの流量を10sccm、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO
2ガスの流量を100sccmにしたこと以外、実施例1と同様にして結晶膜を得た。得られた結晶膜につき、ノマルスキー顕微鏡観察を行った。ノマルスキー顕微鏡像を
図27に示す。
図27から明らかなとおり、得られた結晶膜はクラックフリーの良質な結晶膜であることがわかる。
(比較例3)
溝なしのm面サファイア基板を用いたこと、成膜温度を540℃にしたこと以外、実施例4と同様にして結晶膜を得た。得られた結晶膜につき、実施例4と同様にして、ノマルスキー顕微鏡観察を行った。ノマルスキー顕微鏡像を
図27に示す。
図27から明らかなとおり、得られた結晶膜はクラックが発生していることがわかる。なお、溝なしのm面サファイア基板を用いた場合、膜厚1μm以上でクラックが発生することもわかった。
【0071】
(実施例5)
パターン化されていない平坦なm面のサファイア基板を用いたこと、バッファ層上にドット状の開口を有するシート状のSiO
2マスクを設け、マスクが設けられたバッファ層上に結晶膜を成膜したこと、ならびに成膜温度を540℃に、成膜時間を120分間に、およびO
2ガスの流量を100sccmに、それぞれ設定したこと以外は実施例1と同様にして結晶膜を得た。得られた膜につき、SEM観察を行った。SEM像(鳥瞰図と断面図)を
図28に示す。
図28から、m面のサファイア基板を用いると、結晶品質の優れた横方向結晶成長を容易に行うことができ、さらに、結晶会合をも容易に行うことができ、得られた結晶膜が20μm以上の優れたELO膜であることがわかる。
本発明の製造方法は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、特に、半導体装置の製造等に有用である。