(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177060
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】摺動部材、定着装置用摺動部材、定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221122BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20221122BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G03G15/20 515
F16C33/20 A
F16C13/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139172
(22)【出願日】2022-09-01
(62)【分割の表示】P 2021203453の分割
【原出願日】2017-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2016243645
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕樹
(57)【要約】
【課題】長時間の使用に供することができる長寿命な摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動部材は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーまたはフッ素樹脂の第1ポリマーで構成される極細繊維からなる第1繊維シートを含み、前記極細繊維は、ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成される場合、その平均繊維径が0.5μm以上5μm以下であり、前記極細繊維は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成される場合、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂で構成される極細繊維からなり、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である第1繊維シートと、
前記第1繊維シートとは異なり、ポリアミド系ポリマーで構成される他のシートとを含む多層構造を有する、摺動部材。
【請求項2】
フッ素樹脂及びポリアミド系ポリマーで構成される極細繊維からなる複数の第1繊維シートを含み、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である、摺動部材。
【請求項3】
前記摺動部材は、最上層に前記第1繊維シートが配置され、前記最上層の表面が摺動面である、請求項1または2のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記第1繊維シートは、潤滑剤が含浸されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記潤滑剤は、ゲル状である、請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記潤滑剤は、反応性の置換基を有するシロキサンを含み、
前記シロキサンは、前記反応性の置換基によって前記第1繊維シートに固定化されている、請求項4または5に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記反応性の置換基は、アミノ基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群より選ばれる1種以上である、請求項6に記載の摺動部材。
【請求項8】
定着装置に用いられる請求項1~7のいずれか1項に記載の摺動部材であって、
前記定着装置は、
互いに接触して共に回転するローラーおよび無端ベルトと、
前記無端ベルトの内周面側に配置される押圧部材と、を備え、
前記押圧部材は、前記無端ベルトの内周面を前記ローラーへ向けて押圧し、かつ前記無端ベルトを前記ローラーとで挟み、
前記摺動部材は、前記無端ベルトと前記押圧部材との間に配置されている、定着装置用摺動部材。
【請求項9】
互いに接触して共に回転するローラーおよび無端ベルトと、
前記無端ベルトの内周面側に配置される押圧部材と、
前記無端ベルトと前記押圧部材との間に配置されている請求項1~7のいずれか1項に記載の摺動部材と、を備え、
前記押圧部材は、前記無端ベルトの内周面を前記ローラーへ向けて押圧し、かつ前記無端ベルトを前記ローラーとで挟み、
前記無端ベルトの内周面は、ポリイミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーおよびポリエーテルエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂で構成される、定着装置。
【請求項10】
前記樹脂は、ポリイミド系ポリマーである、請求項9に記載の定着装置。
【請求項11】
前記定着装置は、前記ローラーおよび前記無端ベルトの少なくとも一方を加熱するヒーターを備える、請求項9または10に記載の定着装置。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の定着装置を備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材、定着装置用摺動部材、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平08-262903号公報(特許文献1)には、プリンタ、複写機、ファクシミリなどの電子写真方式の画像形成装置に備わる定着装置が開示されている。この定着装置は、加圧定着ロールと、この加圧定着ロールに接触するエンドレスベルトと、このエンドレスベルトの内部に配置され、エンドレスベルトの内周面を加圧定着ロールに向けて押圧する押圧部材とを有する。この種の定着装置は、ロールとベルトとが圧接されることで定着ニップが形成されるのでベルトニップ定着方式と呼ばれ、省エネ性に優れ、軽量、コンパクトかつ安価であるといった点で有利であるとされる。
【0003】
特開平10-213984号公報(特許文献2)には、加圧ベルトの内周面で摺動するシート状摺動部材が押圧部材に設けられ、このシート状摺動部材と加圧ベルトの内周面との間に潤滑剤が介在する構成の定着装置が開示されている。この定着装置は潤滑剤によって、加圧ベルトの内周面と押圧部材との間の摺動抵抗が低減され、加圧ベルトを定着ロールとともに円滑に周回移動させることができる。このシート状摺動部材には、ガラスクロスなどにフッ素樹脂を含浸し、焼結した摺動部材[所謂PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系摺動部材]が使用される。PTFE系摺動部材は、特開2001-249558号公報(特許文献3)、特開2004-206105号公報(特許文献4)にも開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-262903号公報
【特許文献2】特開平10-213984号公報
【特許文献3】特開2001-249558号公報
【特許文献4】特開2004-206105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PTFE系摺動部材は、高負荷および高速条件下において、PTFEが自己潤滑性を有することから、その凸部でへき開による摩耗が発生しやすい。この摩耗によって凸部が消失し、かつ摩耗粉が発生することなどにより、PTFE系摺動部材を備える定着装置は、駆動時間とともにトルクが上昇するため、寿命が短くなる傾向がある。一方で、商業印刷領域における省エネ、低コストの観点から、高負荷および高速条件下においても部品交換の頻度が少なく、長寿命な定着装置が要請されている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、長時間の使用に供することができる長寿命な摺動部材、定着装置用摺動部材、定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、所定の材質からなり、たとえば0.5μm以上5μm以下の平均繊維径を有する極細繊維を用いて作製される繊維シートが、せん断応力が小さく、空隙率が高くかつ直接接触面積(真実接触面積:As)が小さいという特徴から、摺動部材として摩擦係数(μ)が極小となるなどの優れた性能(以下、「優れた摺動性」とも記す)が発揮される材料となり得ることを着想した。この繊維シートにフッ素化合物を配合することによって摩擦係数をより低減できると考えた。上記繊維シートは、高い空隙率によって潤滑剤含浸量を大きくすることができるので、潤滑剤との併用においても良好な潤滑性を示しやすいと推測された。本発明者は、これらの点に着目して鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。
【0008】
さらに極細繊維の材質によっては、たとえば1μm以上15μm以下の平均繊維径を有する極細繊維を用いて作製される繊維シートが、優れた摺動性を発揮する材料となり得ることを見出した。平均繊維径は空隙率、Asの観点からより細径であるほど優れた摺動性を示すと推察されたが、極細繊維の材質および製法によってはその限りではないことを確認した。その詳細なメカニズムは不明であるが、繊維間結合力、繊維形状および潤滑剤との結合力などが関与していると考えられる。
【0009】
すなわち、本発明に係る摺動部材は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーまたはフッ素樹脂の第1ポリマーで構成される極細繊維からなる第1繊維シートを含み、上記極細繊維は、ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成される場合、その平均繊維径が0.5μm以上5μm以下であり、上記極細繊維は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成される場合、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である。
【0010】
上記第1ポリマーは、スルフィド基、アミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含むことが好ましい。
【0011】
上記摺動部材は、1または2以上の上記第1繊維シートと、1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有し、上記基材シートは、上記第1繊維シートと同じまたは異なる材質からなることが好ましい。
【0012】
上記基材シートは、非多孔質シートであることが好ましい。
【0013】
上記基材シートは、第2繊維シートであっても好ましい。
【0014】
上記基材シートは、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーおよびポリアミドイミド系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の第2ポリマーで構成され、前記第2ポリマーは、スルフィド基、アミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含む、ことが好ましい。
【0015】
上記摺動部材は、最上層に上記第1繊維シートが配置され、上記最上層の表面が摺動面であることが好ましい。
【0016】
上記第1繊維シートは、潤滑剤が含浸されていることが好ましい。
【0017】
上記潤滑剤は、ゲル状であることが好ましい。
【0018】
上記潤滑剤は、反応性の置換基を有するシロキサンを含み、上記シロキサンは、上記反応性の置換基によって上記第1繊維シートに固定化されていることが好ましい。
【0019】
上記反応性の置換基は、アミノ基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0020】
さらに本発明に係る定着装置用摺動部材は、定着装置に用いられる上記摺動部材であって、上記定着装置は、互いに接触して共に回転するローラーおよび無端ベルトと、上記無端ベルトの内周面側に配置される押圧部材と、を備え、上記押圧部材は、上記無端ベルトの内周面を上記ローラーへ向けて押圧し、かつ上記無端ベルトを上記ローラーとで挟み、上記摺動部材は、上記無端ベルトと上記押圧部材との間に配置されている。
【0021】
本発明に係る定着装置は、互いに接触して共に回転するローラーおよび無端ベルトと、上記無端ベルトの内周面側に配置される押圧部材と、上記無端ベルトと上記押圧部材との間に配置されている上記摺動部材と、を備え、上記押圧部材は、上記無端ベルトの内周面を上記ローラーへ向けて押圧し、かつ上記無端ベルトを上記ローラーとで挟み、上記無端ベルトの内周面は、ポリイミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーおよびポリエーテルエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂で構成される。
【0022】
上記樹脂は、ポリイミド系ポリマーであることが好ましい。
【0023】
上記定着装置は、上記ローラーおよび上記無端ベルトの少なくとも一方を加熱するヒーターを備えることが好ましい。
【0024】
本発明に係る画像形成装置は、上記定着装置を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、長時間の使用に供することができる長寿命な摺動部材、定着装置用摺動部材、定着装置および画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態の定着装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の定着装置における無端ベルト付近の概略構成を拡大して示す拡大模式図である。
【
図3】本実施形態の画像形成装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】定着装置の駆動時間と発生するトルクとの関係を示すグラフである。
【
図5】定着装置の駆動時間と発生するトルクとの関係を示す他のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。以下の実施形態において図面を用いて説明する場合、同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0028】
ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに本明細書において、摺動部材における「摺動」とは、作用する部材に対する摩擦の少なさ或いは滑りやすさに関わる性質をいい、その効果を表す「摺動性」は、たとえば定着装置において摺動部材が接触する無端ベルトの回転のし易さの指標となるものである。「摺動性」は、たとえば後述するように外部モーターのトルクを測定することにより評価することができる。この評価において「摺動性が高い」または「優れた摺動性」とは、測定されるトルクが低いことをいい、「摺動性が低い」または「摺動性に劣る」とは、測定されるトルクが高いことをいう。
【0029】
≪摺動部材≫
本実施形態に係る摺動部材は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーまたはフッ素樹脂の第1ポリマーで構成される極細繊維からなる第1繊維シートを含む。上記極細繊維は、ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成される場合、その平均繊維径が0.5μm以上5μm以下である。上記極細繊維は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成される場合、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である。さらに第1ポリマーは、スルフィド(Sulfide)基、アミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含むことが好ましい。これにより摺動部材は、せん断応力が小さく、空隙率が高くかつ直接接触面積(真実接触面積:As)が小さくなるので、摺動部材として摩擦係数(μ)が極小となるなどの優れた性能を発揮することができる。
【0030】
<第1繊維シート>
第1繊維シートは、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーまたはフッ素樹脂の第1ポリマーで構成される極細繊維からなる。この極細繊維は、ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成される場合、その平均繊維径が0.5μm以上5μm以下である。極細繊維は、ポリスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成される場合、その平均繊維径が1μm以上15μm以下である。
【0031】
本明細書において「ポリスルフィド系ポリマー」とは、ポリスルフィドを主鎖とするポリマーをいう。本実施形態においてポリスルフィド系ポリマーは、ポリスルフィドを主鎖とし、ポリスルフィドの構成官能基であるアルキル基が芳香族からなるポリマーであることが好ましい。「ポリイミド系ポリマー」とは、ポリイミドを主鎖とするポリマーをいう。本実施形態においてポリイミド系ポリマーは、ポリイミドを主鎖とし、ポリイミドの構成元素である水素の一部がアミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基で置換されたポリマーであることが好ましい。さらに「ポリアミド系ポリマー」とは、ポリアミドを主鎖とするポリマーをいう。本実施形態においてポリアミド系ポリマーは、ポリアミドを主鎖とし、ポリアミドの構成元素である水素の一部がアミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基で置換されたポリマーであることが好ましい。「ポリアミドイミド系ポリマー」とは、ポリアミドイミドを主鎖とするポリマーをいう。本実施形態においてポリアミドイミド系ポリマーは、ポリアミドイミドを主鎖とし、ポリアミドイミドの構成元素である水素の一部がアミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基で置換されたポリマーであることが好ましい。さらに「フッ素樹脂」とは、オレフィン系炭化水素またはスチレン系炭化水素を主鎖とし、その構成元素である水素の少なくとも一部がフルオロ基およびフッ化アルキル基の両方またはいずれか一方で置換されたポリマーをいう。本実施形態においてフッ素樹脂は、上記ポリマーであって、その構成元素である水素の一部が更にアミノ基およびカルボニル基の両方またはいずれか一方で置換されたポリマーであってもよい。
【0032】
本明細書において「フッ化アルキル基」とは、炭素数が1~3であって、構成元素である水素の一部がフッ素に1または2以上置換されたアルキル基をいう。フッ化アルキル基は、たとえばCF3-で表されるトリフルオロメチル基、C2F5-で表されるペンタフル
オロエチル基などを挙げることができる。本明細書において「カルボニル基」は、所謂カルボニル基とともに、ポリマー末端のカルボン酸に含まれるC=Oの部分、ポリマー末端のカルボン酸無水物に含まれるC=Oの部分もカルボニル基とみなして称するものとする。
【0033】
ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで極細繊維が構成される場合、極細繊維の平均繊維径が0.5μm以上5μm以下であることにより、ポリスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で極細繊維が構成される場合、極細繊維の平均繊維径が1μm以上15μm以下であることにより、それぞれ繊維強度(引張強さ)を確保した上で、第1繊維シートの空隙率を高め、真実接触面積(As)を小さくすることができる。極細繊維の平均繊維径が0.5μm未満である場合、繊維強度(引張強さ)が低くなって、使用時に繊維が切れやすい傾向があるため、シートが破断する恐れがある。極細繊維の平均繊維径が15μmを超えると、空隙率が低下し、真実接触面積(As)が増加する傾向があるため、摺動特性が低下する恐れがある。第1繊維シートに含浸可能となる潤滑剤の量も低下する傾向がある。ポリイミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成された極細繊維の好ましい平均繊維径は、1~4μmである。リスルフィド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成された極細繊維の好ましい平均繊維径は、5~10μmである。
【0034】
第1繊維シートは、強度とともに十分な空隙率、および真実接触面積(As)を小さくする観点から、その厚みが10~200μmであることが好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。
【0035】
第1繊維シートは、その作製方法が限定されるべきではないが、たとえば電界紡糸法(ESD法:Electro Spray Deposition法)、溶融紡糸法などによって作製される不織布であることが好ましい。ESD法とは、ポリマー溶液または溶融状態のポリマーに高電圧を印可して繊維を紡糸し、これを集積させることにより不織布を作製する方法をいう。ESD法を用いると、0.5μm以上15μm以下の極細繊維を常温で紡糸することが可能となり、かつ極細繊維を集積させてなる不織布の微細構造を制御することも可能となる。したがって、ESD法を用いて第1繊維シートを作製することにより、所望の空隙率および真実接触面積(As)を第1繊維シートに備えさせることができる。さらに近年、溶融紡糸法においても上述の極細繊維を紡糸することができる製造方法および装置が開発されている。溶融紡糸法とは、ポリマーを熱溶融させて噴霧することにより繊維を紡糸し、これを集積することによって不織布を作製する方法をいう。溶融紡糸法では、ポリマーの溶融粘度、ノズル径および噴霧の条件によって0.5μm以上15μm以下の極細繊維を、溶剤を使用することなく紡糸することが可能となる。さらに溶融紡糸法では、極細繊維を集積させてなる不織布の微細構造も制御することが可能である。ただし第1繊維シートは、上述の不織布であることが好ましいが、これに限定されるべきではなく、織物または編物であってもよい。ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーまたはポリアミドイミド系ポリマーで構成される極細繊維を用いる場合、好ましい第1繊維シートを作製するためには、ESD法および溶融紡糸法のどちらを用いてもよい。ポリスルフィド系ポリマーまたはフッ素樹脂で構成される極細繊維を用いる場合、好ましい第1繊維シートを作製するためには、溶融紡糸法を用いるのがよい。
【0036】
極細繊維の材質、すなわち第1ポリマーは、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーまたはフッ素樹脂である限り、いかなるものであってもよい。しかしながら強度とともに平滑性を有する観点から、第1ポリマーは、上述のとおりスルフィド基、アミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含むことが好ましい。たとえば、第1ポリマーは、ポリフェニレンサルファイド(PolyPhenyleneSulfide:PPS)、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、アラミド、フッ素化アラミド、PTFE系樹脂などからなることが好ましい。特に、フッ素化ポリイミドは耐熱性、耐摩耗性および低摩耗性に優れるのでより好ましい。
【0037】
第1ポリマーは、具体的にはポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、フッ素化ポリイミドであって、下記(1)~(12)で表される化学構造式を有するポリマーであることが好ましい。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
さらに第1ポリマーは、アラミドであって、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドなどのポリマーであることが好ましい。ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドとしては、コーネックス(登録商標)、ノーメックス(登録商標)などが知られる。ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドとしては、ケブラー(登録商標)、トワロン(登録商標)などが知られる。
【0045】
第1繊維シートを構成している極細繊維の平均繊維径の測定方法は次のとおりである。まず、第1繊維シートを走査電子顕微鏡(SEM)を用いて5000倍の倍率で観察し、1視野内に径を測定可能な5本の極細繊維が現れるようにする。次いで、この1視野に現れた5本の極細繊維について任意の2箇所で繊維径を特定する。すなわち1視野から10個の繊維径データを得るとともに、同じ観察を合計10回(10視野)行なうことにより、合計100個の繊維径データを得て、これらの繊維径の平均値を極細繊維の平均繊維径とする。さらに第1繊維シートの厚みは、マイクロメータ(たとえば、商品名:「MDC-25SX」、株式会社ミツトヨ製)を用いて10cm×10cmあたり10箇所の厚みをμm単位で測定し、これらの測定値の平均値により表すことができる。
【0046】
さらに、極細繊維を構成する第1ポリマーにアミノ基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含むことは、次の方法により確認することができる。すなわち、第1繊維シートの表面をFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)装置(たとえば、商品名:「FT/IR-6800」、日本分光株式会社製)を用いて分析することにより確認することができる。
【0047】
摺動部材の第1繊維シートが有する空隙率とは、第1繊維シートに形成されている孔(空隙)の割合(%)をいう。空隙率(%)の算出方法は、以下のとおりである。
空隙率(%)=(1-第1繊維シートのかさ密度(g/cm3)/第1繊維シートの材質
の真密度(g/cm3))×100。
【0048】
ここで、かさ密度は第1繊維シート10cm×10cmあたりの厚みおよび質量を測定することにより算出される。真密度は、第1繊維シートの原材料の真密度を用いる。本明細書において、この空隙率が50%以上である場合に、第1繊維シートの空隙率が高いというものとする。
【0049】
摺動部材の第1繊維シートが有する直接接触面積(真実接触面積:As)は、対向する平滑な無端ベルトなどの相手材と直接接触し得る真の面積をいう。Asの算出方法は以下のとおりである。As=第1繊維シートの面積(S)×(1-空隙率/100)。
【0050】
本明細書において、このAs/Sが0.5以下である場合に、第1繊維シートのAsが小さいというものとする。
【0051】
<摺動部材の層構造>
摺動部材は、1または2以上の第1繊維シートと、1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有することが好ましい。この基材シートは第1繊維シートと同じまたは異なる材質からなることが好ましい。摺動部材を2層以上の多層構造とすることにより、せん断変形に耐え得る強度(引張強さ)を向上させることができる。摺動部材が第1繊維シートのみの単層からなる場合、その高い空隙率および極細繊維の極細な平均繊維径が原因となり、高負荷および高速条件下においてせん断変形が生じる可能性がある。この可能性を、1または2以上の第1繊維シートと、1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有する摺動部材とすることにより排除することができる。
【0052】
<基材シート>
基材シートは、非多孔質シートであることが好ましく、第2繊維シートであっても好ましい。さらに基材シートは、ポリスルフィド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアミド系ポリマーおよびポリアミドイミド系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の第2ポリマーで構成され、この第2ポリマーは、スルフィド基、アミノ基、カルボニル基、フルオロ基およびフッ化アルキル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含むことがより好ましい。
【0053】
非多孔質シートとは、フィルムシートであって空隙率が極めて低く、空隙率が10未満であるシートをいう。非多孔質シートは、たとえばポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素化ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムなどであることが好ましい。非多孔質シートがこれらのフィルムからなる場合、第1繊維シートと組み合わせることによって、より大きな強度(引張強さ)を確保することができる。特にこれらのフィルムの中で、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルムが強度、耐熱性に優れる点および安価に入手できる点から、これを非多孔質シートとして用いることが最も好ましい。非多孔質シートの空隙率は、第1繊維シートの空隙率と同じ方法により測定することができる。
【0054】
非多孔質シートを用いた摺動部材を定着装置に適用する場合、非多孔質シートの表面は鏡面であることが好ましい。表面が鏡面である非多孔質シートを用いることにより、押圧部材の表面を鏡面とすることなく、第1繊維シートに押圧部材の凹凸が反映されることを防ぐことができ、第1繊維シートの優れた摺動性を発揮させることができる。定着装置に備わる押圧部材は、その表面に凹凸を有するため、第1繊維シート単独で摺動部材を構成した場合に、その凹凸が第1繊維シートの表面に反映され、真実接触面積(As)が増加し、優れた摺動性が得られなくなる恐れがある。ここで非多孔質シートの表面が鏡面であるとは、たとえば非多孔質シートの表面の表面粗さRaが0.03~0.1であることをいう。
【0055】
一方、第2繊維シートを用いた摺動部材を定着装置に適用する場合、第2繊維シート上に第1繊維シートを電界紡糸法で形成することにより摺動部材を製造するため、第1繊維シートと第2繊維シートとが絡まるアンカー効果によってこれらの接着性が高まり、強度が向上する。したがって、基材シートとして非多孔質性シートまたは第2繊維シートのどちらを用いるかについては、その用途において摺動特性と強度とのどちらを優先させるべきかを検討することにより選択することができる。すなわち摺動部材において摺動特性を優先させたい場合、基材シートとして非多孔質シートを用いることが好ましく、摺動部材において強度を優先させたい場合、基材シートとして第2繊維シートを用いることが好ましい。
【0056】
第2繊維シートは、不織布、織物または編物であって、たとえばアラミドメッシュ、フッ素樹脂メッシュ、アラミド紙、アラミドクロス、ガラスクロス、カーボンクロス、フッ素樹脂クロス、アラミドフェルト、ポリイミドフェルト、フッ素化ポリイミドフェルト、ポリアミドイミドフェルト、フッ素樹脂フェルト、ポリフェニレンサルファイドフェルトなどであることが好ましい。第2繊維シートは、第1繊維シートと同じ材質からなるシートであっても好ましい。第2繊維シートがこれらの繊維からなる場合も、第1繊維シートと組み合わせることによって、より大きな強度(引張強さ)を確保することができる。これらの繊維の中で、第1繊維シートとの密着性、厚み当たりの強度、入手容易性および後述する潤滑剤との親和性などの点から、アラミドメッシュ、フッ素樹脂メッシュ、アラミド紙、アラミドクロス、アラミドフェルト、ポリイミドフェルト、フッ素化ポリイミドフェルト、ポリアミドイミドフェルト、フッ素樹脂フェルト、ポリフェニレンサルファイドフェルト、またはこれらのポリマーの極細繊維からなる不織布を第2繊維シートとして用いることが好ましい。特に、強度および入手容易性の観点からアラミド紙、アラミドメッシュ、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドの極細繊維からなる不織布を第2繊維シートとして用いることが最も好ましい。
【0057】
ただし第2繊維シートの材質は、第1繊維シートにおける極細繊維の材質である第1ポリマーとは異なるポリマー(第2ポリマー)を用いることが、所望のせん断変形に耐えうる強度(引張強さ)を有するものに調整可能となる観点から好ましい。その一方で、第2繊維シートの材質は、第1繊維シートにおける極細繊維の材質である第1ポリマーと同じポリマーを用いる場合にも、所望のせん断変形に耐えうる強度(引張強さ)を有するように調整可能である。すなわち本実施形態に係る摺動部材には、2層以上の多層構造を第1繊維シートのみから形成する構成も含まれることを留意すべきである。
【0058】
摺動部材は、1または2以上の第1繊維シートと、1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有する場合、最上層に第1繊維シートが配置され、この最上層の表面が摺動面であることが好ましい。すなわち、摺動部材の層構造において第1繊維シートは、後述する無端ベルトなどの相手材と直接接触する側に少なくとも配置されることが好ましい。これにより、せん断変形に耐えうる強度(引張強さ)を向上させた上で、空隙率を高くかつ真実接触面積(As)を小さくすることができるため、摺動部材として優れた性能を発揮させることが可能となる。
【0059】
摺動部材は、1または2以上の第1繊維シートと1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有する場合、2層以上の多層構造を第1繊維シートのみから形成する場合のいずれにおいても、合計で10~200μmの厚みであることが、せん断変形に耐えうる強度と優れた摺動性とを兼ね備える点で好ましい。さらに摺動部材は、10~200μmという比較的薄い厚みであるので、定着装置に適用された場合に厚みの変化量が小さいため、厚みの変化量が大きい場合に起こりやすい紙しわ、分離不良およびペーパージャムの発生の抑制することができ、光沢ムラ、定着ムラなどの画像ノイズの発生も抑制することができる。
【0060】
<潤滑剤>
本実施形態に係る摺動部材において、第1繊維シートは、潤滑剤が含浸されていることが好ましい。この潤滑剤の種類については、摺動部材の用途および第1繊維シートの材質に応じて公知の潤滑剤から適宜選択することができる。たとえば、シリコーンオイル、アミノ基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基などの置換基を有する変性シリコーンオイル、フッ素オイル、シリコーングリス、フッ素グリスなどを潤滑剤として用いることができる。
【0061】
ただし、潤滑剤がシリコーンオイルなどのオイルである場合、高温になると粘度が著しく低下するため、高負荷および高速条件下において飛散し、摺動部材中の潤滑剤が枯渇する恐れがある。さらにオイル漏れが発生すること、摺動部材中のオイルの架橋反応によりオイルがゲル化することなどによって粘度が上昇し、摺動部材に対してトルクを上昇させ、耐久性を低下させる恐れがある。一方、潤滑剤がシリコーングリスなどのグリスである場合、粘度が高いので高負荷および高速条件下においてトルクが上昇し、摺動部材の負荷が増加することによって耐久性が低下する恐れがある。したがって上記潤滑剤は、ゲル状であることが好ましい。
【0062】
潤滑剤は、摺動部材が1または2以上の第1繊維シートと、1または2以上の基材シートとで形成される2層以上の多層構造を有する場合、第1繊維シートのみに含浸されていてもよく、第1繊維シートおよび基材シートの両方に含浸されていてもよい。
【0063】
(反応性の置換基を有するシロキサン)
上記潤滑剤は、反応性の置換基を有するシロキサン(以下、「反応性シロキサン」とも記す)を含むことが好ましい。この反応性シロキサンは、反応性の置換基によって第1繊維シートに固定化されていることが好ましい。これにより潤滑剤は、第1繊維シートに含浸されたときに、摺動部材に対して優れた摺動性とともに耐久性も付与することができる。反応性シロキサンを含む潤滑剤は、ゲル状である。さらに摺動性の観点から、反応性シロキサンは、フルオロ基およびフッ化アルキル基の両方またはいずれか一方を含むことも好ましい。
【0064】
反応性シロキサンが有する反応性の置換基は、第1繊維シートが有する官能基と反応する置換基であることが好ましい。たとえば反応性の置換基は、アミノ基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。なかでもアミノ基を有するシロキサンは、様々な等級のものが市販され、入手が容易であるので適している。ここで述べるアミノ基とは、アンモニア、第一級アミン、第二級アミンから水素を除去してなる1価の官能基を指す。
【0065】
反応性の置換基(アミノ基、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群より選ばれる1種以上)が配置されるシロキサンの分子内位置は、下記(13)~(15)に示す化学構造式から3つの形態に分けて示すことができる。下記(13)~(15)に示す化学構造式中のAが、反応性の置換基を示す。すなわち、下記(13)の化学構造式のように反応性の置換基がシロキサンの両末端に配置される形態、下記(14)の化学構造式のように反応性の置換基がシロキサンの片末端に配置される形態、および下記(15)の化学構造式のように反応性の置換基がシロキサンの構成元素であるアルキル基または水素と置換されて1つ配置される形態がある。
【0066】
下記(13)~(15)に示す化学構造式においてRは、置換基を有していてもよいアルキル基を示す。このアルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基である。一分子中にAが複数存在する場合、Aの各箇所に同じ置換基を配置させてもよいし、異なった置換基を配置させてもよい。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
上記(13)~(15)の化学構造式において、l、m、nはそれぞれ重合度を意味する正の整数を示す。この重合度を意味する正の整数はl=1~500、m=0~300、m+l=10~500、n=10~500である。l、m、nで示す値の範囲よりも重合度が低い場合、シロキサンを含浸させた第1繊維シートを加熱焼成し、シロキサンを第1繊維シートに固定化するプロセスにおいてシロキサンが揮発し、所望量のシロキサンを第1繊維に保持できないばかりか、揮発したシロキサンによって周囲が汚染される恐れがある。l、m、nで示す値の範囲よりも重合度が高い場合、熱酸化劣化によって主鎖の分解が起こりやすくなるので、シロキサンの低分子化に伴う漏れ、飛散が生じる恐れがあり、かつシロキサンの分解物同士の反応によりゲル化が促進し、トルクが上昇する恐れがある。
【0071】
反応性の置換基が配置されるシロキサンの分子内位置は、上記(13)~(15)の化学構造式で表される形態の他に、さらに別の1つの形態を示すことができる。その別の1つとは、化学構造式による説明を省略するが、反応性の置換基がシロキサンの構成元素であるアルキル基または水素と置換されて2以上配置される形態がある。
【0072】
本実施形態では、反応性の置換基がシロキサンの両末端に配置されることが、摺動性および耐久性の観点から有利である。シロキサンは、一分子中のメチル基の数が多い方が摺動部材に高い摺動性を付与することができるとされる。このため反応性の置換基がシロキサンの構成元素であるアルキル基または水素と置換されて配置されるよりも、シロキサンの末端に反応性の置換基が配置される方が、一分子中のメチル基の数が多くなって高摺動性を得られる。さらに一分子中に置換基が多い方が、保持部材に固定化された後の強度が高まるため、片末端よりも両末端に反応性の置換基が配置される方が、その耐久性に優れる。
【0073】
反応性の置換基を有するシロキサンの化学構造は、たとえば、上述のFT-IR装置、またはガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、NMR装置のいずれかを使用することにより特定することができる。
【0074】
シロキサンの粘度は、熱酸化に対する耐性、保持部材への添加容易性および摺動性の観点から、25℃において10~1000mm2/sであることが適している。特に、25
℃において10~100mm2/sが好ましい。25℃において10~100mm2/sの粘度のシロキサンは、分子量が低いために分解および劣化しにくいという特性がある。シロキサンの官能基当量は、第1繊維シートに固定化された後の強度、耐久性、摺動性の観点から100~10000g/molであることが適している。シロキサンの官能基当量は500~5000g/molであることがより好ましい。
【0075】
シロキサンの粘度は、次のようにして測定することができる。すなわち、ASTM D445-46TまたはJIS Z 8803によるウベローデ粘度計により測定することができる。シロキサンの官能基当量は、次のようにして求めることができる。すなわち、HPLCによりシロキサンの重量平均分子量を求め、上記のようにして特定したシロキサンの化学構造から反応性の置換基の数を求め、この反応性の置換基の数を上記重量平均分子量で割った数値とする。
【0076】
(摺動部材の改質)
摺動部材の改質方法として、第1繊維シートに反応性の置換基を有するシロキサン(反応性シロキサン)を含浸させるとともに、反応性の置換基によってシロキサンを第1繊維シートに固定化する方法(シロキサン改質方法)について説明する。
【0077】
たとえば、フッ素化ポリイミドおよびポリイミド系の極細繊維からなる第1繊維シート(以下、「PI系繊維シート」とも記す)を用いる例では、まず、PI系繊維シートへ反応性シロキサンを含む潤滑剤を浸漬する、または塗布することにより含浸させる。次に、シロキサンを含浸させたPI系繊維シートをドライエアーなどで湿度制御が可能なオーブンを用い、150~200℃の温度範囲で6~24時間程度、加熱焼成する。これにより、PI系繊維シートを構成する第1ポリマーの官能基と、反応性シロキサンが有する反応性の置換基とを反応させることにより、これらを化学結合させる。その結果、PI系繊維シートがシロキサンで改質され(以下、「シロキサン改質」とも記す)、PI系繊維シート上にシロキサンが固定化される。
【0078】
上述の例では、PI系繊維シート1重量部に対し、反応性シロキサンを含む潤滑剤が5~25重量部となる割合で、反応性シロキサンを含む潤滑剤をPI系繊維シートへ含浸させることが好ましい。PI系繊維シートに対して過剰量の潤滑剤を含浸させることにより、PI系繊維シートにおいて十分なシロキサン改質を促すことができる。さらに、過剰量の潤滑剤を含浸した摺動部材を組み込んだ定着装置は、その動作中にもPI系繊維シート内および対向する無端ベルト(相手材)の基材として用いられるポリイミド表層でシロキサン改質を起こすことが可能となる。
【0079】
さらに、加熱焼成しようとするシロキサンの官能基当量および添加量によって、加熱温度および加熱時間を適切に調整することが好ましい。加熱温度が低くすぎ、または加熱時間が短すぎる場合、PI系繊維シートのシロキサン改質が不十分となり、製造された摺動部材の耐久性が低下する恐れがある。一方で、加熱温度が高すぎ、または加熱時間が長すぎる場合、PI系繊維シートおよびシロキサンの熱酸化分解が発生する恐れがある。標準的な加熱温度は150~200℃の範囲であり、標準的な加熱時間は6~24時間程度である。
【0080】
上述の例では、PI系の極細繊維からなる第1繊維シートを用いた例を説明したが、PI系の代わりに、アラミドまたはフッ素化アラミドの極細繊維からなる第1繊維シートを用いても、同様なシロキサン改質方法により第1繊維シートにシロキサンを固定化することができる。
【0081】
第1繊維シートがシロキサン改質され、第1繊維シート上にシロキサンが所望のとおり固定されたか否かについては、上述のFT-IR装置を用いてシロキサン改質後の第1繊維シートの化学結合の特定を行なう。さらにシロキサン改質後の第1繊維シートを、重クロロホルムに浸した状態で1H-NMR装置(商品名「JNM-ECZR」、日本電子株
式会社製)を用いて測定し、シロキサン改質により第1繊維シート上に新たに発現し、増加した「-NHCO-」部の定性および定量を行なうことにより確認することができる。
【0082】
≪定着装置用摺動部材≫
本実施形態に係る定着装置用摺動部材は、定着装置に用いられる上述の摺動部材である。この定着装置は、互いに接触して共に回転するローラーおよび無端ベルトと、この無端ベルトの内周面側に配置される押圧部材とを備える。上記押圧部材は、無端ベルトの内周面をローラーへ向けて押圧し、かつ無端ベルトをローラーとで挟む。上記摺動部材は、無端ベルトと押圧部材との間に配置されている。
【0083】
≪定着装置≫
本実施形態に係る定着装置10は、
図1に示すように、互いに接触して共に回転するローラー11および無端ベルト12と、無端ベルト12の内周面側に配置される押圧部材13と、無端ベルト12と押圧部材13との間に配置されている上述の摺動部材14とを備えている。詳述すれば、定着装置10において無端ベルト12の内周面側には、摺動部材14を介在させて押圧部材13が配設されている。押圧部材13は無端ベルト12の内周面をローラー11へ向けて押圧し、かつ無端ベルト12をローラー11とで挟む。無端ベルト12の外周面側には、ローラー11が配設されている。すなわち定着装置10は
図1において、押圧部材13側から、押圧部材13、摺動部材14、無端ベルト12、ローラー11の順に配設されている。無端ベルト12の内周面はポリイミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーおよびポリエーテルエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂で構成される。ローラー11は、定着装置に用いられる公知のものを採用することができる。
【0084】
<無端ベルト>
無端ベルト12の内周面は、上述のとおり、ポリイミド系ポリマー、ポリアミドイミド系ポリマーおよびポリエーテルエーテルケトン系ポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂で構成される。上記樹脂は、ポリイミド系ポリマーであることが好ましい。本明細書において「ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー」とは、ポリエーテルエーテルケトンを主鎖とするポリマーをいう。
【0085】
具体的には、無端ベルト12の内周面の樹脂は、公知のポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂のいずれを用いてもよい。ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、芳香族ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることが好ましい。より具体的には、無端ベルト12の内周面は、耐熱性および強度の観点から熱硬化性ポリイミド樹脂を用いることが好ましく、耐熱性および摺動性の観点から熱硬化性フッ素化ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0086】
無端ベルト12の内周面が熱硬化性ポリイミド樹脂または熱硬化性フッ素化ポリイミド樹脂からなる場合、無端ベルト12の内周面の作製は、以下のとおりとすることができる。まず、上述の反応性の置換基を有するシロキサンを含む潤滑剤、または反応性の置換基を有するシロキサンを含む溶剤を、ポリイミド固形分100質量部に対し0.5~5質量部(たとえば1質量部)となる割合でポリイミドワニスに添加する。次いでこのポリイミドワニスを無端ベルト12の内周面に塗布し、無端ベルト12を加熱し、熱硬化性ポリイミド樹脂または熱硬化性フッ素化ポリイミド樹脂を硬化させる。これにより、シロキサン改質された熱硬化性ポリイミド樹脂または熱硬化性フッ素化ポリイミド樹脂が内周面に固定された無端ベルト12を得ることができる。
【0087】
<押圧部材>
押圧部材13は、
図2に示すように、押圧部材本体となる支持体部131とともに、ニップ形成部132および高圧摺動部133を有している。定着装置10がベルトニップ定着方式である場合、押圧部材13には低い熱伝導性が求められる。このため支持体部131は、耐熱性、高強度、高い寸法安定性とともに、低熱伝導性を有する材質からなることが要求される。具体的には、支持体部131として、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの耐熱性樹脂に、ガラス繊維、カーボン繊維などのフィラーを配合した熱可塑性樹脂が好適に用いられる。ただし、本実施形態に係る摺動部材の材質が低い熱伝導性を有することから、押圧部材および支持体部材として、板金などの金属を用いることもできる。
【0088】
ニップ形成部132は、無端ベルト12の内周面側においてローラー11に隣接させて配置され、摺動部材14を介在させて無端ベルト12を押圧し、ローラー11とで紙葉としての記録シートを圧送する作用を有する。ニップ形成部132は、転写されたトナーを記録シートS上に定着させるため、高強度および低熱伝導性を有する材質からなることが要求され、たとえば、シリコンエラストマー、耐熱性不織布が好適に用いられる。
【0089】
さらにニップ形成部132は、本実施形態に係る摺動部材14を適用することが可能である。この場合、摺動部材14がニップ形成部132としての機能を兼ね備える。すなわち摺動部材14が無端ベルト12を押圧し、ローラー11とで記録シートSを圧送することができる。摺動部材14をニップ形成部132として適用する場合、ニップの形成および高摺動性といった2つの機能を一つの部材に備えさせることができるので、コスト面において有利である。
【0090】
高圧摺動部133は、ニップ形成部132から記録シートSが圧送されてくる側に配置され、摺動部材14を介在させて無端ベルト12に圧力を与え、記録シートSをローラー11から分離させる作用を有する。高圧摺動部133は、高摺動性、耐熱性、高強度、低熱伝導性および耐摩耗性を有する材質からなることが要求される。
【0091】
高圧摺動部133についても、本実施形態に係る摺動部材14を適用することが可能である。この場合、摺動部材14が高圧摺動部133としての機能を兼ね備える。すなわち摺動部材14が無端ベルト12を押圧し、ローラー11とで記録シートSを圧送することができる。
【0092】
高圧摺動部133は、さらに曲率κが0.15以上1以下である曲面を備えることが好ましい。具体的には、高圧摺動部133における無端ベルト12と接する面に、上記曲率κが与えられる。このような曲面を有することにより、高圧摺動部133においてニップ形成部132よりも高い面圧を記録シートSに与え、記録シートSをローラ-11から分離させることができ、ペーパージャムの発生を抑制することができる。さらに上記曲率κを有する曲面により、無端ベルト12の内周面と高圧摺動部133との接触面積が減るため、摺動抵抗が低減し、トルクを低減することができる。高圧摺動部133が備える好ましい曲面の曲率κは0.165以上0.7以下である。
【0093】
<ヒータ>
本実施形態に係る定着装置10は、ローラー11および無端ベルト12の少なくとも一方を加熱するヒーター15を備える。
図1に示すように、本実施形態においてヒーター15は、ローラー11の内部に配置されている。ヒーター15として、コスト、耐久性の観点からハロゲンヒーターを用いることができる。ヒーター15を設置する箇所は、ローラー11および無端ベルト12の両方またはいずれか一方を加熱することができる位置であれば、任意の位置に配置することができる。たとえばコスト、ウォームアップタイムの短縮、高速対応または消費電力などの各種の観点から、配置する位置を選択することが可能である。ヒーター15は、ローラー11または無端ベルト12のいずれか一方に配置してもよく、両方に配置してもよい。
【0094】
≪画像形成装置≫
以下、
図3に基づき、本実施形態に係る画像形成装置について説明する。
【0095】
本実施形態に係る画像形成装置100は、
図3に示すように、後述する定着部1に上述の摺動部材を備えた定着装置10を備えている。画像形成装置100は、公知の電子写真方式により記録シートS上に画像を形成する装置であって、定着部1とともに、画像プロセス部2と、転写部3と、給紙部4と、制御部(図示省略)とを備える。画像形成装置100は、ネットワーク(たとえばLAN)を経由して外部の端末装置(図示省略)からプリントジョブを受け付け、このプリントジョブに基づいてカラーおよびモノクロのプリントを選択的に実行する。
【0096】
画像プロセス部2は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の現像色に対応した作像部21を有し、上記プリントジョブに基づいて各色からなるトナー像を作像する。転写部3は、一次転写ローラー31および無端ベルト形状の中間転写体32を有し、この中間転写体32へ作像部21で作像された各色からなるトナー像を、一次転写ローラー31を用いて静電作用により転写する。
【0097】
給紙部4は、上記の作像部21でトナー像が作像されるタイミングに合わせ、給紙カセットから記録シートSを1枚ずつ搬送路41へ繰り出し、二次転写ローラー42に向けて搬送する。搬送された記録シートSは二次転写ローラー42と中間転写体32の間を通過する際に、中間転写体32の上に形成されていたトナー像が二次転写ローラー42の静電作用により記録シートSに一括して二次転写される。
【0098】
トナー像が二次転写された後の記録シートSは、定着部1まで搬送される。さらに定着部1に備わる定着装置10において、記録シートSの表面にトナーを融着させて定着する。その後、排紙ローラーによって排紙トレイ上に排出される。このようにして、記録シートS上にトナー像に対応した画像が形成される。
【0099】
上述の説明はカラーモードを実行する場合の動作であるが、モノクロ、たとえばブラック色のプリント(モノクロモード)を実行する場合には、ブラック色用の作像部だけが駆動され、所定の各工程を経て記録シートSにブラック色の画像形成(プリント)がなされる。
【0100】
制御部は、ネットワークを経由して外部の端末装置から受け付けたプリントジョブのデータに基づき各部を制御し、円滑なプリント動作が実行されるようにしている。画像形成装置100は、装置本体の正面側かつ上側であり、ユーザの操作しやすい位置に、操作パネルが設けられる。操作パネルは、ユーザからの各種の指示を受け付けるボタンおよびタッチパネル式の液晶表示部などを備え、受け付けた指示内容を制御部に伝える。
【0101】
このような画像形成装置として、たとえば複写機、プリンタ、デジタル印刷機、簡易印刷機などの電子写真方式の画像形成装置を挙げることができる。これらの画像形成装置は、乾式または湿式のいずれであっても良いが、乾式の画像形成装置とすることが特に有効である。画像形成装置は、本実施形態に係る摺動部材を有する定着装置を備えるので、長期間にわたって画像ノイズの発生が低減され、画像品質の高い画像を形成することができる。
【0102】
さらに本実施形態に係る画像形成装置は、タンデム型カラーデジタルプリンタに限るものではなく、モノクロ画像を形成するプリンタであってもよい。さらに、プリンタに限らず、複写機、MFP(Multiple Funciton Peripheral)、FAXなど(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれでもよい)に適用することができる。
【実施例0103】
本実施形態に係るいくつかの摺動部材について性能評価を行なったので、以下にその結果などについて説明する。摺動部材の性能評価のために、上述した定着装置と同じ構成を備えるカラープリンタ(商品名:「magicolor(登録商標)5440DL」、コニカミノルタ株式会社製)を用いた。具体的には、実施例1~実施例13および比較例1~比較例4の摺動部材を、上記カラープリンタの定着装置における押圧部材と無端ベルトとの間に配設した。
【0104】
ここで実施例1~実施例13および比較例1~比較例4の摺動部材において、第1繊維シートを構成している極細繊維の平均繊維径は上述した方法により走査電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。さらに第1繊維シートの厚みについても、上述した方法によりマイクロゲージを用いて測定した。
【0105】
上記定着装置における無端ベルトは、φ50mm、長さ280mmの円筒状で以下の構成を有する。すなわち、無端ベルトは、その厚み方向の断面において厚み60μmの熱硬化性ポリイミド樹脂からなる基材上に厚み130μmSiゴム層および厚み15μmのフッ素樹脂層がこの順に積層されている。無端ベルトの作製方法は、まず、あらかじめキャスティング法によって作製されたポリイミドからなる基材を約130μmのクリアランスを設けて円筒形金型に挿入し、次いでSiゴム材料を注入し、加硫および養生することにより、ポリイミド基材Siゴムベルトを作製する。さらにこのポリイミド基材SiゴムベルトのSiゴム側をフッ素樹脂でコーティングすることにより無端ベルトを得ることができる。
【0106】
以下、まず準備した実施例1~実施例13および比較例1~比較例4の摺動部材について説明する。
【0107】
<実施例1>
(摺動部材の作製)
まず噴霧装置(商品名:「esprayer ES-2100」、株式会社フューエンス製)を用いて全フッ素化ポリイミド(以下、「FPI-1」とも記す)の前駆体溶液を第2繊維シートとしてのアラミド紙(商品名:「ノーメックス(登録商標)T411 5mil」、デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社製、厚み130μm)上に電界紡糸法により噴霧した。これにより、アラミド紙上に全フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径0.5μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み20μm)を形成し、アラミド紙と第1繊維シートとの2層からなる実施例1の摺動部材を作製した。
【0108】
FPI-1の前駆体溶液には、下記化学式(16)で表される芳香族ジアミン(4FMPD:テトラフルオロ-1,3フェニレンジアミン)と、下記化学式(17)で表される酸無水物(10FEDA:1,4ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物)とからなる全フッ素化ポリアミック酸のN-メチルピロリドン溶液を用いた。
【0109】
【0110】
【0111】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、上記摺動部材を長さ20mm、幅250mm、厚み150μmの大きさの摺動シートとして上記定着装置におけるニップ形成部の押圧部材と無端ベルトとの間に配設し、耐熱性エポキシ接着剤(商品名:「TSA-16」、東レ株式会社製)で押圧部材に固定した。このとき摺動シートの最上層が第1繊維シートとなるように配置した。すなわち、摺動シートの第1繊維シート側の面を無端ベルトと直接接する側に位置させた。この摺動シートに対し、反応性の置換基としてメタクリロイル基を含む反応性シロキサンの潤滑剤であるメタクリル変性シロキサン(商品名:「X-22-164C」、信越化学工業株式会社製)を0.2g含浸させ、露点-20℃以下のドライエアーを送風しながら、180℃、12時間の条件で加熱焼成することによりシロキサン改質を行ない、実施例1に係る摺動部材のシロキサン改質を行なった。このシロキサン改質では、反応性シロキサンのメタクリロイル基と第1繊維シートのアミノ基とが反応する。
【0112】
<実施例2>
(摺動部材の作製)
実施例2の摺動部材は、上記噴霧装置の電解を制御することにより第1繊維シートを構成する極細繊維の平均繊維径を1.5μmに変更して作製され、その他の構成は実施例1の摺動部材と同じである。
【0113】
(摺動部材の定着装置への適用)
実施例2の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定した。実施例2では、摺動シートに含浸させる潤滑剤を非反応性シリコーンオイル(商品名:「KF96-300cs」、信越化学工業株式会社製)とし、シロキサン改質は行わなかった。実施例2における摺動シートの大きさは、実施例1と同じである。
【0114】
<実施例3>
(摺動部材の作製)
まず上記噴霧装置を用いてFPI-1の前駆体溶液をステンレス製板材上に噴霧した。これにより、ステンレス製板材上にフッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径4.8μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み100μm)を形成し、第1繊維シートの単層からなる実施例3の摺動部材を作製した。
【0115】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、上記摺動部材を長さ20mm、幅250mm、厚み100μmの大きさの摺動シートとして上記定着装置におけるニップ形成部の押圧部材と無端ベルトとの間に配設し、摺動シートの外周縁に2~3mmの幅で上記耐熱性エポキシ接着剤を塗布して押圧部材に固定した。この摺動シートに対し、フッ素グリス(商品名:「モリコート(登録商標)G-8005」、東レ・ダウコーニング製)を2g含浸させた。実施例3においても摺動部材に対してシロキサン改質を行わなかった。
【0116】
<実施例4>
(摺動部材の作製)
まず上記噴霧装置を用いて部分フッ素化ポリイミド(以下、「FPI-2」とも記す)の前駆体溶液をステンレス製板材上に噴霧した。これにより、ステンレス製板材上に部分フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径2.1μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み20μm)を形成した。次に、非多孔質シートとしてのポリイミドフィルム(商品名:「カプトン(登録商標)100H」、東レ・デュポン株式会社製、厚み25μm)の外周縁に3~5mmの幅で上記耐熱性エポキシ接着剤を塗布して上記第1繊維シートを接着した。これによりポリイミドフィルム上に部分フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径2.1μmの極細繊維からなる第1繊維シートを形成し、ポリイミドフィルムと第1繊維シートとの2層からなる実施例4の摺動部材を作製した。
【0117】
FPI-2の前駆体溶液には、下記化学式(18)で表される酸無水物(6FDA:2,2-ビス(3,4-アンヒドロジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン)と、下記化学式(19)で表される芳香族ジアミン(6FBAPP:2,2-ビス(p-(p-アミノフェノキシ)フェニル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン)とからなる部分フッ素化ポリアミック酸のN-メチルピロリドン溶液を用いた。
【0118】
【0119】
【0120】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例4の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定し、この摺動部材シートに対し、上記メタクリル変性シロキサンを用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なった。実施例4における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み45μmである。
【0121】
<実施例5>
(摺動部材の作製)
まず上記噴霧装置を用いてポリイミドワニス(商品名:「ユピア(登録商標)-ST-1001、固形分:18%、溶液粘度5Pa・s、溶媒:N-メチルピロリドン)をステンレス製板材上に噴霧した。これにより、ステンレス製板材上にポリイミドを材質とした平均繊維径0.9μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み50μm)を形成し、第1繊維シートの単層からなる実施例5の摺動部材を作製した。
【0122】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例5の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定し、この摺動部材シートに対し、上記メタクリル変性シロキサンを用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なった。実施例5における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み50μmである。
【0123】
<実施例6>
(摺動部材の作製)
まず上記噴霧装置を用いてFPI-1の前駆体溶液を、第2繊維シートとしてのアラミドメッシュ(商品名:「フィブラメッシュAKM-10/10」、ファイベックス株式会社製、厚み48μm)上に噴霧した。これにより、アラミドメッシュ上に全フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径1.5μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み20μm)を形成し、アラミドメッシュと第1繊維シートとの2層からなる実施例6の摺動部材を作製した。
【0124】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例6の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定し、この摺動シートに対し、上記メタクリル変性シロキサンを用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なった。実施例6における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み68μmである。
【0125】
<実施例7>
(摺動部材の作製)
まず上記噴霧装置を用いて上記FPI-1の前駆体溶液をステンレス製板材上に噴霧した。これにより、ステンレス製板材上に全フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径1.5μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み20μm)を形成した。次に、後述する方法により上記FPI-1の前駆体溶液から作製したFPI-1からなる非多孔質シート(フッ素化ポリイミドフィルム)の外周縁に、3~5mmの幅で上記耐熱性エポキシ接着剤を塗布し、上記第1繊維シートを接着した。これによりFPI-1の非多孔質シート上に全フッ素化ポリイミドを材質とした平均繊維径1.5μmの極細繊維からなる第1繊維シートを形成し、FPI-1の非多孔質シートと第1繊維シートとの2層からなる実施例7の摺動部材を作製した。
【0126】
FPI-1の非多孔質シート(フッ素化ポリイミドフィルム)は、上述したFPI-1の前駆体溶液を用い、これをキャスティング法により製膜し、180℃のオーブンにより該溶液を乾燥させて作製した。FPI-1の非多孔質シートの膜厚は25μmである。
【0127】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例7の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定した。実施例7では、摺動シートに潤滑剤を含浸させなかった。実施例7における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み45μmである。
【0128】
<実施例8>
(摺動部材の作製)
実施例8の摺動部材は、実施例4の摺動部材を構成しているポリイミドフィルムを、後述する方法により上記FPI-2の前駆体溶液から作製したFPI-2の非多孔質シート(フッ素化ポリイミドフィルム)に変更して作製された。実施例8の摺動部材のその他の構成は、実施例4の摺動部材と同じである。
【0129】
FPI-2の非多孔質シート(フッ素化ポリイミドフィルム)は、上述したFPI-2の前駆体溶液を用い、これをキャスティング法により製膜し、180℃のオーブンにより該溶液を乾燥させて作製した。FPI-2の非多孔質シートの膜厚は25μmである。
【0130】
(摺動部材の定着装置への適用)
実施例8の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定し、この摺動シートに対し、上記メタクリル変性シロキサンを用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なった。実施例8における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み45μmである。
【0131】
<実施例9>
(摺動部材の作製)
実施例9では、実施例5において用いたポリイミドワニスを、ステンレス製板材上に噴霧することに代えて、第2繊維シートとしての上記アラミド紙(厚み130μm)上に噴霧した。これにより、アラミド紙上にポリイミドを材質とした平均繊維径0.9μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み20μm)を形成し、アラミド紙と第1繊維シートとの2層からなる実施例9の摺動部材を作製した。
【0132】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例9の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定した。この摺動シートに対し、反応性の置換基としてアミノ基を含む反応性シロキサンの潤滑剤であるアミノ変性シロキサン(商品名:「KF8008」、信越化学工業株式会社製)を用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なったこのシロキサン改質では、反応性シロキサンのアミノ基と第1繊維シートのカルボニル基とが反応する。実施例9における摺動シートの大きさは、長さ20mm、幅250mm、厚み150μmである。
【0133】
<実施例10>
(摺動部材の作製)
実施例10の摺動部材は、実施例9の摺動部材と同じである。
【0134】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、実施例10の摺動部材(摺動シート)を実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定した。この摺動シートに対し、反応性の置換基としてグリシジル基を含む反応性シロキサンの潤滑剤であるエポキシ変性シロキサン(商品名:「X-22-161C」、信越化学工業株式会社製)を用いて実施例1と同じ方法によりシロキサン改質を行なった。このシロキサン改質では、反応性シロキサンのグリシジル基と第1繊維シートのアミノ基とが反応する。実施例10における摺動シートの大きさは、実施例9の摺動シートと同じである。
【0135】
<実施例11>
(摺動部材の作製)
まずナノファイバー量産装置(商品名:「溶融紡糸装置 MODEL:KNTタイプ」、関西電子株式会社製)を用いて、ポリフェニレンサルファイド(PPS)(商品名:「FZ-2100」、DIC株式会社製)を溶融温度340℃で噴霧することにより、平均繊維径5μmの極細繊維を得た。このPPSの極細繊維をニードルパンチ法によってシート状とし、次いでカレンダー加工を施すことにより、平均目付量20g/m2、厚み30μmの第1繊維シートからなる実施例11の摺動部材を作製した。
【0136】
(摺動部材の定着装置への適用)
次に、上記摺動部材を3枚重ね、長さ20mm、幅250mm、厚み90μmの大きさの摺動シートとして上記定着装置におけるニップ形成部の押圧部材と無端ベルトとの間に配設し、耐熱性エポキシ接着剤(商品名:「TSA-16」、東レ株式会社製)で押圧部材に固定した。この摺動シートに対し、反応性の置換基としてメタクリロイル基を含む反応性シロキサンの潤滑剤であるメタクリル変性シロキサン(商品名:「X-22-164C」、信越化学工業株式会社製)を2g含浸させ、露点-20℃以下のドライエアーを送風しながら、180℃、12時間の条件で加熱焼成することによりシロキサン改質を行ない、実施例11に係る摺動部材(摺動シート)のシロキサン改質を行なった。このシロキサン改質では、反応性シロキサンのメタクリロイル基と摺動部材(摺動シート)のスルフィド基とが反応する。
【0137】
<実施例12>
(摺動部材の作製)
まず、フッ素化ポリイミド(FPI-3、商品名:「KPI-MX300F(75)、河村産業株式会社)の粉末を、Nメチルピロリドン(和光純薬工業株式会社製、純度97
.0質量%)を8、N,N-ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、純度97.0質量%)を2の比率で混合した混合溶剤に溶解し、FPI-3が10質量%濃度となるFPI-3溶液を作製した。さらに上記噴霧装置を用い、上記FPI-3溶液をステンレス製板材上に噴霧することにより、FPI-3を材質とした平均繊維径1.5μmの極細繊維からなる第1繊維シート(厚み30μm)を作製した。さらに実施例11の摺動部材を得るのと同じ方法により、第2繊維シートとしてPPSの極細繊維シート(平均繊維径1μm、平均目付量20g/m2、厚み30μm)も作製した。
【0138】
次に、上記第2繊維シートの外周縁に、3~5mmの幅で上記耐熱性エポキシ接着剤を塗布することにより、上記第1繊維シートを接着した。これにより第2繊維シートと第1繊維シートとの2層からなる実施例12の摺動部材を作製した。
【0139】
(摺動部材の定着装置への適用)
上記摺動部材を長さ20mm、幅250mm、厚み60μmの大きさの摺動シートとして実施例1の摺動部材(摺動シート)と同じように押圧部材に固定した。この摺動シートに対し、反応性の置換基としてメタクリロイル基を含む反応性シロキサンの潤滑剤であるメタクリル変性シロキサン(商品名:「X-22-164C」、信越化学工業株式会社製)を1.5g含浸させ、露点-20℃以下のドライエアーを送風しながら、180℃、12時間の条件で加熱焼成することによりシロキサン改質を行ない、実施例12に係る摺動部材のシロキサン改質を行なった。このシロキサン改質では、反応性シロキサンのメタクリロイル基と、第1繊維シートのアミノ基および第2繊維シートのスルフィド基とが反応する。
【0140】
<実施例13>
(摺動部材の作製)
溶融温度を320℃とする以外は、実施例11と同じ方法を用いて平均繊維径10μmの極細繊維を得た。このPPSの極細繊維をニードルパンチ法によってシート状とし、次いでカレンダー加工を施すことにより、平均目付量30g/m2、厚み50μmの第1繊維シートからなる実施例13の摺動部材を作製した。
【0141】
(摺動部材の定着装置への適用)
上記摺動部材を2枚重ねとする以外は、実施例11と同じ方法を用いて実施例13に係る摺動部材(摺動シート)のシロキサン改質を行なった。
【0142】
<比較例1>
比較例1の摺動部材は、定着装置「magicolor(登録商標)5440DL」に標準で装備されている摺動部材をそのまま用いた。すなわち比較例1の摺動部材は、ガラスクロスにフッ素樹脂を含浸し、焼結してなる所謂PTFE系の耐熱性シートである。
【0143】
<比較例2>
比較例2の摺動部材は、上記所謂PTFE系の耐熱性シートに非反応性のシリコンオイル(商品名:「KF-96-300cs」、信越化学工業株式会社製)からなる潤滑剤を含浸させたものである。
【0144】
<比較例3>
比較例3の摺動部材は、第1繊維シートを構成する極細繊維の平均繊維径を5.8μmに変更し、その他の構成を実施例3の摺動部材と同じとして作製された。比較例3の摺動部材は、第1繊維シートを構成する極細繊維の平均繊維径が5.8μmであるので、その厚みが200μmとなった。
【0145】
<比較例4>
比較例4の摺動部材は、第1繊維シートを構成する極細繊維の平均繊維径を0.3μmに変更し、その他の構成を実施例1の摺動部材と同じとして作製された。比較例4の摺動部材は、実施例1の摺動部材と同じように押圧部材に固定されるとともに、上記メタクリル変性シロキサンによりシロキサン改質されている。
【0146】
<性能評価>
摺動部材の性能評価では、ローラーの温度を200℃とし、定着装置のみを外部モータによって250mm/secの速度で10秒駆動し2秒停止する間欠的な動作を1000時間にわたって続けた。すなわち、記録シートに対する定着動作を実行することなく、1000時間にわたって定着装置を間欠駆動させることにより、無端ベルトと押圧部材との間で摺動している摺動部材の性能変化を評価した。性能評価の方法は、駆動開始後すぐ(初期)の外部モータのトルク(N・m)と、駆動時間が100時間を経過するごとの外部モータのトルク(N・m)とを測定し、その変化をモニタすることによって行なった。トルクの算出は、定着装置駆動用ギアと外部モータ間にトルク変換機を配設し、アンプおよびオシロスコープを備えたトルク測定専用治具によって上記トルク変換機の電圧を測定することにより行なった。その結果を表1~表3に示す。さらに
図4、
図5において、実施例1~実施例13および比較例1~比較例4において、駆動時間の経過とともに変化するトルクをグラフで示した。表1~表3には、駆動開始後すぐ(初期)および1000時間経過後のトルク(N・m)の値を示した。さらに、表1~表3には、駆動開始から1000時間経過するまでにカラープリンタに起きた事象について「不具合」の欄に記載した。実施例7では性能評価を行なうにあたり、上記無端ベルトの内周面側の表面(熱硬化性ポリイミド樹脂からなる)に対し、上記噴霧装置で上記FPI-1の前駆体溶液を噴霧することによって表面処理した無端ベルトを用いた。
【0147】
外部モータのトルクの測定条件は、以下のとおりである。
【0148】
温度: 200℃
駆動速度: 250mm/s
設定荷重: 250N。
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
その結果、実施例1~実施例13のように、ポリイミド系ポリマーまたはポリスルフィド系ポリマーで構成される極細繊維からなる第1繊維シートを含み、この極細繊維の平均繊維径がポリイミド系ポリマーで構成される場合は0.5μm以上5μm以下であり、ポリスルフィド系ポリマーで構成される場合は1μm以上15μm以下である摺動部材は、駆動開始後すぐ(初期)と1000時間経過後とでトルク変動の幅が0.2Nm以下と小さく、長時間の使用においても安定した性能を維持し得ることが分かった。したがって実施例の摺動部材は、長時間の使用に供することができて長寿命となる。特に、実施例1、4、6、8~10、および12は、駆動開始後すぐ(初期)および1000時間経過後で共にトルクがそれぞれ0.2Nm以下、0.3Nm以下と小さく、摺動性に極めて優れることが分かった。したがって、摺動部材を第1繊維シートと基材シートとを含む2層構造を有するものとしたり、摺動部材に反応性の置換基を有するシロキサンを含む潤滑剤を含浸することなどにより、長時間の使用に供し、かつ摺動性に極めて優れた摺動部材とすることができる。
【0153】
その一方で、比較例1、2は、駆動開始後に所定の時間で異音が発生し、1000時間駆動するまでに異常が発生したので評価を中止する必要があった。比較例3は、ポリイミド系ポリマーで構成された極細繊維の平均繊維径が5μmを超えることにより、空隙率が低く、Asが増加したため駆動開始後すぐ(初期)のトルクが0.4Nmと高く、1000時間駆動後も0.5Nmと高かった。比較例4は、極細繊維の平均繊維径が0.5μm未満(0.3μm)であるために、繊維強度が低く、100時間経過時点で摺動部材が破損した。
【0154】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 定着部、10 定着装置(本発明)、11 ローラー、12 無端ベルト、13 押圧部材、131 支持体部、132 ニップ形成部、133 高圧摺動部、134 第2摺動部、14 摺動部材(本発明)、15 ヒーター、2 画像プロセス部、21 作像部、3 転写部、31 一次転写ローラー、32 中間転写体、4 給紙部、41 搬送路、42 二次転写ローラー、100 画像形成装置(本発明)、S 記録シート。