(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177098
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】自己修復特性を有するコバルト系合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20221122BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20221122BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C22C19/07 K
C22F1/10 J
C22F1/00 602
C22F1/00 641C
C22F1/00 650A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 604
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142834
(22)【出願日】2022-09-08
(62)【分割の表示】P 2020138847の分割
【原出願日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0075766
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】519001383
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】パク ウンス
(72)【発明者】
【氏名】ユン ククノ
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョンス
(72)【発明者】
【氏名】ユ グンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジヨン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自己修復特性を有するコバルト系合金を提供する。
【解決手段】以下のような組成からなり、[[Co
aTi
bCr
100-a-b]
1-0.01cS
c]
1-0.01dH
d
(57≦a≦92.5、6≦b≦33at.%、a+b<100、Sは強化固溶元素であり、0<c≦20at.%であり、Hは修復固溶元素であり、0<d≦2at.%)前記修復固溶元素により自己修復機能が具現されることを特徴とする、自己修復特性を有するコバルト系合金とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のような組成からなり、
[[CoaTibCr100-a-b]1-0.01cSc]1-0.01dHd(70≦a≦86.5(at.%)、6≦b≦11(at.%)、a+b<100、Sは強化固溶元素であり、1.5≦c≦20(at.%)であり、Hは修復固溶元素であり、0.2≦d≦0.5(at.%))、
γ、γ′相を同時に構成相に含み、
前記修復固溶元素により自己修復機能が具現され、
前記強化固溶元素はMo、Hf、Ta、及びWを含む群より選択される1種以上であり、
前記修復固溶元素はB、C、N、O、P、及びSを含む群より選択される1種以上であり、
合金の変形時、前記修復固溶元素が欠陥部に拡散及び偏析されて変形部を強化することによって、クラックの伝播を遅延して自己修復が具現されることを特徴とすることを特徴とする、自己修復特性を有するコバルト系合金。
【請求項2】
前記γ′相の分率が50%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金。
【請求項3】
前記γ′相のサイズが1μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金。
【請求項4】
数十ナノメートルサイズを有するγ′相の2次析出物をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金。
【請求項5】
請求項1の合金を構成する原料物質を準備する段階;
前記原料物質を溶解して合金を製造する段階;
前記合金を溶体化処理する段階;
前記合金を時効処理する段階;
前記合金を冷却する段階を含んで、γ、γ′相を共に含むことを特徴とする、自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法。
【請求項6】
前記溶体化処理が1050乃至1400℃の温度で1乃至1000時間の間なされることを特徴とする、請求項5に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法。
【請求項7】
前記時効処理が700乃至1000℃の温度で1乃至1000時間の間なされることを特徴とする、請求項5に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法。
【請求項8】
前記時効処理によりγ′相の分率が50%未満に形成されることを特徴とする、請求項5に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法。
【請求項9】
前記冷却する段階でγ′相の2次析出物が追加で形成されることを特徴とする、請求項5に記載の自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己修復特性を有するコバルト系合金及びその製造方法に関するものである。具体的に、面心立方(FCC、Face Centered Cubic)結晶構造を有するオーステナイト(γ)相とL12構造のγ′相の間の複合構造を有し、既存のニッケル系合金対比高い融点を有するコバルトを主元素にしてより高い温度で活用可能な、コバルト系合金及びその製造方法に関するものである。
【0002】
また、合金の欠陥領域に選択的自発拡散可能な修復固溶元素(healing solute element)を添加することによって、高温で発生したクラックの周辺に修復固溶原子が速く拡散して偏析されることによって、欠陥の形成及び伝播を遅延する自己修復(self-healing)特性が発現できる合金及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
4世代の原子炉、核融合炉などの高効率発電、宇宙発射体、極超音速航空機などを含む超高温極限環境の難題を解決する多様な研究開発が進められることによって、新たな複合極限環境で活用可能な材料の開発がやはり求められている。したがって、既に活用されていた超合金の特性を超える新素材の開発が必要なのが実状である。例えば、既に代表的な高温素材であるニッケルを基材(Base)とするインコネル(Inconel)などから脱却し、より高い作動温度で活用可能なコバルト系超合金の開発などが活発に進められている。
【0004】
一方、既存のγ-γ′複合構造を有する超合金の場合には、複合構造の特性上、延性の低下という問題を有している。特に、超高温で活用時、初期微小単位の亀裂が発生すると、容易に大きなクラックに成長するなどの問題が関連材料の安定的活用の限界となっている。したがって、γ-γ′複合構造合金の持続可能性を向上させるために素材自らが微小単位欠陥を修復することができる自己修復(self-healing)特性を有するようにする改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】高強度を有するガラス腐食抵抗性コバルト基超合金(Glass corrosion resistant cobalt-based alloy having high strength)KR10-0089177-0000
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジェイ サト(J.Sato)、外6名、「コバルト系高温合金(Cobalt-Base High-Temperature Alloys)」、サイエンス、2006年、312巻、p90-92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するためのものであって、構成元素分率を特性オーダーメイドに制御して最適のγ-γ′複合構造を形成することによって、超高温極限環境で既存の素材に代替することができる、自己修復特性を有するコバルト系合金を提供するためのものである。
【0008】
また、超高温極限環境の場合、初期微小な亀裂が発生してもクリープ及び疲労などにより容易に大型クラックに成長する可能性が大きいため、固溶元素の選択的優先拡散による自己修復メカニズムを導入してこれを解決するためのものである。
【0009】
特に、合金の欠陥部に選択的自発拡散可能な修復固溶元素を添加して、高温で亀裂(crack)が形成されても、速い拡散を通じて容易に該当欠陥に移動して偏析されることによって、クラックなどの欠陥の生成及び伝播を遅延する修復を可能にして材料の持続可能性を極大化するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明では自己修復特性を有するコバルト系合金及びその製造方法を提供する。
【0011】
以下のような組成からなり、
[[CoaTibCr100-a-b]1-0.01cSc]1-0.01dHd(57≦a≦92.5、6≦b≦33at.%、a+b<100、Sは強化固溶元素であり、0<c≦20at.%であり、Hは修復固溶元素であり、0<d≦2at.%)
【0012】
前記修復固溶元素により自己修復機能が具現されることを特徴とする自己修復特性を有するコバルト系合金。
【0013】
この際、前記自己修復特性を有するコバルト系合金はγ-γ′相を同時に構成相に含んでいる。
【0014】
このような構成によって、製造された合金を使用する時、クラックなどの欠陥が発生すれば、前記修復固溶元素が欠陥部に拡散及び偏析される。この際、偏析された固溶元素が欠陥部に過固溶されることで、強化効果を極大化して軟化された変形部を強化することによって自己修復が具現される。
【0015】
一方、γ′相の分率は50%未満のものが自己修復特性具現に特に好ましい。また、γ′相のサイズは1μm未満のものが好ましい。
【0016】
そして、前記合金は数十ナノメートルのサイズを有し、前記γ′相のような組成及び構造の2次析出物をさらに含むことが好ましい。
【0017】
この際、前記強化固溶元素は、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)を含む群より選択された1種以上の元素が好ましい。
【0018】
また、前記修復固溶元素は、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む群より選択された1種以上の元素が好ましい。
【0019】
本発明の合金では使用環境中、形成された欠陥部に修復固溶元素が拡散されて偏析されることによって欠陥を強化して修復することが特徴である。
【0020】
本発明では、組成及び工程制御を通じて既存のニッケル系合金より一層高い温度で活用可能なコバルト系合金が形成できる合金組成を限定し、合金の欠陥領域に選択的に拡散可能な修復固溶元素を添加することによって自己修復特性を示すことができるようにした。
【0021】
この際、自己修復特性とは、添加した修復固溶元素が、素材の使用時に発生する微小クラックなどを含む高エネルギー状態の欠陥部に自発的に拡散されて偏析されることによって、欠陥の形成速度を遅延し、それによって該当欠陥がある部分の特性が元の状態に回復される特性を意味する。
【0022】
本発明のコバルト系合金は(1)基材としてCo、(2)Coに容易に固溶される合金元素として、Coより高融点を有すると共に、高温での酸化抵抗性を向上させ、Co基材に固溶されて強化効果を与えるCr、(3)Co及びCrとL12析出相を形成するTiを含む。
【0023】
また、強化固溶元素は複合構造を形成する相同士の格子ミスフィット(lattice misfit)を調節する添加元素であり、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)を含む群より選択された1種以上のものが好ましい。
【0024】
また、修復固溶元素は高エネルギー状態である微小クラックに速く拡散されて自己修復特性を有するようにする元素であって、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む群より選択された1種以上のものが好ましい。
【0025】
また、本発明では以下のような構成の自己修復特性を有するコバルト系合金を提供する。
【0026】
以下のような組成からなり;
[[CoaTibCr100-a-b]1-0.01cSc]1-0.01dHd
((1)6≦b≦11(at.%)の場合、70≦a≦86.5(at.%)であり、(2)11<b≦16(at.%)の場合、80≦a≦86.5(at.%)であり、a+b<100)
Sは強化固溶元素を意味し、0<c≦0.5b(at.%)であり;
Hは修復固溶元素を意味し、0<d≦0.5(at.%)であり;
γ、γ′相を同時に含むことを特徴とする、自己修復特性を有するコバルト系合金。
【0027】
また、本発明では以下のような段階からなる自己修復特性を有するコバルト系合金の製造方法を提供する。
【0028】
合金化元素を準備し溶解して合金化する段階;
製造された合金を溶体化処理(solution treatment)する段階;
溶体化処理された合金を時効処理(aging)してL12結晶構造の析出物(γ′析出物)を形成する段階;及び
前記合金を冷却する段階。
【0029】
この際、時効処理する段階の時効温度あるいは時効時間を含む熱処理条件を変化させてγ-γ′複合構造の形状、サイズ、及び相分率を制御することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に従うコバルト系合金は、欠陥部に選択的自発拡散可能な修復固溶元素を合金化することによって、高温でクラックが形成される時、該当原子がクラックの周辺に速く拡散後、偏析されて欠陥の生成及び伝播を遅延する自己修復特性を同時に発現することができる。
【0031】
また、本発明に従うコバルト系合金はこのような自己修復機構を有することによって、既存の超合金の超高温活用において最も大きい問題として認識されているクリープ抵抗性を画期的に改善できるので、新たな超高温部品の素材に活用できる。
【0032】
また、本発明に従うコバルト系合金はγ-γ′複合構造を有して熱的安定性に優れる。したがって、高効率発電のためのタービン部品(ローター、ブレード、ノズル、ダイアフラム、ボルト、ベアリング、軸継手、ギアなど)、超高速運送手段推進体(燃焼室、タービン、ノズルなど)を含む超高温極限環境で既存の素材に代替して活用できる。
【0033】
また、本発明のコバルト系合金のγ-γ′複合構造は合金の溶体化処理の後、時効処理などの熱処理工程の制御を通じて製造可能であるので、多様な微細構造確保及び特性向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】熱力学計算を通じて作図したコバルト(Co)、クロム(Cr)、及びチタニウム(Ti)間の3元系状態図の950℃等温断面図にγ-γ′相を同時に含む組成領域を示す図である。
【
図2】熱力学計算を通じて作図した、モリブデン(Mo)を1.5at.%含むコバルト(Co)、クロム(Cr)、及びチタニウム(Ti)間の疑似3元系状態図(pseudo-ternary phase diagram)の950℃等温断面図である。
【
図3】本発明のγ-γ′複合構造形成のための3段階熱処理工程を示すグラフである。
【
図4】モリブデン(Mo)を1.5at.%含むコバルト(Co)、クロム(Cr)、及びチタニウム(Ti)間の疑似3元系状態図にγ-γ′複合構造が発生する組成領域を図示した結果を示す等温断面図である。
【
図5】比較例3で充分のγ′析出物が形成されていない合金の微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図6】比較例5で粒内でない粒界に第2相析出が生じた微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図7】本発明の実施例29、実施例30、及び実施例31で観察した合金の微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図8】本発明に従う第一原理基盤計算を通じて得たコバルト基材合金内の添加元素の粒界偏析及び粒界破壊傾向を図示したグラフである。
【
図9】本発明の実施例36乃至実施例40で観察した微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図10】本発明の実施例48乃至実施例52で観察した微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図11】本発明の実施例53乃至実施例57で観察した微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図12】本発明の実施例38及び実施例58乃至実施例61で観察した微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。
【
図13】本発明の実施例68に対して3次元原子プローブ断層撮影分析結果を示す。
【
図14】本発明の実施例36乃至実施例40に対して一軸引張応力-ひずみ曲線(太い線)と部分変形後の自己修復模写工程を反復的に適用して回復処理した後、応力-ひずみ曲線(細い線)を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施例38に対して変形後、自己修復模写工程を適用して回復処理した後、欠陥先端で原子分布を示すEDSイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付した図面を参考して本発明の実施例に対して詳細に説明する。
【0036】
本発明の合金は、基材を構成するγ相(第1相、FCC固溶体)と析出物形態のγ′相(第2相、L12規則相)が混在する複合構造である。また、本発明で平衡相間の関係を図示した状態図はThermo-Calc.ソフトウェア(TCNI8データベース)で熱力学計算(CALPHAD)を通じて作図した。
【0037】
γ-γ′複合構造合金組成の選定(組成に従う特性確認)
まず、本発明では高温で安定なコバルト(融点1495℃)を基材にするγ-γ′複合構造合金開発のために、1907℃の融点を有するクロムを合金化することによって、既存のニッケル系合金対比高い融点を有する合金の確保を可能にした。この際、クロムはコバルトに容易に固溶されながらもFCC結晶構造の相安定性(phase stability)を向上させ、強化効果を示す。これと共に、コバルト及びクロムとγ′析出相を形成するチタニウムなどを合金化してγ-γ′複合構造を安定化した。
【0038】
この際、本発明によるγ-γ′複合構造コバルト系合金の製造は、前記合金化元素を準備し溶解して合金化する段階;製造された合金を溶体化処理する段階;溶体化処理された合金を時効処理してL12結晶構造の析出物(γ′)を形成する段階;及びこれを冷却する段階により遂行される。
【0039】
図1は、本発明に従うコバルト系合金の構成に必須なものとして言及したコバルト、クロム、及びチタニウム間3元系状態図の950℃等温断面図を熱力学計算を通じて作図したものである。実際に製造されるγ-γ′複合構造合金は、多様な温度区間の冷却過程を経る一般的な操業環境で、単一等温断面図で確認することができるものより広い領域で形成されるか、または条件によって別の相が形成されないことがある。これは、液状金属の冷却時、溶質元素が過固溶されて理論的固溶限界より最大数倍以上、基材内に残留できるためである。したがって、多様な温度でγ-γ′相を同時に含む組成領域を考察して、工程中γ-γ′複合構造が安定な組成領域を限定することができる。
【0040】
このような点に着眼して図面のP1、P3は各々チタニウムを基準にγ-γ′相を同時に含む組成の最小、最大量を基準に選定した。また、P2はコバルトを基準にγ-γ′相を同時に含む組成の最小量を選定した。結果として、
図1の点線表示した領域のように、コバルトの場合、最小含有量(P1基準)は約57at.%、最大含有量は92.5at.%に決定され、チタニウムの場合、最小含有量がP1を基準に6at.%であり、最大含有量がP3基準に33at.%であることが分かる。さらに、本図面には多様な温度に対する等温断面図の分析を通じ、追加的な熱処理工程を通じてγ-γ′2相複合構造が最適化される組成領域を図示した。
【0041】
一方、γ′析出相の場合、基材を構成する合金相と整合界面を有して容易に析出されるようにするために、γ相と格子ミスフィットを調節することが必須である。本実施例では、これに対する調節元素として、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)などを含む相対的に大きい原子半径を有する元素が合金化できる。
【0042】
図2は、本発明に従うコバルト系合金の代表的な組成であって、全体合金元素対比モリブデンを1.5at.%含んだ場合のコバルト、クロム、及びチタニウム間の疑似3元系状態図の950℃等温断面図を示す。
図1との比較を通じて分かるように、基材と析出相との間の界面エネルギー制御のためにモリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)などを少量添加した場合にもγ-γ′2相構造が最適化される組成領域には大差のないことが分かる。
【0043】
このような事実は本発明の合金でγ-γ′複合構造を有する特性領域を判断する時、
図1に示された3元系組成領域を基準としても無理がないことを意味する。言い換えると、提示された図面を基準に、コバルト、クロム、及びチタニウムの3元系合金に、ミスフィット調節元素(強化固溶元素、S)、例えば、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)などを合金化した場合にもγ-γ′複合構造合金形成領域を予測することができる。
【0044】
さらに、本発明の合金には自己修復特性の発現のために、例えばホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む群より選択される修復固溶元素(H)を合金化することができる。
【0045】
これを総合すると、本発明による自己修復特性を有するコバルト系合金組成は下記のように示すことができる。
【0046】
[[CoaTibCr100-a-b]1-0.01cSc]1-0.01dHd(57≦a≦92.5、6≦b≦33(at.%)、(a+b<100))
【0047】
また、Sは強化固溶元素を意味し、0<c≦20(at.%)である。同時に、Hは修復固溶元素を意味し、0<d≦2(at.%)である。
【0048】
この際、cの値はSと表現される強化固溶元素の代表であるモリブデンの、FCCコバルト合金への最大固溶量(20at.%)に限定し、d値はHと表現される修復固溶元素の代表であるホウ素(B)の、FCCコバルト合金への最大固溶可能量(2at.%)に限定した。
【0049】
この際、本発明のγとγ′相を同時に含む組成領域は特化した熱処理工程を通じてγ-γ′2相複合構造が最適化できる。
【0050】
以下、本発明に従ってモリブデン1.5at.%を含むCo-Cr-Ti合金に本発明の代表的な熱処理工程である(1200℃、20時間溶体化処理)-(950℃、48時間時効処理)-(空冷)の3段階を適用して製造された実施例及び比較例に対して詳述する。この際、関連実施例及び比較例に該当する結果を下記の表1と
図4に示した。
【0051】
本発明では合金組成の影響を確認するために99.99%以上の純度を有する母元素を準備し、速くバルク形態の均質な固溶体(homogeneous solid solution)を形成することができるアーク溶解法により製造した。本発明で、母合金の製造はアーク溶解法の他にも電気場により母元素を溶融させて均質な合金の製造が可能なインダクション鋳造法を使用することができる。または、精密な温度制御が可能な抵抗加熱法を活用して常用鋳造工程により製造することも可能である。これと共に、母元素の溶解が可能な常用鋳造法だけでなく、原料を粉末などで製造して粉末冶金法を用いてスパークプラズマ焼結あるいは熱間静水圧焼結を用いて高温/高圧に焼結して製造することもできる。このような焼結法を利用すれば、より精密な微細組織制御及び所望の形状の部品製造が可能である。
【0052】
【0053】
表1及び
図4を参考すると、本発明による合金の基材を構成するコバルトは86.5at.%以下に添加できる。この際、コバルトが86.5at.%を超過すれば、他の添加元素が全てコバルトに固溶されて単相のコバルト系合金が形成できる。
図5は、比較例3の微細構造を示す。図面に示すように、コバルトが88at.%を超過することによって、第2相析出のためのクロム及びチタニウムの分率が少なくなる場合、1Vol.%未満のγ′相が形成されたことを確認することができる。したがって、最適の複合構造特性の発現のためにはコバルトの含有量を86.5at.%以下に限定することが有利である。
【0054】
一方、γ単相合金が形成される領域以外にもγ単相の結晶粒界に追加析出相が形成される場合、素材全体特性に劣化が生じ、最適の特性を発現し難い。このような析出相が形成される場合は2つであって、(i)基材を構成するコバルト元素の分率があまりに低く、合金化元素を十分に固溶できない場合と、(ii)Cr
2Tiのような安定な金属間化合物を形成することができる組成領域に該当する場合である。一例として、コバルト含有量が70at.%未満の場合には、
図4に示すように、望まない追加析出物を容易に形成することを確認することができる。実際に、
図6に示したコバルト含有量が67.5at.%である比較例5の微細構造から、単相で形成された合金の結晶粒界に析出物が形成されたことを確認することができる。
【0055】
一方、チタニウムはコバルトと合金化されてγ′相を形成する合金化元素であって、γ-γ′複合構造合金形成のために必ず添加されなければならない。この際、表1の実施例を通じて確認して見ると、チタニウムが必ず6at.%以上添加された時のみに、γ′相を形成することを確認することができる。単に、チタニウムの量が16at.%を超過する場合、γ′相の以外に追加析出物が形成できる。一例として、実施例22のように、チタニウムの分率が11at.%以上に高い状態で、クロムとチタニウムの割合が約2:1で構成される合金の場合には、γ-γ′複合構造合金を基盤にCr2Tiなどの追加析出物が少量形成できる。但し、γ-γ′複合構造の優れた特性によって、追加析出物が少量である場合、特性低下に及ぼす影響は微々たることがある。
【0056】
即ち、本発明の複合構造合金は基材であるコバルトの他にクロムの含有量を通じて制御することができ、チタニウムの分率が11at.%以上の場合には、コバルトの含有量を80at.%以上に限定してクロムの含有量を制限すれば、最適な特性を発現することができる。
【0057】
また、γ-γ′複合構造形成のためには各γ相とγ′相との間の格子ミスフィットの考慮が非常に重要である。一般に、遷移金属に対し大きい原子半径を有するチタニウム(1.76Å)が固溶された後、析出により形成されるγ′相の格子定数は基材相であるγ相に比べて大きい値を有するようになる。この場合、各相間の格子ミスフィットが発生するようになってγ′の析出が阻害されることがある。
【0058】
【0059】
したがって、本発明では前記の表2のようにチタニウムより大きい原子半径を有し、遷移金属に容易に固溶できる強化固溶元素として、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)から構成された群より選択された1種以上の元素を合金化した。この際、発生できる格子定数の増加量を算術的に計算すれば、コバルト及びクロムの平均原子半径に対し、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)は約15~20%、チタニウムは9%程度大きい値を示す。即ち、チタニウムによる格子ミスフィットを保全するために添加する元素である強化固溶元素(S)は各相間の原子半径が逆転されないように全体チタニウム含有量の最大50%以内に合金化することが有利である。
【0060】
この際、下記の表3は本発明の代表組成である実施例8を基準に、Sと表現される強化固溶元素であるモリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)を添加した結果を示す。前述したように、チタニウムに対して50%以下に添加される場合には全ての合金組成で複合構造を示すことを確認することができる。前記段階で開発した合金の代表的微細構造は
図7に示した。
【0061】
【0062】
最後に、本発明によるコバルト系合金に自己修復機構を導入するために、前記複合構造合金にホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む修復固溶元素を添加して使用環境で発生した欠陥部への自発的拡散及び偏析を通じて固溶強化効果を極大化することで、欠陥生成及び伝播を遅延するようにした。
【0063】
この際、修復固溶元素の粒界偏析が強化効果を示すためには、(1)熱力学的に粒界偏析が安定で、自発的偏析現象が発生可能でなければならず、(2)粒界に偏析された時、該当元素が脆性破壊傾向が低くて強化効果が発生しなければならない。
図8は、第一原理計算を基盤にコバルト基材に添加された元素の粒界偏析及び粒界破壊傾向を図示したものである。図面から分かるように、コバルト基材に添加された元素のうち、欠陥部に選択的自発拡散可能にする粒界偏析傾向が大きい、かつ脆性破壊が起こらないようにする粒界破壊傾向が相対的に小さな元素を確認した結果、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む修復固溶元素が優れる特性を示すことと確認された。
【0064】
【0065】
前記表4は本発明の合金組成に自己修復特性を有するようにする修復固溶元素を共に合金化した結果を示す。これに対する詳細な微細構造は本発明の
図9に示した。前記表に示したように、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む合金組成で全てγ-γ′複合構造合金が形成されることを確認した。これは修復固溶元素を少量添加しても、複合構造合金形成能が阻害されないことを意味する。
【0066】
これを総合すれば、追加的な後熱処理を通じてγ-γ′複合構造が最適化された自己修復特性を有するコバルト系合金組成領域は下記のように表現できる。
【0067】
[[CoaTibCr100-a-b]1-0.01cSc]1-0.01dHd
【0068】
ここで、コバルト組成を示すa(at.%)とチタニウム組成を示すb(at.%)は下記のように表現され、クロムの組成はコバルト及びチタニウムの含有量により決定される。
【0069】
(1)6≦b≦11の場合、70≦a≦86.5であり、(2)11<b≦16の場合、80≦a≦86.5である。(a+b<100)
【0070】
この際、Sは強化固溶元素モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタリウム(Ta)、及びタングステン(W)を含む群より選択された1種以上の元素を意味する。この際、Sは最大チタニウム含有量の50%まで合金化が可能である。これを超えると、ミスフィットを調節する効果が格段に減少する。したがって、0<c≦0.5b at.%のように表現できる。
【0071】
同時に、Hは修復固溶元素ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)を含む群より選択された1種以上の合金元素を意味する。Hの含有量が0.5at.%を超えると、ボライドや窒化物など、所望しない析出物が形成される。したがって、Hの含有量は0<d≦0.5(at.%)と表現されることが好ましい。
【0072】
γ-γ′複合構造形成のための工程条件選定
表5は、本発明を通じて開発された複合構造合金を最も代表的な熱処理工程である(1200℃、20時間溶体化処理)-(950℃、48時間時効処理)-(空冷)の3段階を通じて製造した場合、どのような相が形成されるかを示す。この際、950℃で時効処理された試片を空冷する場合、約3分以内に常温水準に到達するようになるが、これによって空冷の速度は5K/sec水準と判断できる。このような工程変数制御を通じて、γ-γ′複合構造を有するための熱処理条件として前記熱処理段階の以外に、他の多様な境界条件を決定することができる。
【0073】
以下、溶体化処理された合金を時効処理してL1
2結晶構造の析出物(γ′)を形成する段階を詳細に説明する。この際、1段階の溶体化処理と2段階の時効処理との間の熱処理過程が
図3では単純に炉冷することと表示されたが、これは図面作図上の便宜のためのものである。即ち、基材合金と析出物との間の格子定数の差がほとんどない本複合構造合金の特性上、固相でも相変態可能であるので、敢えて炉冷しなくても、十分に第2相の析出が可能である。したがって、各熱処理の段階が全て遂行されることが重要であり、第2相析出物の形成のための時効処理温度に昇温(あるいは、冷却)する方法は、請求される全体合金組成を形成することとは関係ない。
【0074】
表5では、本発明の実施例38を基準に熱処理条件を制御した。この際、熱処理工程は1段階の溶体化処理、2段階の時効処理、及び3段階の冷却から構成される。まず、下記の表は全体合金の溶体化処理のための条件及びその結果として示される相を示す。
【0075】
【0076】
前記の表を通じて多様な温度で溶体化処理時、γ単相合金が形成されることが分かる。この際、溶体化処理のための温度は、基材を構成するコバルトの融点である1495℃を超えることはありえない。したがって、急激な軟化が起こる時点である、融点より約100℃低い温度である1400℃を最大溶体化温度に設定した。また、熱力学計算などの結果に基づいてγ相が形成されない温度である1050℃を基準に最低溶体化処理温度を設定した。
【0077】
一方、本発明の溶体化処理は前記条件6で確認できるように、合金融点の70%を超える高温では単に1時間の熱処理でも均質な溶体化処理が可能であることを確認することができた。本発明の合金に対して1時間未満の溶体化処理を行う場合は、組成の均質化が完壁にならないことがあり、1000時間超過で溶体化処理する場合は、予想しなかった追加相が析出されて劣化が発生することがあるので、好ましくない。
【0078】
以下、溶体化処理された試片をまた高温で熱処理してγ-γ′複合構造が形成できる時効処理に対して詳述する。このために、本発明では条件3に適用した溶体化処理工程後、時効処理を体系的に遂行した。
【0079】
表6は、本発明の実施例38合金組成に対して時効温度及び時間、そして冷却条件を制御することによって形成されるγ′析出相のサイズと分率を図示した。表6から分かるように、時効処理条件が変わることによって多様なサイズ及び分率のγ′析出相が形成されることを確認することができた。
図10乃至
図12は、本発明の実施例38及び実施例48乃至実施例61の時効処理後、観察した微細構造を示す走査電子顕微鏡イメージである。この図面を通じて、各温度及び時間によってγ′析出相のサイズ及び相分率には差があったが、全ての組成で強化効果を示すγ′析出相が形成されることを確認することができた。
【0080】
この際、本発明による時効処理時間が増加することによってγ′相の分率が増加してから約50Vol.%で飽和されることを確認することができる。この際、γ′相の分率が50Vol.%以上に増加する場合、軟質のγ相を母相と見ることができず、超合金の基準から外れるので、γ′の分率は50Vol.%未満のものが好ましい。
【0081】
また、時効処理温度が増加することによって最大γ′相サイズが増加することを確認することができる。このような析出物の成長は固相での拡散によるものであって、特定サイズまで成長することに必要な時間が指数関数的に増加する。この際、950℃の温度で192時間以上時効処理しても、γ′サイズが0.5μm以上に大きくなり難いという点から推測すると、一般的な時効処理条件である1000時間以下の熱処理を通じては平均的なγ′相のサイズが1μm以上に成長し難いと理解することができる。この際、析出物のサイズがあまり大きくなる場合、超合金としての特性を十分に発揮し難い。
【0082】
【0083】
以後の段階では、本発明の合金組成に対してより広い範疇で時効処理の適用可能性を確認した。代表的な例として、本発明の実施例38合金組成に対して熱力学計算を通じて低温安定相であるHCP相が形成できる最高温度である700℃を開始点にして、50℃ずつ上昇させながら、1000℃まで熱処理を遂行し、時間は1時間からログ(log)スケールに変化させながら最大1000時間まで遂行した。表7は、本発明の実施例38合金組成に対して時効温度及び時間を変化させながら相構成を確認した結果である。
【0084】
【0085】
前記の表から確認できるように、本発明の合金組成に対して1050~1400℃の温度範囲で1~1000時間の間溶体化処理した試片を700~1000℃の温度範囲で1~1000時間の間時効処理しても、容易にγ-γ′複合合金が製造できることを確認することができる。本発明の合金に対して1時間未満の時効処理をする場合は準安定析出相の形成により微細構造の安定性が阻害されることがあり、1000時間超過に時効処理する場合は、予想しなかった追加相が析出されて劣化が発生することがあるので好ましくない。
【0086】
一方、冷却方法によっても複合構造合金の微細構造が変化できる。下記の表8は本発明の代表的な実施例38の合金を製造した以後、熱処理工程の3段階である冷却工程の方式を変化させた結果を示す。下記の表の実施例67から確認できるように、前記空冷の場合のように水冷の場合も複合相形成挙動に差がなかった。但し、5K/min未満に冷却時間が長くなる炉冷の場合(実施例68)には、従来発見し難かった数十nmサイズの小さな2次析出が発生した。ここで、等温熱処理である時効処理中に発生するγ′相と対比して冷却時に動的に発生するγ′相を2次析出物と命名する。このような事実を通じて、冷却方法によってはγ-γ′相複合構造形成有無には大きい影響を受けないことが分かる。単に、冷却時間制御を通じてγ′相2次析出挙動を制御することができる。
【0087】
図13は、本発明の実施例68に対する3次元原子プローブ単層撮影分析結果を示す。図面から分かるように、時効処理後に炉冷する場合、時効処理時に形成されるγ′相を1次析出物の以外に数十ナノサイズのγ′2次析出が形成されることを確認することができる。
【0088】
【0089】
修復固溶元素合金化を通じての自己修復特性確認
最後の段階ではコバルト合金に添加されたホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、燐(P)、及び黄(S)などの修復固溶元素が欠陥部への選択的自発拡散を通じてクラックの周辺に偏析されてクラックの形成及び伝播を遅延する自己修復特性を示すことができることを確認した。このために、
図14に示すように、実施例36乃至実施例40に対して部分変形後、自己修復模写工程を反復的に適用して回復処理時の特性変化を分析した。この際、本発明による自己修復特性とは、合金基材の内部に固溶された修復元素が素材の活用時に発生する微小クラックなどを含む欠陥部に自発的に拡散されて偏析される過程を通じて強化される過程を意味するので、開発素材の主要使用環境である高温での変形中にもリアルタイムに発生することがある。
【0090】
しかしながら、リアルタイム欠陥発生及び偏析挙動を直接観察することは長時間がかかり、一部の技術的限界があるので、本明細書では実際の自己修復が発生する使用環境で変形中に反復的に短い高温環境に露出することに反して、変形後の長時間の高温持続加熱を通じて速く修復挙動が起こることができる自己修復模写工程下で特性が回復される挙動を観察することによって、修復可否を確認した。しかしながら、これは検証の容易性のためのものであり、自己修復模写工程を適用して修復可能な場合、素材の使用環境で自発的に自己修復挙動がリアルタイムに起こることができることを意味する。
【0091】
図14の各図面で太く表示されたカーブは、実施例36乃至実施例40に対して各実施例に該当する材料の破断まで素材の一軸引張時の応力-ひずみ曲線を示す。各実施例で差はあるが、大部分の合金が30%内外の変形率で最終的に破断が起こることを確認することができた。この合金で初期状態への特性回復工程可能な変形のしきい値は、最大引張強度を示す時の延伸率の80%地点と確認された。各図面に示された細いカーブは同一の素材が最大引張強度を示す時の延伸率の40%までのみ変形した後、自己修復模写工程を経て特性回復を確認した結果を示す。
【0092】
本発明では、自己修復模写工程は実施例38組成のγ′析出相の形成のための時効処理時の温度及び時間条件のうちの1つである950℃で6時間の熱処理を行う条件で行われており、以後、試片の機械的特性変化を確認した。このような自己修復模写工程を素材が完全に破断に至るまで反復遂行した結果、本発明の全ての素材で既存の最大延伸率の200%以上の延伸率を有しながらも強度の低下がないことを確認した。
【0093】
図15は、本発明による実施例38試片を変形後、自己修復回復工程を適用して回復処理した後、内部に形成された亀裂(crack)の先端を確認したEDS結果を示す。図面から分かるように、他の領域とは異なるように亀裂の先端で多量のB原子(修復固溶元素)が検出されることを確認することができ、これは修復挙動を通じて亀裂部に修復固溶原子が容易に拡散及び偏析できることを示す。
【0094】
一方、このような拡散及び偏析挙動を示すためには、(1)L12析出相が完全に消えて複合構造合金の特性を失わない、かつ(2)修復固溶元素の拡散が容易に発生する温度という限定条件を満たさなければならない。したがって、自己修復の発生のための最大温度条件は前記の複合構造形成のための時効処理最大温度である1000℃にし、最小温度条件は一般的にFCC合金の格子間原子拡散が活性化されると知られた温度である300℃に限定することができる。この際、温度は代表的なエネルギー相関係数であるので、自己修復可能な使用環境は300乃至1000℃に該当する外部エネルギー(熱的、機械的、電気的、磁気的エネルギーなど、多様なエネルギー)のうちから選択された1種以上のエネルギーが印加された条件に限定することができる。