(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177130
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ウロリチン化合物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/37 20060101AFI20221122BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20221122BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20221122BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20221122BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20221122BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221122BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221122BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K31/37
A61K47/14
A61K47/24
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/06
A61P21/00
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144671
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2018529732の分割
【原出願日】2016-08-26
(31)【優先権主張番号】1515387.7
(32)【優先日】2015-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】512018265
【氏名又は名称】アマゼンティス エスアー
【氏名又は名称原語表記】AMAZENTIS SA
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ペネロペ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー リンシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ブランコ-ボーズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】筋関連の病的状態の治療および/または予防に有用な、薬品、栄養補助食品、機能食品もしくは医療食の用途としての組成物を提供する。
【解決手段】a)中鎖トリグリセライドと、b)式(I)の化合物またはその塩とを含む組成物とする。
(式中、A、B、CおよびDが独立してHおよびOHから選択され、W、XおよびYが独立してHおよびOHから選択され、且つ、ZがHおよびOHから選択される)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)中鎖トリグリセライドと、
b)式(I)の化合物またはその塩と
を含む組成物であって、
【化1】
式中、
A、B、CおよびDがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、
W、XおよびYがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、且つ、
ZがHおよびOHから選択される、組成物。
【請求項2】
式(I)の前記化合物がウロリチンAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の化合物が、0.5~50μmの範囲内にあるD50のサイズ、および5~100μmの範囲内にあるD90のサイズを有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記中鎖トリグリセライドが前記組成物の20~99重量%を占める、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記中鎖トリグリセライドが前記組成物の20~60重量%を占める、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記中鎖トリグリセライドが前記組成物の30~80重量%を占める、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記中鎖トリグリセライド成分と前記ウロリチンとの重量比が0.5:1~3:1の範囲内にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記中鎖トリグリセライドがカプリル酸および/またはカプリン酸を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記中鎖トリグリセライドが、ココヤシオイル、パーム油および乳製品の脂肪から選択される原料から誘導される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
乳化剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記乳化剤が、ホスファチジルコリンの原料である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ホスファチジルコリンの前記原料がレシチンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記レシチンが前記組成物の0.5~80重量%を占める、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記レシチンが前記組成物の1~40重量%を占める、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
安定剤を更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記安定剤がモノステアリン酸グリセリンである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、固形(例えば、棒剤)、半固形(例えば、ソフトジェル、カプセル(例えば、硬質カプセル)もしくはドラジェ)、または液体(乳剤を含む)の形態である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物がソフトジェルの形態である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
薬品、栄養補助食品、機能食品もしくは医療食としての用途のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
薬品としての用途のための、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
筋関連の病的状態の治療および/または予防に用いられる薬品としての用途のための、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか一項に記載の前記組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、筋関連の病的状態の治療方法。
【請求項23】
前記筋関連の病的状態が、筋骨格疾患もしくは障害;筋消耗;ミオパシー;デュシェンヌ型筋ジストロフィおよび他のジストロフィなどの神経筋疾患;筋減少症(例えば急性筋減少症);筋収縮症および/もしくはカヘキシーから選択される、請求項21に記載の用途のための組成物、または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記筋関連の病的状態が、筋減少症(例えば急性筋減少症)である、請求項23に記載の用途のための組成物、または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
被験者に請求項1~18のいずれか一項に記載の有効量の組成物を投与することを含む、筋性能の強化方法。
【請求項26】
前記被験者が、加齢による筋機能の低下、加齢による筋減少症、加齢による筋消耗、身体的疲労、筋疲労を患い、および/または虚弱または前虚弱である、請求項25に記載の筋性能の強化方法。
【請求項27】
前記被験者が虚弱または前虚弱である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
式(I)の化合物またはその塩であって、
【化2】
式中、
A、B、CおよびDがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、
W、XおよびYがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、且つ、
ZがHおよびOHから選択され、
且つ前記化合物または塩が0.5~50μmの範囲内にあるD
50のサイズ、且つ5~100μmの範囲内にあるD
90のサイズを有する、式(I)の化合物またはその塩。
【請求項29】
前記化合物が8.2~16.0μmの範囲にあるD90のサイズ、2.8~5.5μmの範囲内にあるD50のサイズ、および0.5~1.0μmの範囲内にあるD10サイズを有する、請求項27に記載の化合物または塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウロリチンおよび中鎖トリグリセライドの栄養製剤ならびに医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウロリチンは、幾つかの健康障害の改善に強力な効果を有し、インビトロおよびインビボで生物学的に高度に活性であることが明らかにされてきた。ウロリチンは肥満、記憶低下、代謝率低下、代謝症候群、真性糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレス、不安障害、脂肪肝疾患(例えば、NAFLDまたはNASH)などの、ミトコンドリア活性が不十分なことに関連する病気を含めた様々な病気の治療において、肝機能の改善および体重管理のための治療薬として提唱されてきた。ウロリチンは特に、筋機能の強化に有益な効果を有することが証明されてきた。
【0003】
筋肉量が少ないまたは筋性能が乏しいことは、多くの疾患および病気の特徴である。筋関連の病的状態としては、ミオパシー;デュシェンヌ型筋ジストロフィなどの神経筋疾患;急性筋減少症(例えば筋収縮症)、および/もしくはカヘキシー(例えば火傷、床上安静、肢の運動抑止、または胸部、腹部、頸部および/もしくは整形外科的な大手術に関連するもの)が挙げられる。加齢による筋肉減失は、特に流行している病気である。長期間にわたる運動抑止、または他の疾患(例えば癌)に起因するカヘキシーは、筋性能の不良により特徴付けられることもしばしばである。
【0004】
筋性能が良好であることは、健常者だけでなく疾患罹患者(特に、高齢者)の人生の全段階における有効な生(effective living)にとって重要である。また、特にアスリートにとっての関心事は、筋性能の向上である。例えば、筋収縮強度の増強、筋収縮振幅の増加、または刺激から収縮までの筋肉反応時間の短縮はいずれも、個人、特にアスリートにとって有益である。
【0005】
重篤な筋萎縮症の症例では、メタンドロステノロンなどのタンパク質同化ステロイドを、患者に投与することによって、治療プロセスにおいて一助となる。そのような薬物類は、多数の副作用を伴うおそれがあるので、長期使用は回避することが好ましい。
【0006】
ウロリチン化合物は、筋機能の強化をはじめとする様々な病気の治療および予防において有用とされる特性を有している。しかしながら、ウロリチンは、生理食塩水に溶解した単純な懸濁液中で好ましくない薬物動態プロファイルを呈し、初期ピーク後に暫くして、血中濃度における二度目の上昇が遅延するため、そのような懸濁液は投与困難なものとなる。
【0007】
血液流体中に経口投与された化合物が多重ピークを生ずると共に、経時的に濃度において2つ以上のピークを生ずるのは、以下のような幾つかの因子に起因しうる。(i)製剤(賦形剤の選択肢など)、(ii)消化管自体の生理学(例えば、胆汁のpHおよび成分など)が、ホルモン因子および食事因子によって調節されること、(iii)消化管の局所区域における生化学的分化によって、吸収濃度域(windows for absorption)を生じ、ひいては多重ピークを生じうること、ならびに(iv)腸肝が再循環すること。生理活性化合物を経口投与する場合、この化合物の血漿濃度を、多重ピークでなく寧ろ単一ピークのプロファイルを有するものとして提示することが好ましい。経口投与に続いて活性化合物の単一ピークを可能にする製剤は、血液流体中に多重ピークを生ずることにつながる製剤とは対照的に、投与用量の最適化、および投与の頻度を促進する。その結果として所望されるのは、単一ピークを生ずる製剤である。この製剤によって、哺乳動物において化合物が健康効果をもたらしうる治療用量域の確立が促進される。
【0008】
多くの環境において、単純な生理食塩水懸濁液の薬物動態特性が所望されないものとなるだけでなく、化合物のバイオアベイラビリティが制限されてしまうことにもなる。ゆえに、薬物動態プロファイルが受け入れられるもので、且つバイオアベイラビリティに改良を施した、ウロリチンの製剤に対するニーズが存在している。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、
a)中鎖トリグリセライドと、
b)式(I)の化合物またはその塩と、
を含む組成物であって、
【0010】
【0011】
式中、
A、B、CおよびDがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、
W、XおよびYがそれぞれ独立してHおよびOHから選択され、且つ、
ZがHおよびOHから選択される、組成物を提供するものである。
【0012】
式(I)の化合物は、ウロリチン科に属する。式(I)の化合物は、特に、ウロリチンAでありうる。中鎖トリグリセライドとウロリチンAとからなる組成物中のウロリチンAは、単純な生理食塩水懸濁液中に単独で溶解されたウロリチンAと比較して、バイオアベイラビリティおよび薬物動態プロファイルが驚異的に向上することが判ってきた。ゆえに、本発明の組成物は、健常者における全身的な健康状態の改善および管理、ならびに様々な疾患および病気(特に、ミトコンドリア活性が不十分なことにより特徴付けられる病気)の治療および予防に有効である。特に、本組成物は、筋機能の向上による恩恵を受ける健常者(身体的性能、持久能力、および筋機能が減損した人を含む)の治療および処置に有用であることが明らかにされている。本組成物はまた、筋肉量が少ないこともしくは筋性能の低いことにより特徴付けられる疾患および病気の治療、予防または処置、ならびに筋肉の成長および/または筋性能の強化に有用であるほか、筋機能の維持にも有用であることが判っている。
【0013】
本発明は更に、肥満、代謝率低下、代謝症候群、真性糖尿病、心血管疾患、高脂血症、記憶低下、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレス、不安障害、脂肪肝疾患(例えば、NAFLDまたはNASH)などの不十分なミトコンドリア活性に関連する病気を含めた様々な病気の治療において、且つ肝機能の改善および体重管理を目的として用いられる、本発明の組成物を提供するものである。特に、本発明は、筋関連の病的状態の治療に用いられる組成物を提供する。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を被験者に投与することを含む、被験者における筋関連の病的状態を治療する方法を提供する。本発明は、筋性能を強化するのに用いられる、本発明の組成物を提供する。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を被験者に投与することによる、筋性能を強化する方法を提供する。
【0014】
本発明は更に、D50サイズが0.5~50μmの範囲内にあり、且つD90サイズが5~100μmの範囲内にある、式(I)の化合物またはその塩を提供する。本化合物または塩は、D90サイズが8.2~16.0μmの範囲内にあり、D50サイズが2.8~5.5μmの範囲内にあり、且つD10サイズが0.5~1.0μmの範囲内にあることが好ましい。上記の粒径を有する本発明の化合物は、分散特性および溶解特性に優れ、且つバイオアベイラビリティが強化されていることが見出されてきた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ウロリチンAと、生理食塩水または他の様々な成分(中鎖トリグリセライドなど)とを含む製剤をラットに与え、且つウロリチンAの血中濃度を評価した実験の結果を示す。
【
図2】
図2は、ウロリチンAと中鎖トリグリセライドとを含む製剤をラットおよびヒトに与え、且つウロリチンAの血中濃度を評価した実験の結果を示す。
【
図3】
図3は、様々な粒径のウロリチンAを含む製剤をラットに与え、且つウロリチンAの血中濃度を評価した実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上に記載されているように、本発明は、中鎖トリグリセライドとウロリチンとを含む組成物を提供するものである。
【0017】
中鎖トリグリセライドは、本発明の組成物の少なくとも1重量%を占めるのが一般的であり、例えば少なくとも5重量%、例えば少なくとも10重量%、例えば少なくとも15重量%を占める。中鎖トリグリセライドは、本組成物の重量を基準にして本組成物の20重量%以上、例えば重量基準で25重量%以上、例えば30重量%以上を占めることが好ましい。例えば、中鎖トリグリセライドは、本組成物の1~40重量%、本組成物の2~40重量%、本組成物の5~40重量%、本組成物の10~40重量%、本組成物の1~99重量%、本組成物の5~99重量%、本組成物の10~99重量%、本組成物の20~99重量%、本組成物の5~90重量%、本組成物の10~90重量%、例えば本組成物の20~90重量%、本組成物の20~80重量%、例えば本組成物の30~80重量%、例えば本組成物の30~70重量%、例えば本組成物の30~60重量%、例えば本組成物の30~50重量%、例えば本組成物の30~40重量%、例えば本組成物の30~35重量%を占める場合がある。例えば、中鎖トリグリセライドは、本組成物の40~70重量%、例えば本組成物の50~70重量%、例えば本組成物の55~65重量%を占める場合がある。
【0018】
中鎖トリグリセライド成分対ウロリチンの重量比は、概ね0.01:1~100:1、例えば0.5:1~100:1、例えば0.5:1~50:1、例えば0.5:1~5:1、あるいは、例えば1:1~75:1、例えば1:1~50:1、例えば1:1~20:1、例えば1:1~10:1、例えば1:1~2.5:1、例えば1:1~2:1、例えば1:1~1.5:1の範囲内にある。中鎖トリグリセライド成分対ウロリチンの重量比は、0.01:1~10:1、例えば0.1:1~10:1または0.01:1~5:1、例えば0.01:1~0.1:1の比率でありうる。本発明の組成物は、概して、粘性液体または糊状剤の粘稠性を有し、1回分の補助剤として、被験者の普通食に(例えば棒剤、ジェルもしくはソフトジェル・カプセル、硬質カプセルの形で、または飲料で希釈して)供される場合もあれば、代替的に、毎回の食事の一部または全部として供される場合もある。
【0019】
ウロリチンは、本発明の組成物の0.1~80重量%を占めるのが一般的であり、例えば0.1~60重量%、例えば0.25~50重量%を占める。例えば、ウロリチンは、本組成物の0.5~50重量%を占める場合がある。本組成物を、食事の一部または全部として供する場合、ウロリチンは、本組成物の例えば、0.25~5重量%、例えば本組成物の0.3~3重量%を占める場合がある。本発明の組成物を、被験者の普通食に1回分の補助剤として供する場合、ウロリチンは、本発明の組成物の20~80重量%を占めるのが一般的であり、例えば本組成物の20~40重量%、例えば25~35重量%を占める。例えば、ウロリチンは、本組成物の26~34重量%、例えば本組成物の28~33重量%、例えば、本組成物の29~32重量%、例えば本組成物の29~31重量%を占める場合がある。
【0020】
中鎖トリグリセライド:
中鎖トリグリセライドは、式CH2(OR1)-CH(OR2)-CH2(OR3)の化合物であり、式中、R1、R2およびR3は、概して式-C(=O)(CH2)nCH3の中鎖脂肪酸基であり、式中、nは4~10、例えば6~8の範囲内にある。中鎖脂肪酸類は、6~12個の炭素原子からなる脂肪族末端を有する脂肪酸類である。脂肪族末端は大部分が飽和する。具体的な中鎖脂肪酸類としては、カプロン酸(ヘキサン酸、C6:0)、カプリル酸(オクタン酸、C8:0)、カプリン酸(デカン酸、C10:0)およびラウリン酸(ドデカン酸、C12:0)が挙げられる。また、ミリスチン酸(テトラデカン酸、C14:0)が少量存在する場合もある。最もよく使用される中鎖トリグリセライドは、概して、カプリル酸およびカプリン酸のトリグリセライドの混合物を有し、飽和脂肪酸類の含有率が95%以上である。本発明の組成物中の中鎖トリグリセライド成分は、同種の単一の中鎖トリグリセライド化合物タイプからなる場合があり;より一般的には、本発明の組成物中の中鎖トリグリセライド成分は、2つ以上の異なる中鎖トリグリセライド化合物からなる混合物である。
【0021】
ヨーロッパ薬局方には、Cocos nucifera L.(ココヤシ)の胚乳またはElaeis guineenis Jacq.(アフリカのアブラヤシ)の乾燥胚乳の硬い乾燥画分から抽出される、不揮発性油として中鎖トリグリセリドが記載されている。ヨーロッパ薬局方およびUSPNFの双方は、中鎖トリグリセライドに関し、カプロン酸(C6)2.0%以下;カプリル酸(C8)50.0~80.0%、カプリン酸(C10)20.0~50.0%、ラウリン酸(C12)3.0%以下、およびミリスチン酸(C14)1以下%といった特定の脂肪酸類の存在を義務付ける仕様を有する。
【0022】
特に、本発明の組成物中に用いられる中鎖トリグリセライドは、トリグリセライド類の混合物を含んで構成され、脂肪酸鎖はC6を5%以下、C8を50~70%、C10を30~50%、およびC12を12%以下(例えばC6を0.5%以下、C8を55~65%、C10を35~45%、およびC12を1.5%以下)とした比率で存在する。
【0023】
本発明の組成物中に用いられる中鎖トリグリセライドは、任意の公知の原料またはさもなければ好適な原料から誘導することが可能である。中鎖トリグリセライドは、天然原料から抽出することも、または適切な条件下でグリセロールおよび好適な脂肪酸類から合成することも可能である。中鎖トリグリセライド(または中鎖トリグリセライドの合成に使用できる中鎖脂肪酸類)を抽出するための市販原料の例としては、限定されないが、ココヤシ油およびパーム油、ならびに乳製品の脂肪、特にバターが挙げられる。中鎖トリグリセライドの原料またはタイプを組み合わせて使用される場合もある。
【0024】
本発明の組成物中に用いられる中鎖トリグリセライドは、市販の液状製剤または固形製剤として、ならびに糖類、ビタミン類、必須脂肪酸類およびミネラル類との単純もしくは複雑な組み合わせとして入手できる。中鎖トリグリセライドはまた、油脂またはマーガリンの形態でも出回っている。
【0025】
ウロリチン:
ウロリチンは、ヒトはじめとする哺乳類の腸内微生物叢がエラジタンニンおよびエラグ酸に対し作用することによって生成される代謝産物であり、エラジタンニンおよびエラグ酸は、ザクロ、ナッツおよびベリーなどの食品中によく見られる化合物である。エラジタンニンは、それ自体では、腸に最小限にしか吸収されない。ウロリチンは化合物の部類であり、その典型的な構造(I)は上記されている。下表1は、特によく出回っている幾つかのウロリチンの構造を、構造(I)に言及しながら説明したものである。
【0026】
【0027】
実際、市販のスケール製品に関して言えば、ウロリチンが合成されれば好都合である。合成経路は、例えば、国際公開第2014/004902号に記載されている。
【0028】
構造(I)に準ずる任意の構造のウロリチンを、本発明の組成物中に使用できる。本発明の組成物中に使用される特に好適な化合物は、天然起源のウロリチンである。ゆえに、ZはOHであることが好ましく、W、XおよびYはいずれもHであることが好ましい。W、XおよびYがいずれもHであり、且つAおよびBが両方ともHであり、且つC、DおよびZがいずれもOHである場合、化合物はウロリチンCである。W、XおよびYがいずれもHであり、且つA、BおよびCがいずれもHであり、且つDおよびZが両方ともOHである場合、化合物はウロリチンAである。本発明の製剤中に使用されるウロリチンは、ウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンCまたはウロリチンDであることが好ましい。本発明の製剤中に使用されるウロリチンは、ウロリチンAであることが最も好ましい。
【0029】
【0030】
ウロリチンA
本発明の組成物中に使用されるウロリチンは、微粉化されていることが好ましい。微粉化によって、ウロリチンの分散または溶解を迅速化することが可能になる。微粉化ウロリチンを使用した場合、ウロリチンのD50サイズは100μm未満、つまり、ウロリチンを50質量%とした場合、その粒子直径サイズは100μm未満であることが好ましい。ウロリチンのD50サイズは75μm未満、例えば50μm未満、例えば25μm未満、例えば20μm未満、例えば10μm未満であることがより好ましい。ウロリチンのD50は、0.5~50μm、例えば0.5~20μm、例えば0.5~10μm、例えば1.0~10μm、例えば1.5~7.5μm、例えば2.8~5.5μmの範囲内にあることがより好ましい。ウロリチンのD90サイズは100μm未満であることが好ましい。ウロリチンのD90サイズは75μm未満、例えば50μm未満、例えば25μm未満、例えば20μm未満、例えば15μm未満であることがより好ましい。ウロリチンのD90は5~100μm、例えば5~50μm、例えば、5~20μm、例えば7.5~15μm、例えば8.2~16.0μmの範囲内にあることが好ましい。ウロリチンのD10は、0.5~1.0μmの範囲内にあることが好ましい。ウロリチンのD90は8.2~16.0μmの範囲内にあり、D50が2.8~5.5μmの範囲内にあり、且つD10が0.5~1.0μmの範囲内にあることが好ましい。微粉化は、当該技術において確立されている方法で達成できる。例えば、圧縮力ミリング、ハンマーミリング、ユニバーサルミリング、ピンミリング、またはジェットミリング(例えば、スパイラルジェットミリングもしくは流動床ジェットミリング)を使用できる。特に好適なのは、ジェットミリングである。
【0031】
ホスファチジルコリン
本発明の組成物は、1種以上のリン脂質を含むことが有利でありうる。本発明の組成物中に使用するのが特に好ましいリン脂質は、ホスファチジルコリンである。ホスファチジルコリンがもたらす利益は、少なくとも幾分かは、それらが両親媒性を備えることに起因しうる。
【0032】
本発明中に使用されるリン脂質(とりわけ、ホスファチジルコリン)の原料として特に有益なのはレシチンであり、本発明の組成物はレシチンを含むことが有利である。本発明の組成物中のレシチン(存在する場合)は、本発明の組成物の少なくとも0.5重量%を占めるのが一般的であり、本発明の組成物の少なくとも1重量%を占めることが好ましい。レシチンは、本組成物の重量を基準にして本組成物の10重量%以上、例えば重量基準で20重量%以上、例えば30重量%以上を占めることが好ましい。例えば、レシチンは、本組成物の0.5~80重量%、例えば、本組成物の1~80重量%、例えば、20~80重量%、例えば、40~80重量%、代替的に例えば、0.5~75重量%、例えば、本組成物の1~40重量%、例えば、本組成物の30~40重量%、例えば、本組成物の30~35重量%、例えば、本組成物の30~75重量%を占める場合がある。代替的に、レシチンは、本組成物の0.5~5重量%、例えば、本組成物の1~5重量%、例えば、本組成物の1~3重量%、例えば、本組成物の0.5~2重量%、例えば、本組成物の1~2重量%を占める場合がある。レシチン(存在する場合)とウロリチンとの間の重量比は、概ね0.02:1~3:1、例えば、0.03:1~1.2:1、例えば、1:1~1.2:1、例えば、1.1:1~1.2:1の範囲内にある。
【0033】
「レシチン」とは、動植物の組織中で産生される脂肪質性物質の任意の群、例えば、リン酸、コリン、脂肪酸類、グリセロール、グリコリピド、トリグリセライドおよびリン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルイノシトールなど)を言う。特に、大豆およびヒマワリから得られる市販レシチンは、リン脂質ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジン酸を含む。レシチンは、ヘキサン、エタノール、アセトン、石油エーテルまたはベンゼンなどの無極性溶媒中のレシチン原料から化学抽出することによって採取される場合もあれば、あるいは機械的な抽出によって採取される場合もある。特に、レシチンは、大豆、鶏卵、牛乳、アブラナ、綿実およびヒマワリをはじめとする原料からの抽出によって採取することもできる。食用製剤中に使用される市販レシチンは、容易に入手できる。
【0034】
商業的に生産されているレシチンで、本発明の製剤中に使用できるものは、主成分として、大豆油33~35%、イノシトールリン酸20~21%、ホスファチジルコリン19~21%、ホスファチジルエタノールアミン8~20%、他のリン脂質5~11%、遊離炭水化物類5%、ステロール類2~5%および水分1%を含有するのが一般的である。
【0035】
商業的に生産されているレシチンで、本発明の製剤中に使用できるものは、ホスファチジルコリンが強化されている場合があり、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限5重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限10重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限15重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限20重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限25重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限30重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限32重量%、例えばレシチン中のホスファチジルコリン含量率が最小限40重量%のものである。
【0036】
レシチンは、その特性を調整するための下記プロセス:特定のリン脂質のアルコール抽出による、異なるリン脂質を改変後の比率で含むレシチンの生成;アセトン抽出での脱脂による、粉末状または粒状化のリン脂質配合物の生成;担体としてのタンパク質への噴霧乾燥;高融点モノグリセリドおよびジグリセリドなどの合成乳化剤を用いた噴霧冷却による、薄片状または粉末状生成物の生成;酵素作用、特に部分加水分解での修飾による、顕著な乳化挙動を有するレシチンの生成(ホスホリパーゼ類、とりわけホスホリパーゼA2を一般的に使用);酸およびアルカリによる脂肪酸基の加水分解;ならびに脂肪酸鎖とアミノ基のアセチル化およびヒドロキシル化のうちの1つ以上によって、化工することが可能である。
【0037】
組成物の形態:
本発明の組成物は、任意の好適な物理的形態を取りうる。本組成物が取りうる形態は、固形(例えば、棒剤)、半固形(例えば、ソフトジェル、カプセル(例えば、硬質カプセル)もしくはドラジェ)、または液体(乳剤を含む)である。多くの事例において、本発明の組成物は、粘性流体または糊状剤の形態である。好適な中鎖トリグリセライドおよび賦形剤を選択することによって、本組成物の物理的形態を、対象の製品の要件に合わせて調整することが可能である。本発明の組成物が医薬組成物である場合もあれば、本発明の組成物が栄養組成物である場合もある。
【0038】
ソフトジェル組成物は、シェルを有するカプセルに収容されて出回っているものもある。シェルは、従来型のものとされる場合もある(例えば、軟質ゼラチンを主成分とするシェルとされる場合もある)。また、本発明の組成物は、シェルの硬質カプセルタイプの内側に含有される場合もある。
【0039】
棒剤によっては、何らかの好適な種類のものもあれば、従来スナック風棒剤型の製剤に用いられていた原料を含有するものもある。
【0040】
同様に、半固形形態のものは、当該技術分野で慣用の賦形剤を含有する場合もある。賦形剤は、例えば、所望の硬度、保存寿命および風味を提供するものとされる場合があり、それにより、本組成物が、受け入れられる風味、魅力的な外観、および十分な貯蔵安定性を有するようになる。半固形形態のものは、糊状剤の形態でありうる。
【0041】
液体組成物は薬品、栄養補助食品、または飲料の形態であってもよく、それぞれ経口摂取用である。液体製剤は、溶液、乳剤、スラリーまたは他の半液体でありうる。賦形剤を液体組成物中に配合することによって、例えば、保存寿命、視覚的外観、風味および舌あたりを提供するものとされる場合があり、それにより、本組成物が、受け入れられる風味、魅力的な外観、および十分な貯蔵安定性を有するようになる。飲料は、被験者が飲む前に、或る希釈濃度で振盪して、活性成分の懸濁液を均一に維持する必要のある場合がある。
【0042】
本発明の組成物中の追加成分:
本発明による組成物は、ウロリチンおよび中鎖トリグリセライド以外に追加成分を含有しうる。この追加成分は、健康上の効果をもたらす化合物、例えば、ビタミン類、ミネラル類、多価不飽和脂肪酸類、および他の化合物から選択することができる。
【0043】
具体的には、ビタミン類のうち、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB12およびビタミンK2が言及される場合もある。本明細書において、「ビタミンD」とは、公知の形態のビタミンD群のうちのいずれか、且つ具体的には、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンD前駆体、代謝産物および他の同族体、ならびにこれらの組み合わせのほか、様々な活性および非活性形態のビタミンDを含む。例えば、ビタミンD3は、ヒドロキシル化されていない非活性形態でコレカルシフェロールとして出回っているものもあれば、あるいはヒドロキシル化された活性形態でカルシトリオールとして出回っているものもある。
【0044】
クレアチンは、筋障害の治療に有益な効果をもたらすと言われており、本発明の組成物中に配合される場合もある。β-ヒドロキシル-β-酪酸メチル(HMB)は、筋障害の治療に有益な効果があると言われており、本発明の組成物中に配合することが可能である。
【0045】
多価不飽和脂肪酸類は、2つ以上の二重結合を主鎖中に含む、脂肪酸類である。この部類は、多くの重要な化合物(例えば、オメガ3およびオメガ6脂肪酸類のような必須脂肪酸類)を含む。好適なのは長鎖多価不飽和脂肪酸類であり、分子中に少なくとも20個の炭素原子を有するものが好ましい。そのような長鎖オメガ3脂肪酸類は、シス-11,14,17-エイコサトリエン酸(ETE)C20:3、シス-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸(ETA)C20:4、シス-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸(EPA)C20:5、シス-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸(DPA、クルパノドン酸)C22:5、シス-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(DHA)C22:6、シス-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸C24:5、およびシス-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸(ニシン酸(Nisinic acid))C24:6を含む。少なくとも20個の炭素原子を有する長鎖オメガ6脂肪酸類は、シス-11,14-エイコサジエン酸C20:2、シス-8,11,14-エイコサトリエン酸(ジホモガンマリノレン酸)(DGLA)C20:3、シス-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)(AA)C20:4、シス-13,16-ドコサジエン酸C22:2、シス-7,10,13,16-ドコサテトラエン酸(アドレン酸)C22:4、シス-4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸(オスボンド酸)C22:5を含む。本発明による組成物は、EPA、DHA、またはEPAとDHAとの組み合わせを、例えば、1回量当たり10~1,000mg;例えば、1回量当たり25~250mg含有することが好ましい。
【0046】
本発明の医薬組成物は、付加的な医薬的に活性な化合物を含む場合がある。
【0047】
幾つかの例示的な実施形態において、本発明の組成物は、中鎖トリグリセライドおよびウロリチンに加えて、1つ以上の付加的な多量栄養素は、典型的に脂肪類または炭水化物、または脂肪類および炭水化物を含む場合がある。
【0048】
本明細書中に記載されている組成物中に使用される好適な脂肪類またはその原料の例としては、限定されないが、ココヤシ油;分留ココヤシ油;大豆油;トウモロコシ油;オリーブ油;サフラワー油;高オレイン酸サフラワー油;ヒマワリ油;高オレイン酸ヒマワリ油;パーム油およびパーム核油;パームオレイン;カノーラ油;マリン油;綿実油;多価不飽和脂肪酸類(例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA);ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本明細書中に記載されている組成物中に使用される好適な炭水化物類またはその原料の例としては、限定されないが、マルトデキストリン、加水分解または化工のデンプンもしくはコーンスターチ、グルコースポリマー、トウモロコシシロップ、トウモロコシシロップ固形物、イネ由来の炭水化物、グルコース、フルクトース、乳糖、高フルクトース・トウモロコシシロップ、タピオカデキストリン、イソマルツロース、スクロマルト(sucromalt)、マルチトール粉末、グリセリン、フルクトオリゴ糖、大豆繊維、トウモロコシ繊維、グアーゴム、こんにゃく粉、ポリデキストロース、ハチミツ、糖アルコール類(例えば、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール)、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。特に好ましいのは、マルトデキストリン、スクロースおよびフルクトースである。
【0050】
脂肪類および炭水化物類ならびに他の成分の総濃度または量は、意図されたユーザーの栄養所要量に応じて異なる。
【0051】
本発明の組成物中の追加成分は、被験者に健康上の効果をもたらさないが、代わりに、他の何らかの方法で、例えば上記されている風味、舌触りまたは貯蔵安定性に関して本組成物を改良する化合物でありうる。ゆえに、本発明の組成物は、乳化剤、着色剤、保存料、ガム、硬化剤(setting agent)、濃化剤、甘味料および香り付けから選択される、1種以上の化合物を更に含有しうる。
【0052】
好適な乳化剤、安定剤、着色剤、保存料、ガム、硬化剤および濃化剤は、乳剤ならびに他の半液体の製造技術分野において周知である。乳化剤は、ホスファチジルコリン、レシチン、ポリソルベート類(例えば、ポリソルベート60またはポリソルベート80(Tween60およびTween80)、およびモノステアリン酸グリセリン(GMS)のうちの1つ以上を含む場合がある。モノステアリン酸グリセリンはまた、モノステアリン酸グリセリルとしても知られている。金属キレート化剤または金属イオン封鎖剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウムカルシウム塩)もまた、使用できる。本発明の製剤中に配合できる他の成分としては、ポリエチレングリコール、二酸化ケイ素、植物性ショートニングおよび蜜蝋が挙げられる。
【0053】
安定剤は、本発明の組成物中に使用される場合がある。本発明の組成物の多くは、安定剤を加える必要のない安定な懸濁液であり、安定な懸濁液とは、経時的に相分離を経ることのない懸濁液である。本発明の組成物によっては、添加された安定剤の封入によって安定性を向上させることが可能なものもある。本発明の組成物中に使用される好適な安定剤としては、モノステアリン酸グリセリン(GMS)、二酸化ケイ素および植物性ショートニングが挙げられる。例示的な安定剤はGMSであり、本発明の組成物はGMSを含有していることが好ましい。また、GMSがリン脂質(例えば、レシチン中に見られるものなど)を溶解させるための溶媒として好適であるとされるのは、GMSに備わる特性に由来する。GMSは2つの多形にて存在する。α形態は、分散性且つ泡沫状であり、乳化剤または防腐剤として有用である。β形態は、ワックス基材に好適である。α形態は、50℃に加熱されたときにβ形態に変換される。
【0054】
GMSは、2つの別個のグレード(モノグリセリド40~55パーセントのものとモノグリセリド90パーセントのもの)に分類される。ヨーロッパ薬局方によって規定されている、モノグリセリド40~55パーセントのものは、GMSを、モノステアロイルグリセロールを主成分とし幾らかの分量のジグリセリンおよびトリグリセロールを含む、モノアシルグリセロール(monoacylglycerols)の混合物として記載している。特に、40~55グレードは、モノアシルグリセロールを40~55%、ジアシルグリセロールを30~45%、およびトリアシルグリセロールを5~15%含有する。99パーセントグレードは、モノグリセリド含有率が90%以上とされている。市販のGMS製品中のモノグリセリドは、モノステアリン酸グリセリルおよびモノパルミチン酸グリセリル(比率は可変)の混合物である。ヨーロッパ薬局方は更に、混合物中のステアリンエステルの比率に従って、モノステアリン酸グリセリル40~55を3つのタイプに分類している。タイプ1は、ステアリン酸の含有率が40.0~60.0%で、且つパルミチン酸パルミチン酸およびステアリン酸の含有率の合計が90%以下のものである。タイプ2は、ステアリン酸の含有率が60.0~80.0%で、且つパルミチン酸パルミチン酸およびステアリン酸の含有率の合計が90%以下のものである。タイプ3は、ステアリン酸の含有率が90.0~99.0%で、且つパルミチン酸パルミチン酸およびステアリン酸の含有率の合計が96%以下のものである。本発明の組成物には、任意の形態のGMSを使用できる。
【0055】
本発明の組成物において特に有益であると考えられるのが、香り付けである。液体または半液体組成物中にフルーツソースもしくはピューレを封入することによって、果実フレーバーを供給することができる。典型的な着香料としては、イチゴ、ラズベリー、ブルーベリー、アプリコット、ザクロ、モモ、パイナップル、レモン、オレンジおよびリンゴが挙げられる。一般的に、果実着香料としてよく挙げられるのは、果実抽出物、果実ジャムまたは果実ピューレと、甘味料、デンプン、安定剤、天然および/もしくは人工香料、着色剤、保存料、水ならびにクエン酸、あるいはpHを調節するための他の好適な酸との任意の組み合わせである。
【0056】
服用量
本組成物の有効摂取量は、投与様式、年齢、体重、および被験者の全身の健康状態に応じて差異を生ずる。被験者の疾患状態、年齢、および体量などの因子が重要とされる場合があり、至適反応が得られるように投薬レジメンを調整できる。
【0057】
ウロリチン(例えば、ウロリチンA)成分の1日摂取量は、典型的に、10mg~5g/日、例えば、20mg~2500mg/日、例えば、50mg~1500mg/日、例えば、100mg~1500mg/日、例えば、150mg~1500mg/日、例えば、200mg~1500mg/日、例えば、250mg~1500mg/日、例えば、50mg~1000mg/日、例えば、250mg~1000mg/日の範囲内にある。一実施形態において、本組成物は、約0.2mg/kg/~約100mg/kg/日超の範囲内のウロリチンの投与用量を供給する量で服用される。例えば、ウロリチンの用量は、0.2~100、0.2~50、0.2~40、0.2~25、0.2~10、0.2~7.5、0.2~5、0.25~100、0.25~25、0.25~25、0.25~10、0.25~7.5、0.25~5、0.5~50、0.5~40、0.5~30、0.5~25、0.5~20、0.5~15、0.5~10、0.5~7.5、0.5~5、0.75~50、0.75~25、0.75~20、0.75~15、0.75~10、0.75~7.5、0.75~5、1.0~50、1~40、1~25、1~20、1~15、1~10、1~7.5、1~5、2~50、2~25、2~20、2~15、2~10、2~7.5、または2~5mg/kg/日でありうる。
【0058】
本発明の組成物の1回分用量は、ウロリチン10mg~5g、例えば、20mg~2500mg、例えば、50mg~1500mg、例えば、250mg~1500mg、例えば、50mg~1000mg、例えば、100mg~1000mg、例えば、250mg~1000mgを含有することが好ましい。1回服用分はスナック風棒剤の形態でありうる。重量25~150g(例えば、40~100g)のスナック風棒剤は必要量のウロリチンを含有しうる。1回服用分の組成物は、代替的に飲料形態とされる場合もある。例えば、一服分(例えば、100~300ml)に対応する好適な容量の容器(例えば、パウチ)に収容されて提供されている。飲料25ml~500ml(例えば、50ml~300ml)には、所要量のウロリチンが含有される場合がある。本発明の組成物を供給する飲料は、ウロリチンを0.1~50mg/ml、0.25~25mg/ml、例えば、0.5~10mg/ml、例えば、1~5mg/mlの濃度で含有しうる。1回服用分は、代替的に、1回または複数回服用分の半固形(例えば、ソフトジェルまたは糊状剤)の形態とされる場合もある。単一のソフトジェル・カプセルには、ウロリチン1回分用量、例えば、25mg、50mg、75mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mgまたは500mg、例えば、250mgが含有される場合がある。
【0059】
本発明の成分の比率範囲は、先に述べたとおりである。本発明の組成物は、中鎖トリグリセライド10mg~15gおよびウロリチン10~5000mg、例えば、中鎖トリグリセライド20~7500mgおよびウロリチン20~2500mg、例えば、中鎖トリグリセライド25mg~2500mgおよびウロリチン50~1500mg、例えば、中鎖トリグリセライド50mg~4500mgおよびウロリチン50~1500mg、例えば、中鎖トリグリセライド250~4500mgおよびウロリチン250~1500mg、例えば、中鎖トリグリセライド50~3000mgおよびウロリチン50~1000mg、例えば、中鎖トリグリセライド250~3000mgおよびウロリチン250~1000mgを含有しうる。本組成物は、レシチンを更に含有することが好ましい。本組成物はまた、付加的な安定剤、例えば、モノステアリン酸グリセリンを更に含有することが好ましい。
【0060】
典型的な組成を、表1に示す。
【0061】
【0062】
本発明の組成物は、ウロリチンと中鎖トリグリセライドとを含有する。本発明の組成物は、例えば、中鎖トリグリセライド20~85重量%およびウロリチン15~70重量%、例えば、中鎖トリグリセライド40~80重量%およびウロリチン20~60重量%、例えば、中鎖トリグリセライド50~70重量%およびウロリチン30~50重量%、例えば、中鎖トリグリセライド60~75重量%およびウロリチン25~40重量%を含有しうる。
【0063】
本発明の組成物は、ウロリチン、中鎖トリグリセライドおよび乳化剤(例えば、レシチンなどのホスファチジルコリン)を含むことが好ましい。例えば、本発明の組成物は、中鎖トリグリセライド10~80重量%、ウロリチン5~70重量%、およびレシチン0.5~65重量%を含有しうる。本発明の組成物は、中鎖トリグリセライド20~70重量%、ウロリチン15~70重量%、およびレシチン0.5~50重量%、例えば、中鎖トリグリセライド25~50重量%、ウロリチン20~50重量%、およびレシチン20~50重量%、例えば、中鎖トリグリセライド30~40重量%、ウロリチン25~35重量%、レシチンおよび30~40重量%を含有しうる。代替的に、ウロリチンと中鎖トリグリセライドとレシチンとを含む本発明の組成物は、例えば、中鎖トリグリセライド60~75重量%、ウロリチン25~40重量%、およびレシチン0.5~5重量%を含有しうる。
【0064】
本発明の更に好ましい組成物は、ウロリチンと、中鎖トリグリセライドと、レシチンなどの乳化剤と、GMSなどの安定剤とを含みうる。例えば、本発明の組成物は、中鎖トリグリセライドを25~75重量%、ウロリチンを20~50重量%、レシチンを0.5~50重量%、およびGMSを0.5~5重量%、例えば、中鎖トリグリセライドを30~40重量%、ウロリチンを25~35重量%、レシチンを30~40重量%、およびGMSを0.5~3重量%含有しうる。代替的に、ウロリチンと中鎖トリグリセライドとレシチンとGMSとを含む本発明の組成物は、例えば、中鎖トリグリセライド60~75重量%、ウロリチン25~40重量%、レシチン0.5~5重量%、およびGMS0.5~3重量%を含有しうる。
【0065】
本発明の更なる組成物は、ウロリチン、中鎖トリグリセライド、レシチンなどの乳化剤および/またはTween(ポリソルベート)、ならびにGMSなどの安定剤を含有しうる。例えば、本発明の組成物は、中鎖トリグリセライドを25~75重量%、ウロリチンを20~50重量%、レシチンを0.5~50重量%、GMSを0.5~5重量%、およびTween60を1~10重量%、例えば、中鎖トリグリセライドを60~75重量%、ウロリチンを25~40重量%、レシチンを0.5~5重量%、GMSを0.5~3重量%、およびTween60を1~5重量%含有しうる。
【0066】
治療:
本発明の組成物は、単一の治療薬として服用される場合もあれば、あるいは、より一般的には、一連の治療薬として服用される場合もある。一実施例において、被験者は、運動の前または後に、一服分(dose)を服用する。運動できない被験者の場合、本組成物の一服分を、例えば、1日に1回、2回もしくは3回とすることも可能であるし、または1週間当たり2回、3回、4回、5回もしくは6回とすることも可能である。他の実施例において、被験者は、運動能力または運動の必要性とは関係なしに、本発明を服用しても差し支えない。また、特定の治療の過程を通じて、本化合物の有効投薬量が増加または減少する可能性のあることが、理解されるであろう。
【0067】
医薬的および非医薬的な治療:
本発明の組成物は、薬品としての用途に対応しうる。本組成物は、栄養補助食品、機能食品または医療食として用いることができる。ゆえに、本発明の組成物は、様々な疾患、ならびに疾患とは見なされない健康障害の治療に有用である。特に、有病および無病の健康障害は、ミトコンドリア活性の不足により特徴付けられる場合がある。本組成物は、疾患および病状の両方の治療に有用であることが明らかにされているほか、身体的性能の不良、持久能力および筋機能の減損により特徴付けられる病気を有する健常者における正常な生理的機能の管理に有用であることも見出されている。本発明の組成物は、若年者および高齢者を含めた疾患罹患者における身体的性能を向上させうる。本発明の組成物は、健常者(アスリート、運動しない人、座りがちな人および高齢者を含む)における身体的性能、例えば、短期的な性能または長期的な性能を向上させうる。この性能向上は、一定距離の歩行または走行に費やされた時間(例えば、6分間の歩行試験(MWT)中の性能向上、一定距離を走行する時間の短縮、国際的な身体活性アンケートのIPAQスコアの向上、一定時間における椅子立ち上がり回数の増加を基準に測定することもできるし、あるいは身体的性能を測定するために設計された別の試験で測定することもできる。
【0068】
本発明の組成物は更に、持久能力の向上を実現する。持久能力とは、概ね強度<80%VO2maxにて一定の作業負荷で運動したときの、疲労までの時間を指す。本発明の組成物は、若年者および高齢者を含めた疾患罹患者における持久能力を向上させうる。本発明の組成物は、健常者(アスリート、運動しない人、座りがちな人および高齢者を含む)における持久能力を向上させうる。本発明は、特定の活動(例えば、フィットネス・トレーニング、歩行、走行、水泳またはサイクリング)を実行する一方で、疲労までの時間を遅延させる方法を提供する。この持久能力の向上は、客観的な測定値(例えば、速度、酸素消費量または心拍数)により評価することもできるし、あるいは自己報告の測定値(例えば、検証済アンケートの使用)とすることもできる。
【0069】
本発明は更に、筋機能の減損を改善、維持または低減するための組成物を提供する。本発明の組成物は、若年者および高齢者を含めた疾患罹患者における筋機能の減損を改善、維持または低減させうる。本発明の組成物は、健常者(アスリート、運動しない人、座りがちな人および高齢者を含む)における筋機能の減損を改善、維持または低減させうる。例えば、本発明の組成物は、例えば、重いものを持ち上げる能力の増強、または手の握力増強等の運動のような身体活動の実施改善によって証明されているように、筋強度を増強させうる。また、本発明の組成物は、例えば、正常な筋機能、筋機能減弱または筋機能減損の状態において筋肉量を増加または維持することによって、筋構造を改善しうる。
【0070】
本発明は更に、自己報告のアンケートを使用して確認されたように、身体的性能または持久能力を人に感知される程度に向上させる組成物を提供する。これは、例えば、運動または活動中に感知される労作もしくは尽力を軽減することによって実現される。
【0071】
本発明は更に、肥満、代謝率低下、代謝症候群、真性糖尿病、心血管疾患、高脂血症、記憶低下、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレス、不安障害、脂肪肝疾患(例えば、NAFLDおよびNASH)などの、ミトコンドリア活性が不十分なことに関連する病気を含めた様々な病気の治療において、肝機能の改善および体重管理を目的として用いられる、本発明の組成物を提供するものである。特に、本発明の組成物は、筋関連の病的状態の治療に有用であることが見出されている。したがって、本発明は、筋関連の病的状態を治療するのに有用な本発明の組成物を提供する。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を被験者に投与することを含む、被験者における筋関連の病的状態を治療する方法を提供する。筋関連の病気には、通常健康な人に影響を与える病気、および病的状態の人に影響を与える病気の両方が、包含される。健常者または疾患罹患者に見られるそのような筋状態としては、筋骨格疾患もしくは障害;カヘキシー;筋消耗;加齢による筋機能減弱;前虚弱;虚弱;ミオパシー;デュシェンヌ型筋ジストロフィおよび他のジストロフィなどの神経筋疾患;加齢による筋減少症;急性筋減少症);筋収縮症および/もしくはカヘキシー(例えば火傷、床上安静、肢の運動抑止、または胸部、腹部および/もしくは整形外科的手術を含む大手術に関連する筋収縮症および/もしくはカヘキシー);ならびに筋肉変性疾患が挙げられる。
【0072】
本発明の組成物で治療できる加齢による病気の例としては、筋減少症および筋消耗が挙げられる。
【0073】
また、ミオパシーが例えばデュシェンヌ筋ジストロフィ症候群に起因する場合もある。インビトロで筋管の平均直径が、ウロリチンB(ただし、ウロリチンAは非対象)によって増加したことは、国際公開第2014/111580号において報告されている。ウロリチンAを使用しても、効果は見られなかった。
【0074】
非医薬治療:
本発明の組成物は、筋性能の強化に有用である。ゆえに、本発明は、筋性能を強化することを目的に用いられる、本発明の組成物を提供する。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を被験者に投与することによる、筋性能を強化する方法を提供する。投与は、自己投与でありうる。筋性能の強化は、筋機能、筋力、筋持久力および筋回復の向上のうちの1つ以上でありうる。
【0075】
ゆえに、本発明の組成物は、身体持久力(例えば、運動、肉体労働、スポーツ活動のような肉体作業を実行する能力)を向上させる方法、肉体疲労を阻止または遅延させる方法、作業能力および持久力を増強する方法、ならびに心臓および心血管機能を強化する方法に使用できる。
【0076】
筋機能の向上は、加齢による病気の結果として筋機能が減弱した高齢の被験者において、特に有益でありうる。例えば、筋機能の向上による恩恵を受けることのできる被験者は、筋機能の減弱を経る場合があり、それが原因で後に前虚弱および虚弱を来たす可能性がある。そのような被験者は、筋機能の低下のほか、筋肉消耗を必ずしも経験するとは限らない。被験者によっては、例えば筋減少症に罹患した被験者のなかには、筋消耗および筋機能低下の両方を経験する人もいる。本発明の組成物は、筋性能を強化することを目的に使用される場合があり、これは、虚弱または前虚弱である被験者に本発明の組成物を投与することによって為される。
【0077】
筋性能とは、アスリートがスポーツ活動に参加したときに筋肉を駆使する能力、つまり、運動能力でありうる。運動能力、強度、速度および持久力の増強は、筋収縮強度の上昇、筋収縮の振幅上昇、または刺激から収縮までの筋肉反応時間の短縮により測定される。アスリートとは、パフォーマンスにおける強度、速度または持久力の水準向上を達成しようとして、例えばボディビルダー、競輪選手、長距離走者のような任意の水準で運動に参加する人を指す。運動能力の増強は、筋疲労を克服する能力、および活動を長時間にわたって持続してトレーニング効果を高める能力によって顕在化される。
【実施例0078】
下記実施例に、本発明の例を挙げて説明する。
【0079】
化合物
ウロリチンAを、以下のようにして調製した。
2-ブロモ-5-メトキシ安息香酸1およびレゾルシノール2から始まる2つの工程で、ウロリチンA(4)を調製した。純粋な化合物を淡黄色の粉末として得た。
【0080】
【0081】
工程1:
2-ブロモ-5-メトキシ安息香酸1(27.6g;119mmol;1.0当量)、レゾルシノール2(26.3g;239mmol;2.0当量)と水酸化ナトリウム(10.5g;263mmol;2.2当量)との混合物を水(120mL)溶解した水溶液を、還流させながら1時間加熱した。次いで、硫酸銅の5%水溶液(3.88gのCuSO4・5H2Oを水50mLに溶解した水溶液;15.5mmol;0.1当量)を加えて、更に30分間混合物を還流させた。混合物を室温まで冷却して、固体をブフナー漏斗で濾過した。残渣を冷水で洗浄して、薄赤色の固体を得た。これを、熱いMeOH中で摩砕した。懸濁液を一晩4°Cで静置し、結果として生じた沈澱物を濾過し、冷えたMeOHで洗浄して、標題化合物3を薄茶色固体として得た。
【0082】
工程2:
3(10.0g;41mmol;1.0当量)を乾燥ジクロロメタン(100mL)中に溶解した懸濁液に、三臭化ホウ素を乾燥ジクロロメタン中に溶解した1M溶液(11.93mLの純粋BBr3を110mLの無水ジクロロメタン中に溶解した溶液;124mmol;3.0当量)を、0°Cにて滴下して加えた。混合物を0°Cにて1時間静置してから、室温に達するまで暖めた。溶液を、その温度で17時間攪拌した。その後、混合物に十分に氷を加えた。黄色の沈澱物を濾過し、冷水で洗浄して、黄色の固体を得た。これを加熱し、酢酸中で3時間還流させた。熱い溶液をすばやく濾過し、沈澱物を酢酸で洗浄し、続いてジエチルエーテルで洗浄してから、標題化合物4を黄色の固体として得た。1Hおよび13C NMRは、4の構造に準ずるものであった。
【0083】
実施例1:中鎖トリグリセライド有りまたは無しで調合されたウロリチンAのバイオアベイラビリティ研究
雄のスプラーグドーリー・ラットに一晩絶食させた後、更に賦形剤を添加しないウロリチンAの生理食塩水懸濁液、または更に様々な賦形剤を添加したウロリチンの製剤Aを、60mg/kg/日に対応する用量にて経口で強制飼養して投与した。製剤中に使用されているウロリチンは、粒径分布D90が9μm~15μm、且つD50が2μm~9μmとなるように微粉化されていた。実際の粒径は、D90が11.5、D50が3.9、且つD10が0.7μmであった。用いられた製剤の成分(重量%)を、下表2に示す。
【0084】
【0085】
中鎖トリグリセライドは、Cremer Oleo GmbH & Co KGから、C6を0.5%以下、C8を55~65%、C10を35~45%、およびC12を1.5%以下含有するCremerCOOR MCT 60/40 EPという製品名のものを入手した。
【0086】
レシチンは、Cargill, Inc.から、最小限32%のホスファチジルコリンを含有するEpikuron(登録商標)135 FIPという製品名のものを入手した。
【0087】
モノステアリン酸グリセリンは、Cremer Oleo GmbH & Co KGから、モノアシルグリセロール40.0~50.0%、ジアシルグリセロール30.0~45.0%、およびトリアシルグリセロール5.0~15.0%を含有するIMWITOR(登録商標)900 (F) Pという製品名のものを入手した。
【0088】
それぞれ異なる時点で、頸静脈挿管を通してラットから血液を採取し、血漿中のウロリチンAを定量し、それぞれ異なる製剤中における薬物動態プロファイルを判別した。合計6匹のラットにおいて、各製剤の研究を繰り返し行った。
図1に、使用された各製剤について、結果として得られた薬物動態プロファイルを示す。収集されたデータを、下表3に要約する。
【0089】
【0090】
ウロリチンAを生理食塩水中に溶解した懸濁液は、二重ピーク曲線を呈し、24時間目にTmax値がかなり遅延し、4時間目に血中濃度のピークが縮小した。対照的に、賦形剤を含む製剤65~68の各々は、4時間目のTmaxで、単一ピークのみを呈した。製剤65~68の単一ピークの薬物動態プロファイルは、服用量および投与頻度の最適化を促すので、生理食塩水懸濁液によって呈される二重ピークよりも経口投与の用途にはるかに好ましい。
【0091】
また、表3および
図1に示すとおり、ウロリチンAを、中鎖トリグリセライドを含めて調合した場合(製剤65および66)は、C
max値およびAUC値が上昇したことから判るように、中鎖トリグリセライドを含まない製剤(製剤67および68)よりもバイオアベイラビリティが増強される。中鎖トリグリセライドおよびレシチンの両方の組み合わせを含有する製剤66は、C
maxおよびAUCがかなり高い。この製剤の方が、レシチンのみを含有し中鎖トリグリセライドを含有しない製剤(製剤67)に比べて、ウロリチンAのバイオアベイラビリティが高い。レシチン製剤(製剤68)にTween60を添加しても、バイオアベイラビリティは改善されない。製剤65は、レシチンの代わりに中鎖トリグリセライドを使用したという点で、レシチンを使用した製剤68とは大きく異なる。C
max(ng/ml)は、製剤68では1.606であったのに対し、中鎖トリグリセライドを使用した製剤65では3.177に上昇した。すなわち増分は約98%である。また、製剤68のAUCが15.7であったのに対して、製剤65によって呈されたAUCは28.77であった。これは、レシチンの代わりに中鎖トリグリセライドを使用すれば、バイオアベイラビリティ83%上昇することを実証するものである。
【0092】
ゆえに、本発明による製剤65および66における、血中濃度に単一ピークのみを生ずる薬物動態プロファイルは両方とも、単独の生理食塩水中に溶解した未処方のウロリチンと比べて有利であること、ならびにバイオアベイラビリティが強化されていることを示すものであり、ウロリチンの経口投与に有用であるとされる。
【0093】
実施例2:ラットおよびヒトの両方における、製剤66中のウロリチンAの薬物動態プロファイルの比較
ヒトにおける製剤66中のウロリチンAの薬物動態プロファイルを、ラットにおいて観測される薬物動態プロファイルと比較した。ラットとヒトの表面積比率で定量された、ウロリチンAの等価用量を、ヒトにおいて送達した。ラットにおいて、製剤66を60mg/kg/dの用量で用い、薬物動態の治験を実施した。体表面積に基づく用量換算に関するFDAガイダンスに従って、この用量を換算係数6.2で除算し、ヒト等価用量を算出した。結果として得られたヒト等価用量(ヒトを対象とする)は9.68mg/kg/dであった。成人の平均重量を60~70kgと想定した場合、ウロリチンAの1日用量は580~680mgとなる。この1日用量と同様な等価用量500mg/日のウロリチンAを送達するソフトジェルを、ヒトに服用させた。両方の事例において、製剤中に使用されているウロリチンAは、粒径分布D90=8μm~20μm、D50=2μm~8μm、且つD10=0.5μm~2μmであった。
【0094】
一晩絶食後に、60mg/kg/日に対応する用量で経口強制飼養することによって製剤66でウロリチンAを投与された、雄のスプラーグドーリー・ラットにおける、製剤66の薬物動態プロファイルを判定した。用いられた製剤の成分(重量%)を、下表4に示す。
【0095】
【0096】
中鎖トリグリセライドは、Cremer Oleo GmbH & Co KGから、C6を0.5%以下、C8を55~65%、C10を35~45%、およびC12を1.5%以下含有するCremerCOOR MCT 60/40 EPという製品名のものを入手した。レシチンは、Cargill, Inc.から、最小限32%のホスファチジルコリンを含有するEpikuron(登録商標)135 FIPという製品名のものを入手した。
【0097】
モノステアリン酸グリセリンは、Cremer Oleo GmbH & Co KGから、モノアシルグリセロール40.0~50.0%、ジアシルグリセロール30.0~45.0%、およびトリアシルグリセロール5.0~15.0%を含有するIMWITOR(登録商標)900 (F) Pという製品名のものを入手した。
【0098】
それぞれ異なる時点で、頸静脈挿管によって血液をラットから採取し、血漿中のウロリチンAを定量し、その薬物動態プロファイルを判別した。合計6匹のラットにおいて、製剤の研究を繰り返し行った。
図2に示すとおり、結果として得られた薬物動態プロファイルを、相対C
max=1に正規化した。
【0099】
ラットにおいて60mg/kg/dの用量で観察された薬物動態プロファイルとヒトにおける薬物動態プロファイルとを比較するため、製剤66中にそれぞれウロリチンA250mgを含有するソフトジェル・カプセルを、標準の方法で調製した。
【0100】
製剤66含有のソフトジェルによって送達されたウロリチンAの薬物動態プロファイルが、ラットにおいて観察された薬物動態プロファイルと同様なものかどうかを確認する目的で、健常者6人(成人男性3人および女性3人)に、2つのソフトジェル中に送達されたウロリチンA500mgを投与した。一晩絶食させた人に、0時間目(T0h)に2つのソフトジェルを投与した。これらのソフトジェルはそれぞれ製剤66中にウロリチンA250mgと水とを含有していた。
【0101】
【0102】
投与前、0.5、1、2、3、4、6、8、12、24および36時間目の時点で、血液を試料採取した。各時点で、血液試料6mLを、K2-EDTAでコーティングされたチューブに導入した。血液試料を逆さにひっくり返して、抗凝固剤と完全に混合させた。血液が採取されてから30分間以内に、各血液試料を4°C、1500gにて10分間遠心分離し、遠心分離後30分以内に、事前にラベル付けしたポリプロピレンチューブに、ヒト血漿の最上層を移した。各時点で、血漿試料中のウロリチンAの濃度を定量し、その薬物動態プロファイルを判定した。
図2に、ラットおよびヒトの両方の試料中の製剤66について、結果として得られた薬物動態プロファイルを示す。これらのプロファイルを比較するため、算出された最大血中濃度(すなわちC
max)を値1に設定した。
【0103】
図2において観察されるように、ソフトジェルを介してヒトに送達されたウロリチンAは、ラットにおいて観察されたのと同様な薬物動態プロファイル、および急激な単一ピークを呈した。ラットにおけるT
maxは、齧歯動物では4h、ヒトでは6hであった。曲線においてこのようなシフトが見られたのは、製剤66の投与における差異(齧歯動物では単純な強制飼養による投与、あるいはヒトではソフトジェルを介した投与)に起因する可能性が高い。また、ヒトにおいて血液中ウロリチンAの濃度が持続したことも、発明者らによって確認されている。この濃度持続は、齧歯動物データからは予測されなかったことであり、ヒトにウロリチンAを経口送達する際の、中鎖トリグリセライドの有用性が、以前にも増して更に強調されることとなった。
【0104】
このことから、中鎖トリグリセライド含有の製剤66が、ヒトおよび他の哺乳動物におけるウロリチンAの送達に有用であることが判る。これらの結果は、ウロリチンAをMCT含有の製剤66中に調合したときに、ヒトおよびラットの両方において魅力的なバイオアベイラビリティプロファイルを呈すると共に、好ましい薬物動態プロファイルを示し、ウロリチンの経口投与において有用なものとなることを実証している。
【0105】
実施例3:粒径がウロリチンAのバイオアベイラビリティに及ぼす効果
MC50 Spiral Jetmillを使用し、濾過された窒素を用いて、供給速度240g/時、ベンチュリ圧力12bar、且つミル圧力12barといった制御方法によって、ウロリチンAの粒径を縮小した。Malvern Particle Sizeアナライザ(英国のMalvern Instruments製)で、ウロリチンAの様々な粒径分布を定量した。3つの試料を綿密に評価した。ウロリチンAの試料#1の粒径分布は、D10が1.03μm、D50が53.4μm、且つD90が365μmであった。ウロリチンAの試料#2の粒径は、D10が0.272μm、D50が2.17μm、且つD90が6.84μmであった。ウロリチンAの試料#3の粒径は、D10が0.597μm、D50が5.67μm、且つD90が40.1μmであった。
【0106】
【0107】
特定の粒径分布がバイオアベイラビリティに及ぼす影響を実証するため、雄のスプラーグドーリー・ラットを一晩絶食させた後、DMSO15%と0.5%メチルセルロースおよび0.25%Tween80の水溶液85%との混合物中に懸濁させたウロリチンAの試料#1、試料#2、または試料#3を、25mg/kg/日に対応する用量にて経口で強制飼養して投与した。
【0108】
【0109】
強制飼養のための溶液を、ウロリチンA粉末35mgを15%DMSO7ml、0.5%メチルセルロース/0.25%Tween80の水溶液で希釈し、5mg/mlの微細懸濁液を得ることによって調製した。DMSOはBDHから、メチルセルロースはSigmaから、Tween80はSigma-Aldrichから入手されたものである。
【0110】
それぞれ異なる時点で、頸静脈挿管によって血液をラットから採取し、血漿中のウロリチンAを定量し、試料#1、試料#2および試料#3を経口で強制飼養した後、その薬物動態プロファイルを判別した。試料ごとに、ラット3匹について本研究を繰り返した。
図3に、結果として得られた、ウロリチン試料#1および試料#2の薬物動態プロファイルを示す。収集されたデータは、下表8に要約したとおりである。
【0111】
【0112】
ウロリチンAは、粒径D90が50μm未満に減少したときに、バイオアベイラビリティの増加を呈した。試料#2において、試料#1と比較して、Cmaxに116%の相対的増加(2.16倍の増加)およびAUCに28%の増加が見られた。試料#3においては、AUCに26%の相対的増加が見られた。
【0113】
これらの結果は、ウロリチンA製剤の粒径D90が50μm未満の場合、粒径D90が300μm超のウロリチンA製剤と比べ、終始一貫して高いバイオアベイラビリティを呈することを実証している。付加的に、ウロリチンA製剤の粒径D90が20μm未満ならば特に有利であり、ウロリチンAの血中濃度のピークをかなり上昇させることが可能となり、Cmaxが2倍超に達することが観察された。