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特開2022-177224CD32Bに交差結合した抗CD19抗体を用いたIgG4関連疾患の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177224
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】CD32Bに交差結合した抗CD19抗体を用いたIgG4関連疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221122BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221122BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/06
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151308
(22)【出願日】2022-09-22
(62)【分割の表示】P 2019516918の分割
【原出願日】2017-06-08
(31)【優先権主張番号】62/347,419
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/399,896
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/421,261
(32)【優先日】2016-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518436401
【氏名又は名称】ゼンコー,インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】518436412
【氏名又は名称】デブラ ザック
(71)【出願人】
【識別番号】518436423
【氏名又は名称】ジョン エイチ.ストーン
(71)【出願人】
【識別番号】518436434
【氏名又は名称】シブ ピライ
(71)【出願人】
【識別番号】518436445
【氏名又は名称】ポール フォスター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】デブラ ザック
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エイチ.ストーン
(72)【発明者】
【氏名】シブ ピライ
(72)【発明者】
【氏名】ポール フォスター
(57)【要約】
【課題】本開示は、FcγRIIb+B細胞に結合し、細胞表面上のCD19と細胞表面上のFcγRIIbに共結合する免疫グロブリン、その免疫グロブリンの生成方法、およびIgG4関連疾患の治療ための免疫グロブリンの使用方法に関する。
【解決手段】本発明の免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、特定のアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントである。
【選択図】図29
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B細胞の表面のFc RIIbと結合し、かつCD19と共結合する免疫グロブリンを含有する、IgG4関連疾患(IgG4-RD)の対象において対象の形質芽球及びCD4+SLAMF7+CTL細胞を減少させるための医薬組成物であって、当該免疫グロブリンが、重鎖が配列番号9のアミノ酸配列、軽鎖が配列番号7のアミノ酸配列を有し、ここで前記免疫グロブリンによる処置以前の形質芽球の数に対し少なくとも80%の末梢血形質芽球の減少が、前記免疫グロブリンの投与後7日以内に観察される、医薬組成物。
【請求項2】
前記CD4+SLAMF7+CTL細胞の減少が、前記免疫グロブリンの投与後24日以内に観察される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記CD4+SLAMF7+CTL細胞が、免疫グロブリン投与前のCD4+SLAMF7+CTL細胞数と比較して少なくとも10%減少する、請求項1または2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記IgG4関連疾患が、IgG4関連唾液腺炎(慢性硬化性唾液腺炎、カットナー腫瘍、ミクリッツ病)、IgG4関連涙腺炎(ミクリッツ病)、IgG4関連眼疾患(特発性眼窩部炎症性疾患、眼窩偽腫瘍)、慢性副鼻腔炎、好酸球性血管中心性線維症、IgG4関連下垂体炎(IgG4関連汎下垂体炎、IgG4関連腺下垂体炎、IgG4関連漏斗下垂体後葉炎、自己免疫性下垂体炎)、IgG4関連髄膜炎、IgG4関連軟膜炎(特発性肥厚性髄膜炎)、IgG4関連膵炎(1型自己免疫性膵炎、IgG4関連AIP、リンパ形質細胞性硬化性膵炎、主膵管の広汎性不規則狭窄に伴う慢性膵炎)、IgG4関連肺疾患(肺の炎症性偽腫瘍)、IgG4関連肋膜炎、IgG4関連肝障害、IgG4関連硬化性胆管炎、IgG4関連胆嚢炎、IgG4関連大動脈炎(炎症性大動脈瘤)、IgG4関連大動脈周囲炎(慢性大動脈周囲炎)、IgG4関連動脈周囲炎、IgG4関連心膜炎、IgG4関連縦隔炎(線維性縦隔炎)、IgG4関連後腹膜線維症(後腹膜線維症、アルバラン-オーモンド症候群、オーモンド病(後腹膜線維症(tetroperitoneal fibrosis)))、腎周囲筋膜炎、ジェロタ筋膜炎/症候群、線維性尿管周囲炎、硬化性脂肪肉芽腫、硬化性後腹膜肉芽腫、非特異性後腹膜炎症、硬化性後腹膜炎、血管周囲線維症に伴う後腹膜血管炎)、IgG4関連腸間膜炎(サブタイプは:腸間膜脂肪織炎、腸間膜リポジストロフィーおよび退縮性腸間膜炎である)(硬化性腸間膜炎、全身性結節性皮下脂肪織炎、脂肪硬化性腸間膜炎、腸間膜のウェーバー-クリスチャン病、腸間膜の脂肪肉芽腫、黄色肉芽腫性腸間膜炎)、IgG4関連乳腺炎(硬化性乳腺炎)、IgG4関連腎疾患(IgG4-RKD)、IgG4関連尿細管間質性腎炎(IgG4-TIN)、IgG4関連膜性糸球体腎炎(特発性尿細管間質性腎炎)、IgG4関連前立腺炎、IgG4関連管周囲(perivasal)線維症(慢性陰嚢痛)、IgG4関連偽性偽腫瘍、IgG4関連精巣上体精巣炎(傍精巣繊維性偽腫瘍、精索の炎症性偽腫瘍、精索の偽肉腫性筋線維芽細胞性増殖、増殖性精索炎、慢性増殖性精巣周囲炎、線維腫性精巣周囲炎、結節性精巣周囲炎、反応性精巣周囲炎、繊維性中皮腫)、IgG4関連リンパ節症、IgG4関連皮膚疾患(好酸球増多を伴う血管リンパ球増殖症、皮膚偽性リンパ腫)、IgG4関連神経周囲疾患、およびIgG4関連甲状腺疾患(リーデル甲状腺炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、炎症性偽腫瘍、および多病巣性線維性硬化症からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記IgG4関連疾患が、自己免疫性膵炎(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、線維性縦隔炎、特発性肥厚性髄膜炎、特発性尿細管間質性腎炎、炎症性偽腫瘍、カットナー腫瘍、ミクリッツ病、線維性硬化症、大動脈周囲炎、動脈周囲炎、炎症性多病巣性大動脈瘤、オーモンド病(後腹膜線維症)、リーデル甲状腺炎、および硬化性腸間膜炎からなる群より選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
免疫グロブリン投与後2週間以内に、対象のIgG4-RDレスポンダー指数スコア(IgG4-RD RIスコア)が、ベースラインスコアから少なくとも1低減される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記IgG4-RD RIスコアが、免疫グロブリン投与後2週間以内に少なくとも3低減される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
抗炎症性鎮痛薬(例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、またはセレブレックスなどのNSAID)、アセトアミノフェン、免疫抑制剤、および免疫抑制性生物製剤からなる群から選択されるIgG4関連疾患の治療剤を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記対象には、疾患が再発しているか、またはリツキシマブが無効である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
5mg/体重kgの免疫グロブリンが対象に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条の下で、2016年6月8日に出願された「METHODS AND COMPOSITIONS FOR INHIBITING CD32B EXPRESSING CELLS」と題する米国仮特許出願第62/347,419号、2016年9月26日に出願された「METHODS AND COMPOSITIONS FOR INHIBITING CD32B EXPRESSING CELLS IN IGG4-RELATED DISEASES」と題する米国仮特許出願第62/399,896号、および2016年11月12日に出願された「METHODS AND COMPOSITIONS FOR INHIBITING CD32B EXPRESSING CELLS IN IGG4-RELATED DISEASES」と題する米国仮特許出願第62/421,261号に基づく優先権を主張する。
配列表
【0002】
この開示とともに提出された配列表は、その内容を参照により本明細書に援用される。
【0003】
本開示は、FcγRIIb+B細胞に結合し、細胞表面上のCD19と細胞表面上のFcγRIIbに共結合(coengage)する免疫グロブリン、その免疫グロブリンの生成方法、およびIgG4関連疾患の治療ための免疫グロブリンの使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
B細胞による抗原認識は、シグナル伝達の構成要素CD79a(Igα)とCD79b(Igβ)の複合体にある表面結合免疫グロブリンであるB細胞受容体(BCR)によって媒介される。抗原に結合した際のBCRの架橋によって、CD79aとCD79bの免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)がリン酸化され、下流の分子を膜にリクルートし、カルシウム動員を刺激する細胞内シグナル伝達事象のカスケードが開始される。これによって、液性免疫反応をもたらす多様なB細胞応答(例えば、細胞生存、増殖、抗体産生、抗原提示、分化など)が誘導される(DeFranco, A.L., 1997, Curr. Opin. Immunol. 9, 296-308; Pierce, S.K., 2002, Nat. Rev. Immunol. 2, 96-105; Ravetch, J.V. & Lanier, L.L., 2000, Science 290, 84-89)。BCR共受容体複合体の他の構成要素は、BCR活性化シグナルを増強(例えば、CD19、CD21、およびCD81)または抑制する(例えば、CD22およびCD72)(Doody, G.M. et al., 1996, Curr. Opin. Immunol. 8, 378-382; Li, D.H. et al., 2006, J. Immunol. 176, 5321-5328)。このように、免疫系は複数のBCR調節機構を維持して、B細胞応答がきちんと制御されることを担保している。
【0005】
抗体が抗原に対して産生される、免疫複合体(例えば、抗体に結合した抗原)の循環レベルは増大する。これらの免疫複合体は、抗原に誘発されたB細胞活性化を下方制御する。これらの免疫複合体は、同族BCRを低親和性抑制受容体FcγRIIb、B細胞上の唯一のIgG受容体と共結合することによって、抗原に誘発されたB細胞活性化を下方制御すると考えられている(Heyman, B., 2003, Immunol. Lett. 88, 157-161)。また、抗体産生のこのネガティブフィードバックは、F(ab’)抗体フラグメントを含有する免疫複合体が抑制性でないため、FcγRIIbと抗体Fcドメインの相互作用を必要とするとも考えられている(Chan, P.L. & Sinclair, N.R., 1973, Immunology 24, 289-301)。FcγRIIbの細胞内の免疫受容体のチロシンベース抑制性モチーフ(ITIM)は、BCRに誘発された細胞内シグナルを抑制するのに必要である(Amigorena, S. et al., 1992, Science 256, 1808-1812; Muta, T., et al., 1994, Nature 368, 70-73)。この抑制効果は、FcγRIIb ITIMのリン酸化によって生じ、そしてそれが、SH2含有イノシトールポリホスファート5-ホスファターゼ(SHIP)をリクルートして、ITIMに誘発された細胞内カルシウム動員を中和する(Kiener, P.A., et al., 1997, J. Biol. Chem. 272, 3838-3844; Ono, M., et al., 1996, Nature 383, 263-266; Ravetch, J.V. & Lanier, L.L., 2000, Science 290, 84-89)。加えて、FcγRIIb媒介性SHIPリン酸化が、下流のRas-MAPK増殖経路を抑制する(Tridandapani, S. et al., 1998, Immunol. 35, 1135-1146)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、FcγRIIbを発現する細胞を抑制するために免疫グロブリンを使用する方法を提供する。本明細書中に開示したFcγRIIb細胞抑制方法は、患者におけるIgG4関連疾患(IgG4-RD)を治療することを含む。その方法は、B細胞表面上のFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンを投与することを含み、ここで、前記免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントであり、ここで、ナンバリングが、カバットにあるようなEUインデックスによるものであり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの置換は、267Eおよび328Fからなる群から選択され得る。他の実施形態において、Fcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、Fc領域内に少なくとも2つのアミノ酸置換を含み得、ここで、前記少なくとも2つの置換は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される。他の実施形態において、少なくとも2つの置換は、267E/328Fであってもよい。他の実施形態において、FcγRIIbと結合するFc領域は、配列番号7および配列番号9を含む。
【0007】
対象におけるIgG4-RDに関連する少なくとも1つの症状を軽減する方法もまた、本明細書中に開示される。その方法は、B細胞表面上のFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンを投与することを含み、ここで、前記免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントであり、ここで、ナンバリングが、カバットにあるようなEUインデックスによるものである。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの置換は、267Eおよび328Fからなる群から選択され得る。他の実施形態において、Fcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、Fc領域内に少なくとも2つのアミノ酸置換を含み得、ここで、前記少なくとも2つの置換は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される。他の実施形態において、少なくとも2つの置換は、267E/328Fであってもよい。他の実施形態において、FcγRIIbと結合するFc領域は、配列番号7および配列番号9を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、IgG4-RDに関連する少なくとも1つの症状は、免疫グロブリンの投与の7日以内に軽減され得る。更なる実施形態において、IgG4-RDに関連するその少なくとも1つの症状は、免疫グロブリンの投与の14日以内に軽減される。他の実施形態において、少なくとも1つの症状は、リンパ節、顎下腺、耳下腺、涙腺、腎臓、心臓、心膜、眼窩、鼻腔、肺、胆管、唾液腺、および膵臓から選択される器官に現れる。
【0009】
IgG4関連疾患を患っている対象の形質芽球を枯渇させる方法もまた、本明細書中に開示される。その方法は、B細胞表面上のFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンを投与することを含み、ここで、前記免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントであり、ここで、ナンバリングが、カバットにあるようなEUインデックスによるものである。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの置換は、267Eおよび328Fからなる群から選択され得る。他の実施形態において、Fcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、Fc領域内に少なくとも2つのアミノ酸置換を含み得、ここで、前記少なくとも2つの置換は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される。他の実施形態において、少なくとも2つの置換は、267E/328Fであってもよい。他の実施形態において、FcγRIIbと結合するFc領域は、配列番号7および配列番号9を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、形質芽球の枯渇は、B細胞表面上でFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンの投与後7日以内に観察される。他の実施形態において、形質芽球を、免疫グロブリンの投与前の形質芽球の数と比較して、少なくとも10%だけ枯渇させ得る。他の実施形態において、形質芽球は、免疫グロブリンの投与前の形質芽球の数と比較して、少なくとも20%だけ枯渇させ得る。他の実施形態において、形質芽球を、ベースラインに対して少なくとも30%だけ枯渇させ得る。他の実施形態において、形質芽球を、免疫グロブリンの投与前の形質芽球の数と比較して、少なくとも40%だけ枯渇させ得る。他の実施形態において、形質芽球を、免疫グロブリンの投与前の形質芽球の数と比較して、少なくとも80%だけ枯渇させ得る。
【0011】
IgG4関連疾患を患っている対象において、CD4+SLAMF7+CTL細胞数を削減する方法が、本明細書中に更に開示される。その方法は、B細胞表面上のFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンを投与することを含み、ここで、前記免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントであり、ここで、ナンバリングが、カバットにあるようなEUインデックスによるものである。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの置換は、267Eおよび328Fからなる群から選択され得る。他の実施形態において、Fcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、Fc領域内に少なくとも2つのアミノ酸置換を含み得、ここで、前記少なくとも2つの置換は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される。他の実施形態において、少なくとも2つの置換は、267E/328Fであってもよい。他の実施形態において、FcγRIIbと結合するFc領域は、配列番号7および配列番号9を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、CD4+SLAMF7+CTL細胞数の削減は、B細胞表面上でFc RIIbおよびCD19に結合する免疫グロブリンの投与後24日以内に観察され得る。他の実施形態において、CD4+SLAMF7+CTL細胞は、免疫グロブリン投与前のCD4+SLAMF7+CTL細胞数と比較して少なくとも10%だけ削減される。
【0013】
対象における疾患を治療する方法が本明細書中に開示される。その方法は、B細胞表面上のFcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンを投与することを含み、ここで、前記免疫グロブリンはFc領域を含み、ここで、前記Fc領域は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、親FcポリペプチドのFcバリアントであり、ここで、ナンバリングが、カバットにあるようなEUインデックスによるものであり、およびここで、前記疾患は、IgG4関連唾液腺炎(慢性硬化性唾液腺炎、カットナー腫瘍、ミクリッツ病)、IgG4関連涙腺炎(ミクリッツ病)、IgG4関連眼疾患(特発性眼窩部炎症性疾患、眼窩偽腫瘍)、慢性副鼻腔炎、好酸球性血管中心性線維症、IgG4関連下垂体炎(IgG4関連汎下垂体炎、IgG4関連腺下垂体炎、IgG4関連漏斗下垂体後葉炎、自己免疫性下垂体炎)、IgG4関連髄膜炎、IgG4関連軟膜炎(特発性肥厚性髄膜炎)、IgG4関連膵炎(1型自己免疫性膵炎、IgG4関連AIP、リンパ形質細胞性硬化性膵炎、主膵管の広汎性不規則狭窄に伴う慢性膵炎)、IgG4関連肺疾患(肺の炎症性偽腫瘍)、IgG4関連肋膜炎、IgG4関連肝障害、IgG4関連硬化性胆管炎、IgG4関連胆嚢炎、IgG4関連大動脈炎(炎症性大動脈瘤)、IgG4関連大動脈周囲炎(慢性大動脈周囲炎)、IgG4関連動脈周囲炎、IgG4関連心膜炎、IgG4関連縦隔炎(線維性縦隔炎)、IgG4関連後腹膜線維症(後腹膜線維症、アルバラン-オーモンド症候群、オーモンド病(後腹膜線維症(tetroperitoneal fibrosis)))、腎周囲筋膜炎、ジェロタ筋膜炎/症候群、線維性尿管周囲炎、硬化性脂肪肉芽腫、硬化性後腹膜肉芽腫、非特異性後腹膜炎症、硬化性後腹膜炎、血管周囲線維症に伴う後腹膜血管炎)、IgG4関連腸間膜炎(サブタイプは:腸間膜脂肪織炎、腸間膜リポジストロフィーおよび退縮性腸間膜炎である)(硬化性腸間膜炎、全身性結節性皮下脂肪織炎、脂肪硬化性腸間膜炎、腸間膜のウェーバー-クリスチャン病、腸間膜の脂肪肉芽腫、黄色肉芽腫性腸間膜炎)、IgG4関連乳腺炎(硬化性乳腺炎)、IgG4関連腎疾患(IgG4-RKD)、IgG4関連尿細管間質性腎炎(IgG4-TIN)、IgG4関連膜性糸球体腎炎(特発性尿細管間質性腎炎)、IgG4関連前立腺炎、IgG4関連管周囲(perivasal)線維症(慢性陰嚢痛)、IgG4関連偽性偽腫瘍、IgG4関連精巣上体精巣炎(傍精巣繊維性偽腫瘍、精索の炎症性偽腫瘍、精索の偽肉腫性筋線維芽細胞性増殖、増殖性精索炎、慢性増殖性精巣周囲炎、線維腫性精巣周囲炎、結節性精巣周囲炎、反応性精巣周囲炎、繊維性中皮腫)、IgG4関連リンパ節症、IgG4関連皮膚疾患(好酸球増多を伴う血管リンパ球増殖症、皮膚偽性リンパ腫)、IgG4関連神経周囲疾患、およびIgG4関連甲状腺疾患(リーデル甲状腺炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、炎症性偽腫瘍、および多病巣性線維性硬化症からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記疾患は、自己免疫性膵炎(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、線維性縦隔炎、特発性肥厚性髄膜炎、特発性尿細管間質性腎炎、炎症性偽腫瘍、カットナー腫瘍、ミクリッツ病、線維性硬化症、大動脈周囲炎、動脈周囲炎、炎症性多病巣性大動脈瘤、オーモンド病(後腹膜線維症)、リーデル甲状腺炎、および硬化性腸間膜炎からなる群から選択され得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの置換は、267Eおよび328Fからなる群から選択され得る。他の実施形態において、Fcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、Fc領域内に少なくとも2つのアミノ酸置換を含み得、ここで、前記少なくとも2つの置換は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される。他の実施形態において、少なくとも2つの置換は、267E/328Fであってもよい。他の実施形態において、FcγRIIbと結合するFc領域は、配列番号7および配列番号9を含む。
【0014】
本明細書中に開示した任意の方法による対象への免疫グロブリンの投与はまた、対象のIgG4-RDレスポンダー指数スコア(IgG4-RD RIスコア)の低減も含み得る。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン投与後2週間以内に、対象のIgG4-RD RIスコアは、ベースラインスコアから少なくとも1だけ低減される。他の実施形態において、IgG4-RD RIスコアは、免疫グロブリン投与後2週間以内に≧3だけ低減される。
【0015】
本明細書中に開示した任意の方法による対象への免疫グロブリンの投与はまた、約1~約10mg/kg体重の免疫グロブリンを対象に投与することを含み得る。いくつかの実施形態において、約5mg/kg体重の免疫グロブリンを対象に投与する。いくつかの実施形態において、免疫グロブリンは14日毎に対象に投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、14日毎に少なくとも2つの用量で対象に投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、14日毎に少なくとも6つの用量で対象に投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、14日毎に少なくとも12個の用量で対象に投与される。
【0016】
本明細書中に開示した任意の方法による対象への免疫グロブリンの投与は更に、抗炎症性鎮痛薬(例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、またはセレブレックスなどのNSAID)、アセトアミノフェン、ステロイド、グルココルチコイド(すなわち、プレドニゾン)、免疫抑制剤(すなわち、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)、および免疫抑制性生物製剤(すなわちリツキシマブ、ボルテゾミブ)を含めたIgG4関連疾患の標準的治療法を投与することを含み得る。更なる実施形態において、本明細書中に開示した任意の方法は更に、ステロイドの使用を徐々に減らすこと、および/または中止することを含み得る。他の実施形態において、本明細書中に開示した任意の方法の対象には、再発する可能性があるか、または再発したかもしくはリツキシマブが無効であった。
【0017】
本明細書中に開示した任意の方法のB細胞は、形質細胞および形質芽球からなる群から選択され得る。更なる実施形態において、B細胞は形質芽球であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】ヒトIgG免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4のアミノ酸配列のアラインメント。図1Aは、CH1(Cγ1)およびヒンジドメインの配列を提供し、そして、図1Bは、CH2(Cγ2)およびCH3(Cγ3)ドメインの配列を提供する。位置は、IgG1配列のEUインデックスに従って付番され、そして、IgG1と、他の免疫グロブリンIgG2、IgG3、およびIgG4との差はグレーで示されている。アロタイプ多型は、多数の位置に存在し、そのため、提示した配列と従来技術の配列との軽微な差が存在し得る。想定されるFc領域の始まりは、標識され、EU226位または230位のいずれかとして本明細書中に規定される。
図1B】ヒトIgG免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4のアミノ酸配列のアラインメント。図1Aは、CH1(Cγ1)およびヒンジドメインの配列を提供し、そして、図1Bは、CH2(Cγ2)およびCH3(Cγ3)ドメインの配列を提供する。位置は、IgG1配列のEUインデックスに従って付番され、そして、IgG1と、他の免疫グロブリンIgG2、IgG3、およびIgG4との差はグレーで示されている。アロタイプ多型は、多数の位置に存在し、そのため、提示した配列と従来技術の配列との軽微な差が存在し得る。想定されるFc領域の始まりは、標識され、EU226位または230位のいずれかとして本明細書中に規定される。
【0019】
図2】ヒトガンマ1(図2A)およびガンマ2(図2B)鎖の一般的なハプロタイプ。
【0020】
図3】B細胞活性化を抑制する方法。ここで、CRは、BCR複合体の共受容体を表しているが、任意のFcγRIIb+細胞で発現される任意の抗原であり得る。
【0021】
図4】ヒトFcγRIIbへのFcバリアント抗CD19抗体の結合を示すBiacore表面プラズモン共鳴センサグラム。
【0022】
図5A】Biacore表面プラズモン共鳴法によって測定されるヒトFcγRsに対するFcバリアント抗体の親和性。グラフは、ヒトFcγRI(I)、R131FcγRIIa(RIIa)、H131FcγRIIa(HIIa)、FcγRIIb(IIb)、およびV158FcγRIIIa(VIIIa)への抗CD19バリアントおよびWT IgG1抗体の結合に関する-log(K)を示す。V158FcγRIIIaへのL235Y/S267E、G236D/S267E、およびS267E/L328Fの結合は、検出できなかった。
図5B】Biacore表面プラズモン共鳴法によって測定されるヒトFcγRsに対するFcバリアント抗体の親和性。グラフは、ヒトFcγRI(I)、R131FcγRIIa(RIIa)、H131FcγRIIa(HIIa)、FcγRIIb(IIb)、およびV158FcγRIIIa(VIIIa)への抗CD19バリアントおよびWT IgG1抗体の結合に関する-log(K)を示す。V158FcγRIIIaへのL235Y/S267E、G236D/S267E、およびS267E/L328Fの結合は、検出できなかった。
図5C】Biacore表面プラズモン共鳴法によって測定されるヒトFcγRsに対するFcバリアント抗体の親和性。グラフは、ヒトFcγRI(I)、R131FcγRIIa(RIIa)、H131FcγRIIa(HIIa)、FcγRIIb(IIb)、およびV158FcγRIIIa(VIIIa)への抗CD19バリアントおよびWT IgG1抗体の結合に関する-log(K)を示す。V158FcγRIIIaへのL235Y/S267E、G236D/S267E、およびS267E/L328Fの結合は、検出できなかった。
図5D】Biacore表面プラズモン共鳴法によって測定されるヒトFcγRsに対するFcバリアント抗体の親和性。グラフは、ヒトFcγRI(I)、R131FcγRIIa(RIIa)、H131FcγRIIa(HIIa)、FcγRIIb(IIb)、およびV158FcγRIIIa(VIIIa)への抗CD19バリアントおよびWT IgG1抗体の結合に関する-log(K)を示す。V158FcγRIIIaへのL235Y/S267E、G236D/S267E、およびS267E/L328Fの結合は、検出できなかった。
【0023】
図6】ヒトFcγRsへのFcバリアント抗体の結合は、細胞表面結合によって計測されるWT IgG1に合致する。抗体(バリアントおよびWT IgG1)を、FcγRIIbを用いて形質移入されたHEK293T細胞に加えて、細胞表面結合を評価した。結合曲線は、Fcバリアント濃度の関数としてMFIをプロットすることによって構成された。
【0024】
図7】Biacore表面プラズモン共鳴法によって測定されるヒトFcγRsに対するFcバリアント抗体の親和性。グラフは、ヒトFcγRI(I)、R131FcγRIIa(RIIa)、H131FcγRIIa(HIIa)、FcγRIIb(IIb)、およびV158FcγRIIIa(VIIIa)への抗CD19バリアントおよびWT IgG1抗体の結合に関する-log(K)を示す。
【0025】
図8】ここでは、抗mu(図8A)または抗CD79b(図8B)抗体と架橋することによって実施される、BCR活性化時の初代ヒトB細胞の生存を実証するATP依存性B細胞生存率アッセイ。
【0026】
図9】Fcバリアント抗CD19抗体によるB細胞増殖の抑制。抗RSV(呼吸器合胞体ウイルス)S267E/L328Fが、対照として使用される(RSVはB細胞で発現されない)。ATP依存性発光アッセイは、10μg/mlの抗CD79b活性化抗体の存在下でのB細胞増殖を計測するのに使用され、かつ、抗CD19-S267E/L328Fの効果を、抗CD19-IgG1(天然IgG1 Fv対照)および抗RSV-S267E/L328F(非CD19Fc対照)と比較した。CD19とFcγRIIb共結合の重要性を評価するために、抗RSV-S267E/L328F単独または抗CD19-IgG1との組み合わせを使用した。
【0027】
図10】抗CD19-S267E/L328Fは、初代ヒトB細胞のBCR活性化の抗アポトーシス効果を抑制する。FcγのRIIbとCD19の共結合によるBCRが媒介された生存シグナルの抑制を、10μg/mlの抗CD79bの存在下でアネキシンV染色を使用して調べた。B細胞アポトーシスは、抗CD19-S267E/L328Fによって刺激されたが、抗CD19-IgG1(Fv対照)、抗RSV-S267E/L328F(Fc対照)、または組み合わせた2つの対照によって刺激されない。
【0028】
図11】インビボにおけるヒトB細胞活性化を抑制する、CD19とFcγRIIbの共結合の能力に関する評価。(図11A)実験的プロトコルの略図。(図11B)TT免疫化、およびビヒクル(PBS)、抗CD19IgG1WT、高いFcγのRIIb親和性を有する抗CD19(a-CD19 S267E/L328F)、または抗CD20(リツキシマブ)を用いた治療後のhuPBL-SCIDマウスにおける抗破傷風トキソイド(TT)特異的抗体の力価。
【0029】
図12】1μg/mlの抗CD79b-SN8-G236R/L328R抗体の存在下でB細胞増殖を計測し、そして、抗CD20(クローンPRO70769)、-CD52(Campath)、および-CD19(HuAM4G7)抗体の高FcγRIIbバリアント(S267E/L328F)またはFcγRノックアウトバリアント(G236R/L328Rまたは^236R/L328R)バージョンの濃度を変化させる、ATP依存性発光アッセイ。
【0030】
図13】1μg/mlの抗CD79b-SN8-G236R/L328R抗体の存在下でB細胞増殖を計測し、そして、抗CD19抗体(クローンHD37、21D4、またはHuAM4G7)の高FcγRIIbバリアント(S267E/L328F)またはFcγRノックアウトバリアント(G236R/L328Rまたは^236R/L328R)バージョンの濃度を変化させる、ATP依存性発光アッセイ。
【0031】
図14A図14Aは、様々な可変領域、重鎖定常領域、および完全長抗体のアミノ酸配列を列挙する。図14Bは、図14Aのリストの続きである。図14Cは、図14Aおよび図14Bのリストの続きである。図14Dは、14A~図14Cのリストの続きである。
図14B図14Aは、様々な可変領域、重鎖定常領域、および完全長抗体のアミノ酸配列を列挙する。図14Bは、図14Aのリストの続きである。図14Cは、図14Aおよび図14Bのリストの続きである。図14Dは、14A~図14Cのリストの続きである。
図14C図14Aは、様々な可変領域、重鎖定常領域、および完全長抗体のアミノ酸配列を列挙する。図14Bは、図14Aのリストの続きである。図14Cは、図14Aおよび図14Bのリストの続きである。図14Dは、14A~図14Cのリストの続きである。
図14D図14Aは、様々な可変領域、重鎖定常領域、および完全長抗体のアミノ酸配列を列挙する。図14Bは、図14Aのリストの続きである。図14Cは、図14Aおよび図14Bのリストの続きである。図14Dは、14A~図14Cのリストの続きである。
【0032】
図15図15Aは、CD19を結合するFcγRIIbおよびFvドメインを結合するFcドメインを含む免疫グロブリンである、抗CD19抗体S267E/L328Fの図解である。図15Bは、抗CD19抗体S267E/L328Fが、FcγRIIb+細胞に結合し、かつ、CD19を共結合し、その結果、FcγRIIb(B細胞活性化の抑制)の天然の調節的役割を高めることを示す図解である。
【0033】
図16】ベースラインにおける病変器官の番号。数値の中央値は4であった(1~10の範囲に及ぶ)。
【0034】
図17】ベースラインにおける活性器官。≧50%の頻度にて起こる臓器部位の病変としては、リンパ節、顎下腺、耳下腺、および涙腺が挙げられた。
【0035】
図18】経時的IgG4-RDレスポンダー指数。15人の患者のうちの12人(80%)は、修飾S267E/L328Fを伴った抗CD19抗体に対する、初回投与の2週間以内にIgG4-RD RIの≧2ポイント低減の初期応答を有した。5人の患者が、0(疾患活動性なし)のIgG4-RD RIを達成した。
【0036】
図19A図19Aは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与は、CD86の刺激された発現の抑制をもたらし、それは次いで、抗CD19抗体S267E/L328F投与後約100日でベースラインまでゆっくり戻ることを実証する。図19Bは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与が、抗CD19抗体S267E/L328Fの投与後約40~60日で標準まで戻る、末梢B細胞カウントの可逆的な低減をもたらすことを実証する。図19Cは、破傷風抗原を抗原接種し、次いで、0.03~10mg/kgの範囲に及ぶ抗CD19抗体S267E/L328Fの様々な用量を投与した対象が、プラセボ治療対象に対して、抗破傷風IgGの検出可能な低下を示すことを実証する。
図19B図19Aは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与は、CD86の刺激された発現の抑制をもたらし、それは次いで、抗CD19抗体S267E/L328F投与後約100日でベースラインまでゆっくり戻ることを実証する。図19Bは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与が、抗CD19抗体S267E/L328Fの投与後約40~60日で標準まで戻る、末梢B細胞カウントの可逆的な低減をもたらすことを実証する。図19Cは、破傷風抗原を抗原接種し、次いで、0.03~10mg/kgの範囲に及ぶ抗CD19抗体S267E/L328Fの様々な用量を投与した対象が、プラセボ治療対象に対して、抗破傷風IgGの検出可能な低下を示すことを実証する。
図19C図19Aは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与は、CD86の刺激された発現の抑制をもたらし、それは次いで、抗CD19抗体S267E/L328F投与後約100日でベースラインまでゆっくり戻ることを実証する。図19Bは、2mg/kgの抗CD19抗体S267E/L328Fの投与が、抗CD19抗体S267E/L328Fの投与後約40~60日で標準まで戻る、末梢B細胞カウントの可逆的な低減をもたらすことを実証する。図19Cは、破傷風抗原を抗原接種し、次いで、0.03~10mg/kgの範囲に及ぶ抗CD19抗体S267E/L328Fの様々な用量を投与した対象が、プラセボ治療対象に対して、抗破傷風IgGの検出可能な低下を示すことを実証する。
【0037】
図20】B細胞および形質芽球に関するフローサイトメトリーゲーティングストラテジー。
【0038】
図21】治療中のB細胞数の概要。初期総B細胞(CD79b+)数のパーセンテージが、14人の患者について示されている。各線は、個々の患者を表している(14人の患者を表した)。
【0039】
図22A図22Aは、CD79+形質芽球(CD79b+CD3-CD30-CD27hiCD38hi)数に対する抗体療法の効果を示す。図22Bは、総形質芽球(CD3-CD20-CD27hiCD38hi)数に対する抗体療法の効果を示す。各線は、個々の患者を表している(14人の患者を表した)。
図22B図22Aは、CD79+形質芽球(CD79b+CD3-CD30-CD27hiCD38hi)数に対する抗体療法の効果を示す。図22Bは、総形質芽球(CD3-CD20-CD27hiCD38hi)数に対する抗体療法の効果を示す。各線は、個々の患者を表している(14人の患者を表した)。
【0040】
図23】ベースラインの循環形質芽球。10個のCD19+B細胞あたりのCD19+形質芽球を、11人の健常ドナーおよび14人の治療前のIgG4-RD患者について示す。形質芽球は、健常ドナーと比較して、活動性IgG4-RD患者で高められる。
【0041】
図24】CD4 CTLに関するフローサイトメトリーゲーティングストラテジー。
【0042】
図25図25Aは、SLAMF7+CD4 CTL(CD4+CD45RO+CD27-SLAMF7+)数に対する抗CD19抗体S267E/L328Fの効果を示す。図25Bは、エフェクターCD4 CTL(CD4+CD45RO+CD27-SLAMF7+CD57+CD28-)数に対する抗CD19抗体S267E/L328Fの効果を示す。各線は、個々の患者を表している。
【0043】
図26】アポトーシスアッセイのためのフローサイトメトリーゲーティングストラテジー。
【0044】
図27】アポトーシスアッセイ。B細胞(図27A~27D)、CD4+T細胞(図27E~27H)、またはCD8+T細胞(図27I~27L)の有意なアポトーシスは、1、8、15、および29日目の時点で、抗CD19抗体S267E/L328F治療を受けた後の患者において観察されなかった。
【0045】
図28】抗CD19抗体S267E/L328Fは、BCR連結シグナル伝達経路を遮断する。BTK、AKT、ERK、およびSYKのリン酸化を、抗CD19抗体S267E/L328F(図28A~28D)を用いた治療前、治療の2時間後(図28E~28H)、および治療の24時間後(図28I~28L)に調べた。黄色はFMO対照;青色は、治療なし;および赤色は、F(ab)2(IgM+IgG)治療あり、を表す。
【0046】
図29】CD4+SLAMF7+CTL数は、対照と比較して、IgG4-RD患者の末梢血で増大された。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の詳細な説明
液性免疫反応(例えば、多様なB細胞応答の結果)は、B細胞が抗原で活性化され、それに続いて形質細胞に分化するときに、開始され得る。抗原によるB細胞上の膜結合B細胞受容体(BCR)の結合は、カルシウム動員を含めた細胞内シグナルカスケードを活性化し、そしてカルシウム動員は、細胞増殖および分化につながる。抑制性Fc受容体(FcγRIIb)と同族BCRの共結合は、ネガティブフィードバックループによってB細胞活性化シグナルを抑制する。
【0048】
B細胞応答の抑制調節におけるFcγRIIbの重要性を、FcγRIIb欠損マウスを使用して実証したが、該マウスは、液性応答を調節できず(Wernersson, S. et al., 1999, J. Immunol. 163, 618-622)、コラーゲン誘導関節炎に対して感受性であり(Yuasa, T. et al., 1999, J. Exp. Med. 189, 187-194)、かつ、ループス様疾患(Fukuyama, H. et al., J.V., 2005, Nat. Immunol. 6, 99-106; McGaha, T.L. et al., 2005, Science 307, 590-593)およびグッドパスチュア症候群を発症する(Nakamura, A. et al., 2000, J. Exp. Med. 191, 899-906)。FcγRIIb調節不全はまた、ヒト自己免疫疾患にも関連した。例えば、FcγRIIbのプロモーター(Blank, M.C. et al., 2005, Hum. Genet. 117, 220-227; Olferiev, M. et al., 2007, J. Biol. Chem. 282, 1738-1746)および膜貫通ドメイン(Chen, J.Y. et al., 2006, Arthritis Rheum. 54, 3908-3917; Floto, R.A. et al., Nat. Med. 11, 1056-1058; Li, X. et al., 2003, Arthritis Rheum. 48, 3242-3252)の多型性は、全身性エリテマトーデス(SLE)の高い有病率に関係する。SLE患者はまた、B細胞上の低いFcγRIIb表面発現(Mackay, M. et al., 2006, J. Exp. Med. 203, 2157-2164; Su, K. et al., 2007, J. Immunol. 178, 3272-3280)、結果として、無調節なカルシウムシグナル伝達を示す(Mackay, M. et al., 2006, J. Exp. Med. 203, 2157-2164)。マウスモデルおよび臨床上の証拠によって支持されたB細胞を調節する際のFcγRIIbの極めて重要な役割は、それを自己免疫性および炎症性疾患を制御するための魅力的な治療標的にする(Pritchard, N.R. & Smith, K.G., 2003, Immunology 108, 263-273; Ravetch, J.V. & Lanier, L.L., 2000, Science 290, 84-89; Stefanescu, R.N. et al., 2004, J. Clin. Immunol. 24, 315-326)。
【0049】
B細胞上でFcγRIIbと同族BCRの共結合の抑制作用を真似る抗体が、本明細書中に記載される。例えば、Fcドメインが最大~430倍高い親和性でFcγRIIbに結合するように、設計されたバリアント抗CD19抗体が、本明細書中に記載される。天然IgG1に対して、FcγRIIb結合強化バリアント(IIbE)は、初代ヒトB細胞においてBCR誘発カルシウム動員および生存率を抑制する。抑制作用は、SH2含有イノシトールポリホスファート5-ホスファターゼ(SHIP)のリン酸化に関与し、そしてそれは、B細胞活性化のFcγRIIb誘発ネガティブフィードバックに関与することが知られている。IIbEバリアントによるBCRとFcγRIIbの共結合はまた、BCR活性化の抗アポトーシス効果も取り除いた。同族BCRとFcγRIIbの共結合によるB細胞機能を抑制するための単一抗体の使用は、B細胞媒介性疾患の治療における新規アプローチとなり得る。B細胞媒介性疾患の非限定的な例としては、IgG4関連疾患が挙げられる。
【0050】
いくつかの定義を本明細書で説明する。このような定義は、文法的上の同等語を包含するものとする。
【0051】
本明細書に使用される、「ADCC」または「抗体依存性の細胞媒介性細胞障害性」とは、FcγRを発現する非特異的細胞障害性細胞が、標的細胞上で結合抗体を認識し、後に標的細胞の溶解を生じる、細胞媒介性反応を意味する。
【0052】
本明細書に使用される、「ADCP」または「抗体依存性の細胞媒介性ファゴサイトーシス」とは、FcγRを発現する非特異的細胞障害性細胞が、標的細胞上で結合抗体を認識し、後に標的細胞のファゴサイトーシスを生じる、細胞媒介性反応を意味する。
【0053】
本明細書における、「抗体」とは、認識される免疫グロブリン遺伝子のすべてまたは一部により実質的にコードされる、1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味する。例えば、ヒトにおいて、認識される免疫グロブリン遺伝子は、無数の可変領域遺伝子を一緒に構成する、カッパ(k)、ラムダ(λ)、および重鎖遺伝子座、ならびにIgM、IgD、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)、IgE、およびそれぞれIgA(IgA1およびIgA2)アイソタイプをコードする、定常領域遺伝子ミュー(υ)、デルタ(δ)、ガンマ(γ)、シグマ(σ)、およびアルファ(α)を含む。本明細書における抗体は、完全長抗体および抗体フラグメントを含むものとし、任意の生物からの自然抗体、改変抗体、または実験、治療、もしくは他の目的のために組み換えにより生成された抗体を指し得る。
【0054】
本明細書で使用される、「アミノ酸」および「アミノ酸同一性」とは、特定の定義された位置で存在し得る、20の自然に生じるアミノ酸または任意の非自然類似体の1つを意味する。
【0055】
本明細書で使用される、「CD32b細胞」または「FcγRIIb細胞」とは、CD32b(FcγRIIb)を発現する任意の細胞または細胞型を意味する。CD32b+細胞は、B細胞、形質細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好塩基球、または好酸球を含むが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書で使用される、「CDC」または「補体依存性細胞障害性」とは、1つ以上の補体タンパク質構成要素が、標的細胞上で結合抗体を認識し、後に標的細胞の溶解を生じる、反応を意味する。
【0057】
本明細書で定義される、「定常領域」とは、軽鎖または重鎖免疫グロブリン定常領域遺伝子の1つによりコードされる、抗体の領域を意味する。本明細書に使用される、「定常軽鎖」または「軽鎖定常領域」とは、カッパ(Cκ)またはラムダ(Cλ)軽鎖によりコードされる抗体の領域を意味する。定常軽鎖は、典型的に、単一ドメインを含み、本明細書に定義されるように、CκまたはCλの位置108~214を指し、付番は、EU指標に従う。本明細書に使用される、「定常重鎖」または「重鎖定常領域」とは、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、またはIgEとして定義する、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロン遺伝子によりコードされる抗体の領域を意味する。完全長IgG抗体において、本明細書に定義される、定常重鎖は、CH1ドメインのN末端~CH3ドメインのC末端を指し、したがって、位置118~447を含み、付番は、EU指標に従う。
【0058】
本明細書で使用される、「エフェクター機能」とは、抗体Fc領域のFc受容体またはリガンドとの相互作用から生じる、生化学事象を意味する。エフェクター機能は、ADCCおよびADCP等のFcγR媒介性エフェクター機能、ならびにCDC等の補体媒介性エフェクター機能を含む。更に、エフェクター機能は、、例えば抑制機能など(例えば、B細胞応答、例えば液性免疫反応、を下方制御する、低減する、抑制するなど)のFcγRIIb媒介性抑制機能を含む。
【0059】
本明細書で使用される、「エフェクター細胞」とは、1つ以上のFcおよび/または補体受容体を発現し、1つ以上のエフェクター機能を媒介する免疫系の細胞を意味する。 エフェクター細胞は、これらに限定されないが、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、天然キラー(NK)細胞、およびγδT細胞を含み、これらに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含む、任意の生物からであり得る。
【0060】
本明細書で使用される、「Fab」または「Fab領域」とは、VH、CH1、VH、およびCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単独でこの領域を指すか、または完全長抗体もしくは抗体フラグメントと関連してこの領域を指してもよい。
【0061】
本明細書で使用される、「Fc」または「Fc領域」とは、第1の定常領域免疫グロブリンドメイン、およびいくつかの場合において、ヒンジの一部を除外する、抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがって、Fcは、IgA、IgD、およびIgGの最後2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインに対する柔軟なヒンジN末端を指す。IgAおよびIgMにおいて、Fcは、J鎖を含んでもよい。IgGにおいて、Fcは、免疫グロブリンドメインCガンマ2およびCガンマ3(Cγ2およびCγ3)、ならびにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226またはP230~そのカルボキシル末端までを含むように定義され、付番は、カバットのEU指標に従う。Fcは、単独でこの領域を指すか、または以下に記載される、Fcポリペプチドと関連してこの領域を指してもよい。
【0062】
本明細書で使用される、「Fcポリペプチド」とは、Fc領域のすべてまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合物、単離されたFc、およびFcフラグメントを含む。免疫グロブリンは、Fcポリペプチドであってもよい。
【0063】
本明細書で使用される「Fc融合物」とは、1つ以上のポリペプチドが、Fcに操作可能に連結されるタンパク質を意味する。本明細書において、Fc融合物は、先行技術において使用される、「免疫アドヘシン」、「Ig融合」、「Igキメラ」、および「受容体グロブリン」(時折ダッシュを伴う)の用語の同義語であるものとする(Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol 14:52-60、Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol 9:195-200、共に、参照によりその全体が本明細書に援用される)。Fc融合物は、免疫グロブリンのFc領域を、一般的に任意のタンパク質、ポリペプチド、または小分子であり得る融合パートナーと結合する。Fc融合物の非Fc部分、すなわち、融合パートナーの役割は、標的結合を媒介することであり、したがって、抗体の可変領域に機能的に類似している。実質的に、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに連結され、Fc融合物を生成し得る。タンパク質融合パートナーは、これらに限定されないが、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカイン、もしくはいくつかの他のタンパク質、またはタンパク質ドメインを含み得る。小分子融合パートナーは、Fc融合物を治療標的に誘導する、任意の治療薬を含み得る。このような標的は、任意の分子、例えば、疾病に関与する細胞外受容体であってもよい。
【0064】
本明細書で使用される、「Fcガンマ受容体」または「FcγR」とは、IgG抗体Fc領域を結合し、FcγR遺伝子により実質的にコードされるタンパク質のファミリーの任意のメンバーを意味する。ヒトにおいて、このファミリーは、これらに限定されないが、イソ型FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、イソ型FcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)、イソ型FcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57-65、参照によりその全体が援用される)、ならびに任意の未発見のヒトFcγRまたはFcγRイソ型もしくはアロタイプを含む。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含むが、これらに限定されない任意の生物からであり得る。マウスFcγRは、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIII-2(CD16-2)、ならびに任意の未発見のマウスFcγRまたはFcγRイソ型もしくはアロタイプを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用される、「Fcリガンド」または「Fc受容体」とは、抗体のFc領域に結合してFcリガンド複合体を形成する、任意の生物からの分子、例えば、ポリペプチドを意味する。Fcリガンドは、FcγR、FcγR、FcγR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌タンパク質A、連鎖球菌タンパク質G、およびウイルス性FcγRを含むが、これらに限定されない。Fcリガンドは、FcγRと相同であるFc受容体のファミリーであるFc受容体ホモログ(FcRH)も含む(Davis et al.,2002,Immunological Reviews 190:123-136)。Fcリガンドは、Fcを結合する未発見の分子を含んでもよい。
【0066】
本明細書で使用される、「完全長抗体」とは、可変領域および定常領域を含む、抗体の自然な生物学的形態を構成する構造を意味する。例えば、ヒトおよびマウスを含む大半の哺乳動物において、IgGアイソタイプの完全長抗体は、四量体であり、同一の2対の2つの免疫グロブリン鎖からなり、各対は、軽鎖1本と重鎖1本を有し、各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVLおよびCLを含み、各重鎖は、免疫グロブリンドメインVH、Cγ1、Cγ2、およびCγ3を含む。例えば、ラクダおよびラマ等の、いくつかの哺乳動物において、IgG抗体は、2つの重鎖のみからなり得、各重鎖は、Fc領域に結合する可変ドメインを含む。
【0067】
本明細書において、「免疫グロブリン」とは、免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされる、1つ以上のポリペプチドを含むタンパク質を意味する。免疫グロブリンは、これらに限定されないが、抗体(二重特異的抗体)およびFc融合物を含む。免疫グロブリンは、これらに限定されないが、完全長抗体、抗体フラグメント、および個別の免疫グロブリンドメインを含む、いくつかの構造形態を有し得る。
【0068】
本明細書で使用される、「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、タンパク質構造の分野の当業者によって確認される、別々の構造実体として存在する免疫グロブリンの領域を意味する。Igドメインは、典型的に、特有のβサンドウィッチ折り畳みトポロジーを有する。抗体のIgGアイソタイプにおける既知のIgドメインは、VH Cγ1、Cγ2、Cγ3、VL、およびCLである。
【0069】
本明細書で使用される、「IgG」または「IgG免疫グロブリン」とは、認識される免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属する、ポリペプチドを意味する。ヒトにおいて、このクラスは、サブクラスまたはアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む。本明細書で使用される、「アイソタイプ」とは、それらの定常領域の化学的および抗原的特徴により定義される、免疫グロブリンのサブクラスのいずれかを意味する。既知のヒト免疫グロブリンイソ型は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgD、およびIgEである。
【0070】
本明細書において、「修飾」とは、タンパク質、ポリペプチド、抗体、または免疫グロブリンの物理的、化学的、または配列特性の変更を意味する。本明細書に記載される修飾は、アミノ酸修飾およびグリコフォーム修飾を含む。
【0071】
本明細書における、「アミノ酸修飾」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失を意味する。本明細書における、「アミノ酸置換」または「置換」とは、親ポリペプチド配列における特定の位置でのアミノ酸の別のアミノ酸による置換を意味する。例えば、置換S267Eは、バリアントポリペプチド、この場合、位置267のセリンが、グルタミン酸と置換される、定常重鎖バリアントを指す。本明細書で使用される、「アミノ酸挿入」または「挿入」とは、親ポリペプチド配列における特定の位置でのアミノ酸の追加を意味する。本明細書で使用される、「アミノ酸欠失」または「欠失」とは、親ポリペプチド配列における特定の位置でのアミノ酸の除去を意味する。
【0072】
本明細書で使用される、「グリコフォーム修飾」、もしくは「修飾されたグリコフォーム」、もしくは「操作されたグリコフォーム」とは、タンパク質、例えば、抗体に共有結合的に結合される糖組成物を意味し、該糖組成物は、親タンパク質と化学的に異なる。修飾されたグリコフォームは、典型的に、異なる糖またはオリゴ糖を指し、したがって、例えば、Fcバリアントは、修飾されたグリコフォームを含み得る。代替的に、修飾されたグリコフォームは、異なる糖またはオリゴ糖を含むFcバリアントを指す場合がある。
【0073】
本明細書で使用される、「親ポリペプチド」、「親タンパク質」、「親免疫グロブリン」「前駆体ポリペプチド」、「前駆体タンパク質」、または「前駆体免疫グロブリン」とは、本明細書に記載される、少なくとも1つのアミノ酸修飾のテンプレートおよび/または基礎として機能するバリアント、例えば、任意のポリペプチド、タンパク質、または免疫グロブリンを生成するように後に修飾される、無修飾のポリペプチド、タンパク質、または免疫グロブリンを意味する。親ポリペプチドは、自然に生じるポリペプチドか、または自然に生じるポリペプチドのバリアントもしくは操作された変型であってもよい。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合がある。したがって、本明細書で使用される、「親Fcポリペプチド」とは、バリアントFcポリペプチドを生成するように修飾されるFcポリペプチドを意味し、本明細書で使用される、「親抗体」とは、バリアント抗体を生成するように修飾される抗体を意味する(例えば、親抗体は、限定されないが、自然に生じるIgの定常領域を含むタンパク質を含み得る)。
【0074】
本明細書で使用される、「位置」とは、タンパク質の配列における位置を意味する。位置は、順にナンバリングされるか、確立された形式、例えば、カバットにあるようなEU指標に従ってもよい。例えば、位置297は、ヒト抗体IgG1での位置である。
【0075】
本明細書で使用される、「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む、少なくとも2つが共有結合的に結合されたアミノ酸を意味する。
【0076】
本明細書で使用される、「残基」とは、タンパク質およびその関連するアミノ酸の同一性での位置を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297とも称され、N297とも称される)は、ヒト抗体IgG1での残基である。
【0077】
本明細書で使用される、「標的抗原」とは、所与の抗体の可変領域により結合される分子、またはFc融合物の融合パートナーを意味する。標的抗原は、タンパク質、糖、脂質、または他の化学化合物であってもよい。抗体またはFc融合物は、標的抗原に対して親和性を有することに基づいて、所与の標的抗原に「特異的」であると言われる。
【0078】
本明細書で使用される、「標的細胞」とは、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0079】
本明細書で使用される、「可変領域」とは、それぞれ、カッパ、ラムダ、および重鎖免疫グロブリン遺伝子座を構成する、Vk、Vλ、および/またはVH遺伝子のいずれかにより実質的にコードされる、1つ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0080】
本明細書で使用される、「バリアントポリペプチド」、「ポリペプチドバリアント」、または「バリアント」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親ポリペプチド配列と異なるポリペプチド配列を意味する。親ポリペプチドは、自然に生じる、もしくは野生型(WT)ポリペプチドであるか、または野生型ポリペプチドの修飾された変型であってもよい。 バリアントポリペプチドは、ポリペプチド自体、ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合がある。いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるバリアントポリペプチド(例えば、バリアント免疫グロブリン)は、親ポリペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、親と比較して、約1~10のアミノ酸修飾、約1~5のアミノ酸修飾等を有してもよい。本明細書において、バリアントポリペプチド配列は、親ポリペプチド配列と少なくとも約80%の相同性、例えば、少なくとも約90%の相同性、95%の相同性等を有し得る。したがって、本明細書で使用される、「Fcバリアント」または「バリアントFc」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親Fc配列と異なるFc配列を意味する。Fcバリアントは、Fc領域のみを包含するか、または抗体、Fc融合物、単離されたFc、Fcフラグメント、またはFcにより実質的にコードされる他のポリペプチドと関連して存在してもよい。Fcバリアントは、Fcポリペプチド自体、Fcバリアントポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合がある。本明細書で使用される、「Fcポリペプチドバリアント」または「バリアントFcポリペプチド」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親Fcポリペプチドと異なるFcポリペプチドを意味する。本明細書で使用される、「タンパク質バリアント」または「バリアントタンパク質」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親タンパク質と異なるタンパク質を意味する。本明細書で使用される、「抗体バリアント」または「バリアント抗体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親抗体と異なる抗体を意味する。本明細書で使用される、「IgGバリアント」または「バリアントIgG」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親IgGと異なる抗体を意味する。本明細書で使用される、「免疫グロブリンバリアント」または「バリアント免疫グロブリン」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親免疫グロブリン配列と異なる免疫グロブリン配列を意味する。
【0081】
本明細書において、「野生型」または「WT」とは、対立遺伝子変型を含む、自然界に認められるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。野生型タンパク質、ポリペプチド、抗体、免疫グロブリン、IgG等は、意図的に修飾されていない、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0082】
免疫グロブリン
【0083】
本明細書に記載するように、免疫グロブリンは、抗体、Fc融合、単離Fc、Fcフラグメント、またはFcポリペプチドであってもよい。一実施形態において、免疫グロブリンは抗体である。
【0084】
抗体は特定の抗原を結合する免疫学的タンパク質である。ヒトおよびマウスを含む哺乳動物の多くでは、抗体は対の重鎖および軽鎖ポリペプチドから構築される。軽鎖および重鎖可変領域は、抗体間で重要な配列多様性を示し、標的抗体を結合する役割がある。各鎖は個々の免疫グロブリン(Ig)ドメインから成り、そのため総称の免疫グロブリンはこのようなタンパク質に使用される。
【0085】
伝統的な抗体構造単位は一般的に四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一対から構成され、各鎖は、1つの「軽」鎖(通常、約25 kDaの分子量を有する)および1つの「重」鎖(通常、約50~70 kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして抗体のアイソタイプを規定する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むがこれらに限定されないいくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1およびIgM2を含むがこれらに限定されないサブクラスを有する。IgAは、IgA1およびIgA2を含むがこれらに限定されないいくつかのサブクラスを有する。そのため、「アイソタイプ」は本明細書で使用するとき、その定常領域の化学的および抗原的特徴によって規定する免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスを意味する。知られているヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgD、およびIgEである。
【0086】
軽鎖および重鎖のそれぞれは、可変および定常領域として示される2つの固有の領域からなる。IgG重鎖は、VH-CH1-CH2-CH3の順序でNからC末端に結合する4つの免疫グロブリンから構成され、重鎖可変領域、重鎖定常領域1、重鎖定常領域2、および重鎖定常領域3をそれぞれ指す(また、VH-Cγ1-Cγ2-Cγ3としても示され、重鎖可変領域、定常ガンマ1領域、定常ガンマ2領域および定常ガンマ領域3をそれぞれ指す)。IgG軽鎖は、VL-CLの順序でNからC末端に結合する2つの免疫グロブリンから構成され、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域をそれぞれ指す。定常領域は、少ない配列多様性を示し、いくつかの天然タンパク質を結合する役割があり、重要な生化学的事象を引き出す。これらの抗体クラス間を区別する特徴は、可変領域に捉えがたい鎖が存在しうるが、定常領域である。
【0087】
抗体の可変領域は、分子の抗原結合決定基を含み、そのためその標的抗原の抗体の特異性を決定する。可変領域は、同じクラス内の配列において他の抗体とは最も異なるため、そのように名づけられている。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識の役割を主に担う約100~110個以上の可変領域を含む。可変領域において、3つのループが重鎖および軽鎖のVドメインのそれぞれについて集まり、抗原結合部位を形成する。ループのそれぞれは、相補性決定領域(これ以降「CDR」とも呼ばれる)として意味し、アミノ酸配列のバリエーションが最も著しい。VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3を示す、重鎖および軽鎖につき3つずつ、合計6つのCDRがある。CDRの外側の可変領域は、フレームワーク(FR)領域と称される。CDRほど多様ではないが、配列の可変性が、異なる抗体間のFR領域も生じる。全体的に、抗体のこの特徴的な構造は、多大な抗原結合多様性(CDR)が、抗原の広範囲なアレイに対して特異性を得るように、免疫系により探索され得る、安定した足場(FR領域)を提供する。多くの高解析の構造は、抗原と非結合のものもあれば、抗原と複合するものもある、異なる生物からの種々の可変領域のフラグメントに対して利用可能である。抗体の可変領域の配列および構造上の特徴は、例えば、Morea et al.,1997,Biophys Chem 68:9-16; Morea et al.,2000,Methods 20:267-279に開示されており、参照によりその全体が本明細書に援用され、抗体の保存された特徴は、例えば、Maynard et al.,2000,Annu Rev Biomed Eng2:339-376に開示されており、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0088】
各鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能に主に関与する定常領域を定義する。免疫グロブリンのIgGサブクラスにおいて、重鎖にいくつかの免疫グロブリンドメインが存在する。本明細書において、「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、明確な三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本明細書に記載される実施形態の関心対象は、定常重(CH)ドメインおよびヒンジ領域を含む、重鎖ドメインである。IgG抗体と関連して、IgGアイソタイプは、それぞれ、3つのCH領域を有する。したがって、IgGと関連して、「CH」ドメインとは、以下の通りである:「CH1」は、カバットのEU指標に従い、位置118~220を指す。「CH2」は、カバットのEU指標に従い、位置237~340を指し、「CH3」は、カバットのEU指標に従い、位置341~447を指す。
【0089】
重鎖の別の重要な領域は、ヒンジ領域である。本明細書において、「ヒンジ」、もしくは「ヒンジ領域」、もしくは「抗体ヒンジ領域」、もしくは「免疫グロブリンヒンジ領域」とは、抗体の第1と第2の定常ドメインの間にアミノ酸を含む、柔軟なポリペプチドを意味する。構造的に、IgG CH1ドメインは、EUの位置220で終わり、IgG CH2ドメインは、残基EUの位置237で始まる。したがって、IgGにおいて、抗体ヒンジは、本明細書において、位置221(IgG1でD221)~236(IgG1でG236)を含むように定義され、付番は、カバットのEU指標に従う。いくつかの実施形態において、例えば、Fc領域と関連して、一般的に、「下方ヒンジ」が、位置226または230から236を指す、下方ヒンジが含まれる。
【0090】
本明細書に記載される実施形態の関心対象は、Fc領域である。本明細書で使用される、「Fc」または「Fc領域」とは、第1の定常領域免疫グロブリンドメイン、およびいくつかの場合において、ヒンジの一部を除外する抗体の定常領域を含む、ポリペプチドを意味する。したがって、Fcは、IgA、IgD、およびIgGの最後2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインに対する柔軟なヒンジN末端を指す。IgAおよびIgMにいて、Fcは、J鎖を含み得る。IgGにおいて、Fcは、免疫グロブリンドメインCガンマ2およびCガンマ3(Cγ2およびCγ3)、ならびにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間の下方ヒンジ領域を含む。Fc領域の境界は変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226またはP230~そのカルボキシル末端までを含むように定義され、付番は、カバットのEU指標に従う。Fcは、単独でこの領域を指すか、または以下に記載される、Fcポリペプチドと関連してこの領域を指してもよい。本明細書で使用される、「Fcポリペプチド」とは、Fc領域のすべてまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合物、単離されたFc、およびFcフラグメントを含む。
【0091】
抗体のFc領域は、いくつかのFc受容体およびリガンドと相互作用し、エフェクター機能と称される、数々の重要な機能的能力を付与する。Fc領域のIgGにおいて、FcはIgドメインCγ2およびCγ3、ならびにCγ2に通じるN末端ヒンジを含む。IgGクラスのFc受容体の重要なファミリーは、Fcγ受容体(FcγR)である。これらの受容体は、抗体と免疫系の細胞アームとの間の連通を媒介する(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220、Ravetch et al.,2001,Annu Rev Immunol 19:275-290、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。ヒトにおいて、このタンパク質ファミリーは、イソ型FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、イソ型FcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)、ならびにイソ型FcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)FcγRIII(CD16)を含む(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57-65、参照によりその全体が本明細書に援用される)。これらの受容体は、典型的に、Fcへの結合を媒介する細胞外ドメイン、膜貫通領域、および細胞内のいくつかのシグナル伝達事象を媒介してもよい細胞内ドメインを有する。これらの受容体は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、天然キラー(NK)細胞、およびγγT細胞を含む、種々の免疫細胞で発現しもよい。Fc/FcγR複合体の編成は、これらのエフェクター細胞を結合抗原の部位に動員し、典型的に、細胞内のシグナル伝達事象、ならびに炎症メディエーターの放出、B細胞の活性、エンドサイトーシス、ファゴサイトーシスおよび細胞障害性攻撃等の、その後の重要な免疫反応をもたらす。細胞障害性および食細胞性エフェクター機能を媒介する能力は、抗体が標的細胞を破壊する潜在的機構である。FcγRを発現する非特異的細胞障害性細胞が、標的細胞上で結合抗体を認識し、後に標的細胞の溶解を生じる細胞媒介性反応は、抗体依存性の細胞媒介性細胞障害性(ADCC)と称される(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220、Ghetie et al.,2000,Annu Rev Immunol 18:739-766; Ravetch et al.,2001,Annu Rev Immunol 19:275-290、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。FcγRを発現する非特異的細胞障害性細胞が、標的細胞上で結合抗体を認識し、後に標的細胞のファゴトーシスを生じる、細胞媒介性反応は、抗体依存性の細胞媒介性ファゴトーシス(ADCP)と称される。
【0092】
異なるIgGサブクラスは、FcγRに対して異なる親和性を有し、IgG1およびIgG3は、典型的に、IgG2およびIgG4よりこの受容体に実質的に良く結合する(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57-65、参照によりその全体が本明細書に援用される)。FcγRは、異なる親和性で、IgG Fc領域に結合する。FcγRIIIaおよびFcγRIIIbの細胞外ドメインは、96%が同一であるが、FcγRIIIbは、細胞内シグナル伝達ドメインを有さない。更に、FcγRI、FcγRIIa/c、およびFcγRIIIaは、免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を有する細胞内ドメインを有することにより特徴付けされる、免疫複合体により引き起こされる活性の正の調節因子であるが、FcγRIIbは、免疫受容抑制チロシンモチーフを有し、したがって、阻害性である。したがって、前者は、活性化受容体と呼ばれ、FcγRIIbは、抑制受容体と呼ばれる。親和性および活性化におけるこれらの相違にも関わらず、すべてのFcγRは、Cγ2ドメインのN末端および前述のヒンジで、Fc上の同じ領域に結合する。この相互作用は、構造的に良く特徴付けされ(Sondermann et al.,2001,J Mol Biol 309:737-749、参照によりその全体が本明細書に援用される)、ヒトFcγRIIIbの細胞外ドメインに結合されるヒトFcのいくつかの構造が、解明されている(pdb登録コード1E4K) (Sondermann et al.,2000,Nature 406:267-273、参照によりその全体が本明細書に援用される)(pdb登録コード1IISおよび1IIX)(Radaev et al.,2001,J Biol Chem 276:16469-16477、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0093】
重複しているが、別個であるFc上の部位は、補体タンパク質C1qの接触面として機能する。Fc/FcγR結合が、ADCCを媒介する同じ方式で、Fc/C1q結合は、補体依存性細胞障害性(CDC)を媒介する。Cγ2とCγ3ドメインとの間のFc上の部位は、エンドソームから形質膜陥入された抗体を血流に再循環させる結合である、新生受容体FcRnとの相互作用を媒介する(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220、Ghetie et al.,2000,Annu Rev Immunol 18:739-766、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。この過程は、大型の完全長分子による腎臓濾過の防止と共に、1~3週間にわたる好適な抗体血清半減期をもたらす。FcのFcRnへの結合は、抗体輸送において主要な役割も果たす。Fc上でのFcRnの結合部位は、細菌タンパク質AおよびGが結合する部位でもある。これらのタンパク質の密着結合は、典型的に、タンパク質の精製中に、タンパク質Aまたはタンパク質Gの親和性クロマトグラフィーを利用することにより、抗体を精製する手段として活用される。これらの領域の再現性、補体、およびFcRn/タンパク質A結合領域は、抗体の臨床特性およびそれらの発達の両方に重要である。
【0094】
Fc領域の主な特徴は、N297で生じる、保存されたN結合グリコシル化である。場合によってオリゴ糖と称されるこの糖は、抗体にとって重要な構造的かつ機能的役割を担い、抗体が哺乳動物発現系を使用して生成されなければならない、主な理由の1つである。FcγRおよびC1qへの効率的なFc結合は、この修飾を必要とし、N297糖の組成物における変更、またはその消失は、これらのタンパク質への結合に影響を及ぼす(Umana et al.,1999,Nat Biotechnol 17:176-180、Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288-294、Mimura et al.,2001,J Biol Chem 276:45539-45547.、Radaev et al.,2001,J Biol Chem 276:16478-16483、Shields et al.,2001,J Biol Chem 276:6591-6604、Shields et al.,2002,J Biol Chem 277:26733-26740、Simmons et al.,2002,J Immunol Methods 263:133-147、すべて、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0095】
本明細書に記載される実施形態の免疫グロブリンは、Fc融合物とも称される抗体様タンパク質であってもよい(Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol 14:52-60、Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol 9:195-200、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。本明細書において、「Fc融合物」とは、先行技術において使用される、「免疫アドヘシン」、「Ig融合」、「Igキメラ」、および「受容体グロブリン」(時折ダッシュを伴う)の用語の同義語であるものとする(Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol 14:52-60; Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol 9:195-200)。Fc融合物は、本明細書で「融合パートナー」として称される、1つ以上のポリペプチドが、Fcに操作可能に連結されるタンパク質である。Fc融合物は、抗体のFc領域、したがって、その好適なエフェクター機能および薬物動態を受容体、リガンド、もしくはいくつかの他のタンパク質の標的結合領域、またはタンパク質ドメインと結合させる。後者の役割は、標的認識を媒介することであり、したがって、抗体の可変領域にと機能的に類似している。Fc融合物の抗体との構造的および機能的重複のため、本開示の抗体の論議は、Fc融合物にも拡大される。
【0096】
実質的に、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに連結され、Fc融合物を生成し得る。タンパク質融合パートナーは、これらに限定されないが、任意の抗体の可変領域、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカイン、もしくはいくつかの他のタンパク質、またはタンパク質ドメインを含み得る。小分子融合パートナーは、Fc融合物を標的抗原に誘導する、任意の薬剤を含み得る。このような標的抗原は、疾病に関与する、例えば、細胞外受容体等の任意の分子であってもよい。本明細書中に記載した実施形態のFc融合物は、CD32b細胞で発現される抗原を実質的に標的化し得る。
【0097】
融合パートナーは、NもしくはC末端、または末端間のある残基を含む、Fc領域の任意の領域に連結されてもよい。一実施形態において、融合パートナーは、Fc領域のNまたはC末端で連結される。種々のリンカーは、融合パートナーにFc領域を共有結合的に連結するように、本明細書に記載されるいくつかの実施形態に用途を見出し得る。本明細書において、「リンカー」、「リンカー配列」、「スペーサー」、「係留配列」、またはそれらの文法上の同等語は、2つの分子を結合し、多くの場合、2つの分子を構造に配置する働きをする分子、または分子群(単量体または重合体等)を意味する。リンカーは、当該分野に公知であり、例えば、ホモまたはヘテロ二機能性リンカーが、周知である(参照によりその全体が援用される、1994 Pierce Chemical Company catalog, technical section on cross-linkers, pages 155-200を参照のこと)。いくつかの対処法は、分子を共有結合的に一緒に連結するように使用され得る。これらは、これらに限定されないが、タンパク質またはタンパク質ドメインのNとC末端の間のポリペプチド連結、ジスルフィド結合を介した連結、および化学的架橋試薬を介した連結を含む。この実施形態の一態様において、リンカーは、組み換え技術またはペプチド合成により生成される、ペプチド結合である。リンカーペプチドは、次のアミノ酸残基を主として得る:Gly、Ser、Ala、またはThr。リンカーペプチドは、所望の活性を維持するように、相互に対して適切な高次構造を成すような方式で、2つの分子を連結するのに適当な長さを有するべきである。この目的に適切な長さは、少なくとも1つの、かつ50を超えないアミノ酸残基を含む。一実施形態において、リンカーは、長さが約1~30のアミノ酸である。一実施形態において、長さが1~20のアミノ酸のhリンカーが使用されてもよい。有用なリンカーは、当業者に理解されるように、グリシン-セリン重合体(例えば、(GS)n、(GSGGS)n(配列番号1として記述)、(GGGGS)n(配列番号2として記述)、および(GGGS)n(配列番号3として記述)を含み、nは少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニン重合体、アラニン-セリン重合体、および他の柔軟なリンカーを含む。代替的に、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体を含む、種々の非タンパク質性重合体は、リンカーとしての用途を見出し得る、つまり、Fc領域を融合パートナーに連結するように用途を見出し得る。
【0098】
融合パートナーとして、Fcポリペプチドも企図される。したがって、本明細書に記載される免疫グロブリンは、2つ以上のFc領域を含む、多量体Fcポリペプチドであってもよい。このような分子の利点は、単一タンパク質分子で、Fc受容体に複数の結合部位を提供することである。一実施形態において、Fc領域は、化学工学的アプローチを使用して連結されてもよい。例えば、Fab’およびFc’は、ヒンジのシステイン残基に由来するチオエーテル結合により連結され、FabFc2等の分子を生成してもよい。Fc領域は、ジスルフィド操作および/または化学的架橋を使用して連結されてもよい。一実施形態において、Fc領域は、遺伝学的に連結されてもよい。一実施形態において、免疫グロブリンにおけるFc領域は、参照によりその全体が援用される、米国特許公開第2005/0249723号に記載される、生成され、直列に連結されたFc領域に遺伝学的に連結される。直列に連結されたFcポリペプチドは、2つ以上のFc領域、例えば、1~3つのFc領域、2つのFc領域を含んでもよい。最も好適な構造的および機能的特性で、ホモまたはヘテロ直列に連結されたFc領域を得るために、多くの操作構造体を研究することは、有利である場合がある。直列に連結されたFc領域は、ホモ直列に連結されたFc領域であってもよい、つまり、1つのアイソタイプのFc領域は、同じアイソタイプの別のFc領域に遺伝学的に融合されてもよい。直列に連結されたFcポリペプチド上に複数のFcγR、C1q、および/またはFcRn結合部位が存在するため、エフェクター機能および/または薬物動態が強化され得ることが予期される。代替の実施形態において、異なるアイソタイプからのFc領域が、直列に連結されてもよく、ヘテロ直列に連結されたFc領域と称される。例えば、FcγRおよびFcαRI受容体を標的とする能力のため、FcγRおよびFcαRIの両方に結合する免疫グロブリンは、臨床の改善を提供し得る。
【0099】
本明細書に開示される実施形態の免疫グロブリンは、抗体クラスのいずれかに属する、免疫グロブリン遺伝子によっても実質的にコードされてもよい。特定の実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4を含む抗体のIgGクラスに属する配列を含む、抗体またはFc融合物に用途を見出す。 図1は、これらのヒトIgG配列の整列を提供する。代替の実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、抗体のIgA(サブクラスIgA1およびIgA2を含む)、IgD、IgE、IgG、またはIgMクラスに属する配列を含む、抗体またはFc融合物に用途を見出す。本明細書に開示される免疫グロブリンは、1本以上のタンパク質鎖を含んでもよく、例えば、ホモまたはヘテロオリゴマーを含む単量体もしくはオリゴマーである、抗体またはFc融合物であってもよい。
【0100】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、任意の生物、例えば、哺乳動物(これらに限定されないが、ヒト、ゲッ齒類(これらに限定されないが、マウスおよびラットを含む)、ウサギ目(これらに限定されないが、ウサギおよびノウサギを含む)、ラクダ科(これらに限定されないが、ラクダ、ラマ、およびヒトコブラクダを含む)、ならびにこれらに限定されないが、原猿、広鼻猿類(新世界ザル)、オナガザル上科(旧世界ザル)、およびテナガザル、小型および大型類人猿を含むヒト上科を含むヒト以外の霊長類からの遺伝子により実質的にコードされてもよい。特定の実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、実質的にヒトであってもよい。
【0101】
当該分野に周知のように、免疫グロブリン多型が、ヒト集団に存在する。Gm多型は、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG3分子のマーカーのG1m、G2m、およびG3mアロタイプと称される、アロタイプ抗原決定基をコードする対立遺伝子を有する、IGHG1、IGHG2およびIGHG3遺伝子により決定される(γ4鎖上で、Gmアロタイプは発見されていない)。マーカーは、「アロタイプ」と「イソアロタイプ」とに分類され得る。これらは、アイソタイプ間の強い配列の相同性に応じて、異なる血清学的根拠により区別される。アロタイプは、Ig遺伝子の対立遺伝子型により特定される抗原決定基である。アロタイプは、異なる個別の重鎖または軽鎖のアミノ酸配列のわずかな相違を表す。たった1つのアミノ酸の相違でさえ、アロタイプ決定基を引き起こすことができるが、多くの場合、いくつかのアミノ酸置換が生じている。アロタイプは、抗血清が対立遺伝子の相違のみを認識する、サブクラスの対立遺伝子間の配列相違である。イソアロタイプは、1つ以上の他のアイソタイプの非多型相同領域と共有されるエピトープを生成する一アイソタイプにおける対立遺伝子であり、このため、抗血清は、関連するアロタイプと関連する相同アイソタイプの両方と反応する(Clark,1997,IgG effector mechanisms, Chem Immunol.65:88-110、Gorman & Clark,1990,Semin Immunol 2(6):457-66、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0102】
ヒト免疫グロブリンの対立遺伝子型は、明確に特徴付けされている(WHO Review of the notation for the allotypic and related markers of human immunoglobulins. J Immunogen 1976,3:357-362、WHO Review of the notation for the allotypic and related markers of human immunoglobulins.1976,Eur.J.Immunol.6,599-601、Loghem E van,1986,Allotypic markers, Monogr Allergy 19:40-51、すべてが、参照によりその全体が本明細書に援用される)。加えて、他の多型も特徴付けされている(Kim et al.,2001,J.Mol.Evol.54:1-9、参照によりその全体が本明細書に援用される)。 現在、18のGmアロタイプが知られている:G1m(1、2、3、17)もしくはG1m(a、x、f、z)、G2m(23)もしくはG2m(n)、G3m(5、6、10、11、13、14、15、16、21、24、26、27、28)もしくはG3m(b1、c3、b5、b0、b3、b4、s、t、g1、c5、u、v、g5)(Lefranc, et al., The human IgG subclasses: molecular analysis of structure, function and regulation. Pergamon, Oxford, pp. 43-78(1990)、Lefranc, G. et al., 1979, Hum. Genet.: 50, 199-211、ともに、参照によりその全体が本明細書に援用される)。固定された組み合わせで受け継がれるアロタイプは、Gmハプロタイプと呼ばれる。図2は、位置および関連アミノ酸置換を示す、ヒトIgG1(図2A)およびIgG2(図2A)のγ鎖の一般的なハプロタイプを示す。本明細書に開示される免疫グロブリンは、任意の免疫グロブリン遺伝子の任意のアロタイプ、イソアロタイプ、またはハプロタイプにより実質的にコードされ得る。
【0103】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、これらに限定されないが、抗体、単離されたFc、Fcフラグメント、およびFc融合物を含む、Fcポリペプチドを構成してもよい。一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、可変領域および定常領域を含む、抗体の自然な生物学的形態を構成する完全長抗体である。IgGアイソタイプにおいて、完全長抗体は、四量体であり、同一の2対の2本の免疫グロブリン鎖からなり、各対は、軽鎖1本と、重鎖1本を有し、各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVLおよびCLを含み、各重鎖は、免疫グロブリンドメインVH、Cγ1、Cγ2、およびCγ3を含む。別の実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、単離されたFc領域またはFcフラグメントである。
【0104】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、これらに限定されないが、それぞれ、抗体フラグメント、二重特異的抗体、ミニ抗体、ドメイン抗体、合成抗体(時折、本明細書において、「抗体模倣物」と称される)、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体融合(時折、「抗体結合体」と称される)、およびそれぞれのフラグメントを含む、種々の構造であってもよい。
【0105】
一実施形態において、抗体は、抗体フラグメントである。 特定の抗体フラグメントは、これらに限定されないが、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなるFabフラグメント、(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(iv)単一変数からなるdAbフラグメント、(v)単離されたCDR領域、(vi)2つの連結されたFabフラグメントを含む二価のフラグメントである、F(ab’)2フラグメント、(vii)2つのドメインを結合して、抗原結合部位の形成を可能にするペプチドリンカーにより、VHドメインおよびVLドメインが連結される、単一鎖Fv分子(scFv)、(viii)二重特異性単一鎖Fv二量体、ならびに(ix)遺伝子融合によって構築される多価または多特異性フラグメントである、「二重特異性抗体」もしくは「三重特異性抗体」を含む。抗体フラグメントは、修飾されてもよい。例えば、分子は、VHおよびVLドメインを連結する、ジスルフィド橋の組み込みにより安定化され得る。抗体の形式および構造の例は、Holliger & Hudson,2006,Nature Biotechnology 23(9):1126-1136およびCarter 2006,Nature Reviews Immunology 6:343-357ならびにそこに引用される参考文献に記載されており、参照によりすべてが明示的に援用される。
【0106】
一実施形態において、本明細書に開示される抗体は、多特異性抗体、および特に二重特異性抗体であってもよく、時折、「二重特異性抗体」と称される。これらは、2つ(以上)の異なる抗原に結合する抗体である。二重特異性抗体は、例えば、化学的に、またはハイブリッドハイブリドーマから調製される等の、当該分野に公知の種々の方式で製造され得る。一実施形態において、抗体はミニ抗体である。ミニ抗体は、CH3ドメインに連結されるscFvを含む、最小化された抗体様タンパク質である。いくつかの場合において、scFvは、Fc領域に結合され得、一部またはすべてのヒンジ領域を含み得る。多特異性抗体の説明においては、Holliger & Hudson,2006,Nature Biotechnology 23(9):1126-1136、ならびにそこに引用される参考文献を参照し、参照によりすべてが明示的に援用される。
【0107】
非ヒト、キメラ、ヒト化、および完全なヒト抗体
【0108】
当該分野に周知のように、抗体の可変領域は、種々の種属から配列を構成することができる。いくつかの実施形態において、抗体可変領域は、これらに限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、ラクダ、ラマ、およびサルを含む、ヒト以外の供給源からであり得る。いくつかの実施形態において、足場の構成要素は、異なる種属の混合物であり得る。したがって、本明細書に開示される抗体は、キメラ抗体および/またはヒト化抗体であってもよい。一般的に、「キメラ抗体」および「ヒト化抗体」の両方は、1種属以上からの領域を組み合わせる抗体を指す。例えば、「キメラ抗体」は、従来、マウスまたは他のヒト以外の種属からの可変領域およびヒトからの定常領域を含む。
【0109】
「ヒト化抗体」とは、概して、ヒト抗体で発見される配列と交換された可変ドメインフレームワーク領域を有した非ヒト抗体を指す。一般的に、ヒト化抗体において、CDRを除く抗体全体は、ヒト起源のポリヌクレオチドによりコードされるか、またはそのCDR内を除いてこのような抗体と同一である。ヒト以外の生物由来の核酸によりコードされる一部またはすべてのCDRは、ヒト抗体可変領域のベータシートフレームワークに移植され、移植されたCDRにより決定される特異性の抗体を作製する。このような抗体の作製は、例えば、国際公開第92/11018号、Jones,1986,Nature 321:522-525、Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534-1536に記載される。選択された受容体フレームワーク残基の対応するドナー残基への「逆突然変異」は、多くの場合、初期の移植されたコンストラクトで失われた親和性を回復するために要求される(米国特許第5,693,762号、参照によりその全体が援用される)。ヒト化抗体は、至適に、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、典型的には、ヒト免疫グロブリンのそれを含み、したがって、典型的には、ヒトFc領域を含む。ヒト化抗体は、遺伝学的に操作された免疫系を有するマウスを使用しても生成され得る。 Roque et al., 2004, Biotechnol. Prog. 20: 639-654。ヒト以外の抗体のヒト化および再構成のための種々の技法および方法は、当該分野に周知である(Tsurushita & Vasquez, 2004, Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells,533-545,Elsevier Science(USA)、ならびにそれに引用される参考文献を参照のこと)。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低減するためのヒト化または他の方法は、例えば、Roguska et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:969-973に記載される、表面再構成法を含み得る。一実施形態において、親抗体は、当該分野に公知のように、親和成熟化されている。構造に基づく方法が、例えば、米国特許出願第11/004,590号に記載されるように、ヒト化および親和性成熟化において利用されてもよい。選択に基づく方法は、抗体可変領域をヒト化および/または親和成熟するように、つまり、その標的抗原の可変領域の親和性を増加するように利用されてもよい。他のヒト化方法は、限定されないが、US第09/810,502号、Tan et al.,2002,J.Immunol.169:1119-1125、De Pascalis et al.,2002,J.Immunol.169:3076-3084に記載される方法を含む、CDRの一部のみの移植を含んでもよい。構造に基づく方法は、例えば、参照によりその全体が援用される、米国特許7,117,096号、ならびに関連する出願に記載されるように、ヒト化および親和性成熟化において利用されてもよい。特定の変形において、抗体の免疫原性は、参照によりその全体が援用される、米国特許第7,657,380号に記載される方法を使用して低減される。
【0110】
一実施形態において、抗体は、本明細書に概説する、少なくとも1つの修飾を伴う完全なヒト抗体である。「完全な(Fully)ヒト抗体」または「完全な(complete)ヒト抗体」とは、本明細書に概説する修飾を伴う、ヒト染色体に由来する抗体の遺伝子配列を有するヒト抗体を指す。完全なヒト抗体は、例えば、遺伝子導入マウス(Bruggemann et al.,1997,Curr Opin Biotechnol 8:455-458)、または選択法と合わせたヒト抗体ライブラリ(Griffiths et al.,1998,Curr Opin Biotechnol 9:102-108)を使用して、取得されてもよい。
【0111】
標的抗原
【0112】
一実施形態において、抗原は、これだけに限定されるものではないが、標的CD19に属するタンパク質、サブユニット、ドメイン、モチーフ、および/またはエピトープを含めた、本明細書中に開示した免疫グロブリンによって標的化され得る。
【0113】
FcバリアントおよびFc受容体結合特性
【0114】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、Fcバリアントを含む。Fcバリアントは、親Fcポリペプチドに対して1つ以上のアミノ酸修飾を含み、該アミノ酸修飾は、1つ以上の最適化された特性を提供する。本明細書に開示されるFcバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、その親とアミノ酸配列が異なる。したがって、本明細書に開示されるFcバリアントは、親と比較して、少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する。代替的に、本明細書に開示されるFcバリアントは、親と比較して、1つ以上のアミン酸修飾、例えば、約2~50のアミノ酸修飾、例えば、親と比較して、約2~10のアミノ酸修飾、約2~5のアミノ酸修飾等を有してもよい。したがって、Fcバリアントの配列、および親Fcポリペプチドの配列は、実質的に相同である。例えば、本明細書において、変異Fcバリアント配列は、親Fcバリアント配列と約80%の相同性、例えば、少なくとも約90%の相同性、少なくとも約95%の相同性、少なくとも98%の相同性、少なくとも約99%の相同性等を有する。本明細書に開示される修飾は、挿入、欠失、および置換を含む、アミノ酸修飾を含む。本明細書に開示される修飾は、グリコフォーム修飾も含む。修飾は、一般的に、分子生物学を使用して行われるか、または酵素的に、もしくは化学的に行われてもよい。
【0115】
本明細書に開示されるFcバリアントは、それらを構成するアミノ酸修飾によって定義される。したがって、例えば、S267Eは、親Fcポリペプチドに対して、置換S267Eを伴うFcバリアントである。同様に、S267E/L328Fは、親Fcポリペプチドに対して、置換S267EおよびL328Fを伴うFcバリアントを定義する。野生型アミノ酸の同一性は、不特定であってもよく、この場合、前述のバリアントは、267E/328Fと称される。置換が提供される順番は、恣意的であり、つまり、例えば、267E/328Fは、328F/267Eと同じFcバリアントなどであることに留意する。特に記載のない限り、本明細書で論議される位置は、カバットに記載のEU指標に従いナンバリングされる(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed., United States Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda、参照によりその全体が本明細書に援用される)。簡単に言えば、EUは、その全アミノ酸配列が決定された最初の抗体分子の名称なので(Edelman et al.,1969,Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85、参照によりその全体が本明細書に援用される)、そのアミノ酸配列は、重鎖定常領域の標準的なナンバリングスキームになった。EUタンパク質は、ナンバリングを定義するための標準的基準になった。Kabatらは、それを他の抗体配列とアラインしたインデックスセットについてEU配列をリストにし、EUナンバリングスキームに対して抗体をアラインするために必要なツールとしてに役立った。よって、当業者によって理解されるように、EUナンバリングを参照する標準的な方法は、Kabatらの配列のアラインメントを参照することである。なぜなら、それが、他の可変ドメイン長の抗体に関してEUを用いているからである。従って、本明細書中に使用される「カバットにあるようなEUインデックス」または「ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである」とは、カバットに記載のEU抗体のナンバリングを指す。
【0116】
特定の実施形態において、本明細書に開示されるFcバリアントは、ヒトIgG配列に基づき、したがって、ヒトIgG配列は、これらに限定されないが、例えば、ゲッ齒類および霊長類配列等の他の生物からの配列を含む、他の配列が比較される「基本」配列として使用される。免疫グロブリンは、IgA、IgE、IgGD、IgG等の、他の免疫グロブリンクラスからの配列も含む。本明細書に開示されるFcバリアントは、1つの親IgGと関連して操作されるが、バリアントは、別の第2の親IgGと関連して、またはそれに「移行」されてもよいものとする。これは、典型的には、第1と第2のIgGとの配列間の配列または構造相同性に基づき、第1と第2のIgGとの間の「等価の」または「対応する」残基および置換を決定することにより行われる。相同性を確立するために、本明細書に概説する第1のIgGのアミノ酸配列は、第2のIgGの配列と直接比較される。配列を整列させた後、当該分野で知られている相同性整列プロブラムの1つ以上を使用し(例えば、種属間の保存残基を使用し)、整列を維持するために必要な挿入および欠失をすることにより(すなわち、恣意の欠失および挿入を通して、保存残基の排除を避ける)、第1の免疫グロブリンの一次配列における特定のアミノ酸に等価な残基が定義される。保存残基の整列は、そのような残基の100%を保存し得る。しかしながら、75%を超える、またはわずかに50%の保存残基の整列も、等価残基を定義するのに十分である。等価残基は、構造が決定されたIgGの三次構造のレベルである、第1と第2のIgGとの間の構造的相同性を決定することにより定義されてもよい。この場合、等価残基は、親または前駆体の特定のアミノ酸残基の主鎖原子の2つ以上の原子座標(N上にN、CA 上にCA、C上にC、およびO上にO)が、整列後、約0.13nm以内であるものと定義される。別の実施形態において、等価残基は、整列後、約0.1nm以内である。整列は、最良のモデルが、タンパク質の非水素タンパク原子の原子座標の最大重複を与えるように配向され、位置付けられた後に、達成される。等価または対応する残基がどのように決定されるかに関わらず、また、IgGが作製される親IgGの同一性に関わらず、本明細書に開示される、発見されたFcバリアントは、Fcバリアントと有意な配列または構造的相同性を有する、あらゆる第2の親IgGに操作されてもよいということである。したがって、例えば、等価残基を決定するための上述の方法、または他の方法を使用することにより、親抗体がヒトIgG1である、バリアント抗体が生成される場合、バリアント抗体は、異なる抗原、ヒトIgG2親抗体、ヒトIgA親抗体、マウスIgG2aまたはIgG2b親抗体等に結合する、別のIgG1親抗体に操作されてもよい。また、上述のように、親Fcバリアントの構成は、本明細書に開示されるFcバリアントを、他の親IgGに移行する能力に影響を及ぼさない。
【0117】
本明細書に開示されるFcバリアントは、種々のFc受容体結合特性のために最適化され得る。1つ以上の最適化された特性を示すように操作される、または予測されるFcバリアントは、本明細書において、「最適化されたFcバリアント」と称される。最適化され得る特性は、限定されないが、FcγRに対して強化または低減される親和性を含む。一実施形態において、本明細書に開示されるFcバリアントは、阻害受容体FcγRIIbに対して強化された親和性を有するように最適化される。他の実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、FcγRIIbに対して強化された親和性を提供するが、例えば、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa、および/またはFcγRIIIbを含む、1つ以上の活性化FcγRに対して低減された親和性を提供する。FcγR受容体は、これらに限定されないが、ヒト、カニクイザル、およびマウスを含む、任意の生物からの細胞上で発現されてもよい。本明細書に開示されるFcバリアントは、ヒトFcγRIIbに対して強化された親和性を有するように最適化されてもよい。
【0118】
本明細書で使用される、親Fcポリペプチドより「大きな親和性」、もしくは「改善された親和性」、もしくは「強化された親和性」、もしくは「良好な親和性」とは、結合アッセイのバリアントおよび親ポリペプチドの量が、基本的に同じである時、Fcバリアントが、親Fcポリペプチドより有意に高い会合平衡定数(KもしくはKa)、または低い解離平衡定数(KもしくはKd)で、Fc受容体に結合することを意味する。例えば、改善されたFc受容体結合親和性を有するFcバリアントは、受容体結合親和性が、例えば、限定されないが、Biacoreを含む、本明細書に開示される結合方法によって、当業者により決定される、親Fcポリペプチドと比較したFc受容体結合親和性において、約5倍~約1000倍、例えば、約10倍~約500倍の改善を示し得る。したがって、本明細書で使用される、親ポリペプチドと比較して「低減された親和性」とは、Fcバリアントが、親Fcポリペプチドより有意に低いKまたは高いKで、Fc受容体に結合することを意味する。より大きいまたは低減された親和性は、親和性の絶対レベルに対しても定義され得る。例えば、本明細書のデータによると、野生型(自然)IgG1は、約1.5μM、または約1500nMの親和性で、FcγRIIbに結合する。更に、本明細書に記載されるいくつかのFcバリアントは、野生型IgG1の約10倍を上回る親和性で、FcγRIIbに結合する。本明細書に開示される、大きな、または強化された親和性とは、約100nMより低い、例えば、約10nM ~約100nMの間、約1~約100nMの間、または約1nM未満のKを有することを意味する。
【0119】
一実施形態において、Fcバリアントは、1つ以上の活性化受容体に対して、FcγRIIbに対して選択的に強化された親和性を提供する。選択的に強化された親和性とは、Fcバリアントが、親Fcポリペプチドと比較して、活性化受容体に対してFcγRIIbに改善された親和性を有するが、親Fcポリペプチドと比較して、活性化受容体に対して低減された親和性を有するか、またはFcバリアントが、親Fcポリペプチドと比較して、FcγRIIbおよび活性化受容体の両方に改善された親和性を有するが、親和性の改善は、活性化受容体に対してよりFcγRIIbに対しての方が大きいことかのいずれかを意味する。代替の実施形態において、Fcバリアントは、1つ以上の活性化FcγRへの結合を低減もしくは切断する、1つ以上の補体タンパク質への結合を低減もしくは切断する、1つ以上のFcγR媒介エフェクター機能を低減もしくは切断する、および/または1つ以上の補体媒介エフェクター機能を低減もしくは切断する。
【0120】
FcγRの異なる多型形態の存在は、本明細書に開示されるFcバリアントの治療有用性に影響を与える、また別のパラメータを提供する。FcγRの異なるクラスに対する所与のFcバリアントの特異性および選択性は、Fcバリアントが、所与の疾患の治療のための所与の抗原を標的とする能力に有意に影響を及ぼすが、これらの受容体の異なる多型形態に対するFcバリアントの特異性または選択性は、研究または前臨床実験が、検査に適切であってもよいか、そして最終的に、どの患者集団が治療に反応する可能性があるかないかを、部分的に決定し得る。したがって、これらに限定されないが、FcγRIIa、FcγRIIIa等を含む、Fc受容体多型に対する、本明細書に開示されるFcバリアントの特異性または選択性は、有効な研究および前臨床実験の選択、臨床試験のデザイン、患者の選択、用量依存性、および/または臨床試験に関わる他の態様を導くために使用され得る。
【0121】
本明細書に開示されるFcバリアントは、これらに限定されないが、補体タンパク質、FcRn、およびFc受容体ホモログ(cRH)を含む、FcγR以外のFc受容体との相互作用を調節する修飾を含んでもよい。FcRHは、これらに限定されないが、FcRH1、FcRH2、FcRH3、FcRH4、FcRH5、およびFcRH6を含む(Davis et al.,2002,Immunol.Reviews 190:123-136)。
【0122】
所与の疾患を治療するための、所与のFcバリアントの最も有益な選択を決定する重要なパラメータは、Fcバリアントの構成である。したがって、所与のFcバリアントのFc受容体選択性または特異性は、抗体、Fc融合物、または融合パートナーと結合したFcバリアントを構成するかによって、異なる特性を提供する。一実施形態において、本明細書に開示されるFcバリアントのFc受容体特異性は、その治療有用性を決定する。治療目的の所与のFcバリアントの有用性は、標的抗原のエピトープもしくは形態、および治療される疾患または徴候に依存する。いくつかの標的および徴候において、より大きなFcγRIIb親和性、および低減された活性化FcγR媒介エフェクター機能が、有益であり得る。他の標的抗原および治療用途において、FcγRIIbに対する親和性を増加する、または FcγRIIbおよび活性化受容体の両方に対する親和性を増加することが有益であり得る。
【0123】
抑制特性およびCD32b細胞を抑制する方法
【0124】
本明細書中に開示した免疫グロブリンの標的抗原(CD19)は、多様な細胞型で発現され得る。いくつかの実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、CD32b+細胞で発現されるCD19に特異的である。本明細書中に開示した免疫グロブリンによって標的化され得る細胞型としては、B細胞、形質細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好塩基球、および好酸球が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
CD32b+細胞を抑制する方法が本明細書中に開示されている。それだけに限定されるものではないが、図3は、それによって本明細書中に開示した免疫グロブリンがCD32b+細胞を抑制する、提案の機構の略図である。従って、FcγRIIbに対して高められた親和性を有するFc領域を含む免疫グロブリンと、CD32b+細胞を接触させることを含む、CD32b+細胞を抑制する方法が、本明細書中に開示されている。免疫グロブリンは、少なくとも2つB細胞タンパク質、例えば表面B細胞に結合する少なくとも2つのタンパク質、に結合する。一実施形態において、前記B細胞タンパク質の1番目はFcγRIIbである。別の実施形態において、前記B細胞タンパク質の2番目は、CD19である。いくつかの実施形態において、免疫グロブリンは、B細胞受容体によるそれらの刺激によってB細胞からのカルシウムの放出を抑制する。別の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、同じB細胞表面上の少なくとも2つB細胞タンパク質を結合する(図3を参照)。
【0126】
抑制機能を最適化するための修飾
【0127】
修飾を含む免疫グロブリンを対象としたものが本明細書中に開示されており、ここで、前記修飾は、FcγRIIb受容体に対して親和性を変更し、および/または1若しくは複数のFcγRIIb媒介性エフェクター機能を媒介する免疫グロブリンの能力を変更する。開示の修飾としては、アミノ酸修飾とグリコフォーム修飾が挙げられる。
【0128】
本明細書中に記載したように、同族BCRとFcγRIIbとの同時の高親和性共結合は、FcγRIIb+細胞を抑制するのに使用され得る。斯かる共結合は、本明細書中に記載した免疫グロブリン、例えばそのFc領域を介して両FcγRIIbの共結合に使用される免疫グロブリン、およびそのFv領域を介してFcγRIIb+細胞表面上の標的抗原(例えば、CD19)の使用を介して起こり得る。重鎖定常領域の位置234、235、236、239、267、268、および328のアミノ酸修飾は、免疫グロブリンFcγRIIb結合特性、エフェクター機能、および抗体の潜在的な臨床特性の修飾を可能にする。
【0129】
一実施形態において、FcγRIIb+細胞に結合し、かつ、細胞表面上の標的抗原と本明細書中に開示した細胞表面上のFcγRIIbとを共結合する免疫グロブリンは、親免疫グロブリンに対するバリアント免疫グロブリンであってもよい。一実施形態において、バリアント免疫グロブリンは、バリアントFc領域を含み、ここで、前記バリアントFc領域は、親定常領域と比較して、1若しくは複数(例えば、2つ以上)の修飾を含み、ここで、前記修飾(1もしくは複数)は、234、235、236、239、267、268、および328からなる群から選択される位置にあり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記バリアントFc領域は、親定常領域と比較して、1若しくは複数(例えば、2つ以上)の修飾を含み、ここで、前記修飾がカバットにあるようなEUインデックスによる267および328からなる群から選択される位置にある。
【0130】
一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つの置換(例えば、1若しくは複数の置換、2以上の置換など)であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、235Y、235R、236D、267D、267E、および328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換である。一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、267Eおよび328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、L234W、L235I、L235Y、L235R、L235D、G236D、G236N、S239D、S267D、S267E、H268E、H268D、L328F、およびL328Yからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、L235Y、L235R、G236D、S267D、S267E、およびL328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換である。一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、S267EおよびL328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。
【0131】
別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、235/267、236/267、236/267、267/328、および268/267からなる群から選択される位置における少なくとも2つの修飾(例えば、修飾の組み合わせ)であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、位置267/328における少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。更なる実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、235D/267E、235Y/267E、235Y/267D、236D/267E、267E/328F、268D/267E、268E/267E、および268E/267Dからなる群から選択される少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、少なくとも267E/328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、L235D/S267E、L235Y/S267E、L235D/S267D、L235I/S267E、L235I/S267D、L235Y/S267D、G236D/S267E、G236D/S267D、S267E/L328F、S267D/L328F、H268D/S267E、H268D/S267D、H268E/S267E、およびH268E/S267Dからなる群から選択される少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、L235D/S267E、L235Y/S267E、L235Y/S267D、G236D/S267E、S267E/L328F、H268D/S267E、H268E/S267E、およびH268E/S267Dからなる群から選択される少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、少なくともS267E/L328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。
【0132】
別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、位置236/267/328における少なくとも3つの置換(例えば、修飾の組み合わせ)であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記修飾(1もしくは複数)は、少なくとも236D/267E/328Fである。別の実施形態において、前記置換手段は、少なくともG236D/S267E/L328Fである。
【0133】
いくつかの実施形態において、抗体は、アイソタイプの修飾、つまり、親IgGの別のIgGのアミノ酸タイプへの修飾を含んでもよい。例えば、図1で例示されるように、IgG1/IgG3ハイブリッドバリアントは、2つのアイソタイプが異なる位置で、CH2および/またはCH3領域のIgG1位置をIgG3からのアミノ酸と置換することによって構築されてもよい。したがって、274Q、276K、300F、339T、356E、358M、384S、392N、397M、422I、435R、および436Fからなる群から選択される1もしくは複数の置換を含む、ハイブリッドバリアントIgG抗体が、構築されてもよい。本発明の他の実施形態において、IgG1/IgG2ハイブリッドバリアントは、2つのアイソタイプが異なる位置で、CH2および/またはCH3領域のIgG2を、IgG1からのアミノ酸と置換することによって構築されてもよい。したがって、233E、234L、235L、-236G(位置236での、グリシンの挿入を指す)、および327Aからなる群から選択される1もしくは複数の修飾を含む、ハイブリッドバリアントgG抗体が構築されてもよい。
【0134】
最適化エフェクター機能の手段
【0135】
本明細書中に記載して、および/または免疫グロブリンが1若しくは複数のFcを媒介する能力を変更して、親和性をFcに変更する手段を含む免疫グロブリンは、γRIIb受容体であるかγRIIb-媒介性エフェクターは機能する。
開示の手段は、アミノ酸修飾(例えば、最適化エフェクター機能の位置の手段、最適化エフェクター機能の置換手段など)とグリコフォーム修飾が(例えば、グリコフォーム修飾の手段)であると含む。
【0136】
アミノ酸修飾
【0137】
本明細書中に記載したように、エフェクター機能を最適化する位置的手段は、これだけに限定されるものではないが、免疫グロブリンFcγRIIb結合特性、エフェクター機能、および潜在的な臨床特性の修飾を可能にする、1若しくは複数の重鎖定常領域位置234、235、236、239、267、268、および328においてアミノ酸の修飾を含む。
【0138】
特に、例えば、FcγRIIbに対する親和性を変更することによってFcγRIIbエフェクター機能を最適化する置換手段は、1若しくは複数の重鎖定常領域の位置におけるアミノ酸置換、例えば、重鎖定常領域の位置234、235、236、239、267、268、および328における1若しくは複数のアミノ酸置換を包含するが、これだけに限定されず、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、親Fc領域と比較して、少なくとも1つの置換(例えば、1若しくは複数の置換、2以上の置換など)を包含し、ここで、前記置換がカバットにあるようなEUインデックスに従って267および328からなる群から選択される位置に存在する。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、235Y、235R、236D、267D、267E、および328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、267Eおよび328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、L234W、L235I、L235Y、L235R、L235D、G236D、G236N、S239D、S267D、S267E、H268E、H268D、L328F、およびL328Yからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、L235Y、L235R、G236D、S267D、S267E、およびL328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、S267EおよびL328Fからなる群から選択される少なくとも1つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。
【0139】
別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置235/267、236/267、236/267、267/328、および268/267における少なくとも2つの置換(例えば、修飾の組み合わせ)であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置267/328における少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。更なる実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置235D/267E、235Y/267E、235D/S267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、268D/267D、268E/267E、および268E/267Dにおける少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置235D/267E、235Y/267E、235Y/267D、236D/267E、267E/328F、268D/267E、268E/267E、および268E/267Dにおける少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、少なくとも267E/328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置L235D/S267E、L235Y/S267E、L235D/S267D、L235I/S267E、L235I/S267D、L235Y/S267D、G236D/S267E、G236D/S267D、S267E/L328F、S267D/L328F、H268D/S267E、H268D/S267D、H268E/S267E、およびH268E/S267Dにおける少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置L235D/S267E、L235Y/S267E、L235Y/S267D、G236D/S267E、S267E/L328F、H268D/S267E、H268E/S267E、およびH268E/S267Dにおける少なくとも2つの置換であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。一実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、少なくともS267E/L328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。
【0140】
別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、位置236/267/328における少なくとも3つの置換(例えば、修飾の組み合わせ)であり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、少なくとも236D/267E/328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、前記置換手段(1もしくは複数)は、少なくともG236D/S267E/L328Fであり、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。
【0141】
グリコフォーム修飾
【0142】
抗体を含む多くのポリペプチドは、オリゴ糖とのグリコシル化等の糖鎖を含む、種々の翻訳後修飾を受ける。グリコシル化に影響を与えることができるいくつかの要因が存在する。種属、組織および細胞型はすべて、グリコシル化がどのように生じるかにおいて重要であることが示されている。加えて、血清濃度等の培養条件の変更を通して、細胞外環境は、グリコシル化に直接的な影響を与える(Lifely et al.,1995,Glycobiology 5(8):813-822)。
【0143】
すべての抗体は、重鎖の定常領域の保存位置で糖を含有する。各抗体のアイソタイプは、明確な種々のN結合型糖構造を有する。重鎖に結合される糖とは別に、ヒトIgGの最大30%は、グリコシル化Fab領域を有する。IgGは、CH2ドメインのAsn297で、単一結合型二触角性糖を有する。血清からか、またはハイブリドーマまたは操作された細胞で細胞外生成される、いずれのIgGにおいても、IgGは、Asn297結合型糖に関して異種である(Jefferis et al.,1998,Immunol.Rev.163:59-76、Wright et al.,1997,Trends Biotech 15:26-32)。ヒトIgGにおいて、コアオリゴ糖は、通常、異なる数の外側残基を有する、GlcNAcManGlcNAcからなる。
【0144】
本明細書に開示される免疫グロブリンの糖鎖は、オリゴ糖の説明に通常使用される命名法を参照して説明される。この命名法を使用する糖化学の総説は、Hubbard et al.1981,Ann.Rev.Biochem.50:555-583に見られる。この命名法は、例えば、マンノースを表すMan、2-N-アセチルグリコサミンを表すGlcNAc、ガラクトースを表すGal、フコースを表すFuc、およびグルコースを表すGlcを含む。シアル酸は、5-N-アセチルノイラミン酸についてはNeuNAc、および5-グルコリルノイラミン酸についてはNeuNGcの省略標記によって記載される。
【0145】
「グリコシル化」とは、オリゴ糖(2つ以上の単糖の連結、例えば、2~約12の単糖の連結を含有する糖)の糖タンパク質への結合を意味する。オリゴ糖測鎖は、典型的に、NまたはO結合のいずれかを通して、糖タンパク質の骨格に連結される。本明細書に開示される免疫グロブリンのオリゴ糖は、一般的に、N結合型オリゴ糖としてFc領域のCH2ドメイに結合される。「N結合型グリコシル化」とは、糖タンパク質鎖における、糖鎖のアスパラギン残基への結合を指す。当業者は、例えば、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b、および IgG3のそれぞれ、ならびにヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgD CH2ドメインが、アミノ酸残基297で、N結合型グリコシル化のための単一部位を有することを認識するであろう(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest,1991)。
【0146】
本明細書の目的において、「成熟型コア糖構造」とは、一般的に、二触角性オリゴ糖に典型的な、次の糖構造:GlcNAc(Fucose)-GlcNAc-Man-(Man-GlcNAc)2からなる、Fc領域に結合される処理されたコア糖構造を指す。成熟型コア糖構造は、一般的に、Fc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合を介して、糖タンパク質のFc領域に結合される。「二分GlcNAc」とは、成熟型コア糖構造のβ1,4マンノースに結合されるGlcNAc残基である。二分GlcNAcは、β(1,4)-N-アセチルグルコサミン転移酵素III酵素(GnTIII)により、酵素的に成熟型コア糖構造に結合され得る。CHO細胞は、通常、GnTIIIを発現しないが (Stanley et al.,1984,J.Biol.Chem.261:13370-13378)、そのように操作することができる(Umana et al.,1999, Nature Biotech.17:176-180)。
【0147】
修飾されたグリコフォームまたは操作されたグリコフォームを含むFcバリアントを、本明細書で説明する。本明細書で使用される、「修飾されたグリコフォーム」、または「操作されたグリコフォーム」とは、タンパク質、例えば、抗体に共有結合的に結合される糖組成物を意味し、該糖組成物は、親タンパク質のそれと化学的に異なる。操作されたグリコフォームは、これらに限定されないが、FcγR媒介性エフェクター機能の強化または低減を含む、種々の目的に有用であり得る。一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、Fc領域に共有結合的に結合される、フコシル化および/または二分オリゴ糖のレベルを制御するように修飾される。
【0148】
修飾されたグリコフォームを生成するための種々の方法は、当該分野において周知である(Umana et al.,1999,Nat Biotechnol 17:176-180、Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288-294、Shields et al.,2002,J Biol Chem 277:26733-26740、Shinkawa et al.,2003,J Biol Chem 278:3466-3473)、(US6,602,684、US公開第2003/0157108号;US公開第2003/0003097号、PCT国際公開第00/61739A1号、PCT国際公開第01/29246A1号、PCT国際公開第02/31140A1号、PCT国際公開第02/30954A1号)、(Potelligent(登録商標)technology[Biowa, Inc., Princeton, NJ]、GlycoMAb(登録商標)glycosylation engineering technology[GLYCART biotechnology AG, Zurich, Switzerland]、参照によりすべてが明示的に援用される)。これらの技法は、例えば、操作された、種々の生物または細胞株(例えば、Lec-13CHO細胞、またはラットハイブリドーマYB2/0細胞)でIgGを発現させることにより、さもさければ、グリコシル化経路に関与する酵素(例えば、FUT8[α1,6-フコシル基転移酵素]および/またはβ1-4-N-アセチルグルコサミン転移酵素III[GnTIII])を調節することにより、またはIgGが発現した後に、糖(類)を修飾することにより、Fc領域に共有結合的に結合される、フコシル化および/または二分オリゴ糖のレベルを制御する。本明細書に開示される免疫グロブリンのグリコフォームを修飾するための他の方法は、糖操作された酵母株(Li et al.,2006,Nature Biotechnology 24(2):210-215)、蘚類(Nechansky et al.,2007,Mol Immunjol 44(7):1826-8)、および植物(Cox et al.,2006,Nat Biotechnol 24(12):1591-7)の使用を含む。修飾されたグリコフォームを生成するための特定の方法の使用は、その方法に実施形態を制限するものではない。むしろ、本明細書に開示される実施形態は、それらがどのように生成されるかに関係なく、修飾されたグリコフォームを伴うFcバリアントを包含する。
【0149】
一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、シアル化のレベルを変更するために、糖操作される。免疫グロブリンG分子における、高レベルのシアル化Fcグルカンは、機能性に悪影響を与える可能性があり(Scallon et al., 2007,Mol Immunol.44(7):1524-34)、Fcシアル化のレベルの相違は、変更された抗炎症性活性をもたらす可能性がある(Kaneko et al.,2006,Science 313:670-673)。抗体は、Fcコア多糖のシアル化の際に抗炎症性特性を取得し得るため、Fcシアル酸含有量の増加または低減のために、本明細書に開示される免疫グロブリンを糖操作することは、有益であり得る。
【0150】
操作されたグリコフォームは、典型的に、異なる糖またはオリゴ糖を指し、したがって、例えば、免疫グロブリンは、操作されたグリコフォームを含み得る。代替的に、操作されたグリコフォームは、異なる糖またはオリゴ糖を含む免疫グロブリンを指す場合がある。一実施形態において、本明細書に開示される組成物は、Fc領域を有するグリコシル化Fcバリアントを含み、グリコシル化抗体の約51~100%、例えば、組成物中の抗体の約80~100%、90~100%、95~100%等は、フコースを欠失する、成熟型コア糖構造を含む。別の実施形態において、組成物中の抗体は、フコースを欠失する成熟型コア糖構造を含み、更に、Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、両方である。代替の実施形態において、組成物は、Fc領域を有するグリコシル化Fcバリアントを含み、約51~100%のグリコシル化抗体、例えば、組成物中の抗体の約80~100%または90~100%は、シアル酸を欠失する、成熟型コア糖構造を含む。別の実施形態において、組成物中の抗体は、シアル酸を欠失する成熟型コア糖構造を含み、更に、Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、両方である。また別の実施形態において、組成物は、Fc領域を有するグリコシル化Fcバリアントを含み、グリコシル化抗体の約51~100%、例えば、組成物中の抗体の約80~100%または90~100%は、シアル酸を含有する、成熟型コア糖構造を含む。別の実施形態において、組成物中の抗体は、シアル酸を含有する成熟型コア糖構造を含み、更に、Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、両方である。別の実施形態において、操作されたグリコフォームとアミノ酸修飾の組み合わせは、抗体に最適なFc受容体結合特性を提供する。
【0151】
他の修飾
【0152】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、FcγRまたは補体媒介性機能自体に特に関連しない、最適化された特性を提供する1もしくは複数の修飾を含んでもよい。該修飾は、アミノ酸修飾であるか、または酵素的に、もしくは化学的に行われる修飾であってもよい。このような修飾は、例えば、その安定性、溶解性、または臨床使用の強化等の、免疫グロブリンのある程度の改善を提供する可能性がある。本明細書に開示される免疫グロブリンを更なる修飾と結合することにより行わせてもよい、種々の改善を本明細書に開示する。
【0153】
一実施形態において、本明細書に開示される抗体の可変領域は、親和性成熟することができる、つまり、アミノ酸修飾が、抗体のその標的抗原への結合を強化するように、抗体のVHおよび/またはVLドメインで行われ得る。このような種類の修飾は、標的抗原への結合の会合および/または解離動態を改善し得る。他の修飾は、代替標的に対する、標的抗原への選択性を改善するものを含む。これらは、非標的細胞に対して、標的上で発現する抗原への選択性を改善する修飾を含む。標的認識特性に対する他の改善は、更なる修飾によって提供され得る。このような特性は、これらに限定されないが、特定の動態特性(すなわち、会合および解離動態)、代替標的に対する、特定の標的への選択性、および代替形態に対する、特定の標的形態への選択性を含んでもよい。例としては、完全長に対してスプライスバリアント、細胞表面に対して可溶性形態、種々の多型バリアントの選択性、または標的抗原の特定の立体構造形態が挙げられる。本明細書に開示される免疫グロブリンは、免疫グロブリンの内在化の低減または強化を提供する、1もしくは複数の修飾を含んでもよい。
【0154】
一実施形態において、修飾は、これらに限定されないが、安定性、溶解性、およびオリゴマー状態を含む、本明細書に開示される免疫グロブリンの生物物理学的特性を改善するように行われる。修飾は、例えば、より高い安定性を提供するように、免疫グロブリンのより好適な分子内相互作用を提供する置換、または高溶解性のために、露出非極性アミノ酸の極性アミノ酸との置換を含むことができる。数々の最適化の目標および方法は、米国特許公開第2004/0110226号(参照により全体を援用)に記載されており、それは、本明細書中に開示した免疫グロブリンを更に最適化するために、更なる修飾を操作するのに用途を見出し得る。腫瘍提示が増強されるように、または、所望によりインビボクリアランス速度が高まるように、本明細書中に開示した免疫グロブリンを、多量体化状態またはサイズを低減する更なる修飾と組み合わせることもできる。
【0155】
本明細書中に開示した免疫グロブリンに対する他の修飾には、ホモ二量体またはホモ多量体分子の特異的形成を可能にするものが含まれる。斯かる修飾には、操作されたジスルフィド並びに化学修飾または凝集法が含まれるがこれらに限定されず、これらは、共有結合性のホモ二量体またはホモ多量体を生成させるメカニズムを提供し得る。例えば、斯かる分子の操作方法および組成物は、Kan et al., 2001, J. Immunol., 2001, 166: 1320-1326; Stevenson et al., 2002, Recent Results Cancer Res. 159: 104-12; US 5,681,566; Caron et al., 1992, J Exp Med 176:1191-1195 および Shopes, 1992, J Immunol 148(9):2918-22(すべてを参照によりその全体が援用される)に記載されている。本明細書中に開示したバリアントに対する更なる修飾には、ヘテロ二量体、ヘテロ多量体、二機能性および/または多機能性の分子の特異的形成を可能にするものが含まれる。斯かる修飾には、CH3ドメインにおける1つまたはそれ以上のアミノ酸置換が含まれるがこれらに限定されず、ここでは、置換がホモ二量体形成を低減させ、ヘテロ二量体形成を増加させる。例えば、斯かる分子の操作方法および組成物は、Atwell et al., 1997, J Mol Biol 270(1):26-35 および Carter et al., 2001, J Immunol Methods 248:7-15(両方とも参照によりその全体が援用される)に記載されている。更なる修飾には、ヒンジおよびCH3ドメインにおける修飾が含まれ、ここでは、修飾が二量体を形成する性向を低減させる。
【0156】
更なる実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、タンパク質分解部位を除去する修飾を含む。これらは、例えば、生産収量を低減するプロテアーゼ部位、ならびにインビボ投与タンパク質を分解するプロテアーゼを含み得る。一実施形態において、更なる修飾は、脱アミド(すなわち、グルタミニルおよびアスパラギニル残基の対応するグルタミルおよびアスパルチル残基への脱アミド)、酸化、およびタンパク質分解部位等の、共有結合分解部位を除去するように行われる。除去に特に有用である脱アミド部位は、これらに限定されないが、グリシンが続く、アスパラギニルおよびグルタミル(gltuamyl)残基、(それぞれ、NGおよびQGモチーフ)を含む、脱アミドの傾向を強化するものである。このような場合、いずれの残基の置換も、脱アミドの傾向を有意に低減することができる。一般的な酸化部位は、メチオニンおよびシステイン残基を含む。導入または除去され得る他の共有結合性修飾は、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、セリルまたはスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニン、およびヒスチジン測鎖の”-アミノ基のメチル化(T. E .Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W.H. Freeman & Co., San Francisco, pp.79-86(1983)、参照によりその全体が援用される)、N末端アミンのアセチル化、および任意のC末端カルボキシル基のアミド化 を含む。更なる修飾は、限定されないが、N結合型またはO結合型グリコシル化およびリン酸化等の、翻訳後修飾も含み得る。
【0157】
修飾は、生物学の産生に通常使用される、宿主または宿主細胞から得られる発現および/または精製収量を改善するものを含んでもよい。これらは、これらに限定されないが、種々の哺乳動物細胞株(例えば、CHO)、酵母細胞株、バクテリア細胞、および植物を含む。更なる修飾は、重鎖が、鎖間ジスルフィド結合を形成する能力を除去する、または低減する修飾を含む。更なる修飾は、重鎖が、鎖内ジスルフィド結合を形成する能力を除去する、または低減する修飾を含む。
【0158】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、例えば、限定されないが、すべてが参照によりその全体が援用される、Cropp & Shultz,2004,Trends Genet.20(12):625-30、Anderson et al.,2004,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101(2):7566-71、Zhang et al.,2003,303(5656):371-3、およびChin et al.,2003,Science 301(5635):964-7に記載される方法を含む、Schultzおよび共同研究者により開発された技術を使用して組み込まれた、非天然アミノ酸の使用を含む修飾を含んでもよい。いくつかの実施形態において、これらの修飾は、上述の種々の機能的、生物物理学的、免疫学的、または製造特性の操作を可能にする。更なる実施形態において、これらの修飾は、他の目的のために、更なる化学修飾を可能にする。他の修飾が、本明細書において企図される。例えば、免疫グロブリンは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体等の、種々の非タンパク質性重合体の1つに連結されてもよい。更なるアミノ酸修飾は、免疫グロブリンの特異的または非特異的な化学修飾もしくは翻訳後修飾を可能にするように行われてもよい。このような修飾は、これらに限定されないが、ペグ化およびグリコシル化を含む。ペグ化を可能にするように利用され得る特異的置換は、これらに限定されないが、効率的かつ特異的なカップリング化学法が、PEGか、さもなければ重合体部分を結合するために使用され得るような、新規システイン残基または非天然アミノ酸の導入を含む。特定のグリコシル化部位の導入は、新規N-X-T/S配列を本明細書に開示される免疫グロブリンに導入することにより、達成され得る。
【0159】
免疫原性を低減するための修飾は、親配列由来の処理されたペプチドのMHCタンパク質への結合を低減する修飾を含んでもよい。例えば、アミノ酸修飾は、任意の一般的なMHC対立遺伝子を高親和性で結合することが予測される免疫エピトープが存在しないか、または最小数であるように操作されるだろう。タンパク質配列におけるMHC結合型エピトープの同定のいくつかの方法は、当該分野で知られており、本明細書に開示される抗体のエピトープをスコアするために使用されてもよい。例えば、参照によりすべてが明示的に援用される、米国特許公開第2002/0119492号、同第2004/0230380号、同第2006/0148009号、およびそこに引用される参考文献を参照のこと。
【0160】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、FcRn結合を変更する免疫グロブリンと組み合わされてもよい。このようなバリアントは、免疫グロブリンに改善された薬物動態特性を提供し得る。特に、FcのFcRnへの結合を増加するバリアントは、これらに限定されないが、250E、250Q、428L、428F、250Q/428L(Hinton et al.,2004,J.Biol.Chem.279(8): 6213-6216, Hinton et al. 2006 Journal of Immunology 176:346-356、U.S.第11/102621号、PCT/US2003/033037、PCT/US2004/011213、U.S.第10/822300号、U.S.第10/687118号、PCT/US2004/034440、U.S.第10/966673号、参照によりその全体が援用される)、256A、272A、286A、305A、307A、311A、312A、376A、378Q、380A、382A、434A(Shields et al, Journal of Biological Chemistry, 2001,276(9):6591-6604、U.S.第10/982470号、米国特許第6,737,056号、U.S.第11/429793号、U.S.第11/429786号、PCT/US2005/029511、U.S.第11/208422号、参照によりその全体が援用される)、252F、252T、252Y、252W、254T、256S、256R、256Q、256E、256D、256T、309P、311S、433R、433S、433I、433P、433Q、434H、434F、434Y、252Y/254T/256E、433K/434F/436H、308T/309P/311 S(Dall Acqua et al. Journal of Immunology,2002,169:5171-5180、米国特許第7,083,784号、PCT/US97/03321、米国特許第6,821,505号、PCT/US01/48432、U.S.第11/397328号、参照によりその全体が援用される)、257C、257M、257L、257N、257Y、279E、279Q、279Y、281後のSerの挿入、283F、284E、306Y、307V、308F、308Y、311V、385H、385N、(PCT/US2005/041220、U.S.第11/274065号、U.S.第11/436,266号、参照によりその全体が援用される)、204D、284E、285E、286D、および290E(PCT/US2004/037929、参照によりその全体が援用される)を含む。
【0161】
抗体の共有結合的修飾は、本明細書に開示される免疫グロブリンの範囲内に含まれ、概して、翻訳後に行われるが、必ずしもそうではない。例えば、抗体の共有結合的修飾のいくつかの種類は、抗体の特定のアミノ酸残基を、選択された側鎖、またはNもしくはC末端残基と反応することができる有機誘導化剤と反応させることにより、分子に導入される。
【0162】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示した抗体の共有結合改変は、1もしくは複数の標識の付加を含む。“標識基”という用語は任意の検出可能な標識を意味する。いくつかの実施形態において、標識基は、潜在的な立体性障害を低下させるために種々の長さのスペーサーアームにより抗体と結合される。タンパク質を標識する種々の方法が当分野で公知であり、本明細書中に開示した免疫グロブリンを生成するのに用いることができる。一般的には、標識は、それらが検出されるアッセイに応じて以下のように多様な種類に分類される:同位元素標識、前記は放射性同位元素でもまたは重い同位元素でもよい;b)磁性標識(例えば磁性粒子);c)レドックス活性部分;d)光学色素;酵素団(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ);e)ビオチニル化基;およびf)二次レポーターによって認識される予め定めたポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパーペア配列、二次抗体のための結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグなど)。いくつかの実施形態において、標識基は、潜在的な立体性障害を低下させるために種々の長さのスペーサーアームにより抗体と結合される。タンパク質を標識する種々の方法が当分野で公知であり、本明細書中に開示した免疫グロブリンを生成するのに用いることができる。具体的な標識には光学色素(発色団、燐光物質および蛍光発光団(後者が多くの事例で特異的である)を含むが、ただしこれらに限定されない)が含まれる。蛍光発光団は“小分子”蛍光物質またはタンパク質性蛍光物質のどちらでもよい。“蛍光標識”とは、その固有の蛍光特性により検出されえる任意の分子を意味する。
【0163】
複合体
【0164】
一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、抗体「融合タンパク質」であり、時折、「抗体複合体」とも称される。融合パートナーまたは複合パートナーは、タンパク質性または非タンパク質性であり得、後者は、一般的に、抗体上および複合パートナー上の官能基を使用して生成される。複合パートナーおよび融合パートナーは、小分子化学化合物およびポリペプチドを含む、任意の分子であってもよい。例えば、種々の抗体複合体および方法は、Trail et al.,1999,Curr.Opin.Immunol.11:584-588に記載されており、参照によりその全体が援用される。可能な複合パートナーは、これらに限定されないが、サイトカイン、細胞障害性薬剤、毒素、ラジオアイソトープ、化学療法剤、反脈管形成物質、チロシンキナーゼ阻害剤、および他の治療活性剤を含む。いくつかの実施形態において、複合パートナーは、むしろ負荷量と考えられてもよい、つまり、複合体の目的は、免疫グロブリンによる、複合パートナーの標的細胞、例えば、癌細胞または免疫細胞への標的送達である。したがって、例えば、毒素の免疫グロブリンの複合は、該毒素の標的抗原を発現する細胞への送達を標的とする。当業者により理解されるように、実際には、融合および複合の概念および定義は、重複する。融合または複合の意味は、本明細書に開示される任意の特定の実施形態にそれを制限するものではない。むしろ、これらの用語は、本明細書に開示される任意の免疫グロブリンが、ある所望の特性を提供するように、遺伝的に、化学的に、または他の方法で、1もしくは複数のポリペプチドもしくは分子に連結されてもよいという、広範な概念を伝達するように漠然と使用される。
【0165】
適切な複合体は、これらに限定されないが、以下に記載される標識、細胞障害性薬物(例えば、化学療法剤)、または毒素もしくはそのような毒素の活性フラグメントを含む、薬物、および細胞障害性薬剤を含むが、これらに限定されない。適切な毒素およびそれらの対応するフラグメントは、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシン等を含む。細胞障害性薬剤は、ラジオアイソトープを抗体に複合することにより、または放射性核種を抗体に共有結合的に結合されたキレート剤に結合することにより作製される、放射化学物も含む。更なる実施形態は、カリケアマイシン、アウリスタチン、ゲルダナマイシン、マイタンシン、ならびにデュオカルマイシンおよび類似体を利用する;後者に関しては、U.S.2003/0050331を参照、参照によりその全体が援用される。
【0166】
一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、サイトカインに融合または複合される。本明細書で使用される、「サイトカイン」とは、細胞間の介在物質として別の細胞に作用する、1つの細胞集団により放出されるタンパク質の一般的な用語である。例えば、参照によりその全体が援用される、Penichet et al.,2001,J.Immunol.Methods 248:91-101に記載されるように、サイトカインを、抗体に融合させて、一連の所望の特性を提供することができる。このようなサイトカインの例としては、リンホカイン、モノカイン、および通常のポリペプチドホルモンが挙げられる。ヒト成長ホルモン、Nメチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン等の成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、チロキシン、インスリン、プロインスリン、レラキシン、プロレラキシン、卵胞刺激ホルモン(TSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体ホルモン(LH)等の糖タンパク質ホルモン、肝成長因子、線維芽細胞成長因子、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、腫瘍壊死因子αおよびβ、ミュラー管抑制因子、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子、インテグリン、トロンボポエチン(TPO)、NGF-β等の神経成長因子、血小板成長因子、TGF-αおよびTGF-β等の形質転換成長因子(TGF)、インスリン様成長因子IおよびII、エリスロポエチン(EPO)、骨誘発因子、インターフェロンα、β、およびγ等のインターフェロン、マクロファージCSF(M-CSF)等のコロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)および顆粒球CSF(G-CSF)、IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15等のインターロイキン(IL)、TNFαまたはTNFβ等の腫瘍壊死因子、C5a、ならびにLIFおよびkitリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が、サイトカインのうちに含まれる。本明細書で使用される、サイトカインは、自然供給源または組み換え細胞培養物からのタンパク質、および自然配列サイトカインの生物学的活性等価物を含む。
【0167】
別の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、細菌、真菌、植物または動物起源の低分子毒素および酵素的に活性な毒素(それらのフラグメントおよび/またはバリアントを含む)を含むがこれらに限定されるものではない毒素に、融合、コンジュゲートまたは機能し得るように連結している。例えば、多様な免疫毒素および免疫毒素法は、Thrush et al., 1996, Ann. Rev. Immunol. 14:49-71(参照によりその全体が援用される)に記載されている。低分子毒素には、カリケアマイシン(calicheamicin)、メイタンシン(maytansine)(US5,208,020(参照によりその全体が援用される))、トリコセン(trichothene)およびCC1065が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンを、1つまたはそれ以上のメイタンシン分子にコンジュゲートさせてもよい(例えば、抗体分子1個につき約1個ないし約10個のメイタンシン分子)。メイタンシンを、例えば、May-SS-Meに変換し得、それをMay-SH3に還元し、改変された抗体と反応させ(Chari et al., 1992, Cancer Research 52: 127-131(参照によりその全体が援用される))、メイタンシノイド-抗体を生成させ得る。興味深い他のコンジュゲートは、1またはそれ以上のカリケアマイシン分子に結合した免疫グロブリンを含む。抗生物質のカリケアマイシンファミリーは、ピコモル濃度以下の濃度で二本鎖DNAの破壊をもたらす能力を有する。使用し得るカリケアマイシン構造類似体には、γ 、α 、α、N-アセチル-γ 、PSAG、およびθ (Hinman et al., 1993, Cancer Research 53:3336-3342;Lode et al., 1998, Cancer Research 58:2925-2928) (US 5,714,586;US 5,712,374;US 5,264,586;US 5,773,001(すべて参照によりその全体が援用される))が含まれるが、これらに限定されない。アウリスタチン(auristatin)E(AE)およびモノメチルアウリスタチンE(MMAE)などのドラスタチン(Dolastatin)10類似体は、本明細書中に開示した免疫グロブリンのためのコンジュゲートとして用途を見出し得る(Doronina et al., 2003, Nat Biotechnol 21(7):778-84;Francisco et al., 2003 Blood 102(4):1458-65(両方とも参照によりその全体が援用される))。有用な酵素的に活性な毒素には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、菌体外毒素A鎖(緑濃菌由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、オオアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サポナリア(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコテセン(tricothecene)が含まれるが、これらに限定されない。例えば、出典明示により本明細書の一部とするPCT WO93/21232参照(参照によりその全体が援用される)。態様は更に、本明細書中に開示した免疫グロブリンと核酸分解活性を有する化合物(例えば、リボヌクレアーゼ、またはデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)などのDNAエンドヌクレアーゼ)との間のコンジュゲートを包含している。
【0168】
代替的実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、放射性同位元素に、融合、コンジュゲートまたは機能し得るように連結し、放射性コンジュゲートを形成し得る。放射性コンジュゲートの抗体を産生するために、様々な放射活性同位元素が利用可能である。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32およびLuの放射性同位元素が含まれるが、これらに限定されない。例えば、参考文献を参照されたい。
【0169】
更に他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンを、腫瘍の予標的化に利用するために、「受容体」(斯かるストレプトアビジン)に結合させ得る。その場合、免疫グロブリン-受容体コンジュゲートを患者に投与し、続いて除去剤(clearing agent)を使用して未結合のコンジュゲートを循環から除去し、その後、細胞傷害性物質(例えば、放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートした「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。別の実施形態において、抗体依存性酵素媒介プロドラッグ療法(ADEPT)を用いるために、免疫グロブリンを酵素にコンジュゲートまたは機能し得るように連結させる。ADEPTは、免疫グロブリンを、プロドラッグ(例えば、ペプチド化学療法剤、PCT WO81/01145参照(参照によりその全体が援用される))を活性な抗癌薬に変換するプロドラッグ活性化酵素に、コンジュゲートまたは機能し得るように連結させることにより使用し得る。例えば、PCT WO88/07378およびUS4,975,278参照(両方とも参照によりその全体が援用される)。ADEPTに有用な免疫結合体の酵素成分には、プロドラッグに対して、それをより活性の高い細胞傷害性形態に変換するようなやり方で作用する能力のある、いかなる酵素も含まれる。本明細書に開示した方法に有用な酵素には、ホスフェート含有プロドラッグを遊離の薬物に変換するのに有用なアルカリホスファターゼ;サルフェート含有プロドラッグを遊離の薬物に変換するのに有用なアリールサルファターゼ;非毒性の5-フルオロシトシンを抗癌薬の5-フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離の薬物に変換するのに有用な、セラチアプロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシンなどのプロテアーゼ類、カルボキシペプチダーゼ類およびカテプシン類(カテプシンBおよびLなど);D-アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用なD-アラニルカルボキシペプチダーゼ類;グリコシル化プロドラッグを遊離の薬物に変換するのに有用な、ベータ-ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼ(neuramimidase)などの炭水化物切断酵素;アルファ-ラクタム類で誘導された薬物を遊離の薬物に変換するのに有用なベータ-ラクタマーゼ;および、アミン窒素でフェノキシアセチルまたはフェニルアセチル基により各々誘導体化された薬物を遊離の薬物に変換するのに有用な、ペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼなどのペニシリンアミダーゼ類が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、酵素活性を有する抗体(当分野で「抗体酵素」としても知られる)を、本明細書中に開示したプロドラッグを遊離の活性な薬物に変換するのに使用できる(例えば、Massey, 1987, Nature 328: 457-458参照(参照によりその全体が援用される))。免疫グロブリン-抗体酵素結合体は、腫瘍細胞群に抗体酵素を送達するために調製できる。様々なさらなるコンジュゲートが、本明細書中に開示した免疫グロブリンに企図されている。様々な化学療法剤、抗血管新生剤、チロシンキナーゼ阻害剤および他の治療剤は、下記に記載されており、それらは免疫グロブリンコンジュゲートとして用途を見出す。
【0170】
複合体パートナーは、NまたはC末端、または末端間のある残基を含む、本明細書に開示される免疫グロブリンの任意の領域に連結されてもよい。種々のリンカーは、免疫グロブリンに複合体パートナーを共有結合的に連結するために、本明細書に開示される免疫グロブリンに用途を見出し得る。本明細書において、「リンカー」、「リンカー配列」、「スペーサー」、「係留配列」、またはそれらの文法上の同等語は、2つの分子を結合し、多くの場合、2つの分子を1つの構造に配置する働きをする分子、または分子群(単量体または重合体等)を意味する。リンカーは、当該分野において知られており、例えば、ホモまたはヘテロ二機能性リンカーが、周知である(参照によりその全体が援用される、1994 Pierce Chemical Company catalog,technical section on cross-linkers,pages 155-200を参照のこと)。いくつかの方法を、分子を共有結合的に一緒に連結するように使用することができる。これらは、これらに限定されないが、タンパク質またはタンパク質ドメインのNとC末端の間のポリペプチド連結、ジスルフィド結合を介した連結、および化学的架橋試薬を介した連結を含む。この実施形態の一態様において、リンカーは、組み換え技術またはペプチド合成により生成される、ペプチド結合である。リンカーペプチドは、次のアミノ酸残基を主に含み得る:Gly、 Ser、Ala、またはThr。リンカーペプチドは、所望の活性を維持するように、相互に対して適切な高次構造を成すような方式で、2つの分子を連結するのに適当な長さを有するべきである。この目的に適切な長さは、少なくとも1つの、かつ50を超えないアミノ酸残基を含む。一実施形態において、リンカーは、長さが約1~30のアミノ酸であり、例えば、リンカーは、長さが1~20のアミノ酸であってもよい。有用なリンカーは、当業者に理解されるように、グリシン-セリン重合体(例えば、(GS)n、(GSGGS)n(配列番号1として記述)、(GGGGS)n(配列番号2として記述)、および(GGGS)n(配列番号3として記述)を含み、nは少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニン重合体、アラニン-セリン重合体、および他の柔軟なリンカーを含む。代替的に、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体を含む、種々の非タンパク質性重合体は、リンカーとしての用途を見出し得る。
【0171】
免疫グロブリンの産生
【0172】
免疫グロブリンを産生し、実験的に試験するための方法も、本明細書に開示する。開示される方法は、実施形態を任意の特定の操作の用途または理論に限定するものではない。むしろ、提供される方法は、1もしくは複数の免疫グロブリンが、免疫グロブリンを取得するように産生され、実験的に試験され得ることを、一般的に例示して説明するものである。抗体分子生物学、発現、生成、およびスクリーニングのための一般的な方法は、Duebel & Kontermann,Springer-Verlag,Heidelberg,2001により編集されたAntibody Engineering、およびHayhurst & Georgiou,2001,Curr Opin Chem Biol 5:683-689、Maynard & Georgiou, 2000, Annu Rev Biomed Eng 2:339-76、Antibodies: A Laboratory Manual by Harlow & Lane, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988に記載され、すべて参照によりその全体が援用される。
【0173】
本明細書に開示される一実施形態において、免疫グロブリンをコードし、その後、所望する場合、宿主細胞内にクローン化、発現、および測定され得る核酸が作製される。したがって、各タンパク質配列をコードする、核酸、および特にDNAが作製され得る。これらの実践は、周知の手順を使用して実施される。例えば、本明細書に開示される免疫グロブリンの生成に用途を見出し得る種々の方法は、Molecular Cloning - A Laboratory Manual,3rd Ed.(Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York,2001)、および Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons)に記載されており、ともに、参照によりその全体が援用される。当業者に理解されるように、多くの配列を含むライブラリの正確な配列の生成は、高価で時間がかかる可能性がある。本明細書において、「ライブラリ」とは、これらに限定されないが、核酸またはアミノ酸配列の一覧、種々の位置での核酸またはアミノ酸の一覧、ライブラリ配列をコードする核酸を含む物理的ライブラリ、または精製または未精製形態のいずれかのバリアントタンパク質を含む物理的ライブラリを含む、任意の形態のバリアントの一式を意味する。したがって、本明細書に開示されるライブラリを効果的に生成するように使用され得る、種々の技法がある。本明細書中に開示した免疫グロブリンを作出するための使用を見出すことができるような方法は、US6,403,312、米国公報第2002/0048772号;U.S.7,315,786;米国公報第2003/0130827号;PCT WO01/40091;およびPCT WO02/25588に記載または参照されている、すべて参照によりその全体が援用される。このような方法は、これらに限定されないが、遺伝子アセンブリ法、PCRに基づく方法、およびPCRの変形を使用する方法、リガーゼ連鎖反応に基づく方法、合成組み換え、エラーを起こしやすい増幅法、およびランダム変異を伴うオリゴを使用する方法等の混合オリゴ法、古典的な部位指定変異導入法、カセット変異導入法、ならびに他の増幅および遺伝子合成法を含む。当該分野において知られているように、遺伝子アセンブリ、変異導入、ベクターサブクローン化等のための種々の市販のキットおよび方法があり、このような市販製品は、免疫グロブリンをコードする核酸の生成に用途を見出す。
【0174】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、タンパク質の発現を誘発する、または生じるような適切な条件下で、免疫グロブリンをコードする核酸を含有する、核酸、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することにより生成することができる。発現に適切な条件は、発現ベクターおよび宿主細胞の選択により異なり、日常の実験を通して、当業者によって容易に確認されるであろう。これらに限定されないが、哺乳動物細胞、バクテリア、昆虫細胞、および酵母を含む、多種多様の適切な宿主細胞が使用されてもよい。例えば、本明細書に開示される免疫グロブリンの生成に用途を見出し得る、種々の細胞株は、American Type Culture Collectionから入手可能な、ATCC(登録商標)細胞株カタログに記載されている。
【0175】
一実施形態において、免疫グロブリンは、発現コンストラクトが、レトロウイルスまたはアデノウイルス等のウイルスを用いて哺乳動物細胞に導入される系を含む、哺乳動物発現系で発現される。任意の哺乳動物細胞、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、および霊長類の細胞を使用することができる。適切な細胞は、限定されないが、ジャーカットT細胞、NIH3T3、CHO、BHK、COS、HEK293、PER C.6、HeLa、Sp2/0、NS0細胞、およびそれらのバリアントを含む、既知の研究細胞も含む。代替の実施形態において、ライブラリタンパク質は、バクテリア細胞で発現される。バクテリア発現系は、当該分野に周知であり、大腸菌(E.coli)、枯草菌、ストレプトコッカスクレモリス、およびストレプトコッカスリビダンスを含む。代替の実施形態において、免疫グロブリンは、昆虫細胞(例えば、Sf21/Sf9、イラクサギンウラバBti-Tn5b1-4)または酵母細胞(例えば、出芽酵母、ピキア等)で産生される。代替の実施形態において、免疫グロブリンは、無細胞翻訳系を使用して、インビトロで発現される。原核(例えば、E.coli)および真核(麦芽、ウサギ網状赤血球)細胞の両方に由来するインビトロ翻訳系が、利用可能であり、関心のタンパク質の発現レベル、および機能特性に基づき選択されてもよい。例えば、当業者に理解されるように、インビトロ翻訳が、例えば、リボソーム提示等の、いくつかの提示技術に必要である。加えて、免疫グロブリンは、化学合成法により産生されてもよい。動物(例えば、ウシ、ヒツジ、またはヤギの乳、発育鶏卵、全昆虫幼虫等)および植物(例えば、トウモロコシ、タバコ、ウキクサ等)の両方の形質転換発現系も同様。
【0176】
本明細書に開示される免疫グロブリンをコードする核酸は、タンパク質を発現するために、発現ベクターに導入されてもよい。種々の発現ベクターが、タンパク質発現のために利用されてもよい。発現ベクターは、自己複製染色体外ベクター、または宿主ゲノムに組み入れられるベクターを含んでもよい。発現ベクターは、宿主細胞型と適合可能であるように構築される。したがって、本明細書に開示される免疫グロブリンの生成に用途を見出す発現ベクターは、これらに限定されないが、哺乳動物細胞、バクテリア、昆虫細胞、酵母、およびインビトロ系で、タンパク質発現を可能にするものを含む。当該分野において知られているように、本明細書に開示される免疫グロブリンを発現するための用途を見出し得る、種々の発現ベクターが、商業的または別様に入手可能である。
【0177】
発現ベクターは、典型的に、制御もしくは調節配列と操作可能に連結するタンパク質、選択可能マーカー、任意の融合パートナー、および/または追加要素を含む。本明細書において、「操作可能に連結される」とは、核酸が、別の核酸配列と機能的関係に配置されることを意味する。概して、これらの発現ベクターは、免疫グロブリンをコードする核酸に操作可能に連結される転写および翻訳調節核酸を含み、典型的に、タンパク質を発現するために使用される宿主細胞に適している。一般的に、転写および翻訳調節配列は、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始および停止配列、翻訳開始および停止配列、ならびに転写促進因子または活性化因子配列を含み得る。また当該分野において知られているように、発現ベクターは、典型的に、発現ベクターを含有する形質転換宿主細胞の選択を可能にする、選択遺伝子またはマーカーを含有する。選択遺伝子は、当該分野に周知であり、使用される宿主細胞により異なる。
【0178】
免疫グロブリンは、発現タンパク質の標的、精製、スクリーニング、提示等を可能にするように、融合パートナーに操作可能に連結されてもよい。融合パートナーは、リンカー配列を介して、免疫グロブリン配列に連結されてもよい。リンカー配列は、一般的に、少数のアミノ酸、典型的には、10より少ないアミノ酸を含むが、それより長いリンカーも使用されてもよい。典型的には、リンカー配列は、柔軟かつ分解に対して耐性であるように選択される。当業者に理解されるように、広範な種々の配列のいずれをも、リンカーとして使用することができる。例えば、一般的なリンカー配列は、アミノ酸配列GGGGSを含む。融合パートナーは、免疫グロブリンおよび任意の関連する融合パートナーを所望の細胞部位または細胞外媒体に誘導する、標的またはシグナル配列であってもよい。当該分野において知られているように、特定のシグナル伝達配列は、成長媒体か、細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞膜周辺腔のいずれかの中に分泌されるタンパク質を標的とし得る。融合パートナーは、精製および/またはスクリーニングを可能にする、ペプチドまたはタンパク質をコードする配列でもあってよい。このような融合パートナーは、これらに限定されないが、ポリヒスチジンタグ(His-タグ)(例えば、固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)システムで使用するためのH6およびH10、または他のタグ(例えば、Ni+2親和性カラム))、GST融合物、MBP融合物、Strepタグ、バクテリア酵素BirAのBSPビオチン化標的配列、および抗体の標的とされるエピトープタグ(例えば、c-mycタグ、flagタグ等)を含む。当業者に理解されるように、このようなタグは、精製、スクリーニング、または両方に有用であり得る。例えば、免疫グロブリンは、Ni+2親和性カラムに固定することにより、Hisタグを使用して生成されてもよく、次いで、精製後、同じHisタグは、(以下に記載するように)ELISAまたは他の結合測定法を実施するために、抗体をNi+2被覆プレートに固定するために使用されてもよい。融合パートナーは、免疫グロブリンをスクリーニングするための選択法の使用を可能にし得る(以下を参照)。種々の選択法を可能にする融合パートナーは、当該分野において周知である。例えば、免疫グロブリンライブラリの構成要素を遺伝子IIIタンパク質に融合することにより、ファージ提示法が採用され得る(Kay et al., Phage display of peptides and proteins: a laboratory manual, Academic Press, San Diego, CA, 1996; Lowman et al., 1991, Biochemistry 30: 10832-10838、Smith, 1985, Science 228: 1315-1317、参照によりその全体が援用される)。融合パートナーは、免疫グロブリンの標識を可能にし得る。代替的に、融合パートナーは、発現ベクター上で、特定の配列に結合されてもよく、融合パートナーおよび関連免疫グロブリンが、共有結合的に、または非共有結合的に、それらをコードする核酸と連結されることを可能にする。外因性核酸の宿主細胞への導入方法は、当該分野において周知であり、使用される宿主細胞により異なる。技法は、これらに限定されないが、デキストラン媒介形質移入、リン酸カルシウム沈降法、塩化カルシウム処理、ポリブレン媒介形質移入、プロトプラスト融合、電気穿孔法、ウイルス性またはファージ感染、リポソームへのリヌクレオチドのカプセル封入、およびDNAの核への直接微量注法を含む。哺乳動物細胞の場合、形質移入は、一過性または安定性のいずれかであってもよい。
【0179】
一実施形態において、免疫グロブリンは、発現後に精製または単離される。タンパク質は、当業者に知られている種々の方式で、単離または精製することができる。標準的な精製方法は、FPLCおよびHPLC等のシステムを使用して大気圧力または高圧で実施される、イオン交換、粗水性相互作用、親和性、サイズまたはゲル濾過、および逆相を含むクロマトグラフィー技術を含む。精製法は、電気泳動法、免疫学、沈降法、透析法、および等電点電気泳動法も含む。タンパク質濃度と併用して、限外濾過法および透析濾過法も、有用である。当該分野に周知のように、種々の自然のタンパク質は、Fcおよび抗体に結合し、これらのタンパク質は、本明細書に開示される免疫グロブリンの精製するための用途を見出すことができる。例えば、細菌タンパク質AおよびGは、Fc領域に結合する。同様に、細菌タンパク質Lは、いくつかの抗体のFab領域に結合し、当然、抗体の標的抗原にも同様に結合する。精製は、多くの場合、特定の融合パートナーにより可能となり得る。例えば、免疫グロブリンは、GST融合が採用される場合、グルタチオン樹脂、Hisタグが採用される場合、Ni+2親和性クロマトグラフィー、またはflagタグが使用される場合、固定抗flag抗体を使用して、精製されてもよい。適切な精製技法の一般的な指針については、例えば、参照によりその全体が援用される、Protein Purification: Principles and Practice, 3rd Ed., Scopes, Springer-Verlag, NY, 1994を参照のこと。必要な精製の程度は、免疫グロブリンのスクリーニングまたは使用に応じて異なる。いくつかの場合においては、精製は必要ない。例えば、一実施形態において、免疫グロブリンが分泌される場合、スクリーニングが、媒体から直接行われてもよい。当該分野に周知のように、いくつかの選択の方法は、タンパク質の精製を含まない。したがって、例えば、免疫グロブリンのライブラリは、ファージ提示ライブラリの中に作製される場合、タンパク質精製は実施されなくてもよい。
【0180】
インビトロ実験
【0181】
免疫グロブリンは、これらに限定されないが、インビトロ検定法、インビボおよび細胞を用いた検定法、ならびに選択技術を使用するものを含む、種々の方法を使用してスクリーニングされてもよい。自動高処理スクリーニング技術が、スクリーニング手順に利用されてもよい。スクリーニングは、融合パートナーまたは標識の使用を採用してもよい。融合パートナーの使用は、上で論じられた。本明細書において、「標識された」とは、本明細書に開示される免疫グロブリンが、スクリーニングでの検出を可能にするように結合される、1もしくは複数の要素、同位体、または化学化合物を有することを意味する。一般的に、標識は、次の3つに分類される:a)抗体により認識される融合パートナーとして組み込まれるエピトープであってもよい、免疫標識、b)放射性活性もしくは重同位体であってもよい、同位体標識、およびc)蛍光色素および比色色素、もしくは他の標識法を可能にするビオチン等の分子を含んでもよい、小分子標識。標識は、任意の位置で化合物に組み込まれてもよく、タンパク質発現中に、インビトロまたはインビボに組み込まれてもよい。
【0182】
一実施形態において、免疫グロブリンの機能的および/または生物物理学的特性は、インビトロ検定でスクリーニングされる。インビトロ検定は、関心のスクリーニング特性の広範なダイナミックレンジを可能にし得る。スクリーニングされ得る免疫グロブリンの特性は、これらに限定されないが、安定性、溶解性、およびFcリガンド、例えば、FcγRに対する親和性を含む。複数の特性が、同時または個別にスクリーニングされてもよい。タンパク質は、検定の必要条件に応じて、精製されていても、精製されていなくてもよい。一実施形態において、スクリーンニングは、免疫グロブリンを結合することが既知の、またはそう思われる、免疫グロブリンのタンパク質または非タンパク質分子への結合に対する定性もしくは定量性結合検定である。一実施形態において、スクリーニングは、標的抗原への結合を測定するための結合検定である。代替の実施形態において、スクリーニングは、これらに限定されないが、FcγRのファミリー、新生児型受容体FcRn、補体タンパク質C1q、および細菌タンパク質AおよびGを含む、Fcリガンドへの免疫グロブリンの結合についての検定である。該Fcリガンドは、任意の生物からであってもよい。一実施形態において、Fcリガンドは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、および/またはサルからのものである。結合検定は、限定されないが、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)および BRET(生物発光共鳴エネルギー転移)を用いた検定、AlphaScreen(登録商標)(増幅発光性近接均質アッセイ)、シンチレーション近接アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、SPR(表面プラズモン共鳴法、BIACORE(登録商標)としても知られる)、等温滴定熱量測定法、示差走査熱量測定法、ゲル電気泳動法、およびゲル濾過を含むクロマトグラフィーを含む、当該分野において知られている種々の方法を使用して実施され得る。これら、および他の方法は、免疫グロブリンのある融合パートナーまたは標識をうまく利用し得る。検定は、限定されないが、発色性、蛍光性、発光性、または同位体標識を含む、種々の検出方法を採用してもよい。
【0183】
免疫グロブリンの生物物理学的特性、例えば、安定性および溶解性は、当該分野において知られている種々の方法を使用してスクリーニングされてもよい。タンパク質の安定性は、フォールドとアンフォールド状態の間の熱力学的平衡を測定することにより決定され得る。例えば、本明細書に開示される免疫グロブリンは、化学変性剤、熱、またはpHを使用してほどかれてもよく、この移行は、これらに限定されないが、円二色性分光法、蛍光分光法、吸光分光法、NMR分光法、熱量測定法、およびタンパク質分解を含む方法を使用して監視されてもよい。当業者により理解されるように、フォールドおよびアンフォールドの移行の動態パラメータも、これら、および他の技法を使用して監視され得る。免疫グロブリンの溶解性および全体的な構造の統合性は、当該分野において知られている広範な方法を使用して、定量的、または定性的に決定され得る。本明細書に開示される免疫グロブリンの生物物理学的特性を特徴付けるための用途を見出し得る方法は、ゲル電気泳動法、等電点電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および逆相高速液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、ペプチドマッピング、オリゴ糖マッピング、質量分析法、紫外吸光分光法、蛍光分光法、円二色性分光法、等温滴定熱量測定法、示差走査熱量測定法、超遠心分析法、動的光散乱法、タンパク質分解および架橋結合、濁度測定、フィルター遅延アッセイ、免疫学的検定、蛍光色素結合検定、タンパク質染色法、顕微鏡法、およびELISAまたは他の結合検定を介した凝集物の検出を含む。X線結晶学的技法およびNMR分光法を採用した構造分析にも、用途を見出し得る。一実施形態において、安定性および/または溶解性は、所定の時間期間の後に、タンパク質溶液の量を決定することにより測定され得る。この検定において、タンパク質は、例えば、高温、低pH、または変性剤の存在等の、ある極端な条件に曝されても、曝されなくてもよい。機能は、典型的に、安定性、溶解性、および/またはよく折り畳まれた構造のタンパク質を必要とするため、前述の機能検定および結合検定も、このような測定を実施するための方式を提供する。例えば、免疫グロブリンを含む溶液は、標的抗原を結合するその能力について測定され、その後、1もしくは複数の所定の時間期間の間、高温に曝され、その後、再び、抗原結合について測定され得る。アンフォールドおよび凝集タンパク質は、抗原を結合する能力があると予期されないため、活性残存量は、免疫グロブリンの安定性および溶解性の尺度を提供する。
【0184】
一実施形態において、免疫グロブリンは、1もしくは複数の細胞を用いた検定、またはインビトロ検定を使用してスクリーニングされる。このような検定において、細胞が、ライブラリに属する個別のバリアント、またはバリアント群に曝されるように、精製もしくは未精製の免疫グロブリンが、典型的に、外因的に添加される。これらの検定は、必ずしもそうではないが、典型的に、免疫グロブリンの標的抗原に結合し、例えば、細胞溶解、ファゴサイトーシス、リガンド/受容体結合阻害、成長および/または増殖の阻害、アポトーシス等の、ある生化学事象を媒介する能力の生物学に基づく。このような検定は、多くの場合、細胞の免疫グロブリンへの応答、例えば、細胞生存、細胞ファゴサイトーシス、細胞溶解、細胞形態の変化、または自然遺伝子もしくはリポーター遺伝子の細胞発現等の転写活性化を監視することを含む。例えば、このような検定は、免疫グロブリンのADCC、ADCP、またはCDCを誘発する能力を測定し得る。いくつかの検定において、例えば、血清補体、または末梢血単球(PBMC)、NK細胞、マクロファージ等のエェクター細胞等の、追加の細胞または構成要素が、つまり、標的細胞に加え、添加される必要がある場合がある。このような追加細胞は、任意の生物、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルからであってもよい。架橋または単量体抗体は、抗体の標的抗原を発現する特定の細胞株のアポトーシスをもたらすか、または検定に添加された免疫細胞による、標的細胞への攻撃を媒介する場合がある。細胞の死または生存を監視するための方法は、当該分野において知られており、色素、フルオロフォア、免疫化学、細胞化学、および放射性試薬の使用を含む。例えば、カスパーゼ検定またはアネキシン-フルオロ結合物は、アポトーシスの測定を可能にし得、放射性基質(例えば、クロム-51放出検定)の取り込み、もしくは放出、またはアラマーブルー等の蛍光色素の代謝減少は、細胞成長、増殖、または活性の監視を可能にし得る。一実施形態において、DELFIA(登録商標)EuTDAを用いた、細胞障害性検定(Perkin Elmer, MA)が使用される。代替的に、死んだ、または損傷した標的細胞は、例えば、乳酸デヒドロゲナーゼ等の、1もしくは複数の自然な細胞内タンパク質の放出を測定することにより監視され得る。転写の活性化も、細胞を用いた検定の機能を測定するための方法として機能する。この場合、上方制御または下方制御されてもよい自然遺伝子またはタンパク質について測定することにより、応答が監視されてもよく、例えば、特定のインターロイキンの放出が測定されてもよく、代替的に、ルシフェラーゼまたはGFPリポーターコンストラクトを介して、読出しが行われてもよい。細胞を用いた検定は、免疫グロブリンの存在に対する応答としての、細胞の形態変化の測定も含み得る。このような検定用の細胞型は、原核または真核であってもよく、当該分野において知られている種々の細胞株が採用されてもよい。代替的に、細胞を用いたスクリーニングは、免疫グロブリンをコードする核酸で、形質転換またはそれを形質移入された細胞を使用して実施される。
【0185】
インビトロ検定は、限定されないが、結合検定、ADCC、CDC、細胞毒性、増殖、過酸化物/オゾン放出、エフェクター細胞の走化性、低減されたエフェクター機能抗体によるこのような検体の阻害、100倍超の改善または100倍超の減少等の活性の範囲、レセプター活性の混合、およびこのようなレセプタープロファイルから予期される検定結果を含む。
【0186】
インビボ実験
【0187】
本明細書に開示される免疫グロブリンの生物学的特性は、細胞、組織、および全生物実験において特徴付けされてもよい。当該分野において知られているように、薬物は、多くの場合、疾病または疾病モデルに対する治療における薬物の効果を測定するために、または薬物の薬物動態、毒性、および他の特性を測定するために、限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルを含む動物において試験される。該動物は、疾病モデルと称される場合がある。本明細書に開示される免疫グロブリンに関して、候補ポリペプチドのヒトでの効果の可能性を評価するために動物モデルを使用する時、特別な課題が生じる。これらは、少なくとも部分的に、ヒトFc受容体に対する親和性に特定の作用を有する免疫グロブリンは、オルソロガスな動物の受容体と同じ親和性作用を有さないかもしれないという事実による。これらの問題は、真のオルソロガスの正確な割り当てに関連する、回避不可能な不明確さ(Mechetina et al.,Immunogenetics,2002 54:463‐468、参照によりその全体が援用される)、およびいくつかのオルソロガスが、単純に、動物に存在しないという事実(例えば、ヒトは、FcγRIIaを有するが、マウスは有しない)により、更に深刻化し得る。治療用物質は、多くの場合、これらに限定されないが、マウス株NZB、NOD、BXSB、MRL/lpr、K/BxN、および遺伝子導入(ノックインおよびノックアウトを含む)を含む、マウスにおいて試験される。このようなマウスは、全身性紅斑性狼瘡(SLE)および関節リウマチ(RA)等の、ヒト臓器に特異的な、全身性自己免疫または炎症性疾患病変に似た、種々の自己免疫状態を発症させることができる。例えば、自己免疫疾患に対して意図される本明細書に開示される免疫グロブリンは、免疫グロブリンの疾患病変の発達を低減する、または阻害する能力を決定するようにマウスを処置することにより、このようなマウスモデルにおいて試験することができる。マウスとヒトFcγ受容体系間の不和合性のため、代替的なアプローチとして、ヒトPBLまたはPBMC(huPBL-SCID, huPBMC-SCID)を免疫欠損マウスに植え付けることにより、ヒトエフェクター細胞およびFc受容体を伴う半機能的なヒト免疫系を提供する、マウスSCIDモデルを使用する。このようなモデルにおいて、抗原接種(破傷風トキソイド等)は、B細胞を活性化して、形質細胞に分化し、免疫グロブリンを分泌し、したがって、抗原特性的液性免疫を再構成する。したがって、B細胞上で抗原(CD19またはCD79a/bなど)およびFcγRIIbに特異的に結合する、本明細書に開示される二重標的免疫グロブリンは、B細胞分化を特異的に阻害する能力を検査するために試験されてもよい。このような実験法は、治療物質として使用される該免疫グロブリンの可能性の判定についての有意義なデータを提供し得る。他の生物、例えば、哺乳動物も、試験に使用されてもよい。例えば、サルは、ヒトに対するその遺伝子的類似性のため、治療モデルに適しており、したがって、本明細書に開示される免疫グロブリンの本明細書に開示される免疫グロブリンの効果、毒性、薬物動態、または他の特性を試験するために使用することができる。ヒトにおける本明細書に開示される免疫グロブリンの試験が、最終的に、薬物としての承認のために必要となり、したがって、当然のことながら、これらの実験が意図される。したがって、本明細書に開示される免疫グロブリンは、その治療効果、毒性、薬物動態、および/または他の臨床特性を決定するように、ヒトにおいて試験され得る。
【0188】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、動物モデルまたはヒトにおけるFc含有治療に優れた動作を与え得る。この明細書に記載する、このような免疫グロブリンの受容体結合プロファイルは、例えば、細胞障害性薬物の潜在能を増加するように、または薬物作用の選択性を改善するように、特定のエフェクター機能もしくはエフェクター細胞を標的にするように選択されてもよい。更に、いくつかの、またはすべてのエフェクター機能を低減し、したがって、このようなFc含有薬物の副作用、または毒性を低減し得る受容体結合プロファイルが、選択され得る。例えば、FcγRIIIa、FcγRI およびFcγRIIaに対して低減された結合を有する免疫グロブリンは、ほとんどの細胞媒介性エフェクター機能を排除するように選択され得るか、またはC1qに対して低減された結合を有する免疫グロブリンが、補体媒介性エフェクター機能を制限するように選択されてもよい。いくつかの状況において、このようなエフェクター機能は、毒性作用の可能性を有することが知られている。したがって、これらの排除は、Fc保有薬物の安全性を増加し、このような改善された安全性は、動物モデルにおいて特徴付けされ得る。いくつかの状況において、このようなエフェクター機能は、望ましい治療活性を媒介することが知られている。したがって、これらの強化は、Fc保有薬物の活性または潜在能力を増加し、このような改善された活性または潜在能力は、動物モデルにおいて特徴付けされ得る。
【0189】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、種々のヒト疾患の臨床的適切な動物モデルにおける効果について評価することができる。多くの場合、適切なモデルは、特定の抗原および受容体に対する種々の遺伝子導入動物を含む。
【0190】
ヒトFc受容体(例えば、CD32b)を発現するもの等、適切な遺伝子導入モデルは、免疫グロブリンおよびFc融合物を、それらの効果において評価し、試験するために使用され得る。マウスまたは他のゲッ齒類において、エフェクター機能を直接的、または間接的に媒介するヒト遺伝子の導入による免疫グロブリンの評価は、自己免疫疾患およびRAにおける効果の生理学的研究を可能にし得る。FcγRIIb等のヒトFc受容体は、ヒト多型の特異性および組み合わせのゲッ齒類への導入を更に可能にするであろう、遺伝子プロモーター(GからCの-343)、または受容体187 IもしくはTの膜貫通ドメイン等に多型を有する。多型特異的FcRに関与する種々の研究は、この項に限定されず、本明細書を通して指定される、FcR一般のすべての論議および用途を包含する。本明細書に開示される免疫グロブリンは、このような遺伝子導入モデルにおいて、Fc含有薬物に優れた活性を与え得、特にヒトFcγRIIb媒介活性用に最適化された結合プロファイルを有するバリアントは、遺伝子導入CD32bマウスにおいて、優れた活性を示し得る。他のヒトFc受容体、例えば、FcγRIIa、FcγRI等の遺伝子導入マウスの効果において、同様の改善が、それぞれの受容体に最適化された結合プロファイルを有する免疫グロブリンについて観察され得る。複数のヒト受容体の遺伝子導入マウスは、対応する複数の受容体に最適化された結合プロファイルを有する免疫グロブリンについて、改善された活性を示すであろう。
【0191】
ヒト患者における候補治療抗体の潜在的な効果を特徴付けるための、動物モデルの使用に関連する問題点および不明確さのため、本明細書に開示されるいくつかのバリアントポリペプチドは、ヒトにおける評価を評価するための代用としての有用性を見出し得る。このような代用分子は、動物系において、対応する候補ヒト免疫グロブリンのFcRおよび/または補体生物学を模倣し得る。この模倣は、特定の免疫グロブリンおよび動物に対するヒト受容体との間の相対的関連親和性により顕在化される可能性が最も高い。例えば、阻害ヒトFcγRIIbに対して、低減された親和性を有するFcバリアントの潜在的なヒトにおける効果を評価するためにマウスモデルを使用する場合、適切な代用バリアントは、マウスFcγRIIに対して、低減された親和性を有するだろう。代用Fcバリアントは、ヒトFcバリアント、動物Fcバリアント、または両方と関連して作製され得ることに留意されたい。
【0192】
一実施形態において、免疫グロブリンの試験は、標的抗原を持つ特定の標的細胞の低減および/または欠乏の評価を容易にするために、霊長類(例えば、カニクイザルモデル)における効果の試験を含んでもよい。更なる霊長類のモデルは、限定されないが、自己免疫、移植、および癌の治療試験における、Fcポリペプチドを評価するための、アカゲザルの使用を含む。
【0193】
毒性試験は、標準的な薬理学的プロファイルで評価できない、または薬剤の反復投与後にのみに発生する、抗体、もしくはFc融合物に関連する効果を決定するために実施される。大半の毒性試験は、新規治療学的実体がヒトに導入される前に、任意の予測できない有害作用が見過ごされないことを確実にするために、ゲッ齒類およびゲッ齒類以外の2つの種属において実施される。一般的に、これらのモデルは、遺伝子毒性、慢性毒性、免疫原性、生殖/発生毒性、および発癌を含む、種々の毒性を測定することができる。前述のパラメータには、食消費量、体重、抗体産生、臨床化学の標準的な測定、および標準的な臓器/組織の肉眼および顕微鏡検査(例えば、心毒性)を含む。測定の更なるパラメータは、もしあれば、注入部位損傷および中和抗体の測定である。従来、裸または複合のモノクローナル抗体治療学は、放射標識種属の正常組織、免疫原性/抗体産生、複合体またはリンカー毒性、および「傍観者」毒性を用いた、交差反応について評価される。それにもかかわらず、このような試験は、特定の問題に対処するように個別化され、ICH S6(上記される、生物工学製品についての安全性試験)で規定されるガイダンスに従わなければならない場合がある。従って、原則として、製品は、十分に良く特徴付けされ、不純物/汚染物が除去され、試験材料が、開発全体を通して同等であり、GLPコンプライアンスが維持されることが、原則である。
【0194】
本明細書に開示される免疫グロブリンの薬物動態(PK)は、種々の動物系で試験され得、最も適切なのは、カニクイザルおよびアカゲザル等のヒト以外の霊長類である。血漿濃度およびクリアランスを使用して、6000倍(0.05~300mg/kg)の用量範囲にわたる単一または反復IV/SC投与が、半減期(日~週)について評価され得る。定常状態での分布量および全身吸収レベルも測定され得る。このような測定のパラメータの例としては、一般的に、最大観測血漿濃度(Cmax)、Cmax到達時間(Tmax)、時間0~無限大[AUC(0-inf)] の血漿濃度時間曲線下面積、および見かけ消失半減期(T1/2)が挙げられる。更なる測定パラメータは、IV投与および生体利用性の後に得た、濃度-時間データの区画解析を含み得る。カニクイザルを使用する薬理学/毒理学研究の例は、CD20に対するモノクローナル抗体が交差反応性である Rituxan および Zevalin について確立された。生体分布、線量測定(放射性標識化抗体について)、およびPK研究は、齧歯類モデルで行うこともできる。斯かる研究は、全投与用量での耐性、局所組織への毒性、齧歯類異種移植動物モデルへの優先的な局在、標的細胞(例えばCD20陽性細胞)の低減および/または枯渇を評価するであろう。
【0195】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、動物系またはヒトにおいて、Fc含有治療に優れた薬物動態を与え得る。例えば、FcRnへの結合増加は、Fc含有薬物の半減期および曝露を増加し得る。代替的に、FcRnへの結合減少は、このような薬物が副作用を有する時等、露出の減少が好まれる場合、Fc含有薬物の半減期および曝露を低減し得る。
【0196】
多数のFc受容体が、種々の免疫細胞型上、ならびに異なる組織で異なって発現することは、当該分野において知られている。Fc受容体の異なった組織分布は、最終的に、本明細書に開示される免疫グロブリンの薬力学(PD)および薬物動態(PK)特性に影響を与え得る。本発明の免疫グロブリンは、多数のFc受容体に対して様々な親和性を有するため、PDおよび/またはPK特性についてのポリペプチドの更なるスクリーニングは、各候補ポリペプチドにより付与されるPD、PK、および治療効果の最適なバランスを決定するのに非常に有用であり得る。
【0197】
薬力学試験は、限定されないが、特異的細胞の標的化、またはシグナル伝達機構の遮断、抗原特異的抗体の阻害の測定等を含み得る。本明細書に開示される免疫グロブリンは、特定のエフェクター細胞集団を標的とし、それによって、可能性を改善するか、または特定の好ましい生理的区画の中への貫通を増加するように、特定の活性を誘発するようにFc含有薬物を方向付けすることができる。例えば好中球活性および局在化は、FcγRIIIbを標的とする免疫グロブリンのによって、標的とすることができる。このような薬力学作用は、動物モデル、またはヒトにおいて実証され得る。
【0198】
臨床用途
【0199】
本明細書に開示される免疫グロブリンは、広範な製品において用途を見出し得る。一実施形態において、本明細書に開示される免疫グロブリンは、治療、診断、または研究試薬である。免疫グロブリンは、モノクローナルまたはポリクローナルである組成物において用途を見出し得る。本明細書に開示される免疫グロブリンは、治療目的に使用されてもよい。当業者により理解されるように、本明細書に開示される免疫グロブリンは、抗体等が使用され得る、任意の治療目的のために使用されてもよい。免疫グロブリンは、IgG4関連疾患を治療するように、患者に投与されてもよい。
【0200】
本明細書に開示される目的における「患者」とは、ヒトおよび他の動物、例えば、他の哺乳動物の両方を含む。したがって、本明細書に開示される免疫グロブリンは、ヒト治療および獣医学的用途の両方を有する。本明細書に開示される、「治療」または「治療する」とは、疾病または疾患に対する治療的処置、ならびに予防的もしくは抑制手段を含むことを意味する。したがって、例えば、疾病の発現前の免疫グロブリンの良好な投与は、疾病の治療をもたらす。別の実施例として、疾病の症状と戦うための、疾病の臨床病態後の最適化された免疫グロブリンの良好な投与は、疾病の治療に含まれる。「治療」および「治療する」とは、疾病を根絶するための、疾病出現後の、最適化された免疫グロブリンの投与も包含する。予想される臨床症状の軽減、および疾病の回復の可能性を伴った、発現後、および臨床症状が発達した後の薬剤の良好な投与は、疾病の治療に含まれる。これらの「治療の必要な」とは、既に疾病または疾患を有する哺乳動物、ならびに疾病または疾患が予防されるべきものを含む、疾病または疾患を有する傾向があるものを含む。
【0201】
本明細書中に開示した免疫グロブリンは、IgG4関連疾患(「IgG4-RD」とも呼ばれる)を治療するのに使用できる。IgG4-RDは、IgG4関連全身性疾患(IgG4-RSD)、IgG4関連硬化性疾患、IgG4関連全身性硬化性疾患、IgG4関連自己免疫疾患、IgG4関連多病巣性全身性線維症、IgG4関連疾患、IgG4症候群、過剰IgG4疾患、全身性IgG4関連形質細胞性症候群、IgG4陽性多臓器リンパ球増殖性症候群、(IgG4関連多臓器リンパ球増殖性症候群(IgG4-MOLPS)、全身性IgG4関連硬化性症候群、多病巣性線維硬化症、および多病巣性特発性線維性硬化症、としても知られ、かつ、そのように呼ばれもする。
【0202】
IgG4-RDは、あらゆる器官系にも影響を及ぼす可能性がある全身性炎症状態である。本明細書中に開示した免疫グロブリンはまた、IgG4-RDまたはIgG4-RD関連疾患の徴候を治療するためにも使用できる。IgG4-RDおよび/またはIgG4-RD関連疾患に関係した徴候の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:IgG4関連唾液腺炎(慢性硬化性唾液腺炎、カットナー腫瘍、ミクリッツ病)、IgG4関連涙腺炎(ミクリッツ病)、IgG4関連眼疾患(特発性眼窩部炎症性疾患、眼窩偽腫瘍)、慢性副鼻腔炎、好酸球性血管中心性線維症、IgG4関連下垂体炎(IgG4関連汎下垂体炎、IgG4関連腺下垂体炎、IgG4関連漏斗下垂体後葉炎、自己免疫性下垂体炎)、IgG4関連髄膜炎、IgG4関連軟膜炎(特発性肥厚性髄膜炎)、IgG4関連膵炎(1型自己免疫性膵炎、IgG4関連AIP、リンパ形質細胞性硬化性膵炎、主膵管の広汎性不規則狭窄に伴う慢性膵炎)、IgG4関連肺疾患(肺の炎症性偽腫瘍)、IgG4関連肋膜炎、IgG4関連肝障害、IgG4関連硬化性胆管炎、IgG4関連胆嚢炎、IgG4関連大動脈炎(炎症性大動脈瘤)、IgG4関連大動脈周囲炎(慢性大動脈周囲炎)、IgG4関連動脈周囲炎、IgG4関連心膜炎、IgG4関連縦隔炎(線維性縦隔炎)、IgG4関連後腹膜線維症(後腹膜線維症、アルバラン-オーモンド症候群、オーモンド病(後腹膜線維症(tetroperitoneal fibrosis)))、腎周囲筋膜炎、ジェロタ筋膜炎/症候群、線維性尿管周囲炎、硬化性脂肪肉芽腫、硬化性後腹膜肉芽腫、非特異性後腹膜炎症、硬化性後腹膜炎、血管周囲線維症に伴う後腹膜血管炎)、IgG4関連腸間膜炎(サブタイプは:腸間膜脂肪織炎、腸間膜リポジストロフィーおよび退縮性腸間膜炎である)(硬化性腸間膜炎、全身性結節性皮下脂肪織炎、脂肪硬化性腸間膜炎、腸間膜のウェーバー-クリスチャン病、腸間膜の脂肪肉芽腫、黄色肉芽腫性腸間膜炎)、IgG4関連乳腺炎(硬化性乳腺炎)、IgG4関連腎疾患(IgG4-RKD)、IgG4関連尿細管間質性腎炎(IgG4-TIN)、IgG4関連膜性糸球体腎炎(特発性尿細管間質性腎炎)、IgG4関連前立腺炎、IgG4関連管周囲(perivasal)線維症(慢性陰嚢痛)、IgG4関連偽性偽腫瘍、IgG4関連精巣上体精巣炎(傍精巣繊維性偽腫瘍、精索の炎症性偽腫瘍、精索の偽肉腫性筋線維芽細胞性増殖、増殖性精索炎、慢性増殖性精巣周囲炎、線維腫性精巣周囲炎、結節性精巣周囲炎、反応性精巣周囲炎、繊維性中皮腫)、IgG4関連リンパ節症、IgG4関連皮膚疾患(好酸球増多を伴う血管リンパ球増殖症、皮膚偽性リンパ腫)、IgG4関連神経周囲疾患、およびIgG4関連甲状腺疾患(リーデル甲状腺炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、炎症性偽腫瘍、および多病巣性線維性硬化症。
【0203】
より具体的には、いくつかの実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、自己免疫性膵炎(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)、線維性縦隔炎、特発性肥厚性髄膜炎、特発性尿細管間質性腎炎、炎症性偽腫瘍、カットナー腫瘍、ミクリッツ病、多病巣性線維性硬化症、大動脈周囲炎、動脈周囲炎、炎症性大動脈瘤、オーモンド病(後腹膜線維症)、リーデル甲状腺炎、および硬化性腸間膜炎を治療するのに使用できる。
【0204】
更なる実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、自己免疫性膵炎(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、好酸球性血管中心性線維症(眼窩と上気道を侵す)を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、線維性縦隔炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、特発性肥厚性髄膜炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、特発性尿細管間質性腎炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、炎症性偽腫瘍を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、カットナー腫瘍を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、ミクリッツ病を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、多病巣性線維性硬化症を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、大動脈周囲炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、動脈周囲炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、炎症性大動脈瘤を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、オーモンド病(後腹膜線維症)を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、リーデル甲状腺炎を治療するのに使用できる。他の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、硬化性腸間膜炎を治療するのに使用できる。
【0205】
いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、IgG4-RDの治療における使用について開示した免疫グロブリンは、B細胞上に発現されたFcγRIIbとCD19を共結合する。FcγRIIbとCD19の共結合は、B細胞の活性化を抑制し、そして、抗体産生を予防または制限する。具体的には、FcγRIIbとCD19との共結合は、抗原特異的抗体の産生を抑制するかまたは低減する。
【0206】
前述のように、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、IgG4-RD、ならびにIgG4-RDに関連する徴候および/または疾患および体調(例えば、以前に列挙したものだが、これらに限定されない)を治療するために使用できる。いくつかの態様において、治療することで、IgG4-RDに関連する症状を治療できる。いくつかの態様において、治療することで、IgG4-RDを予防できる。いくつかの態様において、治療することは、IgG4-RDの予防的治療であり得る。
【0207】
本明細書中に開示した免疫グロブリンは、IgG4-RDの治療のためにB細胞を抑制するのに使用できる。IgG4-RDを治療するために使用される抗体は、FcγRIIbと結合するドメインおよびCD19と結合するドメインを含む免疫グロブリンであり得る。より具体的には、IgG4-RDを治療するのに使用される免疫グロブリンは、FcγRIIbと結合するFcドメインおよびCD19と結合するFvドメインを含む抗体であり得る。
【0208】
いくつかの実施形態において、FcγRIIbに結合するFcドメインは、234W、235I、235Y、235R、235D、236D、236N、239D、267D、267E、268E、268D、328F、および328Yから選択される少なくとも1つの修飾を含み、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。別の実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、235Y、235R、236D、267D、267E、および328Fからなる群から選択される少なくとも1つの修飾を含む。更なる実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、267Eおよび328Fから選択される少なくとも1つの修飾を含む。更なる実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、235D/267E、235Y/267E、235D/267D、235I/267E、235I/267D、235Y/267D、236D/267E、236D/267D、267E/328F、267D/328F、268D/267E、H268D/S267D、268E/267E、および268E/267Dから選択される修飾を含む。更なる実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、235D/267E、235Y/267E、235Y/267D、236D/267E、267E/328F、268D/267E、268E/267E、および268E/267Dから選択される修飾を含む。更なる実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、修飾236D/267E/328Fを含む。別の実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、修飾267E/328Fを含み、ここで、ナンバリングがカバットにあるようなEUインデックスによるものである。いくつかの実施形態において、FcγRIIbと結合するFcドメインは、配列番号7および配列番号9を含む。いくつかの実施形態において、CD19に結合するFvドメインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号40からなる群から選択される1若しくは複数の配列を含む。
【0209】
先に述べたように、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン(抗体など)は、IgG4-RDを治療するのに使用できる。一実施形態において、IgG4-RDを治療するための、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、薬力学マーカーの値を増大または減少させ得る。更なる実施形態において、IgG4-RDを治療するための、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDに関連する症状の重症度および/または数の低減をもたらし得る。IgG4-RDを治療するための、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDレスポンダー指数(IgG4-RD RI)スコアを低減することもできる。IgG4-RD RIは、以下により詳細に記載される。FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を使用することで、IgG4-RD RIスコアが、ベースラインに対して有意に低減され得る。
【0210】
薬力学的マーカー
【0211】
場合によっては、IgG4-RDを治療するための、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与では、薬力学的マーカーの値に変化をもたらし得る。薬力学的マーカーとしては、B細胞数、形質芽球数、CD4+SLAMF7+CTL細胞数、およびCD19受容体占有率が挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、総B細胞数の減少をもたらし得る。他の場合には、総形質芽球数の減少をもたらし得る。他の場合には、CD4+SLAMF7+CTL細胞数の減少をもたらし得る。他の場合には、CD19受容体占有率の増大をもたらし得る。
【0212】
1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の1日以内に観察され得る。
いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約1日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約2日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約3日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約4日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約5日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約6日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約7日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約8日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約9日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約10日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約11日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約12日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約13日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約14日目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約1ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約2ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約3ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約4ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約5ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約6ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約7ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約8ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約9ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約10ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約11ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、1若しくは複数の薬力学マーカーの変化は、投与の約12ヵ月目に観察され得る。
【0213】
FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDを患っている対象の総B細胞数を削減し得る。
【0214】
B細胞の削減は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン投与後、約24時間目、約2日目、約3日目、約4日目、約5日目、約6日目、約7日目、約8日目、約9日目、約10日目、約11日目、約12日目、約13日目、約14日目、約3週目、約4週目、約5週目、約6週目、約2カ月目、または約3カ月目に観察できる。特に、B細胞の削減は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与後、7日以内に観察され得る。
【0215】
B細胞の削減は、当該技術分野で知られている方法によって測定され得る。例えば、IgG4-RDの徴候または症状の緩和は、B細胞の削減と相関し得る。加えて、B細胞の削減は、生物学的サンプル中のp B細胞の数量を計測することによって測定され得る。生物学的サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルであり得る。例えば、顕微鏡法またはフローサイトメトリーが、B細胞の削減を計測するのに使用され得る。
【0216】
B細胞は、ベースラインに対して10%超削減され得、そこでは、ベースラインは治療の開始前のB細胞の量である。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して15%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して20%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して25%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、pB細胞は、ベースラインに対して30%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して35%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して40%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して45%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して50%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して55%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して60%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して65%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して70%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して75%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して80%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して85%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して90%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して95%超削減され得る。
【0217】
加えて、B細胞は、ベースラインに対して1.2倍超削減され得る。
いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して1.5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して2倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して2.5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して10倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して20倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して25倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して50倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して75倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して100倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して200倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して500倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、B細胞は、ベースラインに対して1000倍超削減され得る。
【0218】
FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDを患っている対象の形質芽球数を削減または枯渇させる。IgG4-RDを患っている対象は、100細胞/mL超の形質芽球レベルを有し得る。例えば、IgG4-RDを患っている対象は、100細胞/mL超、200細胞/mL超、300細胞/mL超、400細胞/mL超、500細胞/mL超、600細胞/mL超、700細胞/mL超、800細胞/mL超、900細胞/mL超、1000細胞/mL超、2000細胞/mL超、3000細胞/mL超、4000細胞/mL超または5000細胞/mL超の形質芽球レベルを有し得る。従って、IgG4-RDの治療のための免疫グロブリンは、形質芽球の数を枯渇させ得るか、または削減し得る。
【0219】
B細胞の削減または枯渇は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン投与後、約24時間目、約2日目、約3日目、約4日目、約5日目、約6日目、約7日目、約8日目、約9日目、約10日目、約11日目、約12日目、約13日目、約14日目、約3週目、約4週目、約5週目、約6週目、約2カ月目、または約3カ月目に観察できる。
【0220】
形質芽球の削減または枯渇は、当該技術分野で知られている方法によって測定され得る。例えば、IgG4-RDの徴候または症状の緩和は、形質芽球の削減または枯渇と相関し得る。加えて、形質芽球の削減または枯渇は、生物学的サンプル中のp 形質芽球の数量を計測することによって測定され得る。生物学的サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルであり得る。例えば、顕微鏡法またはフローサイトメトリーが、形質芽球の削減または枯渇を計測するのに使用され得る。形質芽球は、ベースラインに対して10%超削減または枯渇され得、そこでは、ベースラインは治療の開始前の形質芽球の量である。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して15%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して20%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して25%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、p形質芽球は、ベースラインに対して30%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して35%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して40%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して45%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して50%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して55%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して60%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して65%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して70%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して75%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して80%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して85%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して90%超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して95%超削減または枯渇させ得る。
【0221】
加えて、形質芽球は、ベースラインに対して1.2倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して1.5倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して2倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して2.5倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して5倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して10倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して20倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して25倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して50倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して75倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して100倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して200倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して500倍超削減または枯渇させ得る。いくつかのバリエーションにおいて、形質芽球は、ベースラインに対して1000倍超削減または枯渇させ得る。
【0222】
FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDを患っている対象のCD4+細胞傷害Tリンパ球細胞(CD4+CTL細胞)数を削減し得る。より具体的には、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDを患っている対象のCD4+SLAMF7+CTL細胞(エフェクターCD4+CTL細胞)数を削減し得る。CD4+SLAMF7+CTL数は、IgG4-RD患者の末梢血で増強される(図29を参照のこと)。リツキシマブは、リツキシマブ治療後であるが、治療後1カ月未満までに、IgG4-RDを患っている患者において循環CD4+SLMF7+CTL数を減少させることが報告された(Hamid Mattoo, et al., J Allergy Clin. Immunol. 2016)。FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン投与後のCD4+SLAMF7+CTLの削減は、いくつかの例において、削減が投与の1日以内に観察できるように、非常に急速に起こる。
【0223】
CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン投与後、約24時間目、約2日目、約3日目、約4日目、約5日目、約6日目、約7日目、約8日目、約9日目、約10日目、約11日目、約12日目、約13日目、約14日目、約3週目、約4週目、約5週目、約6週目、約2カ月目、または約3カ月目に観察できる。特に、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与後、1日以内に観察され得る。CD4+CD4+SLAMF7+CTL細胞の削減は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリン投与の1日以内に観察できる。
【0224】
CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減は、当該技術分野で知られている方法によって測定され得る。例えば、IgG4-RDの徴候または症状の緩和は、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減と相関し得る。加えて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減は、生物学的サンプル中のp CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の数量を計測することによって測定され得る。生物学的サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルであり得る。例えば、顕微鏡法またはフローサイトメトリーが、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の削減を計測するのに使用され得る。
【0225】
CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して10%超削減され得、そこでは、ベースラインは治療の開始前のCD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞の量である。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して15%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して20%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して25%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、pCD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して30%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して35%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して40%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して45%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して50%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して55%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して60%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して65%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して70%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して75%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して80%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して85%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して90%超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して95%超削減され得る。
【0226】
加えて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して1.2倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して1.5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して2倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して2.5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して5倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して10倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して20倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して25倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して50倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して75倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して100倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して200倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して500倍超削減され得る。いくつかのバリエーションにおいて、CD4+CTL細胞および/またはCD4+SLAMF7+CTL細胞は、ベースラインに対して1000倍超削減され得る。
【0227】
FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDを患っている対象におけるCD19受容体占有をもたらし得る。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、IgG4-RDの治療に使用するための開示の免疫グロブリンは、B細胞上で発現されたFcRIIbとCD19を共結合する。この共結合は、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンによるCD19受容体の占有をもたらす。CD19受容体占有率は、例えば、これだけに限定されるものではないが、フローサイトメトリーなどの、当該技術分野で知られている方法によって測定できる。
【0228】
FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの投与後の対象におけるCD19受容体占有率は、約30%~約100%であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、30%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、40%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、50%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、60%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、70%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、80%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、90%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、95%以上であり得る。いくつかの実施形態において、CD19受容体占有率は、100%であり得る。
【0229】
症状の軽減
【0230】
いくつかの例において、FcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンの投与は、IgG4-RDに関連する症状の減少をもたらし得る。いくつかの態様において、この減少は少なくとも1つの症状の重症度(すなわち、強度)の減少であり得る。他の態様において、減少は、症状の数の減少であり得る。さらなる態様において、この減少は、罹患した器官または組織の数の減少であり得る。他の態様において、減少は少なくとも1つの症状の重症度(すなわち、強度)の減少、罹患器官または組織の数の減少、および罹患器官または組織の数の減少のうちの1つまたは複数の組み合わせである。
【0231】
症状は一般に、IgG4-RDによって影響を受ける器官または組織に基づく。IgG4-RDの症状の非限定的な例には、線維症(瘢痕化)、臓器機能不全、臓器不全、体重減少、炎症、疼痛、腫脹、腫瘤病変、黄疸、痙攣、麻痺または半不全麻痺、脳神経麻痺、感音難聴、下垂体ホルモン欠損、視力喪失、発作、収縮性心膜炎、心ブロック、大動脈瘤破裂、大動脈解離、頸動脈解離、狭心症、突然心臓死、気道閉塞、胸膜浸出液、食道閉塞、腸閉塞、腎不全、水腎症、および精巣痛が含まれる。いくつかの態様において、症状の減少は、影響を受ける器官および/または組織の数の減少である。他の態様において、症状の減少は、少なくとも1つの器官または組織における症状の重症度の減少である。
【0232】
IgG4-RDを有する対象は、1つ以上の器官において症状を呈し得る。例えば、IgG4-RDを有する被験体は、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上の器官において症状を示すことができる。様々な態様において、IgG4-RDを有する被験体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の器官において症状を示す。1つの実施形態において、IgG4-RDを有する被験体は、4つ以上の器官において症状を示すことができる。IgG4-RD症状を示す器官の非限定的な例としてはリンパ節、顎下腺、耳下腺、涙腺、腎臓、心臓、心膜、眼窩、鼻腔、肺、胆管、唾液腺、および膵臓が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、症候性器官がリンパ節、顎下腺、耳下腺、および涙腺を含む。
【0233】
症状の減少は、投与の7日以内に観察され得る。いくつかの例において、症状の減少は、抗体の投与の約7日目に観察され得る。場合によっては、症状の減少が約8日目に観察され得る。場合によっては、症状の減少が約9日目に観察され得る。いくつかの例において、症状の減少は、約10日で観察され得る。いくつかの例において、症状の減少は、約11日で観察され得る。場合によっては、症状の減少が約12日目に観察され得る。いくつかの例において、症状の減少は、約13日で観察され得る。場合によっては、症状の減少が約14日目に観察され得る。
【0234】
いくつかの例において、症状の減少は、唾液腺、涙腺、眼球外筋肉浸潤、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓浸潤における変化において観察され得る。唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少は、約7日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約8日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約9日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約10日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約11日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約12日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約13日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋病変、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓病変における症状の減少が約14日で観察され得る。他の例では、唾液腺、涙腺、眼球外筋肉浸潤、リンパ節、腎臓、胆管、および/または膵臓浸潤における症状の減少が約14日後に観察され得る。
【0235】
IgG4-RDレスポンダー指数
【0236】
場合によっては、FcγRIIbおよびCD19と結合する免疫グロブリンの投与がIgG4-RDレスポンダー指数(IgG4-RD RI)スコアの減少をもたらし得る。IgG4-RD RIは疾患活動性における任意の変化を検出し、同じおよび/または異なる器官系における改善および悪化を同定するように設計されたツールである。IgG4-RIスコアリング方法の一般的な概要については、Carruthersらを参照のこと,International Journal of Rheumatology 2012、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡単に言えば、IgG4-RD RIは各器官系または部位についてスコアリングシステムを使用し、臨床遭遇時の疾患活動性および損傷の程度を評価するように臨床医に依頼する。以下の臓器部位は、典型的には臨床医によって評価される:パキメニンジン、下垂体、眼窩および涙腺、唾液腺、甲状腺、リンパ節、肺、大動脈および大血管、後腹膜、縦隔、ならびに腸間膜、膵臓、胆管および肝臓、腎臓、皮膚、ならびに他の硬化症/塊形成。臨床医は罹患した各器官/部位について0~3のスコアを入力し、器官部位が症候性であるかどうかを示し(はい/いいえ)、各器官/部位の疾患活動性が緊急治療を必要とするかどうかを示し(はい/いいえ)、器官/部位機能不全が活動性疾患ではなく損傷に関連するかどうかを示す(はい/いいえ)。本開示の目的のために、0~3のスコアリングシステムを使用した。具体的には、疾患活動性について以下のスコアリングシステムを用いる:0-罹患していないかまたは消失した;1-改善しているが持続した;2-新規または再発(治療中止時)または変化なし;および3-治療にもかかわらず悪化または新規。全ての器官部位における疾患活動性の合計は、総活性スコアをもたらす。臓器部位が緊急(「はい」)とラベル付けされた場合、その部位のスコアは2倍になる。次いで、IgG4-RD RIスコアを評価間で比較して、経時的な疾患活動性を決定し、臨床試験エンドポイントに使用することができる。
【0237】
IgG4-RD RIは、Currthersらに開示されているいくつかの例において、対象の血清IgG4濃度を考慮に入れてもよい。この開示に関して、IgG4-RD RIは、対象の血清IgG4濃度を考慮していない。
【0238】
IgG4-RD RIスコアはベースラインと比較して維持され得るか、またはベースラインと比較して減少され得、ここで、ベースラインは処置の開始前のIgG4-RD RIスコアである。IgG4-RD RIスコアが維持される場合、ベースラインと比較してIgG4-RD RIスコアに変化はない。
【0239】
場合によっては、IgG4-RD RIスコアにおけるベースラインに対する減少が投与の14日以内に観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約14日目に観察され得る。いくつかの例において、投与の約1ヵ月でのIgG4-RD RIスコアの減少。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約2ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約3ヵ月で観察され得る。場合によっては、IgG4-RD RIスコアの低下が投与の約4ヵ月目に観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約5ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約6ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約7ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約8ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約9ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約10ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約11ヵ月で観察され得る。いくつかの例において、IgG4-RD RIスコアの減少は、投与の約12ヵ月で観察され得る。
【0240】
IgG4-RD-RIスコアがベースラインと比較して減少する場合、スコアはベースラインと比較して少なくとも1減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、ベースラインに対して少なくとも2だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも3だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも4だけ低下し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも5だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも6だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも7だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも8だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも9だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも10だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも11だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも12だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも13だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも14だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも15だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも16だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも17だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも18だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、少なくとも19だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、ベースラインに対して少なくとも20だけ減少し得る。特定の実施形態では、IgG4-RD-RIスコアを0に減少させることができる。
【0241】
IgG4-RD-RIスコアがベースラインに対して削減されるとき、該スコアは、初回投与の2週間以内に、ベースラインに対して少なくとも1だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に、ベースラインに対して少なくとも2だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも3だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも4だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも5だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも6だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも7だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも8だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも9だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも10だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも11だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも12だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも13だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも14だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも15だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも16だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも17だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも18だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に少なくとも19だけ減少し得る。いくつかのバリエーションにおいて、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に、ベースラインに対して少なくとも20だけ減少し得る。特定の実施形態において、IgG4-RD-RIスコアは、初回投与の2週間以内に、0に削減され得る。
【0242】
他の治療法および治療薬における削減
【0243】
IgG4-RDを治療するための、FcγRIIbとCD19を共結合する免疫グロブリンの使用は、他の治療法に関連する副作用の削減または排除をもたらし得る。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、抗体の作用機構が的外れの効果を削減し、
その結果、他の治療法に関連する副作用を削減する。
【0244】
更に、IgG4-RDの標的化治療は、IgG4-RDを治療するための追加の剤の必要性を低減または排除する。例えば、IgG4-RDの標的化治療は、IgG4-RDを治療するのに典型的に使用される、抗炎症性鎮痛薬(NSAID、例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、またはセレブレックスなど)、アセトアミノフェン、ステロイド、グルココルチコイド(すなわち、プレドニゾン)、免疫抑制剤(すなわち、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)、および免疫抑制性生物製剤(すなわち、リツキシマブ、ボルテゾミブ)の必要性を低減または排除する。
【0245】
特定の実施形態において、FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を使用したIgG4-RDの標的化治療は、ステロイドの漸減、そして最後的な中止をもたらし得る。ステロイドが徐々に減らす方法は、当該技術分野で知られている。例えば、用量の減少は、2~3日毎に行われ得る(例えば、1および2日目に6錠服用し、3および4日目に5錠服用し、5および6日目に4錠服用し、7および8日目に3錠服用し、9および10日目に2錠服用し、そして11および12日目に1錠服用する)。あるいは、用量は、3日毎に半量だけ減らしてもよい。
【0246】
更に、いくつかの例において、IgG4-RDは、FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を、免疫抑制性の生物学的療法(例えば、リツキシマブ、ボルテゾミブ)に対して不応性である対象に投与することによって治療され得る。投与された免疫抑制性の生物学的療法に対して不応性である対象は、与えられた免疫抑制性の生物学的療法、例えばリツキシマブまたはボルテゾミブなどに対して応答しないか、または治療反応を示さず、その後、疾患の症状を再発症する。いくつかの例において、IgG4-RDは、FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を、リツキシマブに対して不応性である対象に投与することによって治療され得る。いくつかの例において、IgG4-RDは、FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を、ボルテゾミブに対して不応性である対象に投与することによって治療され得る。
【0247】
いくつかの例において、IgG4-RDは、FcγRIIbとCD19を共結合する抗体を、免疫抑制性の生物学的療法を用いた治療後に再発した対象に投与することによって治療され得る。再発した対象は、免疫抑制性の生物学的療法を用いた治療に応答したが、疾患の症状を再発症した。いくつかの例において、免疫抑制性の生物学的療法は、リツキシマブであってもよい。いくつかの例において、免疫抑制性の生物学的療法は、ボルテゾミブであってもよい。
【0248】
患者の多型性
【0249】
本明細書中に開示した免疫グロブリンと相互作用しえる多数のレセプターが、ヒトの集団において多形性を示す。ある患者または患者集団について、本明細書中に開示した免疫グロブリンの有効性は、特定のタンパク質多形性の存在または欠如によって影響されえる。例えば、FcγRIIIAは158位において多形性を示し、この位置は一般的にはV(高親和性)またはF(低親和性)である。V/Vホモ接合遺伝子型をもつ患者は、抗CD20抗体Rituxan(登録商標)(リツキシマブ)による治療により良好な臨床応答を示すことが観察されているが、これは、おそらくこれらの患者はより強いNK応答を示すためであろう(Dall’Ozzo et al (2004) Cancer Res 64:4664-9、参照によりその全体が援用される)。また別の多形性にはFcγRIIA R131またはH131が含まれ(ただしこれらに限定されない)、そのような多形性は、当該多形性に応じてFc結合およびその後に続く生物学的活性を増加または低下させることが知られている。本明細書中に開示した免疫グロブリンは、もっぱら特定のレセプター多形性型、例えばFcγRIIIA 158Vと結合するか、またはレセプターの特定の位置の多形性の全て(例えばFcγRIIIAの158Vおよび158Fの両方)と等価の親和性で結合することができる。一実施形態において、種々の多形性を有する患者で観察される弁別的な有効性を排除するために、多形性と等価の結合性を有する本明細書中に開示した免疫グロブリンを用いることができる。そのような特性は、治療応答における強い一定性を提供し、不応答患者集団を減少させることができる。レセプター多形性に対して同一の結合を示すそのようなFc変種は、生物学的活性、例えばADCC、CDCまたは循環半減期を高め、また別には対応するFcレセプターとの結合の調整を介して活性を低下させることができる。一実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、あるレセプターの多形性の1つとより高いまたは低い親和性で結合し、結合における既存の相違を強調するかまたは当該相違を弱める。そのような特性は、有効性についてそのような多形性を有する患者集団に関して特に調整された治療薬の創出を可能にすることができる。例えば、抑制性レセプター(例えばFcγRIIB)についてより強い親和性を有する多形性を保有する患者集団は、そのような多形性レセプター型との結合が低下した抗体を含む薬剤を投与され、より有効な薬剤が創薬される。
【0250】
一実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンの有効性を予測するために、患者は1もしくは複数の多形性についてスクリーニングされる。この情報を用いて、例えば臨床試験に組み入れたり若しくは排除したりするために患者を選別し、認可後には適切な投薬量および治療選択に関して医師および患者に指標を提供することができる。例えば、FcγRIIIA 158Fについてホモ接合またはヘテロ接合の患者では、抗体薬、例えば抗CD20 mAbリツキシマブは最低限の有効性を示す(Carton 2002 Blood 99:754-758;Weng 2003 J Clin Oncol 21:3940-3947、ともに参照によりその全体が援用される)。そのような患者は本明細書中に開示した抗体に対してはるかに良好な臨床応答を示しえる。一実施形態において、患者の遺伝子型が従来用いられている1もしくは複数の免疫グロブリン治療薬と比較したとき本明細書中に開示した免疫グロブリンに対して極めて良好に応答しそうであることを示す場合には、本明細書中に開示した免疫グロブリンのための臨床試験に彼らを含めるように選別される。別の実施形態において、適切な投薬量および治療方針はそのような遺伝子型情報を用いて決定される。別の実施形態において、患者は、彼らの多形性遺伝子型を基にして、臨床試験への組み入れまたは認可後の治療の受け入れのために選別される。この場合、そうした治療法は、そのような集団に対して特に有効であるように操作した免疫グロブリンを含むか、あるいはそうした治療法は、異なる多形性型に対して弁別的活性を発揮しないFcバリアントを含む。
【0251】
本明細書中に開示した免疫グロブリンに対して好ましい臨床応答を示す蓋然性が高い患者、または従来用いられている1もしくは複数の免疫グロブリン治療薬に対して本明細書中に開示した免疫グロブリンで治療したときはるかに良好な応答を示す蓋然性が高い患者を特定するための診断試験もまた、本発明に含まれる。当分野で公知のヒトのFcγR多形性を決定するための多数の方法のいずれも用いることができる。
【0252】
更にまた、臨床サンプル、例えば血液および組織サンプルで実施される予後試験もまた開示される。そのような試験は、エフェクター機能活性(ADCC、CDC、ファゴサイトーシスおよびオプソニン化を含むが、ただしこれらに限定されない)について、または癌細胞若しくは他の病原性細胞の殺滅について(そのメカニズムにかかわりなく)アッセイすることができる。一実施形態において、ADCCアッセイ(例えば以前に記載したようなもの)を用いて、本明細書中に開示したある免疫グロブリンの有効性を特定の患者について予測する。そのような情報を用いて、臨床試験に組み入れるためのまたは排除するための患者を特定するか、または適切な投薬量および治療方針に関する決定を提供することができる。そのような情報はまた、そのようなアッセイで優れた活性を示す具体的な免疫グロブリンを含む医薬の選択に用いることができる。
【0253】
処方
【0254】
本明細書中に開示した免疫グロブリンおよび1もしくは複数の治療的に活性な薬剤が処方されている医薬組成物が意図される。本明細書中に開示した免疫グロブリンの処方物は、所望の純度を有する前記免疫グロブリンを医薬的に許容できる任意の担体、賦形剤または安定化剤と混合することによって、凍結乾燥処方物または水溶液の形態で保存のために調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, A. Osol Ed., 1980、参照によりその全体が援用される)。許容可能な担体、賦形剤または安定化剤は、用いられる投薬量および濃度で受容者に無毒であり、緩衝剤(例えばリン酸、クエン酸、酢酸および他の有機酸);抗酸化剤(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメチオニンクロリド、塩化ベンザルコニウム、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール、アルキルパラベン(例えばメチル若しくはプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールおよびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質(例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えばEDTA);糖(例えばシュクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール);甘味料および他の香料:充填剤(例えば微晶質セルロース、ラクトース、トウモロコシおよび他のデンプン);結合剤;添加剤;着色剤;塩形成対イオン(例えばナトリウム);金属複合体(例えばZn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤(例えばTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG))が含まれる。一実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンを含む医薬組成物は水溶性の形態であってもよく、例えば医薬的に許容される塩として提供される(前記は酸および塩基付加塩の両方を含むことを意味する)。「医薬的に許容できる酸付加塩」とは、遊離塩基の生物学的有効性を保持し、更に、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など)および有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸など)で形成される生物学的にも他の態様においても望ましい塩が該当する。「医薬的に許容できる塩基付加塩」には、無機塩基から誘導される塩、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などが含まれる。いくつかの実施形態は、アンモニウム、ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウム塩のうちの少なくとも1つを包含する。医薬的に許容できる有機の無毒な塩基から誘導される塩には、第一、第二および第三アミン、置換されたアミン(天然に存在する置換アミンを含む)、環式アミンおよび塩基性イオン交換樹脂(例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびエタノールアミン)が含まれる。インビボ投与に用いられる処方物は無菌的であり得る。前記は無菌的な濾過膜による濾過または他の方法によって容易に達成することができる。
【0255】
本明細書で開示される免疫グロブリンはまたイムノリポソームとして処方することができる。リポソームは、種々のタイプの脂質、リン脂質および/または界面活性剤を含む小胞であり、前記は治療薬剤の哺乳動物へのデリバリーに有用である。免疫グロブリンを含むリポソームは、当分野で公知であり、例えば以下に記載されている方法によって調製される:Epstein et al. 1985, Proc Natl Acad Sci USA 82:3688; Hwang et al. 1980, Proc Natl Acad Sci USA 77:4030;US4,485,045;US4,544,545;およびPCTWO97/38731(参照によりその全体が援用される)。循環時間が延長されたリポソームはUS5,013,556(参照によりその全体が援用される)で開示されている。リポソームの成分は、生物学的な膜の脂質配置と類似する、二重層構造内に通常的に配置される。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG-誘導ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いて逆相蒸発法によって生成することができる。リポソームは特定のポアサイズを有するフィルターから押出されて、所望の直径を有するリポソームが得られる。化学療法剤または他の治療的に活性を有する薬剤が、場合によってリポソーム内に収納される(Gabizon et al. 1989, J National Cancer Inst 81:1484、参照によりその全体が援用される)。
【0256】
免疫グロブリンおよび他の治療的に活性な薬剤はまた、コアセルヴェーション技術、海面重合(例えばヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチン-マイクロカプセル、またはポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルを用いる)、コロイド薬剤デリバリー系(例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフェアー、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)、およびマイクロエマルジョンを含む(ただしこれらに限定されない)方法によって調製されたマイクロカプセル中に取り込まれる。そのような技術は以下に記載されている(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, A. Osol Ed., 1980、参照によりその全体が援用される)。徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、固体の疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれる(前記マトリックスは成形された物品(例えばフィルムまたはマイクロカプセル)の形状を有する)。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(US3,773,919、参照によりその全体が援用される)、L-グルタミン酸とガンマエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレンビニルアセテート、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLupron Depot(登録商標)(前記は乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドを含む注射可能なマイクロスフェアである)、ポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸、およびProLease(登録商標)(Alkermesから市販されている)(前記はポリ-DL-ラクチド-コグリコリド(PLG)のマトリックス中に取り込まれた所望の生物活性分子を含むマイクロスフェア使用デリバリー系である)が含まれる。
【0257】
ある実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、静脈内(IV)投与または皮下(SC)投与のために処方される。一般的に、IVまたはSC投与のための配合物は、免疫グロブリン、1若しくは複数のバッファー、1若しくは複数の張度調整剤、1若しくは複数の溶媒、および1若しくは複数の界面活性剤を含む。バッファーの非限定的な例としては、ホスファート、シトラート、アセタート、グルタマート、カルボナート、タルトラート、トリエタノールアミン(TRIS)、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、および他の有機酸が挙げられる。より具体的には、バッファーの非限定的な例としては、HEPESナトリウム、MES、リン酸カリウム、チオシアン酸カリウム、滅菌剤、TAE、TBE、硫酸アンモニウム/HEPES、BuffAR、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸ナトリウムが挙げられる。加えて、バッファーは、様々な水和物形態であってもよい。例えば、バッファーは、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、五水和物、六水和物、七水和物、八水和物、九水和物、十水和物、十一水和物、および十二水化物であってもよい。時には、水和物は、例えば半水和物または1.5水和物のように半端であってもよい。張度調整剤の非限定的な例としては、塩化ナトリウム、酢酸、L-プロリン、デキストロース、マンニトール、塩化カリウム、グリセリン、およびグリセロールが挙げられる。溶媒の非限定的な例としては、水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、グリコフロール、Solketal(商標)、グリセロールホルマール、アセトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジグリム、ジメチルイソソルビド、および乳酸エチルが挙げられる。溶媒の非限定的な例としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート-20、ポリソルベート-80)、ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノオレアート(Tween80)、ソルビタン・モノオレアート・ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノラウラート(Tween20)、ソルビタン・トリオレアート(span85)、レシチン、およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・コポリマー(Pluronics、Pluronic F-68)が挙げられる。
【0258】
特定の実施形態において、IV配合物は、免疫グロブリン、1若しくは複数のバッファー、1若しくは複数の張度調整剤、1若しくは複数の溶媒、および1若しくは複数の界面活性剤を含む。具体的には、バッファーは、1若しくは複数のリン酸ナトリウム緩衝溶液であってもよい。例えば、バッファーは、リン酸ナトリウム一塩基性一水和物、リン酸ナトリウム二塩基性七水和物、その組み合わせであってもよい。ある実施形態において、張度調整剤は塩化ナトリウムである。別の実施形態において、溶媒は水である。更なる実施形態において、界面活性剤はポリソルベートである。例えば、ポリソルベートは、ポリソルベート-20である。具体的には、IV配合物は、免疫グロブリン、リン酸ナトリウム一塩基性一水和物、リン酸ナトリウム二塩基性七水和物、塩化ナトリウム、水、およびポリソルベート-20を含む。免疫グロブリン、バッファー、張度調整剤、溶媒、および界面活性剤の量は、変動し得る。免疫グロブリンの量は、1mLあたり約1mg~約500mg、1mLあたり約1mg~約100mgまたは1mLあたり約1mg~約50mgであってもよい。バッファーの量は、1mLあたり約1~約10mg、1mLあたり約1~約5mgまたは1mLあたり約1~約2.5mgであってもよい。張度調整剤の量は、1mLあたり約5~約15mg、1mLあたり約5~約10mgまたは1mLあたり約8~約10mgであってもよい。界面活性剤の量は、1mLあたり約0.01mg~約1mg、1mLあたり約0.01~約0.5mgまたは1mLあたり約0.05~約0.2mgであってもよい。具体的には、IV配合物は、1mLあたり約1mg~約500mg、1mLあたり約1mg~約100mgまたは1mLあたり約1mg~約50mgの量の免疫グロブリン、1mLあたり約1~約10mg、1mLあたり約1~約5mgまたは1mLあたり約1~約2.5mgの量のリン酸ナトリウム一塩基性一水和物およびリン酸ナトリウム二塩基性七水和物、1mLあたり約1~約10mg、1mLあたり約1~約5mgまたは1mLあたり約1~約2.5mgの量の塩化ナトリウム、約1mLまでの水、および1mLあたり約0.01mg~約1mg、1mLあたり約0.01~約0.5mgまたは1mLあたり0.05~約0.2mgの量のポリソルベート-20を含む。具体的には、IV配合物は、1mLあたり約1mg~約50mgの量の免疫グロブリン、1mLあたり約1~約2.5mgの量のリン酸ナトリウム一塩基性一水和物およびリン酸ナトリウム二塩基性七水和物、1mLあたり約1~約2.5mgの量の塩化ナトリウム、約1mLまでの水、および1mLあたり0.05~約0.2mgの量のポリソルベート-20を含む。
【0259】
特定の実施形態において、SC配合物は、免疫グロブリン、1若しくは複数のバッファー、1若しくは複数の張度調整剤、1若しくは複数の溶媒、および1若しくは複数の界面活性剤を含む。具体的には、バッファーは、酢酸ナトリウム緩衝溶液であってもよい。例えば、バッファーは、酢酸ナトリウム三水和物であってもよい。ある実施形態において、張度調整剤は、酢酸、L-プロリン、およびその組み合わせであってもよい。別の実施形態において、溶媒は水である。更なる実施形態において、界面活性剤はポリソルベートである。例えば、ポリソルベートは、ポリソルベート-80である。具体的には、SC配合物は、免疫グロブリン、酢酸ナトリウム三水和物、酢酸およびL-プロリン、水、ならびにポリソルベート-80を含む。免疫グロブリン、バッファー、張度調整剤、溶媒、および界面活性剤の量は、変動し得る。免疫グロブリンの量は、1mLあたり約1mg~約500mg、1mLあたり約50mg~約250mgまたは1mLあたり約100mg~約250mgであってもよい。バッファーの量は、1mLあたり約1~約10mg、1mLあたり約1~約5mgまたは1mLあたり約1~約2.5mgであってもよい。張度調整剤の量は、1mLあたり約5~約50mg、1mLあたり約10~約50mgまたは1mLあたり約20~約40mgであってもよい。界面活性剤の量は、1mLあたり約0.01mg~約1mg、1mLあたり約0.01~約0.5mgまたは1mLあたり約0.05~約0.2mgであってもよい。具体的には、SC配合物は、1mLあたり約1mg~約500mg、1mLあたり約50mg~約250mgまたは1mLあたり約100mg~約250mgの量の免疫グロブリン、1mLあたり約1~約10mg、1mLあたり約1~約5mgまたは1mLあたり約1~約2.5mgの量の酢酸ナトリウム三水和物、1mLあたり約5~約50mg、1mLあたり約10~約50mgまたは1mLあたり約20~約40mgの量の酢酸およびL-プロリン、約1mLまでの水、および1mLあたり約0.01mg~約1mg、1mLあたり約0.01~約0.5mgまたは1mLあたり0.05~約0.2mgの量のポリソルベート-80を含む。具体的には、SC配合物は、1mLあたり約100mg~約250mgの量の免疫グロブリン、1mLあたり約1~約2.5mgの量の酢酸ナトリウム三水和物、1mLあたり約20~約40mgの量の酢酸およびL-プロリン、約1mLまでの水、および1mLあたり0.05~約0.2mgの量のポリソルベート-80を含む。
【0260】
投与
【0261】
本明細書中に開示した免疫グロブリンを含む医薬組成物(例えば、無菌的水溶液)の投与は多様な方法で実施することができ、前記方法には、経口、皮下、静脈内、鼻内、耳内、経皮、局所的(例えばゲル、軟膏、ローション、クリームなど)、腹腔内、筋肉内、肺内、膣内、非経口的、直腸、または眼窩内投与が含まれるが、ただしこれらに限定されない。いくつかの事例では、例えば創傷、炎症などの治療のためには、免疫グロブリンは溶液またはスプレーとして直接適用される。当分野では公知のように、医薬組成物はしたがって導入態様に応じて処方されえる。
【0262】
皮下投与は、患者が前記医薬組成物を自己投与することができる環境で使用される。多くのタンパク質治療薬は、皮下投与のために許容されえる最大体積で治療的に有効な用量の処方物を含むことを可能にするほど十分に強力ではない。この問題は、アルギニン-HCl、ヒスチジンおよびポリソルベートを含むタンパク質処方物を使用することによって部分的には解決されえる(WO04091658を参照、参照によりその全体が援用される)。本明細書中に開示した抗体は、性能の増加、血清半減期の改善または可溶性の強化のために、皮下投与になじみやすい。
【0263】
当分野で公知のように、タンパク質治療薬はしばしば静脈内注入またはボーラスによりデリバーされる。本明細書中に開示した抗体もまたそのような方法でデリバーされえる。例えば、投与は、注入ビヒクルとして0.9%の塩化ナトリウムを含む静脈内注入により静脈内で実施できる。
【0264】
肺デリバリーは、吸入器またはネブライザーおよびエーロゾル化剤を含む処方物を用いて実施することができる。例えば、Aradigmから市販されているAERx(登録商標)吸入可能技術、またはNektar Therapeuticsから市販されているInhance(商標)肺デリバリー系を用いることができる。本明細書中に開示した抗体は肺内デリバリーにいっそう馴染みやすい。FcRnは肺に存在し、肺から血流への輸送を促進できる(例えば以下をを参照:WO04004798;Bitonti et al. 2004, Proc Natl Acad Sci 101:9763-8、参照によりその全体が援用される)。したがって、FcRnと肺内でより効率的に結合する抗体、または血流中でより効率的に遊離される抗体は、肺内投与後に生体利用性が改善されえる。本明細書中に開示した抗体はまた、例えば可溶性の改善または等電点の変化のために、肺内投与にいっそう馴染みやすい。
【0265】
更にまた、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、例えば胃のpHにおける安定性の改善およびタンパク分解に対する耐性の向上のために、経口投与にいっそう馴染みやすい。更にまた、FcRnは成人の腸の上皮で発現されているようであり(Dickinson et al. 1999, J Clin Invest 104:903-11、参照によりその全体が援用される)、したがって、FcRn相互作用プロフィールが改善された本明細書中に開示した抗体は、経口投与後の生体利用性の強化が示されえる。抗体のFcRn仲介輸送もまた他の粘膜(例えば胃腸、呼吸器および生殖管の粘膜)で生じえる(Yoshida et al. 2004, Immunity 20:769-83、参照によりその全体が援用される)。
【0266】
更にまた、当分野で多数のデリバリー系が公知であり、本明細書中に開示した抗体の投与にいずれも用いることができる。前記の例には、リポソーム内被包化、ミクロ粒子、ミクロスフェアー(例えばPLA/PGAミクロスフェアー)などが含まれるが、ただしこれらに限定されない。また別には、多孔質性、無孔性、またはゼラチン様物質(膜または線維を含む)の移植を利用してもよい。適切な徐放系は、ポリマー物質またはマトリックス、例えばポリエステル、ヒドロゲル、ポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタメートのコポリマー、エチレンビニルアセテート、乳酸-グリコール酸コポリマー(例えばLupron Depot(登録商標))、ポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含むことができる。本明細書中に開示した免疫グロブリンをコードする核酸を、例えばレトロウイルス感染、直接注射、または脂質、細胞表面レセプター若しくは他のトランスフェクション剤による被覆によって投与することもまた可能である。全ての事例で、所望の作用場所でまたはその近くで免疫グロブリンを放出するために、制御放出系を用いることができる。
【0267】
投与量
【0268】
投薬量および投与頻度は、一実施形態において、治療的または予防的に有効であるように選択される。当分野で公知のように、タンパク質分解、全身あるいは局所デリバリー、および新規なプロテアーゼ合成に対する調整とともに、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、薬剤相互作用、および症状の重篤度の調整が必要であり、日常的な実験を用いて当業者は確認できよう。
【0269】
治療的に活性な免疫グロブリンの処方物中の濃度は約0.1から100重量%で変動しえる。一実施形態において、免疫グロブリンの濃度は0.003から1.0モル濃度の範囲である。患者を治療するためには、本明細書中に開示した免疫グロブリンの治療的に有効な用量を投与することができる。本明細書の「治療的に有効な用量」とは、投与が目的とする効果を生じる用量を意味する。正確な用量は治療の目的に左右され、公知の技術を用いて当業者は確認できよう。投薬量は0.0001から100mg/kg体重またはそれ以上であり、例えば0.1、1、5、10、または50mg/kg体重の範囲に及び得る。一実施形態において、投薬量は、約1~約10mg/kgの範囲に及び得る。別の実施形態において、投薬量は、約5mg/kgである。
【0270】
いくつかの実施形態において、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、0.2mg/kg以上の用量で投与され得る。例えば、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、0.1mg/kg以上、0.5mg/kg以上、1mg/kg以上、2mg/kg以上、5mg/kg以上、10mg/kg以上、15mg/kg以上、20mg/kg以上、または25mg/kg以上の用量で投与され得る。あるいは、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、25mg/kg以上、50mg/kg以上、75mg/kg以上、100mg/kg以上、125mg/kg以上、150mg/kg以上、175mg/kg以上、または200mg/kg以上の用量で投与され得る。他の実施形態において、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、約0.2mg/kgの用量で投与され得る。例えば、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約2mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、または約25mg/kgの用量で投与され得る。あるいは、IgG4関連疾患を治療するのに使用される抗体は、約25mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、約100mg/kg、約125mg/kg、約150mg/kg、約175mg/kg、または約200mg/kgの用量で投与され得る。
【0271】
いくつかの実施形態において、ただ1回の免疫グロブリンの投与が用いられる。他の実施形態において、免疫グロブリンの多重投与が実施される。投与と投与の間の経過時間は1時間未満、約1時間、約1~2時間、約2~3時間、約3~4時間、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、約2~4日間、約4~6日間、約7日間、約14日間であり得るか、または14日間超であり得る。特定の実施形態において、免疫グロブリンは、14日毎に投与される。いくつかの実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも1種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも2種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも3種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも4種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも5種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも6種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも7種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも8種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも9種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも10種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも11種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、少なくとも12種類の用量で投与される。他の実施形態において、免疫グロブリンは、2種類を超える用量で投与される。1つの特定の実施形態において、免疫グロブリンは、14日毎に合計12種類の用量で投与される。
【0272】
他の実施形態において、本明細書中に開示した抗体は、メトロノーム的投与方式で、持続的注入または長い休止期のない頻繁な投与によって投与される。そのようなメトロノーム的投与は、休止期のない一定の間隔での投与を含むことができる。典型的には、そのような方式は、長期的な低用量投与、または長期間の、例えば1~2日間、1~2週間、1~2ヶ月間若しくは6ヶ月またはそれ以上の持続的注入を含む。より低い用量の利用は副作用および休止期の必要性を最小限にする。
【0273】
ある種の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンおよび1もしくは複数の他の予防用または治療用薬剤が周期的に患者に投与される。周期的療法は、第一の薬剤を第一の時点で、第二の薬剤を第二の時点で投与、場合によって追加の薬剤を追加の時点で投与、場合によって休止期、続いてこの一連の投与の1回以上の繰り返しを含む。繰り返しの回数は典型的には2~10回である。周期的療法は1もしくは複数の薬剤に対する耐性の発達を低下させ、副作用を最小限にし、または治療有効性を改善しえる。
【0274】
併用療法
【0275】
本明細書中に開示した抗体は、1もしくは複数の他の治療法または治療薬と同時に与えることができる。前記追加の治療法または治療薬は、免疫グロブリンの有効性または安全性の改善のために用いることができる。更にまた、追加の治療法または治療薬は、本免疫グロブリンの作用を変化させるのではなく、むしろ当該疾患または共存症の治療のために用いることができる。例えば、本明細書中に開示した免疫グロブリンは、化学療法、放射線療法または化学療法と放射線療法の両方法と合わせて投与することができる。本明細書中に開示した免疫グロブリンは、1もしくは複数の他の予防薬または治療薬と併用して投与することができる。前記併用される薬剤には、細胞傷害性薬剤、化学療法剤、サイトカイン、増殖阻害剤、抗ホルモン剤、キナーゼ阻害剤、抗血管形成剤、心臓保護薬、免疫刺激剤、免疫抑制剤、血液学的細胞の増殖を促進する薬剤、血管形成阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)阻害剤、また別の抗体、FcγRIIb若しくは他のFcレセプター阻害剤、または他の治療薬が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0276】
「~と併用した」および「同時投与」は、前記予防薬または治療薬の投与が厳密に同じときに投与される場合に限定されない。そうではなくて、本明細書中に開示した免疫グロブリンおよび他の薬剤が一緒に作用して、本明細書中に開示した免疫グロブリンのみまたは他の薬剤のみによる治療に比して利益を提供することができるように、それらが一続きでおよびある時間間隔以内に投与されることを意味する。いくつかの実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンと(単数もしくは複数の)他の薬剤が累積的に作用し、そして時折、相乗的に作用する。そのような分子は、意図した目的のために有効である量で一緒に適切に存在する。技量を有する医療従事者は、経験的にまたは当該薬剤の薬物動態学および作用動態を考慮することによって、各治療薬の適切な用量とともに、適切なタイミングおよび投与方法を決定することができる。
【0277】
いくつかの実施形態において、IgG4関連疾患の治療のための、本明細書中に開示した抗体は、IgG4-RD向けの標準的な治療法と組み合わせて使用できる。IgG4-RD向けの標準的な治療法の非限定的な例としては、抗炎症性鎮痛薬(例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、またはセレブレックスなどのNSAID)、アセトアミノフェン、ステロイド、グルココルチコイド(すなわち、プレドニゾン)、免疫抑制剤(すなわち、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)、免疫抑制性生物製剤(すなわち、リツキシマブ、ボルテゾミブ)が挙げられる。
【0278】
ある実施形態において、本明細書中に開示した抗体は、抗体またはFcを含む1もしくは複数の追加の分子とともに投与される。本明細書中に開示した抗体は、同じ疾患または別の共存症の治療に有効性を示す1もしくは複数の他の抗体と同時投与することができる。例えば、あるタイプの癌で過剰発現される2つの抗原、または自己免疫若しくは感染症の発症を仲介する2つの抗原を認識する2つの抗体を投与することができる。
【0279】
同時投与することができる抗癌抗体の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):抗17-1A細胞表面抗原抗体、例えばPanorex(商標)(エドレコロマブ);抗-4-1BB抗体;抗-4Dc抗体;抗-A33抗体、例えばA33およびCDP-833;抗-α4β1インテグリン抗体、例えばナタリズマブ;抗-α4β7インテグリン抗体、例えばLDP-02;抗-αVβ1インテグリン抗体、例えばF-200、M-200およびSJ-749;抗-αVβ3インテグリン抗体、例えばアブシクシマブ、CNTO-95、Mab-17E6およびVitaxin(商標);抗補体因子5(C5)抗体、例えば5G1.1;抗-CA125抗体、例えばOvaRex(登録商標)(オレゴヴォマブ);抗-CD3抗体、例えばNuvion(登録商標)(ヴィシリマブ)およびレキソマブ;抗-CD4抗体、例えばIDEC-151、MDX-CD4、OKT4A;抗-CD6抗体、例えばオンコリシンBおよびオンコリシンCD6;抗-CD7抗体、例えばHB2;抗-CD19抗体、例えばB43、MT-103、およびオンコリシンB;抗-CD20抗体、例えば2H7、2H7.v16、2H7.v114、2H7.v115、Bexxar(登録商標)(トシツモマブ、I-131標識抗-CD20)、Rituxan(登録商標)(リツキシマブ)、およびZevalin(登録商標)(イブリツマブチウキセタン(Ibritumab tiuxetan)Y-90標識抗-CD20);抗-CD22抗体、例えばLymphocide(商標)(エプラツズマブ、Y-90標識抗-CD22);抗-CD23抗体、例えばIDEC-152;抗-CD25抗体、例えばバシリキシマブおよびZenapax(登録商標)(ダクリズマブ);抗-CD30抗体、例えばAC10、MDX-060およびSGN-30;抗-CD33抗体、例えばMylotarg(登録商標)(ゲムツズマブオゾガマイシン)、オンコリシンMおよびスマートM195;抗-CD38抗体;抗-CD40抗体、例えばSGN-40およびトラリズマブ;抗-CD40L抗体、例えば5c8、Antova(商標)およびIDEC-131;抗-CD44抗体、例えばビヴァツズマブ;抗-CD46抗体;抗-CD52抗体、例えばCampath(登録商標)(アレムツマブ);抗-CD55抗体、例えばSC-1;抗-CD56抗体、例えばhuN901-DM1;抗-CD64抗体、例えばMDX-33;抗-CD66e抗体、例えばXR-303;抗-CD74抗体、例えばIMMU-110;抗-CD80抗体、例えばガリキシマブおよびIDEC-114;抗-CD89抗体、例えばMDX-214;抗-CD123抗体;抗-CD138抗体、例えばB-B4-DM1;抗-CD146抗体、例えばAA-98;抗-CD148抗体;抗-CEA抗体、例えばcT84.66、ラベツマブ、およびPentacea(商標);抗-CTLA-4抗体、例えばMDX-101;抗-CXCR4抗体;抗-EGFR抗体、例えばABX-EGF、Erbitux(登録商標)(セツキシマブ)、IMC-C225およびMerck Mab 425;抗-EpCAM抗体、例えばクルセル(Crucell)の抗-EpCAM、ING-1およびIS-IL-2;抗-エフリンB2/EphB4抗体;抗-Her2抗体、例えばHerceptin(登録商標)、MdX-210;抗-FAP(線維芽細胞賦活性タンパク質)抗体、例えばシブロツズマブ;抗フェ利チン抗体、例えばNXT-211;抗-FGF-1抗体;抗-FGF-3抗体;抗-FGF-8抗体;抗-FGFR抗体、抗-フィブリン抗体;抗-G250抗体、例えばWX-G250およびRencarex(登録商標);抗-GD2ガングリオシド抗体、例えばEMD-273063およびTriGem;抗-GD3ガングリオシド抗体、例えばBEC2、KW-2871およびミツモマブ;抗-gpIIb/IIIa抗体、例えばReoPro;抗-ヘパリナーゼ抗体;抗-Her2/ErbB2抗体、例えばHerceptin(登録商標)(トラスツズマブ)、MDX-210およびペルツズマブ;抗-HLA抗体、例えばOncolym(登録商標)、スマート1D10;抗-HM1.24抗体;抗-ICAM抗体、例えばICM3;抗-IgAレセプター抗体;抗-IGF-1抗体、例えばCP-751871およびEM-164;抗IGF-1R抗体、例えばIMC-A12;抗-IL-6抗体、例えばCNTO-328およびエルシリモマブ;抗-IL-15抗体、例えばHuMax(商標)-IL15;抗-KDR抗体;抗-ラミニン抗体;抗-ルイスY抗原抗体、例えばHu3S193およびIGN-311;抗-MCAM抗体;抗Muc1抗体、例えばBravaRexおよびTriAb;抗NCAM抗体、例えばERIC-1およびICRT;抗-PEM抗原抗体、例えばTheragynおよびTherex;抗-PSA抗体;抗-PSCA抗体、例えばIG8;抗-Ptk抗体;抗-PTN抗体;抗-RANKL抗体、例えばAMG-162;抗-RLIP76抗体;抗-SK-1抗原抗体、例えばMonopharmC;抗-STEAP抗体;抗-TAG72抗体、例えばCC49-SCAおよびMDX-220;抗-TGF-β抗体、例えばCAT-152;抗-TNF-α抗体、例えばCDP571、CDP870、D2E7、Humira(登録商標)(アダリブマブ)、およびRemicade(登録商標)(インフリキシマブ);抗-TRAIL-R1およびTRAIL-R2抗体;抗-VE-カドヘリン-2-抗体;および抗-VLA-4抗体、例えばAntegren(商標)。更にまた、抗イディオタイプ抗体(GD3エピトープ抗体(BEC2)およびgp72エピトープ抗体(105AD7)を含むが、ただしこれらに限定されない)を用いることができる。更にまた、二特異的抗体(抗CD3/CD20抗体(Bi20)を含むがただしこれに限定されない)を用いることができる。
【0280】
自己免疫または炎症性疾患、移植片拒絶、GVHDなどを治療するために同時投与することができる抗体の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):抗-α4β7インテグリン抗体(例えばLDP-02)、抗-β2インテグリン抗体(例えばLDP-01)、抗-補体(C5)抗体(例えば5G1.1)、抗-CD2抗体(例えばBTI-322、MEDI-507)、抗-CD3抗体(例えばOKT3、SMART抗-CD3)、抗-CD4抗体(例えばIDEC-151、MDX-CD4、OKT4A)、抗-CD11a抗体、抗-CD14抗体(例えばIC14)、抗-CD18抗体、抗-CD23抗体(例えばIDEC152)、抗-CD25抗体(例えばZenapax)、抗CD40L抗体(例えば5c8、Antova、IDEC-131)、抗-CD64抗体(例えばMDX-33)、抗-CD80抗体(例えばIDEC-114)、抗-CD147抗体(例えばABX-CBL)、抗-E-セレクチン抗体(例えばCDP850)、抗-gpIIb/IIIa抗体(例えばReoPro/Abcixima)、抗-ICAM-3抗体(例えばICM3)、抗-ICE抗体(例えばVX-740)、抗-FcγR1抗体(例えばMDX-33)、抗-IgE抗体(例えばrhuMab-E25)、抗-IL-4抗体(例えばSB-240683)、抗-IL-5抗体(例えばSB-240563、SCH55700)、抗-IL-8抗体(例えばABX-IL8)、抗-インターフェロンガンマ抗体、および抗-TNFa抗体(例えばCDP571、CDP870、D2E7、インフリキシマブ、MAK-195F)、抗-VLA-4抗体(例えばAntegren)。自己免疫または炎症性疾患、移植片拒絶、GVHDなどを治療するために同時投与することができる他のFc含有分子の例にはp75TNFレセプター/Fc融合物、Enbrel(登録商標)(エタネルセプト)およびレゲネロン(Regeneron)のIL-1トラップが含まれる(これだけに限定されるものではない)。
【0281】
感染症を治療するために同時投与することができる抗体の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):抗-炭疽抗体(例えばABthrax)、抗-CMV抗体(例えばCytoGamおよびセヴィルマブ)、抗-クリプトスポリジウム抗体(例えばCryptoGAM、Sporidin-G)、抗-ヘリコバクター抗体(例えばPyloran)、抗-肝炎B抗体(例えばHepeX-B、Nabi-HB)、抗-HIV抗体(例えばHRG-214)、抗-RSV抗体(例えばフェルヴィズマブ、HNK-20、パリヴィズマブ、RespiGam)および抗-スタフィロコッカス抗体(例えばAurexis、Aurograb、BSYX-A110およびSE-Mab)。
【0282】
また別には、本明細書中に開示した抗体は、1もしくは複数のFcレセプターとの結合について競合する1もしくは複数の分子と同時投与することができる。例えば、抑制性レセプターFcγRIIbの阻害剤を同時投与することによってエフェクター機能を高めることができる。同様に、賦活性レセプター(例えばFcγRIIIa)の阻害剤の同時投与は望ましくないエフェクター機能を最小限にすることができる。Fcレセプター阻害剤には、FcγRIIb、FcγRIIIaまたは他のFcレセプターとともに他の免疫グロブリンとの結合、および特にIVIg(静脈内免疫グロブリン)と称される治療に対する競合性阻害剤として作用するように操作されたFc分子が含まれるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、免疫グロブリンを投与する前に、阻害剤を投与し、そして、作用させる。連続的投与の効果を達成するまた別の方法は、Fcレセプター阻害剤の迅速放出製剤形を、続いて本明細書中に開示した免疫グロブリンの徐放性処方物を提供するものであろう。迅速放出および制御放出処方物は別々に投与するか、または1つのユニット製剤形にまとめることができよう。FcγRIIb阻害剤の投与はまた、望ましくない免疫応答、例えば、血友病患者への第VIII因子の投与に続く抗-第VIII因子抗体応答の制限のために用いることができる。
【0283】
ある実施形態において、本明細書中に開示した抗体は化学療法剤とともに投与される。本明細書で用いられる「化学療法剤」とは、癌の治療で有用な化合物を意味する。化学療法剤の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(商標));アルキルスルホネート、例えばブスルファン、イムプロスルファンおよびピポスルファン;アンドロゲン、例えばカルステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗-副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;抗-アンドロゲン、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリドおよびゴセレリン;抗生物質、例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアミシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリヴォマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、プロマイシン、クェラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;抗エストロゲン、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、LY117018、オナプリストンおよびトレミフェン(Fareston)を含む;抗代謝薬、例えばメトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸アナローグ、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;アジリジン、例えばベンゾドパ、カルボクオン、メツレドパおよびウレドパ;エチレンイミンおよびメチルメラミン(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスルアミドおよびトリメチルオロメラミンを含む);葉酸補充物質、例えばフロリン酸(frolinic acid);ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノヴェムビチン、フェンステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;白金アナローグ、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;タンパク質、例えばアルギニンデイミナーゼおよびアスパラギナーゼ;プリンアナローグ、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン;ピリミジンアナローグ、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、5-FU;タキサン、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Meyers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)およびドセタキセル(TAXOTER(登録商標)、Rhone-Polenc Rorber, Antony, France);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;チミジレートシンターゼ阻害剤(例えばTomudex);以下を含むまた別の化学療法剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;ドフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);エルフォルミチン;エリプチニウムアセテート;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジクオン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ヴィンデシン;ダカルバジン;マンノムスチンミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;エトポシド(VP-16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ヴィンクリスチン;ヴィノレルビン;ナヴェルビン;ノヴァントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ;イバンドロネート;CPT-11;レチン酸;エスペラミシン;カペシタビン。上記のいずれかの医薬的に許容可能な塩、酸または誘導体もまた用いることができる。
【0284】
化学療法剤または他の細胞傷害性薬剤はプロドラッグとして投与することができる。本明細書で用いられる「プロドラッグ」とは、医薬的に活性な物質の前駆体または誘導形態であって、親薬剤と比較して腫瘍細胞にとって細胞傷害性が低く、より活性な親の形態に酵素的に活性化または変換されるものを意味する。例えば以下をを参照:Wilman, 1986, Biochemical Society Transactions, 615th Meeting Belfast, 14:375-382; Stella et al., “Prodrugs: A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery,” Directed Drug Delivery;およびBorchardt et al. (ed): 247-267, Humana Press, 1985(参照によりその全体が援用される)。本発明に関して有用でありえるプロドラッグには以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):ホスフェート含有プロドラッグ、チオホスフェート含有プロドラッグ、スルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D-アミノ酸改変プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、ベータ-ラクタム含有プロドラッグ、場合によって置換されたフェノキシアセトアミド含有プロドラッグまたは場合によって置換されたフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、より活性な細胞傷害性遊離薬剤に変換されえる5-フルオロシトシンおよび他の5-フルオロウリジンプロドラッグ。本明細書中に開示した抗体とともに使用するためにプロドラッグ型に誘導されえる細胞傷害性薬剤の例には、上述の任意の化学療法剤が含まれる(ただしこれらに限定されない)。
【0285】
本明細書中に開示した抗体と一緒に投与するために他の多様な治療薬が有用でありえる。ある実施形態において、免疫グロブリンは抗血管形成薬剤と一緒に投与される。本明細書で用いられる「抗血管形成薬剤」とは、血管の発育を阻止またはある程度妨げる化合物を意味する。例えば、抗血管形成因子は、血管形成促進に必要な増殖因子または増殖因子レセプターと結合する小分子またはタンパク質、例えば抗体、Fc融合物またはサイトカインである。一実施形態において、抗血管形成因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)と結合する抗体であり得る。VEGFを介してシグナリングを阻害する他の因子もまた用いることができ、例えばVEGFまたはVEGF-Rの発現レベルを低下させるRNA系治療薬、VEGF-トキシン融合物、リジェネロン(Regeneron)のVEGF-トラップおよびVEGF-Rと結合する抗体である。また別の実施形態において、抗体は適応免疫応答を誘発または強化する治療薬、例えばCTLA-4を標的とする抗体とともに投与される。また別の抗血管形成薬剤には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):アンギオスタチン(プラスミノーゲンフラグメント)、アンチスロンビンIII、アンギオザイム、ABT-627、Bay 12-9566、ベネフィン、ベヴァシズマブ、ビスホスフォネート、BMS-275291、軟骨由来インヒビター(CDI)、CAI、CD95補体フラグメント、CEP-7055、Col 3、コムブレタスタチンA-4、エンドスタチン(コラーゲンXVIIIフラグメント)、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、フィブロネクチンフラグメント、gro-beta、ハロフギノン、ヘパリナーゼ、ヘパリン六糖類フラグメント、HMV833、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、IM-862、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターフェロン誘発性タンパク質10(IP-10)、インターロイキン-12、クリングル5(プラスミノーゲンフラグメント)、マリマスタート、メタロプロテイナーゼ阻害剤(例えばTIMP)、2-メソディエストラジオール、MMI270(CGS27023A)、プラスミノーゲンアクチベーター(PAI)、血小板因子-4(PF4)、プリノマスタート、プロラクチン16kDaフラグメント、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、PTK787/ZK222594、レチノイド、ソリマスタート、スクアラミン、SS3304、SU5416、SU6668、SU11248、テトラヒドロコルチゾール-S、テトラチオモリブデート、サリドマイド、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、TNP-470、形質転換増殖因子ベータ(TGF-β)、ヴァスキュロスタチン、ヴァゾスタチン(カルレチクリンフラグメント)、ZS6126およびZD6474。
【0286】
一実施形態において、免疫グロブリンはチロシンキナーゼ阻害剤とともに投与される。本明細書で用いられる「チロシンキナーゼ阻害剤」とは、チロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性をある程度阻害する分子を意味する。そのような阻害剤の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):キナゾリン、例えばPD153035、4-(3-クロロアニリノ)キナゾリン;ピリドピリミジン;ピリミドピリミジン;ピロロピリニジン、例えばCGP59326、CGP60261およびCGP62706;ピラゾロピリミジン、4-(フェニルアミノ)-7H-ピロロ(2,3-d)ピリミジン;クルクミン(ジフェルロイルメタン,4,5-ビス(4-フルオロアニリノ)フタリミド);チロフォスチン(tyrphostines)含有ニトロチオフェン成分;PD-0183805(Warner-Lambert);アンチセンス分子(例えばErbB-コード核酸と結合するもの);キノキサリン(US5,804,396);トリフォスチン(US5,804,396);ZD6474(Astra Zeneca);PTK-787(Novartis/Scering A G);pan-ErbB阻害剤、例えばC1-1033(Pfizer);アフィニタク(ISIS3521;Isis/Lilly);イマチニブメシレート(STI571、Gleevec(登録商標);Novartis);PKI 166(Novartis);GW2016(Glaxo SmithKline);C1-1033(Pfizer);EKB-569(Wyeth);セマキシニブ(Sugen);ZD6474(AstraZeneca);PTK-787(Novartis/Scering A G);INC-1C11(Imclone);または以下の特許公開公報に記載されたもの:US5,804,396;PCT WO99/09016(American Cyanamid);PCT WO98/43960(American Cyanamid);PCT WO97/38983(Warner-Lambert);PCT WO99/06378(Warner-Lambert);PCT WO99/06396(Warner-Lambert);PCT WO96/30347(Pfizer, Inc);PCT WO96/33978(AstraZeneca);PCT WO963397(AstraZeneca);PCT WO96/33980(AstraZeneca)、ゲフィチニブ(IRESSA(商標)、ZD1839、AstraZeneca)、およびOSI-774(Tarceva(商標)、OSI Pharmaceuticals/Genentech)(全ての特許文献が参照によりその全体が援用される)。
【0287】
別の実施形態において、免疫グロブリンは1もしくは複数の免疫調節剤とともに投与される。そのような薬剤は、1もしくは複数のサイトカインを増加若しくは低下させ、自己抗原提示をアップレギュレート若しくはダウンレギュレートさせ、MHC抗原を覆い隠し、または1もしくは複数のタイプの免疫細胞の増殖、分化、遊走若しくは活性化を促進させることができる。免疫調節薬剤には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、例えばアスピリン、イブプロフェド、セレコキシブ、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、インドメタシン、ケトララク、オキサプロジン、ナブメントン、スリンダク、トルメンチン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、ケトプロフェンおよびナブメトン;ステロイド(例えばグルココルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロキシコルチゾン、メチルプレドニソロン、プレドニソン、プレドニソロン、トリムシノロン、アズルフィジンアイコサノイド、例えばプロスタグランジン、スロンボキサンおよびロイコトリエン;前記とともに局所用ステロイド(例えばアンスラリン、カルシポトリエン、クロベタゾールおよびタザロテン);サイトカイン、例えばTGFb、IFNa、IFNb、IFNg、IL-2、IL-4、IL-10;サイトカイン、ケモカイン、またはレセプターアンタゴニスト(以下を含む:抗体、可溶性レセプターおよびレセプター-Fc融合物(前記は以下に対するものである:BAFF、B7、CCR2、CCR5、CD2、CD3、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD14、CD15、CD17、CD18、CD20、CD23、CD28、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD52、CD64、CD80、CD86、CD147、CD152、補体因子(C5、D)CTLA4、エオタキシン、Fas、ICAM、ICOS、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNAR、IgE、IL-1、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-5R、IL-6、IL-8、IL-9、IL-12、IL-13、IL-13R1、IL-15、IL-18R、IL-23、インテグリン、LFA-1、LFA-3、MHC、セレクチン、TGFβ、TNFα、TNFβ、TNF-R1、T細胞レセプター)、(前記にはEnbrel(登録商標)(エタネルセプト)、Humira(登録商標)(アダリブマブ)およびRemicada(登録商標)(インフリキシマブ)が含まれる);不均質抗リンパ球グロブリン;他の免疫調節分子、例えば2-アミノ-6-アリール-5置換ピリミジン、MHC結合ペプチドおよびMHCフラグメントに対する抗イディオタイプ抗体、アザチオプリン、ブレキナール、ブロモクリプチン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、D-ペニシラミン、デオキシスペルグアリン、FK506、グルタルアルデヒド、金、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、マロノニトリロアミド(例えばレフルノミド)、メトトレキセート、ミノサイクリン、ミゾリビン、マイコフェノレートモフェチル、ラパマイシンおよびスルファササジン。
【0288】
また別の実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンはサイトカインとともに投与される。本明細書で用いられる「サイトカイン」とは、1つの細胞集団によって遊離されるタンパク質であって、細胞間調整物質として別の細胞に作用するタンパク質の一般的用語を意味する。そのようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインに含まれるものはとりわけ以下のものである:増殖ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、ヒトN-メチオニル成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;タイロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体ホルモン(LH);肝増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子-アルファおよび-ベータ;ミューラー管抑制物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビチン;アクチビン;血管内皮増殖因子:インテグリン;スロンボポエチン(TPO);神経増殖因子、例えばNGF-ベータ;血小板増殖因子;形質転換増殖因子(TGF)、例えばTGF-アルファおよびTGF-ベータ;インスリン様増殖因子-Iおよび-II;エリスロポエチン(EPO);骨誘発因子;インターフェロン、例えばインターフェロン-アルファ、-ベータおよび-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);および顆粒球-CSF(G-CSF);インターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-アルファ、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5R、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15;腫瘍壊死因子、例えばTNF-アルファまたはTNF-ベータ;および他のポリペプチド因子(LIFおよびkitリガンド(KL)を含む)。本明細書で用いられる、サイトカインという用語には、天然の供給源由来および組換え細胞培養由来タンパク質、並びに天然の配列のサイトカインと生物学的に活性な等価物が含まれる。
【0289】
一実施形態において、免疫系の細胞を刺激するサイトカインまたは他の物質が本明細書中に開示した免疫グロブリンと同時投与される。そのような治療態様は所望のエフェクター機能を強化することができる。例えば、NK細胞を刺激する物質(IL-2が含まれるが、ただしこれに限定されない)を同時投与することができる。別の実施形態において、マクロファージを刺激する物質(C5a、ホルミルペプチド、例えばN-ホルミル-メチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(Beigier-Bompadre et al. 2003, Scand J Immunol 57:221-8、参照によりその全体が援用される)を含むが、ただしこれらに限定されない)を同時投与することができる。更にまた、好中球を刺激する物質(G-CSF、GM-CSFなどを含むが、ただしこれらに限定されない)を投与することができる。更にまた、そのような免疫刺激性サイトカインの放出を促進する物質を用いることができる。更にまた、別の物質(インターフェロンガンマ、IL-3およびIL-7が含まれるが、ただしこれらに限定されない)は、1もしくは複数のエフェクター機能を促進することができる。
【0290】
また別の実施形態において、エフェクター機能を阻害するサイトカインまたは他の物質が、本明細書中に開示した免疫グロブリンと同時投与される。そのような治療態様は、望ましくないエフェクター機能を制限することができる。
【0291】
更に別の実施形態において、免疫グロブリンは、以下を含む(ただしこれらに限定されない)1もしくは複数の抗生物質と一緒に投与される:アミノグリコシド系抗生物質(例えばアプラマイシン、アルベカシン、バムベルマイシン、ブチロシン、ディベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、パロモマイシン、リボスタマイシン、シソマイシン、スペクトリノマイシン)、アミノシクリトール(例えばスプリクチノマイシン(sprctinomycin))、アムフェニコール系抗生物質(例えばアジダムフェニコール、クロラムフェニコール、フロルフルニコール(florfrnicol)およびチアムフェミコール(thiamphemicol))、アンサマイシン系抗生物質(例えばリファミドおよびリファンピシン)、カルバペネム(例えばイミオエネム、メロペネム、パニペネム);セファロスポリン(例えばセファクロール、セファドロキシル、セファマンドール、セファトリジン、セファゼドン、セフォゾプラン、セフピミゾール、セフピラミド、セフピローム、セフプロジル、セフロキシン、セフィキシム、セファレキシン、セフラジン)、セファマイシン(セフブペラゾン、セフォキシチン、セフミノクス、セフメタゾールおよびセフォテタン);リンコサミド(例えばクリンダマイシン、リンコマイシン);マクロライド(例えばアジスロマイシン、ブレフェルディンA、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トブラマイシン)モノバクタム(例えばアズトレオナム、カルモナムおよびチゲルノナム);ムピロシン;オキサセフェム(例えばフロモキセフ、ラタモキセフおよびモキサラクタム);ペニシリン(例えばアムディノシリン、アムディノシリンピヴォキシル、アモキシシリン、バカムピシリン、ベキスジルペニシリン酸、ベンジルペニシリンナトリウム、エピシリン、フェンベニシリン、フロキサシリン、ペナメシリン、ペネサメートヒドロアイオダイド(penethamate hydriodide)、ペニシリンo-ベネサミン、ペニシリンO、ペニシリンV、ペニシリンVベンゾエート、ペニシリンVヒドラバミン、ペニメピサイクリンおよびフェンシヒシクリンカリウム);ポリペプチド(例えばバシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、テイコプラニン、バンコマイシン);キノロン(アミフロキサシン、シノキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、エンロフロキサシン、フェロキサシン、フルメキン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グレパフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキソリン酸(oxolinic acid)、ペフロキサシン、ピペミジン酸(pipemidic acid)、ロソキサシン、ルフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、トロヴァフロキサシン);リファムピン;ストレプトグラミン(例えばクイヌプリスチン、ダルフォプリスチン);スルフォンアミド(スルファニルアミド、スルファメトキサゾール);テトラサイクレン(クロロテトラサイクリン、デメクロサイクリンヒドロクロリド、デメチルクロロテトラサイクリン、ドキシサイクリン、デュラマイシン、ミノサイクリン、ネオマイシン、オキシテトラサイクリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、バンコマイシン)。
【0292】
抗真菌剤、例えばアンホテリシンB、シクロピロクス、クロトリマゾール、エコナゾール、フルコナゾール、フルサイトシン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ニコナゾール、ニスタチン、テルビナフィン、テルコナゾールおよびチオコナゾールもまた用いることができる。
【0293】
抗ウイルス剤(プロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤および(I型インターフェロン、ウイルス融合阻害剤およびノイラミニダーゼ阻害剤を含む)他のものを含む)もまた用いることができる。抗ウイルス剤の例としては、これだけに限定されるものではないが、アシクロビル、アデフォビル、アマンタジン、アンプレナビル、クレバジン、エンフビルチド、エンテカビル、ホスカルネット、ガングシクロビル、イドクスウリジン、インジナビル、ロピナビル、プレコナリル、リバビリン、リマンタジン、リトナビル、サクイナビル、トリフルリジン、ビダラビン、およびジドブジンが挙げられ、使用され得る。
【0294】
本明細書中に開示した免疫グロブリンは他の治療方針と組み合わせることができる。例えば、ある実施形態において、本明細書中に開示した免疫グロブリンで治療されるべき患者はまた放射線療法を受けることができる。放射線療法は、当分野で一般的に用いられ、当業者に公知のプロトコルにしたがって実施することができる。そのような療法には、セシウム、イリジウム、ヨウ素またはコバルト照射が含まれるが、ただしこれらに限定されない。放射線療法は全身照射であっても、身体内若しくは身体上の特定の部位または組織(例えば肺、膀胱または前立腺)に局部的に直接誘導されてもよい。典型的には、放射線療法は、約1から2週間の期間にわたってパルス照射される。しかしながら、放射線療法は、より長期間にわたって実施されてもよい。例えば、放射線療法は、頭部および頸部の癌を有する患者に約6から7週間実施することができる。場合によって、放射線療法は、シングルドースとしてまたは連続マルチドースとして実施することができる。技量を有する医療従事者は、本明細書で有用な放射線療法の適切な線量を経験的に決定することができる。別の実施態様によれば、本明細書中に開示した免疫グロブリンおよび1もしくは複数の他の抗癌剤を用いて、エクスビボで癌細胞を治療することができる。そのようなエクスビボ治療は骨髄移植、および特に自家骨髄移植で有用でありえる。例えば、癌細胞を含む細胞または組織の免疫グロブリンおよび1もしくは複数の他の抗癌療法(例えば上記に記載したもの)による処置を用いて、レシピエントの患者への移植前に癌細胞を除去または実質的に除去することができる。
【0295】
本明細書中に開示した抗体を更に他の治療技術、例えば外科手術または光線療法と組み合わせて利用することももちろん意図されている。
【実施例0296】
以下に提示した実施例は、例示のためだけのものである。これらの実施例は、本明細書中に開示した任意の実施形態を、いずれか特定の適用または作用理論に拘束することを意味するものではない。
【0297】
実施例1.FcγRIIb細胞を抑制する方法
【0298】
FcγRIIbは、B細胞、形質細胞、樹状細胞、単球、およびマクロファージを含む、種々の免疫細胞上で発現し、そこでは、免疫調節において重要な機能を担う。B細胞上でのその正常な機能において、FcγRIIbは、B細胞受容体(BCR)を通して、B細胞活性を調節するためのフィードバック機構として機能する。成熟型B細胞上の免疫複合型抗原によるB細胞抗原受容体(BCR)の共結合は、細胞増殖および分化をもたらす、カルシウム動員を含む細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する。しかしながら、抗原に特異性を有するIgG抗体が産生されると、関連する免疫複合体(IC)は、BCRをFcγRIIbと架橋することができるが、この際、BCRの活性が、FcγRIIbの結合、およびBCR活性の下方制御経路に干渉する、関連する細胞内シグナル伝達経路により阻害される。
【0299】
B細胞は、免疫反応を制御する抗体およびサイトカインを産生する役割を果たすだけでなく、それらはまた、抗原提示細胞(APC)でもある。B細胞内へのBCRによる抗原の内在化は、T細胞への提示およびその活性化において役割を果たし得る。BCRを通したB細胞活性化の調整もまた、FcγRIIbの抗体結合によって潜在的に調整される。例えば樹状細胞、マクロファージ、および単球などの他のAPCは、例えばFcγRIIa、FcγRIIIa、およびFcγRIなどの活性化受容体を通して抗体結合抗原を内在化することが可能である。これらの細胞型、特に樹状細胞上でのFcγRIIbの発現は、これらの細胞型の活性化と、その後のT細胞への提示およびその活性化を抑制できる(Desai et al., 2007, J Immunol)。
【0300】
前述の細胞型の活性化を抑制するためのストラテジーは、FcγRIIbを、FcγRIIb+細胞上に存在する表面抗原と共結合する単一の免疫グロブリンを使用することである。B細胞の場合、天然の生物作用に基づいて、これは、B細胞活性化の免疫複合体媒介性抑制を真似ることを目標とした、FcγRIIbとBCRの二重標的化に潜在的に関与するであろう。図3は、斯かる可能性のある機構の1つを例示するが、そこでは、抗体が、そのFc領域を介した、FcγRIIbと、そのFv領域を介した、BCR複合体に関連する標的抗原(この例ではCD19)の両方を共結合するのに使用される。
【0301】
実施例2.FcγRIIbに対して選択的に高められた親和性を有する改変免疫グロブリン
【0302】
生理的条件下では、FcγRIIbとBCRの架橋と、その後のB細胞抑制は、IgGsと同種抗原の免疫複合体を介して起こる。設計戦略は、単一の架橋抗体を使用したこの効果を再現することであった。ヒトIgGは、弱親和性でヒトFcγRIIbと結合し(IgG1では約1μM)、そして、FcγRIIb介在性抑制は、免疫複合体に応答して起こるが、しかし、単量体のIgGでは起こらない。この受容体に対する増強されたFc親和性がB細胞活性化の最大抑制のために必要であると推察された。増強されたFcγRIIb結合のためのFcバリアントの設計とスクリーニングのためにタンパク質工学的手法を使用した。
【0303】
ヒトFc/FcγRIIIb複合体の解明した構造(およびヒトFcγRsの配列)を使用することで、構造的分析および配列分析を、活性化受容体に対するFcγRIIbの親和性および選択性に貢献するFcγR位置を同定するために使用した。設計戦略は、2ステップを用いた。第一に、FcγRIIbおよびFcγRIIIa結合選択性の決定部位であるFcγR位置を、FcγR/Fc境界面への近接、およびFcγRIIbとFcγRIIIaとの間のアミノ酸相違点を主要因とすることによって同定した。第二に、これらのFcγR位置に対して近位のFc領域の配列位置を同定した。これらの位置に置換を組み込むFcバリアントを設計した。
【0304】
Fcバリアントに関するライブラリを、これらの位置におけるアミノ酸修飾について調査するために生成およびスクリーニングした(Chuらに対する米国特許第8,063,187号を参照、参照によりその全体が援用される)。バリアントは、BCR共受容体複合体の調節構成要素である、抗原CD19を標的とする抗体の状況で、最初に生成された。この抗体のFv領域はヒト化され、親和性成熟された、抗体4G7の型であり、本明細書において、HuAM4G7と称される。この抗体のアミノ酸配列を、図14A図14Dに提供する。この抗体のFv遺伝子は、哺乳動物発現ベクターpTT5にサブクローン化された(National Research Council Canada)。Fcドメインにおける突然変異は、部位特異的突然変異誘発を使用して導入された(QuikChange, Stratagene, Cedar Creek, TX)。加えて、置換L328R、およびG236R置換または位置236後に挿入したArgのいずれかを含む、Fc受容体に対して切断された親和性を有する、制御されたノックアウトバリアントを生成した。これらのバリアント(G236R/L328Rおよび^236R/L328R)は、Fc-KOまたはFcγRノックアウトと称される。非CD19Fcアイソタイプ対照としての役割を果たすように、抗呼吸器合胞体ウイルス(RSV)および抗FITC抗体を、適切なVとV領域を、Fc変化を伴ったCκおよびC1-3ドメインに融合することによってpTT5ベクター内に構築した。重鎖および軽鎖コンストラクトは、発現のために、HEK293E細胞に同時導入され、抗体は、タンパク質A親和性クロマトグラフィー(Pierce Biotechnology, Rockford, IL)を使用して精製された。
【0305】
結合および競合試験のためのヒトFc受容体タンパク質FcγRIおよびFcγRIIbを、R&D Systems(Minneapolis, MN)から購入した。FcγRIIaおよびFcγRIIIa受容体タンパク質をコードする遺伝子を、Mammalian Gene Collection (ATCC)から購入し、6X HisおよびGSTタグを含有するpTT5ベクター(National Research Council Canada)にサブクローニングした。受容体(FcγRIIaおよびV158に対してH131およびR131、ならびにFcγRIIIaに対してF158)の対立遺伝子型を、QuikChange突然変異源性を使用して生成した。受容体をコードするベクターを、HEK293T細胞に形質移入し、タンパク質を、ニッケル親和性クロマトグラフィーを使用して精製した。
【0306】
本明細書においてBiacoreとも称される、リアルタイムで生体分子相互作用について試験するための表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく技術である、Biacore技術を使用して、受容体親和性についてバリアントをスクリーニングした。SPR測定を、Biacore 3000装置(Biacore, Piscataway, NJ)を使用して実施した。標準的な一級アミンカップリングプロトコルを使用して、タンパク質A/G(Pierce Biotechnology)CM5バイオセンサーチップ(Biacore)を生成した。すべての測定を、HBS-EP緩衝液(10mM HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% vol/vol界面活性剤P20、Biacore)を使用して実施した。20nMまたは50nM含有HBS-EP緩衝液での抗体を、タンパク質A/G表面上に固定化し、FcγRを注入した。各周期後、表面を、グリシン緩衝液(10mM、pH1.5)を注入することにより再生した。データを、適切な非特異的シグナル(流動緩衝液の対照チャネルおよび注入の応答)を減算することで、FcγRの注入前の時間および応答をゼロにすることにより処理した。動態分析を、BIAevaluationソフトウェア(Biacore)を使用して、1:1ラングミュア結合モデルを用いた、結合データの包括的適合により実施した。
【0307】
選択バリアント抗CD19抗体のFcγRIIbへの結合の代表的な一連のセンサグラムを図4に示す。
【0308】
バリアント分析のために有用な数量は、WT IgG1に対するそれらの親和性倍率であり、そしてそれは、各受容体に対する、バリアントの結合に関するKdによって、WT IgG1の結合に関するKdを割ることによってもたらされる。これらの親和性倍率の結果を、図5A~5Dに提供する。多くのバリアントで、2logを超えるFcγRIIb結合の増強があり、活性化受容体に対する親和性を実質的に低減または除去した。特に、S267E(単一置換)、ならびにL235Y/S267E、G236D/S267E、S239D/S267E、S267E/H268E、およびS267E/L328F(二重置換)は、FcγRIIbに対する顕著に高い親和性を有する。加えて、これらのバリアントは、天然IgG1に匹敵するか、わずかに増強されたか、または有意に低減されてさえいる活性化受容体FcγRIIIaに対する親和性を有する。
【0309】
FcγRIIbに対して最も高い親和性を有するバリアント、S267E/L328Fでは、FcγRIIbに対する親和性の改善が2桁を超え、FcγRIIIa、FcγRI、およびH131FcγRIIaを含めた活性化受容体に対する親和性は有意に減少した。
【0310】
Biacoreデータを実証し、かつ、細胞表面におけるバリアントの受容体結合性を評価するために、FcγRIIbを発現する細胞への選択抗体の結合を計測した。HEK293T細胞はCD19またはFcγRsを発現しないので、FcγRIIbを用いたこれらの細胞のトランスフェクションが、細胞表面上での孤立系でのFc受容体への抗体結合の分析を可能にした。10%のFBSを含むDMEM中のHEK293T細胞を、pCMV6発現ベクター(Origene Technologies, Rockville, MD)内のヒトFcγRIIb cDNAを用いて形質移入し、3日間培養し、集菌し、PBSで二度洗浄し、0.1%のBSAを含むPBS(PBS/BSA)中に再懸濁し、そして、96ウェルマイクロタイタープレート内に1ウェルあたり2×10個の細胞で等分した。Fcバリアント抗体を、PBS/BSAで連続的に希釈し、次いで、細胞に添加し、そして、混合しながら室温にて1時間インキュベートした。PBS/BSAによる広範な洗浄後に、フィコエリトリン(PE)標識抗ヒトFab特異的ヤギF(ab’)2フラグメントを検出のために添加した。細胞を、室温にて30分間インキュベートし、洗浄し、PBS/BSAで再懸濁した。FACSCanto IIフローサイトメータ(BD Biosciences, San Jose, CA)を使用して、結合を評価し、そして、平均蛍光強度(MFI)を、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software, San Diego, CA)を使用して抗体濃度の関数としてプロットし、そこから最大結合半値(EC50)の値をシグモイド用量応答モデリングによって決定した。
【0311】
受容体発現レベルを、抗体の結合前に評価し、そして様々な抗体濃度にてMFIの最大有効濃度半値(EC50)の値を測定した。図6は、この実験の結果を示す。試験したバリアントのEC50値は、Biacoreの結果と類似の順位序列を示した。細胞表面結合では、試験したS267E/L328Fバリアントのそれが、WT IgG1に対して約320倍のEC50で、FcγRIIbに対して最も高い親和性を有することを確認した。これらの細胞表面結合データとBiacore結合データの間の強い一致は、親和性測定の精度を支持する。
【0312】
バリアントをヒトIgG1に照らしてスクリーニングしたが、バリアントが、例えば、これだけに限定されるものではないが、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4を含めた他の抗体アイソタイプに照らして使用し得ることを企図した(図1)。他の抗体アイソタイプに対するバリアントの移動性を調査するために、S267E/L328Fバリアントを、IgG1/2 ELLGG抗体に照らして構築し、そして試験したが、それはIgG2Fc領域のバリアントである(米国公報第2006/0134105号、参照によりその全体が援用される)。突然変異を構築し、抗体を精製し、そして、結合データを先に記載のとおり実施した。図7は、Biacoreによって測定されるように、ヒトFcγRsに対するIgG1およびIgG1/2バリアント抗体の親和性を示す。そのデータは、大きく増強されたFcγRIIb親和性および総合的なFcγR結合プロフィールがバリアントIgG2Fc領域で維持されることを示し、それにより、他のアイソタイプ状況におけるバリアントの使用を支持している。
【0313】
まとめると、先のデータは、特定の置換を有するバリアントが、目的とした特性、すなわち、FcγRIIbに関する増強された親和性、および活性化受容体FcγRI、FcγRIIa、およびFcγRIIIaに対して選択的に増強されたFcγRIIb親和性を提供することを示す。FcγRIIbに対して親和性を高める置換としては:234、235、236、239、267、268、および328が挙げられる。
【0314】
FcγRIIbに対する親和性を高めるための置換をおこなう位置の非限定的な組み合わせとしては:235/267、236/267、236/267、267/328、および268/267が挙げられる。FcγRIIbに対する親和性を高めるための置換としては:L234W、L235I、L235Y、L235R、L235D、G236D、G236N、S239D、S267D、S267E、H268E、H268D、L328F、およびL328Yが挙げられる。FcγRIIbに対する親和性を高めるための置換の組み合わせとしては:L235D/S267E、L235Y/S267E、L235D/S267D、L235I/S267E、L235I/S267D、L235Y/S267D、G236D/S267E、G236D/S267D、S267E/L328F、S267D/L328F、H268D/S267E、H268D/S267D、H268E/S267E、H268E/S267D、およびG236D/S267E/L328Fが挙げられる。
【0315】
実施例3.免疫グロブリンは、BCR媒介性初代ヒトB細胞生存を抑制する。
【0316】
通常のB細胞は約5週間の長いインビボにおける半減期を有するが、それらの寿命はインビトロにおいて大きく短縮される。例えば抗IgMまたは抗CD79bなどの架橋抗体によるBCR刺激は、アポトーシスに向けたこのインビトロ傾向を解消し、B細胞活性化、そして増強されたB細胞生存率に通じる。これを実証するために、ATP依存性B細胞生存試験を実施した。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、匿名の健常ボランティア(HemaCare, Van Nuys, CA)の白血球除去輸血からフィコール-Paque Plus密度勾配(Amersham Biosciences, Newark, NJ)を使用して精製した。初代ヒトB細胞を、PBMCからB細胞濃縮キット(StemCell Technologies, Vancouver, British Columbia)を使用して精製した。マウス抗ヒトCD79b(クローンSN8)をSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)から購入した。ポリクローナルな抗mu F(ab’)をJackson Immunoresearch Lab(West Grove, PA)から購入した。抗muまたは抗CD79b抗体段階希釈を、10%のFBS含有RPMI1640を入れた96ウェルマイクロタイタープレートにおいて三連で実施した。精製した初代ヒトB細胞(1ウェルあたり5~7.5×10個)を、100μlの終量に加え、37℃にて3日間インキュベートした。ATP依存性発光を定量化して、細胞生存率を決定し(Cell Titer-Glo Cell Viability Assay, Promega, Madison, WI)、かつ、Topcountルミノメータ(PerkinElmer, Waltham, MA)をデータ取得に使用した。図15Aおよび15Bは、BCR活性化(ここでは抗mu(A)または抗CD79b(B)抗体との架橋によって実施される)時の初代ヒトB細胞の生存率を実証するアッセイの結果に示す。インビボにおける斯かる活性化は、免疫複合体化抗原を介して起こるはずであり、そしてそれは、例えば、伝染性物質であり得、そして、自己免疫性またはアレルギー反応の原因において、自己免疫抗原またはアレルゲンであり得る。
【0317】
初代ヒトB細胞のBCR活性化媒介性生存率が、FcγRIIbに関して高いFc親和性を有する抗CD19抗体によって抑制される場合があるかどうか調べるために、ATP依存性発光アッセイを使用した。WT、バリアント、および対照抗体の抗体段階希釈を、10%のFBSに加え、BCRを刺激するための1μg/mlの抗CD79bを含有するRPMI1640を入れた96ウェルマイクロタイタープレートにおいて三連で実施したことを除いて、先の実験を繰り返した。結果を図9に示す。この場合も同様に、B細胞は、BCR架橋の不存在下で低い生存率を有し、そして、10μg/mlの抗CD79b抗体の添加が、約6倍(細胞のみに対する抗CD79b)だけ生存率を刺激した。抗CD19-S267E/L328F、最も高いFcγRIIb親和性を有するバリアントは、BCR刺激性生存率を、用量依存的様式で抑制した。対照的に、抗CD19-IgG1(Fv対照)および抗RSV-S267E/L328F(Fc対照)含む対照抗体は、生存率を最小限抑制した。この抑制効果が、異なる抗体による各受容体の同時結合ではなく、CD19とFcγRIIbの共結合を必要とするかどうか評価するために、抗CD19-S267E/L328Fバリアントを、同じ濃度にて、抗CD19-IgG1および抗RSV-S267E/L328F対照の組み合わせと比較した。これらの抗体の組み合わせは、CD19とFcγRIIbの両方に同時に結合するはずであるが、抗CD19-S267E/L328Fと異なり、これらの受容体を架橋することができない。図9に示されているように、組み合わせ物はBCR活性化誘発性生存を抑制することなく、単一分子によるFcγRIIbとCD19の共結合が、BCR媒介性生存率を抑制するために必要とされることを示した。
【0318】
実施例4.免疫グロブリンは、初代ヒトB細胞においてBCR依存性抗アポトーシス効果を抑制する
【0319】
インビボにおいて、通常のB細胞は、約5週間の長い半減期を有するが、インビトロにおいて、この寿命は、適切なニッチの欠損による増強されたアポトーシスのため、大きく短縮される。図8で実証されるように、BCRを介した刺激によるB細胞活性化は、抗アポトーシス効果を引き起こすので、生存を長引かせる。IIbEバリアントの増殖抑制作用がBCR媒介性生存シグナルの中和の結果であり、その結果、インビトロにおけるアポトーシスの進行を可能にするのか否か決定するために、アネキシンV染色アッセイを実施した。1×10個の精製初代ヒトB細胞を、10%のFBSを含有した100μlのRPMI1640中、1μg/mlの抗CD79bおよび抗CD19の段階希釈物または対照抗体と共に、三連で37℃にて24時間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を集菌し、そして、5μg/mlにて、PE結合アネキシンV(Biovision, Mountain View, CA)および7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD、Invitrogen, Carlsbad, CA)によって染色した。アネキシンV陽性/7-AAD陰性細胞を、FACSCantoIIフローサイトメータを使用して獲得し、そして、FACSDiva5分析ソフトウェア(BD Biosciences)で分析した。
【0320】
データを図10に示す。抗CD79bの存在または不存在下で培養した初代ヒトB細胞のアネキシンV染色では、アポトーシスがBCR活性化によって抑制されたことを確認した(図10、細胞のみに対する抗CD79b)。この生存シグナルは、用量依存的様式で抗CD19-S267E/L328Fによって中和されるが、抗RSV-S267E/L328F(Fc対照)または抗CD19-IgG1(Fv対照)抗体によって中和されなかった。抗アポトーシス効果の抑制は、カルシウム動員および細胞増殖の抑制のように、単一抗体によるCD19とFcγRIIbの共結合を必要とする。なぜなら、抗CD19-IgG1と抗RSV-S267E/L328F(それぞれFv対照とFc対照)の組み合わせが、アポトーシスを刺激しなかったからである。これらのデータは、抗CD19IIbEバリアントが、抗アポトーシス生存シグナルを抑制することによって、BCR誘発性B細胞増殖を抑制することを示す。
【0321】
実施例5.自己免疫疾患または炎症性疾患を治療する可能性を実証するインビボデータ
【0322】
マウスおよびヒトの自己免疫の顕著な特徴は、FcγRIIb発現の脱調節であり、この抑制受容体の低い表面レベルをもたらし、そして、高レベルのB細胞活性化と、結果として起こる、自己反応性B細胞抑制の不全および自己抗原特異的免疫グロブリンを分泌する形質細胞の産生をもたらす。斯かる自己反応性免疫グロブリン免疫複合体は、全身性自己免疫における様々な臓器不全、ならびに、例えば全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ(RA)などの他の関節炎の炎症における病因物質である。本明細書中に開示した免疫グロブリンを、抗原特異的免疫グロブリンを検出することによる、B細胞および血漿細胞発生の数によって決定したB細胞活性を調べることによって、代用としてhuPBL-SCIDマウスモデルを使用して評価した。この方法では、健常または疾患(例えば、SLEまたはRA)ドナーからのヒトPBLを、免疫不全SCIDマウスに移植し、本明細書中に記載の抑制性免疫グロブリンで治療し、次いで、抗原を接種して、形質細胞へのB細胞発生の経過を調べた。こうした場合では、抗原特異的免疫グロブリンの産生が抑制され、そしてそれから、B細胞活性化および分化両方の抑制が推測され得る。
【0323】
この試験のプロトコールを図11Aに提供する。各群に5匹のマウスを含む4つの異なるマウス群に、健常ドナーからのヒトPBLを移植した。16日目に、PBS(ビヒクル対照)、天然IgG1Fcを有する抗CD19(抗CD19IgG1WT)、FcγRIIbに対して増強された親和性のIgG1Fcを有する抗CD19(抗CD19S267E/L328F)またはリツキシマブIgG1抗CD20からなる試験物品を、10mg/kgを週毎に2回、合計6回の用量にわたって与えた。24日目に、破傷風トキソイドフラグメントCを用いた抗原接種を与え、そして、マウスを31および38日目に屠殺した。破傷風トキソイド(TT)特異的抗体の産生を調べた。この実験の結果を図11Bに示す。データは、抗原接種前に、抗TT特異的抗体のレベルが、すべての群において非常に低かったことを示す。免疫化後に、未処置PBS対照群は、抗TT特異的抗体レベルの最高レベルを示した。相対的に、抗CD20抗体を低減するB細胞は、低レベルの抗原特異的抗体レベルを生じた。免疫化後に、抗CD19S267E/L328F群は、最低レベルの抗原特異的抗体を示したが、その一方で、抗CD19IgG1WTは、より高いレベルの抗原特異的抗体を産生した。これらのインビボデータは、増強されたFcγRIIb親和性を有する抗CD19抗体が、B細胞活性化および免疫グロブリン分泌形質細胞の分化を抑制できることを示し、そのため、本明細書中に開示した免疫グロブリンが自己免疫疾患および炎症性疾患を治療する可能性を支持している。
【0324】
実施例6.FcγRIIbの共結合
【0325】
S267E/L328F(高FcγRIIb親和性)バリアントを、WT IgG1およびFc-KOバリアント(^236R/L328Rおよび/またはG236R/L328R)と共に、CD19発現に特異的な抗体にクローニングした。図14A図14Dには、使用した抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)を列挙する。これらの抗原を標的化するVHおよびVL遺伝子を、遺伝子合成によって構築し、そして、バリアントを、先に記載したように構築し、発現し、そして、精製した。
【0326】
FcγRIIbとこれらの抗原の高親和性共結合の効果を、先に記載したように、ATP依存性発光B細胞生存試験を使用して評価した。図12は結果を示す。データは、CD19がB細胞活性化を抑制するために高親和性FcγRIIb共結合を使用するための有効な共同標的であることを更に支持している。これは、BCR複合体のシグナル伝達要素としての役割と一致する。2つの追加抗CD19抗体を使用した結果は、標的化した特異的エピトープに関係なく、高親和性FcγRIIb共同連結反応を使用したB細胞活性化の制御に対するこの抗原の順応性を改めて確認した(図13)。
【0327】
実施例7.IgG4関連疾患における抗CD19抗体S267E/L328F(CD19+細胞の可逆的阻害剤)の試験
【0328】
IgG4関連疾患(IgG4-RD)を、非可逆的損傷につながる可能性がある線維性炎症性病変に感受性の免疫型媒介性状態である。IgG4-RDに関して承認された治療法は存在していない。
【0329】
Fc修飾S267E/L328Fを有するモノクローナル抗CD19抗体を、IgG4-RDを治療するために使用した。この実施例における抗CD19抗体S267E/L328Fは、配列番号9の重鎖と配列番号7の軽鎖を有し、かつ、B細胞上の唯一のFc受容体であるFcγRIIbに対する増強された親和性(天然のIgGを200~400倍上回る)のために設計されたFc部分を有するヒト化抗CD19抗体である。抗体は、FcγRIIb+細胞に結合し、かつ、CD19を共結合し、その結果、FcγRIIbの天然の制御的役割(B細胞活性化の抑制)を高める(図15B)。CD19とFcγRIIbの共連結は、これらの標的を担持するB系列細胞の下方制御および抑制をもたらす。B細胞の除去を伴わないB細胞機能の可逆的抑制は、このアプローチの1つの潜在的利点である。
【0330】
試験は、≧3のIgG4-RDレスポンダー指数(IgG4-RD RI)および1若しくは複数の器官系における疾患活動性を有する活動性IgG4-RDを患っている対象における抗体の非盲検調査であった。
【0331】
抗体(5mg/kg)を、合計12回の注入まで14日毎にIV投与した。対象を、彼らが活動性IgG4-RD、他の原因の結果と考えられないIgG4-RDと一致した臓器病変の適合パターン、IgG4-RDの組織病理学的に立証された診断、ならびに>900細胞/mLの末梢血形質芽球カウントおよび/またはスクリーニング中の高いIgG4-RDレベルを有した場合に組み入れた。
【0332】
15人の患者を登録し、7回の注入(中央値)を受けた(1~12回の範囲)。登録した15人の患者の平均年齢は63歳であった(範囲:43~77歳)。10人の患者が男性であり、そして5人が女性である。12人が白人であり、1人が黒人であり、そして2人がアジア人である。患者は、220mg/dLの平均血清IgG4を有した(範囲:25~2415;正常3.9~86.4mg/dL)。平均ベースラインIgG4-RD RIスコアは12であった(範囲:2~30)。患者は、少なくとも1つの臓器系に活性炎症性疾患を有し(範囲:1~10、平均4)(図16)、試験エントリ時点で、中程度で4つの臓器病変であった(範囲1~10)。最も多く侵されていた臓器は、リンパ節(11人の患者;73%)、顎下腺(9人の患者;60%)、耳下腺(8人の患者;53%)、涙腺(7人の患者;47%)であった(図17)。≧50%の頻度で起こる臓器部位病変としては、リンパ節、顎下腺、耳下腺が挙げられる。10人の患者(67%)が以前に治療を受けた。15人の患者のうちの5人が、ベースラインにてステロイド剤を使用していた。
【0333】
陽電子放射断層撮影(PET)スキャンを、ベースライン、3および6カ月に実施した。一次結果判定は、ベースラインと比較して≧2のIgG4-RD RIの減少がある、169日目の患者の割合である。グルココルチコイドは、組み入れられるが、エントリ時点で必要でなく、2カ月までに中止されなければならない。他の免疫抑制性薬物療法は許可されない。機構的研究を、ベースラインおよび選択した間隔にて実施する。
【0334】
試験を、IgG4-RD活動性における改善があった患者の割合を計測するように設計し、ここで、疾患活動性の改善とは、投与前の疾患活動性スコアに対して2ポイント以上のIgG4-RDレスポンダー指数の減少によって規定される。試験はまた、CTCAE v4.3によって評価される治療中に発生した有害反応を経験した患者数およびパーセントも計測した。
【0335】
抗CD19抗体S267E/L328Fの隔週の静脈内投与は良好な耐容性を示した。抗体を投与した15人の患者のうちの14人は、IgG4-RD RIの≧2ポイントの減少を示し、そのうちの12人は(すなわち、単回投与後)2週間以内であり(図18)、応答は、経時的に強まっていった。5人の患者が、0(疾患活動性なし-寛解の定義)のIgG4-RD RIで試験終了に達した。3人の患者が、12回の用量の完了前に治療を中止した。ベースラインにてステロイド剤を使用していた5人の患者のうち、すべてが漸減し、そして、中止できた。
【0336】
抗CD19抗体S267E/L328Fの投与は、強力であるが、しかし、可逆的なB細胞抑制を実証した。2mg/kgの抗体の投与後、細胞が発現するCD86の急速な低下が観察され、その後、CD86発現は、免疫グロブリン投与後約100日の時点でゆっくりベースラインまで戻った(図19A)。CD86発現はB細胞活性化の指標であり、そのため、CD86発現の低下は、抗体が効果的にB細胞活性化を抑制することを示唆している。更に、2mg/kgの抗体の投与は、末梢B細胞カウントの可逆的な低減をもたらした(図19B)。これらのカウントは、抗体投与後約40~60日の時点で通常に戻った。加えて、対象には、破傷風抗原を抗原接種し、次いで、0.03~10mg/kgの範囲で変更した投与量の抗体を投与した。その抗体を投与した対象には、プラセボ治療対象と比較して、抗破傷風IgGの検出可能な低下があった(図19C)。これらの結果は、抗原接種に対応して、抗体がB細胞活性化を抑制することを実証している。
【0337】
抗体を投与した、IgG4関連疾患を患っている対象において、総B細胞および形質芽球の両方の有意な減少もまた、治療後に観察された。フローサイトメトリーを使用して、CD19およびCD79b発現を介して総B細胞のカウントを計測し、ならびにCD38およびCD27発現を介して形質芽球のカウントを計測した。治療中のB細胞および形質芽球のゲーティングストラテジーを図20に示す。
【0338】
図21は、患者による、治療中のB細胞数の概要を示す。14人の患者のうちの11人の総B細胞(CD79b+)数は、治療開始後、約40~50%まで急速に減少した。3人の患者が、総B細胞数の緩やかな減少を示した。
【0339】
図22A~22Bは、治療中の形質芽球数の概要を示す。形質芽球は未成熟形質細胞である。形質芽球は、B細胞より多くの抗体を分泌するが、形質細胞よりは少ない。それらは急速に分割し、そして、依然として抗原を内在化できるので、それらをT細胞に提示する。IgG4-RDを患っている患者は、健常人より多数のCD19+形質芽球を有する。図23は、ベースラインにおいて、健常ドナー(10個のCD19+B細胞あたり13.73±3.395個のCD19+形質芽球(平均±SEM))と比較して、形質芽球が多い(10個のCD19+B細胞あたり99.07±16.84個のCD19+形質芽球(平均±SEM))ことを示す。CD79b+形質芽球(図22A)および総形質芽球(図22A)の両方が、すべての(14人の)患者において、治療開始後7日までに4~5倍低下した。注目すべきは、形質芽球は、14人の患者のうちの10人で、80~90%減少した。
【0340】
数人の患者に関して、個々のB細胞および形質芽球カウント、ならびに血清IgG4レベル(mg/dL)を、以下で更に考察する。
【0341】
抗体を用いた治療に先立ち、患者1は、18のRIを有し、IgG4関連硬化性胆管炎およびAIP、わずかな顎下腺腫脹、および弱い涙腺を示した。この患者は、以前にステロイド療法を使用していた。169日目までには、この患者は0のRIを有し、ステロイド使用を停止し、そして、試験後数カ月、引き続いて健康であった。患者1のB細胞および形質芽球カウント、ならびに血清IgG4レベル(mg/dL)を、以下の表1に治療日ごとにまとめる。
【0342】
表1
【表1】
【0343】
抗体を用いた治療に先立ち、患者2は、IgG4関連ミクリッツ病、眼窩疾患、肺病変、および右精嚢病変を示した。患者2は、治療前に16のRIを有し、以前にリツキシマブを用いて治療していた。85日目までには、この患者は0のRIを有した。患者2のB細胞および形質芽球カウント、ならびに血清IgG4レベル(mg/dL)を、以下の表2に治療日ごとにまとめる。
【0344】
表2
【表2】
【0345】
全体的に見て、このデータは、活動性IgG4-RDにおける抗CD19抗体S267E/L328F治療が良好な耐容性を示したことを実証している。治療応答(≧2のIgG4-RD RIの減少)を、11人の患者のうちの9人で観察した(82%)。治療に対する初期臨床応答および末梢血応答を、2週間以内に観察した。患者集団にわたって、持続的な改善が共通していた。B細胞カウントは約50%だけ迅速に低下し、形質芽球は、B細胞に比べ、より一層迅速に低下した。このデータは、IgG4-RDを治療する際に、抗体が急速かつ有効な剤であることを示唆している。
【0346】
細胞毒活性を有するCD4+T細胞(CD4+CTL)集団もまた、抗CD19抗体S267E/L328Fを与えられた患者で調べた。CD4+SLAMF7+CTL数が、IgG4-RD患者の末梢血で増加すると報告された。更に、循環CD4+SLAMF7+CTL数が、リツキシマブ治療法後にIgG4-RDを患っている患者で減少することが報告された。図29に示すように、CD4+SLAMF7+CTL数は、対照(n=35)と比較して、IgG4-RD患者(n=101)の末梢血で増加した。抗CD19抗体S267E/L328Fを与えたIgG4-RD患者において、CD4およびSLAMF7発現を介してCD4+CTLのカウントを計測するために、フローサイトメトリーを使用した。治療中のB細胞および形質芽球のゲーティングストラテジーを、図24に示す。試験した患者のうちの半分は、治療前に、試験中の分析を可能にするのに十分に高いパーセンテージの様々な循環CD4+CTL集団を有していた(10.1%~43.6%)。これらでは、結果は、患者の大部分におけるCD4 CTLおよびエフェクターCD4 CTLの減少を示す(図25A~25B)。
【0347】
B細胞アポトーシスもまた、抗CD19抗体S267E/L328Fを与えた患者で調べた。治療後のB細胞、CD4+T細胞、およびCD8+T細胞のカウントを計測するために、フローサイトメトリーを使用した。B細胞、CD4+T細胞、およびCD8+T細胞のゲーティングストラテジーを、図26に示す。図27A~27Lに示したように、B細胞、CD4+T細胞、またはCD8+T細胞の有意なアポトーシスは観察されなかった。
【0348】
BCR連結シグナル伝達経路もまた、抗CD19抗体S267E/L328F注入後の患者で調べた。P-BTK、P-AKT、P-ERK、およびP-SYKのレベルを、治療前(図28A~28D)、治療の2時間後(図28E~28H)、および治療の24時間後(図28I~28L)に調べた。図28A~28Lは、SykおよびBtkのBCR誘導リン酸化が、抗体の注入の2時間後にCD20+B細胞において無効化されたことを示す。下流のAktシグナル伝達経路は、注入の2時間後にCD20+B細胞において完全に遮断された。下流のErkシグナル伝達経路は、注入の2時間後には変化がなかったが、注入の24時間後にCD20+B細胞において部分的に遮断された。
【0349】
実施例8.Fc修飾S267E/L328Fを有する抗CD19抗体の剤形
【0350】
Fc修飾S267E/L328Fを有する抗CD19抗体を、2つの剤形で調製した。第一の剤形は、生理食塩水で希釈した後の静脈内注入用の液体であった。各使い捨てのバイアルは、10mLのリン酸緩衝生理食塩水中に100mgを含有した。第二の剤形は、1mLのアセタート緩衝プロリン溶液中に125mgを含有する使い捨てバイアルで提供される皮下送達用の液体であった。IV処方の医薬製品の組成を、表3に提供する。SC処方の医薬製品の組成を、表4に提供する。
【0351】
表3
【表3】
【0352】
表4
【表4】
【0353】
実施例9.生物学的利用能
【0354】
薬物動態(PK)および生物学的利用能を特徴づけおよび比較するために、Fc修飾S267E/L328Fを有する抗CD19抗体を皮下(SC)投与した。研究対象は、18~55歳であり、3つのコホートに割り付けた。SC製剤を実施例8に記載した。コホート1には、Q14日で3回SC投与される125mg(1mL)の抗体を与えた。コホート2には、Q14日で3回SC投与される50mg(2mL)の抗体を与えた。コホート3には、Q14日で3回SC投与される375mg(3mL)の抗体を与えた。
【0355】
抗体のSC投与の複数の用量は、安全であり、SC XmAb5871を投与した40人の対象すべてで、125~375mgの用量にて良好な耐容性を示した。いずれかの用量のSC XmAb5871を与えた対象で起こる治療中に発生する有害事象(TEAE)は、重症度が軽かった。いずれかの用量のSC抗体を与えた対象2人超で起こった唯一の薬物関連TEAEは、注射部位の挫傷(3人の対象、8%)であった。SC抗体を与えた対象で、有害事象のため試験を中止した者はおらず、試験中に重篤な有害事象はなかった。研究からの薬物動力学的データおよび生物学的利用能データは、隔週の投薬スケジュールを支持している。
【0356】
引用されるすべての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0357】
特定の実施形態を、例示の目的で先に説明したが、詳細に関する多くの変更が、特許請求の範囲に記載した本開示から逸脱することなくなされ得ることを、当業者は理解しているであろう。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図20
図21
図22A
図22B
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図26
図27
図28
図29
【配列表】
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