(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177239
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】水と蒸気による酸化への高い耐性を有する被膜を施されたU3Si2ペレット
(51)【国際特許分類】
G21C 3/20 20060101AFI20221122BHJP
G21C 3/28 20060101ALI20221122BHJP
G21C 7/10 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G21C3/20 200
G21C3/28 600
G21C7/10 300
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152997
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2019548646の分割
【原出願日】2018-02-19
(31)【優先権主張番号】62/472,659
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/898,308
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ペン
(72)【発明者】
【氏名】チャイ、ルー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水冷式原子炉に使用する核分裂性物質に耐水性境界を形成する方法を提供する。
【解決手段】原子層堆積法や溶射法などによって、U
3Si
2ペレットおよび/またはその粒界のような核分裂性物質に、適当な被膜材により所望の厚さの被膜を施すことを含む。この被膜材は、少なくともUO
2と同じくらい溶解度が低い任意の非反応性物質でよく、例示的な被膜材として、ZrSiO
4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO
2、CeO
2、TiO
2、SiO
2、UO
2、ZrB
2、Na
2O-B
2O
3-SiO
2-Al
2O
3系ガラス、Al
2O
3、Cr
2O
3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせが挙げられる。耐水性層を、ZrB
2またはB
2O
3-SiO
2系ガラスなどの可燃性吸収材層で覆ってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核分裂性物質に、当該核分裂性物質と反応しない耐水性層の被膜を施すことにより、被膜付き物質を形成する方法であって、
当該被膜付き物質中の当該核分裂性物質はU3Si2であり、当該被膜は当該核分裂性物質の表面に付着される、方法。
【請求項2】
前記核分裂性物質はペレット状であり、前記被膜は前記核分裂性物質の表面に施される、請求項1の方法。
【請求項3】
前記耐水性層は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記被膜は原子層堆積法で施される、請求項1の方法。
【請求項5】
前記被膜の厚さは0.5~2ミクロンの範囲内である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記被膜は溶射法によって施される、請求項1の方法。
【請求項7】
前記溶射法は物理蒸着法である、請求項6の方法。
【請求項8】
物理蒸着法による前記被膜の厚さは1~20ミクロンの範囲内である、請求項7の方法。
【請求項9】
前記溶射法はプラズマアーク溶射法である、請求項6の方法。
【請求項10】
前記被膜の厚さは1~200ミクロンの範囲内である、請求項9の方法。
【請求項11】
前記溶射法はコールドスプレー法である、請求項6の方法。
【請求項12】
前記溶射法はホットスプレー法である、請求項6の方法。
【請求項13】
前記耐水性層を覆う可燃性吸収材の層をさらに具備する、請求項1の方法。
【請求項14】
前記可燃性吸収材は、ZrB2、B2O3-SiO2系ガラスおよびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項13の方法。
【請求項15】
耐水性層の被膜が施された核分裂性物質を具備し、当該耐水性層は当該核分裂性物質とは反応しないものである、原子炉で使用する燃料であって、
当該核分裂性物質はU3Si2であり、当該耐水性層は当該核分裂性物質の表面に付着していることを特徴とする、燃料。
【請求項16】
前記耐水性層は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項15の燃料。
【請求項17】
前記耐水性層の上に、原子炉の運転における炉心の反応度を制御するための一体型燃料可燃性吸収材層をさらに具備する、請求項15の燃料。
【請求項18】
前記吸収材層は、ZrB2、B2O3-SiO2系ガラスおよびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項17の燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する陳述
本発明は、エネルギー省との契約第DE-NE0008222号に基づく政府支援の下でなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有している。
【0002】
本発明は原子炉用燃料に関し、具体的には、原子燃料の耐水性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0003】
二酸化ウラン(UO2)は現在、原子燃料として世界で最もよく使われているウラン化合物である。事故耐性を有する代替燃料の研究の背景には、軽水型原子炉の安全性および性能向上への取り組みがある。いくつかの高密度ウラン燃料について、既存の軽水型原子炉での使用が検討されてきた。ウラン・シリサイド(U3Si2)は、ウラン密度が高く(UO2より17%高い)、熱伝導率が高く、融点が高い(1665℃)ことから、有望な燃料の1つである。K.E.Metzgerほかの「Modelof U3Si2 Fuel System Using Bison Fuel Code」、Proceedings of ICAPP(2014年4月6~9日)、論文番号14343、pp.1~5を参照のこと。しかしながら、最近の試験で、U3Si2は状況によって問題が生じる可能性が指摘されており、そうした潜在的問題を克服するために追加的な手立てを講じる必要性がある。
【発明の概要】
【0004】
本願では、水または蒸気に晒されることによる核分裂性物質の酸化を防ぐ方法を説明する。U3Si2は、より広く使用されている核分裂性物質であるUO2と同様に、300℃では優れた耐水性を示すが、水温が高くなると、水および蒸気による腐食がU3Si2の粒界に集中することがわかっている。
【0005】
最近の試験では、U
3Si
2は360℃を上回る温度で過度に酸化され、600℃未満の蒸気中で短期間のうちに完全に酸化されることが示されている(
図1を参照)。このグラフは、水蒸気雰囲気におけるU
3Si
2の熱重量分析の結果を示す。熱重量分析(TG)は、分解や酸化などに伴って質量が増減する物質の選択された特性を温度の関数として求めるために一般的に使用されている。市販のTG分析器は、最高約2000℃の目標温度までサンプルを加熱しながら連続的にサンプルを秤量する。温度が上昇するとサンプルのさまざまな成分が分解または酸化し、それに伴う各々の質量変化を、重量百分率として測定することができる。その結果を、温度をX軸、合計質量の変化をY軸にとってグラフにプロットする。加熱時の有意な質量変化は、物質がもはや熱的に安定ではないことを示している。
図1に示す16.87%の質量変化は、U
3Si
2が完全に酸化されてウラン酸化物(UO
2およびU
3O
8)になったことを示す。核分裂性物質の酸化は、冷却材喪失事故や仮想的な反応度投入事故のような設計基準事故における有意な安全上の懸念につながる可能性がある。
【0006】
さまざまな局面において、核分裂性物質の酸化を防ぐ方法は、核分裂性物質に被膜を施すことを含む。例えば、U3Si2ペレットに被膜を施したり、U3Si2の粒界を保護したりすると、原子炉運転時に冷却材が被覆管の障壁から漏入したり、設計基準事故時に被覆管の破断により高温蒸気が漏入したりして燃料に触れる結果ペレットが破砕したり過度に酸化するのを防ぐことができる。360℃を上回る温度におけるU3Si2または他の適当な核分裂性物質の水および蒸気による酸化への耐性を高めるために、適当な任意の被膜方法を用いて物質の表面に耐水性被膜を施す。例示的な被膜方法には原子層堆積法、例えば、プラズマアーク溶射法のような溶射法、物理蒸着法および化学蒸着法が挙げられる。被膜材は、選択した核分裂性物質の表面を覆い、すなわち当該表面に付着するが、当該核分裂性物質と反応せず、少なくともUO2に匹敵する低い溶解度を有し、好ましくはUO2よりも低い溶解度を有し、核分裂性物質が使用時に膨張してもU3Si2から剥落せず実質的に所定位置を保てる十分な柔軟性を有する任意の材料でよい。商業的実施可能性を高めるために、被膜材は施しやすいことが好ましい。さまざまな局面において、適当な被膜材は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択することができる。
【0007】
本願では原子燃料物質についても説明する。当該物質は、耐水性被膜を施されたU3Si2のような核分裂性物質より成る。さまざまな局面において、当該被膜層は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択することができる。
【0008】
当該耐水性被膜を、原子炉運転時の炉心反応度を制御するための一体型燃料可燃性吸収材(IFBA)層の下層としてもよい。IFBA層は、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)のようなジルコニウム化合物、B2O3-SiO2系ガラスのようなホウ素化合物、およびジルコニウム化合物とホウ素化合物を組み合わせたものを薄い層にしたものでよい。例えば、本願に参照により援用されている米国特許第4,751,041号を参照のこと。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付の図面を参照することにより、本発明の特徴と利点の理解が深まるであろう。
【0010】
【
図1】水蒸気環境におけるU
3Si
2ペレットの質量増を加熱速度2.5℃/分の温度の関数として測定した、U
3Si
2ペレットの熱重量分析(TG)を示す図である。
【0011】
【
図2】保護被膜層と燃料可燃性吸収材層との相対位置を示す、燃料棒中の燃料ペレットの概略断面図である。
【0012】
【
図3】例示的な熱的付着スプレー法の概略図である。
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願で使用する「a」、「an」および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形をも包含する。したがって、本願で使用する冠詞「a」および「an」は、1つまたは複数の(すなわち、少なくとも1つの)、冠詞の文法上における対象物を表す。例として、「an element」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0015】
非限定的な例として、本願で使用する最上部、最下部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形例などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の幾何学的配置に関連し、特段の記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0016】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、すべての場合において「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0017】
また、本願で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むものとする。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間(最小値と最大値を内包)のあらゆる断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0018】
水冷式原子炉で使用する核分裂性物質の上に耐水性境界を形成する方法は、適当な被膜材を用いて核分裂性物質に所望の厚さの被膜を施すことを含む。核分裂性物質は、適当な任意の核分裂性物質でよい。U3Si2は、このプロセスのための核分裂性物質の一例であり、前述の理由から多くの局面において好ましい材料である。本願で説明する被膜方法は、UO2など他の核分裂性物質を使用してもよいが、便宜上、核分裂性物質をU3Si2と称することがある。
【0019】
次世代燃料の有力な候補であるU3Si2には、次の利点がある。(1)UO2よりも高い熱伝導率、(2)UO2よりも大きいウラン装荷量、および(3)軽水型原子炉の通常運転条件および過渡条件の下で燃料が固体のまま保たれるような融点。高めの温度(例えば360℃以上)におけるU3Si2の耐水性の低さに対処するために、さまざまな局面において、U3Si2ペレットおよびU3Si2粒界の一方または両方に耐水性被膜を施すことにより、U3Si2と水との接触を防ぐかまたは少なくとも実質的に遅らせて、たとえ燃料被覆管に漏れが生じた場合でも燃料ペレットの耐水性を高めることができる。
【0020】
さまざまな局面において、少なくともペレットや粒界のような核分裂性物質の露出部分に、被膜材の堅牢な被膜を形成する必要がある。本願で使用する「堅牢な被膜」という用語は、冷却材の中で溶解度が低く、施すのが容易であり、選択した核分裂性物質と反応せず、照射時のペレットの膨張に応じてある程度の柔軟性がある被膜のことである。ここで言う「溶解度が低い」という相対的な表現は、本願では、被膜材の溶解度は、核分裂性物質として使用されるUO2の溶解度に少なくとも匹敵するくらい低く、さまざまな局面においてそれよりさらに低いことを意味する。
【0021】
被膜材は、選択した核分裂性物質の表面を覆う、すなわち当該表面に付着するが、当該核分裂性物質と反応しない任意の材料でよい。前述のように、さまざまな局面において被膜材の溶解度は、少なくともUO2の溶解度に匹敵し、それよりさらに低いのが好ましい。UO2の溶解度は、文献から入手できる。
【0022】
さまざまな局面において、被膜材は、核分裂性物質が使用時に膨張しても実質的に所定位置を保てる十分な柔軟性がある。当業者であれば、核分裂が起きると当初の原子よりも密度の低い物質の2つの原子が生じるため、核分裂性物質が使用時に膨張することが理解できる。また、粒界にガスが捕捉され、さらに膨張を引き起こす可能性がある。当業者は、どの程度膨張するかを概算できるが、ガスの捕捉があるため、原子炉での使用に先立つ計算により得られる膨張の値は正確ではない可能性がある。被膜は、核分裂性物質が膨張しても剥離しないよう、十分に柔軟でなければならない。しかし、核分裂性物質の膨張時に被膜にひび割れや剥離部が多少生じても許容されることがある。そのような状況でも、被膜は依然として水または蒸気への核分裂性物質の曝露を減らす機能を有するため、酸化を遅らせ、核分裂性物質の耐用期間を延ばすことに貢献する。水または蒸気に晒されても核分裂性物質の酸化速度を小さくすることができるため、設計基準事故を超える事故が起きた場合に是正措置をとる時間が得られる。
【0023】
さまざまな局面において、適当な被膜材は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択することができる。U3Si2粒子の被膜は、U3Si2の融点(1662℃)より低いが、U3Si2ペレットの焼結温度(1200~1600℃)で溶融する、FeCrAl、CrAlまたはNa2O-B2O3-SiO2-Al2O3系固体ガラスをU3Si2粉末に添加することによって形成できる。さまざまな局面において、被膜は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択した粒子を付着させることによって形成できる。これらの物質はいずれも、U3Si2より耐水性が優れている。被膜は、各々のU3Si2ペレットの外周面または側面に施すことができ、随意的に、頂面および底面に施すこともできる。燃料ペレットは任意の形状でよく、外周や他の表面輪郭への言及は便宜的なものであり、制限的ではない。一般的に、燃料ペレットは概して円筒形で、使用時には概して円筒形の柱を形成するように積み重ねられており、燃料棒の中の最上部のペレットと燃料棒の上部端栓との間に位置するばねによって、燃料棒の端栓に押圧・保持されている。この構成では、燃料棒の中に水が漏入したとしても、ペレットの頂部と底部がその水に晒されることはない。酸化性の流体に晒されることがあったとしても、最小限に抑えられる。
【0024】
商業的実施可能性を高めるために、被膜材は施しやすいことが好ましい。本願の方法の被膜ステップは、適当な任意の被膜プロセスでよい。例えば、物理蒸着法または原子層堆積(ALD)法によって被膜を施すことができる。被膜プロセスは、例えば、ホットスプレー法、コールドスプレー法またはプラズマアーク溶射法などの溶射プロセスでよい。
【0025】
原子層堆積(ALD)法は、基材の表面を異種のガスに交互に晒すことにより、基材上に薄膜を成長させる薄膜付着法である。ALD法は、化学気相プロセスを逐次的に使用する方法である。ALD反応の多くは、前駆物質と呼ばれる2つの化学物質を使用する。これらの前駆物質は、逐次的かつ自己制御的に1種類ずつ材料の表面と反応し、表面上のすべての反応サイトの消尽で反応が終了する。したがって、すべての前駆物質に1回晒された(いわゆるALDサイクル)あとの表面への物質の最大付着量は、前駆物質と表面との相互作用の性質によって決まる。個々の前駆物質に繰り返し晒されることにより、徐々に薄膜が付着する。サイクル数を変えることによって、ランダムな複雑さを有する大きな基材の上に、高精度かつ均一に物質を成長させることができる。化学蒸着法の場合とは対照的に、異種の前駆物質が付着チェンバ内に同時に存在することはなく、それらは逐次的で重複のない一連の脈流として導入される。ALD法では、U3Si2ペレットを所望の被膜材のガス前駆物質に晒すことにより、U3Si2ペレット表面上に耐水性被膜を成長させる。
【0026】
付着のために選択される前駆物質には、キャリアガスも含まれる。この付着は25~600℃の温度範囲で行うことができ、好ましくは200~450℃の範囲、より好ましくは265~350℃の範囲であり、これらの範囲内の他の温度であってもよい。600℃を超える温度は避けるべきである。
【0027】
別案として、スパッタリングまたは化学蒸着法によって被膜を付着させてもよい。典型的な化学蒸着法では、基材を1つ以上の反応性前駆物質に晒し、当該物質を当該基材の表面上で反応および/または分解させて所望の付着物を生成する。副産物の生成もよくあるが、反応チェンバ内を通るガス流によって除去される。
【0028】
さまざまな局面において、適当な熱的付着方法は、ホットスプレー法またはコールドスプレー法を含む。ホットスプレー法では、被膜原材料の溶融を、熱源により、または陽極とタングステン陰極との間の高周波アーク(すなわちプラズマアーク溶射)によって発生するプラズマにより行う。この軟化した液体または溶融物質を、プロセスガスによって運び、U3Si2ペレット表面にスプレーする。この物質はU3Si2ペレット表面上で固化し、固体層を形成する。
【0029】
コールドスプレー法では、キャリアガスを加熱器に供給し、そこで、ノズル内で膨張後のキャリアガスの温度が所望の値(例えば100~1200℃)に保たれるように、十分な温度に加熱する。さまざまな局面において、キャリアガスは、例えば5.0MPaの圧力で200~1200℃の温度に予熱される。或る特定の局面において、キャリアガスは200~1000℃の温度に予熱される。また、或る特定の局面で300~900℃の温度に、他の局面では500~800℃の温度に予熱される。この温度は、キャリアとして使用する特定のガスのジュール=トムソン冷却係数によって変わる。ガスの圧力が変化して膨張または収縮する際にガスが冷却するかどうかは、ジュール=トムソン係数の値による。ジュールトムソン係数が正の値の場合、キャリアガスは冷却するので、コールドスプレー法の性能に影響を及ぼす可能性のある過度な冷却を防ぐために、キャリアガスを予熱する必要がある。当業者は、過度な冷却を防ぐために、周知の計算法を用いて加熱する度合いを決めることができる。例えば、キャリアガスがN2の場合、入口温度が130℃であれば、ジュール=トムソン係数は0.1℃/バールである。初期圧力が10バール(約146.9psia)、最終圧力が1バール(約14.69psia)のガスを130℃で管体に衝突させる場合は、約9バール×0.1℃/バール(すなわち約0.9℃)高い約130.9℃にガスを予熱する必要がある。
【0030】
例えば、キャリアガスとしてヘリウムを用いる場合のガスの温度は、圧力3.0~4.0MPaにおいて450℃であるのが好ましい。また、窒素のキャリアガス温度は、圧力5.0MPaで1100℃であるが、圧力が3.0~4.0MPaであれば600~800℃でよい。当業者であれば、使用する機器の種類によって温度および圧力の変数が変わり、機器を改造することによって温度、圧力および体積のパラメータを調節できることを理解するであろう。
【0031】
キャリアガスに適しているのは不活性ガスまたは非反応性ガスであり、特に、上述の粒子や基材と反応しないガスである。キャリアガスの例として、窒素(N2)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、ヘリウム(He)が挙げられる。
【0032】
キャリアガスの選択にはかなりの自由度がある。混合ガスを使用してもよい。ガスの選択は物理的特性と経済性の双方の制約を受ける。例えば、分子量の小さいガスは速度を大きくできるが、速度を最大にすることは、粒子の跳ね返りによって付着する粒子数が少なくなるので避けるべきである。
【0033】
コールドスプレー法は、加熱されるキャリアガスを制御下で膨張させることにより粒子を推進して基材上に付着させる原理を有する。粒子は、基材または付着済みの層に衝突し、断熱せん断による塑性変形を受ける。後続の粒子の衝突が積み重なって被膜が形成される。変形を促進するには、粒子を、キャリアガスへ流入させる前に、ケルビン絶対温度スケールで粉末の融点の3分の1から2分の1の温度に温めるとよい。被膜を施す領域または材料の付着が必要な領域全体をノズルによって走査する(すなわち、ある領域の端から端まで、最上部から最下部まで線状にスプレーする)。
【0034】
図3は、溶射用アセンブリ10を示す。アセンブリ10は、加熱器12、粉末または粒子ホッパー14、ガン16、ノズル18および送出導管34、26、32、28を含む。導管34により加熱器12へ送り込まれる高圧ガスは、そこで実質的に瞬時に急速加熱される。所望の温度に加熱されたガスは、導管26を介してガン16へ差し向けられる。ホッパー14に保持された粒子が放出され、導管28を介してガン16へ送られると、ノズル18により発生する加圧ガス噴流20が粒子を基材22へ差し向ける。スプレーされた粒子36は基材22に付着し、粒子24より成る被膜を形成する。このプロセスは、コールドスプレー用およびホットスプレー用アセンブリを概説したものである。ホットスプレー法は、付着させる粒子を軟化または溶融させるのに十分な高温で行われる。
【0035】
別案の被膜方法は、さまざまな局面において、
図4に示すようなプラズマアーク溶射法を含む。プラズマトーチ40は、高温のガス噴流50を生成する。典型的なプラズマトーチ40は、ガスポート56、陰極44、陽極46および水冷式ノズル42を具備し、それらはすべてハウジング68内で絶縁体48に取り囲まれている。高周波アークは、電極間、すなわち陽極46とタングステン陰極44との間で点火される。電極44、46の間のポート56の中を流れるキャリアガスは、電離してプラズマプルームを形成する。キャリアガスは、ヘリウム(He)、水素(H
2)、窒素(N
2)またはそれらを任意に組み合わせたものでよい。噴流50は、ノズル42内で圧縮ガスが膨張する際に電気アークでガスを加熱することによって発生する。加熱されたガスは、例えば12,000~16,000℃で作用するアークプラズマコアを形成する。ガスは、水冷式ノズル42を通る際に膨張して噴流50となる。粉末または粒子は、ポート52から高温の噴流50の中に注入されて軟化または溶融し、基材60上へ圧出されて被膜54となる。噴射速度は、例えば約450m/秒以下の粒子速度で2~10kg/時間である。プラズマアーク法などの溶射により得られる被膜の厚さは、スプレー材料により異なるが、例えば0.005~5mmの範囲にわたる。本願で説明する被膜の典型的な厚さは5~1000ミクロンであり、さまざまな局面において被膜の厚さは10~100ミクロンである。
【0036】
耐水性被膜の厚さは、プラズマアーク溶射法で施した場合は10~200ミクロンの範囲、物理蒸着法で付着させた場合は1~20ミクロンの範囲、ALD法の場合は0.5~2ミクロンの範囲にわたる。被膜材は、ZrSiO4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2、UO2、ZrB2、Na2O-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラス、Al2O3、Cr2O3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせを含む。U3Si2はUO2に比べて、はるかに熱伝導率が大きいので、運転時に生じるひび割れが少ない。ひび割れが発生しても、被膜は依然としてU3Si2ペレットの表面積を実質的に覆うため、当該ペレットの過度な酸化を防ぐことができる。
【0037】
さらには、被膜されたU3Si2ペレットの外周面に、ALD法または溶射法によって可燃性吸収材の被膜を施すことができる。一体型燃料可燃性吸収材は、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)のようなジルコニウム化合物、B2O3-SiO2系ガラスのようなホウ素化合物、およびジルコニウム化合物とホウ素化合物の組み合わせより成る薄層でよく、燃料ペレット上に、耐水性被膜層を施したあと施される。例えば、本願に参照により援用されている米国特許第4,751,041号を参照のこと。
【0038】
可燃性吸収材は、原子炉の運転における炉心反応度の制御に使用する可燃性毒物の一種である。そのような可燃性吸収材は、主に原子炉サイクルの初期に実効のある反応度の一時的制御を可能にし、未使用燃料の装荷によるサイクル初期の過剰な反応度を補償する。可燃性吸収材の層は、耐水層を施した後に施されるため、耐水性被膜層を覆う。
【0039】
U3Si2の酸化は、潜在的な安全上の懸念事項であり、軽水型原子炉にU3Si2燃料を実装する際の重要な問題の1つである。U3Si2に被膜を施すことは、特に蒸気温度が高いときの酸化を遅らせる効果があり、安全上の懸念を解消する経済的な方法の1つである。
【0040】
本願で説明する方法は、
図2に示す燃料ペレットのような、被膜を施された核分裂性物質を生成する。一般的に、燃料棒70の中には複数のペレットが積み重ねられている。さまざまな局面において、核分裂性物質72は耐水性層74の被膜を施されたU
3Si
2を含み、当該耐水性層は、ZrSiO
4、FeCrAl、Cr、Zr、Al-Cr、CrAl、ZrO
2、CeO
2、TiO
2、SiO
2、UO
2、ZrB
2、Na
2O-B
2O
3-SiO
2-Al
2O
3系ガラス、Al
2O
3、Cr
2O
3、炭素、SiCおよびそれらの組み合わせから成る群より選択される。燃料ペレットは、二ホウ化ジルコニウム(ZrB
2)のようなジルコニウム化合物、B
2O
3-SiO
2系ガラスのようなホウ素化合物、およびジルコニウム化合物とホウ素化合物の組み合わせから成るような可燃性吸収材の上層76も具備することができる。上層76と燃料被覆管80との間に、ヘリウムなどのガスが充填される隙間78があってもよい。被覆管80の外面は、水冷式原子炉では通常、水である冷却材82に取り囲まれている。
【0041】
本発明をいくつかの例に基づいて説明してきたが、いずれの例も、すべての点において限定的ではなく例示的なものである。したがって、本発明は、詳細な実施態様において、通常の技量を有する当業者が本願の説明から導くことができる多くの変形例が可能である。
【0042】
本願で言及したすべての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、各々の参考文献が参照により明示的に本願に組み込まれるように、その全体が参照により本願に組み込まれる。本願で参照により組み込まれると言及されたすべての参考文献およびあらゆる資料またはそれらの一部分は、本願に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しない範囲でのみ本願に組み込まれる。したがって、本願に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本願に組み込まれた資料に取って代わり、本願に明示的に記載された開示事項が決定権をもつ。
【0043】
本発明を、さまざまな例示的な実施態様を参照して説明してきた。本願に記載の実施態様は、開示された発明のさまざまな実施態様のさまざまな詳細度の例示的な特徴を示すものとして理解されたい。したがって、特に断らない限り、可能な範囲において、開示した実施態様における1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示した実施態様における他の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることを理解されたい。したがって、通常の技量を有する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施態様のいずれにおいてもさまざまな置換え、変更または組み合わせが可能であることを理解するであろう。当業者はまた、本願を検討すれば、本願に記載された本発明のさまざまな実施態様に対する多くの均等物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認できるであろう。したがって、本発明は、さまざまな実施態様の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。