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特開2022-177335電源装置とこれを備える蓄電装置及び電動車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177335
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】電源装置とこれを備える蓄電装置及び電動車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/20 20210101AFI20221124BHJP
   H01M 50/572 20210101ALI20221124BHJP
【FI】
H01M2/10 M
H01M2/34 A
H01M2/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019196488
(22)【出願日】2019-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】市座 智之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基二
【テーマコード(参考)】
5H040
5H043
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H040AS07
5H040AY06
5H040DD09
5H040DD26
5H040NN01
5H040NN03
5H043AA04
5H043BA11
5H043CA28
5H043FA06
5H043FA22
5H043FA33
5H043FA38
5H043GA01
5H043JA03F
5H043KA37F
5H043LA02F
5H043LA11F
5H043LA21F
(57)【要約】
【課題】電源装置の水没時の安全性を確保する技術を提供する。
【解決手段】電源装置は、充電できる複数の電池1を直列に接続してなる電池ブロック10と、電池ブロック10を構成してなる電池1の正負の電極端子11に接続してなる複数の電圧ライン3とを備える。電圧ライン3は、直列に接続してなる各々の電池1の正負の電極端子11に接続されて、接続された電極端子11と同一電位にあり、電池1の正負の電極端子11に接続してなる電圧ライン3は、電流遮断部5を有し、電流遮断部5は、電圧ライン3に設けた絶縁隙間26を導通してなるハンダ27を備え、このハンダ27を水没状態の漏れ電流で水没液に溶解して電圧ライン3の電流を遮断するようにしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電できる複数の電池を直列に接続してなる電池ブロックと、
前記電池ブロックを構成してなる前記電池の正負の電極端子に接続してなる複数の電圧ラインとを備える電源装置であって、
前記電圧ラインは、
直列に接続してなる各々の前記電池の正負の前記電極端子に接続されて、接続された前記電極端子と同一電位にあり、
前記電池の正負の電極端子に接続してなる前記電圧ラインは、電流遮断部を有し、
前記電流遮断部は、
前記電圧ラインに設けた絶縁隙間を導通してなるハンダを備え、
前記ハンダが、
水没状態の漏れ電流で水没液に溶解して前記電圧ラインの電流を遮断することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載される電源装置であって、
前記ハンダの厚さが、
0.1mm以上であって1mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される電源装置であって、
前記絶縁隙間の間隔が、
0.1mm以上であって1mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載する電源装置であって、
前記電流遮断部が、
絶縁基板の表面に、前記絶縁隙間を介して配置してなる対向電極を備え、
前記対向電極を前記ハンダでブリッジ状態に接続してなることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項4に記載する電源装置であって、
前記対向電極の面積が、
1mm以上であって10mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載する電源装置であって、
前記絶縁隙間が、
スリットであることを特徴とする電源装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載する電源装置であって、
前記電流遮断部が、
ハンダの電位よりもマイナス電位の電圧ラインを、プラス電位の電圧ラインよりも接近して配置されてなることを特徴とする電源装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の電源装置を備える蓄電装置であって、
前記電源装置と、
前記電源装置への充放電を制御する電源コントローラと
を備えており、
前記電源コントローラでもって、外部からの電力により前記電池セルへの充電を可能とすると共に、該電池セルに対し充電を行うよう制御することを特徴とする蓄電装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の電源装置を備える電動車両であって、
前記電源装置と、
前記電源装置から電力供給される走行用のモータと、
前記電源装置及び前記モータを搭載してなる車両本体と、
前記モータで駆動されて前記車両本体を走行させる車輪と
を備えることを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置と、この電源装置を備える蓄電装置及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電できる電池を直列に接続した充放電容量の大きい電源装置は、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギーの発電装置や深夜電力の蓄電装置に使用され、また、車両を走行させるモータに電力を供給する電動車両の電源装置として使用されている。この電源装置は、多数の電池を直列に接続して出力電圧を高くしているが、あらゆる使用環境において高い安全性が要求され、特に水没する状態においても、高い安全性が要求される。複数の電池を直列に接続している電源装置は、直列接続する電池の個数が増加するに従って出力電圧が高くなるので、水没して流れる漏れ電流による安全性を確保する対策を必要とする。
【0003】
さらに、複数の電池を直列に接続している電源装置は、各々の電池の状態を管理するために、各電池の電圧を検出している。(特許文献1)
特許文献1の電源装置は、各電池を長期にわたって安全に使用し、また、劣化を少なくするために、各電池の電圧を検出し、検出電圧で電池の状態を判定しながら充放電をコントロールしている。この電源装置は、例えば電池の電圧を、電圧検出回路等の電子回路で検出して監視し、電圧が一定の範囲を超えると充放電の電流値を制限したり、充放電を停止して電池を保護している。この電源装置は、直列に接続している電池の正負の電極端子に電圧ラインを接続して、この電圧ラインを介して電池を電圧検出回路に接続している。
【0004】
電圧ラインは、電池の電極端子に接続されて電池電圧と同一電圧となっているので、電源装置が水没すると漏れ電流が流れ、この漏れ電流のジュール熱で発熱して安全性を低下させる原因となる。
【0005】
この弊害を防止するために、水没状態での安全性を確保するための電源装置は開発されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-187915号公報
【特許文献2】特開2012-176669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の公報に記載される水没対策の電源装置は、密閉ケースの上部に空気溜まりができる構造として、ここに電池を収納している。この密閉ケースは、下部を開口して引出線を配線して上部を密閉するので、水没状態で内部の空気が上部に溜まり、この部分に電池を配置して、電池を水没から防止できる。この構造の電源装置は、空気溜まりを設けて、ここに電池や電圧ラインを配置することで、防水絶縁構造を実現できるが、この構造では電源装置全体が大きく、重くなる欠点がある。また、電源装置が転倒する状態で防水絶縁構造を実現できない欠点もある。電源装置が水没する状態は、種々の状態で発生し、たとえば、蓄電装置や電動車両の電源装置にあっては、地震による津波や台風による高潮等で導電性の高い海水が浸入して水没することがあり、さらに電動車両は海中に落下して水没することがある。
【0008】
本発明は、さらに以上の欠点を解決するためになされたものである。本発明の目的の一は水没時の安全性を確保する電源装置と、この電源装置を備える蓄電装置及び電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様に係る電源装置は、充電できる複数の電池を直列に接続してなる電池ブロックと、電池ブロックを構成してなる電池の正負の電極端子に接続してなる複数の電圧ラインとを備える。電圧ラインは、直列に接続してなる各々の電池の正負の電極端子に接続されて、接続された電極端子と同一電位にあり、電池の正負の電極端子に接続してなる電圧ラインは、電流遮断部を有し、電流遮断部は、電圧ラインに設けた絶縁隙間を導通してなるハンダを備え、このハンダを水没状態の漏れ電流で水没液に溶解して電圧ラインの電流を遮断するようにしている。
【0010】
本発明のある態様に係る蓄電装置は、上記電源装置と、電源装置への充放電を制御する電源コントローラとを備えて、電源コントローラでもって、外部からの電力により電池セルへの充電を可能とすると共に、電池セルに対し充電を行うよう制御している。
【0011】
本発明のある態様に係る電動車両は、上記電源装置と、電源装置から電力供給される走行用のモータと、電源装置及びモータを搭載してなる車両本体と、モータで駆動されて車両本体を走行させる車輪とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
以上の電源装置は、水没時の安全性の低下を防止できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の概略ブロック図である。
図2図1に示す電源装置の回路基板を示す拡大平面図である。
図3図1に示す回路基板の電流遮断部を示す拡大平面図である。
図4】エンジンとモータで走行するハイブリッド車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図5】モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図6】蓄電用の電源装置に適用する例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、以下の構成によって特定されてもよい。
本発明の第1の実施形態の電源装置は、充電できる複数の電池を直列に接続してなる電池ブロックと、電池ブロックを構成してなる電池の正負の電極端子に接続してなる複数の電圧ラインとを備える。電圧ラインは、直列に接続してなる各々の電池の正負の電極端子に接続されて、接続された電極端子と同一電位にあり、電池の正負の電極端子に接続してなる電圧ラインは、電流遮断部を有し、電流遮断部は、電圧ラインに設けた絶縁隙間を導通してなるハンダを備え、このハンダを水没状態の漏れ電流で水没液に溶解して電圧ラインの電流を遮断するようにしている。
【0015】
以上の電源装置は、電圧ラインに電流遮断部を設けると共に、この電流遮断部を、水没して流れる漏れ電流で水没液に溶解するハンダとするので、水没するとハンダが水没液に溶解されて電流を遮断する。この電源装置は、水没するとハンダが溶断して電圧ラインの電流を遮断して安全性を向上できる。とくに、以上の電源装置は、電流遮断部のハンダを、電圧ラインを接続している電池の電圧による漏れ電流で溶断できるので、水没時にはハンダを溶解して電源を瞬断できる特長がある。
【0016】
電源装置は、電圧ラインに電流ヒューズを設け、この電流ヒューズを電圧ラインの漏れ電流で溶断して電流を遮断できるが、電源ラインに設けた電流ヒューズは、確実に安定して水没状態で電流を遮断するのが難しい。それは、水没状態で電流ヒューズの表面にバイパス電流が流れて、このバイパス電流が電流ヒューズの溶断電流を分流して減少させるからである。とくに、電源装置が導電率の高い水に水没されると、電流ヒューズのバイパス電流が導電率の高い水で増加して電流ヒューズの溶断を阻害する。電源装置は、導電率の高い水に水没すると漏れ電流が大きくなって安全性が低下するので、この状態で確実に電圧ラインの電流を遮断することは特に大切である。したがって、導電率の高い水に水没した状態で電流ヒューズを確実に溶断することは、極めて大切である。
【0017】
以上の電源装置は、水没状態の漏れ電流で水没液に溶解するハンダを電流遮断部とするので、高い導電率の水に水没すると、漏れ電流が大きくなってハンダは速やかに水没液に溶解されて電流を遮断する。このため、電源装置が導電率の高い水に水没されても高い安全性を確保する。
【0018】
本発明の第2の実施態様の電源装置は、ハンダの厚さを、0.1mm以上であって1mm以下としている。この電源装置は、ハンダの膜厚を1mm以下と薄くするので水没状態でハンダを速やかに溶解して電流を遮断できる特徴がある。
【0019】
本発明の第3の実施態様の電源装置は、絶縁隙間の間隔を、0.1mm以上であって1mm以下としている。
【0020】
本発明の第4の実施態様の電源装置は、電流遮断部が、絶縁基板の表面に、絶縁隙間を介して配置してなる対向電極を備え、対向電極をハンダでブリッジ状態に接続している。
【0021】
本発明の第5の実施態様の電源装置は、対向電極の面積を、1mm以上であって10mm以下としている。
【0022】
本発明の第6の実施態様の電源装置は、絶縁隙間をスリットとしている。
【0023】
本発明の第7の実施態様の電源装置は、電流遮断部が、ハンダの電位よりもマイナス電位の電圧ラインを、プラス電位の電圧ラインよりも接近して配置して配置している。
【0024】
この電源装置は、ハンダを速やかに水没液に溶解して電流を遮断できる特徴がある。それは、接近して配置しているマイナス電位の電圧ラインとハンダとの間に漏れ電流が流れて、この漏れ電流がハンダを水没液に溶解し、溶解されたハンダをマイナス電位の電圧ラインに強制的に移動させるからである。
【0025】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0026】
(実施の形態1)
電源装置は、自然エネルギーや深夜電力の蓄電装置や車載用の電源装置の例を示している。具体的には、この電源装置は、主として蓄電装置、ハイブリッド車や電気自動車等の電動車両の走行モータに電力を供給する電源、無停電電源装置などに使用される。ただ、本発明の電源装置は、蓄電装置、電動車両、無停電電源装置以外の電源、例えば大出力が要求される他の用途にも使用できる。電動車両に搭載される電源装置は、車両に浸水して水没することがあり、また、蓄電装置や無停電装置の電源装置は、集中豪雨などで建物内に浸水して水没することがある。電源装置が水没する最大の原因は集中豪雨による。集中豪雨による水没は、水面レベルが地面から次第に上昇して電源装置が浸水する状態で発生する。
【0027】
(電源装置100)
図1の概略ブロック図に示す電源装置100は、充電できる複数の電池1を直列に接続して電池ブロック10とし、この電池ブロック10を構成している各々の電池1の電極端子11に電圧ライン3を接続している。直列接続している電池1は、全ての電池1の電圧を検出するように電圧ライン3を接続している。図1の電池ブロック10は、複数の電池1を積層して、隣接して積層している電池1をバスバー12で直列に接続している。バスバー12は、隣接して積層している電池1の正負の電極端子11に接続されて、電池1を直列に接続している。電源装置100は、隣接電池1を直列に接続している全てのバスバー12と、電池ブロック10の両端面に配置されて出力端子13に接続される電極端子11とに電圧ライン3を接続している。この電源装置100は、電圧ライン3を介して全ての電池1の電圧を検出できる。電源装置100は、電圧ライン3を介して各々の電池1を電圧検出回路20に接続している。この電源装置100は、電圧検出回路20で各々の電池1の電圧を検出して、電池1の電圧をコントロールしながら充放電できる。
【0028】
(電圧検出回路20)
電源装置100は、電圧検出回路20で電池電圧を検出して、電池1の電圧が設定範囲となるように充放電をコントロールする。電圧検出回路20は、電池1の充放電をコントロールする制御回路(図示せず)に各々の電池電圧を出力する。制御回路は、電池1の電圧が設定範囲となるように電池1の充放電電流をコントロールする。制御回路は、電池電圧を設定範囲に保持して、電池1の過充電や過放電を防止する。この状態で充放電される電池1は、電気特性の低下が抑制されて安全性も高くなる。制御回路は、充電している電池電圧があらかじめ設定している最大電圧まで上昇すると充電電流を遮断あるいは減少し、反対に放電している電池電圧が設定している最低電圧まで低下すると、放電電流を遮断あるいは減少して、電池電圧を設定範囲に維持する。
【0029】
(電圧ライン3)
電源装置100は、電圧ライン3を配線パターン21とする回路基板2を電池ケース9内に配置している。回路基板2は、図1の概略図に示すように、直列に接続している電池1の積層方向に延びる細長い形状で、電圧ライン3の配線パターン21を直列接続している電池1の電極端子11に接続している。この図の電圧ライン3は、配線パターン21の一端を、リード線14を介して電池1の電極端子11に接続している。リード線14は、直接に電極端子11に接続され、あるいはバスバー12を介して電極端子11に接続される。
【0030】
配線パターン21で構成される複数の電圧ライン3は、限られたスペースに配置して各々の電池電圧を検出するために、電池1の正負の電極端子11の間隔よりも互いに接近して配置される近接露出部4ができる。電極端子11よりも互いに接近する近接露出部4は、電源装置100が水没する状態で、漏れ電流が大きくなる。電源装置100が水没する状態で、近接露出部4の漏電抵抗が、電池1の電極端子11間の漏電抵抗よりも小さくなるからである。近接露出部4の間隔を広くして漏れ電流を減少できるが、複数の電圧ライン3を限られたスペースに配置できなくなる。
【0031】
図1に示す回路基板2は、複数の接続ピン6aのあるコネクタ6を固定して、接続ピン6aに配線パターン21を接続している。コネクタ6の接続ピン6aは、電池1の正負の電極端子11よりも接近して配置されるので、電圧ライン3の近接露出部4となる。接続ピン6aの間隔を広くすると、コネクタ6が大きくなって回路基板2の限られたスペースに配置できないからである。コネクタ6の接近する接続ピン6aは、近接露出部4となって、水没状態では導電性の水に流れる漏れ電流が大きくなる。大きな漏れ電流は、ジュール熱を大きくして過熱による種々の弊害の要因となる。発生するジュール熱の熱エネルギーが漏れ電流の二乗に比例して大きくなるからである。
【0032】
たとえば、回路基板2に近接露出部4がある電源装置100は、水没すると近接露出部4に漏れ電流が流れる。漏れ電流は、電源装置100が完全に水没された状態のみでなく、水没状態が解消されて回路基板2の表面に水が付着した半乾きの状態で回路基板2を発火させる等の原因となる。半乾きの状態で、回路基板2の近接露出部4に流れる漏れ電流がジュール熱で発熱して、回路基板2を炭化し、さらに炭化した回路基板2が、漏れ電流のジュール熱で発熱して発火することがあるからである。以上の弊害を防止するために、電圧ライン3は電流遮断部を設けている。電流遮断部は、水没して流れる漏れ電流で溶断される。
【0033】
(電流遮断部5)
図1及び図2に示す回路基板2は、水没して流れる漏れ電流を遮断する電流遮断部5を電圧ライン3の途中に設けている。この回路基板2は、全ての電圧ライン3に電流遮断部5を設けている。電流遮断部5は、電圧ライン3の配線パターン21の途中に設けている。電圧ライン3の電流遮断部5は、電圧ライン3に設けた絶縁隙間26をハンダ27で導通している。ハンダ27は、電源装置100の水没状態での漏れ電流で溶解して電圧ライン3の電流を遮断する。
【0034】
図3は、回路基板2の表面であって電圧ライン3の途中に設けている電流遮断部5の拡大平面図を示している。この図の電流遮断部5は、絶縁基板である回路基板2の表面に、絶縁隙間26を介して一対の対向電極25を配置している。一対の対向電極25は、ハンダ27でブリッジ状態に接続されて、電流遮断部5を通電状態としている。一対の対向電極25は、スリットの絶縁隙間26を設けて対向して配置され、回路基板2の配線パターン21に接続されて、ハンダ27が溶解されない状態では電流遮断部5を導通手段とする。対向電極25と電圧ライン3の配線パターン21は、回路基板2の表面に設けている導電膜で形成される。スリット状の絶縁隙間26は、好ましくは0.1mm以上であって1mm以下、最適には約0.25mmとする。絶縁隙間26が狭すぎると、ハンダ27が溶解する状態において、絶縁隙間26の漏電抵抗が小さくなって電流を確実に瞬断することが難しく、反対に広すぎると対向電極25をブリッジ状態に接続するハンダ量が多くなる欠点がある。
【0035】
対向電極25をブリッジ状態に導通するハンダ27の膜厚は、最適には約0.3mmとする。ハンダ27の膜厚は、薄くして水没状態で速やかに電流を遮断でき、厚くして水没しない状態で小さい電気抵抗で安定して電流遮断部5を導通状態に保持できるが、薄すぎると対向電極25を確実に安定して導通状態に保持することが難しいので、好ましくは0.1mm以上とし、さらに厚すぎると水没状態で速やかに溶解して電流を遮断できないので、1mmよりも薄くする。
【0036】
一対の対向電極25は、ハンダ27を確実に安定して接続できるように、最適には外径を約1.5mmの円形とし、直径方向にスリットの絶縁隙間26を設けた形状とする。ただし、一対の対向電極25は、大きくして確実にハンダ27を接続できるので、好ましくしは、直径を1mm以上であって3mm以下の円形とする。ただし、対向電極は必ずしも円形とする必要はなく、四角形、楕円形、多角形として、例えば面積を1mm以上であって、10mm以下とすることもできる。
【0037】
電流遮断部5は、電源装置100が水没する状態で水没液にハンダ27を溶解して電流を遮断する。水没してハンダ27が水没液に溶解するのは、電源装置100が水没すると、水没液を介してハンダ27に漏れ電流が流れ、この漏れ電流がハンダ27を水没液に溶解するからである。ハンダ27の溶解量は、ハンダ27の表面から水没液に流れる漏れ電流に比例して増加する。ハンダ27の溶解量はクーロンの法則で特定される。たとえば、ハンダ27の主成分である鉛と錫の電気化学当量(mg/クーロン)は以下の数値となる。
【0038】
2価の鉛は約1mg/クーロン
4価の鉛は約0.5mg/クーロン
2価の錫は約0.6mg/クーロン
4価の錫は約0.3mg/クーロン
【0039】
鉛と錫の合金であるハンダは、電気化学当量が約0.3mg/クーロン~1mg/クーロンとなる。この電気化学当量のハンダは、1クーロンの電気量で約0.3mg~1mgを溶解できる。対向電極を導通するハンダの重量を5mgとすれば、このハンダは約5~10クーロンの電気量で溶解できることになる。
【0040】
1クーロンの電気量は、1Aの電流を1秒流した電気量に相当するので、約5~10クーロンの電気量は、1Aの電流が5秒~10秒流れた電気量に相当する。したがって、水没してハンダからの漏れ電流が1Aであると5~10秒で全てのハンダが水没液に溶解され、漏れ電流が0.1mAであると50秒~100秒で溶解される。電流遮断部は、全てのハンダを溶解して電流が遮断されるのではなく、対向電極の接続を瞬断するハンダが溶解されて電流を遮断するので、実質的にはさらに小さい漏れ電流で、さらに短時間にハンダが水没液に溶解して電流は遮断される。
【0041】
電流遮断部5は、ハンダ27の漏れ電流で水没液に溶解するので、ハンダ27の漏れ電流を大きくしてより速やかにハンダ27を溶解できる。図2の平面図は、ハンダ27をより速やかに水没液に溶解する電流遮断部5を示している。この図の電流遮断部5は、ハンダの近傍に、ハンダ27よりもマイナス電位にある電圧ライン3を、プラス電位の電圧ライン3よりも近くに配置している。この図の電流遮断部5は、ハンダ27よりもプラス電位の電圧ライン3から離して、マイナス電位の電圧ライン3に接近して配置している。ハンダ27よりもマイナス電位の電圧ライン3は、ハンダ27との接近部に通電部28を設けて漏れ電流を大きくできる。通電部28は、電圧ライン3の表面のレジスト層22を薄くして絶縁抵抗を小さくし、あるいはレジスト層22に開口部23を設けて実現できる。この構造の電流遮断部5は、水没するとハンダ27とマイナス電位の電圧ライン3の通電部28との間に流れる漏れ電流を大きくして、ハンダ27を速やかに水没液に溶解できる。ハンダ27と電圧ライン3の通電部28との間に流れる漏れ電流は、ハンダ27を金属イオンの状態で水没液に溶解し、水没液に溶解されたハンダ27の金属イオンをマイナス電位の電圧ライン3に移行して、ハンダ27を速やかに溶解できる。
【0042】
以上の電流遮断部5は、電池1の電圧を利用して、水没状態でハンダ27を速やかに水没液に溶解して電流を遮断できる特徴がある。さらに、以上の電流遮断部5は、全てのハンダ27をマイナス電位の電圧ライン3に接近して配置することで、水没状態では全ての電圧ライン3の電流遮断部5で電流を遮断できる。ただし、本発明は、必ずしも全ての電圧ライン3に電流遮断部5を設けて電流を遮断する構造に特定するものでなく、発熱して熱傷害を受けやすい電圧ライン3にのみ電流遮断部5を設け、あるいは全ての電圧ライン3に電流遮断部5を設けるが、いかなる水没状態においても、全ての電流遮断部5のハンダ27を溶解して電流を遮断する必要はない。それは、一部の電圧ライン3に設けた電流遮断部5で水没状態での電流を遮断し、あるいは電圧ライン3に設けた一部の電流遮断部5で水没状態の電流を遮断することで、電流遮断部のない電源装置よりも安全性を高くできるからである。
【0043】
以上の電源装置100は、電動車両を走行させるモータに電力を供給する車両用の電源として利用できる。電源装置100を搭載する電動車両としては、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車、あるいはモータのみで走行する電気自動車等の電動車両が利用でき、これらの車両の電源として使用される。なお、電動車両を駆動する電力を得るために、上述した電源装置100を直列や並列に多数接続して、さらに必要な制御回路を付加した大容量、高出力の電源装置を構築した例として説明する。
【0044】
(ハイブリッド車用電源装置)
図4は、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車に電源装置100を搭載する例を示す。この図に示す電源装置100を搭載した車両HVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させるエンジン96及び走行用のモータ93と、これらのエンジン96及び走行用のモータ93で駆動される車輪97と、モータ93に電力を供給する電源装置100と、電源装置100の電池1を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。車両HVは、電源装置100の電池1を充放電しながらモータ93とエンジン96の両方で走行する。モータ93は、エンジン効率の悪い領域、例えば加速時や低速走行時に駆動されて車両を走行させる。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、エンジン96で駆動され、あるいは車両にブレーキをかけるときの回生制動で駆動されて、電源装置100の電池1を充電する。なお、車両HVは、図4に示すように、電源装置100を充電するための充電プラグ98を備えてもよい。この充電プラグ98を外部電源と接続することで、電源装置100を充電できる。
【0045】
(電気自動車用電源装置)
また、図5は、モータのみで走行する電気自動車に電源装置100を搭載する例を示す。この図に示す電源装置100を搭載した車両EVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させる走行用のモータ93と、このモータ93で駆動される車輪97と、このモータ93に電力を供給する電源装置100と、この電源装置100の電池1を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、車両EVを回生制動する時のエネルギーで駆動されて、電源装置100の電池1を充電する。また車両EVは充電プラグ98を備えており、この充電プラグ98を外部電源と接続して電源装置100を充電できる。
【0046】
(蓄電装置用の電源装置)
さらに、本発明は、電源装置の用途を、車両を走行させるモータの電源には特定しない。実施形態に係る電源装置は、太陽光発電や風力発電等で発電された電力で電池1を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。図6は、電源装置100の電池1を太陽電池82で充電して蓄電する蓄電装置を示す。
【0047】
図6に示す蓄電装置は、家屋や工場等の建物81の屋根や屋上等に配置された太陽電池82で発電される電力で電源装置100の電池1を充電する。この蓄電装置は、太陽電池82を充電用電源として充電回路83で電源装置100の電池1を充電した後、DC/ACインバータ85を介して負荷86に電力を供給する。このため、この蓄電装置は、充電モードと放電モードを備えている。図に示す蓄電装置は、DC/ACインバータ85と充電回路83を、それぞれ放電スイッチ87と充電スイッチ84を介して電源装置100と接続している。放電スイッチ87と充電スイッチ84のON/OFFは、蓄電装置の電源コントローラ88によって切り替えられる。充電モードにおいては、電源コントローラ88は充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をOFFに切り替えて、充電回路83から電源装置100への充電を許可する。また、充電が完了し満充電になると、あるいは所定値以上の容量が充電された状態で、電源コントローラ88は充電スイッチ84をOFFに、放電スイッチ87をONにして放電モードに切り替え、電源装置100から負荷86への放電を許可する。また、必要に応じて、充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をONにして、負荷86への電力供給と、電源装置100への充電を同時に行うこともできる。
【0048】
さらに、電源装置は、図示しないが、夜間の深夜電力を利用して電池1を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。深夜電力で充電される電源装置は、発電所の余剰電力である深夜電力で充電して、電力負荷の大きくなる昼間に電力を出力して、昼間のピーク電力を小さく制限することができる。さらに、電源装置は、太陽電池の出力と深夜電力の両方で充電する電源としても使用できる。この電源装置は、太陽電池で発電される電力と深夜電力の両方を有効に利用して、天候や消費電力を考慮しながら効率よく蓄電できる。
【0049】
以上のような蓄電装置は、コンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用または工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機や道路用の交通表示器などのバックアップ電源用などの用途に好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る電源装置は、ハイブリッド車、燃料電池自動車、電気自動車、電動オートバイ等の電動車両を駆動するモータの電源用等に使用される大電流用の電源として好適に利用できる。例えばEV走行モードとHEV走行モードとを切り替え可能なプラグイン式ハイブリッド電気自動車やハイブリッド式電気自動車、電気自動車等の電源装置が挙げられる。また、本発明に係る電源装置は、コンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用、工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機等のバックアップ電源用等の用途にも適宜利用できる。
【符号の説明】
【0051】
100…電源装置
1…電池
2…回路基板
3…電圧ライン
4…近接露出部
5…電流遮断部
6…コネクタ
6a…接続ピン
9…電池ケース
10…電池ブロック
11…電極端子
12…バスバー
13…出力端子
14…リード線
20…電圧検出回路
21…配線パターン
22…レジスト層
23…開口部
25…対向電極
26…絶縁隙間
27…ハンダ
28…通電部
81…建物
82…太陽電池
83…充電回路
84…充電スイッチ
85…DC/ACインバータ
86…負荷
87…放電スイッチ
88…電源コントローラ
91…車両本体
93…モータ
94…発電機
95…DC/ACインバータ
96…エンジン
97…車輪
98…充電プラグ
HV、EV…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6