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特開2022-177380尖度応答スペクトルを用いた振動制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177380
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】尖度応答スペクトルを用いた振動制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
G01M7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083585
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000100676
【氏名又は名称】IMV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】細山 亮
(72)【発明者】
【氏名】中浦 裕史
(72)【発明者】
【氏名】山内 佳門
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ランダム振動試験における非ガウス性を適切に特徴付けるパラメータを用いた振動制御装置を提供する。
【解決手段】応答KRS算出手段30は、応答波形のKRSを算出する。KRS制御手段32は、応答KRSが目標KRSに等しくなるように、制御用波形生成手段18において用いる位相の特性を制御する。制御用波形生成手段18は、制御用PSD相当の振幅の各周波数成分に適切なランダム位相を与えて制御用波形を生成する。
制御用波形変換手段24は、制御用波形を、系の伝達関数を考慮した制御特性に基づいて変形し、ドライブ波形を算出する。制御特性修正手段22は、応答波形とドライブ波形に基づいて、制御特性を逐次更新する。算出されたドライブ波形は、D/A変換器26によってドライブ信号に変換され、アンプ28によって増幅されて振動発生機2に与えられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、
応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、
制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、
各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、
応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段と、
を備えた振動制御装置。
【請求項2】
コンピュータによって振動制御装置を実現するための振動制御プログラムであって、コンピュータを、
ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、
応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、
制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、
各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、
応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段として機能させるための振動制御プログラム。
【請求項3】
ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、
応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、
制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、
前記応答波形の尖度を応答尖度として算出する尖度算出手段と、
各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、
応答尖度を目標尖度と比較し、応答尖度が目標尖度に等しくなるように前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御する尖度制御手段および応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段と、
を備えた振動制御装置。
【請求項4】
コンピュータによって振動制御装置を実現するための振動制御プログラムであって、コンピュータを、
ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、
応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、
制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、
前記応答波形の尖度を応答尖度として算出する尖度算出手段と、
各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、
応答尖度を目標尖度と比較し、応答尖度が目標尖度に等しくなるように前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御する尖度制御手段および応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段として機能させるための振動制御プログラム。
【請求項5】
請求項3の装置または請求項4のプログラムにおいて、
前記位相制御手段は、周波数帯ごとに、前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うか、前記尖度制御手段による位相特性の制御を行うかを選択することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項6】
請求項5の装置またはプログラムにおいて、
前記位相制御手段は、前記応答KRSと前記目標KRSとの乖離が所定値以上の周波数帯においては前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うことを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項7】
請求項3の装置または請求項4のプログラムにおいて、
前記位相制御手段は、予め設定された設定内容に基づいて、いずれの周波数帯にて、前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うか、前記尖度制御手段による位相特性の制御を行うかを決定することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項8】
請求項3の装置または請求項4のプログラムにおいて、
前記位相制御手段は、前記KRS制御手段による周波数帯ごとの位相特性の制御を第1の所定時間行った後、前記尖度制御手段による全周波数領域における位相特性の制御を第2の所定時間行うことを繰り返すよう構成したことを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項9】
請求項3~8のいずれかの装置またはプログラムにおいて、
前記応答KRS算出手段は、周波数帯ごとにKRSを算出し、
前記KRS制御手段は、当該周波数帯ごとに、位相の特性を制御することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項10】
請求項3~9のいずれかの装置またはプログラムにおいて、
前記KRS制御手段は、周波数成分もしくは周波数帯ごとに、位相の分布の標準偏差を制御することを特徴とする装置またはプログラム。
【請求項11】
ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出し、
応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出し、
制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を算出し、
前記応答波形の尖度を応答尖度として算出し、
各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとし、
応答尖度を目標尖度と比較し、応答尖度が目標尖度に等しくなるように前記ドライブ波形算出の際に用いる位相の特性を制御する尖度制御手段および応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出の際に用いる位相の特性を制御する、
ことを備えた振動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目標とする非ガウス特性を有する振動にて供試体を振動させることのできる振動試験システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
輸送中や稼働中に被る振動による影響をシミュレートするため、供試体に所望の振動を与える振動試験が行われている。振動試験において、所望の振動となるように振動試験機を制御するのが振動制御装置である。
【0003】
現実に加えられる振動を記録しておき、この振動を供試体に与えることができれば、正確な振動試験を行うことが可能である。しかし、実際の振動波形自体を記録し再現するためには、膨大な記録容量が必要であるため、一般的にはあまり用いられていない。
【0004】
一方で、正弦波による振動を与える試験も行われている。この場合、正弦波を出力するだけであるから制御は容易であるが、現実に加えられる振動との乖離が大きすぎるという問題がある。
【0005】
そこで、現実に加えられる振動の周波数特性(PSD:パワースペクトル密度)を算出し、当該目的とするパワースペクトル密度を有する振動を供試体に与えるランダム振動試験が行われている。
【0006】
図20に、特許文献1に開示された従来のランダム振動試験のための振動制御装置を示す。振動発生機2に固定された供試体4は、振動発生機2によって振動させられる。振動発生機2自体も周波数特性を有するので、目標とするスペクトルを有する振動を与えたとしても、供試体4はそのとおり振動しない。したがって、振動制御装置により、供試体4の振動波形のPSDが、目標とする目標PSDに等しくなるように、フィードフォワード制御を行っている。
【0007】
供試体4の振動は、加速度センサ6によって検出され、A/D変換器10によってディジタル信号である応答波形とされる。応答PSD算出手段12は、応答波形をフーリエ変換し、応答PSDを算出する。
【0008】
制御用PSD算出手段14は、目標PSDと応答PSDを比較し、両者が等しくなるように制御用PSDを算出する。ドライブ波形算出手段16は、制御用PSD相当の振幅の各周波数成分にランダムな位相を与えて逆フーリエ変換を行い、ドライブ波形を生成する。
【0009】
D/A変換器18は、生成されたドライブ波形をアナログ信号に変換し、アンプ20を介して、振動発生機2に与える。
【0010】
以上のようにして、目標PSDを有する振動を供試体4に与えるよう制御することができる。
【0011】
図20に示すシステムでは、供試体4に与えられる振動の確率密度分布は、図21Aの実線に示すように、ガウス分布(正規分布)に従うことになる。現実の振動においては、非ガウス分布(たとえば、図21Aの破線)となることも多い。図21Bに示す波形も、図21Cに示す波形も、いずれも同じPSDであるが、図21Bにおいては振動の確率密度分布がガウス性をもち、図21Cにおいては振動の確率密度分布が非ガウス性を持っている。同じPSDであっても、波形としては大きく異なっていることがわかる。
【0012】
そこで、発明者らは、特許文献2に示すように、非ガウス性の振動を供試体4に与えることのできる振動制御装置を開発している。特許文献2に示された振動制御装置を、図22に示す。この装置においては、制御用PSDに基づいてドライブ波形を算出する際に、各周波数成分に与える位相の初期値や標準偏差を制御することで、非ガウス性を有するドライブ波形を得ている。
【0013】
図22の装置においては、非ガウス特性を特徴付ける要素として、尖度K、歪度Sを用いている。非ガウス特性算出手段22は、応答波形に基づいてその非ガウス特性である尖度K、歪度Sを算出するようにしている。ここで、尖度Kとは、前記確率密度分布の鋭さを表す指標である。歪度Sとは分布の非対称性を表す指標である。
【0014】
非ガウス特性制御手段24は、応答非ガウス特性(上記の尖度K、歪度S)と、目標とする目標非ガウス特性とを比較し、両者が合致するように、ドライブ波形算出手段16による処理を制御する。具体的には、ドライブ波形を算出する際に、制御用PSD相当の振幅の各周波数成分に対して与える位相の初期値や標準偏差などを制御する。
【0015】
以上のようにして、所望の非ガウス特性を有する振動を供試体4に与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平8-68718号公報
【特許文献2】特許5421971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のような装置、特に特許文献2の装置では、目標とする尖度Kを満足する非ガウス性振動を、供試体4に与えることができる。しかし、尖度Kが同じであっても、その波形が同じであるとは限らなかった。
【0018】
図23においては3つの波形が示されており、これらは全てPSDも尖度Kも同じである。しかし、明らかに異なる波形であることがわかる。このため、PSD、尖度Kを指定してランダム振動試験を行ったとしても、その試験の同一性を保つことはできなかった。
【0019】
この発明は、上記のような問題点を解決して、ランダム振動試験における非ガウス性を適切に特徴付けるパラメータと、当該パラメータを用いた振動制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明の独立して適用可能ないくつかの特徴を以下に列挙する。
【0021】
(1)(2)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段とを備えている。
【0022】
したがって、尖度の伝達性の周波数特性を示す尖度応答スペクトルを用いて、非ガウス性振動試験を適切に行うことができる。
【0023】
(3)(4)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出する応答PSD算出手段と、応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出する制御用PSD算出手段と、制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を出力するドライブ波形算出手段と、前記応答波形の尖度を応答尖度として算出する尖度算出手段と、各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとする応答KRS算出手段と、応答尖度を目標尖度と比較し、応答尖度が目標尖度に等しくなるように前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御する尖度制御手段および応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出手段に与える位相の特性を制御するKRS制御手段を有する位相制御手段とを備えている。
【0024】
したがって、目標尖度を実現しつつ、尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトルを用いて、非ガウス性振動試験を適切に行うことができる。
【0025】
(5)この発明に係る振動制御装置は、位相制御手段が、周波数帯ごとに、前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うか、前記尖度制御手段による位相特性の制御を行うかを選択することを特徴としている。
【0026】
したがって、尖度の制御とKRSの制御を両立させて適切に行うことができる。
【0027】
(6)この発明に係る振動制御装置は、位相制御手段が、前記応答KRSと前記目標KRSとの乖離が所定値以上の周波数帯においては前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うことを特徴としている。
【0028】
したがって、KRSによる制御を適切に行いつつ、尖度の制御も行うことができる。
【0029】
(7)この発明に係る振動制御装置は、位相制御手段が、予め設定された設定内容に基づいて、いずれの周波数帯にて、前記KRS制御手段による位相特性の制御を行うか、前記尖度制御手段による位相特性の制御を行うかを決定することを特徴としている。
【0030】
したがって、周波数帯ごとにいずれの制御を行うかをユーザが予め設定することができる。
【0031】
(8)この発明に係る振動制御手段は、位相制御手段は、前記KRS制御手段による周波数帯ごとの位相特性の制御を第1の所定時間行った後、前記尖度制御手段による全周波数領域における位相特性の制御を第2の所定時間行うことを繰り返すよう構成したことを特徴としている。
【0032】
したがって、時間的に分割して両制御を行い、所望の結果を得ることができる。
【0033】
(9)この発明に係る振動制御装置は、応答KRS算出手段は、周波数帯ごとにKRSを算出し、KRS制御手段は、当該周波数帯ごとに、位相の特性を制御することを特徴としている。
【0034】
したがって、周波数帯ごとにまとめて位相の制御を行うことができる。
【0035】
(10)この発明に係る振動制御装置は、KRS制御手段が、周波数成分もしくは周波数帯ごとに、位相の分布の標準偏差を制御することを特徴としている。
【0036】
したがって、位相の分布の標準偏差に基づいて制御を行うことができる。
【0037】
(11)この発明に係る振動制御方法は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動を測定する振動センサからの応答波形をフーリエ変換して、応答PSDを算出し、応答PSDを目標PSDと比較し、応答PSDが目標PSDに等しくなるように制御用PSDを算出し、制御用PSDに基づいて、各周波数成分に位相を与えて逆フーリエ変換し、ドライブ波形を算出し、前記応答波形の尖度を応答尖度として算出し、各周波数における尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトル(以下KRS)を、前記応答波形について算出して応答KRSとし、応答尖度を目標尖度と比較し、応答尖度が目標尖度に等しくなるように前記ドライブ波形算出の際に用いる位相の特性を制御する尖度制御手段および応答KRSを目標KRSと比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように各周波数ごとに前記ドライブ波形算出の際に用いる位相の特性を制御することを特徴としている。
【0038】
したがって、尖度の伝達性を示す尖度応答スペクトルを用いて、非ガウス性振動試験を適切に行うことができる。
【0039】
「応答PSD算出手段」は、実施形態においては、ステップS2がこれに対応する。
【0040】
「制御用PSD算出手段」は、実施形態においては、ステップS3がこれに対応する。
【0041】
「ドライブ波形算出手段」は、実施形態においては、ステップS4~S11がこれに対応する。
【0042】
「尖度算出手段」は、実施形態においては、ステップS18がこれに対応する。
【0043】
「応答KRS算出手段」は、実施形態においては、ステップS16がこれに対応する。
【0044】
「位相制御手段」は、実施形態においては、ステップS17、S19がこれに対応する。
【0045】
「プログラム」とは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソース形式のプログラム、圧縮処理がされたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】この発明の一実施形態による振動制御装置の機能構成である。
図2】ハードウエア構成を示す図である。
図3】制御プログラム98のフローチャートである。
図4】制御プログラム98のフローチャートである。
図5】目標PSD、応答PSD、制御PSDの関係を示す図である。
図6】目標KRSと応答KRSとの関係、与えられる位相を時系列で示す図である。
図7】KRS算出のためのフローチャートである。
図8】スプリング・マス・ダンパーシステムからなる1自由度振動系の概要図である。
図9図9A図9Cは同一の尖度を有する異なる振動波形の例であり、図9DはそのKRSを示す図である。
図10】制御波形生成の処理を示す図である。
図11】位相の確率密度分布を模式的に示す図である。
図12】目標KRSを周波数帯ごとに算出した例である。
図13】他の例による振動制御装置の機能構成である。
図14】他の例による振動制御装置の機能構成である。
図15】第2の実施形態による振動制御装置の機能構成である。
図16】制御プログラム98のフローチャートである。
図17】制御プログラム98のフローチャートである。
図18】KRS制御手段によって決定された位相の標準偏差を、尖度制御手段によって修正する場合の例を示す図である。
図19】他の例による位相制御手段33の構成を示す図である。
図20】振動制御装置の一般的な機能構成を示す図である。
図21】ガウス性波形と非ガウス性波形を示す図である。
図22】非ガウス特性を有する振動を与えることのできる従来の振動制御装置を示す図である。
図23】尖度が同じでありながら、特性の異なる波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
1.第1の実施形態
1.1機能構成
図1に、この発明の一実施形態による振動制御装置の機能構成を示す。この実施形態において、アンプ28、振動発生機2、供試体4、加速度センサ6は、振動制御装置を構成するものではない。しかし、これらを含めて振動制御装置としてもよい。
【0048】
振動発生機2には、試験対象である供試体4が載置されている。振動発生機2によって振動させられている供試体4の振動は、加速度センサ6によって検出される。加速度センサ6からの応答信号は、A/D変換器10によってディジタルデータである応答波形に変換される。
【0049】
応答PSD算出手段12は、応答波形を周波数解析(FFT)し、その応答PSD(パワースペクトル密度)を算出する。制御用PSD算出手段14は、応答PSDと目標PSDとに基づいて、制御用PSDを算出する。ここで、目標PSDは、目標として与えられたPSDである。制御用PSD算出手段14は、応答PSDが、目標PSDに合致するように、制御用PSDを算出する。
【0050】
これは、目標PSDを持つ振動を振動発生機2に与えても、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達特性の存在とその非線形的な変動や制御系を設定する際の制御分解能の適否等によって、供試体4は目標PSDとは異なる振動をするためである。このため、応答PSDと目標PSDが合致するように、制御用PSDを逐次修正して算出するようにしている。
【0051】
ドライブ波形算出手段16は、制御用PSD相当の振幅(制御用PSDは振幅を2乗した値であるのでこれを振幅に戻す)に基づいて、振動発生機2に与えるためのドライブ波形を生成する。ドライブ波形算出手段16の制御用波形生成手段18は、制御用PSD相当の振幅の各周波数成分に適切なランダム位相を与えて、制御用波形を生成する。
【0052】
制御用波形による振動にて供試体4を振動させるために、振動発生機2を含む系の伝達関数を考慮して、ドライブ波形を算出し、ドライブ信号として振動発生機2に与える(この点は後述する)。
【0053】
この実施形態では、応答波形について、尖度の伝達性を周波数ごとに算出している。この概念は、発明者によって提唱された新しい概念であり、発明者は尖度応答スペクトル(Kurtosis Response Spectrum)(以下KRSという)と名付けている(KRSについてはHosoyama, A, Tsuda, K, Horiguchi, S. Development and validation of kurtosis response spectrum analysis for antivibration packaging design taking into consideration kurtosis. Packag Technol Sci. 2020; 33: 51? 64を参照のこと)。
【0054】
応答KRS算出手段30は、応答波形のKRSを算出する。KRS制御手段32は、目標とする目標KRSと応答KRSを比較し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように、制御用波形生成手段18において用いる位相の特性を制御する。
【0055】
ここで、目標KRSは、たとえば、振動試験を行いたい環境(走行中のトラックの荷台)における振動波形を取得し、そのKRSを算出したものを用いることができる。
【0056】
前述のように、制御用波形生成手段18は、制御用PSD相当の振幅の各周波数成分に適切なランダム位相を与えて制御用波形を生成する。KRS制御手段32は、このランダム位相の特性(たとえば位相分布の標準偏差など)を周波数ごとに制御し、制御用波形のKRSを制御する。
【0057】
このようにして生成された制御用波形のとおりに供試体6を振動させることができれば、目標PSDを満足しつつ、目標KRSを有する振動にて供試体6を振動させることができる。制御用波形変換手段24は、制御用波形を、系の伝達関数を考慮した制御特性に基づいて変形し、ドライブ波形を算出する。制御特性修正手段22は、応答波形とドライブ波形に基づいて、上記制御特性を逐次更新する。
【0058】
算出されたドライブ波形は、D/A変換器26によってドライブ信号に変換され、アンプ28によって増幅されて振動発生機2に与えられる。
【0059】
以上のようにして、目標PSD、目標KRSを有する振動にて供試体6を振動させるように制御することができる。
【0060】
1.2ハードウエア構成
図2に、振動制御装置のハードウエア構成を示す。振動発生機2は、供試体4を載置して固定するための振動台(図示せず)を有している。振動発生機2は、この振動台を振動させる。また、この振動を検出するため、供試体4に加速度センサ6が設けられている。
【0061】
CPU90(DSPを併用してもよい)には、メモリ92、タッチスクリーン・ディスプレイ94、不揮発性メモリ96、D/A変換器26、A/D変換器10が接続されている。なお、振動発生機2に対する出力は、D/A変換器26、アンプ28を介して、アナログ信号として振動発生機2に与えられる。また、加速度センサ6からの入力は、A/D変換器10を介して、ディジタルデータとして取り込まれる。
【0062】
不揮発性メモリ96には、オペレーティングシステム97、制御プログラム98が記録されている。制御プログラム96は、オペレーティングシステム97と協働してその機能を発揮するものである。
【0063】
1.3振動制御処理
図3図4に、制御プログラム98のフローチャートを示す。以下では、図5Aに示すような目標加速度PSDを有するとともに、図6Aに示すような目標KRSを有する振動を、供試体4に与える場合の制御について説明する。
【0064】
目標PSDや目標KRSは、ユーザによってタッチスクリーン・ディスプレイ94などから入力され、不揮発性メモリ96に記録されている。あるいは、データとして取り込まれるようにしてもよい。
【0065】
ここで、尖度応答スペクトル(KRS)は、発明者が提唱する非ガウス特性を表す新しい指標である。従来は、非ガウス特性の指標として、振動の振幅の確率密度分布の急峻性(あるいは裾野の広がり度合い)を示す尖度(K)を用いていた。たとえば、道路に間欠的に継ぎ目や凸部があるような場合、振動加速度波形は図21Cのように、平均値から離れた振幅が多く見られるようになる。この場合、振幅の確率密度分布は、図21Aの実線に示すようにガウス分布とならず、破線に示すように非ガウス分布となる。
【0066】
この違いは、尖度(K)にて表すことができるため、従来はこの尖度(K)を目標値として振動を制御し、所望のKを有する非ガウス性振動を供試体6に与えるようにしていた。
【0067】
しかし、図23に示すように、同じKを有していても振動波形がかなり異なるということがわかってきた。そこで、発明者が提唱する新しい指標がKRSである。
【0068】
KRS算出のフローチャートを図7に示す。この実施形態では、制御プログラム98の一機能として、PSD算出、KRS算出を行うことが可能となっている。
【0069】
CPU90は、KRSを算出する対象である加速度波形データを取り込む(ステップS21)。たとえば、トラックにおける輸送中の振動をシミュレートする場合であれば、荷台の振動の実測加速度波形データを取り込むことで、以下の処理によって、そのKRSを算出することができる。このKRSを、振動試験の際の目標KRSとすることができる。
【0070】
CPU90は、共振周波数がf1である1自由度振動系に、この加速度波形を与えた場合の出力を算出する(ステップS23)。図8に、1自由度振動系を模式化して示す。スプリングk、ダンパc、質量mの系に、入力x(t)を与えたときの、出力y(t)を算出する。この系の共振周波数fは、スプリングkと質量mによって決定される。
【0071】
次に、CPU90は、上記出力波形の振幅の確率密度分布について、尖度Kを算出する(ステップS24)。尖度Kは、下式によって算出される。
【0072】
【数1】
【0073】
ここで、nは波形振幅のサンプル数、xiは波形の振幅、は波形振幅の平均値である。
【0074】
CPU90は、上記の処理を系の共振周波数を変えて行い、共振周波数ごとの尖度Kを得る(ステップS22、S25)。全周波数についてこれを行うと、尖度のスペクトルを得ることができる。これが、尖度応答スペクトルKRSである。CPU90は、このKRSを出力する(ステップS26)。
【0075】
実際に測定した加速度波形のKRSを得て、これを目標KRSとすることができる。
【0076】
図9A、B、Cに、PSDが同じで、尖度Kも同じである振動波形を3つ示す(図23に示したものと同じである)。このように、尖度Kが同じであっても、振動波形が大きく異なることがわかる。このため、Kを目標として振動試験を行うと、適切な試験を行うことができなくなる可能性がある。たとえば、図9Aが実測振動の波形であり、これと同じKを有する図9Cの振動にて試験を行うことになる可能性があるからである。
【0077】
図9Dに、図9A図9B図9Cの波形の、KRSを示す。3つの波形のKRSは明らかに異なっており、このことからKRSによって、非ガウス性を有する波形の特徴を明確に示しうることが明確である。
【0078】
以下、設定された目標PSDや目標KRSに基づいて、制御処理がどのように行われるのかを図3図4を参照して説明する。
【0079】
CPU90は、A/D変換器10を介して、加速度センサ6からの応答波形を所定時間分(1フレームと呼ぶ)取り込む(ステップS1)。さらに、CPU90は、この応答波形をフーリエ変換(FFT)し、応答PSDを算出する(ステップS2)。算出された応答PSDの例を、図5Bに示す。なお、この実施形態では、1フレーム分の応答波形について応答PSDを算出したが、過去の所定フレーム分の応答波形について応答PSDを算出するようにしてもよい。
【0080】
続いて、CPU90は、応答PSDと目標PSDを比較し、両者が合致するように制御用PSDを修正する(ステップS3)。たとえば、上記応答PSDが得られた時の制御用PSDが図5Cのようであったとする。すなわち、この制御用PSDに基づいて生成した振動にて振動発生機2を動作させた時、図5Bに示す応答PSDが得られたとする。
【0081】
図5Bに示す応答PSDは、目標PSDと合致していない部分がある。CPU90は、周波数成分(ラインという)ごとに、その大小を比較する。周波数成分ごとに、応答PSDが目標PSDを下回っていれば制御用PSDを大きくし、応答PSDが目標PSDを上回っていれば、制御用PSD(図5C)を小さくする。CPU90は、このような修正を施して、図5Dに示すような新たな制御用PSDを算出する。
【0082】
CPU90は、この制御用PSDから加速度スペクトルの振幅成分を決め、その各成分A1~Aqに適切なランダム位相を与えて逆フーリエ変換(逆FFT)を行い、1フレーム分の制御用波形を得る(ステップS4)。この際に用いるランダム位相は、1フレームの制御用波形を生成する際に周波数成分A1~Aqに与える位相φ1~φqがランダムであるだけでなく、特定の周波数成分Akに注目したときにこれに与えた位相を時系列でみると、位相φk(t)、φk(t+1)・・・・がランダムであることが好ましい。
【0083】
この実施形態では、各周波数成分に与えた時系列の位相φk(t)、φk(t+1)・・・・を、一様乱数だけではなく、所定の標準偏差σを持つ正規分布に従う乱数にして、制御を行うようにしている。この実施形態では、標準偏差σを制御用位相特性として、後述する処理によって算出するようにしている。
【0084】
以上のようにして制御用波形を得ると、CPU90は、1フレーム分の制御用波形に窓関数を乗じる(ステップS5)。たとえば、図10Aに示すように、1フレームの開始時点と終了時点において「0」、中央時点において最大値をとるような関数を用いる。そして、この関数を一定の幅ずつずらせて重ねると、その合計値が全ての時点において「1」となるような関数が好ましい。
【0085】
このとき用いる窓関数が持つべき性質については特公平6-5192公報に述べられている。また、窓関数を乗じて生成される波束状の波形データをフレームの幅の1/Mずつずらせて重ね合わせて行く処理を行うが、Mの値は用いている窓関数の特性により決まる一定の条件を満たすものでなければならない。このように、窓関数と数値Mの選択には一定の自由があるが、通常はハニング窓関数が使われることが多く、その場合に可能なMの最小値は4である。本明細書でもM=4の場合を例示する。
【0086】
窓関数を乗じた制御用波形をずらせて重ね合わせる操作を続けることにより、離散的なスペクトルを有する1フレームずつの制御用波形(疑似ランダム波形)が、整合的につなぎ合わされて連続する制御用波形が生成される。この波形データは周期を持たないから真の不規則波形(真ランダム波形)であり、したがって連続的なスペクトルを有するものとなる。また、フレームの開始時点と終了時点において波形が滑らかに「0」に収束するので、接続点において余分な周波数成分がもたらされない。
【0087】
CPU90は、このようにして窓関数を乗じた制御用波形を1/4フレームずらして重ね合わせる(ステップS6)。したがって、ステップS1~S6の処理を繰り返すと、図10B~10Eに示すように、1/4フレームずれた波形が重ね合わされて、図10Fに示すような連続した制御用波形を得ることができる。
【0088】
続いて、CPU90は、連続した制御用波形のとおりに供試体6を振動させるための制御を行う。ただし、引き続いて実施するドライブ信号生成過程をそのまま1フレーム単位で実施するとフレームの継ぎ目に不連続な箇所ができる可能性がある。そこで、取り出し開始点を1/2フレームずつずらしながら取り出した波形データに窓関数を掛けた波形に制御特性としてのインパルス応答(伝達関数の逆関数)を畳み込み演算してドライブ信号波形を作り、それらを再び順に1/2フレームずつずらしながら重ね合わせてつないで行くオーバラップ処理を行うようにしている(ステップS8~S11)。以下、この処理を詳しく説明する。
【0089】
CPU90は、連続制御用波形から1フレーム分の制御用波形を取り出す(ステップS8)。続いて、取り出した制御用波形に窓関数を乗じる(ステップS9)。
【0090】
続いて、窓関数を乗じた1フレーム分の制御用波形に、制御特性としてのインパルス応答を畳み込み演算してドライブ信号を生成する(ステップS10)。この実施形態では、制御特性として、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達関数の逆特性を用いている。つまり、制御用波形にて供試体4を振動させるためには、制御用波形に伝達関数の逆特性を畳み込み演算した波形をドライブ波形として与えることで、これを実現できるからである。なお、制御特性として伝達関数の逆特性に対応するインパルス応答を用いてもよい。
【0091】
CPU90は、前記の窓関数を乗じて1/2フレームずつずらした状態で重ね合わせるオーバラップ処理を行いながら、このようにして得たドライブ信号をつなぎ合わせていく(ステップS11)。このようにして連続したドライブ波形を得て、これをD/A変換器26を介してアンプ28に出力する(ステップS12)。
【0092】
したがって、アンプ28によって増幅されたドライブ信号が振動発生機2に与えられ、供試体4を振動させることができる。
【0093】
次に、CPU90は、加速度センサ6からの応答波形を取得する(ステップS13)。与えたドライブ波形とこれに対応する応答波形に基づいて、系の伝達関数を算出する(ステップS14)。すなわち、応答信号をFFTして応答スペクトル(位相情報も含む)を算出し、ドライブ波形をFFTしてドライブスペクトル(位相情報も含む)を算出する。両者から、応答スペクトルとドライブスペクトルの比として伝達関数を算出する。
【0094】
次に、算出した伝達関数の逆数を制御特性として更新する(ステップS15)。この制御特性は、次のドライブ信号生成の際に用いられることになる。
【0095】
さらに、CPU90は、加速度センサ6から取得した応答波形について、そのKRSを算出し、応答KRSとする(ステップS16)。KRS算出処理は、図7に示すとおりである。
【0096】
CPU90は、応答KRSと目標KRSを比較して、周波数成分ごとに、各周波数成分に与えた正規分布に従う時系列のランダム位相φk(t)、φk(t+1)・・・・について、その標準偏差σを変更し、応答KRSが目標KRSに等しくなるように制御する。なお、制御において必要であれば、正規分布の乱数ではなく、一様乱数等を用いるようにしてもよい(以下においても同様である)。
【0097】
標準偏差σを小さくすれば、位相φは中心値m(この実施形態ではπとしている)に偏ることになり、大きくすれば位相φはばらつくことになる。最も均等にばらついている一様乱数にて位相を与えた場合には、これによって生成された制御用波形のKRSは平均的に小さくなる。一方、ある周波数成分について標準偏差σを小さくして位相を与えると、制御用波形の当該周波数成分におけるKRSは大きくなる。
【0098】
したがって、この実施形態では、周波数ごとに、応答KRSと目標KRSを比較し、応答KRSが小さければ標準偏差σを小さくし、応答KRSが大きければ標準偏差を大きくしている。
【0099】
たとえば、図6Bに示すように、応答KRSが目標KRSから乖離していたとする。この場合、たとえば、周波数fkにおいては、応答KRSが目標KRSより大きいので、標準偏差σを大きくするよう変更する。
【0100】
図6Cを参照して、周波数fkにおける位相の設定について説明する。現在の時刻をt0としている。前回の処理をt-1で示している。t-100は、100回前の処理である。この実施形態では、100回の処理を一つの単位としてKRSの制御を行うようにしている。
【0101】
したがって、上述の応答KRSは、100回分の応答波形のKRSの平均値である。この100回分において、標準偏差σを2にしていたとする。したがって、t-100からt0までの位相は、標準偏差σ=2の正規分布にて生成された乱数である。
【0102】
その結果、図6Bに示すように、応答KRSが目標KRSより大きくなったという結果が得られたのであるから、標準偏差σを2より大きく(たとえば、2.5に)する。
【0103】
このような処理を全ての周波数について行う。これにより、各周波数について標準偏差σが決定され、これが制御用位相特性として、ステップS4において用いられる。
【0104】
CPU90は、次の99回t1~t99について、周波数ごとに与えられた標準偏差σの正規分布に従う乱数にて、位相を生成する。生成された位相を用いて、ステップS4の逆FFTが行われ、制御用波形が生成される。
【0105】
以上のようにして、目標PSD、目標KRSを満足する振動を供試体6に与えることができる。
【0106】
1.4その他
(1)上記実施形態では、KRSを制御するため、ランダム位相を正規分布にて生成させ、その正規分布の標準偏差を変えるようにしている。すなわち、正規分布の標準偏差を制御用位相特性として用いている。しかし、コーシー分布などの特性を用いて制御するようにしてもよい。
【0107】
また、標準偏差に限らず、分布(正規分布でなくともよい)の形状を設定しこれに基づいて制御を行うようにしてもよい。たとえば、図11に示すように、任意の確率密度分布(図では三角であるがどのような形状でもよい)を設定し、その高さHまたは幅Wまたはその双方によって、KRSを制御するようにしてもよい。この場合、高さHが大きいとKRSが大きくなり、小さいと小さくなる。また、幅Wが大きいとKRSが小さくなり、小さいとKRSが大きくなる。
【0108】
また、所定割合(たとえば8割)が含まれるようになる時の幅W1に基づいて制御を行ってもよい。幅W1が大きいほど、KRSが小さくなり、幅W1が小さいほどKRSが大きくなる。
【0109】
(2)上記実施形態では、個々の周波数成分ごとにKRSを制御するようにしている。しかし、周波数帯にまとめてKRSを制御するようにしてもよい。たとえば、図12Aの実線に示すように、8つの周波数帯に分けて、目標KRSを設定する。この場合、応答KRSについても平均値などにより周波数帯ごとに算出する。
【0110】
上記実施形態では、所定回数分(t1~t99)のランダム位相について、その正規分布の標準偏差σを調整するようにしたが、この場合、1回の制御において、周波数帯の下限周波数fLから上限周波数fUまでの各周波数の成分に与えるランダム位相について、その正規分布の標準偏差σを調整するようにしてもよい。
【0111】
すなわち、図12Bに示すように、周波数帯の下限周波数f1~f50までの成分について、ランダムな位相を与えるようにし、この際の標準偏差σを調整する。このようにすれば、所定回数ごとの制御ではなく、毎回KRSの制御を行うことができる。
【0112】
(3)上記実施形態では、制御用波形に対し系の制御特性の逆数を乗じてドライブ波形を算出するようにしている。しかし、図13に示すように、制御用波形をそのままドライブ波形として用いるようにしてもよい。
【0113】
また、図14に示すように、目標PSDに合致させる制御はせず、目標KRSに合致させる制御のみを行うようにしてもよい。PSDは制御する必要がないので、制御用波形生成手段18に与えるPSDは任意のもの(たとえば、ホワイトノイズ)でよい。この場合も、図13のように、制御用波形をそのままドライブ波形として用いてもよい。
【0114】
(4)上記実施形態およびその変形例は、その本質に反しない限り、他の実施形態及びその変形例と組み合わせて実施可能である。
【0115】
2.第2の実施形態
2.1機能構成
図15に、第2の実施形態による振動制御装置の機能構成を示す。この実施形態では、尖度の制御も行うようにしている。現在行われている非ガウス性振動試験においては、尖度が指定されることが多い。この実施形態では、KRSだけでなく、尖度についても制御できるようにしている。すなわち、第1の実施形態では、KRS制御手段32によって位相制御手段が構成されていたが、この実施形態では、KRS制御手段32および尖度制御手段42によって位相制御手段が構成されている。
【0116】
尖度算出手段40によって、応答波形の尖度を応答尖度として算出している。尖度制御手段42は、目標として与えられた目標尖度と算出した応答尖度とを比較し、応答尖度が目標尖度に合致するように制御用波形生成手段18において用いる位相の特性を制御する。
【0117】
尖度算出手段40は、応答波形の周波数成分にかかわらず、全体としての尖度を算出する。尖度制御手段42は、全周波数について、一律にランダム位相の標準偏差を上下させる。すなわち、KRS制御手段32では、周波数ごと(周波数帯ごと)にランダム位相の標準偏差を制御しているため、周波数ごとに、標準偏差が異なっている。尖度制御手段42は、この周波数による標準偏差の違いを維持しつつ、全周波数にわたって、標準偏差を上下させることで制御を行う。
【0118】
2.2ハードウエア構成
ハードウエア構成は、図2に示すものと同様である。
【0119】
2.3振動制御処理
図16図17に、制御プログラム98のフローチャートを示す。ステップS1~S17までは、第1の実施形態と同じである。
【0120】
CPU90は、応答KRSと目標KRSのずれに基づいて、周波数ごとのランダム位相の標準偏差σを算出した後(ステップS17)、次に、応答尖度に基づいてこの周波数ごとのランダム位相の標準偏差σを修正する。この処理について以下説明する。
【0121】
CPU90は、応答波形の尖度を応答尖度として算出する(ステップS18)。次に、CPU90は、応答尖度と目標尖度(ユーザによって設定された目標とする尖度)を比較し、両者が合致するように、ステップS17にて算出した周波数ごとのランダム位相の標準偏差σを修正する。
【0122】
すなわち、応答尖度が目標尖度よりも小さい場合には、全周波数にわたってランダム位相の標準偏差σを小さい方向にスライドする。これにより、図18Aに示すステップS17において算出された周波数ごとの標準偏差σの違いを維持しつつ、図18Bに示すように全体としての標準偏差を小さくすることができる。
【0123】
同様に、応答尖度が目標尖度よりも大きい場合には、全周波数にわたってランダム位相の標準偏差σを大きい方向にスライドする。
【0124】
以上のようにして、尖度についても制御を行うことができる。
【0125】
2.4その他
(1)上記実施形態では、KRSは所定回数ごとに、尖度は毎回、制御を行うようにしている。
【0126】
なお、KRSの制御を周波数帯に分けて行う場合には、KRSの制御も毎回行うことができる。この場合、KRSの制御による標準偏差の調整と、尖度の制御による標準偏差の調整が毎回行われることになる。両者による制御が同時になされるために、制御が収束しない可能性もある。
【0127】
そこで、図19に示すように、調整手段35を設けて、KRS制御手段32による標準偏差の制御と、尖度制御手段42による標準偏差の制御との調整を図るようにしてもよい。
【0128】
たとえば、尖度制御手段42による制御を所定回数行った後、KRS制御手段32による制御を行うというようにしてもよい。調整手段35は、尖度制御手段42による位相を制御用波形生成手段18に与えることを所定回行った後、KRS制御手段32による位相を制御用波形生成手段18に与える。KRS制御手段32による制御の方が処理時間を要するので、KRS制御手段32による制御の回数を少なくすることが好ましい。
【0129】
また、以下のように周波数帯ごとに、いずれの制御を行うかを決定するようにしてもよい。
【0130】
調整手段35は、KRS制御手段32において、応答KRSと目標KRSの乖離が大きい周波数帯(あるいは目標KRSの大きい周波数帯としてもよい)については、KRS制御手段32による位相を用い、それ以外の周波数帯については、尖度制御手段42による位相を用いるように調整する。たとえば、図18Cに示すように、周波数帯を第1~第6に分け、第3、第4の周波数帯をKRSに基づく制御とし、それ以外の第1、第2、第5、第6の周波数帯をKに基づく制御とすることができる。
【0131】
なお、乖離の大きい周波数帯(あるいは目標KRSの大きい周波数帯)の選択は、周波数帯のうち乖離の大きい方(KRSの大きい方)から所定個を選択する、乖離が所定値以上(KRSが所定値以上)の周波数を選択する、などの方法を用いることができる。
【0132】
また、乖離の大きい周波数帯(目標KRSの大きい周波数帯)は、リアルタイムに変更してもよいし、初期状態にて算出したものをそのまま固定で用いるようにしてもよい。
【0133】
また、制御の初期状態において、尖度制御手段42による制御を行わず、KRS制御手段32による制御を行い、乖離の大きい周波数帯を決定するようにしてもよい。
【0134】
このような手法を採用する場合には、制御の初期状態において、応答KRSと目標KRSをディスプレイに表示させ、ユーザが乖離の大きい周波数帯(目標KRSの大きい周波数帯)を判断し、この周波数帯を調整手段35に設定するようにしてもよい。
【0135】
(2)上記実施形態およびその変形例は、その本質に反しない限り、他の実施形態及びその変形例と組み合わせて実施可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23