(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177402
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】船舶推進制御システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 79/40 20200101AFI20221124BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20221124BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20221124BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20221124BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20221124BHJP
B63B 43/18 20060101ALI20221124BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20221124BHJP
B63B 79/10 20200101ALI20221124BHJP
G08G 3/02 20060101ALI20221124BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B63B79/40
B63H21/21
B63H20/00 803
B63H25/04 D
B63H21/14
B63B43/18
B63B49/00 Z
B63B79/10
G08G3/02 A
G08G1/09 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083620
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181FF05
5H181FF22
5H181LL09
5H181LL14
(57)【要約】
【課題】船舶の推進制御を円滑に行う。
【解決手段】船舶推進制御システム17は、船舶10へ推力を付与する船外機12を制御するBCU18を備え、MFD19は、回避対象物としての桟橋27を含む地図情報と、GPS14によって取得された船舶10の位置情報に基づいて、船舶10が推力抑制領域28に存在するか否かを判定し、船舶10が推力抑制領域28に存在すると判定された場合、BCU18は、乗船者がジョイスティック22やリモコン21のレバーを操作して船外機12の推力を大きくしようとしても、船外機12の推力を推力上限値よりも大きくしない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶へ推力を付与する推進機を制御する制御部を備える船舶推進制御システムであって、
前記制御部は、回避対象物を含む地図情報と前記船舶の位置情報に基づいて前記推力を調整する、船舶推進制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記船舶から前記回避対象物までの距離が所定距離を下回ると、乗船者の前記推進機に対する操作に関わらず、前記推力を所定値よりも大きくしない、請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項3】
前記回避対象物は、桟橋、ブイ、フロート、灯台、防波堤及び消波ブロックのいずれかである、請求項2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項4】
前記地図情報には、前記船舶の許容上限速度が各々設定される複数の速度制限領域が設けられ、
各前記速度制限領域における許容上限速度は、各前記速度制限領域が前記回避対象物に近付くほど低下し、
前記制御部は、各前記速度制限領域において、前記船舶の船速が当該速度制限領域における許容上限速度を越えないように前記推力を調整する、請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項5】
各前記速度制限領域における許容上限速度は、各前記速度制限領域が前記回避対象物に近付くほど段階的に低下する、請求項4に記載の船舶推進制御システム。
【請求項6】
各前記速度制限領域は、潮汐に応じて変更される、請求項4又は5に記載の船舶推進制御システム。
【請求項7】
前記回避対象物は、陸地、暗礁、浅瀬又は沈没船である、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項8】
前記制御部は、GPSによって前記船舶の位置情報を取得する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項9】
前記推進機は、内燃機関と、該内燃機関が発生する駆動力を前記推力へ変換する推力発生器とを有し、
前記制御部は、前記内燃機関の回転数を制限し、若しくは、前記内燃機関のスロットル開度を制限することによって前記推力を調整する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項10】
船舶へ推力を付与する推進機を制御する制御部を備える船舶推進制御システムであって、
前記制御部は、地図情報と前記船舶の位置情報に基づいて前記推力を調整し、
前記地図情報には、前記船舶の許容上限速度が各々設定される複数の速度制限領域が設けられ、
各前記速度制限領域における許容上限速度は、所定の航路における制限速度に応じて決定され、
前記制御部は、各前記速度制限領域において、前記船舶の船速が当該速度制限領域における許容上限速度を越えないように前記推力を調整する、船舶推進制御システム。
【請求項11】
推力を付与する推進機を制御する制御部を備える船舶であって、
前記制御部は、回避対象物を含む地図情報と前記船舶の位置情報に基づいて前記推力を調整する、船舶。
【請求項12】
推力を付与する推進機を制御する制御部を備える船舶であって、
前記制御部は、地図情報と前記船舶の位置情報に基づいて前記推力を調整し、
前記地図情報には、前記船舶の許容上限速度が各々設定される複数の速度制限領域が設けられ、
各前記速度制限領域における許容上限速度は、所定の航路における制限速度に応じて決定され、
前記制御部は、各前記速度制限領域において、前記船舶の船速が当該速度制限領域における許容上限速度を越えないように前記推力を調整する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進制御システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物をミリ波レーダやカメラで検知し、障害物に接近すると、自動的に減速する技術が自動車の技術分野で用いられている。また、船舶の技術分野においても、レーダで障害物を検知し、検知された障害物との距離に基づいて船舶の航行速度を切り換える技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、船舶は自動車に比べて波や風の外乱を受けて揺動したり、上下動することが多いため、レーダやカメラのプラットフォームとしては好ましくない。また、船舶の障害物としては、桟橋等の様々な形状を有するものが考えられ、障害物によっては水面に近いところに存在するものもある。したがって、船舶に搭載したミリ波レーダやカメラ等による障害物の検出には改善の余地がある。さらに、船舶は一般的に自動車よりも大きいため、船舶の全方向の障害物を検出するためには、多数のミリ波レーダやカメラ等を船体に設置する必要があり、コストや取り付け工数の面でも改善の余地がある。
【0005】
また、上述したように、船舶は自動車よりも大きいため、船舶の慣性力は自動車の慣性力と比較して大きくなる。しかしながら、船舶は減速に路面の摩擦力を用いることができず、せいぜい、造波抵抗や粘性抵抗しか用いることができないため、停船するまでにかなりの距離を要する。したがって、船舶では、遠距離から障害物を検知する必要があるが、レーダやカメラが検知した物体を障害物と認識するためには、当該障害物へかなり近付く必要がある。その結果、検知した物体を障害物と認識した際には、船舶が障害物の近傍に迫り、障害物を回避するために船舶は障害物の近傍で大きく減速する等、障害物の近傍で急な速度変化を起こすことになる。すなわち、船舶の推進制御の観点から改善の余地がある。
【0006】
本発明は、船舶の推進制御を円滑に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船舶推進制御システムは、船舶へ推力を付与する推進機を制御する制御部を備え、前記制御部は、回避対象物を含む地図情報と前記船舶の位置情報に基づいて前記推力を調整する。
【0008】
この構成によれば、回避対象物を含む地図情報と船舶の位置情報に基づいて推力が調整されるため、回避対象物をレーダやカメラで検知して認識する必要が無くなる。これにより、回避対象物を認識するために船舶が回避対象物へ近付く必要を無くすことができ、回避対象物を回避するために船舶が回避対象物の近傍で急な速度変化を起こすのを抑制することができる。その結果、船舶の推進制御を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船舶の推進制御を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進制御システムが適用される船舶の側面図である。
【
図2】
図1の船舶が搭載する船舶推進制御システムの構成を概略的に説明するためのブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態において利用される地図情報を説明するための図である。
【
図4】第2の実施の形態において利用される地図情報を説明するための図である。
【
図5】第2の実施の形態において利用される地図情報の変形例を説明するための図である。
【
図6】地図情報において潮汐に応じて各速度制限領域の範囲が変更される様子を説明するための図である。
【
図7】回避対象物を含まない地図情報を説明するための図である。
【
図8】回避対象物を含まない地図情報の第1の変形例を説明するための図である。
【
図9】水深に応じて設定された速度制限領域を含む地図情報を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進制御システムが適用される船舶の側面図である。この船舶10は、滑走艇であり、船体11と、船体11に搭載される推進機としての少なくとも1つ、例えば、2つの船外機12とを備える。船体11には操縦席を兼ねる船室13が配置され、船室13の屋根にはGPS(Global Positioning System)14が配置される。船外機12は、駆動源としてのエンジン15(内燃機関)と、推力発生器としてのプロペラ16とを有し、エンジン15の駆動力によって回転されるプロペラ16によって船舶10へ推力を付与する。
【0012】
図2は、
図1の船舶10が搭載する船舶推進制御システム17の構成を概略的に説明するためのブロック図である。
図2において、船舶推進制御システム17は、船外機12と、BCU(Boat Control Unit)18(制御部)と、MFD(Multi Function Display)19と、GPS14と、コンパス20と、リモコン21と、ジョイスティック22と、ステアリング23と、操船パネル24と、リモコンECU25と、SW(Switch)26と、を有する。船舶推進制御システム17の各構成要素は互いに通信可能に接続される。
【0013】
GPS14は、船舶10の現在位置を把握し、BCU18へ船舶10の現在位置を位置情報として送信する。コンパス20は、船舶10の進行方向を把握し、BCU18へ船舶10の進行方向を送信する。MFD19は、船速やエンジンの回転数を示すディスプレイであり、タッチパネルを備え、乗船者の指示を受け付ける。受け付けられた指示はBCU18へ送信される。
【0014】
ジョイスティック22は首振り自在な操作子であり、乗船者が、例えば、ジョイスティック22を前後に移動させると、ジョイスティック22は船舶10を前後に移動させるための信号を発し、ジョイスティック22を左右に移動させると、ジョイスティック22は船舶10を左右に移動させるための信号を発する。また、ジョイスティック22を旋回させると、ジョイスティック22は船舶10を旋回させるための信号を発する。ジョイスティック22からの信号は各リモコンECU25やBCU18へ向けて送信される。
【0015】
リモコン21は、操作子としてのレバーを有し、乗船者がレバーを前方に移動させると、リモコン21は船舶10を船首方向に移動させるための信号を発し、レバーを後方に移動させると、リモコン21は船舶10を船尾方向に移動させるための信号を発する。リモコン21からの信号は各リモコンECU25やBCU18へ向けて送信される。
【0016】
ステアリング23は、乗船者のステアリング操作を受け付け、受け付けられた操作に対応する舵角の信号を各リモコンECU25へ送信する。SW26は、各船外機12の電源オンや始動の指示を受け付け、受け付けられた指示に対応する信号を各リモコンECU25へ送信する。
【0017】
BCU18は、船舶推進制御システム17の各構成要素から送信された信号に基づいて船舶10の状況を把握し、各船外機12が発生すべき推力や取るべき推力の作用方向を判断して各リモコンECU25へ送信する。リモコンECU25は、各船外機12に対応して1つずつ設けられ、BCU18、リモコン21やジョイスティック22等から送信された信号に応じて対応する船外機12の推力と推力の作用方向を制御する。したがって、船舶推進制御システム17では、乗船者がジョイスティック22やリモコン21のレバーを操作することにより、各船外機12が発生する推力を調整して船舶10の船速を制御することができる。
【0018】
また、MFD19は地図(海図)情報を格納する。格納された地図情報には、後述するように、船舶10が回避する必要がある回避対象物が情報も含まれる。なお、地図情報はMFD19と別個に設けられたメモリ、例えば、BCU18のメモリに格納されてもよい。地図情報は、例えば、USBやSD(登録商標)カード等の記憶媒体を用いた上書き、又は無線や有線経由で接続したインターネットからのダウンロードによって更新される。
【0019】
図3は、第1の実施の形態において利用される地図情報を説明するための図である。
図3において、地図情報は回避対象物として桟橋27を含む。また、地図情報には、推力抑制領域28が設定される。推力抑制領域28の境界線は図中において破線で示される。推力抑制領域28は、桟橋27から距離Lで規定された領域であり、当該領域内に船舶10が存在する場合、船外機12の推力を抑制する領域である。
【0020】
本実施の形態において、MFD19は、船舶10が航行中又は停船中であるかに関わらず、常時、GPS14から受信した船舶10の位置情報と地図情報を比較し、船舶10が推力抑制領域28に存在するか否かを判定する。そして、BCU18は、船舶10が推力抑制領域28に存在するとMFD19が判定した場合、乗船者がジョイスティック22やリモコン21のレバーを操作して船外機12の推力を大きくしようとしても、船外機12の推力を推力上限値(所定値)よりも大きくしない。すなわち、船舶10から桟橋27までの距離がLを下回ると、乗船者によるジョイスティック22やリモコン21のレバーの操作に関わらず、船外機12の推力を調整して推力上限値よりも大きくしない。
【0021】
なお、ここでの推力上限値は、例えば、船舶10の甲板に立っている乗船者がよろけない程度の加速度を生じる推力値であり、船舶10の仕様によって異なる。また、距離Lは、例えば、各船外機12が推力上限値の推力を桟橋27へ向けて発生した際に、船舶10が桟橋27との衝突回避行動を行うことができる距離の下限値であり、船舶10の仕様によって異なる。若しくは、距離Lを上述の下限値よりも大きく設定してもよく、例えば、5マイルに設定してもよい。なお、距離Lは、乗船者がMFD19を用いて設定することができる。
【0022】
船外機12の推力を調整する方法としては、例えば、エンジン15の回転数の制限やエンジン15のスロットル開度の制限が該当し、船舶10が推力抑制領域28に存在すると判定された場合にBCU18が、各船外機12のECU(Engine Control Unit)(図示しない)へ制御信号を送信することにより、実現する。
【0023】
また、地図情報が含む回避対象物は、桟橋27に限られず、例えば、ブイ、フロート、灯台、防波堤や消波ブロックのいずれかであってもよい。さらに、地図情報において、それぞれ桟橋27から異なる距離で規定された複数の推力抑制領域を設け、各推力抑制領域において互いに異なる推力上限値を設定してもよい。この場合、桟橋27に近い推力抑制領域ほど、設定された推力上限値は小さくなる。なお、推力抑制領域28を規定する距離Lの始点は、桟橋27の何処かに設定されればよく、例えば、桟橋27の中心、根元又は先端のいずれであってもよい。
【0024】
本実施の形態によれば、推力抑制領域28が設定された地図情報と船舶10の位置情報に基づいて、船舶10が推力抑制領域28に存在するか否かが判定され、判定結果に基づいて船外機12の推力が調整される。これにより、回避対象物である桟橋27との衝突を避けるために桟橋27を船舶10のレーダやカメラで検知して認識する必要が無くなる。その結果、桟橋27を認識するために船舶10が桟橋27へ近付く必要を無くし、桟橋27への衝突を避けるために船舶10が桟橋27の近傍で急な回避行動を行うのを抑制することができる。
【0025】
また、船舶10が推力抑制領域28に存在すると判定された場合、船外機12の推力が推力上限値よりも大きくされないため、船舶10の甲板に立っている乗船者がよろけることがなく、船舶10の快適性が向上する。さらに、船舶10が桟橋27に係留されている状態や桟橋27の極めて近傍にて乗船者が接岸作業や離岸作業を行っている際、誤ってリモコン21のレバーを大きく操作することがあっても、船舶10が推力抑制領域28に存在する限り、船外機12の推力が推力上限値を越えて発生することがないため、船舶10が桟橋27へ勢いよく接触するのを回避することができる。
【0026】
なお、本実施の形態では、船舶10が推力抑制領域28に存在すると判定された場合、船外機12の推力が調整されたが、推力の代わりに船舶10の船速が所定速度よりも高くならないように制御されてもよい。また、推力抑制領域28の形状は距離Lで規定される形状に限られず、任意の形状を乗船者がMFD19を用いて設定してもよい。
【0027】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、その構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、利用される地図情報の内容が第1の実施の形態と異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略する。
【0028】
図4は、第2の実施の形態において利用される地図情報を説明するための図である。
図4において、地図情報は回避対象物として陸地29を含む。また、地図情報には、複数の速度制限領域30~32が設定される。各速度制限領域30~32は、当該領域内に船舶10が存在する場合、船舶10の船速が制限される領域である。なお、説明を簡単にするために、
図4には地図情報の一部のみが描画されている。
【0029】
速度制限領域30~32は、それぞれ陸地29の水際から略一定の距離で規定される境界線(図中において破線で示す)で仕切られ、陸地29に近い順から速度制限領域30~32が設定される。なお、これらの速度制限領域30~32は一例であり、船舶10の仕様に応じて各速度制限領域が変更されてもよい。
【0030】
また、速度制限領域30~32における制限速度(許容上限速度)は陸地29に近付くほど段階的に低下するように設定される。例えば、速度制限領域32における制限速度は40km/hに設定され、速度制限領域31における制限速度は20km/hに設定され、速度制限領域30における制限速度は10km/hに設定される。なお、これらの制限速度は一例であり、船舶10の仕様によって異なる値が設定されてもよい。
【0031】
本実施の形態においても、MFD19は、船舶10が航行中又は停船中であるかに関わらず、常時、GPS14から受信した船舶10の位置情報と地図情報を比較し、船舶10がどの速度制限領域に存在するかを判定する。そして、BCU18は、例えば、船舶10が速度制限領域31に存在するとMFD19が判定する場合、乗船者がジョイスティック22やリモコン21のレバーを操作して船舶10の船速を上げようとしても、船外機12の推力を調整して船舶10の船速が20km/hを越えないように制御する。また、BCU18は、船舶10が速度制限領域30に存在するとMFD19が判定する場合、船舶10の船速が10km/hを越えないように制御し、船舶10が速度制限領域32に存在するとMFD19が判定する場合、船舶10の船速が40km/hを越えないように制御する。なお、速度制限領域30~32の制限速度や範囲は、乗船者がMFD19を用いて設定することができる。
【0032】
本実施の形態によれば、速度制限領域30~32が設定された地図情報と船舶10の位置情報に基づいて、船舶10がどの速度制限領域に存在するかが判定され、判定結果に基づいて船舶10の船速が調整される。これにより、回避対象物である陸地29への座礁を避けるために陸地29を船舶10のレーダやカメラで検知して認識する必要が無くなる。また、陸地29へ近付くほど船舶10の船速が低下させられるため、乗船者が船舶10の陸地29の接近になかなか気づかず、陸地29の近傍で陸地29の存在に気づいたとしても、陸地29の回避操作を行う時間を確保することができる。
【0033】
また、地図情報が含む回避対象物は、陸地29に限られず、例えば、暗礁、浅瀬や沈没船のいずれかであってもよい。
図5は、第2の実施の形態において利用される地図情報の変形例を説明するための図である。
【0034】
図5において、地図情報は回避対象物として陸地29だけでなく暗礁33(図中において一点鎖線で示す)も含む。また、地図情報には、陸地29を基準とする速度制限領域30~32だけでなく、暗礁33を基準とする速度制限領域34~36(図中において破線で示す)が設定される。各速度制限領域34~36も、各速度制限領域30~32と同様に、当該領域内に船舶10が存在する場合、船舶10の船速が制限される領域である。なお、説明を簡単にするために、
図5にも地図情報の一部のみが描画されている。
【0035】
速度制限領域34~36は、それぞれ暗礁33から略一定の距離で規定される境界線で仕切られ、暗礁33に近い順から速度制限領域34~36が設定される。また、速度制限領域34~36における制限速度は暗礁33に近付くほど段階的に低下するように設定される。MFD19は、船舶10が航行中又は停船中であるかに関わらず、常時、GPS14から受信した船舶10の位置情報と地図情報を比較し、船舶10がどの速度制限領域に存在するかを判定する。そして、BCU18は、例えば、船舶10が速度制限領域34~36のいずれかに存在するとMFD19が判定する場合、乗船者がジョイスティック22やリモコン21のレバーを操作して船舶10の船速を上げようとしても、船外機12の推力を調整して船舶10の船速が当該速度制限領域の制限速度を越えないように制御する。なお、陸地29を基準とする速度制限領域と暗礁33を基準とする速度制限領域は合体してもよく、
図5では、陸地29を基準とする速度制限領域32と暗礁33を基準とする速度制限領域36が合体している。
【0036】
この場合、地図情報は、レーダやカメラで検知できない暗礁33を基準とする速度制限領域34~36を含むため、当該海域に不慣れなためにレーダやカメラで障害物を検知しながら操船する乗船者が暗礁33の存在に気づかなかったとしても、速度の強制的な低下によって暗礁33に接近していることに気付くことができる。
【0037】
また、航行水域が海である場合、回避対象物の水深は潮汐に応じて変わるため、各速度制限領域30~32の範囲も潮汐に応じて変更されてもよい。
図6は、地図情報において潮汐に応じて各速度制限領域30~32の範囲が変更される様子を説明するための図である。
図6(A)は満潮時の地図情報を示し、
図6(B)は干潮時の地図情報を示す。
【0038】
満潮時よりも干潮時の方が陸地29の海岸線は海側に進出するため、これに応じて各速度制限領域30~32の境界線も海側へ移動する(
図6(B))。このとき、陸地29の海岸線から各速度制限領域30~32の境界線までの距離が干潮時と満潮時で差が無いように、各速度制限領域30~32の境界線は移動する。これにより、干潮時に陸地29の海岸線が海側に進出しても、乗船者が陸地29の存在に気づいた後に陸地29の回避操作を行う時間を確保することができる。
【0039】
なお、船舶推進制御システム17では、MFD19が予め作成された満潮時の地図情報と干潮時の地図情報の両方を格納していてもよく、若しくは、例えば、満潮時の地図情報と潮汐情報を格納し、MFD19が時刻と潮汐情報に応じて満潮時の地図情報の各速度制限領域30~32の範囲を変更してもよい。特に、潮汐量は日時に応じて刻々と変化するため、陸地29への座礁を抑制する観点からは後者が好ましい。また、地図情報が暗礁33等の他の回避対象物を含む場合は、他の回避対象物を基準とする各速度制限領域の範囲も潮汐に応じて変更される。
【0040】
予め作成された満潮時の地図情報と干潮時の地図情報、若しくは潮汐情報は、地図情報と同様に、USBやSD(登録商標)カード等の記憶媒体を用いた上書き、又は無線や有線経由で接続したインターネットからのダウンロードによって更新される。
【0041】
なお、第2の実施の形態の地図情報には複数の速度制限領域が設定されたが、各速度制限領域の代わりに、複数の推力抑制領域が設定されてもよい。この場合、各推力抑制領域の推力上限値は陸地29や暗礁33に近いほど小さく設定される。
【0042】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0043】
例えば、船外機12がエンジンだけでなく原動機としての電気モータも搭載する場合、若しくは電気モータのみを搭載する場合であっても、電気モータがBCU18によって制御されるならば、本発明を適用することができる。さらに、船舶10が船外機12ではなく、船内外機や船内機を備える場合であっても、船内外機や船内機がBCU18によって制御されるならば、本発明を適用することができる。
【0044】
また、第1の実施の形態では地図情報に推力抑制領域が設定され、第2の実施の形態では地図情報に速度制限領域が設定されたが、推力抑制領域や速度制限領域の代わりに、スロットル開度制限領域やエンジン回転数制限領域が設けられてもよい。
【0045】
さらに、地図情報は回避対象物を含んでいなくてもよい。
図7は、回避対象物を含まない地図情報を説明するための図である。
図7において、地図情報は速度制限領域37~39を含むが、回避対象物としての陸地や暗礁を含まない。速度制限領域38は速度制限領域37を内側に含むように設定され、速度制限領域39は速度制限領域38を内側に含むように設定される。また、制限速度は速度制限領域37~39の順に高くなるように設定される。速度制限領域37~39は回避対象物を基準として設定されないが、例えば、フィッシングポイントを基準として設定されてもよい。なお、乗船者は、MFD19を用いて速度制限領域37~39を設定することができる。
【0046】
また、速度制限領域は所定の航路の制限速度に応じて設定されてもよい。
図8は、回避対象物を含まない地図情報の第1の変形例を説明するための図である。通常、航路では海峡や湾内において制限速度が低く設定される。例えば、
図8では、陸地41,42に挟まれた海峡を経て湾43の桟橋27へ到る航路40が設定されるが、航路40では、40km/h、20km/h及び10km/hの3段階の制限速度が設定される。船舶10が海峡を通過する際や湾43の内側を航行する際の制限速度として最も低い10km/hが設定され、船舶10が海峡や湾43から離れて航行する際の制限速度が最も高い40km/hが設定される。なお、航路40における制限速度の高低は図中の線の太さで示される。
【0047】
図8の地図情報では、湾43の内側に対応する速度制限領域44、湾43からの所定の範囲で規定される速度制限領域45、陸地41,42に挟まれた海峡に対応する速度制限領域46、海峡からの所定の範囲で規定される速度制限領域47やそれ以外の範囲である速度制限領域48が設定される。速度制限領域44,46では、当該領域における航路40の制限速度である10km/hが当該領域の制限速度として決定される。速度制限領域45,47では、当該領域における航路40の制限速度である20km/hが当該領域の制限速度として決定される。また、速度制限領域48では、当該領域における航路40の制限速度である40km/hが当該領域の制限速度として決定される。
【0048】
この場合も、MFD19は、船舶10が航行中又は停船中であるかに関わらず、常時、GPS14から受信した船舶10の位置情報と地図情報を比較し、船舶10がいずれの速度制限領域に存在するかを判定する。そして、BCU18は、例えば、船舶10が存在すると判定された速度制限領域の制限速度を越えないように船舶10の船速を制御する。なお、
図8の地図情報における航路40や各速度制限領域44~48の制限速度は一例であり、他の値が各制限速度として設定されてもよい。
【0049】
さらに、速度制限領域は水深に応じて設定されてもよい。
図9は、水深に応じて設定された速度制限領域を含む地図情報を説明するための図である。
図9において、地図情報は速度制限領域49~51を含むが、速度制限領域49~51は、速度制限領域30~32のようにそれぞれ陸地29の水際から略一定の距離で規定される境界線で仕切られず、水深の等高線に従って設定される。したがって、速度制限領域49~51の境界線は、陸地29の水際と形状が異なる。
【0050】
また、上述した各地図情報はそれぞれ単独で用いられずに、同時に複数の地図情報が用いられてもよい。
【0051】
なお、本発明は、上述の各実施の形態の機能を実現するプログラムをBCU18が有するメモリ等から読み出し、BCU18が当該プログラムを実行することによって実現されてもよく、または、上述の各実施の形態の機能を実現するプログラムをネットワークや記憶媒体を介して船舶推進制御システム17に供給し、BCU18が供給されたプログラムを実行することによって実現されてもよい。さらに、本発明は、BCU18が有する1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 船舶、12 船外機、14 GPS、15 エンジン、16 プロペラ、17 船舶推進制御システム、18 BCU、21 リモコン、22 ジョイスティック、27 桟橋、28 推力抑制領域、29 陸地、30~32,34~39,44~48 速度制限領域、33 暗礁、40 航路