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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017741
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】デジタル送信機用変調機構
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/36 20060101AFI20220119BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20220119BHJP
   H04H 20/28 20080101ALI20220119BHJP
   H04H 20/44 20080101ALI20220119BHJP
【FI】
H04L27/36
H04L27/26 310
H04H20/28
H04H20/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120454
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 克之
(57)【要約】
【課題】従来のリニアアンプを使用する方式と比べて電力の利用効率を向上させるとともに、歪補償回路が不要で機器の構成を簡素にする。
【解決手段】高周波のキャリア信号CSとデジタル変調されたベースバンド信号を極座標変換して得られる振幅情報信号V2とに基づいて相対的な位相差を加えた2系統の高周波矩形波W1,W2を生成するPTAM変調器42と、2系統の高周波矩形波W1,W2とベースバンド信号を極座標変換して得られる位相情報信号V1とを相関処理して2系統の位相・振幅変調信号S1,S2を生成する相関器43A,43Bと、2系統の位相・振幅変調信号S1,S2をスイッチング増幅するとともに合成して位相変調および振幅変調した高周波信号を生成する増幅処理部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波のキャリア信号とデジタル変調されたベースバンド信号を極座標変換して得られる振幅情報信号とに基づいて相対的な位相差を加えた2系統の高周波矩形波を生成するPTAM変調器と、
前記2系統の高周波矩形波と前記ベースバンド信号を前記極座標変換して得られる位相情報信号とを相関処理して2系統の位相・振幅変調信号を生成する相関器と、
前記2系統の位相・振幅変調信号をスイッチング増幅するとともに合成して位相変調および振幅変調した高周波信号を生成する増幅処理部と、を有する、
ことを特徴とするデジタル送信機用変調機構。
【請求項2】
前記増幅処理部を複数備え、
前記2系統の位相・振幅変調信号を対にして前記複数の増幅処理部のそれぞれへと入力し、
前記複数の増幅処理部の各々で生成された高周波信号を合成する電力合成部を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデジタル送信機用変調機構。
【請求項3】
前記デジタル変調がOFDM変調である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタル送信機用変調機構。
【請求項4】
前記デジタル変調には、シングルキャリアのデジタル変調方式とマルチキャリアのデジタル変調方式とが含まれる、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載のデジタル送信機用変調機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタル送信機用変調機構に関し、特に、電力増幅器に高い直線性が要求される高効率でのデジタル変調方式による送信機用の変調機構に関する。
【背景技術】
【0002】
GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System の略)の近代化の一環として、テキスト配信のみが可能なNAVTEX放送の後継または並列で使用されるシステムとしてデジタル方式でのデータ配信が可能なNAVDAT放送が国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の無線通信部門(ITU-R:ITU Radiocommunication sector)などで検討されている。NAVDAT放送の変調方式について、ITU-R M.2010では、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing の略)方式が提案されている。従来のOFDM方式の送信機では、ベースバンド信号を作成した後、電力増幅にリニアリティが要求されるため、電力増幅器にリニアアンプが使用されるとともに直線性を確保するために歪補償回路が設けられる(特許文献1参照)。すなわち、ベースバンド信号を生成した後、歪補償を行ってリニアアンプでパワー増幅することで、高い直線性を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-098421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のOFDM方式の送信機では、リニアアンプを使用するため、電力の利用効率が低く(通常は50%以下)、大電力化する際には機器が大型化する、という問題がある。また、リニアアンプだけでは高い直線性を確保することができないため、歪補償回路を設ける必要があり、機器の構成が複雑になる、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、従来のリニアアンプを使用する方式と比べて電力の利用効率を向上させることが可能であるとともに、歪補償回路が不要で機器の構成を簡素にすることが可能な、デジタル送信機用変調機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、高周波のキャリア信号とデジタル変調されたベースバンド信号を極座標変換して得られる振幅情報信号とに基づいて相対的な位相差を加えた2系統の高周波矩形波を生成するPTAM変調器と、前記2系統の高周波矩形波と前記ベースバンド信号を前記極座標変換して得られる位相情報信号とを相関処理して2系統の位相・振幅変調信号を生成する相関器と、前記2系統の位相・振幅変調信号をスイッチング増幅するとともに合成して位相変調および振幅変調した高周波信号を生成する増幅処理部と、を有する、ことを特徴とするデジタル送信機用変調機構である。
【0007】
この発明によれば、ベースバンド信号の位相情報信号と振幅情報信号とに基づいて、PTAM変調器、相関器、および増幅処理部により、位相変調および振幅変調された高周波信号が生成される。なお、PTAMは、Phase To Amplitude Modulation の略である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のデジタル送信機用変調機構において、前記増幅処理部を複数備え、前記2系統の位相・振幅変調信号を対にして前記複数の増幅処理部のそれぞれへと入力し、前記複数の増幅処理部の各々で生成された高周波信号を合成する電力合成部を有する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のデジタル送信機用変調機構において、前記デジタル変調がOFDM変調である、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載のデジタル送信機用変調機構において、前記デジタル変調には、シングルキャリアのデジタル変調方式とマルチキャリアのデジタル変調方式とが含まれる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、2系統の高周波矩形波の相対的な位相差を変えるとともにこれら2つの高周波矩形波を位相変調した位相・振幅変調信号をスイッチング増幅するとともに合成して高周波信号を生成するため、リニアアンプを使用せずに、スイッチングアンプを使用することができ、従来のリニアアンプを使用する方式と比べて電力の利用効率を向上させることが可能となる。請求項1に記載の発明によれば、また、2系統の高周波矩形波の相対的な位相差によって振幅変調が実現されるため、高い直線性を達成することができ、歪補償回路が不要で機器の構成を簡素にすることが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、複数の増幅処理部のそれぞれで生成された高周波信号が電力合成部で合成されるため、一層の大電力化を図ることが可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、OFDM方式のデジタル変調方式による送信機において上記の作用効果を奏することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、デジタル送信機としての汎用性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態1に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構を含むデジタル送信機の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1のデジタル送信機の各部における波形を示す図である。
図3図1のPTAM変調機構によるパルス幅変調原理を示す図である。
図4】この発明の実施の形態2に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構を含むデジタル送信機の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構4を含むデジタル送信機1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
デジタル送信機1は、OFDM方式のデジタル変調方式による送信機であり、主として、OFDM変調器2と、極座標変換部3と、PTAM変調機構4と、を有する。デジタル送信機1は、例えば、NAVDAT放送用の送信機として用いられる。
【0019】
OFDM変調器2は、変調用のデジタル信号DSの入力を受け、前記デジタル信号DSに対してOFDM変調方式による変調処理を施してベースバンド信号(デジタル変調されたベースバンド信号)を出力する。ベースバンド信号は、具体的には、同相成分信号(「I信号」とも呼ばれる)と直交成分信号(「Q信号」とも呼ばれる)との、位相を相互に90°ずらした2種類の信号である。
【0020】
極座標変換部3は、OFDM変調器2から出力されるベースバンド信号(デジタル変調されたベースバンド信号)の入力を受け、前記ベースバンド信号に対して極座標変換処理を施して位相情報信号V1(位相成分)と振幅情報信号V2(振幅成分)とに分ける。
【0021】
実施の形態1に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構4は、高周波のキャリア信号CSとデジタル変調されたベースバンド信号を極座標変換して得られる振幅情報信号V2とに基づいて相対的な位相差を加えた2系統の高周波矩形波W1,W2を生成するPTAM変調器42と、2系統の高周波矩形波W1,W2とベースバンド信号を極座標変換して得られる位相情報信号V1とを相関処理して2系統の位相・振幅変調信号S1,S2を生成する相関器43A,43Bと、2系統の位相・振幅変調信号S1,S2をスイッチング増幅するとともに合成して位相変調および振幅変調した高周波信号を生成する増幅処理部と、を有する、ようにしている。
【0022】
PTAM変調機構4は、高周波のキャリア信号CSを用いるとともに極座標変換部3から出力される位相情報信号V1(位相成分)と振幅情報信号V2(振幅成分)とに基づいて位相変調および振幅変調を施した高周波信号W4を生成する仕組みであり、キャリア信号発生器41、PTAM変調器42、相関器(ミキサー)43A,43B、スイッチングアンプ44A,44B、出力トランス45、およびローパスフィルタ46を備え、スイッチングアンプ44A,44Bと出力トランス45とローパスフィルタ46とで増幅処理部が構成される。
【0023】
キャリア信号発生器41は、高周波(RF:Radio Frequency の略)のキャリア信号CSを生成して出力する。
【0024】
PTAM変調器42は、キャリア信号発生器41から出力される高周波のキャリア信号CSと極座標変換部3から出力される振幅情報信号V2との入力を受け、振幅情報信号V2の振幅に応じて、デューティー比が50%の2系統の高周波矩形波の相対的な位相差を変え、高周波出力として2つの高周波矩形波W1,W2を生成して出力する。なお、2系統の高周波矩形波W1,W2のデューティー比が50%に設定されることにより、後述するスイッチングアンプ44A,44Bによる電力増幅が容易になる。
【0025】
PTAM変調器42は、具体的には、図2に示すように、高周波のキャリア信号CSと振幅情報信号V2とを重ね、高周波のキャリア信号CSが下降する際の前記高周波のキャリア信号CSのキャリア波形がゼロクロスするポイントCzdの前後では第1の高周波矩形波W1および第2の高周波矩形波W2を立ち下げ、また、高周波のキャリア信号CSが上昇する際の前記高周波のキャリア信号CSのキャリア波形がゼロクロスするポイントCzuの前後では第1の高周波矩形波W1および第2の高周波矩形波W2を立ち上げて、位相が相対的に異なる2つの高周波矩形波W1,W2を生成して出力する。なお、第1の高周波矩形波W1の立ち上げや第2の高周波矩形波W2の立ち下げは、矩形波の周期に基づいて決まる。
【0026】
このような高周波矩形波W1,W2の生成から高周波信号W4の生成までは、下記の原理に基づいている。
【0027】
まず、図3に示すように、周期が2π、パルス幅が2θ、さらに振幅がEである矩形波の基本波成分の振幅E’は、下記の数式1のように求められる。
【数1】
【0028】
数式1から、基本波の振幅E’は、パルス幅θのsin(サイン)に比例することが分かる。そこで、パルス幅θを変調信号のsin-1(アークサイン)に比例させて変化させれば、基本波の振幅E’も変調信号に比例して変化し、振幅変調されることになる。パルス幅θと変調角周波数pとの間の関係を下記の数式2のように表す。なお、gは変調信号を表し、tは時間を表す。
【数2】
【0029】
数式2を数式1へと代入すると、数式3が得られる。
【数3】
【0030】
したがって、基本波eは、x=ωtとして下記の数式4のようになり、振幅変調されていることが分かる。なお、ωは角速度を表す。
【数4】
【0031】
上記のようにして求められる高周波矩形波W1,W2は、変調信号の増減によって元の高周波のキャリア信号CSに対して、図2に示すように、第1の高周波矩形波W1がパルス幅θだけ位相が進み(即ち、-θ)、第2の高周波矩形波W2がパルス幅θだけ位相が遅れる(即ち、+θ)ように動作する。この変調信号g(pt)とパルス幅θとの間の関係は下記の数式5のようになり、パルス幅θは変調信号gのsin-1(アークサイン)になる。
【数5】
【0032】
上記の処理は、つまり、高周波のキャリア信号CSのキャリア波形がゼロクロスするポイントCzd,Czuを中心に、ベースバンド信号の振幅情報信号V2(振幅成分)の振幅に応じて位相が-θおよび+θの量で波形のエッジ(別言すると、矩形波の立ち上げ/立ち下げ)を前後に移動させることにより、第1の高周波矩形波W1と第2の高周波矩形波W2との間に振幅変調用の相対的な位相差を生じさせる処理である。すなわち、2系統の高周波矩形波W1,W2の相対的な位相差によって振幅変調が実現される。
【0033】
上記の処理は、具体的には例えば、多数の遅延回路を備える機序としてPTAM変調器42を構成し、第1の高周波矩形波W1を生成する系統と第2の高周波矩形波W2を生成する系統との各々で使用する遅延回路の数を変えることによって行われる。ただし、PTAM変調器42は、第1の高周波矩形波W1と第2の高周波矩形波W2との間に相対的な位相差を生じさせ得る仕組みであれば、多数の遅延回路を備える構成には限定されない。
【0034】
第1の相関器43Aは、極座標変換部3から出力される位相情報信号V1とPTAM変調器42から出力される第1の高周波矩形波W1(振幅変調信号)とを相関処理して、高周波出力として、位相変調された波形を有する第1の位相・振幅変調信号S1を出力する。
【0035】
第2の相関器43Bは、極座標変換部3から出力される位相情報信号V1とPTAM変調器42から出力される第2の高周波矩形波W2(振幅変調信号)とを相関処理して、高周波出力として、位相変調された波形を有する第2の位相・振幅変調信号S2を出力する。
【0036】
スイッチングアンプ44A,44Bは、相関器43A,43Bから出力される位相・振幅変調信号S1,S2をスイッチング増幅して出力する。スイッチングアンプ44A,44Bとして、電力効率が高いD級のパワーアンプが用いられることが好ましい。
【0037】
第1のスイッチングアンプ44Aは、第1の相関器43Aから出力される第1の位相・振幅変調信号S1の入力を受け、前記第1の位相・振幅変調信号S1に対してスイッチング増幅処理を施して増幅処理後の第1の位相・振幅変調信号S1を出力する。
【0038】
第2のスイッチングアンプ44Bは、第2の相関器43Bから出力される第2の位相・振幅変調信号S2の入力を受け、前記第2の位相・振幅変調信号S2に対してスイッチング増幅処理を施して増幅処理後の第2の位相・振幅変調信号S2を出力する。
【0039】
出力トランス45は、スイッチングアンプ44A,44Bによって増幅された第1の位相・振幅変調信号S1と第2の位相・振幅変調信号S2とを合成して出力する。具体的には、第1の位相・振幅変調信号S1と第2の位相・振幅変調信号S2との差をとり、図2に示すようなPWM(Pulse Width Modulation の略;パルス幅変調)波W3を生成して出力する。PWM波W3のパルス幅Hは、振幅情報信号V2の振幅に応じて大きくなっている。
【0040】
ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter の略)46は、出力トランス45から入力されるPWM波W3の高調波成分を除去して基本波成分のみを取り出し、振幅変調された高周波信号W4を生成して出力する。ローパスフィルタ46から出力される高周波信号W4は、アンテナ47から放射/送信される。
【0041】
以上のPTAM変調機構4が組み込まれた構成のデジタル送信機1によれば、OFDM変調器2でOFDM変調されたベースバンド信号が、極座標変換部3によって位相情報信号V1と振幅情報信号V2とに分けられる。次に、PTAM変調器42において、高周波のキャリア信号CSと振幅情報信号V2とに基づいて、デューティー比が50%で位相が相対的に異なる2つの高周波矩形波W1,W2が生成される。続いて、相関器43A,43Bにより、高周波矩形波W1,W2と位相情報信号V1とが相関処理されて位相・振幅変調信号S1,S2が出力される。
【0042】
続いて、スイッチングアンプ44A,44Bによって位相・振幅変調信号S1,S2がそれぞれスイッチング増幅され、さらに、出力トランス45によって2つの位相・振幅変調信号S1,S2が合成されて、PWM波W3が生成される。そして、ローパスフィルタ46によってPWM波W3の高調波成分が除去されて、位相変調および振幅変調された高周波信号W4が生成されて出力される。
【0043】
上記のようなデジタル送信機1によれば、デューティー比が50%の2系統の高周波矩形波W1,W2の相対的な位相差を変えるとともにこれら2つの高周波矩形波W1,W2を位相変調した位相・振幅変調信号S1,S2をスイッチング増幅するとともに合成して高周波信号W4を生成するため、リニアアンプを使用せずに、スイッチングアンプ44A,44Bを使用することができる。この結果、高い電力利用効率(例えば、80%程度)が得られ、大電力に適用することが容易である。特に、増幅する前の低電力段のPTAM変調器42において振幅変調用の位相差生成処理を行うため、大電力化に適しており、大電力変調器が不要となる。
【0044】
しかも、上記のようなPTAM方式は、数式1から数式4で分かるように、出力振幅は2つの高周波矩形波W1,W2の相対的な位相差で決まり、スイッチングアンプ44A,44Bのデバイス特性には殆ど依存しないので、高い直線性が得られ、歪補償回路が不要となる。この結果、機器の構成が簡素となり、コストの低廉化と信頼性の向上とが実現される。
【0045】
したがって、上記のようなPTAM変調機構4によれば、従来のリニアアンプを使用する方式と比べて電力の利用効率を向上させることが可能となる。例えば、極座標変換方式の1つであるポーラ変調では最終段で振幅変調を行うのに対して、上記のようなPTAM変調機構4では低電力段における信号S1/S2間の位相差生成処理を介して振幅変調を行うので大電力化に適している。上記のようなPTAM変調機構4によれば、また、2系統の高周波矩形波W1,W2の相対的な位相差によって振幅変調が実現されるため、高い直線性を達成することができ、歪補償回路が不要で機器の構成を簡素にすることが可能となる。
【0046】
なお、上記の実施の形態ではキャリア信号発生器41から出力される高周波のキャリア信号CSについてPTAM変調器42において振幅変調用の位相差の生成処理をした後に相関器43A,43Bによって位相変調するようにしているのに対し、極座標変換部3とPTAM変調器42との間に相関器を配設してキャリア信号発生器から出力される高周波のキャリア信号CSについて相関器において位相変調した後にPTAM変調器42において振幅変調用の位相差の生成処理をする構成も考えられる。しかしながら、2つの系統の各々で使用する遅延回路の数を変えるようにPTAM変調器42を構成するとともに、位相変調した後にPTAM変調器42において振幅変調用の位相差の生成処理をする場合には、PTAM変調器42における2つの系統の各々で使用する遅延回路の数が異なるため、PTAM変調器42へと入力される位相変調の高周波と2つの系統の間における振幅変調用の相対的な位相差とでは位相情報が微妙にずれてしまい、近接スプリアスが増加してしまうことも考えられる。これに対して、上記の実施の形態のようにPTAM変調器42において振幅変調用の位相差の生成処理をした後に位相変調するように構成してベースバンド信号の位相情報信号V1(位相成分)に基づいて2つの系統の出力に対して同時に位相変調処理を施すことにより、振幅情報と位相情報との時間差をなくすことができ、近接スプリアスの発生を抑えることが可能となる。
【0047】
(実施の形態2)
図4は、この発明の実施の形態2に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構4を含むデジタル送信機1の概略構成を示す機能ブロック図である。この実施の形態では、増幅処理部(具体的には、スイッチングアンプ44A,44B、出力トランス45、およびローパスフィルタ46)を複数備え、各増幅処理部で生成される高周波信号W4を合成する電力合成部5を備える点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については同一符号を付することでその説明を省略する。
【0048】
実施の形態2に係るデジタル送信機用変調機構としてのPTAM変調機構4は、実施の形態1に係るPTAM変調機構4において、増幅処理部を複数備え、2系統の位相・振幅変調信号S1,S2を対にして複数の増幅処理部のそれぞれへと入力し、複数の増幅処理部の各々で生成された高周波信号W4を合成する電力合成部5を有する、ようにしている。
【0049】
この実施の形態では、増幅処理部を構成するスイッチングアンプ44A,44Bと出力トランス45とローパスフィルタ46とを複数組備え、PTAM変調器42から出力される高周波矩形波W1,W2が相関器43A,43Bを経た後に分岐され、各増幅処理部において、それぞれ電力増幅、合成、および高調波除去の処理が施され、位相変調および振幅変調された高周波信号W4が生成される。そして、これらの高周波信号W4が電力合成部5で合成される。このため、実施の形態2の構成によれば、一層の大電力化を図ることが可能となる。
【0050】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では変調用のデジタル信号DSに対してOFDM変調処理を施して出力されるベースバンド信号が極座標変換処理を経てPTAM変調機構4へと入力されるようにしているが、変調用のデジタル信号DSに対して、OFDM変調処理の代わりに、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying の略)処理やQAM(Quadrature Amplitude Modulation の略)処理が施されるようにしてもよい。すなわち、この発明は、マルチキャリアのデジタル変調方式とシングルキャリアのデジタル変調方式とのどちらに対しても適用可能である。
【0051】
また、上記の実施の形態では2系統の矩形波がスイッチング増幅されるようにしているが、2系統の正弦波がスイッチング増幅されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 デジタル送信機
2 OFDM変調器
3 極座標変換部
4 PTAM変調機構(デジタル送信機用変調機構)
41 キャリア信号発生器
42 PTAM変調器
43A 第1の相関器
43B 第2の相関器
44A 第1のスイッチングアンプ
44B 第2のスイッチングアンプ
45 出力トランス
46 ローパスフィルタ
47 アンテナ
5 電力合成部
V1 位相情報信号
V2 振幅情報信号
DS 変調用のデジタル信号
CS キャリア信号
W1 第1の高周波矩形波
W2 第2の高周波矩形波
W3 PWM波
W4 高周波信号
S1 第1の位相・振幅変調信号
S2 第2の位相・振幅変調信号
図1
図2
図3
図4