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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177424
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】加熱溶解装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20221124BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20221124BHJP
   F27B 14/14 20060101ALI20221124BHJP
   H05B 6/06 20060101ALI20221124BHJP
   H05B 6/18 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B22F9/08 A
F27D11/06 A
F27B14/14
H05B6/06 386
H05B6/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083665
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】津田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】中本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】米虫 悠
(72)【発明者】
【氏名】中井 泰弘
【テーマコード(参考)】
3K059
4K017
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB07
3K059AB15
3K059AB28
3K059AC12
3K059AD03
3K059AD05
4K017AA02
4K017BB08
4K017BB09
4K017EB04
4K017EB17
4K017EB21
4K046AA01
4K046BA03
4K046CA01
4K046CB15
4K046CD02
4K046CE08
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA03
4K063FA34
(57)【要約】
【課題】微細な金属粉末を安定的かつ効率よく生成することが可能な加熱溶解装置の提供を目的とする。
【解決手段】加熱溶解装置100は、両端に開口31aを有する中空形状であって、導電性材料で形成された円筒体31と、円筒体31の外周面に沿って巻かれた誘導コイル32と、誘導コイル32に、高周波電流を流すための交流電圧を供給する第3電圧供給回路44と、を備えている。円筒体31は、開口を上下方向に向けた状態でルツボ21と収容部15との間に配置されている。円筒体31は、誘導コイル32に電流が流れることにより超音波を発生させ、円筒体31を通過する溶解原料を粉末化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解原料を下方に向けて流す出湯部と、
両端面が貫通することで開口を有する中空形状であって、導電性材料で形成された円筒体と、
前記円筒体の外周面に沿って巻かれた誘導コイルと、
前記誘導コイルに、高周波電流を流すための交流電圧を供給する電圧供給部と、を備え、
前記円筒体は、
前記開口を上下方向に向けた状態で、前記出湯部よりも下方であって、かつ、出湯した前記溶解原料が前記円筒体の前記開口の内側を通過する位置である通過位置に配置されており、
前記誘導コイルに電流が流れることにより超音波を発生させ、前記円筒体を通過する前記溶解原料を粉末化する加熱溶解装置。
【請求項2】
前記誘導コイルを前記通過位置に固定する固定部と、
前記円筒体の外周面と前記誘導コイルとの間に介在し、前記円筒体を振動可能に前記誘導コイルに保持する保持層と、を備える請求項1に記載の加熱溶解装置。
【請求項3】
前記電圧供給部は、
前記誘導コイルに流れる電流に応じた信号を出力するセンサと、
スイッチング素子を有し、直流電圧を前記交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路のスイッチング周期を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記センサにより出力された信号に基づいて、前記誘導コイルに流れる高周波電流の周波数を判断し、
判断された前記高周波電流の周波数が所定の目標周波数に近づくように、前記インバータ回路のスイッチング周期を調整する請求項1又は2に記載の加熱溶解装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の原料を微細化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ルツボ内で溶解された金属製の原料を、出湯口からチャンバ内に排出し、このチャンバ内で原料を微細化させて回収する加熱溶解装置が記載されている。具体的には、チャンバ内には、超音波を照射する振動子が備えられており、ルツボの出湯口から排出された原料は、振動子から照射される超音波により微細化される。微細化された原料は収容部に至るまでに冷却された後、金属粉末として回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-208407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶解された原料を微細化する際、所望とする金属粉末の寸法が小さくなるほど、溶解された原料の表面張力に打ち勝って、原料を微細化するために必要となる振動エネルギが大きくなる。例えば、数十[μm]を下回る金属粉末を生成する場合においては、原料の微細化に必要な振動エネルギが顕著に大きくなるため、所望とする寸法の金属粉末を安定的かつ効率よく生成できないことが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、微細な金属粉末を安定的かつ効率よく生成することが可能な加熱溶解装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明では、溶解原料を下方に向けて流す出湯部と、両端面が貫通することで開口を有する中空形状であって、導電性材料で形成された円筒体と、円筒体の外周面に沿って巻かれた誘導コイルと、誘導コイルに、高周波電流を流すための交流電圧を供給する電圧供給部と、を備えている。円筒体は、開口を上下方向に向けた状態で、出湯部よりも下方であって、かつ、出湯した溶解原料が円筒体の開口の内側を通過する位置である通過位置に配置されており、誘導コイルに電流が流れることにより超音波を発生させ、円筒体を通過する溶解原料を微細化する。
【0007】
上記構成では、下方に向けて流れる溶解原料は、円筒体の開口の内側を通過する。このとき、円筒体の外周面に沿って巻かれた誘導コイルに高周波の電流が流れることで、円筒体の外周面に生じる渦電流と、円筒体の周囲において上下方向に流れる交番磁束との相互作用により、円筒体を径方向に振動させる電磁力を生じさせる。その結果、円筒体の径方向での振動により、円筒体の内部を通過する溶解原料に、超音波が照射され、溶解原料を微細化させる。このとき、電磁力による円筒体31の振動周波数は、高周波電流の周波数に応じた値となるため、誘導コイルに供給される交流電圧の周波数を調整することで、円筒体を通過する溶解原料の微細化外形を制御することができる。その結果、例えば、圧電素子等の振動子により円筒体を振動させる場合と比べて、溶解原料に大きな振動エネルギを加えることが可能となる。また、円筒体を直接振動するため、振動を増幅させるための増幅器等を介在させる必要がなく、振動エネルギの損失も少ない。この結果、微細な金属粉末を安定的にかつ効率良く生成することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細な金属粉末を安定的にかつ効率良く生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】加熱溶解装置の構成図。
図2】円筒体を上方から見た図。
図3】第3電圧供給回路の構成図。
図4】振動電圧の波形図。
図5】動磁場内での円筒管の周囲に生じる磁束を説明する図。
図6】円筒体の振動を説明する図。
図7】誘導コイルに流れる高周波電流と円筒体の振動との間の周波数の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
本実施形態に係る加熱溶解装置を、図面を参照しつつ説明する。図1に示す加熱溶解装置100は、水冷式のコールドクルーシブル型の加熱溶解装置であり、原料150から金属粉末を生成することができる。具体的には、加熱溶解装置100は、20[μm]以下の金属粉末を生成する。原料150は、高融点金属であり、例えばチタン合金、ジルコニウム、タンタルである。
【0011】
以下において、加熱溶解装置100を設置した状態での、設置面に平行な向きである水平方向を「D1」を付して記載し、上下方向を「D2」を付して記載する。上下方向D2は、水平方向D1に垂直な方向でもある。
【0012】
加熱溶解装置100は、チャンバ10と、出湯ユニット20と、アトマイズユニット30と、操作盤40と、制御装置41と、第1電圧供給回路42と、第2電圧供給回路43と、第3電圧供給回路44とを備えている。
【0013】
チャンバ10は、上下方向D2において上端及び下端が閉塞した容器であり、製品の酸化を防止するため、不活性ガスが充填されている。チャンバ10の内部には、出湯ユニット20、アトマイズユニット30を収容可能な空間が形成されている。具体的には、チャンバ10は、円筒状に延びる上側容器部11と、上側容器部11よりも下方に位置する円錐体状の下側容器部12とを有している。上側容器部11の内部には、チャンバ10の内周から内側に向けて延びる間仕切り板16,18が設けられている。間仕切り板16,18により、チャンバ10の内部には、出湯ユニット20及びアトマイズユニット30が保持される保持空間13,14が区画されている。具体的には、チャンバ10の内部において、間仕切り板16よりも上の保持空間13に、出湯ユニット20が収容されている。チャンバ10の内部において、間仕切り板16と間仕切り板18とで区画される保持空間14に、アトマイズユニット30が収容されている。下側容器部12の内部には、生成された金属粉末が収容される空間である収容部15が形成されている。具体的には、チャンバ10の内部において、間仕切り板18よりも下側の空間が、収容部15になっている。
【0014】
出湯ユニット20は、原料150を溶解するとともに、溶解された原料150を下方に向けて流すユニットである。出湯ユニット20は、ルツボ21と、溶解コイル22と、出湯コイル23とを備えている。本実施形態では、出湯ユニット20が出湯部の一例である。
【0015】
ルツボ21は、原料150が収容される容器である。ルツボ21は、例えば銅材により形成され、円筒状の側壁24と、側壁24の下方に設けられた底板25とを有している。側壁24と底板25とにより、原料150が収容される空間が形成されている。
【0016】
側壁24は、上部が開口する円筒状の部位である。側壁24は、内周面に形成されたスリットにより複数のセグメントに分割されている。各セグメントは、内部に冷却流路を有しており、冷却流路の内部には水等の冷媒が通れるようになっている。セグメントを分割するスリットには、薄板状の絶縁部材が埋め込まれている。
【0017】
底板25は、円板状の部位である。底板25は、内部に冷却流路を有しており、冷却流路の内部には水等の冷媒が通れるようになっている。底板25の径方向の中心には、溶解された原料150(即ち、溶湯)を出湯させるための出湯口26が形成されている。なお、底板25の径方向は、水平方向D1と平行な方向でもある。出湯口26は、上下方向D2に延びた漏斗状の部位であり、上下方向D2に貫通する貫通穴を有している。出湯口26における貫通穴の内径は、例えば3~5[mm]である。なお、出湯口26は、底板25と別体で形成されていてもよい。この場合、出湯口26は、原料150の融点よりも融点の高い耐火物又は金属を用いて形成されるとよい。また、出湯口26はルツボ21と同様の材質でもよい。これ以外にも、出湯口26は、ルツボ21と同様、内部に冷媒が流れる流路を用いるものであってもよい。
【0018】
本実施形態では、ルツボ21は、チャンバ10の内部に設けられた固定部17により固定されている。具体的には、固定部17は、間仕切り板16及び底板25それぞれに、ボルトにより固定されている。これにより、固定部17は、ルツボ21をチャンバ10内で位置決め保持した状態で、固定することができる。
【0019】
ルツボ21における側壁24には、溶解コイル22が外周面に沿って巻かれている。本実施形態では、溶解コイル22の下端は、上下方向D2において、底板25よりも上方となるように側壁24に対して外周面に沿って巻かれている。溶解コイル22には、後述する第1電圧供給回路42から高周波の溶解電圧V1が印加される。
【0020】
出湯口26には、出湯コイル23が外周面に沿って巻かれている。本実施形態では、出湯コイル23は、出湯口26における下端よりも上側まで巻かれている。出湯コイル23には、後述する第2電圧供給回路43から高周波の出湯電圧V2が印加される。出湯コイル23の周囲には、出湯口26から排出された溶湯から、出湯コイル23を保護するための保護部材が設けられている。
【0021】
チャンバ10の内部において、出湯ユニット20よりも下方の保持空間14には、アトマイズユニット30が保持されている。アトマイズユニット30は、出湯ユニット20から出る溶湯を微細化させるユニットであり、円筒体31と、誘導コイル32と、保持層33とを備えている。
【0022】
図1図2に示すように、円筒体31は、両端面が貫通することで開口31aを有する中空状の部材である。本実施形態では、円筒体31は、銅材などの導電性材料により形成されている。円筒体31は、開口31aを上下方向D2に向けた状態で、ルツボ21よりも下方に配置されている。具体的には、円筒体31は、出湯口26の先端から下側に向けて仮想線Lを垂直に延ばした場合に、この仮想線Lが円筒体31の開口31aの内側を通過する水平方向D1の位置に配置されている。より詳細には、円筒体31は、水平方向D1において、出湯口26から流れる溶湯の流路示す仮想線Lが、円筒体31の開口の略中心Sを通るように、位置決め保持されている。即ち、本実施形態では、保持空間14において、円筒体31が保持されている位置が、通過位置の一例である。
【0023】
円筒体31には、誘導コイル32が、当該円筒体31の外周面に沿って巻かれている。誘導コイル32には、後述する第3電圧供給回路44からの振動電圧V3が印加される。本実施形態では、誘導コイル32は、固定部19により固定されている。具体的には、固定部19は、間仕切り板18及び誘導コイル32それぞれに、ボルトにより固定されている。これにより、チャンバ10内において、誘導コイル32は、固定部19により、出湯ユニット20よりも下方(即ち、通過位置)に位置決め保持した状態で固定される。
【0024】
円筒体31の外周側と誘導コイル32との間には、保持層33が介在している。なお、図2では、便宜上、円筒体31と誘導コイル32との間に、保持層33を図示していない。保持層33は、円筒体31を誘導コイル32に対して振動可能に保持する層である。保持層33は、円筒体31の振動を阻害することなく、円筒体31を誘導コイル32に保持できる材質であることが望ましい。例えば、保持層33は、シリコンゴムやブタジエンゴム等を用いることができる。
【0025】
操作盤40は、作業者の操作を受付ける、操作キーや、操作画面等を備えるユーザインタフェースである。操作盤40が受付けた操作に応じた信号は、制御装置41に出力される。制御装置41は、加熱溶解装置100の駆動を制御する。制御装置41は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備え、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することで所定の処理を実行するプログラマブルコントローラである。制御装置41では、CPUが、ROMに記憶されたプログラムを実行することで、第1電圧供給回路42、第2電圧供給回路43及び第3電圧供給回路44の各動作を制御する。
【0026】
第1電圧供給回路42は、溶解コイル22に導線を介して接続されており、溶解コイル22に高周波の溶解電圧V1を印加する。第2電圧供給回路43は、出湯コイル23に導線を介して接続されており、出湯コイル23に高周波の出湯電圧V2を印加する。第3電圧供給回路44は、誘導コイル32に導線を介して接続されており、誘導コイル32に高周波の振動電圧V3を印加する。本実施形態では、第3電圧供給回路44が、電圧供給部の一例である。
【0027】
図3を用いて、第3電圧供給回路44の構成を説明する。なお、本実施形態では、第1電圧供給回路42と第2電圧供給回路43とは、第3電圧供給回路44と同様の構成であるため、説明を省略する。図3において、アトマイズユニット30における誘導コイル32と、抵抗成分102とを負荷回路101として図示している。抵抗成分102は、アトマイズユニット30において抵抗として作用する回路素子の総称である。
【0028】
第3電圧供給回路44は、所定の共振周波数に応じたスイッチング周期で発振する共振型の電源回路である。具体的には、第3電圧供給回路44は、コントローラ50と、順変換回路51と、インバータ回路52と、電流センサ53と、整合変圧器54と、整合コンデンサ55,56とを備えている。
【0029】
順変換回路51は、交流電源200から供給された交流電力を、整流及び平滑化して直流電力に変換する回路である。本実施形態では、順変換回路51は、電圧型の回路であり、例えば、サイリスタを組み合わせた全波整流回路や、コンデンサにより構成されている。
【0030】
順変換回路51により変換された直流電圧は、インバータ回路52に入力される。インバータ回路52は、複数のスイッチング素子SWを有しており、各スイッチング素子SWを所定の順序でオンオフ操作させることにより、直流電圧を交流電圧に変換する回路である。具体的には、インバータ回路52は、1組のスイッチング素子SWにより構成されたブリッジ回路を有している。スイッチング素子SWは、バイポーラトランジスタ、FET、IGBT、サイリスタ等を用いることができる。ブリッジ回路を構成する各スイッチング素子SWには、コントローラ50から出力されるゲート信号Sgが入力され、オン状態とオフ状態とに切換えられる。インバータ回路52の出力側は、整合変圧器54及び整合コンデンサ55,56を介して負荷回路101に接続されている。
【0031】
コントローラ50から出力されるゲート信号Sgに応じて、一方の対になるスイッチング素子がオン操作され、他方の対になるスイッチング素子がオフ操作されることで、インバータ回路52からは、出力線57の電圧を高電圧側とする、正極性の振動電圧V3が出力される。また、一方の対になるスイッチング素子がオフ操作され、他方の対になるスイッチング素子がオン操作されることで、インバータ回路52からは、出力線58の電圧を高電圧側とする、負極性の振動電圧V3が出力される。
【0032】
整合変圧器54は、コアを介して一次側コイルと、二次側コイルとが磁気結合可能なトランスである。整合変圧器54の一次側コイルは、一方の端がインバータ回路52の出力側に接続された出力線57に接続され、他方の端が出力線58に接続されている。整合変圧器54における二次側コイルの一方の端は、直列に接続された整合コンデンサ55を介して負荷回路101の一方に接続され、二次側コイルの他方の端は、直列に接続された整合コンデンサ56を介して負荷回路101の他方に接続されている。整合コンデンサ55,56は、誘導コイル32と組み合わされることで、共振回路を形成する。即ち、整合コンデンサ55,56と誘導コイル32とは、負荷回路101に対して直列接続された直列型共振回路を形成している。
【0033】
図4は、第3電圧供給回路44から、負荷回路101に印加される振動電圧V3の波形を示している。図4において、縦軸は電圧Vであり、横軸は時間である。振動電圧V3は、後述する目標周波数Ftに応じて1周期Tが定められた交流電圧である。これにより、負荷回路101には、振動電圧V3が印加され、誘導コイル32には高周波電流が流れる。
【0034】
電流センサ53は、誘導コイル32に流れる高周波電流に応じた電流検出信号Idを取り出す回路である。電流センサ53は、変流器60と、電圧検出用抵抗61とを備えている。変流器60は、コアを介して一次側コイルと、二次側コイルとが磁気結合可能な回路である。一次側コイルは、出力線58に接続されている。二次側コイルは、一端がグランドに接続され、他端がコントローラ50の電流検出ポート50aに接続されている。また、変流器60の二次側コイルには電圧検出用抵抗61が接続されており、二次側コイルに流れる電流に応じた電圧を電流検出信号Idとして取り出す。このため、インバータ回路52から出力される振動電圧V3の極性に応じて、電流センサ53からコントローラ50の電流検出ポート50aに、出力線58の電流に応じた電流検出信号Idが入力される。
【0035】
コントローラ50は、電流センサ53により検出された電流検出信号Idの周波数に応じてゲート信号Sgのオン期間及びオフ期間を調整することで、振動電圧V3の周波数を制御する。なお、オン期間は、ゲート信号Sgがスイッチング素子SWをオン操作する波形となる期間であり、オフ期間はゲート信号Sgがスイッチング素子SWをオフ操作する波形となる期間である。具体的には、コントローラ50は、所定期間での電流検出信号Idのゼロクロス点の数を検出し、電流検出信号Idの周波数を判断する。ゼロクロス点は、電流検出信号Idが基準電流(例えば、0V)を跨ぐタイミングであり、負荷回路101に流れる電流の周波数に応じて、1周期でのゼロクロス点の数が変化する。コントローラ50は、電流検出信号Idの周波数が、目標周波数Ftに近づくように、ゲート信号Sgのオン期間及びオフ期間を調整する。これにより、振動電圧V3の周波数が、目標周波数Ftに調整され、ひいては、誘導コイル32に流れる高周波電流の周波数が調整される。
【0036】
目標周波数Ftは、円筒体31と誘導コイル32との関係よりなるインダクタンス(一巡経路のインダクタンスも含む総インダクタンス)と、整合コンデンサ55,56の直列回路の共振周波数とに応じて定められた値であり、例えば、100[kHz]以上、且つ400[kHz]以下の値である。本実施形態では、誘導コイル32に印加される振動電圧V3の1周期Tが、円筒体31における円周(=2πr)に応じた長さとなるように、目標周波数Ftが定められている。具体的には、目標周波数Ftは、下記(式1)を用いて算出することができる。
Ft=1/{2πr×(E/ρ)1/2} … (式1)
rは、円筒体31の中心からの半径である。Eは、円筒体31のヤング率である。ρは、円筒体31の密度である。
【0037】
上記構成の第3電圧供給回路44では、誘導コイル32に印加される振動電圧V3の周波数を、外乱等に関わらず、目標周波数Ftに制御することが可能となる。例えば、円筒体31又は誘導コイル32に溶解した原料150が付着することにより、インピーダンスが変化する場合がある。このような場合でも、コントローラ50は、電流センサ53からの電流検出信号Idを用いて、振動電圧V3の周波数が目標周波数Ftに近づくように、インバータ回路52のスイッチング周期を制御する。これにより、誘導コイル32に対して、高周波電流を安定的に流すことが可能となる。
【0038】
次に、加熱溶解装置100が原料150から金属粉末を生成する場合の動作について説明する。
なお、加熱溶解装置100が原料150から金属粉末を作用する場合、チャンバ10内は不活性ガス雰囲気に置換されている。チャンバ内の気圧は概ね0.5気圧から2気圧程度にすることが好ましい。また、本実施形態のように超音波を利用する場合は、チャンバ10を圧力容器として製作し、チャンバ10内を加圧することで、より大振幅を得ることが可能となる。
【0039】
作業者が操作盤40に対して、加熱溶解装置100の駆動を開始するための操作を行う。制御装置41は、第1電圧供給回路42を動作させて、溶解コイル22に高周波の溶解電圧V1を印加させる。これにより、溶解コイル22に高周波電流が流れ、溶解コイル22の周囲に交番磁界が生じる。交番磁界での磁束は、ルツボ21に収容された原料150の表面を通り、原料150の表面に誘導起電力が生じる。誘導起電力により、原料150の表面に渦電流が流れ、この渦電流により生じるジュール熱により原料150を溶解する。このとき、原料150の下部は、水冷されている底板25に接触しているため、溶解せず、スカル(凝固層)151となって出湯口26の開口を塞ぐ(図1)。
【0040】
次に、制御装置41は、第2電圧供給回路43を動作させて、出湯コイル23に高周波の出湯電圧V2を印加させる。これにより、出湯コイル23に高周波電流が流れ、出湯口26の周囲に交番磁界が生じる。交番磁界での磁束は、ルツボ21内のスカル151に誘導起電力を生じさせる。これにより、ルツボ21内のスカル151に渦電流が流れ、スカル151が溶解し、出湯口26の開口が開放される。この結果、ルツボ21内の溶湯が、出湯口26から出湯する。
【0041】
制御装置41は、図示しない監視装置からの信号により出湯口26からの出湯を検知すると、第3電圧供給回路44を動作させて、誘導コイル32に振動電圧V3を印加させる。第3電圧供給回路44から誘導コイル32に振動電圧V3が印加されると、誘導コイル32には、高周波電流が流れる。これにより、円筒体31の周囲に磁界が生じる。
【0042】
図5は、円筒体31を上下方向D2で断面視した場合に、円筒体31の周囲の磁束を破線により示す図である。誘導コイル32に高周波電流が流れることで、円筒体31の周囲に動磁場が発生する。円筒体31の周囲に生じる動磁場では、磁束は、円筒体31を避けるように上下方向D2に流れる磁束線を描く。
【0043】
誘導コイル32に流れる電流の向きが、円筒体31を上方から見て反時計周りの向きである場合、磁束の向きは上方向となる。そのため、円筒体31には、誘導起電力により、磁束の増加を妨げる向きに渦電流が流れる。具体的には、上下方向D2において、円筒体31を上方から見た場合に、渦電流が時計周りの向きに流れる。これにより、フレミングの左手の法則により、図6に示すように、円筒体31には、水平方向D1に平行な径方向において、外側から内側に向かう電磁力Mが作用し、円筒体31を径方向において外側から内側に向けて変位させる。なお、図6では、振動に伴う円筒体31の変位を一点鎖線により示している。
【0044】
一方、誘導コイル32に流れる電流の向きが、円筒体31を上方から見て時計回りである場合、磁束は下方向に流れる。そのため、円筒体31を上方から見た場合に、誘導起電力により、渦電流が反時計周りの向きに流れる。これにより、円筒体31には、径方向において、外側から内側に向かう電磁力Mが作用し、円筒体31を径方向において外側から内側に向けて変位させる。即ち、図6に示すように、円筒体31には、誘導コイル32に流れる高周波電流の向きに関わらず、径方向において外側から内側に向かう方向での電磁力Mが作用する。
【0045】
円筒体31は、加えられる電磁力Mにより径方向で振動し、円筒体31の内周面から中心Sに向かう超音波を発生させる。円筒体31に作用する電磁力Mは、誘導コイル32に流れる高周波電流の前半と後半との各半周期(=T/2)それぞれで、径方向において外側から内側に向かう向きに作用する。電磁力Mにより、円筒体31に対して、一方向(径方向において外側から内側)の圧縮する力が働いた後、円筒体31自体により内側から外側に広がろうとする反作用が生じ、結果として円筒体31を振動させる。そのため、図7に示すように、円筒体31は、高周波電流の周波数(=Ft)に対して2倍の周波数(=2Ft)で振動することとなることとなる。なお、図7では、一例としての誘導コイル32に流れる高周波電流と、円筒体31の径方向での変位量(即ち、振動)との間の周波数の関係を図示している。これにより、高周波電源の2倍の周波数で超音波を発生できるため、より小さい粒径の微粉末が生成できる。
【0046】
アトマイズユニット30により微細化された原料150は、チャンバ10の収容部15に向けて落下する。このとき、微細化された原料150は、雰囲気内で冷却され、金属粉末として収容部15に収容される。
【0047】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
加熱溶解装置100は、導電性材料で形成された円筒体31と、円筒体31の外周面に沿って巻かれた誘導コイル32とを有している。誘導コイル32には、第3電圧供給回路44から振動電圧V3が供給され、高周波電流が流れる。円筒体31は、開口31aを上下方向D2に向けた状態でルツボ21と収容部15との間の通過位置に配置されている。これにより、誘導コイル32に高周波電流が流れることで、円筒体31の外周面に生じる渦電流と、交番磁束との相互作用により、円筒体31を振動させる電磁力Mを生じさせる。このとき、電磁力Mによる円筒体31の振動周波数は、高周波電流の周波数に応じた値となるため、誘導コイル32に供給される振動電圧V3の周波数を調整することで、円筒体31に加えられる振動エネルギを制御することができる。その結果、例えば、融解した原料150である溶湯に大きな振動エネルギを加えることが可能となる。また、円筒体31を直接振動させるため、振動を増幅させるための増幅器等を介在させる必要がなく、振動エネルギの損失も少ない。この結果、所望とする金属粉末の寸法が小さい場合でも原料150を安定的にかつ効率よく微細化することができる。
【0048】
誘導コイル32は、チャンバ10内において、固定部19により、出湯ユニット20よりも下方の通過位置に固定されている。円筒体31の外周面と誘導コイル32との間には、円筒体31を振動可能に誘導コイル32に保持する保持層33が介在している。これにより、電磁力Mによる円筒体31の振動を損なうことなく、円筒体31を適正な位置に保持することができる。
【0049】
第3電圧供給回路44のコントローラ50は、電流センサ53から出力される電流検出信号Idに基づいて、誘導コイル32に流れる高周波電流の周波数を判断し、判断された高周波電流の周波数が目標周波数Ftに近づくように、インバータ回路52のスイッチング周期を調整する。これにより、外乱等により原料150に加えられる振動エネルギが大きく変化するのが抑制され、溶湯をいっそう安定的に微細化することができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
振動電圧V3にバイアス電圧を重畳してもよい。この場合において、誘導コイル32には、バイアス電圧を基準として極性が変化する振動電圧V3が印加される。
【0051】
上述の実施形態では、アトマイズユニット30における円筒体31は、保持層33を介して誘導コイル32に保持された。これに代えて、円筒体31が加えられる電磁力Mにより振動できる構成であれば、アトマイズユニット30は、保持層33を備えていなくともよい。
【0052】
上述の実施形態では、加熱溶解装置100はコールドクルーシブル型であった。これに代えて、加熱溶解装置100はアトマイズユニット30を備えるものであれば、原料150を溶解するための構成はどのような構成であってもよい。例えば、出湯ユニットは、インゴット状の原料を上下方向に吊るす吊るし部と、吊るされた原料の周囲に配置される溶解コイルとを備える構成であってもよい。このような構成において、溶解コイル等を用いた電磁誘導によるジュール熱により原料が溶解され、溶湯が下方に向けて流れる。溶湯は、円筒体31の内側を通過することで、微細粉末化される。
【符号の説明】
【0053】
15…収容部、21…ルツボ、26…出湯口、30…アトマイズユニット、31…円筒体、32…誘導コイル、44…第3電圧供給回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7