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特開2022-177475軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及び軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金薄帯
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177475
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及び軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金薄帯
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221124BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20221124BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20221124BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20221124BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20221124BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C22C38/00 303T
H01F1/153 108
H01F1/16
C22C38/06
C22C38/54
C21D6/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083749
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信也
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 晋一
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 茂克
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有一
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BD03
5E041CA01
5E041NN01
(57)【要約】
【課題】鉄損が低く、高い磁束密度を有し、かつ、加工性にも優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯を提供する。
【解決手段】原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上15.0%以下、Siを6.0%超10.0%以下、Cを0.5%以上5.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上15.0%以下、Siを6.0%超10.0%以下、Cを0.5%以上5.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
【請求項2】
原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上13.0%以下、Siを6.0%超9.0%以下、Cを1.0%以上4.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
【請求項3】
Ni、Cr、Coのうち少なくとも1種以上で、請求項1または請求項2に記載のFe系非晶質合金のFeを10.0原子%以下の範囲で、代替する、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のFe系非晶質合金からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金薄帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及び軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金薄帯に関する。
【背景技術】
【0002】
合金を溶融状態から急冷することによって、連続的に薄帯や線を製造する方法として遠心急冷法、単ロ-ル法、双ロ-ル法等が知られている。これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの内周面または外周面に溶融金属をオリフィス等から噴出させることによって、急速に溶融金属を凝固させて薄帯や線を製造するものである。また、合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金を得ることができ、磁気的性質あるいは機械的性質に優れた材料を製造することができる。
【0003】
特に、非晶質合金の中でも、Fe系非晶質合金は、電力トランスや高周波トランスの鉄心等の用途として有望視されている。これらの用途の高性能化のために、Fe系非晶質合金の低鉄損化と高磁束密度化が強く要望されている。
【0004】
特許文献1には、組成がTMSiで表示される合金(TMはFe,Co,Niの少なくとも1種、MはAl,Ti,Zrの少なくとも1種、a~eは原子%で、a:70~85、b:4~18、c:7~18、d:0~4、e:0.01~0.3、かつa+b+c+d+e=100)であって、該合金の溶湯を複数の開口部をもつ多重スリットノズルを介して、移動する冷却基板の上に噴出して急冷凝固させることにより製造される、板厚内部に少なくとも一層の結晶化層を有することを特徴とする磁気特性にすぐれた非晶質合金薄帯が記載されている。特許文献1の図3を見る限り、特許文献1に記載された非晶質合金薄帯は、飽和磁束密度が1.5T未満であり、電力トランスや高周波トランスの鉄心等の用途に用いるには、飽和磁束密度がやや低いものとなっている。
【0005】
特許文献2には、原子%で、Feを80.0%以上88.0%以下、Bを6.0%以上12.0%以下、Cを2.0%以上8.0%以下、Siを0.10%以上3.0%以下、Alを0.10%以上2.0%以下含有し、さらに、Moを0.10%以上6.0%以下含有し、残部不可避的不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金が記載されている。しかし、特許文献2に記載されたFe系非晶質合金は、高融点元素であるMoを含有しており、製造コストがやや高くなっている。
【0006】
特許文献3には、式:FeSiで示される高飽和磁束密度を有する鉄芯用非晶質合金(但し、Xは、Al、Sn、Ge、Ti、Zr、Nb、V、Mo、Wから選ばれる何れか1種または2種以上であり、bはBが1~5原子%、CはPが1~10原子%、dはSiが4~14原子%、eはCが5原子%以下、fはXが5原子%以下、aはFeが(100-(b+c+d+e+f))原子%)が記載されている。特許文献3の実施例を見る限り、特許文献3に記載された鉄芯用非晶質合金には、飽和磁束密度が1.5Tを超えるものがあるが、低い鉄損は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-362162号公報
【特許文献2】特開2017-78186号公報
【特許文献3】特開昭57-185957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、Fe系非晶質合金は電力トランスや高周波トランスの鉄心等の用途として有望視されており、これらの用途の高性能化のために、Fe系非晶質合金の低鉄損化と高磁束密度化が強く要望されている。また、Fe系非晶質合金を鉄心等の用途に適用する際には、低鉄損かつ高磁束密度な特性を有することに加えて、加工性に優れることも求められる。そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄損が低く、高い磁束密度を有し、かつ、加工性にも優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上15.0%以下、Siを6.0%超10.0%以下、Cを0.5%以上5.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
[2] 原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上13.0%以下、Siを6.0%超9.0%以下、Cを1.0%以上4.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
[3] Ni、Cr、Coのうち少なくとも1種以上で、[1]または[2]に記載のFe系非晶質合金のFeを10.0原子%以下の範囲で、代替する、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
[4] [1]乃至[3]のいずれか一項に記載のFe系非晶質合金からなる、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金薄帯。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄損が低く、高い磁束密度を有し、かつ、加工性にも優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、これまで提案された各種合金成分のうち、Feをメインとし、B、C及びSiからなる成分系に注目し、高磁束密度を維持しながら低鉄損を実現するための検討及び実験を行った。そして、従来は非晶質化には不利とされていたAlに注目した。Alは、特許文献1において薄帯表面に結晶質相を形成する元素として用いられていることからも明らかなように、従来から、結晶質相を形成させやすい元素であることが知られていた。一方、特許文献2に記載されているように、Al及びSiを添加することで、非晶質相の熱的安定性が向上するとの知見もあった。
【0012】
そこで、本発明者らが、Feをメインとし、添加元素がB、C及びSiを主体とする成分系について詳細実験を行った結果、Alを少量含有させることで低鉄損化を図れることを見出した。また、Alの含有による非晶質層形成能の低下を補うために、Si、C、Bの最適な含有量の範囲を見出した。これにより、特許文献2に記載されているようなMoの添加を必要とせずに、飽和磁束密度を1.62T以上とし、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(鉄損W13/50)を0.095W/kg以下とすることが可能になった。更に、非晶質層形成能を低下させない範囲でCの含有量を最適化することで、優れた加工性を発揮できることを見出した。このようにして、高い飽和磁束密度、低鉄損及び優れた加工性を同時に発揮するFe系非晶質合金に係る発明を完成させるに至った。
【0013】
以下、本実施形態の軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯について説明する。
本実施形態のFe系非晶質合金は、原子%で、Feを78.00%以上85.00%以下、Bを7.5%以上15.0%以下、Siを6.0%超10.0%以下、Cを0.5%以上5.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなる。
また、本実施形態のFe系非晶質合金は、原子%で、Feを78.00%以上85.0%以下、Bを7.5%以上13.0%以下、Siを6.0%超9.0%以下、Cを1.0%以上4.0%以下、Alを0.005%以上1.50%以下含有し、残部が不純物からなるものであってもよい。
また、本実施形態のFe系非晶質合金は、Ni、Cr、Coのうち少なくとも1種以上で、上記のFe系非晶質合金のFeを10.0原子%以下の範囲で、代替してもよい。
また、本実施形態のFe系非晶質合金薄帯は、上記のFe系非晶質合金からなるものである。
【0014】
はじめに、本実施形態のFe系非晶質合金において、各元素の含有量を限定した理由について述べる。
【0015】
Alは、本実施形態のFe系非晶質合金において、低鉄損を実現させるために含有させる。ただし、Alの含有量が増大すると,非晶質相形成能が低下し、非晶質合金を安定して得られないことから、飽和磁束密度を安定して1.62T以上とすることが困難となる。従って、Al含有量は0.005~1.50%の範囲とする。Al含有量は、0.008%以上、0.01%以上あってもよく、1.40%以下、1.30%以下であってもよい。
【0016】
Bは、本実施形態のFe系非晶質合金において、非晶質相形成及び非晶質相の熱的安定性を向上させるために含有させる。この元素の含有量を最適化することで、Alの含有に伴う非晶質相形成能の低下を打ち消して合金組織を安定して非晶質相とすることができ、軟磁気特性を一層改善することが可能になる。例えば、飽和磁束密度を安定して1.62T以上にすることができる。Bが7.5原子%未満では、非晶質相形成能の改善が得られず、Fe系非晶質合金において非晶質合金が安定して得られなくなり、鉄損を安定して0.095W/kg以下を維持したまま、飽和磁束密度を安定して1.62T以上とすることが困難となる。一方、Bを15.0原子%超としても、非晶質相形成能の改善が得られず、飽和磁束密度を安定して1.62T以上とすることは困難となる。従って、Bを7.5原子%以上15.0原子%以下の範囲に限定する。好ましくは、Bを7.5原子%以上13.0原子%以下とする。更に好ましくは、Bを8.0原子%以上12.5原子%以下とする。
【0017】
SiおよびCは、Bと同様に、本実施形態のFe系非晶質合金において、非晶質相形成及び非晶質相の熱的安定性を向上させるために含有させる。また、SiおよびCは、Fe系非晶質合金の加工性を向上させるためにも有効な元素である。SiおよびCの含有量を最適化することで、Alの含有に伴う非晶質相形成能の低下を打ち消して合金組織を安定して非晶質相とすることができ、軟磁気特性を一層改善することが可能になる。また、加工性を改善して、Fe系非晶質合金薄帯とした場合の曲げ破壊直径を3.5mm以下にすることが可能になる。Siが6.0原子%以下、Cが0.5原子%未満では、非晶質相形成能の改善が得られず、Fe系非晶質合金において非晶質合金が安定して得られなくなり、飽和磁束密度を安定して1.62T以上とすることが困難となる。一方、Siを10.0原子%超、Cを5.0原子%超としても、非晶質相形成能の改善が得られず、また、加工性が低下してしまう。従って、Siを6.0原子%超10.0原子%以下、Cを0.5原子%以上5.0原子%以下の範囲に限定する。好ましくは、Siを6.0原子%超9原子%以下、Cを1.0原子%以上4.0原子%以下とする。更に好ましくは、Siを6.0原子%超8.0原子%以下、Cを1.0原子%以上3.5原子%以下とする。
【0018】
Fe系非晶質合金において、Feの含有量は通常、70原子%以上であれば一般的な鉄心としての実用的なレベルの飽和磁束密度が得られるが、1.62T以上の高い飽和磁束密度を得るためには、Feを78.00原子%以上にする必要がある。一方、Feの含有量が85.00原子%超となると、非晶質相の形成が困難となり、非晶質合金特有の良好な軟磁気特性(鉄損W13/50を安定して0.095W/kg以下)を得ることが難しくなる。よって、本実施形態のFe系非晶質合金において、Fe含有量を78.00原子%以上85.00原子%以下の範囲に限定する。より好ましいFe含有量は79.00原子%以上84.00原子%以下である。
【0019】
本実施形態のFe系非晶質合金では、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で、10.0原子%以下の範囲で代替することで、高飽和磁束密度を維持したまま鉄損などの軟磁気特性の改善も実現できる。これら元素による代替量に上限を設けたのは、10.0原子%超となると、飽和磁束密度が低くなることや原料コストが嵩むためである。Ni、Cr、Coの1種以上でFeを代替した場合、Ni、Cr、Coの含有率とFeの含有率との合計が、78.00原子%以上85.00原子%以下の範囲であればよく、79.00原子%以上84.00原子%以下の範囲であってもよい。
【0020】
本実施形態に係るFe系非晶質合金における残部は不純物である。本実施形態に係るFe系非晶質合金は、例えばFe源として鉄鋼材料を用いる場合に、鉄鋼材料に含まれる不純物元素を不純物として含んでいてもよい。例えば、N、P、S、O等を不純物として含有してもよい。
【0021】
本実施形態のFe系非晶質合金は、通常、薄帯の形態で得ることができる。このFe系非晶質合金薄帯は、上述の実施形態において説明した成分からなる合金を溶解し、溶湯をスロットノズル等を通して高速で移動している冷却板上に噴出し、該溶湯を急冷凝固させる方法、例えば、単ロ-ル法、双ロ-ル法によって製造することができる。これらのロール法に用いるロールは金属製であり、ロールを高速回転させ、ロール表面またはロール内面に溶湯を衝突させることで合金の急冷凝固が可能である。
【0022】
単ロ-ル装置には、ドラムの内壁を使う遠心急冷装置、エンドレスタイプのベルトを使う装置、及びこれらの改良型である補助ロ-ルや、ロ-ル表面温度制御装置を付属させたもの、減圧下あるいは真空中、または不活性ガス中での鋳造装置も含まれる。
【0023】
本実施形態では、薄帯の板厚、板幅などの寸法は特に限定しないが、薄帯の板厚は、例えば、10μm以上100μm以下が好ましい。また、板幅は10mm以上が好ましい。
以上説明の如く得られたFe系非晶質合金薄帯は、電力トランスや高周波トランスでの鉄心等の用途として用いることができる。
【0024】
なお、本実施形態のFe系非晶質合金は、薄帯の他に粉末状とすることも可能である。その場合、上述の組成の合金溶湯を満たしたるつぼのノズルから回転するロールあるいは冷却用の水などの液体の中に高速で合金溶湯あるいは合金溶湯の液滴を噴出して急冷凝固する方法を採用することができる。
【0025】
上述の方法により、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金粉末を得ることができる。
【0026】
上述のように得られたFe系軟磁性合金粉末は、金型等により圧密して目的の形状に成形し、必要に応じ焼結して一体化することで、電力トランスや高周波トランス、コイルの鉄心等の用途として適用することができる。
【0027】
なお、本実施形態のFe系非晶質合金が非晶質組織を有するか否かは、例えば、Co管球を用いたX線回折装置によるX線回折測定で確認できる。すなわち、X線回折測定において明確な回折ピークが得られない場合は、Fe系非晶質合金が非晶質組織を有していると確認できる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のFe系非晶質合金によれば、Alを含有させるとともに、B、Si及びCの含有量を最適化し、更にFeの含有量を78.00%以上にすることで、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kg以下となり、飽和磁束密度が1.62T以上となり、優れた軟磁気特性を発揮でき、電力トランスや高周波トランスの鉄心等に好適に用いることができる。また、加工性も向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態のFe系非晶質合金薄帯によれば、Alを含有させるとともに、B、Si及びCの含有量を最適化し、更にFeの含有量を78.00%以上にすることで、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kg以下となり、飽和磁束密度が1.62T以上となり、優れた軟磁気特性を発揮でき、電力トランスや高周波トランスの鉄心等に好適に用いることができる。また、加工性が向上することで、曲げ破壊直径を3.5mm以下とすることが可能になり、これにより、Fe系非晶質合金薄帯を電力トランスや高周波トランスの鉄心等に加工する際に、合金薄帯が破損してしまうおそれがなく、電力トランスや高周波トランスの鉄心の生産性を向上できる。
【0030】
なお、曲げ破壊半径は、JIS Z 2248:2006の金属材料曲げ試験方法に準拠し、曲げ試験機にFe系非晶質合金からなる薄帯を設置し、密着するまで試験片の両端を互いに押し合い、破断した際の試験片の直径(曲げ破壊直径)を測定することによって得られる。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0032】
(実施例1)
表1に示す各種成分の合金をアルゴン雰囲気中で溶解し、単ロ-ル装置で急冷して鋳造することにより、Fe系非晶質合金の薄帯を作製した。鋳造雰囲気は大気中であった。なお、用いた単ロ-ル装置は、直径300mmの銅合金製冷却ロ-ルと、試料溶解用の高周波電源と、先端にスロットノズルが付いている石英ルツボ等とから構成される。本実験では、長さ10mm、幅0.6mmのスロットノズルを使用した。冷却ロ-ルの周速は24m/秒とした。結果として、得られた薄帯の板厚は約20μmであり、板幅はスロットノズルの長さに依存するので10mmであり、長さはおよそ100mであった。
【0033】
得られたFe系非晶質合金薄帯に対して、X線回折測定を行ってX線回折パターンを得た。X線回折測定のX線源はCo-Kα(波長λ=1.7902Å)とし、スキャン範囲は2θ=10deg以上120deg以下とした。X線回折パターンの形状から、金属組織中に結晶質相が生成しているか否かを判断した。
【0034】
また、Fe系非晶質合金薄帯の飽和磁束密度及び鉄損は、SST(Single Strip Tester)を用いて測定した。なお、鉄損測定条件は、磁束密度1.3T、周波数50kHzである。鉄損測定用の試料は、いずれも1ロットの薄帯の全長に渡って6箇所から採取した。鉄損測定用のサンプルは120mm長さに切断した薄帯サンプルとした。これら鉄損測定用の薄帯サンプルは360℃にて1時間、磁場中(磁場:800A/m、鋳造方向に磁場を印加)でアニ-ルを行って測定に供した。アニ-ル中の雰囲気は窒素雰囲気とした。一方、VSM装置用の試料は、上記6個所からの薄帯サンプルについていずれも幅中央部から採取した薄片とした。
【0035】
飽和磁束密度及び鉄損の測定結果は6個所でのデ-タの平均値を、表1に示した。
【0036】
更に、Fe系非晶質合金薄帯について、曲げ破壊直径を測定した。曲げ破壊半径は、JIS Z 2248:2006の属材料曲げ試験方法に準拠し、曲げ試験機にFe系非晶質合金薄帯を設置し、破断した際の曲げ破壊直径を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、本発明例1~17は、いずれも合金組成が本発明の範囲を満たしていたため、飽和磁束密度が1.62T以上となり、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kg以下となり、高い飽和磁束密度と低鉄損を同時に発揮することができた。また、曲げ破壊直径が3.5mm以下になり、加工性も良好だった。
【0039】
一方、比較例1~10は、いずれも合金組成が本発明の範囲を満たさなかったため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えるか、飽和磁束密度が1.62T未満になった。
【0040】
即ち、比較例1は、Fe含有量が少なかったため、飽和磁束密度が1.62T未満になった。
比較例2は、Fe含有量が過剰であったため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えた。
比較例3、4は、B含有量が本発明の範囲から外れたため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えた。
比較例5、6は、Si含有量が本発明の範囲から外れたため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えた。
比較例7、8は、C含有量が本発明の範囲から外れたため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えた。
比較例9、10は、Al含有量が本発明の範囲から外れたため、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kgを超えた。
また、比較例10は、曲げ破壊直径が3.5mm越となり、加工性が劣位になった。
【0041】
なお、Fe系非晶質合金薄帯に対して、X線回折測定を行ったところ、本発明例1~17及び比較例1~10はいずれも、明確な回折ピークが観察されないことから金属組織中に結晶質相が生成しているとは言えず、全体が非晶質相であった。
【0042】
(実施例2)
表1のNo.1に示す合金について、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で代替した各種成分の合金を用いて、実施例1と同様の装置、条件により薄帯を鋳造した。なお、用いた合金の具体的な成分については、表2に示した。結果として、得られた薄帯の板厚、板幅、長さはそれぞれ、約20μm、10mm、およそ100mであった。得られた薄帯の飽和磁束密度及び鉄損並びに曲げ破壊半径について評価した。これらの特性評価に用いた試料の採取方法及び測定条件は、実施例1と同じであった。その測定結果を表2に示す。なお、表2での表示要領は、表1の場合と同様である。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の試料No.18~24の結果から明らかなように、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で、10.0原子%以下の範囲で代替しても、飽和磁束密度が1.62T以上で、鉄損をW13/50で安定して0.095W/kg以下とできることがわかった。また、曲げ破壊直径が3.5mm以下になり、加工性も良好だった。更に、いずれの試料も、X線回折測定において明確な回折ピークが観察されず、非晶質であることが確認された。
【0045】
以上説明したように、本発明のFe系非晶質合金によれば、Alを含有させるとともに、B、Si及びCの含有量を最適化し、更にFeの含有量を78.00%以上にすることで、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kg以下となり、飽和磁束密度が1.62T以上となり、優れた軟磁気特性を発揮でき、電力トランスや高周波トランスの鉄心等に好適に用いることができる。また、加工性も向上させることができる。
また、本発明のFe系非晶質合金薄帯によれば、鉄損(鉄損W13/50)が0.095W/kg以下となり、飽和磁束密度が1.62T以上となり、更には曲げ破壊直径を3.5mm以下とすることができる。これにより、Fe系非晶質合金薄帯を電力トランスや高周波トランスの鉄心等に加工する際に、合金薄帯が破損してしまうおそれがなく、電力トランスや高周波トランスの鉄心の生産性を向上できる。