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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177486
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】食肉加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20221124BHJP
【FI】
A23L17/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083766
(22)【出願日】2021-05-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根 雄太
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD08
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG12
4B042AG16
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK16
4B042AP07
(57)【要約】
【課題】加熱済み食肉の歩留まりや身の柔らかさに優れた食肉加工食品が得られる魚介類を用いた食肉加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させる工程を有する、食肉加工食品の製造方法。前記の液が更に糖アルコールを含むことが好ましい。前記の液が液状油脂を1.0~20.0質量%含有することも好ましい。前記液が、更にアルカリ剤を含有することも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させる工程を有する、食肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記液が更に糖アルコールを含む、請求項1に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記液が前記液状油脂を1.0~20.0質量%含有する、請求項1に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記液が、更にアルカリ剤を含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項5】
酵母細胞が、酵母エキスを抽出した後の菌体である、請求項1~4の何れか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させた後、魚介類に由来しない液状油脂及び増粘剤を含む混合物に浸漬させる、請求項1~5の何れか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項7】
前記混合物が更に調味料を含む、請求項6に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項8】
魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させ、次いで、調味料を含む漬け込み液又は漬け込み床に浸漬させる、食肉の漬け込み加工食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の生肉を用いた食肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはイカや牛肉を加圧加熱する前に酵母細胞と塩化ナトリウムを含む液に浸漬することで食肉の加圧保水性を高めることができると記載されている。
特許文献2には、プロテアーゼ及び/又はセルラーゼを反応させた酵母細胞を用いた、離水又は離油が抑制された食品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-57358号公報
【特許文献2】WO2016/080490号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、水環境における魚介類資源の減少がますます深刻化している近年、その対策の一つとして、従来小さすぎたり、脂乗りが悪く焼成すると身が締まりすぎる等、外観や食感に問題があり使用価値が低下した魚介類について、歩留まりや身の柔らかさを改善して商品価値を付加することが課題となっている。
【0005】
しかしながら発明者の検討した結果、特許文献1及び2に相当する方法で魚介類の生肉を処理した場合、得られる食肉の歩留まりや身の柔らかさに改善の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る食肉加工食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために見出されたものであり、魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させる工程を有する、食肉加工食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、魚介類の生肉を用い、従来よりも歩留まりに優れた食肉加工食品を簡便に提供することができる。本発明で得られる食肉加工食品は食感の良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の食肉加工食品の製造方法は、魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び魚介類に由来しない液状油脂を含む液に浸漬させる工程を有する。本発明者は、魚介類の生肉を用いた食肉加工食品について歩留まりを従来よりも向上させる方法を検討した。その結果、酵母細胞及び塩化ナトリウムを含む液に生肉に浸漬させる従来技術に対し、当該浸漬液に液状油脂を添加することで、浸漬処理後や加熱後の食肉の歩留まりを大きく向上させることができることを見出した。液状油脂は、酵母細胞及び塩化ナトリウムと液中に併存させることで、酵母細胞及び塩化ナトリウムを有する液による浸漬処理後に液状油脂を適用する場合に比して、効果的に歩留まり向上効果を得ることができる。
これに対し、特許文献2には、酵母細胞の使用による離油抑制効果は記載されているが、液状油脂を酵母細胞とともに浸漬液中に用いることによる歩留まり向上効果を考慮したものではない。
【0010】
魚介類としては、魚類、貝類、甲殻類、頭足類等が挙げられる。魚類としては、アイナメ、アカハタ、アカウオ、アジ、アナゴ、アユ、アンコウ、イサキ、イトヨリ、イワシ、イワナ、ウナギ、エイ、エソ、オコゼ、カイワリ、カサゴ、カジカ、カジキ、カツオ、カトラ、カマス、カレイ、カワハギ、カンパチ、キス、キンキ、キビナゴ、グチ、コチ、コクレン、サケ(アトランティックサーモン、トラウトサーモン、ギンザケを含む)、サバ、サメ、サンマ、サワラ、サヨリ、ソウギョ、ハクレン、パンガシウス、ヒラメ、ドジョウ、スズキ、タラ、タイ、タチウオ、トビウオ、ドジョウ、ナイルテラピア、ナマズ、ニシン、ニジマス、ハゼ、ハタ、ハモ、ヒラメ、ヒラマサ、フグ、フナ、ブリ(ハマチ、イナダ、メジロ等の成長名・季節名を含む)、ホッケ、ホキ、ムツ、マグロ、マゴイ、ミルクフィッシュ、メバル、ママカリ、ヤマトゴイ、ロフーなどが挙げられる。貝類としては、カキ、シジミ、アサリ、ホタテガイ、アカガイ等が挙げられる。甲殻類としては、エビ、カニ、シャコが挙げられる。頭足類としてはイカやタコが挙げられる。
【0011】
中でも魚類を用いることが酵母細胞と液状油脂を組み合わせたことによる本発明の歩留まりの向上効果を高めるために好ましく、とりわけ、アジ、サバ、ブリ、サケ、ヒラメ、カレイ、タイ、スズキ、シルバー(銀ヒラス)、メダイ、キンメダイ、サワラ等が、好ましい。
【0012】
生肉とは、未加熱状態の肉であることを意味する。未加熱状態とは、例えば60℃以上の加熱処理が施されていないことを指し、50℃以上の加熱処理が施されていないことが好ましく、40℃以上の加熱処理が施されていないことが特に好ましい。生肉は内臓を含んでいても、含んでいなくてもよい。魚介類のうち魚類の肉は赤身であっても白身であってもよい。生肉は、冷凍工程を経て得られた肉であってもよいが、その場合は、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂を有する浸漬液に浸漬中に解凍させるか、或いは当該浸漬液に浸漬させる前に少なくとも部分的に解凍又は全解凍させることが好ましい。
【0013】
本発明において、酵母細胞及び塩化ナトリウムを含む液に液状油脂を併存させることで、浸漬液に浸漬させた後の歩留まりが向上し、それにより加熱後の歩留まりも向上して、柔らかな食感の食肉加工食品を得ることができる。以下、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂を含む液を単に「浸漬液」ともいう。なお、本明細書において、酵母、塩化ナトリウム及び液状油脂を含む液は漬け込み処理用の液であり、バッター液等の衣付着用の液は含まない。
【0014】
酵母細胞としては、酵母の内容物を除去した後(酵母エキスを抽出した後)の酵母細胞(酵母細胞の細胞壁、細胞膜等の酵母の骨格部分)を用いることができる。酵母エキスの抽出方法は熱水処理法、自己消化法、酵素分解法等の抽出方法が挙げられる。酵母細胞は、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞そのものであってもよいし、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞にプロテアーゼ処理、セルラーゼ処理等の酵素処理を施したものであってもよい。また酵母細胞は、プロテアーゼ及び乳化剤で処理されたものであってもよい。
【0015】
酵母細胞としては、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母等の細胞が挙げられる。また、酵母細胞は、圧搾酵母、乾燥酵母、活性乾燥酵母、死滅酵母、殺菌乾燥酵母等の種々の形態の酵母の細胞であってもよい。また、酵母細胞は、酵母細胞(菌体)と実質的に同じ組成からなる酵母細胞由来物(例えば、酵母細胞の破砕物、粉末)であってもよい。酵母細胞は、乾燥菌体、菌体脱水物、菌体懸濁液等の種々の形態であり得る。
【0016】
酵母は、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母やキャンディダ(Candida)属に属する酵母であってよく、例えば具体例としては、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、キャンディダア・ユーティリス(Candida utilis)等が挙げられる。
【0017】
酵母細胞は魚介類の加熱歩留まりを向上させやすい等から、浸漬液中、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
浸漬液の媒体としては水が好適であり、水に対し、塩化ナトリウムを溶解させるとともに酵母細胞及び液状油脂を分散させことで浸漬液を得ることができる。
【0019】
浸漬液は更に塩化ナトリウムを含有することが浸漬効率向上の点で好ましい。この効果を高める点から、浸漬液における塩化ナトリウムの含有量は0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
酵母細胞及び塩化ナトリウムのみでは浸漬液処理後や加熱後の魚介類の歩留まりが十分ではないところ、本発明者は、酵母細胞及び塩化ナトリウムに加えて魚介類に由来しない液状油脂を用いることで、酵母細胞及び塩化ナトリウムを用い液状油脂を用いない場合に比して浸漬液処理後や加熱後の歩留まりを大幅に向上させることができることを知見した。液状油脂は25℃で液状を示す油脂である。本発明で用いる液状油脂の具体例としては、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、アマニ油、パーム油の分別低融点部、オリーブ油、ごま油が挙げられる。液状油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油又はコーン油が、風味や食味の点で好ましく挙げられる。
【0021】
浸漬液における液状油脂の量は、浸漬液中、1.0質量%以上であることが、加熱歩留まりの向上させやすさや食感向上の点で好ましく、20.0質量%以下であることが、それ以上液状油脂量を増加させても歩留まりの向上が得られないことに基づく経済性の点で好ましい。その観点から、浸漬液中、液状油脂の量は、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
また、液状油脂の量は、加熱歩留まりを向上させる点、及び経済性の点から、酵母細胞及び塩化ナトリウムの合計量100質量部に対し60質量部以上1500質量部以下であることが好ましく、180質量部以上940質量部以下であることがより好ましく、310質量部以上850質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0022】
また本発明では、全油脂の量が浸漬液中、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明では、浸漬液が糖アルコールを含有することが更に一層歩留まりを高める点で好ましい。糖アルコールとしては、還元麦芽糖、還元水あめ、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、キシロビイトールが知られているが、還元麦芽糖、還元水あめを用いることが浸漬効率の点で好ましく、還元水あめを用いることが、食味の点で最も好ましい。
【0024】
なお、還元水あめとは、単糖から多糖までの糖アルコールの混合物であり、澱粉を酸や酵素で加水分解することにより得られる水あめを原料とし、水素添加によって水あめのグルコース末端を還元することにより製造される単糖の糖アルコール及び多糖の糖アルコール混合物の総称である。一般に還元水あめは、原料となる水あめの糖化度により分類され、糖化度の高い水あめを原料としたものを高糖化還元水あめ、糖化度の低い水あめを原料としたものを低糖化還元水あめ、中間のものは中糖化還元水あめがあり、本発明において還元水あめを用いる場合、いずれの還元水あめも用いることができ、特に制限されない。
【0025】
浸漬液が糖アルコールを含有する場合、その量は、浸漬液中、5質量%以上であることが、加熱歩留まりの向上させやすさや浸漬効果の向上の点で好ましく、20質量%以下であることが食味の点で好ましい。その観点から、浸漬液中、糖アルコールの量は、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上18質量%以下であることが特に好ましい。
また糖アルコールの量は、加熱歩留まりを向上させる点、及び食味の点から、酵母細胞及び塩化ナトリウムの合計量100質量部に対し60質量部以上1500質量部以下であることが好ましく、320質量部以上1300質量部以下であることがより一層好ましい。
【0026】
浸漬液には、アルカリ剤を更に含有することができる。アルカリ剤は、浸漬液のpHを高め、魚介類の食肉中に酵母細胞をより多く導入することで酵母細胞を用いることによる歩留まり向上効果を高める役割を有する。アルカリ剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、とりわけ炭酸塩が、保水性能が高い点で好ましく、炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムがより好ましく、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムが特に好ましい。浸漬液におけるアルカリ剤として、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムを組み合わせる場合、炭酸水素ナトリウム100質量部に対し、炭酸ナトリウムが2質量部以上15質量部以下であることが、浸漬効果の点で好ましく、5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
アルカリ剤の量としては、魚介類の肉組織中に酵母細胞を多く蓄積させやすい点等から、浸漬液中、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
浸漬液における酵母細胞は、上述した通り、酵母エキスを抽出した後の菌体を用いることが好ましいが、当該菌体である酵母細胞とともに酵母エキスを浸漬液に用いることは風味改善の点で好ましい。この場合、酵母エキスは、酵母細胞100質量部に対し30質量部100質量部以下用いることが好ましく、50質量部以上80質量部以下用いることがより好ましい。
【0029】
浸漬液は、乳化物である必要はない。浸漬液が乳化物でないことは、保水効果の点で好ましい。この観点から、浸漬液は乳化剤を含有する必要はない。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、植物レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が挙げられる。浸漬液における乳化剤の量は2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。なお、酵母細胞は上述した通り乳化剤により事前に処理されていてもいいが、その場合の酵母細胞への処理に用いる乳化剤は通常ごく微量であり、ここでいう乳化剤の量に含めてもよく、含めなくてもよい。
【0030】
浸漬液は、増粘多糖類を非含有であってもよい。浸漬液が増粘多糖類を含有しないことは、保水効果の点で好ましい。増粘多糖類としては後述する第2の浸漬用処理物の説明で挙げたものが挙げられる。浸漬液中の増粘多糖類の量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。
【0031】
浸漬液は、澱粉類を非含有であってもよい。浸漬液が澱粉類を含有しないことは、保水効果の点で好ましい。澱粉類としては後述する第2の浸漬用処理物の説明で挙げたものが挙げられる。浸漬液中の澱粉類の量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
浸漬液は上白糖、三温糖、中双糖、グラニュー糖等の単糖類又は二糖類をできるだけ含有しないことが浸漬による食感向上効果を有しない部分をなくして食感向上効果を均一化する点で好ましく、浸漬液中の単糖類又は二糖類の割合は浸漬液100質量部当たり、0.2質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0033】
浸漬液は、上述した通り、漬け込み用の液であり、衣付着用の液ではないことから、穀粉類を非含有であってもよい。穀粉類としては、小麦粉、米粉、トウモロコシ等を指す。浸漬液が穀粉類を含有しないことは、保水効果の点で好ましい。浸漬液中の穀粉類の量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
浸漬液は上白糖、三温糖、中双糖、グラニュー糖等の単糖類又は二糖類をできるだけ含有しないことが浸漬による食感向上効果を有しない部分をなくして食感向上効果を均一化する点で好ましく、浸漬液中の単糖類又は二糖類の割合は浸漬液100質量部当たり、0.2質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0035】
均質な歩留まりを得る点や食味の点から、本発明では、浸漬液がグルコースオキシダーゼ及び金属含有酵母の組み合わせを非含有であってもよい。また本発明では、浸漬液が、塩化ナトリウムに対しマグネシウムを0.025~0.7重量%含む焼き塩1重量部に対し、糖アルコールを2.5~5.5重量部、エステル化又は/及びエーテル化された澱粉誘導体を1.0~2.5重量部、及び有機酸塩を0.3~1.3重量部含有することを特徴とする食肉用改良剤を非含有であってもよい。
【0036】
均質な歩留まりを得る点や食味の点から、浸漬液における、酵母細胞、塩化ナトリウム、液状油脂、糖アルコール及びアルカリ剤以外の成分の合計量は、浸漬液中45質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
浸漬液に生肉を漬け込む際には、例えば生肉100質量部に対し、浸漬液の使用量が80質量部以上150質量部以下であることがバラツキなく浸漬できる点で好ましく、より好ましくは90質量部以上120質量部以下である。
【0038】
魚介類の生肉を浸漬液に浸漬させる温度としては、生肉の劣化防止の点や漬け込み効率の点から、1℃以上10℃以下が好適である。また魚介類の生肉を浸漬液に浸漬させる時間としては、歩留まり向上、及び食感改善に係る本発明の効果の点及び生肉の劣化防止の点から、2時間以上24時間以下が好ましく、4時間以上18時間以下がより好ましい。
【0039】
本製造方法では、次いで第2の浸漬用混合物に魚介類の生肉を浸漬させることが、更に一層の歩留まり向上を図る点や調味等の機能付与の点や加熱歩留まり向上の点で好ましい。第2の浸漬用混合物中に、後述する通り、魚介類に由来しない液状油脂及び増粘剤を含有させることで一層の歩留まり向上を図ることができる。
【0040】
魚介類の生肉は、浸漬液に浸漬させた後、ザル等の濾過手段を用いて浸漬液の液を切る処理を施してから、第2の浸漬用混合物に浸漬させることが好ましい。
【0041】
第2の浸漬用混合物としては、調味料を含む漬け込み液又は漬け込み床(以下、「第2の漬け込み液又は漬け込み床」ともいう。)を用いた場合、得られる食肉加工食品を、調味された食肉の漬け込み加工食品としての付加価値を付与できるため好ましい。調味料としては、砂糖、砂糖以外の甘味料、塩、胡椒、酢、醤油、味噌、だし、酒かす、みりん、酒、コンソメ、ケチャップ、カレー粉、アミノ酸、核酸、有機酸等が挙げられる。本発明において、調味料は含塩調味料を含むことが好ましい。含塩調味料としては、塩、醤油、味噌が好ましく挙げられる。食肉の漬け込み加工食品の種類としては、西京味噌からなる西京漬け、味醂、醤油、水あめ、砂糖からなる味醂漬け、醤油、味醂からなる醤油漬けや照り漬け、酒粕からなる粕漬け等が挙げられる。
【0042】
第2の浸漬用混合物が調味料を含む場合、第2の浸漬用混合物中の塩分量は0.3質量%以上7質量%以下であることが、食肉を柔軟な食感を高める効果と漬け込み食品としての良好な風味とを容易に両立できる点で好ましく、0.5質量%以上6.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上6.2質量%以下であることが特に好ましく、5質量%以下又は3質量%以下であってよい。
【0043】
魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂を含む液(以下、「浸漬液」ともいう。)に浸漬させた後、調味液を含む第2の処理混合物(第2の漬け込み液又は漬け込み床)に浸漬させる場合、浸漬液に魚介類の生肉を浸漬させることにより、その肉組織中に酵母細胞を蓄積させながら、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂の組み合わせによる浸漬歩留まり向上を得る。その後に、魚介類の生肉を、調味料を含有する第2の漬け込み液又は漬け込み床に浸漬させた場合、調味料を肉組織中に浸漬させることができ、風味の良好さを得ながら浸漬歩留まりの高さを焼成後の歩留まり向上に反映させることができる。従来、調味液に浸漬する前の前処理液に液状油脂を添加すると、調味液の浸透を妨げるとして通常行われていなかった。酵母細胞と液状油脂とを特定条件で併存させた浸漬液を用いることで上記効果が得られることは、本発明で初めて知見されたものである。
【0044】
本発明において、浸漬液のみならず、第2の浸漬用混合物中に魚介類に由来しない液状油脂を含有することがより一層得られる食肉食品の歩留まりが得られる点から好ましい。ただし本発明の優れた歩留まり向上効果は、浸漬液及び第2の浸漬用混合物のうち、後者にのみ液状油脂を用いた場合には奏することができない。
【0045】
第2の浸漬用混合物に魚介類に由来しない液状油脂を用いる場合、第2の浸漬用混合物中の液状油脂の量は、5質量%以上であることが、加熱した食肉加工食品の歩留まりを一層容易に向上させることができる点や外観向上の点で好ましく、20質量%以下であることが食味の点で好ましい。この観点から、前記液状油脂は、第2の浸漬用混合物中10質量%以上18質量%以下であることがより好ましい。第2の浸漬用混合物は、液状油脂以外の液体として水を含んでもよい。
【0046】
第2の浸漬用混合物が液状油脂を含有する場合、更に増粘剤を含有することが、液状油脂とともに更に歩留まりを向上させることができる点で好ましい。増粘剤としては、澱粉類及び澱粉類以外の増粘多糖類が挙げられる。
【0047】
澱粉類としては、澱粉及び加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、及びヒドロキシプロピル澱粉等が挙げられる。澱粉類の原料としては限定されず、例えばコーン、ワキシーコーン、小麦、米、馬鈴薯、キャッサバ、サゴ、甘藷等任意の植物が挙げられる。
【0048】
澱粉類以外の増粘多糖類としては、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、及びメチルセルロース、アウレオバシジウム培養液、アグロバクテリウムスクシノグリカン、アマシードガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸、ウェランガム、カシアガム、ガティガム、カードラン、カラギーナン、加工ユーケマ藻類、精製カラギーナン、ユーケマ藻末、カラヤガム、カロブビーンガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、キチン、キトサン、グァーガム、グァーガム酵素分解物、グルコサミン、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、デキストラン、トラガントガム、トロロアオイ、納豆菌ガム、微小繊維状セルロース、ファーセレラン、フクロノリ抽出物、プルラン、ペクチン、マクロホモプシスガム等が挙げられる。
【0049】
増粘剤の中でも、第2の浸漬用混合物において、澱粉類を用いることが、歩留まり向上及び食感向上効果等が特に良好となる点で好ましい。
更に、第2の浸漬用混合物が澱粉類を含有する場合、とりわけ、加工澱粉と未加工澱粉を組み合わせることが好ましい。更に本製造方法としては加工澱粉として、架橋及び/又はアセチル化が施された澱粉、特にアセチル化アジピン酸架橋澱粉を用いることが歩留まり向上及び食感向上効果等が特に良好となる点で好ましい。以上より、本発明では、アセチル化アジピン酸架橋澱粉及び澱粉を組み合わせて用いることが最も好ましい。
【0050】
更に、第2の浸漬用混合物においては澱粉類以外の増粘多糖類を用いることも歩留まり向上及び食感向上効果等が特に良好となる点で好ましい。とりわけ本発明においては増粘剤として、澱粉類と澱粉類以外の増粘多糖類を組み合わせることが加熱調理後の歩留まりや食感が良好となる効果が特に高い点で好ましく、とりわけ澱粉類とキサンタンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、ペクチン、カラギーナン、グァーガム以外のガラクトマンナン類及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも一種とを組み合わせることが好ましく、澱粉類とキサンタンガムを組み合わせることが更に一層好ましい。グァーガム以外のガラクトマンナン類とは、タラガム、ローカストビーンガムが挙げられる。
【0051】
第2の浸漬用混合物における澱粉類及び澱粉類以外の増粘多糖類の量を含めた増粘剤の量は、2.2質量%以上であることが歩留まり向上効果の点で好ましく、22質量%以下であることが食味の点で好ましい。これらの点から第2の浸漬用混合物における増粘剤の量は、5質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
増粘剤の中でも第2の浸漬用混合物が澱粉類を含有する場合、前記第2の浸漬用混合物中の澱粉類の量は、2質量%以上であることが、歩留まり向上及び食感向上効果を一層効果的に図ることができる点で好ましく、20質量%以下であることが食味の点でより好ましい。この観点から、前記第2の浸漬用混合物中の澱粉類の量は4質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
【0053】
第2の浸漬用混合物が澱粉類として加工澱粉と未加工澱粉とを組み合わせて用いる場合、未加工澱粉と加工澱粉の好ましい量比は、未加工澱粉100質量部に対して、加工澱粉が30質量部以上80質量部以下であることが好ましく、40質量部以上70質量部以下であることがより好ましい。例えば本発明が澱粉類としてアセチル化アジピン酸架橋澱粉及び澱粉を組み合わせて用いる場合、上記の加工澱粉と未加工澱粉の好ましい比率で組み合わせることが好ましい。
【0054】
前記第2の浸漬用混合物が澱粉類以外の増粘多糖類を含有する場合、前記第2の浸漬用混合物中の澱粉類以外の増粘多糖類の量は、0.2質量%以上であることが、増粘多糖類を用いることによる歩留まり向上や食感改善効果が高くなる点で好ましく、2.0質量%以下であることが食味の点で好ましい。その観点から、前記第2の浸漬用混合物における澱粉類以外の増粘多糖類の量は、前記第2の浸漬用混合物中0.4質量%以上1.4質量%以下であることが特に好ましい。
【0055】
第2の浸漬用混合物が増粘剤として澱粉類と澱粉類以外の増粘多糖類とを組み合わせて用いる場合、当該組み合わせによる歩留まり向上効果や食感改善効果を高める点から、澱粉類100質量部に対して、澱粉類以外の増粘多糖類が5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、7質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
第2の浸漬用混合物は歩留まり向上や食感向上に係る本発明の効果を首尾よく得る点から、浸漬液で浸漬させた後の生肉100質量部に対し、20質量部以上150質量部以下の量を用いることが好ましく、30質量部以上100質量部以下の量であることがより好ましい。
【0057】
魚介類の生肉を第2の浸漬用混合物に浸漬させる温度としては、生肉の劣化防止の点や漬け込み効率の点から、1℃以上10℃以下が好適である。また魚介類の生肉を第2の浸漬用混合物に浸漬させる時間としては、冷めても硬くならず脂乗り感も低下しないという本発明の効果の点から、1時間以上60時間以下が好ましく、3時間以上48時間以下がより好ましい。
【0058】
上記の方法で得られた食肉加工食品を冷凍する場合は、浸漬液に漬け込み後の生肉を第2の浸漬用混合物に上記の温度で上記の時間静置して漬け込み後、第2の浸漬用混合物が漬け込み液の場合はザルなどで液切した後に、漬け込み床の場合はヘラなどで床を概ね除去した後にパッケージに入れ、そのまま冷凍することが工程数の少なさやパッケージ質量が小さく済む点で好ましい。
【0059】
パッケージにより包装する場合、パッケージの素材としては、合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、VDC/MA(塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PA(ポリアミド)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテフタレート樹脂)及びこれらの1又は2以上の複合材が挙げられ、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリプロピレン又はこれらの複合材であることが破れにくさや保存性等の点で好ましい。密封方法としては、例えば、含気包装、脱気包装、真空包装が挙げられる。
【0060】
本発明において得られた加工食品は加圧加熱処理を行わない方法にて調理されることが、やわらかい食感を得ることができる点で好ましい。加圧加熱処理とは、レトルト食品等の製造時の加圧加熱殺菌を指す。本発明で得られる食肉加工食品は、焼き、揚げ、煮る、茹で等の加圧しない加熱調理に供されることが好ましく、特に焼き調理に供されるものであることが好ましい。焼き調理に用いる調理器具としては、例えばスチームコンベクション、フライパン、オーブン、焼き網等限定されない。焼き調理の温度は、例えば200~250℃が挙げられる。本発明で得られた食肉加工食品は冷凍又はチルド状態で流通可能であって、食品又は食品原料として各種用途に使用できる。本発明において、食肉加工食品は冷凍状態である場合、保存期間の点で好ましい。また漬け込み加工食品が冷凍状態であることは食味・食感の均一化の点でも好ましい。チルド状態では、時間経過に従い切り身表面の液体が内部へ侵入し、表面が乾燥状態となる場合がある。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0062】
(実施例1~4、比較例1、2)
表1に記載の配合にて、浸漬液を調製した。
ミートテンダライザーとしては、酵母細胞パウダー17質量%、酵母エキスパウダー11.6質量%、炭酸水素ナトリウム66.4質量%及び炭酸ナトリウム5.0質量%の混合物を用いた。酵母細胞パウダーとしては、富士食品工業株式会社のモイステックスを用いた。モイステックスは、酵母細胞から酵母エキスを抽出した後の菌体(酵母細胞の細胞壁、細胞膜等の酵母の骨格部分)を加熱殺菌し、乾燥したものを用いた。
液状油脂としては、サラダ油(原料:菜種油)を用いた。還元水あめとしては、ウエノフードテクノ社製MU-45を用いた。
未加熱の国産サケの切り身(質量は約330~340g)と、同質量の浸漬液とを混合し、浸漬液にサケの切り身を浸漬させた。浸漬状態の切り身を16時間、5℃で静置した。
浸漬液に浸漬させた後のサケの切り身を金ザルの上にあけ、5分間液切りを行った。その後、サケの切り身100質量部に対して表1に記載の照り漬け調味液A又はBを50質量部用い、調味液にサケの切り身を4時間浸漬させた。浸漬時の調味液の温度は5℃とし、静置した。浸漬後のサケの切り身を金ザルの上にあけ、調味液を5分間液切りした。その後、急速凍結機(-30℃)にて、2時間凍結した。
なお、照り漬け調味液A又はBの組成を表2に示す。表2において、澱粉類としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉と澱粉(未加工澱粉)とを質量比35:65で合わせて用いた。また、増粘多糖類としてはキサンタンガムを用いた。表2の照り漬け調味液A及びBの塩分量はいずれも2.9質量%であった。
【0063】
【表1】
(表中の%は質量%を示す。)
【0064】
【表2】
【0065】
(比較例3、4)
浸漬液による前処理を行わなかった以外は実施例1及び2と同様にした。
【0066】
(評価)
凍結後の切り身を、スチームコンベクションオーブン(ホシザキ社製スチームコンベクションオーブン(MIC-5TB3)、コンビモード、スチーム量2目盛り90%)にて220℃で12分焼成した。
実施例及び比較例において、原料、浸漬液に浸漬した液切り後、調味液に浸漬した液切り後、焼成後の各段階で原料の質量を測定し、下記式にて原料から焼成までの歩留まりを測定した。
浸漬液後歩留まり=浸漬液に浸漬した液切り後の質量/原料質量×100(%)
調味液後歩留まり=調味液に浸漬した液切り後の質量/原料質量×100(%)
歩留まり=焼成後の質量/原料質量×100(%)
また、焼成後のサケについて、下記評価基準にて、柔らかい食感を評価した。
【0067】
(柔らかい食感)
4:市販の漬け魚と同程度である。
3:市販の漬け魚に比べて若干柔らかい。
2:市販の漬け魚に比べて柔らかい。
1:市販の漬け魚に比べてかなり柔らかい。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示す通り、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂を含む浸漬液で前処理することにより、当該前処理用の浸漬液において、液状油脂を用いない比較例1及び2、及び酵母を用いた浸漬処理自体を行わない比較例3及び4に比べて、浸漬液後歩留まりが大きく向上し、その後、調味液への浸漬後、及び焼成後においても、歩留まり及び食感が改善することが判る。実施例1と比較例2とを対比しても判る通り、酵母細胞と塩化ナトリウムを含む液への液状油脂の添加は、調味液に液状油脂を添加する場合に比しても、高い歩留まり向上効果を得ることが可能である。また、実施例1及び2と実施例3及び4との比較からわかる通り、酵母細胞、塩化ナトリウム及び液状油脂を含む浸漬液に糖アルコールを添加することで特に歩留まり向上効果及び食感向上効果を高めることができることが判る。
【0070】
(比較例5、実施例5~9)
実施例3において、下記表4に示す通り、浸漬液中の液状油脂及び水の量を変更した。それらの点以外は実施例3と同様にして、浸漬液を調製した。
北米産サケの切り身(質量は約580~600g)と、同質量の浸漬液とを混合し、浸漬液にサケの切り身を浸漬させた。浸漬状態の切り身を16時間、5℃で静置した。
照り漬け調味液として、表2の実施例3と同じ調味液Aを用意した。
浸漬液に浸漬後のサケの切り身を金ザルの上にあけ、5分間液切りを行った。その後、サケの切り身100質量部に対して照り漬け調味液50質量部を用い、調味液にサケの切り身を4時間浸漬させた。浸漬時の調味液の温度は5℃とし、静置した。浸漬後のサケの切り身を金ザルの上にあけ、調味液を5分間液切りした。その後急速凍結機(-30℃)にて、2時間凍結した。
凍結したサケをスチームコンベクションオーブン(ホシザキ社製スチームコンベクションオーブン(MIC-5TB3)、コンビモード、スチーム量2目盛り90%)にて220℃で12分焼成した後、原料からの焼成歩留まりを測定した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【手続補正書】
【提出日】2022-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の生肉を、酵母細胞、塩化ナトリウム、アルカリ剤及び魚介類に由来しない液状油脂を含む浸漬液に浸漬させる工程を有し、
前記浸漬液中の酵母細胞の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、アルカリ剤の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である、食肉加工食品の製造方法(但し、以下の魚介類加工品の製造方法を除く。
(i) 魚介類原料に対してテンダライズ処理する工程、
(ii) テンダライズ処理した魚介類原料に対して減圧処理する工程、
(iii) 減圧処理した魚介類原料を、トランスグルタミナーゼを含む乳化溶液に浸漬し、魚介類原料に乳化溶液を含浸させる工程であって、乳化溶液のエマルションがナノサイズである工程を含む、魚介類加工品の製造方法。)
【請求項2】
前記浸漬液が更に糖アルコールを含む、請求項1に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬液が前記液状油脂を1.0~20.0質量%含有する、請求項1又は2に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項4】
酵母細胞が、酵母エキスを抽出した後の菌体である、請求項1~の何れか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項5】
魚介類の生肉を、前記浸漬液に浸漬させた後、魚介類に由来しない液状油脂及び増粘剤を含む混合物に浸漬させる、請求項1~の何れか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記混合物が更に調味料を含む、請求項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項7】
魚介類の生肉を
酵母細胞、塩化ナトリウム、アルカリ剤及び魚介類に由来しない液状油脂を含み酵母細胞の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、アルカリ剤の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である浸漬液に浸漬させ、次いで、調味料を含む漬け込み液又は漬け込み床に浸漬させる食肉の漬け込み加工食品の製造方法(但し、以下の魚介類加工品の製造方法を除く。
(i) 魚介類原料に対してテンダライズ処理する工程、
(ii) テンダライズ処理した魚介類原料に対して減圧処理する工程、
(iii) 減圧処理した魚介類原料を、トランスグルタミナーゼを含む乳化溶液に浸漬し、魚介類原料に乳化溶液を含浸させる工程であって、乳化溶液のエマルションがナノサイズである工程を含む、魚介類加工品の製造方法。)