IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人福岡大学の特許一覧

<>
  • 特開-医薬組成物 図1
  • 特開-医薬組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177506
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221124BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221124BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
A61K39/395 V
A61P29/00
A61P7/00
A61P31/04
A61P37/02
A61P25/00
A61P21/00
A61P19/02
A61P3/10
A61P13/12
A61P9/00
A61P27/02
C07K16/00
C12N15/13 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083812
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 允久
(72)【発明者】
【氏名】原岡 誠司
(72)【発明者】
【氏名】松山 大輔
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA10
4H045DA75
4H045EA24
(57)【要約】
【課題】IVIGが適用される疾患の治療において、総投与量を抑制することができる医薬組成物を提供する。
【解決手段】医薬組成物は、シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含み、炎症性疾患の処置に用いられる。医薬組成物が含むシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片は、1モルあたりのシアル酸含有量が0.8モル以上であってよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を含み、炎症性疾患の処置に用いられる医薬組成物。
【請求項2】
前記シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片は、1モルあたりのシアル酸含有量が0.8モル以上である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記シアル酸高含有Fc断片を少なくとも含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記炎症性疾患が、低または無ガンマグロブリン血症、重症感染症(における抗生物質との併用)、特発性血小板減少性紫斑病、川崎病、ギラン・バレー症候群、好酸球性多発血管性肉芽腫症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、視神経炎、並びにバセドウ病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症及び糸球体腎炎を含む自己免疫性疾患からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
1モルあたりのシアル酸含有量が1.5モル以上であるシアル酸高含有Fc断片。
【請求項6】
Fc断片を含む抗体調製物を準備することと、
準備した抗体調製物から、セイヨウニワトコレクチンクロマトグラフにより、シアル酸高含有Fc断片を得ることと、を含む、シアル酸高含有Fc断片の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン静注療法(IVIG)は、免疫不全(例えば、X連鎖無γグロブリン血症、低γグロブリン血症、低い抗体レベルを伴う獲得免疫障害など)、自己免疫疾患(例えば、特発性血小板減少性紫斑病など)、難治性血管炎(例えば、川崎病など)の治療に広く用いられる方法であって、Fc活性を有する免疫グロブリンG(IgG)を大量に静脈に投与することによって、各種疾患を治療する方法である。
【0003】
例えば、川崎病(KD)は、乳幼児が患う、全身性の血管炎症候群である。川崎病では、全身に存在する中型の血管が炎症を起こすことで、乳幼児に、様々な症状、例えば、発熱、発疹、冠動脈病変などを惹き起こす。0歳から4歳の乳幼児が川崎病を患うケースが多く、その中でも、1歳前後の乳幼児が川崎病を患うケースが、特に多い。川崎病を患った乳幼児は死亡する場合もあり、乳幼児が川崎病を患っているか否かをチェックし、患っている場合には、早急に治療する必要がある。そして、川崎病の治療には、一般的にIVIGが用いられている。しかしながら、IVIGによる川崎病の治療においては、患者の10%から20%が治療不応症を示し、高い割合で冠動脈瘤を発症するという課題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
川崎病の患者では、IVIG治療において内因性ヒトIgGのシアル化レベルが上昇するとIVIGによる治療不応症の可能性が低下することが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、組換えシアル化IgG1 Fcが、自己免疫性関節炎に対して抗炎症作用を有することが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。さらに、セイヨウニワトコアフィニティーカラムによる血漿免疫グロブリンの分画により得られる抗体集団が、増強された免疫調節活性を有するとされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-527850号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ogata, et al., PLOS ONE, Dec. 2013, Vol.8, Issue 12, e81448.
【非特許文献2】Washburn, et al., PNAS, Published online Mar. 2, 2015, E1297-1306.
【非特許文献3】Anthony, et al., Science, 2008 April 18; 320(5874):373-376.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
免疫グロブリン静注療法(IVIG)では、総投与量が多くなるため、患者の負担が大きい場合があった。本発明は、IVIGが適用される疾患の治療において、総投与量を抑制することができる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。第一態様は、シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含み、炎症性疾患の処置に用いられる医薬組成物である。シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片は、1モルあたりのシアル酸含有量が0.8モル以上であってよい。また医薬組成物は、シアル酸高含有Fc断片を少なくとも含んでいてよい。さらに炎症性疾患は、低または無ガンマグロブリン血症、重症感染症(における抗生物質との併用)、特発性血小板減少性紫斑病、川崎病、ギラン・バレー症候群、好酸球性多発血管性肉芽腫症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、視神経炎、並びにバセドウ病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症及び糸球体腎炎を含む自己免疫性疾患からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0009】
第二態様は、1モルあたりのシアル酸含有量が1.5モル以上であるシアル酸高含有Fc断片である。第三態様は、Fc断片を含む抗体調製物を準備することと、準備した抗体調製物から、セイヨウニワトコレクチンクロマトグラフにより、シアル酸高含有Fc断片を得ることと、を含む、シアル酸高含有Fc断片の調製方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、IVIGが適用される疾患の治療において、総投与量を抑制することができる医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】川崎病汎血管炎モデルマウスにおけるIgG、Fab及びFcの炎症抑制作用を示すグラフである。
図2】川崎病汎血管炎モデルマウスにおけるシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片の炎症抑制作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、医薬組成物を例示するものであって、本発明は、以下に示す医薬組成物に限定されない。
【0013】
医薬組成物
医薬組成物は、シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含み、炎症性疾患の処置に用いられる。医薬組成物は、少なくともシアル酸高含有Fc断片を含んでいてよい。
【0014】
IVIGが適用される疾患の治療において、シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含む医薬組成物を投与することで、IgG製剤を投与するよりも低減された投与量で十分な治療効果を得ることができる。総投与量が低減できることから、特に川崎病の急性期治療に有効である。また、IVIGにおける治療不応症を低減することができる。これは、例えば、総投与量を多くすることで、これまでの治療効果を上回ることが推測されるからと考えることができる。
【0015】
免疫グロブリンG(IgG)は、糖タンパク質分子であり、特定の分子を抗原として認識して結合する。生体内においてIgGは、細菌、ウイルス、その他微生物等の感染、増殖を抑制する役割を果たしている。IgGは、重鎖のFc部分のAsn297残基にN-結合型糖鎖を有している。この糖鎖はIgGの活性、動態等に寄与することが知られている。特にIgG上の糖鎖の末端をシアル酸修飾することでIgGの生物学的機能が制御できることが知られている。シアル酸は、ノイラミン酸のアミノ基、ヒドロキシ基が置換された物質を総称するファミリー名である。通常糖鎖の非還元末端に存在し、細胞の認識など重要な機能を担っているとされている。天然には5位がアセチル化されたN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が多く存在し、グリコール酸で修飾されたN-グライコリルノイラミン酸(Neu5Gc)が次に多く存在する。本明細書におけるシアル酸は、主としてN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を意味する。
【0016】
シアル酸高含有IgG抗体は、血液から採取されるIgGよりもシアル酸の含有率が高いIgGを意味する。シアル酸高含有IgG抗体におけるシアル酸の含有率は、IgGの1モルあたり、例えば0.8モル以上であってよく、好ましくは1モル以上、1.5モル以上、1.6モル以上、2モル以上、2.4モル以上、又は3モル以上であってよい。シアル酸高含有IgG抗体におけるシアル酸の含有率の上限は、例えば5モル以下、又は4モル以下であってよい。
【0017】
IgGに含まれるシアル酸の含有量は、例えば、試料をシアリダーゼ処理してシアル酸を遊離させ、遊離したシアル酸を蛍光標識して、HPLCを用いて分析することで定量することができる。
【0018】
シアル酸高含有IgG抗体を構成するIgGは、IgG1からIgG4のいずれかであってもよいし、IgG1からIgG4のすべてを含んでいてもよい。IgG1からIgG4のすべてを含むことでより優れた効果を奏することができる。IgGの由来は、哺乳動物由来の血漿であってもよいし、ヒト由来の血漿であってもよい。また、リコンビナントであってもよい。
【0019】
シアル酸高含有IgG抗体は、血液から採取されるIgG又はリコンビナントIgGをシアル酸転移酵素で処理することでシアル酸を付加して調製することができる。また、レクチンクロマトグラフを用いて、血液から採取されるIgGからシアル酸を有するIgGを濃縮することで調製してもよい。
【0020】
シアル酸高含有Fc断片は、血液から採取されるIgGをパパイン処理して得られるFc断片よりもシアル酸含有率が高いFc断片を意味する。シアル酸高含有Fc断片におけるシアル酸の含有率は、Fc断片の1モルあたり、例えば0.4モル以上であってよく、好ましくは0.8モル以上、1モル以上、1.2モル以上、1.5モル以上、1.6モル以上、1.7モル以上、又は1.8モル以上であってよい。シアル酸高含有Fc断片におけるシアル酸の含有率の上限は、例えば5モル以下、4モル以下、又は3モル以下であってよい。Fc断片に含まれるシアル酸の含有量は、IgGの場合と同様にして定量することができる。
【0021】
シアル酸高含有Fc断片は、シアル酸高含有IgG抗体をパパイン処理してFc断片を回収することで調製することができる。また、血液から採取されるIgGから調製されるFc断片又はリコンビナントFc断片をシアル酸転移酵素で処理することでシアル酸を付加して調製することができる。更に、後述するシアル酸高含有Fc断片の調製方法によって調製してもよい。
【0022】
医薬組成物は、炎症性疾患の処置に用いられる。ここで処置とは、疾患について施される何らかの処置であればよく、例えば、疾患の治療、改善、進行の抑制(悪化の防止)、予防、疾患に起因する症状の緩和等が挙げられる。また、炎症性疾患としては、低または無ガンマグロブリン血症、重症感染症(における抗生物質との併用)、特発性血小板減少性紫斑病、川崎病、ギラン・バレー症候群、好酸球性多発血管性肉芽腫症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、視神経炎、自己免疫疾患等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。更に、自己免疫疾患としては、バセドウ病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、血管炎、アジソン病、多発性筋炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症、糸球体腎炎等が挙げられる。自己免疫疾患は、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0023】
医薬組成物は、シアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片からなる群から選択される少なくとも1種を含む有効成分と、薬学的に許容される担体とを用いて、従来法に従って調製することができる。
【0024】
医薬組成物の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤などが挙げられ、例えば静脈を経由して投与される。薬学的に許容される担体としては、医薬品の製剤に慣用されている担体であれば、いずれも使用することができる。担体としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤またはpH調整剤、無痛化剤などが挙げられる。更に必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、消泡剤、粘稠剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0025】
溶剤としては、例えば、精製水、エタノール、プロピレングリコール、マクロゴール、などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、ポビドン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、D-マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤またはpH調整剤としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0026】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などが挙げられる。消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサンまたはシリコン消泡剤などが挙げられる。粘稠剤としては、例えばキサンタンガム、トラガント、メチルセルロースまたはデキストリンなどが挙げられる。
【0027】
医薬組成物は、必要に応じて、他の抗炎症剤を含有していてもよく、他の抗炎症剤と併用してもよい。他の抗炎症剤としては、例えばアスピリン等の非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、ステロイド剤などが挙げられる。
【0028】
医薬組成物における有効成分の含量は、剤形、投与量等により異なるが、例えば、組成物全体の0.1質量%以上20質量%以下、又は0.1質量%以上10質量%以下である。また、医薬組成物の投与用量は、投与対象、疾患、症状、剤形、投与ルート等により適宜選択される。投与用量は、例えば、有効成分として、1日あたり、通常約0.1mg以上500mg以下、又は約0.5mg以上100mg以下であり、1回又は数回に分けて投与することができる。
【0029】
炎症性疾患の処置方法
炎症性疾患の処置方法は、有効量の前記医薬組成物を、対象に投与することを含み、炎症性疾患を処置する方法である。医薬組成物の詳細および投与方法は既述の通りである。処置の対象は、例えば、哺乳動物であり、哺乳動物はヒトを含む。また、処置の対象は、非ヒト動物であってもよい。
【0030】
本発明は、別の態様として、炎症性疾患の処置に用いられる医薬組成物の製造におけるシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片の使用、炎症性疾患の処置におけるシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片の使用、炎症性疾患の処置に使用されるシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片をも包含する。
【0031】
シアル酸高含有Fc断片
シアル酸高含有Fc断片は、Fc断片とFc断片に結合する糖鎖とを含み、1モルあたりのシアル酸含有量が1.5モル以上である。シアル酸高含有Fc断片におけるシアル酸含有量は、好ましくは1.6モル以上、1.7モル以上、又は1.8モル以上であってよい。シアル酸高含有Fc断片におけるシアル酸の含有率の上限は、例えば5モル以下、又は3モル以下であってよい。
【0032】
シアル酸高含有Fc断片は、IVIGに用いられる通常のIgGに比べて、優れた抗炎症作用を有しし、炎症性疾患の処置に好適に用いられる。
【0033】
シアル酸高含有Fc断片の調製方法
シアル酸高含有Fc断片の調製方法は、Fc断片を含む抗体調製物を準備する準備工程と、準備した抗体調製物から、セイヨウニワトコレクチンクロマトグラフにより、シアル酸高含有Fc断片を得る濃縮工程と、を含み、必要に応じて他の工程を含んでいてよい。
【0034】
準備工程では、Fc断片を含む抗体調製物を準備する。Fc断片を含む抗体調製物は、例えば、IgGをパパイン処理してパパイン処理物を得ることと、パパイン処理物からプロテインGカラムを用いてFc断片を回収することを含む調製方法で準備することができる。回収されるFc断片を含む抗体調製物は、ゲル濾過等によって更に精製されてもよい。また、Fc断片を含む抗体調製物をシアル酸転移酵素で処理してFc断片にシアル酸をさらに付加してもよい。
【0035】
IgGのパパイン処理によって、IgGがFab断片とFc断片とに分解される。IgGの由来は、例えばヒトを含む哺乳動物の血漿であってよい。また、パパイン処理の条件は通常用いられる条件を適用すればよい。パパイン処理後にはパパインを不活化する。その後、プロテインGカラムを用いてFc断片と未反応のIgGを吸着し、洗浄した後、吸着したFc断片を溶出することで、Fc断片を含む抗体調製物が回収される。さらに、Fc断片を含む抗体調製物をゲル濾過に付してもよい。これにより、混入する未分解のIgGを効果的に分離することができ、Fc断片の純度をより高めることができる。
【0036】
濃縮工程では、Fc断片を含む抗体調製物から、セイヨウニワトコレクチンクロマトグラフによってシアル酸高含有Fc断片を得る。Fc断片を含む抗体調製物を、セイヨウニワトコレクチンを担持するカラムに付して、シアル酸を含むFc断片を吸着し、洗浄した後、吸着したFc断片を溶出することで、シアル酸高含有Fc断片を得ることができる。セイヨウニワトコレクチンを担持するカラムは、市販品から適宜選択して用いることができる。また、洗浄、溶出は通常用いられる条件を適用して実施することができる。レクチンクロマトグラフの溶出画分は、ゲル濾過等によって更に精製されてもよい。これにより、レクチンクロマトグラフで濃縮されるシアル酸含有IgGを効果的に分離することができ、シアル酸高含有Fc断片の純度をより高めることができる。
【0037】
シアル酸高含有Fc断片の調製方法では、IgGからFc断片を含む抗体調製物を得て、抗体調製物からシアル酸高含有Fc断片を濃縮することで、シアル酸含有量がより高いFc断片を容易に得ることができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
シアル酸高含有IgGの調製
健常人血漿からエタノール分画により精製されたIgG溶液をレクチンカラム(Sambucus Nigra Lectin(SNA,EBL),Agarose bound;Vector Laboratories社)にアプライした。洗浄バッファー(50mM Tris,0.15M NaCl pH7.5)で洗浄した後、溶出バッファー(0.5M ラクトース,50mM Tris,0.15M NaCl pH7.5;0.5M ラクトース,0.2M 酢酸)で順次溶出して、シアル酸高含有IgG抗体を得た。
【0040】
実施例2
シアル酸高含有Fcの調製
健常人血漿からエタノール分画により精製されたIgG溶液を、パパイン(Sigma-Aldrich)で処理してパパイン処理物を得た。パパインを不活化した後、ProteinG Sepharose 4FF(cytiva社)にアプライし、適宜洗浄後、溶出して、プロテインG溶出液を得た。プロテインG溶出液をゲル濾過(HiLoad 26/600 Superdex 200pg;cytiva社)にて精製して、Fc画分を回収した。
【0041】
得られたFc画分を、レクチンカラム(Sambucus Nigra Lectin(SNA,EBL),Agarose bound;Vector Laboratories社)にアプライした。洗浄バッファー(50mM Tris,0.15M NaCl pH7.5)で洗浄した後、溶出バッファー(0.5M ラクトース,50mM Tris,0.15M NaCl pH7.5;0.5M ラクトース,0.2M 酢酸)で順次溶出し、溶出画分をゲル濾過で精製してシアル酸高含有Fc断片を得た。
【0042】
シアル酸含有量の評価
試料をシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ;ナカライテスク社製)で処理してシアル酸を遊離させた。次いでシアル酸蛍光標識用試薬キット(タカラバイオ社製)を用いて、遊離したシアル酸を蛍光標識した。逆相HPLC(TSKgel ODS-100V 5μm:東ソー社製)によりシアル酸を定量した。IgG分子又はその断片分子1モルあたりのシアル酸(Neu5Ac)含有量に換算した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
カンジダアルビカンス細胞壁抽出物(CAWE)の調製
カンジダアルビカンスSC5314株をイーストペプトンデキストロース寒天培地上で、37℃、48時間で好気的に培養した。細胞を寒天培地から回収し、蒸留水で3回洗浄した。回収した細胞を0.5M KOHにて2時間煮沸して抽出物を得た。次いでアルカリを中和してpH7.2に調整し、水で3日間透析した。エタノールで沈殿させた後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁して、終濃度100mg/mlに調整して、カンジダアルビカンス細胞壁抽出物を得た。
【0045】
川崎病汎血管炎モデルマウスの作製
4週齢のDBA/2オスマウスに、上記で調製したカンジダアルビカンス細胞壁抽出物(CAWE)を4mgずつ5日連続して腹腔内投与した。試験群には2g/kg/0.5mlの試験薬を、CAWE投与の1日目、3日目、5日目に、腹腔内投与した。対照群(コントロール)には生理食塩水を同様に腹腔内投与した。マウスを8週齢まで飼育した後、冠動脈の組織解析を実施した。組織解析は、以下の基準を用いた定量的組織解析として実施した。
【0046】
基準
Grade 1;浸潤細胞数<20個/HPF
Grade 2;<100個/HPF
Grade 3;≧100個/HPF
Grade 4;内弾性板破壊
Grade 5;新生内膜浸潤
【0047】
試験薬として、IgG(IVIG用)、常法によりIgGから調製したFab及びFcを用いた結果を表2及び図1に示す。表2にはGradeの平均値を示す。また、有意差はMann Whitney testで検定した。
【0048】
試験薬の投与量を1/10(0.2g/kg/0.5ml)として、IgG(IVIG用)、上記で得られたシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fc断片を用いた結果を表2及び図2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図1に示されるように、コントロールでは5匹ともGrade 3以上の冠動脈炎の所見が見られた。一方、IgG又はFc投与群では冠動脈炎が抑制された。また、Fab投与群では炎症の抑制効果が不十分であった。
【0051】
図2に示されるように1/10量IgG(IVIG用途)では、炎症の抑制効果が不十分であった。一方、1/10量のシアル酸高含有IgG抗体及びシアル酸高含有Fcでは、効果的に冠動脈炎が抑制された。
図1
図2