(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177515
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】加工フィルムの製造方法及び加工フィルム
(51)【国際特許分類】
B24C 1/06 20060101AFI20221124BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20221124BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B24C1/06
B24C11/00 G
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083825
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 雅章
(72)【発明者】
【氏名】位田 洋治
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AA60
4F071AG25
4F071AH12
4F071BC01
4F071BC15
4F071BC16
(57)【要約】
【課題】反射率、密着性等に優れた粗面化加工フィルムを、効率よく製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】ブラスト処理が施された加工フィルムの製造方法であって、フィルムの被処理面にショットブラスト処理(高速で回転するローターに設けられたブレードから噴射される研磨剤を加工対象物に送り込む処理)を施した後、該被処理面に、ウエットブラスト処理(水流中に研磨剤を混ぜて高圧ポンプから噴射することで研磨剤を加工対象物に送り込む処理)を施すことにより、加工フィルムを製造することを特徴とする加工フィルムの製造方法により上記課題を解決した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラスト処理が施された加工フィルムの製造方法であって、フィルムの被処理面にショットブラスト処理を施した後、該被処理面に、ウエットブラスト処理を施すことにより、加工フィルムを製造することを特徴とする加工フィルムの製造方法。
【請求項2】
ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムの界面展開面積比が、ショットブラスト処理を施した時点におけるフィルムの界面展開面積比の1.5倍以上である請求項1に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項3】
ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムの算術平均高さ(Sa)が1μm以上2μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.3以上である請求項1又は請求項2に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項4】
ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムの算術平均高さ(Sa)が0.2μm以上0.6μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.1以上である請求項1又は請求項2に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項5】
算術平均高さ(Sa)が1μm以上2μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.3以上であることを特徴とする加工フィルム。
【請求項6】
算術平均高さ(Sa)が0.2μm以上0.6μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.1以上であることを特徴とする加工フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラスト処理により粗面化された加工フィルムの製造方法や、主にかかる加工フィルムの製造方法により製造される加工フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルムに対して、反射の抑制、貼り合わせ性の向上、印刷適性の向上、等を目的として、表面に微細な凹凸を形成する粗面化加工が行われている。
かかる粗面化加工の手法として、ブラストが挙げられる。ブラストにおいては、研磨剤の粒子を対象物の表面に衝突させることにより、対象物の表面に凹凸を形成する。ブラストの具体的な手法としては、ショットブラスト、エアーブラスト、ウエットブラスト等がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、フィルム表面に対してショットブラストした後、フィルムの幅方向全幅にエアーブラストを行う加工方法が記載され、マットムラが少なく、研磨材との帯電による静電気模様がなく、水洗後の研磨材の付着が少ないフィルムができ、非マット面に金属蒸着した場合の白濁がなく、きれいな蒸着面を作ることができる、とされている。
【0004】
特許文献2には、透明フィルムの片面に金属蒸着面を形成するとともに、反対面にマット加工面を形成してなり、特定の粗さを有する金属蒸着化フィルムが記載されており、観察者が反射した光を見ても光源の形状が完全に認識できない意匠性の高いマット調の金属蒸着化フィルムが得られる、とされている。特許文献2の実施例においては、マット加工面をブラスト加工により形成している。
【0005】
特許文献3には、表面に所定の凹凸形状を有し、粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータが特定の条件を満たす高分子フィルムの粗化処理において、ウエットブラスト法等のサンドブラスト法が使用されることが記載されており、かかる高分子フィルムには、導電性金属膜を強固に密着させることができる、とされている。
【0006】
しかしながら、粗面化加工されたフィルムにおいて、反射率、密着性等の性能の点や、コストの点から、かかる公知技術では不十分であり、改良の余地がまだまだある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-243497号公報
【特許文献2】特開平7-34227号公報
【特許文献3】特開2007-92036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、反射率、密着性等に優れた粗面化加工フィルムを、効率よく製造することのできる方法を提供することにあり、また、かかる粗面化加工フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フィルムのブラスト加工において、まず、ショットブラストによる加工を施した後に、ウエットブラストによる加工を施すことによって、加工スピードを大きくしても、フィルムの被処理面の表面積を極めて大きくすることができ、密着性の優れたフィルムとすることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ブラスト処理が施された加工フィルムの製造方法であって、フィルムの被処理面にショットブラスト処理を施した後、該被処理面に、ウエットブラスト処理を施すことにより、加工フィルムを製造することを特徴とする加工フィルムの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、算術平均高さ(Sa)が1μm以上2μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.3以上であることを特徴とする加工フィルムを提供するものである。
【0012】
また、本発明は、算術平均高さ(Sa)が0.2μm以上0.6μm以下であって、かつ、界面展開面積比(Sdr)が、0.1以上であることを特徴とする加工フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粗面化加工されたフィルムにおいて、従来の方法に比べて、より細かいマット形成ができ、フィルムを無反射化することができる。
【0014】
本発明では、ショットブラストと、その後に行うウエットブラストという2つの方法でフィルムを加工することにより、フィルムの被処理面の表面積を大きくすることができ、その結果、他の部材との密着性にすぐれたフィルムとすることができる。
【0015】
本発明では、加工の最後の工程をウエットブラストにより行うので、ショットブラストを行った際に、フィルム表面に残存する残砂が、ウエットブラストを行う際の水流により落とされ、残砂の少ないフィルムとすることができる。
また、本発明では、加工の最後の工程をウエットブラストにより行うので、毛羽立ちを軽減することができる。
【0016】
本発明では、加工スピードを上げても、反射率、密着性等の性能に優れた粗面化フィルムとすることができるので、生産性を向上させることができ、コスト削減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ブラスト処理を施す前のPETフィルムの画像である。
【
図2】ショットブラスト処理を施した後、ウエットブラスト処理を施したPETフィルムの画像である。
【
図3】ショットブラスト処理を施したPETフィルムの画像である。
【
図4】ウエットブラスト処理を施したPETフィルムの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0019】
本明細書における面の表面粗さに関するパラメータ(Sa、Sz、Sdr、Sal)は、何れも、ISO25178に規定される方法で測定される。
【0020】
本発明は、粗面化加工を施された加工フィルムの製造方法に関する。「粗面化加工」とは、フィルム表面のSa(算術平均高さ)を、加工前に比べて上昇させる加工をいう。
【0021】
本発明は、ブラスト処理が施された加工フィルムの製造方法に関する。「ブラスト」とは、加工対象物の表面に研磨剤の粒子を衝突させることにより、表面を粗面化する加工方法全般をいう。
【0022】
ブラストには、高速で回転するローターに設けられたブレードから噴射される研磨剤を加工対象物に送り込む方法(ショットブラスト)、コンプレッサーにより圧縮された空気を使って研磨剤を加工対象物に送り込む方法(エアーブラスト)、水流中に研磨剤を混ぜて高圧ポンプから噴射することで研磨剤を加工対象物に送り込む方法(ウエットブラスト)、等がある。
【0023】
本発明において、加工対象物である(粗面化加工を施される)フィルムの材質に特に限定はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)、延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のフィルムが本発明に適用できる。
【0024】
本発明において、粗面化加工を施されるフィルムの加工前の平均厚さに特に限定はないが、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、12μm以上であることが特に好ましい。また、1000μm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましく、350μm以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明では、フィルムの被処理面にショットブラスト処理を施す工程(以下、「ショットブラスト工程」という場合がある。)を行った後、該被処理面に、ウエットブラスト処理を施す工程(以下、「ウエットブラスト工程」という場合がある。)を行うことにより、加工フィルムを製造する。
【0026】
本発明では、最初に、ショットブラスト工程を行う。ショットブラスト工程に使用される装置(ローター)としては、公知の装置(ローター)を適宜使用することができる。
【0027】
ショットブラスト工程においては、通常、加工対象物であるフィルムを、略一定速度で走行させながら、フィルムの走行経路上に設置されたローターから噴出される研磨剤を、フィルム表面に衝突させる。
【0028】
設置するローターの数に特に制限はないが、1~30個が好ましく、3~25個がより好ましく、5~20個が特に好ましい。
ローターは、フィルムが均一に加工(ショットブラスト処理)されるように配置するのが望ましい。
【0029】
ショットブラスト工程において使用される研磨剤に特に限定はなく、例えば、珪砂、アルミナ、カーボランダム、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が例示でき、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した研磨剤のうち、安価である、再利用が可能である、等の理由から珪砂が特に好ましい。
【0030】
ショットブラスト工程において使用される研磨剤は、粒径分布がブロードなものを使用することができる。また、そのようにするのが好ましい。研磨剤の体積平均粒径に特に限定はないが、通常、50μm~500μmのものを使用する。また、好ましくは70μm~400μm、特に好ましくは100μm~300μmのものを使用することができる。該範囲内において、所望する加工後のフィルムの性状に応じて、体積平均粒径を適宜選択することができる。
【0031】
研磨剤の使用量(ローターからの噴射量)は、146kg/Hr以上であることが好ましく、188kg/Hr以上であることがより好ましく、230kg/Hr以上であることが特に好ましい。また、416kg/Hr以下であることが好ましく、333kg/Hrであることがより好ましく、250kg/Hr以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、十分にフィルム表面を粗面化することができ、また、コスト面からも好ましい。
【0032】
ショットブラスト工程におけるフィルムの走行速度は、1m/min以上であることが好ましく、3m/min以上であることがより好ましく、5m/min以上であることが特に好ましい。また、100m/min以下であることが好ましく、70m/minであることがより好ましく、50m/min以下であることが特に好ましい。
上記下限以上であると、生産性の面からも好ましい。また、上記上限以下であると、好適にフィルム表面を粗面化することができる。特に、次のウエットブラスト工程を施した際に、Sdrの大きいフィルムになりやすい。
【0033】
ショットブラスト工程において走行させるフィルムの幅(走行方向に対して垂直方向の長さ)は、300mm以上であることが好ましく、400mm以上であることがより好ましく、500mm以上であることが特に好ましい。また、2000mm以下であることが好ましく、1500mmであることがより好ましく、1350mm以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明において、ショットブラスト工程は、1回のみ(1パスで)行ってもよいし、複数回行ってもよい。
【0035】
本発明において、ショットブラスト工程を行った後のフィルムの線の算術平均高さ(Ra)(JIS B 0601)は、0.1~2.0μm程度となるようにするのが好ましく、0.2~1.2μm程度となるようにするのが特に好ましい。
フィルムが均一に加工できている場合、面の算術平均高さ(Sa)は、Raと同様の値となる。
【0036】
本発明において、ショットブラスト工程を行った後のフィルムの面の最大高さ(Sz)は、1.0~40.0μm程度となるようにするのが好ましく、5.0~35.0μm程度となるようにするのが特に好ましい。
【0037】
本発明では、ショットブラスト工程を行った後に、ウエットブラスト工程を行う。ウエットブラスト工程は、ショットブラスト工程の直後に行ってもよいし、ウエットブラスト工程とショットブラスト工程との間に洗浄等の工程を挟んでもよい。
【0038】
ウエットブラスト工程においては、ウエットブラスト装置の噴射ノズルから、水と混合された状態の研磨剤(スラリー)を噴射し、フィルムの被処理面(ショットブラスト工程において粗面化加工された面)に衝突させる。
【0039】
ウエットブラスト装置としては、公知の装置を適宜使用することができる。噴射ノズルは、研磨剤(スラリー)をスポット状に噴射するものであってもよいし、ライン状に噴射するものであってもよい。
【0040】
使用するウエットブラスト装置(噴射ノズル)の数に特に制限はないが、1~30個が好ましく、3~25個がより好ましく、5~20個が特に好ましい。
ウエットブラスト装置(噴射ノズル)は、フィルムが均一に加工(ウエットブラスト処理)されるように配置するのが望ましい。
【0041】
ウエットブラスト工程において使用される研磨剤に特に限定はなく、例えば、珪砂、アルミナ、カーボランダム、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が例示でき、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した研磨剤のうち、シャープな粒系分布をもつアルミナが特に好ましい。
【0042】
ウエットブラスト工程において使用される研磨剤は、粒径分布がシャープなものを使用するのが好ましく、研磨剤の体積平均粒径に特に限定はないが、通常、20μm~100μmのものを使用する。また、好ましくは25μm~80μm、特に好ましくは30μm~70μmのものを使用することができる。
【0043】
噴射ノズルから噴射するスラリーにおける研磨剤の含有率は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%であることがより好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
ウエットブラスト工程における研磨剤の噴射量は、10g/min以上であることが好ましく、30g/min以上であることがより好ましく、50g/min以上であることが特に好ましい。また、1000g/min以下であることが好ましく、800g/minであることがより好ましく、500g/min以下であることが特に好ましい。
また、噴射圧力は、0.01MPa以上であることが好ましく、0.03MPa以上であることがより好ましく、0.05MPa以上であることが特に好ましい。また、2MPa以下であることが好ましく、1MPaであることがより好ましく、0.5MPa以下であることが特に好ましい。
【0045】
本発明において、ウエットブラスト工程は、ショットブラスト工程と同一のラインで実施してもよいし、別のラインで実施してもよい。
【0046】
ウエットブラスト工程をショットブラスト工程と同一のラインで実施する場合、フィルムの走行速度の好ましい範囲は、必然的に前記したものと同様となる。
ウエットブラスト工程をショットブラスト工程と別のラインで実施する場合、ウエットブラスト工程におけるフィルムの走行速度は、1m/min以上であることが好ましく、3m/min以上であることがより好ましく、5m/min以上であることが特に好ましい。また、100m/min以下であることが好ましく、70m/minであることがより好ましく、50m/min以下であることが特に好ましい。
【0047】
ウエットブラスト工程において走行させるフィルムの幅の好ましい範囲は、前記したショットブラスト工程におけるフィルムの幅と同様である(わざわざ切断等を行う必要はない)。
【0048】
本発明において、ウエットブラスト工程は、1回のみ(1パスで)行ってもよいし、複数回行ってもよい。
【0049】
本発明において、ウエットブラスト工程を行った後のフィルムの線の算術平均高さ(Ra)(JIS B 0601)は、0.1~2.5μm程度となるようにするのが好ましく、0.5~1.7μm程度となるようにするのが特に好ましい。
フィルムが均一に加工できている場合、面の算術平均高さ(Sa)は、Raと同様の値となる。
【0050】
本発明において、ウエットブラスト工程を行った後のフィルムの面の最大高さ(Sz)は、5.0~40μm程度となるようにするのが好ましく、9.0~32μm程度となるようにするのが特に好ましい。
【0051】
ショットブラスト工程の後にウエットブラスト工程を実施する本発明の方法では、Sdr(界面の展開面積比)の大きいフィルムを製造することができる。
【0052】
Sdrは、定義領域の表面積が、定義領域が完全に平坦だと仮定した場合の表面積に対してどれだけ増大しているかを表す指標であり、完全に平坦な面のSdrは0である。Sdrが大きいということは、表面積が大きく、例えば、他の素材との密着性が良好であることを意味する。
【0053】
一般に、ウエットブラストでは、Sdrを大きくできる傾向にあるが、本発明の方法では、ショットブラストとウエットブラストのマッチングにより、ウエットブラストを複数回繰り返した場合や、ウエットブラストにおける走行速度を小さくした場合よりも、Sdrの大きなフィルムを製造することができる。
【0054】
例えば、本発明の方法で、ショットブラスト工程の後にウエットブラスト工程を実施すると、ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムの算術平均高さ(Sa)が1μm以上2μm以下の場合、界面展開面積比(Sdr)が0.3以上である加工フィルム、0.35以上である加工フィルム、0.4以上である加工フィルム、0.45以上である加工フィルム、等を製造することができる。
上記加工フィルムの要件は、例えば、フィルムの材質がポリエチレンテレフタレート(PET)の場合に好適である。
【0055】
また、本発明の方法で、ショットブラスト工程の後にウエットブラスト工程を実施すると、ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムの算術平均高さ(Sa)が0.2μm以上0.6μm以下の場合、界面展開面積比(Sdr)が0.1以上である加工フィルム、0.11以上である加工フィルム、0.12以上である加工フィルム、0.13以上である加工フィルム、等を製造することができる。
上記加工フィルムの要件は、例えば、フィルムの材質がポリイミド(PI)の場合に好適である。
【0056】
本発明では、ウエットブラスト処理を施した時点における加工フィルムのSdrが、ショットブラスト処理を施した時点におけるフィルムのSdrの1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.7倍以上であることが特に好ましい。
【0057】
ウエットブラスト工程完了後(粗面化加工完了後)のフィルムには、適宜、洗浄や乾燥等の工程が実施される。
【0058】
本発明の方法で加工フィルムを製造した場合に、反射率、密着性等の性能に優れたフィルムが得られる(特に、Sdrの大きなフィルムが得られる)作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし本発明は、以下の作用効果の範囲に限定されるわけではない。
【0059】
ショットブラストを施した後のフィルムの表面は、ブロードな粒径の研磨剤により形成された細かめの凹凸を持つ。このような状態の表面に、更に、ウエットブラストを施すことにより、シャープな粒径の研磨剤によりばらつきのある大きな凹凸が形成されるため、最終的に得られるフィルムの表面のSdrが極めて大きくなるものと推察される。
仮に、最初からフィルムの表面に、比較的Sdrを大きくできる加工方法であるウエットブラストを施し、ウエットブラストを複数回繰り返したとしても、上記のような効果は得られず、フィルムの表面のSdrは、本発明の方法で加工した場合に比べて大きくならない。
【実施例0060】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの粗面化加工]
実施例1
平均厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(
図1に拡大画像を示す。)に対して、以下の条件のショットブラスト工程を1パスで実施した。
【0062】
<ショットブラスト工程>
・フィルムの走行速度:20m/min
・フィルムの幅:1350mm
・ショットブラスト装置(ローター)の数:12個
・研磨剤:7号珪砂
・研磨剤の噴射量:188kg/Hr以上
【0063】
次いで、フィルムのショットブラスト処理を施した面に、更に、以下の条件のウエットブラスト工程を1パスで実施した。
【0064】
<ウエットブラスト工程>
・フィルムの走行速度:20m/min
・フィルムの幅:1350mm
・研磨剤:アルミナ#320(体積平均粒径:40μm)
・研磨剤の含有率:15vol%
・研磨剤の噴射圧力:0.2MPa
【0065】
ウエットブラスト工程後のフィルムを水で洗浄し、次いで乾燥した。加工完了後のフィルムの拡大画像を
図2に示す。
【0066】
比較例1
実施例1で使用したのと同じポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、ショットブラスト工程のみを1パスで実施し、洗浄・乾燥した以外は、実施例1と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。加工完了後のフィルムの拡大画像を
図3に示す。
【0067】
比較例2
実施例1で使用したのと同じポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、ウエットブラスト工程のみを1パスで実施し、洗浄・乾燥した以外は、実施例1と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。加工完了後のフィルムの拡大画像を
図4に示す。
【0068】
[ポリイミド(PI)フィルムの粗面化加工]
実施例2
実施例1において、「平均厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」に替えて、「平均厚さ100μmのポリイミド(PI)フィルム」を使用した以外は、実施例1と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。
【0069】
比較例3
実施例2で使用したのと同じポリイミド(PI)フィルムに、ショットブラスト工程のみを1パスで実施し、洗浄・乾燥した以外は、実施例2と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。
【0070】
比較例4
実施例2で使用したのと同じポリイミド(PI)フィルムに、ウエットブラスト工程のみを1パスで実施し、洗浄・乾燥した以外は、実施例2と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。
【0071】
比較例5
実施例2で使用したのと同じポリイミド(PI)フィルムに、ウエットブラスト工程のみを2パスで実施し、洗浄・乾燥した以外は、実施例2と同様にして、粗面化加工されたフィルムを作製した。
【0072】
[フィルムの表面粗さについて]
各実施例・比較例で作製したフィルムの被処理面の表面粗さ、及び未加工フィルムの表面粗さに関する各パラメータを、形状解析レーザ顕微鏡VK-X1000((株)キーエンス製)によって測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
PETフィルムの場合も、PIフィルムの場合も、ショットブラスト工程の後にウエットブラスト工程を実施することにより(実施例1、2)、フィルムのSdrを大きな値とすることができた。すなわち、被処理面の表面積が極めて大きく、本発明により、密着性の優れたフィルムを製造できることが示唆された。
【0076】
一般に、ウエットブラストによる加工は、Sdrを大きく(表面積を大きく)できる傾向にあるが、実施例2(ショットブラスト1パス+ウエットブラスト1パス)のフィルムは、比較例5(ウエットブラスト2パス)のフィルムよりもSdrが格段に大きく、ショットブラストとウエットブラストのマッチングにより、極めて密着性の優れたフィルムにできることが示唆された。
【0077】
[残砂について]
実施例1・比較例1で作製したPETフィルム、及び、未加工のPETフィルムの表面について、走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus II((株)リガク製)により、Si-Kα線の強度を測定した。
【0078】
未加工PETフィルムにおけるSi-Kα線の強度は、1.86kcpsであった。
実施例1で作製したPETフィルムにおけるSi-Kα線の強度は、2.52kcps(未加工フィルムとの差は0.66kcps)であった。
比較例1で作製したPETフィルムにおけるSi-Kα線の強度は、59.87kcps(未加工フィルムとの差は58.01kcps)であった。
【0079】
ショットブラスト工程の後にウエットブラスト工程を実施することにより、ショットブラスト工程で使用した研磨剤である珪砂による残砂を99%削減することができた。
本発明の加工フィルムの製造方法は、反射率、密着性等に優れた粗面化加工フィルムを、効率よく製造することのできるので、電子機器用、タッチパネル用、等の用途に使用される基材フィルムの製造に広く利用されるものである。