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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017752
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】テアニン生産菌の作製法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220119BHJP
   C12N 15/32 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220119BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220119BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N15/32 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/53
C12N15/55
C12N15/60
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120482
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松宮 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】駒 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大本 貴士
(72)【発明者】
【氏名】森芳 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 勇人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 博之
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD09
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB15
4B065BC01
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物として、新規の微生物を提供することに関する。また、新たなテアニン又はその塩の製造方法について提供することに関する。
【解決手段】炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物であって、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む、微生物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物であって、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む、微生物。
【請求項2】
異種生物由来のアラニン脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を更に含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
異種生物由来のアラニン脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、又はバチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)由来の遺伝子である、請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質が、下記(1)~(3)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項1~3いずれかに記載の微生物。
(1)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(2)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質
(3)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質
【請求項5】
アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、下記(a1)~(a4)のいずれかに記載の遺伝子である、請求項1~4いずれかに記載の微生物。
(a1)請求項4で規定されるアミノ酸配列をコードする遺伝子
(a2)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列からなる遺伝子
(a3)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(a4)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項6】
γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質が、下記(4)~(6)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項1~5いずれかに記載の微生物。
(4)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(5)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質
(6)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質
【請求項7】
γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、下記(b1)~(b4)のいずれかに記載の遺伝子である、請求項1~6いずれかに記載の微生物。
(b1)請求項6で規定されるアミノ酸配列をコードする遺伝子
(b2)配列番号11又は13に記載のDNA配列からなる遺伝子
(b3)配列番号11又は13に記載のDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(b4)配列番号11又は13に記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項8】
グルタミナーゼ活性を有するタンパク質が、下記(7)~(9)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項1~7いずれかに記載の微生物。
(7)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(8)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質
(9)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項9】
グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、下記(c1)~(c4)のいずれかに記載の遺伝子である、請求項1~8いずれかに記載の微生物。
(c1)請求項8で規定されるアミノ酸配列をコードする遺伝子
(c2)配列番号15又は17に記載のDNA配列からなる遺伝子
(c3)配列番号15又は17に記載のDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(c4)配列番号15又は17に記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項10】
エシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、又はエンテロバクター(Enterobacter)属細菌である、請求項1~9いずれかに記載の微生物。
【請求項11】
炭素源が糖である、請求項1~10いずれかに記載の微生物。
【請求項12】
請求項1~11いずれかに記載の微生物を培地中で培養し、培養物中にテアニンを生成させる工程を含む、テアニン又はその塩の製造方法。
【請求項13】
アラニン、及びグルタミン酸又はグルタミンに、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質を作用させることでテアニンを生成させる工程を含む、テアニン又はその塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアニンを生成する非天然型の微生物、及びテアニン又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テアニンは緑茶に含まれる旨味の主成分として知られ、茶をはじめとする食品の香味物質として重要な物質である。また一方、テアニンを含めγ-グルタミル誘導体は、動・植物体における生理活性物質として作用する事が指摘されている。例えば、テアニンやグルタミンがカフェインによって誘発される痙攣に拮抗する事が報告されており、この事からこれらの化合物が中枢神経系に作用する事が考えられ、生理活性物質としての有用性が期待されている。
【0003】
従来より、テアニンの製造方法としてはテアニンを含有する玉露の生産用茶園において得られる茶葉乾燥物より抽出する方法が一般的である。しかし、この場合、テアニンは茶葉乾燥物あたりわずか1.5%程度しか蓄積されず、また一般の煎茶用茶園では光合成が活発であるため、ほとんど蓄積されないのが実情である。従って、茶葉乾燥物からの抽出法では工業的に実用的ではない事が指摘されている。
【0004】
このような事から、工業的生産方法の開発が期待されており、種々の製造方法が提案されている。例えば、メチロトローフ細菌から得られるγ-グルタミルメチルアミド合成酵素(GMAS)をATP存在下でグルタミン酸とエチルアミンに作用させる方法(特許文献1)、シュードモナス属細菌から得られるグルタミナーゼをグルタミンとエチルアミンにpH9.0-12.0の条件下で作用させる方法(特許文献2)などが本件出願人から提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、炭素源からアセトアルデヒド、アラニン、グルタミン酸、及びATPを生成し、アセトアルデヒドとアラニンを基質としてエチルアミンを生成する活性及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有する微生物などを用いることで、外部からエチルアミンを添加することなくテアニンを生成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-225705号公報
【特許文献2】特開平05-68578号公報
【特許文献3】WO2018/190398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物として、新規の微生物を提供することに関する。また、新たなテアニン又はその塩の製造方法について提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1]炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物であって、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む、微生物。
[2][1]に記載の微生物を培地中で培養し、培養物中にテアニンを生成させる工程を含む、テアニン又はその塩の製造方法。
[3]アラニン、及びグルタミン酸又はグルタミンに、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質を作用させることでテアニンを生成させる工程を含む、テアニン又はその塩の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物として、新規の微生物を提供することができる。また、新たなテアニン又はその塩の製造方法について提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】γ-グルタミルメチルアミド合成酵素がATPの存在下でグルタミン酸及びエチルアミンに作用してテアニンを生成する態様における代謝の模式図である。
図2】グルタミナーゼがグルタミン及びエチルアミンに作用してテアニンを生成する態様における代謝の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の微生物は、炭素源からテアニンを生成する非天然型の微生物であり、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む。即ち、本発明の微生物として、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質がATPの存在下でグルタミン酸及びエチルアミンに作用してテアニンを生成する態様の微生物(態様A)と、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質がグルタミン及びエチルアミンに作用してテアニンを生成する態様の微生物(態様B)が挙げられる。態様Aにおける代謝の模式図を図1に、態様Bにおける代謝の模式図を図2に示す。図1、2に示すように、本発明の微生物はアラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質によりアラニンを基質としてエチルアミンを生成することができ、更にグルタミン酸又はグルタミンを基質としてテアニンを生成することができる。
【0012】
炭素源としては、微生物が資化し得るものであればよく、糖、有機酸、アルコール類、脂肪酸類などが挙げられる。糖としては、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、廃糖蜜などが挙げられる。有機酸としては酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸などが挙げられる。アルコール類としては、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。
【0013】
非天然型の微生物として使用する親株はいずれの微生物であってもよいが、エシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロバクター(Enterobacter)属などの細菌が挙げられる。
【0014】
アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質としては、下記(1)~(3)のタンパク質などが挙げられる。
(1)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(2)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質
(3)配列番号2,4,6,8,10いずれかに記載のアミノ酸配列に対し、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質
【0015】
本明細書においてアミノ酸配列の同一性は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTXプログラムにより決定する(デフォルトの設定)。BLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照する。
【0016】
アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、下記(a1)~(a4)の遺伝子などが挙げられる。
(a1)上記(1)~(3)いずれかに記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子
(a2)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列からなる遺伝子
(a3)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(a4)配列番号1,3,5,7,9いずれかに記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0017】
本明細書においてストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件であり、具体的には、60℃、1×SSC,0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0018】
γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質としては、下記(4)~(6)のタンパク質などが挙げられる。
(4)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(5)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質
(6)配列番号12又は14に記載のアミノ酸配列に対し、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質
【0019】
γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、下記(b1)~(b4)の遺伝子などが挙げられる。
(b1)上記(4)~(6)いずれかに記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子
(b2)配列番号11又は13に記載のDNA配列からなる遺伝子
(b3)配列番号11又は13に記載のDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(b4)配列番号11又は13に記載のDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0020】
グルタミナーゼ活性を有するタンパク質としては、下記(7)~(9)のタンパク質などが挙げられる。
(7)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(8)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質
(9)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列に対し、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質
【0021】
グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、下記(c1)~(c4)の遺伝子などが挙げられる。
(c1)上記(7)~(9)いずれかに記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子
(c2)配列番号15又は17で示されるDNA配列からなる遺伝子
(c3)配列番号15又は17で示されるDNA配列において、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を含み、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする配列からなる遺伝子
(c4)配列番号15又は17で示されるDNA配列と相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、グルタミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0022】
本発明の微生物は、公知の手法により、アラニンの生産量が向上するよう改変を加えられていても良い(Appl. Microbiol. Biotechnol. (2007) 77:355-366)。異種生物由来のアラニン脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を更に含むことができる。より具体的には、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)などに由来するアラニン脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を更に含むことができる。この際、併せてアラニンの生産量を向上させるために宿主由来の遺伝子を喪失させることもできる。具体的には、メチルグリオキサール合成酵素、アラニンラセマーゼ、アラニン脱水素酵素、D-乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、スクシニル酸デヒドロゲナーゼといったタンパク質をコードする遺伝子を喪失させることができる。これらの遺伝子を喪失させることは単独の遺伝子でも複数の遺伝子の組合せでも任意で用いることができる。
【0023】
本発明の微生物は、公知の手法により、上記遺伝子を親株に導入することで作製することができる。例えば、上記遺伝子を組み込んだベクターを導入しても良い。この場合、1つのベクター上に複数の遺伝子を保持させてもよく、または複数のベクターを親株に導入しても良い。また、上記遺伝子を親株染色体上へ挿入しても良い。この場合も複数の遺伝子を親株染色体上へ挿入しても良く、染色体上への挿入と、ベクターの導入は組み合わせて実施しても良い。遺伝子を大腸菌などに導入する方法としては、塩化カルシウムで処理して親株のDNAの透過性を増す方法(Mol. Biol. 1970, 53,159-162)、エレクトロポレーション法(E. coli Plasmid Vectors pp 55-59)などが挙げられる。染色体上へ挿入する方法としては、red リコンビナーゼを用いた方法(Koma et al. Appl. Microbiol. Biotechnol. 2012, 78(17):6203-16)、相同組換え法(Genetics. 1986 Mar; 112(3): 441-457.)などが挙げられる。
【0024】
本発明はテアニン又はその塩の製造方法についても開示するものである。テアニン又はその塩の製造方法としては、本発明の微生物を培地中で培養し、培養物中にテアニンを生成させる工程を含む方法などが挙げられる。本発明の微生物を培養する方法や、培地、生成したテアニンの採取、精製方法等については、公知の手法により行うことができる。微生物を培養する方法としては、特に本件微生物が生育されるのであれば制限はされないが、好気的条件下で行うことが望ましく、培養方法しては回分培養、流加培養、連続培養などが挙げられる。培地としては、本件微生物の生育に問題がないのであれば、特に制限はなく、合成培地、天然培地のどちらを用いても良い。テアニンの採取、精製方法としては、イオン交換樹脂による精製法、晶析などが挙げられる。テアニンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などが挙げられる。テアニンの塩は公知の方法により得られる。
【0025】
テアニン又はその塩の製造方法として、本発明の微生物を用いる方法の他、アラニン、及びグルタミン酸又はグルタミンに、アラニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質、及びγ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を有するタンパク質又はグルタミナーゼ活性を有するタンパク質を作用させることでテアニンを生成させる工程を含む方法が挙げられる。例えば、本発明の微生物の培養処理物を酵素原として利用した方法が考えられる。当該酵素活性を維持しているのであれば、処理方法は特に制限されないが、超音波破砕物、界面活性剤処理物、凍結乾燥物などが挙げられる。
【実施例0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
(1)アラニン脱炭酸酵素活性を持つ微生物の作製
Kitasatospora setae NBRC14216、Streptomyces clavuligerus NBRC 13307、Saccharothrix espanaensis NBRC 15066を独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(以下NBRC)ホームページ記載の方法で培養し、目的遺伝子を含む染色体DNAを抽出した。DDBJ/EMBL/GenBank等の電子データベース上に公開されている該当遺伝子配列(配列番号1,3,9)を元に、上記の遺伝子を対応するプライマー(配列番号19~22、27、28)、Phusion Hot StartII DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific 社製)を用いてPCR法で増幅後、Gibson assembly master mix(New England Biolabs社製)を用いてベクター(pET21a-FRT)と連結し、大腸菌(DH5α)を形質転換した。当該大腸菌(DH5α)を培養、プラスミド抽出(NucleoSpin Plasmid Quick pure,(Macherey-Nagel))し、得られた組み換えプラスミドを、FLP/FRT部位特異的相同組み換え認識用の配列を付加したプライマー(配列番号29、30)を用いてPCR法にて増幅し、得られたPCR産物をredリコンビナーゼを用いた方法を用いて、大腸菌(MG-1655(DE3))染色体上へ挿入し、MG1655(DE3)_ADC(ks)株、MG1655(DE3)_ADC(sc)、MG1655(DE3)_ADC(se)を作製した。
【0028】
(2)γ-グルタミルメチルアミド合成酵素活性を持つ微生物の作製
Pseudomonas syringae pv. syringae (strain B728a) を Loper, J. E. & Lindow, S. E. (1987) Phytopathology 77, 1449-1454.に記載の方法で培養し、(1)と同様の方法でDNAの増幅(配列番号31、32)、ベクターへの連結、プラスミドの抽出、FLP/FRT部位特異的相同組み換え認識用の配列を付加したプライマー(配列番号33,34)を用いた増幅、染色体上への挿入を実施し、MG1655(DE3)_gms株を作製した。
【0029】
(3)グルタミナーゼ活性を持つ微生物の作製
Pseudomonas nitroreducens NBRC 12694 をNBRCホームページ記載の方法で培養し、(1)と同様の方法でDNAの増幅(配列番号35,36)、ベクターへの連結、プラスミドの抽出、FLP/FRT部位特異的相同組み換え認識用の配列を付加したプライマー(配列番号33,34)を用いた増幅、染色体上への挿入を実施し、MG1655(DE3)_gln株を作製した。
【0030】
(4)テアニン生産菌の作製
(1)、(2)又は(1)、(3)の株をP1トランスダクションとFLP/FRT部位特異的相同組み換えを用いた方法により、段階的に統合し、テアニン産生株MG1655(DE3)_ADC(ks)_gms、MG1655(DE3)_ADC(sc)_gms、MG1655(DE3)_ADC(se)_gms、MG1655(DE3)_ADC(ks)_gln、MG1655(DE3)_ADC(sc)_gln、及びMG1655(DE3)_ADC(se)_glnを作製した。
(5)テアニン産生試験
あらかじめLB培地5mlを加えた中試験管に非改変株及び(1)~(4)で作製した株を植菌し、37℃6時間、予備培養した。次いでM9グルコース最小液体培地5mlを加えた中試験管に1%植菌し、37℃で6時間培養した。あわせて終濃度が1mMになるようIPTGを添加し、27℃で48時間培養した。得られた培養液を遠心分離し、上清を培養上清としてテアニン産生量をHPLC-UV法にて測定した。その結果を次の表1に示す。非改変株、各遺伝子を単独で導入した(1)~(3)の株ではテアニンの生産は確認されなかったが、(4)で作製した株ではいずれもテアニンの産生が確認された。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例2
L-アラニン生産量が向上したテアニン生産菌の作製
(6)アラニン脱水素酵素活性を向上させた微生物の作製
実施例1と同様に、Bacillus subtilis 168の遺伝子と配列番号37,38のプライマーを用いて組み換えプラスミドを構築し、FLP/FRT部位特異的相同組み換え認識用の配列を付加したプライマー(配列番号39,40)を用いて増幅し、MG1655(DE3)染色体上へ挿入し、MG1655(DE3)_alaD(bs)株を作製した。
【0033】
(7)宿主のアラニン脱水素酵素活性を喪失した微生物の作製
構築済みのpKD13ベクター(coli gene stock center、イェール大)をadhE遺伝子上流、下流50bpとの相同配列にpKD13認識用の配列を付加したプライマー(配列番号41,42)を用いて増幅し, MG1655(DE-3)染色体上へ挿入し、MG1655(DE3)_ΔadhE株を作製した。
【0034】
(8)宿主の酢酸キナーゼ活性を喪失した微生物の作製
(7)と同様に構築済みのpKD13ベクターをackA遺伝子上流、下流約50bpにpKD13認識用の配列を付加したプライマー(配列番号43,44)を用いて増幅し, MG1655(DE-3)染色体上へ挿入し、MG1655(DE3)_ΔackA株を作製した。
【0035】
(9)テアニン生産菌の作製
実施例1のテアニン生産株のうちテアニン生産量の高かったMG1655(DE3)_ADC(ks)_gms株やMG1655(DE3)_ADC(ks)_gln株と、(6)~(8)の株とをP1トランスダクションとFLP/FRT部位特異的相同組み換えを用いた方法により、段階的に統合し、テアニン高生産株MG1655(DE3)_ADC(ks)_gms_alaD(bs)_ΔadhE_ΔackA、及びMG1655(DE3)_ADC(ks)_gln_alaD(bs)_ΔadhE_ΔackAを作製した。
【0036】
(10)テアニン産生試験
あらかじめLB培地5mlを加えた中試験管に非改変株及び(9)で作製した株を植菌し、37℃6時間、予備培養した。次いでM9グルコース最小液体培地5mlを加えた中試験管に1%植菌し、37℃で6時間培養した。あわせて終濃度が1mMになるようIPTGを添加し、27℃で48時間培養した。得られた培養液を遠心分離し、上清を培養上清としてテアニン産生量をHPLC-UV法、アセトアルデヒド生産の有無をDART/MS法にて測定した。その結果を次の表2に示す。非改変株ではテアニンの生産は確認されなかったが、(9)で作製した株ではいずれもテアニンの産生が確認された。実施例1で作製したテアニン生産株と比較して、実施例2で作製した株では10倍以上のテアニンの産生が確認された。
【0037】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、新規の微生物を用いて効率的にテアニンを製造することができる。
図1
図2
【配列表】
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