(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177526
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20221124BHJP
C07C 69/78 20060101ALI20221124BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/78
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083842
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼口 正基
(72)【発明者】
【氏名】芝 一休
(72)【発明者】
【氏名】田中 久美子
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA67
4H006BB11
4H006BC10
4H006BC19
4H006BJ50
4H006BN30
4H006KA06
4H006KC14
4H039CA66
4H039CG10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】工程数が少なく、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが高生成率で得られる製造方法を提供する。
【解決手段】有機液体および酸触媒の存在下、3-ヒドロキシ安息香酸と式(1)
[式中、nは11~23の整数を示す]
で表される脂肪族アルコールとを反応させる工程を含む、式(2)
[nは11~23の整数を示す]
で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機液体および酸触媒の存在下、3-ヒドロキシ安息香酸と式(1)
【化1】
[式中、nは11~23の整数を示す]
で表される脂肪族アルコールとを反応させる工程を含む、式(2)
【化2】
[nは11~23の整数を示す]
で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法。
【請求項2】
有機液体はトルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機液体はトルエンおよび/またはキシレンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
3-ヒドロキシ安息香酸1モルに対し、脂肪族アルコール0.5~3.0モルを反応させる、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
3-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対し、酸触媒0.1~10質量部を存在させる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとを、100~150℃の温度で反応させる、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程は式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物を得る工程である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粗組成物を、非極性溶媒を含む溶媒に溶解させる工程、および、得られた溶液を晶析する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非極性溶媒は、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
非極性溶媒はキシレンである、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、水酸基と疎水基を有する構造を有し、その構造的特徴から、可塑剤、害虫忌避剤、相溶化剤などの用途が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
4-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法としては、金属触媒の存在下における4-ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと長鎖アルコールとのエステル交換法(特許文献3)や、プロトン酸触媒の存在下における4-ヒドロキシ安息香酸と長鎖アルコールとの脱水法が知られている。
【0004】
しかし、4-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、各種用途の使用に際して溶解性が低い場合があり、その代替として3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの需要が高まりつつある。
【0005】
3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法としては、4-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法と同様にエステル交換法や脱水法が考えられる。
【0006】
エステル交換法は高純度のものが得られるが、ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルを原料とするため、予め原料の合成が必要となり、全工程数としては多くなる。
【0007】
一方、脱水法は製造工程が少なく、安価に製造可能ではあるが、生成率が80~90%とやや低く、工業的なスケールでの生産においては、さらに生成率を向上させる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-113509号公報
【特許文献2】特開2019-199439号公報
【特許文献3】特開2016-210699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、工程数が少なく、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが高生成率で得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、3-ヒドロキシ安息香酸と長鎖アルコールとの脱水法において、有機液体を添加することにより、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが高収率で得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕有機液体および酸触媒の存在下、3-ヒドロキシ安息香酸と式(1)
【化1】
[式中、nは11~23の整数を示す]
で表される脂肪族アルコールとを反応させる工程を含む、式(2)
【化2】
[nは11~23の整数を示す]
で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法。
〔2〕有機液体はトルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕有機液体はトルエンおよび/またはキシレンである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕3-ヒドロキシ安息香酸1モルに対し、脂肪族アルコール0.5~3.0モルを反応させる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕3-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対し、酸触媒0.1~10質量部を存在させる、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとを、100~150℃の温度で反応させる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記工程が式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物を得る工程である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕前記粗組成物を、非極性溶媒を含む溶媒に溶解させる工程、および、得られた溶液を晶析する工程を含む、〔8〕に記載の方法。
〔10〕非極性溶媒は、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕非極性溶媒はキシレンである、〔9〕または〔10〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを高生成率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、反応原料として使用される3-ヒドロキシ安息香酸および脂肪族アルコールは、市販のものを用いてもよく、また当業者に知られた方法で製造したものを用いてもよい。
【0014】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、式(1):
【化3】
[nは11~23の整数を表す]
で表される炭素原子数12~24の脂肪族アルコールである。
その具体的としては、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール、トリコサノールおよびテトラコサノールからなる群から選択される1種以上が挙げられる。中でも、入手容易性からヘキサデカノールが好ましい。
【0015】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、3-ヒドロキシ安息香酸1モルに対し、好ましくは0.5~3.0モル、より好ましくは0.7~1.5モル、さらに好ましくは0.8~1.2モル、特に好ましくは0.9~1.1モル反応させるのがよい。
【0016】
3-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、脂肪族アルコールの量が0.5モル当量を下回る場合、生成率が低下する傾向がある。また、脂肪族アルコールの量が3.0モル当量を上回る場合、過剰量の脂肪族アルコールが残存し、生産効率が低下するとともに、後処理工程において脂肪族アルコールの除去に長時間を要する傾向がある。
【0017】
本発明では、例えば3-ヒドロキシ安息香酸1モル当量と脂肪族アルコール1.5モル当量との反応は、3-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、脂肪族アルコールが1.5モル当量となるような量で存在させることにより行われる。
【0018】
本発明に使用される酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸からなる群から選択される1種以上が挙げられる。入手容易性および反応性に優れる点で、硫酸またはp-トルエンスルホン酸が好ましく、特に、反応性および副生物抑制効果に優れる点でp-トルエンスルホン酸が好ましい。p-トルエンスルホン酸は水和物であってもよい。
【0019】
これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明に使用される酸触媒の量は特に限定されないが、3-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1.0~8.0質量部、さらに好ましくは4.0~6.0質量部である。
【0021】
3-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対し、酸触媒の量が0.1質量部を下回る場合、反応が十分に進行しない傾向がある。酸触媒の量が10質量部を上回る場合、脂肪族アルコールの2量化エーテル体等の副生物が生成する傾向があるとともに、経済的にも不利となる。
【0022】
本発明の方法では、酸触媒に加えてさらに有機液体が添加される。有機液体が添加されることによって副反応が抑制されつつ、生成率が大幅に向上する。
【0023】
有機液体としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上が好ましく、特に生成率に優れることからトルエンおよび/またはキシレンがより好ましい。
【0024】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、通常、反応温度では液体であるため、反応原料を溶解させるための溶媒は必要ない。そのため、本発明に使用される有機液体の量は、溶媒として使用される一般的な量より少ない量であっても上記効果を奏し得る。有機液体の使用量は、3-ヒドロキシ安息香酸に対して0.01質量倍~5.0質量倍が好ましく、0.1質量倍~4.0質量倍がより好ましく、0.2質量倍~3.0質量倍がさらに好ましく、0.4質量倍~2.5質量倍が特に好ましい。有機液体の使用量が上記範囲内にあると、効率よく3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの生成率を向上させることができる。
【0025】
3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとの反応における反応温度は特に限定されないが、100~150℃が好ましく、110~140℃がより好ましい。反応温度が上記範囲内にあると、副反応が抑制されつつ、反応が十分に進行し易い。
【0026】
反応時間は、反応温度等の条件によって変動するため特に限定されないが、通常1~20時間であり、好ましくは5~18時間、より好ましくは8~16時間の間で適宜選択してよい。
【0027】
本発明において、3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとの反応は、不活性ガスの気流下またはバブリング下、もしくは減圧条件下で行うのが好ましい。このような条件下で反応させることによって、酸素や水分による反応阻害や触媒失活を回避し、反応を円滑に進行させることができる。
【0028】
不活性ガスとしては、反応を阻害しないガスであればよく、具体的には、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンおよびクリプトンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中で、入手容易性および経済性に優れる点で、窒素が好ましい。
【0029】
不活性ガスは、原料である3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールを収容する反応容器の反応液上部の空間部に吹き込んでもよく、あるいは、反応液中に直接吹き込んでもよい。
【0030】
3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとの上記反応により、式(2)
【化4】
[nは11~23の整数を示す]
で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが生成する。
【0031】
式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルとしては、3-ヒドロキシ安息香酸ドデシル、3-ヒドロキシ安息香酸トリデシル、3-ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、3-ヒドロキシ安息香酸ペンタデシル、3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、3-ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシル、3-ヒドロキシ安息香酸オクタデシル、3-ヒドロキシ安息香酸ノナデシル、3-ヒドロキシ安息香酸イコシル、3-ヒドロキシ安息香酸ヘンイコシル、3-ヒドロキシ安息香酸ドコシル、3-ヒドロキシ安息香酸トリコシルおよび3-ヒドロキシ安息香酸テトラコシルが挙げられる。中でも、対応するアルコールの入手容易性から、3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルが好ましい。
【0032】
有機液体および酸触媒の存在下、3-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとを反応させる工程によって得られる、式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物は、精製により、純度を高めることができる。
【0033】
精製は、前記粗組成物を非極性溶媒に溶解させる工程、および、得られた溶液を晶析する工程を含むのが、生成物の純度を効率よく高められる点で好ましい。上記反応後の粗組成物は、反応温度から40~100℃冷却した後、続く精製方法に供するのがよい。
【0034】
上記精製操作の前に、必要により、水溶性化合物を除去するための水性媒体による洗浄や、不溶性の異物を除去するためのろ過処理、着色性物質、金属などを除去するための活性炭などによる吸着剤処理を行ってもよい。
【0035】
式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物とは、目的物である式(2)で表される3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物以外に、反応原料や触媒および反応副生物などの不純物を含む組成物を意味する。不純物の含有量は反応方法によっても異なるが、通常は粗組成物中1~20質量%であり、別の場合には3~10質量%である。
【0036】
粗組成物中に含まれる具体的な不純物としては、原料である3-ヒドロキシ安息香酸、触媒などの残存物のほか、反応副生物である脂肪族アルコールの2量化エーテル体や硫酸エステルなどが挙げられる。
【0037】
本発明における精製方法では、まず溶解工程において、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物を、非極性溶媒を含む溶媒に溶解させる。
【0038】
非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、シメン、メシチレン、アニソール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0039】
これらの中で、安全性および経済性に優れる点で、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンが好ましく、特に不純物除去に優れることからキシレンがより好ましい。
【0040】
非極性溶媒を含む溶媒の量は、原料である3-ヒドロキシ安息香酸に対し0.5~8質量倍であることが好ましく、より好ましくは1.5~6質量倍である。非極性溶媒を含む溶媒が3-ヒドロキシ安息香酸に対し0.5質量倍を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい高純度の結晶を得ることが困難になる傾向があり、8質量倍を上回る場合、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの収量が著しく減少することがある。尚、上記非極性溶媒を含む溶媒の量は、3-ヒドロキシ安息香酸と長鎖アルコールとの脱水法において用いられた有機液体を含むものである。
【0041】
非極性溶媒を含む溶媒は、さらにメタノール、エタノール、プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびヘキサメチルホスホルアミド等の他の溶媒を含んでもよい。
【0042】
溶解工程において、非極性溶媒を含む溶媒の温度は、用いる非極性溶媒によって異なるため特に限定されないが、好ましくは30℃~150℃、より好ましくは50℃~120℃、さらに好ましくは70℃~100℃である。
【0043】
粗組成物が溶解した溶液は、次いで晶析工程に供される。
【0044】
晶析工程は、好ましくは0℃~60℃、より好ましくは5℃~50℃、さらに好ましくは10℃~30℃の温度下で攪拌しながら行われる。
【0045】
晶析温度が0℃を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい、高純度の結晶を得ることが困難になる場合がある。晶析温度が60℃を上回る場合、3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの収量が減少する傾向がある。
【0046】
晶析工程によって析出した結晶は濾過等の常套手段により固液分離し、目的物である3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノールおよび2-プロパノールからなる群から選択される1種以上が好ましく使用される。有機溶媒は、3-ヒドロキシ安息香酸に対し0.5~2質量倍使用するのが好ましい。
【0047】
固液分離によって回収された結晶は、減圧下、60℃未満の温度下で結晶状態のまま乾燥するか、あるいは70℃以上に加熱して結晶を溶融させた後、溶媒を留去することによって、高純度の3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない 。
【0049】
各化合物は、以下の方法によって分析した。
【0050】
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
装置:Waters アライアンス 2690/2996
カラム型番:L-Column
液量:1.0mL/分
溶媒比:H2O(pH2.3)/アセトニトリル=80/20(10分)→3分→10/90(37分)、グラジエント分析
波長:229nm
カラム温度:40℃
【0051】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
装置:株式会社島津製作所製GC-2014/GC-14A
カラム型番:G-100
注入量:1.0μL
オーブン温度:260℃
キャリアガス:ヘリウム
検出器:FID
【0052】
実施例1
撹拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置を備えた0.3Lの4ツ口フラスコに、3-ヒドロキシ安息香酸(3-HBA、東京化成工業株式会社製)42.0g(0.304モル)、1-ヘキサデカノール(CeOH)73.7g(0.304モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物(PTS・H2O)2.1g(3-HBA100質量部に対して5質量部)およびキシレン22.0g(3-HBAに対して0.52質量倍)を加え、窒素気流下、115℃まで昇温し、同温度で15時間反応させ、粗組成物を得た。得られた粗組成物をHPLCにて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0053】
実施例2~5、比較例1、2
表1に記す条件に変更した以外は実施例1と同様にして粗組成物を得た。得られた粗組成物をHPLCにて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0054】
実施例6
1-ヘキサデカノールを1-ドデカノール56.6g(0.304モル)に、キシレンをトルエンに変更した以外は実施例5と同様にして粗組成物を得た。得られた粗組成物をHPLCにて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0055】
実施例7
1-ヘキサデカノールを1-ドコサノール99.3g(0.304モル)に変更した以外は実施例5と同様にして粗組成物を得た。得られた粗組成物をHPLCにて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0056】
実施例8
撹拌機および温度センサーを備えた0.5L底抜きフラスコに、実施例1で得られた粗生成物、反応時に留出した有機層、キシレン170.1gおよび5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液63.1gを加え、80℃で30分間攪拌を行った。得られた溶液を有機層と水層に分離するまで静置した後、水層を抜き出した。残った有機層に水42.2gを加え、80℃で洗浄し、有機層を取り出した。撹拌機および温度センサーを備えた0.5L四ツ口フラスコに取り出した有機層を加え38℃まで冷却し、種結晶として99.3area%CEMB0.2g加え、CEMBを析出させた。懸濁液を更に20℃まで冷却した後、固液分離し、50質量%メタノール水溶液167.6gで洗浄した。得られた結晶を10hPa、40~45℃で乾燥することで3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル(CEMB)の結晶を得た。得られたCEMBについて、HPLCおよびGCにて定量分析を行った。結果を表2に記す。
【0057】
実施例9
撹拌機および温度センサーを備えた0.5L底抜きフラスコに、実施例5で得られた粗生成物、反応時に留出した有機層、キシレン84.0gおよび5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液42.0gを加え、80℃で30分間攪拌を行った。得られた溶液を有機層と水層に分離するまで静置した後、水層を抜き出した。残った有機層に水42.0gを加え、80℃で洗浄し、有機層を取り出した。撹拌機および温度センサーを備えた0.5L四ツ口フラスコに取り出した有機層を加え38℃まで冷却し、種結晶として99.3area%CEMB0.2g加え、CEMBを析出させた。懸濁液を更に20℃まで冷却した後、固液分離し、メタノール42.0g及び水147.0gで洗浄した。得られた結晶を10hPa、30~35℃で乾燥することで3-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル(CEMB)の結晶を得た。得られたCEMBについて、HPLCおよびGCにて定量分析を行った。結果を表2に記す。
【0058】
表1に示す通り、反応系に有機液体を含む本発明の実施例1~7は、有機液体を含まない比較例1,2と比較して3-ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの生成率が大幅に高いことが分かる。また、表2に示す通り、さらに非極性溶媒で再結晶することで副生物を有意に除去可能であることが分かる。
【0059】
【0060】