(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177543
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】燃料搬送装置
(51)【国際特許分類】
G21C 19/18 20060101AFI20221124BHJP
G21C 19/32 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G21C19/18
G21C19/32 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083883
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】光藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知幸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 理志
(72)【発明者】
【氏名】小林 希士
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃料の搬送時に伸縮構造物の受ける抗力を低減し、発生する揺れそのものを低減すること。
【解決手段】走行台車と、走行台車の走行方向と直交する方向に設置されたレールに沿って移動する横行台車と、横行台車に設置され、複数の伸縮構造物が入れ子状に構成されている伸縮構造物本体と、伸縮構造物本体の下端に取り付けられ、原子力機器を掴み搬送する掴み具とを備え、伸縮構造物は、鉛直方向に延びる少なくとも2本の柱状部材及び少なくとも2本の柱状部材を結ぶ接続部材とで構成されると共に、伸縮構造物の中心軸を挟んで開口部を持ち、複数の伸縮構造物の伸縮時には、基準とする伸縮構造物に対して内側に位置する伸縮構造物の開口部は、基準とする伸縮構造物に対して外側に位置する伸縮構造物の開口部の少なくとも一部と連通し、かつ、1つの柱状部材は、隣接する伸縮構造物の柱状部材の間に位置していることを特徴とする。
【選択図】
図5(b)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行台車と、該走行台車の走行方向と直交する方向に設置されたレールに沿って移動する横行台車と、該横行台車に設置され、複数の伸縮構造物が入れ子状に構成されている伸縮構造物本体と、前記伸縮構造物本体の下端に取り付けられ、原子力機器を掴み搬送する掴み具とを備え、
前記伸縮構造物本体を構成する1つの前記伸縮構造物は、鉛直方向に延びる少なくとも2本の柱状部材及び少なくとも2本の前記柱状部材を結ぶ接続部材とで構成されると共に、前記伸縮構造物の中心軸を挟んで開口部を持ち、複数の前記伸縮構造物の伸縮時には、基準とする伸縮構造物に対して内側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部は、基準とする伸縮構造物に対して外側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部の少なくとも一部と連通し、かつ、1つの前記柱状部材は、隣接する前記伸縮構造物の柱状部材の間に位置していることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料搬送装置であって、
前記伸縮構造物本体は、第1の伸縮構造物と第2の伸縮構造物及び第3の伸縮構造物が入れ子状に構成され、前記伸縮構造物本体を構成する前記第1の伸縮構造物と前記第2の伸縮構造物及び前記第3の伸縮構造物が、鉛直方向に延びる少なくとも2本の前記柱状部材及び少なくとも2本の前記柱状部材を結ぶ前記接続部材とで構成されると共に、前記伸縮構造物本体の中心軸Pを挟んで前記開口部を持ち、前記伸縮構造物本体の伸縮時には、前記第2の伸縮構造物を基準として内側に位置する前記第3の伸縮構造物の前記開口部は、前記第2の伸縮構造物を基準として外側に位置する前記第1の伸縮構造物の前記開口部の少なくとも一部と連通し、かつ、前記第1の伸縮構造物の1つの前記柱状部材は、隣接する前記第2の伸縮構造物の2つの前記柱状部材の間に位置し、前記第2の伸縮構造物の1つの前記柱状部材は、隣接する前記第3の伸縮構造物の2つの前記柱状部材の間に位置していることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料搬送装置であって、
前記第2の伸縮構造物の柱状部材の位置は、前記第1の伸縮構造物の開口部の位置、第1の伸縮構造物の開口部の位置と同じ位置にあることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の燃料搬送装置であって、
前記第1の伸縮構造物と前記第2の伸縮構造物及び前記第3の伸縮構造物の上下両端には、前記伸縮構造物本体が伸縮する際のストッパを構成する第2の接続部材が設置されていることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料搬送装置であって、
前記接続部材は、平板部材で構成されていることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料搬送装置であって、
前記伸縮構造物を構成する前記柱状部材が、前記伸縮構造物本体の同一断面において3本であることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の燃料搬送装置であって、
前記接続部材は、前記伸縮構造物の中心軸に対して斜めに配置さていることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の燃料搬送装置であって、
前記柱状部材は、多角柱で構成されていることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項9】
走行台車と、該走行台車の走行方向と直交する方向に設置されたレールに沿って移動する横行台車と、該横行台車に設置され、複数の伸縮構造物が入れ子状に構成されている伸縮構造物本体と、前記伸縮構造物本体の下端に取り付けられ、原子力機器を掴み搬送する掴み具とを備え、
前記伸縮構造物本体を構成する1つの前記伸縮構造物は、鉛直方向に延びる柱状部材と接続部材が同一部材で一体に形成されると共に、前記伸縮構造物の中心軸を挟んで開口部を持ち、複数の前記伸縮構造物の伸縮時には、基準とする伸縮構造物に対して内側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部は、基準とする伸縮構造物に対して外側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部の少なくとも一部と連通していることを特徴とする燃料搬送装置。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料搬送装置であって、
鉛直方向に延びる前記柱状部材と前記接続部材が同一部材で一体に形成される柱状部材兼接続部材は、前記伸縮構造物を円筒管で構成され、その円筒管に穴あけ加工することで前記開口部を形成するこを特徴とする燃料搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料搬送装置に係り、時に、原子力発電所において水中に設置された燃料集合体等の機器の搬送を行うものに好適な燃料搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電所における定期点検は、長期にわたって発送電を停止することになるため、原子力発電所の設備利用率向上のためには、定期点検で行われる作業の一つである燃料取替作業の短縮が望まれている。
【0003】
上述した原子力発電所における燃料取替作業は、燃料集合体を、原子炉圧力容器内の炉心から原子炉ウェルを経由して燃料プールに置かれた燃料貯蔵ラックへ搬送、又はその逆への搬送、更には炉心又は燃料貯蔵ラック内で搬送するものである。
【0004】
この燃料取替作業を行う燃料搬送装置は、走行台車と、この走行台車上を移動する横行台車と、横行台車に取り付けられ伸縮可能な伸縮構造物である伸縮管から構成され、伸縮管の下端に燃料集合体を把持し、走行台車と横行台車の移動(以降、横走行という)と伸縮管の伸縮により燃料集合体を搬送する。
【0005】
燃料取替作業では、横走行停止時に伸縮管と燃料集合体の振れが発生する。この伸縮管と燃料集合体の振れが大きいと、炉心又は燃料貯蔵ラック内の燃料集合体を掴み損ない、燃料集合体を炉心又は燃料貯蔵ラックの所定の位置に挿入できないなどの不具合が生じやすくなるため、燃料取替作業が長期化する恐れがある。
【0006】
また、燃料の搬送速度向上には、移動中に伸縮管が冷却水から受ける流体力増大などによって限界がある。
【0007】
そこで、燃料集合体の把持及び燃料集合体の所定位置への挿入の前に、伸縮管と燃料集合体の振れが収まるまで燃料搬送装置を停止させ所定の時間待つ、振れ待ちと呼ばれる動作を行っている。
【0008】
従って、横走行停止時の伸縮管と燃料集合体の振れを速やかに抑制し、振れ待ち時間を短縮することができれば、燃料取替作業を短縮することができる。
【0009】
上述した伸縮管と燃料集合体の振れを速やかに抑制する技術としては、例えば、特許文献1及び2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-304382号公報
【特許文献2】特開2010-101667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、横行台車と伸縮管の間にサスペンションと電磁石から構成される制振装置を設け、伸縮管の振れ速度により電磁石に供給する電流を制御して伸縮管の振れを抑制する技術が開示されている。
【0012】
この特許文献1の技術では、制振装置を追加しているため、機構及び制御装置が複雑となり、部品数の増加とコストの増加といった課題がある。また、燃料集合体は伸縮管に揺動可能な状態で吊り下げられているため、伸縮管の振れが収まった後も燃料集合体の振れが残留することが懸念され、そのため、燃料の搬送速度が低下する。
【0013】
また、燃料取替作業を短縮するためには、燃料の搬送速度そのものを高速化することが望ましいが、これでは、搬送時に伸縮管と燃料が水中で受ける流体力が大きくなるため、燃料搬送速度の高速化にも限界がある。
【0014】
一方、特許文献2には、伸縮管の側面に連通孔を設けた伸縮管を用いて燃料搬送時の流体力を低減し、燃料と伸縮管の振れを低減する技術が開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献2の技術では、伸縮管は縮めた状態で横移動する場合があることから、伸縮管を縮めても流体力の低減効果を発揮する必要があり、更に、特許文献2では、伸縮管の収縮時には伸縮管側面の連通孔が閉塞されるため、流体力の低減効果が発揮できず、燃料の搬送速度の向上が難しいという課題がある。
【0016】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、燃料の搬送時に伸縮構造物の受ける抗力を低減し、発生する揺れそのものを低減することができる燃料搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の燃料搬送装置は、上記目的を達成するために、走行台車と、該走行台車の走行方向と直交する方向に設置されたレールに沿って移動する横行台車と、該横行台車に設置され、複数の伸縮構造物が入れ子状に構成されている伸縮構造物本体と、前記伸縮構造物本体の下端に取り付けられ、原子力機器を掴み搬送する掴み具とを備え、前記伸縮構造物本体を構成する1つの前記伸縮構造物は、鉛直方向に延びる少なくとも2本の柱状部材及び少なくとも2本の前記柱状部材を結ぶ接続部材とで構成されると共に、前記伸縮構造物の中心軸を挟んで開口部を持ち、複数の前記伸縮構造物の伸縮時には、基準とする伸縮構造物に対して内側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部は、基準とする伸縮構造物に対して外側に位置する前記伸縮構造物の前記開口部の少なくとも一部と連通し、かつ、1つの前記柱状部材は、隣接する前記伸縮構造物の柱状部材の間に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料の搬送時に伸縮構造物の受ける抗力を低減し、発生する揺れそのものを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】原子力発電所における燃料取替作業に用いられる一般的な燃料搬送装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した燃料搬送装置で搬送される燃料集合体を示す図である。
【
図3】
図1に示した燃料搬送装置の伸縮管で燃料集合体を炉心ラックに挿入する状況を示す図である。
【
図4(a)】本発明の燃料搬送装置の実施例1を示し、
図1に示した燃料搬送装置における伸縮管の1つの管に相当する1つの伸縮構造物を示す図である。
【
図4(b)】
図4(a)のA-A´線に沿った断面図である。
【
図5(a)】本発明の燃料搬送装置の実施例1における入れ子状に構成される伸縮構造物の第1の伸縮構造物と第2の伸縮構造物及び第3の伸縮構造物が縮んだ状態を示す図である。
【
図5(b)】
図5(a)のA-A´線に沿った断面図である。
【
図6】本発明の燃料搬送装置の実施例2に用いられる伸縮構造物本体の一例を示し、
図5(b)に相当する図である。
【
図7】本発明の燃料搬送装置の実施例3に用いられる伸縮構造物本体の一例を示し、
図5(b)に相当する図である。
【
図8】本発明の燃料搬送装置の実施例4に用いられる伸縮構造物本体の一例を示し、
図4(b)に相当する図である。
【
図9】本発明の燃料搬送装置の実施例5に用いられる伸縮構造物本体の一例を示し、
図4(a)に相当する図である。
【
図10(a)】本発明の燃料搬送装置の実施例6に用いられる伸縮構造物本体の一例を示し、
図4(a)に相当する図である。
【
図10(b)】
図10(a)のA-A´線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の燃料搬送装置を説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【0021】
図1に、原子力発電所における燃料取替作業に用いられる一般的な燃料搬送装置の概略構成を示す。
【0022】
図1に示すように、燃料搬送装置1は、走行台車2と、横行台車3と、伸縮構造物である伸縮管4と、旋回装置(図示せず)と、制御装置(図示せず)とから概略構成されている。
【0023】
走行台車2は、原子炉ウェルと燃料プール21を挟んで対向する床20上に平行に設置された第1のレール22に沿って、原子炉ウェルと燃料プール21の真上を移動し、また、横行台車3は、走行台車2上に走行台車2の移動方向と直交する方向に設置された第2のレール(図示せず)に沿って移動する。
【0024】
伸縮管4は。ユニバーサルジョイント4aを介して横行台車3に取り付けられており、その伸縮管4は、円筒形状の径の異なる複数の同軸の第1の管4b、第2の管4c及び第3の管4dが入れ子状に構成され、伸縮可能な構造になっている。
【0025】
伸縮管4の下端には掴み具4eが取り付けられており、
図2に示すように、燃料集合体5の上部にあるハンドル5aに掴み具4eのフックを掛けることで、燃料集合体5を吊り下げたり、離したりできる構造になっている。
【0026】
また、横行台車3には、ユニバーサルジョイント4aを鉛直軸周りに旋回させる旋回装置(図示せず)が設置され、伸縮管4の全体を旋回できるようになっており、また、制御装置(図示せず)は、入力された指令値(例えば、走行台車2の速度、横行台車3の速度、伸縮管4の長さ、掴み具4eの開閉状態、旋回装置の旋回角等)に従い、走行台車2、横行台車3、伸縮管4、掴み具4e及び旋回装置を駆動するようになっている。
【0027】
更に、燃料集合体5は、走行台車2と横行台車3の移動(横走行)により水平位置が、伸縮管4の昇降により鉛直位置が、旋回装置により鉛直軸周りの向きが、それぞれ定められている。
【0028】
なお、以下の実施例で説明する燃料搬送装置では、原子力機器である燃料集合体5の搬送を対象として説明するが、燃料集合体5に限らず、燃料の制御棒などの原子力機器を搬送する原子力発電所における水中搬送機器にも使用でき、搬送対象は限定されない。
【0029】
また、燃料搬送装置1は、燃料集合体5の水平及び鉛直位置と、鉛直軸周りの方向を決めることができればよく、上述の構成に限定されないし、また、伸縮管4を構成する入れ子状の第1の管4b、第2の管4c及び第3の管4dは、角柱状でもよく、円筒形状の管に限定されない。
【0030】
ところで、
図1に示した燃料搬送装置1においては、ユニバーサルジョイント4aにより伸縮管4が横行台車3に取り付けられているため、伸縮管4の振れが生じ、また、掴み具4eのフックに燃料集合体5が揺動可能に吊り下げられているため、燃料集合体5の振れが生じる。
【0031】
更に、伸縮管4を構成する入れ子状の第1の管4b、第2の管4c及び第3の管4dの継目部分には、伸縮管4を伸縮可能とするための隙間が設けられ、同様に、伸縮管4の下端に位置する第3の管4dと掴み具4eの間にも嵌め合いのための隙間が設けられている。
【0032】
このため、第2の管4cと第3の管4d及び掴み具4eにも、その隙間分の振れが生じる。
【0033】
これらの伸縮管4と掴み具4eの振れは、横行台車3の横走行で顕著に現れ、特に、横走行の停止時に生じた振れが大きいと、燃料集合体5を掴み損ね、燃料集合体5を所定の位置へ挿入できないなどの不具合が生じやすくなる。
【0034】
そこで、横行台車3の横走行の停止時に、これらの伸縮管4と掴み具4eの振れを速やかに抑制することが必要となる。
【0035】
まず、横行台車3の横走行により伸縮管4と掴み具4eの振れが生じるのは、伸縮管4と燃料集合体5に対して冷却水内を搬送することによる流体力が発生するためであり、このとき、伸縮管4と燃料集合体5は、燃料集合体5の搬送方向とは逆方向に撓むと同時に、進行方向とは垂直に揺動する。
【0036】
この進行方向と垂直方向の揺動は、横走行中の伸縮管4の表面から冷却水の流れが剥離し、カルマン渦列を放出することによって発生する横力によるものであり、この伸縮管4と燃料集合体5の揺動は、外部から観測することが難しいことから、横行台車3の制御などによる除去は困難である。
【0037】
加えて、横行台車3の横走行の高速化に際しては、伸縮管4と燃料集合体5に加わる流体力が増大し、撓みと揺動が大きくなるため、将来的な横行台車3の速度の上昇による燃料集合体5の搬送の高速化が困難となる。
【0038】
また、燃料集合体5を燃料貯蔵ラック6(
図3参照)又は炉心(図示せず)に挿入する際、伸縮管4と燃料集合体5は、原子炉の残留熱除去系統から放出される冷却水などから流体力を受け、伸縮管4と燃料集合体5が偏心する。この様子を
図3に示す。
【0039】
伸縮管4と燃料集合体5の偏心量が大きくなると、
図3に示すように、燃料集合体5が燃料貯蔵ラック6に乗り上げるか、若しくは引っかかるなどして、燃料集合体5を所定の位置に挿入できない場合がある。同様に、燃料集合体5を燃料貯蔵ラック6から引き上げる際にも、伸縮管4が偏心することによって、掴み具4eの位置が燃料集合体5のハンドル5aを掴み損ねる恐れがある。
【0040】
これらの結果、安全確認や復旧作業に時間を要し、燃料集合体5の搬送工程が長期化し、加えて、冷却水流の強度や向きは、炉内の位置によって異なるため、伸縮管4の揺れ方向を予測して補償することが困難である。
【実施例0041】
これらを解決したのが本発明の燃料搬送装置であり、その詳細について
図4(a)、
図4(b)、
図5(a)及び
図5(b)を用いて説明する。
【0042】
図4(a)、
図4(b)、
図5(a)及び
図5(b)に、本発明の燃料搬送装置の実施例1に用いられる1つの伸縮構造物及び伸縮構造物本体の一例を示す。
【0043】
図4(a)は、
図1の伸縮管4の1つの管(第1の管4b)に相当する第1の伸縮構造物7bを示し、
図4(b)は、
図4(a)のA-A´に沿った断面図であり、
図5(a)は、
図1の円筒形状の径の異なる複数の同軸の第1の管4b、第2の管4c及び第3の管4dが入れ子状に構成される伸縮管4に相当し、径の異なる複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dが入れ子状に構成される伸縮構造物本体7が縮んだ状態を示し、
図5(b)は、
図5(a)のA-A´に沿った断面図を示す。
【0044】
本実施例の燃料搬送装置に用いられる伸縮構造物本体7は、
図1と同様に、径の異なる複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dが入れ子状に構成されている。
【0045】
そして、本実施例の伸縮構造物本体7は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、上記伸縮構造物本体7を構成する1つの第1の伸縮構造物7b(又は第2の伸縮構造物7c、第3の伸縮構造物7d)が、鉛直方向に延びる少なくとも2本の柱状部材8(本実施例では4本)及び少なくとも2本の柱状部材8(8b、8c、8d)を結ぶ接続部材9とで構成されると共に、第1の伸縮構造物7bの中心軸Pを挟んで開口部10(10b、10c、10d)を持ち、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、伸縮構造物本体7(第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7d)の伸縮時には、第2の伸縮構造物(基準とする伸縮構造物)7cに対して内側に位置する第3の伸縮構造物7dの開口部10dは、第2の伸縮構造物(基準とする伸縮構造物)7cに対して外側に位置する第1の伸縮構造物7bの開口部10bの少なくとも一部と連通し、かつ、第1の伸縮構造物7bの1つの柱状部材8bは、隣接する第2の伸縮構造物7cの2つの柱状部材8cの間に位置し、第2の伸縮構造物7cの1つの柱状部材8cは、隣接する第3の伸縮構造物7dの2つの柱状部材8dの間に位置していることを特徴とする。
【0046】
更に、詳述すると、上記した本実施例の径の異なる複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dは、鉛直方向に延びる柱状部材8(8b、8c、8d)と、この柱状部材8(8b、8c、8d)を構造的に接続する円弧状の接続部材9によって構成されている。なお、上記した柱状部材8(8b、8c、8d)は、円柱状、角柱状の形状に制限されるものではない。
【0047】
また、柱状部材8は、最低限の構成として少なくとも2本必要であり、
図4(a)及び
図4(b)は、柱状部材8が4本である伸縮構造物本体7を示している。また、接続部材9は、柱状部材8同士を物理的に固定するのであって、伸縮構造物本体7の軸方向に対する接続部材9の向きや、接続部材9の形状などに制限されるものではない。
【0048】
また、第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dの上下両端には、伸縮する際のストッパを構成するために第2の接続部材9aを設けている。
【0049】
これら構成要素は、構造的に接続されていればよく、溶接、ネジ締結などの方法に制限されない。
【0050】
次に、上記した伸縮構造物本体7が用いられる本実施例の燃料搬送装置の作用、効果について説明する。
【0051】
上記した伸縮構造物本体7が伸長し、入れ子状に構成された径の異なる複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dが水中を移動するとき、開口部10を通して冷却水が通り抜けるため、入れ子状に構成された複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dに加わる流体力が低下して、伸縮構造物本体7の撓み量や偏心量が低下する。
【0052】
同時に、入れ子状に構成された複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dの左右に流れ込む冷却水(開口部10に流れないで接続部材9に沿って流れ込む冷却水)が減少し、また、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、開口方向を冷却水の流れと垂直に向ける開口部10aの端において、柱状部材8から小さなカルマン渦V1が放出され、上記した開口部10aのない接続部材9と流れの剥離タイミングがずれる。
【0053】
この結果、入れ子状に構成された複数の同軸の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dから放出されるカルマン渦V1の強度が低下し、伸縮構造物本体7に加わる横力は小さくなる。
【0054】
これにより、横行台車3の横走行による伸縮構造物本体7の撓みや揺動と、燃料集合体5を装荷する際の冷却水流から受ける偏心量を低減することができ、加えて開口部10aを設けることによって、横行台車3の走行時に伸縮構造物本体7が受ける流体力を低減でき、燃料集合体5の搬送時間の削減を目的とした横行台車3の走行速度の上昇に際しても、伸縮構造物本体7の揺動とたわみが低減されるため、横行台車3の最大走行速度の向上が可能であり、将来的な横行台車3の移動速度の上昇が可能となる。
【0055】
また,接続部材9及び第2の接続部材9aの側面からは、カルマン渦V1よりも大きなカルマン渦V2が放出され、このとき、接続部材9及び第2の接続部材9aに加わる流体力が大きくなる。そのため、接続部材9及び第2の接続部材9aの軸方向長さの合計は短いことが望ましい。
【0056】
一方で、燃料集合体5を搬送する際、伸縮構造物本体7を縮めて横走行する場合がある。
【0057】
本実施例では、伸縮構造物本体7の第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7dを縮めたとき、例えば、第2の伸縮構造物7cの柱状部材8cが、1つ内側の第3の伸縮構造物7d及び1つ外側の第1の伸縮構造物7bの柱状部材8d及び8bの間、つまり、柱状部材8cが開口部10b、10dと重なるように(中央の柱状部材8cの位置は、外側の柱状部材8bの開口部10bの位置、内側の柱状部材8dの開口部10dの位置と同じ位置にあるように)構成されている。
【0058】
これにより、冷却水の流れが柱状部材8の間の十分に開いた開口部10を通過するため、伸縮構造物本体7を縮めた状態でも流体力の低減効果を発揮することができ、加えて、あらゆる方向からの冷却水に対しても流体力の低減効果が見込めるため、場所によって偏心量の低減効果に差が表れることがない。
【0059】
また、伸縮構造物本体7を縮めた際の横行台車3の走行時にも、伸縮構造物本体7に加わる流体力の低減が見込め、伸縮構造物本体7の伸縮伸長にかかわらず、流体力の発生を低減することができる。
【0060】
なお、本実施例では、柱状部材8cの位置は開口部10b、10dと重なっていればよく(中央の柱状部材8cの位置は、外側の柱状部材8bの開口部10bの位置、内側の柱状部材8dの開口部10dの位置と同じ位置にあればよく)、開口部10bの中央の位置に限定されない。
【0061】
これにより、
図5(b)に示すように、冷却水の流れることのできる空間が広く確保でき、伸縮構造物本体7の左右から流れ込む冷却水の流れ(矢印R)が低減できる。この結果、伸縮構造物本体7を縮めた状態でも、伸縮構造物本体7から放出されるカルマン渦の強度低下と、伸縮構造物本体7に加わる流体力の低減効果を確保できる。
【0062】
このような本実施例の燃料搬送装置によれば、原子力プラントにおける伸縮構造物本体7は、伸縮構造物本体7を構成する1つの伸縮構造物である第1の伸縮構造物7b(又は第2の伸縮構造物7c、第3の伸縮構造物7d)が、鉛直方向に延びる少なくとも2本の柱状部材8(本実施例では4本)及び少なくとも2本の柱状部材8(8b、8c、8d)を結ぶ接続部材9とで構成されると共に、第1の伸縮構造物7bの中心軸Pを挟んで開口部10(10b、10c、10d)を持ち、伸縮構造物本体7(第1の伸縮構造物7b、第2の伸縮構造物7c及び第3の伸縮構造物7d)の伸縮時には、第2の伸縮構造物(基準とする伸縮構造物)7cに対して内側に位置する第3の伸縮構造物7dの開口部10dは、第2の伸縮構造物(基準とする伸縮構造物)7cに対して外側に位置する第1の伸縮構造物7bの開口部10bの少なくとも一部と連通し、かつ、第1の伸縮構造物7bの1つの柱状部材8bは、隣接する第2の伸縮構造物7cの2つの柱状部材8cの間に位置し、第2の伸縮構造物7cの1つの柱状部材8cは、隣接する第3の伸縮構造物7dの2つの柱状部材8dの間に位置して構成されていることにより、燃料集合体5の搬送時の伸縮構造物本体7の撓み及び燃料集合体5の装荷時の伸縮構造物本体7の揺動を低減し、燃料集合体5の搬送に係る時間を低減することができ、更に、燃料集合体5の装荷時の伸縮構造物本体7の偏心量を低減し、燃料集合体5の装荷失敗数の低減が可能となり、加えて横行台車3の速度向上による燃料集合体5の搬送速度の向上が可能となる。
このような本実施例によれば、冷却水の流れが柱状部材8(8b、8c、8d)の間の十分に開いた開口部10(10b、10c、10d)を通過するため、伸縮構造物本体11を縮めた状態でも流体力の低減効果を発揮することができ、加えて、あらゆる方向からの冷却水の流れに対しても流体力の低減効果が見込めるため、場所によって偏心量の低減効果に差が表れることがない。
また、実施例1で説明した接続部材9及び第2の接続部材9aで発生するカルマン渦V1は、円弧状の接続部材9及び第2の接続部材9aを使用する限り発生するものである。
これに対して、実施例2の構成では、接続部材9及び第2の接続部材9aが平板部材であるため、接続部材9及び第2の接続部材9aの表面ではなく、伸縮構造物本体11における柱状部材8(8b、8c、8d)の位置からカルマン渦V1よりも小さなカルマン渦V3が放出される。
このため、実施例1の円弧状の接続部材9及び第2の接続部材9aよりも放出されるカルマン渦列が小さくなるという特徴を有しており、伸縮構造物本体11のカルマン渦由来の横揺れの低減が可能となる。
このように、原子力プラントにおける燃料搬送装置の伸縮構造物本体11において、平板部材の接続部材9及び第2の接続部材9aにより柱状部材8(8b、8c、8d)を接続することによって、燃料集合体5の搬送時の伸縮構造物本体11の撓み及び燃料集合体5の装荷時の伸縮構造物本体11の揺動が低減し、燃料集合体5の搬送に係る時間を低減することができ、更に、燃料集合体5の搬送速度の向上が可能となる。