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特開2022-177566電極材料及びそれを用いた電極、燃料電池、水電解セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177566
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】電極材料及びそれを用いた電極、燃料電池、水電解セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221124BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221124BHJP
   C25B 11/059 20210101ALI20221124BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20221124BHJP
   C25B 11/097 20210101ALI20221124BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20221124BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20221124BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221124BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 X
H01M4/88 K
C25B11/059
C25B11/081
C25B11/097
C25B11/052
B01J23/46 301M
B01J23/46 M
B01J37/02 101D
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083918
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】岸 美保
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕亮
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169CC40
4G169DA05
4G169EA04X
4G169EA04Y
4G169EC02Y
4G169EC27
4G169FB19
4K011AA25
4K011AA31
4K011BA01
4K011BA07
4K011DA01
5H018AA06
5H018EE03
5H018EE12
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高い発電性能と、電位の急上昇に対する高い耐久性を有する新たな燃料電池の電極の材料を提供する。また、高い水電解性能を有する新たな水電解セルの電極の材料を提供する。
【解決手段】球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とする電極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属は、Ru及び/又はIrであることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された後に、更にPt及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
燃料電池又は水電解セルの電極材料であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電極材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の電極材料から構成された電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項5に記載の電極を備えることを特徴とする水電解セル。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の電極材料を製造する方法であって、
該製造方法は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物を担持する工程を含むことを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項9】
請求項3に記載の電極材料を製造する方法であって、
該製造方法は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物を担持する工程(1)と、
該工程(1)の後にPt及び/又はその酸化物を担持する工程(2)を含むことを特徴とする電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料及びそれを用いた電極、燃料電池、水電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やアルコール等の燃料を酸素と電気化学的に反応させて電力を発生させる装置であり、電解質や作動温度等によって、固体高分子形(PEFC)、リン酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、固体酸化物形(SOFC)等に分けられる。例えば、固体高分子形燃料電池は、定置型電源や燃料電池車用途で使用されており、長期にわたって所望の発電性能を維持することが求められている。
【0003】
これらの燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質としてイオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を用いる燃料電池であり、一般に導電性材料であるカーボンに白金(Pt)を担持した電極材料が使用されている。PEFCには、燃料流路の水詰まりや水分の凍結等により水素の供給不足状態が発生することがあり、この状態になると、アノード電位が急上昇してセルの極性が反転する転極状態となる。転極状態のアノードでは、水素が酸化される反応に代わって、水分が分解される反応や、カーボンが酸化(腐食)される反応がプロトンを供給するため、即座に1.5VvsRHEを超える電位となり、カーボンの酸化(C+2HO→CO+4H++4e)による消失を引き起こし、電池性能を著しく低下させることになる。このような電池性能の低下を回避するため、カーボンの代わりに担体として酸化消失しない導電性酸化物として、IrOなどの伝導性酸化物をコーティングした比表面積50~400m/gの範囲のTiOなどの非電気伝導性無機酸化物を用いる手法が提案されている(特許文献1)。また、比表面積1m/g以上のSiOナノファイバーにPtなどの薄層貴金属とテフロン(登録商標)などの疎水性分子を担持する手法が提案されている(特許文献2)。また、白金またはその合金からなる金属粒子をSiOを主成分とする触媒担体表面に担持する触媒粒子と、グラファイトなどの導電性粒子と、プロトン伝導性物質とを電極に用いる手法が提案されている(特許文献3)。
また、水素を製造するための最も現実的な方法である水の電気分解は、燃料電池の逆反応であり、電力によって水を水素と酸素に分解する。水電解の方式としては、固体高分子形水電解とアルカリ電解と呼ばれる2種類の方式が主に使用されており、このうち固体高分子形水電解は、アルカリ電解と比較して高い電流密度で運転することが出来るため、システムを小型化出来るメリットがある。水の電気分解反応には、標準状態(25℃、1気圧)で1.23V以上の電圧が理論的に必要となり、水電解セルでは通常、2.0V程度までの高い電圧が使用される。水電解セルにおけるアノード(酸素発生極)には、酸素発生反応活性を有する触媒が必要であり、イリジウムが高い活性を有することが知られている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/092568号
【特許文献2】特開2016-71960号公報
【特許文献3】特許第3576108号公報
【特許文献4】特開2008-274326号公報
【特許文献5】特開2003-166093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した固体高分子形燃料電池の電位が急上昇した際に起こるカーボンの腐食に対して、特許文献1~3に示されるような電極の報告があるが、更に高性能な燃料電池を実現するためには燃料電池の設計自由度を広げることが重要であり、固体高分子形燃料電池に用いた場合に、高い発電性能と、電位の急上昇に対する高い耐久性を有する新たな電極の開発が求められている。
また固体高分子形水電解セルにおけるアノードの触媒としてイリジウムを使用する場合、コスト等の点から担体にイリジウムを担持して使用できることが望ましいが、固体高分子形水電解セルのアノードは固体高分子形燃料電池の電極が晒される電位よりも更に高い電位で使用されるため、導電性と電位耐久性に優れた、イリジウムの担体に使用出来る材料が乏しいのが現状である。このため、通常は担体を有しないイリジウムまたは酸化イリジウムのみを触媒として用いている。アノードを形成するためには一定の触媒嵩が必要であるため、イリジウムを多量に使用しているが、イリジウムは高価であるため、イリジウム使用量を削減可能な高い水電解性能を有する電極の開発が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、高い発電性能と、電位の急上昇に対する高い耐久性を有する新たな燃料電池の電極の材料を提供することを目的とする。また、高い水電解性能を有する新たな水電解セルの電極の材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、球状のSiO上に所定の貴金属及び/又はその酸化物を担持した材料を燃料電池の電極の材料として用いると、高い発電性能と電位の急上昇に対する高い耐久性を有する電極となり、水電解セルの電極の材料として用いると、高い水電解性能を有する水電解セルとなることを見出した。更に本発明者らは、このような電極材料の好適な製造方法も見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とする電極材料である。
【0009】
上記Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属は、Ru及び/又はIrであることが好ましい。
【0010】
上記電極材料は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された後に、更にPt及び/又はその酸化物が担持された構造を有することが好ましい。
【0011】
上記電極材料は、燃料電池又は水電解セルの電極材料であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、本発明の電極材料から構成された電極でもある。
【0013】
本発明はまた、本発明の電極を備えることを特徴とする燃料電池でもある。
【0014】
本発明はまた、本発明の電極を備えることを特徴とする水電解セルでもある。
【0015】
本発明はまた、本発明の電極材料を製造する方法であって、
該製造方法は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物を担持する工程を含むことを特徴とする電極材料の製造方法でもある。
【0016】
本発明は更に、本発明の電極材料を製造する方法であって、
該製造方法は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物を担持する工程(1)と、
該工程(1)の後にPt及び/又はその酸化物を担持する工程(2)を含むことを特徴とする電極材料の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電極材料は、高電位にも充分に耐えることができ、かつ高導電性を有する電極を形成することができる材料である。従って、固体高分子形燃料電池等の燃料電池や、水電解セル、太陽電池、トランジスタ、液晶等の表示装置等の電極の材料の他、帯電防止材、熱線遮蔽材等に使用する導電性材料として極めて有用である。中でも特に、固体高分子形燃料電池または固体高分子形水電解セルの電極の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1~3、7、比較例1で使用した球状SiO(Sciqas 0.15μm)の電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図2】実施例4、8で使用した球状SiO(Sciqas 0.4μm)の電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図3】実施例5で使用した球状SiO(Sciqas 0.05μm)の電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図4】実施例6で使用した球状SiO(クォートロン SP-03F)の電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図5】比較例2で使用した非球状SiO(ニップシールEL)の電子顕微鏡観察結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0020】
1.電極材料
本発明の電極材料は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有する。
SiOが球状の形状であると、電極を形成した場合に電極材料が電子伝導に必要な適度な緻密さと、反応ガスや水分の拡散に適した適度な空隙を有する電極となるため、電極材料が有する特性を十分に発揮することができる。
このような球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持されたものが本発明の電極材料であり、この材料を用いることで高い発電性能と、電位の急上昇に対する高い耐久性を有する電極を得ることができる。
ここで、球状のSiOとは、以下の式に示す円形度が0.7以上であるSiOである。円形度は、0~1の間の値を取り、1に近いほど円に近いことを示す。球状のSiOの円形度は、0.75以上であることが好ましい。より好ましくは0.80以上である。
(円形度)=4×π(粒子の面積)÷(粒子の周囲長)
なお、粒子中に穴を含む場合は、穴の面積も粒子の面積に含むものとする。粒子の面積および周囲長は、画像解析ソフトウェアWinROOFにより算出することができる。
【0021】
上記SiOは、比表面積が1m/g以上、100m/g以下であることが好ましい。このような比表面積を有する球状のSiOに対してRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物、又は更に後述するPt及び/又はその酸化物が担持してSiO粒子表面を覆うことで、これらを担持することの効果をより十分に発揮することができる。また、このような球状のSiOを用いることで、電極をより性能の高いものとすることができる。SiOの比表面積は、より好ましくは、5m/g以上、80m/g以下であり、更に好ましくは、10m/g以上、60m/g以下である。
SiOの比表面積は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
上記SiOは、平均粒子径が0.01~1.0μmのものであることが好ましい。このような粒子径のものを用い、Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物、又は更に後述するPt及び/又はその酸化物によってSiO粒子表面を被覆することで、これらを担持することの効果をより十分に発揮することができる。また、このような球状のSiOを用いることで、電極をより性能の高いものとすることができる。SiOの平均粒子径は、より好ましくは、0.02~0.8μmであり、更に好ましくは、0.03~0.5μmである。
SiOの平均粒子径は、電子顕微鏡により撮影した画像の任意の40粒子における粒子径を平均することにより測定することができる。
【0023】
上記Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物は、これらのうちいずれの元素であってもよく、金属単体でも酸化物でもよいが、Ru及び/又はIrの単体及び/又はその酸化物であることが好ましい。これらのいずれかがSiO上に担持されたものであると、得られる電極材料から作製した電極が、発電性能及び電位の急上昇に対する耐久性により優れたものとなる。より好ましくは、Ruの単体及び/又はその酸化物である。
【0024】
本発明の電極材料におけるRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物の担持量は、電極材料100質量%に対して、5質量%以上であることが好ましい。このような担持量であると、これらの貴金属及び/又はその酸化物を担持することの効果がより十分に発揮され、電極材料から作製される電極がより高い性能を有するものとなる。担持量は、より好ましくは、電極材料100質量%に対して、10質量%以上であり、更に好ましくは、電極材料100質量%に対して、20質量%以上である。またこの担持量は多いほど好ましいが、通常、電極材料100質量%に対して、60質量%以下である。
なお、本発明の電極材料において、Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる2種以上の貴金属及び/又はその酸化物を担持させる場合、それら2種以上の貴金属及び/又はその酸化物の合計担持量が上記の割合であることが好ましい。
【0025】
本発明の電極材料は、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された後に、更にPt及び/又はその酸化物が担持された構造を有するものであることが好ましい。電極材料がこのようなものであると、電極材料を用いた電極が、発電性能や電位の急上昇に対する耐久性により優れたものとなる。
【0026】
本発明の電極材料が、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された後に、更にPt及び/又はその酸化物が担持されたものである場合、Pt及び/又はその酸化物の担持量は、電極材料100質量%に対して、5質量%以上であることが好ましい。このような担持量であると、Pt及び/又はその酸化物を担持することの効果がより十分に発揮され、電極材料から作製される電極がより高い性能を有するものとなる。担持量は、より好ましくは、電極材料100質量%に対して、8質量%以上であり、更に好ましくは、電極材料100質量%に対して、10質量%以上である。またこの担持量は多いほど好ましいが、通常、電極材料100質量%に対して、50質量%以下である。
【0027】
なお、本発明の電極材料において、球状のSiO上に担持されたRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物と、更にその後に担持されたPt及び/又はその酸化物の間には、炭素のみで構成される材料は存在しない方が良い。この材料が存在すると、後に示す高電位保持後電圧が低下する可能性がある。また、上記の球状のSiO上に担持されたRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物と、更にその後に担持されたPt及び/又はその酸化物の間には、イオン伝導性樹脂は存在しない方が良い。この材料を含むと、後に示す初期電圧が低下する可能性がある。
【0028】
本発明の電極材料は、燃料電池又は水電解セルの電極の材料として用いた場合に、高い発電又は水電解性能と、電位の急上昇に対する高い耐久性を有する電極を得ることができるものである。
このような本発明の電極材料から構成された電極や、該電極を備える燃料電池又は水電解セルもまた、本発明の1つである。本発明の電極材料を用いて作製された電極は、電位の急上昇に対する高い耐久性を有するため、燃料電池や水電解セルの中でも電位の急上昇が発生し得る固体高分子形燃料電池又は固体高分子形水電解セルに用いられる電極の材料として好適である。
また本発明の電極材料は、燃料電池や水電解セル以外にも、COやNH等の各種ガス電解セル、太陽電池、トランジスタ、液晶等の表示装置等の電極の材料として使用でき、更に帯電防止材、熱線遮蔽材等に使用する導電性材料としても好適に使用することができる。
【0029】
2.電極材料の製造方法
球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有する本発明の電極材料の製造方法は、そのような構造のものが得られる限り特に制限されないが、以下の第一の製造方法や第二の製造方法が好適である。
(第一の製造方法)
球状SiOスラリーにRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属塩水溶液を添加して混合液1を得る第一工程、第一工程で得た混合液1のpHを5~9に調整した後、沈殿を分離する第二工程、第二工程で得られた沈殿を焼成する第三工程を行って、Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び又はその酸化物が担持した球状SiO(以下、貴金属1担持SiOとも記載する)を製造する方法。
(第二の製造方法)
球状SiOスラリーにRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属塩水溶液を添加して混合液1を得る第一工程、第一工程で得た混合液1に還元剤を添加してRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属粒子を析出させ、生成した沈殿を分離する第二工程、第二工程で得られた沈殿を焼成する第三工程を行って、貴金属1担持SiOを製造する方法。
【0030】
上記第一の製造方法、第二の製造方法のいずれにおいても、第一工程から第三工程を複数回繰り返し、Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属粒子の球状SiOへの担持を複数回行ってもよい。複数回行う場合、同じ貴金属の塩を用いてもよく、異なる貴金属の塩を用いてもよい。また、第三工程は必要に応じて行わなくてもよい。
【0031】
また本発明の電極材料のうち、球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された後に、更にPt及び/又はその酸化物が担持された構造を有するものについても、そのような構造のものが得られる限り製造方法は特に制限されないが、上記第一又は第二の製造方法で得られた貴金属1担持SiOのスラリーに対して、更に以下の第三の製造方法や第四の製造方法を行う方法が好適である。
(第三の製造方法)
第一又は第二の製造方法で得られた貴金属1担持SiOのスラリーにPt塩水溶液を添加して混合液2を得る第一工程、第一工程で得た混合液2のpHを5~9に調整した後、沈殿を分離する第二工程、第二工程で得られた沈殿を焼成する第三工程を行う方法。
(第四の製造方法)
第一又は第二の製造方法で得られた貴金属1担持SiOのスラリーにPt塩水溶液を添加して混合液2を得る第一工程、第一工程で得た混合液2に還元剤を用いてPt粒子を析出させ、生成した沈殿を分離する第二工程、第二工程で得られた沈殿を焼成する第三工程を行う方法。
【0032】
上記第三の製造方法、第四の製造方法のいずれにおいても、第一工程から第三工程を複数回繰り返し、Pt及び/又はその酸化物粒子の球状SiOへの担持を複数回行ってもよい。また、第三工程は必要に応じて行わなくてもよい。
【0033】
なお、上記第三の製造方法、第四の製造方法を実施する前に、炭素のみで構成される材料によって球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有する本発明の電極材料が被覆されることになる工程は含まない方が良い。この工程を含むと、後に示す高電位保持後電圧が低下する可能性がある。また、上記第三の製造方法、第四の製造方法を実施する前に、イオン伝導性樹脂によって球状のSiO上にRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属及び/又はその酸化物が担持された構造を有する本発明の電極材料が被覆されることになる工程は含まない方が良い。この工程を含むと、後に示す初期電圧が低下する可能性がある。
【0034】
上記第一及び第二の製造方法の第一工程において用いるRu、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属塩や、第三及び第四の製造方法の第一工程において用いるPt塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、あるいは、ナノサイズのRu、Ir、Rh、Pd、Pt等の分散溶液が挙げられる。中でも、塩化物溶液、硝酸塩溶液等が好ましい。
【0035】
上記第一及び第三の製造方法の第二工程においては、混合水溶液1、2のpHを5~9に調整すればよいが、より十分に沈殿を生成させる点からpHは6~8であることが好ましい。より好ましくは、6.5~7.5である。
上記第二工程において、pHを5~9に調整する際の混合水溶液の温度は、Ru、Ir、Rh、Pdから選ばれる少なくとも1種の貴金属やPtの水酸化物の沈殿の生成速度と作業性の点から、50~100℃であることが好ましい。より好ましくは、60~80℃である。
【0036】
上記第一及び第二の製造方法の第三工程において、沈殿を焼成する温度は、第一の製造方法の第二工程で得られた貴金属の水酸化物沈殿や、第二の製造方法の第二工程で得られた貴金属単体の沈殿とSiOとを含む沈殿の焼成が十分に行われる限り特に制限されないが、200~750℃であることが好ましい。より好ましくは、250~600℃であり、更に好ましくは、300~500℃である。
焼成する時間も焼成が十分に行われる限り特に制限されないが、1~8時間であることが好ましい。より好ましくは、1.5~6時間であり、更に好ましくは、2~4時間である。
【0037】
上記第三及び第四の製造方法の第三工程において、沈殿を焼成する温度は第三の製造方法の第二工程で得られたPtの水酸化物沈殿や、第四の製造方法の第二工程で得られたPt単体の沈殿と貴金属1担持SiOとを含む沈殿の焼成が十分に行われる限り特に制限されないが、50~900℃であることが好ましい。より好ましくは、100~700℃であり、更に好ましくは、150~600℃である。
焼成する時間も焼成が十分に行われる限り特に制限されないが、0.1~6時間であることが好ましい。より好ましくは、0.5~5時間であり、更に好ましくは、1~4時間である。
また焼成は、焼成ガス雰囲気下で行うことが好ましい。焼成ガスとしては、例えばNガスやHガス等が挙げられ、これらを任意の割合で混合してもよい。
【0038】
上記第二の製造方法及び第四の製造方法は貴金属を還元剤を用いて還元する方法である。上記還元剤は特に限定されるものではないが、例えば、塩化ヒドラジン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アルコール、水素、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、エチレン、一酸化炭素等が挙げられる。これらの中でも還元剤としてはエタノールが好ましい。
【0039】
上記第一、第三の製造方法の第一工程においては、必要に応じて混合液1に還元剤を添加して還元処理を行ってもよい。還元処理を行うことで貴金属塩の価数を調整して沈殿を形成させることができる。
還元剤としては上記第二の製造方法及び第四の製造方法で用いられるものと同様のものが挙げられるが、それらの中でも好ましくは塩化ヒドラジンである。
還元剤の添加量は特に限定されるものではないが、混合液1に含まれる貴金属のモル当量の0.1~1倍量であることが好ましい。
【0040】
上記電極材料の製造方法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。上記第一~第四の製造方法の第二工程で沈殿を分離した後、次の工程での沈殿の焼成の前に沈殿を水洗する工程や沈殿を乾燥する工程、沈殿を粉砕する工程、沈殿を分級する工程等が挙げられる。
【実施例0041】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「質量%」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0042】
<Pt担持量、Ir担持量、Ru担持量>
走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII(リガク社製)を用いて、試料中のPt含有量を測定し、Ir担持量、Ru担持量を算出した。
<比表面積(BET-SSA)>
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、200℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、比表面積(BET-SSA)を測定した。
<円形度>
SiO粒子を電子顕微鏡で観察し、粒子の画像から画像解析ソフトウェアWinROOFにより粒子の面積および周囲長を求め、以下の式により円形度を求めた。なお、粒子中に穴を含む場合は、穴の面積も粒子の面積に含むものとした。
(円形度)=4×π(粒子の面積)÷(粒子の周囲長)
<膜電極接合体 初期発電試験>
膜電極接合体をアノード側、Pt目付け0.2mgPt/cmPt担持カーボン電極をカソード側にして、膜電極接合体を単セル(ミックラボ社製、電極面積1cm×1cm、Au10μmめっきCuセパレータ ストレート流路仕様)に組み込み、PEFC単セル評価装置(東陽テクニカ社製)を用いて、セル温80℃、アノード側77℃加湿100%H 500ml/min、カソード側77℃加湿20%O/N2000ml/minに設定し、開放電圧から0.2Vまで掃引し、1.0A/cm時点の電圧とセル抵抗を測定した。
<膜電極接合体 高電位保持後発電試験>
初期発電試験を実施後に、単セルを反転させ、セル温80℃、アノード側77℃加湿100%H 500ml/min、カソード側77℃加湿100%N 500ml/minに設定し、1.7Vを10分印加した後、単セルを反転させ、再度発電試験を行い、1.0A/cm時点の電圧を測定した。
<膜電極接合体 水電解電流密度測定>
実施例、比較例で作製した膜電極接合体を用いた電極をアノード側、Pt目付け0.2mgPt/cmPt担持カーボン電極をカソード側にして、ガス拡散層(SGLカーボン製SIGRACET 28BA)と共に単セル(ミックラボ社製、電極面積1cm×1cm、Au10μmめっきCuセパレータ ストレート流路仕様)に組み込み、PEFC単セル評価装置(東陽テクニカ製)を用いて、セル温70℃、アノード側80℃加湿4%H/N 1L/min、カソード側80℃加湿100%N 1L/minに設定し、1.0Vから2.0Vまで掃引し、1.5V時点の電流密度を測定した。
<電子顕微鏡写真観察>
電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子社製)を用いて、観察を実施した。
【0043】
実施例1
(1)Ru担持SiO粉末の作製
球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)8.0gとイオン交換水1600mlをビーカーに計量して撹拌混合し、SiOスラリー1を得た。
別のビーカーにて、塩化ルテニウム酸溶液(Ruとして8.369質量%、田中貴金属工業社製)を2.2質量%にイオン交換水で希釈したものを準備した(これを「Ru水溶液1」と称す)。
SiOスラリー1攪拌しながら、上記のRu水溶液1を90.9g添加し、液温70℃に加熱保持しながら撹拌混合した。更に、1.0mоl/Lの水酸化カリウム水溶液をpH7となるように滴下した後、液温70℃に1時間加熱保持した後、常法に従い、濾過、水洗、乾燥して水分を全て蒸発させた。得られた粉末全量をアルミナボートに入れ、電気炉にて450℃まで135分かけて昇温し、450℃で4時間保持した後、室温まで自然冷却し、Ru担持SiO粉末1を得た。
(2)Pt、Ru担持SiO粉末の作製
得られたRu担持SiO粉末1を7.0gと、イオン交換水を778gビーカーに計量して撹拌混合し、Ru担持SiOスラリー1を得た。
別のビーカーにて、塩化白金酸溶液(Ptとして15.343質量%、田中貴金属工業社製)を2.2質量%にイオン交換水で希釈した水溶液(これを「Pt水溶液1」と称す)を35.4gと、塩化ヒドラジン(東京化成工業社製、商品名「Hydrazine Dihydrochloride」)0.2gを添加し、撹拌混合したものを準備した(これを「混合Pt水溶液1」と称す)。
Ru担持SiOスラリー1を攪拌しながら、別のビーカーにて準備した上記の混合Pt水溶液1を添加し、その後、液温70℃に加熱保持しながら撹拌混合した。更に、1.0mоl/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpH7となるように滴下した後、液温70℃に1時間加熱保持し、その後、常法に従い、濾過、水洗、乾燥して水分を全て蒸発させた。得られた粉末全量をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて100vol%水素を400mL/分で流通しながら、560℃まで60分かけて昇温し、560℃で3時間保持した後、室温まで自然冷却してPt、Ru担持SiO粉末1を得た。
(3)膜電極接合体の作製
得られたPt、Ru担持SiO粉末1を0.2gと、20質量%Nafion溶液(シグマアルドリッチ社製)168μl、t-ブチルアルコール(和光純薬社製)120μL、イオン交換水24μL、2mmφZrOビーズ1.4gをスクリュー管に入れ、超音波洗浄機を用いて、150分間分散し、Pt、Ru担持SiOインク1を得た。
得られたPt、Ru担持SiOインク1をテフロン(登録商標)シートに40μL滴下し、バーコーターを用いて塗工後、自然乾燥させ、Pt使用量のPt、Ru担持SiOシート1(Pt使用量0.05mgPt/cm)を得た。
市販の50質量%Pt担持カーボン(エヌイーケムキャット社製)を0.02gと、20質量%Nafion溶液(シグマアルドリッチ社製)61μL、t-ブチルアルコール(和光純薬社製)179μL、イオン交換水89μL、2mmφZrOビーズ1.6gをスクリュー管に入れ、超音波洗浄機を用いて、150分間分散し、Pt担持カーボンインク1を得た。
得られたPt担持カーボンインク1をテフロン(登録商標)シートに40μL滴下し、バーコーターを用いて塗工後、自然乾燥させ、Pt担持カーボンシート1(Pt使用量0.2mgPt/cm)を得た。
電解質膜(デュポン社製、製品名NR-212)を3cm×3cmに切り抜いた後、RuIr担持亜酸化チタンシート1と、Pt担持カーボンシート1をそれぞれ1cm×1cmに切り抜き、Pt、Ru担持SiOシート1、電解質膜、Pt担持カーボンシート1の順に重ね合わせ、加熱式油圧プレス機(東洋精機製作所製、製品名 ミニテストプレスMP-WNH)を用いて1MPaの設定圧力で140℃で6分間ホットプレスした。
その後、Pt、Ru担持SiOシート1、Pt担持カーボンシート1からテフロン(登録商標)シートを剥がし、膜電極接合体1を得た。
【0044】
実施例2
実施例1の(1)Ru担持SiO粉末の作製におけるSiOスラリー1に添加するRu水溶液1を155.8gにした以外は実施例1と同様にして、Pt、Ru担持SiO粉末2を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末2を用いて膜電極接合体2を得た。
【0045】
実施例3
実施例1の(1)Ru担持SiO粉末の作製におけるSiOスラリー1に添加するRu水溶液1を363.6gにした以外は実施例1と同様、Pt、Ru担持SiO粉末3を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末3を用いて膜電極接合体3を得た。
【0046】
実施例4
実施例2の(1)Ru担持SiO粉末の作製における球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)を球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.40μm)にした以外は実施例2と同様にして、Pt、Ru担持SiO粉末4を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末4を用いて膜電極接合体4を得た。
【0047】
実施例5
実施例3の(1)Ru担持SiO粉末の作製における球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)を球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.05μm)にした以外は実施例3と同様にして、Pt、Ru担持SiO粉末5を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末5を用いて膜電極接合体5を得た。
【0048】
実施例6
実施例2の(1)Ru担持SiO粉末の作製における球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)を球状SiO(扶桑化学工業社製 製品名『クォートロン SP-03F』)にした以外は実施例2と同様にして、Pt、Ru担持SiO粉末6を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末6を用いて膜電極接合体6を得た。
【0049】
実施例7
実施例1の(1)Ru担持SiO粉末の作製における90.9gのRu水溶液1のSiOスラリー1への添加を、塩化イリジウム酸溶液(Irとして8.604質量%、田中貴金属工業社製)を2.2質量%にイオン交換水で希釈したもの(これを「Ir水溶液1」と称す)90.9gと、塩化ヒドラジン0.55gを混合したもの(これを「混合Ir水溶液1」と称す)のSiOスラリー1への添加に変更した以外は実施例1と同様にして、Ir担持SiO粉末1及びPt、Ir担持SiO粉末1を得た。また、得られたPt、Ir担持SiO粉末1を用いて膜電極接合体7を得た。
【0050】
実施例8
実施例4の(1)Ru担持SiO粉末の作製におけるRu水溶液1をIr水溶液1に変更し、(2)Pt、Ru担持SiO粉末の作製における混合Pt水溶液1の代わりに、Pt水溶液1を136.4gと塩酸ヒドラジン0.81gを攪拌混合した混合Pt水溶液2を調整して使用した以外は実施例4と同様にして、Pt、Ir担持SiO粉末2を得た。また、得られたPt、Ir担持SiO粉末2を用いて膜電極接合体8を得た。
【0051】
実施例9
実施例1の(1)Ru担持SiO粉末の作製においてRu水溶液1を103.9g添加すると同時に実施例7におけるIr水溶液1を51.9g添加した以外は実施例1と同様にして、Pt、Ru、Ir担持SiO粉末1を得た。また、得られたPt、Ru、Ir担持SiO粉末1を用いて膜電極接合体9を得た。
【0052】
実施例10
Ir水溶液1を79.5gと、塩化ヒドラジン0.48gを混合したもの(これを「混合Ir水溶液2」と称す)を調整した。実施例1(2)Pt、Ru担持SiO粉末の作製におけるRu担持SiO粉末を実施例7で得たIr担持SiO粉末1に変更し、混合Pt水溶液1を上記で作製した混合Ir水溶液2に変更した以外は実施例1(2)と同様にしてIr担持SiO粉末2を得た。また、得られたIr担持SiO粉末2を用いて膜電極接合体10(Ir使用量0.1mgIr/cm)を得た。
【0053】
実施例11
Ru水溶液79.5gと、塩化ヒドラジン0.91gを混合したもの(これを「混合Ru水溶液1」と称す)を調整した。実施例1(2)Pt、Ru担持SiO粉末の作製におけるRu担持SiO粉末を実施例7で得たIr担持SiO粉末1に変更し、混合Pt水溶液1を上記で作製した混合Ru水溶液1に変更した以外は実施例1(2)と同様にして、Ru、Ir担持SiO粉末1を得た。また、得られたRu、Ir担持SiO粉末1を用いて膜電極接合体11を得た。
【0054】
比較例1
実施例1におけるRu担持を除いた以外は実施例1と同様にして、比較例1のPt担持SiO粉末を得た。また、得られたPt担持SiO粉末を用いて比較例1の膜電極接合体を得た。
【0055】
比較例2
実施例2における球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)を非球状SiO(東ソー・シリカ社製 製品名『ニップシールEL』)に変更した以外は実施例2と同様にして、比較例2のPt、Ru担持SiO粉末を得た。また、得られたPt、Ru担持SiO粉末8を用いて比較例2の膜電極接合体を得た。
【0056】
比較例3
市販の50質量%Pt担持カーボン(エヌイーケムキャット社製)を使用して実施例1と同様の方法により比較例3の膜電極接合体を得た。
【0057】
比較例4
実施例10のIr担持SiO粉末2の代わりにイリジウムブラック(Alfa Aesar社製)を用いたこと以外は実施例10と同様にして、比較例4の膜電極接合体を作製した。
【0058】
実施例1~11、比較例1、2で得られた貴金属担持SiO粉末について、貴金属の担持量、使用したSiO粉末の比表面積、円形度を上述した方法で測定した。更に実施例1~11、比較例1~3で得られた膜電極接合体を用いて初期発電試験、高電位保持後発電試験を行った。結果を表1に示す。更に実施例10、11、比較例4で得られた膜電極接合体を用いて水電解電流密度測定を行った。結果を表2に示す。更に実施例、比較例で使用した球状SiO、非球状SiOの電子顕微鏡観察結果を図1~5に示す。
【0059】
【表1】
担体:
A:球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.15μm)
B:球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.4μm)
C:球状SiO(堺化学工業社製 製品名『Sciqas』 粒子径0.05μm)
D:球状SiO(扶桑化学工業社製 製品名『クォートロン SP-03F』)
E:非球状SiO(東ソー・シリカ社製 製品名『ニップシールEL』)
【0060】
【表2】
【0061】
表1の結果から、本発明の電極材料から得られた実施例1~11の膜電極接合体は初期電圧が高く、かつセル抵抗が低く、また高電位保持後にも電圧が高い値を示すことから高い発電性能と高電位に対する高い耐久性を有し、電極材料として有効であることが確認された。
なお、実施例9と比較例2の電圧差20mV(電力として0.02W)について、本測定は電極面積1cmの電極1枚で測定を行っているが、出力約100kWの燃料電池車の場合は、千倍以上の電極面積の膜電極接合体が数百枚積層されており、電極面積として数十万倍以上となるため、電力として少なくとも数kW以上の差となり、非常に大きな差である。
更に表2の結果から、発明の電極材料から得られた実施例10、11の膜電極接合体は水電解電流密度が高いことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5